Summon Night 3
the Milky Way



第九章 「休日の風景」第二節


アティの休日、皆でアティを休ませようと話し合った結果のはずだが、実際は大勢がピクニックに出かけるというものになったようだった。

実際山を登って行く過程を見る限りピクニックと言った様相である事は間違いない。

どこに行くのかは俺達に知らされていないが、ミスミがなにやら得意げにいい場所があると言っていた。

俺は最初にアティに誘われたんだが、一気に人が増えてアティが少し拗ねていたのが印象的だった。

しかし、そんな彼女も子供達の元気な声や、談笑の雰囲気に押され笑顔を取り戻している。



「なんか、こうしてみんなと歩いているだけで、わくわくして来ますね♪」

「(こくり)」

「はいですよー♪」

「子供ですわねぇ」

「こらこら、子供のアンタが生言わないの」



ベルフラウが自分だけ大人の振りをするのを見て、スカーレルが釘をさす。

まぁ、実際浮かれるために来ているのだ、楽しんで見せるのが大人の対応なんだろう。

俺も、いつになく気が緩んでいるのを感じている。

そんな時、ふとアティがつぶやく。



「考えてみたら……みんなで集まるのは、いつも戦いの時ぐらいで……。

 こうやって、普通に集まったことなんかないですよね?」

「前の祭り以来か……いや、あの時も子供達は兎も角、大人は集まっていなかったな」

「そういえば……そうですわね」

「いい機会じゃない、今までの分まで親睦を深めちゃうってことで……」

「しんぼくってなんです?」

「仲良くなるってことですわよ」

「おーマルルゥしんぼくをするですよー♪」

「(こくこく)」

「そうですね、それじゃ、私も」



そうして、数キロほど進み、中腹にきたせいか少し涼しいと感じ始めたころ、

アティとマルルゥはファルゼン(ファリエル)やブレイズのところへ、ベルフラウと子供たちはスカーレルと共に先行し始めていた。

体力的にきついのか、ヤードが遅れ気味だが、キュウマがサポートについているようだ。

しかし、キュウマもよく良くお人好しだな……子供の引率に、体力不足の人間を庇ったり、姫様の下で働き続けた経験からだろうか……。



「何を見ておる?」

「んっ……ああ、キュウマは苦労人だなと」

「確かにそうじゃのう、そろそろ嫁をもろうてもいい年ごろじゃというのに、いつまでもスバルのお守りやわらわの護衛などをしておっては……」

「護衛は仕事ではないのか?」

「うむ……良人がな……奴に遺言を残したらしくての……」

「それはつまり」

「まぁの……見守ってくれという事を言われたらしい。まったく、迷惑な話じゃ……」



横から会話に加わったミスミは、そういいつつも口元をほころばせている。

キュウマにそう言った良人の事を思い出しているのか、それともそれを律儀に守り続けるキュウマに向けてのものなのかは分からないが……。

ただ、その一瞬後に目を伏せたのだけはよくわかった。



「ふふっ、お主の考えることは分かりやすいのう。わらわの事が心配かえ?」

「……少なくとも。そんな表情をする人間は心配することにしている」

「わらわは人間ではない、鬼ぞ?」

「角や神通力は見せてもらったがな、あまりに違いが少ないというのも考えものだ」

「ふぅ、それでこそわらわの見込んだ男と言うべきか、それとも甘いというべきなのか……じゃが、わらわはそのようなおのこは嫌いではない」

「それは光栄だ」

「さて、目的地が近付いたようじゃぞ」



そう言って、ミスミは視線を上げる。

上空は青空のままであるはずなのに、白いものが混じる。

これは……。

雪?


ふと見ると、山は少し雪が積もるほどに冷えている。

自然現象というには少し高低差が少ないように思えるが……。

少し前で待っていたアティが俺に嬉しそうに報告する。



「雪ですよ、雪!」

「ああ、そうだな……」

「もう、感動が薄いですねえ」

「そなたと違い、見慣れておるのであろ」

「ミスミさま……もう、失礼ですねー、私の田舎って山村なんですよ。雪は見慣れてますよ。

 ですけど、南の島で見られるなんて思っていませんでしたし♪」

「それはそうだな……どういう事情なんだ?」

「さあの……恐らくは、この島を作った召喚師達の実験の一つであろ……」

「それでも……綺麗だと思います」

「そうよな……目的地は近い、ついてまいれ」



ミスミが先に行ったことで配置が換わり俺とアティが並ぶ形となった。

そうこうしている間に遅れてきていたヤードやキュウマも追い付いてくる。

それに、先頭を行っていたスカーレルがいつの間にかヤード達に合流していた。

スカーレルは無言を嫌うのか、わりとよくしゃべる、お陰で退屈はしないで済みそうだった。

そうして山も中腹よりは山頂の方が近いくらいの場所まで来たなと思った時、ふとアティが視線を上げたのに気付いた。



「そういえばこの雪どこからふってるんです? 空はこんなにも晴れあがっているのに……」

「雪だけじゃありません、ほら、耳を澄ませて」



リン リン リン リン リン リン …………



「……」

「なんて、綺麗な音色なの……」

「ずっと、上の方から風に乗って聞こえてくる……」

「全て、目的地に着けば分かりますよ」

「ふふふ……きっと、驚くぞ」



そうして、たどり着いたのは山頂付近から氷の川が流れ滝になっている所だった。

正確には川が流れていると言えるのかどうかわからない、永久凍土のようにも見える。

というか、むしろ普通の服でいられる程度の低温でしかないのが不思議でならない。

普通ならマイナス20度以上、でなければ氷河などおがめないからだ。

一体どういう事なんだ?



「<蒼氷の滝>じゃ。

 山のてっぺんに積もった万年雪が、溶けて流れてきておるのじゃぞ」

「きれい……」

「マルルゥは触ってみたいですよー♪」

「やめときなさい、あんたの体じゃ、皮ごと引きはがさないとひっついて取れないわよ」

「えー、そうなんですか?」

「そうですわ。氷は体にひっつきますのよ」

「うぅ、気をつけるですよ」

「まあまあ、眺めてるだけでも楽しいですよ♪ 特にこの真っ青に見える水なんて」

「低温のせいですね。

 水というものは低温になるほどに透明度が高くなっていきますから」

「万年雪といっても、ほとんど氷の塊に近いものです。

 溶けては凍りつくを繰り返し、長い時間をかけてこの谷まで下りてくるのですよ」

「旧王国で見られる氷河と似たようなものってワケね……」

「なかなか、美しい眺めであろ?」

「ええっ……、とっても……」

「ちょっとお目にかかれない景色よねこれは……」



確かに、氷河なんて俺も昔TVで見たことがある程度だ。

ロシアのツンドラ地帯にでも行かないと拝めないはずのそれを南の島で見る。

風流といえばそうだが、ある種の不気味さもあった。

エルゴに関する話をされたせいだろうか?

しかし、周りの目もある、素直に感動して見せるしかなかった。



「アレヲ、ミロ……」

「うわぁ……っ」

「こおりのき?」

「氷の木がたくさん生えてるですよぉ!?」

「ソウヒョウジュ、ダ」

「マナを冷気として放出する特性をもった珍しい植物ですよ。

 その際に生じる現象によって周囲の熱を奪うんです」



冷気はその木から発生していた、つまりは魔法による産物だったということだろうか?

マナというものについては未だよくわからないが、こういう木が存在するのを見るとやはり地球圏ではないのだなと感じる。

普段から召喚術も魔法も見慣れているつもりだが、使い手が使ってこそというイメージが定着していたせいだろう。

自然にそういったものが存在しているというのは驚きだった。


リン リン リン リン リン リン …………



「この音って……」

「カゼニアノキガザワメクオトダ」

「蒼氷樹が群生していることから、山頂付近は特に空気が冷えているんです」

「ああ、それで雪が舞い散ったりもするわけですね……」

「涼しげで心地いい音色ね……」



鈴の音に似ているな……それはハサハをはじめシルターン出身者も感じているだろうが……。

しかし、氷河や樹氷のある場所にしては寒くないが……。

その辺りが魔法なのだろうか……。



「アキトさん何を考えてるんです?」

「いや、俺のいた世界では魔法がなかった、だからかな……こういうものを見せつけられると異世界に来たんだなと実感するよ」

「そう、ですよね……なんか普段は忘れちゃってますけど、5つの世界のどこにも属していない世界から来たんですもんね」

「何を言うておる、わらわたちとてこの世界では異邦人よ。

 だが、こうしてそなたたちと話し、そして喜びを共にしておる。それ以上何が必要なのじゃ?」

「そうだな……確かにそれが一番重要なことだ」

「もう、3人で何をたそがれてますの? ほら、もっと近くで見ませんこと?」

「ビビィ〜♪」

「たき、もっとみたい」


ハサハやベルフラウ達が滝のほうへ走っていく。

まずいな、近くは氷が張っている、転ぶと大怪我になるかもしれん。

一歩動こうとしたとき、もう向こうにブレイズが羽ばたいていったのが見えた。

こういう時は素早いな……。

そうしていると、ミスミが立ち止まり、みんなに告げる。



「このあたりならばほどよく涼しくて過ごしやすかろう。骨休めにはうってつけの場所じゃ」

「では、ここを拠点にして、後は自由行動としましょうか?」



ヤードの言葉に従い、みなぞろぞろと移動を始める。

すると、ブレイズが戻ってきて俺たちに告げた。



「では、私は上空を散歩していますので……。

 なにかあったら声をあげてください」

「ええ、フレイズさんお願いします」

「あら、私が声をかけても来てくれるのかしら?」

「そっ、そうですね……考えておきます……」



スカーレルの流し眼にブレイズはヒクッと口元を妙な感じにゆがめ、かかわりたくなさそうに去っていく。

やはりそっちは守備範囲外ということだろうな……。



「あら、失礼しちゃうわね。私の美しさがわからないなんて、ねぇ?」

「俺にも分らん」

「まあ、ひどい。せんせ、あんなひどい人たちほっといて一緒に蒼氷樹を近くで見ましょ」

「えっ、あの……あれっ?」

「作戦会議よ、作戦会議!」



なにやら、ヤードはぼそぼそと呟きながらアティを引っ張っていく。

アティはなにか俺に伝えたいことがある様子だが、もし、そういう系統の話だとすると少し居心地が悪い。

どう言い繕おうと、俺はこの世界で落ち着くという考えはない。

元の世界への未練かもしれないし、だんだん人間離れしていく自分への恐怖かもしれない。

だが、未だにこの世界にとって異分子であるという思いは根強い。



「どうじゃ? 少し上に行ってみんか?」

「ん……そうだな」



少ししたころ、ミスミは俺を氷の滝を回り込んだ先へと連れて行く。

そこには、一面の雪化粧とでも言えばいいのか、流石に氷点下の所が目につく。

雪景色のその地面は頂上まで続いており、雪で白くなった大岩がいくつも転がっていた。

だが、よく見れば、大岩は砕かれたような形のものや、真っ二つにされたものが多い。

なんというか、大昔に巨人が戦争をしたような跡がところどころに見受けられた。



「ここは、わらわと良人の稽古場じゃ」

「稽古場……まるで戦場だな」

「なに、切りあいは下でやることも多かったが、あの景観を術の修行で壊すのももったいない話ゆえな」

「なるほど……」



言われてみれば、確かにシルターンの術者が使う術は雷や炎、切断、後は体調変化を誘うものが多い。

岩の壊れ方はどれかに当てはめようと思えばできるものが多かった。



「さて、折角来たのじゃ、少し付き合ってくれんかの?」

「今やるつもりか?」

「まあ、あまり時間もない……どこまでできるかわからぬがの」

「そうだな……面白いかも知れん」



言葉が終ると同時に、ミスミは距離をとりながら長刀を出現させる。

理屈は分かっている、俺は特に驚くこともせず、腰にさしていた小太刀を抜く。

実戦において小太刀は防御に特化するとされる。

理由は短いゆえの小回りの良さと破壊されにくさ、そしてツバが相手の刃をストップさせる役に立つということ。

とはいえ、それは書物を読んだわけではなく俺がたどり着いた結論だが。

もちろん、攻撃も何もないよりははるかに強力だ。

戦闘なら太刀を持ってくるが、気を抜いていたのは否定しない。



「俺のやり方はお前の良人よりも卑怯かもしれんぞ」

「望むところじゃ、わらわをへこませて見せよ!」



実際、気迫、構え、体捌き、どれをとっても一流に思える。

以前戦おうとしたときは本気ではなかったのか?

どちらにしろ、俺のすることは決まっている。



「遠距離は苦手かの?」



そういいつつ、逃げるように間を空けながら連続して火の玉を投げつけてくる。

俺はひたすら動きを読むことに集中した。

こちらから攻撃できるチャンスはそう多くない、向こうのほうには空を飛べる方法や、召喚による攻撃があるのだから。

しかし、逆に一撃の威力は必殺たりえない。

牽制を繰り返し、とどめは長刀か雷系の術で来る可能性が高い。

対して俺は、身体能力においては剣の力を使うまでもなくかなり高い状態を維持している。



















「もうっ、あんまり心配させないでください!」

「……すまん……」



相変わらず表情には出ないですけど、空気で伝わってしまう人です。

おそらく昔は表情豊かだったんでしょうね、無理に我慢しているうちに表情を消すことはできるようになったけど、

感情が態度に出てしまうというような感じでしょうか。



「今日はお休みなんですよ! たまにはそういう事を忘れてください!」

「いや、それは俺の休みというわけでは……」

「黙りなさい!」

「……」

「罰として、今日の夕食後に労働を課します! いいですね!?」

「了解した」



テンションに任せて合意させることができました。

私自身、スカーレルに乗せられた格好ですが、上手くいってほっとします。

ここのところ、ミスミさまとアキトさんの関係にやきもきしてたのも事実ですし、少し聞いてみたいということもあります。

やきもき……そういえば私、なんでこんなにやきもきしてるんでしょう?

やっぱり……その……あの、そうなんでしょうか?


そんな事を考えながら船に戻ったせいか、帰り道で何度か転ぶ羽目になりました。

幸い怪我はしなかったんですけど、アキトさんに支えられたときは顔が赤くなったのを覚えてます。

そして、覚悟もないままあっという間に夕食も終わり、私はアキトさんを引き連れて歩いていきます。



「……? あまりいつも行かないような場所だな」

「ええ、私も行くのは初めてなんです。アルディラさんに聞いてたので場所は知ってるんですけどね」

「ほう……」



アキトさんは不思議そうな顔で私を見ます。

そりゃあそうでしょうね、私もとから行き当たりばったりのけはあるんですが、

ベルフラウのこともあってあんまり変な場所に出入りとかしてなかったですし。

そういえば、ハサハちゃんがついてきたそうにしていましたけど……ちょっと今回は遠慮願っちゃってます。

流石に、ハサハちゃんがいてはその……。



「そうだ、アキトさんは……その、水着持ってきましたか?」

「一応持ってはきたが、いったい何をさせるつもりだ?」

「はうっ、あの……それは着いてからのお楽しみです!」

「ふむ……」



アキトさんは黙り込んでしまいました、いつもは船の近くということで海岸線といっても東側か南側を行くことが多いのですが、

今回はどちらかといえば北西側の海岸にきています。

アルディラさん自身ここには来たことがないらしいのですが、近くに来れば見るまでもなくわかるとのことなのでただ歩きます。

すると、空というより地面がけぶってきました、霧のようにも見えますが熱気がそれを否定します。

これは水蒸気、つまりは……。



「これは、地熱か? だとすると……」

「はい、温泉が湧いてるんですよ」



そう言って指差した先には砂浜を仕切って作ったと思しきいくつかの温泉があります。

なんでも、昔この島に彼女たちを呼んだ召喚士達の憩いの場として作られたらしいです。

だからでしょうか、周囲には色とりどりの花畑もあり、幻想的な風景を醸し出しています。



「海底温泉か……初めて見るな……」

「そうですね、私も初めて見ます……日が暮れる前につけてよかったです」

「そうだな……」

「ここはイスアドラの温海とよばれていて、昔は召喚士達の保養施設だったらしいですよ」

「ほう、そうなのか……確かに、幻想的な風景ではあるな」

「そうですね、でもここの真価はやはり温泉に入ってこそわかると思うんです」

「温泉に入る?」

「そのために水着を用意してもらったんですよ」

「……」



アキトさんは少し困ったような顔をしています。

普段表情に出さないだけに、こういう時の顔はなんだか可愛いと感じてしまいます。

年上なのにまずいですかね?

でも私は自然と微笑笑んでいました、もしかしたら意地悪そうに映ったかもしれません。


アキトさんがぐずぐずしているのを見て、私は女は度胸とばかりに服を脱ぎ始めます。

アキトさんはぎょっとした目で私を見ました、流石に恥ずかしいですね……いくら下に水着を着てると言っても……。



「なにしてるんですか? アキトさんも脱いでください。温泉まで来て何もしないで帰るつもりですか?」

「いや……そのだな……」

「もしかして、照れてます?」

「うっ……」



反応がいちいちうぶなのが新鮮です。

普段は逆にやられているだけに、何となく優越感。

でも、ワンピースとはいえいつまでも水着で立っているのも恥ずかしいので先に温泉の一つに浸かりました。

体を洗うのも重要ですけど、恥ずかしさがやはり先に立ちますね……。

塩分の問題もありますし、これは帰ってから体を洗いなおす必要があるかもです。

そうこうしているうちに観念したのかアキトさんも私の入った所の反対側に浸かりました。

別に水着なんですし、そこまで遠慮しなくてもいいのに……。



「それじゃ話しづらいですよ。それとも、私のこと……嫌いですか?」

「いや……そうじゃない、そうじゃないが……」



アキトさんが口の中でもごもご言いながら近寄って来ってます。

ちょっと卑怯でしたかね?



「こういった場は苦手だ……」

「どうしてですか?」

「女性に勝てる気がしない、なんというか、振り回されるばかりでな」

「ああ、なるほど……」


近づいてきたアキトさんは少し耳元が赤くなっているようでした。

余ほど恥ずかしいんですかね……でも、そうですね。

昔から女性が周りにいたということなんですね、ちょっと寂しいかな……。



「それはきっと、こういう場所に来ることで心を覆っている壁が薄くなるからじゃないですか?」

「!?」

「どうしました?」

「そうだな……そうかもしれない……俺は心を鎧で覆っているつもりだった、

 しかし、この世界に来てから、アティ、お前と会ってから、俺の鎧には穴が沢山出来てしまった……」

「それは……」

「多分いい事なんだろうな……しかし、怖い……このままでは、過去を失ってしまいそうで……」



無防備に向けられるアキトさんの感情、でも、温泉の中で湯けむりが顔を隠していて……。

どうしても、私はその顔が見たくなり顔を近づけます。

その眼には、少し涙がたまっていました。

本人は自覚していないのでしょう、表情はいつものポーカーフェイス。

でも、そんな顔を見てしまうと、私は止まれそうにありません……。



「私では、過去を埋めることはできませんか?」

「過去を埋める?」

「忘れろなんて言いません、でも、過去のことで苦しむアキトさんを見ていたくないんです」

「だが……」

「以前のように、死にたいとか、消えるとか言わなくなったのは、うぬぼれかもしれないですけど、私たちに愛着がわいたんだと思うんです」

「ああ……」

「だから、もっと近くに行けばきっとアキトさんの心を守ることもできる、そう思うんです」

「もっと近く?」

「そう……もっと……」



そう言いながら私はアキトさんを抱き寄せていました。

言葉はもう出てこなくなって、アキトさんも委ねるように私に体を預けていて……。

そして、おそるおそる抱き返してくれて……。

私たちはそれからしばらくただ、そうしていました……。

ガサリと音がするまでは…………。


「え?」

「ん?」



花畑をかき分けて現れたのは……クノンでした。

私たちはものすごい速度でお互いをひきはがし、10mくらい飛びずさりました。



「ああ、おかまいなく……私はアルディラさまの部屋に飾る花を摘みに来ただけですので」

「日が沈む時間にですか?」

「はい、この時間に摘んでおくと次の日の朝にきれいに咲くのです。花にもいろいろありますので」



私は一瞬感心するが、いろいろを深読みしてしまう……。

まさか、クノンにそんなことはできないと思うけど……。

何となく居心地が悪いまま、私とアキトさんはクノンが去っていくのを待ちました。



「……帰ろうか」

「……そうですね」



私たちはすっかり日常以下のテンションまで落ちてしまい、さっきのどこかむずかゆい感覚はすっとんでしまっていました。


徒労感を深めつつ船に帰った私たちは、船でまたはやし立てられるのですが……。



今日はこの辺で失礼しとうございまする……はぁ……。













あとがき

ええっとまあ、昔に書いたものが出てきたのでとりあえず記念に出してみようかなとw(爆

読む人がいるのかどうかは不明ですが、とりあえずよかったらと言うレベルで。

皆さんの反響次第ではまたたまに書いてもいいかもしれませんねw



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