銀河英雄伝説 十字の紋章


第四話 十字、宗教にハマる。






「どうしても行くの?」

「ああ、必要な事なんだ」

「それを貴方がする必要はないじゃない」

「だが。他人に託せる事じゃないんだ」

「……死んだら許さないんだから」

「ああ、きっと帰ってくる」



エミーリアに分かれを告げて俺は旅立つ。


772年初頭はフレデリック・ジャスパーの訃報と共に始まった。

なんというか、会う暇もなく亡くなられたが、正直仕方ない。

まさか旧婚旅行に行くなとも言えないしな。

とはいえ、殺された可能性も否定できないが。


同盟の戦況は現状割といい、ただ近々初めてのイゼルローン要塞攻略が始まるらしい。

要塞がイゼルローンに運び込まれて5年。

ここの所押し込まれていたのを一気に解決というような考えなんだろうが……。

トールハンマーの事、きちんと知らないだろうしな……。

何より今回の作戦には准将にまで出世したアレクサンドル・ビュコックが参加する。

それとなく情報を漏らしたい所だが。


どちらにしろ俺は怪我を回復するまでに2ヶ月、リハビリ3ヶ月、休んだ授業を取り戻すのに3ヶ月補習付け。

一昨年はほとんどうごけなかったし、去年もそのせいで詰まった原作を一気に追いつかせた。

流石に十数本も監修するもんじゃないなと思ったが、その分利益はあったのでよしとする。


バーリさんが裏の情報網も使い俺の資産を増やしてくれたのだ。

俺の元手の100万ディナールと、その後の作品の利益150万ディナール。

それらを株や相場の運用で10倍以上にしてくれた。

現在の俺の資産は3000万ディナール(33億円)となっている。

まあ、株や相場として運用している関係上、実際に今すぐ使えるのは3割程度だろうが。


ついでにバーリさんによると、これ以上の利益を個人で上げるのは不味いらしい。

実際俺は、長者番付のギリギリランク外といったところなのだ。

それ以上を目させば、わんさと変なのがわいてくる。

そうでなくても、俺の護衛は3人増やしている。

既に護衛なしに外に出るのは不味いくらいの金持ちなのだ。

両親や兄2人にもつけてある。

渋い顔をされているが、全員に土下座し、家に金を入れ、両親には豪華客船の旅を送っておいた。

長男は軍属なので現状大したことはできないが、

次男は料理屋として独立を考えていたようなので店舗を代理購入して渡した。

金で解決というのは流石にまずいが、それ以外の手を思いつかなかった。



そうして俺はバーリさんと護衛3人を伴いハイネセンへと向かう事となった。

当初の予定である、士官学校の高等部に入るために。

同盟の勝利に貢献するなら艦隊戦なんぞしてるより政治家になったほうがいいとは思う。

だが、政治家というのは実のところ酷く不便な存在だ。

何せ、基本的にこの国の議会は大臣のみの議会である。

だから評議会はわずか十数人で運営されている。

そこに選ばれるために必要な得票数はどのくらいか。


さらに言えば、そんな彼らも過半数が同じ意見にならなければ予算を通せない。

つまり、軍事行動も政治行動もとれないのだ。

慣習的に行われていることについては、大抵賛成多数となるが、変わったことをしようとすれば根回し必須。

その根回しも、実際のところフェザーンの後押しがなければ十分な資金を得られない。

結果としてトリューニヒトに勝てる者がいなくなるわけだ。


そんなトリューニヒトですら最初からフェザーンこと地球教の言いなりではなかった。

彼とて、同盟を勝利に導いた最高評議会議長となりたいという夢があったのだ。

結局それができずにだんだんと権力維持の方が主体になっていった。

怪物ですらそれなのだ、俺が頑張った所で最高評議会の席を手に入れる事すらおぼつかないだろう。


かといって、地理的要因からフェザーンに経済的勝利は不可能。

企業としていくら大きくなっても、帝国と取引できるフェザーンに勝利できる目はない。

安く買って高く売るがし放題なのだから。


結局、同盟が勝利するには軍事的勝利しかない。

だが、軍事的勝利をするためには一度は政治的アドバンテージを手に入れないといけない。

士官学校に入るだけではそれは不可能だろう。

俺には、軍に入る前にもう一つ切り札を持つ必要がある。




「とはいえ、俺は寮にはいらないといけないからな」



そう、護衛の3人はもとより俺と同年齢だ。

後々俺の部下ないし上官となって、俺の作戦に参加してくれる事となっている。

ただし、バーリさんは俺より10歳は年上、流石に無理がある。

なので、外部の情報収集、および資金調達をしながらセーフハウスと決めているマンションで生活してもらう。



「バーリさん、外の事は頼みます」

「はい、了解しております。コランタン、フロリモン、ロズリーヌ頼みましたよ」

「「「ハッ!!」」」



正直心強い、彼らいやロズリーヌは女性だが。

俺の代わりに出世してくれれば、俺はそれほど出世しなくてもいい。

とはいえ、流石に自分は頑張らないというわけにいかないが。

才覚のほうは自信がなかっただけに、薔薇の蕾選りすぐりだという彼らがいてくれるのは心強い。


幸い、士官学校への推薦に関しては学校のほうが押してくれた。

俺は変わったことをしていたので、難しいかと思われたが、その辺やはり手をまわしてくれていたんだろう。

実際テストは受けたが、士官学校とい言うのは、入るまでよりも入ってからのほうが難しいものだ。



「ようっ、お前があのアンリ先輩の言う変わり者か」

「先輩のお知り合いで?」

「おう、俺も先輩には世話になってる、バグダッシュってもんだ」

「そうか、俺はジュージ。よろしくな!」

「おう! 元気そうなのは嫌いじゃないぜ!」



まさかバグダッシュと同じ士官学校とは。

というか、一番大規模な士官学校はここ第二都市のものだから。

著名なのも来るよな、そりゃあ。

だがなんというか癖の強いのが来たもんだ。



「ともあれだ、ムーア先輩に次ぐ人気のアンリ先輩に気に入られてるんだ。

 お近づきにならねばと思うだろ?」

「まーその辺は実際の成績を見てからにしてくれ、変わり者なのは否定できんが」

「否定しないのかよ!」



早速バグダッシュとの掛け合いが楽しくなってきたが、彼の事だこの頃から食わせ者だろう。

気を引き締めないと……というか、声が渋い、ほんとに15歳かよ。

ムーア先輩ってことは、後々の第六艦隊司令官殿がいるってことか。

あの人案外若かったんだな。

どうせならパエッタにいてほしかったが、彼はもっと年上だろうしな……。



「他にも有名人がいれば教えてくれないか。お近づきになりたい」

「こりゃまた遠慮ねぇな。まあその辺はこれ次第かな?」

「わーってるって、今日の昼おごるからさ」

「毎度あり、一番高いの頼むわ。それでだな……。

 やっぱ他に有名なのってーと、コクラン先輩かね。

 後方畑の人間だが、彼の支援は適格だっつー話だ」



オーブリー・コクランといえば確か、ミュラーに真っ先に降伏した人間だっけか。

まあ、悪い人間じゃないんだよな、能力も高いし信念もある。

ただヤンの運の悪さを表現した一つってだけで。

彼も十分な活躍の場があれば違ったのかもしれないとは思う。



「後は同期のパトリチェフなんかが有名だが、まあありゃレスリングで有名ってことだが」

「レスリングかー、そりゃゴツそうだ」

「らしいぞ、体格もでかいし体重だって100kg越えてるって話だ」



フョードル・パトリチェフだろうな、彼は見た目から温和なイメージだったが。

最初から温和だったかどうかはわからないしな。

しかしまあ、結構いるもんだね。

原作での知名度はまちまちだが、この中じゃ一番はパトリチェフか。

だがまあ、原作の知名度がどの程度アテになるかは未知数だ。

独自に関わって見極めるしかない。



「んじゃま、食堂に行きますか」

「おう、ごちになります!」



バグダッシュなら恐らく俺が漫画で荒稼ぎしてることは理解しているだろう。

株のほうは、名義を使い分けてバーリさんがやっているので詳しく調べないとわからないとは思うが。

それでも、飯だけで満足しているのは恐らく、この先の繋ぎという意味だろうな。

ここの飯がよっぽど高いということがない限りは。




週に一度の外出日、前日にやった清掃の件で4時間かかった俺たちは、互いに戦々恐々しつつ楽しみにしていた。

だが、午前中は自主錬成という名の強制訓練がある。

一応外泊も認めてくれているので、土曜午後から日曜夕刻まではは完全にフリーにできるが。

やはり、こういったところはどこの軍隊もそう変わらないものだ。

まあ、それも2回生からは別なのだそうだが、エリートコースにうまく乗れば体育会系の訓練は激減する。

いわゆる、机仕事系のコースはエリートでなくとも体育会系のしごきは少ない。

その辺りは、かなりシステマティックになっている。


ともあれ、1回生は基本どこに行くのかの適正もわかっていないので扱きは徹底的に行われる。

俺は、幸い体力づくりは欠かしていなかったのでなんとか遅れずについていけた。

そして、午後は解放されて外出と相成ったわけである。



「お帰りなさいませ、若様」

「若様はやめてくれ……」

「旦那様より、そう呼ぶようにと言われております」

「……」



護衛の3人はそれぞれ別の部屋であるため、現状はあまり護衛できない。

時間がずれたりした場合は、セーフハウスに急ぐ事が取り決めとなっている。

バーリさんの作った食事を食べ、俺は現状のチェックから始めた。


原案の仕事のほうはストックで今のところなんとかなっている。

だが、時間が取れなくなれば辞める事も検討しないといけないだろう。

3000万ディナールもあれば、個人としては十分だが、問題は政治に干渉するための一手だ。

漫画からアニメへもっていき、グッズ増産し、ゲームを発売等展開は可能だが、10年はかかる。

その上、日本と違いアメリカ様式の文化であるこの国では大人まで動かすのは難しいだろう。

徐々に進めていくしかない、なので、別の手が必要だ。



「コランタン、フロリモン到着しました!」

「ご苦労様。少し休んだら外出したいんだけど、いいか?」

「ハッ!」


ほんと、帝国気質ってのはありがたい。

一度命令系統が決まれば、疑わず従ってくれる。

まあ、バーリさんのように表に出さず計算できる人間は怖いが。



「では、ご案内したいと思います」

「テルヌーゼンの把握はもう終わってるの?」

「おおよそは」

「流石だね」



バーリさん(メイド服ではなく私服をお願いした)に案内を受けて市街に繰り出す。

やはり同盟士官学校の規模が一番大きいだけあって、どこも軍人や士官学校の生徒と思しき人間で溢れている。

と言っても流石に全体から見れば一割といったところか。



「流石首星の第二都市だけあって人が多いね」

「この都市とその近郊に一千万人近く住んでいますからね」

「流石というか、なんというか」



惑星パラスがだいたい人口1000万人なのに対しハイネセンは10億だからまー当然だが。

東京近郊規模の都市ということになるんだなここは。

いろいろ見ながら都市部を回ってみたものの、これと言った収穫はなくパラスより物価が高いイメージくらいしかわからなかった。

まー最初だからこんなものかと、帰る事にしたのだが、その途中でふと見かけたものが気になった。



「やめてください!」

「うっせえ! お前ら誰に断って布教なんかしてやがる!!」

「この国では布教をするのも自由のはずです!」

「ここは同盟軍最大規模の士官学校もある、同盟軍のお膝元だぞ!! 胡散臭い宗教広めてるんじゃねえ!!」



これは地球教の布教活動か?

布教をしているのが美人の女の子な辺りに確かに胡散臭さを感じる。

しかし、そんな団体を攻撃しているのは憂国騎士団じゃないか。

まあ、俺としては根元が繋がっている組織というイメージしかなかったが。

確かに考えてみれば、末端は関係ない人達だからこうなるのも当然かもしれない。


憂国騎士団から見れば、地球教徒は他国にある星に隷属する胡散臭い奴らだし。

地球教徒から見れば、憂国騎士団は暴力団と同じようなものだろう。

根っこが繋がっているなんてこいつらは思いもしまい。


しかし、宗教……宗教か。

いいかもしれない、政治に関わるための切り札になりえる。

ただ、普通に広めていたのでは地球教とぶつかって潰される。

国のためになって、国民を熱狂させて、政治影響力を持ち、俺の思い通りに動く。

そんな宗教が必要だな。



「我ながら最低の考えだが、うん。これしかないな」

「若様また何か考えたのですか?」

「まあね、上手くいくかはまだわからないけど」

「最大限お手伝いするつもりですが、我らの力を結集しても国を相手にできるわけではないので。

 そこはご理解くださいね」

「もちろん分かってる」



とりあえず、今は正しさも含めていい感じにするチャンス。

そうして割って入ろうとした時、先に飛び込んでくる影があった。

それを見て思わず吹いてしまった俺を誰が責められるだろう?

いやマジで。



「君たちここは天下の往来だ、邪魔をしちゃいけないよ?」

「てめぇ、何者だ!?」

「あれは……まずい、パトリチェフだ!!」



そう、パトリチェフが割って入ったのだ。

彼の体格はそれだけで威圧的、笑顔でいるのが余計不気味だ。

それに、相手の攻撃をリーチ差でいなしてしまう。

まともに打撃が入りそうに見えなかった。

その上レスリングの達人なんだからガチでやりあっても負けないだろう。

憂国騎士団といっても、この時点では武器なんてせいぜいが鉄パイプくらいだ。

パトリチェフの敵じゃない。



「くっ、覚えてやがれ!!」

「あ、ありがとうございます」

「君達も、あまり人通りの邪魔になるような所で勧誘はしちゃいけないよ」

「えっ、はあ……」

「せめて、道の脇ですべきだ。往来を邪魔しない程度にね」

「わかりました」

「じゃあ、僕は」

「あっ、あの……」

「ごめん、勧誘はお断りだから」

「はあ……」



一方的に言いたいことを言って去っていった。

うーん、まだ原作のバランス感覚は持っていないようだな。

と言っても、ハイスペックな事に変わりはないが。

ともあれ、これじゃあ出会い勧誘作戦は失敗だな。

まあ、実際のところ、この先も手はある。

先に準備をしておこう。



「帰ろうか」

「はい」



俺とバーリさんたちはセーフハウスに戻った。

俺は、セーフハウスに戻って直ぐ、いくつかの漫画原案を作った。

様式は頭に叩き込んであるので、だいたい問題ないだろう。

それから、色々小細工を作り始める。

そうしているうちに、あっという間に2日間が過ぎてしまった。



俺たちは士官学校に戻り、それぞれ勉強や訓練等に精を出す。

俺も前世のままならきつかったろうが、今はそれなりにスポーツマンでもあるので体力的には大丈夫だ。

だが、いびり等の士官学校の体質は変わらないので、精神的に疲弊するのは止められない。

もしかしたら、これから十数年ほどでこの辺りの体質も変わるのかもしれないが。

これをヤン・ウェンリーが耐えられる気がしないからな……。



そして、銃の分解整備や機動車両の扱い等、陸戦的なものから学び始める。

この辺の才能ははっきり言って並くらいでしかないようで、平均点より低空を走っている。

戦史や艦隊指揮の基礎知識はそれなりの得点を得てる自覚はあるが上位陣に入れるほどでもない。

現状の俺の評価は平均点と言ったところだ。



「へぇ、アンリ先輩に気に入られている割には普通じゃねえか」

「バグダッシュ、背後から忍び寄らないでくれ」

「まあいいじゃねーか。因みに俺は銃も機動車両も上位1割にギリギリ入れないくらいだ」

「凄いけどなんかいまいち褒めづらいな」

「戦史はそこそこ、艦隊指揮の基礎は赤点ギリギリだった」

「極端だなそりゃ」



今は4科目だが、だんだんと科目数が増え、一年でだいたいの方向性を決めるための指標とするのだ。

俺は一応、艦隊司令官を目指しているのでもっと指揮能力を鍛えないといけないな。

可能であればラインハルトを殺すのが同盟にとって一番勝率が上がる。

とはいっても彼は戦略も戦術も一流の上、タイミングも運も圧倒的なので、勝てる可能性は極小だろう。

だが、もし出世を遅らせる事ができれば……。

一階級遅らせるだけで、皇帝になる可能性が半減する。

もしも二階級も遅らせる事が出来れば彼が元帥府を開設する事すら難しくなるだろう。


そうすれば、ヤンとラインハルトが同数でぶつかり合うなどと言う事も可能になる。

同数で戦うならヤンが負ける可能性は極小になると言っていい。

まあ、あくまで出来ればだが。

それを可能にする方法はただ一つ。

ラインハルトが出世する前に俺か護衛の誰かが、艦隊指揮を取れるようになっておく事が必須だ。

10倍以上の艦で揉みつぶす事が出来れば、その回の出世は無かった事にできるだろう。

難しい事は分かっているが、それでも成功すれば大きい。

一応、案の中に入れておくべきだろう。



「そういえばバグダッシュ。お前は金のためなら何でもやる方か?」

「そういう言い方をされっと困るが。金をくれるなら貰うぜ」

「そっか、まあ単純な話だよ。情報提供をしてほしいだけさ」

「へぇ。どんな情報で?」



バグダッシュの持っている情報網を使い、少しばかり士官学校内の力関係を調べてもらう事にした。

実際問題として、俺は出世する必要があるが、あまりこちらばかりに時間はとれない。

また、才能の限界も自覚している。

バグダッシュは非常に有能なパートナー足りうると俺は考えた。

バグダッシュの情報網を護衛達にある程度精査してもらう必要はあるだろうが。

人材も金も使いどころだろう。



「分かった。まあ、任せておきな。但し、高いぜ」

「こんなところでどうだ?」



俺は前金として5万ディナール(550万円)をバグダッシュの口座に振り込む。

バグダッシュは目をむいてから口笛を吹いた。

それは、欲と同時に、俺に対して興味が出てきたという顔だった。



「流石漫画王、はした金のようにこんな金額を出せるとはね」

「当然口止め料も入っている。後金は倍出してもいい。もちろん情報の価値次第だがね」

「了解了解、気合入れて調べとくよ。払いのいいお客は好きだぜ」

「何よりだ」



幸いバグダッシュの才能は本物だったようだ、まだ15歳なのにコネクションを築いているようだった。

俺は士官学校内の力関係やテストの対策、どの先生の授業が高得点になりやすいかなど細かなところまで知った。

これなら士官学校にいる間は上位陣に入る事ができるだろう。

まあバグダッシュも知っているのだから、同じことばかりもできないだろうが。


そうして色々小細工しながら、週末の時間をフリーにする事に専念する。

週末はバーリさんが集めてきた地球教の教義の細部と内情の資料。

そしてこの辺の教徒たちがどうして感銘を受けたか等詳細なデータを受け取る。

そして、洗い出しを行い、ターゲットを絞るのを繰り返した。



「やはりこいつだな」

「こいつとは?」



バーリさんがのぞき込む。

そこには、ある女の資料があった。

見た目もアイドル並の容姿をしており、実績も大きい。

テルヌーゼンのナンバー2の部下のようだが、実質ナンバー3と言っていい。

ナンバー1は地球から来た教徒だと言っているようだが本当は帝国からの脱走兵らしい。

ナンバー2は地元の人間の代表のような存在みたいだ。

ナンバー2も使い勝手はそれほど悪くないが、やはりこの娘のほうがいい。



「リディアーヌ・クレマンソーの詳しい調査を頼む。

 家族構成、交友関係、地球教に対する信心や入信理由等。

 金銭関係もあればなおいい」

「なるほど……使うつもりなのですね」

「ああ、ちょうどいいコマになりそうだ」

「怖い方だ貴方は」

「何とでも言ってくれ」



同盟が勝つためには必須なのが地球教対策でありこれはそのための札となる。

そして同時にこれは政治に介入するための札にもなりうる。

上手くいくかはまだわからないが……。



「情報アドバンテージさえ取れれば介入できるかもしれない」

「了解しました、若様」



こうしてまた次の週までに情報収集を進めてもらう。

薔薇の蕾には本当に世話になっている。

お陰で、暗躍するのが随分と楽になった。

まだ完全に信用するわけにはいかないが、それでも現状俺にとって最大の支援者と言っていい。


次の週も要領よくやりながら、週末にセーフハウスに戻る。

この生活も少し慣れてきた。

バーリさんに資料をもらい精査していく。

これは……。



「これは本当か?」

「はい、何本かのルートで確認しました。ほぼ間違いないでしょう」

「なら今から準備しないとな」

「はっ」



仕込み次第ではあるが、もし成功すればかなりの率で上手くいくだろう。

用意していたものも役に立つ、後は仕上げの効き目次第。

役者が必要だ。

バーリさんにお願いすべきか。



「バーリさん一つ頼みたいのだが」

「それはダメです」

「へ?」

「じゃあコランタン」

「無理です!」

「フロリモン!」

「悪いけど役者の才能はないよ」

「ロズリーヌ……」

「ごめんなさいね」



はぁ……言いたいことはわかるが……。

これは自分でやるのはきっついんだが……。

だが、確かに誰もやらないなら俺がやると決めたんだ。

やるしかない。



「わかった……じゃあ、仕込みの方頼む」

「了解しました」

「「「はっ!」」」










私は地球教こそ人の救いになると信じていた。

いえ、実際信じるに値するものもあった。

教会での戦災孤児の孤児院経営、もちろん国がやっている事と比べれば規模は小さい。

それに、医療保護を受けられない老人の介護を孤児達の手に職を付ける意味で行っている。

両方とも慈善事業であり、国の認可をうければ経営はギリギリだけどできる。

それに、炊き出しや都市の清掃等、色々な事を行い認められている。

最初のうちは私も率先してそれらを行い、人に感謝される。

それらはやりがいもあったし、理想の人の在り方だと信じていた。


だけど、階級があがり助祭から司祭になってからは違った。

司祭以上になると、地球教が本当にやりたいことが徐々に見えてくる。

テルヌーゼンは1000万都市であり、司教がいて大司祭数人でフォローしている。

私はナンバー2の大司祭レムナントさまの元に行く事が増えた。


レムナントさまとリアヌス司教の意見は対立していた。

レムナントさまはフェザーンにもっと支援を出させてこの地の人々を教化しようとする一派。

リアヌス司教は戦争を激化させ、夜会不安をあおり教化を進めようとする一派。

そう、どちらも同盟市民の事等本気で考えてはいなかった。


まだレムナントさまの方が穏当であるため私は二択でレムナントさまの元についているだけ。

実際そうしてみると彼らの行動は教化を進め、地球を復興し自らの地位を上げる事ばかり考えている。

そして他の大司祭や司祭たちもそれを疑問に思ってすらいないようだった。

私はそれまで知らなかったが助祭の段階で知っている人は知っているようだった。

孤児院では子供のころから教化を進め、老人たちからは金を巻き上げているそうだ。


既に私の宗教観は崩壊していた。

だけど、私を慕ってくれる一般の教徒の人たちや、孤児院の子供達を見捨てて逃げる事も出来ず。

ずるずると司祭の仕事を続けているのが今の私。

その日もどうにか仕事を終え、どうすればいいのか答えの出ない問いを投げかけ続ける。



「どうすれば良かったというの……?」



答えの出ない問いは夜空に消え、いつものように虚しさだけが残る。

だけど、その独り言に返事があった。



「全てをひっくり返す気はないかい?」

「え?」



その人物は、私にはまぶしすぎた。

夜の裏道でまるで太陽を背負ったように。

そう、それは神の使いか悪魔の化身か。

ただ、私にとって転機となる存在であったことだけは間違いない。












あとがき



案外長くなってしまい、宗教そのものに手を出す暇がなかったです。

実際に色々するのは次回になるかな。

これがうまくハマるかは正直未定です。

でも、まーできればあんまり複雑にしたくはないので。

チートと言われようと突撃するしかないかな。


バルザックさんは今回校内の情報屋をしてもらいました。

士官学校内をうまく泳ぎ回ってくれそうでもありますし。

ジュージにとっては得難い相棒になるかも?



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