フェザーン自治領、領主官邸内にある地下施設。

秘密の部屋ともいえるその場において、通信が行われていた。

通信をしているのは、フェザーン自治領主ワレンコフ。

黒人系の白髪の目立つ60代の男である。



『ワレンコフよ、計画に遅延が目立つ様だがどういう事だ?』

「はっ……申し訳ありません。同盟内にて元々あった宗教に関しては取り込む事に成功したのですが……」

『新興宗教の肥大化が目立つな、まさかこれほどの規模になっているとは』

「は、同盟内における地球教の地位は1位であるものの、圧倒するというほどではありません……」



ワレンコフは額に汗をかきつつ、目の前の画面に映る男を見る。

若い、と言ってももう40台の後半になりつつあるだろうが、宗教指導者の中では若かった。

名をド・ヴィリエという。



『分かっているだろうが、貴様の代になってから同盟内のフェザーンの影響力も低下しつつある』

「はっ……」

『このままでは貴様に不幸が舞い降りるかもしれぬな』

「……それは……」


ワレンコフは奥歯をギリギリと噛みしめて考える。

この様な若造に言われっぱなしにならねばならない自分の地位について。

フェザーンにとって、実のところ地球教は目の上のたん瘤である。

経済だけのほうが、影響力は下がるがフットワークは軽くなる。

ダーティな面において、地球教が支えていたのは事実だが、もういらなくなりつつあった。

規模が大きくなってきたフェザーンにとってみれば、ダーティな面を支えるのは地元のマフィアの類のほうが楽だ。

いつでも切り捨てられるし、頭ごなしに命令される事もない。


宗教家としては珍しい現実主義のド・ヴィリエはその事を理解している。

だからこそ、役に立たなくなってきているワレンコフが切れて反逆する前に殺しておくべきと考えていた。

既に暗殺するための要員はワレンコフの周辺に潜んでいる、指令さえあればいつでも殺れる状態だ。

次の領主はやり手であるルビンスキーが相応しいだろう、だがしっかり手綱をつけておかないといけない。


ワレンコフも殺される可能性は理解しており、一旦でもド・ヴィリエに役に立つ所を見せてその隙に反逆準備を整える必要があった。



「原因についてですが、どうも個人である可能性が高いと思われます」

『話には聞いている、確かジュージ・ナカムラといったか。しかし、この様な事個人で出来るものか?』

「バックについているのは、元帝国諜報部の残党と思われます」

『規模は?』

「はっきりとはわかりませんが、大隊規模かと」

『ふむ、しかし政治、経済、裏社会、そして今や軍にまで食い込み始めている。

 大隊規模の諜報部だとしても、とても出来るとは思えんな』



ジュージのやってきた事は、この世界と元の世界の文化のギャップに支えられている。

しかし、その事を理解できる人間は先ずいないだろう。

例え、ジュージの広めた漫画やアニメに転生ものや憑依ものがあったとしても繋げられるものではない。

彼らの疑問は解決される事はないと言える。



『まあいい、それでどうするのだ?』

「はい、先ず先にジュージという男を抹殺し、元諜報部も芋ずる式に潰します」

『暗殺者等は既に何度か送っていたかと思うが?』

「はい、なので今度は艦隊を使います」

『ほう、どうやって?』

「手頃な海賊に伝手がありまして。多少テコ入れは必要でしょうが」

『ふむ、しかし諜報部隊等完全に潰すのは難しいと思うが?』

「別に完全に潰す必要はありません。規模が小さくなれば何もできなくなるでしょう」

『……いいだろう、やってみる事だ』

「ははッ!」


表立ってフェザーンが関わらないためにも、多少の金は割いて海賊にやらせねばならない。

向こう側の諜報部が表に出る情報は掴んでくるだろうが、直前に強化されればそうもいかないだろう。

ワレンコフには今までの失態の恨みもある、ここで確実にジュージ・ナカムラと元帝国軍諜報部を叩いておくつもりだった。





銀河英雄伝説 十字の紋章


第十七話 十字、海賊と対決す。






さて、海賊とは何であるかと考えた事がある方はいるだろうか?

漫画やアニメ、映画や小説等いろいろな分野でメディア化されているが、意外と知られていない事がある。

それは、海賊は自然発生しにくいという点だ。


盗賊や山賊は食い詰めや元兵士、傭兵等が集まって自然発生する事がある。

盗賊なんかだと一人でやってる場合もあるから、自然発生しやすい。


しかし、海賊は不可能とまでは言わないが、9割無理である。

理由は色々ある、順を追って示していこう。


先ず第一に船である。

1隻で海賊をするにしても、船というものは安いものじゃない。

ましてや戦闘に耐えられるものでないと始める意味がない。

となれば、大航海時代でも大型のガレー船くらいは必要だ。

船足も少なくとも商船に追いつける必要があるため新型のものが求められる。

日本円で10億あってもまだ足りないだろう。

下手したら100億くらいないと難しいかもしれない。

船団を組む様な海賊はさらにその10倍くらいの金がいる。


続いて必要になるのは船員である。

最低乗組員として40名は必要だろう、これは乗り込んで制圧するという点から必須だ。

そして、それらを訓練する必要がある、船員としても戦闘員としてもそれなりにならねばならない。

一端の乗組員をさせるには数年がかりとなる。

船団規模なら数百名にもなるし、それらを食わせていくというのは明らかに隠せる様なものじゃない。


そして、情報。

港を通じて商船等の航路情報を手に入れる必要がある。

当てずっぽうで出て行ったりして、食料や諸々を無駄にするという事はそれだけで金がかかる。

それに、積み荷次第では襲った結果赤字だったなんてこともあるだろう。

それでは海賊を続けていけない。

どういった積み荷をいつどういう航路で運ぶか、この情報は海賊にとって死活問題だ。


つまり、海賊というのはメディアで知られている様なただのアウトローには出来ないという事だ。

最低でも、元々100億くらいの資産を持ち、乗組員を教育できる状況にあり、港等と懇意でないとならない。

それはつまり、領主か国王の承認を得て作られた組織である事を意味する。


もちろん、それらが首輪を外して野良になる事もあるし、支援者を乗り換える事もある。

だが、始めるには相応のバックボーンが必要になるという事だ。


では、領主や国王は何のために海賊を組織するのか。

それは日本のほうが実はわかりやすい。

日本には村上水軍や九鬼水軍等、水軍を率いた大名がいる。

さて、この水軍。海賊とも呼ばれていたのはご存じだろうか?

彼らは水軍であり、海を警備するのと同時に、自らの勢力以外の船を襲っていたのだ。

つまり、海賊行為というのは他国に対する謀略の一種なのである。

西洋では表立って国との繋がりを示す場合私掠船と呼ばれる事もある。


よく、海賊が人は殺さなかったり、一定量の食料や水を残したりする事があるが、それも別に慈悲ではない。

そういう計画に基づいた海賊行為であるというだけである。

残虐な人間とか、個人の資質によってどうこうという事もないではないが、基本そういうのは上の指針によって決まる。

もちろん、そうやって手に入れた金や人は領主や国に持ち込まれる。

ある程度は個人裁量なので、本人達が隠匿する事もあるにはある、ただし全てを隠匿というのはそうないだろう。

情報や海軍等との戦闘回避のため海賊行為を続けるには支援が必須であるため、あまり雇い主にでかい顔は出来ないのだ。


つまり、海賊というのはアウトローに見えて9割がたひも付きなのである。



さて、それを踏まえた上で、銀河英雄伝説の原作において海賊というものが頻発していたのを考えてみよう。

帝国における海賊は実のところそれほど疑問はない、帝国というものは大きくなりすぎ、領主がそれぞれ国のようなものだ。

なので、領主同士の諍い、それどころか戦争すらよくある。

となれば私掠船としての海賊は相応に必要性が高い。


しかし、同盟はどうだろう?

一応ではあるが統一された国家であり、元帝国貴族もいるにはいるが、3つか4つの小規模な団体にまとまっている。

互いに勢力を削りあうほどの規模はないため腹に一物持っていても、おおむね親同盟優先と帝国打倒優先の主張差に過ぎない。

個々の星には確かに代表はいるが、通常4年、長くても12年程度で交代する関係上海賊との関係性を維持するのが難しい。

そう考えてみると、海賊が頻発する理由は国内ではなく国外に起因するという事になってくる。

すなわち、帝国やフェザーンだ。


だから、同盟内における海賊というものは基本、帝国かフェザーンのひも付きであると考えていい。

戦争中であるのだし、後方攪乱というのは悪くない手ではある。

特にフェザーンの交易路は同盟軍の監視も甘くなりがちだ。

何を運んでいるのか分かったものじゃない。

それを海賊に襲わせる事で海賊に対する諸々を供給する事が可能である。

同盟の海賊は滅多に全員を殺す様な事はしない。

つまり襲われた船に連絡員が行き来する事が可能だという事だ。





「海賊艦隊が警戒線上に現れました!」

「防衛艦隊出撃、防衛プランはCを優先、敵の行動予測を割り出せ!」

「はっ!」



俺は色々な方面から情報を集めているため、多少の事は誤差としても調べそこなう事は少ない。

しかし、どうやら今回は少しばかり遅れたようだ。

罠は既にいくつか張ってあるが、敵艦隊の規模を見ると少し厳しいと言わざるを得ない。

敵、海賊艦隊は500隻を数える大規模なものになっているようだ。

それまでの規模の実に3倍以上、恐らく周辺の全ての海賊をかき集めたものだろう。

識別信号から戦艦クラスが100隻近く混ざっている事が確認されている。

こちらの規模は戦艦1で残りはほとんどがフリーゲート艦やミサイル艦、勝負になるはずもない。

普通は海賊がこんな事をするはずがない。

理屈の上から考えても、俺を狙ったものだろうことは予測がつく。



「明らかに我らを潰しに来ていますな」

「ああ、海賊が戦艦なんか持っているはずもないから恐らくフェザーン経由でもたらされたものだろう」

「……あの国は何がしたいんですかな?」

「恐らく、邪魔になったものを排除するために使ってるんだろ」

「ああ、なるほど」



俺の乗艦である戦艦バトラントの艦長は駆逐艦ガラパゴスからの付き合いであるエマーソンに頼んでいる。

色々コネを使って引き込み、中佐まで格上げしてもらっている。

戦艦の艦長は中佐でないとなれないからな……。



「俺が遣り過ぎたと感じてるんじゃないかな」

「まあ、派手にやってますからな。国家という意味ではさほどではない気がしますが」

「色々やってるからな。まあ、フェザーンにはいずれ同盟の占領を受けてもらうつもりだが」

「大胆な事を考えておられる様ですが、生き残らねばどうしようもありません」

「出来るさ。何も素直に艦隊戦に応じてやる理由もないんだから」

「艦隊戦をしないんですか?」

「まあ、完全にしないで済ませられるとまではいわないが」



俺の策がどの程度通じるか、実験も兼ねさせてもらおう。

俺がこの4年、この星系で実験し続けていた事を全て見せても叩き潰す。

准将になるためにも、ここらへんでしっかりとした武勲が欲しいしな。

俺は、先ず巡航速度で海賊艦隊に向け艦隊を接近させる。




「先ずは、作戦コードD7を発動だ」

「作戦コードD7開きます!」



オペレーターが読み上げると同時に、ミサイル艦が普段見慣れない黒色のミサイルを発射していく。

ミサイルは噴射炎を出す事なく、圧搾空気のプシュっという音とともに加速する。

もちろん、その速度は遅い。

だが、この黒塗りのミサイルは可視光や耐熱、対物センサーをはじくようになっている。

そう、ステルスミサイルなのだ。



「相対停止速度!」

「相対停止速度へ移行します!」



相対停止速度、つまり海賊の前進速度に合わせて後退を開始する。

ミサイル戦をするのだから相手の主砲の射程に入るのはごめんだ。



「ミサイル次弾発射!」

「発射!」



次は普通のミサイルが発射された、今度は数もそれなりだし、同数の艦隊になら相応の打撃を与えられるだろう。

発射されたミサイルは相手のレーザーの射程圏に入ると迎撃爆発し、消滅した。

しかし、前回の黒いミサイルがどこにあるかわからず海賊艦隊は接近してこない。



「ミサイル第三射!」

「発射!」



構わず次のミサイルを発射する俺達の艦隊に対し、海賊艦隊は最初のミサイルが不発弾だと思った様だ。

前進しつつ迎撃のミサイルを放ってきた。

3射目のミサイルと迎撃ミサイルがぶつかり光を発する。

その間にも海賊艦隊は艦隊を進めた。

そして、俺達の艦隊を主砲の射程に捉える寸前。

凄まじい爆発が発生する。

そして、それが終わった時、海賊艦隊の前衛が消滅していた。



恐らく、全体からすれば20%くらいの損害を与えたはずだ。

特に前面に出ていた盾としての役目を持つ戦艦はあらかた消えたはず。

中央にいる敵旗艦とその護衛の戦艦もいるので全滅ではないが、戦艦が減った事は大きい。


使った兵器の名をつけるならステルスゼッフェルミサイル、火気厳禁のゼッフェル粒子を詰め込んだミサイルだ。

当然、通常の発射方法では自分たちの艦隊に被害が出る。

だから圧搾空気で撃ちだし、自分たちの艦隊を下がらせていたのだ。

そして、海賊艦隊の戦艦が通る頃を見計らい起爆。

ゼッフェル粒子は燃えるものをより大きく燃やすという傾向がある。

だから艦後部にあるバーニア(?)から噴射されている噴射炎を更に燃やした。

結果として、艦のエンジンまで炎が逆流し爆破したというわけだ。

指向性ゼッフェル粒子が出れば過去の長物かもしれないが、これはこれで案外使い勝手がいい。

ミサイルを起爆するまで拡散しないので、倒せる数には限界があるが、威力は折り紙付きだ。



「よし、敵艦隊は混乱した! 突っ込むぞ!」



穴が開いた敵艦隊に、さらに追撃を行う。

相手は艦隊の先頭が壊滅し、爆発の余波で動きが止まている状態だ。

そこに正面の爆発した空間を避け、横っ面を引っぱたく様に食らいつく。

突っ切るまでに倒せた敵艦は10隻程度だが、陣形が崩れて立て直しに時間がかかる。

海賊艦隊が態勢を立て直した時には、既に俺達の艦隊は反対側に抜けていた。



「敵艦隊の横っ面を引っぱたいての通り抜け、成功しましたな」

「ああ、だがこの先相手が何をしてくるかによって使う作戦を変えないとな」

「確かに、ですが心配はいりません」

「どういう事だ?」



俺はエマーソン中佐に振り返る。

確かに最初の攻撃はうまくいった、これによって海賊艦隊のうち110隻を撃破する事に成功している。

自分たちの艦隊の数と同数の撃破だ、大成功と言っていいだろう。

しかし、まだ敵艦隊は400隻近く残っている。

つまり、主力はまだほとんど減っていないのだ。

海賊艦隊が俺達惑星駐留艦隊を追うか、それとも星に直接乗り込んでの強奪か、惑星に対する攻撃に出る可能性も否定はできない。



「海賊というのは軍とは違います。

 基本的には同じ様な部分も多いですが、軍と違い常に独立行動をする上、雇用主との関係も絶対ではありません。

 なので、彼らは強い者に従うという習慣があるのです。

 今回、5倍の艦隊を用意した彼らが我らに一方的にやられたという状況。

 このまま我らを放置すれば、海賊の長としての求心力を失ってしまう」

「そうか、確かにそれならこちらについてくる公算が高いか」

「はい」



一応、惑星に向かった場合の策も用意してあるが、やはりこっちに来てくれたほうがありがたい。

民間人に被害が出る可能性が減らせるし、恐らく勝率も高い。


俺達が通り抜けた後、そのまま加速すると、海賊艦隊はほぼ全軍で追撃をかけ始めた。

残っているのは、艦隊行動がとれない破損艦くらいのものだ。

エマーソン中佐の予想が的中したという事だな。



「このまま全速でアステロイドベルトに突っ込むぞ!」

「了解!」



駐留艦隊はもともと、うまくいったらアステロイドベルトに突っ込んでいく予定だった。

そこには補給物資も運び込んであるし、盾にも事欠かない。

更には、罠も用意してある。

問題は、海賊艦隊がここに入ってくるのかという点だけだ。



「補給物資を取得しました」

「よし、ミサイル艦のミサイルを優先しろ。

 今回はスパルタにアンの準備も必要だ、いけるか?」

「問題ありません」



駐留艦隊がアステロイドベルト深部まで到達した時、海賊艦隊もまたアステロイドベルトに突入した。

数の上ではまだ4倍もある敵艦愛に対し、当然正面から戦う事は出来ない。

フリーゲート艦による砲撃でちまちまと挑発しながら侵入してくるのを待つ。



「不味い……思ったより相手の反応が鈍い」

「恐らく、海賊艦隊は主力の戦艦をアステロイドベルトに入れる事を嫌ったのでしょう」

「……そういう事か」



半分は確かにこちらに向かってきているが、もう半分は迂回するような動きを見せている。

半分の艦隊でもこちらの倍はいるので、それでアステロイドベルトから追い立て、外に出てきた所を戦艦で叩くといった所か。

正直、これは不味い。

だが、こうなった以上出し惜しみをするわけにもいかない。



「敵艦隊が射程に入るのを待って擬装を解除する」

「は、3、2、1擬装解除!」

「サウザンドナイフ発射!」

「発射!」



兵器担当の少佐がボタンを押すと、アステロイドベルト内のそこかしこに仕掛けられた砲門のカバーが外れる。

ステルスといっても、起動状態にならなければ熱反応はそれほど大きくないので、最小限のステルスで済む。

撃てる回数は2、3回ではあるが1000門という大量の砲門が海賊艦隊に全方向から襲い掛かった。

もちろん、射程に入り次第駐留艦隊からも砲撃を加える。

入り組んだアステロイドベルトではまともに回避する事もままならない。

あっという間にこちらを追撃していた200隻は蒸発してしまった。



「追撃部隊残存ゼロ! ただし、簡易砲門サウザンドナイフは大部分が焼き付いており再使用は難しいかと」

「できれば本隊に叩き込んでやりたかったが仕方ない。回り込んでいる敵艦隊の反応はどうか?」

「動きが止まりました。恐らくは混乱が起きていると思われます」



数の上では後200隻、だが戦艦の大部分はそのまま残っている。

正面からでは戦いにならない。

駐留艦隊の戦艦は旗艦であるバトラント一隻のみ。

火力では話にならない。

罠にはめてなんとか半分以上を制したとはいえ、ここからが本番だ。



「ミサイル艦は補充したミサイルを敵艦隊に向け射出!

 射出後、レーダーをマルチからベータへと変更しろ」

「了解! ミサイル発射!」



アステロイドベルト内で補充したミサイルを全てのミサイル艦から発射させる。

ぱっと見は普通のミサイルだ、それらはかなりの速度で海賊艦隊へと向かう。

流石に今回は警戒したのだろう、2回も罠にかかったのだから当然だ。

駐留艦隊がその後を追っているとなれば尚更警戒もする。

だから、射程ギリギリから射撃を繰り返し、次々ミサイルを撃墜していく。

だが、そこから現れたのは特殊な光沢をもった、銀紙のようなもの。

それが周囲に拡散していく。

ミサイルの加速をそのままに拡散しながら海賊艦隊の方に向かっていく銀紙のようなもの。

いわゆるチャフ、電波欺瞞紙というやつだ。

このチャフはある種のレーダーのみを通すようになっており、それ以外は乱反射させてくる。

結果として、海賊艦隊のレーダーはほぼ死んだ。

光学観測以外が使えなくなった海賊艦隊は、動揺しているのか、陣形を崩している。

その間にレーダーを切り替えた駐留艦隊は接近を果たす。



「光学観測可能距離まで後0.03光秒に到達しました!」

「全艦隊に通達、今なら反撃はない、よく狙って撃て」

「了解、全艦射撃準! 備目標を自動追尾します」

「全艦一斉射撃! ファイヤー! 弾切れまで撃ち続けろ!」

「はい! 全艦一斉射撃!」



戦艦は一隻だけ、残りはほとんどフリーゲート艦とミサイル艦である以上、ミサイル艦は使えずフリーゲート艦のみの射撃となる。

その上、フリーゲート艦はいくら近づいたと言っても火力が低い。

こちらは相手の盲撃ちでも被害が出ている点を考えると、辛いものがある。



「大佐! スパルタニアン行けます!」

「スパルタニアン部隊発進だ!」

「スパルタニアン部隊発進!」



スパルタニアン部隊と言っても、戦艦と何隻かいる巡洋艦に配備されているのみではある。

合計しても20機がせいぜい。

正直向こう側にもスパルタニアンがいるだろうから、スパルタニアン同士激突ということになると不味い。

だが、スパルタニアンもまた電子装備満載なのだ。特に現在位置の割り出し、姿勢制御等に使われている電子装備がなければ使い物にならない。

このチャフを無効化しない限り、徐々に削られていく事になるだろう。

難点を言えば、チャフもまたそれなりの速度で動いている関係上、海賊艦に直接付着するものを除き、10分もしない間に通り過ぎてしまうという点だ。

だが、それほど心配する必要はない、要はこちらがチャフの範囲から出なければいいのだ。

ただし、距離が離れればチャフの範囲内にいる事がバレるので、範囲内に飽和攻撃なんかを食らうと不味いが。

そうこう考えている間に、海賊艦隊を突き抜けて艦隊を交差する、だがこちらは普段ならやらない反転攻撃をしかける。

普通ならいい的なのだが、相手は混乱しているし、こちらはチャフの範囲内にいるので正確な位置がわからない。

引き射撃の要領で更に攻撃を加え、スパルタニアンを収容しつつ離れていく。



「敵残存部隊は?」

「はい、中小艦艇はほぼ壊滅、残るは戦艦13隻と護衛の駆逐艦22隻」

「かなり削ったが、やはり戦艦が残るか。一応降伏勧告を出してくれ」

「は!」



今まで策というか特殊な兵器ばかり使い、相手の意表を突く事で優位を保っているが被害はそれなりに出ている。

圧倒的優位なように見えるが、こちらも72隻まで減りこんでいた。

正面決戦等すれば今でも勝ち目はない、だが、相手も今はこちらの罠を警戒しないわけにはいかないだろう。

数の上では5分の1以下まで減らされているのだから生きた心地はしないはずだ。

後は、海賊の質次第だがどう出る?



「返信ありません!」

「そうか……」



通信を送っている間にもこちらと海賊艦隊の距離は開いている。

このまま離れると、逃げられてしまう。

だが混乱から立ち直ればまだ戦艦の数でこちらを圧倒できる。

やはり、使うしかないな。

せっかくスパルタニアンにやってもらったんだから。



「スパルタニアンは仕事をしてくれたか?」

「は」

「なら起爆しろ」

「はっ!」



残る戦艦がどんどん爆発する。

一撃で沈むという事はそうないが、中大破レベルのダメージになった艦は多い。

戦艦の戦力がなくなれば、海賊もほとんどがこちらと同レベル、その上混乱しているのだからどうしようもない。

今回スパルタニアンは射撃をする前にそれぞれが戦艦に吸着板を付けたミサイルを放ってもらった。

相手の反撃が無い事を予想して、戦艦が使う大物をだ。

えっちらおっちらで攻撃されたらまずかったが、アビオニクスの類がダメになっていた事もあり分かっていても回避できなかっただろう。

まあ、不発弾だとでも思ったんだろうが。

あれを普通に爆発させていたら、スパルタニアンやこちらの艦隊も巻き込まれる可能性があったので離れるまでは放置していたのだ。



「残敵を掃討しろ」

「了解! 一斉射撃、開始!」



こうして、海賊を殲滅する事に成功した。

おびき寄せたのは事実だが、当初の予定より規模が大きくギリギリの戦いになってしまった。

おかげで、こちらの損耗も3割近くなった。

これだけ罠を張って3割だ、今回の攻撃でも戦力を維持していたらもう勝ち目がなかっただろう。

死者も当然、こちら側だけで1000人を超える、海賊は5万人は死んだだろう。

ゲームの様な戦争という言葉通り、死者数から実際の顔なんて想像も出来ないが……。


それにしても、色々やった小細工のために個人資産で30億ディナール(約3300億円)は使う羽目になった。

幸い、コンビニの方の株を売る事でなんとか出来たものの、規模を考えると個人資産で出来る範囲は限界だ。

これからは技術開発局とも連携しなければ不味いな。


だが、どうにかなって良かった。











あとがき


オリジナル武装を今回は多数出す事になりました。

ただ、技術的には不可能じゃないものしか無いと思います。

それもちょっとした変更で出来る範囲のはず。

チャフに関しては、広範囲に展開してなんとかなるかはわからないですが。

ゼッフェル粒子ミサイルに関しては、着火は自前でやる必要がないためある意味楽ではないかと。

簡易砲は、砲とエネルギータンクと姿勢制御機構とステルス外装の4つで可能なお手軽兵器です。

基本、チャフ以外は流用兵器なので普通に出来るはず。

チャフはあまり広範囲には使わない様にするつもりです。

ただ、特殊兵器でも何度も使えばバレるし相手にも使われるので、あまり回数を使うわけにもいかないんですがw

それでも普通の艦隊戦をして数的に不利な状況で勝てるか、と言われると無理です。

ヤンなら出来るでしょうが。

なので、今回はお金で独自兵器を作りなんとかしたというわけです。



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