機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜





第二話 監視



俺こと八島 臨(やしまのぞむ)が宇宙世紀の八洲 希(やしまのぞむ)に憑依して7日。

過労による体調不良も抜けて、いよいよ退院なのだが正直仕事が立て込んでいるのは分かり切っている。

もちろん、八洲グループから出向してくる人材も確保するつもりだが、軍内部の事を任せられる人材じゃない。

やはり、早急に仕事を分担させられる人材が必要だ。


しかし、そのためには先ずジオンシンパでないのかどうかの判別が必要になる。

俺が逃げずに生き残るには防衛線の再構築が必須だが、それがジオンに漏れたら意味がない。

いや、完全に漏れない様にするのは難しいが、重要な所は何としても隠さねばならない。

下手をすると、ジオンの総力がサイド1にやって来るなんて笑えない事態が起こりかねない。


「UC78年までに新体制を作り上げるのは流石に厳しいか……」


急ぎやっておく事はいくらでもある、兄貴に言われた一日8時間労働厳守じゃどうしようもない。

だが、監視もつけられるだろうしな……、いやそれはまた後で考えるか。

そんな事を考えていると、チャイムと共に入室許可申請が入った。


「入れ」

「はっ!」


キビキビとした動きで入室してきたのは、少佐の階級章をつけた大男。

コーカソイド系の厳つい顔で緊張した面持ちで俺を見つめている。

サイド1の人種は基本的に多種多様であり人種による差別等はないがやはりコーカソイドはプライドが高い。

モンゴロイド系である俺に対して含む所があってもおかしくはないだろう。

だが、逆にそれ故に呼んだのだ。


「辞令を受け取って直ぐに来てくれるとは何よりだ。

 知っているとは思うが、私がヤシマ少将だ。

 以後よろしく頼む」

「はっ! それで、その……私に任務とは何でありましょうか少将閣下」

「うむ、これを見てくれたまえ」

「これは……サイド1にいる中佐、大佐及び准将の階級を持つ軍人ですね」

「その通り。君に頼みたいのは彼らの監視だ」

「監視……でありますか?」

「うむ、もちろん彼ら全員に問題があるというのではない。

 しかし、彼らのうち何人かから意図してか、ハニートラップに引っ掛かった結果か、ジオンに情報が洩れている」

「なっ……!?」


これは事実である、少なくとも一定量の情報が洩れているからこそ、先に片づけたいのだ。

漏洩をではない、漏洩ルートを完全には把握していない状況をだ。

この先、こういう事が起これば致命傷になりかねないから。



「今までの所は構わない、情報を総合しても大した事にはならないだろう」

「大した事がない?」

「これからやる事を知られるリスクに比べればね」

「何かジオンの情報を得ていて、それを対策したいという事でありますか」

「そうだ。専門のプロジェクトを立ち上げる積りだ」

「ふむ……、一つ伺ってもよろしいでしょうか?」

「ああ」

「何故私なのでありましょうか?」


厳つい目で俺を見て来る、真剣というか殺気すらありそうなほどだ。

まあ、ありていに言えば俺は知っているだけだ。

彼が今の所ジオンに対して味方する可能性がない事を。


「君が対ジオンタカ派の人間だからだ、バスク・オム少佐」

「フフッ、少将にまで届いているとは……。では一つ条件を付けさせていただいても?」

「何かな?」

「プロジェクトが動き出した暁には、私も参加させていただきたい。

 こう見えてパイロットとしてもそれなりに戦えるつもりです」

「それは頼もしい。しかし、佐官の君がパイロットをする気かね?」

「プロジェクトの内容次第ではありますが、新兵器を作る事は予想できます」

「私がヤシマの関係者だからか」

「ありていに言いまして」


ゼータの頃のバスクオムとは思えない切れの良さだな。

いやまあ、ゼータの頃も相応に切れてたのかもしれないが、前後不覚になるほど憎しみが強かったという事だろうか。

少なくとも、現時点では彼も髪の毛があるし眉もある、眼鏡だってかけてないわけで。

恐らく余計な感情が頭を鈍らせていないという事だろう。


「分かった、ある程度形になったら君にも参加してもらおう」

「ハッ感謝します!」

「それでだ、調査を行う人員の数は口が堅く隠密行動が出来る人員。

 数は多くても中隊規模までで頼みたい。

 予算の都合もあるが、目立ちたくはないからな。

 そちらで見繕っても構わないし、こちらでつける事もできるがどうする?」

「できれば自分で集めたいと思います」

「わかった、だが派手な動きはするな。

 捕まえたり殺すのは問題外だ重要なのはそいつが情報を漏らす事を知る事。

 そして、可能であればそのルートも把握する事だ」

「ふむ……意図的に情報を流すと?」

「ああ、派手なスパイ狩り等をしようものなら何かしていますよと言っているようなものだからな」

「確かに」


それに余計な事をして、警戒されたらただでさえ不利な防衛作戦が破綻する。

相手は大型戦艦と核バズーカ持ちのザクだからな。

それにジッコやガトルにも核兵器装備タイプがいる可能性は否定できない。

例え普通に倒せる兵器を作った所でその場で爆発されれば周囲を巻き込んで結構な被害が出るだろう。

厄介な事この上ない。


「表立った動きが出来ないので支度金は既に君の口座に振り込んである。

 装備に関しては特殊装備のタイプCを申請してある。 

 必要数は総務に通しておいてくれ。

 追加で必要なものがある場合は、小規模な場合は総務に、

 個人で申請出来ないレベルのものは私に持ってきてくれればいい」

「ハッ!」

「では、頼んだぞ」

「微力を尽くします!」


去っていくバスク・オム少佐を見ながら彼がサイド1にいてくれた事を感謝する。

まあ、立身出世のためならやらかす事もある人間ではあるが、現状の権限ではそこまで無茶はできないだろう。

予算も中隊規模以上を支えられるほどでもないしな。

それに、今の切れる彼なら派手に暴れれば逆にマイナスだという事くらいは理解しているはずだ。

いずれ軍閥化を狙っている可能性は否定できないけども。


何にしろ、今はジオンが馬鹿をやらかす前に防衛準備を整える事が重要だ。

バスクも確かに有能だが、書類仕事の有能な人員を確保する必要がある。

だが、正直言ってUCの世界観でそういった処理能力の高いエリートは少ない。

ロボットを作る関係上博士は多いのだが、情報処理の達人とかは見かけない……。

ある程度出来ると思われるのは、アナハイムや政府高官、軍首脳部等の人員くらいだろう。


特に使える人間と言えば、やはりコジマ中佐だろうか。

とはいえ、彼の考え方はいわゆる義理人情に寄ったところが多く、引き抜きに応じるタイプには見えない。

嘘か本当かクーラーが肌に合わないという彼相手に、空調機器がなければ生きていけないコロニー住まいを強いるのもな。

それに、軍内部であまり義理人情を優先されると作戦が崩壊しかねない。


だとすれば、残るはイーサン・ヤイヤー大佐くらいだろうか。

彼も問題は多いが、能力は高い、出世欲が強い彼の事だ准将の椅子を用意すれば喜んでやって来るだろう。

レビル中将に対しやたらと対抗心を燃やしているが、声が同じせいだろうか?

正直4階級も差がある相手、それも将官の階級は壁が厚い下手すれば偉い事になりそうだが……。

その辺は調査しておかないといけないな。


「よし、決めた」


幸い極東方面には顔が効く、何せ八州グループは日系企業だから当然と言えば当然だ。

極東方面軍に対する影響力という意味ではルオ商会に匹敵する程度には大きな影響力があるだろう。

ルオ商会は確かにグループとしては八洲より大きいが、軍事に関して言えば八洲グループも引けを取らないからだ。


「しかし、人事権が必要だな……あんまり借りばかりというのも困るが……。

 仕方あるまい」


ゴップ大将のスケジュールはある程度把握しているため、今は時間があるだろうと予測する。

そして、今度は将官用の回線を用いて普通(?)に連絡を入れてみた。


『ヤシマ少将か、久しぶりだね』

「お久しぶりです大将閣下」

『私と君の仲じゃないか、そう畏まる事もあるまい』

「ありがとうございますゴップ大将」


実際は一週間ぶりだが、前回のは秘匿回線だったからカウントされていないという事だ。

将官用の回線も相応に色々と防諜策はとられているものの、軍内部からのハッキング等も考えられるため警戒しているのだ。

今回話す事は別の派閥に聞かれると邪魔されそうなので出来れば聞かれてない事を祈るが。



「実は今回お願いがありまして」

『願いね、君になら大抵の事は許可を出すつもりだ。何せサイド1防衛に行ってもらった借りがあるしね』


そうなのだ、ゴップ閥の前線に対する影響力が低くなりすぎているため、対ジオンの情報が少ないという点があり派遣されたのだ。

実はジオンとのパイプ作りを行う工作班等も混ざっているので、それを見過ごした事に対する礼もある。

俺が憑依する前のノゾム・ヤシマはそういう政治向きの将官だったのだ。

バスクにスパイを把握させても捕まえるのはやめろと俺が言ったのはこういう理由もある。


だが、ジオンとのパイプというのは恐らくキシリアだ、そのパイプで戦力情報を得られていなかった事もある。

せいぜい使えるのはレビル中将が捕まった時くらいのものだろう。

しかし、その事についでゴップ大将に言う気はない。

言った所で根拠がないし、聞き入れてもらえないだろうからな。


「実は最近過労気味を兄に忠告されまして、サポート人員を多少回してもらったのですが軍においてはそうもいかず」

『ふむ』

「調べてみた所、極東方面軍のイーサン・ライヤー大佐は有能なようですので回してもらえないかと」

『なるほどな、しかし、彼はそう簡単になびくかね?』

「出世とポストがあれば行けるのではないかとみています」

『准将にかね?』

「はい、そして2年後のジャブローでのポスト。彼の欲しいものはそんなところかと」

『ふむ、可能ではあるだろうが』

「大佐ともなると戦争でちょっと手柄を上げた程度では階級を上げられないですしね」

『その辺りはこちらで手を打っておこう、だが通達はそちらがしたまえ。恩を売っておくのも仕事だ』

「了解しました」


まあ、今回の事はさほど大きな借りにはならないだろうが。

本格的な計画実行時には盛大に借りを作る事になるだろうしな……。

普通に考えればこちらでもポストが必要だろうが、実の所新しいポストが出来る予定だ。

彼にはそちらの面倒を見てもらおう。


先ず極東方面軍司令に辞令を回し、謝罪と営業をしておいた。

快く引き受けてくれたのは、司令がライヤーを持て余していたからだろう。

そして、本人の呼び出しを行い通信ではあるが面通しを行う。


「イーサン・ライヤー大佐だね?」

『ハッ!』

「君も聞いているだろうが、やってもらいたい事があってね。サイド1に来てほしい」

『どの様なご用件でありましようか?』

「今現在ジオンの動きが活発になってきている事は聞いているだろう?」

『噂程度ではありますが』

「そこでサイド1の防衛部隊を新設したいと思ってね」

『防衛部隊をでありますか』

「ああ、だいたいの準備はこちらでやる予定だが運用を君にやってほしい」

『なるほど……しかし、大佐では艦隊指揮等は難しいかと』

「大丈夫だ、既に准将へ推薦してある」

『准将…でありますか』

「ああ、正式な通達は恐らく着任後になるだろうが」

『ご配慮感謝します!』

「それと、君の望みは聞いている。2年勤めあげたなら私と共に中央に行く事もできるだろう」

『ッ! 全力を持って当たらせて頂きます!』


ライヤー大佐は随分と喜んでいるように見える、実際の所はわからないがどちらもおいしい餌なのは事実。

全力でやってくれるだろう。

これで、一つは肩の荷が下りた。

まあ、やる事は山積みな上に時間は残り少ないが……。








あとがき


新年あけましておめでとうございます!

今年は寒さが強いようで、去年までは冬はさほど寒かった覚えはないんですがねw

なので年末年始は引きこもりを決めて色々やっております。

SSもそこそこ進んだので送らせてもらいますねw



前回の話で問題点が一つあったので報告します。

サイド6はジオンとの戦争開始後に中立となったらしいです。

1月11日か1月15日だそうでジオンの第二次コロニー攻撃の際にそれを逃れるためとの事ですが。

中立で逃れられるとは思えないので、一応そう告げつつ実質ジオンと歩調を合わせる事にしたという所ではないかと思います。


ミノフスキー博士が0072年にサイド6に一度入ってから連邦入りしたのはオリジンの設定のようです。

オリジンにおいては、そのまま死亡しているらしく亡命そのものに成功しなかった様子です。

また、オリジンのテム・レイはミノフスキー博士の弟子にあたるそうです。


原作ガンダムのミノフスキー博士の動向は調べても出てきませんでした。

72年に連邦に亡命し技術を伝えたのは変わらないのですが。

テム・レイがミノフスキー博士と無関係なので、亡命時に伝えられたメガ粒子砲技術は別としても、

ミノフスキー博士が生きて技術を伝えたのでなくては一週間戦争で持っていなかった技術がV作戦につぎ込まれていますから。

ガンダムらの核動力やホワイトベースのミノフスキークラフトの説明がつかない事になってしまいます。

そのため、一度は亡命に成功しているはずで一年戦争よりも前に死んでいたとしても連邦軍の兵器が更新するほど前ではないはずです。


最近知り合いに聞いてガンダムセンチュリーの設定を見た所、出しても問題なさそうだと判断しました。

次回辺り出していこうと思います。


関係ないですが、地球連邦軍統合参謀本部議長がゴップ大将なのは元からですが。

レビル将軍はV作戦発動後大将に昇進していますので、実はゴップ大将のほうが先任だったりします。



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