響き渡る悲鳴、それをビル数個分もあろうかという超大型のサイコミュで増幅する。

仕掛けとしては単純なものだ、ギレンにとってニュータイプ等というものは兵器でしかない。

プロパガンダのためにジオン・ズム・ダイクンの言葉は利用したが、ニュータイプに価値を見出してはいなかった。

オカルトでしかない代物に信用を置けるはずもなかったからだ。


だが、キシリアは大真面目に研究させていた。

それがニュータイプを信じているのか、ギレンとの差別化のために利用しているのかはさておいて。

だがそのおかげで、ギレンはアメリカ大陸の基地の大半を無力化する事に成功していた。

甘く考えても3日も持たない一時的な被害だろうが、起死回生の策を発動させるには十分な時間だ。


ともあれ、ギレンはフラナガン博士や研究員、被験者等連れてきた人員を皆殺しにしそれをもって第二波を放った。

連邦に研究されては困るし、ジオンの汚名にならない様にではあるが、悲鳴もまたサイコミュを使って増幅した。

とことん利用する事で少しでも成功率を上げるのがギレンにとっての目標である。

そのついでに情報を漏らす可能性のある人間達を排除したのだ、ギレンにとってはいつもの事である。


「ジャブローへの入り口は見つかったか?」

「はっ、いくつかのそれと思しき場所は見つけましたが、迷路のようになっていてどの部分に当たるのかは不明です」

「フム……」


ギレンは先行で地球入りしていた親衛隊達を使ってジャブローへの突入を開始していた。

だが人工物がある場所に片っ端から突入していくしかなく、現状ではダミーを引き当てる事が多い。

また、奥につながる場所は巨大なシャッターで塞がれていて入る事は難しい。

アマゾン流域に毒物を流し込んであぶり出す事も考えたが、内部で独立した循環を行っていた場合無駄になる。

宇宙コロニーがある今、地上にアーコロジーを作り出す事も難しくはないのだから当然だ。


「入口の場所は現状12か、恐らくこの配置ならここと、ここにも入口があるはずだ」

「早急にザクを送り込みます!」


現在使われているザクはパーツに分けて持ち込まれた現地組み立て式のザクである。

そのため、アマゾンの様な熱帯雨林での活動は向いていない。

だが、現状陸戦型のザクはまだ開発中であり、コーティング等で誤魔化している。

ジオンにとってMSというものは強力な兵器であったが、機種転換を意識しすぎた結果特化兵器はまだ存在しない。

そのため、パイロット達は鈍い動きと、浸水という脅威と戦うハメになっていた。


「ザクD-2浸水被害、直ちに撤退させます」

「うむ」


ギレンもまた自然の驚異についての知識は資料程度の知識しかない。

そのため、パイロット達に対してミスを言い渡す事はできない。

自然の驚異を低く見積もったのはギレンなのだから。


だが、ギレンは遅々として進まないジャブロー進攻にいら立ちを募らせていた。

何せ、ジャブローへの攻撃は時間との勝負なのだ。

タイムリミットつまりは被害を受けない者たちがジャブローを掌握した時点で詰みだ。


悲鳴を受けた場合の被害はだいたいにおいて、3パターンある。

NTの素養によるともいえる。


先ず一つ目として素養のある者、極限状態になると声が聞こえるという程度の素養があれば長期療養必須となる。

素養が高ければ植物状態やショック死すらありえる。

二つ目として、素養と言えるほどのものではなくても空気が読める程度の感受性がある者は体調不良になるか数日寝込む。

最後に、全く感受性が無い人間、はっきり言えば我が強く共感性が無い者、こういった者は被害を受けないだろう。


軍上層部や政治家等は二つ目が多い。

孤立したりすれば仕事を干される環境なので、空気を読む能力には長けるものが多い。

ギレンが使ったニュータイプに対する精神攻撃は、そういった層に被害を与える物だ。

実際ニュータイプの素養のある提督はレビルくらいではなかろうか。


「核攻撃を準備しろ」

「……核、でありますか……」

「コロニーと違って放射能汚染の被害程度は低くなる。それよりも時間が無い。取り急ぎ揺さぶりが必要なのだよ」

「八ッ!」


ジャブローに対する外部からの核攻撃、あまり効果が高いとは言えない策である事はギレンも理解していた。

しかし、このままではいずれ共感性の低い者により連邦軍が掌握される事となる。

それでは何のために精神攻撃を行ったのかと言う事となる。

ギレンにとっても、恐らく今は最後のチャンスである事を理解していた。



機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜





第三十三話 降下



この世界において、既に機動戦士ガンダムという原作と同じになる事はほぼ無いだろう。

何故なら連邦はMSを模倣するまでもなく、ジオンに対抗出来てしまっているからだ。

俺がそのようにさせたのだから、当然の事ではあるが。


それでも、俺がこの世界に介入した結果としてこうなったのだからそれ自体は悪い事ではないはずだ。

今の所ジオンのあらゆる攻撃を合わせても、被害はまだ一億にも届いていない。

無論、それがいい事と言えるほど俺は情け容赦がない人間ではないつもりだが。

それでも、原作の酷さを思えばまだマシだと言える。


人類が100億人を超える現状半数になるという事は50億人以上死んだという事。

それだけは防がねばならないと思い行動してきた。

サイド1の防衛に成功し被害はかなり縮小したとは思う、しかしそれでも6000万人以上の死者が出ている。

はっきり言って、それだけでも過去のあらゆる虐殺を上回る死者数を出していると言えるのだ。


この状況で防衛成功なんて言うのは流石に無理があるし、俺は更迭される可能性もある。

だが、更迭されても死ぬわけじゃないなら戦争での死者を極小化するために頑張る必要がある。

何せギレンはまだ地上を火の海にする事を諦めていないだろうからだ。

彼にとってみれば地球そのものがジオン公国の足かせ程度にしか思っていない。

流石に地球ごと破壊すればサイド3も重力異常でお陀仏なのでそれはしないだろうが。

最悪、撃ちこむ手段があるならマントル層に核ミサイルを撃ちこむくらいはやってのけるだろう。

そうなれば、プレートの活性化やら火山活動の活性化で地獄絵図になる事は想像に難くない。

流石にそんな方法は無いだろうとは思うが。


そんな訳で現在、コロンブスを使っての強硬大気圏突入と言う無茶をやらかしている。

一応準備は整えているし恐らく死者が出るほどの事は起こらないとは思うが、ギレンに見つかったら迎撃されるだろう。

連邦軍基地はキャリフォルニア基地を除けば周辺で動いている基地があるのか怪しい所だ。


一応、ジャブローには秘匿回線での通信を何度か行ったものの、誰も出ない状況が続いている。

ミノフスキー粒子の濃度も急速に高まっている事から、既に戦闘になっている可能性は高い。

降下中に迎撃されない事を祈るしかないが、Gフォートレスは早めに出撃させるべきかもしれない。


「ヤザン大尉、折角昇進したばかりで申し訳ないが高空射出による出撃は可能か?」

『相変わらず人使いが荒いこって、だがまあやれない事はないでしょうよ』

「なら頼む、君達の小隊は現在の連邦で最強だ、君達に無理なら誰にもできんよ。

 恐らくそろそろ敵の警戒網に引っかかるだろう。ジャブローに直接降下しているんだ無警戒とは考えにくい」

『了解、Gフォートレス1、ヤザン・ゲーブル出る!』

『Gフォートレス2、ブラン・ブルダーク出撃する!』

『Gフォートレス3、ベン・ウッダー参る!』


何とも見事にZの面子であるが、連邦のエースパイロットってZの時によく出てたイメージだ。

まあ敵としてだけども……。

そもそも、エゥーゴの方に行きそうな面子って、連れてきたのを含めてだいたいサイコミュ兵器にやられてるしな。


ヤザン隊(ヤザン、ブラン、ベン)は一気に上方に向けて飛び出したが、その後下に向けて加速し、追い抜いて行った。

下方で何やら振動や爆音が何度かあったので恐らくは迎撃をしてくれているんだろう。

ミノフスキー粒子でレーダーは効かない上、大気圏突入中で下方カメラを出せない状況なのでそれ以上はわからない。

言っているうちに、体をシートに押し付けられた。

角度が90度変わり、上向きに固定される。

そして、下方にあるバーニアが勢いよく噴射された。


「速度軽減のため逆噴射開始します! 下方にバーニアを噴射するため90度の角度を維持! 出力80%」 


減速と共に、Gにより体をシートに押し付けられる。

普段1G以上の重力を体験していない分やはりきついものがあるが、それでも軍人なら対G訓練くらいはする。

パイロットに限らず宇宙で活動するなら必須だからだ。


「落下速度緩和後、セイバーブースター部隊展開開始!」


セイバーブースター部隊は4個小隊12機を連れてきている。

当初の3分の1程度だが、それでも十分に活躍してくれるだろう。

因みに、ボールは地上で運用出来ないため持ってきていない。


「コロンブス減速中! 5,4,3,2,1落下速度相殺! セイバーブースター部隊展開開始!」

「敵勢力はッ!?」


突然光ったかと思うと10秒程遅れて凄まじい爆風がコロンブスをぐらつかせる。

これは……核兵器の光か!?

コロンブスが宇宙船でよかった……宇宙は常に放射線が飛び交っているから、厳重にカットする技術が確立している。

だが、コロンブスをぐらつかせたという事は爆発はかなり近くだという事だ。

というか音速で10秒程って事は3〜4kmくらい……放射線の類は防ぐと言っても、全く被害が無いとはいかないかも。


「船体に被害は無いか!?」

「バランサーが不調になっています! このままでは不時着の可能性も!」

「修理を急げ! この状態で不時着にでもなってみろ! 次の核がこちらに飛ぶぞ!」

「ハッ! バランサー修理を最優先!」


それを見届けて、俺は通信オペレーターに向き直る。

通信オペレーターは既に分かっているのか、視線を俺に向けている。


「ミノフスキー粒子下での通信に切り替え急げ!」

「了解!」


ミノフスキー粒子下では電波通信が使えないので、光学通信を行うしかない。

そのための方策は一応やってある。

赤外線レーザー通信、可視光では戦闘の邪魔になるため考案した方法だ。

難点としては個別にレーザーを当てて通信しなくてはならない事。

なので通信オペレーターが無茶苦茶忙しくなる。


「艦載機各機へ、核ミサイルが飛んでくる可能性がある。

 核ミサイルをコロンブスに近づけるな!

 ミノフスキー粒子濃度を考えると、弾道弾による攻撃ではない。

 恐らく、近隣からの通常ミサイルによる攻撃だ。

 可能なら発射場を潰して発射を阻止してほしい」

「了解しました!」


しかし、地上に降りたとたんに核ミサイルでお出迎えとはな。

恐らくは、ジャブローの入り口を探すためだろうが。

ジャブロー破壊に使うつもりなら数は出せないだろう事だけは幸いだろうか。

何にせよ、ギレンが地上に来ているのだとすれば、これだけで終わりと言う事もあるまい。

警戒が必要だな。


「バランサー、応急処置が終了しました! ただ1時間以上は保証出来ないと技術部から」

「分かった、当面はそれでいい」


まあ1流石に1時間も核ミサイルパーティとかしてはいないだろう。

と言うよりそれまでには、ミサイル発射ポイントの割り出しも終わるはず。


「ッ!?」

「また?!」


また核ミサイルが爆発したようだ、光と音の差から前よりは遠い場所で炸裂している。

恐らくは、事前に発射されていたものだろう。

流石にジャブローの方も防衛体制を整える事にしたようだ、森の中から迎撃用兵器が多数出現する。

だが、戦闘機や戦車の発進口は動かない様だ。


考えられる事は2つ、ギレンの狙いを知り入口になりうる場所は開かないつもりなのか。

もしくは、戦闘指揮が出来る者がいなくて、迎撃兵器は動かせても、迎撃部隊を発信させられないのか。

可能性としては後者の方が高そうなのが何とも。


「艦載機隊全員の赤外線通信を終了しました!」

「わかった、次はジャブローへの呼びかけだが、ポイントは解るか?」

「はい! 先ほどの迎撃施設の露出によって通信を行う事が可能になりました!」

「じゃあつないでくれるか」

「はっ!」


また核ミサイルが爆発したが、今度は空中で爆発したらしい。

それなりに距離があったので影響は出なかったが、ジャブローの迎撃装備は流石だな。

これでこちらの負担は大きく減少したと言っていい。

それに、不時着も可能になる。


コロンブスを迎撃施設の一画に寄せて通信を試みる。

ミノフスキー粒子が濃いとはいえ、通信機器同士が近ければかろうじて通話は可能だ。


『む……、おお、そちらはサイド1艦隊かな?』

「はっ大将閣下!」


ゴップ大将、流石だな。

ニュータイプ能力は欠片もなさそうだ、ある意味当然ではあるが。

何にせよ今回はニュータイプの資質次第で、被害が違ってくる以上OT代表みたいなゴップ大将には頑張ってもらうしかない。


『ふむ、ヤシマ少将だったか。君は相変わらず危険に飛び込んでくるね』

「私も出来ればのんびりしたかったのですが。

 ギレン・ザビが地球に降下し、超能力兵器を使ってきた様なので」

『超能力兵器? もしや集団昏睡の原因かね?』

「はい、共感性の高い人間はある種の波長で他人の意思を何となく察する事が出来るというものです」

『そんなものを実戦で使ってきたと?』

「彼らが言うにはニュータイプの能力であり、それを増幅するサイ・コミュニケーターと言う事らしいです」

『それが何でこんな事になるのだ』

「奴らの中でも特にギレンはニュータイプを単なる道具としか考えていません。

 サイ・コミュニケーターを巨大化し増幅力を大幅に強化し、それで超能力者の断末魔を聞かせるとどうなります?」

『まさか……』

「恐らくですが死のイメージを直接頭の中に叩き込んだのかと。

 ただそれを受ける受け皿のある人間、つまりニュータイプの素養のある人間にしか効きませんが」

『ギレン……彼は天才と言う話だが、どちらかと言うと狂人の類だな』


ギレンはそもそも地球上の人類が全滅しようと知った事ではない、だからこそ取れる作戦ではある。

彼にとって人類は己が管理できるだけいればいいのだから。

ここまで完全に人の意思を否定した人間は他にはいないだろう。

もっともサイド3住民の誰も一年戦争で生み出した死者に対して何とも思っていないのだから狂人ばかりとも言えるが。

人類の半分を殺すってそんなに軽いだろうか?


「その兵器自体はそう多くは使えないでしょうが、問題はその被害が予測できない事です。

 ジャブロー出も相当数の被害が出たのでは?」

『現時点でわかっているのはジャブロー内の3割強が倒れたという事だけだ。

 そして、私の様な軍政閥は問題が起こっていない事が多いのに対し、実際に戦う将軍閥がね……』

「今の最高司令官は誰です?」

『わからない、まだ統制が戻っていないのだ。

 ただ、艦隊司令官はほぼ宇宙で戦っているだろうから』

「なるほど……では早急に司令官を決めてください。そして、外部との通路は出来るだけ遮断する方向で。

 ギレンが狙っているのはジャブロー内部への奇襲であり、内部の核融合炉の爆破等でしょう」

『……わかった、感謝する。君はどうする気だね?』


やる事、そんなものは決まっている。

ギレンを殺す。

逮捕等と甘い事を言う気は無い、何故ならそんな事をすれば連邦内部のスパイに逃がされる可能性がある。

彼は絶対に戦後に残すわけにはいかない。


「私はギレンを追います。

 彼が地上に持ち込めた戦力はおそう多くないでしょう。

 もっともコロンブスはそう長くは飛んでいられないので、どこかで不時着と言う事になるでしょうが。

 艦載機の方は、キャリフォルニア基地辺りに行ってもらいますよ」

『……任せる。責任は私が負おう』

「ありがとうございます」


ギレンが地上にどの程度のコマを持ってきているのかで戦況は変わるだろうが、時間と共に有利になる事は間違いない。

後は核ミサイルをどこまで対処できるかだな……。

どちらにしろ、せめて犠牲者を少しでも減らしたい。

サイコミュ兵器によってどの程度の被害が出たのかも分からないが、恐らく突然の昏睡となれば死者も多数出ているだろう。

戦争で民間人を虐殺する事は実は珍しくもない。

だが、それをそのままにしておく程俺も乾ききってはいないつもりだ。


ギレンは自分の事ですらコマとしてしか見ていない、だからこそ生かしてはおけない。










あとがき


一か月程遅いですが、ジークアックスの話をしたいと思います。

見て思ったのは、1クールで最後までやるのかよって事ですねw

なので、人気になったキャラが1話で退場なんてのがザラにあってさみしかったですね。

シイコとかドゥとか面白そうなキャラだったのに。


だがそれにもまして、ギレンの扱いがひどすぎる(汗

出てきて5分で死亡……。

ちょっと待てIQ240の天才様だろうに……。

引きこもって、死者に怯え、暗殺者に怯えて、キシリアに殺される。

原作再現をするためとはいえ、ひどすぎない?


まあ、現実にいたら明らかにやばい奴なのでさっさと消えてほしいですが。

彼が死者に動揺するというのがイメージ出来ないんですが……。

人類の半数を殺してまだ人間が多いと言ってた事といい、父を殺す点といい。

その割にキシリアに対して無防備だったりと、割と気を許した相手に対しては脆い所がある人ですが。

個人的にジークアックスのギレンは解釈違いかなーと思いこちらでは折れない感じで書いてます。

あくまで個人的に思ってるだけなので、ジークアックスは1クールの割に楽しめましたがw



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