狼姫<ROKI>
召喚


光あるところに、漆黒の闇ありき。

太古の時代より、人類は闇を恐れた。

しかし、闇を断ち切る騎士の剣により、人類は希望の光を得たのだ。

遥かな古から受け継いだ使命のもと―――闇に生まれ、闇に忍び、闇を切り裂く剣士。
月満る夜に現れ、光り輝く鎧を纏いて魔を戒める騎士。
数千年に渡る悠久の時を戦いに窶し、影の場で人類を守りし者。
極少数の人々は、彼らの事をこう呼んで称えた。

魔戒騎士(マカイキシ)―――と。

そして、その魔戒騎士となれる者は男だけであり、鎧と剣は一子相伝にて継承される。
しかし、男でしか扱えぬ鎧と剣を、例外的に女の身で用いる者がいたとしたら?
鎧と剣の要である超常の金属、ソウルメタルを纏い振るう唯一にして規格外の存在。

これより記されるのは、とある女騎士の物語である。





*****

極東の島国、日本。
その首都である東京の郊外にある寂れた土地で、とある一軒の和風豪邸が建っている。
これといって自然環境に恵まれているわけでも、生活するのに便利というわけでもない。
ただ人通りも少なく、周囲に家を建てて住む者も居ない、孤立した土地に屋敷は聳えていた。
屋敷自体のサイズは、手頃なマンション一棟分に相当する大きさで、それに応じて庭も中々の広さを誇る。

この屋敷のことを知る者は殆ど居ないが、この家に住む者以外で、此処を知っている者はこう呼んでいるそうだ。

(ヒジリ)邸―――と。

――ブンッ、ブンッ、ブンッ――

そんな聖邸の庭から何かが聞こえてくる。
高さは約2m以上の分厚い塀の向こうには広々とした庭があり、その中央で一人の女性が一本の日本刀を用いて一心不乱に素振りをしている。

艶美な黒いロングストレートヘア、真っ赤な紐で縛り纏めた左右の長い横髪、といった髪型が特徴的な凛々しい風貌の美女である。

時間帯が5時という早朝の所為か、彼女は普段着ではなく白い長襦袢にて身体を完全に目覚めさせる運動をしている。素振りの度に空気が切り裂かれ、音が鳴る。上から下への振り下ろし、後方から前への突き、左右に激しく振り回す薙ぎ、体術じみた蹴りや正拳など―――そんな行為がそれぞれ百回以上になると、彼女は素振りを止めると、草鞋をその辺に放り投げて縁側に足をかけ、屋敷に入ると脱衣所に直行した。

「・・・・・・ふぅ・・・・・・」

溜息じみた軽めな声が室内に響くことも無く沈む。
爽やかな汗をたっぷり吸った白い長襦袢は、彼女の肌に吸い付き、扇情的なボディラインを顕わにしている。鞘に納刀した日本刀を壁に立てかけると、彼女は半ば用済みとなった長襦袢を脱いで洗濯機に放り込むと、戸を開けて檜造りの風呂場に入っていった。

すると、彼女が風呂場に入ってから3分ほど経つと、一人の侍女が脱衣所に入ってきた。
その手には見るからに鮮やかな和服が乗せられており、それを侍女はを丁寧に床へと置いた。

輪廻(りんね)様。着替えの方、此処に置いておきます」
「・・・・・・ああ。・・・・・・ありがとう」

閉められた戸越しに、二人の声が通りあった。
その声音には、十年来の友のような信頼の念が僅かに含まれていた。
空色の和装を纏っている侍女は、着替えを置くとさっさと脱衣所から出て行った。

それから30分後、輪廻と呼ばれた女性は戸を開けて檜風呂から出てくると、バスタオルで全身や長髪を拭いていく。拭き終わると、ほんの少し湿った身体を用意された着替えで包んでいく。
まずは下着である晒と褌を巻くと、次に肌襦袢を着て、最後に立派な浴衣に袖を通して帯を結んだ。

金色の帯で締められ、色鮮やかな程に艶やかな漆黒の浴衣。
これが彼女の普段着―――否、魔法衣のようだ。

汗を流し終えてスッキリとした表情になった輪廻は、壁に立てかけていた日本刀を手にとって脱衣所から出ると、廊下を通って食事の場へと向かった。

鬼怒川(きぬがわ)。改めて、おはよう」
「おはようございます」

障子を開けて居間に入ると、薄緑の和服と白い割烹着姿の女性、鬼怒川が輪廻に頭を下げて挨拶する。
鬼怒川の年齢は容姿から察するに恐らく20代後半と言ったところで、何処と無く穏やかで優しそうな雰囲気のある女性だ。ちなみに髪は長く、後頭部で一纏めにして縛ってある。

「どうぞ、召し上がってください」
「うん。頂きます」

輪廻は座布団に座ると、テーブルに並べられた秋刀魚と沢庵を箸で上手に食べていく。おかずを食べた直後、爽やかな味噌汁や茶碗に装った白米を口に運ぶことを忘れない。
数分もすると、輪廻は静かに食事を終えて合掌する。

「ご馳走様」
「お粗末さまでした」

和風な食事風景の典型ともいえる光景。
この屋敷の中では、現代の日本人の殆どが放棄した雰囲気が常に漂っているらしい。

「ところで輪廻様」
「何か?」
ヴァルン(・・・・)殿は?」
「あぁ、今すぐに出す」

輪廻は浴衣の内側に右手を突っ込むと、何かを掴み出した。
それは縦長の大きな一つ目が彫られた銀色の指輪である。
輪廻はその指輪を中指に通した。

「ヴァルン。一応、おはよう」
『・・・・・・マスター・・・・・・』

すると驚いたことに、銀色の指輪から渋くて低い男の声が聞こえてきた。
正確には、三日月のように裂けた口が開閉しながら、だが。

「どうした?まさか眠いのか?」
『否。しかし、窮屈であった』

この不可思議な者の名前は『ヴァルン』。
聖家の当主に代々伝わる意思を秘めた指輪、『魔導輪』と呼ばれる存在だ。
尤も、ヴァルンは通常の魔導輪とは大いに違う所の有る特殊な代物だが。

「窮屈?帯をキツくしすぎたかな?」

家来とも言える者の声に耳を傾け、自分の着付け振りを顧みる輪廻。
このあたりから、例え形式的に道具であろうと実質的に仲間であれば気を遣う好人物であることが伺える。

「輪廻様。それよりも、コレが届いております」

鬼怒川が懐から手に取り、輪廻に差し出したのは、一通の赤い封筒だ。

「ふむ、指令書か」

輪廻はお上からの命令書でもあるソレを受け取る。
そして、指先から突如として黄金の炎を現出させ、指令書に点火した。
燃え移った黄金の炎は一瞬で指令書を燃やし尽くし、内部に書かれていた事柄を解き放つ。
封筒から開放され、空中の並んで浮かんでいくのは、魔物の世界で使われている魔戒文字である。

”災禍の兆候が来たれり。陰我に惹かれ現出せしホラー。即刻その闇を断ち斬るべし”

「随分とまぁ・・・・・・相も変わらずな文面だこと」

読み終えた直後、魔戒文字は煙のように消えてしまう。

「はぁ・・・・・・。ヴァルン、解るか?」
『少し待て。記憶の糸を探る―――』

人工知能のナビゲーターのように、ヴァルンは必要な情報を引き出す。

『―――ある程度絞れた』
「どんなヤツかしら?」
『該当件数は複数ある。討伐対象の観察せねばならん』
「・・・・・・・・・・・・」

つまり、会うまでは詳しくわからない、ということだ。
溜息を吐いたばかりだというのに・・・・・・。

『だが、予想されうる位置は判明した』
「どこ?」

気を取り直して質問すると、

『ならば、直接案内するので、直ぐに出る』
「わかった。―――鬼怒川、言って来るわ」
「行ってらっしゃいませ」

深々と頭を下げ、鬼怒川は玄関へと向かっていく輪廻とヴァルンを見送った。
当の輪廻は玄関で下駄をはくと、戸を開けて屋外に―――朝の街へと繰り出した。





*****

ここは町外れにある潰れた地下バーの中。
長期にわたって放置されていたせいか、埃やら蜘蛛の巣やらが多い上、場所が場所だけに人が全く寄り付かない。だが、それを逆手にとれば、誰にも見られずにおいたができる事をも意味する。

「ンッ・・・・・・ンッ・・・・・・ぷはぁぁ」

そこには一人の男が安酒の瓶を手に持ち、豪快に一気飲みを決め込んでいた。
こんな場所で一人酒をしている時点で、真っ当な道を歩んでいないことがありありと見えていた。

「さて・・・・・・」

男は安っぽい黒のジャケットを羽織りつつ、席を立って酒瓶を放り捨てた。

「そろそろ・・・・・・」

男の視線はバーの端っこに向けられた。
そこには身動き一つすることなく、ぐったりと横たわった人間が居た。
薄暗い所為でどんな容貌をしているのかは判別できないが、それでも痩躯であることだけは何となく察せた。

「・・・・・・頂くか(・・・)

そして、男の瞳に奇怪な文字が浮かび上がると、次の瞬間には・・・・・・。


――バリッ!ゴキッ!グギュ!ベギャ!――


名も無い誰かの身体は、無残な肉となって闇の中へと飲み込まれた。





*****

『此処だ、マスター』
「ふむ・・・・・・これはまた、ホラー好みな場末ね」

例のバーの前にまでやってきた輪廻は、左手を前に突き出し、ヴァルンに獲物の気配を確認させていた。

「さあ、ちゃっちゃとカタをつけるわよ」
『御意』

二人はそうしてバーの扉を開けて、地下の店内に続く階段を下りていった。
陰気くさくて薄暗い階段の一番下に辿り着くと、そこには見るからに軽いノリでデザインされた扉が待ち受けていた。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回し、そして外界と内界を隔てる壁を開け放つ。

その瞬間、

死ね(チエ)!」

地球上には存在しないはずの言語を用いた罵倒文句が、黒く穢れた液体と共に放たれた。
しかし、

「フン」

輪廻は簡単に黒い液体から避けてみせた。
黒い液体は扉の向こうにある壁にぶつかり、無様に飛び散って消滅した。

「お粗末な先制攻撃。・・・・・・ヴァルン」
『ヤツは、怠慢ホラー。怠惰な感情に寄り憑く輩だ』
「ほほぉ。此処で一人酒をやっている人間は、コイツの良いカモというわけか」

ヴァルンの説明を受け、輪廻は納得するように首を上下させる。

「おい、女。もしや魔戒法師(マカイホウシ)か?」

男は濁った目で輪廻を睨みながら問う。

「法術の心得はあるが、生憎私の本職がそちらではない」
「なに?」
「私は、貴様の陰我を断ち切る為に参上した」
「ハッ、謳うな!」

男は再び真っ黒な液体を輪廻目掛けて放った。
しかし、輪廻は即座に日本刀―――魔戒剣を抜刀し、居合い桐の要領で黒い液体を切り裂いた。
男は、自らの武器を切り裂いた刃を見て驚愕する。

「ナッ・・・・・・ソウルメタルの刀・・・・・・!?」

現物を見せられ、もはや疑いようさえなかった。

「貴様、騎士なのか・・・・・・!?」
「良く言われるわよ、そういう台詞」

輪廻は飄々とした口調で受け流すように言葉を返した。
一方、男はより一層強く睨み、ある変化を起こしてきた。

「ンっ―――あッ―――」

男の身体はドンドン罅割れていき、そして―――、

『ヴォォォオオオオオ!!?』

肉身は四方八方へと飛び散り、内部に潜む悪魔が現れた。
頭から生えた触手めいた触覚、手足の先から伸びた鋭利な爪、恐ろしげな牙を生やした禍々しい凶相。
それこそ、このホラーの真の姿であった。

『ベルゴル』
「それが奴の名か」

ヴァルンが敵の名を呟き、輪廻はそれを聞き取った。

女よ(ロユアヲ)貴様の血肉(シタナオキイス)我が糧としてくれる(ヤザサケコチケスメム)

魔戒語でそう述べるベルゴル。
だが輪廻はそんな言葉など受け流し、無言のまま魔戒剣の切っ先を上方に定めると、腕を振り刃で円形を描いた。

すると、切っ先は光の軌跡を残して円となり、ある物を呼び寄せる門となる。
描かれた円形の内部からは神秘的な光が漏れ出し、次第に強くなっていき輪廻の雄姿を照らす。
そして、祝福するような光が止んだ時、

『ヴァアアアアアアア!!』

――ドガァ・・・・・・ッ!――

突っ込んでいったベルゴルは、打撃による迎え撃ちを喰らい、

『ギィッ!?』

――バザッ・・・・・・!――

そのままカウンターへと頭から衝突した。

「・・・・・・・・・・・・」

そうして、場末の酒場には一人の高貴なる騎士が降臨した。
女性らしい細身でシャープな輪郭、金属的光沢を放つメタリックレッドの全身鎧、黄金の瞳が特徴的で狼を模した兜、口元を覆い隠すように巻かれ背面に長く垂らされた黒いマフラー、腹部にはつぼきり型の紋章が装甲の一部として在る。
その手には鞘で納められた幅広・両刃の刀身の根元にあるつぼきり型の紋章と、柄尻に翠緑の宝玉が埋め込まれた長剣が握られている。

紅蓮騎士(グレンキシ)狼姫(ロキ)
数千年に渡るホラーと人類の戦いの歴史の中で唯一、女が装着できる「狼姫の鎧」を纏った戦士の称号。

何故(アインレ)女が鎧を(ロユアザヲモリヨ)・・・・・・・・・・・・』

ベルゴルは立ち上がり、眼前で佇む姫騎士の姿を今尚、有り得ないものを見る眼で見ている。

「律儀に説明してやる義務は無い」

ロキは斬り捨てるように言い放った。

『〜〜〜〜〜!!』

ベルゴルは口から大量の液体を吐き出し、ウォーターカッターのような速度で打ち出す。
しかし、それはホラーの血を用いた武器。そして、騎士の鎧と剣の材料であるソウルメタルは、そういった穢れを浄化してしまう。

鎧にぶつかると同時にジュウジュウという音を立てながら消滅していく液体。
ロキは、ガシガシという金属の足音を鳴らすように、一歩一歩とベルゴルに歩み寄っていく。
ベルゴルは迫り来るロキを必死に後退させようと、血を更に撒き散らすが、足音が止むことは無い。
浄化された血液は炎となって燃え上がり、ロキの凄みを増す要素にされている。

)

ベルゴルは黒い血をボール状にして吐き出した。
スピードはおよそエアガン並といったところだろうか、かなりスピードである。

「フン」

だが、その程度の小細工で焦る紅蓮騎士ではない。
左の拳を前に突き出し、黒い弾丸を正面から打ち破る。
黒いボールは弾け、バーの床や壁には黒い血が飛び散り、その空間を染めていく。

『ムッ・・・・・・おのれ(ロオメ)ぇぇぇエエ!!』

嚇怒の叫びを轟々と響かせ、ベルゴルは両手の爪を全て鋭利な武器として伸ばし、ロキ目掛けて槍のような攻撃を仕掛ける。

――ギン・・・・・・ッ――

ロキは鞘に納まっていた魔戒剣の刀身を僅かに解放し、十本の槍を一挙に切り刻んだ。
十の爪は刃に斬られた途端、粉々になって崩れ果てていく。当然、爪の大本である、ベルゴルの両手ごと。

『ゴォォォアアアアアアアアアア!!?』

目障りな程に大きな絶叫が空気を揺らし、ベルゴル本人も身体を大きく揺さぶっていた。

「・・・・・・締めだ・・・・・・」

次の瞬間、

――シュ・・・・・・!――

魔戒剣―――断罪剣(ダンザイケン)が完全な形で鞘から解き放たれた。

それはあっと言う間の出来事だった。
ロキは右手に剣を握り、その身を大きく翻すようにして跳ぶと、一瞬にしてベルゴルの丁度真上を通過する軌道でジャンプした。

そして、

――斬・・・・・・!――

罪を断つ刃が、ベルゴルの身体を正中から真っ二つに切り裂いた。

ボォォン、という爆音を鳴らすようにしてベルゴルの身体は木っ端微塵に吹き飛んだ。
その身を構成していた血肉は見事に弾け飛び、バー全体に穢れを遺し、怠惰のホラーは此の世から消滅した。

「・・・・・・・・・・・・」

ロキは断罪剣を鞘に納めると、鎧を魔界へと返還することで武装を解除した。

『無知な事ほどの暗愚は無い』
「あぁ、今の時代で狼姫を知らないとは、モグリ以下だな」

ヴぁルンと輪廻は淡々と述べ合う。
そうして、女騎士はバーの扉を潜り抜け、階段を昇って光ある世界へと帰還していった。





*****

――パシャ――

ホラーを斬り、バーを出た輪廻は即席(インスタント)カメラを手にし、写真を一枚撮る。
撮影後、自動的に現像と定着を行い、即座に印画してくれるこのカメラは、不器用な音と共に一枚の写真を吐き出した。

輪廻はその写真を手にとって吟味する。

『いつもの写真(アレ)か・・・・・・』
「まぁね。個人的な趣味だけど、此処にはホラーが集る要因があったという記録も込めて」

輪廻はバーの全体像を映した写真をカメラ共々懐に収めた。

「番犬所に行くとするか」
『今なら丁度、”道”が使える』

輪廻はバーの外壁に歩み寄ると、左手のヴァルンを前方に翳す。
すると、外壁の一部に線が入り縦長の長方形をなすと、そのまま真っ暗な”道”への門となる。
輪廻は通いなれた通勤路のように自然な足取りで門を潜り道へと進むと、独りでに門は消えて道は閉ざされた。





*****

輪廻とヴァルンが通っているのは魔戒道。
日時や方角によって使える場所が限定されるものの、一度入ってしまえばどんなに遠い場所でも短時間で到着することのできる異次元の通路。
ただし、この魔戒道を開くことができるのは、ソレ相応の資格を備えた魔戒騎士だけとされている。

輪廻が幾つモノ炎のみを明かりとする薄暗い場所を歩いて小一時間。目的の場所へと辿り着く頃だ。

――シュゥ・・・・・・――

目的地の空間の一部が歪むと、そこからは平然とした表情の輪廻が姿を現す。

「来たか」

それを迎えたのは、一人の無機質めいた男である。
白いローブに身を包み、顔を狐の仮面で隠した異様な風体をしている。
彼はここ、”南の番犬所”の担当をしている神官である。

番犬所、というのは、魔戒騎士たちを統括している協会らしき部署のことで、様々な地方で東西南北の四つ存在し、所属している魔戒騎士に指令を出している。

「―――――」

輪廻は神官に構わず、鞘から魔戒剣を抜刀すると、番犬所の壁に据えられた狼のオブジェの口に刀身を突っ込んだ。そしてすぐに引き抜くと、切り裂いたホラーの血で穢れた刃は浄化され、オブジェの口からは歪な短剣が吐き出される。

輪廻は短剣を手に取り、神官に向けて投げ渡した。

「これで十二本」

神官は短剣をキャッチして呟いた。
因みに出てきた短剣には、騎士が倒したホラーの邪気が封印されており、魔戒剣が清められると同時にこのような形で封印されるのだ。

「十二は魔を鎮める数字だからな。魔界に送り返しておくとしよう」
「えぇ、頼んだわよ」

輪廻は剣を納刀し、さっさと番犬所から出て行こうとすると、

「待て聖。君には新たな指令に就いてもらう」
「・・・・・・」

輪廻は回れ右して神官の方に視線を向けた。

「最初に言っておくが、拒否は許されないぞ」

神官は懐から封筒を取り出し、輪廻に投げ渡した。

「・・・・・・黒、とはな。御上にとって見過ごしきれない何かが起こりつつあるのか?」

指令書の封筒には二種類ある。一つは通常の指令を与える際に使う赤い封筒、もう一つは拒否権無しの絶対的命令の際に使う黒い封筒だ。
輪廻が今受け取ったのは後者である。

「ふぅ」

輪廻は指先から金色の魔導火を現出させ、指令書を燃やして魔戒文字を開放する。

『”六十年に一度の大儀式、聖杯戦争の兆しあり。第四次の戦いに推参し、召喚せしめたる英霊と共に、魔道の陰我を断ち切るべし”』

ヴァルンが空中に浮かぶ魔戒文字の内容を音読した。

「聖・・・・・・君の手に、最近鈍痛が起こっていることは調べがついている」
「そのストーカーじみた言い振りは止めてくれ。というかどうやって調べた?」
「聖、手を見せてくれ」

輪廻の言い分など聞くことなく、神官は言葉を紡いで指図した。
この神官は意外と頑固であることを知っている輪廻は、素直に左手の甲を見せた。
そこには、赤い三画の紋様が刺青のように刻み込まれている。

まるでアステリスクのように、中央に鋭い縦長の線が一本、左右には斜めの線が二本ある。

「それは『令呪(れいじゅ)』と呼ばれし聖痕。冬木(ふゆき)の聖杯に見初められ、サーヴァントを統べるマスターとなった証」

神官は事務的な口調で三画の赤い刺青について語った。

「詳しい資料は既に君の自宅に送っておいた。出来る限り早く、冬木市に向かってくれ」
「・・・・・・ふっ」

輪廻はクールに一息を吐き出すと、今度こそ神官に背を向けて番犬所を出て行き、異空間から現世へと還っていった。





*****

聖邸に戻った輪廻は、鬼怒川に資料が届いてるかを訊ねると、

「こちらに」

首尾よく資料が届いており、鬼怒川は資料の入った大きな封筒を輪廻に手渡した。
輪廻は封筒を手に自室に入ると、封を切って中身に入っている資料の数々を見定めだした。

その資料は手書きで、聖杯戦争の大まかな内容だけでなく、表裏さえも余す所無く記されていた。
紙の書かれている字からして、恐らく神官が自ら手掛けた逸品なのだろう。





*****

聖杯戦争に関する概要。
西日本の地方都市、冬木市において60年のサイクルで執り行われるバトルロイヤル。
その起源は200年前、冬木の土地の管理者(セカンドオーナー)である遠坂家、召喚システムと令呪を考案したマキリ(現在は間桐と改名)、聖杯の器を鋳造するアインツベルン―――『御三家』が手を組んだことから始まる。

本来、他の家の者と馴れ合うことのない魔術師の名門たるこの『御三家』が結託し、聖杯戦争を構築した理由。それは三つの家によってそれぞれ異なっている。
遠坂家は初志の通り『根源』へと至り、魔導を極める為。
間桐臓硯(マキリ・ゾォルケン)は完全な『不老不死』の実現の為。
アインツベルンは聖杯の完成こと『第三魔法』の成就の為。

この三つの家が結んだことにより、神秘の戦場、英霊への手綱、優勝カップが揃ったことで聖杯戦争は成立したとされる。
ただし、200年前の第一次の際は令呪が無かった為に、召喚した協力者たちが好き勝手に暴れて全てがメチャクチャになってしまったらしく、それを未然に防ぐ為にマキリは令呪を開発し、第二次の頃になって漸く戦争として成立したのである。

説明が遅れたが、聖杯戦争の表向きな言い分は、七人の魔術師(マスター)が七人の英霊(サーヴァント)を召喚し、互いに覇を競って殺し合い、最後に残った陣営が万能の願望機である聖杯を手中にし、あらゆる願いを叶える事が出来る。

そして真の目的とは、『根源』へと通じるための大儀式である。
元々冬木の土地は後押しさえすれば世界の外側にある『根源の渦』に手を届かせる程の歪みを秘めている。その歪みを『小聖杯』によって回収された英霊7人の魂という無限に等しい魔力で一気に解き放つことによって(もん)を穿ち、今度は『小聖杯』の機能で拡張・固定させるのである。
なお、聖杯戦争は第三次のように『小聖杯』が破壊されると無効になるが、地脈の力を吸い取って機能し続ける『大聖杯』という大元さえ残っていれば幾らでも再開することが出来る。
これらの手順は全て、『抑止力』による排斥対象とならないための措置である。

この大儀式の成就に必要な存在、それこそが召喚されし7人のサーヴァント。
『大聖杯』の助力を得て、歴史や神話において名を遺した超人たちの魂を現世に召喚し、魔力によって仮初めの肉体を与える―――それが英霊召喚だ。
召喚されたサーヴァントは、生前の逸話や能力、愛用した武器によって七つのクラスの内のどれかに収まり、クラスに応じたスキルを得るとされている。

剣士の英霊・セイバー。
槍兵の英霊・ランサー。
弓兵の英霊・アーチャー。
騎乗兵の英霊・ライダー。
魔術師の英霊・キャスター。
暗殺者の英霊・アサシン。
狂戦士の英霊・バーサーカー。

これら七人の神秘と契約し、彼らが現世に留まれる楔の役を為し、実体化できる分の魔力を付与するのがマスターの務め。契約者が死ねば、サーヴァントは魔力を消費し続け、いずれは自然消滅してしまう。だが、マスターを失ったサーヴァントと、サーヴァントを失ったマスターの間で契約が結ばれた場合は敗者復帰が可能とされている。

サーヴァントらは英雄としてのシンボル、『貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)』とも言われている必殺武器や能力・宝具を所持している。ただし、この宝具の真名を解放すると、宝具の知名度によっては持ち主の素性まで割れる恐れがある。だが、聖杯戦争を生き残る上で宝具の使用は確実に必要とされる。
原則的に英霊が有する宝具は一つか二つだが、中には三つ以上を備える者も存在している。
無論、宝具は武器のみではなく、生前の逸話によって生まれる種類もあり、能力として発露する場合も有る。

さて、ここでサーヴァントと聖杯戦争の本当の関係を記す。
ハッキリ言って、この聖杯戦争は七人の魔術師が英霊を召喚し、令呪という絶対命令権を用いて七人のサーヴァントを自刃させれば儀式は完成する。つまり魔術師と英霊の頭数さえ足れば殺し合う必要は無いのだ。

では何故表向きの概要があるのか。
もし真実を打ち明けた場合、御三家と外様のマスターの7組は諍いを起こし、儀式そのものが失敗する恐れがあるからだ。故に、表向きの概要のほんの少しだけ公表し、理由はどうあれノコノコやってきた外来マスター四人を排除して御三家のどれかが勝者となる。
当然『世界の外側』への願いは7人全員の魔力が必要な為、他の六組を脱落させた後、自軍のサーヴァントを令呪を自殺させることにより初めて聖杯は完璧な『礼装』として現出する。

これこそが『聖杯戦争』の真の姿だ。
勿論、こんなことが知れ渡れば英霊たちは確実に暴走するだろうし、外部からのマスターも近づかなくなるだろう。
それは御三家にとって望ましくない展開だ。だからこそ、この真実は厳重に隠されていた。

今この時までは。





*****

資料を読み終えた輪廻は、こめかみを手で押さえながら溜息を思い切りついていた。

「全く、魔術師というのは・・・・・・」

そこにあるのは魔術師という人種に対する呆れだ。
『根源の渦』はアカシックレコードとも呼ばれており、此の世の全てともいえる情報が存在しているとされている。そこへ到達したものは、現代科学では絶対に再現できない奇跡、即ち『魔法』を取得し、魔法使いになれると云われている。

魔術師という学者達が躍起になって魔術を学び、その研究成果を子孫達に『魔術刻印』として引き継がせていく理由はそこにある。

「まぁしかし、魔術使いの私が選ばれるとはな」

聖杯に対して興味どころか、今までこんな大儀式があったことさえ知らなかった自分がマスターの聖痕を授かる。一体どんな因縁があってこんな事になるのやら?輪廻は二度目の溜息をつきそうになる。

因みに『魔術使い』とは『魔術師』とは違い、魔術を真理への探求にではなく、個人的な何かの手段として扱う者のことを指す。

「だが、あの男・・・・・・一体どんな手を使えば?」

魔術というのは神秘を扱う術だ。
一般人は勿論のこと、同じ魔術師にさえ無闇矢鱈に秘術を見せることは稀有なことだ。
魔術師が他人の、自分の知る全ての魔術を託すとき、それは継承者に魔術刻印を譲渡するときなのだ。

其れほどまでに秘匿性を重視する魔術師らが催す大儀式をここまで調べ上げてしまうとは・・・・・・。
改めてあの狐面の神官の得体の知れなさに身震いさせられる。

「でも、ここまで知ってしまった以上、指令書云々以前に、行くしかないわね」

もう後戻りは出来ない。
それは令呪を宿した瞬間であり、黒い指令書を受け取った時からだが、この上でさらに途方も無い秘密を知ってしまったのだ。
これで背を向けようものなら魔戒騎士の誇りが廃ると言う物だ。

『我がマスター・輪廻よ。ワタシの力、戦場にて御身の勝利の為に尽くそう』
「ふふふ」

従僕の誓いとも言える言葉に、輪廻は自然と笑い声を出していた。
魔戒騎士となれば、もう滅多に表へ出すことの無い朗らかな感情を、彼女は楽しそうに浮かべていた。





*****

あれから五日後、輪廻とヴァルンは冬木市にやってきていた。
正確には冬木市の東側である”新都”という開発都市の方だ。
ここ冬木は中央の大きな未遠河とそれにかかった冬木大橋を境目にして、東西にて街造りの趣が相当異なっている。
東側の新都は二年か三年もすれば明確に町並みが変わっていくのに対し、西側の深山町は昔ながらの古めかしい住宅地のまま時間が停滞したかのように変わり映えがしないという。

「ヴァルン。この冬木で最も有力な土地は感知できるか?」
『すぐに探知してみよう』

大型のスーツケースを二つ引っ提げた輪廻。一方は着替え、カメラ、生活用品といった品々。もう一方は魔戒剣を始めとする魔導具の数々だ。

輪廻は駅前から人通りの少ない裏路地に入ると、ヴァルンの指示を出した。
ホラーのような魔的存在の気配を察知できる魔導輪の力なら、土地の強力さを輪廻に教えることも出来るはずだと踏んだのだ。

『フム、フム―――特に大きな地脈に流れる魔力は、西側の町に向かっている』
「となると、結構歩くな」

地方都市とはいえ、冬木市はかなりの大きさを誇っており、西と東とで数万人の住民が住んでいる。
今の輪廻たちが居る新都から深山町に歩いていくというのは、それだけで意外と体力と時間が使うのだ。
だが普段から身体を鍛えている輪廻にとって最も重要なのだ、体力よりも時間がどれだけかかるかにあったのだが。

輪廻はスーツケースの取っ手を掴み、西へと歩いていった。
しかしながら、道行く人々は輪廻の姿を見て振り返っていた。

見る人の眼を悉く奪う程に鮮やかな黒い長髪、造形に全く隙の無い大和撫子を絵に描いたような美貌、日本人女性の平均的身長を上回る170cmの背丈、身を包む浴衣を隆起させる胸部の膨らみ、歩くたびにチラチラと見える長くて綺麗な脚。

同性からは羨望、異性からは熱気を帯びた視線が輪廻に向けられている。
尤も当の輪廻はそれに気付きつつも、どうでも良いモノとして無視し、スタコラさっさと歩くスピードを速め、新都の領域から身を退いていく。

真っ赤な冬木大橋の歩行路に進むと、視線の脇に見える未遠河の映す綺麗な蒼を横目で見て、口元を緩めて微笑する。もし、この時に輪廻の傍に誰かがいたのなら、その横顔の儚さと美しさに心を射抜かれたに違いない。

そうして、冬木大橋の歩行路から漸く深山町の領域に足を踏み入れた。

『一等地の場所は、お山にある。しかし―――』
「言わなくてもいいわ。私にも十分感じ取れる。さすが魔術師の修める土地だけあって、陰我が思いの外に密集している」

左手をそっと前に出すと、ヴァルンが目的地を教えると同時に何かを言おうとし、その代わりに輪廻が述べる。
この冬木市には、ホラーの招き寄せる欲望の臭いが濃く漂っている。

「・・・・・・まあ、それも含めて如何にかするしかないか。今は迅速に戦争へ参加することが先決だ」
『御意』

輪廻は再びスーツケースの取っ手を掴んで歩き出す。
目指す場所は”円蔵山(えんぞうざん)”と言い、頂には”柳洞寺(りゅうどうじ)”と言う寺がある場所だ。
情報によると、この円蔵山は冬木市において特級の力を持った土地だとされている。
サーヴァントを呼ぶにはこれほど相応しい場所は他にないだろう。
ただし、輪廻が向かっているのは決して柳洞寺ではないのだが。

カタカタコロコロ・・・・・・カタカタコロコロ・・・・・・

スーツケースに付いた小さな車輪は地面の上を転がり、味気ない音を出し続けている。
輪廻は大して気にもせず、ただ両の脚を交互に前へと出して進んでいく。
ちなみに、今、彼女は穂群原学園という高等学校の真ん前を歩いている。

ここから柳洞寺までは、およそ二時間はかかるという。





*****

先述にあるとおり、ヴァルンが検知したのは円蔵山であり柳洞寺ではない。
冬木における最高の霊地とされるこの場所には、御三家以外には決して知られる筈の無い極秘事項が息を潜めている。それは何を隠そう、地下にある鍾乳洞への入り口が存在していることだ。

山肌に流れる一筋の小川の果てには幾つかの岩が固まっており、そこへ巧妙な魔術的偽装によって入り口を秘匿しているのだ。ヴァルンの力でいとも容易く結界を乗り越えた輪廻は、そのまま薄暗い鍾乳洞へと入って行った。

だが、いざ入ってみると、鍾乳洞の内部は思った以上に明るかった。薄暗いことに変わりは無いが、それでも多少の灯火さえあれば十分と思われるほどの明暗ぶり。実際、明かりの無い状態でも、光苔の一種と思われるモノたちの恩恵で、鍾乳洞の様子はよく見えている。最初は一人一人が通るのがやっとな手狭な洞窟は、次第に横幅をどんどん広げていくのがわかる。
魔力を眼に通して視力を強めた輪廻は、脚を滑らしたり岩にぶつかることもなく、奥へ奥へと突き進んでいく。

そして、辿り着いたのは・・・・・・。

「此処が、大聖杯の・・・・・・。冬木最大の神秘、というわけか」

輪廻はスーツケースの取っ手から無自覚に両手を離していた。

『これはまた、想像以上というべきか』

ヴァルンも口を動かしながら、一つ目を見開いている。

鍾乳洞の最果て―――それは言うなれば荒野も同然の空洞である。
首が痛くなるほどに見上げねばならないほどに高い天井、市街の一区画に匹敵しそうな広大さ。
そして何より、空間の中央を陣取るクレーターの中心部に存在しているのは・・・・・・。

『この巨岩こそが、大聖杯の術式を宿している』

ヴァルンはそう淡白に述べた。

天高く聳える縦長の巨岩。
まるで何かを求めて天に手を伸ばしているようにさえ見える。

「遂に、辿り着いたな。この聖杯戦争の根本に―――そして、我等の拠点に」

輪廻は大聖杯の巨岩を見上げつつ、資料にあった英霊召喚に必要な儀式の情報を、頭の中で知識として抽出していた。すぐに片方のスーツケースを開けると、魔術的な器具を取り出していく。

まずはゴツゴツとした岩の地面に、魔方陣を描くところから始まる。
魔戒剣を抜刀し、その切っ先を持って地面を削っていく。

消去の中に退去、退去の陣を四つ刻み、召喚の陣だ囲む。
次に水銀を流し込み、魔方陣の隅々までムラのないようしっかり行き渡らせる。

そして、休憩など挟むことなく、魔術使いは一世一代の大儀式の一端を執り行う。

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に到る三叉路は循環せよ」

眼をゆっくり閉じ、呪文の詠唱を開始する。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返す都度に五度。ただ、満たされる刻を破却する」

唱えるごとに、彼女の体内にある擬似神経―――魔力を練り上げる魔術回路が励起し、何とも言えない奇妙な痛みが這いずり回る。

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

無意識に左手を前方に突き出し、輪廻の詠唱には熱が篭りだしていく。
魔方陣の水銀も光りを宿し、術者の意思に応じるかの如く、輝きを魅せている。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者」

魔術使いとして一族の当主に代々受け継がれ、背中に刻まれた戦闘特化型の魔術刻印も、魔術回路が蠕動するのに合わせてか、単独で輪廻の魔術行使を補助していく。

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

召喚の、儀式の詠唱が全て完了すると同時に、魔方陣の光輝は一気に桁外れで爆発的なものとなり、洞窟内の全てを照らした。
その瞬間、輪廻は自分という人間と繋がった超常の存在を感じ取った。降霊であり召喚でもある魔術は成功したのだ。

光と風が収まっていき、雄姿を現すのは伝説と幻想の象徴とされし者。
人の身でありながら人の領域を越え、精霊級の存在として崇められた者。

「特化型の私が、このクラスに成り得るとは・・・・・・。無銘の英霊には、最弱の座こそ相応しい、か」

かの者は、その身体に上記を逸した質量の魔力を秘めた神秘の塊にして、無骨な鉄のような口調で召喚者に問いかけた。それは己に対する皮肉と哀れみに満ちた先程の言葉とは違い、英霊(サーヴァント)としての威厳を確かに感じさせた。

「問おう―――汝が我を招きしマスターか」

白い髪に褐色の肌の筋骨隆々とした長身を、黒いボディアーマーと上下に分かれた赤い外套で包んだ青年―――キャスターは、7番目として第四次聖杯戦争に現界した。
此の世でただ一人の、魔を戒める女騎士に召喚され、彼女を依り代(マスター)とすることで。




ヴァルン
『英霊―――それは人間の記憶に未来永劫留まりし超越者。
 サーヴァント―――それはマスターの剣となり盾となる者。
 人智を越えた神代の力が今、戦火を散らして解き放たれる。
 次回、”戦端”―――どんな戦いにも、必ず策略が潜んでいる』



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