IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第二十三話
「紅い椿と永遠の代わり」



 臨海学校2日目、専用機持ちのキラ達と箒、ラクスが千冬と共に旅館近くの川原に来ていた。因みに千冬とラクス以外は全員ISスーツを着ている。

「よし、専用機持ちは全員揃ったな?」
「ちょっと待ってください。箒とラクスは専用機を持ってないでしょう」
「それに、クラインはIS操縦者ではなくオペレーターだと聞いてます」

 千冬の言葉に鈴音とラウラが意見を出した。確かに箒は専用機を持っていないし、ラクスはそもそもオペレーターとしてIS学園に入学したのだ。

「それと、4組在籍の日本の代表候補生も来てませんよ? 確か、更織 簪さん、ですよね?」

 キラが言ったのは4組の専用機持ち、日本の代表候補生で、日本の第三世代IS、打鉄・弐式を持つ更織 簪の事だ。

「あいつはまだ専用機が完成していないし、それに臨海学校自体を欠席だ。それと、篠ノ之とクラインの事だが、実はだな・・・」

 その時、この場にいない筈の女性の声が聞こえてきた。

『やぁあああっほおおおおおおお!!!!』

 見ると、崖を駆け下りる一人の女性の姿、束が一直線に千冬へ向って走っていた。しかも、途中で大きくジャンプして、真っ直ぐ千冬へと落下していく。

「ちーちゃあああああああん!!」

 しかし、千冬は冷静に右腕を突き出し、束の顔をアイアンクローで掴みながら勢いを殺し、掴んだ顔をそのまま思いっきり締め付けた。

「やあやあ会いたかったよちーちゃん! さあハグハグしよう! 愛をたしかめぐっ!?」
「煩いぞ束!」
「相変わらず容赦の無いアイアンクローだね!」

 アイアンクローから逃れた束は彼女が来てから隠れてた箒の真後ろに移動して、久しぶりに会う妹に満面の笑みを向けた。

「じゃじゃ〜ん! やあ!」
「・・・どうも」
「えっへへ〜、久しぶりだね〜。こうして会うのは何年ぶりかな〜? 大きくなったね箒ちゃん! 特におっぱいが・・・ブッ」

 何処から出したのか、木刀で束のセリフを遮る様に顔面へ強力な突きを入れた箒、その顔は大変ご立腹だった。

「殴りますよ!」
「殴ってから言ったぁ、箒ちゃんひっどぉい!!」

 果たして、酷いのはどちらだろう? 最も、束にとってこの程度はほんの挨拶程度でしかないので、特に気にしたものでもないのだが。

「ねぇ! いっくん、キー君、酷いよねぇ?」
「は、はぁ・・・」
「束さんが悪いです」
「え〜! キー君は束さんの味方じゃないの!? ラーちゃんは!?」
「黙秘させて頂きますわね?」
「わ、満面の笑みで拒否された!? ラーちゃんの拒否ってキー君にスルーされるよりキッツイよ〜」

 ラクスにまで笑顔で拒否された束は涙目で崩れ落ちながらわざとらしくしくしく泣いていた。

「おい束、自己紹介くらいしろ」
「え〜っ! メンドクサイなぁ」

 とは言え、此処には束と直接面識の無い者もいるので、束自身が自己紹介しなければ進まない話もあるのだ。

「私が天才の束さんだよ〜、ハロ〜。終わり〜」

 何とも簡素な自己紹介だが、束はこの場にいる中で身内と認識しているのはキラとラクス、千冬、一夏、箒のみなので、それ以外の有象無象など如何でも良い。自己紹介とて仕方なくやったに過ぎない。

「束って!」
「IS開発者にして、天才科学者の!」
「篠ノ之 束・・・!」

 ISをこの世に生み出した張本人であり、現在進行形で行方不明だった筈の存在が目の前に現れれば、こんな反応も当然だろう。

「んっふっふ〜、さあ! 大空をご覧あれ!!」

 束が指差した先、上空から何かが降ってきた。それも二つ、それは銀色の立体水晶体の様な何か、それが一夏の一歩手前に落下してきたのだ。

「じゃじゃ〜ん!! これが箒ちゃん専用機とラーちゃん専用機!!」

 束が持つリモコンを操作すると、落下してきた物体が開き、それぞれの中から紅いISと灰色のISが出てきた。

「紅い方が箒ちゃんの専用機で、紅椿! 灰色の方はラーちゃん専用機で、オルタナティヴ!! どちらも全スペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ〜!」

 箒の専用機、紅椿と、ラクスの専用機、オルタナティヴ。見た限りでは他の第三世代と変わらないが、束が作った物だ。何かあるだろうと皆予測していたのだが、紅椿の開発にも関わっていたキラは当然だがスペックは完全に把握している。

「何せ紅椿とオルタナティヴは、束さんが作った第四世代型ISと第五世代型ISなんだよ〜!」

 紅椿が第四世代なのはキラも知っている。しかし、ラクスの専用機であるオルタナティヴが第五世代というのは驚いた。第五世代という事はオルタナティヴにはビーム兵器が搭載されているという事で、束はビーム兵器の開発に成功したという事になるのだ。

「第四世代と第五世代・・・!」
「各国でやっと第三世代型の試験機が出来上がったばかりですのに、白式やストライクフリーダムに続いて二機目だなんて・・・」

 第四世代機の二機目として紅椿、第五世代機の二機目としてオルタナティヴ、それぞれが完成しているという事実にこの場の代表候補生達が驚きを露わにする。

「そこがほれ、天才束さんだからぁ」
「とは言っても、僕が学園に入学する直前まで紅椿開発は僕も手伝ってましたよね?」
「う゛っ、それを言われるとなぁ〜」

 とりあえず、小話はこの辺にして、箒とラクスが実際に乗り込んで紅椿とオルタナティヴの最適化(フィッティング)適合化(パーソナライズ)を始める事にした。
 箒の方を束が、ラクスの方をキラが行う事になり、お互いに同等のスピードでキータッチをしながら高速調整を行う。

「うそ、篠ノ之博士もキラも速い・・・」
「篠ノ之博士と同じ天才だと言うのか、ヤマトは」

 鈴音とラウラの呟きを余所に、束とキラはほぼ同時に作業を完了させた。これで紅椿は箒の、オルタナティヴはラクスの専用機として、真の意味で完成した事になる。

「ところで束さん、ラクスの機体・・・オルタナティヴなんですけど、大丈夫ですか? 正直、ラクスが専用機持ちになるのは」
「キー君の言いたい事は判るよ。だから束さんも色々と考えて、そして出された結論と結果がオルタナティヴなんだよね〜」

 如何いう事だろうか、ラクスがオペレーターとして学園に入学して、IS適正ランクがAという結果に学園上層部が操縦者にしようと画策しているのだから、専用機は不味い筈なのに。

「ラーちゃんのIS、オルタナティヴはね〜、なんと! 世界初のオペレーター専用のISなんだよ〜!」
「オペレーター専用の、IS?」
「そう! 確かに武装は積んでるけど、それはあくまでも自衛用。オルタナティヴの本当の使い方は仲間のISのオペレートにあるんだよね〜」

 束が言うにはオルタナティヴには通常のISの3倍はある高出力ハイパーセンサーが搭載されており、戦況を逐一把握出来る様に得られた情報を展開されたマップに映し出す事が出来るらしい。

「何より、オルタナティヴの見所はナノマシン生成ファクトリー! このファクトリーによって生成されたナノマシンは自分や他のISの傷を修復したり、シールドエネルギーを回復させる事が出来るんだよ〜」

 ただし、それも一度に一機ずつでなければ出来ないのだが、それでもサポートとしては充分過ぎる能力だろう。

「更に! 装甲にはストライクフリーダムと同じVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲を採用して、推進システムもヴォワチュールリュミエールシステムを使ってるから、動力にはハイパーデュートリオンエンジンを載せてみました〜!」

 驚いた。確かに調べてみれば、オルタナティヴにはVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲、ヴォワチュールリュミエールシステム、ハイパーデュートリオンエンジンが使われている。勿論、ストライクフリーダムの物と比べれば大分劣化した物なのだが。

「? (オルタナティブ、人型ではあるけど、足や背中の翼みたいなものとか、まるでエターナルに似てる)」

 確かに、束にはストライクフリーダムに保存されていたエターナルのデータや画像を見せた事があるが、まさかこの機体、そしてオルタナティヴという名前、それで納得が出来た。

「永遠の代わり、という訳ですか」
「キー君せいか〜い!」

 まだ何か隠されているみたいだが、成る程確かに、この機体はラクスに丁度良いのかもしれない。専用機を持った事でIS操縦者になれと煩い学園上層部を黙らせる事が出来るし、オペレーター専用という事で、戦場でもオペレーターとして動く事が出来る。

「キラ」
「ラクス?」
「また、私もキラと共に戦えるのですね」
「・・・うん、そうだね」

 嘗てエターナルに乗って戦場に出ていた歌姫は、永遠の代わりとして、オルタナティヴで戦場に出る。全ては、自由の戦士の為に、自由の剣が何人にも憚られる事無く振るえる様に。



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