IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第二十六話
「白が落ちる時」



 福音とストライクフリーダムが戦闘をしているポイントへ飛ぶ白式を乗せた紅椿とオルタナティヴは、暫時衛星リンク接続によってより詳しい位置を確認、紅椿は展開装甲を、オルタナティヴはヴォワチュールリュミエールシステムを展開して更に加速した。
 そして、遂にハイパーセンサーが戦闘中の福音とストライクフリーダムの姿を捉える。高速機動をしながらの激しい銃撃戦をしているのが見えて、ストライクフリーダムに目立った被弾は無い事に安心する。

「見えたぞ一夏」
「あれが、シルバリオ・ゴスペル・・・」

 目視出来たのなら問題無い。ラクスは此処で停止して待機、紅椿は更に加速をする事にした。

「加速するぞ、接触まで10秒だ」

 紅椿が更に加速する中、一夏は雪片・弐型を構え、単一仕様能力(ワンオフアビリティー)、零落白夜を発動させた。

単一使用能力(ワンオフアビリティー):零落白夜、発動】
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 咆哮、それと同時に紅椿が一気に福音の懐に飛び込んだ。
 一夏の咆哮が聞こえた時には既にキラも一時攻撃を中断して、ドラグーンを展開したまま作戦最終段階を見届ける。
 福音の機動に、紅椿は確かに追いつけた。だが、一刀両断する勢いで振られた雪片・弐型はかわされ、逆に銀の鐘(シルバーベル)によって白式と紅椿を分断されてしまう。

「失敗!? っ!」

 こんな事なら福音の機動力をもう少し奪っておけば良かったと悔やんだキラだが、今はそれよりも逃げようとする福音を止める事が先決だ。ドラグーンをもう一度動かして逃げ場を塞ぐ様にビームを発射しながら、白式と紅椿が福音の左右から同時に迫るのを確認した。

「キラ! そのまま奴の退路を抑えててくれ! 私が動きを止める!!」

 そう言って箒は背部にある展開装甲の二つを射出してビットとして使用、それを突撃させながら自分も切りかかって鍔迫り合いになりながら確実に動きを止めた。

「一夏! 今だ!!」
「おう!!」

 一夏がもう一度、零落白夜を発動させようとした時だった。急降下する一夏の目に信じられない物が映ったのは・・・。

「(密漁船!? 不味い!!)」

 遥か下の海、そこに浮かぶ一隻の船の存在。海域を封鎖されたこの場所に船・・・それも漁船がいるという事は、それはつまり密漁船という事になる。
 一夏は福音を通り過ぎて、一気に密漁船と福音の間まで加速を始め、福音から放たれた銀の鐘(シルバーベル)を弾き返した。

「一夏!?」
「キラ! あそこに船が!! このままだと戦闘に巻き込まれる!!」
「っ! 箒!! 攻撃中止!!」
「馬鹿な事を言うな! 折角のチャンスを投げ捨てる気か!?」
「下を見るんだ! このままだと一般人を巻き込む!」
「キラ! お前ともあろう者が犯罪者の味方をすると言うのか!?」

 確かに箒も船の存在は確認した。しかし、密漁船だというのなら箒は構う必要など無いと判断して、密漁船に攻撃が当たるのも構わず攻撃を続行するべきだと主張する。

「キラ! 如何する!!?」
「一夏は兎に角そのまま!! 福音からの攻撃を弾いて! 福音は僕が・・・」
「いい加減にしろキラ! 一夏! 奴らは犯罪者だぞ!? 庇う必要が何処にある!!」
「いい加減にするのは箒の方だ!!」

 珍しく、キラが大声で怒鳴りつけた。それに怯んだのか箒は動きを止めてしまい、単一仕様能力(ワンオフアビリティー)を発動させようとして身動きを取れなくなったキラは最悪の光景を目にする。
 福音が一気に飛び上がり、回転しながら大量の銀の鐘(シルバーベル)を撒き散らしたのだ。その大半は、箒を射程に捕らえている。今の無防備な箒では、避けるのは無理だ。

「ほう・・・」
「箒ーーーーっ!!!!」

 慌ててミーティアの展開を緊急キャンセルしようとしたキラより早く、一夏が動いた。残り少ないエネルギー全てを使って瞬時加速(イグニッションブースト)に入った一夏は、箒の前に出て全身を大きく広げると、彼女の盾となって銀の鐘(シルバーベル)をその身全てに受けてしまったのだ。

「い、ちか・・・」
「一夏! っ! ラクス!! 一夏を回収!! 僕は箒を連れて行く!! 織斑先生! 作戦は一時中断! これより福音の動きを止めて戦線離脱します!!!」
『了解しましたわ!』
『頼む!』

 通信を終了させたキラは、展開したままだったドラグーンを操り、福音のスラスターを狙いながらビームを撃ち続け、そのまま呆然とする箒の腕を掴んで離脱した。
 見ればラクスも意識を失った一夏の、ボロボロになった白式の腕を掴んで離脱を始めている。

「いちか・・・一夏ーーーーっ!!!!」

 ドラグーンがストライクフリーダムに戻され、動きを止めた福音。その戦場に箒の悲痛な叫びが響き渡り、静寂が戻るのだった。


 現在、旅館の一室、緊急作戦司令室になっている部屋には、千冬と真耶、キラ、ラクスが画面を険しい顔をしながら見つめていた。

「やはり、お前に無理をしてもらってでも篠ノ之の出撃は見送るべきだったな」
「いえ、僕も福音のスラスターをもう少し破壊していれば良かったんですけど・・・」
「お前の所為じゃないさ。いや・・・誰の所為でもないな」

 福音は現在、先ほどの戦闘空域で停止したまま動いていない。そして本部、学園上層部からの指示も出ていない。つまり作戦の継続をしろという事だ。

「次の出撃、僕はミーティアを使用するつもりです」
「小回りが利かなくなるから、使用しないつもりだったのではないのか?」
「ええ、本来ならそのつもりでした。だけど、後方からの殲滅戦に専念すれば問題はありません」
「前衛は如何する? クラインは前衛どころか戦うのすら不利な機体だ。他の小娘共に、貴様の相方が勤まるとも思えん」

 だからこそ、キラはここに戻ってくる時に束から返してもらっていた物を千冬に差し出した。

「織斑先生、次の戦闘・・・一緒に出撃してください」
「私に、か・・・?」
「正直、僕が全力で後方からの攻撃に徹した場合、その前衛で戦えるのは織斑先生しかいません」

 だからこそ、千冬にはもう一度、暮桜を手に取ってもらいたいのだ。

「暮桜・真打…」

 キラの掌に乗るソレを見つめた千冬は、何故か一瞬だがキラリと光ったソレが、千冬を待っているかのように感じた。

「私を、待っているのか…? 現役を引退して、お前を束に返した私を、お前はまだ……待っていてくれたのか?」

 震える手で、待機状態の暮桜・真打を手に取った千冬は、一度だけ目を閉じて、そして開いた時には、確かな決意をその瞳に宿していた。

「わかった…次の出撃には私も出よう。弟を落とされて、私も丁度、奴を切り刻みたいと思っていたところだ」

 暮桜の待機状態、桜の花の形をしたペンダントを首から下げ、千冬は予備のISスーツを用意しておくよう、真耶に伝える。

「すまんが、私は束の所に行ってくる。調整をしないと不味いからな」
「ええ、後はお任せください」
「ああ、それとヤマト、お前には非常時のIS部隊隊長をやってもらう。指揮権を今だけ預けておくから、山田先生とクラインの二人と協力して、煩い馬鹿どもを抑えておけ」
「はい」

 
 医務室の代わりに使われている部屋では、撃墜されてからずっと意識が戻らない一夏が眠っていた。
 心拍数などに異常は無い。ISの絶対防御のお蔭で重症にこそならなかったものの、無数のエネルギー弾が直撃して、更には爆破した衝撃が直接身体にダメージを与えたのだ。相当な負担が掛かってしまい、意識を取り戻すのがいつになるのか未だに判らない。

「・・・・・・っ、私は、違う・・・違うんだ! 犯罪者を守って、それでこんな事になって・・・一夏とキラの考えが、私には・・・っ、でも、だから二人は強いのか・・・お前やキラにキラに比べて、私は、力の赴くままに、暴力を振るっていただけなのだろうか・・・」

 キラも一夏も、密漁船を見つけたら躊躇い無く守ろうとしていた。向こうは犯罪者だというのに、それでも守ろうとした。だが箒は、そんなものを守る必要など無い、ただ福音を倒す事だけを、考えていたのだ。

「箒さん」
「・・・ラクス」
「一夏さんの様子は如何ですか?」
「相変わらずだ・・・ずっと、眠ったまま」
「そうですか」

 箒の様子を見に来たラクスが、箒の隣に正座する。ラクスの顔に、いつもの微笑みは無く、ただ真剣な表情で、眠っている一夏を見ていた。

「箒さんは、お休みになられないのですか?」
「ここに、いたいんだ」
「では、次の出撃には参加するのですか?」
「・・・・・・わからない」

 わからない。もう、箒にはISを操縦する意義が見えなくなったのだ。自分は弱い、キラは勿論の事、他の代表候補生達や一夏と比べて、全然弱くて、力を手に入れた途端に、何もかもが見えなくなってしまった自分が、何よりも怖かった。

「私は、もう如何すればいいのか、判らないんだ」
「如何すればいいのか、判らないのでしたら見つければ宜しいのですわ」
「っ! 見つかるわけ! ・・・ないじゃないか」
「如何してですか? それは、箒さんが見つけようとしないからですわよ。箒さんは、自分が如何するべきなのか、その答えを見つける努力をしましたか? 一夏さんが落とされてからずっと、こうして塞ぎ込んで、何か努力をしたのですか?」
「それは・・・」

 何もしてない。ただ、一夏が落とされた事にショックを受けて、それが自分の所為だと思い込んで落ち込み、ただ此処で無為な時間を過ごしていただけだ。

「少し、外に出てみては如何でしょう? 今の箒さんには、一人で考える時間が必要だと、私は思います」
「・・・ああ、そうだ、な・・・そうするか」

 静かに立ち上がった箒を見上げつつ、ラクスは箒のストレートに下ろされた髪に気付いた。先ほどの戦闘で、一夏に庇われた時の爆発で起きた炎に、いつも着けていた白いリボンが燃やされたのだ。

「ラクス」
「何でしょう?」
「ありがとう」
「いいえ、それは、答えを見つけた時にもう一度お聞きしますわ。今はゆっくり、お考えになってください」
「ああ」

 部屋から立ち去った箒の後姿を見送り、ラクスは中庭にでも移動する事にした。右手薬指に待機状態で填められているオルタナティヴを軽く撫でて、少し歌でも歌おうかと思いながら・・・・・・。



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