第1話
 オレの名は、 月野光。
 突然だが転生か憑依というモノのどちらかを経験している。
 あちらではただの高校生だった。
 好きなモノはヒーロー。
 しかしなぜか、オレが特に好きなモノは、ダークヒーローだった。
 そんなオレは、よくある交通事故で死んだようだった。
 朧気だが覚えている。
 その場は、真っ白な空間だった。
 神々しい男がオレに不思議な石を渡した。
 その石は丸く、凄まじく綺麗だった。
 男が言うには賢者の石だと……
 その時、オレは好きなヒーローの仮面ライダーを連想した。
 瞬間――
 オレのお腹にソレは吸収された。
 不思議なモノで……まるで違和感はなかったのだ。
 気がつくと6歳ほど姿で横に同じ年齢ぐらいの女の子がいた。
 泣いているようで……
 その時はオレは……
「なんで泣いている?」
「だって……光がわたしをかばってくるまに……」
「ふむ……少しまて。記憶が混乱している」
「え?」
 その時、オレはこの世界の自分と一体化したようだった。
 記憶ががっちりと、パズルが成功したように埋まる。
「千雨……心配をかけたな。オレは無事だ」
「なんかへんだよ?」
「まあ、少しだけ頭にショックを受けた影響だ。すぐに戻るだろ。それより、パソコンのパーツを探しにいくのだろう?」
「う、うん。でも……病院に行ったほうがよくない?」
 この子は、オレの幼馴染みの長谷川千雨。
 家が近所である。
 この子の親は大手のコンピューター関係の会社で共働きに出ているため、こうしてオレといつも一緒だったようだ。
 こちらのオレは年相応に元気がある子供だったようだが……
 どうやらあちらのオレに引っ張られているようだ。
 転生か憑依か……はたまた……
 考えても仕方がない。
 答えを知っているのはアノ男だけだろう。
 オレは、こうして千雨とパソコンのパーツを探しに大きなビルに向かう。
 千雨は瞳を輝かせてパーツを見ているが……
 オレは落胆だ。
「千雨、ここはダメだ。他のところに行くぞ」
「なんで? ここ、最新のパーツばかりだよ?」
「だろうな。だが……高い。これなら中古のパーツを探した方がいい」
 そうなのだ。
 価格が高すぎる。オレは未来の知識を知っているため、このパーツたちがゴミにしかみえない。
 ならば……と……頭を動かす。
 あちらでもここまで頭脳は持っていなかった。
 パソコンも自作したことはありはしたのだが……
 それから中古のパーツをかき集める。
 千雨はオレが瞬時に書いたメモを見せたら、オレの案をのんだ。
 この子のパソコンの知識などは……この時代より数段上のようであった。
 大量のパーツを抱えてオレの家に帰る。
 不思議だ。まったく疲れない。
 超人にでもなったようだ。それに……五感が鋭い。
 今は夏休み。
 蝉の鳴き声がうるさく響く。
 家に入り……母に声をかける。
 あちらより若い母の姿。
 しかし……違和感がある。
 目に見えない不思議なモノをオレの瞳は捉えた。
 だが、オレも異常であるので、見ないふりをして部屋に向かう。
 千雨とあれこれ意見を言い合い……
 この時代に合わないハイスペックなマシーンを2時間ほどで作りあげる。
 ソレを持って今度は千雨の家に……設置をして……
 設定をする。
 オレの頭はどうしたのだ?
 さまざまな知識が無限にあふれるぞ。
 プログラミングを組み込んで……
 で
「できたぞ、千雨」
「これ……どうやったの?」
「気づいたか……どうやらオレは、事故のショックで頭脳の性能が上がったようだ」
「ご、ごめん」
「うん? 気にするな。オレはおまえを守るヒーローだからな」
「あっ! 幼稚園の時の約束……」
「ああ、オレはあの頃から……誰かの笑顔を守りたかった。こんなところはこちらでもあちらでも変わらないな」
「え?」
「なに……気にするな」
 こうして……オレはこの世界で生活を開始した。
 特に異変もなく小学生を卒業する。
 オレは親のすすめで麻帆良学園都市という所に進学する。
 千雨も一緒だった。
 そんなある日……
 すでに2学期になっていた。
 雨がザアザアと降っている。
「千雨……用事ってなんだ? 最近元気がなかったし……」
 オレは傘も差していない千雨に告げる。
 心なしか……震えているようで……
「千雨?」
「光……私って……変か? 可笑しいか!?」
 様子が可笑しいのは確かだ。
 何があった?
「どうした? 話せ」
「だって……皆……この都市を変だと思わないんだ。それどころか……私が変だって言うんだ! 理不尽だろ! この都市ではあり得ないことが沢山あるのに……なんで……私だけ? ああ、あぁーーーーーー!」
 確かに……この都市は可笑しい。
 巨大な木、身体能力が改造されているような人々……
 オレは自分が普通ではないから……気にもとめなかった。
 しかし……千雨は……
「気づかなくて悪かった。オレがもっと早く相談にのっていれば……すまない」
「なんでおまえが謝るんだよ!?」
「おまえの笑顔を奪った。ヒーロー失格だ」
 オレはそう言って泣きじゃくる千雨を抱きしめる。
「こんなことしかできない。今は泣いていい。そして、涙が枯れたその時に……一緒にこの都市のことを考えよう」
「う、うん」
 刹那――
 
 オレは千雨を抱えて大きく跳躍する。
 直感。そうとしかいえないが……
 オレたちがいた場所は大きく陥没している。
 目の前には……
「鬼?」
 オレは質問するようにソレに告げた。
 鬼は、オレの質問を無視して言葉を喋る。
「おまえ……なんだ? ナニを持っている? 魔力じゃない」
「言葉が喋れるのか? なんだとはこっちの台詞だ」
「儂は、ただの低級の鬼よ。しかし……おまえを喰らえば……儂は高位の鬼までなれる……がぁーーーー!」
 大きな図体の割に恐ろしく速い。         
 とっさに千雨を茂みに投げた。
 鬼はオレの首をつかんで持ち上げる。
 く、そが……
 ……死ぬ。
 その時……
「光を離せ!」
 
 千雨がそう言いながら鬼につかみかかる。
 逃げろと……声が出せなかった。
 千雨の顔は……くしゃくしゃに歪んでいて……ああ、そうじゃない。
 オレは……!!!
「……るんだ」
「なんだガキ?」
「笑顔を守るんだ」
 瞬間――
 オレの腰にベルトが出現する。
 即座に理解する……これは……
 オレは体のスイッチを入れるために……手を動かす。
「変……身!」
 オレの細胞が書き換えられる。
 今のオレは……アノ石から力が流れている。
 さまざまな形態になれるようだが……
「な、なにものだ!?」
「シャドームーン」
 オレはそのまま鬼の腕を強引に力で引き剥がす。
 そして……
「千雨……離れてろ」
「光……なのか?」
「ああ、どうやらオレも普通じゃないようだ。だが……おまえは守る」
 オレはそのまま加速して鬼に回転蹴りを繰り出す。
 威力は大きいようで鬼はハデにぶっ飛ぶ。
 すかさず、拳を好きだったヒーローたちのように大きく連続で繰り出した。
「あ、が……?」
 もういいな。
 オレの足に急速に莫大なエネルギーが集まる。
 その場でオレは大きく跳躍して、空中で回転。
 そのまま……
「シャドーキック!!」
 両足を鬼に同時にたたき込んだ。
 轟音があたりに響き、鬼は爆発した。
 だが……オレの意識は次第に……沈む。
 千雨の声が小さくて聞こえない。
 雨音だけが耳に残っている。
 気がつくとベッドの上だった。
 あたりを見合わすと西洋の人形と見間違いそうなほど容姿が整った子供がオレをじっと見ていた。
 オレと目が合う。
 瞬間、寒気が走る。
 オレを一気にベッドから移動して間合いをとり、臨戦態勢になる。
 可笑しい……こいつ……さっきの鬼より高位なモノなのは確実だ。
 まだ、子供だというのに……オレには化け物にしかみえない。
 こいつの小さい体が、オレには無数の化け物の集合体にみえる。
 それでも震えないのはなぜだろうか?
 それより……胸と腰の中心から力が無限に溢れてくる。
 何者かは分からないが……聞かないといけないことがある。
 こいつが鬼より高位の化け物ならば……
「おまえ……人に仇なす化け物か? そして……オレのそばに女の子がいたはずだ。どこにやった? 返答次第では……ここでオレは、力を解放する」
 すると、化け物は、にやりと笑いオレに告げた。
「ああ、喰ったぞ」
 綺麗な金髪、小さな体、ソレがぐしゃりとオレの中で明確に変形する。
「そうか……なら、おまえは……オレの敵だ!」
 オレの中のスイッチを入れる。
 さっきの動きより、より鮮明で雄々しく……
「変身!」
 体が変化するのが分かる。
 そのエネルギーは、まるで無限のようで……オレからとめどなく溢れ出す。
「貴様が子供の外見だからとオレは許しはしない。千雨の……仇だ」
「ふむふむ……」
 なんだ?                                                
 オレを深く観察しているのか?
 まるで新しい玩具を手に入れたような子供だ。
 だが……その次の言葉でオレは……
「あの眼鏡の女……私のクラスメートだ。簡単に騙せれたぞ。味はとても不味くてな……しかも、泣きじゃくって、無様で滑稽だったぞ。助けてくれと……私に向かって言っていたな」
 もはや言葉はいらない。
 オレは、なぜかある戦闘知識を利用して、即座に左の拳を放つ。
 これはあくまで小手調べ。
 千雨が喰われたというのにオレは頭はとても静かで氷のように冷えていた。
 連続でボクシングのジャブの要領だ。
 だが、すべてをこいつは最小限の動きで躱す。
 オレの直感が告げる。
 その場からバックステップで距離をとる。
 常人なら見切れないほどの極小なまでに細い糸。
 それが100ほどヤツの手から伸びている。
 どうする? 
「ああ、あの娘の最後の言葉……おまえだけは助けてくれだってさ……あははは!」
「殺す」
 オレの中の扉が開く。
 ある形態が思い浮かぶ。ソレは……オレの好きだった、仮面ライダーの『S.I.C』のシャドームーン。
 体が熱い。
「ああーーーーーー!」
「おまえ……面白いな! もしかしたらカリンよりも……」
 オレはゴチャゴチャと五月蠅い、こいつを蹴り飛ばす。
 その攻撃は、ログハウスと思われる家の壁を容易に貫通してこいつを外に吹き飛ばしていた。
 人間形態ではありないほどの速度で追撃する。
 地面に伏しているこいつを馬乗りになり、殴る……止まらなかった。
「死ね……死ねよ! 化け物が!」
「ははははは、おい……よく……その水たまりで自分を見ろよ。おまえの方が化け物だぞ?」
「え?」
 オレの姿は……銀色で凶悪な昆虫を連想させる。
 あちらでかっこいいと思っていた姿が……たまらなく……恐ろしかった。
「おまえは私と一緒だ。人間じゃない……人間はおまえを受け入れない。だが、私は違う。おまえに興味が出た。私のモノになれ」
「ち、違う! きっと分かってくれる。人間は……そんなにひどくない!」
「自分に嘘をつくなよ。おまえは……化け物だ!」
「ああ、違う。シャドームーンはかっこよくて……オレの憧れで……仮面ライダーたちも皆……みんな……強くて……正義で……」
「正義? ああ、アレ見てみろよ」
 オレはこいつの指さす方向に振り向く。
「え、千雨? だって喰われたって……無事だったのか?」
 オレは千雨に近寄る。
 思考が追いつかないが……オレは千雨の無事なのが嬉しくて……手を伸ばす。
 
 瞬間――
「ひっ! 触るな! 光を返せ! 化け物!」
「……え? 千雨? オレは……光だ」
「嘘をつくな! 光は……おまえのように凶暴じゃない。静かで……月みたいな奴で……私の大事な……大切な……」
 オレは……手を引く。
 違う。こんなはずじゃない。
 ただ、オレは……千雨の笑顔を守りたくて……
 そして……ありがとうって言葉が欲しかっただけなんだ。
「千雨……今までオレの幼馴染みでいてくれて……ありがとう。そしてさようなら」
「え? ま、まって!」
 オレはそのまま振り返らずに寮に戻った。
 変身はとっくに解けている。
 熱湯を浴びる。温度はいつもより10℃も高のに……
「はは、ははははははは! まったく熱くない!」
 オレの携帯電話が部屋に鳴り響いている。
 千雨からだった。
 もう……無理だ。
 オレは元々……こちらのオレじゃない。
 千雨の本当の幼馴染みでもない。
 そして……
 オレは憧れのヒーローじゃなくて……化け物なんだ。
 1週間が過ぎる。
 オレの目線は変わった。
 クラスの奴が外国人の文句を言う。
 同じ人種ではないと……
 人種差別……同じ人間でこれなのだ。
 もし……オレが……異形だとばれれば……結果は分かる。
 なぜ……仮面ライダーたちは……人間の為に戦えたんだ?
 オレには人間が分からなくなった。
 目につく……さまざまなこと。
 いじめ、マナー違反、諸々……
 オレが変わったのか?
 いままでこんなことは気にしなかっただろ?
 自然と人がいないところに行くことが増えた。
 1ヶ月過ぎる頃にはオレの周りに人はいなくなった。
 オレが距離をとった……
 人間が怖い。
 オレは……
 でも……ひとりも嫌だった。
 オレは奴のログハウスに向かう。
 奴は当然だと言う顔をしていた。
「人間ゴッコはどうだった?」
 ひどく……胸が痛い。
「私たちとは相容れない。人間は愚かで野蛮で約束も守らない」
 違うと言えなかった。
 恐怖で歪んだ千雨の顔が浮かぶ。
「なあ……答えてくれ。私が何をした? 私たちをなぜ……化け物に変えた? 少なくとも……昔の私は善人だったよ。他の奴らもだ」
 分からない。
 アノ男は……なぜオレを……
「名前を……私は、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと言う」
「オレは……月野光だ。オレたちのような化け物が他にもいるのか?」
「ああ、今は会えないがな。しかし、いつかはまた会えるだろうよ。おまえもこれ以上は、老化しないようだしな」
「……そうか……オレは完全に人のカテゴリーから……」
「光と呼ばせてもらうぞ。おまえをひとりにしない。あの姿を人間は恐れるだろうよ。しかし、私は違う。綺麗だったよ。まるで月の光だ。ゆえに……おまえも私をひとりにするな。私たちは夜が似合う似たものどうしだ」
 エヴァンジェリンが手を伸ばす。
 オレの答えは決まっている。
 ひとりは耐えられない。
 だから……
「よろしく」
「ああ」
 オレたちは、夜までさまざまことを話した。
 大きな月を見ながら……
 なぜか……涙が出る。
 可笑しいな……シャドームーンや仮面ライダーはオレの憧れなんだ……
 しかし……オレが背負うには大きな大きなモノだったのだ。
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