第14艦隊も紆余曲折を経て、少しはたくましくなりました
 艦隊運用って大変です。ナデシコ以外に7499隻ですから
 艦隊管制もそれなりって感じです

 でも艦内容量を増設したナデシコなら問題ありません
 オモイカネもサクサク働いてくれます。私も嬉しいです

 そしてついについに、再びやってきましたイゼルローン要塞!
 ほんとに大きな要塞です。アルテミスの首飾りも形無しです

 宇宙最強の要塞にナデシコは入港します
 イゼルローンのCPさんてどんなかなぁ……
 オモイカネも興味があるみたいです

 私たちは不謹慎ながらちょっとピクニック気分?
 後方支援が主ですから前線に行くなんて……

 でも、甘かったみたいです

 
 
  ──ホシノ・ルリ──







闇が深くなる夜明けの前に

機動戦艦ナデシコ×銀河英雄伝説






第五章(後編)

 『遠征の果てに……/戦慄の大反攻作戦』







T

 ミスマル・ユリカ少将率いる第14艦隊が、帝国領侵攻作戦の拠点たるイゼルローン要塞に到着したのは本隊に遅れること約3週間後のことである。

 「以前に見たときとは比べ物にならないくらい大きく感じるわね」

 ハルカ・ミナトが徐々に迫る銀色に輝く巨大な人工天体を目にして唸った。ワープエンジン試験中にイゼルローン要塞を見たときは随分遠目だったのだ。今はすぐにでも手を伸ばせば届く距離にある。いや、実際に宇宙最強の要塞に入港することになるのだ。ミナトのように大なり小なり興奮を覚える者は多い。

 「要塞一つをまるまる流体金属で覆うなんて凄い技術ですよねぇ、はやく内部を見たいですね」

 「イツキくんの言うとおりだね。あの中に詰まった技術をぜひこの目で確認したいね」

 「やっぱあれだぜ、巨大な要塞にトランスフォーマー機能って必要だと思うんだよなぁ」

 「ねえ、ねえ、金属の海って泳げるのかなぁ……なんか試してみたい気がしない?」

 「ヒカル、お前は黙ってろ」

 ユリカが艦橋内のやり取りを楽しそうに聞いていると、通信士のメグミが報告した。

 「提督、イゼルローン要塞より入電です。入港表示に従い順次入港せよ、とのことです」

 「ありがとうございます。メグミさん」

 ユリカが再びメインスクリーンに映る巨大な要塞に目を向けると、その表面に変化があった。イゼルローンの表面の一角に灯火のような光が次々に現れ、それは一気に発光して巨大な長方形を成した。

 ルリが言った。

 「あれが入港表示みたいですね」

 「では、イゼルローン要塞に入りましょう」

 ナデシコが流体金属の表面に降り立つ。その様子を艦窓から覗き込むクルーも少なくない。金属層を通過する時などは記念写真を撮る者が続出した。

 「恥ずかしい行動は慎んでください」

 と、エリナがすかさず注意するが、その中にアカツキの姿を見つけて怒る気力をなくしてしまったのは言うまでもない。





 寄港早々、ユリカはスールズカリッター大尉とツクモ中佐をともなって総司令部に赴いた。ロボス元帥やグリーンヒル大将に到着の挨拶をするためである。

 「ミスマル・ユリカ、入ります」

 彫刻の施された総司令部オフィスには、あのフォーク准将も居たが、グリーンヒル大将も傍らに控えていたためか、はたまた作戦の進み具合に気をよくしているのか、気分を害されるような発言はなかった。

 ただ、意外なほど平和的に退出したユリカたちは、前線の状況に不安を抱かずにはいられなかった。第14艦隊が到着するまでの間、同盟軍はただの一度も帝国軍の抵抗を受けずに占領地を広げているという事実である。

 「敵は、我が大艦隊に恐れをなして逃亡したに違いありません。我々が征くところに常に勝利はあるのです」

 フォーク准将が自分の作戦を自賛するように主張していたが、もちろんユリカは楽観的になれない。あのローエングラム伯がただ手をこまねいて侵攻を許すはずが無い。きっとこれには何か狙いがあるに違いない。

 「ミスマル提督!」

 通路を歩くユリカたちを後方から呼び止めた人物がいた。

 「キャゼルヌ少将、お久しぶりです」

 ユリカが敬礼すると、事務官僚タイプのエリートは片手を上げて応じ、やや荒くなった息を整える。

 「どうされました?」

 「ああ……いや、スマン。貴官が到着したと聞いてね、執務室から走ってきたんだが……年はとりたくないもんだ」

 「……」

 ユリカたちは近くの休憩室に場所を移した。キャゼルヌはスールズカリッター大尉が差し出したアルカリイオン水を一気飲みし、一息ついてから話し始めた。

 「ところで、今の状況について総司令部はなんと言っていたかな?」

 「はい、さしたる抵抗もなく順調に解放地を拡大していると聞きました」

 「それはグリーンヒル大将がそう言ったのか?」

 「いえ、フォーク准将です」

 ユリカが答えると、キャゼルヌは険しい顔で指を鳴らした。

 「フォークのやつめ、事実だが本当の現状は言わずじまいか。グリーンヒル大将もロボス元帥のお気に入りの手前、指摘できなかったんだろうが……」

 ユリカは怪訝な顔をした。

 「とおっしゃいますと?」

 「ああ、実はな……」

 ユリカたちは、後方主任参謀の口から同盟軍が置かれた深刻な現状を聞くことになった。

 同盟軍は帝国軍の抵抗を全く受けず、ウランフ提督の第10艦隊を先頭に500光年あまりも帝国領に侵攻し、数百におよぶ恒星系を手中に収めていた。その中の30ほどの低開発の有人惑星には合計して5000万人ほどの民間人が存在したが、帝国軍は物資という物資を引き上げており、多くの住民たちは食糧の提供を同盟軍に求めたのである。

 当然、解放軍、護民軍たる同盟軍は、飢餓状態にある彼らに食料を提供することにした。占領地の艦隊司令官は、各艦隊の補給部隊から食料を住民たちに供給したが、それは一時的な措置であって、帝国の民間人と同盟将兵の胃袋を満たすには全く足りなかった。

 「それでだ、前線から物資の要求書が送られてきたんだが……」

 5000万人分の90日分の食糧、200種に上る植物の種、人造蛋白製造プラント40基、水耕プラント60基、それらを輸送する船舶が要求されてきたのだ。この数値を聞いた時点でユリカはスケールの大きさに唖然とせざるを得ない。

 キャゼルヌが唸ったのは、「占領地の拡大によってそれらの数字は順次拡大するであろう」という注釈だった。

 「5000万人分の食糧だけでも3ヶ月で数十億トンに達するはずです。輸送船も数百隻単位になるでしょう。それだけでも大変なのにさらに拡大するとは……イゼルローン要塞にそこまでの生産能力はありません」

 スールズカリッター大尉の言葉に、キャゼルヌはため息混じりに肩をすくめた。

 「その通りさ。せいぜいフル回転させても7億トンが限界だ。1000万トン級の輸送船だって数百もイゼルローンにはないんだ!」

 あきれたというよりは怒りをこめてキャゼルヌは吐き捨てた。3000万人におよぶ同盟軍将兵の補給計画には後方主任参謀として自信があった。それこそが辣腕を持ってなる彼の真骨頂である。

 しかし、想定外の倍近い非戦闘員をまる抱えした状態となると話は別だ。補給計画を大幅にスケールアップせねばならない。しかも前線の物資は窮乏しており、過大な負担に耐えかねて悲鳴を上げる将兵たちの光景が鮮明に浮かぶのだ。物資供給は急を要する事態に発展している。

 「あのう、それって最初はよくてもどんどん負担の数値が拡大するんですよね?」

 「その通りだ、ミスマル提督。フォークのアホは勢力拡大を無邪気に喜んでいるようだが、このままでは物資の負担が3倍から4倍、5倍、6倍になることは確実だ。まったく楽しい未来図だよ」

 最後はもちろん皮肉である。しかし、かなり危険で実現可能な予言だった。

 キャゼルヌはユリカに尋ねた。

 「ミスマル提督はこの状況をどう思う?」

 「はい。でしたら、帝国軍の狙いは焦土戦術によって同盟軍に補給上の過大な負担を強いるのが目的、ということですよね」

 期待通りの回答にキャゼルヌは感心して何度も頷いた。

 「そうさ、その通りだ。そこでだ、私は今からこのろくでもない要求書をもって総司令部に掛け合ってくる」

 「説得なさるとおっしゃるのですか?」

 キャゼルヌは笑った。その笑いに余裕も自信も無い。

 「似たようなものだが、重大な危機を認識してもらおうというところだな」

 「撤退の可能性もあるのでしょうか?」

 むずかしいな、といってキャゼルヌは立ち上がった。やや体が軽くなったのは現実を共有できる知人に心情を吐露したからだろう。

 キャゼルヌは、去り際にユリカに謝罪した。

 「すまんな、グチにつき合わせてしまって……」

 ユリカは首を横に振って笑顔で応じた。

 「いえ、お気になさらないでください。総司令部への上申、通るといいですね」

 「ああ、期待に沿えるように努めるよ。なんといっても大勢の将兵の命運がかかっているからね」

 キャゼルヌの足取りも少しだけ軽くなっていた。










U

 キャゼルヌは、ロボス元帥と面会早々に重大な危機を訴えたが、あのフォーク准将と同じく、その反応はまっとうとはいえなかった。

 ロボスは無能ではなかった。過去形で表現されるのが現状を示しているのだが、40代を過ぎた辺りから衰えが目立ち、第4次ティアマト会戦以降、急激に判断・洞察・決断力が失われている。フォークにいいように専横されるのも当然だろう。

 「で、何が言いたいのかね?」

 ロボスは、たるんだ顎をなでながら微塵の危機感もなくキャゼルヌに問い返した。ユリカに励ましをもらった後方主任参謀の気力が下降する。が、ここが正念場だった。

 「前線からの要求についてです。ご存知でいらっしゃいますよね?」

 何気に失礼な質問だったが、元帥は気づかない。

 「知っている。イゼルローンからの輸送が不可能であれば本国に頼むしかないだろう。経済官僚どもがヒステリーを起こすかもしれないが送らないわけにもいくまい」

 「ええ、当然、最初は送ってくるでしょう。ですが、それらの物資がイゼルローンまで届いたとして、一体その先はどうなるでしょう」

 キャゼルヌは示唆したが、ロボスは無言で顎を撫で回している。どうやら想像すらできないらしい。代わりに答えたのはロボスお気に入りの作戦参謀だった。

 「つまり、敵の狙いは我が軍に補給上の過大な負担を強い、本国から来る輸送船団を攻撃して味方の補給線を絶とうとするだろう、というのがキャゼルヌ少将のお考えなのですね」

 わかっているならロボス元帥を説得しろ、とキャゼルヌは声を大にして言いたい。

 続けられた返答は無情だった。

 「しかし、最前線までの宙域は我が軍の占領下にあり、輸送船の航行にはなんら支障はありません……」

 言葉を切ったまさにこの瞬間、フォーク准将に悪意がひらめいたのである。

 「ですが、キャゼルヌ少将のご懸念ももっともでしょう。そこで小官にいささかリスクを減らす提案があるのですが……総司令官閣下、意見を述べてもよろしいでしょうか?」

 フォークはわざとらしくロボスに発言の許可を求め、許可されると薄気味悪く頷く。キャゼルヌは何かいやな予感がした。

 「もっとも前線に位置し、我が軍の精鋭部隊である第10、第13艦隊だけにでも先行してイゼルローンから物資を供給してはどうでしょうか。二個艦隊分の人員と双方が抱える民間人の食糧くらいならイゼルローンの生産能力と備蓄量でじゅうぶんまかなえます」

 次が衝撃的だった。

 「その護衛には第14艦隊を充てるべきでしょう」

 キャゼルヌは、フォークのまさかの提案に仰天した。この期に及んで第14艦隊を最前線に放り込もうというのか! そもそも、もしそうなら後方から送られてくる輸送船団にこそ、第14艦隊の護衛が必要ではないのか?

 「小官は少しでもリスクを減らしたいと申し上げたはずです。帝国領の最深部に駐留する第10、第13艦隊に対して速やかに物資を供給できれば帝国軍は警戒を強め、本国から来る輸送船団を攻撃しない可能性が高くなります。
 また、二個艦隊の物資補給をすませれば、それだけ本国に要求する物資も減らせます。帝国軍が第14艦隊の運ぶ物資につられて攻撃してくれば一石二鳥です。各個に撃破できる好機が訪れるでしょう」

 囮に使う気か! と思わずキャゼルヌは語気を強めた。

 「否定はしませんが、ミスマル提督は非常に優秀と聞き及んでいます。たかだか一個艦隊レベルの襲撃ならば、じゅうぶん周辺の味方が来援するまで持ちこたえるでしょう。
 つられて出てきた敵を撃滅できれば我が軍の士気はいやおうなく上がり、キャゼルヌ閣下の懸念される帝国軍による本輸送に対しての襲撃も消極的になり、リスクは限りなくゼロになります。もちろん、後から来る輸送船団には念のため護衛はつけます」

 「しかし……」

 キャゼルヌは、楽観論に対する大きな懸念を表明したが、ロボス元帥があっさりとフォークの提案を承認してしまった。

 (なんてことだ! すまんヤン、ミスマル提督……こんな事になるなんて……)

 司令部を退出するキャゼルヌの足取りは鉛のように重たかった。






 その日、本国へ前線からの要求が伝えられると同時に、ミスマル・ユリカは再び総司令部へ出頭した。

 「というわけです。ミスマル提督は第14艦隊を率い、第10、第13艦隊に物資の緊急輸送をお願いします」

 フォークが(嬉しそうに)淡々と説明する。命令の内容にユリカは最初驚かなかった。第14艦隊の主な任務は後方支援が目的だから、物資輸送は想定内にあった。前線の物資が底を突き始めているなら当然ありえるだろう。

 問題はフォークが何を意図し、補給物資を最前線の二個艦隊のみに先行して第14艦隊に運ばせようとしているのか、である。

 「リスクを軽減し、最前線の防衛を強化するため」

 などという、もっともらしい理由をフォークは力説していたが、ユリカは彼の歪む口元を目撃して別の意図があると悟った。どちらかというと悪い方の類に属するものである。

 「また、第14艦隊は輸送完了後も二個艦隊とともに周辺宙域の警戒にあたっていただくことになります。確率は低いのですが、本輸送完了までに帝国軍が最前線に攻撃を仕掛け、我が軍をかく乱するという可能性があるものでして」

 ユリカは、まさかの駐留命令に驚いたが、今のフォークの発言でその意図がわかった。私たちを最前線に放り込みたいのね、しかも合法的に。彼は多少なりとも帝国軍の反攻があることくらいは想像できているようだけど、それをいとも簡単に撃破できると考えているところが度し難いわ。きっと、私たちがそのときに攻撃されることを期待しているんでしょうが……

 ユリカはそこまで洞察したが、むろん何も言わずロボス元帥から命令書を受け取った。

 実に腹の立つことだが、ユリカはもう組織に属する「提督」である。ウランフ提督が再度「覚悟」を求めたように軍人は命令に忠実でなければならない。ネルガル時代のように勝手な行動は取れないのだ。

 それに、任務内容が物資窮乏にあえぐ第10艦隊と第13艦隊の支援ならば、是が非でも行かねばならない。恩人であるウランフと同盟の未来を背負うヤン・ウェンリーの力になりに行くのだから本望である。

 「全力を尽くします」

 ユリカは敬礼し、フォーク准将の歪んだ視線を受け流しつつ、きびすを返して司令官オフィスをさっさと退出した。

 フォークの陰謀は成功したかに思えたが、まことに皮肉なことに、彼の悪意がユリカと第14艦隊を救うのである。









V

 退出したユリカはしばらく通路を歩き、士官控え室のドアを開いた。そこにはイスに腰掛けて一人端末をいじるツインテール髪の美少女がいた。

 「ルリちゃん、終わったよ」

 「はい、ちょっと待ってください」

 ホシノ・ルリは、いそいそと片付けを済ませ、端末を小脇に抱えて室内を出た。

 「どうでした、少将?」

 「うん、まあねぇ……」

 「私も、あのフォークって言う人嫌いです」

 えっ? とユリカは呟き、傍らを歩く妖精のような少女に視線を投じた。

 「もしかして見てたのかな?」

 「はい、すみません。フォーク准将という人を見てみたかったので覗いちゃいました」

 「はぁ……」

 ユリカは、怒るというよりは感心していた。イゼルローンのセキュリティーシステムは宇宙最強の要塞に相応しく、艦隊旗艦級を軽く上回るということだった。ウリバタケやアカツキなどは興奮し、何度総司令部へ行きたいとユリカにうっとうしいくらいせがんだか数がしれない。

 ルリは、そのセキュリティーシステムをユリカが総司令部オフィスで命令書を受け取るまでの時間で突破してしまったのだ。

 「あっ、違います。管理システムの一部だけです。メインコンピューターをハッキングしたわけではありません。それに彼女が協力してくれたので、私は何もしていないんです」

 「彼女って?」

 「イゼルローン要塞のメインCPさんです」

 ルリは「オモイカネ」を通していろいろなCPと話をしてきたのだから、いまさら驚きはしないが、やはり凄い子だと思わざるをえない。

 「へえー、それでここのCPさんてどんな感じなのかなぁ?」

 「そうですねぇ、貴婦人の異名に相応しく気高い女性です。オモイカネは彼女が気に入ったようです」

 「そ、そうなんだ」

 「ええ、でもちょっと嫉妬心が強そうですね」

 「はあ……」

 二人は話をしながら突き当りを右に曲がった。先刻から同盟兵士が彼女たちとすれ違うたびに羨望とも奇妙とも思える視線を投じて敬礼していたが、ユリカは普通に返礼しているだけで視線は気にしていない。どちらかというと同盟の軍服姿のユリカより、ネルガルの制服姿のルリのほうがかなり目立っていた。

 この日、イゼルローン内で目撃されたツインテール髪の美少女について、目撃した兵士たちの間では伝説的な話題になったという。

 ちなみに、ルリがユリカと行動を共にしているのはスールズカリッター大尉の「副官代理」として協議内容を端末に記録するためであり、決してロリファンを増やそうとしたわけではない。


 しばらくして、ユリカとルリは後方主任参謀オフィスにやってきていた。キャゼルヌと物資輸送に関する協議を行うためである。

 「すまないミスマル提督、こんなことになってしまって……」

 キャゼルヌの開口一番は謝罪だった。総司令部に危機感を認識させるどころか、第14艦隊が危険になるかもしれない任務に従事させることになり、ろくに反論できなかったことに自責の念を深く抱いていたのだ。

 「そんな顔をなさらないでください、これも任務です。それに私にとっては悪い任務ではありません。何と言ってもウランフ提督やヤン提督のお役に立てるのですから、むしろ本望です」

 ユリカの気遣いにキャゼルヌは頷いたが、どこか気が重そうだ。

 しかし、キャゼルヌは気を取り直して協議に入る。彼には一つ考えがあったのだ。それを託すのがミスマル・ユリカである。

 「貴官に輸送を頼むのは二個艦隊分の食糧と双方が抱える500万人分の物資とプラントだ。1000万トン級輸送船35隻、500万トン級輸送船12隻の47隻になる」

 「はい」

 「念のために物資は多めに積んでおく。行く先々で求められることもあると思うからね」

 キャゼルヌの意味深な発言に、ユリカの表情がより真剣になる。

 「私に何か他にやることがあるのですか?」

 「察しがいいな、その通りだ」

 キャゼルヌは少しだけ声を潜めた。ルリは黙々と端末をいじっている。

 「実は、ミスマル提督に各星系に駐留する艦隊司令官にそれとなく現在の危機を注意喚起してもらいたいんだ。ようは警告だな」

 「警告ですか?」

 「そうだ、貴官にしか頼めないことだ。お願いできるかな?」

 迷う理由は無かった。ユリカは即答した。

 「よし、じゃあ今から言うことを各艦隊司令官に伝えてほしい」

 一 物資の供給が現在の状況ではすぐに破錠すること

 一 帝国軍の反攻が近いであろうこと

 以上である。

 なるほど。簡潔にして明確なメッセージではあるが、一つだけ疑問があった。

 「輸送船団が狙われるかもしれない危険性を伝えなくてもよいのですか?」

 キャゼルヌは頷き、ユリカに説明した。

 「冷静に聞いてもらえる司令官ばかりならいいが、残念ながら今の状況ではそうとは限らない。逆に動揺を増大させ、準備前に攻撃されるのも問題だ。それに、まだ輸送船が襲われると決まったわけではないからな」

 ユリカは納得した。単純に危機を伝えるだけが全てではないのだ。余分な情報を伝えて軍が瓦解したら元も子もない。

 「総司令部は撤退など考えもしないだろうからな。残念だが本国の主戦派議員も同じだろう。だが、各艦隊司令官にそれとなく伝えることで警戒を強めてもらい、そこから艦隊司令官が連携して撤退論を唱えれば総司令部も前線の意向を無視できなくなるだろう」

 「はい、必ずお伝えします」

 「ああ、頼む。こちらもさっそく物資の積み込みを始める。時間も限られていることだし、急な出発になるかもしれない。ミスマル提督には艦隊の出発準備に万全を喫してもらいたい」

 「承知しました、キャゼルヌ少将」

 キャゼルヌはユリカに頷き、少し向こうで端末をいじるルリに言った。

 「ルリちゃんも頼むよ。オモイカネとルリちゃんも頼りにしているからね」

 「はい、任せてください」

 キャゼルヌの依頼とユリカの行動は、後に大きな意味を持つことになる。





◆◆◆

 それから3日後、第14艦隊は47隻の輸送船団を伴ってイゼルローン要塞を出発する。

 そしてちょうどその頃、首都星ハイネセンにある最高評議会ビルでは、前線からの要求に対して激論が交わされていた。

 賛成派は、大規模な要求とはいえ遠征の目的の一つが民衆の解放を前提としている以上、飢餓状態にある彼らを救うのは人道上の常識として当然であり、彼らを救済し、民心を同盟に向けさせることができれば帝国の体制にヒビを生じさせることにつながると主張した。軍事的にも政治的意義からも前線の要求に応じ、一刻も早く物資を供与すべきなのだ。

 反対派は反論する。

 もともと遠征そのものに無理があった。当初の軍事費用だけで国家予算の5.4パーセントに達し、軍事費用の一割以上を占めている。3000万人の将兵達の費用だけでも莫大であるのに、さらに5000万人におよぶ民衆に対する費用をまで計上すなら国庫の破錠は避けられない。

 すでに戦争を継続する場合ではない。速やかに遠征を中止し、全ての占領地を放棄して撤退すべきである。今ならまだ間に合う。イゼルローン要塞さえ確保しておけば帝国軍は簡単に侵攻することは出来ないのだから。

 しかし、両者の意見は対立し、なかなか結論は出ないように思われた。が、最終的には前線からの悲鳴とも取れる通信文が届き、要求どおりの物資輸送が開始された。

 さらにこの後、同盟中枢部は全身を凍りつかせる事態に直面することになった。










W

 ユリカは、ボルソルン星系近くで第12艦隊司令官ボロディン中将と連絡を取ることができていた。

 「おお、ミスマル提督か、まさか貴官から通信が入るとは思わなかった」

 金色のチョビ髭を生やした壮年の提督は、通信画面に映る女性艦隊司令官に礼儀正しく敬礼した。その容姿は軍人というよりも百戦錬磨のハスラーのような印象を受ける。

 「たしか貴官の艦隊は後方支援が主だと聞いたが、何か不測の事態でも起こったのか? まあ、我が軍の現状そのものが不測の事態だがな」

 ボロディンも皮肉を言いたくなるようだ。ユリカはウランフ提督も信頼する同盟軍の用兵家に依頼された内容を要領よく伝えた。

 「そうか、帝国の反攻が近いということだな」

 ボロディンは腕を組んで神妙な顔つきで呟いた。彼自身も全く現状を楽観などしていなかった。後方がそのような状態なら遅かれ早かれ遠征そのものは失敗するだろう。前線にある艦隊全てが危険にさらされるのだ。

 もともと多くの問題を抱えた遠征である。ボロディンは遠征上の問題に気がついていたが、上層部の命令を守るのが軍人であるとして会議の席でも特に発言はしなかった。

 「貴官やヤン提督、ウランフの懸念どおりの展開になったわけだな。いまさらだが、私も何か発言しておくべきだったな。そうすれば総司令部も多少は作戦内容に変更を加え、侵攻そのものにもう少し配慮しただろうからな。貴官たちには申し訳ないことをしたな」

 さすがだ、とユリカは思う。名将と称される軍人に共通する部分は多いが、自分の失敗に対して素直に反省できる点も優れた素質の一つなのだ。己を省みれない者は真っすぐに進んでいるようで突然まっさかさまに突き落とされる。それは優れた指揮官として人格にも影響を与える。

 その証拠にボロディンは、階級が一つ下で女性であるユリカにも誠実な対応を取ってくれていた。

 ユリカは、ウランフの言うようにボロディン提督は非常に信頼できる人物だと実感した。彼になら輸送船のことを話しても大丈夫だろう。

 「なぬう! 本国からの輸送船護衛に貴官の艦隊を充てないだと? 総司令部は我々をよほど窮地に追い込みたいらしいな」

 ボロディンは、さすがに問題の本質に気がついたようである。その過程を聞きたがった。ユリカは公言しないことを条件に一連のやり取りを中将に伝えた。

 「なるほど、貴官はよほど作戦参謀に嫌われたとみえるな。本来なら恨まれること自体が筋ではないが、ああいう手合いはムダにプライドが高いからな」

 ボロディンの顔はユリカに同情するようだ。彼もフォークの為人をそれなりに把握しているらしい。

 「貴官隊は合法的に前線に放り出されたという事か」

 ええ、と言ってユリカは肩をすくめた。会議での発言そのものを後悔などしていないが、艦隊の将兵たちに苦労をかけてしまうことには申し訳ない気持ちで一杯だった。

 「なに、そう沈むこともないだろう。前線において貴官に裁量の一部が任されたと考えれば腹の虫も治まろう」

 ユリカは手をポンと叩いた。なるほど、そういう建設的な考え方もあるのね。さすがに名将の発言は違うものがあるわ。

 実際、ユリカはフォークに嫌われなければ、こうして各艦隊司令官に警告を発し、現状を変えようという行動を取れなかったかもしれないのだ。

 まさに不幸中の幸いだ。

 ボロディンのアドバイスは「その言やよし」である。

 ユリカは中将にお礼を言い、物資の残量を尋ねた。返答は「お手上げ」である。

 「では輸送船を一隻置いていきますね」

 ユリカがさわやかに言うと、画面の向こうのボロディンの表情が埴輪のようになった。

 「それはありがたいが、最奥の第10と第13艦隊に届ける物資じゃないのか? 後でフォーク准将に知られでもしたら、それこそ貴官やキャゼルヌ少将の立場が危ういぞ」

 切羽埋まった状態にあっても、ユリカたちのことを心配してくれるのはとてもありがたかった。

 「そのときはそのときです。幸い、キャゼルヌ少将は余分に物資を持たせてくれています。私の裁量で物資を提供することも視野にいれてくれています。たった一隻で申し訳けありません」

 「そうか、キャゼルヌ少将が……」

 ボロディンは、後方主任参謀の捨て身の支援に胸を打たれた。物資を余分に持たせたということは、きっと書類の一部に手を加えたのであろう。デスクワークの達人としてこれまで清廉潔白の身を処してきた人物が前線の窮乏を何とかしたいと処分も覚悟の行動に出たのだ。感動しないわけがない。

 「これはキャゼルヌ少将に直接礼を言わねばなるまい。全てが万事めでたく収まった後のことだがな」

 とりあえず500万トン級の輸送船が一隻でもあれば、一時的にせよ住民に物資を供出しても艦隊も一息くらいはつける量だ。

 ただし、それだけだ。

 頼みの綱は後方からの本格的な物資輸送になるが、今のところ、かなり不安なものにならざるえない。

 なぜなら、帝国軍が第14艦隊を襲わなかったのは、それが本隊ではないことを充分承知し、見逃したからだろう。

 (──フォークのやつめ、墓穴を掘ったな……)

 ともすれば、帝国軍は本格的な輸送の到来を待って襲撃するに違いない。わかりきって当たり前のことなのだが、総司令部はなおも楽観視し、輸送は問題なく成功すると考えているのだろう。

 「グリーンヒル大将が気の毒だな……」

 あのフォークというお目付け役が四六時中、ロボス元帥に張り付いて見張っていることを総参謀長は快く思っていないだろう。そのことを強く言えないのは、ロボス元帥がフォークを気に入ってしまっているからだ。ロボスの機嫌を損ねてグリーンヒル大将が任を解かれでもすれば、後はフォークのやりたい放題である。

 いずれにせよ、状況は悪化の一途を辿っている。今の総司令部には何を言ってもフォークと言う悪璧が立ちふさがり、ロボスは前線の具申に対して首を横に振るだろう。

 だから、ミスマル提督が後方の危機を知らせてくれたことは大いに自衛的手段を高めることにつながるのだ。

 対応は早いほうがよい。

 「ミスマル提督、貴官やキャゼルヌ少将のプレゼント、ありがたく頂戴しよう。私も危機に対する準備を怠らないようにする。貴官も十分に注意し、くれぐれも用心するように」

 「はい、ボロディン中将」

 通信が終わり、お互いに敬礼して画面が消える。

 ボロディンは、ユリカが伝えてくれた情報をどう生かすべきかすぐに考え込んだ。意外に選択肢は少ない。総司令部の意向は政治家どもの思惑もあり、簡単に覆りはしないだろう。総司令官に苦言を呈しても効果は薄い。かといってこのままジリ貧になるのを待つわけにもいかない。
 
 さて、どうするか……

 「まずはビュコック提督に相談してみるか」

 ボロディンはそう考え、信頼する同盟軍の宿将に超光速通信を送ることにした。










X

 第14艦隊は、帝国側の回廊の出口付近で早くも監視部隊によって発見されていた。

 その報告書を読んだ黄金色の髪を有する美貌の元帥は、正面に控える赤毛の親友に質問した。

 「どう思う、キルヒアイス?」

 「この艦隊の意味ということでしょうか?」

 「ああ、そうだ。報告によると輸送船を50隻ばかり護衛しているようだ。これが引っかかる」

 「罠、とお考えなのですか?」

 「否定はできない。輸送船の数から考えれば本輸送でないことは明らかだ。誰だか知らないが多少は知恵の働くヤツがいるようだな。いささか意図が見えすいているがな」

 まさか、悪意が原因だとはさすがの二人にもわからない。

 「報告書ではイゼルローン要塞から物資が輸送されたとあります。私も同感です。本格的な輸送を前に我々に囮を仕向けたと考えられます」

 ラインハルトは、赤毛の友に頷いたが、まだ何か引っかかっているようだった。輸送船が囮であり、中身が空であればそれは遊ばせておけばよい。問題は中身がともなっていた場合となると、いささか事情が異なってくる。

 「もし輸送そのものが本物だといたしましても、50隻程度では前線にある同盟軍全体を潤すものにはなりえません。ほんの数日か、10日ほど増えるだけです。
 また、この輸送船が特定の艦隊に供給されたとしても、後方からの大規模な物資輸送が行われない限り現状は変わらないでしょう。あえて無視なさってよろしいかと」

 「やはりそう思うか、キルヒアイス」

 「ええ、この輸送船を襲ってしまえば本国から来る船団はより警戒を強めるでしょう。前線の艦隊を護衛に回されると厄介です」

 ラインハルトは、ニヤリと笑った。

 「そうだな、ヤツらに占領下は安全だと思わせておこう。焦って大魚を逃がす愚は避けたいからな。だが……」

 ラインハルトは急に考え込む顔をした。

 「いかがされました、ラインハルトさま?」

 「いや、たいした事ではない。輸送船を護衛している艦隊が正規か、そうでないのか……いずれにせよ、この艦隊を迎撃するためにあらたに提督を充てねばならない、ということだ」

 めんどくさい、というより、詳細不明の艦隊に対する興味と、艦隊迎撃の任に充てる提督を誰にしようかと楽しんでいるようだ。

 「イゼルローンに残る部隊からわざわざ編成され囮を務めるくらいだから、指揮官はそれなりに能力のあるヤツだと考えていいだろう。ケスラーに任せたいところだが時間もないし、集積地防衛の任務を外すわけにもいかぬ」

 「すでに人選は決しておりましょう」

 親友のいたずらっぽい指摘にラインハルトの表情が緩んだ。

 「やれやれ、もう少し議論に付き合ってくれてもいいだろうに。キルヒアイスは何でもお見通しだな」

 「ですが、間違っていたら赤面ものです」

 二人は笑い、同時に名前を挙げ、また笑った。

 「よし、すぐに任地より召集しよう。キルヒアイス、お前の艦隊から残りの戦力を再編してくれ。委細は任せる」

 「かしこまりました」

 こうして、あらたな提督の人選は決定されたのである。選んだほうも選ばれたほうも、大きな歴史のうねりの只中に現れた「敵」の衝撃的な事実を知るのは、もう少し先のことであった。





 第14艦隊がイゼルローンを出発してから間もなく、首都星には前回と同様の物資要求が前線より伝えられ、主戦派議員たちを青ざめさせていた。

 予想通りではないか、と反対派議員は一斉に主戦派を批判した。帝国軍の狙いは民衆を利用して我々に過大な補給の負担を強いることにある。いずれ5000万が1億にも2億にもなるだろう。すでに財政の破錠は目に見えている。これ以上の負担は国家そのものの瓦解につながりかねない。すみやかに占領地を放棄し、撤退すべし!

 財政委員長のジョアン・レベロは友人の人的資源委員長ホワン・ルイとともに強く主張した。当初の計画は崩れ去り、同盟軍は疲弊している。このままでは軍は近いうちに帝国軍の総反撃を受けて全滅するかもしれない。

 くだらないプライドにすがりつくもではない。

 今すぐに撤兵を決定せよ!

 だが、主戦派議員からの返答は無い。ほとんどがうつむいた状態で半ば放心状態だ。出征前にレベロが怒り出すくらい威勢を放っていたウィンザー夫人も真っ黒な端末を見つめたまま微動だにしない。いまや撤兵しか方法が無いことは彼女にもわかっていた。際限なく膨らむ膨大な費用支出を続けることなどできはしないのだ。

 しかし、夫人をふくむ主戦派議員はそれでも決断しなかった。このままなんの成果も挙げずに撤兵したのでは、主戦派議員たちの立場が無かったからだ。必ず撤兵に対する主戦派支持層が彼らの政治責任を追及してくるだろう。

 残念だが、彼らの多くは目の前の大きな危機や将兵達の命より、自分たちの地位や権力が大事だったのである。

 迷走する主戦派議員を冷ややかに見つめるトリューニヒトは、自分の先見性に大いに満足していた。現在の同盟の国力では遠征などムリがあるのだ。近々に帝国軍による反撃があり、遠征軍は無残に敗北するだろう。そして現政権は責任をとって解散し、軍需産業界に支持がある自分が政権の代理議長を務め、ほどなくして正式にトリューニヒト政権が誕生するだろう。

 無謀な出兵に反対した自分は識見に富む真の人物として声価を高め、同盟を勝利に導いた唯一の元首として永遠にその名を歴史に留めるであろう。

 それこそがトリューニヒトの望みなのである。

 これで第14艦隊が活躍してくれれば、彼にとってもさらに好都合なのだが……

 議会は「撤兵」という結論にいたらなかった。多数を占める主戦派議員が何らかの成果を挙げるまで撤兵しないことを決めてしまったのである。

 






Y

 一方、第14艦隊は、ヤンとウランフがそれぞれ駐留する星系のほぼ中間地点であるファンベルグ星系に到達し、惑星ケムニッツ周辺を拠点にして双方に輸送を始めていた。

 また、途中、各艦隊司令官に警告を発することが直接できたのは第12艦隊ボロディン中将、第5艦隊ビュコック中将、第8艦隊アップルトン中将、そして第10艦隊ウランフ中将と第13艦隊ヤン中将の6名である。

 第3、第7艦隊司令官とは占領政策の多忙を理由に会ってもらえなかった。第9艦隊はアル・サレム中将が占領星系の不穏な動きを抑えるために直接指揮を執っていたため、代わりに副司令官であるライオネル・モートン少将が通信を受けてくれた。

 モートン少将は、短く刈り上げたと頭髪と男らしい締まった表情をした50代の軍人である。カールセンと同じく士官学校を卒業しておらず、実力的には一個艦隊の司令官になっていてもおかしくない人物だとツクモ中佐が教えてくれた。

 「貴官がミスマル提督か?」

 最初、驚いていたモートン少将だったが、ユリカが用件を伝えると話はちゃんと聞いてくれた。

 「なるほど、情勢は悪化の一途と言うわけだな。後方の補給物資がそんなことでは将兵たちには酷だが、過度な期待は抱かないほうがいいかもしれないな」

 モートン少将は、険しい顔で考え込むようにしてから通信スクリーンに映る女性司令官に言った。

 「わざわざ伝えてくれてすまない。しかも輸送船を一隻くれるとは感謝に堪えん。サレム中将には私が必ず直接伝えるとしよう」

 「はい、お願いいたします。輸送船が一隻で申し訳ありません」

 ユリカがすまなそうに言うと、モートン少将は首を横に振った。

 「申し訳ないのはこちらのほうだ。貴官とキャゼルヌ少将に危険な行動をとらせることになったのだからな。もし、今回の行動が後々問題になるならば、私はサレム司令官と一緒に断固として司令部に抗議しよう」

 「お気遣い、感謝いたします」

 お互いに敬礼して通信を終了する。

 ユリカは安堵した。司令官に直接会うことはできなかったが、副司令官モートン少将は非常に話しのわかる人物だったからだ。そのような人物を副司令官に据えているアル・サレム中将も信頼できるのではないかと思うのだ。

 「これでみんながより危機感を強めてくれれば……」

 各艦隊司令官が連帯し、総司令部に撤退の意思を一斉に訴えれば、この悪化をたどる情勢に見切りをつけ、帝国軍の全面攻勢が始まる前に後退できれば……

 ユリカには直接「撤退」という言葉で表現する立場に無い。その発信者は各星系に駐留する中将たちに期待するしかない。きっとヤン提督なりウラン提督なりが声を上げるに違いない。二人に後方の情報を伝えたとき、あきらかに現状に対する打開策を如何にすべきか深く思考しているように見えたのだ。

 「早ければ早いほどよいのだけれど……」

 第14艦隊が駐留するファンベルグ星系は、少ないとはいえ20万人規模の入植者が存在する。ウランフの管轄だったがユリカが引き受け、彼らに食糧を供給するとともに荒れた大地の農業的支援も行っている。そのため、キャゼルヌが多めに持たせてくれた物資が意外に少なくなりつつあった。

 つまり、第14艦隊も他の艦隊の二の舞になるのが迫ってきているのだ。総司令部を説得できなければ撤退はできない。命令もないのに退くことすら出来ないのが軍隊という組織の厄介なところではある。

 「私たちが早いか、帝国軍が早いか」

 ユリカが思案を巡らせようとしたとき、通信士のメグミが慌てて緊急電文を読み上げた。

 「大変です! 本国からの輸送船団が帝国軍の攻撃を受けて全滅したそうです」





◆◆

ローエングラム元帥府──

 ラインハルトは偵察部隊からの報告を読み終えると、キルヒアイス中将に重大な任務を与えた。

 「イゼルローンを経由して大規模な輸送が開始される。護衛艦の数もたいしたものではないらしい。イゼルローンの低脳どもめ、まんまとひっかかったようだな」

 「先の輸送船団を見逃した甲斐がありましたな」

 と感情の乏しい声で発言したのは、総参謀長としてラインハルトの傍らに控えるオーベルシュタイン准将だった。今回の焦土作戦をラインハルトに提案したのは他ならぬ彼である。

 「まったくだな。どうやらヤツらは戦うことだけが重要だと思っているらしい。古来より補給線を絶たれた軍隊ほど悲惨な末路は無いというのに」

 人命軽視、補給軽視。いずれも軍隊という組織が瓦解する絶対方程式の一つである。

 「キルヒアイス、本命の輸送船団は敵の生命線だ。お前に与えた戦力の全てをあげてこれを叩け」

 「かしこまりました」

 「細部の運用はキルヒアイスに任せる。足りないものがあれば遠慮なく言ってくれ」

 一礼して退出しようとする親友をラインハルトは呼び止めた。

 「勝つためだ、キルヒアイス。この戦いが終われば民衆たちに豊富に食糧を供給する」

 ラインハルトは、キルヒアイスが焦土戦術に批判的であることを知っていた。彼は言葉にも表情にも態度にも出したことはない。

 しかし、ラインハルトは無二の親友が慈悲深い一面をもっていることを知っていた。





 スコット提督が護衛する輸送船団は圧倒的多数の帝国軍の待ち伏せに遭い、文字通り「全滅」した。

 キャゼルヌ少将は船団護衛に最低300隻を要求し、しかも第12艦隊司令官ボロディン中将が船団の護衛を買って出たにもかかわらず、総司令部はにべもなく却下したのだった。

 「占領下の安全は確保されており、わざわざ過剰な護衛は必要ありません。占領地の確保を優先してください」

 フォーク准将がロボス元帥を丸め込んだであろう命令を伝えて通信を切ると、さすがのボロディン中将も紳士的な態度を怒りに変えて軍用ベレーを床に叩きつけた。

 「いいだろう、もう後は知らん! 勝手にしろ! 安全な場所でふんぞり返っているモグラどもに付き合っていられるか」

 ボロディン中将は端末に向かい、ビュコック提督に直通通信を送った。









Z

 第10艦隊が第14艦隊から物資を受け取って一息ついた頃、総司令部からその方針が伝えられると、ウランフや彼の幕僚たちは一様に不快感を抑えられなかった。

 本国より新たな物資が届くまで、必要な物資は各艦隊が現地で調達せよ──

 ろくでもない方針だ、とウランフは思わずにはいられない。他の艦隊に比べれば第10艦隊と第13艦隊は第14艦隊から物資補給を受けて潤っているが、あくまでも一時的でしかない。ほとんど「解放者という階段を転げ落ちろ」、と言わんばかりの極端な方針を発した総司令部に向って非難ごうごうの各艦隊司令官の顔が目に浮かぶのである。

 (やはり、ここはミスマル提督の示唆したように撤退が最善だろうか? ヤン提督に相談してみるかな)

 そんな事を考えていた矢先、第13艦隊から直通通信が届いた。

 「おう、ヤン・ウェンリーか。ちょうどいい、貴官に通信を送ろうと思っていたところだ」

 『と、おっしゃいますと、もしかしてウランフ提督もお考えになっていたのですか?』

 「撤退の件だろ?」

 ヤンはかすかに笑った。

 『ええ、さすがはウランフ提督、話が早くて助かります』

 「うむ。このまま砲火を交えずに撤退など消極的かとも考えたが、作戦自体の継続が望めない状態ではこだわる必要もないだろうからな」

 『おっしゃるとおりです。幸いにもミスマル提督のおかげで我々には余力があります。民衆にさらに一週間分の食糧を供給しても撤退までの物資はなんとか間に合うでしょう。敵が我が軍の補給線を完全に絶って総反攻に出る前にイゼルローンに一日でも早く撤退すべきです』

 「その意見には私も異論はない。だが、我々の動きに気づいた帝国軍が攻勢を早めてくる可能性はないのか?」

 『当然考えられます。もちろん反撃の準備を充分に整えるのが前提です。兵が餓える前に後退できれば敵の攻勢にも対処できます。それは日が短いほどよい。敵も我が軍が餓える時期を計っています。その時期は長くはないのです。撤退の時期が早ければ敵に罠だと思わせることも可能です』

 ウランフは同意するように頷いた。

 「そうだな、撤退の準備が整えられればやりようはある。こちらもすぐに準備を始めるとしよう。それから、第14艦隊には私が伝えるが、他の艦隊にはどう連絡をつける?」
 
 ヤンは、自分よりその役目に相応しい人物を知っている。アレクサンドル・ビュコック提督だ。一兵卒からの叩き上げである老提督の進言を総司令部も簡単に無視することはできない。私より効果的でしょうと。

 「よし、時間との勝負だな。お互いになるべく急いで事を運ぶとしよう」

 『はい、それでは失礼します』

 ヤンの敬礼する姿が通信スクリーンから消えた直後、ウランフに急報がもたらされた。

 「なんだと! ちっ、早まったことを……」




◆◆◆

 ナデシコの艦橋にもその急報は届いていた。

 「大変です! 第7艦隊の占領地内で住民による暴動が発生しました。死者も出ているとの事です。同様の事態が第3、第8艦隊の占領地でも発生しているようです」

 報告したメグミの表情は不安で一杯だった。これを耳にした艦橋人員も「そんなばかな!」と憤っている。

 「メグミちゃん、どうしてそんなことになってしまったんだ?」

 尋ねたのはアキトだった。この遠征に問題が数多くあれ、同盟軍は解放者として帝国の民衆を救済していたのではなかったのか? 手と手を取り合っていたあの映像は一体なんだったというのか! 博愛の心で圧政にあえぐ帝国の民衆たちに手を差し伸べ、一生懸命援助をした日々は一体なんだったというのか! 

 アキトの握り締められた拳が重く震えていた。

 情報を伝えたメグミは、動揺を抑えるように胸の辺りで手を組んだ。

 「どうも総司令部から届いた先刻の方針を実行し、住民に配る食糧を停止したり、逆に取り上げたりしたのが原因みたいです」

 「なんという浅慮な! それでは我々は彼らの敵になってしまうではありませんか!」

 ツクモ中佐の重大な怒気にプロスペクターは背筋を凍らせた。

 いまさらだが、ローエングラム伯の真の狙いが彼には理解できたのである。単純に戦略上の罠に限らず、政略上の罠も焦土作戦には含まれていたということだ。

 「恐ろしい人ですねぇ、ラインハルト・フォン・ローエングラム伯……」

 解放軍、護民軍を自称していた同盟軍は民衆を敵に回したのである。長い間、同盟が救済してくれると信じていた民衆の夢をズタズタに切り裂いてしまったのだ。不信感の増大した今、そのもつれにもつれた糸を解きほぐす方法はもやはないだろう。

 (ここまで徹底するとは、ヤン提督が彼を恐れるわけか解りましたよ。私たちは戦う前に負けていたのですからね)

 今後、同盟は民衆を解放目的とした「大義の戦争」を二度と行うことはできないだろう。帝国に進行すれば「侵略者」として扱われ、帝国中枢部も国家としての正統性を主張し、対同盟への戦争を進めやすくなるだろう。 

 (いや、まってください)

 プロスペクターは、心の中で自分の見解に疑問を呈した。得をするのは帝国なのか? たしかに民衆の支持は以前より高まるだろう。しかし、今回の作戦を指揮、立案したのはローエングラム伯である。彼が理性を失った同盟を撃ち、民衆を救済したとしたら?

 (そういうことですか、ローエングラム伯……)

 国家ではなく、ローエングラム伯個人に民衆の支持を集めるための策略だったら? 彼の下に数十億の民衆の支持を結集するための戦いだったら?

 (一介の軍人に納まるつもりは毛頭ないというわけですね)

 ヤン・ウェンリーの他に、プロスペクターはラインハルトの目指す野心を読み取ったのであった。




◆◆◆

 ユリカの端末にウランフから通信が来ていた。

 『ミスマル提督、事態は知っているな』

 「はい、中将」

 『事態は我々の予測を超えて悪化している。先刻、ヤン・ウェンリーと相談したのだが、我々は占領地を放棄して撤退することにした』

 ユリカやキャゼルヌが期待していたことだ。さすがはヤンとウランフだった。現在の状況を冷静に分析し、もっとも最善と思われる手段を選択したのだろう。

 「私も同感です。本国からの輸送が絶たれた今、撤退が最善です」

 『その通りだ。我々は余力のあるうちに撤退準備を進める。もちろん、その間に敵の攻撃に備える準備を整えることも必要だ』

 同時進行は簡単なことではないが、もうやるしかない。そうしなければ帝国軍の総反撃に対処できないだろう。

 「了解しました。こちらも撤退準備を始めます。ですが、総司令部には誰が要望を伝えるのですか?」

 『心配しなくてもいい。それはヤン提督がっビュコック提督に頼んでくれるそうだ』

 ビュコック提督といえば、作戦会議の際にさりげなくユリカを支援してくれた白髭のおじいさんである。最初の印象は見るからに「頑固そう」と感じたが、ウランフの話や会議中での援護射撃、輸送中のやり取りから、今では「頼りになるおじいさま」という認識に改めている。

 ちなみに、「サンタ服が似合いそうですよね」という印象を抱いたのはナデシコの古参艦橋人員全員だったりする。

 『いずれにせよ、撤退の準備は迅速かつ万全を喫しておくこと。民衆たちにも気を配ってほしい』

 「はい、ウランフ提督」

 『それと……』

 通信画面に映る勇将の表情が急に迫力を増した。

 「どうかなさいましたか?」

 ウランフの迫力に押され、ユリカの声はやや震えた。勇将はまっすぐに駆け出しの艦隊司令官に言った。

 『貴官らに一つだけ念を押しておきたいことがある』

 すごい迫力なので、ユリカもごくりと唾を飲み込んだ。

 『いいか、撤退の準備が整ったらまっすぐにイゼルローンに退却するんだ。敵の攻撃が始まり、第14艦隊が敵の攻勢を切り抜けても他の艦隊にかまわず退くんだ。この戦いは勝利することよりも生き残ることが重要だ。貴官たちがここで終わっていいわけはない。だから他の艦隊を助けようなどとは考えるな。いいな』

 「は、はい……ウランフ提督」

 思わずユリカは返事をしてしまった。自分の艦隊の安全を優先し、他の味方にかまうな、とウランフは言っているのである。恩義も尊敬もする勇将にすさまじく念を押されては彼女も頷かざるを得ない。

 それはある意味、ユリカに対する過大評価だったろう。彼女の第14艦隊が無残に敗北するかもしれないのだ。7500隻という艦隊は決して少なくはないが、帝国軍は一個艦隊規模で攻撃してくる可能性が高い。その時に対峙する戦力は二倍になるだろう。そうなるとユリカがいくら優秀でも数は力だ。ローエングラム伯陣営に属する提督たちは有能な者ばかりならば、第14艦隊が無傷で後退できる保障は存在しない。相手によっては宇宙から消滅することも現実にありえるのだ。

 もちろん、それは第10艦隊にも該当する。その不安をユリカに悟らせないためにウランフは強く訴えたのかもしれない。


 通信を終えたユリカは、傍らに控える参謀長と副官に告げた。

 「第14艦隊は、これより撤退準備に入ります。お二人ともご協力をお願いします」

 「「はっ!」」

 ユリカは頷き、戦艦ディオメデスとの間に回線を開いた。カールセンと撤退準備を協議し、彼には迎撃準備を進めてもらおうと考えたのである。

 「時間との戦いになります。カールセン提督にはすぐに迎撃準備を整えていただきます」

 ユリカは、彼女の頭にある迎撃方法を説明し、二〜三の修正を得て決定する。偉丈夫の提督は黙礼し、通信画面から消える。

 ユリカが号令をかけた。

 「さあ、始めましょう」









[

 第5艦隊司令官アレクサンドル・ビュコック中将がイゼルローンにある総司令部に超光速通信を送ったのは、ヤンとボロディンの依頼を受けた直後の事である。

 ただし、通信スクリーンに映ったのは血色の悪い作戦参謀だった。

 「貴官に用はない。私が会いたいのは総司令官閣下だ。フォーク准将、すぐにロボス元帥に取り次ぐのだ!」

 ビュコックの声は荒い。その迫力と貫禄にフォークは胸を反らせながらも言い返した。

 『総司令官閣下への面談、上申は、全て小官を通していただきます。面談をお求めになる理由をお聞かせいただけますか』

 ビュコックが断ると、作戦参謀はさも当たり前のように言った。

 『ではお取り次できません。どんな身分の方でも定められた規則にはしたがっていただきます』

 この大馬鹿者を何とかしなければ! とビュコックは思ったものの、通信を切られては困るので撤退の件をフォークに伝え、総司令官に取り次ぐよう依頼した。フォークの顔が奇妙な形に歪んだ。まるでせせら笑っているようである。

 『撤退? 撤退ですと! 勇敢をもってなるビュコック提督のお言葉とは思えません。ヤン提督やミスマル提督ならともかく、小官なら帝国軍を屠る好機の今、撤退などいたしません』

 涼しい顔で妄想を語るフォークに、さすがのビュコックも怒気を発せざるえない。

 「言うことだけは達者だな! ならば貴官が前線に来て指揮を執るがよかろう。我々はイゼルローンに帰還することにする。貴官のことだ、鮮やかに帝国軍を葬ってくれるだろうな」

 『私は一介の作戦参謀にすぎません。できるわけが……』

 「ほう、できないと言ったか。そうだろうな、貴官ができるのは安全な場所からせいぜいムリな命令を前線に伝えるか、気に入らない人物に悪意を押し付けるかのいずれかだろう。貴官も作戦を立案した身ならば、少しは前線に対する責任を自覚したらどうだ!」

 『しょ、小官を侮辱なさるのですか』

 うろたえるフォークに向ってビュコックはさらに追い討ちをかけた。

 「口ほどにものを言うとは貴官のことだな。貴官は自己の才能を示すのに弁舌ではなく、実績と行動をもって示すべきだろう。他人に無茶を強いるだけの人間が実際に現場に赴き、その実績と実力を示すのは当然ではないかね。まさかできないと貴官はいうまいな!」

 直後、フォークの顔が強直し、痙攣を起こして通信画面から没する光景をビュコックは見た。

 「何が起こったのだ?」

 しばらくして画面に現れたのは、紳士的な容姿のグリーンヒル大将だった。

 『お見苦しいところをお見せしました』

 謝罪する総参謀長の顔は憔悴している。おそらくフォーク准将のせいでグリーンヒル大将にも負担がかかっていたのだろう。

 ビュコックはもちろん言葉に出さず、起こった事態を総参謀長に尋ねた。

 「彼はどうしたのかね?」

  参謀長は、軍医の診断をビュコックに伝えた。転換性ヒステリー症によって一時的に引き起こされる神経系の盲目だそうですと。

 「ヒステリー症?」

 それは、挫折感が異常な興奮を引き起こし、視神経が一時的に麻痺する病気だった。15分もすればまた見えるようになるということだが、今後何度でも発作が起こる可能性があるという。総参謀長は最後に付け加えた。

 『こうなりますとフォーク准将は休養となりましょう』

 「そうでなくては困りますな。それで、第13艦隊をはじめとする各艦隊司令官から具申のあった撤退の件ですが、わしも全面的に賛成いたしますぞ。もはや帝国領にとどまっている場合ではありませんからな」

 『申し訳ありません、しばらくお待ちください。総司令官閣下のご裁可が必要です』

 予想はしていたが、官僚的答弁にうんざりした老提督は直接ロボス元帥に面会できるように要望した。が、グリーンヒル大将の次の言葉に心底あきれてしまった。

 『総司令官閣下は昼寝中です。敵襲以外は起こすなとのご命令です。提督のご要望は起床後にお伝えします。しばしお待ちを』

 ビュコックはうめくように天を仰ぎ、ロボス元帥宛に痛烈な皮肉をグリーンヒル大将に伝えて通信を切った。

 「このうえは前線指揮官として部下の安全を優先するまでです。ロボス閣下がお目覚めの際は、よい夢をごらんになれましたか、とビュコックが気にしていたとお伝え願いましょう」

 グリーンヒル大将は、真っ黒な画面をしばらく見つめたままだった。





◆◆

 ラインハルトの元帥府にはジークフリード・キルヒアイス中将からの吉報が届いており、ウォルフガング・ミッターマイヤー中将、オスカー・フォン・ロイエンタール中将、カール・グスタフ・ケンプ中将、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト中将、アウグスト・ザムエル・ワーレン中将、コルネリアス・ルッツ中将、エルネスト・メックリンガー中将とあらたに召集された一名の提督を含め8人の提督たちが勢揃いしていた。若き元帥が座する調度の高いイスの後方の壁には軍旗である黄金獅子旗が光り輝いている。

 「同盟軍の一部が撤退準備を進めていたようだが、すこし時期が遅かったな。卿らはかねてからの計画に従い、総力をもって同盟軍を撃て」

 勢いよく退出する提督たちをラインハルトは呼びとめ、従卒の少年兵が運んできたワインを各人に配らせた。白ワインの豊穣な香りがあたりに漂う。

 「勝利はすでに確定している、前祝だ。卿らの頭上に大神オーディンの恩寵あらんことを祈る。乾杯」

 「「「「「「「「プロージット!」」」」」」」」

 提督たちは唱和し、ワインを飲み干すと慣例に従ってグラスを床に投げつけた。出陣の儀式である。細かく砕けたガラス片が光を散らすように華麗に舞った。


 ──宇宙暦796年、帝国暦487年標準暦10月8日──

 ラインハルト率いる帝国軍迎撃部隊は、補給戦を絶たれた同盟軍に対し総反撃を開始する。

 ミスマル・ユリカ率いる同盟軍第14艦隊は、駐留するファンベルグ星域にて帝国軍艦隊と遭遇した。

 



 ……TO BE CONTINUED

第六章に続く


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 あとがき

 涼です。第五章後編をお届けいたします。フォークの意地悪を期待したみなさん、すみません。さっくりと終わらせていただきました。次回から新章へ突入です。

 若干、苦しいところもありますが、話を延ばす気がなかったので、第五章は終わりになります。

 なんかいろんなフラグが立ってます?

 それでは今回も楽しんでいただければ幸いです。

 ご意見とご感想もお待ちしています。どうぞよろしく!

 2009年7月28日──涼──


 (以下、修正履歴)

 新章に突入したことにより、修正を致しました。
 末尾に長短編連載Dを追加しました。


 2009年21日──涼──

 微妙に修正を加えました
 2009年11月15日


 最終的な誤字・脱字を修正しました。
 2010年12月30日 
──涼──

 ホントのホントの最終修正。末尾のIF短編を削除。
 2011年6月24日 
──涼──

 なんというか微妙な誤変換修正+ちょっと加筆または削除あり
 2012年7月16日 ──涼──


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

◎◎◎◎◎◎◎◎◎艦隊章発表!!◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

 というわけで、長らくお待たせいたしました。第14艦隊艦隊章のデザインが完成しました。
 以下です。
挿絵


 みなさん、ナデシコの花びらを真ん中に据えて、というデザイン案が多かったので、まずそれぞれの案を描き、それから全体を総合してデザインを完成させました。うむ、同盟軍章を基にするのがやはりいいみたいです。
まあ、なんというかナデシコの花びらのバランスをとるのが難しいです。作者の「限界」ともいいます(汗

修正案とかあれば、これにも案をお寄せください。まだ本格的に登場させてませんので。

案を頂いたみなさん、本当にありがとうございました。英知を結集するっていいですね。

次回も何か困ったことがあればご協力を仰ぐかもしれません(いきなり発生しているが……)


◎◎◎◎◎◎◎◎◎艦隊章発表!!◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎


○○○○○○○○○○○メッセージ返信コーナー○○○○○○○○○○○○
 
 今回もこの場をお借りしてメッセージの返信とさせていただきます。

 
 ◆◆2009年7月17日◆◆

 ◆23時32分

 いよよ出撃かー

>>>前回は出撃、そして今回は戦いになだれ込みます。

 ◆◆7月18日◆◆

 ◆9時37分

 ユリカが仕事した!


>>>艦隊指令官になり、責任が重大になりましたからね。ユリカはもう艦長時代のように楽はできないでしょうw


 ◆◆2009年7月23日◆◆

 ◆20時23分

 このような良作があるなんて、今まで気づきませんでした…衝撃です! これからもがんばってください!!

>>>見つけてくださってありがとうございますw 全然進んでいませんが、応援よろしくお願いします。今回の話のご意見やご感想もぜひぜひお願いします。
 
 ◆◆2009年7月26日

 ◆3時10分

 SO COOOOOL

>>>こ、これは外人さんが読んでいるというのでしょうか? もしそうなら、「かっこいい」と評していただき、まことに光栄のきわみです。

 I appreciate it


 もう一つ、メッセージがあったのですが、文字化けしていて内容が不明でした。直せませんでしたので、メッセージを送ってくれた方、この場で謝罪させていただきます。

以上です。今話にもぜひメセージならびにご意見、ご感想をお寄せいただけると作者も大いに執筆が早くなります。

○○○○○○○○○○○メッセージ返信コーナー○○○○○○○○○○○○



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