新世界とはなんでしょうか?

 未開の土地? 違う世界? 神の世界?

 宇宙の果てにある異文化でしょうか?

 理想と希望にあふれた世界でしょうか?

 それとも一切の争いのない桃源郷を言うのでしょうか?


 定義はたくさんあります

 ですが、誰も本当の「新世界」を知る人はいないのです


 一つ視点を変えてみましょう

 歴史が変わる瞬間を「新世界」と定義できないでしょうか?


 その後の時代は大きな変革を迎え

 人々の意識は改革され

 新しい価値観が生まれるのです

 まさしく新しい世界じゃありませんか?


 そう、もしその瞬間を新世界と定義できるならば

 私たちはその只中にいるのです!


 
 ──イツキ・カザマ──









闇が深くなる夜明けの前に

機動戦艦ナデシコ×銀河英雄伝説





第六章(中編・其の二)

『激突! アムリッツァ星域会戦/勇将たちの矜持』











T

 「6個艦隊か……」

 ヤン・ウェンリーは、指揮卓の上に行儀悪くあぐらをかき、決戦前の虚空をじっと眺めていた。

 「悪くないな」

 「……とおっしゃいますと?」

 ヤンの独語に応じたのは、ヘイゼル色の瞳も美しい副官フレデリカ・グリーンヒル中尉だった。8年前のエル・ファシル脱出劇のとき、まだ駆け出しの中尉だったヤンにその生命を救われた一人である。彼女はそれ以来、うだつの上がらなそうな青年士官をけなげに想い続けて尊敬する父親と同様に軍隊に身を投じたのだが、美女に好意を寄せられている該当者は少なくとも今はそしらぬフリをしていた。

 「この6個艦隊は、いわば今の同盟にとって最善、最強の布陣だろうからね。これからもこれ以上の戦力は望めないだろうね」

 「ウランフ提督やボロディン提督が参戦したことが大きいと?」

 「もちろんそれもある。もっとも大事なのはそれぞれがそれぞれを信頼している艦隊で構成されているということだよ。まあ、この戦力を呼び込んだのはミスマル提督の力によるところが大きいと思う。いずれにせよ、かなり帝国軍とまともに戦えるだけの戦力だからね、悲観はしないね」

 フレデリカは、再び虚空を眺めるヤンの少し後方で「そうですね」とややぎこちなく相槌を打つ。

 というのも「ミスマル提督」があんなに若くて美しい──自分とほぼ同年齢の女性だとはまったく想像していなかったのだ。今までヤンが彼女に関してほとんど幕僚たちに話さなかったことも影響しただろう。通信スクリーンに映った美女に大きすぎるどよめきが艦橋中から立ち上ったのも無理からぬことだった。

 そんなフレデリカが気が気でないのは、ヤンが実に嬉しそうにユリカと話していたことだった。

 思わず、「ミスマル提督は──その……私と同年齢に見えますが?」と尋ねたら、

 「そうだよ」

 と実にあっさりと陽気な声で肯定されたものだから内心穏かではない。

 フレデリカの胸中がざわつくのは、なにもユリカが美人だからではなく、ヤンが彼女の能力をとても信頼し、頼りにしているという事実だった。

 以前、ヤンに頼まれて「ミスマル・ユリカ」「ナデシコ」というキーワードを元に調査したときは何も成果がなかったので、あまり事を大きく捉えなかった。また、統合作戦本部での作戦会議上で第14艦隊の設立と動員発表があったことは知っていたが、お披露目された司令官についてヤンは特に何も話さなかったのだ。第14艦隊から補給を受けた際もヤンは直通でユリカと協議していたため、フレデリカでさえ、どんな人物かつい先刻まで知らない始末だった。

 そのアムリッツァで……

 各艦隊司令官がメインスクリーンを介して協議するにあたり、初めて第14艦隊司令官の性別と容姿を驚愕でもって知った者も少なくない。

 撃墜王で女たらしでも有名なオリビエ・ポプランなどは、

 「まじで? なんかオレ燃えてきたぜ」

 などと口説けるはずもないのにムダにやる気になるし、

 今一人のモテ男たるシェーンコップ准将は、

 「世間知らずな無垢なお嬢様という感じですな。ああいう娘はまず優しく耳元でささやいて……」(ムライに睨まれたので中断)

 などと、機会があれば口説きたそうに感想を述べたものである。

 しかし、フレデリカ・グリーンヒルがもっとも疑問に思うのは──同盟軍服とは全く異なった華麗な制服は当然として、ミスマル提督の年齢に対してあまりにも高すぎる階級だった。ヤンはなんと認めたか、私と同年齢だと認めなかったか? もしそうなら同期のはずだが「ミスマル・ユリカ」という女性士官候補生を見たことも名前を聞いたこともないのだ。

 記憶力に優れたフレデリカの脳内の引き出しのどこにも「彼女」の名前を見つけることは困難だった。

 「彼女は……ミスマル提督とは一体?」

 謎だらけだと思う。年齢と階級、三重のパスワードのかかった個人データー、そしてまるで異なる制服とあの戦艦?


 「──中尉、グリーンヒル中尉?」

 フレデリカは我に帰った。ヤンが指揮卓の上から怪訝そうに彼女を見ている。

 「も、申し訳ありません。何でもありませんが、少しだけ席を外してもよろしいでしょうか?」

 ヤンが許可しようとしたとき、つかの間の平和をぶち破る警報が鳴った。

 「どうやらおい出なすったようだね。大丈夫かい中尉?」

 「はい、些細なことですので問題ありません」

 ヤンは頷き、全艦に砲撃命令を下した。


 ──15分前──

 カールセンたちと協議を終えたユリカの眼前にアキトから通信が入った。なんだか不満そうにしているのだが、よくよく見るとベッドに縛り付けられた状態になっている。通信スクリーンの隅に青年を「看病」するユキナとラピスの顔が映った。

 アキトは、二人の少女を通信画面から遠ざけると、白い歯を見せてユリカに向って怒鳴った。

 『ユリカ!(イタタッ) これってどういうことだよ!(イタッ)』

 青年の顔が時折歪むのは、ミュラー戦で痛めた胸部打撲のせいだったりする。

 「どうって言われても……アキトがムリするからベッドに拘束し・て・い・る・の!」

 『言ったな! 言い切ったな……痛っ!』

 「ほらほらアキトったら、ムリしちゃだめだって。そんな身体で出撃してもみんなが気を遣っちゃうだけだぞ。今は少しでも安静にして、いざというときに備えなくちゃね」

 アキトの不満顔が和らいだ。ユリカが出撃許可を示唆する発言をしたからだ。

 『俺も出撃できる?』

 アキトのまじめな問いにユリカはごまさずに答えた。

 「うん! アムリッツァも総力戦だよ。アキトに無理にでも出撃してもらわないといけない場合も出てくると思う。本当は大人しくしていてほしいんだけど、みんなを守りたい、戦いたいって言うアキトの気持ちはすっごくわかるんだ。だから、私がアキトを頼りにするまではみんなの戦いをアキトなりに分析して自分のものにしてもらいたいの。今のアキトなら私の言うことがわかると思うんだ」

 アキトは、ユリカなりの気遣いというか励ましというか応援というか──を感じとったのか、すこし恥ずかしそうに顔を赤くした。

 『なんかユリカにはかなわないなぁ……わかったよ、もうちょっと頭を冷やすよ』

 「さっすがアキトぉ! よっくできましたぁ!」

 『う、うん。で、自由にしてほしいんだけど』

 「だめでーす!」

 『えーっ! なんでだよー』

 直後に二人の顔に緊張感が増した。警報が鳴ったのだ。

 「アキト、ついに来たみたい。いったん通信を閉じるね」

 『うん、がんばってよ我らが提督殿!』

 もっちろん、ぶい!

 お互いの通信スクリーンが消える。

 ユリカは、すぐに次々と光群が映し出されるメインスクリーンを凝視した。表情からはそれまでの陽気さは消えていたが、ほどよい緊張感のなかに平静さが保たれているようであった。

 (どうやらテンカワくんとの会話でムダな緊張がほぐれたようですな)

 二人の会話を黙って聞いていたプロスペクターの胸中である。彼の見るところユリカは気負っているように感じられたのだ。かつてない長時間の戦闘はもちろん、10万人レベルの戦死者を出してしまったことに自分自身を一方的に責めているように映ったのである。

 もちろん、ユリカはそんな重い胸中を一切周囲に悟られないように振舞っていた。おそらくそれに気づいたのはプロスペクターを含めてほんの一握りの人物だけだろう。

 その中の一人であるアキトは、きっと婚約者の葛藤を感じて通信を送って来たに違いないだろう?

 (テンカワくんも成長していますなぁ……)

 ただ、プロスペクターはユリカのほうが一枚上手だなと思う。不満を鳴らす婚約者に出撃を示唆しつつ、青年の焦りのようなものを取り除いて大人しくさせたのだから。

 (まだまだお二人とも成長できそうです)

 同時にユリカの呟きが重なった。

 「8個艦隊……」

 メインスクリーンに浮かび上がった光群は明確さを増し、ルリが表示したデーターが帝国軍艦隊の強大さを伝えていた。

 ユリカは深呼吸した。ほんのちょっと前と比べるとずい分楽な感覚だった。アキトに感謝しなくっちゃ。あのままだったら私がみんなに迷惑をかけていたかもしれない……

 再びメインスクリーンを見据えたユリカの桜色の唇から命令が発せられた。

 「全艦、砲撃開始!」









U

 アムリッツァに投入された帝国軍は、ローエングラム伯艦隊、ミッターマイヤー艦隊、ロイエンタール艦隊、ケンプ艦隊、ルッツ艦隊、ワーレン艦隊、メックリンガー艦隊、ビッテンフェルト艦隊の合計8個艦隊だった。同盟軍に比べると地の利があって士気も高く、損害も少ない陣容である。

 対する同盟軍6個艦隊の戦力は決して少なくはないが緒戦で3個艦隊を失い、残存する艦隊も大なり小なり損害を被っている。戦略的に敗れた条件下での戦術的な勝利を奪取するには、ラインハルト率いる精強な帝国軍艦隊が相手となると極めて困難といわざるえない。同盟軍が一矢を報いることができるとすれば、ロボス元帥が言ったように意地を見せ、ヤンが悪くないと前向きに考えたように各艦隊が協力して勝機を見出すしかないだろう。

 同盟軍、帝国軍ともそれぞれの正面に布陣する敵に向って砲撃を開始した。

 「ファイエル!」

 「ファイヤー!!」

 「撃てっ!」

 双方合わせて100万本を悠に越えるエネルギーの矢が永遠の漆黒の世界を疾走した。

 しばらく戦況を見ていたヤンは一計を案じ、恒星アムリッツァに融合弾を投下するよう艦長のマリノ大佐に指示した。

 「アムリッツァの恒星風を利用して帝国軍に先制攻撃を仕掛けるんだ。それにローエングラム伯にいつぞやのお返しをしたくてね」

 マリノ大佐が融合弾投下ボタンを押したと同時にオペレーターがヤンに報告した。

 「ナデシコからも融合弾の投下を確認!」

 ヤンは感心したように思わず口笛を吹いた。

 「へえー、そいつは理想的だね」

 爆発する恒星風に押し上げられた2個艦隊がすさまじいスピードでミッターマイヤー艦隊とメックリンガー艦隊を急襲した。

 「右舷、損傷!」

 ミッターマイヤーは、自らが乗艦する旗艦「人狼」の被弾にも眉一つ動かさず、非凡な戦術家らしく冷静に指示した。

 「いったん後退して陣形を立て直す。敵が退いたら一斉に反撃せよ」

 メックリンガー艦隊も第14艦隊の急襲を受け、前衛部隊が痛撃を受けていた。

 「なるほど、ミュラー提督やビッテンフェルト提督が一目置くだけはある。見事な連携と速攻だ」

 ヤンとユリカの発想と攻撃は双方の脳内活動が独立して立案し、その行使が偶然重なっただけで別々の戦術なのだが、そうとは知らない帝国軍からは絶妙な連携攻撃にしか見えなかった。

 「こちらも後退しつつ陣形を再編し、ミッターマイヤー艦隊と呼応して反撃するのだ」

 メックリンガーの対応も冷静そのものであり、帝国軍の動揺を期待していたユリカは付け入る隙を見出せなかった。ヤンと同じく味方に深い入りしないように命じ、後退した敵艦隊に合わせて長距離砲に切り替え、敵艦隊を押し留めようとした。






 一方、同盟軍左翼部隊も一斉に帝国軍右翼と矛を交え、ほとんど互角の攻防を繰り広げていた。ボロディンは緒戦で心理的打撃を与えたルッツ艦隊と、ビュコックはロイエンタール艦隊と、ウランフはケンプ艦隊、アップルトンはワーレン艦隊とそれぞれ対峙していた。

 特に反攻戦緒戦においてまんまと逃げおおせた方と、逆にまんまと逃げられたほうはなんとなくお互いを意識していた。

 「よし、今度こそ逃がさぬぞ」

 「今度は叩き潰してくれる!」

 お互いの発言が聞こえたわけではなかったが、名誉挽回を望む側と味方の仇を討とうとする側に見えざる闘志の火花が散っていた。

 「よし、一気にたたみかけてやるぞ」

 同盟軍の中で唯一、無傷でアムリッツァに到着した第12艦隊はボロディンの命令一閃、主砲を三連してルッツ艦隊の前面に叩きつけると、敵が後退しながら反撃体制に移る行動に合わせ、艦隊を実に巧妙に時計方向にシフトし、ルッツ艦隊の右翼側面に回りこもうとした。

 「ほほう、やるではないか、うまく逃げおおせただけはある」

 賞賛と皮肉が交差する台詞を呟きつつ、ルッツは敵艦隊の意図を見抜き、艦隊を後退させながら密集させ、第12艦隊の行動に合わせて艦隊を徐々に右翼方向にシフトした。敵艦隊を追従する形ですばやく反応し、ボロディンの機動戦術を無効したかに見えた。

 しかし、それこそが罠だったのだ。

 「かかったな」

 がら空きになったルッツ艦隊の左翼側面に中性子ビーム砲の束が突き刺さった。

 「なんだと?」

 ルッツが驚くのも無理がない。同盟軍の動きに対応していたにもかかわらず側面に攻撃を受けたのである。オペレーターが解析したデーターを表示したとき、ルッツは全てを悟った。同盟軍の伏兵部隊がルッツ艦隊の側面を叩いたというよりも、実は隣接していた同盟軍第5艦隊の左翼が突出する形で攻撃を加えてきたのだ。

 それだけではない。ルッツ以外では肩を並べて戦うロイエンタールやケンプがもっとも驚いたのは、同盟軍の戦術が2個艦隊によって実践されたのではなく、帝国軍右翼部隊と交戦する4個艦隊の連係プレーの結果であったことだろう。

 第12艦隊が機動戦術を仕掛けてルッツの気を引いている間、ビュコック、ウランフ、アップルトン艦隊は両翼をわずかずつ開きながら帝国軍の攻勢に対して砲火の壁を構築しているようで、実は各艦隊がたくみに連携しながら敵右翼方面に半包囲陣を敷こうとしていたのである。

 ボロディンはそれらの構想が円滑に運ぶようにルッツ艦隊に全面攻勢をかけ、帝国軍右翼の関心をひきつけようとしたのである。

 同盟軍にとっての戦術的勝機は敵を緒戦において圧倒する短期決戦しかない。長期戦が不利なことくらい誰でもわかっていた。同盟軍は6個艦隊をフルに活用して敵にほころびを生じさせるか、戦術的にほころびを作り出して短期間で打撃を与えて撤退するしかない。

 「なかなか楽しませてくれるではないか。なるほど、アムリッツァに集まった同盟軍は第13艦隊を筆頭に精鋭というわけか。単に上手く逃げおおせたというわけではないか」

 ライハルトはやや後方で督戦しつつ、同盟軍の善戦を賞賛した。帝国軍が押されている状況にもかかわらず美貌の元帥に余裕があるのは、帝国軍の作戦を実現させるためには多少派手に戦う必要があり、それを同盟軍のほうから演出してくれているからだった。

 「せいぜいこちらの意図を悟られないように同盟のヤツラにも派手に動いてもらおう」

 とはいえ、ルッツがこのまま瓦解してしまえば壮大な作戦も水泡に帰してしまうだろう。だが、当初まったくラインハルトが懸念していなかったように、同盟軍の半包囲構想はロイエンタール提督の果敢なルッツ艦隊への援護によって頓挫を余儀なくされてしまう。

 「さすがはローエングラム伯の麾下だけはある。こうもあっさりと目論見をつぶしてくれるとはな」

 ウランフは、戦術スクリーンを睨みながら帝国軍の即応力に感心したようにうなずいた。出だしはよい。半包囲戦術は崩されたとはいえ、戦力的に劣勢な同盟軍は実によく戦っていると言える。

 「さて、この機会をどう生かすか……」

 戦況は次の段階に入りつつあるようだった。同盟軍の意図をくじいた帝国軍が艦首を並べて一斉に砲撃してきたのだ。それは重厚にして苛烈であり、優勢に立つかに思えた同盟軍を容赦なく襲った。

 攻撃と防御、反撃と移動、前進と後退が連続して繰り返される戦場で次々に無数の光芒が生じ、一瞬の華やかさとともに急速に光は縮み、後に残るのは無残な鉄塊と残骸だけだった。

 「落ち着いて徐々に後退しろ。黒い艦隊との一線で我々は敵の攻撃を受け流す術をえた。敵の前進に合わせて距離を保ちつつ後退し、敵を逆にこちらの陣に引きずりこむのだ」

 「大軍に小細工は無用だ。疲弊した同盟軍を蹴散らすには圧倒的火力で叩き伏せることが肝心だ。砲火を集中しろ! 同盟艦隊に余裕を与えるな」

 「第10艦隊の行動と連動してこちらも後退し、前進してくる敵を縦深陣に引きずりこむのじゃ。慌ててはいかん。敵の前面に弾幕を張り、敵艦隊の進撃速度を鈍らせつつ、密集しながら後退せよ」

 「敵の後退に踊らされるな。味方艦隊と密に連携して艦列に隙を作らず砲火を集中せよ。さすれば敵の思惑など恐るるに足りん」

 各艦隊司令官の命令や指示が通信回線を飛び交い、それに合わせて艦隊が動き、砲撃の波濤をお互いに叩きつけた。

 ほぼ同盟軍中央に陣取る第8艦隊は本来の重火力能力を発揮し、対するワーレン艦隊に猛烈な攻撃を加えていた。旗艦「クリシュナ」が誇る60門におよぶ主砲の直撃を受けた帝国軍戦艦がのたうちまわる暇もなくあっという間に轟沈した。

 艦橋の指揮塔から普段は温厚なアップルトン中将がベレー帽を振り上げ、赤茶色の口ひげの下から大きな声で将兵たちを鼓舞した。

 「我々にはミラクルヤンも同盟の勇将も幸運の女神もついている。決して不利な状況ではない。先の戦いで死んでいった味方の仇を討つぞ!」

 「おおっ!」

 という歓声があとに続き、アップルトン中将は部下たちの反応に満足したように頷き、ワーレン艦隊にさらなる砲撃の強化を指示した。

 アップルトンや第8艦隊の将兵たちは、無残に死んでいった味方のためになんとしても帝国軍に対して一矢を報いたいという熱い思いがあった。帝国軍の戦略の前に多くの味方が犠牲になり、このまま何もなさずに撤退することに忸怩たる思いを抱いていたのである。

 アップルトンと親交のあったアル・サレムは戦死していたから、赤ひげの司令官は仇を討つ思いで気迫に満ちていた。

 そんな敵側の事情をワーレン提督は察したわけではないが、帝国軍は第8艦隊の集中砲火に前進を阻まれて決定的な反撃の手段を見出せないでいた。ワーレンは艦隊の防御を強化し、真正面のガチンコ勝負を避けつつ、陣形を臨機応変に変化させながら損害を抑える。

 「なかなかどうして、敵も必死だな。こちらも注意せぬと……」

 ワーレンは、戦術スクリーンをにらんだまま戦況の推移を見守った。ラインハルトの言う作戦──キルヒアイス中将が率いる別動隊が同盟軍の後背に回りこもうとしているとはいえ、同盟軍の攻勢は組織的で乱れがなく、ただ勘付かれないだけの攻撃のみに徹すると思わぬ落とし穴に陥る危険性をはらんでいた。

 事実、もっとも厄介と思われる同盟軍右翼が動いた。








V

 ヤンは、あまり戦線の膠着を歓迎してはいなかった。左翼の攻勢がギリギリ不発に終わった結果を見て、こちらもアクションを加えて戦場に変化を作り、その中から戦術的勝機を見出そうとしていた。

 ヤンには懸念していることが一つあった。アムリッツァに集結した帝国軍の総数が情報を総合したより少ないという事実だった。これは何を意味しているのか? 少しの想像力があればわかりすぎるくらいにわかるものだ。

 恒星アムリッツァに布陣した同盟軍は、その後方を6500万個の宇宙機雷で塞いでいた。帝国軍が後背に回りこんだときの備えである。ヤンは完全には安心していなかったが、6500万個という機雷は広大な宙域をカバーしており、帝国軍が迂回するにせよ、かなり有効な手段を持たない限り短時間で突破は不可能だと考えていた。ただ、こちらに時間がかかればその可能性は高くなり危険度も増す。

 ヤンは、なんとしても短い時間で帝国軍に決定的な打撃を与え、総司令部の言う軍事的勝利を獲得し、早期撤退に持ち込みたかったのだ。

 ヤンは艦隊を半月陣に再編し、ケンプ艦隊のときと同じくすばやい艦隊運動によってミッターマイヤー艦隊を大いに揺さぶりにかかった。機動戦術はミッターマイヤーもヤンに劣るわけではないが、それに連動する艦隊運動が加わるとさすがに一歩を譲るようであった。

 「見事な艦隊運動だ。ケンプがしてやられるのもうなずける」

 ミッターマイヤーは敵将の手腕を賞賛しつつ、全艦に後退を命じた。第13艦隊の艦隊運動に対抗したところで真似の出来るはずもなく、ケンプと同じく防御網を削り取られるだけと判断したからである。やや後退した上で第13艦隊を自軍陣地に誘い込み、メックリンガー艦隊と協力して艦隊運動そのものを無効化しようとした。

 しかし、ミッターマイヤーに誤算が生じた。帝国軍の後退に合わせ距離を詰めてくるか現状維持と思われた第13艦隊がミッターマイヤー艦隊を無視して急速に後退し、メックリンガー艦隊に襲いかかったのである。しかも、計ったように対峙していた第14艦隊が一挙に攻勢に出た。

 「むっ!」

 メックリンガーの冷静さにも刃こぼれが生じた。右翼はたくみに戦場を後退した第13艦隊の攻撃にさらされ、その艦隊行動に合わせた第14艦隊が反撃力を半減させた帝国軍左翼に突撃してきたのである。たちまち旗艦「クヴァシル」の周辺にもエネルギーの矢が殺到し、次々に周囲で爆発が発生した。その衝撃で旗艦の艦橋も激しく揺さぶられる。

 「艦隊陣形を崩すな! 密集して防御を強化し、敵の突撃ポイントに戦艦を展開してこれ以上の前進を許すな」

 メックリンガーは指揮シートから身を乗り出すようにして指示し、味方の援護があるまで第14艦隊の進撃を止めようと躍起になった。

 「ちっ! 最初から狙いはメックリンガー艦隊だったとはな」

 僚友の危機的状況を放っておくほどミッターマイヤーは愚かではない。彼は艦隊をすばやく再編して反撃体制を整え、後の「疾風ウォルフ」の異名に恥じない迅速さであっという間に第13艦隊を砲撃の位置に捉えた。

 しかし、ヤンも必然的に対応する。左翼部隊がミッターマイヤー艦隊の前進を阻む。

 「さて、これでどう動く? ローエングラム伯」

 ヤンが見据えるメインスクリーンの向こうには、純白の戦艦に座する黄金色の頭髪を有する若き獅子が戦況を窺っているがはずである。援護を封じられた左翼部隊の危機に対し、ローエングラム伯ラインハルトがどう出るか、ヤンは指揮を執りつつ見極めようとした。






 一方、ヤンの支援がきっかけでメックリンガー艦隊めがけて全面攻勢に出た第14艦隊は敵の左翼側面に穴を開けつつ、紡錘陣形に移行しながら突入を図ろうとしていた。

 その時のユリカの命令は簡潔だった。

 「突撃」

 思わず周囲にいる幕僚たちが背筋を正してしまうほどユリカの声も表情も厳かで鋭く、艦隊司令官として稀有な成長を遂げる若すぎる女性艦隊司令官が有するカリスマ性に唸った。

 緒戦でミュラーと対戦して多くの失敗を重ねながらも戦術を学び、ビッテンフェルト戦では迅速さと果敢さで帝国軍を苦しめた手腕が、ここアムリッツァで結実しているようだった。もちろん困難な戦闘をくぐり抜けた第14艦隊の錬度アップも影響しているだろう。砲撃もさらに正確になっていた。

 「醜態をみせるな。進撃する敵艦隊前面に砲撃を集中し、突撃を牽制しろ」

 メックリンガーはボブカットの髪を振り乱しながら次々に対処や命令を発し、命令系統を維持しようと奮戦した。緒戦で第8艦隊を急襲しアップルトンを忙殺に叩き込んだ「芸術提督」は、今度は逆に彼自身が忙殺の渦中に巻き込まれるとは皮肉に思ったであろう。


 ──標準暦10月11日、17時24分──

 帝国軍右翼は同盟軍の思わぬ強襲にさらされ、メックリンガー艦隊は次々に数を減らしていった。

 このまま援護がなければ帝国軍は深刻なダメージを受け、戦線の崩壊もありえた。








W

 「提督! 4時方向からあらたな敵艦隊です。数、およそ1万隻」

 ルリが緊急情報を表示すると、艦橋の各所から次々に舌打ちが生じた。

 「あの黒い艦隊がまた突撃してきたっていうの?」

 ミナトの声はあきれたというよりも、相手に対する最大限の恐れを表明していた。あの猪突猛進する──破壊力抜群の帝国軍艦隊が遊撃の位置からついに動いたのだ。

 その行動は恐ろしく速く、ルリがデーターを表示したとき黒色槍騎兵艦隊は陣形を整えて第14艦隊に向って驀進していた。

 「ミスマル提督! このままでは敵艦隊に蹂躙されてしまいます」

 ツクモ中佐の指摘するところはユリカも充分承知していた。突入角度的に斜め右後方から一気に11時方向に向って艦隊が分断されてしまうコースである。メックリンガー艦隊を苦しめているとはいえ、簡単に後退できる相手と戦っているわけではないのだ。

 事実、帝国軍左翼はかなりの損害を被っていたが、メックリンガーは手元にある高速戦艦部隊をうまく投入し、戦線を維持しながら強固に抵抗を続けていたのである。その分の時間がビッテンフェルト艦隊の迂回を助け、突撃ポイントに到達したところで一気に反撃の狼煙を上げられてしまったわけだ。

 この場合、前進するにしても後退するにしても、どちらもタイミングが重要だった。ほんのわずかなズレが挟撃か蹂躙かの確率を高めてしまう。どちらかというと後退はできないという状況だろう。

 ヤンの13艦隊に援護は求められない。ミッターマイヤー艦隊が手強い相手であることくらい帝国軍の動きを見ればわかることだった。ユリカには残念ながらビッテンフェルトの突撃に対処しつつメックリンガー艦隊の攻撃を封じるほどの戦力も手腕も余裕も不足していた。

 しかし、迷っている暇はない。前面から逃れられないのであれば、突撃してくる敵艦隊をどうすべきか? ユリカは黒色槍騎兵艦隊のデーターを睨みながら思考をフル回転させた。

 「そうだわ!」

 ユリカはポンと手を叩き、すぐルリに依頼した。

 「ルリちゃん、右翼部隊の艦艇から指向性のレーザー水爆ミサイルを大至急、指定する宙域に集めて欲しいの!」

 「はい、提督」

 ルリはわかっているのか指示を忠実に実行した。旗艦の管制システムを通じて右翼部隊から指向性レーザー水爆ミサイルが次々と特定の宙域に向って発射した。

 「閣下、3時方向から敵のミサイル群が接近します」

 オイゲン大佐の報告にビッテンフェルトは動じなかった。

 「ふん、ミサイルごときで我らの突撃を止められると思っているのか。残念だがタイミングが一瞬遅いわ!」

 超高速で突っこんでくる黒色槍騎兵艦隊にミサイル全ての直撃はありえなかった。せいぜい先頭を狙い撃てたとしても後続の突撃を止めることなど不可能だろう。

 ビッテンフェルトはそう思っていた。だが……

 「なんだと!」

 猛将がおもわず驚きの声を上げた。艦隊に向ってくると思われたミサイル群が側面直前の宙域に集結し、次々に自爆したのだ。爆発の連鎖で発生した指向性をともなった莫大なエネルギー流は驚異的な威力で黒色槍騎兵艦隊の右側面を襲った。

 帝国軍艦隊の突撃角度が左に流れる。

 「今です、前進!」

 絶妙なタイミングで第14艦隊が前進すると、突入角度をずらされた帝国軍がギリギリかすめずに通過していく。

 「おのれ! どうやったかは知らんが──このまま第13艦隊に向って突撃せよ」

 ビッテンフェルトは床を蹴り上げて悔しがるも、気を取り直して2時方向から第13艦隊めがけて突進した。

 旗艦ヒューベリオンの艦橋で参謀長のムライが叫んだ。

 「閣下、敵艦隊が突撃してきます!」

 「そうだね……それにしてもミスマル提督はどうやったんだろ?」

 さすがに呑気すぎた発言だったのでグリーンヒル中尉にもたしなめられてしまった。
ヤンは咳払いして必要な指示を下した。ビッテンフェルトの突撃ポイントに重厚な防御陣を築くと、小型艦の主砲で敵艦隊の突撃を牽制し、ユリカとは違った見事な手腕で回避することに成功する。

 「ちっ、第13艦隊にもかわされたか。まあいい、三度目の正直だ」

 ビッテンフェルトは再度気を取り直し、3時方向から対応の間に合わなかった第8艦隊に突っ込んだ。

 アップルトン中将は、危機を感じて正面のワーレン艦隊より後退しようとしたが、味方の仇を討つために積極的に前に出ていたことがマイナスに働いてしまった。黒色槍騎兵艦隊の突撃をモロに受け、次々に艦艇が砲火の餌食になった。

 分断された前衛部隊はワーレン艦隊に全滅させられた。ビッテンフェルトは大いに士気を上げ、このまま一気に第8艦隊を殲滅するかに思えた。

 しかし、ラインハルトはこの状況を喜んではいなかった。

 「ビッテンフェルトめ、深入りしすぎたな」

 金髪の元帥の懸念を理解しかねたように義眼の参謀長がわずかにほそい眉をしかめる。オーベルシュタインはラインハルトが舌打ちする発言をしたのがすぐに理解できなかったのだ。

 次の瞬間、ラインハルトの懸念は現実になった。

 第8艦隊を援護すべく、同盟軍によって無言の連係がなされたのだ。ボロディン、ビュコックとウランフ、そしてヤンとユリカの連係である。

 ボロディンとビュコックが両翼を延ばして敵の3個艦隊を釘つけにし、ウランフの第10艦隊が後退しつつ2時方向に右舷回頭して帝国軍の先頭を押さえ、ヤンが同じように2個艦隊を引き受けている間に第14艦隊が入れ替わるように後退し、8時方向に左舷回頭して帝国軍の末尾に火をつけたのである。

 帝国軍は挟撃されてたちまち光芒の坩堝と化した。

 「またしても第10艦隊と第14艦隊か!」

 ビームの直撃が火球となって次々に帝国軍を減らしていく中、ビッテンフェルトは怒りに身を震わせたが、彼を更なる災厄が襲った。

 味方の援護によって命令系統の再編を果したアップルトンが残存する兵力を建て直し、9時方向からお返しのビームを存分に叩きつけたである。

 黒色槍騎兵艦隊は三方からの攻撃にさらされることになった。

 「ぬう! なんということだ」

 ワーレンは、ビッテンフェルトの窮地を救うべく麾下の艦隊に前進を命じたが、第10艦隊左翼と第14艦隊右翼の砲撃によって阻まれてしまう。

 ラインハルトは、ブリュンヒルトの指揮シートから思わず立ちあがり、猛将の軽率さに怒りを露にした。

 「ビッテンフェルトめ、第13艦隊にかわされた時点で離脱していればいいものを……」

 傍らに控える総参謀長オーベルシュタインがビッテンフェルトを擁護した。

 「ですがビッテンフェルト提督の突撃がなければメックリンガー艦隊は今頃大損害を被っていたことでしょう。彼も戦局を変えたかったのでしょうが……」

 オーベルシュタインの言にも一理あるのだが、ラインハルトからみるとビッテンフェルトはやりすぎに思えたのだ。目的を達成した時点でさっさと離脱すべきだった。味方を助けて自分が大損害では目も当てられない。猛将の長所が短所に切り替わってしまった瞬間だけに、このまま殲滅されるようなことがあれば逆に帝国軍が危機的状況の矢面に立たされる可能性がある。

 ラインハルトとしては、簡単にビッテンフェルトの行動を肯定するわけにはいかない。

 「閣下、ビッテンフェルト提督より入電です。提督は援軍を請うとのことです」

 オペレーターの報告にラインハルトは鋭い視線を向けて言った。

 「我に余剰戦力なし。現有兵力を以って部署を死守し、武人としての職責を全うせよとな」

 「はっ」

 オペレーターがやや迫力に押されて答えると、ラインハルトは敵に傍受されることを避けるため、ビッテンフェルトからの通信を切るよう追加の指示を出した。

 オーベルシュタインは、冷厳だが正しい判断をしたラインハルトを推し量るように一瞥したが、当の元帥は知らん顔をして蒼氷色の瞳をメインスクリーンに向けた。

 「どちらもよくやっているじゃないか。ヤン・ウェンリーはともかく、他の同盟軍もよくやる。伊達に緒戦の追撃を振り切っただけはあるな」

 ラインハルトは、同盟軍の善戦を素直に認めた。決して無傷ではない状態で集結した同盟軍に万全を喫したはずの帝国軍がここまで苦戦しようとは予想外だったのだ。

 それを呼び込んだのは……

 ラインハルトには何か確信めいたものがあった。

 「名将の下に弱兵なし」という言葉の通り、ヤン・ウェンリーはもとより、この互角の状況を作り出した第14艦隊の司令官──まだ詳細不明の艦隊司令官がヤン・ウェンリーとともに自分の前に立ちはだかってくる確かな予感があった。







X

 すでに黒色槍騎兵艦隊は6割以上の損害を出していた。わずか30分足らずで一方的な敗北である。まだ帝国軍が数において優勢であるとはいえ、このまま推移すれば損害は黙視できないものとなるだろう。

 「キルヒアイスはまだか?」

 そう参謀長に尋ねたラインハルトの表情は思わぬ苦戦に対する懸念はない。

 「いえ、まだです。そろそろかと思われますが、ご心配ですか?」

 「心配などしていない。確認しただけだ」

 ラインハルトは再びメインスクリーンに見入った。その蒼氷色の瞳は苛烈なまでの光彩を放っていた。

 「同盟軍、今は勝たせておいてやる。だが最後に笑っているのはこの俺だ!」



 ほぼ同時刻、キルヒアイスとミュラーが率いる3万隻の別動隊は恒星アムリッツァを大きく迂回し、同盟軍の後背──つまり6500万個の機雷原の後ろに達していた。

 旗艦「バルバロッサ」の艦橋で赤毛の提督は状況を確認した。

 「予想通りですね。ベルゲングリューン准将、指向性ゼッフル粒子の撒布をお願いします」

 「はっ!」

 無色無臭の指向性ゼッフル粒子──粒子状の気体爆薬を積んだ特殊な工作艦が前方にある機雷原に向かってゼッフル粒子を放出した。

 オペレーターが報告した。

 「ゼッフル粒子が予定通り機雷原の奥まで到達しました」

 キルヒアイスは頷き、すかさず命じた。

 「主砲斉射」

 バルバロッサから放たれた三つの光跡がゼッフル粒子に到達すると、それは三匹の巨大な火竜となって機雷原を疾走し、次々と周囲の機雷を巻き込みながら広大な通路を形成していった。

 「味方が苦戦しているようです。全艦最大戦速で同盟軍の後背を襲います」

 キルヒアイスの命令一閃、3万にのぼる光群が疾風怒濤のごとく同盟軍に向って突進した。



 突然の警報にナデシコの艦橋は騒然となった。

 「どうしたの?」

 ユリカはルリに異変を尋ねたが、オペレーターの少女は珍しく愕然としているようだった。二度目の呼びかけで少女は我を取り戻す。

 「後背に敵艦隊です。数……およそ3万隻!」

 「なっ!」

 当然のように艦橋中から驚きの声が上がったが、滅多に動揺しないもう一人の人物が稀有な反応を示した。

 「なんということでしょう。6500万個ですよ、6500万! 一体どれだけの宙域をカバーしているというのですか。その6500万個の機雷原を帝国軍はいともたやすく突破するなんて、いかほどの予算がパーになったというのです!」

 そっちかよ、と突っ込む者は誰一人として存在しなかった。多くの者は事実を飲み込めずに呆然としている。桁外れの規模を誇る機雷原を短時間で突破されたのが信じられなかったのだ。

 ユリカはなんとか理性を保ち、メインスクリーンを睨んだまま険しい顔で対策を考えていた。どうするの? こうなってはもう戦うのはむりだ。すぐに退却しないと全軍が崩壊してしまう。けど味方が浮き足立ちはしないだろうか? つい先刻までの優勢を一瞬のうちにひっくり返されてしまったのだ。私なんかには予想できないほど衝撃的な展開だわ……

 「すごい、これがはるか未来の戦争……」

 ユリカは固唾を飲み込み、今一度、戦う相手の強大さを胸に刻みつけたのである。


──宇宙暦796年、標準暦10月12日25時17分──

 帝国軍別動隊は重厚な機雷原を短時間で突破し、善戦する同盟軍めがけて襲いかかろうとしていた。




 ……TO BE CONTINUED

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 あとがき

 涼です。少し時間をいただきましたが、「中編・其の二」をお届けいたします。後編を書いてから投稿しようかなーと考えていたのですが、またリアル事情で五里霧中になりそうなので、中編その二を投稿させていただきました。

 同盟軍は6個艦隊で善戦したのですが、原作に比べて数の多い帝国軍に粘られてしまいましたね。キルヒアイス艦隊を封じる有効な手段がなければ、原作通りの展開になってしまうでしょう?

 果たして、後背を襲われた同盟軍は全軍崩壊するのか? どうするユリカ?

 次回をお待ちください。


 2009年10月16日──涼──

 (以下、修正履歴)

 新章の突入にあたり、誤字や脱字、一部加筆を行いました。
 末尾には「if短編」(其のG)を追加しました。

 2009年11月13日──涼──


 最終修正です。各節部分の行間を調整。
 末尾IF短編は削除しました。
 2011年6月27日 ──涼──


 2013年1月26日 ――涼――
 サーバー移転時の編集エラーが多々あったために修正しました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ボツタイトルコーナー


ボツはありません。タイトルは一発でした(エ

◎◎ ◎◎◎◎◎◎◎◎メッセージ返信コーナー◎◎◎◎◎◎◎◎

前話に対していただいたメッセージの返信です。ありがとうございます!
おかげさまで作者も挫折せずにここまで来ております。

◆◆2009年9月16日◆◆

◆21時43分

 アキトは遊撃艦隊のバイザーをしばらくする。そんな考えかな?

>>>いやー、どうでしょう? アキトはやっぱりパイロットをがんばってもらわないといけませんからね。

◆23時03分

 ウランフ、ボロディン、アップルトンの生存フラグに乾杯!

>>>まさに乾杯です。ですが、まだアムリッツァが終わってません(汗

◆23時14分

 アキトとユリカが釣り合わなくなりました。対策が必要では? このまま三下り半も可

>>>ユリカは気にしないでしょうが、アキトは気にするって事ですかね? でもユリカはアキトをかっこ悪いとは思ってませんからね。ラブラブを維持してるしw

 まあ、アキトにはこれから成長してもらいましょう。

◆23時16分

 個人的にウランフとボロディンが生還してたのが嬉しい

>>>うーん、やはり両提督の生存は嬉しいとこですよね。アムリッツァは最終まで気を抜かないでください(エ

◆◆2009年9月18日◆◆

◆23時13分

 同盟軍の熟年提督たちに栄光あれ!

>>>もうなんと言うか、まさにそうだと思います。果たして熟年提督たちの運命やいかに?

◆◆2009年9月19日◆◆

◆1時14分

 ルリ倒れそうですなー。銀英の艦隊(千つ、とあった)は数が多いだけあって、長期に渡るからどうなるやら

>>>ルリがんばれ! としかいえない状況……アムリッツァに入って10時間以上が経過してます。ルリは果たして……

◆◆2009年9月21日◆◆

◆20時41分〜20時45分

 ウランフ、いきなり戦死しなくてよかった… ユリカの第14艦隊の行動によって微妙に歴史の流れが変わりつつありますね。まだ小さい流れですが、この小さな流れが塞き止められるか、はたまた大きな流れに変わるか…
同盟軍、アムリッツアも原作ほどフルボッコはなさそうですね。原作ほど士気は酷くないし、ウランフに無傷のボロディンもいますしね。影の薄いアップルトンも頑張って欲しいところですねw そういえばアル=サレムは原作だと重症で済んでたはずですが、本作では戦死しちゃいましたね・・・ 南無。


>>>仰るようにユリカは小さい流れを大きくできるのか、それがアムリッツァの行方だと思います。さて、次回はどうなることやら……

◆◆2009年9月23日◆◆

◆0時42分

 今さらですが第14艦隊のエンブレム、いいですね! コミケとかで売ってたら即買いしますよ。

>>>艦隊章をお褒めいただきありがとうございます。コミケですか……作者は行ったことがありませんが、「熱い! 狂しい!」とはよく聞きます。

◆◆2009年10月10日◆◆

◆19時52分

 ナデシコのハッキングで敵艦隊を無力化って、何処までのレベルで出来るの 生命維持装置止めて皆殺しも可能

>>>皆殺しですか? できちゃうかもしれませんが、さすがにユリカが実行するとは思えません。ちなみにいまのところナデシコが無力化できる艦隊数は3000隻くらいです。


◆◆2009年10月13日◆◆

◆0時6分

 続きを待ちわびてはや(もうすぐ)一月。ワクキタが止まらない!
p.s.


 Web拍手があたらしくなって驚いた!
 改行できて便利だ!


>>>どうもお待たせいたしました。楽しんでいただければ幸いです。メッセや感想もどうぞよろしく!

Web拍手改は、読者さんの気持ちが作者さんに伝わりやすいよう、試験的に導入された新機能です。


 以上です。今話でのメッセージ、感想もお待ちいたしております!

◎◎ ◎◎◎◎◎◎◎◎メッセージ返信コーナー◎◎◎◎◎◎◎◎

 

押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.