――宇宙歴798年、標準歴1月15日――

 今、標準時間で22時ごろです。本来ならば、私が今書いている日記の中身はエステバリスに装備される新しい武器の実践訓練のはずでした。

 ですが、午後に起こった「事件」のせいで今もイゼルローンは緊張感に包まれています。ほんの少し前まで憲兵隊や陸戦隊、宇宙艦隊まで、とにかく動ける部隊はイゼルローンの内部や周辺宙域の捜索に駆り出されていました。私たちエステバリス隊も近隣の小惑星帯を中心に捜索を行っていました。

 結局、あらゆる捜索手段をもってしても痕跡は発見できず、ましてレーダーやセンサーにも補足されず、捜索そのものは21時で一旦終了となりました。

 しかし、警戒態勢は維持されたままです。このまま日付が変わってしまうことでしょう。リョーコさんたちは戻ってくるなりシャワーを浴びただけですぐに寝てしまいました。緊急事態に対応できるようにするためです。私も日記を書き終えたら休もうと思います。

 それにしても、もしテンカワさんのおっしゃった通り、謎の侵入者がボソンジャンプを使ったとしたら……それは私たちに深刻な衝撃と疑問を突きつけることになるはずです。

 ――イツキ・カザマ――






 闇が深くなる夜明けの前に
機動戦艦ナデシコ×銀河英雄伝説






 第三部 序章

 『急襲』
 




T
 宇宙最強のイゼルローン要塞は騒然となった。

 『こちらはカスパー・リンツ率いるB班、2600階層にも捜索目標は発見できず。次の階層に移動する』

 『ダスティー・アッテンボローより司令部へ。イゼルローン回廊の同盟側出口および内部に艦影及び所属不明艦は発見できず。引き続き捜索を続行します』

 『エステバリス隊スバル・リョーコだ。第十一〜第十三宙域の小惑星帯に不審船および不審艦は発見できず。俺たちはこのまま第十四以降の小惑星帯を捜索する。以上』

 『こちらヤン艦隊所属第一宙戦隊オリビエ・ポプランだ。同じく捜索宙域をくまなく探したが女宇宙海賊の船すら発見できず。もう一回りしたら次の宙域に移動する。以上』

  以上のように、イゼルローンの内部はおろか周辺宙域にも大規模な捜索が徹底して行われたが、各部隊の報告は成果の乏しい似たり寄ったりな内容ばかりであった。

 「提督、万が一があります。帝国側の回廊も捜索してみてはいかがでしょうか?」

 要塞総司令官ヤン・ウェンリー大将は、参謀長ムライ少将の進言に最初必ずしも同意しなかったが、最終的にパトリチェフやシェーンコップも強く押したこともあり、帝国側の捜索にも許可を出した。

 「まあ、帝国も新年早々に戦争なんぞしようとは思わんでしょ。正体不明の発光男が帝国のドッキリだという可能性もなくはありませんけどね」

 シェーンコップの冗談にヤンが表情をややしかめたのは不愉快だったからではなく、もっと別の深刻に近い問題が歴史家志望だった黒髪の青年提督の胸中にわだかまっていたからである。シェーンコップが自らが体験した事件に気を取られていなければ、ヤンの心理をこの時は推し測っていたかもしれなかった。



 ――宇宙歴798年帝国歴489年1月15日――

 イゼルローン要塞は謎の侵入者の出現により、終日あわただしい渦中に叩き込まれることになったのだった。
 


■■■

 捜索に振り回された一日がようやく終わろうという頃、人影もまばらになった司令部で一人紅茶をすする黒髪の司令官にコーヒー片手に声を掛けた人物がいた。

 「不機嫌そうな顔なのに深夜までお仕事とは珍しく熱心ですな」

 ヤンが肩越しに振り向くと、その方向に泰然自若と立っていたのは彫の深い顔立ちも印象的なワルター・フォン・シェーンコップだった。

 「やあ准将、准将も遅くまでご苦労様」

 「フフフ、仕事のできる男同士つらいものですなぁ」

 ヤンが肩をすくめたのは、シェーンコップの「いたわりの言葉」に個人的には同意しかねたからだ。ヤンは事件発生からずっと司令部に詰めてはいるが、実際の捜索の指示や命令伝達はムライやパトリチェフが行い、細かい報告のやりとりや手続きはグルーンヒル大尉が、現場の総指揮を執っていたのは艦隊副司令官のミスマル・ユリカであった。ヤンは総司令官としてやることはやってはいたが、そこに労力がともなっていたかといえば決してそうとは言い難い。

 「提督はそれでよいのですよ。どんと司令官席に座っていただいているほうが皆さん安心しますから」

 「そうそうユリアンくんの言う通り。ヤン提督は、あちこち動き回るより紅茶片手に泰然(たいぜん)とされていたほうが私も任務に専念できます」

 とユリアンとユリカに擁護されこともあった。ヤンとしては頭をかくことしかできなかったが……

 「提督としては喜んでいいのか悪いのか、なんとも悩ましい問題でしょうなぁ」

 ヤンがシェーンコップの言葉に軽くうなずいて同意したのは、決して今日の自分を恥じたからではない。その理由をすんなり言い当てたのは、やはり仕事もできる男ワルター・フォン・シェーンコップだった。

 「ミスマル提督とテンカワ中尉の事情聴取をどうしたものか、とお悩みってところでしょうかね?」

 ヤンは、素直にご名答とばかりに肩をすくめた。

 「やはり、そう見えるかな?」

 「見えますとも。小官も含めて誰もがそう思っているからです。一般的にいまだに話を聞いていないというほうが不思議です。いや、閣下が事情聴取をする気があるのかどうか怪しいくらいです」

 ひどい言われようだ、とヤンは思わなくもない。

 「私だってことの重大さは承知しているさ」

 「その認識があるなら実行に移さなければ意味がありませんな」

 「准将は聴くべきだと思うんだね」

 「当然です。事態が事態です。しかも前代未聞です」

 ありえざる現場に遭遇し、一連の事件の中心に身を置いたシェーンコップとしては不法侵入者の正体もさることながら、テンカワ・アキトがうっかり漏らした(・・・・・・・・)言葉に全てを解く鍵があると確信していた。

 「ボソンジャンプ……中尉は消えた男を見た後にそうつぶやきましたよ」

 「ボソン?」

 「ええ、聞きなれない単語です。いや、初耳ですな。男が現れたことと消えたことに関係があるのは明白でしょう。その男は中尉のことを知っていた様子でしたが、当人は知らない感じでしたし、中尉はひどく驚いていました」

 「准将、私はシトレ元帥から出された宿題を解けきっていないんだけど」

 ヤンのぼやきにシェーンコップは冷静に判決を下す。

 「閣下が落第生の烙印を押されるのは甘受していただくしかありませんね」

 にべもない。ヤンが険しい表情をしたのは、シェーンコップの言葉に不快感を示したからではなく、むしろ自分自身の往生際の悪さに辟易したからに他ならない。

 「わかった、准将の言うとおりだ。事態が事態だ。聴かないわけにはいかないよね」

 「その通りです」

 決断したヤンがシェーンコップに尋ねたのは、ミスマル提督たちと数か月間行動を共にして疑問や謎が深まったのか否かと言うことだった。

 「謎が深まったというよりは、むしろ確信したと言ってもよいでしょうね」

 「彼らの出自について?」

 「ええ、任務の打ち合わせで何度かナデシコにも乗艦しましたが、あれはあれでアッテンボロー提督と同じく確信せざるを得なくなるでしょう」

 「なるほどね。結局、私と同じく戦艦ナデシコに乗艦すれば、そこに確信せざるを得ないすべてのパーツが揃っているということだね」

 「そういう事です。ミスマル提督がその結果を承知の上で我々の乗艦を許可してくれたのは、まあ、信頼してくれているからでしょう」

 ヤンが同意すると同時にシェーンコップは周囲を伺い、近くに人影がないことを確認してからささやいた。

 「閣下もある程度の結論には達していそうなのであえて言いますが、ミスマル提督たちの存在は過去がらみとみて間違いはないでしょう。ですが……」
 
 ヤンは、シェーンコップの表情が一瞬にしてより真剣になったことで、その先の重大ごとを予想した。

 「他に何かあるってことかい?」

 「そうです。私は発光男がテンカワ中尉に投げかけた言葉を耳にしました。前半は聞き取りずらかったのですが、後半ははっきり聞きましたよ」

 「あっと驚くことかい?」

 「ええ、歴史家志望だったあなたが没頭するかもしれないくらいに」

 「それは?」

 「それは……」
 
 




  U
 ――15時間前――

 テンカワ・アキト中尉は、新たに開発されたラピッドライフルVの実践試験に午前中参加した。

 「ラピッドライフルV?……だっさー」

 と当初はその呼称に女性陣からブーイングを浴びせられた新型だったが、その性能はパイロットたちを興奮させるには充分であった。帝国領侵攻作戦時に使用された「ラピッドライフル改」は、そもそもエステバリスの大型化に時間を割いてしまった関係で急造の実弾専用であり、初速や射程に問題があった。

 しかし、苦しい実戦経験から得られた貴重なデータによってウリバタケを中心とした開発班は見事にその新型へのステップアップを成功させた。

「俺の話を聞け!」

 新しいライフルの一番の特徴といえば、端的に言うと「重力波を撃てる」である。初期装備のエネルギー弾や実弾を使い切っても相転移ドライブをエネルギー「充填モード」にすると、エステバリスがライフルをもった状態で自動的に重力エネルギーが「装填」される仕組みである。

 「発射モードは二つある。収束モードと拡散モードだ」

 ウリバタケの説明にパイロット全員がはしゃいだ後に一斉に首を傾げた。

 「それって、レーザーとか中性子ビームとかいらないんじゃない?」

 もっともな疑問である。ラピッドライフルVは重力波を除くと三つの弾頭に対応している。

 「レーザー」、「中性子ビーム」、「実弾」である。

 重力波が撃てるなら、ほかの弾頭は必要ないと考えるのは至極まっとうだ。

 しかし、ウリバタケがヒントを出すまでもなく、10秒以内にパイロット全員が理解した。

 「重力波は連射が難しい」

 重力波が強力なことはウリバタケも十分承知している。知ったうえで最低レーザーレベルで弾頭を撃ちだすことはできないかと考えたのだが、彼の発想力と技術力をもってしても激しいドックファイト時に通用する連射は実現困難であった。

 「だが、絶対に撃てるようにして見せるぜ!」

 皆がウリバタケの健闘を祈りつつ、彼が説明したのは、あくまでも重力波は通常弾を撃ち尽くした場合など、緊急時や敵の牽制に使用しほしいという事だった。ヒカルが問う。

 「でも、強力なんだよね?」

 「まあな。特に収束モードで装填時間が長ければ長いほど重力波の威力と射程は伸びる。戦艦クラスを真正面からはさすがに撃沈は厳しいが、側面からなら可能かもしれないぜ」

 おおっ!、という感嘆の声がパイロットたちから漏れた。

 「ただし、デメリットはある。重力エネルギーを弾として使用した分だけシールド能力やジェネレーター出力の低下を招く点だ」

 しかし、使用方法によっては強力な武器となるわけであり、パイロットにとっては戦術の幅が広がったと言えるだろう。

 以下、訓練時に各パイロットが選択したライフルの種類と装備数、仕様内容である。

 ■スバル・リョーコ機 ラピッドライフルV:拳銃型(改)×二、突撃銃型×1

 □アマノ・ヒカル機 ラピッドライフルV:拳銃型×1 突撃銃型×1

 ■マキ・イズミ機 ラピッドライフルV:狙撃銃型(改)×1

 ■イツキ・カザマ機 ラピッドライフルV:突撃銃型(改)×1、円形ミラーシールド

 ■オリビエ・ポプラン機 ラピッドライフルV:突撃銃型(改)×2

 □テンカワ・アキト機 ラピッドライフルV:突撃銃型×1、 円形重力シールド

 □タカスギ・サブロウタ機 ラピッドライフルV:突撃銃型×1、 円形重力シールド
   なお、(改)は一発の威力を高めた分、連射間隔がやや遅くなっている。
 また、ウリバタケが個々の特性や要求に合わせてライフルをカスタマイズできるように製造したため、今後ライフルの仕様が増える可能性がある。

 以上の選択によってイゼルローン要塞周辺宙域で行われた訓練は、ルリの操る標的を相手に実戦形式で始まった。アキトらはネーミングセンス以外でウリバタケを称賛。羽目を外してポプランは大はしゃぎして小躍りし、それを見ていたムライ少将の顔を引きつらせた以外は、概ね関係者の満足のいく結果で終ったのである。

 そしてアキトは、休憩を挟んで「薔薇の騎士連隊」の練兵場へ向かったのだが……
 





V
 ――8時間前――

 テンカワ・アキトが第137番練兵場の入り口に近づいたとき、すでに異変は起こっていた。突然、屈強な連隊員数名が青年の目の前で宙を吹っ飛ばされてきたのだ。その直後に内部からは怒号と怒声が連続して鳴り響き、同時に狂気にも似た笑い声が聞こえてきたのだった。

 「一体、何が……」

 練兵場に踏み込んだアキトが見た光景は想像を絶し、しかも極めて異様だった。練兵場には少なくとも50名近い隊員がいたはずだが、その大半が床に這いつくばってうめき声をあげているかと思えば、その中心にはアキトから見ても大昔の時代劇のような三角錐の笠と黒い外套に身を包んだ無法者のような姿をした男が一人、禍々しい空気をまとった状態で直立していた。

 「なっ!?」

 アキトが思わず声を上げてしまった直後、笠の隙間から青年に向かって鳥肌が立つほど何かが鋭く赤く光った。

 「テンカワ・アキト!」

 その身の毛もよだつ猛々しい声とともに男はアキトに向かって突進した。青年は咄嗟に戦闘態勢をとったが男の攻撃は尋常ではなかった。二撃の掌打をかわすことはできたものの二撃目はおとりだったのか、体制を崩された瞬間に男の右腕が伸びてアキトの襟首をつかみそのまますごい力で壁に叩きつけられた。

 「……!」

 アキトは声も出せない。さらに信じられない力で壁に押し付けられ動くことさえできなかった。男の声がした。

 「フハハハハ、なかなか鍛えてはいるようだが、まだまだ我の敵ではないな」

 アキトが鳥肌が立った理由を理解したのは男が顔を上げた時だった。三角錐の笠から覗く二つの冷たい目……しかも左目は不自然に赤く光っていた。

 「義眼だ」

 とアキトは気づく。青年は苦しさに耐えながら反撃を試みたが、さらに襟首を締め上げられて呼吸を圧迫されて力が出せなかった。

 アキトを睨みつけたまま、男が再び口を開いた。

 「ふむ、半信半疑だったが会ってみて確信した。お前もテンカワ・アキトだ。お前が元の(・・)テンカワ・アキトならば、あの(・・)テンカワ・アキトがあそこまで悪鬼羅刹となって我に挑んできた理由もうなづける」

 男は実に奇妙なことを口にしたのだが、アキトには既視感があった。この光景と男の言葉……どこかで見たような聞いたような……なんだっけ?

 しかし、アキトは思い出せないまま(うめ)くように声を出した。

 「な……何を……言って……いる」

 男は、なぜか薄気味悪く笑った。

 「ふふふ、クククク……そうか、そうか、お前は、いや貴様たちは理解していなかったのか(・・・・・・・・・・・)?」

 その意味を言葉ではなく目で問うと、男は不気味に赤く光る義眼を向けていった。

 「テンカワ・アキトよ、よく聞け。お前たちは――」


 男は言い終えた直後に後方に飛び退った。ようやく圧迫から解放された青年は必死に呼吸を整えながらある方向に目を向ける。男は壁に突き刺さった軍用ナイフを引き抜いてから入り口を睨みつけた・

 「何者?」

 入り口の陰から戦場の主人公さながらの悠然さで姿を現したのは「第13代薔薇の騎士連隊(ローゼン・リッター)隊長」ワルター・フォン・シェーンコップ准将であった。右手の上では軍用ナイフが遊弋している。

 「何者とは、これ如何に。問うのはこちらのほうだ、お前さんはただ答えればいい」

 不敵な笑みが交差したかと思うと尋常ではない二名が激突した。火花を散らした双方のナイフが衝突の勢いで弾け飛ぶと、男が繰り出した掌打を受け止めたシェーンコップが素早く腕をひねって投げ飛ばす。が、男の身のこなしは只者ではなく、なんなく空中で身をひねって着地――

 ――する間もなく、あっという間にシェーンコップとの距離を詰めると再び鋭い掌打を放つ。格闘術を極めた元連隊長の反応も素晴らしく腕をクロスさせて防御した。

 しかし、威力は凄まじくシェーンコップは後方に吹き飛んだ。そこを畳みかけるように男の左拳がみぞおちをえぐった。

 一瞬、苦痛に眉をしかめたシェーンコップだったが、倒れこむと見せかけた体勢から繰り出した回し蹴りが男の顔のあたりをかすめ笠が宙を舞った。

 ついに男の表情が露になった。黒い頭巾を被っていたが強靭といってもよいだろう。鋭利な右目と不気味に赤く光る左目。見た者の多くは背筋を凍らせるに違いなかった。

 「我に一撃をみまう者がいるとは愉快なり」

 男は、宙を舞った笠を片手で受け止めると口元を釣り上げて楽しそうに笑った。シェーンコップもダメージなどなかったかのように不遜な笑みを浮かべて戦闘態勢を整える。

 ――そのとき、入り口付近が騒がしくなったかと思うと、カスパーリンツを先頭に戦斧やブラスターを持った隊員たちがどっと流れこんできた。

 「潮時か……」

 男がそうつぶやいた直後に誰もが目を疑う異変が起こった。彼が黒い外套を翻した瞬間に胸のあたりから発光に包まれたのだ。

 そして……

  「我の名は北辰(ホクシン)。テンカワ・アキトよ、また会おうぞ!」

 そして、眩い光とともに男はその場から消えてしまったのだった。しばらく呆然と立ち尽くす隊員たちを叱咤したのは、やはりあの男だった。

 「リンツ、不法侵入者だ。すぐに警戒警報を発令し、総司令部に連絡しろ。動ける者は装備を整えて周辺の警戒と捜索にあたれ。ダメージのある者はそのまま待て」

 リンツは、シェーンコップに敬礼すると、すぐに行動に移った。指示通りに動ける者を引き連れて練兵場を後にし、動けない者は医療班待ちになった。

 「さて、テンカワ中尉、貴官は大丈夫か?」

 シェーンコップがアキトに声を掛けると、青年は男の存在した空間を凝視したまま酷く驚いている様子だった。

 「ボ、ボソンジャンプ……」

 独り言のようにつぶやく。

 「ボソンジャンプだ……間違いない」

 アキトは視線を感じて慌てて口をつぐんだが、シェーンコップはその場で追及するようなことはせず、到着した看護士に青年をまかせ、自らは司令部へと急ぎ歩を進めたのであった。
 
 
 
 
 ■■■

 「あっきとぉー!!」

   ミスマル・ユリカが医療室に駆け込んできたのは、事件発生からわずか20分足らずであった。艦隊出撃の命令が発令されていたが、準備はカールセンとモートン提督に任せていた。

 「ねぇ、大丈夫?」

 急にトーンが落ちたのは軍医に睨まれたからだった。アキトはちょうど診察を受けていた。事前にスキャンされていたのか青年の生体データと診断データが情報スクリーンに表示されていた。ユリカが盗み見た限りではどこにも異常は見られないようだった。

 「よかったぁ、アキト。これで安心!安心!」

 直後にユリカが退室したのは、軍医と看護士に無言の圧力をかけられたためである。


 ――15分後――

 医療室から出てきた青年にユリカはいたわりの言葉を掛けたが、婚約者のほうは笑って応じただけで様子が優れないようだった。

 「アキト、本当はどこか痛むの?」

 頭を振った青年は「いこう」と短く言って歩き出したが、人が見えなくなった廊下で意を決したようにユリカに切り出した。

 「今日、俺を襲ったヤツはボソンジャンプで練兵場に現れたようなんだ」

 「えっ?」

 アキトは、男が姿を消した方法も「ボソンジャンプだった」と伝えたうえで、急に神妙な表情になってユリカに言った。

 「そいつ、俺やナデシコの事情を知っているようだったよ。そして去り際にこう言ったんだ……」

  お前たちは入れ替わった

 ユリカも、アキトから聞いた男の言葉に戸惑いを隠せなかった。考えれば考えれるほど、どういう意図で言ったのか不思議であったし、男の正体と、なぜ男が自分たちの事を知っているのか謎だった。

  (それって一体どういうことかしら?)

 答えにたどり着くことなど到底できないまま、ユリカはアキトと別れ、急ぎ足で軍事宇宙港に向かったのだった



 翌朝、警戒態勢はいったん解除される。

 と同時に要塞総司令官ヤン・ウェンリー大将は事件の真相を探るべくミスマル・ユリカ中将とテンカワ・アキト中尉を執務室に召集も、ユリカの強い意向もあり、双方の幕僚を交えてミーティングルームに集合した。






 ……TO BE CONTINUED

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 みなさん、お久しぶりです。第三部をはじめます。ただ、情けないことに中盤をまとめ切れていないため、ちょっと途中が不安です。

 作中の「ラピッドライフルV」のネーミングは、作者もいろいろ考えたのですが、はっきり言って思う浮かばず! 読者様からのかっこいいネームを募集しており ます。

 ぎりぎり今年はあと一話投稿できるかもしれません。まだまだコロナ禍が続きます。すこしでも時間つぶしになれば幸いです。

 2020年11月8日 ――涼――

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