魔 法先生ネギま!
~ある”姉”妹の乱入~
3時間目 「女子校生活は辛いよ その2」
転入初日を何とか終えた御門”姉”妹。
帰りのHRも散会し、ため息をつきつつ支度を整える。
「覚悟はしていたが、こんなに疲れるものとは思わなかった・・・」
「・・・お察しします」
周りに聞こえないような小声で、勇磨が呟く。
さしもの環も同情して、軽く苦笑を浮かべた。
「はぁぁ・・・・・・・・・わたし、身体もつかな? いや、精神もつかな?」
「・・・がんばってください」
すでに勇磨は、かなり参ってしまっているようだ。
一人称が自然に女性格になっていることからも、それは窺える。
環はやはり、苦笑を返すしかなかった。
「ねーねー御門さん」
「あ、はい、なんざんしょ?」
「なんか言葉遣いがおかしいよ~」
そこへ、数人のクラスメイトたちが歩み寄り、声をかけてきた。
パッと返事を返したのは勇磨で、参っている状態だったため、変な言葉遣いになってしまう。
正体に直結するようなことではなかったが、環がギクリとしたことも確か。
まあ、寄ってきた彼女たちも、冗談だと受け取ったようだから、一安心。
「すいません。姉さん、素がこんな人なので」
「こんな人とはなんだよー」
「事実を申しているまでです」
「あはは、仲いいんだね♪」
「さっすが双子♪」
姉妹のやり取りを、笑って見つめる彼女たち。
「そういえば、双子は二組目だね。うちのクラス」
「あー、そうね」
「いやー、珍しいこともあるものだね~」
3-Aには、最初から鳴滝姉妹が在籍している。
ひとクラスに双子が二組いるというのも、かなりのレアケースだろう。
「ところで、私たちに何か御用だったのではないんですか?」
「ああ、そうそう。そうだった」
なにやら勝手に盛り上がっている彼女たちに環が尋ねると、
ぽんっと手を打って、話を元に戻す。
「2人とも、今日はこのあとヒマ?」
「よかったら、校内とかいろいろ案内するけど」
「転入したばっかりだからね♪」
ありがたい申し出ではある。
しかし、残念ながら、放課後の予定は決まっていた。
「申し訳ありません。今日はこれから、買い物に行く予定がありまして」
「買い物?」
「ええ。引っ越してきたばかりなので、いろいろと物入りなんですよ」
「あー、そっか」
なにしろ、手持ちの荷物は、この世界に召喚されたときに身に着けていたものしかないのだ。
住まいこそ寮の部屋をあてがわれたが、生活するに当たって、必要なものが多すぎる。
「何を買うの?」
「食料品から、雑貨、衣類など、とりあえず生活するに必要だと思えるものすべてです」
「着の身着のままで出てきたようなものなの」
「へえそうなんだ」
「あ、じゃあじゃあ、そういうお店を案内するよ~」
「お、桜子グッドアイデア♪ どうかな御門さん?」
「それは・・・・・・ありがたいですけど」
初めての場所で、勝手がわからないことも確かである。
案内してくれるというのなら、それほどありがたいことはない。
「よろしいんですか?」
「もっちろん♪」
「では・・・・・・お願いします」
「うむっ、お願いされた♪」
にぱっと笑みを浮かべて頷く彼女たち。
実に楽しそうだ。
「助かるよ、ありがとう。えっと・・・」
「ああ、わたし柿崎美砂♪」
「釘宮円です」
「椎名桜子だよーん♪」
「ごめん。まだ名前、覚えきれてなくて」
「まーまー」
「仕方ないよ。今日、初めて会ったんだから♪」
礼を述べる勇磨だが、彼女たちの名前がわからない。
呼びかけるのに困るが、察した彼女たちのほうから名乗ってくれた。
「じゃ、さっそく行こう♪」
あとから聞いたところによる、『チア部3人娘』に連れられて、
勇磨と環は教室を後にした。
麻帆良学園都市のショッピングモール。
ただの学園付随の施設としては、かなり豪華なもの。
大都会にあるようなものと比較しても、決して引けはとらない。
むしろ、勝っているのではないかと思えるほどの規模だ。
「は~、すごいんだな~」
「ええ。これほどとは思いませんでした」
御門姉妹も、その光景に目を奪われている。
「にゃはは、それほどでも~♪」
「別にあんたが褒められたわけじゃないでしょ桜子。
でも、凄いことは本当よね」
「わざわざ外まで行かなくても、ここでほとんど揃っちゃうくらいだし」
チア部の3人も、自分たちが通っている学園都市のことを褒められて、満更でもない様子。
特に、桜子などは満面の笑みを浮かべており、円から突っ込まれているくらいだ。
が、美砂は、だけど、と先を続ける。
「私たちはたいてい、原宿あたりまで繰り出してるけどね~♪」
「へえ」
話を聞く限りでは、休日になると、東京方面まで足を伸ばしているらしい。
地理上、さして時間もかからないので、そうしてるコは結構いるよ、とのことだ。
「御門さんたちは行かないの?」
「そういったところにはほとんど行きませんね。
ああそれと、私たちのことは名前で結構ですよ」
「そうだね。2人とも『御門』だから、わかりにくいし。
クラスのみんなにもそう伝えてくれたら」
「そう? じゃ、次からはそうするね。みんなにも言っとく♪」
そのほうが親しい感じがするね、と三人娘は笑顔で了承。
自分たちも名前でいいよ、と返す。
「んじゃー、何から買うの?」
「そうですね。では、衣料店をお願いできますか?」
「よしきた♪」
一行は、まず衣類を揃えるため、服屋へ。
「ジャーン♪ ここなんかどう?」
案内されてやってきたのは、おしゃれなブティックだ。
高級そうな匂いも感じられる。
「いや、あの、悪いんだけど、そんな高そうなものは・・・」
「ブランド物にこだわっているわけでもありませんし・・・
出来れば、安くて丈夫なものが・・・」
これには、御門姉妹は戸惑った。
男であるがゆえに、こういった店には、もともと知識が無く、もちろん入ったことも無い勇磨。
女でありながら、オシャレやブランド物といったものには興味が無く、やはりあまり経験の無い環。
勇磨は元から、服装などにはあまり気を遣わないほうであるし、
環も、上で述べたようにオシャレなどはせず、機能重視という考え方なのだ。
「だいじょーぶだいじょーぶ♪」
「安くてかわいいのもいっぱいあるから♪」
「そ、そう?」
「それならいいんですけど・・・」
「じゃ、入ろう♪」
連れ立って店内へと入る。
案内した美砂たちは、御門姉妹の服を見立ててあげるのかと思いきや。
「ねー美砂~。コレかわいいよ♪」
「あ、新作発見!」
「あっ、見て見て! こっちのもカワイイ♪」
そんなことはそっちのけで、自分たちの服選びに没頭してしまう始末だ。
まあそのほうが、勇磨と環にとっては、いいのかもしれない。
なにしろ・・・
「これなんかどうですか?」
「・・・なあ環」
「はい?」
「さっきから選んでるの、女物ばっかりなんだけど・・・」
本当は男である勇磨が、進んで女物を着るわけが無い。
現に、環が選んでいる服を見て、クレームを付けている。
「何を言っているんですか。姉さんは”女”でしょう?」
「だからって・・・・・・部屋にいるときくらいは、別に女装しなくてもいいだろ?」
周りに人がいないことを確かめ、勇磨は男言葉で、希望を口にする。
しかし、環はにべもない。
「どなたかが、部屋まで訪ねてこられるかもしれないじゃないですか、今朝みたいに。
そのときはどうなさるおつもりです?」
「う・・・」
つい今朝方のことだから、記憶に新しい。
アスナとこのかが迎えに来たのだった。
中まで踏み込まれる前に、服を整える間くらいはあると思うが、万が一ということもある。
どうやら、例え部屋にいるときでも、一時でさえ油断はさせてもらえないようだ。
「わ、わかった、それは我慢する。でも・・・」
「でも、なんです?」
「スカートはやめれ。せめてズボンにしてください」
「仕方ないですね」
まあズボンであれば、男女ともに身に着けるものだ。
女の子が穿いても、違和感が無いくらいのものにしておけばいいだろう。
「じゃあ、何本か見繕ってきてください。私はここで上着を見ていますので」
「ほい」
許可を得て、ズボンが展示されているコーナーへ向かう。
「違和感無いといえば、やっぱジーンズだよな」
小声ながらも独り言を呟きつつ、品定めに入る。
何本か見ていると
「あ、勇ちゃん?」
「えっ・・・?」
不意に背後からかけられる声。
ビックリして振り返ってみると、数着の服を抱えた桜子がいる。
「それ、メンズだよ?」
「あ、え・・・」
指摘を受けて確かめてみると、確かに、『Men’s』の表示がなされていた。
つまり、男物。
「え、ええとあの、そのー・・・」
勇磨は慌てた。
つい普段のクセで何気なく、男物のコーナーへ行ってしまったが、まさかバレたか?
「もー、そそっかっしいなあ♪」
「あ、あはは・・・・・・そうだね」
幸い、バレるには至らなかった。
単に間違えただけと思われたようだ。
「女物はそっちだよー♪」
「あ、う、うん・・・」
女物のズボンコーナーへ誘導してもらう。
ホッとしつつ、目的のものとは違うことに焦った。
(・・・仕方ない。あとでこっそり、選んでおこう・・・)
こうなっては、この場で選びなおすことは不可能だ。
あとで、目を盗んでサッと選ぶしかあるまい。
ふぅ、と息をついて諦めて、女物のズボンを選ぶフリをする。
「勇ちゃんって、ズボン派なの?」
「あー、まあ・・・・・・うん。スカートは全然・・・」
「ふうん、そうなんだ。スカートも似合いそうだけどね~」
「はは・・・」
話を合わせつつも、勇磨は気が気でない。
嘘八百もいいところで、冷や汗ものだった。
「と、ところで、椎名さんはソレ、全部買うの?」
「桜子でいいってば。これ? ううん、買わない」
「か、買わないの?」
「うん」
話を変えようと、桜子が抱えている服のことを訊く。
てっきり買うものだと思ったから、意外な答えに驚いた。
「かわいいと思ったから、ちょっと試着してみるだけ♪」
「そ、そうなんだ」
「だいたい、こんなに買うお金なんて無いしね。あはは♪」
桜子は笑いながら、試着室へと消えていった。
「ふぅ・・・」
勇磨は、同じく笑みを浮かべつつ見送って。
桜子が完全に試着室の中へ入ると、大きなため息をついた。
「まったく、油断も隙もあったものじゃない・・・」
そして、小さく呟く。
ほんの些細なことでも、正体がバレてしまう可能性がある。
そのことを実感できる出来事だった。
「勇ちゃんっ!」
「っ・・・!! な、なに?」
ドッキン再び。
試着室のカーテンから、顔だけを出した桜子がこちらを見て、呼びかけてきている。
「勇ちゃんも、買うのは試着してから決めたほうがいいよ」
「あ、ああ、うん・・・・・・そだね。そうする・・・」
「うん。じゃっ♪」
それだけ言って、桜子は引っ込んだ。
「し、心臓に悪い・・・・・・はふぅっ・・・・・・」
脱力し、今にも膝をついてしまいそうな勢いの勇磨である。
その後、数着の服とズボンを何とか選んで。
次に行こうと、チア部3人娘に案内されたのは。
「こ、ここは・・・」
さすがの勇磨も、我慢の限界であろう場所だった。
ここからでも、入口のガラスドア越しに、店内が良く見える。
もちろん即座に目を逸らしたが、嫌でも、色とりどりの生地が目に入ってしまった。
「服が必要なら、下着も必要だよね」
そう。下着専門ショップ。
しかも、ややアダルティな雰囲気が漂う店である。
男として、女性の下着売り場ほど、入りたくない場所は無いだろう。
「い、いやあのー・・・・・・ここは・・・・・・」
「あれ? 下着はいらないの?」
「いや、必要なんだけど・・・」
「じゃあ入ろうよ。レッツゴー♪」
「ちょっと待ってー! あーっ!」
勇磨の叫びも虚しく、店内へ引きずられていってしまう。
「・・・・・・」
その一部始終を目撃した環。
今度ばかりは、男女差から来る勇磨が渋った理由がわかり、無言でいたが
「ご愁傷様です・・・」
と呟き、諦めの境地で後に続いていった。
この店にいる間、勇磨の顔が終始真っ赤だったりしたのだが、詳しい描写は、
彼の名誉を守るために避けておこう。したくても出来ない事情もある。(爆)
このあと、スーパーに行って当面の食料品と雑貨を揃え、寮の部屋へ帰宅した。
波乱万丈の転入1日目が、それで幕を下ろしたと思いきや。
「はああ~っ・・・」
部屋へと帰ってくるなり、勇磨は荷物を放り出して、大の字に寝転んでしまった。
カツラもポイッと投げ捨て、スカートもまくれ上がって、見たくも無い生脚が露になる。
「またそんな格好をして・・・・・・下着が見えそうじゃないですか」
「部屋の中なんだ、いいだろ」
「よくありません! さっきも言いましたが、どなかたがやってくることもあるんですよ。
それに・・・・・・そ、そそ、それに・・・・・・」
「それに、なんだよ?」
「・・・・・・」
なぜだか、真っ赤に染まっていく環の顔。
その視線は、勇磨の下半身をしっかと捉えていた。
「なな、なんでもないです! 私は買ってきた食料品の整理をしますから!
寝転ぶのは構いませんが、制服を着替えてからにしてくださいねっ!」
が、ハッと我に返ると、そう早口でまくし立て、スーパーの袋を提げたままキッチンに消える。
「なーに赤くなってるんだか」
首を傾げる勇磨だったが。
「今さら俺のハダカを見たところでなんだ」
環が赤くなっていた理由は、しっかり理解していたりする。
「一緒に風呂まで入った仲じゃないか」
「小さい頃の話じゃないですかっ!」
聞こえた環がひょいっと顔を出し、再び怒鳴る。
「誤解を招く発言は控えてくださいっ!」
「へーへー」
「まったく・・・・・・」
はあ、とため息をつく環。
この兄に何か言っても、無駄なことは、誰より自分自身がよくわかっていた。
「それと・・・・・・姉さん」
「いつもどおり、兄さんでいいじゃないか、部屋の中なんだから」
「そうもいきません。
普段から注意していないと、何かの弾みで、ボロが出てしまいますよ」
「うぐ・・・。難儀だよな、ホント・・・」
「はい・・・」
今日1日過ごしただけで、それは、嫌というほど実感した。
いつ何時、どんなことから正体がバレるか、たまったものではない。
「では私は、夕飯の支度をしますので」
「おー」
「だから姉さん。制服は着替えてください」
「仕方ないな・・・」
環はそう言って、再びキッチンに引っ込み。
勇磨も、仕方なく着替えを始める。
勝ってきたばかりの服に、ジーンズ。
「これは・・・」
明らかに”カワイイ系”の上着だ。
手にとって広げてみて、うんざりする。
「あんにゃろ・・・・・・自分じゃこんなの着ないくせに、しっかり選んでやんの・・・」
自分で選んだものではない。
環は、自分ではこういう服を絶対に着ないので、明らかな勇磨用、いや”勇”専用だ。
なるべく地味めな、女の子女の子していない服を、と頼んでおいたのに、
見事に裏切られた気分である。
代わりを探してみたが、ほとんどがそのような感じで、二重に裏切られてしまった。
「はぁぁ・・・・・・仕方ないか。こんなことで参ってたら、ホントのホントに、精神が持たん・・・・・・」
だが、唸っていても仕方が無い。
バレた時の恐怖と、他のことを考えれば、服装くらいは目をつぶろう・・・
半ば諦めの境地に達した。
制服の上下を脱いで、ネクタイピンを外し、下に着ていたシャツに移し変える。
ジーンズを穿いて、カラフルな色合いの上着を着た。
「は~っ・・・」
そして、再び横になる。
備え付けの絨毯の上だが、今日1日の疲労はかなりものだったらしい。
すぐに睡魔が襲ってきて、転寝をしてしまった。
どれぐらい寝ていたのか。
「姉さん? もうすぐ出来ますよ」
「ん・・・」
という環の呼ぶ声で、ふと眠りから覚めた。
寝ぼけ眼を擦りながら、上体を起こす。
「テーブルを拭いておいてください」
「はいよ。ふわあ・・・」
大きなあくびを漏らしながら、立ち上がろうとしたときである。
ピンポーン
「「っ!!」」
今日、この音を聞くのは2回目。
来客を告げるインターフォン。
「誰か来た!」
「姉さんは急いで身支度を!」
「わかってる! えっと、カツラカツラ・・・」
途端、激しくなる2人の動き。
環はキッチンから飛び出してきて、勇磨は慌ててカツラを身に着ける。
「いいですか?」
「あ、ああ、なんとか」
「開けますよ・・・」
装着したのを確認すると、環がそのまま玄関に向かい、ドアを開ける。
「こんばんはっ御門さーん♪」
「こんばんはや~♪」
「え・・・?」
すると、思いのほか大人数が、そこにいた。
代表して、1番前にいる2人が、挨拶をしてくる。
「えっと・・・・・・早乙女さんに、このかさん」
「うん」
「はいな♪」
「それに・・・・・・こんな大勢で」
「こんばんはっ」
「いい夜だね♪」
「って、ここからじゃ外見えないでしょ」
「にゃはは♪」
ハルナに、このかに、アスナに、まだ環も把握しきれていないが、裕奈やまき絵などの運動部組、
さらには夕映やのどかといった図書館組、他にも数人の姿がある。
もう外は真っ暗だ。
こんな時間に、いったい何事だろう?
「皆さんおそろいで、何か御用ですか?」
「御門さん、もうお風呂は行っちゃった?」
「はい?」
戸惑いつつも尋ねてみると、返ってきたのは、さらに理解に苦しむ問い返しだった。
「お風呂?」
「この寮の大浴場はね、すっごく広くて気持ちいーんだ♪
よかったら一緒に行かない?」
「みんなでお風呂入りながら、親睦を深めるんや~♪ な、アスナ?」
「こういうことだと団結するのよね、うちのクラス」
ハルナとこのか曰く、親睦を深める会イン大浴場、ということらしい。
話を振られたアスナは、普段はてんでバラバラなのにね、と呆れ顔で。
「でも、こんなに大勢で押しかけちゃ迷惑よね?
そっちの都合もあるだろうし、嫌ならソレでいいから」
と、一応の気遣いを見せてくれる。
「あ、その・・・・・・迷惑というほどでもないですが・・・・・・」
一方の環も困り顔。
なにより、勇磨を大浴場に行かせるわけにはいかないし、
自分もあまり、そういう催しは得意でないのだ。
無下に断るのも角が立つので、どのように断ろうか、言葉を選んでいると。
「あー、みんなごめん。お・・・わたしたち、これから夕食なの」
奥から勇磨が出てきて、そのように告げる。
「だから、その、そういうのは、またの機会、ということで・・・」
「そっかー。そういうことなら仕方ないね」
「あかん。事前に確認するべきやったわ~」
前もって予定を確認しておかなかった、自分たちのミス。
彼女たちは総じて納得した。
「じゃ、親睦を深める会は、後日、日を改めてということで。また誘いに来るよ♪」
「あはは・・・・・・そだね」
勇磨としては、絶対にその誘いに乗るわけにはいかないので、
複雑な気持ちで頷いておく。
「ところで、ゆうちゃん」
「え? なにこのか?」
と、ここで、このかがあることを指摘する。
「なんや髪ボサボサやけど、どうかしたん?」
「えっ!?」
「そういえばそうだね~」
「跳ねたりしてるよ?」
「えーとー、そのー、これはー・・・」
勇磨は言葉に詰まった。
繕いすらせず、外していたカツラを無造作に被せただけなので、当然のことである。
外すときに、乱暴に放り投げてしまったことも、乱れる要因となっていた。
「実は・・・」
「・・・環?」
環の助け舟。
咄嗟の機転で、難を逃れることになる。
「姉さんはついさっき、すでにお風呂に入ってしまいまして。
この通りズボラなお人ですから、そのままにしてまって。
しかも事もあろうに、床に寝そべって転寝してしまい、この有様ですよ」
「あー、そうなの。どっちにしろ、今日の親睦会は無理だったってことか」
「あかんよゆうちゃん。髪の毛は女の子の命なんやから」
「きちんと手入れしないと、枝毛とか出来ちゃうよ」
「せっかく綺麗な髪の毛なのに~」
「あ、あはは・・・・・・そだね。次からは気をつける・・・・・・」
演劇部特製特注のカツラは、本物と見間違うほどの性能を誇る。
助かった勇磨は、苦笑を浮かべるのと同時に、ホッと息をついて環に視線を送った。
(助かった。すまん環)
(いいえ)
双子の意思疎通は、それだけで充分。
「じゃあ、そういうことだから・・・」
「あ、うん。ごめん、お邪魔したね」
「今度からは、きちんと確認するようにするよー」
「それじゃね~♪」
彼女たちと手を振って別れ。
パタンと、ドアが閉まるのとほぼ同時に。
「・・・・・・姉さん」
「ああ、わかってる」
ジロリと、環が勇磨を睨んだ。
「だから言ったでしょう。普段の行いが大切なんだって・・・」
「わかった、それはもうたっぷりと思い知らされた。だから皆まで言うな・・・」
このことがきっかけで、以後、勇磨がカツラをぞんざいに扱うことは、無くなったという。
4時間目へ続く
<あとがき>
相変わらずのまったり進行。
重要展開はまだか!?
そして、今回、さよはどうなる!(爆)
以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!
>あはははは。勇磨女装編ですか。兄妹編の続きも楽しみですが、"姉妹"編も続きが気になります。
出来てしまいました女装編!
さて、どうなりますやら・・・
>かなり笑わせてもらいました(大爆笑)兄弟のほうもよろしくお願いします
なるべく両立させていきたいと思っております。
ただ、そろそろネタが尽き気味なので、うーん・・・