C.E暦69年11月10日。日本が転移してから、およそ1ヶ月が経過していた。世界の仲間入りを果たしてからは、7日余りとまだまだ浅い。
もっとも、それも簡単な道のりとは言い難がった。先の戦争で大勝したとはいえ、それが良き道へ開けるとは限らなかったのだ。
ユーラシア連邦と東アジア共和国は、国連議会の場において、日本の独立を断固として認めようとはしなかった。

「独立など、もっての外だ。先の戦闘を、皆が知っている筈だ。あれは世界の脅威となるぞ!」

  ユーラシア連邦首相アレクセイ・モロコフは、先の敗戦を棚に上げて日本への脅威を強調する。確かに、日本の軍事力は計り知れないものがあった。
3個艦隊分の兵力を撃退し、200機あまりの航空機を撃墜した。これで日本の独立を認めるとなれば、いずれ世界に牙を向けるだろう。
また、同時侵攻した東アジア共和国首席 李拓蒋(リ・タクショウ)も、日本の独立には強い反対を唱えた。
彼らもまた、自業自得と周りから非難されるものだったが、目と鼻の先に日本があるとなっては一番に反対したくなるのも頷けない話ではない。
  だが、この2ヶ国が反対する傍らで独立を後押しする国は多くあった。

「我々は日本の独立を歓迎する。彼らは戦いを求めているのではない、全世界との平和を望んでいるのだ」

オーブ連合首長国が、まずその代表と言っていいだろう。さらにウズミ・ナラ・アスハは、国連議会の前から周到に根回しを行い友好国を引き付けていた。
スカンジナビア王国と赤道連合の指導者は、彼の説得に応じて賛同の意を表した。さらに彼は、事前に日本へと接触を図ることに成功していたのだ。
  その会談は突然なもので、申し込まれた日本側も戸惑いを示したものの、藤堂はまたとない機会だとして即座に受け入れた。
会談に参加したのは勿論、ウズミ本人である。指導者が直々に来日することで、藤堂らの信用を少しでも得ようとしたのだ。
これが、この世界に来て初めての会談になった。同時に来日したウズミは、この世界で初めて入れ替わった日本の土を踏んだ人間となったのである。

「どうせ動くなら、早期に動いてほしかったものだ」

  と、口には出さねども、不満を覚える日本人は少なくない。
だが、ウズミは日本との開戦に、反対の意を表明していたことを、明確に伝えた。その発言は議会議録としても残っており、他のスカンジナビア王国や赤道連合らも、性急的なものだと批判の声を出していたことも明らかになった。
さらに言えば、反対の意を表明したとして、これらの国は日本から離れた位置にあり、軍事的援護は時間が掛り過ぎたのが問題であった。
  藤堂はそれらを察し、問い詰めるような真似は一切しなかった。ウズミも、責め立てない藤堂の姿勢に、ある確信を持ったものである。
そしてウズミは、会談の場にてオーブ連合首長国は日本を支持する旨を表明した。オーブ連合首長国の建国には、日本人も深く関わっていることが支持する理由だ。
同じ日本人の血が流れているオーブ人。共に手を取り合えば、両国は素晴らしい発展を遂げるだろう―――と、ウズミは熱心に語った。
日本の経済力が如何なほどかは把握しきれていないが、あの科学力を見れば、それ相応の力があると見て然るべきだと判断したのだろう。

「細かいことは直ぐには応じられません。ですが、アスハ首長。貴国の支持表明には、大いに感謝いたします。この危機を乗り越えた暁には、貴国との友好的な関係を是が非でも結びたいと、私は考えております」
「確かに、経済の云々とした話は時期尚早でしたな。それでも、我らオーブの意思を信じて頂けたことは、こちらとしても感謝いたす次第」

  この突拍子な会談は、お互いの意志を確認しあう程度のものではあったが、確実な成果を得られたと藤堂及びウズミは感じた。
その後、ウズミ以下、数名の幹部とガードマンは帰国の途に着くことになった―――が、帰りは乗ってきた専用機ではない。
藤堂の計らいで、彼ら一行は〈ナガト〉に乗艦することとなったのである。これにウズミは当然の如く驚き、藤堂の閣僚達も驚いたものだ。
一時は罠ではないか、と疑う側近やガードマンだったが、これが藤堂なりの信頼の証ではないかと受け止めることとした。
  ウズミを送り出すために特別に編成されたのは、弩級宇宙戦艦〈ナガト〉以下、宇宙巡洋艦〈羽黒(ハグロ)〉、突撃型宇宙駆逐艦〈白雪(シラユキ)〉〈皆月(ミナツキ)〉〈雪風(ユキカゼ)〉〈綾波(アヤナミ)〉の6隻である。
この中にウズミが搭乗した旅客機が追従し、本土へと短い航海を行うことになった。宇宙軍の動員は大げさだと言う反面、それなりの効果を期待してのことだった。
ウズミ一行は、〈ナガト〉他、宇宙艦艇が空を悠々と航行する光景を目の当たりにして愕然としたものだ。

(恐るべき技術だな。これが彼らの世界では当然だと言うのだから、尚更のこと技術力の差を感じる)

  方やオーブ本国は、首長らが専用機ではなく日本の宇宙艦隊に便乗してくると聞いて大慌てであった。
大げさに侵略するつもりかと叫ぶ者もいたが、通信してきたのがウズミ本人であり、その他全員も何ら危害を加えられた様子もないので安心するに至る。
日本艦隊が数時間の行程でオーブ本国の到着すると、出迎えのオーブ空軍にエスコートされながら空港へと着陸を果たした。
  その際、空港には大勢のマスコミが駆けつけ、初めて見る日本宇宙艦隊をフィルムに収めようとする。轟音と共に降り立つそれらに対して歓声を上げた。
赤と白のツートンカラーや、灰色と赤のツートンカラーなどに身を纏った戦闘艦艇群。空中を悠々と浮遊しているのに皆が驚く。

「あれが日本の軍艦‥‥‥!」

出迎えに来ていた娘、カガリも、マスコミらと同様に驚き、圧倒される思いであった。やがて父親のウズミと一行が、〈ナガト〉のタラップから降りる姿が見えた。
何事もなかったようで、いつもの元気な様子だ。オーブ閣僚や、氏族は安堵し、日本に対するオーブの信用は得られたのだと、少なからずも確信したのである。
  このように、オーブ連合首長国は大西洋連邦よりも早く行動し、日本との友好関係を見事に構築せしめたのだ。それは全国を驚かせた。
また、オーブの指導者が直接に赴いた事実もさることながら、オーブ本国にやって来た日本宇宙艦隊、というメディアの放映が、何よりも効果が大きかっただろう。
先を行った行動に触発されるよう、大西洋連邦もやや出遅れながらも日本への支援の声明出した。

「我々も、日本の独立を認めることを表明する」

南アメリカ合衆国も、日本の独立に異議なしとして、声明を発表した上に国連議会の場でも公言したのである。
  残る南アフリカ統一機構、アフリカ共同体、汎ムスリム会議、大洋州連合は、最初こそ明確な表明は出していなかった。
とりわけ国が成立するのに国連を通さねばならない、ということは無いのだが、やはり他国の賛同を得た方がやり易いのは当然である。
そして変化に拍車を掛けたのは、大洋州連合であった。この国はどちらかと言えばプラントよりな国家で、プラント理事国とは関係が良くない。
  さらにプラント寄りのアフリカ共同体と、国連寄りの南アフリカ統一機構である。この両国の関係も、大洋州連合とプラント理事国並みに関係はよろしくなかった。
宗教的、民族的対立もある彼らが同一の賛同的発言をしたのには、互いの思惑が重なった結果でもある。

「強大な力を持つ日本が独立すれば、プラントは思うように動けまい。よって、我が南アフリカ統一機構が、正当なるアフリカ大陸の支配者に成り得る道は近くなるのだ!」

と、南アフリカ統一機構大統領 アーニー・グーセン大統領は言った。日本が国連側に着くことで、プラントへの牽制になる、と判断したのだろう。
  方やアフリカ共同体と言えば。

「日本をこちらに引き込むことで、国連側―――ひいては南アフリカの者共への大きな壁となる筈だ。彼らを我らの陣営に引き込んだ時、勝利は確定する!」

と、アフリカ共同体首相 アントニオ・ヴェイガが力強く言ったのである。日本の独立を認める理由、即ち、己の利益のために他ならない。
日本の軍事力を目の当たりにしただけあって、これを自分の側に引き込んだ時のパワーバランスは、大きく崩れるであろうと踏んだのだ。
  残る汎ムスリム会議は、迷った挙句に反対を表明した。この国家は、北にはユーラシア連邦、東には東アジア共和国と隣接している。
その2ヶ国からの外交圧力があったのだ。彼らにしてみれば、日本が独立しようが知ったことではないのだが、大国に圧力を掛けられては平然としてはいられなかった。
まして、何故日本ごとき島国のために、自分らが圧せられなければならぬのか。彼らは渋々と反対を表明したのであった。
  この賛同か否定かで、各国はさらに論争を繰り広げた。賛同国と否定国で、互いを罵るような形にまで発展したものである。

「独立の支援表明をしている奴らの、腹の内は見え透いている。日本の技術力を自分の者にしようとしているのだろう!」
「どう捉えるかは君らの自由だ。だが、少なくとも、彼らと手を取り合ってマイナスになることは、まずないだろうね」

このような醜態をさらけ出した議会ではあったが、結局のところ国連の総意は、日本独立の声に賛同と言う立場になった。





  この瞬間に、日本は正式的に主権国家としての存在を確立したのである。こうなっては、ユーラシア連邦も、東アジア共和国も下手に動くことはできない。
日本側は、国連の総意に深く感謝を示した。もっとも、閣僚や軍部の中には「鈍間な国連め」と非難していたものである。
それでどうこう言おうと、独立が正式に認められたのだ。そして独立を支持してくれた国々に感謝しつつ、早速、日本は動き出さねばならなかった。
  敵対関係にあるユーラシア連邦、東アジア共和国とは、国連が仲介して正式な戦争の停戦を調停させるこで、ひとまずは戦争状態から脱したと言えるだろう。
続いて国内業界の再促進を測る為に、海外へのビジネス展開を支援すること。同時に、海外との為替レート等の調整をもしなければならない。
幸いにも、この世界ではまだ$紙幣といった通貨が続いているようで、調整は左程難しいことではなさそうだった。

「貿易は構わないのだが、兵器に関しては、一部規制を掛けて然るべきではないか」
「かもしれん。聞けば、この世界と我々の世界の技術レベルは、大分違うらしい」

閣僚達は、国内企業を貿易によって活性化させるうえで、とりわけ兵器関連には慎重になっていた。
無論のこと、全ての物に対して規制するつもりではないが、それは取引相手の出方次第にもよるだろう。
  例えば、現在の日本宇宙艦隊が装備している決戦兵器ショックカノンだ。これは破壊力こそ艦載主砲のフェーザー砲の比ではないが、発射する為には高出力のエネルギーを必要とする故に連射が利かず、下手をすれば艦自体のエネルギー不足を引き起こす。
おいそれと他国に渡すことは出来ないものだが、もし、この世界でもショックカノンを開発しているとすれば、隠すより寧ろ出した方が良いだろう。
双方の技術を交える事で、より高度で使いやすい物が開発できる可能性がある―――もっとも、日本側としてもショックカノンの使い易さを求めているのだが。
  もう一方で民間レベルの貿易は問題ないだろうか? いや、実を言えば問題がないとは言い難かった。
その原因は民間企業の造船会社の存在である。元の世界でにおいて名を轟かせているのが、南部重工大公社と呼ばれる大手の民間軍需企業だ。
国連もとい日本は、兵器の発注を、この民間企業に任せていたのだ。銃器や艦船に搭載する主砲、宇宙戦闘艦や海上戦闘艦、はたまた民間レベルにおける輸送船やタンカーなどの開発、造船、生産を手掛けている。
よって日本政府との関係も深く、軍事力の編成には欠かせぬ存在であるのだ。

「もしも海外から、南部重工へ兵器の発注があった場合、どうすべきかね」
「南部社長からすれば、ビジネスチャンスを逃すわけにはいくまい。かといって、彼がそう簡単に手を握るとも思えんしな」

  南部重工大公社の社長である南部康造(なんぶ こうぞう)は52歳。白くなった頭髪と口髭が特徴の男性。
世界が入れ替わってしまったという現実に、会社は危ぶまれていた。国内にも市場を多く持つ彼だが、やはり海外市場を一気に失ったのは大きな痛手である。
そこで、この世界でも海外を相手に市場を開拓しようと躍起になるは、考えなくともわかる。市場開拓によって、下降した業績を上昇させようというのだ。
何よりも会社に勤める従業員達のこともある。経営者としては雇用者を切り捨てずに、何としても維持していきたい考えであった。

「兵器関連は、この世界の技術レベルがどの程度のものかを、しっかりと把握する必要があるのではないか」

  鍾岸局長が発言する。この世界のレベルを把握したうえで、兵器関連のビジネスを執り行うべきだというのである。
もっとも、南部 康造にしてみても、市場を拡大したいからと言って、むやみやたらに兵器を売り出す気にも慣れないでいた。
それにいずれは、兵器レベルなど同等になる。今は規制をしていても、やがては並び、競争率は今よりも激化するだろう。
  因みに技術供与するのと、兵器を売り渡すのは、また違う意味合いがある。技術供与はノウハウを全て相手に渡してしまうことで、すぐに同レベルに追い付かれる。
反対に生産した兵器を納めるだけとなれば、解体や解析でもされない限りは、そう簡単に追い付かれることもない。
または、一世代前の技術を教えるという手もある。謂わばそれは、二流品(モンキー・モデル)で誤魔化そうというものであった。

「兵器関連の問題は、早期に片付けねばなるまい」
「その通り。聞くところでは、既に大西洋連邦とオーブ連合首長国の企業が、こちらへとコンタクトを取りたがっていると言うではないか」
「それだけでは収まらんな。地球の反対側にあるアフリカ大陸からも、いずれ兵器の受注を掛けてくる可能性も否定しえん」
「確か、アフリカ大陸は紛争が続いているという話だな」

  己の正義を信じて疑わないアフリカ大陸の2つの勢力が、互いの信念という角を突き合わせている。決着が着かないだけで、もう何年争っていることやら。
そこに、日本の高度な軍事力が加われば、戦況は一変する。と、アフリカの指導者達は考えているのだろうか。
  日本もかつては、海外のイギリスメーカー、ヴィッカースという造船企業に、軍艦の建造を依頼していた経験がある。時の大海戦『日本海海戦』に勇名を馳せた戦艦〈三笠(みかさ)〉しかり、第二次世界大戦に活躍した高速戦艦と呼ばれた〈金剛〉しかり―――とはいえ、どれも予想の範囲でしかない。
  兵器規制は一時置かれ、国家規模でのビジネスに関して、話題が持ち上がる。それは火星開拓という一大ビジネスである。

「どうやら、この世界では火星の移殖があまり進んでいない様子です」
「火星の一部にだけ入植地域があり、火星周辺には居住用、開発用コロニーが完成あるいは建造中です」
「だとすれば、これはチャンスだな。火星開発に関しては、我々には一日の長がある。すぐにはできんが、いずれは火星の惑星改造(テラフォーミング)も夢ではない」

閣僚達が口々に、火星開発における可能性を示唆した。
  元の世界では、火星は既に入植が済んで都市を築いていたのだ。これは国連が主導となって進められた結果であり、1つの国家が単独でできることではない。
それだけ経済的な負担が、巨大なものであるからだ。日本も、このテラフォーミング計画に噛んでいた経緯があった。
それだけに、この世界においては最高のノウハウを持っているだろう。
  ここで口を開いたのは、藤堂である。

「火星開発に関しては、やはり複数の国家が連携していると見るべきか?」
「長官。それについてですが、外務相より少しばかり情報があります。滝君、説明してくれ」
「はい」

藤堂の疑問に対して森外務相は、傍に座っていた外務事務次官 滝英司(たき えいじ)に、情報の提示を求めた。
滝外務次官は、この年で48歳。外務省内で各局を通じて、海外における情報集めを行っている人物である。

「火星開発は、一応、数か国による共同出資で行われているようです。何せ、コロニーの建設と火星への設備投資は、並ならぬ額でありますから」

また火星への開発目的は、主にレアメタルの採掘にあった。これを、年に1回の定期便で地球へと輸送し、同時に食料などの生活用品を持ち帰るのである。
まだまだ完全とは言い難いコミュニティーだが、それでも日本政府が最大の援助をもってして、さらなる発展へと繋げられる可能性はあった。
火星開発にはコーディネイターが採用されており、その理由は、過酷な環境に耐えうるためだとされている。
  火星開発とは別に、世界各国が共同して目指す事業が存在する。それは、火星軌道よりもさらに外側を探査すべく、設立されたものだという話であった。

「この宙域探査は、国連主導ではなく深宇宙探査開発機構(DSSD)と呼ばれる機関が行っているようです」
「DSSD?」
「はい。なんでも、地球とプラントのあらゆる人材を集めたものだそうです」
「滝君、そのDSSDでは、ナチュラルとコーディネイターが共存しているのかね?」

閣僚の馬見が疑問の声を上げた。彼らにも、既にコーディネイターとナチュラルの確執は聞き及んでいる。それだけに、この機関に不備はないかと思ったのだろう。
  DSSDは、滝の言う通り、地球とプラントの双方で、集められた人材で構成される機関である。そして、この機関は中立的立場にあった。
このDSSDに所属する人材は、皆が共通の理念を持っており、決して人種における差別意識を持っている訳ではない。
もしもそのような対立意識があれば、このプロジェクト機関はあっという間に崩壊に至るだろう。
  肝心の理念とは『フロンティアの前進』である。人類の種を、より遠くへと繁栄させるという目的をもって、彼らは日夜をコロニーで過ごし開発を続けている。

「‥‥‥なるほど。共通の目的意識が、彼らを纏めている訳か」
「さようです」

藤堂が納得したように頷いた。この地球と違い、DSSD所属の者達は相争うことなく成果を上げんとしているのか。
この地球でも、彼らを見習って欲しいものだ―――と少しばかり思った。
  が、過去における自分らの地球を考えると、他人のことを言えた立場でもないのだと気づかされる。

「で、この機関は何処に? やはり宇宙にあるのかね」
「いえ。オーブ連合首長国の情報筋によれば、南米に本部を置いているそうです」
「では、早いうちにコンタクトを取るべきでしょうな」
「賛成だ。それに、この太陽系は、生存権が火星までというではないか」

  C.E世界の生存圏は、最大で火星まで。それより先は全くの手つかずなのは自明の理だ。ということは、日本が市場を一手に握る最大のチャンスとなる。
それは、木星、土星の各衛星に眠る、宇宙希少鉱物ことコスモナイトの存在である。宇宙艦船には必須の鉱物で、これがあって初めて宇宙艦艇たる存在に成り得る。
他国には太陽系外惑星系へ飛び出す技術は無い。それに、木星や土星、あるいはその先にある天王星、海王星、冥王星に対する、法律は特に定められていない。
  この隙を突いて、早期に各惑星の採掘や開拓事業を始めた方が良いのではないか? という声もあるが、これは余計な問題を招きかねないとの声もあった。
日本が外惑星系にまで進出することで、他国の注意を一気に引き付けることにならないかが心配になるのだ。
一応、法的外である為、日本の採掘・開拓宣言は違反にはならない筈である。

「何も、資源全てを独り占めする訳ではないだろう。コスモナイトもまた、貿易に大いに役立てる」
「その通り。宇宙希少鉱物によるメイクマネーは、莫大な富をもたらすだろう」

そう言ったのは経済産業相の曽根崎である。経済の立て直しの途上ではあるが、こういった宇宙資産への確保にも意欲的な姿勢を示していた。

「‥‥‥何事もやり過ぎだけは、気を付けなくてはね」

宇宙の開発計画に熱を燃やす閣僚達は、その後も日本が発展するための政策を考え抜くのであった。





  C.E暦69年12月9日。日本は勢いを持って、各国へ進出を果たしていた。民間企業はアジアを除いた国々に進出しては、市場の拡大に全力を尽くす。
あの南部重工も、民間製品を中心に手足を広げており、瞬く間に業績を伸ばしていった。無論、中には進展できぬ企業もあったが。
外交によってオーブ連合首長国は勿論、スカンジナビア王国や赤道連合との良好な関係構築を進めて、早くも交流を始めていた。
大西洋連邦とも、そこそこの関係を築きつつあり、貿易に漕ぎ着けている。
  問題があるとすれば兵器関連であろう。アズラエル理事はオーブ連合首長国のウズミと並んで、早くも兵器技術の供与に取り組んでいた。
これもかれも利益のみならずプラントを圧する為だが、日本はそう簡単に兵器技術を渡してくれる程に甘い相手ではなかった。

「案外、固いですねぇ。そうケチケチせずに、渡してくれると嬉しいんですが」
「アズラエル。本気で日本が兵器技術を供与してくれるとでも、思っていたのかね」

とある会議室に顔を並べる男性陣。皆は何かしらの経営者であり、それも世界に影響の強い者ばかりだ。その中に、アズラエルも含まれている。
彼らが裏世界を牛耳る組織―――ロゴスだ。軍需産業で利益を儲ける彼らは、この日本が有する技術を欲してやまなかった。
  が、案の定と言うべきか、日本の団体は兵器技術の供与に関してだけは、容易に首を縦に振ってはくれない。
アズラエルも呑気に言うが、彼とてこういった結果が見えていなかったわけではない。

「まさか。寧ろ簡単に承諾されたら、ビジネスマンとしては拍子抜けですよ。やりがいがないじゃないですか」
「そのビジネスに失敗したら、元も子もないのではないかね」
「仰る通りです。ただし、オーブだって日本の技術を簡単に受け入れては貰えていないようですからね。そう焦っても仕方ないでしょう」

そうだ。オーブ連合首長国も民間貿易だけではなく、こういった兵器関連の交渉も行っているのだ。
  だが、やはり好印象のあるオーブとて、日本は簡単に動かなかった。

「まして、日本はプラントと、交渉さえままならないのですよ。それほど簡単に、あいつらの手に技術が流入するとも思えませんし」

実は、日本が他国と外交チャンネルを繋ごうと勤しんでいた中で、プラントもその対象とされていた。
  しかし、結果は推して知るべし。自意識過剰なプラント評議会の急進派が猛反対し、日本とのチャンネルは繋がない方向に纏めてしまったのである。
穏健派の意見など聞く耳持たぬ状況だ。パトリック・ザラは勿論、日本との交渉を拒否した。彼が発言するだけでも、他議員に及ぼす影響力は凄まじいものである。
  だが日本との交渉の場に立ち会ったのは、穏健派であるシーゲル・クライン議長だった。そんな彼としては、友好的な関係にありたいと願う。
願いとは裏腹に、議会の結果が否と言うのだから、逆らう訳にはいかない。それでも彼は、全面的に日本との交渉のチャンネルを切ったわけではなかった。
向こうの問いかけを受け入れるための窓を開けているのだ。それが今の彼に出来る最大限の対処であった。

「日本の技術を反映させる為には、こちらもそれ相応の材料を提供しなければるまい」
「だが、我々の有する技術で、日本を頷かせるだけの物があるかね?」
「彼らの技術は我等よりも数世代進んでいるのだ。こちらが出せる物は、限られるだろうからな」

  対価を差し出さずして、欲しい物を引き出そうなどと言うのは、難しい話だ。何事もそれ相応の代物を用意し、交渉を成功させねばならない。
昔ながらの物々交換と変わりない。変わりはないが、決して変わることの出来ぬものだ。災害における無償支援や食糧提供などとは、訳が違う。
現に大西洋連邦は、日本の技術を手にする為に幾つかのカードを用いて交渉の場に臨んでいた。ミサイル兵器の誘導システムや、最新の電子機器システムなどだ。
  しかし、最初の交渉において日本側は全てのカードを拒否した。つまり、大西洋連邦のカードは、日本にとって既存のカードである可能性が高い。
なればこそ―――と、アズラエルは考える。通常兵器の技術では、日本を引っ張り出すには難しい。
であるならば、ここは勿体ぶるよりも、いっそのことジョーカーを出すべきだろう。

「僕としては、アレの開発に、日本を引き込もうと思うのですがねぇ」
「アレ‥‥‥G計画か」
「しかし、それは極秘計画だぞ。情報が洩れたらどうする。プラントは勿論、ユーラシア連邦らも黙ってはおるまい」
「それが、なにか?」

皆の不安を、アズラエルは一笑して撥ね退けた。若い理事は、その程度でどうとなるものではない、と不安どころから開き直った様に言い放つ。

「暴露されたところで、計画は続行しますよ。いずれにせよ、存在は明るみに出るのです‥‥‥それが早いか、遅いかの差ですよ」
「しかしだな‥‥‥」
「極秘であっても、MSを開発しちゃいけない、なんて誰が決めたんです? それに奴らだって作業用のMSを隠れ蓑にして、あんな物を作っていたんですよ?」

  極秘で作っていたプラントに、何を言われる筋合いはない。それにMSを重要視しなかった他国は、いずれ後悔するだろう。
また、かのドイツは第一次世界大戦に敗戦した後に、兵器製造の制限や禁止を発布された挙句、多額の賠償等に埋もれて四苦八苦する時代を過ごした経緯がある。
そのドイツは巧妙な手口で兵器の開発に着手した。戦車の開発は、“農業用トラクター”の名目で開発を続けられてきた。
航空機は、“旅客運送機”の名目で、後の戦闘機といった兵器の開発を推し進める。また海軍に至っては、限られた排水量でポケット戦艦とも呼ばれる艦を造り上げた。
こういった過去の実例を、プラントは再現して見せたのである。ドイツの兵器が世界の度肝を抜いたように、MSの存在は世界の度肝を抜いたのだ。
  ロゴスメンバーは、全面的にアズラエルの提案に賛同しようとは思わなかった。極秘ならば、その完成の日を見るまでは隠し続けるべきだろうというのだ。
アズラエルにしても、彼ら重鎮たる者達の言い分が解らないわけではなかった。であるならば、こちらも大胆なカードを切るべきだろう。

「ならば、勿体ぶらずに秘匿技術でも差し出してみますか」

それは、現在のG計画でも盛り込まれている陽電子破城砲(ローエングリン)と呼ばれる決戦兵器や、ラミネート装甲の技術供与。
加えて現在開発中のフェイズシフト(PS)装甲、ミラージュコロイドも提供すること。ただし、まだ実験段階の色が強い技術である。
  PS装甲は物理的衝撃を無効にする特殊装甲であり、エネルギー兵器を無効化するラミネート装甲とは反対の性質を持っている。
ただし使い勝手が良いとは言い難い。何せ、効果を発揮するためには多量のエネルギーが必要となってしまうのである。
さらにPS装甲が効果を発揮している時と、そうでない時の差が、色によって判別されてしまうという難点も抱えていた。
MSに搭載するために検討・改良中ではあるが、戦艦の装甲としても使えないわけでもない。が、やはりコストは跳ねあがってしまう。
  ミラージュコロイドも、目下試作中のものだ。これはコロイド粒子と呼ばれる物を、対象物体の全体に付着させることで、電磁的索敵、光学的索敵の双方から回避を可能とする代物であった。
つまり、完璧なステルス性能を発揮することができる代物だ。
  だが、新兵器や新技術には必ずと言っていいほどに付き物である欠点があった。ミラージュコロイドは熱や音までは遮断できない。
さらにエンジンの噴射で、エンジン付近のミラージュコロイドそのものを吹き飛ばしてしまい、すぐ露見してしまうのである。
それだけではない。これは永続的な効果ではなく、現在のバッテリー容量では最大80分余りしか発揮できないというものだった。
その為、便利そうで使いどころが難しい代物である。

「一気にそれだけの物を渡すというのか」
「ものは考えようです。今の段階では不備の多い技術ですが、彼ら日本に渡すことで改良を施される可能性があるじゃないですか」
「‥‥‥技術の逆輸入をするというのだな」

  御名答、アズラエルは不敵な笑みを浮かべてまま、頷き応える。日本の科学力をもってすれば、不備を直して完璧なものに仕上げてくれるかもしれない。
それを大西洋連邦が逆輸入するのである。

「アズラエルの言うことにも一理ある。だが、ことさらすべてを呑みこんでくれるわけでもなかろう」
「交渉は焦らずやるものだ。最初の交渉で、2つでも認めてくれれば上出来だろう」

数名のメンバーが揃って頷いた。日本の技術を1つでも手に入れ、反映できればプラントとの差を広げることもできよう。
特に今必須なのは、慣性制御技術だ。これを手に入れるか入れないかの差で、国連もといプラント理事国の立場は大きく優位になれる。
また、製造工程で無重力空間内を条件とするPS装甲。これも、宇宙空間ではなく、地球上で製造を容易たらしめるのだ。
  しかし、彼らは決して時間をかけて交渉する余裕はない。プラントとの関係が冷え込む一向で、解決の兆しは見えない。
プラント議長クラインは、度々に渡って自治権取得と対等貿易を、理事国に要求してきていた。無論、理事国側の考えは“否”である。
所詮は物資生産施設としか見ていない理事国だったが、その余裕も1つの忠告で消し飛んでいた。

「我がプラントは、理事国が要求を受け入れない場合、生産物資の輸出を停止する」

  原料は地球からプラントに流れるが、そこで生産された様々な物資においては、逆に地球へと流れていくのだ。つまり、プラントが要なのである。
そのプラントからの輸出を停止されてしまえば、理事国側の供給率は一気に低下してしまう。物資不足の解消には多大な時間を要することであろう。
逆にプラントは、穀物生産用のコロニーを建造したことで、自給自足を可能としているため、今さらの穀物輸出禁止は無意味であった。
先の要求に対する回答期限は、翌年のC.E暦70年1月1日。理事国としても、国連としても無視しえず、認める必要性があるのではないかとの声も上がっている。
  コーディネイター憎しであるアズラエルとしては、この要求を受け入れたくはなかったが、手がない訳ではない。
いっそのこと軍事力で黙らせ、ナチュラルが支配する必要性を感じていたのだ。そう思ったものの、MSなる兵器の登場で、容易とはいかないことも承知している。
今まで投資してきたのは地球なのだ。それをコーディネイターは奪いとり、自分らの国たらんとしている。

(化け物どもめ‥‥‥)

誰にも悟れることなく、アズラエルは1人心内でコーディネイターに呪詛を吐き掛け続けた。





「またか‥‥‥」

  先日の会談から間を開けずに、大西洋連邦から2度目の申し出が来ていた。いや、それだけではない。今回は偶然にもオーブ連合首長国側からも来ていた。
この両国は、まず日本に対して、ローエングリンやラミネート装甲、PS装甲、ミラージュコロイドの技術供与を提案してきたのである。
もっとも、どれもコスト高であり、量産に向かない兵器技術ではある。それでも惜しげなく提供を示し、日本の技術を取り込もうと言う魂胆であった。
  対する日本は、事前に送られたこれらのデータに目を通し、自分らにとってプラスに成り得るかを確認した。

「ローエングリン‥‥‥ショックカノンと似た様なものか」
「原理は同じと思えます。ですが、彼らの物はこちらより大胆であり、使い易さは上でしょう」

真田の意見するところである。彼の眼からすれば、ローエングリンは日本のショックカノンとは違い、口径が軽く十倍はあった。
これは小口径且つ貫通力を求めた日本とは、真逆の発想だと見て取れた。大西洋連邦らの場合、大口径且つ広域に影響を与えうる破壊力を求めたのだろう。
何せ兵器の小型化は難しく、科学力の進んだ日本もとい国連でさえ、ショックカノンの開発問題は、中々に解決を見れなかったものだ。
  しかし、ローエングリンには、ショックカノンにはない大きな問題がある。それは発射時における環境への悪影響の大きさだった。
オゾン層への影響は勿論、他の自然環境にも被害を与える。これを地表で乱発しようものなら、自然環境は終わりを告げるだろう。
対してショックカノンの、自然環境への影響は極めて少ない。都市上空で乱発しようが、影響は限りなく小さなものに過ぎない。

「次にラミネート装甲とPS装甲ですが‥‥‥価値のあるものだと、小官は考えます」
「ほぅ」

  エネルギー兵器を無効化する役割を持つラミネート装甲は、コスモナイトを含んだ対ビーム複合装甲と概ね同等の強度を持っている。
真田によれば、ラミネート装甲と対ビーム複合装甲を合わせれば、従来の倍以上の強度を発揮できるだろう、とのことであった。
  だが、ラミネート装甲の製造過程が複雑なこともあり、そう簡単に量産は出来ない難点が浮き彫りに出た。改良の余地ありである。
PS装甲に関しても利用価値ありと認める傍ら、改良の必要性を発見した。そして、これら数種類の装甲の組み合わせ次第で、最高の装甲が出来る可能性がある。
とはいえ、日本と言えども1枚の装甲に全ての機能を持ちわせる術はない。真田は数枚の装甲を重ねる事で、段階的に艦を守れるのではないかと模索した。
  最後のミラージュコロイドには、日本は興味深々であった。コロイド粒子なるものを利用した、完全ステルス機能は一見すれば魅力的に思えたのだ。
それが崩れたのは、あくまで対象物質の周囲に纏わせるだけであり、激しく動くと鍍金が剥がれるように粒子も飛び散ってしまう事に気づいてからだった。
日本側は落胆したが、これは使い方次第で役に立つことにも気づく。

「これは戦闘艦に使用するよりも、前線基地に使えるということだな」

  永井宙将が呟く。戦闘機や戦艦に使用するよりも、動かない基地やコロニーに使用する方がずっと良い。そう思いついたのである。
基地であれば、エネルギー供給は戦闘艦よりも遥かに容易だ。中々に良いプレゼントではないか、と一同も頷く。

「して、向こうの望むものとは?」
「慣性制御技術、電磁防壁技術、航空機技術、光学兵器、機関技術、装甲製造技術―――以上です」
「ふん、注文が多いな」

芹沢が呆れたようにため息をついた。レベルの高い技術を中心に提供してきた狙いは、これなのか。

「全部渡せる訳があるまい」
「精々、慣性制御と電磁防壁‥‥‥くらいでしょうな」
「いや、光学兵器技術と機関技術、航空機は、ワンランク落としておくと言うのも手だな」

  フェーザー砲の一世代前は、射程は最大で6500kmとC.E世界と概ね同じなのだ。威力は多少落ちるが、C.E世界からすれば、その威力は上回る。
同時に射撃装置に関する関連技術も、一世代前の物を渡してもよいのではないか。この世界からすれば十分に通用しすぎると言っても過言ではない。
そして日本もとい国連では、軍用で称される双眼鏡までもが6000kmから7000kmの距離を観測可能であった。
  また、機関技術、航空機技術も、一世代前のものを渡すことで一先ず合意したものの、装甲技術に関しては渡すことを躊躇った。
と言うのも、地球圏外から産出されるコスモナイトを使用しなければならない、特殊装甲であるためだ。そう易々と教えられるものではない。
日本は密かに工作隊を編成して出発させており、既に木星と土星の各衛星へと地質調査へと赴いていた。
  結果は図に当たった。衛星タイタンを始めとして、各衛星から宇宙希少鉱物の存在が確認されたのだ。後は採掘船団が準備を整え次第、輸送を開始する次第である。
この希少資源を貿易で各国に流通させることで、いずれにせよ独自に装甲を開発できるだろう。そう予測を立ててのことであった。
  だがすべてを取引する必要もない。主導権は日本側にあるのだ。

「一先ずは‥‥‥そうだな。慣性制御技術とフェーザー砲だけでも、渡してはどうかな」
「賛成だ」

対して日本は、PS装甲の技術を貰うことで、全員が同意した。どのみち兵器の受注が来ることも見越しての、フェーザー砲の技術供与であった。
  実際に会談が行われたのは、12月24日のことであり、惜しくもクリスマスの日である。この聖なる日にあって、3ヶ国はそれぞれの要求を受け入れ、無事に終わりを告げた―――が、安心できたのは僅か数日だけだった。
年明けて1月1日。プラントと理事国との会談が執り行われる筈であったのだが、それを打ち壊したのは、テロによる理事会に出席する評議員の暗殺だった。
全世界を一度震撼させたこの事件は、ブルーコスモスの手によるものだと報道された。報道がひっくり返ったのは直ぐのことで、本当は理事国側による指示であったことが判明したのである。
  この瞬間、日本を始めとした非理事国や中立国は、即座に声明を発表した。

「話し合いによる解決をすべき場を利用し、暗殺を企む行為は卑劣である。また、ブルーコスモスの名を隠れ蓑にして実行したことが事実であれば、なおのこと、許されざる行為であり、我が日本は、一時的な貿易停止を明示する」

実際にどの国がやったことなのかのは解らない。理事国側は反発こそしたが、各メディアが同じ報道をしていることを鑑みれば、風前の灯火と言えよう。
プラントは勿論のこと、物資輸出の禁止を行った。クライン議長も迷う必要性もなく、聖なる会談の場を利用した暗殺行為を許してはおけなかった。
  しかし、悪夢はこれだけに止まることを知らない。運命のC.E暦 2月5日。国連事務総長は現状の打開を目指すべく、直接に会談を申し入れた。
国連首脳部と理事国議員、そしてプラントからはクライン議長。月面都市コペルニクスにおいて、会談が執り行われる筈―――だった。

――事務総長他、理事国議員、コペルニクス会議場で爆殺される――


2度目の震撼だった。幸いにもクライン議長はシャトルの故障で助かったという。が、これに地球が反応しないわけがなかった。

「プラントの謀略だ!」
「コーディネイターどもめ、散々言っておきながら、自分らのすることに何ら恥じることはないのか!」

これにプラントは全否定を示したが、ブルーコスモスの勢いは増す一方であった。他国の反応も、概ねプラントの策略ではないかとの見方を強めていた。
  日本も例外ではない。前回が理事国側の責任があっただけに、その報復として爆殺した可能性を否定しえなかった。
しかし、せっかく漕ぎ着けた会談を、何故に無に帰すのか。プラントとしても自治権と対等貿易を欲していたのに、それを壊す意味が解らない。
それに日本閣僚の中には、プラントとは別に付き合いをしている、という立場でもないため、彼らの肩を持つ必要はないと意見する者すらいた。
他人事とはいえ、あまりにも無責任な態度は慎むべきだと藤堂は叱咤し、真相の解明を求めたものの、その行為は無意味となった。
  国際連合は2日後のC.E暦 2月7日に解体され、新たな連合体組織―――地球連合(OMNI)の成立が宣言されたのである。
参加国は、大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国、南アメリカ合衆国、南アフリカ統一機構にとどまった。

「わが日本が、首を突っ込むことではないだろう」

軍務局長の芹沢を始めとする幹部は、連合への参加要請を否定した。沖田や土方も同意で、これはあくまでも理事国とプラントの問題であるとしたのだ。
本音を言えば、他国間の争いに日本の兵士を送り込みたくはない、というものである。まして、大西洋連邦とは親密というわけもないのだ。
  新地球連合は、即座に『プラントの行為はナチュラル全体に対する宣戦布告である』と大々的に報道した。これをアラスカ宣言と呼ぶ。
さらにこの4日後。結成されたばかりの地球連合は、早々にプラントへ宣戦を布告。月基地から連合宇宙艦隊が出撃していった。
これが後々に深い傷と、悲劇を生み続けた『ヤキン・ドゥーエ戦役(血のバレンタイン戦争)』と呼ばれる戦争の、最初の幕開けである。




〜〜あとがき〜〜
大変にお待たせいたしました。
日本VSユーラシア、東アジアの構想まではトントン拍子だったのですが、その後の展開を作るのが非常に難しくなりました。
貿易がらみや外交がらみの話となると、またこれが難しく‥‥‥書いていてこんなんでいいのかと不安にもなりますw
本当にガンダムSEEDは浅知恵しかないので、よけいに上手くできるか‥‥‥。



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