クロス・オブ・フォーチュン





風は冷たく吹き荒れ、辺りは月の光一色に染っていた。
荒れ果てた荒野の中、一人の少年が座り込んでいるのが見える。
彼の周辺には、戦いの痕と思しき光景が広がっていた。
人が倒れ、異形としか言えない醜い姿の怪物たちが息絶えている。


「・・・・う、うぅ・・・・・父さん、母さん・・・・」


座り込む少年の前には二人の男女が倒れている。
彼らは実の両親という訳ではない、いわゆる育ての親といった所だろうか。
その少年は、幼い頃より小さな孤児院で育てられた。


孤児院では、大人たちはある特別な仕事の請け負い生活を営んでいた。
彼らは生活のため、子供たちのためにと人に害を与える魔物と呼ばれるものを倒し、報酬を受け取る魔討士といわれる仕事をしていた。
そして今回も依頼を受け、魔物退治のために出かけた・・・・・その時、魔討士になったばかりの少年をつれて・・・


「・・・うっ・・僕が・・・・僕がもっと強ければ・・・・」


少年は年の一つしか離れていない少女を思い出す。
同じ孤児院で育った少女は、魔物と戦いに行く自分達を笑顔で見送ってくれた。
内心とても心配していたのだろう、その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていたのを覚えている。


だが、戦いは予想以上に乱戦となり、結果としてほとんどが相打ちといった感じに終わってしまった。
唯一生き残った少年は未熟だった自分を守るように盾になった両親に守られ助かったのだ。
今さっきまで優しく抱きしめてくれた両親が呟いていた言葉が悲哀に苦しんでいる少年の頭に甦る。







「ほら、男の子が怖がって泣いてちゃかっこ悪いよ!」
「・・・・・でも、でも・・・」


少年の前に立っていた女性は、やれやれと苦笑しながら腰を低くし目線を合わせると
優しく抱きしめてくれた。


「大丈夫だから・・・・ね。あんたもなんか言ってあげてよ」
「あぁ、わかってる。なぁ、ジル」


女性が見上げる先には、二人を見守るように立っている男性の姿がある。
男性はすぐ近くまでくると女性と少年を力強く抱きしめた。


「俺達はこんな仕事やっているから、危険な事なんて覚悟してやってる。
いろんな事もあった・・・・・だけどな、そのおかげでお前達に会う事ができた」


男性は二人を交互に見合わせると、恥ずかしそうに話した。
腕の中では、女性も嬉しそうに頷いているのが見える。


「だれがどう言おうが、俺達は胸を張っていうぞ。こいつらは立派で大切な子供たちですってな。
・・・・だからな、ジル。お前に頼みたい事があるんだ」
「・・・ひ、ひっく・・・・頼みたいこと?」
「・・・・あぁ、もし俺達に何があってもあの子たちの事を守ってやってほしい」


男性は抱きしめている腕を解くと、大きな手のひらを少年の頭に置いた。
手をぐりぐりとかき回すしながら、


「お前は一番お兄ちゃんなんだ、しっかりしろよ。これは、俺達とお前との親子の約束だ!」





少年はその言葉を胸に刻みながら、涙を拭いゆっくりと立ち上がる。
決意を秘めた瞳は彼に守るべきものを見つけた事を表しているようだった。

「・・・父さん、母さん・・・・・僕、守って見せるからね。だって・・・・・親子の約束だから」












すっかり日が落ち、街灯の光が人影の少なくなった道を照らしている。
そんな中、家々の上を飛び回る人影があった。
一人はジャケットを着込み、髪は暗闇に溶け込んでいるかのような黒髪の少年に、もう一人は
青色の修道服にも似た服を着ており、瞳は同じく青色に染められ、屋根から屋根へと渡る度、肩まで
伸びている茶髪の髪を揺らしている少女の姿だった。


「まったく!!逃げ足だけは速いじゃないの!!」
「大丈夫だって場所はわかってるだろ。すぐに見つかるさ」


少年達は屋根から飛び降りた。
二人が降り立った場所は、町の中にある小さな広場である。
昼間は子供たちが楽しそうに走り回っているが、今では人影はなくただただ静寂が広場を支配していた。
人気のないはずの広場の中央に誰かが立っているのが見える。


ただ、その姿は人と呼べる所はなく、全身を深い毛で覆われ、牙を生やし、金色の瞳は
ギラギラと光を放っていた。


「えーと、間違いないな。今回の依頼のターゲットは間違いなくこいつだな」


少年はメモ用紙のような物を広げると、そこに写っている写真と目の前にいる怪物が
同じなのを確認すると、隣に立っている少女に告げた。


「そう、ならさっさと終わらして帰りましょ。帰ったら、あの子たちの服を洗わなきゃいけないんだから」


少女はのんきに話すと、背中に背負っていたものを下ろした。
その手に握られていたものは、少女には似合わないとしか言いようのないものだった。
・・・・それは一般にマシンガンと呼ばれている銃である。


少女は、マシンガンを片手に一丁ずつ、軽々と持ち上げると、銃口を目の前のターゲットへと向ける。


「はい、そこ動かないでねぇ〜。すぐに涼しくしてあげるから♪」
「・・・・・・おい、言っておくけど、俺には当てたりすんなよっ」


少年は少女に声をかけると、一歩前へと踏み出す。


「気にしない、気にしない。それに、少しくらいジルだったら・・・」
「・・・・・言っておくけどな、リア。俺は後ろからの銃弾を避けたり、少しなら当たっても
平気ですっなんてのは、まずできないからな」
「はいはい、ほら、来るわよ」



ガアァァァァ!!



化物が勢い良く突っ込んで来ようとしていた。
右手の爪をにぶく光らせ、強く突き立ててくる。
しかし、ジルと呼ばれた少年は、即座に相手の懐に入り込むと、右拳を脇腹へと叩き込む。


グギャァァァァ


化物は苦しげに悲鳴を上げる。
苦痛に彩られた顔をゆっくりと上げる・・・・・・が、目と鼻の先に冷たい銃口が突き立てられていた。
マシンガンを片手にリアという少女が微笑む。


「これでミッションクリアってやつね。さぁ・・・・・」


リアは隣にいるジルに視線を移すと、すぐに戻した。
視線に気づいたジルは軽く頷く。


「私達の生活費になってもらいましょうか♪」











「ほらさっさと起きなさいって!」
「んぁ・・・・?」


ジルは頭まで被っていたシーツを眠たそうな目が見えるまで下げると、


「なんだ、リアかよ・・・・もう少しくらい寝かせてくれてもいいだろっ。
さっきまで仕事だったんだからさぁ」


リアはジルのシーツを無理やり取り上げると、


「それだったら私もでしょ!まったく、下でみんな待ってるわよ。
早く行ってあげないと」
「・・・・・だけど、まだ眠い」


ジルは断固拒否と言わんばかりに、枕にしがみついている。




プツンッ



(ん?何か切れたような音がした・・・・・け・・・ど・・・)


ゆっくりと閉じていた目を開け、近くにいるリアを見る。
そこには、無言で静かにこっちを見て、微笑んでいるリアの姿があった。
これぞ黒い笑みを浮かべているリアは、


「ふぅん、そっかぁ・・・・・しょうがないなぁ。
とっておきの回復魔法を使って気合を入れてあげようかな」
「はっ?今時、魔法なんてある訳ないって、それに気合ってなん・・・」


言い終わる前に、リアはなぜか右手を高く上げていた。


「ヒール!!」



バチンッ!!

「ギャァーーーーーー」


ジルは思いっきり悲鳴を上げ、その目にはうっすらと涙が出ている。
なぜなら、リアが高く上げた手をジルの背中に打ち付けたからだ。


「ふぅ、これでよしっと♪じゃあ、先に行ってるから早く降りてきなさいよ」


そう言うと、部屋を出て行こうとするが、ふと立ち止まり、ジルに向きを変えると、


「あっ、そうそう、ついでに・・・・あの子たちの着替えた服とか全部持ってきておいてね」


今度こそ、リアは部屋を出て行ってしまった。
床に倒れているジルはというと、


「・・・・・ごめん、父さん、母さん・・・・あいつには逆らえなくなっています・・・・」


呟くと、完全に動かなくなってしまった。
少年の顔の前には、リアと書かれた痕があったとか、なかったとか。








ジルは頼まれた仕事を嫌々といった感じで終えると、大きなテーブルのあるリビングへと
下りてきた。その姿を見つけた子供達がリアの作った食事をムシャムシャと頬張りながら、


「あっ!ジル兄ちゃんだ、おはよ〜」
「兄ちゃん、はよーー」


子供達の元気な声に、ジルは笑顔で答えた。


「おぅおはよう、メル、ソラ。それにしてもお前達、起きんの早いなぁ」


まだ半分寝ているジルはのんきそうに言うと、二人は笑いながら、


「あははは、別に早くないよぉ。兄ちゃんが遅いだけだってば」
「・・・・そっか?・・・・まぁ、昨日は・・・・・」

と言いかけて、しまったと口をふさぐ。

「何かあったの?」

メルが不思議そうに、聞いてきた。


「・・・・なんでもない、ただ寝れなかっただけ」
「そっかぁ、でもちゃんと寝なきゃいけないんだよ。リア姉ちゃんが言ってたもん」


ソラの話を、ジルは笑いながら頷いて聞いていた。
彼は自分たちのやっている仕事について、子供達には話していない。
もちろん、危険が付きまとう仕事だという事もあるが、話さない理由は他にもある。


ここジル達の住んでいる家は、孤児院となっていて、魔物との戦いなどで、親を失ってしまった
子供たちを引き取り、暮らしている。
以前までは、ジルやリアを育ててくれた大人たちがいたが、数年前のある戦いで死んでしまった。


(・・・・・もう、あんな思いはたくさんだ・・・・・こいつらには・・・・)


その戦で、唯一助かったジルとしては、血は繋がっていなくとも大切は弟や妹を危ない目に
遭わせたくはなかった。
しかし、生きていくためには必要なものもある。
だから、彼は両親たちの仕事を引き継ぎ、魔討士の仕事を続けていた。


ただ、その話をリアにした所、彼女はとくに迷ったりするわけでもなく、私も魔討士としてやってくから
という事だった。
ジルは止めようとはしたが、昔から一度決めたら絶対にやめようとはしない性格だったので、
必死の説得もむなしく、結局そのまま現在にいたるのだが。


「ねぇ〜、兄ちゃん聞いてるの〜?」


のんびりした口調で話すソラの声で、ジルは我に返ると、


「ん?あ、あぁ、ちゃんと聞いてたぞ。そ、そういや他の三人はどこいったんだ?」


話を逸らそうと、周りを見渡した。
一緒に暮らしているのは自分とリアを含めて7人、つまり後3人いるはずである。


「えっとねぇ。ご飯食べたら、すぐに外に遊びにいっちゃったよ」
「そっか、ほんとに元気だな。あいつらは」


ジルは子供の成長を喜ぶ親のように嬉しそうにしていると、外から声が聞こえてきた。


「おーい、兄ちゃーーん」
「ん?この声はコルトか?どうしたぁーー?」


コルトの声に、ジルは大声で答えると。すぐに返事が返ってきた。


「お客さんだよー!」
「客?俺にか?」


(こんな早くから誰だろう?)

首を傾げながら庭に続く廊下の方に顔を向けると、一人の女性がこっちに歩いてくるのが見えた。
見覚えのある女性はジルの近くまでくると、


「ジルくん、おはよう〜。昨日はごくろうさまね」
「何か用ですか?アスカさん」


アスカと呼ばれた女性は、少し困ったような表情を浮かべながら頷いた。


「疲れてるとは思うんだけど、実はそうなのよ」
「・・・・・もしかして、また新しい話ですか?」


話というのは、もちろん魔物退治の話である。
彼女は多くの依頼主からの依頼をまとめ、魔討士に受け渡す。
いわば受付のような仕事をしている。


「まぁ、そういうことならわかりました」
「ほんとに!?」


アスカは嬉しそうに声を張り上げた。


「とりあえず、少し待っててください。今、リアが奥で片付けやってると思うんで。
何だったら何か食べてきます?」


ジルがそう言うと、彼女はさらに目を輝かせながら頷いた。
まるで子供である。
いい年してこれかぁとたまに思う事もあるが、それは彼女に限らず女性に対しての禁句なので口には出さない。
なぜなら以前、似たような事をリアに言ってしまった所、危くリアル射撃の的にされかけたからだ。


「えっ、いいの?よかったわぁ、急いで来たから、何も食べてなかったのよ〜。
それに、リアちゃんの料理って、とってもおいしいもの」
「そうっすか?まぁ、料理の腕だけはねぇ・・・・・・・性格の方はてんでダメで・・・・!!」


言い終わる前に背後から殺気を感じて、半ば無意識に体を逸らして避けると



ドスッ



・・・・・包丁が刺さってました。あろう事か刃の部分が床に完全に埋まっている状態で・・・・


ゾッと冷や汗を掻きながら、飛んできた方を見るとリアがじっとこちらを睨んでいた。


「何か性格がなんたらって聞こえたけど・・・・・気のせいかなぁ」


彼女はあれぇといった感じで辺りを見回しているが、ジルの方を見るときだけ目が怖いです。


(ひっ!な、なんで聞こえてんだよっ!?)


ジルが心の叫びを上げている間に、どうやらリアは席に座っているアスカの姿を
見つけたらしい。


「あれっ?アスカさん、来てたんですか?」
「リアちゃん、お邪魔してるわよぉ」


アスカはのんびりした声で、そう言うと、


「ごめんね、また頼みたい事ができちゃったのよ」


それを聞くと、リアの表情も真剣なものへと変わっていく。


「そうなんですか、じゃあこっちで話しましょうか。
あっ、それと何か食べますか?簡単なものでよかったら、すぐ作りますけど」
「もちろんよぉ〜、えっとね・・・・」


二人は、楽しそうに話すと、奥の方へ行ってしまった。
その場に、残されたジルは包丁の刺さった場所・・・・・いや埋まっている場所をじっと
見ながら、いまだに固まったままだった。








数十分後、やっと石か状態が解け、落ち着きを取り戻したジルは、リアたちの待っている部屋へと向かった。
中では、おなかいっぱいという感じで、満足そうにしているアスカの姿があった。
どうやら、自分が来るまで食事でもしていたのだろう。
ジルは、リアの隣に座ると、


「・・・・・アスカさん、さっきから気になってたんですけど・・・・・その服、何なんですか?
・・・・・それに、座り方も変なんですけど」


彼女は見慣れない服を身につけており、座り方も足を折り曲げるように座っている。
待っていましたといわんばかりに顔を近づけてきた。
もちろんジルも立派といえば立派な男の子である。
いきなり女性の顔が近くまで来たものだからカチカチに緊張してしまった。



バチンッ



「ぎゃーーーー、な、なにすんだよっ!?」


ジルは隣で、なぜか機嫌を悪くしているリアに怒ると、


「勝手にでれでれしてるのが悪いんでしょ。だから気合入れてあげたのよ」
「べ、別にいいだろ。・・・・・はぁ、誰かさんにはまったくそんな気、起こんないのになぁ」
「何ですって!?」


アスカは楽しそうに、その光景を見ている。
別に二人をからかっているつもりはまったくと言っていいほど、なかったが
ついつい机に乗り出してしまったのだ。


「ふふん、これはね、ずっと遠く国で流行ってる服装らしくてね。
え〜と、どんな人が着てるんだったかなぁ・・・・・確か、神に仕えてる人だったかな?」


実はアスカは、大の異国好きで、服装はもちろんのこと、時には口調まで変えて話す事があった。
確かに、改めて考えてみると、今まで同じ服を着ている所はあまり見た事がない気がする。


放って置くと、永遠に話してそうなのでリアは呆れ気味に、


「・・・・アスカさん、その話はまた今度聞きますから。
今回の依頼について、教えてくださいよ」


彼女は少し残念そうな顔をすると、


「そうだったはね、ちょっと待ってて。
え〜と、二人に頼もうと思ってたのはっと・・・・・」


急に先程までの雰囲気が一変して、真剣な顔になると持ってきた鞄の中から
一枚の書類を取り出し、机の上に置いた。


「今回はこれね、死霊退治。ようするに、グールっていう名前の死体処理ね」


アスカの話を聞くと、あからさまに嫌な顔をした一名がいた・・・・・・ジルである。


「げっ、グールですか・・・・」
「えっ、何々、もしかして怖かったりするの?」


リアがおもしろい事を知ったと言う風に、からかおうとしてきた。


「ちがうって!あー、なんて言うか・・・・・俺って素手が主体の戦い方するだろ?」
「うん、それがどうかしたの?」
「だからさぁ、殴った時の感触がさぁ・・・・。グシャっていうか、ドロッていうか
・・・・それが嫌なんだよなぁ」


ジルは体をブルッと震わせた。
その時の感触を思い出してしまったらしい。


「それにグールなんて、俺達が行くほどの事じゃないじゃないですかぁ〜」


魔討士には、それぞれ0〜6にランク分けされており、0に近い程、実力が高い事を示している。
その証として、魔討士には不思議な力の宿った魔封石という鉱石が埋め込まれた十字架を
身につけることになっている。


ジルはランク3を示す紅の魔封石を埋め込んである十字架を首にかけているし、リアは
ランク4の蒼の十字架を着けていた。


「そうなのよ、グールの1体や2体なら、ランク6の新人の子たちの練習も
兼ねて充分対処は可能なんだけど・・・・」
「何か気になる事でもあったんですか?」


ジルは急に黙ってしまったアスカに尋ねた。
アスカとは、ジルがこの仕事に身を置いた時からの知り合いである。
彼女は、長所短所が激しい魔討士たちに最も適した依頼を頼んだり、新人の育成などを主に
しているため、依頼の提供などにはとても気を使っている。
それを知っているからこそ、彼女が口篭った事がジルには気になった。


「・・・・それが少しおかしいのよ。とにかく数が異常なの。
当初は2、3体程度だったらしくて、魔討士を2人程送ったらしいのよ。
私の担当じゃなかったから、あまり詳しくは分からないんだけど、聞いた話だと
彼らを到着した時には、軽く百体は超えてたみたいね」
「なっ!?」


百体以上という数を聞き、ジルは驚きの表情を浮かべている。


「ひゃ、百体以上だって!!いくらなんでも、たった数日でそこまで増えたりはしないぞ!?」
「ね、ねぇ、それって変な事なの?なんかどんどん沸いてきそうなイメージなんだけど」
「実際はそんな事はないんだって。元々、あいつらは急に増えるなんて事はないんだ。
確かに、一度ゾンビが生まれた場所には奇妙な力が宿って、次々と周辺の死体を生きかえす。
だけど、普通なら数日で十数体かそこらのはずなんだ」


ジルは、まだ見た事がないらしいリアに一通りの説明を済ませると、先程から
静かに様子を見ていたアスカの方を見る。
彼女はその通りと言いたそうに頷く。


「そうなのよ、確か以前にも似たような依頼があった事はあるけど、それも何年も前に数回あってから
今まで一度も起きていないから、今回も同じなのか分からないの。
だからね、いままでみたいに新人くんたちの訓練を兼ねて行かせる事はできないし、何が
起こるかわからないから困ってたのよ」


コホンッと軽く咳払いをすると、


「そこで私は考えた訳なのだけど・・・・・・・・ジルくんとリアちゃんなら、絶対にやってくれるわ!ってね」


彼女は名案でしょと言いたげに、胸を張っている。
向かい側では、ジルが、え?そんだけの理由で?といった顔をしていた。


(・・・・それって、単に面倒事押し付けに来ただけなんじゃ・・・・)


もちろんジルは、彼女がそう思っていない事はわかっている。
しかし、困った事があると素で頼ってくるから、ある意味余計に性質が悪い。


「アスカさん!?その依頼って、誰もやろうって人がいなくて、私達の所に来たんですよね?」
「まぁ、それもあるけど」
「だったら、成功報酬ってどれくらいもらえます?」


ジルは思いがけないリアの言葉に口を開けたまま、呆然としていた。
アスカは彼女らしいと思っていたのか、微笑んでいる。


「ふふっ、そうねぇ。大体これくらいになるんじゃないかしら」


一枚のメモを取り出すと、書き始めた。
リアは金額の書かれたメモを受け取ると、満面の笑みを浮かべている。


「この依頼、私達でよかったらお受けします」
「良かった〜、断られたらどうしようかと思ってたのよぉ。やっぱり二人のとこに来てよかったわぁ」


なぜかジルの意思に関係なく、交渉成立してしまってらしい。


「ちょ、ちょっと待てって。何があるか分からないんだぞ!
そんな簡単に決める事じゃないだろ!?」


ジルもいままでもこういった依頼を受けた事はあるが、必ずしも無傷で帰ってこれる事は少ない。
それだけ、こういった依頼には慎重に決めていかなければならない事を知っていた。
もちろん、リアを傷つけたくないといった意味も込められているのだが・・・・


リアはジルの考えを知ってか、知らずか、


「だって、こんなにもらえるんだよ。だったら、受けなきゃ損じゃない!」
「報酬の問題じゃ・・・・・」


辞めさせようとするジルに、リアは突然顔を伏せてしまった。
両手で顔を覆ってしまっている。


「う、うぅ・・・・・ジルは、私や弟、妹たちが食べ物に困っていいと思ってるの。
・・・・うわーん、アスカさーーん」
「へっ?」


リアは泣き出すと、アスカの方に座って、頭を隣にもたれかけている。
片やジルは、いつもとまったくと言っていい程、感じの違うリアにとても焦っていた。


「な、何も泣く事はないだろ。俺はみんなを思ってだなぁ・・・・」
「う、う・・・・」
「・・・・・・・」


なんか居辛くなってきました。
ジルはため息を吐くと、しぶしぶといった感じで、


「はぁ・・・・わかったよ。アスカさん、俺も引き受けますので」
「ありがと、ホントに感謝してるんだからねぇ」


「リアもさっさと泣きやめって」
「う、うぅ・・・・・・許してほしかったら・・・・・ぐすっ、すぐに出発する準備してきて」
「はいはい、わかったよ」


ジルがしかたないと、準備のために部屋を出ようとすると、


「私の準備もお願いね、ついでに武器の手入れも」
「はっ?何で、俺がそんなことま・・・・」


振り返ると、まだアスカに顔を預けているリアの姿があった。


「・・・・・わかったよ。やってこれば、いいんだろ」


リアの泣いている姿を見て、しょうがないと部屋を離れていった。
ジルが出て行ったのを確認すると、リアは突然お腹を抱えて笑い出す。
当然、顔には泣いた痕などどこにも見れない・・・・・つまり嘘泣きである。


「あははは、く、苦しい。アスカさんも見てましたよね!あいつの慌てよう」
「ふふふ、そうね。あんなに慌てちゃって、かわいい所もあるのよねぇ。
でも良かったの?彼、嫌がってたけど」


アスカの言葉に、リアは笑うのをやめると真剣な表情で言った。


「いいんですよ、こうでもしないと私もついていけないし、黙って一人で行こうとするのわかってますから。
アスカさんだってあいつの性格を知ってるでしょ」
「えぇ、知ってるわ。ジルくんならやってくれるって分かってるから来たんだもの。
それにね、信じてるからこそ、遠慮しないで頼みにこれるのよ」


アスカは静かにジルの去っていった方を見るとリアに向かって微笑みながら、


「もちろん、リアちゃんも信じてるわよぉ。
だからね、頼んでおいて何だけど、あまり無理しないでね」
「当然です、あいつが無理しないように見張ってます。あの子たちの事、頼みますねアスカさん
さっさと終わらして、帰ってきますから。帰ってきたら、美味しいもの作りますよ」










翌日に孤児院を離れ、数時間後ジルとリアは目的の場所へと到着した。
その場所とは、ありきたりといえばありきたりな感じの一つの墓地である。
しかもそこは辺り一面お墓、お墓、お墓!?だった。


「・・・・・・大きいはね、これでもかってくらいに」


リアは着いた途端に関心したかのように言う。


「・・・・はぁはぁ、そ、そうだな。わかったから少し休ませてくれ・・・」
「だらしないわねぇ、これくらいで」


遅れて着いたジルの周りには大量の荷物が置かれていた。
半分以上は、リアの持ち物なのだけど・・・・


「・・・だ・・・・だいたいなぁ・・・自分の分・・くらい・・・・自分で持てよ・・」
「か弱い女の子にそんな重いもの持たせる気なの!ひどいわ、ジル」
「はっ?何言ってんだよ。片手で銃火器を平然と振り回してる奴がか弱い訳ないだろ」


ジルはだいぶ落ち着いてきたのか、極めて冷静に反撃を開始。
笑顔を引きつらせながら、こめかみの辺りをピクピクとさせているリアは慌てながら、


「そ、それは・・・・・そう仕事の時はって事よ。普段はとってもか弱いんだから」
「・・・・・・・」


哀れみの目で見てくるジルに気づく。
正直、自分で言っておいて少し痛いなぁと自覚してしまっていたリアだった。


隣で一人落ち込んでるリアを無視して、ジルは今回の依頼の詳細の書かれた紙を取り出す。
一通り目を通した後、


「頻繁に現れてるのは・・・・・・まだ、時間があるな。
なぁリア、お前ならどうしたらいいと思う?」
「えっ?そ、そうね・・・・」


リアは顔を上げると、彼の持っているメモを覗き込む。


「う〜ん、とりあえず時間まで休んでおきましょ。ジルも疲れてるみたいだし」
「そうだな、どんな相手にも万全の体勢で挑むってのは当然のことだしな」


うんうんとジルが頷いていると、リアがこそこそと荷物の中から四角い箱を取り出していた。


「ん?どうかしたのか?」
「これでよしっと、じゃあお弁当でも食べよーっと」
「・・・・・・ここで食うのか」


それもそのはずである、場所が場所なだけに食欲も半減するのだ。


「別にいいじゃない、どこで食べてもおいしいものはおいしいのよっ」


もくもくと食べているリアを見て、ジルは急にばからしくなって食べ始めた。









「・・・リア・・・・・起きろ・・・」
「へ?もう終わったの?」


リアは起こされ、眠気眼を擦りながら目をキョロキョロとさせている。
どうやら眠ってしまっていたらしい。


「はぁ・・・・終わってる訳ないだろ。もうすぐ時間だからな警戒はしておいた方がいい」


そうだったという感じでリアは首を振って眠気を覚ますと、片手を隣に置いてあった荷物へと置く。
リアの荷物の中には、さまざまな銃火器が入っているのだ。


「・・・・・・来た!?」


ジルの声に反応し、リアも前方に向き直りターゲットの姿を確認する。
所々から地面がもりあがり、血色の悪い青白い腕が飛び出してくる。
土をかき分けるように這い出しその姿を現す。


今回のターゲットであるグールと呼ばれる魔物だ。
今にも崩れ落ちてしまいそうな体を引きずるように歩きだす。
片腕のないものや骨が見えているものとさまざまだが、日は沈み辺り一面暗闇に閉ざされている今は
より一層不気味さを放っていた。


グールたちから放たれる異臭にリアは嫌な顔をしながら、


「予想はしてたけど、これ程とはね・・・・」
「あのなぁ、臭いだけならまだマシだぞ。お前もやってみろっ、あの感触はトラウマもんだ」
「・・・・・私は無理、だって撃ってるだけだから。ほらっ、がんばって♪」
「・・・くぅ」


リアが勢い良く立ち上がると、ジルも続いてしぶしぶ立ち上がった。
肩に筒状の鉄砲を抱えると、グールの群れに発射口を向ける。


「そんな嫌がってないで、さっさとやっちゃうよ」


そう言うと、ターゲットたちの中心に向けて引き金を引く。
グールの群れの中に放たれた銃弾は地面にぶつかると、墓地の一部を吹き飛ばす程の爆発を起こした。


ジルは呆気を取られながら、彼女を見ると気持ち良さそうに笑っている。
はぁっと息を吐きながら、頬を叩くと砲撃に気づいたのか近づいてくる敵へと走った。


「しょうがない、少しだけ我慢するか・・・・・」


弱音を吐いてはいるが、視界に入ってくるグールを次々と殴り飛ばしていく。
ジルは背後に近づいてきた敵を回し蹴りで一蹴すると、すぐに向きを変え、リアに迫ろうとしていた
グールの頭に拳を叩きつけた。


リアはぶっ放したロケットランチャーを投げ捨てると、即座に次の武器を手にする。
両手に愛用のマシンガンであるヴァルキリー(リアが特注で作ってもらった)を手にすると、
同時に引き金を引き、敵に群れに銃弾の嵐を放った。

二人の攻撃にグールたちは次々と倒されていくが一行に減る気配を見せない。


「くっ、予想以上の数だ。次から次へとよくもまぁ・・・・・・ん?」


ジルは不思議な事に気づいた、グールたちの攻撃の仕方が少しずつ変化している。
始めは個々で攻撃を仕掛けていたが、だんだん一体のグールが腕を振り下ろしてきて避けるが、それを
読んでいたかのように横から別のグールの攻撃がくるようになっていた。


(・・・・何かおかしい、こいつらが連携なんて取れるはずが・・・・)I


敵の攻撃を横に避け、腕の勢いをそのままに拳を当てていく。
後ろからはリアのヴァルキリーによって放たれている銃弾が容赦なく敵の体を打ち抜いている。
ふとジルは奇妙なものをみた・・・・・彼女の撃った銃弾の一つが何もない場所でまるで弾かれるように、
方向を変えて飛んでいった。


「まさか・・・・・リア!そこの場所を撃ってみろ!」
「えっ?そんな所に撃ってもなにもないんじゃないの?」
「いいから撃てって!」
「・・・・・・はいはい、わかったわよ」


リアは片方の銃口をジルの指差す先へと向けると、銃弾を放つ。
放たれた銃弾はグールたちを通り抜け、何のなく地面に当たるはずとリアは思っていた。
しかし銃弾は何もない虚空で何かに弾かれたように落ちていく。


「ね、ねぇ・・・・今、何かに当たったよね・・・・」


奇妙なものを見たという感じで、先程の場所を凝視している。
隣を向くと、いつ戻ってきたのかジルが真剣な顔つきで、


「・・・・・おいおい、こりゃもしかしたら俺達よりランクが上の依頼だったかもな」


ジルの呟きにリアは不思議そうに尋ねる。


「最悪の展開だ。まさか本当に出てくるなんてな・・・・・死霊使い、ネクロマンサーか」


すると突然何もなかったはずの景色が歪み、一人の黒いローブを着た男が現れる。
ネクロマンサーと呼称されるその魔物は死人を生き返し、思いのままに操り人を襲う事で知られていた。
通常ならランク2以上の退治屋が複数がかりで受け持つ依頼に相当する。


「ジル、あいつってそんなに強いの?」
「いや、奴自体は大した事はないんだ・・・・・・だが能力がめんどうだな。
アスカさんが言ってた異常ってのはこいつが原因だったって事さ」


ネクロマンサーが両手を横に広げると、それに呼ばれるようにグールが生み出されていく。
グールの攻撃を避けるために、後方へと跳び体勢を整えるが、ジルの顔には珍しく焦りの色が浮かんでいた。


「くそっ!どうすればいいんだ!?」
「・・・・・・・」




バチンッ




「いってーーー!な、何すんだよっ!こんな時に!?」
「何一人で悩んでんのよっ!・・・・・・怖いの?」


なっ!と思わず息詰まってしまった。
確かに怖いのかもしれない、死というものへの恐怖は今でも消えてはいない。
・・・・だけど、それ以上にもう誰も失いたくないという気持ちがジルを焦らせていた。


そんなジルを見据えているかのように、リアは力強く微笑みながら言う。


「大丈夫よ、私達ならどんな奴だって敵じゃないわよ」
「・・・・・・・」
「何だったら私が保証してあげる・・・・・ジルの力も私の力も。
私の方がアスカさんより、ずっとジルの事信じてるんだからね」


彼女は照れながら話すと、手にしている愛銃ヴァルキリーを構えると銃口を向けた。


「ほらっ、さっさと終わらして帰らなきゃ、みんな待ってると思うよ」
「待ってるか・・・・・リアに励まされるとはな。
・・・・・そうだな、こんな所で時間くってるわけにはいかない」


リアの言葉はジルに力をくれる・・・・・・昔も、そして今も。


(誓ったんだあの時、大切だった人たちの前で・・・・・・守りたいって!)


ジルは一呼吸した後、彼女の方を見る。
まだ少し頬を赤くしていたが、二人はターゲットたちへと視線を映す。


次々と生み出されていくグールたちは主を守るかのように立ち塞がっている。
それを見たリアが楽しそうに、


「どうしちゃおっか?ねっ、ジル」
「一気に片付けるのが一番手っ取り早そうだなぁ」
「うんうん、で私は何をすればいい?」
「あの奥のまで道を開いてほしい、後は俺がけりをつけてくるよ。リアならできるだろ?」


当然とリアは素早くヴァルキリーに弾を装填すると、狙いを定める。


「やっぱりそうしてる方がジルらしいよ」


リアはそう呟くと、引き金を引いた。
銃口から撃ちだされた銃弾は正確にグールたちを打ち崩し、一つの道を作り出す。
全弾撃ち終わると、仕上げにといわんばかりに両手一杯に手榴弾を取り出し思いっきり投げつけた。


そしてグールの群れの中にできた道に次々と爆発を起こしていく。


「これで終りっと、次はジルの番だかんね」


隣にはすでにジルの姿はなく、手榴弾を投げた瞬間にすでに走り始めていた。
もうもうとたちこめる煙の中を通り抜け、目標のターゲットへと距離を詰める。


次第に煙が晴れ、ネクロマンサーは必死に辺りを見渡すがジルの姿が見当たらない。


「俺はここにいるよっと!」


不意に下から声が聞こえた。
声のした方を向くがすでに遅く、ジルが懐に飛び込んでいた。


「これで終りだ。俺達の生活費になってもらう!」


傍から聞いていると、恥ずかしい決め台詞が響き渡る。
そして、強く握り締められた拳がターゲットの顔面を貫いた。



グ、グギィァァ



ネクロマンサーは苦しげに叫びながら吹き飛ばされる。
地面を転がりその体は空気に溶け込むように霧散していく。
主の消滅に続き、グールたちも土へと還っていった。





ジルが戻ってくると、リアは誇らしげに、


「私の行った通りでしょ。私達に敵なんていないんだから」
「あはははは、確かにリアの言う通りかもな」


二人はお互いに笑いあっている。
気づくといつしか辺りは明るくなり始めていた。


「え?もうこんな時間なの!早く帰って、あの子たち起こさないと!ほ、ほらっ早く帰ろっ!」


あわわ、と慌てるリアを見ながらジルはリアらしいなぁと微笑んでいる。


「あっ、私の荷物もちゃんと持ってきてね」


(・・・・本当に・・・・・お前らしいな・・・・・できれば、直してほしいけど・・・)


そう考えている間に、リアはすたすたと行ってしまった。
ジルは、はぁ、と軽くため息をつきながら、彼女の後を追いかけていく。












あとがき

みなさん、ティルです。おひさしぶりです。
今回、シルフェニアで300万Hitの作品を募集していると、聞いたので書いてみました^^
本当におめでとうございます(・w・)/

初めてオリジナルを考えて書いてみました。
主人公にジル、ヒロインにリアなどのオリジナルキャラを考えたりしていると、とても楽しかったです。


最後に、書き終わって・・・あれ?これってテーマと合ってんのかな?と思ってたり・・・・・




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