『サモンナイト2』二次小説

メルギトスシンドローム









第6話 「アルバイター」


























リィンバウムでアルバイトとくれば、あの人を思い浮かべるのが一般的だろう。

言うまでもなく、元暗殺者の鉄腕アルバイター・パッフェルさんである。

「ねえ、それ美味しい?」

あたしの対面の席に座っている獣少女・ユエルはあたしが食しているスパゲティーナポリタン風の料理を興味津々で覗き込んでくる。

ちなみにユエルは今お腹いっぱいだからいらないとのことだ。

とりあえず質問には頷きを返しておく。ユエルはこの麺類が不思議でしょうがないらしい。

メイトルパには料理はないのだろうか?それともこの料理がないだけか?

それはともかく、問題はパッフェルさんを当てにしていいのかどうかだ。

どうやらユエルもあたしと一緒に働くつもりのようなので2人いっぺんに雇ってもらえるようにしなければならない。

ユエルならストーリー進行上仲間になってもならなくてもあまり関係ない(失礼)ので問題ないだろう。

パッフェルさんの人のよさそうな笑顔を思い浮かべれば働き先を紹介して欲しいというお願いを無碍に断るとも思えない。

しかし愛想のいい表側に騙されがちだが、彼女は元暗殺者で現エージェントだ。油断はできない。

あたしがアメルたちと一緒にいたことはすでに知られているかもしれない。

どこかの町の自分の家に帰るはずのあたしがゼラムで仕事を探していれば不審に思うかもしれない。

まあ、それについては不審がられようがどうとでも言い訳ができると思う。

でももしあたしがデグレアの関係者(ホントは関係ないけど)だと気づかれたら?

可能性は限りなく低いけど、もしそうなったらあたしがどうなっちゃうかはちょっと予想できない。

フリップあたりに尋問されるんだろうか?それともエクスあたりが出てきて助けてくれるだろうか?

その場合の自分の顛末をあれこれ考えているうちもフォークは口に料理を運んでいく。

腹ペコだったあたしは考え込みながらもあっというまにスパゲティー一皿を平らげ、頭にちらつく御代わりという単語を隅のほうに追いやった。

「お腹いっぱい?」

正直腹6分目くらいだ。しかしユエルに節約の説明をする手間を考え、あたしはうんと頷くだけで回答とした。

「そっか。ねえ、ところでさあ、きみはなんて名前なの?ユエルはユエルだよ」

そういえばまだ名乗り合ってすらいなかった。あたしは相手のことを一方的に知っているのでつい忘れてしまう。

ユエルは自分のことをユエルと呼んでいるので問題ないが、ギブミモ邸で知らないはずの名前を呼んだりしてないだろうか?

え〜と、たぶん大丈夫。でもこれからは気をつけなきゃ。

「私は奈菜よ。よろしくね、ユエル」

「ナナだね。うん、よろしく!」

犬系の尻尾を元気良く振りながら会計をしようと席を立ったあたしに擦り寄って来るユエル。

かわいいけど、歩きにくいってば〜。もう、甘えんぼさんね、ユエルは。

でも、狼って群れで生活するし、ユエルはこの世界では一人だったんだからしょうがないのかもね。

会計を済ませて(通貨価値がわからないので少しもめたが)お店を出る。お店がだいぶすいていたことから考えて現時刻は2時か、もしかしたら3時くらいか。

「あ!あの人たち!」

「え?」

ユエルが突然知り合いを見つけたように叫ぶのであたしもつられてユエルの視線の先を追った。

すると向こうから見知った顔ぶれがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

「やっぱり!ナナにユエルじゃないか」

「どうして二人が一緒に?知り合いだったの?」

一番に声をかけてきたのがマグナで、次にトリスが疑問を口にする。2人に遅れて走ってきたアメル・ミニスと護衛獣も合流する。

「どうしたんですか、マグナさんトリスさん……ナナさん!?」

「あ!さっきの人!」

「ど…どうも皆さん、お久しぶりです…」

実際には全然久しぶりではなかったが、誰もそこには突っ込んでくれなかった。

ちなみにユエルはマグナ・トリスまでは大丈夫だったようだが人がいきなりたくさん増えてびっくりしたのか、
あたしの後ろに隠れるようにして顔だけ覗かせている。

「ナナ、さっきはごめんな。勝手に連れて来といて追い出すような形になっちゃって」

「い…いえ、気にしないでください。私がいてもお邪魔にしかならないことはわかりきってますから…」

「そんなことないよ!」

「そうです!役立たずってことならあたしだって。
 それに、村があんなことになったのだって、マグナさんたちに迷惑かけてるのだって、あたしのせいで……」

「…アメル、そのことは気にしなくていいって言ったでしょ?」

「…でも……いえ。そうでした。ごめんなさい」

どうやらまだアメルの心の傷は癒されていないらしいが、トリスたちに以前かけられた言葉を思い出したのか自虐の言葉を吐き出すのは堪えたようだ。

そんな様子を蚊帳の外から見ていたミニスは同じく蚊帳の外の護衛獣たちに問う。

「あの女の人、知り合いなの?」

「あ、はい。あの人はナナさんといって、僕たちと一緒にレルムの村から逃げてきた人です」

「逃げてきた?」

「あ!え…え〜と………そのぉ……」

「現状デハ、関係ノナイコトカト」

「そ…そうです!とにかくナナさんは今朝まで僕たちと同じところに住んでいたんです」

「…ふ〜ん」

どうやらミニスはまだ彼らの事情を聞いていなかったらしい。まあ、行きずりの女の子にする話じゃないよね。

「それでナナ、どうしてユエルと一緒にいるんだい?」

「…えと、ついさっき知り合いまして……」

「ユエルがお金のある場所を訊いたの」

あたしが言っていいものか迷っていると、落ち着いたらしいユエルがあたしの後ろから出てきてそう言った。

「お金のある場所?」

「…どういうこと?」

「…あの、この子がお金が必要だと言うもので、私も蓄えが欲しかったので、一緒にアルバイトをしようということになって……」

「ああ、そういうこと」

「あ!だったら打って付けの人がいるよ!」

「ああ!パッフェルさんだな?」

「そうそう!パッフェルさんならきっといいバイトを紹介してくれるよ」

どうやら二人はすでにパッフェルさんと出会っていたらしい。おそらくあたしがギブミモ邸を出てすぐくらいに配達に訪れたのだろう。

「ナナ。パッフェルさんていう人はね、いろんなアルバイトをこなしてお金を貯めてる人なの」

「パッフェルさんには俺たちが紹介してやるからさ、一緒に来なよ」

「え、でも…あなたたちにも用事があるんじゃないんですか……?」

「「あ!」」

どうやら双子はそろってミニスの落し物のことを忘れていたらしい。おそらく今までだってあちこち回って捜し歩いてたんだろうに。

しかし当のミニスはそれほど気にしていなかったらしい。

「別にいいわよ、私に気を使わなくたって。私はまだ捜してるから、あなたたちはその人を連れて行ったら?」

「マグナさん、トリスさん、ミニスちゃんもこう言ってることですし、ペンダントはあたしたちで捜しますから、お二人はナナさんをお願いします」

「え…でも……いいのか?」

「私がいいって言ってるんだから気にしないで」

「ご主人様、僕とレオルド君もミニスさんと一緒に捜します。後で合流しましょう」

「…そうね。それじゃ、1時間後に導きの庭園で待ってて」

「レオルド、しっかり頼むぞ」

「了解シマシタ、主殿」

そういうわけでアメル・ミニス・護衛獣は引き続きペンダントを捜す為にあたしたちと別れて歩き出した。

成り行き任せになっちゃうけど、マグナたちの推薦ならパッフェルさんのことも大丈夫かなと結論付ける。

遠くなっていくミニスの小さな背中を見送りながら、あたしはすぐそばにあるペンダントのことを考え、少し胸が痛んだ。





























その十分後には、あたしたちはケーキ屋で忙しそうに立ち回るパッフェルさんに声をかけていた。

「お〜い、パッフェルさ〜ん」

店の中に入るなりマグナが大声でパッフェルさんの名を呼ぶ。手まで振ってくれてるので店中から注目された。

だもんでパッフェルさんはこちらを向いてぎょっとした顔になり、しかしすぐに営業スマイルに切り替えてすばやく駆け寄ってきた。

「ちょっとちょっとマグナさ〜ん。お店の中でそんな大声で私のこと呼ばれても困りますよ〜」

「あ、ああ。ごめん、パッフェルさん」

「それで、私に何か御用ですか?今かな〜り取り込み中なんですけど。もしかして手伝ってくれるんですか?」

「ああ、そうなんだ。でも手伝うのは俺じゃなくてこっちの2人」

マグナがそういって指差した先に視線をやったパッフェルさんはあたしと目が合った。

「ナナとユエルよ。アルバイトがしたいって言うから、パッフェルさんに紹介してもらおうと思って」

「な…ナナです」

「ユエルだよ」

「まあまあ、かわいらしいお嬢様方じゃありませんか!アルバイトですか?手伝っていただけるんでしたら大歓迎ですよ〜♪」

「よろしくお願いします」

「よろしくね」

はじめてのアルバイトで少し緊張しているあたしと違ってユエルはまだいまいち状況を理解していないみたいだ。

それでもあたしに倣って自己紹介をし、頭を下げた。そんなあたしたちの様子にパッフェルさんも微笑みながら自己紹介をする。

「はい、よろしくお願いします。私、パッフェルと申しまして、見ての通りのしがないウェイトレスでございます。
 お二人のことは私から店長に報告しておきますので、早速今からお仕事お願いできますか?」

「は…はい!」

「お仕事って、何するの?」

「う〜ん、外で配達か、中でウェイトレスになりますね〜」

「ふ〜ん?」

「とりあえず制服に着替えてきちゃってくださいな。ささ、こちらですよ〜」

「じゃ、パッフェルさん、俺とトリスはこれで」

「はいはい〜。またいらしてくださいね〜」

「じゃね、ナナ、ユエル。お仕事がんばってね」

「はい、ありがとうございました」

「あれ、きみたちは行っちゃうの?」

「ああ、ユエル、ナナとパッフェルさんの言うことをよく聞いてがんばるんだぞ」

「…うん!わかった!」

行きずりのあたしたちにここまで親切にしてくれるなんて、やっぱりあの人たちはいい人たちだな〜。

などと考えながら、あたしとユエルは双子召喚士に見送られて店の奥に消えた。




























ちなみにその日はあたしとユエルはウェイトレスを、パッフェルさんは配達を主にこなした。

あたしは体力がないため、ユエルは地名やケーキの種類を覚えられそうになかったためにそれぞれウェイトレスにまわされた。

その分お店が楽になったのか(あたしもユエルも失敗しまくりだったが)パッフェルさんは配達に専念していた。

あたしもバイトは初めてだが、ユエルはもっといろんなことが初めてのため、あたしはできるだけユエルの傍にいてフォローしてあげるようにした。

最初は運ぶはずのケーキを自分で食べてしまったり、お盆を取り落としてしまったりしていたユエルだったが、
あたしや他の店員が熱心に教えているうちにユエルもとりあえず形だけはウェイトレスらしくなってきた。

召喚獣のアルバイトということでびっくりした人も多かったが、ユエルのかわいさと一生懸命さは彼らにも受け入れられたようだ。

ユエルの分と自分の分で頭を下げまくりだったあたしだが、お店の人は大抵のことは笑顔で許してくれたので助かった。

「お疲れ様でした〜。お二人ともがんばってましたね〜。とっても助かりましたよ〜」

パッフェルさんは夕方ごろに配達を終えて戻り、以後は閉店まで一緒にウェイトレスをやっていた。

「いえそんな…足を引っ張ってばかりですみませんでした」

「そんなこと気にしなくていいんですよ〜。誰だって最初から何でもできるわけじゃないんですから〜」

「う〜。ユエル疲れた〜」

慣れないことばかりで疲労しているのはあたしばかりでなくユエルもそうであるらしい。あたしの隣でぐったりとしていた。

「ユエル、大丈夫?」

「うん〜」

「ふふ。労働の疲れは、これで一気に吹き飛ぶんですよ。はい、今日のお給金です」

「あ、ありがとうございます」

「くれるの?なんだろ?」

疲れなど知らぬげにニコニコと微笑むパッフェルさんはあたしとユエルそれぞれに茶封筒(リィンバウムにもあるんだ)を手渡した。

あたしはそれをぺこりとお辞儀して受け取り、ユエルは早速中身は何かとがさごそ探って数枚の硬貨を取り出した。

「あ!お金だ!」

「はい、お金です。あなたたちの血と汗と涙の結晶ですよ〜」

いや、血と涙は流してないけど。しかし不覚ながらあたしも結構感動していた。

これが初めて労働の対価としてもらったお金なのだ。

未だに貨幣価値はいまいちわからないが、そんなことより初めてのという所が肝心なのだ。

あたしが一人静かに感動している横でユエルもお金だお金だとぴょんぴょんはねて喜んでいる。

「うふふ。やっぱりアルバイトの一番の醍醐味はこの瞬間ですよね〜♪お二人とも、うれしいですか?」

「はい!」「うん!」

「それはよかったです。あ、お二人とも、まかないは食べていかれますよね?」

「え、まかないも付くんですか?」

「ええ、もちろんです。た〜っぷり、とは言わないまでも、残ってますからね、ケーキが」

「あ、なるほど」

「まかない?なにそれ?」

「お店の余り物のケーキを食べちゃっていいってことですよ。もちろんお金はいただきません」

「え!いいの!?」

「はい〜。捨てちゃうのももったいないですからね〜」

「食べる食べる!ユエルお腹ペコペコ〜!」

ぐ〜

「あ!」

どこからともなく聞こえてくるお腹の虫の鳴き声。……いや、あたしじゃないよ?ってことは……

「えへへ。お腹鳴っちゃった」

やっぱり犯人はユエルだった。

「もう、勝手にケーキを食べちゃったりしてたのに、ユエルは食いしん坊ね」

「う〜。ナナだって、お昼のとき……」

「あ、あ、それは言わないで!」

「お昼のときどうしたんですか〜?」

「ぐきゅる〜っておっきなお腹の虫が…」

「い、言わないでってば!」

「くすくす。お二人とも、食いしん坊さんなんですね♪」

「う…」

「てへへ」

「さて、まかないをいただきに行きましょうか。無くなっちゃったら嫌ですし」

「うん!」

パッフェルさんの言葉に元気良く答えて厨房へと向かうユエルだったが、あたしにはもう少しパッフェルさんに話があった。

「あ、あの、パッフェルさん」

「はい?」

「実は私もユエルも泊まるとこがなくて……どこか紹介してもらえないでしょうか?」

そういうことは早めに言うべきだろうと自分でも思うのだが、言う暇がなかったんだからしょうがない(忘れてたわけじゃないよ)

そんなわけで恐縮しながらお願いするあたしだったが、パッフェルさんは弛まぬ笑顔で答えてくれた。

「あ〜、大丈夫ですよ〜。約束通り、確保してありますから〜」

「え?約束?……そんな約束しましたっけ?」

「しましたよ〜。忘れちゃったんですか〜?」

パッフェルさんが自信満々に言うのであたしは必死で記憶を探ってみたが、そんな記憶はまったくない。

「え…と……すみません、覚えがないです」

あたしが申し訳なさそうにそう答えると、パッフェルさんは口元を隠してくすくすと笑うしぐさをした。

「まあいいじゃないですか。これからは私の用意したお部屋を寝床にしてもらっていいですから」

「はあ…それじゃあ、お言葉に甘えて」

「うふふふ」

まだなんだか納得がいかなかったが、とりあえず家なき子からは脱したらしいのでそれでよしとする。

にこにことご機嫌に微笑んでいるパッフェルさんの態度が気にはなったけどね。
















第6話 「アルバイター」 おわり
第7話 「新たなる日常」 につづく




感想

浮気者さん更に連続更新!

ナナちゃんもバイト決定! どんなバイトか分らないけど(爆)

そして、パッフェルさん登場!

彼女はあのお方ですからねぇ。強いですよ〜

でも、考えてみれば彼女は幾つだろう?

あのね、女性の年齢を考えるのはセクハラですよ!

まあ、羨ましいほど年取ってませんけどね〜

バイトやって似合うのは二十四歳くらいまでなんですけどね〜

ははは…まあ、その先でもバイトして悪い訳じゃないけど。

そうですけど…

パッフェルさんてやっぱり凄いですよね。


そうだね(汗)

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