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■129 / ResNo.10)  空の青『列車編』そのE
  
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/01/18(Tue) 15:03:44)
    2005/01/18(Tue) 15:04:43 編集(管理者)

    列車が急ブレーキで止まりそうになる中、私はクラウ・ノルズを追いかける為、立ち上がろうとしたけど…
    連続する爆発音の前で、動きを止める…

    「…!?」

    私は立ち上がりながら爆発音のする方に振り向く、すると、列車の窓から後方に流れていく黒い煙が見えた…
    もしかして…あれ、ガンシップ!?
    兵士なんかも乗り込んでいないこの列車で、あんな事ができるのは、命の奥義位だけど…
    まさか…!?

    私は、急いで車両の連結部に向かうと、よじ登り始めた…
    多分上では、動けなくなった命がいるはず…
    今、クラウ・ノルズと接触するのは不味い!










    ボクがヨーヨーの糸で出来た魔方陣を維持しながら、命を休ませていると、列車が急ブレーキをかけ停止する…
    もしかして、内部の空賊が何か手に入れたのかな?
    慣性でもっていかれないように命を押さえつけていると、足音が聞こえてきた…

    「あ〜あ、まさかやられちゃうとはね、これで暫くドレール君には飛空挺は無しだ」
    「そりゃないですぜ、クラウの旦那」
    「聞けば君、女性をサル呼ばわりしたとか…世のご婦人は皆守られるべき者であるというのに…情けない」
    「あっ、いやそれはですね…」

    そう言いながら、列車の前方から近づいてくる影が二つ…
    さっきの男と後は…細身の男…
    私達の存在に気付くと細身の男がボクに話しかける…

    「これはこれはお嬢さん方、ガンシップを落とすとは、流石ですね」
    「何者?」
    「クラウ・ノルズと申します、今度ご一緒にお茶でもいかがです?」
    「…お誘い嬉しいけど、それよりボク、こんな所で言えるあなたの神経を疑います」
    「恋は突然と言うじゃないですか、貴女を見て私の脳裏によぎったのです、貴女は特別な方であると!
     私と一緒に世界を旅しませんか? きっとご満足いただけると思いますよ」
    「ボク変な電波受信してる人は嫌い」
    「ああ! そんな…電波などと…これは恋の予感! 誰にでもある第六感です!」
    「そう、でもそれはきっとはずれだよ、だってボク好きな人いるもん」
    「なんと!? 残念無念! しかし、傷心の時は私にご連絡を。きっと何かの手助けになるはず」

    クラウ・ノルズがそれを言い終わる頃には、ボク達の頭上にそれが現れていた…
    さっきまでのガンシップとは明らかに違う…
    私達にはその構造すら分からない大型飛空挺…
    今までは景色の中に全く存在していなかったのに、まるでにじむ様に、頭上に現れたんだ…

    それを見てボクは、一つの事を思い出した…
    アーティファクト…もしくはオーパーツと呼ばれる現在の魔科学で再現する事ができない超技術の産物…
    古代魔法王朝時代に製造されたもの全てがアーティファクトという訳じゃないみたいだけど…
    ごく一部、存在が確認されているアーティファクトは皆凄まじい能力を持っているみたい。

    例えば空飛ぶ島…西方大陸にあるって聞いたけど島のうえに都市があるらしいから空飛ぶ都と言ってもいいみたい…
    例えば水中戦艦…光も届かないほどの深海までもぐれるとか…
    例えば異界の扉…使い方次第だけど、前の持ち主はその扉を使って異界から軍隊を呼び出して数万の軍勢を退けたとか…
    例えば黄金宮殿…昔、世界中の富を集めたって噂だけど、そこでは永遠の命が得られるって言うね…

    どれもこれもみんな凄まじいものばかり…
    だから、あの飛行艇が突然現れたのは不思議と言うほどじゃない…
    クラウ・ノルズの飛行艇がアーティファクトだったなんて聞いてないけど…

    「さあ、パーティの時間もそろそろお開きとなりそうですね…ドレール君先に行っていてくれたまえ」
    「はい! 旦那!」
    「ふう、もう少しその呼び方何とかならない物かね…そう思わないかい? 月の君?」

    そういうと、クラウ・ノルズはボクのほうから目を離し、後ろに振り向く…
    そこには、姉様が駆けて来る姿が見えた…
    姉様は、息を切らせながらもクラウ・ノルズの正面に立つと、疑問をぶつけた。

    「クラウ・ノルズ…貴方なぜ列車を襲ったの?」
    「ふふ…月の君ならお察しかとも思ったのですが…宜しい、答えましょう
     この列車には、アマルガムの一種であるアルゼノンが1tほど積まれていたのです」
    「な!?」

    姉様は一瞬硬直します、アマルガムと言うのは水銀の合金の事です。
    アルゼノンというのは水銀とミスリルを一定の比率で合成した物で、現在作り出せる者がいないとされる特殊な合金…
    この合金で作り出された物は魔法を保持しやすくなるので、魔法使いには珍重される一品て聞いてる。
    硬度も、鍛え方次第では9.7まで跳ね上がり、相場は金の20倍以上、そもそも売りに出されるような品じゃないの…

    「まさか、王国は開戦を決意したという事!?」
    「さあ、知りませんが、争いの元は頂いていくのが私の主義ですから」
    「信じられない…」
    「ああ、月の君にも信用されないなんて…」

    クラウ・ノルズは悲しむように後ろに下がるんだけど…
    姉様は、追いすがろうと一歩踏み出す…
    ちょうどそのとき、一両前の車両に向けて四つのアンカーが投下された…
    投下されたアンカーは、車両を貫いて引っ掛ける…
    クラウ・ノルズはその車両に飛び乗り指示を出す。

    「引き上げろ!」
    「ちょ! 待ちなさい!」
    「ハハハ、月の君と運命の人! また会おう!!}
    「もーくんな〜!!」

    姉様は結局追いつく事ができなかった、クラウ・ノルズの手際のよさは感心してしまうほど…
    でも、こんなのって悔しい!

    最初、うつむいていた姉様だけど、疲れた顔をしながらも私の方にやって来る…

    「ごめん、セリス…捕まえられなかった」
    「ううん、別にいいよ…ボク達の目的は別にあいつらを捕まえる事じゃないし、ボクは何にも出来なかったし」
    「それは…命を見てないといけなかったからでしょ」
    「うん、命の必殺技使ってもらっちゃってさ」
    「無理させるから…」
    「ゴメン」

    そういってボクはチロリと舌を出す。
    今回の事で、目的地に着くのはかなり遅れちゃった気もするけど、時間ガ決まっているわけじゃないしいいよね?
    ボクもいつか姉様や命に迷惑をかけない人間になれるといいな…そうは思うけど…
    今は今を楽しもうと思う、いつ終わっても悔いの無いように…
引用返信/返信 削除キー/
■218 / ResNo.11)  空の青『王都編』その@
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/06/08(Wed) 22:28:38)
    2005/06/09(Thu) 16:15:35 編集(管理者)

    クラウ・ノルズの一味により、列車が無理やり停止させられた事により次の列車を待つことになったんだけど。
    修理用の列車がきて、壊れた車両を引いていく、中も散々壊されちゃったし、その列車には乗れそうも無かった。
    そんな訳で、次の駅まで徒歩で行く事となった…

    幸いと言うか、もう王都までの距離はそれ程でもなかったので、私達は歩いて王都入りを果たす事になった。
    同じ街道と言っても、田舎の街道と違い王都の街道には街燈が配置され夜になろうかという時刻だというのに非常に明るい。
    この街燈も魔科学の産物なんだよね、それに、王都近辺は街道自体が大理石で出来ている。
    あまり一般的ではないけど、自動車と呼ばれる燃料で走る馬車のような物も時折通り過ぎる。
    流石に危ないと思うけど、向こうの方でも気にして避けてくれるみたい。
    私達のような旅人にとっては歩きやすい分良い所よね。

    最も王都入りと言っても王都を取り囲む城壁から見れば外なんだけど…
    城壁の内側は外側と比べると、整然とした作りで綺麗に作られているらしいんだけど、私達は高くて中の宿には手が出ない(汗)
    まあ、蓄えを放出すれば別なんだけど…出切ればバイト代の中で済ませたいしね。
    でも、今日は戦ったりして汗もかいたし、シャワー位は浴びたいな…
    そう思いつつ、宿を探しながら王都城壁外の東部地区を歩き回っていると、唐突にセリスの声があがった。

    「姉様! あの宿なんていいんじゃない?」
    「え? …あれは駄目」
    「何で?」
    「そういうこと聞くかな、この子は…」
    「え…っと、命! あそこって宿じゃないの?」
    「えぇ!? 私に振る? エルリス! あんたが教えてあげなさいよ!」
    「う〜分ったわよ。セリス、ちょっとこっちに来なさい」
    「るぅ、なんかボク変な事聞いたかな?」

    少ししょんぼりとしながらやってくるセリスに私は耳打ちする。
    まあ、あのけばけばしいライトアップというものじたい、あまり田舎では見かけないしね、私達も知識として知っている程度だけど…
    もともとセリスは頭がいい、でも学校とかで習った訳じゃなくて本だけの知識だから一般常識に欠けているきらいがある。
    だから、恥ずかしい事を説明させられると子は大変…出切れば言いたくないんだけどな…(汗)

    「…なの」
    「え!? ええー!!? あそこ、そういう事をする所なの〜!?」
    「別名”連れ込み宿”とも言うから泊まれない事はないけどね」
    「あう、でも相手いないし…」
    「まあそういう事、さっさと別の宿さがそ?」
    「うん、そうだねボクも今度から気をつけるよ」

    そうして、私達はまた宿を探し始めた…
    現在は街のメインストリートを少し外れている、安い宿が多いからなんだけど、当然ああいう宿も多い。
    そっち系の宿というのも随分昔からあるみたいだ、一般の宿にそういう人を呼ぶという話も聞くけど…
    って、そっち系の話ばっかりになってる…まあ、興味あるからなんだけど…(汗)
    ちょっと、耳年魔かな? っていっても本当は私達の年齢だと結婚している人も結構いるみたいなんだけど…
    まあ、その辺りは置いておこう、悲しくなっちゃうし(泣)
    そんな事を考えている内に命が宿を見つけたみたい。

    「あの宿でいいんじゃない?」
    「え〜大丈夫かな?」
    「確かに、ちょっと…(汗)」

    命が見つけた宿は確かにそれ程悪い物には見えなかった、確かに清潔そうだし、それなりに規模もありそう、
    むしろメインストリートにあってもおかしくない良い宿のようにも見える。
    だけど、一つだけ欠点があるように見える、それは…宿がほんの少しだけど…傾いている事…
    それはもう、見事に傾いていた、だって全体を見渡してもあの宿だけ違和感で浮かび上がっているんだから…(汗)
    それでも、命は気軽そうに言う。

    「そりゃ、安宿だもん何かしら欠点はあるって」
    「う〜ん、そうだけど寝るとき傾いてたりすると頭に血がのぼっちゃいそう…」
    「それに倒れそうで怖いよ」
    「なら別の宿にする? 今まで見たのってココより汚そうなのばっかりだったけど?」
    「それは…」

    命の言うことは最もだった、私達にとってやっぱり宿の綺麗さは欠かせない、だってせめて水浴び程度は毎日こなしたいから…
    やっぱり、汚いのは嫌だしね。

    そういう訳もあって、私達は傾いている宿<旅の小鳥亭>に入る事にした…
    中に入って思ったのは、やっぱり傾いているという事。
    だけど、内装もしっかりしているし一階部分の酒場兼食堂も大衆食堂というよりファミリーレストランというレベルではあるものの綺麗に片付いている。
    客もそれなりに入っているみたいだし、以外に宿代は高いかも?

    私達はとり合えずカウンターに行ってチェックインをしてみる事にした。
    カウンターに座っている人に話しかける。

    「あの、シングルとツインの部屋を一部屋づつお願いしたいんですけど?」
    「はい、畏まりました。302号室と207号室に空きがあります」
    「それじゃあその二つで」
    「あ、支払いは別々ね?」
    「はい、分りました」

    そうして、私達はとり合えず部屋のチェックインを済ませて部屋に荷物を持ち込み食堂の方に下りてくる。
    値段の方もまあ普通だったみたい、でも傾いているとは感じるんだけど、あまり不快に感じる事はない、不思議な宿ね…
    ファミレス風にクロスを敷き詰めたテーブルの前に腰をおろしながら私達はそれぞれ夕食をたのみ始める。

    「へー、命お酒飲むんだ」
    「まあね、とはいっても寝やすくする為に少し嗜む程度だけど」
    「ボクも飲んでみようかな? ワインとかウイスキーとか興味あるんだ♪」
    「やめときなさいセリス、前に飲んだ時もう二度と飲まないって言ってたんじゃなかったの?」
    「だから、ビールは駄目だったけど、ワインなら…」
    「もっと度が高いんだから次の日どうなっても知らないわよ?」
    「ああ、そういえば前にそんな事あったね。あの時はセリス一日行動不能状態だったね〜♪」
    「るぅ! 二人とも意地悪だよ〜!」
    「あははは!」
    「ふふふふ!」
    「ぶぅ!」

    完全に膨れてしまったセリスを見て少し申し訳なく思ったみたいに命があらぬ事を話し始める。

    「いやいやゴメン、セリス。お詫びにいい事教えたげるから! 実は私とエルリス合コンに行った事あるのよ」
    「ふんふん」
    「もしかして、命!」
    「その時、10人くらい飲んだんだけどね、エルリスったら一人だけ何杯飲んでも顔色すら変えないのよ」
    「ふ〜ん」
    「ちょ、命それは言わない約束って!」
    「そ〜んな約束した覚えないな〜、その時ついたあだ名が陥落不可能なうわばみ”氷の女王”全く顔色を変えないんだから」
    「ええ〜!! 姉様そんなにお酒強いの!?」
    「流石にこの分野では、私はエルリスに敵う気がしないね…」
    「う〜、別に好きって訳じゃないんだから! 単に酔いにくい体質なだけよ!」

    だって、何でだか知らないけどお酒を飲んでも水とそう変わらないように感じるし…
    アルコールは臭いし苦いけど、飲んでも他の人が言うように熱くならないから…
    もしかしたら、本当に氷の精霊が関係しているかも知れないけど。
    まあ、そんな事はどうでも良いよね。そもそもお酒を飲まなければいいだけの話。

    そんなこんなで、王都での最初の夜はふけて行ったの…
引用返信/返信 削除キー/
■222 / ResNo.12)  空の青『王都編』そのA
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/08/11(Thu) 12:02:03)
    2005/08/11(Thu) 12:02:44 編集(管理者)

    宿を取った翌日、乗車券の再発行をお願いしに駅へと向かった。
    本来昨日の内に済ませておいた方がいいと思うんだけど、疲れていたから…
    まあ、仕方ない事よね。

    朝のうちは再発行の手続きでつぶれてしまった。
    昨日のうちに済ましておかなかったので、乗車券は明後日の分しか残ってなかった(汗)
    一般乗車券とは別扱いで、食事なんかは無料の結構いい券だったのが救いね。
    まあ、お詫びの意味もあるんだろうけど…

    駅の近くの喫茶店で軽く昼食を済ませ、街中を見て回る…
    命は乗車券を貰った後別行動を取った、セリスがごねてたけど、まぁいつもの事ね。
    王都の南部は雑多な繁華街が続いている、駅がある所為だとおもうけど、結構いろんな物を商売しているみたい。
    考えてみれば私達はおのぼりさんなワケで…
    ちょっとした事で、思わぬ結果になる事もある…

    「あれ? セリス!? どこいたの!?」

    そう、私がちょっと目を放した隙にセリスはいなくなっていた…
    あれほど、私から離れないでって言っていたのに!!

    「どうしよう…」

    落ち着け、落ち着きなさい私…
    セリスも子供じゃないんだから自分で宿まで帰れるはずよ!
    うん、そうね、そうに決まった!

    「ほっとこう、うん」

    私は心理状態を元に戻して、ウィンドウショッピングを始めようとする…
    先ほど目をつけていたアクセサリショップに立ち寄ろうとしていると、

    「きょえー!?」

    セリスの悲鳴!?
    にしては、何だか変な言い回しだし緊張感に欠けるけど…
    私は声が聞こえた方に向かう事にした、

    大通りを抜け、悲鳴が聞こえた路地に向かう。
    誰もいない…実質的には建物と建物の間に存在している路地のようで、入り口となる扉などが無い…
    これは、誘拐かしら?
    セリスがお金を持ってそうには見えないと思うけど…

    いえ、最悪の事態も想定しなければ…
    最悪の事態と呼べるのは、三つ。
    快楽殺人者に連れ去られた場合。
    犯されて売られる場合。
    最後が魔法力の事がばれて神殿教会や魔道士教団に見つかった場合。
    前者なら火あぶり、後者なら実験材料にされる危険がある。

    「とはいっても、最悪の事態でもそうでなくても、私のとれる手段は多くないっか…」

    結局は、同じ事先ず探し出さなければ意味は無い。
    私は周囲を見回して、何か無いか探ってみた…
    聞き込みをして周囲を探るべきだという気もしたけど、まだ何か違和感があったから…
    そうしてみると、二つの家の間のこの道家の壁で行き止まりになっているけど、
    マンホールのふたが少しずれている事が見受けられた。

    「ここ…確立は高いとはいえないけど…聞き込みを始める前にちょっと回ってみるか」

    そう言って私はマンホールのふたを開け、下水道に入ってみた。
    でも、下にあったのは下水道と言う感じではなかった…
    何だか判らないけど、下水の水にしてはにおいを感じないし。
    それに何より、いきなり扉が私の前に鎮座していた。(汗)
    確かに下水は通っているみたいなんだけど…

    私はおそるおそるその扉を開ける。
    ノックしろとも書いてないし扉は元から開いていた。
    それに、誘拐犯かもしれないのにのこのこ出て行く愚は犯せない。

    中に入ってみると、どうやら何かの研究室らしかった、
    中央には大型の機材が据え付けられており、
    魔科学に使うだろう物品が所狭しと並んでいる。
    そして、何かをしていると思しき白衣の男。
    据え付けられた機材に何かが入っているらしく、しきりに数値を書き込んでいる。
    でも、ここ一体何の研究所!?
    いえ、そんな事より、セリスが…

    私は、音を立てないように近づき…
    白衣の男の腕を取って捻りあげた。

    「ぐわ! イタ! イタタタタ!!」

    簡単に白衣を捉えることができた。
    拍子抜けね…まあ、楽なら楽に越した事はないけど。

    「おじさん、ちょっといいかしら?」
    「イタ! 君は! 一体…なん…だね!?」
    「質問しているのは私、いい?」

    そういいながら、私は男の腕を捻りあげる力を少し上げた。

    「イタタ! 痛い! 何者でもいいから、これをやめてくれ!」
    「残念だけど、質問に答えてからよ、いい?」
    「イタ! 痛い!! 判った! 質問に答える! 何でも答えるから、さっさと言え!」

    私はさらに腕に力をこめながら言った。

    「さっさと言え?」
    「いえ、言ってください! 何でもお答えします!」
    「よろしい」

    今のやり取りは一見私の我侭のように見えるけど実は違う、
    下手をすると私が何をするかわからないと思わせるための心理戦だ。
    そうしておかないと、後で何をされるかわかったものではないし…

    「聞きたいことは一つよ。
     私と同じ水色の髪をした少女を見なかった?」
    「…」
    「見なかった?」
    「痛い! イタ! 痛いって!! 判った! その少女なら確かにここにいる!」
    「どこ?」
    「その機材の中だ!」

    白衣の男のやけくそ気味な告白に、
    私は一瞬目の前が真っ暗になるかと思った。
    私は一瞬だけ男を殺す気で睨みつけると、機材に取り付こうとした。

    「待て! それを壊すと彼女が危険にさらされる事になるぞ!」

    私は、男に向き直り、剣を抜き放った。

    「貴方死にたいんですか? もしセリスの身に何かあったら確実に殺しますよ」
    「ひぃひぃぃ!! だっ大丈夫だ…これは命に別状があるようなものじゃない!」
    「本当ですか?」
    「そうだ、彼女の中にある魔力が異常だったから、ちょっと調べてみようと思ってね…
     話しかけたら、悲鳴上げるほど喜んでくれて…」
    「はぁ…」

    何? あれは喜びの悲鳴?
    はぁ…何考えてるんだろ…我が妹ながら末恐ろしいわ…

    「それで? セリスは大丈夫なの?」
    「ああ、もう直ぐ出てくるとだろう。魔力のサンプルも取れたし」
    「サンプルって?」
    「彼女の魔力は強いだけじゃない、どうにも普通の人と違うみたいだからね」
    「そう…」

    まあ、この男のいう事を信用してもいいのかどうかはわからないけど、
    それは私も考えていた。
    彼女の魔力は無限に近いという診断を昔父の知り合いの研究者から貰った事があった。
    そのときは信じてなかった、なぜかって言うと、
    そんな巨大な魔力が体内に存在していれば人間として生きていく事はできない。
    息をしただけで山が吹き飛ぶ、歩けば空を飛びはるかかなたまで行ってしまう。
    もし拳を振り下ろせば国ごと吹き飛ぶ。
    そんな魔力を人間の体内に宿し続けられるわけが無い。
    そうは思っていたけど…特殊な魔力、もしセリスの体内に存在し続けられる形に魔力が変換されていたなら…
    また話は違ってくるだろう。
    だけど…

    そうしているうちに中央の機材のふたがゆっくりと開いて行き、そこからセリスが出てきた。

    「ねぇねぇ、それでどうだった? 魔力の事何かわかった? って…」
    「…セリス」
    「あう…姉様…(汗)」

    私は、腕を組んで精一杯しかめっ面を作った。
    セリスは冷や汗をダラダラながしている、
    男は知らん顔でセリスの魔力サンプルとやらを取り出しに行っているようだけど…
    まあ、今は関係ない。

    「私言ったわよね…私から離れないようにって」
    「うっ…うん…」
    「なんで、こんな所にいるのかな?」
    「さぁ…なんででしょう?(汗)」
    「一言、言ってくれても良かったんじゃないかな?」
    「あぁ…る…るぅ…姉様の意地悪…私だって、自分で魔力のこと知りたいと思ったんだよ…」
    「でもね。心配かけないように配慮するくらいの事はして欲しかったな…」
    「…るぅ…」

    セリスも流石に聞いたのか、肩を落として神妙にしている。
    そうね、もう少し注意をしたら、終わりにしてあよう。
    そう思って、私が口を開きかけた時、

    「まーまー、ここは俺っチの顔に免じて、このくらいにしてやってくんねーか?」
    「へ?」
    「え?」

    足元から、声が聞こえる…
    感じからすると子供? でも…
    よく見ればそこには、水色の毛並みと金色の目をした子猫がいる…
    まさか…

    「おお! 紹介してなかったなー、俺っチは…うん? 俺っチは…そうだ! まだ名前が無い!」
    「「どぉぉお!」」

    私とセリスは同時にこけた…こんなところが似ててもしょうがないけど…
    結構、こういうのって重なるよね、って…
    このしゃべる猫何?

    「えっと、そこの…」
    「マハシフさん、だよ」
    「じゃあマハシフさん! これ一体何!?」
    「私も知らん! お嬢さんの魔力が突然形を取って動き出したんだ!」
    「「ええぇぇ!!?」」

    また、私とセリスが驚きをハモらせる…
    別にわざとやっているわけじゃないんだけど(汗)

    「なんだい、みんな俺っチをみつめちゃってー、惚れても駄目だぜ?」
    「はぁ…」
    「姉様…」
    「じゃあ、仕方ないわね…」
    「え?」
    「名前。付けてあげなさい」
    「ええー!!?」

    私は降参した、どうせ、最後はセリスに強引に押し切られて飼う事になるのだ。
    だったら、先に白旗を掲げても問題ないよね(泣)

    「じゃあ…魔力で出来た弟っていう事でマリョクとオトウト…う〜ん、マオ!」
    「あー悪いんだが、俺っチ女だぞ」
    「へ?」
    「しゃべり方でそうおもったんだろうなーでも、まあ名前はマオでいい、確か東方のほうで猫をさす言葉だったよなー」
    「駄目駄目! 女の子だったらまた考えないと!」
    「本人が気に入っているんだからいいじゃない、それにマオっていうなら、どっちでも取れるしね」
    「でもでも!」
    「じゃあ俺っチはマオっていう事でーよろしくー♪」
    「…るぅ…」

    結局、押し切られるか足してマオの名前は決まった。
    この先どうなるか不安だけど、とりあえずこれから先の指針になるかな?
    マハシフさんって言ったっけ、彼の腕次第だけど…
    でも、今日は疲れたので宿に戻る事にした。
引用返信/返信 削除キー/
■227 / ResNo.13)  空の青『王都編』そのB
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/10/07(Fri) 11:58:01)
    私達のいる世界…
    そんな言い回しするとびっくりするかもしれないけど、
    今、私達が見ているのはまさにそれ…
    世界地図とも違う…球形をしたそれは、リリース・ゼロと呼ばれる私達の世界そのものらしい。
    正確には、この世界の外に他の星が存在し、星一つ一つの大きさは、この世界と同じかそれ以上の大きさの物もあるらしい。
    でも、空気があり魔力が流れ、人が住んでいけるそんな世界はこの世界以外に見つかっていないとか。
    もっとも、マハシフさんの言葉がどこまで信用できるのかわからないけど。

    それに、宗教における世界創造とは真っ向から対決する世界観なので私は直ぐに信用できるかと言われると難しい。
    マナで構成された世界に魔力が流入する事で出来たこの世界、だけど…魔力が流入してくる前はどんなだったのだろう…
    もしかしたら、他の星とマハシフさんが呼ぶ水も空気も生命もないそんな世界なのかな?

    結局今日は命も伴い、三人と一匹でここへとやってきた。
    マオは元々魔力のせいか、セリスの髪の毛に潜り込むと本当に見えなくなる。
    質量的にはゼロに等しいのだ、当然といえば当然である。
    まあ、エサ代がいらないだけマシかな?
    でも、不自然に耳だけ出ているから獣人のウェアキャットみたい(汗

    それは兎も角セリスについてと、魔道士協会への報告差し止めを求める為にマハシフさんを尋ねてみた。
    すると、元々個人研究者なので、魔道士協会には属していないとか…
    それに、ある意味では対立しているらしく、協会への報告など絶対にしないと言ってくれた。
    完全に信用していいものかどうかは気になるけど、まあ、一安心かな?

    それで、歓談しつつマハシフさんの世界に関する解釈を聞いていたんだけど…
    地動説っていうのは、確かに存在している考え方なので珍しい物じゃない。
    けど、ここまで詳しく話す人は初めてだったから、びっくりしちゃって。

    そして、この星に水や空気があふれていて他の星と違っているのは魔力が異世界から流入してきたからという学説も興味深い…
    だって、魔力の流れは生命の流れなんて考え方や、
    星そのものが魔力の流れを持っているという学説は高校までしか学んでいない私には斬新な考えだったから。
    セリスも興味深げに聞いている、当然だけどセリスは知能は高い…私なんかより。
    判断力や常識はあまりないけど(汗
    対して命はそれなりに聞き流している感じ、ちんぷんかんぷんというよりは、興味がないと言う感じ。
    もともと彼女には別の目的があるし、魔法を使わない彼女にはあまり関係ないのかも?

    「そういった所が私の研究している学説な訳だ」
    「興味深い話ね。でも、それとセリスと関係あるの?」
    「ああ…その事にはまだ触れて無かったね、実は彼女の魔力は強大なだけに、世界の魔力と共鳴しやすいんだ」
    「共鳴?」
    「そう、例えば彼女は月に一度魔力が高まる筈だね」
    「…」
    「うん、高まるよ」
    「セリス!」

    私が口をつぐんだ事をセリスは簡単に口にする…
    私は咎めだてるように声を上げるけど。セリスの表情は意外に真剣なものだった。

    「いいよ、もうある程度知られちゃってるみたいだし。ボクもこの先興味あるもん」
    「…そうね、分かったわ続けて」
    「うむ、それは月の満ち引きに海が影響されて高さを変える様に、地脈を流れる魔力が月の干渉を受けて流れを変える様に。
     君の体内の魔力も月が満ちれば高まり、月が欠ければ静まる。そういう部分があるようだ…」
    「何を根拠にそれを言うの?」
    「まだほんの少しセリス君の魔力が残留していたのでね、それを元に検証を行っている最中な訳だ。結果が出るには少しかかるが…」

    セリスの魔力は世界の魔力に共鳴している…それが、セリスに影響を与える…
    なるほど、筋は通っているけど…証明する手段もないわね。
    でも、もし本当にそうなら…セリスの魔力を世界の魔力の流れから遮断してしまえば、暴走の危険は格段に下がる事になる。
    王都でこんな情報が得られるとは思って無かっただけに、貴重な情報ね。

    「う〜ん、姉様。一度学園都市に行ってみない?」
    「…それは…確かに、リディスタに行くより資料は多いと思うけど…
     魔術師協会の影響力が強いから、貴女の事がばれた時は不味いわよ?」
    「でも、ボクの考えてる事が正しいなら、資料は封印図書館にしかないと思うんだ」
    「封印図書館!!?」
    「何!?」

    私と命が同時に目をむく。
    会話に参加していなかった命が驚くくらいなんだから分かるかもしれないけど、封印図書館は不味い。
    噂を聞いても、悪霊だとか、悪魔が図書館内にいるとか、物騒な話しだし。
    禁呪や禁書を収めておく場所だから、下手に読めばそれだけで精神が汚染される。
    禁書なんて、唯ひたすら呪いの文字を書き綴った物なんかがあるから、読めば発狂か自殺っていうのが相場。
    そうでなくても、そんな場所だから警備は一際厳しい。
    そんな場所に私達が立ち入るなんて殆ど不可能だといっていいと思う。

    「セリス…本気?」
    「うん、姉様聞いたことない?」
    「何の事?」
    「大魔道士ヴェネディクトの世界魔法」
    「あ…」

    そう、私も聞いたことがある。大魔道士ヴェネディクト。
    巨大な魔力を持ち、それを使って世界を思うままに操り、また行き来した。
    南方の島の幾つかは彼によって作られたとか…
    彼の使った魔法はあまりに強大な魔力を使う為、誰にも扱えないものだったけど…
    セリスなら…
    それに、ヴェネディクトは世界そのものと同化する魔法を持っていたって聞いたことがある。
    確かに、今行くなら一番目的にしやすい場所ではあるわね。

    「なーなー、もー話は終わったかー? 俺ッチとしてはー学園都市でー、学園パフェってのをー食いたいぞー!」
    「はいはい…ていうか、アンタ物食べられるの?」
    「あ〜、言ってなかったっなー、俺ッチが食べたものはーセリスの栄養になるぞー」
    「ぶっ、それ本当!?」
    「本当だぞー」
    「うぅー、だったらマオが食べたらボク太っちゃうじゃないかー!!」
    「大丈夫ー、俺ッチは太らないぞー」
    「全然安心じゃないー!!」

    セリスの絶叫と共に日は暮れていった…
    まあ、世界の事とか難しい話より、結局体重の事の方が気になってしまう辺り、セリスも女の子だけど…
    本当にセリスの一部なんだ…(汗
    後日、私達は学園都市へ向かうために列車に乗り込んだ…
    結局の所はリディスタに一度立ち寄って切符を買いなおしたほうが安くつくからだ。
    命はリディスタに用があるみたいだから、そこでお別れかな?
    出来れば一緒に旅を続けたかったけど…
    でも、封印図書館なんて…本当に入るチャンスがあるのかな?
    今までとは危険度が段違いなのは間違いないわね。
    私はこの先に待つ学園都市に不安ばかり募るのだった…
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■235 / ResNo.14)  空の青『学園都市編』その@
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/11/21(Mon) 14:52:24)
    「命、本当にお別れなの?」
    「ふぅ、何言ってんだか、別に今生の別れって訳けじゃないでしょ?」
    「るぅ…でも、でもね…やっぱり寂しいよ…」
    「セリス…はぁ…分かった、どの道この街でする事は多いから。学園都市の事が終わったらまた寄ってみなよ」
    「え?」
    「そん時まだ私がこの街にいたら、旅についていってあげるからね?」
    「本当?」
    「本当だって。疑り深いなぁ…」
    「分かってるけど…」

    さっきから命とセリスは駅で問答を続けている。
    停車時間は半時程度だからまだ時間はあるけど…
    先にお別れを済ませた私はセリスの隣でちょっと手持ち無沙汰気味…
    冷たいと思うかもしれないけど、命にはまた会える。
    そもそも、彼女は目的のためにここにとどまる必要があるのだから。
    彼女の親の敵、宝剣を奪った男…顔と背格好だけしか覚えていないそうなんだけど、
    最近有力な情報があったらしい、似た人物がこの街をよく訪れるという。
    もちろん、同一人物とは限らないわけだけど、気になるのは東洋の刀を携えていた事。
    刀使いというもの自体が数少ないこの大陸においてそれはかなり有力な情報と言える。
    でも、せいぜい一年に数度しか訪れないと言う事まで分かっているそうだから、命は長期滞在を決め込むしかない。
    だから、かなりの確率で私たちが学園都市から戻ってきてもリディスタにいると思う。
    そのせいもあってか、命と私は軽くお別れの挨拶をしただけそれで、次にセリスがお別れを言うところなんだけど…

    「うぅ…」
    「いや…あのね?」
    「はぁ、セリス、いい加減にしなさい」
    「え? 姉様…だって…」
    「寂しいのは分かるけど、私たちは私たちで学園都市でやらなくちゃならない事があるでしょ?」
    「そっ、それはそうだけどぉ…」

    いつまでも、命から離れようとしないセリスを引っ張って私は再び列車に乗り込む。
    命が苦笑と共に私たちに手を振ったので、私はウィンクで答えておいた。
    命はちょっと面食らった顔をしたけど、ウィンクで返す。
    ただ、その後、

    「次会う時こそミスコンの借りを返すからな♪」

    しっかり挑戦状をたたきつけられたのでした(汗)






    それから、列車内でも食事の事とか、車内での就寝とかそういう事ではしゃぐセリスの相手をしたり。
    見知らぬ人たちと色々話をしたり、周囲の景色を楽しんだり、国境で足止めになって色々立て込んだりしたけど、
    そういう事は別の話として、なんとか私たちは学園都市に入国した。
    ここで勘違いしてはいけないのは、私たちは入国に成功しただけだと言う事。
    学園都市(リュミエール・ゼロ)には巨大な学園が存在しそこを中心として10万人以上の人間が生活している。
    でも、中央にある巨大すぎて学園としか呼ばれない巨大施設本来はっここそが<リュミエール・ゼロ>なんだけど街の名前になってしまっている。
    でも、それ以外にもあるそれぞれの学園にすら、一般人は入る事が出来ない。
    私たちは取り合えず街の郊外に向かっている…宿を探さないといけないしね。
    でも、こうも規制がきついと私たちじゃ封印図書館どころか、リュミエール・ゼロに入る事も難しいかも…

    「はぁ…やっぱり甘かったかしら…」
    「う〜ん、どうなんだろ…でも、ここって凄いよね。何ていうか…見た事も無いものばっかり」
    「うっ…それはそうね…」

    流石にセリスは好奇心旺盛ね、私としてもいいたいことは分かる。
    ここには最新の設備や、実験的に導入されている設備が多い。
    私たちみたいな田舎者では一生理解できない可能性のあるものもある。
    特にびっくりしたのは自動販売機とかいうもの、ジュースを缶につめたものを鉄の箱に入れて販売しているの。
    一体なんだろうって思って銅貨を投入してジュースの名前が書いてるところのボタンを押すと缶入りのジュース、
    それも冷えたものが出てくるからびっくりした。
    でも、最初は分からなくて駅員さんに色々教わったんだけどね(汗)

    「このジュースどうやって冷やしてるのかな?」
    「多分、魔科学で温度を一定に保つようにしてるんだろうけど…ボタンを押しても魔力の反応しなかったし…
     ボタン押して出てくるまでのカラクリは魔科学じゃなくて普通のカラクリだと思う」
    「そうなんだ〜、じゃあ姉様、あっちのアレって何だと思う?」
    「う〜ん、そうね…」

    セリスは空を向いて指差した。アレは…
    何か大きな風船のようなものが空中に浮いている…
    でも、風船にしては大きい…
    飛行船とかと違って地上から紐に結び付けてあるし…その紐についている帯には色々書かれている。

    「よく分からないけど、見ての通りじゃない?」
    「え?」
    「風船じゃなくて、その下の帯を見てみなさい」
    「う〜ん、歳末感謝大バーゲン?」
    「多分下にある大型店舗で安売りをする宣伝じゃない?」
    「そうなんだ…なんか凄いね、宣伝一つとっても派手なんだ」
    「そうね、何ていうか異次元にでも迷い込んだ感じ(汗)」

    正直ここまで違っていると国が違うだけというには隔たりすぎている。
    昔帝国にいったことがあるけど、ここまでの違いは無かった。
    習慣なんかはかなり違っていたけど…

    「何にしても、先ず宿の確保からね」
    「うん、分かった♪」

    ただ、不安に思うことがある。
    それはセリスの魔力の事、マハシフさんにはセリスの魔力を誤魔化すアイテムをもらったけど、どれくらい信用できるのか分からない。
    セリスの魔力はマオが外に出たことによってある程度安定しているらしいんだけど…

    「なーなーあそこのクレープ食べようぜー俺ッチ腹が減ってさぁー」
    「駄目! マオが食べたらボクふとっちゃう!」
    「俺ッチは太らないぞー」
    「それまえもやった! もう…ボクがもし太ったらどんな手段を使ってもマオも一緒に太らせるんだから!」
    「うっ…我慢するから早く宿をさがすぞー!」
    「はぁ…」
    「どうしたの? 姉様?」
    「きっと生活費の事でもきにしてるぞー仕方ないってわかるだけなのになー」
    「そんな、姉様はちょっとケチな気がしなくも無いけど、ボクの姉様なんだよ?」
    「あー、もういいから、いきましょ?」
    「「はーい」」

    能天気な二人を見ていると悩んでいる自分がバカらしくなってきた、うん、気にするぐらいならどうやって潜入するかを考えた方がいいよね…
    まあ、能天気すぎる一人と一匹にはその辺の事がわかってるんだか分かってないんだか…
    兎に角、そんな状態ながらも私たちは学園都市に入国したのだった…

引用返信/返信 削除キー/
■238 / ResNo.15)  空の青『学園都市編』そのA
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/11/25(Fri) 14:08:17)
    学園都市<リュミエール・ゼロ>この都市は北の大陸の南四つの大国の国境が重なる場所にある。
    正直この都市が成立した背景は微妙な部分が多く、非常に不安定といわざるを得ない。
    元々帝国の一都市だったここは、連邦と帝国による陣取り合戦と言うような形で戦場となる事が多かった。
    そこに、王国まで参戦してきたため一時は世界大戦の勃発もうわさされたほどだ。
    それらの国家に対し共和国側より永世中立国設立を働きかける文書が飛び交った。
    元々、地元であるこの都市は当初より賛成。
    当時の共和国外務大臣は辣腕だったらしく他の三国も最終的には合意、
    四国間で不可侵条約が結ばれたのが150年ほど前。

    もっとも、他国に侵略される事は無くなったものの、国家間で権益をめぐってその後も色々荒れたみたい。
    関税の措置とか、列車の通行規制とか。
    地理的に四つの大国と面しているため交通の要所であり、列車も真っ先に通った。
    しかし、国家間の謀略により何度か断線したため、トレインレイダーと呼ばれる列車警護隊を作って対応。
    もっとも、荒くれ者中心だったせいで働きは今一だったとも聞いてるけど。

    立場的に辛いこの都市は自己の防衛策として、自分の都市だけが持つ何かを用意するため動いた。
    元々、魔術学院と魔科学研究施設を持っていたこの都市は、教育施設の充実に力を注いだ。
    多数の施設を増改築し、各地から教師となりうる人材をスカウト。
    世界中に宣伝を打った。

    これは都市の発言力を増すという意味合いと同時に、国家間の緊張を緩和するためお互いを知ってもらうと言う事。
    そして、教育により学園都市たる<リュミエール・ゼロ>を攻撃させない事も目的としている。
    すなわち人質としての学生であり、同時に教育による洗脳効果での世論の操作。
    場合によってはこの都市を防衛する人員になってもらうと言う事も考えているだろう。

    でも、共和国側もただで済ませてくれたわけじゃなかったみたい。
    魔術士協会の総本山とも言えるエザロットの天空殿からのお達しで学園都市は魔術師協会に協力する事を約束されている。
    むしろ、魔術師協会としては天空殿よりもここに力を入れているといっても過言じゃないみたい。
    現に魔術師としての教育を施された人たちは魔術師協会に入る事を義務付けられている。
    もっとも、名簿上登録しただけっていう人も多いけど…

    こういった深いところはスノウにいた先生がちょっと変わった人だったから分かった部分だけどね。
    学校でこんな話を始めるものだからみんな引いてたけど…

    「でもまあ、これが、一般的に言われている学園都市の成り立ちね」
    「ふ〜ん、意外と殺伐とした理由なんだね」
    「まあ、ここが戦場になったのは知られているだけで8回、
     小競り合いとかも含めると何回戦場になったのか分からないくらいらしいし」
    「うん、大国に挟まれちゃってるもんね。大変なんだ…ここも」
    「そういう事、だから警備が厳しいのも当然と言えば当然ね」

    でも、封印図書館に入るには先ず学園都市の中心である『リュミエール・ゼロ』に入れないと話にならない。
    それは分かってるんだけど、強行突入をかければ先ず治安警察が動き出す。
    潜入するには詳しい地形や警備員の配置が分かってないと駄目だし…

    「やっぱり学生に化けるしかないんだろうけど…」
    「ふ〜ん、学生かぁ、ボク学校は小学校以来行ってないから行って見たいなぁ…」
    「俺ッチはー、学園パフェが食えればいいぞー」
    「あーまたボクを太らすつもりだ! マオは駄目だよ!
     ボクのパフェは分けてあげるけど、絶対勝手に食べちゃ駄目!」
    「食欲の秋なんだから別にちょっと太ったって大丈夫だぞー」
    「もう冬だし…」

    途中でマオとの漫才になったみたいだけど、セリスが学校に行って見たいっていうのは分からなくも無い。
    でも、どうやるべきかな…学生証にある種の認識魔法がかかってるらしいから…
    学生証を手に入れないと入れそうに無い…

    私たちは昨日宿を取ってすぐに休んだ、夜の行動が有利になるほどこの都市は甘いところではない。
    魔科学に関してもそうだけど、結界が十重二十重に張り巡らされているので、
    夜の方が進入困難なのだ、で結局朝になってからこうして
    <リュミエール・ゼロ>の周囲を屋台の店で買ったフランクフルトを食べながら歩いている次第である。

    「はぁ…広いけど…隙が無いわね…」
    「さっき通った、北側の森は?」
    「セリスは大丈夫だと思った?」
    「う〜ん、結界が強すぎて何にもわかんなかった(汗)」
    「多分結界内に侵入するのも一苦労だと思うけど、それが出来てもトラップの山よ…きっと」
    「じゃあやっぱり学生になるしかないんだよね?」
    「まあ、そうなるわね…」
    「う〜ん、じゃあさ、転校ってどうかな?」
    「私が? でも、私一人じゃ意味ないでしょ? それに、スノウの学校からだと推薦状が必要になるわ」
    「俺ッチがー学園にー入るんじゃダメかー?」
    「「え?」」

    マオの事は見落としていた、セリスとワンセットとしか考えてなかったせいだけど(汗)
    でも、進入できたとしてマオだけじゃ何も出来ないのよね…
    そう考えて<リュミエール・ゼロ>西部の繁華街を歩いていると、突然何かが疾風のように駆け抜けた。
    続けてドドドドっとちょっとケバ目の女性達が駆け抜ける。

    「待ちなさい! 今日こそはツケを払ってもらうわよ!!」
    「ルスランあたしと言うものがありながら! まーた女を引っ掛けて!」
    「ちょっと! そんな事より、この前かした金貨3枚返しなさいよ!!」
    「まさか、あの子に手を出しちゃいないよね? 純真なのよあの子は!!」
    「こりゃあ! うちで買っていった装備一式の支払いはいつになるんじゃあ!!」

    持てているのだろうか…っていうより借金返済の請求が多い気がする…
    女性だけでもないようだし(汗)

    「おぜうさんがた、このルスランを追いかけてきてくださるのは光栄の至り、ですが今日の僕は忙しいのです。
     新たな出会いの為に、今日はさらばです!」

    うわ〜変な台詞を残して走り抜けてった…
    あれはいわゆるダメ人間の典型みたいね。

    「セリス…ああいうのだけは関らないようにしましょうね」
    「うっ…うん」
    「それは少しつれないんじゃない? お嬢さん方」
    「え?」
    「ああ!」

    そう、私たちが振り向いた先にはむやみに格好つける遊び人風金髪男がたっていた…
    私たちはその姿を見てほほを引きつらせるのがやっとだった。
引用返信/返信 削除キー/
■249 / ResNo.16)  空の青『学園都市編』そのB
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/12/27(Tue) 12:18:41)
    2005/12/27(Tue) 15:20:00 編集(管理者)

    「君たちどこから来たの? あっ言わないでも分かる、そのイントネーションは王国の人間だね?
     王国の人間は割りと古風な言い回しする事が多いからさぁ、割と分かりやすいんだよ、知ってた?
     色白いねー、やっぱ北のほうの出なんでしょ? 妖精領とか近いんじゃない?
     見た感じ身長は二人とも164cmくらい、エルリスちゃんがB86W54H87セリスちゃんはB85w52H86って言うところかな?」
    「大正解よ!」

    ボゴ!

    ルスランはボディにいいのが入って悶絶中。
    もう、人が気にしてる事をさらりと言ってくれちゃって…
    あぁ、cmは十数年前から広がってきた単位の事。
    何でも光の速さを逆算して3億分の一を1mその百分の一を1cmという。
    連邦が単位の統一化をした関係で、長さは一本化しようという考えがまとまってきたみたい。

    で、私たちがなぜこの金髪軽薄男に捕まって喫茶店で訳の分からない話まで聞いていたかと言うと。
    この男は、学園に入りたいんだったらいい方法があると言ってきたからだ。
    私たちは激しく胡散臭いので警戒していたが他に何か知っている事があるわけじゃない、
    仕方ないので喫茶店まで付き合う事にした。
    少しおなかが減っていたのも事実だけどね(汗)

    それで、中に入って注文を済ませた直後にあんな事を言われたので、思わず私は肘を叩き込んだ。
    こうまで決まるとは思ってなかったけどね…
    このルスランって男は見た目とは裏腹に実力を秘めてそうに見えたんだけど…
    私も勘が鈍ったかしら?

    それは兎も角、事実としてよく発作に襲われるセリスは私より線が細い。
    とは言っても私も細い部類に入ると思う。
    私たちくらいだとウエストは58〜61くらいが丁度いいらしい…
    もっとも、体重は私とセリスでは随分違いがある、剣なんかを振り回している所為か少し筋肉で重い私と
    ハーネット家の屋敷の中から出られなかったセリス、この違いは大きい…
    はぁ、やっぱりそれでも気にはなるのよね…
    だって、バストサイズ、トップとアンダーの差で負けてるもの…(汗)

    「姉様?」
    「え? ああごめん…」

    セリスがスプーンを口に運びながら聞いてくる。
    セリスは入った途端にプリン・アラモードを頼んで食べ始めた…
    昼食をお菓子にしてどうするのよ、と心の中で突っ込みつつも
    幸せそうにしているセリスを見ると何もいえなくなってしまう。
    セリスも別にプリンとかを食べてなかったわけじゃない、私が買い込んできたことも多かったし。
    でも、外で食べるという行為自体がこの旅に出て初めてなのだ。
    だから、喫茶店の料理というのも結構珍しいのかもしれない。

    「それで? どうやって学園内に入ればいいっていうの?」
    「ははは…せっかちだなぁ、そういう事はもう少しお近づきになってから、グオ!」

    いつの間にか復活していたルスランに質問を投げかけたら、背中に手を回そうとしてきたので捻りあげる。
    何となく、こいつの性格が分かってきた…だとすると学園内に入る方法を知っているというのも怪しい…(汗)

    「本当に知ってるんでしょうね?」
    「アダダ!! 知ってるって! 男前嘘つかない! いやマジ! 離して! でないと死ぬ!!」

    大げさに痛がって見せるこの男を見ていると本気なのかどうなのか疑わしく見える。
    しかし、先ほどから私がしている行為は騒がしい物だと自覚しているんだけど…
    周りはルスランを見ると【あぁ、またか…っ】ていう顔をして無視を決め込んでいる。
    相当の有名人みたいね(汗)

    「姉様そのくらいにしてあげなよ、喫茶店の支払い持ってくれるんだし♪」

    私がルスランを見るとものすごい勢いで首を縦に振っていた。
    しかし、さっきツケを払えなかったこの軽薄男にそれが出来るのかは激しく疑問な気がする(汗)

    「ああ、金があるのか疑問なんだろ? 大丈夫、丁度今日は金があってさ、だから追いかけられてたんだよ」
    「それもどうかとは思うけど…」
    「とっとにかく、ここの支払いは心配要らないって、だからいい加減腕捻り上げるのはヤメテー(泣)」

    う〜ん、まあ普通のナンパな人間なのかな〜
    いや、あのツケや、変なのを見ればそう出ないことは分かる、それに私達に声をかけた時も異常な速度だったし…
    ただ、見た目はどこぞの貴族の坊ちゃん風なのよね…(汗)
    だから、よけい読みにくいんだけど…

    「わかったわ、でも次に同じことやってはぐらかしたら、帰るからね?」
    「うっ、分かったよ…せっかちだなぁ…
     でも、そんなに急いでもいい事無いぜ?
     学園都市ってのは、基本的に全ての国に対して軍隊を向けられ続けているんだ、
     学園内は四大国の首都並かそれ以上の防御手段が施されている。
     偽の学生証なんて役に立たないし、忍び込むなら東方のニンジャでも辛いだろう。
     そんな所に入り込んで何をしようって言うんだい?」
    「ふ〜ん、ただのナンパって訳でもないんだ…でも私達がそれを教えると思う?」

    急に真面目になったルスランに私は戸惑ったが表情には出さない。
    やはりただのナンパというわけでもないみたいね。
    でも、なぜ私達に接触してきたのかが見えない。

    「なかなかクールな娘だね、でもさ、名前も聞いてないんだけど?」
    「教えてもいいものならね、貴方に教えたら家まで来そうだし…」
    「うっ…(汗)」

    やっぱり…
    隣でプリンからスパゲティーに移るという不思議な食べ方をしているセリスを横目で見つつ、ため息をつく。

    「そろそろ、帰ろうかしら…」
    「えーまだ食べてないよー姉様もうちょっといようよ」
    「太ってもいいの?」
    「うっ」

    セリスは太る事を気にしているのに良く食べる、まあ家にいた時の反動ね。
    最近は体重の増加に悩んでいるようね…
    宿毎に体重計は微妙に違ったりするから信用できないんだけど…

    「わかった、分かったよ、さすがだね…君には完敗さ」
    「?」

    私達が帰る準備をはじめていると、ルスランはあわてて声をかけてくる。
    私たちを引き止める手段が無い事に気づいたのだろう…
    はぁ、やっと本題に入れそうね…

    「それで、どんな事を教えてくれるの?」
    「なぁに、簡単な事さ」

    そう言って、ルスランが見せたのは二枚のチケットだった…
    瞬間私は腰を浮かせかけるが、よく見ればそれは…

    「そう、これはリュミエール・ゼロの学園祭チケットさ。
     丁度一週間後から三日間、その間だけはこのチケットで学園内出入り自由っていう事」

    なるほど、確かに学園祭ならチケットさえあれば出入り自由ね…
    でも、ただでくれるわけも無いわね…

    「条件は何?」
    「俺とのデート…って言うのは嘘! 嘘だから! そのワキワキとした腕の動きをやめて!」
    「もう一度だけ聞くわ、条件は何?」
    「はぁ、じゃあ、学園祭中の武闘大会俺と組んで出てくれないか?」

    私もできる事ならやるつもりでいた、しかし、あまりに唐突な要請はなんだろうと考える。
    <武闘大会>とは、学園都市の学園祭三大大会の一つで、魔術士の魔法大会、戦士の剣闘士大会を一緒にした一大イベントである。
    人死にが出ないように結界や武器の鈍化など制限は多い物の、それでも毎年病院送りになる者が後を絶たない。
    そんなイベントに唐突に私たちを誘う理由が見えなかった。

    「いや〜、何か一つは俺も出なくちゃならないんだけどさ、残ってるのはこれくらいだし、数合わせでいいからさ?」
    「そうね、戦闘に積極的に参加しなくていいのならいいわ」

    私たちの目的を考えるなら下手に目立った行動は避けたいし、私もセリスも体質のことがばれたらちょっと不味いことになるしね。
    出きれば、そういうのには出たくなかったんだけど…

    「うんうん、じゃあチケットは渡しておくから、当日迎えに行くよ、宿はどこ?」
    「結構よ、当日の朝にここで待ってて」
    「えー? それじゃ、来るかどうか分からないじゃないか!」
    「私たちは約束は守るわよ。貴方と違ってね!」
    「グギャー!!」

    最後にとばかり腰の下に手を伸ばしてきたルスランの腕を捻りあげておいた。
    懲りないわね本当に…

    「それじゃ行きましょ」
    「うん姉様!」

    私はヒクヒクしているルスランを尻目にセリスと一緒に喫茶店を出て行った。
引用返信/返信 削除キー/
■278 / ResNo.17)  空の青『学園都市編』そのC
□投稿者/ 黒い鳩 -(2006/05/30(Tue) 15:33:21)
    学園祭当日の朝。
    私たちは装備に使えそうな買い物を一通り済ませた後、この前の喫茶店の前で待っていると。
    例の緊迫感の無い声が聞こえてくる。

    「やーエルリスちゃんにセリスちゃん、お待たせ〜♪」

    言っている事も軽いが、ついでに体をさわりに来たので、セリスと連携して両脇腹に肘を叩き込んだ。

    「何ていうか、凄いバイタリティだよね」
    「ええ、近づきたくは無いけどね」

    セリスと私はそろってため息をつく。
    しかし、喫茶店前は既に学園祭に詰め掛けた人々でごった返していた。
    私たちはあまり知らなったけど、リュミエール・ゼロの学園祭は学園都市全体のお祭りと化しているみたい、
    国外から沢山の人が詰め掛けて、学園内は元より、学園周辺でもさまざまなイベントが催されるため、
    この3日間、学園都市の人口が倍になるとルスランは言っている。

    それもこの喧騒を見れば頷ける。
    やっぱり、学園都市は凄いわね……
    だけど、そのお陰で警備が薄くなるのは事実だから色々な防護策もとられているみたい。
    チケットが無ければ私たちも危ういところだった。
    とはいえ、学園内に入り込めるだけで安心する事も出来ないけど。

    「さて、どこから回る? どんな店でも紹介しちゃうよ〜」
    「あのね……」

    ルスランはこりもせず私たちにちょっかいをかけてくる。
    一度本気でぶっ飛ばさないと駄目かしら?

    「ねぇねぇ、あれ面白そうだよ?」
    「おっ、流石セリスちゃんお目が高い! あれは、学園内でも屈指の実力を持つ光の魔術師ランバルトによる光アートだ」 
    「へぇ〜」

    セリスに調子よく説明を始めているルスランには呆れるが、確かに光アートというのは凄い。
    虹をいくつも組み合わせて城を表現しているみたい。
    幻想的な背景も光で表現しているから、そこだけまるで別世界のように見える。
    基本的に魔法だから時間がたつと消えてしまうのだろうけど、誰も触れる事の出来ない芸術というのは凄いと思う。

    「入り口には歓迎の意味もあるからね。ああいったアーチの飾りつけの仕方が最近では増えているのさ」
    「流石に学園生だけあってよく知っているわね……ってあれ?」
    「どうしたのエルリスちゃん?」
    「セリスがいない……(汗)」
    「あははは……(汗)」

    私とルスランは思わず固まってしまった、まだアーチを抜けたばかりなのに、もういなくなっているなんて。

    「セリスー!?」
    「セリスちゃーん!?」

    二人して駆け回りながら探す。
    しかし、全く影も形も無い……。
    私は少し嫌な予感が走る。
    セリス……まさか、魔力の事が……。

    「ちょっとルスラン、変な能力でセリスを見つけられないの?」
    「えっと……美人センサーは、今沢山美人がいるんでそこらじゅうに反応アリなのさ」
    「使えない!!」

    仕方ない、ここは少し格好悪いけど、校内アナウンスか何かに頼んでみようかな……
    そう私が思い始めたとき、視界の隅に水色の髪の毛が映った。

    「セリス!?」

    そう、セリスは校門から少し離れたところにある飴細工の店の前で飴が出来上がる所を熱心に見ていた。
    よく見れば、もう一人熱心に見ている人がいる、その女性と二人して飴の事を語り合っているようね。

    「でも、こんな事を魔法も使わずに出来るなんて凄いねー」
    「うんうん、魔法もいいけど手作りよね〜♪」

    その女性は20代半ばくらいに見えるけど、セリスとは馬が合うようだ……。
    ソバージュにした黒髪が人目を引く容姿を引き立てている。
    一見して白人だと分かる白い肌と青い瞳、少しおでこが広い感じがしないでもないけど、美人だと思う。
    でも、雰囲気のせいかあまり緊張すると言うわけでもなく、落ち着いて忍び寄る事が出来た。

    「こら! セリス……勝手に動き回っちゃ駄目って言ったでしょ!!」
    「あ!? 姉様! るぅ……ごめんなさい」

    セリスは一瞬何か言おうとしたようだけど、私の方を見て口をづぐんだ。
    そんなに怖かったろうか?(汗)

    「あらあら、あまりその娘を責めないであげて」
    「えっ……はっ……はぁ……」

    その女性はぽややんとした感じで私たちに話しかけてくる。
    気が抜けるというか何というか、そこまで笑顔を振りまかれると気力がなえる。

    「えっと、そういえばセリス、この方は?」
    「え? ボクは知らないよ、いつの間にか隣で飴細工の解説をしてくれてたの」
    「……(汗)」

    たぶん親切心なのだと思うけど、二人の天然ぷりには頭が下がる。
    正直私は背中を向けてさようならって言おうかと一瞬思った。

    「あの、妹がお世話になりました」
    「いえいえ、困った時はお互い様ですし♪」

    そういって女性と話し始めたその時、別の場所を探していたルスランがこちらに気付き、走ってやってきた。

    「おお、見目麗しき女性が三人っ……って、あり?」
    「あら、ルスラン君、おはようございます」
    「おはようございますって、メグミ先生!?」
    「ふふふ、私が私以外の誰かに見えたんですか? ルスラン君も面白い事を言いますね」
    「いえ、あの……その!?」
    「あの時はあんなに情熱的だったのに、私ちょっと残念♪」
    「いや、あの、そうではなくて!?」

    ルスランが振り回されてる、これは……メグミっていいう先生凄いかも?
    更に少し話して、学園祭入場チケットを使って中に入る。
    ようやく、ここまで来たわね……ていっても、これからのほうが問題なんだけどね。
    私たちは田舎者っぽさが出ていないかちょっと不安。
    言っているそばからセリスははぐれそうになるし。

    「もう、勝手に動き回っちゃ駄目よ?」
    「うん、ごめん姉様。ボクちょっとはしゃぎすぎてたみたい」

    素直に謝るセリスに少しだけ暖かい気持ちになりながら、私たちのリュミエール・ゼロ潜入は開始された。
引用返信/返信 削除キー/
■315 / ResNo.18)  空の青『学園都市編』そのD
□投稿者/ 黒い鳩 -(2006/07/19(Wed) 16:40:08)
    2006/07/19(Wed) 23:34:15 編集(管理者)

    リュミエール・ゼロ内は凄い賑わいで、足の踏み場もないような有様だった。
    私達はあまりの人ごみに呆然としながらも、ざっと学園を見て回る事にした。
    メグミ先生がついてきてくれたので比較的楽に回る事が出来るのは行幸ね。
    でも、リュミエール・ゼロの敷地は広大で一日では回りきれそうに無い。
    さて、どうしようかしら?

    「で、次はどこにいたいの?」
    「そういえば図書館ってここいくつあるんですか?」
    「図書館ね、確か5つほどあったと思うけど」
    「5つですか?」
    「ええ、一般書籍と、歴史書、魔術書、科学及び魔科学書籍、後は……立ち入り禁止区画だから関係ないでしょうけど」
    「噂の禁書図書館ですか?」
    「噂って……まあ、デマの類が飛び交っているのは事実ね。あそこには、学園でもごく一部の人しか立ち入れないのよ」
    「そうなんですか」
    「まあ立ち入れないとは思うけど、入れても入らないほうが身のためだと思うわ。
     何せ、本自体に呪いがかかっている書籍も多いから、魅入られれば死ぬわよ?」
    「それは、怖いですね(汗)」
    「中にはくだらないゴシップで国から禁止されたとか、残酷な描写が過ぎた小説だとか、その……女性には言えない本もあるらしいわ」
    「おお! それは伝説の!!」

    ボスッ!!・・・ドテ

    何か鈍い音とともにルスランが沈没する。
    メグミ先生の額には血管が浮いている。
    それだけで本の内容が分かってしまった(汗)
    でも、つまり禁書図書館は公開できない本の集積所の意味もあるらしい。
    禁呪の図書館なのかと思っていたけど、確かにそれ以外にも禁書はあるわよね。

    「じゃあ、次は……」
    『学園主催武闘大会第一回戦を行います。試合会場は……』
    「あっ」
    「そろそろ時間か」
    「もっと見たかったよー」
    「また明日も見れるじゃない、それよりルスラン。試合会場はどこなの?」
    「え? エルリスさん達も出るんですか?」
    「はい、少し約束しちゃって」
    「ルスラン君、また学園祭に無理やり連れ込みましたね?(怒)」
    「えっ、いや、そんなわけ無いじゃないですか! お嬢さん方が来たいって言うから、ちょっとお願いしただけですって!」
    「本当でしょうね?」

    ルスランはまたメグミ先生にヤキを入れられそうになっていた。
    ルスランは私たちに必死でアイコンタクトを送ってきている。
    無視しても良かったんだけど、それも可哀相なので少しだけ助け舟を出すことにした。

    「メグミ先生、一応彼が試合をして私は数合わせという事になっているので、試合前にダメージを負わせるのはどうかと」
    「あら、そうなの? じゃあルスランには盾になってもらわないとね、じゃあ、今回は許してあげます」
    「ふぅ助かった。ってでも、俺盾っすか?(汗)」
    「うん、そうだよールスラン君盾ー」

    セリスも楽しそうにルスランをいじめている……もしかしてルスランってばいじめて君なのかしら?
    考えてみればそういう行動が節々に見られる気もするわね(汗)

    私達はメグミ先生と分かれて、試合会場の一つにやってきた。
    何でも第一試合は16試合あるそうなので、8つの試合会場で2回ずつ行うらしい。
    そして、今日はベストエイトまでを決めるので、計3試合をする事になる。
    学園祭的には二日目で準決勝まで、三日目で決勝という形式になっているようね。
    ただし、一人で参加する個人戦と2〜6人の団体戦をするので結局倍の試合数になるみたい。

    「ふう、どうにか間に合ったみたいね」
    「ああ、早速試合だけど大丈夫か?」
    「大丈夫っていうか、試合するのはルスランだけだし」
    「えー!? ちょっと、俺だけ?」
    「最初にそういったじゃない」
    「でも、さー、少しくらいは協力しようって気は……」
    「ないよ」
    「ないね」
    「うわーん、訴えてやるー」

    そんなこんなで、団体戦になったわけだけど、私達は基本的に自分を守っているだけだった。
    ルスランは思っていたよりも強いらしく、闘技会場の広さを一杯に逃げ回り、相手をかく乱しながらしとめていった。

    「意外に強いね、ルスラン」
    「うん、まともにやったらもっと強いかもね」
    「でも、相手もあんなんじゃどうって事ないだろうけど」

    そう、私達は5人のチームを相手にしていたわりには健闘していた。
    とはいっても、うち3人はルスランが相手にしていたわけだけど、私達も一人ずつしとめたわけだから結構な物ね。
    ただまあ、学生相手なんだから自慢が出来るのか微妙だけど。
    相手は魔法も使っていたけど、ルスランは上手い事避けていた、正直魔法って避けられる物なんだと感心した(汗)

    「ふぅ、ふぅ、どうにか……勝ったな……」
    「ご苦労様、3人相手によくやったわよね」
    「うんうん、凄い凄い」
    「少しくらい手伝って……」

    まるで事切れるように、倒れこむルスラン、だけどその軌道は明らかに、私の胸に向かっていた。
    私はカウンターでヒザを叩き込んであげる事にした。

    「ぐえ!? もう少し、労わってくれても……」
    「調子に乗らない、元々私達は無関係なんだから。出てあげているだけでも感謝なさい」
    「うおおーん、エルリスがいじめる−ぐほ!?」
    「だからって、ボクに抱きつかないでね」

    セリスの肘も見事に命中、っていうかこういうとき避けない辺り、本気なんだか何なんだか、分からない奴ね……。
    そんな風に闘技会場の近くでじゃれあっていると、一瞬で凍りつくような緊張感が覆った。
    それは、一人の少女、炎のように赤い髪を背中に無造作にたらし、赤いオーラをまとった炎の化身の様な姿。
    周りが息を呑む、少女は美しかったが、それ以上に近寄りがたいほどの鬼気をまとわせていた。

    「ねぇ、ルスラン。あの少女は誰?」
    「え? 彼女か、多分学園都市では一番有名なんじゃないか」
    「一番有名……まさか……」
    「ユナ・アレイヤ、彼女のスリーサイズを知った者はってグギャ!?」

    ルスランの頭が一瞬燃え上がった、すぐに消えたけど、あれは魔法?
    ユナは試合会場にいる、既に試合開始の合図を待つばかりのよう。
    でも、一瞬私達のほうに目を向けていた。無詠唱で魔法を発動した?
    聞いたことは有る、脳内に呪文を焼き付けておく事で、声に出さずに魔法を発動する技術。
    だけど、そんな事をすれば発狂する人間のほうが多いって聞いている。
    狂気じみた事を平気でやっているなんて……。

    そんな中、試合が始まった。
    団体戦のはずなのに、彼女は一人。それも魔術的な武装はしていない。
    それどころか、普通の服装、それも貴金属すらつけていない以上、増幅器すら付けていない事になる。
    しかし、試合が始まった瞬間、決着はついていた。

    「アサルト・ボム」

    その一言が終わると同時に会場が爆発。
    ユナ以外は吹き飛んで、会場には彼女が一人悠然と立つのみ。
    それも、死傷者が出ないよう、何重にも結界が張られているにも拘らず、会場の外にまで振動が響いてきている。
    それが、私達が最初に見たユナ・アレイヤという少女だった……。
引用返信/返信 削除キー/
■337 / ResNo.19)  空の青『学園都市編』そのE
□投稿者/ 黒い鳩 -(2006/08/22(Tue) 20:26:05)
    2006/08/22(Tue) 21:00:12 編集(管理者)

    私達は追い詰められていた……って、いきなり言っても分からないわよね。
    何ていうか、二回戦に突入してしまったんだけど、その相手は……
    あのユナ・アレイヤとかいう少女だった。

    元々私達は無関係だし、
    一回戦で義理は果たしたんだから封印図書館を探すために、とりあえず禁書図書館を訪ねたかった所だけど。
    どうにも、面倒な事に2試合目から試合放棄は出来ないみたい。
    さっさと負けて立ち去りたい所なんだけど、あのユナという少女は手加減してくれそうにない。
    正直、病院送りにされたら封印図書館探しどころではないわね(汗)
    そんな訳で必死で逃げ回っているわけだけど、例のアサルトボムとかいう魔法、連発出切るみたいで……。
    一発で会場にダメージを与えるほどの威力をまともに食らうわけにも行かず、
    私とセリスで二重に結界を張って何とかしのいでいる現状なの。

    とはいえ、セリスはヨーヨーで結界の魔術を形成しているから魔力さえ流し続ければいいんだけど、
    私は氷縛結界を周囲に展開しているので、吹き飛ばされるたびに再構成しないといけない。
    正直息が上がってきているのが分かる。
    隣でのびているルスランにちらっと目をやってみたけど、あれはもう駄目ね。
    穏便に負ける方法って無いのかしら?

    「姉様! どうしよう、結界につかってるヨーヨーの糸が溶け始めてるよ!」
    「ええ!?」

    本格的にマズイみたいね……。
    せりスの持っているヨーヨーの糸は魔科学兵器なので、魔力伝達物質で出来ている。
    つまり、細いミスリルで出来たものをより合わせて作られたミスリルワイヤーのはず。
    ミスリルの融点は鉄なんかと同じで三千度にもなる。
    私の氷縛結界は分厚い氷に敵を包んで動きを取れなくするものだけど、その氷を壁代わりに作り出して熱を防いでいるにもかかわらず、
    瞬間的に三千度を超える熱を氷の壁のこちら側まで届けているらしい。
    正直、こんなのくらったら生き残れない。

    因みに、私達には出場前に結界発生装置を渡されている、致命的な攻撃にさらされた場合に発動し、
    攻撃を防いでくれる事になっている(発動時点で敗北確定)んだけど、ユナの攻撃はそれを貫通しかねない。
    ユナと一回戦を戦った人たちは病院送りになっているんだから正直役に立っているのか疑わしい。
    いえ、それでも死なないだけマシなのかも?

    「あなた達には何か感じたのだけど、使いこなせていないの? まあいいわ。
     茶番を長々と続ける気もないし、そろそろ終わらせてあげる」

    まずい……あの目は本気ね!?
    ユナの周りに赤い陽炎が立つ……
    魔力があふれ返っているの?
    私達は総毛立ちながらその姿を見守る。
    このままじゃ、殺される?

    「舞おう、さあ、足をあげ、さあ、舞おう、大地を巡るものよ。
     舞は全てを平らげ、全てを蹂躙する。
     さあ、激しく、強く、舞い踊れ! インティグレート!」

    呪文が終わると同時に舞台が割れて、地面からマグマが吹き上げる。
    正直度肝を抜かれて声も出ない。
    だって、活火山の上でもないのに、マグマを呼び寄せるなんて無茶苦茶もいい所よ(汗)
    彼女の魔法には限度がないの!?
    周辺温度が一気に上がる……。
    炎によって私の氷縛結界は跡形もなく消えうせ、再度呼び出そうにも私の魔力は限界……。

    「姉様……私」
    「駄目よ」
    「でも……」
    「これで死ぬことはないけど、あれを使ったらどうなるか分からないわよ」

    セリスは自分が魔法を使ったらどうか?
    と聞いているみたいだけど……セリスの魔力量は予測が出来ない。
    発火の呪文で山を全焼させる位の魔力量があるといっていい。
    その代わり、セリスが使う魔法は不安定で、調節も出来ない。
    暴発すれば全てを巻き込んでしまう。
    使用出来るようになるには、並大抵の努力では無理な事はほぼ間違いない。

    でも、だったらどうすれば……。
    そう考えているうちにも、セリスの結界がたわんで来ている。
    結界が破られる!?
    セリスの魔法が破られるなんて……。
    そう考えた次の瞬間、パンッという情けない破裂音とともに1000度内外の温度を持つ溶岩が結界を破って進入してきた。
    結界魔法が起動する……でも、その魔法すらすぐに焼き切れて、とうとう炎に直接さらされそうに……。

    「キャア!?」

    セリスが悲鳴を上げる、私より一瞬早く結界が燃え尽きたよう。
    私は必死に手を伸ばす。
    だけど、手は届かなくて……。

    「セリス!?」
    「おねぇちゃ……」

    炎に飲まれていくセリスを見ている事しか出来ないなんて……。
    そんな……そんな……。
    私はその時、自分の中で何かが切れる音を聞いた……。

    転瞬、視界が切り替わる。
    何が変わったのか自分でも分からない、でもその力は己の中に存在する事が分かる。
    同じはずで違う自分、私の中の私、それは自覚できているのか自分でも自信がない……。
    でも、セリスの周辺は既に凍りつき、炎は完全に鎮火されている。

    我(わらわ)は一息ついて、正面にいる小娘を見る。

    「今のはなかなか面白かったぞ、お主よもや炎をそこまで使うとはな」
    「ふん、本性というわけ? いえ、違うわね。のっとられたのか、憑き物のようね」
    「なかなか鋭いのう、だが、我はのっとっている訳ではない」
    「似たようなものじゃない。でも、これで少しは本気になれるかしら?」

    小娘は赤い髪を掻き揚げて挑発しつつ、新たな呪文を唱え始めている。
    しかし、完成までには数秒かかるのは間違いない。

    「それにしても、暑いな。少しすずしくしようか?」
    「え?」

    我はため息をつくように息を吐いた。
    炎が燃え盛り、溶岩が噴出していた舞台やその周辺に霜が降りる。
    霜は、それらを凍結し、綺麗に白く染め上げてくれた。

    「なっ……1000度を超える溶岩流が一瞬で凍りつくなんて……」
    「何を驚く?」
    「ふふっそうね、かなり本気じゃないと貴方を仕留められないことが分かってうれしいわ」
    「それは楽しみじゃ、中途半端な攻撃で失望させないようにな」
    「きっと気に入るわよ、それはもう、燃え上がるほどにね」

    その言葉とともに、火球を十発単位で投げつけてくる。
    時間稼ぎのようだの、その間に間合いを取った小娘は、特殊な呪文を唱え始める。

    「我、今くびきを開放し、呼び出さん。先に唱える者よ、後を唱える者よ、続けて唱える者よ、我が呼びかけに答えよ」

    小娘は自らの周りに小妖精を呼び出す。
    妖精は、己の自我があるのかないのか、召喚された途端に何かの呪文を口にし始める。
    なるほど、あれらは外部の口というわけじゃな。
    複雑な呪文を唱える場合、一つの口では足りないので、変わりに唱える者を使う場合がある。
    それは、あらかじめ決めておいた呪文を復唱する事しか出来ないが、それでも、複雑な形式の呪文を唱える場合は有効な手段じゃな。

    しばらくして、舞台を覆い隠すように巨大な積層型の魔方陣が作り出されていく。
    本来はこのような呪文を使うのは馬鹿のする事だ。
    時間がかかりすぎる、集中力を乱されただけで失敗するような精密作業を続けねばならない。
    しかし、4つの口で唱える呪文は早々に完成されていくように見えた。
    多分、通常の4倍というだけでなく、ディレイによって更に短縮効果をあげているのだろう。
    だが、それでもまだ余裕はあった。
    流石に1分かからず唱えられる呪文ではないようだからな。
    しかし、我は待つ事にした。
    興味があたからだ。

    その間に、会場にあるものは、全て外に出しておく程度のサービスをしておいてやったが、
    頭に血が上っているように見える小娘に分かったかどうか。

    「さあ、この呪文。とめられる物なら止めてみなさい!」
    「ふん、生意気じゃな。かかって来るがよい」
    「現れい出よ、天空の聖剣!」

    小娘は、我の言葉を聞く間もなく、呪文を開放した。
    それは、天空から飛来する焦点温度二百万度に達するレーザーの光。
    下手な核攻撃100発分にも等しい大熱量だった。
    学園全体が真っ白に光る。
    焦点が絞られているため、熱量は拡散していないようだが、それでも発動時の暴風で会場は吹き飛んでしまったようだ。
    我は積層魔方陣の結界にとらわれている為、逃げる事も、防御魔法の展開も出来ないようになっている。
    絶体絶命のようじゃな。
    光が魔方陣の中に満ちる。二百万度のレーザー光は、内部で衝突を繰り返し、更に温度を上げて魔方陣を満たす。
    そのエネルギーによって、更に焦点温度を上げつつ、魔方陣の内部のエネルギーごと異次元へと飛ばした。
    これによって、強大なエネルギーを余すところなく使い外部に漏らさないという形をとっているようだ。

    「どう? 消し炭も残らなかったでしょうから、答えようもないでしょうけど」
    「ふむ、なかなかの攻撃じゃ、だが小娘、まだまだ甘いな」
    「何!?」

    我は小娘の背後に立っていた。
    氷による光の幻術を複合してユナをだましたのだ。
    もちろん、魔力は大部分その場に残し、自らは魔力を遮蔽する呪文をまとってもいる。
    上位の術者のようだからかなり用心をしたが、今回は上手くいった様じゃ。
    二度使える自信はないがな。

    「あんな長い呪文を唱えさせておく馬鹿はおらぬよ。火球で作れる隙は数秒、唱えるものどもを呼び出したころには終わりじゃ」
    「……でも、魔方陣の内部にいる限り脱出は……」
    「そうじゃ、あれの強力なところはそこにある。火球で作った隙に第一の結界を作ってしまえばじゃがな」
    「ふん、そんなタイムラグをつけるのはあんたくらいよ。1〜2秒じゃない」
    「まあな」

    我はニヤリと笑う。
    小娘も少し口元をゆがめたようだ。
    しかし、どうやら時間じゃな。意識が暗くなってきた。
    そろそろ、体を返さねば……。
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