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シルフェニア
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■24
/ ResNo.10)
★"蒼天編"8話『吐露』
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■
□投稿者/ サム
-(2004/11/08(Mon) 17:07:35)
◇ 8話『吐露』 ◆
なんで…?
わたしを襲っているのは困惑と動揺。
彼女――わたしの一番の友人――は,脚部にドライブ・エンジンを限定装備した姿ですぐそばに立ち――わたしの"魔法"を呆然と見ている。
『警告 目標が移動中』
ニドの言葉にわたしはハッと現実に復帰する。
事態を収拾するのは後回し,いまは目標を拘束しなければ。
でも,現状の安全が確保できない以上,"素人"の彼女を放って置くわけにもいかない。
と、なると――
「装甲解除。対象をそこの一般人に指定・防御結界で封印(シールド)」
『 了解 プロセス開始』
若干のタイムラグの後、ヴァルキリーヘルムA962が解除され,それは彼女の周り光の格子で囲んだ。
「な,なに…!?」
困惑する声。
申し訳ないと言う思いが先に立ち,そして今までの関係が崩れる――そんな確かな予感に寂しさが増す。でも,彼女を傷つけるわけには行かない。それだけでも判ってもらうために。
わたしは,何時もいっしょに行動する――してくれる彼女に優しく告げる。
「…これからちょっとお仕事があるの。少しだけ,まっててね」
「エル!? いったいなんなの!?」
…ごめんね。
インナーのみの軽装のわたし。
対するのは4人のドライブエンジンを纏ったEX。
二人一組で行動しているのだろう,気配の塊が二つ。
そして背後には彼女の気配。
早く終わらせよう。
そう,思う――
▽ △
私は成り行きに任せるしかなかった。
完全なる傍観。
余りの事態の急展開に,行動どころか思考もついていかない。
エルは装甲を解除すると,それ私の周囲に展開してあっという間に封印(シールド)してしまった。
申し訳なさそうに,困った笑顔でエルは笑う。
「…これからちょっとお仕事があるの。少しだけ,待っててね」
「エル!? 一体何なの!?」
いつもの口調で,エルは私にそう告げる。
でも。
その声は何処か硬質で,悲しさと寂しさを含んでいる。
なのに私には問いを発する事しか出来ない。
そして。
エルリス・ハーネットは,ヴァルキリーヘルムの下に着ていたインナースーツだけでEX達に立ち向かう。
その光景に私は我に返った。次いでその光景に真っ青になるのが判る。
「ロン!」
『無理です ヴァルキリーヘルムの防御結界を突破するにはあなたの魔力・能力では不可能』
「でも,でも!」
『仮にここから出れたとしても,場の状況は悪くなるものと推測します。』
判ってる!
でも,エルはたった一人でEX(異能の者)達に向かっていくつもりなんだ!
「エル,聞こえてるんでしょ!? 一人でなんて無茶だ、私も――!」
私の必死の叫びはエルに届き――でも。
「いいの。」
優しい響き。
しかし突き放したような,声。
私はその声に,はっきりとした拒絶を感じた。
▽ △
「いいの。」
エルリスは光の結界の中に閉じ込めた彼女に静かに笑いかけると,氷色のコンバットナイフを掴んだ。
対人攻撃ナイフはエルリスの手の中で形を変え―― 一振りの槍と化す。
その変異は迅速で,魔法を駆動したとも思えない形成速度だ――それは
「わたしは…EX,だから。」
エルリス・ハーネット自身の,魔法――
▽ △
その言葉を聞く人間は,この場に五人。
一人はエルリスの親しい友であり,後の四人は敵。
過剰に反応したのは敵対している男達だった。
「EX…あんたもそうだってのか!?」
「なんで王国軍なんかに…」
「犬なんかに成り下がりやがって!」
口汚くののしる3人を,リーダーの男が手で制する。
「あんた,なんで王国軍に居るんだ…」
彼の言葉は静かに辺りに響く。
対する青い髪の少女は――答えない。
ただ,槍を構え間合いを詰める。
「答える気はない,か」
男の声はなぜか寂しげだ。
彼の目に宿る一瞬の寂しさが,また苛烈な炎に塗り替えられる。
「俺達は諦めねぇ」
ゆっくりとした動作で,彼も武器――鋼のコンバットナイフを構え,
「俺達を差別している奴等全員に思い知らせてやるんだ――どっちが強者で,どっちが弱者をな…」
揺れる感情は憎悪,諦め,そして怒り。
対するエルリスは,その感情に微塵も揺るがない。
確信を持って彼女は彼等に敵対する――。
「――あんたもわかるだろ? 俺達EXはどこに行っても異端だ。絶対に受け入れられる事はない…」
その言葉に,エルリスは足を止める。
「周囲の人間の意見や感情,意識。それらが全部――俺達を排除しようとする,される!」
「だから」
トーンダウンした,しかし凛とした一声。
満月の下,その深緑の光に照らされ――
「そう思っているからこそ――"わたし達"は誰からも受け入れられないのよ」
澄んだ瞳で応えた。
▽ △
「力故に恐れられる。力故に排除される。…でも,これは当然のこと。」
穂先は依然彼に狙いを澄ましている。
対する四人も,意識をエルリスから離さない――それが隙になる事を判っているからだ。
「対等な条件下になければ,人は人を認めることは難しい。…自分以上,自分以下。そう思う意識が全ての差別の元になる。あなたも」
エルリスは,初めて彼だけに視線を合わせた…ほんの一瞬だけ。
「現に今,あなたも差別をしてるでしょう?」
「……」
すぐさまエルリスは視界と気配に集中する。
しかし言葉はとめない。
「わたし達はEX…これは変えられない事実。そしてまた,現代に生きる人間と言う事も事実。なら――」
氷色の槍の穂先を心持下げ,攻撃態勢に入る。
「この社会で,折り合いをつけて生きなければならないのも,また事実――」
「受け入れる器のない社会など―――!」
怒りと,悲しみと,憎しみの篭った悲痛な叫びが,周囲を貫いた。
▽ △
「……」
結界(シールド)の中で,私は全て聞いていた。
その上で,私は彼等の会話に何も言う事が出来ない。
その言い分は確かにそうであるし,有る一面では正しく…もし私が彼等と同じ立場だったら…同じ行動を取らなかったとも,言い切れない。
差別される痛み。
それは"私も知っている"のだから。
>>続く
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■27
/ ResNo.11)
★"蒼天編"9話『スレチガイ』
▲
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■
□投稿者/ サム
-(2004/11/08(Mon) 20:47:08)
◇ 9話『スレチガイ』 ◆
差別や偏見とは,何も能力が劣る方向だけへ働くものではない事は,私は経験的に知っていた。
この街に来るまでの数年間…周囲よりも秀でた能力が,私を孤立させていたのだから――。
それはもう、過ぎ去った過去の話。
でも,まだ私に傷を残してもいる。
▽ △
対峙する一人と四人は共に無言。
似た出自と過去を持っていたとしても,選んだ道は駆け離れている。
エルリスは槍を構え,対峙する男も武器を構える。
先に動いたのはどちらだったのか。
気づけば30mと言う距離を一瞬にして詰め,中央で二人は打ち合っていた――否。
エルリスが男のコンバットナイフを粉砕・一方的に蹴散らし,その向こうに居る"後衛"(カバー)に向かって踏み込む。
打ち合った場所から約20mを3歩で踏込み・槍の柄で突く――
ガン,と金属の塊を突いたかのような硬く重い手応え。
エルリスは慌てることなく距離を取り,突いた男を見ると…彼の眼前――そしてその周囲を金属の防壁が囲んでいる。
「金属の結界――」
攻撃に転じようとしているのだろうか,大小様々な金属球が周囲に出現する。
「――魔力具象系の駆動式使い…」
EXの中でもかなり特殊な能力だが,エルリスは特に慌てない。
相手の能力が何であれ――彼女は勝たねばならないのだから。
四人のEXの内,3人の特性は把握した。
雷,衝,金。
相性と,連携が危険なのは――雷か。
向かって左,雷撃を操る男がこちらを狙い澄ましている――
エルリスは迷うことなく走り出す。
途端,頭上に魔力の渦を感じた。
息をするように魔法を行使する――それがEX。
だが,彼等はまだまだそれが出来ていない。
ほんの瞬間の集中と,きっと心に念じなければ魔法を行使できないのだろうと予測する。
それではわたしは倒せない――
わたしは, 前後左右と上空から襲う雷撃・衝撃波を,"意識することなく"作り出した氷の壁で防ぎきり,消滅させた。
深く,踏込む。
その速度でもって.ドライブエンジンの装甲外殻に守られた彼の体――脇腹の部分を狙い,槍の横凪ぎでふっ飛ばした。
倉庫の壁まで飛んだ男は,体折ってうつ伏せに倒れる。
「…カハッ」
呻きが,雷を操る男のこの場での最後の言葉になった。
▽ △
それを圧倒的と言わずになんと言うのだろう。
エルは,敵の繰り出した猛攻を難なく蹴散らし…あっという間に一人倒してしまった。
一対一の対人戦闘能力,判断・決断の早さ。
どれを見ても私よりも優れている。
何よりも…エルの槍――あれはただの槍じゃない。
魔法で形成・維持している,魔力の氷槍だ。
魔法をドライブ・エンジン無しで"行使"しているのが信じられない――
行使と言う言葉。
これは普通の魔法使いではまず使わない。普通,魔法は"駆動する"と言う。
言葉通り,これは一定の法則と手続きに従って"動かしている"と言う意識が強いから。
行使する,という言い回しは…文字通り"使う"事を意味している。
でも,そこに篭められる意識は違う。
魔法を使用する私達の使う"行使"とは,"それを当たり前の事として行う事"と言う意味。
現実にそれを行えるのは,各国のトップクラスの魔法使い達に限られる。
それと,近年その出生率が徐々に増加してきた"EX"達。
卓越した者,そして超越した者達にのみ許される魔法駆動――それが行使,だという。
エルの疾駆が起した突風が,私の場所まで吹きつけた。
風はエルの敷いた結界が遮り私までは届かない…けれど,その風は,魔力を騒乱させている時に起こる現象だ。
EX達の体内――いや,精神に有ると言う魔力変換炉。それが大気中の魔力を汲み上げ別系統の"力"に換える――そう聞いた事が有る。
理屈はよくわからない。
生身でドライブエンジンを搭載しているようなものなのかな,とぼんやり私は思った。
▽ △
停滞せず動きつづける。
エルリスの次の目標は衝撃波を放つ男。
左右へのサイドステップで直線的な衝撃波群をかわしつつ,すばやく確実に接敵する。
かわす事の出来ないタイミングの攻撃は,瞬時に生み出す氷の盾で無理無く打ち消し,あ,という間に槍の射程圏内に収めた。
一瞬の交錯。
その,瞬間の攻防の際に発生した余剰魔力の光が収まると,その男も倒れ伏し,沈黙していた。
肩越しにナイフの男を振りかえったエルリスの瞳は,冷たい決意を秘めたような…醒めた眼差し。
対する男の,苛烈な憎悪を篭めた瞳。
そんな彼を見据え,エルリス・ハーネットは"応え"た。
「わたしの…わたしたちEXのこれからの為に。あなた達は拘束させてもらうわ」
今を切り捨てる覚悟,そして強烈な独善を篭めて――
そう呟いた。
▽ △
もう言葉は通わない。
しっかりと私の耳にも届いたその言葉は,この場の誰の心にも突き刺さった。
無論,私にも。
エルのその発言は,普段の彼女からは絶対に想像も出来ない位辛辣で独善の過ぎる,刺――どころか毒すら内包しているような,そんな意味に捉える事が出来る。
それが敵なら…その心境は推して知るまでも無い。
鬼気の膨れ上がる様がわかる。
目の前のナイフを砕かれた男,そして後方で機を狙っている不可思議な魔法を使う男。
その両方を過剰に刺激していた。
何で,なんでそんな事言うの…?
私は…しかし問えない。
戦いを見続ける事しか出来ない――
>>続く
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/ ResNo.12)
★"蒼天編"10話『ココロとコトバ』
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□投稿者/ サム
-(2004/11/08(Mon) 23:14:48)
◇ 10話『ココロとコトバ』 ◆
――これで戦いは終わり。
エルリスはもう,他の二人には目を向けなかった。
…向ける事は出来なかった。
先程の言葉に偽りは無い。
わたしの目的――そのために,彼等のような社会に反するEX(能力者)や犯罪者を捕らえ続けよう。
哀しい。虚しい。痛い。消えたい。心が張り裂けそうだよ…
でも,もう停まるわけには行かない。
そう決めたのは,わたし自身なのだから。
月を見上げて,わたしは最後の魔法を放った。
▽ △
その時のエルの表情,私は忘れないだろう。
全ての悲しみを内包した,迷子の子供のような――それも一瞬。
彼女は月を見上げ,まだ動ける残りの二人に背を向けて。
何を想っていたのだろう…
▽ △
轟!
突如吹き荒れる吹雪。
まるで真冬の北の山脈に迷い込んだかのような,信じられない暴風が吹き荒れた。
嵐の中心――そこには一振りの槍が在る。
槍はエルリスの魔法。彼女の心そのものだ。
それを軸に半径30mの半球範囲のみで発生する限定現象――魔法"凍てつくココロ"
エルリスが唯一名付けた,ただ一つの魔法。
▽ △
吹雪が収まると,横たわる影が二つあった。
どちらも息をしている事を確かめ,エルリスは先に倒した二人を引っ張って1箇所に集める。
「封印移行(シールド・シフト)」
『Yse 封印解除(シールドアウト):移行完了』
私の封印が解除される。
代わりに,倒れ伏している四人を囲み,完全な封印状態に移行した。
私に使っていたときの状態は"防御結界"(シールド)だったみたいだ。
先程の戦いから見て,エルのドライブ・エンジンは"拘束・保護"する"封印・結界"としての意味合いのほうが大きいのかもしれない,と気づいた。
先程の猛吹雪――エルの起した魔法――も、彼女の敷いた結界が無ければ被害を受けていた事に思い至る。
最初に言ったエルの言葉・・・「少しだけ待っててね」も果たされた約束だ。
エルは,約束を守らない娘じゃない。
沈黙が辺りを覆っていた。
エルは二言三言ナイフの男と言葉を交わし,それで全てを終えたのだろうか。
ゆっくりと,私の方に歩いてきた。
「驚かせちゃった…よね」
苦笑しながら,ピアス――エルのドライブ・エンジンだ――を触りつつ,困った笑顔で話し出した。
「これ,わたしでも使える特注品なの。軍には私のほかにも何人かEXがいて…その人達がコレを使えるように技術部の人と魔導機構をいじって。…わたしって使える魔力が多いでしょう? 無理やり魔力を流す事で付け加えた細工(エーテル)を動かして,それで無理やりドライブエンジンを稼動させてるんだ。」
強引だよね,と。やはり苦笑する。
それは――何かを覆い隠そうとする仮面だと私は感じた。
エルの言葉が途切れると,やはり沈黙が辺りを包む。
すると,エルは表情を消してポツリと呟いた。
「ごめんね」
▼
「騙してたんだ。 魔法,使えないって」
私は聞く事にする。
エルは私から少し距離を取って,腕を広げて見せた。
ほら,わたしってこわいかな? …こわいよね
そう言っているのが表情でわかる。笑っていても瞳の端に涙が浮いてるじゃない…
私は,だから黙って聞く事にする。
「わたしもあの人達と同じなんだ…。わたしは,EXだからって理由で差別される事を知ってる。それを憎んでもいる」
実際にそうだったしね,と遠くを見ながら言う。
エルは俯き,沖の水平線の上に浮かぶ月へと顔を向けた。
「Exclusive…生まれつきの力故に,本当のEXは心が閉鎖的なの。…彼等はまだ人間的。ほんとうのEXは…」
わたしなんだよ,と寂しく笑った。
でも,と続ける。
「わたし一人なら,孤独のまま憎みつづけたかもしれない…でもね,妹がいるんだ」
初めて聞く。
ちょっと恥ずかしそうに,エルは頬を緩める。
「あの娘はさ。皆が一緒に笑って過ごせる時間が大好きで,わたしもあの娘と,そしてあの頃の皆と一緒にいれれば,ぜんぜん寂しくなんか無かった」
例え差別されてたとしても,暖かい場所があったから。帰れる家があったから。
懐かしむ表情で続ける。
「でもあの日。突然住んでいた場所が燃えて,家族が死んで,隣のおばさんも,向かいのおじいさんも,皆殺されちゃった」
生き残ったのは,EXだった私と妹だけだった。
そう呟き,もう一言。
「テロだったの」
10年ほど前,この都市の近郊の街で起こった大規模テロ。
その時の主犯格グループが,今のリヴァイアサンの前身の武装集団だったと言う。
「誰も居なくなって,私と妹で街をさまよって…誰も,助けてくれなくて。」
数日間。
彼女は傷を負った妹を抱え,自身も背中に大きな傷を負いながら助けを求めていたが,誰一人手を差し伸べるものは居なかった,らしい。
死に瀕した自分と妹。誰も手を差し伸べてくれない。
――EXと言う,それだけの理由で。
結局,救援に駆けつけた部隊――エルの養父,ハーネット卿が率いていた――に救助され,一命を取りとめたと言う。
「悔しくて,憎くて! でも,あの子が…」
『だめだよ,姉さん…皆,自分の事でいっぱいなの…わかってあげよ? ね』
その言葉で,わたしは誰彼憎むのは止めたの。
そう,優しい表情で言う。想い出なのだろう…とても大切な。
「だから,わたしは。わたし達を受け入れてくれる世界を…わたし達(EX)が困っていても助けてくれる,ほんのちょっとの余裕を作るために…。」
EXが,社会の役立つと言う事を証明するために。
今,社会を徐々に脅かしつつある"自分達の同朋"(EX)や,王国の敵と戦う決意をした。
――遠いかもしれない,辿りつけないかもしれない。
でも,そんな未来を目指して。
自己中心的,だよね。とエルは笑った。
私は――そうは思わない。
「良いんじゃないかな」
自然と出た声は,エルを肯定する言葉だった。
▽ △
驚いた表情で,ゆっくりとこちらを向くエルに向かって私は微笑んだ。
いつもの笑顔で。
「エルがそう考えてるなら,迷う事無いよ。決めたなら振り向くな!…今まで戦ってきた人達に,失礼じゃない?」
そう言って,ニッと笑う。
エルは自分を全部話してくれたのかもしれない。なら,私も出来うる限り応えなければ――。
「居場所を作るためなんでしょ? 要はさ。 そのための戦いなら遠慮するこたーないよ。精一杯やれば良い。私も――エルと,友達と仲間と。みんな一緒に居れればって思うもの。」
…だって,友達じゃない?
そう言って,私は泣きそうなエルを抱きしめ。
その頭を優しく撫でながら,その場を動かなかった。
何時までも。何時までも――。
月が見下ろす秋の街。
変わったようで,やはり何も変わらないのは――いつもの事か。
仮初の友情が新しい想い出に変わったのは,常ならぬ事ではあったが――
優しく。
月が,微笑んだ気がした。
>>終章へ
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/ ResNo.13)
★"蒼天編"終章
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□投稿者/ サム
-(2004/11/08(Mon) 23:16:04)
◇ 終章 ◆
その日。
私とエルリス・ハーネットは,改めてその友情を交し合った。
でも,そのすぐ後日彼女は学院を辞めた。
…私はなんとなくそれを予感してはいたけど,何も言わずに去っていったエルを少々恨んだりもした。
数日後,何の前触れも無く届いた1通手紙。
それはエルからのものだった。
内容は何やら暗号めいた文章構成だったが,この街のこの学院にきた理由が軍の潜入工作の一環と,養父であるハーネット卿の根回しによる束の間の休暇みたいだった,との事だった。
ここでの半年の想い出は大切にします。
これからも元気でやって行きます,だから…心配しないで。
そう結んで,エルの手紙は終わっていた。
▽ △
結局,あの日あの夜私がそこに行った事は,何か意味があったのだろうか。
何も考えずに行った行動は,結果としてエルとの友情を深める事にはなったとは思うけれど,実際に私がした出来た事は…ただ,厳しい現実を見せつけられた事だけだったのだから。
私は思う。
一人戦うエルリス・ハーネットを。
光明の見えない,道無き道を行く親友を。
「何で,こう…一人でやろうとするかな。」
道は長く険しい。
エル一人で歩ききることは難しいんじゃないのかな?
なら――私のする事は一つだ。
「行くぞ我が道エリートコース! 夢は大きく果てしなくっ…てね。待ってなさい,エル」
私は不敵に笑う。
「今に追いついて,とびっきりのプレゼントをしてあげるから!」
だから。
「また何時か。…どっかで会おうね」
今はまだ,サヨナラは言わない――
>>>"蒼天編" END
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/ ResNo.14)
後書き
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□投稿者/ サム
-(2004/11/08(Mon) 23:22:51)
◇ 後書き ◆
こんにちは,こんばんは,おはようございます。サムです。
此度は"蒼天編"に御付き合い頂きありがとうございました。
楽しんでもらえたのか甚だ不安では有りますが,無事投稿しきれたのでとりあえずホっとする事にします。…トラブルは多々ありましたが(汗
当初短編だったはずなのに,どうやりくりしてもあの容量にしか収まらなかったのですが,まぁそこは僕の修行不足だと思ってこれからも精進しようかと思ってます。
感想にレス付けたときにも言ったのですが、"私"が誰なのか,とか"蒼天編"の蒼天とは?という疑問も有るでしょうけれど,実は投稿している作品中では明かされません。
ご了承を(笑
しかし,蒼天の由来くらいはあります。
400万HIT記念のユウさんの投稿したエルリス・ハーネットを本家・リバーサイドホールにてグラニット様が掲載したときの紹介文に,"蒼天のエルリス"と。
僕:「へぇ〜…蒼天か。」
ここで,エルリス=蒼天が僕の中で決まりました。
特にタイトルが決まらなかったと言うのも有るのですが,まぁ,蒼天編てのは良いかもと思いそのまま自分の中にGOサインを出し,決行にいたりました。
まぁとりあえず。
エルリス嬢を中心として,ユウさん作のオリジナルキャラを駆使したSS企画はまだまだ始まったばかり。先鋒は切らせていただきましたが,後から来る戦友たちにも期待しつつ,これにて"蒼天編"を閉幕したいと思います。
最後に,企画発案者のグラニット様,プロデューサーの黒い鳩様,各種掲示板を用意してくださったKittKiste様,企画板で討論しあった戦友の皆様,そして読んでくださった全ての方々に深く感謝を。
これからも関わっていくとは思いますが,ありがとうございました。
それでは,また何処かで。
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■No31に返信(サムさんの記事) > ◇ 10話『ココロとコトバ』 ◆ > > > ――これで戦いは終わり。 > > > エルリスはもう,他の二人には目を向けなかった。 > …向ける事は出来なかった。 > > > 先程の言葉に偽りは無い。 > わたしの目的――そのために,彼等のような社会に反するEX(能力者)や犯罪者を捕らえ続けよう。 > > 哀しい。虚しい。痛い。消えたい。心が張り裂けそうだよ… > > でも,もう停まるわけには行かない。 > そう決めたのは,わたし自身なのだから。 > 月を見上げて,わたしは最後の魔法を放った。 > > > ▽ △ > > その時のエルの表情,私は忘れないだろう。 > 全ての悲しみを内包した,迷子の子供のような――それも一瞬。 > 彼女は月を見上げ,まだ動ける残りの二人に背を向けて。 > > 何を想っていたのだろう… > > > ▽ △ > > > 轟! > > > 突如吹き荒れる吹雪。 > まるで真冬の北の山脈に迷い込んだかのような,信じられない暴風が吹き荒れた。 > > 嵐の中心――そこには一振りの槍が在る。 > > 槍はエルリスの魔法。彼女の心そのものだ。 > それを軸に半径30mの半球範囲のみで発生する限定現象――魔法"凍てつくココロ" > > エルリスが唯一名付けた,ただ一つの魔法。 > > > ▽ △ > > 吹雪が収まると,横たわる影が二つあった。 > どちらも息をしている事を確かめ,エルリスは先に倒した二人を引っ張って1箇所に集める。 > > 「封印移行(シールド・シフト)」 > 『Yse 封印解除(シールドアウト):移行完了』 > > 私の封印が解除される。 > 代わりに,倒れ伏している四人を囲み,完全な封印状態に移行した。 > 私に使っていたときの状態は"防御結界"(シールド)だったみたいだ。 > 先程の戦いから見て,エルのドライブ・エンジンは"拘束・保護"する"封印・結界"としての意味合いのほうが大きいのかもしれない,と気づいた。 > 先程の猛吹雪――エルの起した魔法――も、彼女の敷いた結界が無ければ被害を受けていた事に思い至る。 > > 最初に言ったエルの言葉・・・「少しだけ待っててね」も果たされた約束だ。 > エルは,約束を守らない娘じゃない。 > > > 沈黙が辺りを覆っていた。 > > エルは二言三言ナイフの男と言葉を交わし,それで全てを終えたのだろうか。 > ゆっくりと,私の方に歩いてきた。 > > > 「驚かせちゃった…よね」 > > 苦笑しながら,ピアス――エルのドライブ・エンジンだ――を触りつつ,困った笑顔で話し出した。 > > 「これ,わたしでも使える特注品なの。軍には私のほかにも何人かEXがいて…その人達がコレを使えるように技術部の人と魔導機構をいじって。…わたしって使える魔力が多いでしょう? 無理やり魔力を流す事で付け加えた細工(エーテル)を動かして,それで無理やりドライブエンジンを稼動させてるんだ。」 > > 強引だよね,と。やはり苦笑する。 > それは――何かを覆い隠そうとする仮面だと私は感じた。 > > エルの言葉が途切れると,やはり沈黙が辺りを包む。 > すると,エルは表情を消してポツリと呟いた。 > > > 「ごめんね」 > > > ▼ > > > 「騙してたんだ。 魔法,使えないって」 > > 私は聞く事にする。 > エルは私から少し距離を取って,腕を広げて見せた。 > > > ほら,わたしってこわいかな? …こわいよね > > > そう言っているのが表情でわかる。笑っていても瞳の端に涙が浮いてるじゃない… > 私は,だから黙って聞く事にする。 > > 「わたしもあの人達と同じなんだ…。わたしは,EXだからって理由で差別される事を知ってる。それを憎んでもいる」 > > 実際にそうだったしね,と遠くを見ながら言う。 > エルは俯き,沖の水平線の上に浮かぶ月へと顔を向けた。 > > 「Exclusive…生まれつきの力故に,本当のEXは心が閉鎖的なの。…彼等はまだ人間的。ほんとうのEXは…」 > > わたしなんだよ,と寂しく笑った。 > でも,と続ける。 > > 「わたし一人なら,孤独のまま憎みつづけたかもしれない…でもね,妹がいるんだ」 > > 初めて聞く。 > ちょっと恥ずかしそうに,エルは頬を緩める。 > > 「あの娘はさ。皆が一緒に笑って過ごせる時間が大好きで,わたしもあの娘と,そしてあの頃の皆と一緒にいれれば,ぜんぜん寂しくなんか無かった」 > > 例え差別されてたとしても,暖かい場所があったから。帰れる家があったから。 > 懐かしむ表情で続ける。 > > 「でもあの日。突然住んでいた場所が燃えて,家族が死んで,隣のおばさんも,向かいのおじいさんも,皆殺されちゃった」 > > 生き残ったのは,EXだった私と妹だけだった。 > そう呟き,もう一言。 > > 「テロだったの」 > > 10年ほど前,この都市の近郊の街で起こった大規模テロ。 > その時の主犯格グループが,今のリヴァイアサンの前身の武装集団だったと言う。 > > 「誰も居なくなって,私と妹で街をさまよって…誰も,助けてくれなくて。」 > > 数日間。 > 彼女は傷を負った妹を抱え,自身も背中に大きな傷を負いながら助けを求めていたが,誰一人手を差し伸べるものは居なかった,らしい。 > 死に瀕した自分と妹。誰も手を差し伸べてくれない。 > ――EXと言う,それだけの理由で。 > > 結局,救援に駆けつけた部隊――エルの養父,ハーネット卿が率いていた――に救助され,一命を取りとめたと言う。 > > 「悔しくて,憎くて! でも,あの子が…」 > 『だめだよ,姉さん…皆,自分の事でいっぱいなの…わかってあげよ? ね』 > > その言葉で,わたしは誰彼憎むのは止めたの。 > そう,優しい表情で言う。想い出なのだろう…とても大切な。 > > 「だから,わたしは。わたし達を受け入れてくれる世界を…わたし達(EX)が困っていても助けてくれる,ほんのちょっとの余裕を作るために…。」 > > EXが,社会の役立つと言う事を証明するために。 > 今,社会を徐々に脅かしつつある"自分達の同朋"(EX)や,王国の敵と戦う決意をした。 > > ――遠いかもしれない,辿りつけないかもしれない。 > でも,そんな未来を目指して。 > > > 自己中心的,だよね。とエルは笑った。 > > > 私は――そうは思わない。 > > 「良いんじゃないかな」 > > 自然と出た声は,エルを肯定する言葉だった。 > > ▽ △ > > 驚いた表情で,ゆっくりとこちらを向くエルに向かって私は微笑んだ。 > いつもの笑顔で。 > > 「エルがそう考えてるなら,迷う事無いよ。決めたなら振り向くな!…今まで戦ってきた人達に,失礼じゃない?」 > > そう言って,ニッと笑う。 > エルは自分を全部話してくれたのかもしれない。なら,私も出来うる限り応えなければ――。 > > 「居場所を作るためなんでしょ? 要はさ。 そのための戦いなら遠慮するこたーないよ。精一杯やれば良い。私も――エルと,友達と仲間と。みんな一緒に居れればって思うもの。」 > > …だって,友達じゃない? > > そう言って,私は泣きそうなエルを抱きしめ。 > その頭を優しく撫でながら,その場を動かなかった。 > > 何時までも。何時までも――。 > > > > 月が見下ろす秋の街。 > 変わったようで,やはり何も変わらないのは――いつもの事か。 > 仮初の友情が新しい想い出に変わったのは,常ならぬ事ではあったが―― > > > 優しく。 > 月が,微笑んだ気がした。 > > > > >>終章へ
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