Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■170 / inTopicNo.1)  蒼天の始まり第十話
  
□投稿者/ マーク -(2005/03/31(Thu) 19:00:05)
    『赤き竜』


    王国の東に位置する都市、フォルス。
    かの王国の英雄の1人が滞在している街。
    「ここにいるんだよね。ユナ・アレイヤが」
    「そのはずよ。ただ、正確な場所が分からないのはイタイわね」
    それじゃ意味ないじゃない。
    これで、入れ違いにでもなったら本気でやってられない。
    「まあ、向こうも私が来てるのを分かってるはずだし、数日も立てば接触してくるわ」
    「じゃあ、おとなしくしてた方が良さそうね」
    「そういうこと。だから、さっさと宿を取りましょ。
    また倒れられたら厄介だわ」
    「当分は大丈夫よ。というかあの時倒れたのってミコトの修行の所為じゃない?」
    「あっ!!それはあるかも!!」
    「・・・さっさと休むわよ」
    「あっ、逃げた!!」





    深夜、虫の知らせというやつか、何かが起きる予感を感じとっていた。
    外はかなり寝静まっている。嵐の前の静けさというやつか。
    普段の動きやすい服に着替えて窓際に立つと、クロアがやってきた。
    「やっぱり気付いてたわね」
    「ああ、こりゃなんか起きるな」
    「エルたちは?」
    「ぐっすり寝てる」
    「じゃあ」

    ―グゥォォォーーーーーーーーー!!

    遠くから聞こえてきた咆哮。慌てて窓を開け、外を見る。
    かなり距離はあるが、目を強化すれば見える範囲だ。
    見えたのは少し離れたところに立つ一軒の燃える屋敷と、
    そこからこちらへと向かう黒い影。
    そして、金の獣に乗ってそれから逃げるように飛ぶ赤い髪の少女。
    ああ、やっぱり騒動に巻き込まれたか。
    ただ、これはまた厄介な相手だ。
    この世界最高の種族と一戦交じ合わせなければならないなんて。










    私の中にいる精霊が警鐘を鳴らし、私は飛び起きた。
    一体何が?
    ミコトがいつもの服装でクロアと共に窓の外を眺めている。
    つられて、私も窓を見ると遠くにうっすらと光が見える。
    良く見えないが、おそらく火事だ。
    「・・・ニール」
    「やっぱり、ユナか」
    「フィーアも一緒よ。エルリスはセリスと一緒に待ってて!!」
    そういって、獣の姿に戻ったクロアと共に窓から飛び降りる。
    「ちょっと、ミコト!?」
    わけも分からず、とにかく何が起きてるのかだけでも知りたいが、
    ミコトは私の制止など気にせず、屋根を伝って真っ直ぐ火事の起きた家のほうへと向かう。
    追いかけようかと一瞬思ったが、まだ同じ部屋で寝ている妹のことを思い出す。
    こんなときばかりはセリスの寝覚めの悪さに少々、怒りたくなった。





    後ろから迫る黒い巨体は大きな体をものともせず、こちらにぴったりついてくる。
    今のこれは破壊衝動の塊だ。
    おそらく、私よりも街そのもの方が関心が強いだろう。
    今は2つの狙いがそろっているから素直に追って来てるが
    下手に街から離れると、こいつの関心は完全に街へと移ってしまうかもしれない。
    こいつは昔から言うことを聞かせるのが一苦労だった。
    「フィーア、もっと高く飛んで!!」
    「けど、空はアイツの方が有利よ?」
    「・・・わかってる。けど、せめて人気のいない方に」
    「努力するわ」
    黄金の毛に包まれ、白き翼を持った獣に乗りながら
    後ろから迫る巨体に体をむけ、銃の引き金を絞る。
    ハッキリ言って、こんなのが効く筈がない。
    この世界の最高の種族『竜』
    それを相手にこんなものは子供だましだ。
    だが、大きな術を放てば周りの家に被害が出てしまう。
    ちょっと前に希代の結界士と共闘した時は結界のおかげで被害は出なかったが、
    まともに放ったら間違いなくこの周囲の家は全焼する。
    火と言うのは意外と厄介なものなのだ。
    「ユナ!!こうなったら、私が動きを止めるから切り札でやっちゃいなさい!!」
    切り札・・・多分あれのことだろう。けど
    「無理。弾が無い」
    「なっ!!ちょっと嘘でしょ!?」
    「本当。ミコトにも頼んでるけど、見つかってないみたい」
    「信じられない!!」
    でも、事実だ。
    ―グォォォーーーーーーーー!!
    黒竜が吼える。不味い!!
    「フィーア!!上に!!」
    「クッ!!」
    黒竜の口にかなりの熱量の炎が収束する。
    私の魔術と同じレベルの炎だ。
    アレを街に撃たせるわけにはいかない。
    上空へと上がり、飛んでくる炎の塊を避ける。
    だが、真下にいる黒竜の口には再び炎が集まっている。
    このままではいずれ避けられなくなる。
    どうする!?
    「ハア!!」
    下から私たちを狙う黒竜に何者かが飛び掛る。
    振るわれた刃は最高の種族たる竜の表皮を切り裂き、
    怒り狂う黒竜は炎の収束を止める。
    竜がその爪を振り回し、斬りかかってきた者を切り裂かんとする。
    「クッ、まだよ!!奥義『光牙』」
    が、それを後ろへと下がり軽々と避け、目にも止まらぬ速さで剣が抜かれた。
    抜かれた刃は届くはずないの竜の体を切り裂く。
    が、先ほどと同じく、傷口は一瞬のうちに埋まった。
    普通の竜ならこうはならないだろうが、これは特別だ。
    こいつの体は実際の肉体ではなく、実体化したエーテル。
    使い魔のようなものだ。
    だから、一瞬で再生できないほどのダメージを与えるか、
    再生する魔力がつきるまで、攻撃するしかない。
    「厄介な体ね、サラ!!」
    その声と共に、何よりも信用する仲間が銃弾の入った袋を渡してくる。
    その意図を察し、シリウスとクロア、フィーアが黒竜の動きを止めている間に
    素早く両手の銃にセイクリッドを装填。
    銃口を竜へと向け、狙いを絞る。
    三人もこちらの準備が終わったのを知り、私と竜の間から離れる。
    「いけ!!白竜憑依『バーストフレア』!!」
    圧倒的な魔力を宿し、銃弾は白き光となって黒竜を蹂躙する。
    だが、まだ!!
    「落ちろ!!次弾憑依『バーストフレア』」
    同じようにもう一方の銃から放たれた2発目の銃弾が黒竜を襲い、
    その身を完全に吹き飛ばした。
    そして、自分の元に返ってくるのを確認し一息つく。
    さすがに2発連続はこの状態ではかなりキツイ。
    しかも、2回とも片手で撃ったから、数日はうまく使えないだろう。
    まあ、こっちについては動く必要も無いだろうからあまり気にしない。
    「ちょっと!!自分の使い魔くらい管理しなさいよ!!」
    「ゴメン、ちょっともう、駄目・・・」
    「あっ、こら、サラ!?」
    そうして、私は意識を手放した。





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■171 / inTopicNo.2)  蒼天の始まり第十一話
□投稿者/ マーク -(2005/03/31(Thu) 19:02:20)
    2005/03/31(Thu) 19:02:44 編集(投稿者)

    『英雄』


    紅、赤、朱、見渡す限りのあかい世界。
    そんなところにただ1人佇む少女は自らの胸にともる白き炎と黒き炎を眺めた。
    自身の中に眠る二つの炎の脈動。
    その内、1つはつい先ほどこの身へと帰ってきた。
    白き鼓動は穏やかに、しかし寂しげに。
    黒き鼓動は荒々しくも勇ましく。
    共に欠けた紅蓮の鼓動を求める。
    たとえ外面は偽れても内面は偽れない。
    やはり兄弟なのだから黒き鼓動も白き鼓動もその欠けた鼓動を求めている。
    ・・・兄弟・・・兄妹・・・同じだ。今は遠く、遠く離れた家族。
    血の繋がりなど関係が無く、そう、私はあの人を求めている。
    この気持ちが何かなどは私自身も分からない。
    ただ狂おしいほど求めている。
    他ならぬ、私自身の手で・・・・・・しておきながら
    「ん」
    少女が目が覚ますとそこはあまり代わり映えのしない宿の一室。
    ふと、自らの内に眠るモノに意識を向ける。
    かつて制御が出来ず、たくさんものを失ったことを思い出し、
    強く、強くその鼓動を押さえ込む。
    そして、今度は腕を動かし具合を確認する。
    いまだ、動かしづらいがあと一晩も経てば完治するだろうというところだった。
    「あっ」
    と、体を起こし、ベッドから体を出そうとしたところで
    机に置かれた二つの銃に気付いて慌てて調べる。
    ―ふう、壊れてない。
    よほど大丈夫なのだが、あれを使った後はどうしても調べないと気がすまない。
    以前、少し無理をして使って他のやつを駄目にしてしまった経験からなのだが、
    これだけは壊したくない。壊すわけにはいかない。
    今は亡き者からの贈り物なのだから。
    ―ガチャ
    「えっ、えーと。初めまして?」
    誰?
    どこか見覚えのある水色の髪の少女が開いたドアの先に立っていた。




    「それ本当!?」
    「冒険者の店相手にそれは挑戦と取るぞ?
    まあ、そういいたい気持ちも分かるけどな」
    冒険者の店に情報を仕入れに来ていたミコトは頭を抱えた。
    これから起こるであろう騒動の原因は自分たちにあるのだから
    黙って無視するわけにもいかず、この先の騒動を想像してまた顔をしかめる。
    (これはユナに相談しといたほうがいいわね)
    「ありがと、代金は?」
    冒険者の店が売るものは3つ。
    道具、人手、情報だ。
    道具は単純。そのままの意味であり、食事なども含まれる。
    人手は俗に仲介とも言われ、仕事の仲間を紹介したり、冒険者同士、
    もしくは貴族などの依頼や売買の間に入ることを言う。
    情報は賞金首、新しい遺跡、依頼の紹介など数え出したらきりが無い。
    つまり、情報の真偽を疑うのは店の商品に不備があると文句を言うのと
    同じなのだ。
    「こんなのただの世間話だからな。そんなものいらないさ」
    (あ〜、ベアと一緒でいい人だ、この人。
    さて、とっとと戻ってユナに教えなくちゃ。)
    店を出て、自分たちが滞在している宿へと足を向けた。





    そのころ、とある一室で向かい合う赤い髪の少女は一度部屋を出て料理を持って
    再び現れた青い髪の少女から最低限の自己紹介を受け、手に持っていた食事を
    渡された。
    赤い髪の少女、ユナ・アレイヤは見覚えのあるこの少女を必死に記憶のそこから
    掘り起こそうといていた。そして、思い出す。
    (確か『結界王』と一緒にいた・・・・)
    何ヶ月か前に魔術都市行きの飛空艇でおきた騒動のおりに関わった同じく
    ウロボロスの一員、『結界王』とよばれる魔術師と共にいた姉妹の1人だ。
    疑問が氷解し、とりあえず害はないだろうと判断し手に持った皿に入った
    料理をスプーンですくい、口に運ぶ。
    そして、ユナの顔色を伺うようにしていたエルリスはその様子を見ながら
    完全に緊張していた。
    実際は何も無いのだが、王国の英雄、そして最高位の魔道士というという
    あまりにも仰々しい称号はエルリスを萎縮させるには十分すぎた。
    と、料理を口に含んだところでユナが露骨に顔をしかめた。
    エルリスは自分の料理が失敗したのではないか、口に合わなかったのではないかと
    不安になり、立ち上がろうとしたところで
    「ユナ、起きた?」
    もう1人の英雄が入ってきた。

    入ってきた少女ミコトはユナのしかめた顔と手に持ったもの、そして半分腰を
    浮かしたところで止まったエルリスを見てその意味をさとり、
    「エルリス、大丈夫よ。
    ただ単に悔しいだけだから」
    とユナへ向けて意地悪い笑みを向ける。
    そしてエルリスもその言葉の意味をなんとなく理解し、聞いてみた。
    「料理・・・駄目なの?」
    とユナの顔が今まで以上に不機嫌になり、年相応の可愛さが覗かれた。
    が、こんどはミコトの顔に苦いものがよぎる。
    「ほんと、大変だったわ。何でかしらないけど私以外だれも料理が駄目なんだから。
    ユナは毎回火加減強すぎて炭を作るし、アルテは剣は使えるのに包丁とかは
    使えない。
    バルムは論外。知識はあるのにそれがうまくいかずにむしろ逆効果で
    とてつもない味になる。
    そのくせ、みんなして私の味付けが薄いだの、辛いだの文句ばかり言うんだから」
    ミコトが苦々しげに言う、がその言葉の端々に懐かしげな思いが感じられた。
    ふと、エルリスはユナを前にして先ほどまで萎縮していたに今ではそれが
    なかったのを感じ、ミコトに心の中で感謝した。




    「ねえ、ユナ。あんた、バルムンクのこと何か知らない?」
    料理を食べ終え、横に置かれた棚へ空になった皿を置いたところで
    ミコトの問いに答える。
    「バルムンクの居場所とか?」
    「うん、できれば。
    あんたバルムンクやアルテと通じるものがあったじゃない。
    どう?」
    数秒考えたのち
    「確かに私とアルテ、バルムンクには通じるものがあった。
    けど、それは私たちがが持つ異能の原因が同じだったから。
    そう、ただ単に同じ境遇だっただけ」
    「・・・そっか、なんかバルムンクがあんたやアルテと話してるとき
    仲間外れにされてるみたいで気に入らなかったのよ。
    大人気無いわね」
    と、そういったときのミコトの言葉に微妙な違和感を感じ
    なんとなく思ったことを尋ねてみることにした。
    「ねえ、アルテって女の人?」
    「ええ、そうよ」
    「じゃあ、バルムンクって男?」
    「ええ、そうよ」
    「ミコトってバルムンクが好き?」
    「ええ、そうってんなっあああぁ!?」
    (うわ、分かりやすい反応)
    本当に些細な疑問なのだが、ここまで反応するとは思ってはおらず今まで散々、
    修行と称して虐められてたが、思わぬところから弱点を握ることになった。
    そして、ミコトはうろたえながらも話を打ち切るべく
    ワザとらしく咳をし、話題を変える。
    「ゴホッ!!そっ、それは置いといて。ユナ、厄介なことになったわよ」
    「何が?」
    「聞いた噂じゃ王が騎士団をこっちに向かわせる気らしいわ」
    「なっ!?」
    さすがに、この言葉にユナも言葉を失う。
    だが、エルリスには王国の騎士団が動くということが何を意味するのか
    いまいち理解できなかった。
    「騎士団が?ここに来るってまさか・・・竜?」
    「でしょうね。王城で大騒ぎらしいわ。
    『フォルスが竜に襲われた。次は王都かも知れない』とね。
    どうする?」
    挑戦するように確認を取る。この少女が取る道なんて決まっている。
    「決まってるでしょ。私の責任なんだから竜族に迷惑はかけられない」
    「言うと思った。でもどう読む?」
    「竜相手に正攻法で来るとは思えないから―」
    「ちょっと、待って何の話?」
    いままで、置いてけぼりを食らってたエルリスが会話に割り込み説明を求める。
    けれど、二人も『自分たちの責任』であり、他人に迷惑をかけるのは
    不本意だった。
    そのまま、この姉妹をどうするか悩み、やがて、
    「いいわ。残りの三人が帰ってきたらある程度は説明するわ。
    それを聞いてどうするか決めなさい」
    「いいの、それで?」
    「決めるのは本人でしょ。それに私自身がそうだったから止める気には
    なれないわ」
    ふと、ユナは出会った当初、なんの関わりあいもなかったこの人物が
    無理やりついてきたときのことを思い出し、笑う。
    「そうだったわね」





    「さてと、まず何から言えばいいかしら?
    とりあえず、騎士団と王国についてから始めさせてもらうわ。
    二人も王国の異種族差別については聞いてるわよね」
    「たしか、王都の方で獣人やエルフまでもが迫害を受けてるってことだよね」
    「そう。吸血種や魔族なんかは害があるから仕方がないけど、
    獣人やエルフまで異端として迫害してるのはどう考えてもやり過ぎだわ。
    で、この騎士団の遠征も結局は異端狩りなの」
    「ふーん、この街にレジスタンスでもいるの?」
    王国に対して敵対行動を示しているのといえば飛空艇を襲った獣人たちの
    レジスタンス。たしか、名前は『フェニックス』で、
    他にも『べヒーモス』『リヴィアタン』っていうのがいた筈である。
    「そういうわけではないの。
    この街に来た日の夜のこと覚えてる?」
    「ユナさんを連れて帰ってきたときのことだよね」
    「ユナでいい。
    それでそのとき火事が起きたでしょ。
    それが今回の事件の発端。
    襲ったのは竜」
    「竜!?」
    「そうなのよね。不干渉であるはずの竜が王国を襲い、
    しかもこの街のさらに東に向かったところには世界でも最大級の
    火竜の巣、通称『クリムゾンバレー』があって、そこから来たのでないか
    と言われてるの。おかげで、王国がその報復に来るつもりらしいわ」
    「そして、一番問題なのがそれが誤解だということ」
    「誤解?」
    「ん〜。ユナの、赤き竜サラのことはどう伝わってる?」
    「確か、紅蓮の使い魔を駆る魔女だっけ」
    セリスが答えがもっとも知られている答えだ。
    実際に見たものがほとんどいない所為でシンクレアの噂は信憑性が低い。
    大体、話を盛り上げるために吟遊詩人なんかが創作した部分が
    組み込まれているが、そのほとんどに共通してるのがこれ。
    炎に関わる使い魔を従えた紅蓮の魔女。
    ただ、炎は合ってるけど実際は魔女って感じではなかったな。
    「まあ、そんなところね。
    じゃあ、その使い魔は?」
    「えっ、えーと。何だっけお姉ちゃん?」
    「蜥蜴とか、炎の鳥とか、炎そのものとかいくらでも言われてるけど、
    炎と蜥蜴だからサラマンダーの使い魔でしょ」
    (でも、これって先生が言ってたのの受けおりなんだけどな。
    そのあと、そのサラマンダーって言うのが良く分からなかったから先生に
    聞いたっけ)
    サラマンダーは魔術師に炎の精といわれている精霊だが、普通の精霊とちがい、
    何故か実際にその姿を見たものは多く、それを捕まえたと言う噂も多い。
    もっとも、捕まえても直ぐに消えてしまい精霊ではなく妖精ではないかとも
    言われている。
    結果、サラマンダーは意思を持った炎、炎に宿った意志そのものを指すことが
    多く、基本的に見られる姿は炎の蜥蜴である。
    「ふーん、なるほどね。火蜥蜴ね。
    まあ、間違ってはないけどあってもないわ」
    「じゃあ、何なの?」
    「これよ」
    そういって、ユナが手のひらに乗るぐらいの大きさの翼の生えた白い犬のような、
    蜥蜴のようなものを出す。
    「何これ?犬?蜥蜴?」
    「でも翼が生えてるよお姉ちゃん」
    「そうね。犬に翼って生えてたっけ?」
    「んなわけねーだろ」
    犬の獣人たるクロアが呆れながら答える。
    「だよね。じゃあ、これって」
    「竜よ」
    「・・・・えっ?いや、竜って―」
    「もちろん本物ではないわ。
    使い魔というのが一番近いらしいけどそれとも違うみたい。
    で、コイツらがこの事件の犯人よ」
    「もしかして・・・ユナが言ってた責任ってそういうこと?」
    「そうよ」
    つまり、この竜のような使い魔が暴れて、それを王は竜が責めてきたと
    勘違いしたわけか。確かにそれならば誤解だ。
    「なるほど〜。
    じゃあ、誤解なんだから騎士団の人たちを説得すれば解決するんだね」
    「ところがそうもいかないのよね。多分」
    「どうして?
    誤解なんだから、襲ってくる危険もないしわざわざこんな自ら火の中に
    飛び込むようなことする必要ないじゃない」
    「それよ、そこが違うの。
    竜が襲って来るという危険から騎士団が動いたわけではなく、
    竜の襲撃は王族にとってはただの大義名分。
    王国は『クリムゾンバレー』の竜を討伐する気だわ」
    「なっ!?」
    竜の討伐?
    竜族は何もやっていないのになんでそんなこと?
    いや、そもそも
    「この世界最高の種族である竜に喧嘩を売って勝ち目なんて有るの?」
    「まあ、普通ならそう思うわね。
    でも、勝ち目もない戦いを王族がやるとも思えないし
    負ければ王国が滅びかねない。
    だから、力ずくでも止めなきゃならない」
    「ミコトたちは大丈夫なの?」
    「そりゃあ、いくら王国の英雄といっても王自身とは面識ないし
    面識の有る女王様はもう死去しちゃってて、王女様のほうは国王が
    その権力を全て握ってるから、捕まれば下手をすれば反逆罪に問われるで
    しょうね。
    でも、ユナは行く気だし、私だけ逃げるなんてご免だわ」
    ・・・強い。これが王国の英雄。
    ついていけば、私たちは今まで以上に危険になるだろう。
    でも―
    「「私もついていく」」
    と、つい口から出た声が重なった。
    隣を見ればセリスが同じようにこちらを見て、笑う。
    そっか、セリスも同じなんだ。
    「いいの?そんなことすれば王国に狙われるかもしれないわよ。
    そうじゃなくても教団や教会に狙われかねないのに」
    「構わない。私たちが自分自身で決めたことだから」
    「うん。それにミコトだってそれは同じでしょ?」
    セリスの言葉にミコトがおかしそうに笑い出す。
    「はははっは。本当、あんた達似てるわ。
    そこまで言うなら私は止めない。
    あんたたちの信じる道を行きなさい」
    「ありがとう」


    「じゃあ、話を戻すわよ。
    王国が騎士団をこちらに向かわしたけどそれだけで
    竜を落とせるとは思えない。まだ、何かある気がするわ。
    あんた達はどう思う?」
    と、今度はフィーアとクロアに向かって言う。
    「王国・・・アイゼンブルグが技術提供して何かの魔化学兵器でも持たせる気かしら」
    鉄甲都市アイゼンブルグ。
    王国内で独立して存在する技術都市の名だ。
    この都市が作る出す武器や機械は他の国でも有名で他国からも
    多くの人がここを目当ての訪れるそうだ。
    「アイゼンブルグの作る兵器はすごいものだけどそれだけとは考えにくい。
    かといって、騎士のほとんどに竜殺剣を持たせてるなんてことは
    さらに非現実的だしな」
    あれ、騎士だけ?
    魔術師とかはいないのかな?
    「ちょっと、いい?」
    「なに?」
    「うん、思ったんだけど騎士団だけじゃなくて教会とか協団も関係してるのかな」
    「えっ!?」
    「あっ!?」
    「そうか、教会があった。
    あれだって異端嫌いには変わりはないから動くかもしれない」
    「でも、残念だけどそれはないと思うわ。教会の代行者たちは魔術都市から
    動いてはいないそうよ」
    そっか。まあ、ただの思いつきだし。
    「協団、教会、今まで険悪だった両者が共に動いてる?
    王国が介入、何故?どうやって?
    亀裂の原因は封印指定のアーティファクト・・・兵器!?
    竜をも殲滅するモノ・・・
    まさか―、オーパーツ」
    「ミコトどうしたの?
    ・・・また、何か思いついたの?」
    「ええ、最悪なのをね。突拍子もない考えだけど、
    王国の切り札は封印指定のアーティファクトかもしれない」
    「・・・根拠は?」
    「あれほど険悪だった協団と教会が仲直りするなんてどう考えてもおかしい。
    どこかが・・・たぶん王国が間に入ったんだと私は睨んでる。
    もっとも、関係が修復したようにも見えないからあくまで利害が
    一致しているだけの関係だと思う。
    ただ、そうすると代行者が学園都市にいるまま動かないのは不自然なの。
    学園都市には教会の者が意味もなく長居する必要もないし、
    学園もそれを快くは思わない筈。
    そう、まるで何かを守っているみたいじゃない?」
    「・・・噂で聞いた事がある。
    かつて大陸1つを焼き払ったという兵器。
    そこまでいかなくても山1つ吹き飛ばせる破壊力があれば十分ということね」
    「賭けるには分が悪い気がするけど、どうする?」
    「・・・行って。
    前の召集のときにアイゼンブルグの科学者が協団に多く来てた。可能性は十分
    有る。こっちは4人で何とかするからお願い」
    「分かった。エルリスたちをよろしく。
    行くわよ、フィーア」
    「ええ、杞憂だといいんだけどね」
    なんか思ってたよりもとんでもないことに巻き込まれたみたい。
    でも、自分で決めたことだ。
    腹をくくろう。


引用返信/返信 削除キー/
■173 / inTopicNo.3)  蒼天の始まり第十二話@
□投稿者/ マーク -(2005/04/01(Fri) 21:36:42)
    2005/04/01(Fri) 21:37:13 編集(投稿者)

    『竜』



    ―ザッザッザザザーー!!
    「戻ったぞ」
    「お帰り〜」
    街まで様子を見に行ってきたクロアが戻ってきた。
    ここは世界でも最大級と言われる火竜の巣。
    『クリムゾンバレー』と呼ばれる大渓谷の入り口に当たる場所である。
    敵は人数が多いから、地の利を生かし先に回り込んで罠を仕掛けておくという
    ことになり、ここで騎士団が来るのを待ち構えていた。
    もっとも、ミコトの言ってた兵器の危険性もあるから竜の集落からはかなり離れた位置だ。
    幸いこの先は切り立った崖のおかげで一本道になっててあまり不都合は無い。
    「ああ、ただいま。
    なあ、俺たちこうしてるとまるで恋人同士っていうか夫婦みたいにみえないか?」
    「セリスは近づかないほうがいい。
    触ると妊娠するから」
    「ふえ、そうなの?」
    そういって、クロアも元に行こうとしたセリスをユナが止める。
    うん、セリスにあまり近づかないほうがいいと忠告してくれるのは
    とてもありがたい。けど、ただでさえセリスの知識は偏ってる上に
    間違った知識も多いのだからできれば、これ以上出鱈目を教えないで欲しい。
    セリスは単・・・純粋なんだから。と、エルリスが思っている間にも
    クロアとユナの掛け合いは続いていた。
    「待て、そりゃどういう意味だ。一体俺をどう思ってやがる?」
    「そのまんまの意味。それ以外にある?獣」
    ちなみに、ユナがいったのは、けものではなくけだものである。
    たった一文字多いだけでかなり変わってくる。
    「ぬお!?エルリス、お前なら分かってくれるよな?」
    「大丈夫、安心して。
    フィーアが帰ってきたら全部伝えておけばいいんでしょ」
    「やめてくれ・・・やはり俺の心のオアシスはセリスのみ―」
    クロアがまさに絶望の淵に立ったかのようにうな垂れ、
    最後の砦、セリスへと顔を向けるが、
    「ねえ、お姉ちゃんクロアみたいなのを『節操なし』って言うんだよね」
    「そうよ。良く知ってるわね」
    「えへへ、ミコトに聞いたんだよ」
    現実はあまりにも無常だった。
    「うわ〜〜〜!!!??セリスまで穢れてしまっ―
    「いい加減にしてくれない」―すいません」
    まあ、こんな感じでこんなところにいる割には平和だった。


    帰ってきたクロアと共にみなで昼食を取り、王国の動きを聞く。
    当然料理の仕度は私がすることになるわけだが、その時のユナの視線が怖かった。
    最初に手伝ってもらった時、ミコトが言ってた通り真っ黒な炭のようなものの
    塊だけが創られた。
    おかげで手伝って貰った方が仕事が増えそうなのでそれ以降は断ってる。
    だが、私が料理を作るたびに「不公平・・・なんで私は・・・・・・ちゃんに手料理を・・・」という感じでぶつぶつ言いながら何か怨念でもを込めたような視線でこちらを
    見てくる。
    はっきり言って怖い。マジでコワイ。ほんと勘弁して欲しい。
    「クロア。街の方は?」
    「ああ、それなんだが街の方に騎士団が来たなんて噂はなかったぞ。
    けど、血なまぐさいやつらが妙に集まってたな。
    かなり呪詛が籠められた血だ。しかも一匹、二匹の匂いじゃねえ」
    「一匹って獣人いえ、人の血ではないのね」
    「ああ、かなりの量だが獣人が多いな。胸糞わりい」
    「なるほどね、流石に王も足元に火がつくのは恐れたか」
    「どういうこと?」
    「そいつらが王国の討伐部隊よ。
    おそらく存在するはずのない部隊、王国騎士団第0番隊。
    まあ、そんな呼び方するやつはほとんど居ないから
    『ファントム』って呼んでるわね」
    「それって何ですか。ユナせんせ〜」
    セリス、雰囲気ぶち壊しだから。せめてその間延びした声は止めといて。
    「『ファントム』王国の影の部隊。
    王の私兵という事になってるらしいけど一番多い仕事は王都内の異端狩りね。
    こいつらのせいで王都には獣人、エルフは一切いないといっていい。
    さすがに竜に喧嘩売るなんて世間に知られれば反乱でも起きかねないから
    正規軍を使わなかったのだと思う。
    まあ、予想通りね」
    「そいつは幸か不幸か、どっちだろうな?」
    「さあ?でもおかげで最悪、殺しちゃってもいいけど」
    「殺してもってそんな・・・」
    今までと違って戦うのは同じ人間。
    当たり前のことなのだがそれでも殺すというのは抵抗がある。
    「いい?この部隊の人はみな社会的の死んでいる者たちよ。
    言ってる意味分かる?」
    「えーと」
    「それって犯罪を犯して死刑にされた人とか、
    世間では死んだことになってる人ってことでしょ?」
    ああ、なるほど。そういうことか。
    こういうときはセリスのほうが頭が回る。
    「その通り。王国に引き渡された賞金首なんかが司法取引として
    この部隊に所属してるわけ。表向きは死んだか、逃げられたかにして」
    「つまり、この部隊の人はみんな犯罪者だから殺しても構わないってこと?」
    「ちょっと違う。これらは既に死んでいる人ってこと。
    確かに賞金首は生死問わずだから殺しても罪には問われないから、
    どちらにしろ殺しても罪に問われることはない。
    もっとも、あるはずのない部隊の邪魔をしたところで王国が私たちを捕える事は
    出来ないのだけど」
    でも、社会的に死んでると言っても生きてることには変わりはない筈。
    「言ってることはわかった。
    でも、できる限り殺さないようにするぐらいはいいでしょ」
    「何言ってるの?当然でしょ。
    賞金首なんだから殺さなくても動けなくして王国の影響の少ない店にでも
    連れてけばそのまま賞金を貰えて、そいつらは牢獄行きか死刑。
    死んだはずの者なら王国の弱みにもなる。
    そう、半分も落とせば一時的だけどこの部隊は壊滅すると言ってもいい。
    私はただ、殺しても後に問題にはならないと言ったの」
    ・・・そういう問題なのか。


    「さて、作戦を確認するわ」
    「作戦というほどのものでもないと思うけどな」
    と、途中で口を挟んだクロアが頭から血を流しながら地面に転がる。
    その近くにはまるで吐血でもしたように大量の血が口の周りについた状態の
    ユナの使い魔が飛んでいた。間違いなく命じたのはユナである。
    この数日でユナ・アレイヤに対する認識は当初とかなり変わった。
    初めこそ、これこそが王国の英雄。とエルリスも思っていたが結局その幻想も
    また儚く砕け散ったのである。
    獣人ならではの治癒能力か、かなり早く復活したクロアを含め、話を続ける。
    「私たちは今、谷の入り口に当る部分にいる。
    王国のほうからこの谷に入るにはこの入り口を通る以外に方法はなく、
    わたしたちはここで待ち伏せし、騎士団を迎え撃つ。
    私の使い魔が迎撃にまわるけど念のため、クロアとエルリスも待機してもらう。
    入り口には私とセリスで結界を張っておくから、抜けられても大丈夫だけど、
    私たちは結界を張るために動けなくなるからそのつもりで」
    つまり抜けられればそれだけユナやセリスが危険になるわけだ。
    気をつけよう。
    「オッケー」
    「分かったよ」
    「任せとけ」



    「おっ、来た来た」
    騎士団を最初に発見したのは当然だが最も視力のいいクロアであった。
    谷の入り口はちょうど丘のようになっていて騎士団が来たのがよく分かる。
    かなりの数だが、騎士団と言うからごつい鎧を全身に着込んでいると思ったが
    そうでもなく。むしろ、目立たぬためかかなり軽装であった。
    顔の辺りは全員、布で隠されている。
    騎士隊が来たということはどうやらミコトの心配は杞憂だったようである。
    「アレって本当に騎士団なの?」
    「そう。騎士団と言っても非公式の部隊だし目立つ格好は控えてるのだと思う。
    クロア、準備は出来てる?」
    「まあ、見てなって」
    そういって、騎士団がある地点に差し掛かったところで、クロアが指を鳴らすと
    共に騎士たちの立つ地面が爆発した。
    クロアのマーキングをあらかじめ騎士の通る道に仕掛けておいたのだ。
    数を稼ぐため規模は小さめだが行動不能に追い込むには十分だった。
    30近くの爆発が続き、ふいに止む。
    「あれ、もう終わり?」
    「無茶言うな。獣人の魔力は人に比べて少なめなんだ。
    念のため残して置かなくちゃならないし、これでも俺は多いほうなんだぞ」
    獣人は高い身体能力の代わりに魔力を利用するすべをほとんど持たず、
    持つ必要もない。
    高い身体能力、治癒能力を持つため魔術に頼る必要がないからだ。
    そのため、獣人は魔術というものを持たず、魔力も低いのが普通である。
    「2割ってとこね。あとは直接やるしかない。
    行って、ニール、アル」
    ユナの使い魔である2匹の竜がが実体化し、その巨体が空へ飛び上がる。
    竜は一直線に騎士に向かいその猛威を振るう。
    はっきり言ってそれだけでも壊滅できそうな勢いである。
    騎士たちも現れた竜に対して対応するが一方的な戦いだ。
    「どうなってやがる?」
    「なにが?」
    「竜を倒すために来た筈のやつらがたった2匹の竜に苦戦してるなんて
    おかし過ぎる」
    確かにその通りだ。でも実際、騎士団に対して圧倒的な力を見せている。
    「ユナの竜の力が予想以上だったんじゃない?」
    「そりゃ〜、おかしいぜ〜」
    「なっ、何が?」
    「いくら使い魔って言っても〜形は真似できても
    中身は真似できないモンなんだ〜。
    だが〜、確かにあれには竜に近い力があるな〜。
    あれって、ホントに使い魔か〜?」
    なるほど。使い魔であるマオの言うことならその通りなのだろう。
    だが、やはり猫に負けるのはすごく悔しい。
    「私の使い魔は確かに普通じゃない。
    だから、アレは竜そのものと考えてもいいわ。
    でも、あくまで竜と同じ程度だから、たった2匹の竜に苦戦するのは
    やっぱりおかしい。
    まだ何かあるのかも」
    何か・・・さすがにこの状況でミコトが予想していた兵器はありえないだろう。
    なら、何が?
    「なんだ、あれ?」
    そういって、クロアが見上げるのは街の方から来る大きな影。
    大きい。獣人や吸血鬼とはあきらかに大きさが違う。
    まるでアレは・・・
    「竜・・・」

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■174 / inTopicNo.4)  蒼天の始まり第十二話A
□投稿者/ マーク -(2005/04/01(Fri) 21:40:20)
    『銀の月』


    「なんで、竜が・・・」
    「とりあえず、様子を見るしか」
    と動揺している間に街の方角から来た竜がユナの使い魔に襲い掛かる。
    竜の口から炎が溢れ、灼熱の炎弾が使い魔に降りかかる。
    二ールと呼ばれた黒き竜の使い魔は巨大な翼で炎を防ぐが
    翼は見るも無残な姿になった。
    だが、すぐさまユナの魔力によって翼は再構成され、元に戻る。
    しかし、これでハッキリした。あの竜は敵である。
    竜が使い魔たちを押さえてる間に騎士団が谷へと向かってくる。
    「クロア、エルリス!!」
    「やっと、出番か!!」
    「任せて!!」
    「二人とも頑張って!!」
    ここから先は通させるもんか!!
    剣を強く握り、魔力を練り上げこちらに向かってくる騎士に向けて、
    真横に剣を振るう。
    練り上げた魔力は巨大な幾つもの氷となり騎士たちに直撃した。
    その隙に、クロアは騎士たちの元に飛び込み1人ずつ殴り飛ばす。
    あの竜が王国の切り札なのだろう。
    アレが何かは知らない。が、谷へ向かわせるわけにはいかない。




    かなりの数の騎士が谷に向かって進んで来る。
    それらを前に、エルリスは剣を両手に持ち迎え撃つ。
    囲まれぬよう気をつけながら、周囲に気を配り騎士たちを倒していく。
    全部は無理でも、できる限り減らしてユナたちの苦労を減らさなくては。
    騎士団の力は高く、数も多い。
    けれど、ミコトの特訓のおかげでエルリスもまた複数の敵を一度に相手に
    出来るようにまで成長していた。
    アノ特訓に比べればこの程度どうってことなく、そうそうへばったりもしない。

    「ハアアァ!!」
    周りにいた騎士の内、最後の1人が倒れたのを確認し呼吸を整える。
    騎士のほとんどは戦場を縦横無尽に駆け回りながら1人ずつ行動不能に
    追い込むクロアに対応している。
    既に何人かの者たちは抜かれたしまったがそちらはユナたちが既に倒した。
    そして、悩みの種である上空で戦うそれらを見る。
    使い魔は今だ健在だが、ユナの魔力がどれほど残っているかは分からない。
    対する竜は1匹も減っていない。
    ―ああ、また。
    竜の炎が今度は白き竜の使い魔アルに放たれる。
    ユナたちを守るためであろう。アルその巨大な翼を広げ、炎を正面から受け止める。
    竜の炎を受け止めたアルの体は瞬時に修復され、
    竜にその丸太の様な太い腕を振るう。
    だが、その腕も爪も竜には効かなかった。
    距離を開き、次は炎を吐く、が竜はその炎を意に介さず、
    炎の中を進んでいき鋭利な爪を振るう。
    先ほどからこの調子だ。
    使い魔の攻撃は一切効かず、一方的な戦いだった。
    だが、竜がアルの爪を受けたとき何かが落ちてきた。
    慌てて落ちてきたナニカを拾う。
    「これ・・・金属?」
    何で竜の体からこんなものがしかもこれって・・・
    「おね〜ちゃ〜ん、どうしたの〜?」
    この金属のことを報告したほうがいいと思うけど、
    クロア1人で大丈夫だろうか?
    ・・・まあ、クロアなら大丈夫だろう。



    「ちょっと、何でこっちに来るの?」
    「ちょっと、気になるものを発見したんだけど」
    「なになに?」
    「これ」
    そういって、先ほど拾った金属を取り出す。
    「これってミスリル!?
    こんなものどこで?」
    「竜から落ちてきた」
    なぜ、竜の体にこんなものがあるかは知らないが、
    なにか攻略の糸口になるかもしれない。
    「コイツはまさか〜」
    「知ってるの、マオ?」
    「う〜ん、この竜ってテクノスなんじゃないか〜」
    「テクノス?」
    「テクノス。
    生物に機械を埋め込み、その体の一部の代行させたりして動かされる
    機械仕掛け生き物のことよ」
    「まさか・・・」
    「謎は解けた。炎はオリハルコンによって遮られ、爪はミスリルの体に
    止められてたってことね。
    なるほどこれなら確かに竜には効果的かもしれないし、
    これ以上いい人形はない。
    けど竜に対するこれ以上の冒涜もまたないわ」
    つまり、あの時あったゴーレムと同じ感じか。
    もっとも、竜の体を使ってるからその力は比べ物にならないが。
    「どうするの?」
    「これがテクノスなら生体部分が有るはずだからそこを狙う。
    けど、私の魔術ではそんな細かいのは狙えないからクロアの出番。
    使い魔でテクノスを地上まで追い込むからクロアの『爆弾』で落とす。
    エルリスはクロアにそう伝えて」
    「わっ、分かった」








    「ウオラァッ!!」
    「ただいま」
    「おそいぞ、どこ行ってたんだ!!」
    クロアが相手をしていた騎士たちもだいぶ数が減っているし、
    戦いは最初よりもずっと楽になった。
    けど、騎士団を全て倒しても、あのテクノスの竜をどうにかしなければ
    こちらの負けである。
    「それより、あの竜の正体が分かったわ。
    テクノスって言う機械の竜らしいの。
    で、ユナが竜を地上まで誘導するからクロアは『爆弾』を竜に仕掛けてって」
    「了解。それじゃあ、それまでこいつらの相手でもしておくか」
    「って、そんな余裕はないみたい」
    「げっ!?」
    そうこう言っている間に竜と使い魔が直ぐ近くまで来ていた。
    アルが機械竜に向け、腕を振り上げ竜を叩き落す。
    「エルここは頼む!!」
    クロアが崖を蹴って大きく飛び上がり、落ちてくる竜へと向かう。
    しかし、地上へと落ちてくる竜はその翼をはためかせ高度を維持する。
    ―届け!!
    無常にも、竜の減速が速かったのかクロアは届かず、再び地面に引っ張られる。
    だが―
    「肩を借りるぞ」
    「はっ!?」
    真横の崖から飛ぶ降りて地面へと落ちていくクロアの頭を踏み台にし
    何者かが竜に飛びかかる。
    「ハアァァッ!!」
    振るわれた剣は竜の首を斬りおとし、首を失った竜は力なく地面へと落ちていく。
    そして、たった今首を絶ち斬った竜の体をクッションにして減速、着地する。
    その人物は少女だった。
    銀の髪、白い外套、幼さの残る顔立ちと小柄な体。
    そして手に握られた、その身長に不釣合いなずっしりとした剣。
    「イッツ〜!!」
    「すまないなクロア。大丈夫か?」
    「いてて。いや、これぐらいどうってことないさ。
    久しぶりだな、アルテ」
    「なっ!?」
    この少女が銀の月アルテ!?
    どう見ても私より年下にしか見えない。
    「なぜだ!!何故、貴様がここにいる!?
    王国第三騎士隊隊長シルヴィス・エアハート!!」
    と、今まで全く口を開かなかった騎士のリーダー格と思わしきものが
    怒りと焦りを露にし、叫ぶ。
    「なに?」
    「シルヴィス?しかも騎士隊長だって?」
    「・・・そうか、あのときの男か。
    王が犯罪者を私兵として雇っていると言うのは本当だったみたいだね」
    「ああ、くそ!!どうなってやがる!?」
    「説明は後だ。サラは?」
    「向こうで結界を張ってる」
    「そうか。ではコレを渡してきてくれ」
    そういって、アーカイバから大きなケースを取り出し、
    クロアに渡す。
    「なんだコレ?」
    「サラへは預かり物さ。
    この竜はテクノスみたいだが、ちょうど良い。
    さあ、行くよ!!」
    「ちょっと、待ちやがれ!!」
    ああ、もう!!どうなってるのよ。
    とりあえず、今は目の前のことに集中するしかない。





    「あれってアルテじゃない!!」
    「アルテって銀の月の?」
    「うん。この事件の原因が私だってことには気付いてたみたい。
    ・・・どうせならバルムンクの方が都合は良かったけど
    この際、贅沢は言ってられないか」
    「お〜い、ユナ〜〜」
    「今度はアイツ?」
    そういって、巨大なケースを抱えながらクロアがユナたちの元に行く。
    「なに?これ」
    「預かり物だってさ」
    「預かり物?」





    「渡してきたぞ。
    で、アルテ。こいつらのこと知ってるのか」
    戻ってきたクロアはアルテと共に残り少なくなった騎士団の攻撃をいなしながら、
    話しあっていた。無論エルリスにはそんな話を聞いてる余裕はない。
    「ああ。私は騎士団に所属しているのだが、お前たちと会ったときとある事情で
    騎士団から出奔していた。
    魔王との戦いが終わった後は騎士団に復帰したのだが、
    こいつらは私が復帰して初めて受け持った仕事で捕まえた者たちだった筈。
    確か、当時のアイゼンブルグの最新技術の成果と保管されていたあるものを
    奪っていった武装集団、ウルカヌス。
    そしてそのリーダー、アストラス・バーニッヒだったかな」
    「なるほどな。テクノスもこいつらの差し金か?」
    「まだ、分からないけどね。っとさすがに手馴れているな。
    もう、準備は出来たのか」
    そういって、空を見上げると一匹の竜が地に向かって落ちてきた。
    見れば竜の体には三つほどの風穴が開いている。
    「形勢逆転だな」




    「すご〜い!!」
    隣からかけられる声を無視し、ユナは弾を装填する。
    両手でやっと支えられる巨大な鉄塊。
    昔、ユナが壊してしまった愛用の銃の1つ。
    電磁銃、サンダーボルトである。
    銃身に雷のE・Cを組み込み、銃弾を電磁力で加速させ、発射する。
    銃弾も特別製の弾丸で使用者の力によっては凄まじい力を誇り、
    製作者によれば、威力だけなら幻想種すらも打倒しうると言う。
    うたい文句は『竜をも落とす』である。
    「次!!」
    引き金が引かれ、銃弾は真っ直ぐ機械竜へと向かい大きな風穴を開けて貫通した。
    同じように、2度、3度引き金が引かれ竜の体に風穴が空き、力なく落ちていく。
    銃弾はミスリルだろうと、オリハルコンだろうと関係なく貫き、
    機械仕掛けの竜を葬った。
    これで形勢は完全に逆転した。




    「竜はサラが始末するだろう。あとはこやつらだ」
    そういって対峙する騎士の数は既に最初の1,2割ほどにまで減っていた。
    逃がしても、竜族はもう安全だろうが後顧の憂いは取り除いておくべきである。
    それに、残っているのは今までの者より一味違う。
    今までと同じと油断をすれば痛い目にあうだろう。
    「そこの少女、名は?」
    「エッ、エルリスです」
    突然、エルリスが声をかけられ緊張しながらも答えを返す。
    「そうか、エルリス。残りの者は今までと一味違うだろう。
    油断しない方がいい」
    「分かりました」
    「では、行こう」


引用返信/返信 削除キー/
■175 / inTopicNo.5)  蒼天の始まり第十二話B
□投稿者/ マーク -(2005/04/03(Sun) 18:42:58)
    2005/04/03(Sun) 18:43:13 編集(投稿者)

    『氷の女王』





    「クソッ!!何故貴様が!!」
    「因果なものだ。再びまみえる事になるとわ」
    騎士団のリーダーと思わしき男、アストと銀の月アルテが剣を交じあわせ
    火花をちらす。
    男は以前負けた記憶があるからだろう。
    余裕のない険しい顔で剣を振るう。
    対照的にアルテの顔は普段通りの、しかし厳しい顔だった。
    アルテは横に、上に振るわれる一撃一撃に重みのある剣を完全に読みきり、
    最小限の力で捌き続けていた。
    振るわれる剣と剣の合間、その一瞬の隙を縫ってまさに神速と形容するに
    相応しい突きを放つ。
    ―ッダーン!!
    今までの経験により培われてきた直感にそって、反射的に体を逸らし、
    今まさに自らの命を刈り取ろうとした凶弾を避ける。
    完全にはかわしきれず、頬から血が流れ、
    男の左手には今だ煙が残る銃が持たれていた。
    突きは弾を避けた際に外れ、男の纏う服を切り裂いただけだった。
    「ほう、この距離で避けるか」
    左手で頬から流れる血を拭い、
    「この程度ならばな。
    しかし、人に注意して置いて自分が油断しては面目が立たない。
    本気を出そう。かかって来るといい」
    「ほざけ!!」


    男と少女が幾度となく剣を交じあわせる。
    男は本来は両手で扱うべき剣を軽々と右腕のみで操りアルテの剣を防ぎ、
    左手に持った銃で距離の開いた一瞬にアルテを狙う。
    両手剣を片手で振り回す目の前の男は尋常でない腕力である。
    だが、それでも銀の月の剣に全て止められ、また押し返されていた。
    男と対峙する女騎士は見た目に騙されれば痛い目を見る。
    現に、男との剣の力もスピードも絶対的な違いにはなっていなかった。
    だが、それでも確実に男の振るわれる剣の重さとスピードは
    アルテを上回っている。
    勝てない理由は絶対的なまでの経験、そして技術の差。
    たかが一国で多少噂になっただけの犯罪集団のリーダーでは
    比べることすらおこがましい絶対的なまで実力の差である。
    それこそが銀の月の異能。
    見た目に、過した時間に矛盾した長い長い年月を掛けて錬磨した熟練の技と知。
    彼女がその身に受け入れる存在の力である。
    男の左手から放たれる銃弾を見切り、ギリギリのところでかわしながら、
    アルテは剣の間合いに飛び込む。
    「ハァァァッ!!」
    裂帛の声と共にアルテは自身の気を剣と両手に集める。
    東洋のみならず、西洋にも伝わる自身の体に宿る気を用いて
    自己を高める気孔術。
    熟練のものならば物質にすら気を通わせ、その力を高めることが出来る。
    そして、気を纏い、渾身の力で剣を振るいう。
    剣と剣が火花を散らし、
    ―ピシッ!
    嫌な音が男の剣から発せられ、剣と剣が離れる。
    すかさず、アルテは続けざまに、一撃目に当たった部位と平行の位置に剣の腹に
    第二撃を叩き込む。
    耐え切れなくなった剣は根元から折れ、その先の無防備な男は
    もはや振るわれる剣を防ぐものはない。
    しかし、それは甲高い金属音と共に阻まれた。
    男は折れた剣の柄を捨て素手になった右手を盾にして剣を防ぐ。
    剣を防いだ部分の服が破れ、その下から銀色の輝きがその姿を覗かせる。
    そして、思い出す。
    アイゼンブルグで盗まれたある品物。
    かつて、魔法文明時にてその名を轟かせたという機甲技師、
    アルバロス・シルバー・アームズの作った最高、そして最強の義手。
    そのレプリカであった。
    中身のほとんどは解析不能のブラックボックスか、現在では再現できぬ技術、
    オーパーツに分類されるもので、これはまだほんのわずかな機能を
    再現しただけの試作品だった。
    それでも当時、ウルカヌスの捕縛よりも奪われた義手の破壊のほうが賞金額は
    高かった代物であり、それだけこれは危険なものなのである。
    アルテが捕縛したときには壊すよりアイゼンブルグに返した方がいいだろうと
    判断し、破壊せずに引き渡したが、今となってはそれが悔やまれる。
    男は義手を盾にして剣を防ぎ、後ろに飛ぶ。
    それを追うようにして進むアルテに向けて、銃を左手から右手に移し、
    右腕をアルテへと向ける。
    アルテは顔を目掛けて迫る銃弾を見切り、首を傾けるだけでかわす。
    だが、顔に向かってきた一撃の所為で他のことに注意がまわりきらなかった。
    右腕の義手の一部から銃弾が飛び出し、剣を握る右手の甲に掠る。
    痛みに顔をしかめ剣を落とし、素手になったアルテを見て好機と判断した男の義手からナイフが飛び出して先端のナイフごと腕を突き出す。
    ―ドッ!!
    二つの影が重なり、刃が胸を貫き、背中からその刀身を覗かせた。
    「また俺の負けか・・・」
    そう、赤き血を刀身から滴らせながらも銀に輝く短剣が。
    アルテは左手で外套の下、腰の辺りに仕舞われていた短剣を抜き、
    男の腕よりも速く、その剣を胸へと突き出していた。
    短剣は正確に心臓を一突し、男の胸から剣を抜くと男は力なく地面に倒れこんだ。
    倒れこんだ男を一瞥すると、血を払うようにして短剣を振るい鞘に戻す。
    そして右手の具合を確かめる。
    掠っただけとはいえ、剣のキレは幾分か落ちるだろう。
    だが、悠長に治療などしてる余裕もなく傷口に軽く布を巻くだけで、
    左手で長剣を拾い騎士たちの元へと向かった。








    「てええいっ!!」
    人を相手にする始めての戦い。
    今までのような人にあらざる者を相手にするのとは勝手が違う。
    なにより、人を殺すということはまだエルリスには重い。
    そして長時間の戦闘、長い長い『殺し合い』によって体力以上に、
    精神力を疲労していた。
    精神が疲労すれば、集中が乱れやすくなる。
    それはつまり、周囲の認識力の低下を意味し、その結果、
    ――後ろ!!
    後ろにいた騎士が大きく振りかざした剣をすんでのところで受け止める。
    エルリスの集中力も、もう限界に近い。
    部隊を統率するものはアルテが相手しているため、今までのように
    集団としてまとまった動きはしていなかったがその分、
    残りの騎士がエルリスとクロアに集中してしまっている。
    ―不味い。
    エルリスの額を嫌な汗が落ちる。
    相手の騎士はこのまま力任せに押し切ろうと剣に全体重をかけている。
    しかも向こうは男でこっちは女。
    このままでは剣をいずれ剣を抑えきれなくなり真っ二つにされるだろう。
    一か八か、両手で支えていた剣を逸らす。
    逸らされた剣に沿って、襲ってきた騎士の剣はそのまま地面に突き刺さった。
    だが、騎士は手に持った剣を捨て剣を杖のようにして立ち上がろうとする
    エルリスに身体からぶつかる。
    吹き飛ばされたエルリスの目には、剣を拾い今まさに振り降ろそうとする
    騎士の姿が映った。
    死―
    「お姉ちゃん!!」
    ―セリス。
    そうだ。こんなところで死んでたまるか!!
    自らの意志でこのようなことをすることなど初めてだ。
    こちらから身体を明け渡すのだ。
    もしかしたら、もう戻れないかもしれない。
    ―だが、それがどうした!!
    こんなところで死ぬくらいなら、たとえどんなことだろうと
    最後まで足掻いてみせる!!
    「目覚めなさい!!」
    自身の中に眠る存在に向け叫ぶ。
    振り下ろされる剣を見つめながら
    私の意識は途切れた―
    「―グアアァァァッ!!」
    男の悲鳴と共に、振り下ろされる剣が止まる。
    男の肩の辺りが氷で覆われ、今まさに振り下ろそうとした腕が止められた。
    氷は徐々に広がり、男の体を覆っていく。
    そんな男を気にせず、エルリスは静かに立ち上がり、男を覆う氷は全身に広がり
    男は氷の彫像と化した。
    そして、剣を掲げ、まるで歌うようにして言葉を紡ぐ。
    「『汝が犯せし罪、我が世界で贖わん。
    愚かなる咎人に、捌きの鉄槌を下せ。
    未来永劫、けして溶けぬこの地にて、
    我が痛みを知れ、我が怒りを知れ、
    その罪を知れ』」
    最後の言葉が紡がれ、世界が変わる。
    「『コキュートス』」
    一言で言えば異界。
    今までいた谷が一瞬にして氷で覆われ、雪が降り注ぐ。
    そこらに倒れ付していた騎士たちは氷の上で静かに眠っていた。
    「この世界はまさか!?」
    「なんでこれを!?」
    別々のところから発せられた声は共に、疑惑と緊張を含む
    どこか焦るような声だった。
    そして、その異質な世界を生み出した張本人はその極寒の
    世界の中で静かに立ち謳う。
    「『深き眠りに誘われ
    穏やかなる終わりを望みし者よ、
    神々の創りし氷の精の名において
    汝が終焉を弔おう』
    『アイスグレイブ』」
    紡がれた言葉は力となり、この氷の世界にて現れた。
    空に浮かぶ巨大な氷の塊。
    空を飛ぶ機械竜を一回り上回る氷が残る数匹の竜の上空に出現し、落ちる。
    機械竜はその巨大な氷に押しつぶされ、地面へと叩きつけられて
    その活動を停止させた。
    その巨大な氷の立つ様はまるで弄ばれた竜に対する墓標のようだ。
    そして、大きさこそは違うものの人を押しつぶすには十分な氷の墓標が
    同じように空中に無数に現れ、雨のように騎士たちに降り注ぐ。
    氷はユナたちを綺麗に避けながらも、騎士たちへと乱雑に降り注ぐ。
    多くのものは直撃こそしないものの、地に落ちた際に砕けた大粒の氷の塊に
    襲われ、倒れ付した。
    そして、この世界にて動く敵がいなくなると役目を終えたかのようにして
    少女もまた倒れ伏す。
    同時に谷を覆っていた氷はガラスが砕けるように散り、
    降り注いだ雪は溶けるようにいて消滅した。





引用返信/返信 削除キー/
■176 / inTopicNo.6)  蒼天の始まり第十二話C
□投稿者/ マーク -(2005/04/03(Sun) 18:44:25)
    『マナクリスタル』




    「お姉ちゃんは?」
    「気絶してるだけみたいだ」
    セリスたちはとりあえず生きていた騎士たちを縛り上げ、
    看病してもらっていたアルテの元に駆け寄った。
    セリスも姉、エルリスからある程度は聞いていたとはいえ、
    初めて目の当たりにした
    あの力に驚いていた。
    そして、その存在を自分の所為で姉が背負っていることに
    セリスは気付いていた。
    また、エルリスがそれを知られないように嘘をついている、
    姉の優しさも分かっていたからこそ知らぬフリを続けていた。
    だからkそ、セリスは自分の魔力のことなんかよりも精霊のこと、
    バルムンクに会うことを優先させていた。
    「まっ、これでひとまず一件落着だな」
    「・・・・・」
    「どうしたんだ?ユナ」
    「ユナ?まさかユナ・アレイヤ?」
    シンクレアはお互いに名を知らなかったらしい。
    それを姉から聞いていたことを思い出し、
    アルテがサラの正体に驚いていることを理解した。
    「そうよ。で、ミコト・・・じゃなくてシリウスの勘が外れたんだけど」
    「シリウスの勘が外れたというのは変だね」
    アルテたちのいう感じではミコトの勘というのはほとんど外すことが
    ないという風に聞こえる。
    確かに、ミコトの勘は妙に冴えていたがそれだけでここまで信用して
    いいものなのだろうか?
    そんなセリスの考えを無視して、話は進められる。
    「それで、念のため聞きたいんだけど。
    このあたりに、この谷一個を吹き飛ばせるようなSクラスの
    オーパーツはある?」
    アルテはその豊富な知識と経験でシンクレアを幾度となく救った。
    その所為で、アルテは吟遊詩人では妙齢の女性、下手をすれば
    異種族の長寿の女性といわれることもあった。
    もっとも、異種族という話は今の王国の異種族差別の所為で
    今ではほとんど聞かされなくなった。
    ミコトもアルテの年と経験の矛盾に疑問を持ち、エルフではないかとも
    疑ったりもしたがそれはまた、別のお話である。
    「少し待ってくれ。・・・そうだな、確かに1つある。
    だが、これは―」
    「これは?」
    「不味い」
    そういって、今にも駆け出そうとするとユナが腕を掴む。
    「どういうこと?こっちは竜の巣よ?」
    「急がないと不味い。聞きたいならついて来てくれ」
    そういって、アルテは手を振り払い駆け出した。
    「ああ、ちょっと!?
    ―まったく!!セリスも乗りなさい」
    そして、ユナは使い魔を出してエルリスを竜に乗せ、セリスに声をかける。
    「えっと・・・」
    「早く!!」
    「ハッ、ハイ!!」
    慌ててセリスが竜に乗り、
    「俺は?」
    「先行くわよ」
    「ああ、待て!?」
    クロアを置いてアルテを追いかけた。







    「で、どういうこと?」
    先に出たアルテの右隣にはユナたちが、左隣にはクロアが追いつき、
    定員オーバーであるためもう一方のユナの使い魔が出されそれに飛び乗る。
    「あるにはあるがそのオーパーツの動力が問題なのだ」
    「動力?」
    「そう。動力はM・C(マナクリスタル)」
    「って、まさか!?」
    「もしかしたらあの騎士隊は囮。本命はマナクリスタルの奪取かもしれない」
    「・・・・でも、M・Cなら協団にも保管されている筈」
    「そう。だが、これはM・Cが多ければ多いほど出力が増える。
    それにこのまま撃ってはここにあるM・Cも失われるだろう」
    「・・・こっちを撃ってこないのはM・Cがまだ奪取できてないから?」
    「そう考えたいけれど・・・」
    そして、今までより拓けた場所に出る。
    「遅かった・・・」
    見渡せば、周りに竜や人が多数倒れている。
    それが人に化けた竜か、王国の人間かは分からない。
    しかし、囮はユナたちの妨害で囮の役目をこなせなかった筈。
    ならば、ならばここに住まう竜族全てを相手にしたことになる。
    まともに考えればそのようなこと出来るはずがない。
    だが、それは現実に起きていた。
    「グッ、何者だ・・」
    谷に掘られた穴から体を押さえながら現れる老齢の男。
    「この谷の長だ」
    竜は人の姿を真似して、暮らすものもいる。
    そして、その姿は実際の年齢、力とは比例しない。
    だが、それを一目で分かったユナとアルテはいったい何者なのか?
    さらなる疑問がセリスの頭に浮かんだ。
    「今代の剣の王です」
    「同じく竜の王よ」
    「・・・なるほど。その身に宿りし人にあらざる力はそれゆえか」
    剣の王、竜の王・・・それが何を意味するかセリスは勿論クロアも
    そして、今はいないミコトも分からないことだ。
    だが、なぜかセリスは自分でも不思議なほどすんなりとその名を
    受け止めた。
    「M・Cは?」
    竜の長は静かに首を横に振る。
    「そう・・・ですか」
    「申し訳ありません」
    そうして、アルテは王女に王の愚かな行為を止めるように頼まれていた。
    だが、それを止められなかった自分の無力さを悔やみ
    竜の長に深く頭を下げる。
    「お主が何故謝る?」
    「えっ、私は王国の・・・・」
    予期せぬ言葉に困り、何を言うべきかと返答に吃する。
    「うっ、くっ。
    竜を襲ったのは・・・魔族だぞ?」
    「なん・・・だと?」



引用返信/返信 削除キー/
■177 / inTopicNo.7)  蒼天の始まり第十三話@
□投稿者/ マーク -(2005/04/04(Mon) 05:09:02)
    『オーパーツ』





    「どう?」
    「全然駄目」
    金の体毛に覆われ、真っ白な翼を持った虎のような動物と
    それに乗る少女が会話する。
    場所は魔術都市の外周部。
    フォルスから一直線に飛び続け、といっても途中で休憩と仮眠も取り、
    夜が明ける前には着いたわけだが
    「あんまり見えないし、やっぱり夜が明けるの待ったほうがいいか」
    「そうね」
    辺りを見回し、魔術都市の外側の方向に浮かぶ月を見る。
    「あれ?今日って満月だったっけ?」
    ―もしそうならば、今頃エルリスたちは大変だろうが。
    「何言ってるの?ほら」
    そういって、そのほぼ反対方向の空を首で示す。
    つられて見てみればもう直ぐ沈むであろう三日月が見える。
    「じゃあ、アレは?」
    そういって、空に浮かぶ満月を見る。
    良く見ればあきらかに大きさが違うし、近過ぎる。
    「怪しいわね」
    「でも、一体なん―」
    そういい終わるより先に、奇妙な月に向け、巨大な光が向かう。
    その光は月に当たると反射するようにして、空を向けられた光が
    地上へと方向を変えはるか彼方に向かって進む。
    そして、一瞬遥か先で大きな光が見えた。
    距離を考えればその光はとてつもない規模だ。
    方向はやって来た竜の谷ではない。
    方角的には王国と連邦の間の辺り。
    そこで思い当たるものは1つ。
    純粋に真祖の血を受けし、ただ1人の真祖の眷属が、
    そして、そこにさえいれば吸血衝動を抑えることが出来るということで
    数多くの吸血鬼が住まう吸血都市、バロニス。
    ミコトは代行者が動いた理由が分かった。
    なんのことはない、教会の怨敵である吸血鬼の住まう街を
    焼き払うのに教会が手を貸さないはずがないのだ。
    そして、協団にしてみればこれはテストだろう。
    実際に使用しなければその力など分かる筈がない。
    だが、このようなものを使う丁度いい目標も機会もない。
    そして、このようなものを表に出せば狙われかねない。
    だから、目標を異端の住まう場所にすることによって
    お互いの利害が一致したからこそ協団は教会と王国という
    護衛と協力者を手に入れ、教会と王国は最高の武器を手に入れたのだ。
    「ぶっ壊すわよ。フィーア!!」
    「当然」
    ミコトとフィーアは全速で光の照射されたところへと向かった。



    目標の置かれていた場所は比較的わかりやすいものだった。
    まるで祭壇の様に築かれた山の頂上に置かれていたが、
    山と言っても傾斜がほとんどなく、歩いて上れるような場所でもなかった。
    当然のことながら、目的地にはかなりの数の代行者が集まっている。
    が、ミコトが予想していたほどではなかった。
    おそらく、他の者はバロニスへ吸血鬼を殲滅しにでも行ったのだろう
    一つ確かなのは、狙うなら今をおいて他にない。
    周りの代行者は目標から魔術都市の外に向かって散っている。
    裏から回っていればもう少し楽に行くだろうが、
    生憎、既に補足されてしまっている。
    人以外の存在の襲撃も想定していたのだろう。
    代行者の装備も弓、重火器と空への武器も揃えられていた。
    地上から放たれる矢、銃弾、魔術のオンパレード。
    フィーアはそれらをかわしながら、上空に逃げる。
    上から接近すればそれこそ狙い撃ちである。
    ミコトは一瞬の思考を終え
    「私が下のやつを始末するわ」
    フィーアから飛び降りた。
    かなりの高さから飛び降りたミコトは代行者から見れば振り落とされたか、
    そうでなければ自殺と見えただろう。
    結果、飛び降りたミコトは無傷のまま着地し、同時に『天狼』を抜く。
    抜かれた刃は周りにいた三人を一瞬で切り伏せる。
    その様子に慌てた代行者たちはミコトへ向け銃を向けるが銃弾は軽くかわされ、
    後ろにいた味方に当たる。
    そして、それを見て今度は同士討ちを避けるため、銃や弓をしまって
    剣を抜き立ちふさがる。
    突如現れた敵に向かって代行者は続々と集まってくる。
    もっともいくつかはそのまま、待機しフィーアを狙っている。
    ―まだだ。
    多対一にはある程度慣れているとはいえ決して楽なものではない。
    ミコトは敵が完全に集まるまでただ黙々と近づく敵をなぎ払う。
    そして、ほとんどの代行者が集まったところで
    「開放、俊!!」
    宝刀の力を解放させ、限界までスピードを高める。
    まるで、自分以外のものの時間が止まったかのような感覚の元、
    まだ夜は明けてなく、周りの者全てが敵のミコトとこの暗がりで影でしか
    ミコトを捉えられぬ代行者たちの差は大きく、戦場を駆け回るミコトに
    何人もの者がすれ違いざまに切り倒されていく。
    ―ガギンッ!!
    「!?」
    3割といったところで1人だけこちらの剣を防いだものがいた。
    だが、問題はそれではない。
    防がれた際に急激な脱力感と共に体にかけた強化が解けた。
    「クッ!!開放、俊」
    動きが止まったミコトを狙い、振り下ろされる剣。
    再び強化してその剣を避け、残りの敵を切り倒していく。
    そして、またも同じ者に刀が当たる寸前に剣に阻まれるが
    今度は当たる直前に剣を引き、後回しにして通り過ぎる。
    ある程度を倒したところで強化を解く。
    最初は密度が高かったからうまくいったがこの数ではむしろ、損をするだけだ。
    残った者の中には唯一、ミコトの剣を防いだものもいた。
    「おい、お前ら。こいつは俺1人でやる。
    お前らは上の混血の相手をしろ」
    「ですが・・・」
    「お前らでは足手まといにしならない。
    とっとと行け」
    どうやら、男は他のやつより上位の人物らしい。
    男に命令され、残ったものたちはフィーアのほうへと向かう。
    ―強い。
    あのスピードで迫る剣を防いだ技量はかなり高い。
    油断できない相手だ。
    むこうもそれは同じなのだろう。
    邪魔そうに男は顔にかぶった兜を取る。
    「なっ!?」
    ―何であんたが!?
    「さて、始めるか」
    氷のような雰囲気まとい、剣を片手で持ってミコトへ向け突きつける。
    ―クライス・クラインという名の男が。




引用返信/返信 削除キー/
■178 / inTopicNo.8)  蒼天の始まり第十三話A
□投稿者/ マーク -(2005/04/04(Mon) 05:10:01)
    『青の代行者』




    「何でよ!!何であんたが」
    ―こんなところにいるのよ!?
    代行者の青年。クライス・クラインと対峙するミコトは叫ぶ。
    だが、そんなことは気にせずクライスはミコトに剣を振るう。
    ミコトは振るわれる剣を防ぐが再びあの急激な脱力感に襲われる。
    なんとか気を強く持ち、繰り出される剣戟を払う。
    「お前は」
    と、斬りあいながらクライスが口を開く。
    「お前は俺を知るものか?」
    「なっ!?」






    目標であるオーパーツの上空を翼を羽ばたかせ旋回する。
    目標の周りを囲むように配置された代行者の大群を突っ切って行くのは
    流石に不可能。自殺行為である。
    「まっ、手はあるけど」
    代行者も飛べる相手に対する装備も十分に整えていたが、
    この高さまで攻撃してこない。
    理由はこちらが獣人だから、魔術を使えないと判断しているからである。
    それは間違っていない。フィーアは魔術は使えない。
    だが、彼女もまたクロアと同じく異種族の血が混ざりしもの。
    それゆえ魔術ではない魔力行使の術を持っていた。
    魔術と違って詠唱などはいらない。
    威力も魔術とは違い、詠唱を長くするなんて面倒な真似をする必要は無く、
    魔力を多く使用するだけで簡単に高められる。
    欠点は一つのことしかできないこと。
    フィーアは目標のちょうど真上にそれを創り出す。
    真下にあるオーパーツとほぼ同じ大きさのまるで墓碑のような岩。
    これがフィーアの力。
    魔力で岩石を創り出し、射出する。
    魔力で出来た岩はほんのわずかな時間しかその姿を保っていない。
    だが、そのほんのわずかな時間だけは現実の物として存在する。
    そして、遥か上空から巨大な墓碑が落下する。
    ―ガッ!!
    だが、目標に激突する直前に見えない壁に弾かれた。
    砦の屋上を覆う半球状の壁。
    どうやら、協団の者が張った結界らしい。
    「・・・・どうしよう」
    先ほど創り出した巨大な岩はフィーアの魔力を三分の一近くを使ったものである。
    もう一度やっても結界は破れないだろうし、残りの魔力をすべて使っても
    結界を壊せるかどうか。とても、その下の兵器までは壊せないだろう。
    かといって、一瞬、砦ごと潰そうかとも考えたがどう考えても魔力が足らない。
    仮に潰せても魔力のない状態では魔法文明時のオーパーツを素手で破壊しなければ
    ならないということになるが、そのようなことは不可能だ。
    ユナなら結界ごと吹き飛ばして破壊できるだろうが、彼女はいない。
    ミコトなら結界を斬れるかもしれないが、この山を上れない。
    さらに、近づけば矢と銃弾の集中砲火に浴びせられる。
    戦況は硬直状態に陥っていた。







    「どういう意味よ!!」
    ミコトが怒りながら叫ぶ。そんな声にクライスは眉を吊り上げ
    「俺は数年前から記憶がない。だから、昔の俺を知る者なのかと聞いたのだ」
    「なっ!?」
    ―記憶喪失!?
    その言葉に驚きながらもミコトは剣をかわす。
    ミコトは対峙するクライスの剣を出来る限り受けぬようにしていた。
    急激な脱力感の正体はクライスの持つ剣、クロスガードに使われる、
    教会の保有する希少金属、オリハルコンの特性だった。
    最高の対魔素材と言われるその対魔力特性により、魔族など実体を持たぬ
    魔力で実体化する存在にとってはこの上ない毒となる。
    そして、さらに恐ろしいことは純粋な肉体を持つ存在に対しても、
    触れるだけで触れた者の体内の魔力を霧散させる力を持ち、
    対魔術、対魔術士用の武器でもある。
    この場合、ミコトは触れていないが、ミコトの持つ宝刀を常に取り巻く魔力が
    オリハルコンによって霧散し、宝刀自身の魔力とその魔力を利用している
    ミコトにまで影響を及ぼしたのだ。
    「あんたは―」
    言葉に詰まった。何か違う。
    言ってはいけない気がする。そう、コイツはアイツではない。
    今までも信じてきた己の直感。
    普通に考えればそんな筈はない。
    だが、それでも―
    「あんたは違う!!」
    繰り出す神速の突き。
    かわす事の叶わない必殺の一撃。
    だが、それも―
    ガギン!!
    「クッ」
    ギリギリのところでクライスの剣の中央で止められた。
    だが、何故か今まで剣に触れるたびに襲ってきた脱力感がない。
    そのことに一瞬、気を取られ、
    「ウォォー!!」
    もの凄い力で押し切られた。
    ミコトは刀こそ放さなかったものの、弾かれた衝撃で尻餅をつく。
    そして―
    「終わりだ」
    今まさに振り下ろされようとする剣を見てミコトは悔しさに唇をかみ締める。
    ―二度と油断などしないと己の心にきつく言い聞かせた筈なのに。
    悔しさに眼を瞑り、静かに振り下ろされる剣を待つ。
    ・・・
    ・・・
    ・・・
    だが、自らの命を絶つはずの剣は一向に振り下ろされない。
    ―いや。
    なにか、奇妙な浮遊感を感じる。
    慌てて眼を開け、見下ろすと真下に先ほどの男が小さく見える。
    「おい、シリウス」
    背中から声が掛けられる。
    そこでようやく何者かに抱かかえられている事に気付く。
    「アイツは一体なんだ?」
    「あんたのパチモンよ」
    ―全く。在り得ないタイミングで登場してくれちゃって。
    笑いながら、懐かしき仲間に声をかける。
    「バルムンク」





引用返信/返信 削除キー/
■179 / inTopicNo.9)  蒼天の始まり第十三話B
□投稿者/ マーク -(2005/04/04(Mon) 05:18:39)
    『蒼き空』                              


    蒼き空。
    黒い蝙蝠の様な翼を羽ばたかせながら空に浮くそう呼ばれた
    かつての仲間に抱えられる微笑むミコト。
    そこにいれば、エルリスがいたら気付いただろう。
    あの時助けられた男だと。
    「・・・何よ?」
    「太ったか?」
    ―ドゴッ!!
    抱きかかえられながら、容赦ない肘鉄を顔面に喰らわす。
    「なんか言った?」
    「グッ、悪い。どうやら成長というべきなようだな」
    そういって、ミコト胸元へと眼を向ける。
    良く見れば、男の手はちょうど胸の真下にまわされている。
    つまりその所為で、ミコトの豊かな胸が彼の腕に当たっていた。
    「死・ね!!」
    今度は握った刀の柄で男の額を殴る。
    あまりの痛さにあやうくミコトを支える手が緩むが
    「落としたらマジで殺すから」
    今度は慌てて支える腕を強めるがそうすれば当然、腕に当たっていた胸も
    さらに強く押し付けられることになる。
    「死刑決定!!」
    どうやら、リーダーなんかと言われていたわりには立場は低いらしい。




    緊張感の欠片もないやり取りを終え、バルムンクが地上に降り、ミコトを降ろす。
    見れば、バルムンクと瓜二つの男、クライス・クラインがまとう空気は今までの
    氷のような気配とは違う、燃え上がる炎のようだった。
    「貴様、吸血鬼か。
    何故、俺と同じ顔をしているのか疑問だが、
    ちょうどいい。ここで滅する!!」
    今までと違い、殺気を露にして真っ直ぐバルムンクを睨む。
    バルムンクも腰に差した剣に手を掛け
    「勝手に話を進めないでくれる」
    ミコトが二人の間に割ってはいった。
    「あんた、まだ決着はついてないわよ」
    刀をクライスへと向けながら挑発的に言う。
    「どけ!!今なら見逃してやる」
    ―見逃す・・・
    その言葉にミコトも殺気を露にしクライスを睨む。
    「あいにく、あんたの相手は私で十分よ。
    バルムンク。あんたは向こうにいるフィーアを手伝って。
    多分、火力不足で困ってるはずだと思う」
    「・・・分かった」
    そういって、翼を広げ空へと舞い上がる。
    「待て!!」
    「あんたの相手は私よ!!」
    追いかけようとしたクライスにミコトが斬りかかる。
    「フン、死に急ぐか!!」
    「残念だけど」
    刀を強く握り、ただミコトにとっての事実を語る。
    「勝つのは私よ」
    「ほざけっ!!」
    叫びながら、ミコトに向かって斬りかかる。




    ミコトはクライスの繰り出す剣を先ほどから避けているだけで反撃を
    仕掛けていなかった。
    クライスはミコトが反撃してこず防戦一方の様子を見て、先ほどの発言は
    ハッタリで、勝算などないと判断していた。
    たとえ、最初のスピードでも対応できる。
    クライスは圧倒的な力をもつ異端との戦いにおいて敵の狙う場所を本能的に
    感じ取ることで生き延びてきた。
    先ほどまでも、ミコトが狙う場所を感じ取りそこを剣で防いでいた。
    クライスにとってこの剣はどちらかといえば盾の役割をこなしてきた。
    この剣がある限りまともな斬りあいではクライスを狙っても全て防がれる。
    そう、この剣を先にどうにかしなければならない。
    ミコトはそれを感覚的に理解していた。
    しかし、ミコトは既にその剣の弱点を掴んでいた。
    先ほど突きを防がれたときはあの脱力感がなかった。
    切っ先で当たったから接地面が少なかったとも考えられるが
    おそらく、対魔力のないところ、もしくは弱いところがあるという事だろう。
    だが、クライスの剣はほぼ全てオリハルコンで作られた剣でその強度は半端でない。
    それを壊そうと思ったら刀の魔力を一点に集中させなければならない。
    ならばこの宝刀の魔力を切っ先に集中させ、対魔力のないところを討つ。
    それこそが勝機である。
    「開放、見」
    魔力を眼にまわし動体視力を上げる。
    クライスの剣をすんでのところでかわし、
    「開放、細」
    次は魔力を腕にまわし、強化された動体視力とほんの数ミリの動きさえ
    完全にこなす繊細さでかわし切れぬ剣の切っ先と切っ先を当て受け流す。
    「開放、鋭」
    刀を覆う魔力を切っ先に集中させる。
    狙うのは剣の中央。彫られた対魔効果のある彫刻。
    対魔の金属に対魔の魔術の文字を刻むという矛盾したことの所為で刻んだ文字の部分だけ
    対魔効果がなくなっているのだ。
    はっきり言って、宝刀の力で細かな動きも寸分違わずこなせる様になっているが、
    動くものが相手ではその力を使ってもまさに神業だ。
    だが『相手はこちらの狙う場所が分かる』。
    ミコトはそう考え、それを逆手に取った。
    最初から剣を狙えば相手もそのまま受ける筈。
    そうやって動く目標を固定させた。
    ―勝負!!
    刀の切っ先は寸分違わず、剣の中央の文字に突き刺さり
    ―ピキッ!
    「なっ!?」
    「終わりよ」
    ―バキン!!
    真っ二つに折れた。
    「言ったでしょ。私の勝ちだって」







    漆黒の翼を羽ばたかせ、黒い影が兵器へと向かう。
    見れば、金の獣、フィーアが兵器の置かれた砦へ近づこうとするが
    下から放たれる銃と矢に阻まれ、元に位置へと戻されていた。
    「天上に在りし雷の神、それより生み出されし紫電の精よ。
    我が道を開く矛となり、我が前に立ち塞がりし壁を崩す鎚となり、
    我に仇名す愚かなる者を裁きし雷となれ。
    『トゥール』」
    まるで意志を持つかのように雷がバルムンクの周りを覆う。
    バルムンクの意志によりその身を覆っていた大部分の雷はその身を離れ、
    地上からフィーアを狙う代行者たちに襲い掛かる。
    雷は幾人もの敵を昏倒させながらもその威力を衰えさせていなかった。
    恐るべき精度と威力である。
    通常の魔術はこれほどの精度でコントロール出来るものでもなく、
    当たればその魔力を全て吐き出して消滅する。
    高位の魔術ならば障害物も物ともせず全て破壊できるが
    細かなコントロールはできず、なにより加減が効かない。
    周りに残した雷を用いて放たれる銃弾を弾きながらフィーアの元へと飛ぶ。
    「えっ?バルムンク!?」
    「状況は?」
    「あっ、と!!ご丁寧に結界が張ってあって私じゃ手が出せない」
    「だろうな。ここは俺に任せろ」
    そう言って代行者を襲っていた雷を呼び戻し、それらを一つにまとめる。
    「砕け!『ミョルリル』!!」
    まとめられた雷は球状になり、そこから紐のように出た部分を掴み
    大きく振るう。
    それは雷で出来た鎚だった。
    振るわれた球は大きく弧を描き、結界へと向かう。
    「なっ!?」
    「・・・嘘?」
    だが振るわれた鎚は結界と拮抗し、耐え切れずにそのまま消滅した。
    「アレを防ぐだと?」
    「なんて力・・・
    一体どこの馬鹿が張ったやつよ!?」
    本当なら結界を張ったのにバカも何もなく、
    はっきり言ってただ悪態をつきたかっただけなのだが、
    フィーアの言った事は意外と当たっていた。
    そのバカの人は北の小さな町の学校にて
    「ックシュ!」
    「先生かぜですか?」
    「う〜ん、これは誰かが噂してるみたいね」
    「はあ、そういえばハーネットさんとミヤセさんはどうしたんですか?」
    「一身上の都合で自主退学よ。
    ・・・それにしても協団のやつらいきなり私に結界を張ってけだなんて。
    しかもあんな妙なところに。
    まあ、いっか。深く考えなくても。
    おかげでジジイに小言を言われずに済んだし―」
    「先生、早く始めてください」
    「ああ〜ゴメンね。
    じゃあ、始めるわ」
    ・・・
    ・・・
    ・・・
    「でどうする?とりあえず結界だけでも壊すなら同時にでもやる?」
    「いや、結界を潰しても結界を構成している魔術式を討たねば直ぐに戻る。
    消えた一瞬を狙ってもう一撃、撃ち込むか、結界ごと貫くしかない」
    「そう。じゃああんたが結界を潰した瞬間に中に入ろうか?」
    「それも駄目だ。教会が手を貸しているならアレにもオリハルコンぐらい
    使っているだろう。ミスリルでもフィーアでは無理だろう?
    第一、結界の中に飛び込むなど、入った瞬間に結界が再生すれば死ぬぞ」
    「・・・さすがにそれは嫌ね。じゃあ、どうする?」
    フィーアが考え付いたことを手当たり次第に口に出すが、ことごとく却下され
    隣に立つ男の顔をうかがう。
    バルムンクも渋い顔つきで思案する。
    「・・・魔力は残っているな」
    「まあ、半分以上は」
    「それで負荷を掛け、力ずくで貫く」
    「勝てるの?」
    「これ以上の方法はないと思うが?」
    実にあっけらかんとした顔で肩をすくめて言う。
    「まあ、試すだけ試してみればいいか。
    いざとなったらミコトを呼べばいいし」
    そう、ミコトがいれば簡単な問題だ。
    ミコトならこの結界を斬れる筈。
    そうして、消えた瞬間にバルムンクが決めればいい。
    本当に簡単なことだ。
    「では行くぞ」
    消えた精霊を再び宿し、言葉を紡ぐ。
    「紫電の精よ。
    汝の主、黒の王の名において命ずる。
    今こそ、その力の全てを我が前に示し、
    このひと時のみ汝こそが神となりて
    愚かなる者どもを裁く雷を天より降ろせ」
    突如、天候が荒れ雲より雷が地上へと降り注ぐ。
    それを見てファーアが再び巨大な墓標を創り出し結界へと落とす。
    落とされた岩は結界へとぶつかり崩壊する。
    そして、その次の瞬間その岩を追う様にして特大の雷が結界に落ちる。
    だが、長い時間、拮抗が続き徐々に雷の勢いが衰えていく。
    「あれでも駄目なの!?」
    ―リーンッ!
    突如後ろから鈴の音が鳴り、二人は慌てて振り返る。
    そこには黒いドレスを纏ったまだ幼い少女が浮いていた。
    「お手伝いさせていただきますわ」
    少女が腕を掲げると雷と結界のぶつかる空間が歪み、突然、雷が消えた。
    「負けた!?」
    だが、次の瞬間、雷は結界の中に再び現れ、真っ直ぐ兵器へと突き刺さる。
    内部へと潜り込んだ電流は内部の導線を焼き切り、行き場をなくし暴れ狂う。
    きしくも外装に使われたオリハルコンが外に出ようとする電流を拡散し、
    内部にとどめていた。
    暴れまわる電流によって内部は電磁波の嵐となり高温によって配線のみならず
    内部の機械も溶かし、最後は動力炉に穴が開き爆発した。
    「少々お待ちください。回収してきます」
    そういって少女の周りの空間が歪み、姿が消える。
    そして、今度は1人の青年を連れ再び結界の中に現れた。
    少女と青年は兵器の残骸を荒らし、一つの巨大な宝石を見つけ戻ってきた。
    「空間転移魔法・・・」
    特定の空間と空間をつなぐ最も高位の魔術の1つ。
    しかも、自分自身や、自らの魔力で生み出した物以外を転移させられるには
    かなりに技量と魔力を必要とする。
    他人の魔術をあの一瞬で転移させるなど人間業でない。
    魔術学園や協団の頂点に立つ人物でも出来るか出来ないかいう芸当である。
    ましてや、見た目10代前半の少女が扱うなど普通ではありえない。
    ―話には聞いてたがまさか、こんな幼いとは。
    「初めまして。今代の黒の王」
    少女はドレスの端を持ち上げ、恭しく挨拶をする。
    対して、隣に立つ青年は無表情に、だが、どこか不機嫌そうな顔で
    こちらを見ている。
    「ああ、初めましてだな。
    鮮血の薔薇姫、月下の大公」
    吸血鬼の都市バロニスを統べる三人の吸血鬼。
    鮮血の薔薇姫、リリス・デイ・ガーネット。
    月下の大公、アベル・デイ・ガーネット。
    そして、常闇の支配者である。
    上二つは固有の人物を指すが最後の人物だけは異なる。
    何らかのきっかけで人に滅ぼされたり、配下のものに殺されたりし、
    既に何度か交代している。
    ゆえに常闇の支配者という称号を継ぐ者が統治者となる。
    もっとも、上二人が基本的に共に動き、常闇の支配者とその配下とは
    基本的に険悪である。
    そのため統治者と言っても常闇に決定権はほとんどない。
    この二人を相手に喧嘩を仕掛けるのは愚策であり、
    二人の眼が光っている内は常闇はおとなしくしている。
    血の濃さは力の差。
    鮮血の薔薇姫は真祖がつくりし唯一の眷属。
    月下の大公はその正体が知られておらず、この者こそ真祖と言うものもいれば
    真祖の子ともいわれる。
    が、何故この二人が同じ姓を持つかは彼らとその従者以外誰も知らない。
    そして、常闇はバロニスの大部分の吸血鬼を統べる王である。
    これらが戦えばバロニスという都市そのものにとって深刻なダメージとなる。
    それゆえ、だいたい両者ともお互いを快く思っていないがおとなしくしている。
    周りにいた代行者は守るべき対象が破壊され、さらに最凶の化け物を前にし、
    早々に引き上げていく。
    そして、引き上げていく代行者を尻目に目的を達成したことを伝えに
    フィーアがもう夜も明けようとする空に飛び上がりミコトの元に向かった。






    「さてと、それじゃあ」
    ミコトは背後から殺気を感じ、後ろから繰り出された槍をギリギリで受ける。
    「リューフ!?」
    「・・・向こうもやられた。
    引き上げだ、クライス。
    まだやるというなら俺が相手になってやる」
    そういって、片手で槍をミコトに向け威圧的に言う。
    「・・・別に戦わない相手を追うつもりはないわ。
    こっちも疲れてるし」
    「そうか・・・・済まんな。
    ―行くぞ!!」
    「クッ・・・分かった」
    そして、二人は走り去っていく。
    見ると他の代行者たちもそのあとを追うようにして去っていく。
    ということは―
    「向こうは終わったってことね」
    仲間のいる方角を見るとまるで見てたかのようなタイミングで
    フィーアが現れる。
    降りてきたフィーアに乗せてもらい、バルムンクの元へと向かう。
    ―とりあえず、一件落着。向こうはどうなったかな?





引用返信/返信 削除キー/
■180 / inTopicNo.10)  蒼天の始まり第十四話
□投稿者/ マーク -(2005/04/05(Tue) 21:57:44)
    2005/04/05(Tue) 21:58:00 編集(投稿者)

    『分かれ道』




    「おっ!」
    竜の谷といわれる場所で空を眺めていたクロアは空の遥か先に黒い影を見つけ
    立ち上がる。
    「帰ってきたな」
    影は4つ。
    数が多いが間違いないだろう。
    降りてきた5人を眺め、記憶を探る。
    ―2名該当なし。
    「ミコトにバルムンクにフィーアに・・・
    どちらさん?」
    その声に額に手を当て呆れながらも頭を上げ、バルムンクが答える。
    「ここの長に伝えてくれ。
    バロニスから客人が来たと」
    はっきり言って、フィーアとミコトもあまり状況が掴めないでいた。
    これらの人物がどうい存在なのか、現れた理由は想像がつく。
    だが、自分たちより遥かに上の存在、絶対的な支配者と並んで飛ぶなど、
    敵対しているわけではないとはいえ、どうしてもピリピリしてしまう。
    しかし、警戒して少女に目を向けると微笑まれ、どうも調子が狂う。
    なによりも分からないのはこの二人とバルムンクの関係だ。
    初対面の筈なのにリリスとはかなり親しく、逆にアベルとは妙に険悪だ。
    吸血鬼だから接点が無いとは言い切れないが初対面に変わりは無いだろう。
    バルムンクに直接聞いてみてもここに着けば分かるだろうと言って
    頑なに言おうとせず、当の二人もまた、言おうとしない。
    ただ、それぞれマイペースについて来るだけだった。
    結局、この奇妙な組み合わせのおかげでここに来るまでとても長く感じた。
    二人とも、クロアを見たときやっと見知った顔を見つけて落ち着いた。
    そして、そんな二人の心中など気にせずクロアはリリスを見て
    ―これはまた極上だな。
    と考えていた。
    どうやら、彼は本気で節操がないらしい。





    「セリス、バルムンクが―」
    ミコトはエルリスの看病しているセリスに帰ってきたこと、そして、
    目当ての人物が来たことを伝えに来たわけだがセリスは寝ているエルリスの
    上に倒れ、気持ちよさそうに寝ていた。
    看護疲れだろう。
    ミコトはクロアからエルリスがこの戦いで精霊を憑依させて、倒れ
    その後ここ数日間寝たきりになっているとは聞いていた。
    そして、それをセリスがほとんど寝ずに看病しているとも聞いていた。
    セリスを起こそうかと一瞬、考えたがミコトはセリスの目覚めの悪さを
    修行中のサバイバルでその実態を眼の辺りにした。
    エルリスに本当に起こせないのか聞いたが、あることをしなければ、
    ほぼ絶対に起きず、そのあることがとても面倒なことだから自発的に
    起きるのを待った方がいいと言うことだ。
    そして、無理に起きそうとするのが何よりも危険なのである。
    好奇心というべきか、寝てるセリスを起こそうとしたらとんでもないことに
    なった。
    何故かは知らないけどセリスは寝てるときのほうが魔力が穏からしく
    その所為で無理に起こせば違う意味で暴走する。
    普段のセリスなら放てば暴走して倒れるような規模の魔力弾を寝ぼけながら
    乱発してくるのだ。
    サバイバル中、周りの壁がその所為で崩れかけあやうく生き埋めになり掛けた。
    ―まあ、いっか。どうせ起きたら会えるだろうし。
    ミコトはそう結論を出し、これほど気持ちよさそうに寝ているのを起こすのも
    忍びなくなにより、自分から地雷を踏みに行くのはもう2度と御免だった為、
    セリスに毛布を掛けて他の者が集まる場所に向かった。





    「なっ、なんであんたまで!?」
    最後の役者であるミコトが目的の場所に入った瞬間、見知った顔、
    様々な意味でもっとも強大な『敵』を見つけてつい、大声で叫ぶ。
    「まあ、確かに私がいるのは君からすれば不自然かも知れないな」
    そういって銀の月アルテ、シルヴィス・エアハートがため息をつく。
    「ああ、ごめん。
    でもシンクレアがまた集合するなんて驚きでしょ?」
    「でも、それを言えばそちらもでしょ?
    バルムンクにそっちはバロニスのお姫様と王子様。
    まだ、こっちの方が質素よ。
    一体どうしたの?」
    そういって、ユナが静かに突っ立っている三人に顔を向ける。
    あまりの豪華、そして節操のない顔ぶれにミコトやユナも混乱している。
    「ふう、とりあえず状況を整理するのが先のようだな」
    この中でも最も長寿の竜の長が大きなため息をつき、
    部屋にいる全員に顔を向ける。
    そして、全員でお互いの身に起きたことを話し合った。



    「なるほど。目標がバロニス、しかも常闇の城を狙っていたとわけか」
    「はい。その後、私の城にも代行者が襲ってきましたが従者が撃退しました。
    そして、城と街を従者に任せ転移の魔法で狙撃点まで跳んだら
    彼らに会ったのです。
    が、まさか魔族が王国と手を組んでいるなんて」
    「そちらがM・Cを確保したため数に変化はないが危険なことに変わりはない。
    そして、未確認とはいえ魔族が王国の繋がっている可能性があるのは危険だ。
    そちらの所持していたM・Cは無事か?」
    「いえ、それがM・Cの力を用いてあの街は常に夜を保っているらしいのですが
    それの置かれた所在は私も知らないのです」
    「だが、よっぽど大丈夫だろう。
    万が一奪われれば常夜が消える。
    そうすればみな、直ぐに気付くだろう」
    千年と言う時間を生きた者たちの会話に入りづらそうにしていたミコトたちが
    遠慮がちに入る。
    「えっと、王国と魔族はM・Cを集めてどうする気でしょう?」
    「M・Cを利用して動く危険なオーパーツは沢山ありますから
    それに使う気でしょうね。
    魔族ならそれを所持することによって手に入る魔力が狙いなのでしょう。
    過去にも魔族がM・Cを狙った事件はありました。
    あと、そんなかしこまらなくても良いですよ?
    私の友達は2人とも、普通に話してくれてますから。
    と言っても1人は喋れないですから1人だけですね」
    喋れない・・・そう聞いてあの街の店に住まう少女を思い浮かべたが直ぐに否定する。
    いくらなんでもそんなことあるはずがないのだから。
    「竜族は王国に報復に行くの?」
    「・・・我々を襲ったのは魔族だ、人を襲う理由はない。
    だが、もしも魔族と癒着しているのならその限りではない。
    そして、なによりM・Cが―」
    「竜族のM・Cは私が回収しましたから竜族にお返しいたします。
    これが竜族と魔族の全面戦争にでもなれば世界中が混乱し、
    他の種族がどうなるかは見当もつきません。
    ですので、竜族はこれで無関係ということで
    どうか自重していただきたいのですが?」
    「むう。なるほど、一理あるな。
    王国が北のエルフ領に手を出そうとしたとき牽制の為に、同盟を結んだのだが
    これで我々が落ちれば竜という後ろ盾を失ったエルフに対し、
    まず、間違いなく王国が攻めるであろう。
    良かろう自重しよう」
    その答えを聞いてユナは一先ず安心する。
    あとは王国をどうするかである。
    「それでは、私たちはいったん王国の方へと戻るとしよう。
    これ以上竜族に迷惑を掛けたくないからね」
    場所を変える理由は竜族にテクノスのことはあまり伝たくないからだ。
    そのテクノスのことで疑問があるのだが竜族の前では話せないので
    場所を変えようとアルテが提案していた。
    「私もそうしてもらいたいかな。
    あまり長い間、王国を離れるわけには行かないのよ。
    集まるところは・・・あの店で良いわね」
    と、ミコトが少し前に滞在していた街の熊のような男の店を
    頭に思い浮かべる。
    他の人もそれで大体伝わったのか異論は無いらしい。
    「そうか。では『継承者』たちよ。
    汝らの行く手に幸多からんことを」







    「で、何故ここに来る」
    ベアは怒りを露にし、突然訪問してきた団体を睨む。
    おかげでベアの店は再び休業中である。
    そして、エルリスたちのおかげでなかなか忙しくなってしまい
    二人では人手が足りず、その手伝いをしていたルスランたちは
    店が休みになったのに大喜びである。
    ルスランは黒いスーツを纏い、サクヤとアウラは普段なら絶対に
    着そうにないようなチェチリアとおそろいの服を着ていたが、
    二人は今は二階で寝ているセリスとエルリスを見ている。
    どうやらあの服が店の制服になったらしいが、
    いつの間にこの店は冒険者の店でなくなったのだろう?
    「別にいいじゃんか。英雄の来る店って宣伝したらどうだ?」
    「いやいや、いっそこの美しき女性たちにもウエイトレスを頼めば繁盛間違いなしだぜ?というかクロア、この人たち紹介してくれ!!
    こんな美しき女性たちといつの間に1人だけお知りあいになったんだ!?
    羨まし過ぎるぜ、コンチクショー!!」
    と、途中から目から血の涙を流しそうな勢いでルスランがクロアの胸倉を掴む。
    どうやら、女性陣に意識が向いてて英雄という言葉は聞こえなかったらしい。
    「フッ」
    と、まさに勝者の笑みで胸倉をつかまれながらルスランを見下す。
    実際はかなり呼吸が苦しい。
    このままだと直ぐに落ちるだろう。
    「バカ2匹」
    「まあ、昔から類は友を呼ぶと言うからね」
    「というかバカだとは思っていたが本当に単細胞生物だったなんて」
    「なるほど、裂ければ増えるわけか」
    上からユナ、ミコト、フィーア、アルテである。
    怒涛の4連攻撃に両者ノックダウン。
    ふと、他のところに眼を向ければチェチリアとリリスが話し合っている。
    といっても、チェチリアは喋れないから話し合いになるかは疑問だが。
    「ねえ、ベア。あの人って知ってる?」
    「ああ、たまにチェチリアに遊びに来る同じ趣味を共有する友達らしいぞ。
    名前は知らんが」
    ・・・現実は小説より希なりとはよく言ったものである。
    自分の国に伝わる言葉を思い出し、1人納得する。
    というかこのままじゃいつまで経っても話にならない。
    「それでこれからどうするの」
    出来る限り低く言い、世間話をしている者たちの注目を集める。
    そこでようやくここに来た意味を思い出し、1人また1人と座り向かい合う。
    「ああ、ちょっと。ベアも来て」
    込み入った話になるのだろうと判断したベアは席を外し、倉庫の整理にでも
    行こうとしたがミコトが引き止める。
    「ちょっと、最近情報仕入れてないから提供して欲しいんだけど」
    「ったく、こういうのは等価交換が基本だ。
    そっちも金か情報を出せよ」
    そういって、ベアも渋々席に着き、話を始める。
    「で、まずベア。なんか王城の方で事件はあった?」
    「それほど大きいのはないな、表には。
    裏では騎士団が動いたと言われてるが確かな情報じゃない」
    表、つまり一般的な噂や情報。
    裏なら普通は出回らない情報や、噂。非公式なことなどである。
    「じゃあ、騎士隊長がまた出奔とかって噂はある?」
    一瞬アルテが顔を眉間に皺を寄せたが直ぐさま普段の顔に戻す。
    「なんだそりゃ?
    一体、誰の話だ」
    と、首を傾げながら答える。
    何故かは知らないがどうやら王国はアルテが行方をくらましたのを
    隠しているらしい。もしくは気にしてないかだ。
    「お前なら揃うなんて今度はどんな厄介ごとだ?」
    シンクレアが動く=厄介ごとというのは酷い気がするが否定できない。
    「騎士団が動いたのは事実。
    だが、非公式の部隊で竜族に攻撃を仕掛けようとしたが何者かに阻まれた」
    アルテに続き、バルムンクが言葉を継ぐ。
    「そして、バロニスへオーパーツの兵器が撃たれた。
    その際、常闇とその臣下たちは城ごと消滅。薔薇姫と月下は健在だ。
    兵器は既に何者かに破壊されている」
    「何者かねえ。
    王国の英雄だったりしてな」
    「王国の英雄?」
    笑いながら、くだらないことを言うベアの後ろから声がした。
    目を移せば二階にいたはずのアウラたちと復活したルスランがいつの間にか
    すぐ後ろまで近づいて来ていた。
    「まるで見ていたかのようだな」
    と、サクヤがさらに爆弾を落とす。
    「もしかしてシンクレアに会った事あるの?」
    無論自分からばらそうとする者はいない。
    たった一人を除いて。
    「ふふふ。何隠そう俺様、ついでにあの5人こそが
    この王国の英雄シンクレアさ」
    と、自慢げにバカがいっそ清々しいほど見事にばらす。
    どうも、微妙に酸欠が頭が回っておらず本能的にやってるらしい。
    女性が聞いてきたから何も考えず素直に答えたのだ。
    これで聞いたのが男だったら違う展開になっていただろうがもう遅い。
    当然5人でクロアをボコボコにし、ようやく気が済んだのか席に戻っていく。
    残念ながら同情の余地はない。
    ルスランも友の悲しき運命に冥福を祈りつつ、何も言わない。
    何か言えば、次にこうなるのは自分かもしれないのだ。
    迂闊な事など言えず静かに黙っている。
    アウラとサクヤは身の危険を感じ、再び二階のエルリスを見に行く。
    そして、ルスランは針の筵に座らされた思いになり居続けるのは不可能と判断し、
    べアの代わりに倉庫の整理をするといい、この場を抜ける。
    そして、怒気をはらんだ空気の中、話は進む。
    ベアもこの空気はキツイのかここで抜けると言おうとしたら
    睨むだけで人が殺せるなら竜さえ殺すであろう鋭い視線を
    5人から浴びせられる。
    が、そこは流石は元腕利きの冒険者。
    そんな視線を振り切ってこの場から抜けていった。
    「それで、騎士隊と戦った際にテクノスとも戦った。
    今の王国の技術ではあれほどの物は造れないから
    他の国、というよりアイゼンブルグとつながっている可能性が
    あると思うのだが」
    抜けていったベアが見えなくなると、何もなかったかのように
    話は進められる。
    「それを調べるの?」
    「そう。ただ、王国が本当に魔族とつながっているか。
    それも調べねばならない」
    と、沈痛な顔で眼を閉じる。
    騎士として仕えてきた王に裏切られたようなものだ。
    シルヴィスには辛いことだろう。
    「王国は私が調べるわ。ちょうど探し物のついでだし。
    アルテじゃあ、やり辛いでしょ」
    「じゃあ、私たちは協団と学園都市かな。
    王国内にいると危ないし」
    と、ミコトとフィーアが片手を軽く上げる。
    「それより、フィーアは王国のテロを探してくれないか?
    この先はこれらの動きも注意せねばならないと思うから」
    「ああ、そっか。
    分かった。任せて」
    「そうすると私が協団?」
    ユナの問いにシルヴィスが静かに首を振る。
    「いや、それよりもユナ・・・でいいのかな?」
    「ええ」
    「ユナにはアイゼンブルグに行ってもらう」
    「アイゼンブルグ?
    なんでまた私が?」
    順当に行けば内部に入れるユナが協団の調査には打って付けである。
    逆に、わざわざユナがアイゼンブルグに向かうメリットなど無いに等しい。
    「協団はそれほど危険は無いだろう。
    君に行って貰う理由だが、実は君の兄から手紙を預かっている」
    「なっ!?」
    ―お兄ちゃん!?
    「以前会った時に預かったのだが、あの者は少々そそっかしいな。
    サラの正体を知らなかったから今まで渡しにいけなかったのだ。
    その名前だけでも分かっていたら何とかなったのだが」
    そういって、軽く笑いながらシルヴィスはアーカイバから
    1つの手紙を取り出す。
    「君の兄はアイゼンブルグに行くと言っていた。
    そんなわけだからユナはアイゼンブルグを調べてくれ」
    手紙を受け取り、強く抱きしめる。
    「分かった。じゃあ!!」
    今まで追いつづけてきた兄の手がかりを見つけ、いてもたってもいられず、
    ユナはすぐさま出て行ってしまう。
    「慌しいな。
    それで、バルムンク。
    あの少女をどう見る?」
    と、今まで全くと言っていいほど喋らなかった男を呼ぶ。
    男はどこか不機嫌そうに返事する。
    「あの魔力を見ればそう判断するのが妥当だろう。
    俺にはあれが誰かは知らん。
    第一、俺よりお前の方が『継承者』には詳しいだろう?」
    「まあ、そうだね。
    では私は彼女たちをあの場所に連れて行き、
    確認しよう」
    「彼女たち?」
    と、バルムンクが疑問を返す。
    いや、それが誰を指しているかはわかる。
    だが、分からないのは何故その姉も共に連れて行くかである。
    「彼女の精霊。
    あれは君以外には扱えぬものだ。
    君なのだろう?アレを宿したのは。
    それならば、もはや彼女も関係者だ」
    「何の話?
    いえ、それよりエルに精霊を宿したのやっぱりあんただったの!?」
    ミコトがバルムンクに詰め寄る。
    胸倉をつかみ、逃がさぬように強く、強く掴む。
    「・・・そうだ。あの戦いのあと、俺は重傷を負っていた少女に見つけ
    助けるために精霊を宿した」
    淡々と事実を語る。その言葉に嘘はない。
    その言葉に掴んでいた服を離す。
    「・・・精霊は取リ出せるの?」
    「取る事はできるがそうすれば彼女は死ぬだろう。
    あの時、既に魂の核に当たる部分にまで傷が届いていた。
    それを精霊で埋めて生かされているのだが取り出せば死しかない」
    「そっか。
    ゴメン、あんたも辛いんだね。
    ・・・・知り合いだったの?」
    と、バルムンクが自嘲気味に笑う。
    ―そんなことは忘れた。
    そういっているようだった。
    「あの少女にこれを渡してくれ。
    少しぐらいなら精霊を抑えられる」
    そういって無色透明な宝石を投げて渡す。
    「精霊石という石だ。
    本来は精霊を僅かな時間だが宿し、使役させられる代物だが
    これを持っておけば憑依させても意識ぐらいは保てるだろう。
    俺は教会を調べる。
    あの男がいったい何者か、その正体を調べる」
    ―俺と同じ顔、いや俺の過去の姿をしたあの男を。

    「・・・いっちゃった」
    バルムンクの出て行ったドアを見ながら呟く。
    「協団はいいの?」
    「秘蔵していたM・Cを奪われたのだろう?
    これは協団には大損だ。
    手を貸すことはもう無いだろう」
    「そっか、ならいい。
    ・・・アルテ、エルたちを頼むわよ」
    「シルヴィス」
    「?」
    振り返り、シルヴィスの顔を見る。
    「もう、その名は必要ない。
    私はシルヴィス・エアハートだ」
    今まで見たことがないくらい誇らしく、笑う。
    その笑みにつられ、ミコトも同じように笑う。
    「そう。私はミコト、ミヤセ・ミコトよ。
    今後ともよろしく」




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