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■184 / inTopicNo.1)  赤き竜と鉄の都第1話
  
□投稿者/ マーク -(2005/04/12(Tue) 22:00:30)
    『鉄甲都市』









    ビフロスト連邦の小さな一国の街外れの館。
    私はそこで育った。
    もっとも、私が6歳の時には既にこの大陸の中央に位置する大陸中、
    最大規模の魔術学校、リュミエールゼロのある都市に学園都市にいたので
    実際に暮らした年数は今まで生きた都市の半分にも見たず、
    すごした記憶はほとんど無かった。
    魔術学園へはどんな簡単な魔術でもいいから魔術式を構築できれば
    何歳でも入学できることになっている。
    だが普通、入学するのは十歳前後。
    はっきり言って学園としても私は異例だったのだろう。
    私がそんな小さな頃に学園としに入学したのはひとえに兄と離れるのが
    嫌だったからだ。
    その頃兄は十歳。
    既に魔術を構築することは可能だったため、入学に問題は無かったのだが、
    私が駄々をこね一緒についていくと言い出したのだ。
    無論、兄も両親も困り果てた。
    そして、兄がコレが出来たらついてきてもいいと言って、簡単な炎を出したのだ。
    必死だった私は兄が構築した魔術式を真似て無我夢中で式を構築した。
    今思えばあの時兄が炎以外の魔術を使ってたら、私はここにいなかった。
    結果で言えば、私はその魔術式を完全に、いや兄以上の精度で発動させた。
    両親も兄も信じられないといった顔で私を眺め、
    もう一度やってみるように言った。
    既にコツをつかんでいた私はさらなる精度で発動させ、
    全員に学園都市の入学を認めさせた。
    もしかしたら。
    もしかしたらと何度も考えた。
    あの時に何かが違っていたら私も兄も両親と共に笑ってあの家で
    過ごしていただろう。
    焼け落ち、廃墟となった家を思い出し、いつも思う。













    ―チュンチュン

    「ん」

    朝か。
    久しぶりに昔の夢を見た。
    でも、泣いてなんていられない。
    ミコトも言っていた。
    後悔先に立たず、過ぎ去ったものは戻らない。
    昔を振り返ることも大事だが囚われてはならない。
    今これからどうするかを考えるべきだ。

    「行くわよ」

    軽い朝食を取り、見張りとして実体化させていた使い魔に飛び乗る。
    向かう先はアイゼンブルグ。
    王国の内部に存在する独立都市であり、その優れた技術力により発展し、
    他国からも注目される技術都市である。
    アイゼンブルグは出入りこそはある程度自由だが、都市全体が外壁に囲まれ、
    閉鎖的な部分もある。
    だがその結果、魔法文明時の技術が他の国に流れることもなくその内部でのみ
    受け継がれ、その知識と技術で街は発展し現在でも世界最高レベルの技術力を誇る
    鉄の都となっている。
    また、都市自体も王国の内部にありながら他種族を好意的に受け入れており
    王国から逃げ出したものはほとんどここで暮らしている。
    位置的にも近いため学園都市、協団とも関わり合いは深いが、
    私はここに来たのは初めてである。
    市場やメインストリートは遠目にも活気に溢れ、人ごみで溢れかえっている。
    商品も食料から銃器までありとあらゆる物が揃えられ、その分混沌としている。
    兄、レイヴァン=アレイヤを探しにここまで来ていた訳だが、
    昔から、ここアイゼンブルグにはいづれ来たいと思っていた。
    鉄鋼業が盛んであり、様々な武器、銃器も揃えられたこの街ならではの物も多く、
    ここにある銃器には大変、興味をそそられている。
    兄を探すついでに見物することが出来るためここに来たのは正解だったと思った。
    無論、仲間に頼まれたことも忘れていない。
    アイゼンブルグが王国に協力体制をとっているか、
    それともただの技術流出かの調査。
    そして、もう一つはある物の返却である。
    だが、たまには少しくらい羽を伸ばしてもいいだろう。
    そう自分の中で結論を出し、街に入ったユナは一目散に立ち並ぶ店へと
    入っていった。



    「高い!!
     ベネリがこれってどういうことよ!!」
    「高いってそれが相場だぞ・・・」
    「確かに普通ならコレぐらいでしょうけど、
     こんな状態の銃が相場の値段と一緒な筈無いでしょ。
     ふざけてるの!?」
    手に持ったショットガンはすでにかなり使い込まれておりボロボロだが、
    十分修理して使える物だ。
    だが、このような中古を通常と同じ値段で売るなど容認出来る筈が無い。

    「ああ、もう分かった。
     コレでどうだ」

    そういって、提示してきた値段は中古の相場よりも少々低いくらいだ。
    無論、その値段なら文句は無い。

    「商談成立ね」
    「畜生もってけドロボー」

    金を支払い、アーカイバに仕舞う。
    流石は鉄甲都市と呼ばれるだけあって種類も豊富で
    店の数も多し、何よりその完成度が高い。
    さて、次は何を探すかな。

    「おい、嬢ちゃん」
    「何よ?」
    「そいつを修理する気ならこの先の路地を抜けたところにある店の
     偏屈ジジイに頼むといいぞ。
     選り好みが激しいから受けてくれるかどうかは分からんし、
     性格も最悪だが、腕は確かだ。
     嬢ちゃんなら気に入るかもしれん」
    「ふ〜ん」

    そういって、男が親指で指した先の細い通路を覗き込む。
    どうせ、当てもないしデッド・アライブのメンテも予定していたので
    腕のいいジャンク屋などを探していたから都合はいい。
    男が示した先の路地に入り、少し歩き細い道を抜けると
    一軒の店がぽつんとあった。
    はっきり言ってお世辞にも大きいとも繁盛しているともいえない。
    が、こんな場所にあるならそれも仕方ないだろう。
    とりあえず、ドアを開け覗き込むと店のカウンターには店主と思わしき老人が
    座って新聞を読んでいた。
    男の言ったとおり確かに初老の老人で、気難しそうな顔をしている。

    「ここって、ジャンク屋?」
    「ああ、そうだ。嬢ちゃんなんか直して欲しいのか?」
    「・・・これと、あとコレのメンテナンス」

    名前を知らないのだから仕方ないとはいえ、さっきの男といい
    さんざん嬢ちゃんと子供扱いされてるのは気に食わないが、我慢しよう。
    そう自分に言い聞かせ先ほど店で買ったショットガンと
    愛用のデッド・アライブを老人に見せる。
    それを見た瞬間、老人が驚き目を見開いた。

    「これは凄い。こいつのメンテか?」
    「ええ。完璧に整備して欲しいの。
     あと、こっちは修理より、折角だから改良して欲しいけど出来る?」
    「ワシを誰だと思っている。
    クククッ、久しぶりにやりがいのある仕事じゃ。
     二日じゃ。二日後に取りに来い。
     それまでには両方とも完璧にしといてやる」

    そういって、老人は3丁の拳銃を持って奥に潜り込む。
    店の中を見ればかなりの量の銃や機械が棚や壁に置かれている。
    そのほとんどが使い込まれた物を修理した物だと分かった。
    手にとって念入りに見てみると、型自体はそこらで売っている様な
    ごく普通の物だが、内部にかなりの改良が加えられている。
    驚いくべきことはその改良が素晴らしい。
    なるほど、これを見た限り、確かに腕はいいだろう。
    だが、なんせ預ける物が物だ。
    疑うわけではないが、念のため使い魔を一匹、霊体化させて
    ここに見張らせて置くとしよう。
    さてと折角来たんだし、どうせだからここのやつも買っていくか。
    見渡して幾つか気になるのを見つけては手に取り、確かめる。
    手の大きさなんかも気にしないと使いづらいだけだ。
    候補に入れては除外し、やっと2つにまで絞り込んだが、

    「どうしよう?」

    迷う。凄く迷う。
    ここにあるのは中古とはいえ、かなりのカスタマイズがされた物ばかりだ。
    幾つかの候補は簡単に除外できたが今度のはどちらも捨てがたい。
    かといって、両方買うというのも無駄なだけだ。
    どちらにする?
    右手に持っているのはベレッタ・M92F。
    改良点は銃身などが強化されていて、実弾の代わりにE・Cで魔力弾を撃つ点。
    銃身の強化は実弾を撃つことを考慮に入れてないため、
    魔力を阻害しない素材で強化されている。
    左手にはコルト M1911A1 。
    こっちも銃身の強化が施されてあるがこっちは純粋にベレッタよりも強固に
    改良されている。
    理由は実弾をE・Cで魔力を通して強化する点の対処のためだろう。
    威力が高ければその分銃身の磨耗度も高いからこの対処しかない。
    そうすると連射するならベレッタだが、威力ならコルトガバメントとなる。
    他にも強化点はあるかも知れないが目に映ったのはその辺だ。
    ・・・・・決めた。ベレッタで行こう。
    威力は他のことでも補えるし、実際に使うこともほとんど無いだろうから
    これでいいだろう。
    あとは他のところで弾を仕入れておくか。
    店主を呼びだし、金を払ってアーカイバにしまう。
    名残惜しくコルトガバメントを見ながら、店を出た。



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■185 / inTopicNo.2)  赤き竜と鉄の都第2話
□投稿者/ マーク -(2005/04/15(Fri) 18:59:48)
    『銀と鈴』






    「あいつだな」
    「反応はあの少女からありますがそうとは決まってませんよ?」
    「分かってるさ」
    「いつも思いますけど本当に分かってるですか。
     いえ、すみません。
     そんなはず無いですね。
     分かってたらもっと穏やかに終わるはずですもんね。
     だからお願いします。もう少し考えて動いてください」

    そういって、最初に呆れ、次にため息をつきながら切実な願いを込めて男に
    頼みこむ少女とそんな言葉を意に返さずに銃を構える男。

    「ってちょっと、ギン。言ってる傍から何をしてるんですか!?」
    「威嚇射撃だ、当てはしない」

    言うが否や、男が引き金を引き銃口より銃弾が放たれる。
    放たれた弾は店から出てきたユナの足元へと突き刺さる。
    足を止め、立ち止まったユナは飛んで来た足元の弾丸に視線を移し、
    次に銃弾が飛んで来た方向を見る。
    と、1組の男女が屋根から飛び降りて来た。
    少女は奇妙なイヤリングを耳につけ、まぶたを完全に閉じているが
    慣れた感じで危なっかしさは微塵も感じさせない。
    男は肩に黒い長身の銃を担いで少女となにやら口論している。

    「なにか用?」
    「お前の持っているブツを置いてけ。
     そうすれば、見逃してやる」

    自分が持っているものに何か狙われるようなものはあっただろうか?
    というより、むしろこれはただの物取りだ。

    「ちょっと、ギン!!これではまるで―」
    「そういうわけだからとっとと置いてけ。
     素直に渡せば痛い目にあわずに済むぞ」
    「嫌よ」

    ギンと呼ばれた男の言葉をきっぱりと拒絶する。
    誰に手を出したか思い知らせてやる。

    「そうか。それじゃあ―
     後悔すんなよ!!」

    そういって、男が銃を捨て殴りかかって来る。
    それに対応すべく普段、腰に掛けている銃を構えようと手を回すが
    手は空を切り何もない。

    「あっ・・・」

    慌てて、体を強化し振るわれる拳を避け、距離をとる。
    いけない。
    両方ともメンテに出してしまい、使える武器は
    サンダーボルトと先ほど買ったベレッタのみ。
    慣れてない物と明らかにに接近戦では使えないもので
    しかも、両方ともアーカイバの中だ。
    この状況では取り出してる暇も無い。
    武器が使えないならせめて魔術を使える場所に行かねば。
    そう判断を下し、反転し、男に背を向けて走り出す。
    幸い、ここは路地裏だから人も少なく、拓けた所なら十分に力を振るえる。
    路地裏を駆け、寂れた広い道に出る。
    ここなら、暴れても被害は少ない。
    今出てきた細道に振り返り、追ってくる男たちに向き直る。
    少し心とも無いが市場で仕入れておいた銃を一丁左手に構え、詠唱する。

    「煉獄より来たりし焔、牙となりて我が敵を貫け。
     フレイムファング」

    細い路地へ向け、炎が一本の槍となって放たれる。
    放たれた槍は一直線に飛び、男に迫る。
    細い路地では避けることも出来ないだろう。
    槍は盾にするようにして構えた男の腕が振るわれた瞬間、

    「なっ!?」

    その構成が崩れ、バラバラに散った。

    「キャンセルされた!?」

    驚いてる間にも崩壊した槍の抜け、目の前まで男が迫ってくる。
    突き出された男の腕を斜め後ろへ飛んで回避。
    そして続けて大降りに振るわれた男の右腕の袖口から飛び出す形で剣が現れる。
    その分のリーチを踏まえてさらに後ろに飛んで剣を避け、さらに距離をとる。
    距離が十分に開いたところで左手に構えた銃を男に向け、引き金を引く。
    まだ試してないし、魔力弾だから威力は低いと思うが対人戦闘なら十分だろう。
    しかし、男はそれらの銃弾を容易くかわす。
    スピード自体は決してそう高いわけではない。
    ただ、銃弾の軌道が見えているかのごとく最低限の動きで銃口から
    放たれた瞬間にはもう回避運動を取っている。
    そして、運悪くかわされた銃弾が幾つかその先にいた少女に向かう。

    「危ないですね」
    「あ!?」

    しかし、少女も男と同じように、いや目を閉じたままで少し体をずらすだけで
    銃弾を避ける。
    その光景に驚き、一瞬気を取られたところで男が接近してくる。
    ギリギリのところで気を取り戻して後ろに下がり剣を避ける。
    その時、懐から白い紙が落ち、男の剣が刺さりそのまま切り裂かれた。

    「あっ、ああっ〜!!?」
    「なんだコレ?」

    おっ、お兄ちゃんの手紙。
    よくも・・・よくもっ!!

    「覚悟しなさい!!
     あんたには地獄を見せてやる!!」

    ユナの背後に比喩でなく本当に炎が燃え上がり、炎が竜の姿を形作る。
    体全体を炎の魔力が覆い、周囲の温度が上昇している。

    「・・・なんていう魔力だ」
    「ギン!?」

    男と少女は焦りを含んだ声で呟き、ユナを覆う魔力と背後の炎の竜を見る。
    竜が鎌首を掲げ、咆哮を上げる。
    その間にも竜の体は膨れ上がり、どんどん巨大になっていく。

    「いいぜ。相手になってやる」

    男がアーカイバより銀色の機械を実体化させる。
    先端がランスのようになっており、尖った円錐の側面に掘られた溝は
    螺旋を描いている。
    取り出したものを地面へと突き刺し、右腕に触れる。
    奇妙な操作と共に、重い音を立て腕が落ち、袖を破り捨て
    剥き出しになった義手の付け根が露になる。
    取り出したものを腕へとはめ込み、水平に構え竜に向ける。
    先端のランスが物々しい駆動音と共に高速で回転しだし、風が吹き荒れる。

    炎の竜が最大まで膨れ上がり、弾かれえるように男へ向けて突撃した。
    迫り来る竜を迎え撃つべく、高速で回転するランスを装備した義手を後ろに引き、
    渾身の力で突き出す。
    荒れ狂う暴風と炎が拮抗し、轟音と共に竜が爆発し、両者とも吹き飛ばされた。

    先に立ち上がったのはユナだった。
    距離が離れていたため、爆発の衝撃が少なかったが
    反対に爆発の中心地にいた男は動くことはできないだろう。
    だが、煙で前が見えず男の姿は見つけられない。
    男がいるであろう方向に向き、進もうとしたら男と一緒にいた少女が
    男を引きずりながら目の前に現れた。

    「すみません。迷惑をかけて。
     ですが、話だけでも聞いてくれませんか?
     ギンにはあとで殺さない範囲なら好きにしてくれて構いませんから」
    「・・・・話だけなら」

    男と明らかに違う態度に面を喰らいながらも、敵意は無いようだから
    とりあえず提案を飲むことにした。

    「申し送れました。私はリン。
     このおバカはギンです」




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■189 / inTopicNo.3)  赤き竜と鉄の都第3話
□投稿者/ マーク -(2005/04/20(Wed) 20:04:27)
    『銀の腕』








    「銀の腕?」
    「はい。アイゼンブルグの所有する世界最高のあの義手です」
    「その銀の腕が盗まれた、ねえ・・・」
    「さらに言えばこのギンの造ったレプリカも共に盗まれました。
     そのレプリカについていた発信機の反応を追っていたのですが
     心当たりはありませんか?」
    「レプリカ・・・あっ」

    慌ててアーカイバを出し、それを取り出しリンに渡す。

    「0式ですね。やっぱり」
    「わっ、私は犯人じゃないわよ」
    「分かってます。それは別の者に奪われた代物ですから」

    そうリンが微笑み、ユナはほっとする。
    リンは先ほどからまぶたを開けず、目を開いていない。
    だが、まるでそれ以上のものまで見えている用に振舞っていて、
    うっすらと目を開けているのではないかと思ったが、流石にそれは無いだろう。
    つまり、このリンという少女が盲目なのはおそらく確かだろう
    だが、それならば先ほど避けたのは一体?

    「ですがこれで確定しました。
     どうやら、私たちの早とちりだったようですね。
     一応、私は止めたのですがこのおバカの代わりに謝ります。
     どうもすみません」
    「別にいいわよ。話を聞かなかったのはこっちも同じだし。
     喧嘩両成敗ってことでいいでしょ?」
    「はい。ありがとうございます」
    「うう〜ん」

    話が一区切りついたところで都合よくギンが目覚めて起き上がる。

    「っつ〜、どうなったんだ?
     というかなんで俺は縛られてるんだ?」
    「・・・おはよ」
    「っげ、テメー」
    「ギンのおバカ。だから止めたのに。
     ちょっとは反省してください」
    「リン。ということは・・・
     っち、外れか」

    ―ムカッ!!

    「それよりも言うことがあるでしょ?」
    「ああ〜。人違いだった。忘れてくれ」
    「それで済むかー!!
     よくもお兄ちゃんの手紙をー!!」
    「兄!?
     ブラコンってやつか」
    「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」

    もはや声にならぬ怒りの叫びを発しながらユナは憤怒の形相でギンに掴みかかり、
    首をガクンガクン揺さぶる。

    「リン・・・助け・・・て・・・く・・れ」
    「はあ、自業自得です。
     もっとやってくれていいですよ」

    ―ガク
    目覚めて早々、ギンは再び夢の世界へと戻っていった。




    「というか、手紙が破れたのは俺の所為だが
     燃やしたのはお前だろう?」
    「はあ、そもそもギンがあんな真似するからでしょう」

    なんとか意識を取り戻したギンとリンの会話を黙って聞きながら睨みつける。
    あの戦いの際、破かれた手紙を見た瞬間に完全に暴走してしまったため、
    あの爆発の炎で手紙の残骸まで綺麗サッパリ燃えてしまった。
    しかも、いても立ってもいられず急いでこの街まで来たため、
    宿についたら、ゆっくり見ようと思って開いてすらなかったのだ。
    せっかくの手がかりが・・・・

    「盗人に持ち合わせる情けなんてない。
     それみこっちの方が手っ取り早くて確実だからな。
     第一、だがこの女があの状況で普通に尋ねても
     素直に聞いてくれたとは思えんぞ」
    「煩い、黙れ」

    ユナはなんとか爆発しないように抑えているが、抑えきれぬ怒りが声に
    刺々しいと表現するのも生易しいほど恐ろしいくらいに現れている。
    こいつさえ、こいつさえいなければ・・・・・。
    だが、今ここで殺しても面倒なだけだし、
    簡単に終わってしまっては私の怒りも収まらない。
    ミコトもいたぶるなら生かさず殺さずが基本だと言っていた。

    「とにかく。私は被害者なんだから、誠意を見せなさい」
    「例えば?」
    「そうね、あんたこの都市の人間でしょ?
     アイゼンブルグを一通り案内しなさい。
     いっとくけど、これはお願いではなく命令よ」
    「なんで俺がそんなことを。第一俺は忙しいと言って―」
    「いいですよ?どうせ、一通り周る予定でしたし」
    「おい、リン!!」
    「そのかわり、貴方も私たちを少しだけ手伝ってくれませんか?
     こちらも人手は足りませんし」
    「つまり、私も腕探しを手伝えと?」
    「はい」

    どうする?
    お兄ちゃんを探すだけならそんなの手間がかかるだけだ。
    だが、本来の目的はアイゼンブルグの調査。
    ならば土地勘があり、なおかつそんな貴重品の捜索を任されている者たちなら
    それなりに情報はあるだろうからどちらかといえば都合はいい。
    いや、お兄ちゃんの事にしても単独で動けない分動きは鈍くなるが
    そのかわり情報は手に入りやすくなる。

    「分かった。契約成立ね。
     私はユナ・アレイヤよ」
    「はい、ではとりあえずこの街を回りましょう。
     ついて来て下さい」
    「その前に―」
    「はい?」
    「コイツを好きにしていいだよね?」
    「あっ、はい。好きなだけどうぞ」
    「リン!?」
    「じゃあ、地獄に行って貰いましょうか」







    「アイゼンブルグは都市というにはあまりにも大きすぎ、
     大きく東西南北の4つの地区に分かれています。
     ここはアイゼンブルグの東区で他国との交易も盛んな地区です。
     おかげで街の活気が良く、他国からの旅人も多いのですが、
     どちらかといえば流通は南区の方が多く、職人たちも他の地区のほうが多いので
     あまり特別なもののない地区になっています」
    「ふーん」

    東の地区を周りながらすれ違う人ごみに目を向ける。
    噂には聞いていたが本当に豊かなところだ。
    最近の王国内じゃ滅多に見られない動物の特徴を色濃く受け継いだ獣人。
    所謂半獣の者たちも数多く見られる。

    「なるほど。確かに活気もいいし、獣人みたいな異種族とも仲良くやってる。
     王国の領土内の光景とはとても思えないわ」
    「そうですね。
     王国から逃げてきてこの都市に保護を頼んだ者も数多くいますし、
     流石に王も独立した都市の中までは手を出してきません。
     ただ、残念ながら良い眼で見られてないのは確かです」

    そう、独立都市であるアイゼンブルグを王国は快く思っていない。
    独立したとはいえ、もともと王国の領土。
    さらに、この都市の技術は王国からすれば喉から手が出るほど
    手に入れたいものだろう。
    その結果、王国もこの都市を国内に取り込もうと考えている。
    逆にアイゼンブルグは同盟は結んでいるが技術提供などは基本的に一切せず、
    特に鉄鋼業の技術の独占し続けている。
    おかげで、王国の技術力はお世辞にも高いとは言えず、
    この街の産業に頼っているため関係が悪くするわけにはいかないから
    大きな動きもなく、今まで静かに過ごしてきた。
    テクノスなどはかなりの技術力がなければ実現は不可能な代物だ。
    やはり、王国だけで造れるとは思えない。
    可能性としては一部の者が行った意図的な技術の流出。
    探るのはそれを行った者が誰かだ。
    もしかしたら、お兄ちゃんもそれを探っているのかも。
    なら、やはり向かった先が分からない以上、他の仕事を片付けながら
    探したほうが効率的だ。
    手紙を燃やすことになった原因にあらためて殺意が沸いてきた。
    だが、ここで殺してはさらに調査が難航する。
    くっ、お兄ちゃんが無事見つかったら今までの無礼を
    さらに三倍にして返してやる。
    覚悟しなさい。

    そういえば―

    「ねえ、リンって目見えてないでしょ」
    「そうですね。私の目は生まれつきこの世界の光景を
     映していませんでしたので盲目といっていいと思います」
    「何か妙な言い方ね。
     でも、見えてないならどうやって弾を避けたの?」
    「ああ、そいつは―」
    「あんたのは聞いてない」
    「こいつっ」

    途中で口を出してきたギンを一刀両断で切り捨てる。
    そう簡単に許せるもんか。
    しかし、あの拷問を受けてこれほど元気なんて意外とタフな男だ。
    まあ、見た感じではげっそりして今にも倒れそうにフラフラしてるけど。

    「私は目が見えないですけど、コレのおかげで色々と別のものが
     分かるんです」

    そういって、左手を耳に持っていきイヤリングを触る。

    「ちょっとした魔法具の一種です。
     正確には付加魔術と魔科学を用いて作られた感覚の補助増幅器で、
     その恩恵で気配や音、魔力の動きなどで周囲を把握しています。
     少なくとも、視覚に頼らない分、周囲360度の把握能力と
     先読みについては随一と自負してます」
    「なるほど目が見えない分、他の感覚で補ってるわけね」
    「さらに言えば、これもギンの作品です」
    「ふーん、腕だけはいいんだ」

    と、後ろを歩くギンに冷ややかな視線を送る。

    「だけってのは何だ。他にも取り柄はある」
    「そうですよ。
     バカだし性格も最悪ですけど戦闘に関しては結構な腕ですよ。
     神様ももう一つくらい取り柄がないと可哀想過ぎると思って
     くださったのでしょうね」
    「・・・リン。お前はフォローしてるのか、追い討ちかけてるのかどっちなんだ?」
    「どっちもです」

    りんの微笑と共に掛けられた追い討ちでギンが力無く下を向く。
    どうやら悪いやつじゃないみたいだし少しくらいは許して―

    「まあ、口だけで考え無しなやつよりはマシだ」

    ―プツッ!!

    一瞬頭に浮かんだ気の迷いとも言える考えを速攻で打消し、
    振り返らずにギンの腹に躊躇なく肘鉄を食らわせる。

    「ゴフッ」
    「食え」

    そして使い魔が実体化し、頭に勢い良く噛み付く。

    「ーーーーーー!?」

    往来の中、妙な叫びを上げる男を無視し、
    アイゼンブルグの街を歩いていく。







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■190 / inTopicNo.4)  赤き竜と鉄の都第4話
□投稿者/ マーク -(2005/04/20(Wed) 20:07:05)
    『霧の銃』


    「ふああ〜あ、いらっしゃい。
     っと、お前さんか。頼まれたのは出来てるぞい」
    「さすがね」

    老人が取り出した三つの銃。
    メンテを終えたデッド・アライブとベネリだが・・・・

    「ふ〜ん、一体どんな風に改良されてるの?」
    「一応、E・Cも装備できるようにしたがショットガンのため
     あまり期待はできんな。
     あと、接近戦を考えて後部を少し長くしトンファーにしてあり、
     またイリュージョンミストという姿をくらませる特殊能力を装備させてある」
    「・・・・たった2日でそこまでするなんて凄いわね」
    「まあ、やるからには完璧にやる主義でな。
     フォッフォッフォッフォ」
    「でも、もしかして寝てないんじゃないの。
     大丈夫?」

    良く見ればこの老人どことなくフラフラしてるし目が真っ赤だ。

    「なに若い頃は一週間寝ずにやってたこともある。
     このぐらいどうってことは無い。
     まあ、確かに老いたとは自分でも感じ取るんじゃがな。
     して、名はどうする?」
    「そうね・・・ノーザンライトでどう?」
    「ふむ、そこら辺はお主に任せるとしよう」
    「あっそ。代金は?」
    「まあこんなもんじゃな」

    提示してきた金額はあまりにも安すぎる。
    それが顔に出たのだろう。
    無言で老人の顔を窺うと笑いながら答える。

    「久しぶり満足の行く仕事じゃった。
     それはそのお礼も含めた代金じゃ」
    「あとで請求されても困るからね」
    「安心せい」

    なるほど、確かに妙な老人だ。
    腕は良くてもこれでは繁盛しないのも仕方が無い。
    が、それでいいのだとも思う。

    「ちょっと、試させて」
    「ああ、いいぞ。
     こっちの来い」

    そういって、老人が手招きし奥へと消える。
    それを追う様にして扉を抜け、目立たない小さな階段の入り口で
    待っていた老人の後を追い階段を下りる。
    階段を降りると、なかなか広い空間に出た。
    どうも、射撃の練習所か何からしい。

    「撃って見ろ」
    「分かった」

    まずは、デッドアライブ01。
    いつも通り右手だけで持ち、向こう側にある的を狙う。
    結果は予想以上の精度で命中。
    なにより、握りやすいし反動も僅かだが小さくなった気がする。
    続いて、左手に02を持ち同じように発射。
    こちらも文句なしの使い心地だ。
    さて、では問題のノーザンライトだが―

    「ねえ」
    「なんじゃ?」
    「弾ってある?」
    「・・・・・・ない」

    ああ、失敗した。
    これなら先に買っておくべきだった。
    なら、せめてこいつの特殊能力だけでも確認するか。

    「これってどう使えばいいの?」
    「慣れれば魔力を通すだけでもいいが
     初めの内は何か詠唱でもした方が効果が安定するやもしれん。
     やってみい」
    「じゃあ、とりあえず」

    ひとまず、魔力を通すだけで―

    「へえ、なるほど」

    やって見ると自分の周りをある程度覆う範囲で白い霧が出てきた。
    範囲はあまり大きくないしこっちからも見辛いが、まあ当たり前かな?
    でも、これは使いようによってはかなりの効果を期待できる。
    試し撃ちの方はデッドアライブを見た限り、この老人の仕上げたものだから
    いきなり暴発ということもないだろう。

    「ありがと、近くまで来ることが会ったら、
     また修理をお願いするわ」
    「ああ、まっとるぞ」













    「ご免、遅れて」
    「いえ、私たちも今来たところですから」
    「ああ、ちょうど半刻前に着たばかりだ」
    「ギン!!」
    「・・・悪かったわね」
    結局、2日かけて街を一周し、元の場所へと戻ってきたところで
    周りが暗くなってきたから一先ず分かれた。
    そして、今日の朝十時に別れた場所で集合ということになったのだが
    修理に出していたものを取りに行ってて遅れてしまったのだ。
    にしてもどうしてもこいつとは合わない。
    向こうも同じらしく、街を周っている時も常にこんな感じだった。
    本当、腹が立つ。

    ―ぐ〜。

    (あっ!?)

    「なんだ今の音は?」

    さっ最悪!!
    急いでたから朝ご飯食べずにこっちに走ってきたけど
    そのせいでなんて間が悪い時に!!

    「音?何のことです」
    「いや、なんか今聞こえなかったか?」
    「いえ。私は聞こえませんでした」
    「・・・・リンが聞こえなかったってことは空耳か」

    え?
    もしかして・・・
    ギンが視線を戻し再び歩き出すと、今度はリンがこっちを向いて
    どこか悪戯っぽい笑みでこちらを見た。
    ああ、そっか。

    「・・・ありがと」
    「いえ」
    「おい!!早く行くぞ。
     唯でさえ遅れてるんだ」
    「分かってるわよ」






    「そういえば、そんな大切なものならかなりの人員が動いてる筈だと思うけど
     あんた達一体何者なの?
     私なんかと勝手に動いて上の人とかは構わないの?」
    「言っとくが俺たちはそんな大層な身分じゃないぞ。
     ただのごく普通の学生で、ちょいと頼まれただけだ。
     しかも非公式なことらしいから動いているのは俺たちのみ。
     仲間もいないし、頼んで来た人物からは自由に動いていいといわれているから
     誰と動いても問題ない」
    「はああ!?学生ってどういうことよ?」
    「そう言わないでください。
     うちの校長先生は変人で有名なんです。
     私たちも突然呼び出しを喰らったら腕が盗まれたから取り返して来いですよ。
     貴重な3期と4期を潰して・・・」
    「あ〜、大変なんだ」
    「はい。私もギンも技術は学園でも頭1つ飛びぬけて優秀でしたから
     まるまる3年期と4年期がつぶれてもそれほど困るわけではないんですが
     今年中に片付けて復学しないと丸二年留年なんです」
    「2年?」
    「ああ、はい。私たちの学校は5年期からは共同作業が中心になるため
     5年期、6年期の2年間はほとんど卒業制作のためグループで作業するんです。
     そのため来年までに終えなければグループにあぶれてしまい、
     再来年の卒業試験を行えないんです」
    「ああ、そっか。だから急いでるわけか」

    もう、季節は夏も中旬。半年強しか期限が無いということだ。
    話の口ぶりからすると入学早々、こんなことを頼まれたのだろう。
    そうすると、もう探して一年くらいは経っていることになる。
    つまりタイムリミットまでもう3分の2が過ぎたということだ。。
    焦るのも無理は無いだろう。

    「頼んだ校長って言うのは?」
    「アイゼンブルグの技師を目指すものが皆一度は訪れるという
     西区の領土の三分の二近くの占める都市最大の学園、
     まあ、学園都市の『リュミエールゼロ』のアイゼンブルグ版程度に
     考えてください。
     で、校長はその学園の総責任者でこの都市でも随一の技師です。
     いろいろな技術を生み出した天才なのですが、
     例に漏れずとんでもない変人なんです」
    「じゃあ、その銀の腕は校長が保管してたの?
     それとも学園が保管してたの?」
    「えーと、それは学園の所有物ですね。
     だからギンが腕を貸してもらえたのですから」
    「なるほど。じゃあ奪ったのって学園の関係者とは考えられないの?」
    「いえ。腕自体とレプリカには発信機がついていて大雑把にしか分からないですが
     ある程度近づけば反応する仕掛けにはなっていたのです。
     しかし、学園内をしらみ潰しに探したのですが反応は全くなし。
     どうやら、既に学園の外に運び出されたみたいです。
     でも、都市からは離れてないのでアイゼンブルグの外にも
     運ばれてないようですので、おそらく腕の解析が目的でしょう。
     ですからギルドを調べていけば何か手がかりが見つかると思います」

    ギルドか。
    その最高の技師でも完全に解析できないものを個人でどうにか出来るはずが
    ないから大きな組織がやったと見るのが妥当だろう。
    そういえば、意図的な技術流出だとしたらこっちもやっぱり組織的な行動。
    もしかしたら、奪われた腕との関係も意外と無関係な話ではないのかも。
    それにしても、そんな腕のレプリカをこの年で作れたってことは
    ギンの技術は恐ろしく高いということだ。
    全くギンといいあの老人といい噂の校長といいここの技術者って腕が
    いいのに限って性格が悪いの多いわね。
    でも、確かにあまり時間が無いっては大変そうだ。
    こいつのためって言うのは癪だからリンのためということで手を貸そう。
    正確には足を貸すが正しいけど。

    「わかった。じゃあ、急ぐわよ。
     ここにはないのね?」
    「はい。幾つかの地区に分けれて街が存在してるので次は南下して南の地区に
     向かいます。
     歩いて3日というところですね」
    「3日は掛かり過ぎるわ。1日でいく。
     乗って」

    実体化される黒と白の竜。
    大きさは自由に変更できるから出来る限り目立たぬよう小さめだ。
    無論、既に街の中心街からは抜けているから他に人もいない。

    「―竜の使い魔。お前、一体何者だ」
    「聞いてなかった?
     私はユナ・アレイヤよ」

    ギンは今更ながらユナと挨拶していないことに思い至り、
    バツが悪そうに頭をかきこちらを向く。

    「悪いな。俺はギンだ。
     まあ、この前の事は水に流してやる」
    「それは私の台詞よ!!」






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■192 / inTopicNo.5)  赤き竜と鉄の都第5話
□投稿者/ マーク -(2005/04/24(Sun) 00:30:03)
    『手がかり』






    「どう?」
    「はあ、駄目でしたそちらはどうですか?」
    「こっちも駄目」

    お兄ちゃんの手がかりも妙な動きをした組織の情報も無い。
    が、それが逆に怪しい。
    だって、かなりの数の技師が学園都市を訪れたというのに
    その情報すら無いのだ。
    これは大きな組織が大規模な情報規制でもしたからだろう。
    おかげで、組織が王国と極秘裏につながっている確証は持てた。
    あとはそれがどこなのかだ。
    にしてもあの男はどこ行ったのよ。



    「メルナ鉱の武器だと?
     あれはまだ精製不可能、いや解析すら不可能だと聞いてたが」
    「まあな。だが、アーティファクトという可能性もあるだろう?
     とにかく、そいつを持ってる男がいてな。
     その欠片を見つけたわけだ。
     どうだ、買ってかないか?」
    「メルナ鉱か。何とか手に入れたいものではあるが・・・」
    「何やってるんですかギン」
    「ああ、情報収集だ。あのメルナ鉱を持ってるやつがいたらしいぞ。
     なんとか精製できないものか。
     サンプルがあるかないかでかなり変わってくると思うがどう思う?」
    「真面目にやってください。あまり期間がないんですよ」
    「分かってる。だが」
    「メルナ鉱って何?」

    さっぱり分からない。
    話の様子からしてなにかの希少金属だろうが聞いた事がない。

    「メルナ鉱。
     魔法文明時ですらもほとんど存在しなかった超希少金属です。
     金属としての耐久度と軽さではミスリルには敵いませんし、
     オリハルコンのような対魔力性を持っているわけではないのですが、
     ある性質を持っているんです」
    「ある性質?」
    「ええ。魔術を蓄える金属といわれ、この金属を溶かした際に完全に
     固まる前に魔術を掛け続けるとその力を備えた金属になると言われてます」
    「それって、炎の魔術を掛ければ炎の魔力を備えた魔剣になるってこと?」
    「間違ってはいませんがそのようなのは序の口です。
     たとえば重力変化の力を加えれば、魔力を通すことで剣自身の重さを
     任意に変更できる重力の剣になり、
     空間転移の魔術ならば空間を断ち、繋げる力を持つと言う話もあります。
     もっとも、魔術を長時間かける必要がありますからこれらの魔術を利用した剣は
     現在の魔術師のレベル的に考えてもほぼ製造不可能でしょう」
    「なるほど。それでも十分とんでもない金属ね」
    「はい。しかも全くと言っていいほどにこの金属は存在せず、
     精製法も不明なため伝説の金属の一つとされてます」

    重力変化といえば、バルムンクの剣も重力変化の剣って言ってたけど、
    このメルナ鉱の剣なのかな?
    もう一方はあの時に失くした武器と同じ形状変化の剣だったし。
    ということはあの武器もこのメルナ鉱の武器だったということか。

    「それにしても、メルナ鉱の武具か。
     噂の男が持っているのは形状変化に特化した武器らしいが一度見てみたいな」
    「形状・・・変化?」

    バルムンク?
    いえ、違う。
    ・・・なら、まさか!?


    「それどこの話!?」
    「ん?」
    「その武器の使い手はどこにいるの!?」
    「おい、落ち着け。どうしたんだ?」
    「・・・・お兄ちゃん」

    きっと、間違いない。
    形状変化に特化した武器、おそらくはMOS。
    だが、それはあの時に失くした物。
    それを持っているとしたらお兄ちゃんだけだ。

    「やっと・・・見つけた」






    商人に話を聞いてみるとその武器の使い手は一週間ほど前に
    ここから西に行った所の鉱山地帯に現れたらしい。
    アイゼンブルグは鉄鉱業が盛んなため当然その材料となる金属の産地でもある。
    そのため、都市内の各地で実に多種多様の鉱物が産出される。
    西の鉱山もその一つで、たまに魔物が出没するらしいが他の山に比べれば
    比較的平和なところらしい。
    が、最近その山が荒れていいるらしく、ごく最近では先ほどの商人が鉄鋼を
    仕入れに来た際、大量の魔物の襲われ逃げようとした際、助けられたらしい。
    その後、その使い手は山の中に向かい、それ以降の行方は分からない。

    「まだここにいるといいんですけどね」
    「うん」

    鉱山内の洞窟を歩いているが人っ子1人どころか魔物一匹すらももおらず、
    静まり返っている。
    情報があったのは一週間前。
    他の場所に移った可能性のほうが高いくらいだ。
    でも、可能性はゼロじゃない。
    それに手がかりだってあるかもしれない。
    クロアがいたら、お兄ちゃんの匂いを追わせれば一発なのに。
    無理やり連れて来れば良かったかな?

    「・・・なんか用か?」

    私の視線に気付いたらしく訝しげに聞いてくる。
    こいつはどうみても、只の人。
    臭いを追うなんてことは出来るはずがないだろう。
    ということはクロアより使えない男だ。

    「役立たず」
    「テメッ!?」
    「二人とも押さえてください」
    「「フンッ!!」」

    どうしても駄目だ。
    今までで散々分かっていたことだがこいつとは生理的に合わない。
    理由はお兄ちゃんの手紙を燃やした原因だからだが、
    どうやらそれ以外の理由でも気に食わない。
    でも、多分これは私のものじゃない。
    そう私の中の・・・

    「なんだコレ?」

    ギンの声に我に返り、思考を中断する。
    あったの途中の分かれ道に立ててあった看板。
    書かれた内容は危険につき進入禁止とのことだ。

    「・・・おかしいですね」
    「なにが?」
    「こっちの道にはなんの痕跡もないのですが、こっちの
     進入禁止の方の道の先からなにか音が聞こえます」
    「確かにおかしいわね」

    現在工事中だから進入禁止と書いてあるとも考えられるが
    今だ魔物と会ってない状態ではあくまで噂に過ぎないが
    この周辺は荒れてて、魔物が異常発生してるらしいから
    そんな危険な状態で工事をしているとは考えにくい。
    現に、今まで通った道にはここ最近で大量の魔物が通ったあとが見つかった。
    少なくとも魔物の異常発生は事実だろう。
    なら、この先にいるのは?

    「・・・行ってみるか」
    「そうですね、少々危険ですが向こうには何もないでしょうし
     この道を行きましょう」
    「ありがと」








    「危険と書いてあってが地盤もそんなに緩くないし壁もしっかりしてる。
     全然大丈夫じゃないか」
    「言えてますね」

    確かにそうだ。
    危険なんて書いてあったから最初はかなり慎重に動いていたが
    全然、安全なものだ。
    洞窟内だから光は手に持ったランタンのみ。
    さすがに足元は暗いが一本道だし、危険は全くと言っていいほどない。
    はっきり言って拍子抜けである。
    それにしても。

    「魔物の異常発生はどうなったのかしら?」
    「そうですよね。今まで一匹も会ってないのは流石に私もおかしいと思います」
    「もし、この先に集中してたら厄介だな。リン、気配はどれ位の数だ?」
    「そうですね、ちょっと分かりづらいのですが少なくとも集団では
     ありません」
    「じゃあ、あまり心配する必要は無いな。
     魔物は噂の男が全て倒したのかもしれない」

    確かにお兄ちゃんならそれぐらいやれそう・・・いや、やるだろう。
    でも、お兄ちゃんはここで何を?

    ―ガラ、ガラ。

    「あっ!?」
    「崖ですね。ここで行き止まりなのでしょうか?」
    「大丈夫。どうやら大きな空洞になってるだけみたい」

    細い洞窟を抜けると、大きな丸い空洞になっている空間に出た。
    大きさ的にどうも山の中心だろう。
    周りは丸く沿っていて、崖が螺旋を描いて下へと続いていて、
    通れるくらいに道はあるから下まで降りられそうにはなっている。
    ただ、足元に気をつけたほうがいいだろう。

    「ここからは気をつけていきましょう」
    「ええ、そうね。リン気配はある?」
    「・・・・音は下から聞こえます」
    「じゃあ、やっぱり降りるしかないか」

    道の幅は人一人が何とか通れる程度。
    足元の明かりが乏しいので結構危険だ。
    もっとも、もとより目が見えないリンには
    どうってことの無いことだろうが。
    崖に右手を着きながらゆっくり崖を歩く。
    さきほど、落ちた石の音からしてなかなか深い。
    でも、落ちたらどうなるやら。
    と、崖の下を見ようと内に少し体を乗り出した途端。

    ―ピシッ、ガラッガラッ!!

    「えっ!?」
    「ユナ!?」

    ―嘘!?

    落ちる落ちる。
    深き深淵へと落ちていく。
    深い深い闇の中へと引き釣り込まれていく。








引用返信/返信 削除キー/
■193 / inTopicNo.6)  赤き竜と鉄の都第6話
□投稿者/ マーク -(2005/04/24(Sun) 02:42:45)
    2005/04/24(Sun) 03:11:34 編集(投稿者)

    『約束』


    あれは何時の事だっただろうか?
    私がまだ小さかったころ、初めて炎の上位魔術を試した際
    魔力を全て持ってかれて寝込んだときだ。

    「だから言っただろう。お前にはまだ早いと」

    お兄ちゃん?

    「だって・・・」
    「だっても何もない。いいか、無理はするな」

    ああ、そうかこれは夢だ。
    まだ、幸せだった過去の記憶だ。

    「分かってる。でも私はコレしか出来ないから」

    私に適正があったのは炎だけ。
    あとは特別といえるような才能は無かった。
    そう剣も他の属性の魔術にも。
    だから私は無理をしてでも炎を極めようとした。
    その結果がコレ。
    魔術の使いすぎによる魔力不足で倒れてしまった。
    ―お兄ちゃんと一緒にいたかった。
    ―お兄ちゃんの役に立てるようになりたかった。
    ―お兄ちゃんの隣に立ちたかった。
    ただ、そのために努力を重ねてたのに逆に迷惑を掛けてしまった。
    それがとてもとても悲しかった。

    「お兄ちゃんごめんね」
    「気にするな。
     妹を助けるのは兄の仕事だ。
     だからお前はそんなに急ぐな」

    ありがとう。でも違うよ。
    私はお兄ちゃんを助けられる人になりたい。
    だから、たとえ転んでも走り続けなくちゃいけない。
    お兄ちゃんの隣にいるために。

    「約束してやる、危なくなったら絶対に助けに来てやるからな」

    大嘘つき。










    「ん・・・」

    ここはいったい

    「ッツ!」

    クッ、やばい。
    右手が完全にイッテル。
    両足もやばいけど、落ちる直前に使い魔に掴まり
    ブレーキを掛けて受身を取ったおかげか、怪我はマシだ。
    落ちた瞬間パニックに陥って使い魔のことを激突寸前まで
    気付かなかったのはあまりにも間抜け過ぎるが、仕方が無い。
    足の方は折れてないが直ぐには動けそうに無い。
    一応、治癒呪文というか回復力を高める魔術を掛けてるが
    魔術は精神も使う。
    この状態ではいつものような効果は期待できず時間がかかる。

    ―ザッ

    「グルルル」
    「なっ!?」

    なんて間が悪い。
    こんな状況で最早いないと思っていた魔物に会うなんて。
    何とか動く左手を動かしデッドアライブを握り、銃口を向ける。

    (来るな!!)

    こんな状態ではまともに撃てるとは思えない。
    撃てば反動でかなりの激痛に襲われるだろう。
    その上、都合は悪いことに銃弾は0。
    撃てるのは魔力弾のみでこの魔獣を倒せるかどうか怪しい。
    だが、魔獣は銃を恐れることなくゆっくりと歩み寄ってくる。
    ―おかしい。
    本来、獲物を見つけたらそのまま飛び掛ってくるのが普通だ。
    だが魔獣はそんな様子もなく目の前で立ち止まり、
    服を咥えて首を大きく振るい、私を背中へと乗せる。

    「ッタ〜」

    もう少し丁寧にやりなさい!!
    と、魔獣を叱り付けたくなった。
    しかし、わざわざ動けない獲物を運ぶなんて何のつもりだろう?
    しかも先ほどから殺気は微塵も感じられない。

    「・・・・・何のつもり?」

    落ちないよう左手で体を掴みながら返答はあまり期待せず、獣に喋りかける。
    魔獣や獣人は知能が高く、人語を理解するだけなら出来る者も多い。
    が、獣は一瞬、立ち止まるだけでそのまま特に変わった行動も起こさず
    今までどおり道を行く。
    洞窟内のさらに奥へと進む魔獣に掴まりながら、少しでも体を休める。
    まあ、この状態では何もできないし、様子を見よう。










    「リン。どうだ?」
    「音は二つ。両方とも移動してます」
    「一つはユナとしてもう一つは?」
    「分かりません。逃げているのか助けられているのか」
    「少なくとも生きてはいるんだな」
    「はい」

    ユナの落ちた先、遥か下へと続く穴を見て一瞬嫌な想像をし、
    すぐさま頭を振ってその考えを打ち消す。
    飛べる使い魔がいるんだ。よっぽど大丈夫なはずだ。
    そう、自分に言い聞かし、螺旋の崖を下る。

    「ったく、本当に間抜けな奴だ」
    「ふふふ」
    「なっ、なんだ?」
    「いえ、あんなに仲が悪そうだったのにやっぱり心配なんですね」
    「うっ。たっ、ただ化けて出られたら厄介なだけだ」
    「はいはい」
    「・・・・お前も結構性格悪いよな」
    「そうですか?」
    「はあ。いくぞ」










    「ねえ。まだかかるの?」

    魔獣は全く意に返さず、黙々と歩く。
    別に答えなど当てにしていないが、こんな状況では喋って気を紛らわせたい。
    先ほど落ちた際にランタンが壊れたから場所も状況も分からない。
    せめて、周りが見えれば落ち着くのだが・・・・

    「あっ」

    光だ。
    本当に僅かだけど進む先に明かりが見える。
    もしかして出口だろうか?
    だが、どんなところであろうとこんな暗い場所よりはマシだ。
    暗い道を抜け、大きな空間に出る。
    出口ではなかったが、高い天井から光が降り注いで、
    周りを明るく照らしている。
    が、この場所は・・・

    「お墓?」

    壁に行くに連れて盛り上がっている広い空間の丘のような両端からそこらの壁から
    削り取ったような粗い墓石が規則正しく並び、その数は百を軽く超えている。
    しかし、この大量の墓は一体誰のものなのか?
    普通に考えればここの発掘に携わった犠牲者だろうが、
    こんなところに立てる必要はない。
    むしろ、運び出して山の上か周りにでも建ててやるべきだろう。
    じゃあ、一体誰の?

    「グルルルル」
    「どうしたの?」

    突然魔獣が唸り出し、首を振ってある方向を示す。
    示す方向を見るが別になにもない。
    魔獣も僅かに威圧するような唸り声を上げ、視線を戻す。
    だが、僅かに何者かの視線を感じた。
    視線の先は魔獣が向いていた方向とピッタリ一致する。
    ・・・確認しよう。
    もし、何かいたら危険だ。
    意識を集中させ、使い魔とのラインに魔力を集める。
    注がれた魔力で体を作り出し、白き竜が実体化する。
    普段よりも小さめな竜は翼を羽ばたかせ上昇し、注がれる視線の元、
    高い壁に向け炎を浴びせる。
    壁の周囲が煙に包まれ、竜の姿も隠す。

    「ギェェーーーーー」

    竜が悲鳴と共に煙から飛び出し、体に纏った炎を払い空中で姿勢を直す。
    煙が晴れ、それは姿を現した。
    まるで蜥蜴のような平らな胴と這うようにして壁にへばり付く長い手足。
    背中には翼が生え、不恰好な竜のようだ。
    尾からは巨大すぎる蛇が三本生え、各々が別の意志を持って動いている。
    そして全体が赤い鱗で覆われ、あの炎の中、焦げ目一つ付いていない。
    そして、普段よりも小さいとはいえ竜とほぼ同じ大きさ。
    本来ならば存在するはずが無い生き物。
    あれは自然に生まれてくる存在ではない。
    魔科学に魅入られたものが生み出した異端なるもの、キメラだ。

    「なんでキメラがここに!?」

    赤いキメラは張り付いていた壁を離れ、背中の不恰好な翼で降りてくる。
    慌てて、竜を向かわせ迎撃させる。
    今の状態では竜一匹を操るのがせいぜい。
    しかも、意識が乱れて魔力のラインも不安定で竜はその力を出し切れていない。
    さらに、体が言うことを聞かず援護も出来ない。

    (負けないでよね)

    竜が敗れれば次に狙われるのは自分たちだ。
    まさに最後の砦。
    負けるわけには行かない。
    竜とキメラの肉弾戦は一進一退の攻防を見せている。
    お互いに何度か爪が相手の体を襲っているが、致命傷にはなっていない。
    あまり余裕は無いがあの程度の傷なら今の魔力でも再生できる。
    ならば、このまま押し切る。
    キメラが大降りで腕を振るうが竜はそれを捌き、その背中へと爪を突き立てる。
    だが、それを尾の蛇が鞭のようにしなり、竜を弾く。
    姿勢を直して向き直るが、キメラの姿はいない。
    竜がバランスを崩した瞬間、キメラの体が周囲の景色と同化したのだ。
    最初も同じようにして隠れていたのだろう。
    使われている体から判断すればカメレオンか何かの保護色。
    だが、姿が見えないのは厄介だ。
    一体どこに?
    竜もまた羽ばたきながら、首を動かし周囲を見渡し警戒する。

    (羽ばたき?)

    そうだ。姿が見えなくても翼を動かせば音がする。
    だが、音は唯一つ、竜のものだけ、つまりやつは飛んではいない。
    ならば、来るのは!!

    「上!!」

    言うと同時にキメラが保護色を解除し、竜を目掛けて天井から落ちてくる。
    竜も上を向き、迎え撃つべく爪を構える。

    ―ドッ!!

    竜の爪はキメラの翼をもぎ取り、キメラの爪は竜の胸元を貫いていた。
    竜は貫かれた胸元から少しづつ崩壊し、光の粒子となって散った。
    そして、揚力を失ったキメラが大きな音を立て落ちてくる。
    痛む体を鞭打って、魔獣から降り、左手に銃を構える。

    (立つな!!)

    最早立つのもやっとの状態で戦うなど自殺行為のようなものだ。
    だが、舞い上がる土煙の仲からその巨体が現れる。

    「ウグアアァゥーーーーーー!!」

    その姿を見た瞬間、弾けれる様にして魔獣が飛び出し、キメラへと向かう。
    向かってくる魔獣へと口をむけ、口内に炎が溢れる。
    魔獣は一度、私から射線をずらすためか右に動くが、その動きに合わせて
    キメラも首を動かし炎弾を吐く。
    せまり来る炎弾に魔獣はまずは加速して突っ込み、
    十分引き付けたところで消えた。
    保護色などではなく、圧倒的な速さによって一瞬で視界から消えたのだ。
    炎弾が陰になっていたキメラからすれば完全に消えたように見えただろう。
    その一瞬の隙を突き、魔獣が背中に回り、
    残ったもう一方の翼の付け根へと噛み付く。
    背中からきた激痛にキメラは咆哮を上げる。
    暴れ周り、尾の蛇が魔獣を締め上げ喰らい付く。

    「グアアゥーーーーーーーーー!!!!」

    一際大きな咆哮と共に魔獣が翼の付け根を背中の肉ごと食い破り

    「オオオォォーーーーーーーーーーン」

    ついに力尽き粒子となって消滅した。
    魔たる存在である魔獣の最後の瞬間。
    魔獣が消えた瞬間、痛みも忘れ、デッドアライブの引き金を引く。
    だが、それらの銃弾はキメラの鱗に弾かれ届かない。
    飛んでくる銃弾を無視し、キメラの口から炎が放たれる。

    「―嘘つき」

    助けてくれるって言ったのに・・・。
    放たれた炎弾は真っ直ぐ、こちらに向かい。

    ―ッドォォオーーーーーン!!

    耳を突く轟音。
    人間など簡単に焼き尽くす炎が爆発し、周囲を焼き尽くす。
    だが、その炎の中に一つの影があった。

    「嘘つきとは心外だな。ちゃんと間に合っただろ」
    「あっ」

    まるで御伽噺の英雄のような登場。
    自身の身長よりもさらに巨大な盾を前に出し、
    ユナを庇う様にして飛び出してきた。

    「悪いな。心配掛けて」
    「お兄・・・ちゃん?」




引用返信/返信 削除キー/
■194 / inTopicNo.7)  赤き竜と鉄の都第7話
□投稿者/ マーク -(2005/04/24(Sun) 02:43:54)
    『兄』





    「人の妹に手を出しやがって、覚悟しろよ蜥蜴」

    そういって、炎を払うようにして盾を振るうと溶けるように盾が形を崩し、
    一本の剣に変わった。
    兄が持つ、特殊な金属で作られた形状変化の武器MOS、
    メモリーオブソウルだ。
    剣のみならず、武器ならばどのような形にも変化する。
    ただし、弓の矢や、銃の弾のような物に変化は出来るが撃つことは出来ない。
    また、双剣のように二本にする場合は何か鎖のようなもので繋いだ形で
    分離させることは出来ず一つに繋げなければならない。
    あとは、使用者のイメージが重要となるため、真に使いこなせる者でも
    実際に見たことのある剣の形を重視する必要がある。
    だが、慣れれば剣ではなくこのような盾にも出来る優秀な武器だ。
    キメラは炎の中から現れた男の殺気に怯み、逃げるようにして再び姿を隠した。

    「気をつけてね。
     保護色で姿を見ることはできないけど音は消せないはずだから」
    「ああ、分かった」

    兄はこちらを振り返ることもせず、周囲に気を配る。
    静かだ。
    何の音もせず、ただ静かに時間が過ぎる。
    やがて、

    ―ボシュッ

    「ヌン!!」

    遥か上の壁から小さな炎弾が放たれ、それを剣で払い落とす。
    そして、剣を長い鎖でつながれた双剣に変え、その内の一本を炎弾が
    放たれた辺りに渾身の力で投擲する。
    短剣は一直線に壁へと当たり、深々と突き刺さる。
    どうやらキメラは既にその場から離れていたらしい。
    そして短剣が外れたのを嘲笑うかのようにして再び小型の炎弾が放たれた。
    それを手に持った方の剣で炎を防ぎ、長い鎖を勢い良く引き、
    剣を回収、再び投擲。
    そのやり取りが繰り返され、炎弾をかわしながら鬼ごっこが続く。
    しかし、あの巨体では剣が刺さったとしても威力は
    全くと言っていいほど無いだろう。
    そんな圧倒的に不利な状況でありながら、男の顔に焦りも不安も無く、
    僅かに口を動かすだけで、平然としていた。
    向こうは焦れてきたのだろう。
    先程よりも炎弾のペースが速くなり、どんどん放たれる。
    だが、それらを全て防ぎ、放たれた大量の炎弾からキメラのおおよその位置を
    さらに絞り込んでいく。

    ―カチャン

    「コレで終わりだ!!」

    短剣が壁に当たる直前何かに突き刺さり、軋む様な音のする。
    鎖で繋がれた先の剣をへ向け、構築した魔術を放つ。

    「ディスチャージ!!」

    声と共に高圧電流が金属の鎖を駆け巡る。
    一本の鎖で繋がれた剣がキメラの皮膚を貫き、体内へと電流を流し込む。
    キメラは力なく壁から落ち、地面へと落下する。
    盾と短剣を一本の剣に戻し、落下したキメラ目掛けて走る。
    盾から戻した剣を今度は巨大な大剣へと変え、倒れたキメラへと
    振り下ろす。

    ―ズンッ!!

    大きく振るわれた大剣はキメラの首を両断し、首が地面に落ちる。
    振るわれた腕を屈んで避け、首を失ってなお動くキメラに再び剣を振るう。
    体勢を立て直し、突き出された爪が届くよりも速く腕を絶ち、
    そのままの勢いでもう一方の腕も断ち斬る。
    そして、両腕を失い最後の足掻きと言わんばかりにこの体を動かす
    もう一つの頭である尾にいる三匹の蛇を渾身の力を籠めて振るった剣で
    まとめて断ち切り、ついにキメラが動きを止め、崩れ落ちた。
    そして死んだキメラの屍を悲しそうな目で見ながら、
    こちらに歩いてくる。

    「大丈夫か?」
    「うん。なんとか大丈夫」
    「・・・それのどこが大丈夫だ?
     右腕を見せてみろ」

    兄にそう指摘され、素直に右腕を見せる。
    右腕に触れ、折れた腕に触れた手のひらへ力を集まる。
    少しずつ痛みが引き、ついに気にならないほどになった。
    治療の魔術ヒールだ。
    治療の魔術は地味だし、回復の魔術と似ているが実はかなりの技術を要求される。
    本来、治癒能力を高める回復と違い、傷ついた体を文字通り治すこの力は
    意外と高位の魔術に位置する。

    「動かしてみろ」

    右手でこぶしを握り、肘を曲げ伸ばしする。
    完治とはいえないが十分すぎるほどだ。

    「よし。大丈夫そうだな」
    「ありが・・・と」

    (あれ・・・・)

    「ユナ!?」
    「・・・・・・スー」
    「・・・寝ただけか。無理も無いな」

    そういって安らかな寝息を立てるユナを背中におぶり、どこか休ませるに
    良い場所はないかと辺りを見回したところで―

    「ユナ!!大丈・・・夫・・・か?」
    「えーと、誰ですか」

    ユナが入った入り口から一組の男女が走りこんできた。

    「いや、おまえ達こそ誰だ?
     妹の知り合いか?」
    「妹!?
     じゃあ、あんたが噂の男か」
    「噂が何か分からんが説明を頼めるか?
     ご覧の通りユナは眠ってしまってるし」
    「はあ・・・・・」

















    ―ウィーーーー!!

    ―ガガガガガッ!!

    ―カンッカンッカン!!


    五月蝿い。
    一体誰だ?
    久々の安眠を妨害を邪魔するやつは。
    瞼を開け、半分寝ぼけたまま周りを見ようとし―

    「おっ、起きたか」
    「えっ!?」

    現在の状況に気付いた。
    いつもより格段に高い目線に、体に感じる広い背中。
    何か懐かしいと思ったらまさかこの年でこれは!!

    「ちょっ、ちょっと。おっ降ろして!!」
    「うわ!!暴れるな」

    二人っきりならともかく誰かいる状況では行くらなんでも恥ずかしすぎる。
    何とか兄の背中から降りようと必死に抵抗するがビクともしない。
    その際に、兄の背中にやわらかい物が何度も当たっているがそんなことを
    気にしてる余裕も無い。

    「普段では考えられない対応だな」
    「そうですか?」

    と、暴れる私とそれを背負う兄を物珍しそうに眺めるギンとリン。
    悪かったわね、普段と違って!!

    「とにかく降ろして!!」
    「だが、足はまだ完治していないんだ。
     そんな状態では立つのも大変だろう?
     それで悪化させたら元も子もない。
     大人しくしていろ」
    「うっ、ならせめて他の方法にして」
    「他か。では」

    そういって、今度は器用に背負っていた私を前にもって行き、
    両手で抱きかかえるようにする。

    「へっ!? こっ、これは!?」
    「世間一般でお姫様抱っこといわれるものだが?」
    「そういうことじゃなくて!!
     ほっ、他は無いの!?」
    「無いな」
    「なっ!!」

    きっぱりと言い張り、もはや聞く耳持たずとユナの抗議を無視する。
    実はというとレイヴァンとしてもあのままおんぶというのは少し抵抗があった。
    なにせ、背中にやわらかい物が常に当たってどころか押し付けられていたのだ。
    他に人がいるということもあって何とか踏みとどまれたが、
    実は意外と危なかったのである。
    やがて、疲れたのか諦めたのかユナの抗議の声も小さくなり静かになった。
    そして、レイヴァンからとどめに一言が放たれる。

    「では譲歩してこれとおんぶ、どっちが良い?」
    「・・・こっちでいい」
    「良し。人間素直が一番だ」

    恥ずかしさで真っ赤になったユナは兄の顔を見上げながら、
    どことなく嬉しそうでもあった。

    「そういえば、なんかうるさくて起きちゃったんだけど、
     何の音?」
    「アレだ」

    そういって、首を動かし目でその方向を指す。
    指した方向は立ち並ぶ大量のお墓だった。

    「お墓?」
    「ああ。せめて弔ってやろうと思ってな」
    「何を?」
    「キメラたちだ。あれもまた犠牲になったものだからな」
    「じゃあ、ここのお墓は全部・・・」
    「ここにいた大量のキメラの墓だ。
     一週間掛けて全て掃討したと思ったのだが
     取り逃しがいたらしい」

    そっか、ここで噂になった魔物の異常発生は間違いだったんだ。
    どこかが、キメラを処分するためか、はたまた何かの意図があって
    ここに放置して言ったのだろう。
    じゃあ、あの子も・・・

    「ねえ、お願いがあるんだけど」
    「ん」
    「もう一つお墓を作ってくれない。
     助けてくれた子がいたの。
     遺体は無いけど形だけでも弔って上げたい」
    「ああ、いいさ。というわけで頼む」

    そういって、レイヴァンがギンへと振り向き、簡単に言い放つ。
    見れば、銀の右手には最初にの激突した時の奇妙な義手が付けられている。
    さっきの音はコレの回る音と岩を砕く音だったのか。

    「ああ、畜生!!
     お前ら兄妹そろって良い性格してやがるぜ!!」
    「まあ、怪我人の頼みですし仕方ありませんよ」

    そういいながらも、リンに動く気配は無い。
    どうやら、彼女もギン1人にやらせる気らしい。
    ギンは怒りの矛先をそこらの壁に向けるようにして、
    荒々しく壁から大きめの岩を削りだしていく。

    「最高の義手をこんな土木工事に使うなんて彼の技師も草葉の陰で
     泣いてるでしょうね」
    「だったら手伝えーーー!!」

    ああ、駄目だ。
    頬が緩む。
    お兄ちゃんがいるだけでこんなにも違ってくるなんて
    やっぱり私にはお兄ちゃんが必要なんだ。
    改めて沿う実感しお兄ちゃんお体に回した腕の力を強める。

    「ユナ?」
    「ゴメンなさい。ちょっとだけこのままでいさせて」
    「・・・ああ。こんなんで良ければ好きなだけ良いぞ」
    「ありがと」





    形だけ作ったお墓に向け静かに祈る。
    魔獣に対しては少々おかしなことかも知れないが仕方が無い。

    「ありがとう、助けてくれて。
     お兄ちゃんたちもありがとう」
    「どういたしましてってな」
    「俺にも言いやがれ」
    「仕方ないわね。アリガト」
    「心がこもってねえ!!」

    お兄ちゃんにやっと再会できて心が軽くなったのか、
    なんか今ならこいつも少しぐらいは許せる気がする。
    っと、アレ?
    一瞬、足に少し力が入りづらくなり、バランスを崩して倒れかける。

    「だから、言っただろう」

    そして、お兄ちゃんが倒れかけた私を支えそのまま抱きかかえ
    そのまま持ち上げる。

    「やっぱりコレ?」
    「コレだ」

    先ほどと同様にまたもお姫様抱っこというやつだ。
    結構恥ずかしいんだよねこれ。
    まあ、ちょっとだけ嬉しいけど。

    「それにしても」
    「ん?」
    「どうして助けてくれたのかなって思ったの」

    命を掛けて救ってもらっといてなんだけど、
    どうしてそこまでしてこの魔獣は私を助けようとしたんだろう?
    本当、あの魔獣は一体なんだったんだろう?

    「恩返しじゃないのかな?」
    「恩返し。でも身に覚えが・・・って誰!?」

    突如背中からかけられた聞きなれぬ声に対してお兄ちゃんが距離を置く。
    今まで、全く気配がしなかった。
    青で統一された服を着こなし、金の髪がどこか高貴な感じを与えている。
    小柄で年は自分と同じぐらいか下手すれば下かもしれないといった程度だ。

    「やあ、久しぶりだね。
     それにしても二人とも相変わらずだな」
    「「誰(だ)?」」

    多少違ったが私のとおにいちゃんの声がハモった。
    知り合いにこんな男はいただろうか?
    必死に記憶を探るが全然出てこない。
    兄も同様に、同じように頭を抱えて必死に思い出そうとしている。
    そんな私たちの様子に呆れようにして、男がため息をつく。

    「やれやれ、覚えてないのか。
     結構ショックだな。
     これで思い出してくれると嬉しいんだけど・・・
     とりあえずボクの名前はレイス・クロフォードさ」



引用返信/返信 削除キー/
■197 / inTopicNo.8)  赤き竜と鉄の都第8話
□投稿者/ マーク -(2005/04/26(Tue) 00:39:16)
    2005/06/08(Wed) 22:07:33 編集(投稿者)

    『氣孔士』






    「レイス・・・クロフォード?」

    ・・・・駄目だ。
    名前を聞いても全く思い出せない。
    お兄ちゃんがいればそれでよかったからあまり他人のことを
    気にしないで生きてきたから周りにどんな人がいたかも
    ほとんど覚えていない。
    ふと、兄は知っているのか気になり顔を上げると何時になく
    深刻そうな顔つきでレイスを見ていた。

    「あっ、レイヴァン君は思い出してくれたみたいだね」
    「まさか、お前は・・・」

    お兄ちゃんがこんなに動揺するなんて、この男は一体。

    「五艘飛び!!」
    「はっ?」
    「・・・・そっちが出てきたか」

    五艘飛び?
    いったいなんのことだ?

    「忘れはしない。あの卒業式の日を!!
     お前は俺の、いや俺たちの敵だ!!」
    「いや、でも君もなかなか人気あったと思ったんだけど?」
    「ふざけるな!!
     卒業式の時、お前が学園中の女子を全て独占しやがったせいで
     お前以外誰も告白を受けなかったんだぞ!?」
    「学園?
     もしかして学園都市の人なの?」
    「ははは、同期だった筈なんだけどね。
     覚えてないんだ・・・」
    「そうだったんだ」

    あいにく、お兄ちゃん以外に感心が無かったものだから、
    もはや学園都市の卒業生などほぼ全員、名前も顔も覚えていない。
    これもその1人だったのか。

    「で、その卒業式で何があったんだ?」
    「卒業のお約束、告白タイムだ。
     みんな期待してたというのに結局誰も来なかったんだ。
     学園中の男子の期待が殺意に変わるのは当然の事だろう?」
    「・・・否定はしない。確かにコイツは俺たち男の敵だな」
    「ああ、全くだ」


    お兄ちゃんとギンがなにか同調してる。
    けど、下手なことはいえない。
    なぜなら、お兄ちゃんに告白する人がいなかった一番の理由は
    私のお願いという名の脅迫があったからだ。
    もっとも、それでも告白しようとしたのもいたにはいたが、
    全て実力行使で止めた。
    これは絶対に知られるわけにはいかない。
    うう、お兄ちゃんのバカ。
    私だって毎年チョコ上げたり、さりげなく学園都市にあった告白すると
    絶対に成功するというジンクスのある木の下まで連れて行って
    告白したというのに全然本気にしてくれないんだから。
    失敗したときはお兄ちゃんがいたから流石にやらなかったが
    もし1人だったら、失敗した腹いせにその木を綺麗に燃やしていたことだろう。
    ・・・・やっぱり私ってお兄ちゃんの妹でしかないのかな。

    「で、五艘飛びというのは?」
    「数多の女性を落とし、その度に女をとっかえひっかえしていたので
     ついたあだ名が『五艘飛び』だ」
    「ちなみに君たちにも有ったよ。あだ名」
    「ほう、どんな?」
    「兄バカとブラコン姫」
    「ぶっ、あっはっはは。ピッタシだな!!」

    ―プツッ

    「ちょっと、傷が広がります!!」

    お兄ちゃんの腕から離れ、爆笑してるギンへと走ろうとしたところで
    リンに羽交い絞めにされて止められる。

    「離して!!コイツだけは、コイツだけはーーーー!!」







    「落ち着き・・・ました?」
    「なん・・・とか」

    でも、無茶したせいで足の傷が悪化したかも。
    今はそこらにあった岩に腰を下ろして休んでいる。
    お兄ちゃんでも良かったけどこの状況では少々気が引けたので
    しっかりと断った。
    ほぼ初対面(本当は違うが)の人の前でアレはやっぱり恥ずかしいものがある。

    「それにしても一体あなたはどうやってここまで来たんですか?
     音も気配も魔力もその・・・・匂いもありませんでしたし」
    「匂いってリン・・・」
    「かっ勘違いしないでください!!
     そういう意味ではなくて!!」
    「安心しろ。
     ここにいるやつらはみんなそんな事気にしないさ。
     ただ、ちょっと変わった性癖なだけなんだし・・・・」
    「なっ!?
     もっ、元はといえばギンがこんな体にしたんでしょう!!」

    顔を真っ赤にして抗議してくる。
    というか、会話が凄く危険な方向に向かっている気がする。

    「ちょっと、待て!
     なんだ、そのどう考えても勘違いしてくださいといった発言は!?」
    「先に言ってきたのはギンの方です。
     それに紛れも無い事実じゃないですか」
    「それにしたってほかに言い方が」
    「そんなこと知りません!!」
    「あ〜、なんか話が脱線してるけど?」
    「あっ、ゴメンなさい。
     それでどんなトリックなんですか?」
    「それはこれのおかげさ」

    そういって、大きな外套を取り出す。
    とくに変わった様子は無いがさて?

    「高位のアーティファクトの一つでね。
     着けるとどんな音や匂い、気配も外に漏らさず、
     姿も完全に見えなくする優れものさ。
     ただ、つけてる間は喋れないと言うか喋っても気付いてもらえないし、
     何かに触る事も出来ないけどね」

    そういって、外套を被るとレイスの姿と気配が完全に消えた。
    そして、外套を脱ぐとまた見えるようになる。

    「なるほど。では次に、貴方はいったい何しに来たんですか?」
    「いや、ちょっと用事があってね」
    「協団がか?
     とすると俺たちに・・・それともこっちの二人に用があるのか?」
    「まさかアレを盗んだのはお前たち協団か?」
    「もしかしてこのキメラもあんたの差し金?」

    矢継ぎ早に放たれる質問に呆れながらレイスは肩をすくめる。

    「とりあえず、質問は一つずつにしてくれないかな。
     まあ、まず大きな間違いが一つあるからそれ訂正しておくべきか」
    「大きな間違い?」
    「そう、先入観のせいで勘違いしてるね。
     物事には常に例外が、変わり者がいるって事さ」
    「もったいぶらずに教えたらどうだ?」
    「やれやれ、簡単に言えばボクは協団の者ではないということさ」
    「「はっ!?」」
    「ボクが所属するのは教会。
     ちょっとここでキメラが大量に巣食ってるって聞いて
     教会から討伐に行けと言われたんだけど来てみればもう片付いてるじゃないか。
     いや、本当に感謝だよ」

    どうも胡散臭い。
    大体、アイゼンブルグの領土のごく一部で起きた事件に
    協会が介入するとは考えにくい。
    多分、何か別の目的があって隠しているはずである。

    「と言いたいところだけど実はちょっぴり嘘なんだ。
     教会に報告したのは僕自身。
     ここに気になる物があって領内で法規的に動ける権限が欲しかったんだよ。
     まあ、信じにくいかもしれないね。
     だから、態度で示そう」
    「態度?」
    「そう。ボクは君たちが欲しがっている情報を幾つか持っている。
     なんなら、それを提供してもいい」
    「まさか・・・腕のことか」
    「うん、それもその1つだね。あとはユナ嬢たちが知りたがってる筈である
     裏切者の正体。
     ただ、こちらだけが提供するというのはいくらなんでも
     不公平だと思うだろ?
     だから一つ勝負をしよう。
     それに勝てたら僕の持つ情報は全て渡す」
    「それで、こっちは何を賭ければいいわけ?」
    「そうだね、賭けるのは君たちのもつオーパーツか、
     そこのギン君の持つ腕のレプリカが望ましい。
     どうする?」
    「いいわ。こいつの腕を賭けるわ」
    「それが一番だろう」
    「ちょっと待て勝手に話を進めるな!!」
    「何言ってるんですかせっかく見つかった手がかりですよ。
     どうせ、腕なんてまた作れるんですから提供してください。
     ここで逃したら本気で留年ですよ?」
    「ふざけるな。こいつを作るのにどれだけ苦労したと思ってやがる!!」
    「そうですか・・・ならあの事を言いふらしましょうか?」

    ―ッピクン!!

    突然ギンが怯えるようにして顔をゆがめ、リンを見る。
    一体何があったのだろう?
    凄く気になる。

    「まっ、まさか―」
    「ギンとは付き合いが長いですからね。
     色々と知ってますし、例えば11歳のときの―」
    「ああ〜!もう、分かった!!
     コイツを賭けてやる!!」
    「良し、交渉成立。
     ボクから仕掛けたことだからね。
     4対1でいいよ」
    「といっても、勝負って何をするの?」
    「ああ、忘れてた。
     簡単なトランプゲームさ」
    「「「「トランプ!!??」」」」





引用返信/返信 削除キー/
■198 / inTopicNo.9)  赤き竜と鉄の都第9話
□投稿者/ マーク -(2005/04/26(Tue) 00:40:07)
    『ゲーム』







    「まさか、トランプでこんな大事なことを決めるなんて」
    「バカにしちゃいけない。
     賭け事といったらポーカーと昔から決まっているんだ」
    「何の話よ、それ?」

    決まった種目はポーカー。
    1人20点、五人で計100点。
    それらを賭けて最後まで残った人が、
    もしくは日が暮れても残っていたらその中で
    最も多い人が勝ちと言う至ってシンプルなルールに決まった。
    が、始めようとしたところで、このままだとリンが参加できないことに気付き、
    眼の代わりを貸してあげることになった。
    そう、私の使い魔である。
    実はこれでリンの札だけでも良いから知れないかと少しだけ思ったりしたのだが
    使い魔、アルは卑怯な真似は嫌だと主人である私を裏切り、拒否してきた。
    自意識のある使い魔というのはなかなか厄介な者だ。
    おかげで以前は暴走して、散々な目にあった。
    そして、現在。

    「コール」

    レイスが満面の笑みで札をオープンする。

    「ストレートフラッシュ」

    ハートの45678の組み合わせ。
    この役を既に4度やっている。
    むろん、常に勝っている訳ではなく、
    現在の成績は

    レイス42。
    ユナ18。
    レイヴァン12。
    リン32。
    ギン6である。

    流石に仕掛けて来ただけあった無茶苦茶強い。
    ただ、反則的なのはリンも一緒。
    ちょっとした動揺なんかも丸分かりだから、相手にいい札が来たら
    危険を冒さず、直ぐに降りる。
    ただ、リンへの対策は既にしてあるのかレイスの札のときは
    リンも札を読み切れなくて降りずに多くのコインを失っている。
    流石に完全ではないらしく、半分くらいはかわされているが、
    それでも勝っているレイスの強運はさらに非常識だ。
    そして、既に瀕死の状態まで追いこまれているギンの顔はもはや真っ青。
    っと、次は・・・

    「ストレート」

    今度は23456のストレートで私の勝ち。
    いい札だったから何とか勝てたが、これでさらにギンが瀕死だ。
    当然、最初のリタイヤはギンだった。


    ―ギン リタイヤ



    「おい、負けたら承知しないからな」
    「負け犬は黙ってなさい!!」

    戦況は
    レイス34
    ユナ10
    レイヴァン26
    リン30である。
    さきほど、強気で出たレイスの札より偶然4枚替えした
    お兄ちゃんの札が結果的に4カードになるという奇跡の結果勝利し。
    今度は私が大ピンチだ。
    ここで負けてはギンと同類。
    負ける訳には行かない!!
    勝負!!

    「フルハウス」

    4が3枚と8が2枚のフルハウス。
    どうだ、これなら・・・

    「私もフルハウスです。
     13が3枚、9が2枚で」

    ―ピシッ!!

    「残念でした」



    ―ユナ リタイヤ








    「ちゃんと勝ってよね」
    「ははは、任せろマイシスター」

    なんかお兄ちゃんがかなりハイテンションになってる。
    まあ、こういうゲームは好きだったけどずいぶん負けず嫌いだったからな。
    やっぱり、勝ってるのが原因かな?

    ちなみに現状は
    レイス32
    レイヴァン36
    リン32とかなり接戦。
    一気に逆転した原因は2回ほど前に起きたリンのブラフ。
    かなり強気で出て来た所為でレイスは降りたのだが
    怪我の功名というべきか負けず嫌いな性格でお兄ちゃんが引かずに受けて立ち、
    リンのフラッシュに対してお兄ちゃんのストレートで勝利。
    一気に順位が変動した。
    このまま勝てればいいんだけど・・・


    「フラッシュです」
    「うっ!」

    「ストレートフラッシュ」
    「がっ!?」

    「フルハウス」
    「なにぃ!?」


    「はい、終了です」
    「バカなぁぁーーー!?」



    その後、一気に転落。
    最後は3のワンペアに対してレイスが2ペア、リンがスリーカード。
    と、屈辱的な負けだった。



    ―レイヴァン リタイヤ




    まさに頂上決戦。
    レイス52
    リン48と差は4枚。
    もう日も短くなりあたりも暗くなってきたから、
    ランタンを前にして両者とも札をにらんでいる。

    「これがラストだ」
    「ええ、これで私が上だった私の勝ち」
    「そして同じ、もしくはボクのほうが上ならボクの勝ちだ」

    ついにこの長き戦いが終わるのか。

    「いざ」
    「勝負!!」

    結果は―

    レイス、9・10・11・12・13のハートのストレートフラッシュ。
    たいしてリン、1のフォーカード。
    つまり結果は・・・

    「リンの勝ちだな」
    「ヨッシャー!!」

    ギンにしてみれば腕を守れたことが何より嬉しいのだろう。
    まあ、どちらにしろリンの勝利を祝福していることには変わりない。
    しかし、本当に接戦だった。
    さて、あいつが約束を破るかもしれないからとっとと確保しておこう。
    って、どこにもいない。
    まさか、もう―

    「ははは、流石に逃げないよ」
    「えっ!?」

    と、手にあの外套を持ったまま突っ立っているレイス。
    ・・・じゃあ、その手に持っているのは何?

    「さてと、皆集まってもらおうか。
     僕が知っていることを話そう」







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■199 / inTopicNo.10)  赤き竜と鉄の都第10話
□投稿者/ マーク -(2005/04/26(Tue) 00:42:58)
    『金眼』







    「まず、想像はついてると思うけど、ギン君たちが追っているもの居場所と
     ユナ嬢の探しているものは実は同じだ」

    何か関係があるかもしれないと判断していたが、予想通りだったのか。
    あそこでリンたち手を組んでおいてつくづく正解だった。
    おかげでおにいちゃんとも早く再会出来たし。

    「それで、君たちはゴールドアイって知ってるかい?」
    「ゴールドアイ?」
    「そっちの二人は聞いたことはあるよね?」
    「そりゃ、この街の住人で知らないやつの方がおかしいさ」
    「なんのことなんだ?」
    「『銀の腕』と唯一、肩を並べられたという技師のことです。
     もっとも、『銀の腕』の方が技術が一枚上だったため、
     あまり街の外では知られていないのですが、世界で二番目の
     技術者だったと言えるでしょう。
     そして、その目の色が金色に見えたことからついた通り名が『金眼』。
     ゴールドアイと言われてます」
    「しかし、そうすると犯人はあそこだというのか?」
    「うん、そうさ。
     君は話が早くて嬉しいよ」

    なんか、私とお兄ちゃんを無視して話が進められている。
    どうやら、銀とリンは何か分かったらしいが私たちはチンプンカンプンだ。

    「どういうことか説明して」
    「はい。
     このゴールドアイの子孫が作ったというこの都市最大規模のギルドが
     ありまして、多分、腕はそこが奪ったと思われます」
    「・・・証拠と動機。目的は?」
    「証拠と言われても直ぐには用意できないが、教会の人間の言うことなら
     証拠にはならないかな」

    確かに、このギルドが王国と癒着しているのならば、それらとつるんでいた教会が
    技術を流した犯人を知っていてもおかしくはない。

    「分かった。じゃあ、動機と目的は?」
    「これは俺でもわかるぞ。
     あそこは大きいから人手はあって、大量生産の武器や鎧などを売っているんだ。
     良い意味でも悪い意味でも作る事よりも商売が目的だからな。
     商売が目的ならその中身に内包された新技術や超技術を解析し、転用できれば、
     とてつもない利益になるだろう」
    「なるほど。
     結局お金儲けのためってわけね。
     でもリン。大きなギルドを聞いたとき、このギルドの名前無かったわよ」
    「仕方が無いじゃないですか。ユナの条件を満たしてなかったんですから」
    「条件を満たしてない?」

    どういうこと?
    何か特別な条件など指定しただろうか?

    「ユナが言ったのは王国に技術を流したものでしょう?
     ここにはそんな高い技術は持ち合わせてないんです。
     せいぜい、王国よりちょっと秀でてる程度しかなく、ほとんど生産量だけで
     ここまで大きくなったところですのでテクノスの技術もないので
     流出なんて間違っても出来ない筈だったので除外してしまったんです」
    「えっ、でも大きなところなんでしょ?
     テクノスの技術ってそこまで高いの?」
    「リンも言ってたがここのギルドは生産力だけが売りと言えるところで
     技術力の低さは目に余るほどだ。
     もともと、『金眼』の子孫が代々責任者となり、大きな仕事は
     全てその責任者に任されて他のやつは大量生産品の製造を任されて
     ここまで大きく発展したんだ。
     つまり代々、ここの責任者の才能とカリスマでギルドは成り立ってきたのだが、
     その分、責任者以外の技師は最低限のレベルの技術しかないため、
     レベルは全体的に低い。
     そのうえ、今のここを取り仕切っている責任者は商売人としては才能が
     あったが、技師としての才能など全く無いやつで、結果『金眼』のギルドでは
     誰も大きな仕事をこなせなくなってしまったんだ。
     今ではそれが問題になって客が減り、他の企業に後れを取り始めている」
    「で、それをどうにか挽回しようと王国などの他国と極秘裏に友好関係を作り、
     あわよくばアイゼンブルグを支配しようとすら思ったらしい。
     その後、秘密裏に友好関係を築いた王国からテクノスの製作を依頼されてた。
     けど、これで造れませんなんていえば、自分たちの身が危ない。
     だから強攻策に出たんだ」
    「どういうこと?
     私たちが探してるのは『銀の腕』の強奪を行ったものたちでしょ?
     それが同じだってことはテクノスのために『腕』を奪ったってことになる。
     まさか、腕にその技術が内包されてたとでも言うの?」

    技術がないからテクノスの技術を欲した。
    だが、盗まれたのは『銀の腕』
    どうも、話が繋がってこない。
    とすると、レイスの言ったことは少なくとも一部分が嘘なのか?

    「ああ、それはだね。
     ギン君たちの学園の紛失物は腕とレプリカだけでなく、
     学園が保管していたテクノスの資料もコピーされていったらしい。
     ほら、あのギルドだけにしては手際が良すぎたと思わない?
     実は王国と学園都市なんかも資料の奪取に関係してたんだ。
     むしろ、本来の目的はその資料だけだったらしく、協団も
     あくまで腕の奪取は『金眼』の勝手な行動だと言っている」
    「学園都市まで!?」
    「そうさ、テクノスの技術は協団でも不完全なものだからね。
     そのデータは欲しかったんだ。
     その資料を基に彼らはテクノスを完成させた。
     まあ、その割に全滅って言う情けない結果に終わったけど。
     ほら、君たちが相手にしたキメラがある意味その証拠だよ。
     レイヴァン君なら気付いただろ?
     あのキメラに埋め込まれてたものがなんだったのか」
    「・・・弔った際に気付いたが全部のキメラに必ず一つは機械が埋め込まれていた。
     テクノスの実験の過程で造られた試作品だったということか」
    「そうさ。ついでに言えばそのキメラは協団が造ったはいいが
     始末に困ってたのでギルドに提供したらしい。
     これが今回の事件の全貌さ」
    「・・・・そんなことを教えていいのですか?」
    「構わないよ。
     どうせ、僕は好き勝手にやって構わないと上から言われてるからね。
     好きなようにやらせて貰うさ」
    「じゃあ、最初に言った恩返しって何?」
    「ああ、それか。
     二人とも小さな猫を助けた覚えはないかい?」
    「あっ」

    そうか、学園で怪我をして雨に濡れてた猫をほっとけなくて
    寮に持ち帰ってお兄ちゃんと世話してたことがあった。
    恩返しってそんなことで?

    「無茶な実験のせいでね。
     全員、どうせ一ヶ月くらいで死ぬ予定だったらしい」

    そんな・・・。
    寿命が残り少なかったのに、生きたかった筈なのに、
    私なんかを守って死んで・・・私のせいで―

    「違う」
    「え」
    「こいつはお前助けられて本望だったんだ。
     多分、死期を悟っていたから助けてくれた恩人を
     命に代えても助けられて嬉しかったんだと
     俺は思う」
    「お兄ちゃん・・・うううっ」
    「泣きたいときは泣いてもいいだぞ」

    お兄ちゃんに抱きつき顔を埋めながら泣く。
    そんな私を強く抱きしめ、優しく頭を撫でる。
    今だけは・・・今だけは泣いてもいいだよね。
    お兄ちゃん。








引用返信/返信 削除キー/
■201 / inTopicNo.11)  赤き竜と鉄の都第11話
□投稿者/ マーク -(2005/04/27(Wed) 20:10:06)
    『奪還』








    夜も明け、空に明るい日差しが上り、辺りを明るく照らす。
    身体をほぐし、心を落ち着かせる。

    「さて、始めるか?」
    「いいよ」

    構えを取り、お互いに向き合う。
    下手に動けず、にらみ合いが続き硬直状態に陥りながらも
    じりじりと、円を描くようにして両者とも移動している。
    そして僅かな、本当に僅かな隙をつき、硬直を破り相手目掛けて駆け出す。
    近づき、間合いに入ったところで膝蹴りをくらわすが、
    それを冷静に手の平で受け流し、カウンターに反対の手で掌底が放たれる。

    「ーーーーッ」
    「甘いぞ」

    軽く後ろに吹き飛ばされ、お互いの距離が空く。
    地に足をつけ、踏ん張り態勢を整えようとしたところで
    さらなる追撃が襲い掛かる。
    繰り出される連撃を逸らし、弾き、受け止める。
    その連撃の合間を縫って蹴りを繰り出すが届かない。
    お互いに技を打ち合うが全て決定打にはならない。
    そして、勝負を終えるに十分な速さである必殺の一撃が
    繰り出される。

    ―ここだ!!

    その渾身の一撃を見切り、手の平で拳を逸らして回避する。
    そして私もさらに踏み込み、相手が踏み込んできた勢いをプラスした
    一撃を鳩尾へと食らわす。
    必殺の一撃をかわされた上でのカウンターだ。
    普通ならここで決まる。
    ―普通ならば。
    まるでその攻撃を予期していたかのように私の一撃を空いた方の手で
    わたしの拳を包み込むようにして押さえつけ止めている。
    読まれてた。
    そういうことだろう。
    おそらく、先ほどの一撃もかわされると想定してさらなる一撃を
    用意していたのだ。
    そして押さえ込んだ腕を引き、もう一方の手で私の身体を掴み、
    勢いよく投げる。

    ―ポスン

    激突する瞬間、手を引き威力を弱めてくれたため怪我などは無い。
    しかし、傷が完治してやっぱり歯が立たないか。

    「もう、傷はよさそうだな」
    「うん、けどやっぱりまた負けちゃった」
    「そういうな。
     魔術で負けて、肉弾戦でも負けたら俺の存在意義が無くなりかねん」
    「でも、魔術はお兄ちゃんのほうが数は多いよ」
    「それでもだ。
     お前はもともとは接近戦のタイプじゃないだろう」
    「でも、やっぱり悔しい」

    あれから結局二週間近く私の所為で動けなかったがそうやく傷も治った。
    回復の魔術を使えばもっと早く治ったが、どちらにしろ色々と準備がいるし、
    何でも回復魔術に頼っていると普段からある治癒力が低下するから
    重傷や緊急のとき以外はあまり魔術に頼らない方がいいらしい。
    そんなわけで自然に治癒するのを待ってたわけだが、
    一応ほぼ完治したとはいえその治り具合を知るためとリハビリをかねて
    数日前からこの組み手をやっているが、全く歯が立たない。

    「まあ、これで傷はもう大丈夫だな」
    「うん、心配かけてゴメンナサイ」
    「それはあいつらにも言ってやれ。
     最後に挨拶していくか」
    「そうだね」






    全員で坑道の中を進み、あの墓場に出る。
    広大な空間に広がる大量の墓碑を前にして、みな祈るようにして頭を下げる。

    「さてと、行くか」
    「ええ。あの子の敵は絶対にとって上げる」
    「散々、時間食わせやがって、待ってろよ」
    「もう時間もありませんし、さっさと終わらしてしまいましょう」
    「・・・・詳しい場所は知ってるの君たち?」

    ―ピクッ

    この山から出ようと歩き出したところでレイスから声がかけられ
    4人の動きがいっせいに止まる。
    そしてほぼ同時に後ろに振り向き、レイスを見る。

    「あー、あんたはこれからどうするんだ?」
    「はあ、知らないって素直の言えばいいのに。
     しょうがない。
     どうせボクもそこのアーティファクトを回収しようと持ってたし
     ついてってあげるよ」
    「・・・・・まさか、私たちに暴れさせて火事場泥棒でもやるつもり?」
    「もう少し、マシな言い方をして欲しいけど、まあその通りだね。
     でも、出来る限り君たちの手伝いはしてあげるよ。
     ようはギブアンドテイクさ」
    「利害が一致している間は味方ってことね。
     それで十分だわ。
     とっとと案内しなさい」
    「人使いが荒いね」










    「なあ」
    「なによ?」
    「この組み合わせは何だ?」
    「何か変?」
    「普通、図体のでかい俺とレイヴァンで二人、
     小柄なお前とリンとレイスで三人に分けるだろ」
    「そんな大差ないじゃない。
     文句があるなら降りれば?
     これは私の使い魔なんだから」
    「うっ、分かった」

    まあ、確かに言い分はもっともかもしれない。
    この中で一番大きいのはギン、次にお兄ちゃん。
    その次はレイスで、リンがさらにその次。、
    腹立たしいことに私が実は一番小さい。
    そんなわけで向こうはかなりきつそうだから文句も言いたいだろうが、
    これは私に使い魔なんだからそれに乗せてもらっていると
    言うのに文句を言われる筋合いはない。
    無論、これ以上、文句を言ってきたら問答無用で叩き落す気だ。

    「ちょっと、ギン!!
     もう少し前に行ってください」

    向こうは竜の背中に三人もまたがった状態だ。
    おかげで、前からレイス、ギン、リンの順で三人がピッタリと
    くっついている。

    「きゃっ」

    と、不意にバランスを崩したのか、リンが倒れかけ無我夢中で
    ギンの背中に抱きつく。

    「ごっ、ごめんなさい、ギン」
    「いや、別にこっちも得したし気にしてないぞ」
    「得?」


    見ればギンの顔がどことなく緩んでいる。
    ・・・最悪。
    その迂闊な発言に疑問を抱き、怪訝な顔をしていたが、
    何かを悟ったらしく、悪魔を思わせるような邪悪そうな笑みのままで、
    肋骨の辺りを力強く締め上げる。

    ―ミシッミシミシ

    「ガッ!?」
    「・・・得ってなんのことですか?」
    「おっ折れる。りん離してくれ!!」
    「ちゃんと、質問に答ええてくださいね?」

    そういいながらリン抱きしめている腕の力をさらに強め、
    ギンの体からあまり聞きたくない擬音が聞こえてくる。

    「わっ、悪かった。
     だが、わざとじゃないぞ!?
     大体、抱きついてきてたのはお前の方だ」
    「なるほど、、君さっきまでボクに抱きついてよね?
     それはつまり、そういうことなのかい?」
    「なにぃぃぃ!?」

    そう、さきほどリンがバランスを崩したのは竜が少々揺れたからで
    ギンもレイスも多少バランスを崩していた。
    そしてその際、反射的にレイスの体を掴んだわけだが。

    「あいにく、ボクは女の子にしか興味がないんだけどな」
    「おい、待てこら!?」
    「お兄ちゃんも気をつけてね。
     1人になったら危険だから」
    「ああ。だが、お前も気をつけろ。
     もしかしたら男女問わずでただの年下趣味という可能性もある」
    「確かに、僕はギン君より年下だと思うけどね」
    「ギン、そうだったのですか。
     だから今まで私を―」
    「いい加減にしやがれーーーーーーー!!!」

    ―ボキッ

    ギンの咆哮と共にどこか悲しそうな顔をしたリンが腕につい力を入れすぎ、
    ギンの肋骨の辺りから嫌な音が聞こえ、そのまま眠りについた。







    「それにしても、これがユナ嬢の使い魔か。
     はっきり言って非常識なものだね」

    結局、気絶したギンは上に載せておくのは狭くて嫌だ、
    という二人の意見を尊重し、竜の腕に握らせた。
    おかげで、もっともでかいのが消えたので背に乗っている二人は
    随分とのんびりしている。

    「何が言いたいの?」
    「いや、流石は王の力だ。
     人知を超えている」
    「なっ!?」

    何でコイツが王のことを?

    「っと、ここで降りてくれ。
     これ以上進むと見つかってしまう」 

    とりあえず、レイスの言うことに従い竜に降りるよう促す。
    下の森の中に降りて竜を霊体化させる。

    「こっちだ」
    「ねえ、どうして王のことを知っているの?
     貴方も王の1人なの?」
    「さあ?それはお互い生き残れたら教えてあげるよ。
     どうせ、君らにはそれらの知は残されてないんだろ?」

    間違いない。
    この男は王の秘密を知っている。
    だが、これから大きな戦いがあるというのに
    仲間割れなど愚の骨頂だ。
    力づくで聞き出すわけには行かない。
    だが、一体こいつは何者?






    「ほら、見えるだろう?
     彼らの極秘の研究施設の一つで、
     あれこそが僕たちの目的地だ」

    そういって、降りてまずギンを叩き起こし、散々歩いてきた先にあった
    ひっそりと佇む建物を指差して語る。
    館というにも城というにも何かが違う。
    はっきり言ってこれは砦というのが相応しい。
    なにかとてつもない存在から身を守るために作られた強固な要塞だ。
    巨大な壁で周囲を覆い、ちょうど4つの門が規則正しく並んでいる。
    そしてその入り口や、内部には大量の警備員が見張り、正面突破はかなり厳しい。
    屋上には四方になにやら奇妙な大筒が4つ置かれている。
    だが、あれは危険なものだ。
    おそらく竜さえ仕留められるであろうオーパーツの模倣品。
    空中からの進入も不可能だ。

    「見ての通り地上はおろか空からの進入も想定された強固な砦さ。
     はっきり言って進入するだけでもかなり難しい」
    「あの大筒は?」
    「ああ、あれか。
     あれはとあるオーパーツをコピーした劣化品らしく、
     防衛用ということでコードネームは『サキモリ』。
     コピーといえでもあれの一回り小さい携帯用、と言っていいかどうかは
     大きさ的に怪しいけど、その『キリビト』という兵器を持ってして
     テクノス用に竜を捕獲したらしい。
     だから、少なくとも竜を落とすくらいの威力はあると
     覚悟しておいたほうが良いね」
    「じゃあ、ユナの竜による奇襲は却下か」
    「現状では正面からの奇襲が不可能なのは確かだよ」

    つまり、あの『サキモリ』とやらさえ破壊できれば可能なんだけど、
    近づけば間違いなくお陀仏だ。
    かといって遠距離からの狙撃は―

    「遠距離からの攻撃は駄目なのか?」

    ああ、言っちゃった。
    やっぱり、分かってなかったか。

    「ギン。この距離からの狙撃でアレを沈黙させられると思います?」
    「確かに遠いけど、当てるだけなら・・・・て、ああ、そういうことか」

    どうやら分かったらしい。
    だが、機械技師がそれで本当に大丈夫なのか?

    「確かに的は大きいですけど、沈黙させるには重要な部分を
     撃ち抜く必要があります」
    「加えて言えばここから狙撃して、それで止まらなければすぐさま
     この辺りを狙ってくるだろう。
     それが運良く避けられたとしてもそんな派手なことになったら
     襲撃の可能性ありということで警戒が厳しくなり奇襲も出来なくなる」
    「そんなわけでそれは不可能だな」
    「なら―」
    「言っとくけど魔術はさらに無理だから。
     君だって魔力喰らいや魔力封じの素材ぐらい嫌って程知ってるだろ?」

    というか、これは竜の報復を想定しての装備だろう。
    そんな簡単には行くはずも無い。
    なにか、想定外の存在があればやってやれないこともないと思うけど。
    あっ、そういえば。
    コイツの・・・これならうまくいくかも。
    でも、僅かな欠陥がある。
    それが後にどう繋がっていくかは見当もつかない。

    「一つ作戦を考えたけど」
    「へえ、どんな?」
    「まず、1人だけ先発者を出す」
    「なっ!?」
    「囮・・・ということですか?」

    流石にこれにはギンとリンも絶句する。
    仕方があるまい。
    1人だけで進入させるなどある意味、死ねというようなものだ。
    もっとも、殺させるつもりは毛頭も無い。

    「別に死にに行けと言ってるわけではないし、囮になれとも言ってない。
     ただ、内部に進入してあの大筒の動力か動力とコイツを繋ぐ
     ラインなんかを破壊してもらう。
     その際にレイスの持ってるあの外套をつかえば、気付かれずに進入できる。
     そして動力が無ければあれはただの大筒だからどうにでも出来る。
     あとは内部の情報を探ってもらって、そのまま腕を回収してもらえれば
    理想的だけど、向こうもそれほどバカじゃないだろうから、
    腕の保管場所には見張りがあるか、鍵でもかかってるでしょうね。
     でもその間に突っ込めば私たちが陽動になるから
    先に入った者の危険も減るし、動きやすくなる。
     私はこれが一番確実だと思うけど」
    「なるほどな。
     だが、この作戦では先発者が全ての鍵を握る。
     誰にするつもりだ?」
    「多分、これが出来るのはただ1人。
     他の役目があるから私もリンも駄目。
     ギンも、そしてお兄ちゃんでも外套は多分使いこなせない。
     だから、先発者は元々その持ち主である―」
    「僕、という事になるわけだ。
     中を探ると言うのは願ったりな仕事だから僕は全然構わないけど、
     僕を信用していいのかどうか判断に困る。
     ユナ嬢が少々渋っているのはそんなところかな」
    「何故、俺では駄目なんだ?」
    「簡単さ。これは魔力の流れは防いでくれるけど
     異端な力の流れは隠せない。
     たとえ、これを着ても君はこの世界では異質として映る。
     そうだろう?」

    やっぱり、レイスは私の、そしてお兄ちゃんのことも知っている。
    本当に信用していいのか?

    「分かった。
     この作戦で行こう。
     俺はコイツを信じる」
    「えっ!?」
    「どうしたユナ?
     そんな鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして」
    「いいの?文字通り、こいつに命を預けることになるんだよ?」
    「構わんさ。
     それにいざとなったらお前の命は俺が守る。
     だから心配するな」
    「お兄ちゃん・・・」
    「そういうわけだが、ユナ嬢は?」
    「お兄ちゃんが賛成なら反対する必要は無いわ」
    「君たちは?」
    「まあ、お前はなんとなく信じていい気がするから、俺は構わん」
    「右に同じくです」
    「これはかなり期待されているようだね。
     では期待を裏切らないようにするとしよう」




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■202 / inTopicNo.12)  赤き竜と鉄の都第12話
□投稿者/ マーク -(2005/04/27(Wed) 20:11:42)
    『突入』









    「あ〜あ、退屈だな」
    「仕方が無いだろう。ここはそれだけ重要なところなんだ」
    「そういったってここに攻めてくるような非常識なバカはいるかよ」
    『ふむ、随分と緊張感のない男たちだね』

    そういって、決して目の前の自分以外には聞こえない声で呟き、
    そのまま男たちを無視して、周りを調べる。
    学園都市においても魔科学については多少は学ぶ。
    彼にとってはこの程度の機械の操作は朝飯前である。
    だが、あいにく今の状況では触ることも出来ない。

    (さてどうしたものかな?)

    目的はあくまで屋上のオーパーツと内部にあるはずの動力とを
    繋ぐパイプライン。
    そこの場所を探し当て、破壊することがまず一番の目的なのだが。

    (少し・・・眠ってもらうか?)

    今なら目の前の制御版の方を向いてるし、何の警戒もない。
    外套を取り、一瞬で二人に意識を刈り取る。
    最悪、気絶した後に記憶をいじれば寝ぼけただけで済むかもしれない。
    そう考え、相棒である2本の木の棒を取ろうとし

    ―チャリィィーーーーーン

    「誰だ!!」

    あのポーカーで使っていた金貨の一つが落ちた。
    次の瞬間には男は二人とも振り返り、金貨のところまで歩み寄ってくる。
    慌てて男たちの来そうに無い、壁の方による。
    この外套がある限り向こうが気づくことはないが、偶然にも触れられてしまえば
    それは変ってくる。
    触れられるはずが無いものに触れていると言う矛盾、そして触れているのに
    触れてはいないと言う矛盾が生じるとこの外套は意味をなくす。
    つまり、これをつけている状態で他の物に干渉してしまうと、
    外套はその効力を失うのだ。
    しかし、これでは先ほどのように全く警戒の無い状況で昏倒させるのは
    ほぼ不可能となった。だが、そこで気付く。
    男は入り口付近に落ちている金貨を拾い、廊下へと出て行った。
    しかも、わざわざ扉についた3錠もの鍵を律儀に全てかけてドアを閉めてである。
    どうやら、僅かにドアが開いてた所為でこの部屋を覗き見していたやつでもいて
    廊下に逃げていったと考えたらしい。
    だが、これはチャンスだ。
    今の状況なら機械を操作できるし、近づいてきてもドアの鍵を開ける音で
    気付くことが出来る。
    しかも、この部屋の鍵は外からは鍵がいるが中からは不要なタイプだ。
    今なら進入者だと確信がないから確かめに行ったのだろうが
    そうすると早く動いた方がいい。
    そう考え、すぐさま行動へと移し、端末に触れる。
    ひとまず、この要塞の見取り図でも出てくるといいのだが―

    「なんだこれは?」











    「どう?反応は」
    「まだですね」

    リンが耳のイヤリングに手を当てながら答える。
    ギンが作った感覚の補助具だが、実は通信機能もあるらしい。
    もう一つの端末はギンが持っていたが今は無い。
    作戦が成功したかどうかなどの連絡の取り合いに使うことになったのだ。
    ギンは僅かに渋っていたが結局、レイスに渡した。
    しかし、そう簡単にことが進むとは思ってなかったからこの程度の遅れは
    想定の範囲内だが、やはりただ待つのはストレスがたまる。

    「あ、そうだ。リン」
    「はいなんでしょう?」
    「中に入ったら、ちょっと手伝ってくれない?」
    「私がですか?」
    「そう、リンにしか出来ない事よ。
     いい、実は―」



    「―なるほど分かりました。
     確かにそれなら私が適任ですね」
    「じゃあ、入ったらお願い」
    「任されました」

    よし、後はレイスからの報告を待つだけ・・・・

    『あ〜、聞こえる?』
    「あら、随分とタイミングがいいですね。
     こちら『鈴』。
     状況はどうですか」
    『こちら〈氣公子〉。
     ラインは断ったが、気付かれればすぐさま修理されると思われる。
     少々、急いでくれ。
     念のため〈サキモリ〉を破壊してから突入するように全員に伝えてくれ。
     それでは中で会おう』
    「―というわけです。
     行動開始ですね」

    というか、その名前は何?
    はっきり言って盗聴の心配なんて絶対にないのに
    なんでそんなことしてるの?
    そんな疑問が顔に浮かんだのだろう。
    にっこりと微笑みながらリンが私が心の中で聞いた疑問に簡潔に答える。

    「気分です」
    「ああ、そう。
     もういいや、一気に突入するわよ」

    2匹の竜を両方とも実体化させ、黒い竜に飛び乗る。
    ギンとお兄ちゃんは白い竜に飛び乗り、リンに手を貸して
    背中へと引っ張り上げる。
    全員乗ったのを確認し、竜に指示を与え、飛翔する。
    飛び上がった竜は一直線に巨大な建物の屋上へと向かう。
    レイスはしっかりと仕事をこなしたらしく、大筒は何の動きも示さない。
    やがて、大筒の上空へと差し掛かり、お兄ちゃんがMOSを大剣へと変え、
    それを下に突き出すようにして飛び降りた。
    降下したときのスピードも加わって、大剣は大筒の内部へと深く突き刺さり、
    その次の瞬間、弾かれるようにいて剣を引き抜き他の三つの大筒へと突進し
    剣を突き立てる。
    全部の大筒が無残な穴を開け、内部の機械を露出させながらスパークを起こす。
    どうやら、今は爆発する気配はないらしい。
    だが、私から見てもこれでは使い物にならないだろう。
    念のためギンとリンに顔を向けるが同じ判断らしい。
    しかし、まだ気付いてないのか?
    下からは全く慌てた様子はない。
    おそらく、この大筒を信用しきっている結果だろう。
    リンに聞いても内部に異変はないらしい。
    なら―

    「やりなさい」

    言うがいなや、竜の尾がまるで鞭のようにしなり大筒へと叩き込まれる。
    竜の強靭な力に負け、床に刺さっていた根元ごと台座がへし折れ、
    下へと叩き落す。
    そのままの勢いで、二匹とも二つ目の大筒を叩き落し、この高さから
    圧倒的な質量を持つものが落とされたことによって、凄まじい轟音がする。
    その音によって、下の階層などから慌てて駆け出す音など完全にパニックに
    陥っている様子がが伝わってくる。
    初めからこうしてば、もっと楽だったかもしれないが
    不確定な要素があったのだから仕方ない。
    それに既に魔力を集めた状態で破壊してたら暴発という危険もあったのだから
    これでいいだろう。
    まあ、今だけなら屋上よりも下に意識が行ってるから有利だろうが、
    落ちてきた物の正体が分かれば今度は逆にこちらに意識が向かう。
    だから、ある程度の時間が経ち、出来る限り人が減ったところで
    奇襲をした方がいい。

    「そろそろ行くぜ」

    そういって、付け替えたあの奇妙な槍(ドリルと言うらしい)を構え
    回転させながら下へと突き立てる。
    どうも、下に敷いてある石のようなものは魔力を吸収、保存するE・Cと
    似た性質の物質のようで竜を地面に降ろすと妙に疲れる。
    というより、魔力を吸われている様な感覚だ。
    でも、その分強度はそれほど高くない。
    案の定、ギンの義手によって屋上には大穴が開き、
    下を覗くが暗くてよく見えない。
    意を決して、そこから飛び降りて静かに着地する。
    出たところは特に何の変哲もない物置のような部屋だ。
    保管室と言うには寂れすぎているが念のため、確認するべきだろう。

    「ありそう?」
    「いえ、もっと下ですね」
    「わかった。
     多分、この物音で気付かれただろうから、多分敵もこの辺りまで
     近づいてきてると思う。
     一気に突破するわよ」

    皆黙って頷き、戦闘の準備をする。
    ギンは腕をいつもの義手に戻し、お兄ちゃんもMOSを一番使いやすい基本の形の
    手ごろな片手剣にかえる、今まで戦闘にはあまり参加しなかったリンも
    小型のハンドガンを手に持っている。
    私は腰の左右にデッド・アライブ、後ろにノーザンライトを装備。
    あと、腰のポーチやポケットには銃弾がたっぷり詰まっている。
    全員の準備が整い、近づいてくる足音を静かに聞き、立ち止まって
    ドアを開けたと同時に腰のデッドアライブを抜き、撃ちこむ。
    崩れ落ちる男の隣を抜けて部屋を飛び出し、廊下を走ってくる二人の敵に
    引き金を引く。

    ―ダッーーーン

    「こっちも片付きました」

    そういって、硝煙の吐き出す手元のハンドガンを両手で握りながら
    こちらを見る。
    見れば、向こう側にも同じように二人の男が仰向けに倒れている。
    そして、出番を奪われたギンとお兄ちゃんがどこか居心地悪そうに
    今更ながら出てくる。

    「はやく移動した方が良さそうだな。
     まずはレイスに合流するとしよう」








    「撃てぇぇぇ!!」

    目の前にはもう何度目かも分からない、一列に並んだ形で銃を構えた
    何人もの兵が現れる。
    同時に放たれた銃弾は逃げ場を完全に消し、避けることは出来ない。

    「リン、後ろに」

    リンが自らの後ろに入ったのを確認し、銃に魔力を通して魔力の
    障壁を生み出す。
    デッドアライブに備わった特性の一つなのだが、あくまで簡易的な障壁なので
    高い強度を出そうと思ったら使用する魔力が半端でなく上昇する。
    比例ではなく、むしろ二乗とかそんな感じで膨れ上がっていくため
    大規模な攻撃には耐えられない。
    けど、多少魔力が篭もっているかいないか程度の弾丸では
    最低限の魔力障壁でもひび一つ入らない。
    同じようにギンも装備した腕についている力で障壁をつくり防いでいる。
    お兄ちゃんにいたってはMOSを大きな盾にして身を守っている。
    だが、敵は何の学習能力もないのかそんな私たちに対して
    何の成果もない攻撃を続けている。
    はっきりいって、どう考えても私たちの力が尽きるより、
    弾丸が尽きる方が早いだろう。
    だが、こんなところで時間を食われてはたまらない。
    銃撃の僅かに弱まった隙を突き、お兄ちゃんとギンが並んだ兵の目前まで迫り、
    一人づつのしていく。
    そうして開いた道を走り抜け、私たちも後を追うようにして走り去る。
    しかしここは広すぎるうえに複雑すぎる。
    突入してから結構時間が経っているが私たちは
    まだ最上階から二階分しか降りていない。
    というより、なかなか階段が見つからず降りられない。
    今のところ、兵の来た道を追ってきているが、おかげで兵との遭遇もかなり多い。
    あと、ギンとお兄ちゃんが最初に全く出番がなかったのがショックだったのか、
    先ほどから前に突出しすぎている気がする。
    しかも、何か胸騒ぎがする。

    「む、またか」

    ちょうど、曲がり角の先に再び兵隊が顔を出してきたところだった。
    まだ、しっかりと準備もしていないのか慌てて列を作っているようだ。
    そんなへに向かってお兄ちゃんとギンが突撃する。
    今までと同じよう、銃をこちらに向けるよりも早く行動不能にさせようと
    ふたりとも、腕を振り上げる。
    が、ギンの腕もお兄ちゃんの剣も兵が腰に下げていた剣により止められる。

    (罠!?)

    まさか、わざと銃を構えるのに時間を食わせることによって
    接近戦を仕掛けられたのか?
    絶対に当たると踏んでいた一撃を避けられ、お兄ちゃんたちも
    さすがに一瞬不意を突かれる形で剣が交差し、膠着状態に陥る。
    だが、この状態ではお兄ちゃんたちに当たる危険もあるから銃は撃てない。
    何とか動きを止められれば・・・
    そうだ。

    「リン。アレ行くわよ」
    「了解です」

    デッドアライブを戻し、腰に下げたもう一つの銃、ノーザンライトを引き抜く。

    「幻影の霧よ。かの者たちを夢現なる世界へと誘え。
     イリュージョンミスト」

    まだ、慣れてないから魔力を通すだけでは使えないので簡単な詠唱で発動させる。
    銃から白い霧が現れ、周りを包んでいく。
    本来ならば、これは相手に幻影の霧を見せる効果もあるのだが今回は少し違う。
    幻影よりも視界を覆うことによって周りを見えなくするために霧を生み出して
    振りまいただけだ。
    だが、これで相手は全員周りが見えずに迂闊に動けない。
    もっとも、それら私たちも同じで前が全く見えないから動くに動けない。
    ―1人を除いて。

    「98、67、6.2ならびに86、112、6,8です」

    リンの声にその言葉が指す方向へと両腕の銃を向ける。
    一人目が上に8度、右に27度で距離6,2m。
    二人目は下に4度、左に22度で距離は6,8mだ。
    迷うことなく、引き金を引き、この霧の中で動くに動けず
    立ち止まっている兵へと銃弾が突き刺さる。
    元から目の見えないリンだからこそ、この状況では敵はいない。
    リンの指示の元、次々にこの視界の中、立ち止まる兵へ向け引き金を絞る。

    「それでラストです。16、85、7」

    下に74度、ということは銃弾を避けるために体を伏せてやり過ごそうとしたわけか。
    だが、甘い。
    銃口を下に下げ、最後の1人に向けて引き金を引き、全員片付いたところのを
    確認し、霧を解く。

    「ってあれ?」
    「なんででしょう?」

    何で・・・・なんでお兄ちゃんがいないのよーーーーーーー!!

    「ギンもいないのですが・・・って気にしてないみたいですね」







引用返信/返信 削除キー/
■203 / inTopicNo.13)  赤き竜と鉄の都第13話
□投稿者/ マーク -(2005/04/29(Fri) 19:40:15)
    『霊眼』






    ―ガシャン!!

    「出しやがれーーー!!」
    「全くだ。
     早く戻らないとユナが心配する。
     こんな悪趣味な真似はとっとと止めて、開放しろ」

    なにやら、巨大な鳥籠のように天井から吊り上げられた牢の中には二人の男が
    閉じ込められながら、30近くの女性に向けて叫び、あるいは言い聞かせていた。

    「それは出来ない相談ね。
     貴方がこの義手の製作者、つまり彼の義手のコピーに成功した青年でしょう?
     ぜひ我が社に欲しい人材だわ」

    女はギンから奪った義手を片手で抱き抱え、反対の手で弄りながら話す。

    「それなら、俺は関係ないのだろう」
    「いいえ、貴方は間違いなく普通の人間ではないわ。
     とても興味深い存在。
     是非とも我が社に協力して欲しいと思っているのよ」
    「ようは実験動物か」
    「さすがに、そこまではしないわ。
     ただ、ちょっと調べるのに協力してもらうだけ」


    全く、よく言う。
    もはや、何を言おうとこの女には意味がない。
    この女は我が社といっていた。
    つまり、今『金眼』を取り仕切る責任者がこの女なのだろう。
    それにしても悪趣味なものだ。

    「ふふふ、強情ね。
     あのままだったら確実に死ぬところを情けをかけて助けてあげたというのに
     随分と頑固な子供たちなのね」

    全く持っていい笑い種である。
    ユナが出した霧によって前が見えないところで偶然壁にあった
    罠に二人そろってかかってしまい、捕えられてしまった。
    あまりにも情けない。

    「そりゃ、30過ぎの女から見れば俺たちは子供だろうな」
    「!!??
     いっ、今なんていった?」
    「30過ぎのババアっていったんだよ」
    「!!!!!!!! ふっふふふふ、いいわ。
     あんたたちと一緒にいた小娘たちも連れてきてあげる。
     そうすれば、貴方たちの気も変わるでしょう。
     今、協力するといえばこの子達には情けをかけて命だけは
     助けてあげるわよ」
    「止めた方がいいぞ。
     アイツを怒らせるぐらいなら魔族に喧嘩売ったほうがマシだからな」
    「何とでもいいなさい。
     直ぐに二人ともつれてきてあげる。
     この小娘たちが泣き喚く様を特等席で見せてあげるわ。
     オーホッホッホ」


    そういって、女が下がっていく。
    ・・・・・不味いな。
    このままだと―

    「この建物が崩壊するぞ」


















    「お兄ちゃん、どこ〜?」

    全くどこ行ってしまったんだろう?
    あの道は一本道だったから兵たちが来た先に進んでみたのだが、
    結局、行き止まりだった。
    今は行き止まりにあった部屋にいるのだが、どうもこの部屋で兵は
    待ち伏せしていたらしいが、今はそんなことはどうでもいい。
    お兄ちゃんは・・・ついでにギンはどこに行ったのだろう?

    「いたぞ、1人だ!!」

    また、やられに来た。
    ドアからと顔を出してきた兵に手当たりしだい、銃を撃ちこむ。
    これではストレス解消にもならない。
    まったく、お兄ちゃんはどこに行ったの?


    「どうです、ユナ?」
    「あっ、リン。
     こっちは駄目。そっちも?」
    「はい。それにあの二人の痕跡はやはりあの廊下で途絶えています」
    「じゃあ、一体どこに・・・」
    「分かりません・・・・・でも、もしかしたら―」
    『ふふふ、我が城に迷い込んだ愚かな鼠たち』
    「「誰!?」」

    突如聞こえた声に身を固める。
    すると、部屋にあった水晶の壁に何者かの姿が浮かび上がり、
    そこから声がしている。

    「映像?」
    『ええ、そうよ。
     貴方達の大切な人はこの通り私が捕えているわ』

    そういって、画面が変わる。
    そこにいたのは奇妙な籠の中にいるギンとお兄ちゃんの姿。

    「お兄ちゃん!?」
    『ふふふ、助けたかったら、私の元までいらっしゃい。
     まあ、来れたらの話だけど、でも安心して殺したりはしないわ。
     その代わり死んだ方が楽という思いをするかもしれないわね。
     オーホッホッホッホ』

    と癇に障る笑い声と共に、画面が再び透明な水晶に戻る。

    「ふっ、ふふふふ」

    今まで感じたことがないほど強大な憎悪が心の中に渦巻いている。
    いいわ、今すぐ行ってあげるわ年増のババア。
    お兄ちゃんに手を出した罪、その身を持って償いなさい!!

    「リン」
    「任してください。
     私も少々怒ってますから」

    満面の、だが普通の者なら見るだけで萎縮し、ガタガタと震えだして
    しまいそうな笑みを浮かべている。
    そして、いつもは閉じている瞼を開き、辺りを見渡す。

    「ふふふ、隠れても無駄ですよ。
     この目にかかればギンがどこにいるかなんて一発ですからね」

    どうやら、リンも実は私と同じ人種だったらしい。
    しかし、あの目は一体?

    「気になりますか?この目が」
    「ちょっとね」

    嵐の前の静けさというべきか、先ほどの憎悪はひとまず静まり返っており、
    普段どおりの会話だ。もっとも、周囲の温度は已然、下がったままだ。
    はっきり言って、ここだけ極寒の世界か、もしくは逆に地獄の業火の中かという感じだ。
    そして、あくまで怒りをしまい込んでいるだけ。
    あの女を見つけたら再び爆発することだろう。

    「この目は魔力だけを見るという変った目なんです。
     空気中みたいに魔力の濃度が本当に僅かなものなら見えないですが、
     常人の魔力程度なら全て見通せまし、魔力の個人差なんかも
     手に取るように分かります。
     さて、ギンの魔力は・・・」

    そういって、周り見回しある一点で止まる。

    「真下?」
    「というより、もしかしたらこれは地下かもしれません。
     ここから真下に21、243メートルといった位置です」
    「ふーん、方向は合ってるのね?」
    「寸分の狂いもありません」
    「じゃあ」

    と、この怒りを元にして以前創った炎の剣や炎の竜をも上回る力を
    創りだし、それを形にする。
    限界まで圧縮した炎の槍。
    あらゆる障害を焼き尽くし、撃ち破る絶対的な破壊の炎。
    そして、その槍をリンが指差した床からほんの少し離れた位置の床へと
    垂直に突き降ろす。
    放たれた槍はその圧倒的な熱量で床を溶かし、焼き払いながら下へと落ちていく。
    そうして出来た穴にリンと共に大きさを人一人掴まるのにちょうどいいくらいの
    大きさに調整した竜の足に掴まり、穴の先へと下降する。
    ふふふ、待ってなさい。







    「なあ、すごく嫌な予感がするんだが?」
    「奇遇だな。俺もだ」

    そういって、二人そろって上を見る。

    「上か」
    「上だな」

    なにかとてつもなく危険なものが来る予感を察知し、
    この先に起こりうることを想像をする。
    答えは1つ。
    それが絶望的な答えだということはこの予感を感知したときから分かっている。
    だが、それでも僅かな希望にしがみつきたかった。

    「ふふふ、そろそろ気が変ったかい?」
    「ああ、あんたか。
     あまりこっちには近づかないほうがいいぞ。
     間違いなく危険だから」
    「危険?
     いったい、何がよ?」
    「直ぐに分かるさ」

    もう、音までしてきた。
    その音は不吉な想像を現実だと認めさせるものだ。

    「まあ、いいわ。
     あなたの妹さん。
     そろそろ捕まる頃じゃないかしら?」
    「ああ、それなら平和でいいだが」
    「そうも行かないか」

    そして、何メートルもある高さの天井を何かが突き破って落ちてきた。
    落ちてきた炎の槍が鳥かごの真横をかすめ、深々と地面に突き刺さり、沈んでいく。
    そして、天井に出来た穴から二人の少女が竜に捕まりながらゆっくり
    地面まで降りてきた。

    「助けに来ましたよ。
     感謝してください」
    「ああ、あろがとう。
     ただ、もう少し大人しく来てくれ」
    「大丈夫お兄ちゃん?」
    「あっ、ああ。大丈夫だ。
     もう少しずれてれば今ごろ蒸発していただろうが大丈夫だ」
    「良かった。
     さて、ちゃんと着たわよ。
     年増」

    突然のことにぽかんと口を開いたままで固まっていた女が
    私の言葉に気を取り戻し引きつった笑みで喋りだす。

    「ふっふふふふ、散々私をコケにしてくれるわね」
    「そんなことはどうでもいいわ。
     お兄ちゃんに手を出した罪、その身を持って味わいなさい。
     年増」
    「一度ならず、二度までも・・・・。
     いいでしょう。
     貴方たちを手放すのは惜しいですが、
     ここで共に死んでもらうことにしましょう」

    そういって、女が指を鳴らしまるで何かを封印するかのような分厚い、
    巨大な壁のような扉が開いていく。
    僅かにあいた隙間から巨大な腕の先が姿を見せ、扉をこじ開けていく。
    その大きさ、姿、威圧感。
    どれをとっても今まで見たことのあるそれとは大違いだ。
    あれは何万年もの歳月を過ごしたといわれる最高種たる竜の中でも
    最長寿、最強を誇る伝説の存在。

    ―エルダードラゴン―






引用返信/返信 削除キー/
■204 / inTopicNo.14)  赤き竜と鉄の都第14話
□投稿者/ マーク -(2005/04/29(Fri) 19:41:39)
    『金色の竜』








    「―嘘、なんでこんなのが」
    「厳しいな」

    ありえない。
    あの巨大な体。金色に輝く鱗。
    何よりその身に宿す魔力。
    全てがあの化け物に当てはまる。
    最高の種たる竜の中でも頂点に位置する最強の存在。
    エルダードラゴン、またはその身の輝きから黄金竜とも呼ばれる
    正真正銘の化け物だ。
    だが、あれは本当の姿ではない。
    翼はなく、なによりもその姿に違和感が付き纏う。

    「黄金竜の・・・テク・・・ノス?」

    いつの間にかあの女は既に姿を消していたが、そんなことに
    構っていられる余裕はない。

    『ホーホッホッホッ。
     どうやら驚いているようね。
     これこそが我らが英知の結晶よ』

    あの癇に障る笑い声が周りの壁から発せられ、
    この広大な空間に反響する。

    「ふざけんなよ。
     テクノスの技術も『腕』の技術も全て人から盗んでいったものじゃないか。
     それが英知の結晶だって?
     笑わせんな!!」
    『ッフフ、そうね。確かにこれは貴方たちのおかげで完成したものだわ。
     でも、これを生み出したのは他ならぬ私たち。
     捕獲した黄金竜を素体に限界まで改造を施した我々の最高傑作よ。
     ちょっとした都合で本物の竜と比べる機会がなかったけど、ちょうどいいわ。
     この最高傑作の力を調べる相手をして貰うわよ』
    「ちょっとした都合?」
    『折角だから教えてあげる。
     いかに我々の技術でもその機能を復元できなかった部位がある。
     その部位が問題となって王国は買い取らなかったけど、
     今となっては売らなくて正解だったわ。
     そして、その部位とは―』
    「翼か。
     今の技術では個人単位での飛行を可能とする翼を創ることは
     まだ不可能だからな。
     キメラみたいに他の翼を移植しても大きさや力が足りないから飛ぶことは
     出来ない」
    『察しがいいわね。ええ、その通りよ。
     でもそんなものは関係ないわ。
     翼があろうとなかろうとこの竜が最強なのは変わり無いのだから。
     さあ、その力を見せてみなさい。
     まずはそこの赤毛の小娘からよ!!』

    その言葉に従い、テクノスは私へと顔を向け、灼熱の息吹を吐き出す。
    後ろにはまだお兄ちゃんたちが捕ええられている。
    しかし、デッドアライブの障壁ではこの炎は防げない。
    瞬時にそう判断し、相殺するべく実体化させた使い魔をそのまま炎に変換、
    高熱のブレスへとぶつける。
    大きな爆発が生じ、爆風で体を持っていかれそうになるが耐える。
    なんとかギリギリで防げたがそう何度も出来る芸当ではない。
    もう一方の使い魔に乗り、黄金竜の周りを飛びながらちょっかいをかける。
    幸い、ここは広いから飛び回って撹乱し、様子を見るにはちょうどいい。

    「リン、早く!!」
    「そうは言っても私の力ではこれは無理です」

    どうやらご丁寧に特殊な金属だけでなく、結界まで張ってあるらしい。
    私ならやれないことも無いけど今の状況では余裕が無いから
    そこまで力を調節出来ないで、お兄ちゃんたちまで危なくなりかねない。

    「ユナ、右!!」
    「クッ」

    叩き落とすように振るわれた腕を紙一重で掻い潜り、顔の目前まで迫る。
    至近距離から銃弾の嵐を浴びせて怯んだ隙に後退し様子を窺う。
    煙が晴れ、竜は何も無かったかのように突っ立っている。

    「この程度じゃ駄目か」

    やはり、潰すにはサンダーボルトぐらいは必要だ。
    下手をすれば連続で使用するか、バーストと併用するぐらいは
    しないと落とせないかもしれない。
    だが、竜はそんな隙は与えてはくれない。
    お兄ちゃんたちが動ければ何とかなるんだが―

    『フフフ、そろそろ観念したら?
     命乞いすれば助けてあげてもいいわよ』
    「おあいにくさま。
     まだ、負けたわけじゃないわ」
    『そう、まあいいわ。
     では貴方がまず死にな―』

    ―ザッーーーーーーーーー

    突如、女の声が途絶え雑音だけが周りに響く。
    そして、竜の動きは止まり、硬直する。
    僅かな時間が経ち、右側にあった直ぐ近くのドアから、
    見覚えのある少年が縛られた女を捕まえたまま現れ、
    そのままこちらへと近づいてくる。

    「あんた今まで何をしてたのよ」
    「目ぼしいものは回収してついでだったから、
     この通り首謀者も捕まえた。
     『腕』もちゃんと回収してるし撤収してもいいよ?」
    「そう。
     でもこれを放って置ける?」

    何故かテクノスは完全にその動きを止めている。
    動かしていたものがいなくなったからなのか、それともこの女が
    止めたからなのかは分からない。

    「ああ、調べた時は冗談かと思ったが本当だったんだ。
     なるほど、これは凄い。
     で、ミスゴールドアイ。
     これは君が止めているのかい?」
    「まさか。これは私1人が止めようとしても大人しく止まるたまじゃないわ。
     今動いていないのはコントロールが離れて自分の状況が
     把握し切れていないから。
     きっと、このまま暴走するでしょうね。
     ざまあみなさい」

    言い終わるが否や、竜は今までよりもさらに激しい攻撃を繰り広げてきた。
    同時に何発も放たれる炎弾をかわし、レイスは女をいま出てきた扉の先に放り
    扉を閉め、空いた両手に木の棒を構える。
    その木の棒を剣の柄に見立て、構えを取り、まずは結界で守られた鳥篭へと
    あるはずの無い刃を神速と形容するに値するスピードで振るう。

    「『見えざる刃は見えざるを断つために在りき。
     故、見えざるを切るはこの刃の宿縁なりき』
     なんてね」

    すると鳥篭の格子は鋭利な刃物に切られた様にバラバラになって地面に落ち、
    張られた結界も砕け散り、牢獄から二人が出てくる。

    「ふー、やっと出られたぜ」
    「全くだ」

    なまった体をほぐすようにして体を伸ばし、武器を掴もうとして
    いまさらながら気付く。

    「やばい、武器を奪われたままだ」
    「これかい?」
    「そうそう、それだ。って何でお前が持ってんだ?」
    「いや、ちょっと色々探してたらついでに見つけてね。
     そんなことより、さっさとこれを片してしまおう」

    3冊のアーカイバを取り出し、その内二つを投げ渡し、
    最後の一冊から一本の剣と腕を取り出す。
    取り出した腕と剣を受け取り、三人は放たれた矢の如く竜へと突進する。
    と来れば、私に役目は―

    「リン。弱いところ分かる?」
    「急所と言えるところなら魔力の流れが多いでしょうから判別可能です」
    「オッケー」

    大きな長身の銃、サンダーボルトを取り出し三人が抑えている竜へと
    銃口を向ける。
    そして、リンの目によって教えられた魔力の高い場所、体中の魔力が
    集まる場所、つまり竜が持つ心臓へと狙いを絞り、竜の動きが止まるのを待つ。
    ちょうど、レイスとギンが竜の両腕を押さえ、がら空きになった中心へと
    大きく広がり、自らの身長よりも大きな大剣でほぼ垂直に切り下ろし、
    竜の胸元に一本の傷を残し、竜が咆哮を上げ動きが僅かに止まった。

    「いけ!!」

    放たれた弾丸は黄金竜で持ってしても捉えられず、真っ直ぐにリンの言った
    魔力の集まった心臓へと突き刺さり貫通・・・はしなかった。
    だが、心臓に風穴をあけられ、銃弾の衝撃までは受けきれず、
    その衝撃で後ろへと倒れかけながらも、その場に必死に踏みとどまるが
    そのおかげで大きな隙が出来た。
    最後の仕上げといわんばかりに右腕をあの義手に交換していたギンは
    正面が無防備になった瞬間、私の使い魔の背に乗って懐にもぐりこみ、
    その背中を踏み台にして飛び掛り、その腕を突き立てる。
    回転する矛は竜の表皮をえぐりながら突き進み、銃弾とは比べ物に
    ならないほどの風穴を身体のど真ん中に空け、
    そのままの勢いで背中まで貫通した。
    そして、そのまま地面へと叩きつけられるところを使い魔に拾わせる。
    見れば、ギンの義手はその使命を全うしたらしく、煙を上げゆっくりと
    回転数が減っていき、もう完全に動かなくなる。

    「お疲れさん。後でちゃんと直してやる」

    まあ、あの傷ではいくら竜とはいえ動くどころか生きているかさえ怪しい。
    ひとまず、これで一件落着―

    「ウォォォォォーーーーーーーーーー!!!!!」

    ―なっ!?

    体に巨大な風穴を開けられ、最早瀕死の重傷であるはずの竜は尚も
    立ち上がり、その咆哮を轟かせる。
    そして、見た。
    先ほどサンダーボルトで開けた筈の風穴もお兄ちゃんの剣で付いた傷跡も
    綺麗に消えている。
    そして、いまちょうどギンにあけられた風穴を埋めるようにして何かが
    傷口を覆っていく。

    「どう・・・なっているの?」
    「分かりません。ですが、このままでは・・・」
    「負けるな」

    どんな致命傷を与えても直るなど反則だ。
    一体何が傷口を覆ったのか?
    それが分からなければ対策の立てようも無い。
    まずは、正体を暴かなくては。

    「とりあえず、手当たり次第に攻撃して反応を見よう。
     もしかしたら、あそこだけかもしれない」

    それしかないだろう。
    だが、勝てる見込みはかなり低くなった。
    それでも、ここで諦めるわけには行かない。










    「はぁぁーーー!!」

    目前に迫り来る振り下ろされた竜の腕を紙一重で捌き、
    両手に持った見えざる刃でその腕を幾度と無く切りつける。
    そして、地面より引き抜かれた腕にまるで曲芸士の様に飛び乗り、
    その腕を駆け上がって竜の急所、逆鱗へと走る。
    腕を上りきり、首の真下にある鱗へと飛び剣を連続に振るう。
    だが、竜は激しい悲鳴をあげるだけで、次の瞬間にはその傷を何かが
    塞いでいく。
    空中で振るわれた腕を剣を盾にして防ぐが、勢いは殺せず壁へと吹き飛ばされる。

    「クッ、逆鱗も駄目か」

    金髪の双剣士、レイスはぶつかる瞬間、壁を蹴ることで衝撃を吸収し、
    地面へと降り立つ。
    その間にも、ギンが、ユナがそしてレイヴァンが攻撃を加えるが
    効果は無い。
    どこに攻撃を与えても傷口は全て、何かが覆い治癒している。
    試しに、金属の部分も攻撃してみたがそこもまた同じように
    何かが覆い、その内部は完全に修復されている。

    「はあ。もう、弾も少ないわね」

    もう、何発も撃った愛銃の一つサンダーボルトを構えながら、
    憂鬱にため息をつく。
    何で回復しているか分からないが、体力的にも明らかに
    こちらの方が不利である。
    今だって、全員既に息が上がりかけている。
    これでは全滅を待つだけだ。
    もう、目的は達成しているので逃げようと思えば逃げれるが、
    こんなものを見てしまっては放っていくことは出来ない。
    まあ、本当に危なくなったら撤退するつもりだ。
    しかし、何か引っ掛る。
    あの修復が何かに似ている。
    一体・・・・・・何に。
    !?
    まさか―

    「リン。お願いもう一度傷口を見てて」
    「ですが、もう何度も見てますよ。
     これ以上は私も・・・」

    リンも辛そうだ。
    直接攻撃こそ参加していないが、このからくりを紐解くために
    その人が見るにあらざる世界を何度も見ているのだ。
    疲労も大きい。
    だが、もしも私の想像が正しければ・・・

    「お願い。傷口の魔力を形に注意して」
    「魔力の形・・・ですか?」

    ちょうど、お兄ちゃんの剣が竜の胴をなぎ払ったところだ。
    だいぶ深く切れたが、またも、何かが覆って傷口が塞がっていく。

    「別に何も・・・」
    「その先!!」
    「え?」
    「覆った内部の魔力の形を見て」
    「なっ!?
     まさかこれは」

    灯台下暗しというべきか。
    目の前にそっくりの存在がいるというのにそれが特別だと考え
    除外してきたせいだ。
    最初はあの覆ったものが傷を治していると思った。
    でも違う。
    治しているのはあの竜自身だ。
    その覆っているのは金属でありながらも細胞のように自己増殖を
    持ちえる特殊な金属。
    それが人で言う瘡蓋の役割を果たし、今まさに竜が己の持つ魔力で
    仮初の肉を作り出し、自らの体を少しづつ修理しているのを
    隠し、保護していたのだ。
    その修復方法は私の使い魔や魔族、吸血鬼の治り方とよく似ている。
    魔族や魔獣、死した存在の魂と契約を結び、失くした腕にそれらを
    憑依させることで失った身体の変わりを果たさせる術は昔から存在する。
    もっとも、それらは当の昔に失われた技術だし、魔族や魔獣との
    契約などはあまりにも危険、死したものの魂の場合もそれらを従える力量が
    無ければ魔力と生命力を全て吸い尽くされ、死ぬことさえある。
    そして、全く異なる存在の魂を身体に埋め込むわけだから、拒否反応が
    おこり、様々な弊害が起こりうる。
    そんなわけで義手などの技術が発達した現在ではもはや無用となった術だ。
    全く、何故今まで気付かなかったのか。
    だが、これでからくりは解けた。
    仮初の身体はこの黄金竜の魔力か契約で構成されているのだろうが
    そうすると、まだまだ大量の魔力が残っているはずである。

    魔力が切れるまで攻撃する?

    ―こちらが先に動けなくなる。

    以前と同じように回復する前に全て吹き飛ばす?

    ―大きさが違いすぎる。

    魔力自体を奪う?

    ―どうやって?

    これからどうすれば・・・・

    「ぐぁぁぁーー」
    「お兄ちゃん!?」

    思考に行き詰ったところで竜に吹き飛ばされ、飛んで来た兄を身体を
    張って受け止める。
    流石に普段の力じゃ無理だったので、魔力で強化してなんとか止められた。

    「ぐっ、すまん。大丈夫か」
    「私は平気。それよりあの正体が分かったんだけど、
     アレを止めようと思ったら魔力を吸い取るしかないと思う」
    「魔力?
     あれは魔力で傷を塞いでいるのか」
    「多分」
    「・・・・・・・・・・・・・」
    「お兄ちゃん?」
    「魔力を奪うなら、一つ手がある」









引用返信/返信 削除キー/
■206 / inTopicNo.15)  赤き竜と鉄の都第15話
□投稿者/ マーク -(2005/05/01(Sun) 16:52:13)
    『禁呪』







    ギンとレイスが再び、竜へと襲い掛かる。
    だが、先ほどのように激しい攻撃はせず、僅かに距離を空けながら
    壁際へと追い込んでいる。
    私もデッドアライブの援護と使い魔で竜を誘導している。
    その間にもお兄ちゃんは用意を整えている。





    『一つだけ方法がある。
     だが、これは俺ではコントロールし切れんかも知れん。
     俺の用意が完了したら何があろうと遠くに離れろ』
    『奥の手ってこと?・・・・それって一体なんなの』
    『かつてこの身に宿りしあの存在の残滓、それが今なお
     この身に残されている。
     その力を使う』
    『あの力を・・・・・大丈夫なの?』
    『分からん。だが他に方法も無く、出し惜しみをしている余裕もない。
     頼む。信じてくれ』
    『・・・・分かった。お兄ちゃんを信じる。
     でも絶対戻ってきてね』
    『ああ』





    お兄ちゃんが信じられなくて何を信じろというのだ。
    ならば、私はお兄ちゃんに任された仕事をこなすだけ。

    「掛かってらっしゃい!!出来損ない」

    私とギンが竜の左右に、レイスが正面に向かい、竜の背中がお兄ちゃんに
    向く様にして竜の周りを囲って立ちはだかる。
    二匹の使い魔を黄金竜へと襲い掛からせ私は詠唱を綴る。
    出し惜しみなどしてられない。
    私が持ちうる全ての力を出しつくしてでも絶対に
    お兄ちゃんの邪魔はさせない。

    「離れて!!」

    私の注意に素直に従い、全員が黄金竜から大きく一歩離れる。
    それを確認して力を解き放つ。

    「災厄より生まれし、大いなる災いの焔。
     我が憎悪を受け、怒り狂え。
     『フレアスパイラル』」

    竜の足元から焔が吹き荒れ、螺旋を描いて竜の周りを覆い炎の渦が出来る。
    竜は焔の渦の中に閉じ込められるが、それも僅かな時間。
    もとより魔術、特に焔などに耐性がある竜族に対してアレが決定打に
    なりうるはずがない。
    あくまで囮。
    時間を稼ぐ意味で用いた。

    「赤き竜王の名において、世界を焼くつくせし業火の刃よ。
     その力、我が手に宿り、並み居るもの全てなぎ払い、
     焼き尽くせ!!
     『レーヴァティンッ』!!」

    手に生まれた極限の炎。それを圧縮、固定し剣を形に成す。
    投槍の要領で手に持った猛々しく燃える焔で創られた刃を撃ち出し、
    剣は一直線に竜の頭の付近を狙う。
    狙い違わず竜の額に突き刺さった剣は爆発的な燃焼を引き起こし、
    顔中に広がり燃え続ける。
    しかし、これもあまり効果は無い。
    今だって顔中が燃えているのに黄金竜は平然としている。
    やがて、竜が首を振るい顔中に燃え広がった炎を鬱陶しそうにふり払う。
    そしてお返しといわんばかりに私へと首を向け、炎を収束させる。

    ―今だ!!

    予想通りの反応に心の中で快哉をあげ、二匹の竜がその顔を
    目掛けて突っ込む。
    私と黄金竜の間に割って入ってきた邪魔な存在へと炎を吐く。
    いくら竜が炎に強いと言ってもこれでは無事ではすまないだろう。
    ―普通ならば。
    炎は先ほどまでに比べ明らかに小さく、使い魔は意にも介さずその炎に飛び込み
    その身体を少々焦がす程度でその炎を抜けて、黄金竜の目前まで迫る。
    先ほどから効く筈の無い炎を撃ちまくっていた理由はこれ。
    この密閉空間でこれだけ多くの炎を僅かな間にこれほど使えば
    一時的とはいえ酸素が不足する。
    その上、竜の身体は私たちの何倍もの高さで、高ければ高いほど
    空気中の酸素濃度は薄くなる。
    さすがに、もとより高山地帯にも住まう竜族にとってはこの程度の空気の
    気薄など気にならないだろうが、それが放つ炎は別だ。
    酸素の足りない炎など、弱弱しい炎にしかならない。
    そしてまさに目の前に迫った使い魔を払おうと腕を振るうが、近すぎる所為で
    うまくいかず軽く避けられる。
    二匹の竜は腕を回くぐり顔へと飛び込み、竜の両目に双方が腕を突き刺す。

    「グォォォォーーーーーーーーーーーー!!!!」

    流石にこれには堪えたらしく、無我夢中に腕を振るい見えない敵に対応する。
    目を貫かれた所為で竜にはこちらの様子は見えていない。
    しかも、あの金属の『瘡蓋』のおかげで直ぐには治っても目は開かない。
    そんな暴れ狂う竜にレイスが飛び込み、縦横無尽に振るわれる尾へ向け
    二本の柄を束ね、一本の剣に見立て大きく振るう。
    竜の図太い尾が見えざる巨剣により、二つに断ち切られ、
    竜がさらなる悲鳴を上げる。
    だが、やはりと言うべきか竜の尾はトカゲの尻尾の如く
    徐々に生えてきている。
    呆れるほどの生命力だ。

    「ユナ!!」

    お兄ちゃんの声に黙ってうなずく。
    準備は出来た。
    後はそこまでこいつを誘い込み、全員を連れて離脱する。
    使い魔の一方にレイスたちを回収させ、竜へとデッドアライブを撃ちこむ。
    これで私たちの方向が分かるだろう。
    目が見えない今の状態なら誘導も比較的容易い。
    目的の位置まで来たところで最後の一発に温存して置いたサンダーボルトを構え、
    竜のその片足を狙う。
    弾は見事に命中し、当然生じた痛みとその衝撃でバランスを崩し倒れこむが、
    両腕も使って這うようにしてなお進む。
    そんな黄金竜の様子を哀れに思い、今まさにすれ違うお兄ちゃんの顔に
    視線を移す。
    お兄ちゃんの顔にも深い悲しみと哀れみが現れている。
    やがてお兄ちゃんの詠唱によって浮かび上がった巨大な円を二匹の竜が抜け、
    円の内部に立ったお兄ちゃんがそのまま地面に剣を突き立てる。
    それと同時に円で囲まれた空間が光を出し、輝きだす。
    決して強い光ではない、穏やかな夜の光だ。

    「暴食の罪、七つの大罪。
     その魂を喰らい、糧とせよ。
     異界より来たれし魂の支配者。
     至高の王たる者の、
     その礎となるがいい」

    詠唱と共に徐々に輝く円を闇よりもなお暗い影が覆っていき、
    その輝きを奪っていく。
    それは月喰らい、月食の光景と似ていた。

    「 喰らいつくせ!!『エクリプス』」

    全ての輝きが闇に包まれ、異なる異界と化したその空間を覆っていた
    暗い影は獲物を見つけた言わんばかりに鎌首を上げ、竜に纏わりついていく。
    影は竜の身体を、補っていた仮初の肉体を魔力へと分解し、吸収していく。
    その痛みに、なにより最も原始的な感情である恐怖に声を上げる。
    陰から抜け出そうと暴れるが、底なし沼の如く竜はその場から抜け出せず、
    消えたはずの傷が蘇ってくる。
    ところどころの肉を失い、見るも無残な姿の竜にお兄ちゃんは
    静かなる終わりを告げる。

    「喰らえ」

    幾重もの影が一斉に立ち上り、お兄ちゃんごとその空間を覆って行き、
    ドーム状に覆われ完全に隔離される。
    ドームは徐々に収縮をはじめ、ついにお兄ちゃん1人が収縮した
    闇の中から現れ、消滅した。
    そこにはもはや竜のいた痕跡すら残されていない。

    「お兄ちゃん!?」
    「来る・・・・な」

    だが、闇から出てきた次の瞬間、お兄ちゃんが体を押さえ蹲る。
    体内に入ってきた異物の感触に身を震わせ、その存在を無理やり押さえつける。
    だが、押さえつければ押さえつけるほどその力は暴走を暴走し続け
    身体中を何かが這い回る。
    喰らった非常識な魂と魔力の強大さに翻弄されつづけ、なによりも
    異常な力を用いた代償が身体を侵していく。
    そして、さきほどまで黄金竜を蹂躙していた影がお兄ちゃんの身体から
    溢れ出て来る。

    「暴走?
     まさか・・・・魔王の・・・再臨?」
    「お兄ちゃん!!」

    いけない。
    今のままではお兄ちゃんが危ない!!
    あの時と同じだ。
    恐れていた事態になった。

    「待て!!
     暴走した王を止めるには1人では力不足だ」

    レイスが駆け出そうとした私を引きとめようと手を伸ばすが、
    それは後一歩で届かず私はお兄ちゃんの下へと駆け出した。

    『もしもの時はお前が・・・』

    お兄ちゃんが去り際に呟いた言葉。
    お兄ちゃんはこの力の異常性、そしえ危険性に気付いていたのだろう。
    だが、それでも私たちを守るために使った。
    そして、抑えきれなかった私に止めるよう頼んだのだ。
    それはつまり自分に引導を渡してくれという意味かもしれない。
    でも、私はおにいちゃんを信じる。
    お兄ちゃんならきっと約束を守って戻って来れる筈だ。
    絶対に諦めてたまるか。
    影は近づいてきた私に対して襲い掛かってくる。
    幾重もの影が私の身体を覆っていき動きを止められる。

    「お兄・・・ちゃん・・・・」
    「ユナ!!戻れ」

    もう、ギンたちの声もほとんど聞こえない。
    影が私の身体を覆いつくし、お兄ちゃんを中心とした闇の中へと
    引きずり込まれる。
    真っ暗な闇の中、まるで水の中いるようでまとわりつく影を押しのけながら
    この中にいるはずのお兄ちゃんの姿を探す。
    だが、一歩歩くごとに急激に力が抜けていき、そのまま意識が飛びそうになる。
    気を奮い立たせ何とかこの闇の中で耐えるが少しずつ意識が朦朧としてくる
    なおも影が私に群がり、その魔力を奪っていく。
    やがて、意識が落ち闇の中で倒れ付す。








引用返信/返信 削除キー/
■207 / inTopicNo.16)  赤き竜と鉄の都第16話
□投稿者/ マーク -(2005/05/01(Sun) 16:52:59)
    『始まりの日』













    「緊張してるのか?」

    ここは?
    どこか見覚えのある光景。

    「うん。ちょっとね」
    「7年、いやもう8年になるか。
     久しぶりの我が家だ。
     無理も無いな」
    「でも、今年の夏休みとかにも帰ってきてたからそんなに
     懐かしいわけではないん筈だけどね」

    ああ、そうか。
    今度はあの時の。
    学園を卒業して家に戻ってきたとき。
    あの運命の日だ。

    「まあ、気分的なものもあるだろうな。
     それに休みのときは戻ってきたと言う感じじゃなかったし
     これでやっと帰ってきたと言えるんだろうな」
    「そういうもの?」
    「そういうものだ」
    「そっか」









    ―コンコン

    「はーい、どなた?」

    そういって懐かしい声と共にドアが開かれる。

    「レイヴァン!!
     それにユナも!?」
    「ただいま、お母さん」
    「ええ、一体どうしたの?」
    「どうって、俺たちもう卒業したんだけど。
     ほら」

    そういってお兄ちゃんと私は学園を卒業した証のペンダントを見せる。
    お母さんはさらに驚き、確かめるようにしてペンダントを食い入るように眺める

    「・・・本物ね。それにしてもユナも一緒に卒業してるなんて」

    私も最初は年齢的に普通のクラスとは異なるクラスに入れられた。
    ごく稀に親が高名な魔術師でその子供ということで入学させられたり、
    ここの教師の子供といった理由でいままだ式を構築できなくても
    異例として入学した者たちを集めたクラスだった。
    学園は既に魔術を構築することの出来る人間をさらに磨くことが目的で
    当然、普通の入学者はすでにそれを前提として教育を受ける。
    私たちの場合はそこからやらなければならないのでどうしても通常のクラスより遅れる。
    結果、1,2年もの間その辺りをみっちり教えられやっと普通のクラスに入った。
    そのころには同級生の年齢は私より僅かに上なだけでそう違和感は無くなっていた。
    兄弟ということで寮の部屋こそ一緒、というかルームメイトというやつだったが
    クラスが完全に違うというのははっきり言ってとても不満だった。
    だが、何年か経ってお兄ちゃんたちの後を追うように進められる授業に
    嫌気が差して来た頃、たまたま隣だった耳年増だった少女から
    『ユナちゃん頭良いから飛び級出来るかもね』
    と聞き、私は今まで以上に勉強し、次の年には晴れてお兄ちゃんと同じ学年まで
    僅か1年で上りつめた。
    その新学期で、お兄ちゃんがクラスに入ったら私がいたものだから、
    凄くうろたえていたのを良く覚えている。

    「夏にちゃんと伝えてくれてたら良かったのに」
    「ちょっと驚かせたかったんだ」
    「そう、まあいいわ。
     ちょっと前に二人の卒業祝いを用意してたんだけど
     早すぎるかなって思ったらちょうど良かったみたいね。
     今日は二人の卒業祝いにパーティーにしましょう」
    「お父さんは?」
    「まだ、仕事よ。
     夕方には帰ってくるでしょ」

    手先が凄く器用で父は街の方で機械の技術者をやっている。
    また、仕事ではないが壊れた機械や道具を買い取って
    修理したりもしている。
    だいたい、修理したら売ってしまうのだがそのおかげで
    家にはお父さんの修理した奇妙なものが僅かに残っている。

    「二人とも早く着替えてきなさい。
     部屋は夏休みのときのままにしてあるわ」
    「はーい」
    「分かった」

    懐かしの我が家。
    懐かしい私の部屋だ。
    お母さんの言うとおり部屋は昔のまま変ってない。
    手に持っていた大きなカバンをベッドに置き、その中から
    着替えを出す。
    部屋着というわけで薄手のシャツを着込み、下はショートパンツと
    いった感じだ。
    着替え終わったらカバンの中の荷物を部屋に仕舞っていく。

    ―コンコン

    「はーい?」
    「俺だ」
    「お兄ちゃん?
     どうしたの?」
    「入っていいか?」
    「ちょっ、ちょっと待って!!」

    慌ててカバンから取り出していた服や下着などをカバンに戻し、
    軽く部屋を片付ける。

    「もう、いいか?」
    「いっ、いいよ」

    そういってドアが開き、既に着替えたお兄ちゃんが部屋に入って来る。

    「いったい、どうしたの?」
    「んー、実はさっき母さんが言ってた卒業祝いって気にならないか?」
    「気にならないと言えば嘘になるけどそれが?」
    「多分、貰えるのは父さんが帰って来てからだろ?
     けど、帰ってくるくるまでまだ、だいぶ時間がある。
     というわけで、先に一目見ておかないか?」
    「えっ、でも」
    「まあ、無理にとは言わないし、ユナがいいって言うなら俺も止めとく。
     1人だけってのはずるいからな」
    「・・・どこにあるかは分かるの?」
    「夏に父さんが面白いものを買ってきたって言ってたから多分それだと思う。
     と来れば、あるのは父さんの部屋だろ?
     どうする?」
    「・・・・行く」
    「良し。母さんは料理に忙しいとはいえ静かにしろよ」
    「うん」





    ―キィィィ

    「また、色々増えてるね」
    「だな」

    部屋を見渡し、目的のものを探す。
    さすがにそんな簡単なところには置いてないか。

    「まあ、父さんのことだからこの物置だろうな」

    そういって、お兄ちゃんが部屋にあるクローゼットを開け、
    中を探る。

    「おっ、これか?」

    奥から二つの箱を発見し、それを抱えて物置から離れる。
    二つの箱の内、片方のふたを慎重に開け中を見る。
    あったのは二丁の拳銃。
    箱の中には他に簡単なメッセージカードが入っている。
    さすがに中身は読まないが、その中に私の名前が
    書かれていた。

    「これがユナのか。
     じゃあ、こっちが・・・・」

    今度はもう一方の箱をあけ、中身を見る。
    同じように簡単なカードが入っており、その下に
    妙な棒が入っている。

    「これが俺のか?」

    私は今でも珍しい銃が二丁。
    それに比べてわけの分からない棒が一本だけというのは
    さすがに不満に思うだろう。

    「うっ、こんな小さいくせに妙に重いな」

    そういって棒を両手で持ち上げ、食い入る様に眺め、いろいろ試す。
    そして、棒を持ったまま上下に手を振ると棒が延びた。

    「なんだ、これ?」

    同じような動作で棒を振るとさらに伸び、一本の棒になった。
    それを面白く思ったお兄ちゃんは今度はそれを槍に見立て、
    突き出すと棒がさらなる変化を起こす。
    棒の先が変化し、刃になり槍となった。
    その様子に思い至ることが合ったのか今度はそれを横に払うと
    剣になる。

    「なるほど。だが、重さは変らないのか」
    「なにそれ?」
    「よく分からないが俺の思った形に変化してくれるらしい。
     では、次は」

    私が手に持った箱の中にある二丁の拳銃を眺め、その形に
    それを変える。
    見事にそれは鎖で繋がれた二丁の拳銃と化し、お兄ちゃんの両手に納まる。

    「分離は出来ないか。なら弾も・・・・」

    ゆったりとした動作で銃口を上げ、壁に向け引き金をゆっくり絞る。

    「お兄ちゃん!?」
    「・・・・やっぱり駄目か。
     この様子だと矢なんかも不可能だろうな」

    二丁の銃を最初の棒へと戻し、箱に仕舞おうとしたところで
    刻まれた文字に気付く。

    「MOS。メモリーオブソウルか」

    それがこの武器の名前らしい。
    気になったので私も銃を手に取り眺める。

    「デッドアライブ01、02」

    名前からしてこの銃は姉妹銃なのだろう。
    だが、銃に対する知識などないのでそれ以上は分からない。
    でもこの銃から何かが感じられる。

    「そろそろ戻るぞ。
     ばれたら怒られる」
    「分かってる」

    慌てて銃を箱に仕舞い、物置の中へと戻して部屋を出て行く。







    「まあ、とにかく。
     二人の卒業を祝って」
    「「「「完パーイ」」」」

    ―カチャン!

    テーブルに所狭しと置かれた大量の料理を前に
    全員向かい合って、グラスを当てる。
    中身はワイン。
    無礼講と言うことでお父さんが許可してくれた。

    「しかし、この年で卒業してしまうとはな。
     天才って言うのはユナのことを言うだろうな」
    「そんな大げさだよ」
    「でも、レイヴァンも飛び級と言えば飛び級でしょ。
     これも凄いことなんじゃないの?」
    「俺の場合はユナほど凄くないからな。
     一年で一気に2,3年分飛ぶやつなんて滅多にいなかったな。
     しかもこんなに若く」
    「それでもお兄ちゃんも学年ではトップに近かったでしょ?」
    「お前もな」
    「ははは、そうだ。
     お前たちに卒業祝いをやらなくちゃな。
     ちょっと待ってろ」

    そういって席を立ち、二階にお父さんの自室へと向かう。
    きっと、デッドアライブとMOSだ。
    ふと、顔をお兄ちゃんに向けると笑いながらお母さんと話している。
    どうも、私の視線には気付いていないらしい。
    ふと、身体に生じた妙な違和感に気付く。

    「どうしたユナ?
     顔が赤いぞ」
    「あっ、ちょっと飲みすぎたかも・・・。
     少し風に当たって来る」
    「おい、ユナ」









    「アツイ」

    熱い。
    身体中が暑い。
    まるで自分の身体の中に炎が存在するみたいだ。
    苦しい・・・

    「ユナ?
     本当に大丈夫か」

    私を心配したお兄ちゃんが家から出てきた私を追ってきた。
    すると、お兄ちゃんの姿を確認した瞬間、私の身体の中の
    炎の熱さがさらに上昇した。
    駄目・・・来ないで・・・

    「ユナいったいどうし・・・・」

    抑え切れない。
    何かがわたしの中から現れてくる。

    「あ!?」

    それが現れた。
    夜の闇よりなお暗い漆黒の身体。
    赤く爛々と輝く真紅の瞳。
    蝙蝠を思わせる巨大な翼、太い丸太のような太い腕、
    あらゆる物を切り裂く鋭利な爪。
    そして悪魔のような大きな二本の角を頭から伸ばし、
    その口からは火の粉が吹き荒れる。

    「なっ―」

    突如現れた圧倒的な存在。
    お兄ちゃんもその威圧感にたじろぎ、あとずさる。
    だが、身体からほとんどの魔力が奪われ、力が入らずに
    倒れこんだ私を見た瞬間、恐怖も忘れて私に駆け寄って来る。

    「ユナーー!!」
    「来ちゃ・・・・駄目」

    残った力を振り絞り声を上げようとするが届かない。
    私へと近づこうとしたお兄ちゃんをその存在は太い縄のような尾で
    軽々と弾き飛ばす。
    吹き飛ばされたお兄ちゃんは家のドアを突き破り
    中まで転がされる。
    その物音を聞きつけたお父さんとお母さんが玄関まで現れ、
    私を竜、そしてお兄ちゃんの姿を見て硬直する。
    そして、竜の口に光が集まり―

    「グォォォーーーーーーゥ」

    炎が放たれる。
    炎は玄関へと着弾し、その爆風に当てられ二人も気絶する。

    「お父さん・・・お母さん」

    どんどん身体から魔力が奪われ、意識が飛びそうになるが必死に耐える。
    そして、燃え上がる玄関から一つの影が飛び出してくる。

    「うぉぉおーーーーーーーー!!」

    一本の槍を構え、竜を目掛けて一直線に突撃してきた。
    だが、竜の身体には刺さらず、その表皮に弾かれて止まったところで
    大きく振るわれた腕に弾かれる。

    「ぐあああっ」
    「お兄ちゃん逃げてーーー!!」

    力振り絞り、泣きながら叫ぶ。
    このままだとお兄ちゃんが!!

    「待っていろ・・・今助ける」

    だが、私の叫びを無視しなおも竜へと挑む。
    力の差は歴然で、もはや遊ばれているだけだ。
    満身創痍になりながらも、槍から剣へと変えたMOSを
    杖代わりにし、ふらふらと危なげに立ち上がる。

    「・・・神でも悪魔でもいい。
     力を貸しやがれ。
     あいつを守れる力を―」

    頭から血を流し、おぼつかない足取りで竜へと歩く。
    そんな様子に竜はもう飽きたのか特大の炎を吐き出す。
    炎がお兄ちゃんの元へと迫り、焼きつくさんとす。
    ―お兄ちゃん!!
    もはや、声も上げれず自らよりも大きな炎の向かう先を見る。

    「はぁぁーーーーーーーー!!」

    だが、何かが乗り移ったかのように今までとは明らかに異なる動きで
    炎を切り裂き、捉えきれぬほどのスピードを持ってして竜へと突っ込む。
    そして振るわれる特大の剣と化したMOSを竜へと突き立て、
    さらに水平に振りぬく。
    竜が叫びを上げ、それと同時に今まで以上の圧倒的な脱力感に
    意識を刈り取られる。
    最後に見えたのは全く別人のような顔で狂ったように笑うお兄ちゃんと
    無傷の竜の姿だった。










    「あの時・・・・」

    あの後目が覚めてみた光景は最早焼け落ちた我が家と
    全身にやけどを負った両親の死体。
    そして居間のあった場所に残された二丁の拳銃と
    部屋に燃えずに残っていた私にカバンだけで、
    お兄ちゃんの姿も竜の姿もどこにも無かった。
    そして、お兄ちゃんを探すために私は旅に出て、
    バルムンクたちに出会った。
    そしてこの力のことも知った。

    「お兄ちゃん。どこ?」

    再び暗闇の中で目を覚まし、お兄ちゃんの姿を探して進む。
    力が出ない。
    魔力を食い尽くされ、急激な疲労感がこの身を襲う。
    だが、それでも立ち止るわけには行かない。
    当ての無い闇の中を進んでいき、やがてポツンと闇さえも
    存在しない『無』としか形容できないよう妙な空間が見えてきた。
    そこにあったのは悲痛な顔を上げ、立ち尽くすお兄ちゃんの姿。

    「お兄ちゃん!!」

    慌てて駆け寄ろうとするが闇とその空間の間に見えない壁がある。
    その壁を叩き、お兄ちゃんを力の限り呼ぶ。
    その叫びに気付き、ゆっくりお兄ちゃんが生気の無い顔を振り返る。

    「ユナ、やっぱり駄目だったらしい。
     頼む、俺を殺してくれ」
    「なっ!?」

    心のどこかでその答えを予想していた。
    だが、信じたくなかった。
    そして認めたくなかった。

    「駄目なんだ。
     俺では僅かな残滓ですら抑えきれないらしい。
     頼む、まだ俺の意識が残っているうちに、
     コイツを抑えられる内にやってくれ」

    自嘲気味に笑い、覇気の無い声で喋る。
    そんなの嫌だ!!
    出来るはずが無い!!

    「いや!!
     絶対にいや!!」
    「ユナ、俺はあの時死ぬはずだった。
     そして今まで自己を持って生きてこれた。
     だから、もういいんだ」
    「死ぬはずだったから死んでも構わないなんて、
     そんなはずないじゃない!!」

    お兄ちゃんの瞳が僅かに揺らぐ。
    だが、それでもお兄ちゃんは言葉を続ける。

    「だが、俺がもたらした災厄は多くの人を悲しませた。
     父さんも母さんも俺が・・・。
     これは償いでもあるんだ」
    「死んで償うなんてそんなの償いなんかじゃない!!
     ただの逃げよ!!」
    「だが、最早俺は戻れない!!
     ならば、再び堕ちる前にお前の手で―」
    「ふざけないで!!」

    涙をこらえ、お兄ちゃんをきつく睨みつける。

    「私に!
     私に二度もお兄ちゃんを殺せって言うの!!」
    「ユナ・・・・・」
    「お願い・・・私を一人にしないで」
    「・・・お前はもう一人じゃないだろう。
     もう俺がいなくても・・・・」
    「駄目だよ。
     私にはお兄ちゃんがいなくちゃ駄目なの。
     だから、お兄ちゃんが道を間違えたら引き戻してあげる。
     もし、道から外れたら私も一緒についていく。
     だから!だからずっと一緒にいて!!」
    「・・・俺は・・・生きていいのか?」
    「うん」

    ゆっくりと、しかし確実にお兄ちゃんが私の元へと歩いてくる。

    「俺は許されないことをした」
    「私が許してあげる」
    「・・・ユナ。
     俺はお前の隣にいていいのか?」
    「うん。
     お兄ちゃん。
     うっうう」

    堪えきれずに涙があふれ出してくる。
    私とお兄ちゃんを隔てていた壁を抜け、泣き崩れる私を
    強く抱きしめる。

    「悪い、ユナ」
    「っく、お兄・・・ちゃん」
    「生きて償え、か・・・その通りだな。
     今まで、一人にしてすまなかったな」

    今までとは違う、重く凄みのある声で辺りを覆う影と闇に命ずる。

    「帰れ影よ。我が元へと。
     我が声に従え」

    闇がうごめき、お兄ちゃん元へと集まっていく。
    周囲を覆う闇が集い、上から徐々にこの空間が崩壊していく。
    闇が削られ穴が空き、上から光が差し込む。
    そして、全ての闇が消えうせた。

    「ユナ、レイヴァン!!」
    「二人とも大丈夫ですか?」
    「まさか、戻ってこれるとは。
     大した男だ。
     いや、大した兄妹だ」





引用返信/返信 削除キー/
■208 / inTopicNo.17)  赤き竜と鉄の都第17話
□投稿者/ マーク -(2005/05/01(Sun) 16:53:59)
    『脱出』








    「二人とも調子はどうだい?」
    「魔力不足で倒れそう」
    「魔力が多くて破裂しそうだ」

    あの影に魔力を奪われたおかげで足取りが危うい。
    そして吸われた先であるお兄ちゃんは逆に多くて
    飽和状態も陥っている。

    「なるほど、僕にはそんな経験は無いが協団のほうでは
     無理やり魔力を増やす方法は研究されている。
     その話によると身体が耐え切れず、制御も出来なくて
     総じて暴走するらしいね。
     ともかく、この状態では戦闘は無理だな。
     レイヴァン君の魔力をユナ嬢に上げれれば全て解決できるのだが」
    「そんな方法あるのか?」
    「簡単だよ。それは―」
    「「却下ーーーーーーーーー!!」」

    私とお兄ちゃんがそろって声を上げる。
    そっ、そんなの出来るはずが無いじゃない。
    その・・・お兄ちゃんが望めば構わないけど、
    やっぱりこんなところでってのはちょっと。
    しかも、そんな理由でだなんて絶対に嫌だ。
    って、私なに考えてるんだろ。

    「よく分からんが、嫌なら無理にやらせるにはいかないな」
    「そうかい?まあ、本人がどうしても嫌だと言うなら
     別にいいけど」
    「ですが、お二人が動けない状況では脱出も困難ですね」
    「そうね」

    この地下から一階まで上がるだけとはいえかなりの距離がある。
    しかも、誰もここまで来ないと言うことは入り口付近に
    待ち伏せしてる可能性が高い。
    残念だけど私もおにいちゃんも現状では唯のお荷物。
    そのうえ、残りの3人も疲労困憊だ。
    ああ、どうすれば。

    「あっ、そうだ」
    「何かいい考えでも思いついたの、お兄ちゃん?」
    「いや、そういうわけではない。
     あの黄金竜の再生の理由がな」
    「理由?」
    「そうだ。ほれ」

    そういって、小さな竜が出てくる。
    って、まさかこれって!?

    「多分お前のだろ?」
    「うん、魔族とかじゃなくて、こいつが傷を埋めてたんだ」

    三匹目の使い魔。
    あの魔王の戦いのときに不覚にもラインが途切れ逃げられた私の従者。
    こいつはニールと違って比較的大人しいがそれでもアルがもっとも従順だ。
    なにかに引かれて私から離れたところで捕まったのだろう。
    これに魔力を注いで実体化させることによって仮初の肉体を生み出し、
    それで傷口を埋めてたわけだ。
    普通ならただの使い魔ではあの規模の修復は出来ない。
    だが、私の使い魔ならそれこそ別だ。
    こいつらは普通の使い的は比べ物になられない力を持ち、
    その魂の規模も申し分ない。
    なにせ、その正体は本物の竜そのものなのだから。
    正確には死した幼竜の魂と契約を結んでいる。
    ただ、幼竜と言っても竜に変わりは無く、従わせるなどほぼ不可能なこと。
    当時、死した魂を使い魔にする術が生まれて直ぐは多くの魔術師たちが
    最強の使い魔を求めて、幻想種と呼ばれる今でも数の少なくなった
    超越種たちの魂を手に入れるためそれらが大量に虐殺された。
    だが、その魂を従わせられたものは一握りにもみたず、
    結局、この魔術もまた廃れていった。
    そんなわけで竜の魂と竜の身体ならば相性もとても良いので、
    拒否反応もまず起こらない。
    まあ、こんなところで思わぬ収穫だ。


    ―ダダダダッ

    「1,2,3・・・やれやれ、また増えたよ。
     完全に包囲するつもりだね」
    『オーホッホッホ、形勢逆転よ。
     黄金竜が落とされたのは誤算だったけど、
     最後に笑うのは私だったようね』

    あの時、扉の向こうに放り込んだあの女の笑い声が
    部屋中に響く。

    「そういえば先ほど外に放り出してましたね」
    「そうね、こいつを人質に脱出って手もあったのにね」
    「これは、ちょっと判断をしくじったかな。
     証拠は押さえたけど、ここから出られなければ意味が無いし」
    「まあ、あそこで放っておいて死なれても困ったし、
     ようは逃げ切れればいいさ」

    全員ボロボロで、その内二人は完全な足手まといだと言うのに
    随分と緊張感の無い会話が繰り広げられる。
    あの女の声はあれ以降聞こえないが、突入する気配も無い。
    多分、私たちの様子は把握できていないのだろう。
    でも、出口を固められている現状はかなり厄介だ。

    「ユナの魔力さえあれば天井の穴を通って逃げられないことも
     ないんだけどな」
    「あいにく、少しも残ってないわ」
    「はあ。仕方がありませんね」
    「リン?
     もしかして何かいい手あるの?」
    「ええ。
     レイスさん、『腕』を出してください」
    「いいけど、まさかこれを返すから見逃してくれ。
     なんていう訳じゃないよね」
    「当然です。ギン」

    受け取った腕を今度はギンへと放る。
    慌てて腕を掴み、なにか面白そうに笑う。

    「リン、もしかして許可取ってるのか?」
    「ええ。念のためにいざとなってら使えるように
     一度だけですが許可は取っておきました」
    「よし。
     久しぶりに使えるぜ」
    「何をする気?」
    「ようは相手の戦意を喪失させるか、
     ここから逃げ出せればいいんです。
     彼の技師が生んだ義手の力、良く見ててください」

    ギンが嬉々としてボロボロになった義手を外し、
    『銀の腕』をはめ込む。
    装着した『腕』の具合を確かめるようにして動かし、
    その機能を確かめる。

    「やっぱり、コイツは凄いな」
    「では、ギン。
     お願いしますよ?」
    「任せとけ!!」

    そういってギンが扉へと駆け出し、その丈夫そうな鋼鉄製の扉を
    義手で殴り飛ばす。
    その後ろに控えていたらしい兵を巻き込みながら拳の形に見事に
    凹んだ扉が吹き飛ばされる。
    そして、扉の横にいた兵がその様子に唖然としている間に
    一発ずつ拳を叩き込み全員、昏倒させる。

    「じゃあ、進みましょう」







    「うあああ、来るなーー!!」
    「効くか!!」

    後ろにいる私たちまで覆うほどの規模で展開した障壁を盾に
    銃を撃つ男たちに接近し、その拳をお見舞いする。
    だいたいその一発で兵は倒れ付している。
    今更ながら、なんというパワーだ。

    「さーて、いろいろ試させてもらうぜ」

    義手が変形し、筒状のものがせり出してくる。
    それを向かってくる兵たちに向け、放つ。
    巨大なエネルギーの塊が放出され、着弾点に強大な穴を開け
    その周りにいた兵を吹き飛ばす。
    次はその腕を振るい真空の刃を生み出し、切り刻む。
    特定の魔術式を道具に刻み込むことによって魔力を流すだけで
    その魔術を使用するということは魔術の発展の中でも
    重視され続けてきたものだ。
    魔術の最大の弱点である詠唱を短縮、もしくは不要とする、
    そのために考えられたものだが、複数の魔術式を一つのものに
    刻み込むというのはとても困難なのだ。
    お互いの魔術式が干渉し合い、まともに動かなくなったり
    することもよくある。
    そんなわけで、刻み込む魔術式の数は1から3が妥当。
    私のデッドアライブやノーザンが良い例だ。
    そして、それを超えれば、安定した機能は望めない。
    だが、この男はそれをやっている。
    正確にはその義手、魔法文明時に名を馳せた最高の義手。
    備えられた式はその常識を完膚なきまでに打ち破り、
    その数は今まで見ただけでも、10を超えている。
    しかも、あるのは身体能力拡大、重量変化、形状変化、物質操作に
    真空波、火炎弾、魔力障壁、雷撃、水刃、光剣etc,
    なるほど、ここまで問題になるわけだ。
    実際に目で見て、その評価を大きく修正した。
    しかし、このギンの暴れっぷりはどうもバカに刃物と言った感じで
    少々、敵に同情したくなる。
    が、それでも突っ込んでくる敵も敵なので好きにさせている。

    「ねえ」
    「はい、なんでしょう?」
    「なんでさっきはこれを使わなかったの?」
    「ああ、それはですね。
     校長に『腕』を使うのは一度だけと制約で決められてるんです。
     切り札はそれに合った場面で使わなければ切り札にはなりえませんので」
    「まあ、確かに1度しか使えないなら温存してて良かったとは思うけど」

    でも、あれば少しは楽だったんだろうな。
    喋りながらも走る速度は緩めない。
    ギンが作った道のおかげで何とか脱出できそうだ。

    「みんな出口だ」

    レイスが指し示す方向に向かって全員駆け出す。
    訂正、1人を除いて全員駆け出す。
    残っているのは最後まで暴れまわっているギンだ。


    「ギンのバカ!ユナ」
    「分かってる」

    ええーい、とっとと来なさい!!
    もはや、敵にしか目が向いてないギンをこちらの世界に
    呼び戻すため、なけなしに魔力で竜を出す。
    ギンはそれに気付かず、ゆっくりと竜が近づいていき。

    ―ガブッ!!

    「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!????」

    頭を押さえ、声にならぬ叫びを上げる。
    本当だったら三匹まとめて噛み付かせたいくらいだ。
    さすがに、これで私たちに気付き、腕の銃で追ってくる兵を
    牽制しながら向かってくる。

    「これを外せ!!」
    「暴走してたギンが悪いんです。
     しばらくそのままで反省してください」
    「ごめん、それは無理」
    「ええ!?」
    「もう魔力も無いから」

    そういって、ギンの頭に噛み付きながら引っ付いてきた竜が消える。
    とたん、ギンの頭から帯びたただしい血が流れてくる。

    「ぐお!?血が」
    「その程度ならどうせ、直ぐ治るんですから我慢してください」

    頭からだらだらと血を流しながら逃走する男とその仲間。
    はっきり言ってこの男の仲間とカウントされたくなくなってきた。
    ・・・・元から嫌だったけど。

    「この先だ・・・・ったんだけど」
    「凄い数だな」

    建物の周りを覆う壁の出口である門に群がった人、人、人。
    これを突破するのか。
    先ほどまでの狭い通路と違って何人もの敵を同時に相手しなきゃ
    ならないし、言いたくないが足手まといにしかならない私たちを
    守りながら戦うのはかなり厳しいだろう。
    ああ、魔力があれば竜の背に乗って空を跳んでとんずら出来るんだけど。

    「どうする?」
    「道が無いなら作るまでだ」

    そういって目に前の門とその隣の門のちょうど真ん中に当たる部分に
    向け駆け出す。
    道が無いなら作るまで?・・・まさか。

    「うおら!!」

    予想通りというべきか、周囲を覆っていた巨大な壁の一角を
    その拳で打ち貫き、外壁はガラガラと音を立てて崩れていく。
    さすがにその行動には門に待ち構えていた兵も唖然としている。
    私たちは慌ててギンの後を追い、崩れた塀から抜け出す。

    「まっ、待てえ!!」

    私たちが兵を抜ける様を呆然と見ていた兵がやっと再起動し、
    統率も何もない動きで追ってくる。

    「ユナ。仕上げにアレを」
    「分かってる。
     って今の私じゃ無理だから―」
    「貸して」

    レイスにノーザンを手渡し、その力が発動される。
    崩れた壁の周囲から広範囲に私たちには効果が及ばない範囲で
    霧を振りまき、足止めをする。
    統率の取れていない兵たちは物の見事に混乱し、
    ここまで追って来れなかった。











    「ああ、やっと終わった」

    心底疲れた声でギンが呟き、全員その場に座り込む。
    でも、本当にやっと終わった。
    あの女には結局、制裁を加えられなかったが
    無断での技術流出や王国との繋がりの証拠も押さえたし
    これであの女は捕まるだろう。
    腹の虫は収まらないが、ひとまずこれで我慢しよう。
    しかし、アルテの頼まれごとのおかげでまた、
    とんでもないことに巻き込まれたものだ。
    既に分かれて三ヶ月が経とうとしている。
    向こうはどうしているだろう?
    あの少女。
    セリスと言ったかはおそらく私たちと同じだ。
    ここまで多く集まると何かが起こる前触れなのかもしれない。
    っと、そういえば。

    「レイス」
    「なんだい?」
    「生き残ったら教えると言ったよね。
     貴方は何者?」

    あまり他人に教えるべきことではないのでギンたちが他の事に
    気が行ってるのを確認し、お兄ちゃんを呼んで声のトーンを
    落として聞く。

    「教会所属:アーティファクト専門部署第十三課
     『封ずる狗頭(シールパンドラ)』に所属。
     通称は『氣公子』」
    「そういうことじゃないことぐらい分かるでしょ」

    レイスのいった内容は少々驚きのことだったが、
    私が知りたいことの方が重要なので無視する。

    「王のこと?」
    「それ以外何があるのよ。
     それほど知っていると言うことは貴方も王でしょ?」
    「ふふふ、どうやら君はまだ使いこなせてないようだね」
    「えっ!?」
    「王なら相手が同じかどうかは分かるらしいよ」
    「らしいって・・・・お前は違うのか?」
    「ああ。
     僕がこのことを知っているのは何代か前のある王が僕の先祖にあたる人物で
     他の者たちの劣化を知り、自らも自身の使命を忘れることを防ぐため
     その知識を全て一冊の本に記し、子孫に残したんだ」
    「じゃあ、あんたは」
    「位置的には唯の協力者さ。
     アーティファクトの収集もその使命のため。
     納得してくれた?」
    「一応は・・・」
    「納得だが」
    「なら、っと連絡か」

    そういって懐に手を差し、何かの道具を取り出す。
    教会での通信機器か何かだろう。

    「なんだって?
     ・・・そうか分かった。
     だが、そちらはどうする?」

    何かあったのだろうか。
    教会からの通信。
    また王国に何か変化が?

    「では、僕もそうするとしよう。
     リューフとアンナにもよろしく言っておいてくれ
     では」
    「何かあったか?」
    「あまり良くない情報かな?
     王国が国内のレジスタンス狩りに乗り出す気らしい」
    「なっ!?」

    レジスタンス狩りって、まさかクロアたちがドジったんじゃ。

    「まあ、反乱の兆しありってことが王も気が立ってるみたいだしね」
    「反乱?
     なんのこと?」
    「知らないのかい?
     王女が城を抜け出して行方をくらましたらしい。
     しかも、噂では今の王国の方針に不満をもつ者を
     集めてクーデターを起こすつもりだとか」
    「えええ!?」

    リリカルテ様が行方不明!?
    一体何がどうなっているのやら。
    その上、クーデターなんていくらなんでも・・・・
    やらない・・・・か・・・な?
    どうだろう、余り会った事が無いとはいえ、
    印象に残っているのは芯が強い人だったという記憶しかない。
    あと、アルテから聞いた噂では結構無茶をする人らしい。
    駄目だ。
    本当のことに思えてきた。

    「で、興味深いのがさっきのは僕の同僚からの連絡だったんだけど
     王宮には魔族が住みついているらしい。
     それもかなり高位のが」
    「高位かどうかは知らないけど魔族とかかわりがあるのは
     私たちも知っているわ」
    「うん、でもね。
     それは魔族ではないかもしれない」
    「・・・何が言いたいの?」
    「それは」
    「それは何なんですか?」
    「・・・・・・」
    「・・・・・・・」
    「・・・・・・・・リン?」

    気がつけばリンが直ぐ近くまで来ていた。
    先ほどまでリンと話していたギンはうつぶせに倒れ、
    右腕についていた彼の義手はなくなっている。
    左手に血が付着していてその血で何か文字が書かれている気がするが
    気にしないでおこう。

    「少々大事な話のようでしたが、王国がまた大変なことになると
     聞こえてしまい、つい・・・すみません」
    「ああっと、いいのよ。
     リンの場合聞きたくて聞いたわけじゃないでしょ」
    「まあ、それはそうですが。
     それより、王国はレジスタンス、
     つまり獣人を襲うつもりでしょうか?」
    「多分ね。どうにか止めたいけど、どうにも・・・」
    「そうですね、頼んでみましょうか?」
    「へっ?」
    「いえ、今回の報告の時に校長に頼んでレジスタンスと
     クーデターの支援、を頼んでみましょうか?
     と尋ねたのですが」
    「そっ、そんなことして大丈夫なの?」
    「校長も今の王国の現状に不満をもっていますし、
     クーデターに成功すれば王国との関係も改善されるでしょう。
     支援についても、校長なら反対しないと思います。
     他の者にも王国とは既に小競り合いは起きているので
     正当防衛ということで言い含められると思いますよ」
    「でも、そうしたら王国の矛先がこっちにまで来るわよ」
    「もとより、王国がアイゼンブルグを放っておく筈はありません。
     それに意外と大変なんですよ。
     王国の異種族差別で逃げてきた獣人やエルフが年々増加していて
     アイゼンブルグの人口がここ数年で特に跳ね上がってます。
     おかげで仕事が無くて食うものに困り犯罪に手を染めるものも
     しばしばいて、治安が悪化していまし。
     もし、これで王国全土の異種族がアイゼンブルグに亡命してきたら
     とてもじゃないですが保護仕切れませんよ。
     それによって引き起こされかねない事態なんて考えたくもないです」
    「そっか、言われてみればそうね。
     アイゼンブルグもあくまで独立都市だから大きさ自体は
     そこまで大きいわけでもないもの」
    「ええ。
     だから、これは私たちの安全のためでもあるんです。
     貴方は貴方のすべきことをしてください。
     もう一度、王国を救ってください、赤き竜」
    「あっ、知ってたんだ・・・」
    「ええ、まあ。
     なんとなくですけど。
     では、また会える事を楽しみにしています。
     いきますよ、ギン」

    そういって、倒れているギンの左手を握り引きずっていく。
    さすがにその痛みに耐え切れずにギンが立ち上がり抗議しながら
    突如、こちらに振り向き私に向けて手を振って・・・
    違う。あいつがこんなことするがない。
    良く見れば、親指だけを伸ばして後の指で拳を握り、
    親指を下にして小さく振っている。
    訳せば『地獄に落ちろ』ということだろう。
    だが、私はそんなことはしない。
    黙って僅かに回復した魔力で魔力弾を数発顔面に撃ち込み、
    倒れたのを確認して仕舞う。
    最悪の別れだが私たちならこんなものだろう。
    リンのことはまあ、あまり期待せずに待っておくとしよう。
    ああは言っても、国の存続にすら関わることだ。
    そう簡単に頷くはずは無いだろう。
    ・・・・・多分。


    「仲がいいね」
    「どこが?」
    「ほら、喧嘩するほど仲が良いって言うじゃない」
    「じゃあ、それは激しく間違いなく、正しくないわね」
    「・・・・まあ、いいけど。
     それで、魔族らしい存在が確認できたから
     王国に対して教会も動くかもしれない。
     まあ、ほぼ確実に僕を含めた4人はお祭りには
     参加する予定さ」
    「ついに王にも裁きが下るわけだな。
     で、その魔族がどうしたの?」
    「うん、実はね。
     君たちの仇敵らしいよ」
    「・・・それって本当?」
    「まだ僕にも分からないさ。
     でもこれだけの力が動いているんだ。
     偶然とは考えにくい。
     僕はこれから教会に戻るが、出来れば他の王を連れて
     僕の元に訪れて欲しいんだが、頼めるかい?」
    「分かったわ」
    「では、また。
     レイヴァン君と仲良くやりたまえ」
    「なっ、何を!?」
    「ははははは。
     ではさらば、いやまた会おう」






    お兄ちゃんと私以外誰もいなくなり、急に寂しくなって来た。
    さてと。

    「みんな行っちゃったね」
    「俺たちも行くか」
    「うん」







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