Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■223 / inTopicNo.1)  白き牙と黒の翼、第一話
  
□投稿者/ マーク -(2005/08/12(Fri) 21:54:29)
    2005/08/19(Fri) 16:25:04 編集(投稿者)


    『アキラ』






    「グハッ、はあはあはあ」

    ―なんだあいつらは?何故、俺を襲う?俺はただ。

    「ただ、血を吸っただけ、とでも言いたいわけかしら?」

    その男に立ち塞がったのは腰まで届く束ねられた茶のかかった黒髪の少女。
    その腰には一本の太刀が添えられている。

    「ああああ」
    「鬼ごっこはお終い。
     あんたはルールを破った、落とし前はつけさせてもらうわ」

    そういって、少女の身体が動く。
    次の瞬間には男の横を抜け、抜かれた刀には生々しい血が付着している。
    肩から斜めに大きく身体を切り裂かれ、男は呻き声を上げながら
    その身体が霧散していく。

    「ほんと、馬鹿ばかりね。
     あそこに残ってた方が平和だったのに」

    そういって、刀を払うと付着していた血は一滴も残らず
    元の美しい刀身を月光の元に晒す。
    それだけでもこの刀が特別な業物であることが分かる。
    少女が軽やかな動作で刀を鞘へと戻すと、図ったようにゆったりとした足取りで
    同じく腰から刀を下げた一人の整った顔立ちの少年、否、少女が
    無表情に歩いてきた。

    「そっちも終わったな。
     それにしても随分とあっけないものだな、ミコト」
    「そっちも終わった、サクヤ?」
    「ああ、教会のおかげでここらも荒れている」
    「ほんと、もう少し考えてやって欲しいわ。
     あれじゃあ、大人しかった吸血鬼までバロニスを出ていっちゃうじゃない」


    いるのはレムリアの街を出て僅かに南下した位置に当たる場所だ。
    少し前に起きた吸血鬼の国、バロニスに対する教会の大規模な攻撃の
    しわ寄せだ。
    バロニスに踏み込んできた教会の代行者たちに多くの吸血鬼が討伐され、
    恐怖に駆られてバロニスを離れたのだろうが、そこにいることで吸血衝動を
    抑えられいた多くの吸血鬼がその抑えられぬ衝動に身を任せ、各地で被害者を出して
    いる。しかも、中には配下まで作って、人々を襲っているものも多くない。
    今となっては教会もバロニスを離れた吸血鬼を優先的に討伐しているため、
    バロニスにいるほうが安全だ、というのにである。
    ならば、何故吸血鬼たちは戻らないのか?
    簡単である。
    吸血鬼にとって血は最高の美酒であり、一度でもその味を知った者ならば、
    その衝動には逆らえない。
    そして大量の僕を作り出し、その結果、さらなる血を求め各地で猛威を振るうのだ。

    「まっ、これでお仕事は終了。
     ベアのところに戻りましょ」









    「あー、暇だ」

    そういって、新聞を読みながら実につまらなそうに
    ため息をつく大柄の男。
    そして、店で出した料理の後片付けをしていた少女が
    その言葉に首を傾げる。
    何が?
    と、そう少女の顔には書いてあるかのようだ。

    「いやな、エルやアウラたちのおかげで随分と繁盛していたが、
     あいつらがいなくなったら、またこの調子だ、って思ったんだ」

    と、大柄な男、ベアはガラガラな店内を見回してそう言う。
    その言葉に少女、チェチリアは俯き、申し訳なさそうな顔をする。

    「ああっと、別にお前さんが悪いって言ってるわけではないぞ。
     むしろ、チェチリアのおかげで今の店が成り立っているようなもんだ。
     ただ、あの忙しさが嘘のようだって思ってな」

    バツが悪そうに頭をかきながら、まだ顔を俯かせているチェチリアに
    どう言ったものかと思案する。
    とつぜん、俯いていたチェチリアが顔を上げ、常備しているノートに
    スラスラと文字を書き込んでいく。

    『わかりました。皆さんに負けないようもっと頑張ります』

    どう取ったらそうなるのかは分からないが、ひとまず納得したような
    チェチリアにほっと、胸を撫で下ろす。

    「まあ、ほどほどにな」
    『はい。それで買い物に行きたいのですが』

    ノートに書かれた文字で会話するベアとチェチリア。
    後天的に言葉を話せなくなったチェチリアとの
    コミュニケーション手段の一つだ。

    「買い物?」
    『駄目ですか?』
    「いや、お前はあまり何かを欲しがるようなことはしなかったから
     ちょっと意表を突かれただけだ。
     服でも買いに行くのか」

    買い物と聞き、セリスたちと共に服を買ってきたときの様子を思い出す。
    表情も少々、困ったような顔だが、やはり嬉しそうだった。
    今まであまり物欲がなく、何かを欲しがる事など殆んど無かった為、
    少々意表を突かれた形になったが、チェチリアも年頃の娘、服ぐらい
    欲しがっても可笑しくは無いだろう、と思い微笑ましくなる。
    だが、それに対してチェチリア少々気まずそうな顔をする。

    『服とかではなく料理の材料なんです』
    「料理の材料?」

    と、さらに意表を突かれ、頭にハテナを浮かべて首を傾げる。
    その様子になにかバツの悪そうな顔でさらに文字を綴る。

    『お店の目玉になるような新しいレシピを考えようかと思って』
    「そっ、そうか。
     だが、服とかは欲しくないのか?」
    『いえ、あんまり欲しいとは・・・・・』
    「そうか・・・・まあ、お前がそれで良いならいいんだが」

    明らかにがっかりという顔で肩を落とし、ため息をつく。
    チェチリアの保護者として娘同然に今まで世話をしてきたが、
    贅沢な悩みであるが義理とはいえ親としてはもう少し、
    我侭を言われたり、頼られたりしたいものである。

    『すみません、では行って来ますね』
    「ああ、気をつけてな」














    「まいどあり」

    店から出て、他に必要なものはないかと確認する。
    かなり大量に買い込んだが、アーカイバのおかげで
    大した荷物にはなってない。

    ―ゴソゴソ

    突如、チェチリアの被った大き目の帽子が独りでに動く。
    その帽子に手で押さえつけて隠すようにし、
    周りに見られていないか確認する。
    どうやら、誰もそのことに気付いていないことに安堵し、
    帽子の中身を叱り付ける気持ちで帽子に載せた手で
    ポンポンと、軽く叩くようにする。

    ―キュゥ

    すると、帽子から奇妙な泣き声がかすかに聞こえた。
    チェチリア以外では聞こえないであろう小さな泣き声だ。
    その帽子の中にいるのはチェチリアが飼う動物の内の一匹だ。
    見た目は白い犬のような生き物。
    だが、犬とは明らかに違い、彼女が知る他の動物とも異なる。
    連れてきた理由はその動物の好みが知りたかったから。
    この動物、今まで読んだどの生物図鑑にも載っておらず、
    チェチリアと趣味を共有する物知りな無二の友人すらも
    その正体は分からないと言った謎の生物なのである。
    そのため、好みや苦手なものなど、その生態がサッパリ分からず
    困っていたのだ。
    特に苦手な食べ物はないようだが、犬にとってのネギ等のように
    人にはおよそ無害と思えるようなものでもこの動物にとっては
    有害となりえる可能性もある。
    そんなわけで、市場を回って好きな食べ物、嫌い、苦手な食べ物なら
    その匂いで反応するのではないかと思い、連れてきた。
    のはいいのだが店に動物を持ち込むのは迷惑だろうとは思い、かといって
    店の外に待たすの色々と問題があるため、帽子の中に隠して持ち込むという
    結論に達していた。
    少々、ずれた考え方だが、それもまたこの少女の個性であろう。
    狭い帽子の中で暴れようとしている動物を帽子ごと必死に抑え、
    小走りで道を歩く。
    ふと、目の前に何者かが立ちふさがった。
    目線を上げると全身に鎧を着た一人の騎士が目の前で仁王立ちしている。

    「帽子を取れ」

    突然いわれた言葉に驚きの表情を浮かべ、なぜ?と疑問符を浮かべ
    硬直する。

    「帽子を取らない、つまり取れない理由でもあるということか」

    突如、その腕をとてつもない力で押さえ付けられた。
    痛みに顔をしかめ、つかまれた腕の先、自分の腕を押さえる
    目の前の男の顔を見る。

    「帽子で誤魔化そうと思ったようだがそうは行かんぞ
     薄汚い獣人風情め」

    低く野太い男の声でそう言いながら、
    さらに強く腕を握り締める。
    痛みに顔をしかめ、何とか振りほどこうとするが、ビクともしない。

    「ふん、痛みで声も出せんか」

    男が腕の力を緩めるが、振り解ける様な力でもなかった。
    帽子が独りでに動いたので、帽子の中で獣人が頭に持つ
    獣人特有の獣ような耳が動いたからだと踏んだのだろう。
    だからこそ、帽子を取るように言い、取ろうとしなかったので、
    取れない理由、つまり獣人だと決めつけたのだ。
    突如、その腕をとてつもない力で押さえ付けられた。
    誤解を解こうと、チェチリアは帽子を取ろうとするが
    そこで動きが止まる。
    帽子の中にいるのは正体も何も分からない不思議な生物。
    そんな存在をこんな男に見せればどうなる?
    もしかしたら、金持ちの貴族に売られるかもしれない。
    下手をすれば、魔術師などの実験材料だ。
    この不思議な生物を見せるわけにはいかないと思い直し、
    無理やり、帽子の中の生き物を押さえ付けて
    勝手に出ないようにする。

    「いい訳をしないということは素直に捕まるという事か」

    男の下卑た笑いに身を震わせ、力いっぱいに首を横に
    何度も振るう。
    だが、そんなことは意に介さずチェチリアの腕を
    グッ、と強く引く。
    目を瞑り、力の限りで男の力に耐え、その場へと
    踏みとどまろうとする。
    だが、力の差は歴然でどんどん男に引っ張られていき、

    ―パンッ!!

    突如、男の力が無くなり、その腕が離される。
    そして、突然の出来事に対応できず、
    そのまま勢いあまって尻餅をつく形で倒れる。
    倒れた際の衝撃で帽子がずれて犬のような生き物が
    顔を出した。
    その犬(?)は目の前に立つ人影に目を向けている。

    「だいじょうーぶ?」

    発せられた幼い声は元は倒れたチェチリアの顔を覗き込む
    1人の少女。
    肩辺りまで伸ばされた耳を完全に覆うピンク色の髪、
    大きな真紅の瞳、声に違わぬ幼い顔つき。
    身長もそれほど高くなく、チェチリアと同じか下手すれば
    それより小さいぐらいだ。

    「ねえ、もしかして怪我したの?」

    と、少女の心配そうな顔に慌ててチェチリアは首を
    横に振るって答える。

    「そう、良かった。
     それにしてもオジサン。
     女の子に力ずくってのは良くないよ。
     この子も嫌がってたし」
    「何をする貴様!!」

    少女の声など全く聞いていない様子の男は、今まで
    チェチリアの腕を押さえていた方の手の甲をおさえながら、
    大きな声で叫ぶ。
    だが、少女の姿を確認した瞬間、呆けたような顔をし
    次の瞬間には、笑みを浮かべていた。

    「その髪と耳、貴様エルフ、いやハーフ、混血か。
     人以外の種族の主要都市への進入を禁ず。
     まさか、これを知らぬわけではあるまい」
    「だから?」
    「これを破りしもの、すなわち違反者とし、
     王命をもって連行する」
    「お好きにどうぞー。
     出来るならね」

    少女を捕まえれんと男が手を伸ばしその身体を掴もうとする。
    が、その手をかいくぐり、少女は男の額に奇妙な紙を
    貼り付けた。

    「ほう、早いな。
     だが、この程度で―」

    そこで、男の声が止まった。
    その顔にはありありと困惑の色が浮かんでいる。

    「かっ身体が動かん!?」
    「塔馬流陰陽符、
     封縛の符。なり」

    そういって、悪戯が成功した子供のように舌を出し、
    得意げな顔で男へと振り返る。

    「きっ貴様、何をした?」
    「ちょっと、術をかけただけだよ。
     その符の呪力が消えるまでは首より下は
     指一本動かせないよ。
     あっ、でも心臓とかは大丈夫だから安心してねー」
    「隊長!?
     どうしました」
    「クッ、この紙をはがせ!!」
    「はっ、はい!!」

    この騒動に誘われた男の部下らしき二人の騎士が現れ、
    男の命令に従い張られた呪符をはがそうと
    手を伸ばし、符に触れる。

    「言い忘れたけどー」
    「なっなんだこれは?」
    「動けない!?」
    「その札や、札の呪力下にいる者に触れると
     その人も動けなくなっちゃうからね。
     そんなわけで、通行人の皆さんもこれに触ると
     このオブジェの一部になっちゃうため
     気をつけてくださいね〜」

    目立った動きこそ無いが、往来のど真ん中に突っ立った
    騎士三人で構成されたオブジェから全員が距離をとって歩き、
    この通りだけ通行人の数が減っていく。

    「ありゃりゃ、ここの辺りのお店に悪いことしたかな?」

    バツが悪そうに頭をかきながら少女は辺りを見渡す。
    先ほどから、喧しい奇妙なオブジェは完全にスルーしている。
    見渡していると、少し離れた一軒の店の中から招くように手を
    振って呼んでいる者がいる。

    「立てる?」

    と、先ほどの騒動で呆然として尻餅をついたままだった
    チェチリアは慌てて、立ち上がり深々と頭を下げる。

    「そんなにしなくてもいいよ。
     それより、ちょっと呼んでるみたいだから僕は行くね。
     これからは気をつけて・・・・」

    と、そこでチェチリアからのすがる様な視線に口篭る。
    そして、その視線に耐え切れなくなったのか、困りながらも
    チェチリアに尋ねる。

    「せっかくだし、ついてくる?」

    ―コクン。




    「いや〜、スッキリしたぜ。
     良くやってくれた!!」
    「ったく、獣人狩りだの異端狩りだの
     言ってすき放題やりやがって!!」
    「だが、これで少しは懲りたろ。
     はっはっはっは!!」
    「嬢ちゃんも無事で何よりだったな」

    少女を向かいいれた先は何人もの男たちが
    席に座った酒場だった。
    そして、少女は男たちに誘われるがままに、
    真昼間から注がれる酒を飲んでいる。
    その状況をオドオドとした様子で眺めるチェチリア。
    男たちはチェチリアにも酒を進めるが、それらを
    丁重に、ジェスチャーで断っている。
    そして、ちょうど半刻ほど時間が過ぎたところで
    少女が立ち上がる。

    「さてっと。
     それじゃ、ご馳走様。
     ボクは帰らせてもらうからー」
    「おいおい、もう帰るのか?
     まあ、何時でも来いよ、歓迎するからな」
    「ありがとねー」

    店の扉を抜け、大通りに出る。
    あのオブジェは今だ残っているが、
    散々騒いでたため、息切れしてぐったりしている。
    しかも、一人か二人分、その体積を増しているように
    見える。

    「じゃ、これからは気をつけてね〜」

    ―グッ。

    立ち去ろうとする少女の動きが再び止まる。
    その服の裾をチェチリアにしっかりと掴まれていた。

    「・・・・まだ、何か用があるの?」

    少々、驚いたような、呆れたような、そして僅かに引きつったような
    笑みで少女が尋ねる。
    そして、チェチリアが逃がさないよう服を掴んだまま、
    服を掴む前に書いて置いたノートを見せる。

    『是非!!お礼をさせてください。
     腕によりをかけた料理をご馳走しますから!!』

    珍しく、強気なチェチリアとその熱の入った文章に先程より
    いっそう引きつった笑みのまま、さらに尋ねる。

    「・・・・お礼を受けなきゃ、離す気は無い。よね〜」

    ―コクン。

    「は〜あ、忙しいんだけどな〜。
     まあ、いっか。
     御礼は受けなきゃ失礼だもんね。
     君、名前は?」
    『チェチリアです』
    「ふーん、もしかして話せないの?」

    ―コクン

    「そっか。ボクの名前はアキラ。
     アマツ・アキラだよん」


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■225 / inTopicNo.2)  白き牙と黒の翼、第二話
□投稿者/ マーク -(2005/09/13(Tue) 00:30:21)
    『ツクヨ』








    ―パチッ

    「ムッ」
    「ふふふ」

    ―パチッ
    ―パチッ

    「ムムム」
    「ふっふっふっ」

    ―パチッ

    ―パチンッ

    「王手」
    「まっ待った!?」
    「これで待ったしても意味ないでしょ。
     いい加減にしたら?」
    「しかし、なかなかえげつない事をするな。
     どう打ってももう積みだろうこれでは」
    「まあね」

    一つのテーブルを境に向き合うベアとミコト。
    そして、ミコトの横からそのテーブルに置かれた木の板を眺めるサクヤ。
    二人がやっているのは蓬莱に伝わるゲームの一つ、
    将棋と呼ばれるものだ。
    何故二人がこのようなものをやっているかというと
    それらちょうど一刻ほど前に遡る。









    『何やってるんだ二人とも?』
    『ああ、我々の国に伝わる物で
     知略を競いあう遊びだ』
    『こっちで言うチェスと似た感じね』
    『ほう、面白そうだな』
    『やってみる?』
    『ああ、チェスなら自信はあるぞ』
    『そう簡単には行かないわよ』







    「しかし、遅いな」
    「何が?」

    ベアに目線を向けずに、将棋版に駒を並べていく。
    ベアを虐めて楽しんでいたが、やはり実力の同じものとやったほうが
    こういうゲームは楽しいものだ。
    結局、ベアは負けっぱなしでサクヤと
    交代することになった。

    「そろそろ、チェチリアが帰ってきてもいい頃なんだが」
    「そういえばチェチリアともう一人をさっきから見てないけど」
    「あの嬢ちゃんはなにやら用事があると言ってどっか行っちまったが、
     すぐ戻ってくるとチェチリアに言ってたぞ」
    「チェチリアは?
     まさか・・・・・家出?」
    「馬鹿を言うな!?
     あいつがそんなことをするか!!??」
    「・・・・・必死ね」
    「だな」
    「喧しい!!
     とにかく、アイツがそんなことするはずがない!!・・・・・多分」
    「じゃあ、チェチリアもお年頃だし、道端で出会った素敵な男性に一目惚れ。
     しかし、それを過保護で親馬鹿な養父が許すはずも無く彼女は愛の逃避行に」
    「駆け落ちというやつか」
    「・・・・・・・・・・・・早まるなーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
     チェーーーチリアーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

    錯乱してチェチリアの名を叫びながら、通りへと飛び出そうとする。
    このままベアを外に出したらこの店の評判はがた落ちだろう。
    それはミコトたちにも都合が悪いので、
    慌ててベアを引きとめようとする。
    と、そこへ。

    ―ガランッガランッ

    いつの間にかドアにつけてあった来客を知らせるための鐘が
    店内に鳴り響き、扉が開く。
    その扉の先には都合よく、チェチリアが、そして見慣れぬ、
    いや、見覚えはあるのだろうがもう軽く2、3年は
    その顔を見てなかった筈の少女がミコトたちの眼に映る。

    「へ〜、なかなか綺麗だね〜。
     ってミコちゃん?」
    「・・・・・・・その喋り方はアキラの方よね」
    「そうだよん」
    「まさかと思うが、その格好で歩いてきたのか?」
    「当然だよー、ボクはツクヨみたいに化けれないからね」
    「カツラとか、髪を染めるとかあるでしょ?」
    「かつらなんて持ってないし、お母さんから貰った
     この髪を染めるなんて出来るはずが無いでしょ」
    「じゃ、帽子は?」
    「はっ、と。なるほど」
    「座布団一枚」
    「なんでやねん!!」

    ミコトは現れた少女、アキラの言葉とサクヤの対応に対して
    反射的にツッコミを入れる。
    だが、その次の瞬間にはとても疲れた顔でテーブルに
    突っ伏していた。

    「まったく、あんたの相手は心底疲れるわね。
     って、良く見ればツクヨがいないじゃない。
     どうしたのよ?」
    「分かんない。途中ではぐれちゃった。
     探してる途中でこの子が変な男に絡まれてたから
     助けてあげたら是非お礼に、って誘われたの」
    「ほほう、家の娘に手を出すとはよほど死にたいらしいな、
     そいつは」
    「安心してね、未遂だから。
     それに相手は騎士だったからを出すのは不味いと思うよ?」
    「国が怖くて冒険者をやれるか!」
    「もう、引退してるじゃない」
    「揚げ足を取るな!」

    若干、涙目にも見えなくも無いが気のせいだと思ったほうが
    ベアのためだろう。

    「ま、そんな事するのは正規の騎士じゃないとは思うけど、
     やるなら証拠は残さずやってよね」
    「当たり前だ。
     痛覚を持って生まれたことを死ぬほど後悔させてやる」

    そういって、黒い笑みを浮かべながらカウンターの下から
    愛用の戦斧を取り出し、手入れをする。
    ちなみに、当の本人はいまいちよく分かってないらしく、
    首をかしげながらその様子を眺めている。
    そして、アキラを連れてきた理由を思い出して、
    キッチンへと入り、買ってきた材料を取り出す。
    買ってきた材料から作る物を幾つか選び、作る物が
    決まったところで、それらの食材を調理していく。
    手馴れた動きで野菜を刻み、鍋に火をかけ順に食材を入れていく。
    僅かな時間でそれらの食材は実においしそうな料理へと
    変貌し、皿に盛り付けられ、テーブルへと運ばれる。

    「うわ〜、おいしそう〜」
    「結構、凝ってるわね。
     ねえねえ、私も一口いい?」

    ミコトがチェチリアに頼み込むが、チェチリアは
    困った顔をしながらも、胸の前でバツを作る。

    「はあ、駄目か」
    「いふぃふぃふぁふぁいふぉー」
    「口の中、無くなってから喋りなさいよ」
    「っん、ぷはっ。意地汚いよ〜、ミコちゃん」
    「・・・ねえ、それ止めてくれないって私、前に言わなかった?」
    「それ?」
    「その呼び方、ミコトで良いでしょ?」
    「可愛くないじゃん、これ嫌い?」
    「すっごく、嫌い。母さんと、そしてあの事を思い出させるじゃない」
    「アレの事か?」
    「そうよ」
    「え〜、なんで〜。ミコちゃん、上手だし綺麗じゃない」
    「私は剣の方が性にあってるのよ。
     剣を取った以上、あれをやるのは気が引けてね。
     神聖な儀式にこんな心境で望んじゃ不順でしょ?」
    「まあな。
     だが、宮瀬に生まれたのだから諦めろ」
    「はーあ、此花のほうが性に合ってるわ」
    「・・・・本気で言ってるのか」
    「冗談よ、あんたの苦労は分かっているつもりだもの。
     宮瀬だけだもんね、女が優遇されるのなんて。
     そういう意味では幸運なんだろうけど。
     おかげで三人の中じゃ、正式な跡取りは私だけだし」
    「そうだよね。ボクも大変だけど、サクヤちゃんはもっと大変だもんね」
    「・・・・・・・・ちゃんは止めろ」
    「ぶ〜〜」

    アキラが止まっていた腕を動かし、皿の残りを片付けていく。
    瞬く間に皿は空になり、満足そうにお腹を押さえる。
    注がれた水を飲もうとコップに手を伸ばし、それが空になると
    胸の前で手を当てて満足そうにご馳走様とチェチリアに言う。

    「で、ツクヨも一緒に来てるらしいけどわざわざ
     あんたまでここに来たのはどういった用件?」
    「ちょっと、アレについて気になることを見つけたから、
     2人にも教えようと思ったんだけど」
    「あんたまでついて来るなんて何かあったの?」
    「・・・・・・」
    「何なのよ?」
    「ちょっと遊びに来ちゃった、てへ」
    「てへっ、じゃなーい!!
     あんたがここに来ると面倒にしかならないって
     あれほど言ったじゃない。
     なのに遊びに来たですって!?
     一体なに考えてるのよ!!」
    「落ち着けミコト、コイツに何を言っても無駄だ」
    「そうそう」
    「自分で言うなーー!!」
    「それよりも、ツクヨを探さなくて良いのか?」
    「ん〜、探しに行こうにもどこにいるかさっぱりだし、
     目的地で待ってた方が賢明だと思うよ。
     それに」
    「それに?」
    「そろそろ来ると思うよ」

    ―バタンッ

    勢いよく開かれた扉の向こうに息を切らせて飛び込んできたのは
    アキラと同じ色の長い髪、同じ色の瞳を持ち、アキラよりも
    幾分か大人びた顔立ちと身体の少女だった。

    「ミコトよ、居るか!?アキラが!!
     っと・・・・・・アキラ?
     何故そなたがここに居る!!」
    「遅かったね〜、ツクヨ」
    「お疲れさん」
    「大変そうだな」








    「ね〜、機嫌なおしてよ〜」
    「別に妾は怒ってなどいないぞ」
    「そんなこと言うけど、言葉が刺々しいよ〜」
    「ふん、ならば何か後ろめたいことがあるからであろう」
    「ご〜め〜ん〜。誤るからさ〜、機嫌なおしてよ〜」
    「いったい、どうなってるんだ?」
    「2人ともそろったし、紹介するわ。
     2人とも私とサクヤの親類でこっちの小さいのがアマツ・アキラ、
     もう片方がアマツ・ツクヨ。
     いちおう、姉妹ということになってるわ」
    「・・・・・・お前たちの親族はいったい何人いるんだ?
     サクヤ以外、毎回違うやつらが訪れるが」
    「この四人だけだ。
     ツクヨにとっては2人とも初対面ではないはずだ」
    「だが、こんな個性的な者、忘れる筈は無いんだが?」
    「当然よ、顔が違ったもの」

    その言葉に2人がさらに首を傾げる。
    そんな噂の人物の片方は必死にもう一方の機嫌を伺っている。

    「ツクヨ、ちょっと解いてくれない?」
    「むっ、何か忘れている気がするが・・・・・・
     まあ、良かろう。
     確かに言うより実際に見せた方が早い」

    言い終わるが否や、ツクヨの姿が一瞬のうちに変貌した。
    身体中を金色の毛で覆い、ふさふさとした一本の尾をなびかせ、
    四本の足で床に立つ金色の狐。
    そして、その姿を見た瞬間、チェチリアが目にも止まらぬ速さで
    その金色の狐に力いっぱい抱きつく。

    「ぬお、離せチェチリア!?」

    金色の狐から発せられる切羽詰った声に反し、腕の力をさらに
    強めて抱きつく。
    無二の動物好きである彼女の前でこの姿になったのは失策であった。

    「ええーい。
     首が絞まっておると言うとおるのじゃ、離さんか!!」

    その言葉に驚き、慌てて力を緩めるが決して手は離していない。
    呼吸は出来るようになったが、あまり良い気分ではないため、
    抱きついた状態のままどうあっても離そうとしないチェチリアの腕を
    振り切ろうともがくが、どこにそれ程の力があるのかチェチリアは
    一向にツクヨを離さない。
    そして、無駄と悟ったのか抵抗が徐々に止んだいく。

    「ははは。その辺で妥協してあげなさい、ツクヨ」
    「くっ、人事だと思いおって!!」
    「そうは言ったって、実際に人っていうか狐事?」
    「で、それは何だ?
     獣人なのか?」
    「ふん、そのようなものと一緒にされるとは非常に不愉快だ」
    「たしかに、この存在はそのような可愛い存在ではない」
    「・・・・・・少なくとも獣人ではないんだな」
    「ええ、コイツは私たちの国、蓬莱に住まう妖魔、
     『金毛白面九尾の妖弧』と呼ばれる存在よ。
     本当なら高位魔族くらいの力は軽くあるらしいけど、
     今は弱ってるからそれ程の力は出せないらしいの。
     まあ、化け狐程度に捉えてくれれば良いわ」
    「なるほどな、化け狐か。
     こっちでも竜なんかが人に化けることがあるし、
     力ある者ならそれぐらいは出来てもおかしくは無いな」
    「そういうことだ。
     それでツクヨ。 
     アレについて何か進展があったらしいが?」
    「うむ、少々興味深いことを見つけた。
     あの二刀の過去にまつわるであろうことじゃ」
    「うん。それで、もしかしたら、アレを強奪した目的の手がかりに
     なるかもしれないと思ったんだけど・・・・」
    「続けてくれ」
    「え〜と」
    「うーむ」
    「どうしたの?」

    そこで言葉を止めてしまい、何か言いづらそうにしている。
    他人にはおいそれと言えない様な事なのか、それとも―

    「実は〜、詳しい内容を忘れちゃった」
    「・・・・・・・なっ」
    「な?」
    「なにやってんのよ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
    「あう〜、おふぉんないでよ〜」

    頬っぺたを引っ張られながら、謝るアキラとその頬を尚も引っ張るミコト。
    そして、その2人を放ってサクヤは申し分け無さそうに顔をしかめている
    ツクヨに話しかける。

    「忘れたとはどういうことだ」
    「アキラが学園都市の図書館でそれについて発見したらしいのだが
     それをうっかり妾に言おうとしてな」
    「忘却の呪か」
    「うむ、知識が流出するのを防ぐために生み出された呪いだ。
     特定の場所以外でその内容を他者に伝えようとすると
     その知識を忘れさせ、記録されていた場合もそれを強制的に破棄させる
     強力な暗示が籠められている。おかげで妾もその内容を知らぬのだ」
    「特定の場所がどこかは判らんが、少なくともその図書館内ならば
     大丈夫だろう。
     が、だとすると共に向かわねば、また忘れることになるな」
    「うむ、そうするが良かろう。
     全く面倒なものを仕掛けおってからに」
    「全くだ」

    「いひゃい。いひゃい」
    「反省しなさーーーい!!」

    そういって騒がしい二人の少女へと目を向け、二人は同時に深くため息をついた。









    「と、いうわけでみんなで調査に行くことになりました・・・・・・」
    「よろしい」
    「うう〜、僕のせいで忘れたわけじゃないのに〜」
    「確かに、忘れてしまったこと自体は仕方が無いことだな」
    「だよね、だよね」

    その様子に哀れみを感じたのかサクヤが庇う様にアキラの言い訳に同調する。
    仲間を得たアキラがミコトへ向け、責めるような視線を向けるが、その対象である
    ミコトはそんな視線を意に介さず、むしろ更に怒りをはらんだ視線で睨み返し、
    その視線にアキラは再び縮こまる。
    まさしく、その様は蛇に睨まれた蛙その物である。

    「忘れたことは良いわ。怒っているのはあんたがここにいることよ。
     その上、既に一悶着おこしているし」
    「うっ」

    痛いところを突かれアキラが言葉に詰まる。

    「けっ、けど、僕がいなかったらチェチリアがどうなっていたか」
    「それは結果論でしょ?
     それとも、まさかチェチリア助けるためにこっちに来た訳?
     そもそも、騎士がそんな強引なことをしたのも、実はあんたやツクヨの所為じゃないの?」
    「えっ」
    「ツクヨ、あんたアキラとはぐれる前に絡まれた?」
    「うむ」
    「絡んできたやつはどうしたの?」
    「さほど強引だったわけではないが、とにかくしつこかったからな。一人残らず黙らせた。
     しょせん女、子供と高をくくってたので容易だったぞ。
     ついでに言えばそのときアキラとはぐれてしまったな。
     なるほど、その教訓を生かして多少強引にでも連れて行こうとしたのか」
    「ア〜キ〜ラ〜」
    「あう〜、ごめんなさい」
    「・・・・・・・・・そういえば、ミコト」
    「なに?」
    「噂なのだが・・・昨夜あたりに南東の方角から巨大な怪鳥が現れたという話があったのだが」
    「・・・・・・・・・・・それ・・・・・・・・・ツクヨ・・・・・?」

    ツクヨの今の姿も変化の術でとっているのだから同じように鳥なり獣なりに化けることなど
    用意なはずである。
    もはや、隠しても仕方が無いとばかりにあっさりとツクヨは答える。

    「すまぬ。アキラには逆らえなくてな」

    結局、妖狐だとか言われてても身内には、義妹には甘いということだ。
    それは仕方が無い。なぜならそんな我侭を言ったのはおそらく。

    「わわっ!?ツクヨ、ミコトに言っちゃダメだっていったのに!!」

    この我侭な娘に違いないのだ。

    「ふふふふふふふふ」
    「ミッ、ミコちゃん?
     おっ落ち着いて。ね?」
    「私は落ち着いてるわよ。
     こんの大馬鹿者がーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」







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