Release 0シルフェニアRiverside Hole

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

[ 最新記事及び返信フォームをトピックトップへ ]

■272 / inTopicNo.1)  ツクラレシセカイ(前書き)
  
□投稿者/ パース -(2006/05/17(Wed) 21:10:51)
    これが小説初投稿になりますが、本編の前に前書き、というかいきなり言い訳、つーか謝罪です(爆
    ごめんなさい、素人でほとんど小説なんて書いたことがないこのパースの文章ですので、たぶんあっちこっち変になってると思います。
    ごめんなさい、序章は本編とほとんど繋がりがありません、ただの伏線です(ぁ
    ごめんなさい、最初エルリスをエルエスだと思ってました(何

    3回もあやまりゃ十分だろ(ぇ

    そんなわけで、それでもいいなら本編「ツクラレシセカイ」をよろしくお願いします〜。

引用返信/返信 削除キー/
■273 / inTopicNo.2)  Re[1]: ツクラレシセカイ(シーン0)
□投稿者/ パース -(2006/05/17(Wed) 21:14:12)
    シーン0「序章」


    広大な、広大すぎる砂漠が広がる世界。
    どこまでも広がる砂色の世界。
    地平線の果てまで延々と砂が続き、夜にはマイナス数十度にもなる死の世界。
    全ての生命の生存を否定するようなその世界を歩く者がいた。

    足取りは重く、ふらつき、今にも倒れそうに、ただ――歩く。
    その大柄な人影・・・よく見れば一人の人間がいくらか小柄なもう一人の人間を背負っていることに気付く。

    その一人の人間を背中に背負う影――蒼髪の少女。

    エルリス・ハーネット

    そして、エルリスが背中に背負う、顔も青ざめ、息もたえだえな少女。

    セリス・ハーネット

    セリスを背中に背負い、エルリスは、歩く。
    広がる広大な砂漠を、どこへと、行くあてもなく。


    ◆  ◇  ◆


    自分たちが一体何時間歩き続けているのか、時間間隔は既に麻痺した。
    足はもう棒のようどころか、自分がしっかり歩いているのかもわからない。
    背中のセリスももうほとんど動かない。
    先ほどまでは声をかけると何かしらの反応はしていたのに、背中越しに聞こえるわずかな鼓動だけがセリスがまだ生きていることを証明する。

    「セリス・・・死なないでね・・・セリス・・・」

    記憶は曖昧で、混乱している。
    様々な記憶が入り乱れる。
    思考が乱れる。

    「学校・・・砂漠・・・セリス・・・宿題・・・青い空・・・・・・友達・・・魔法・・・研究所・・・・・・?」

    どれが本当の記憶で、どこからが夢なのか。
    そもそも今見えている物全てが夢ではないのか。

    (ここは・・・・どこ・・・?今は一体何時・・・・?人は・・・いるの?)

    フラフラと今にも倒れそうに歩くエルリス。
    思考は千々に乱れまともに考えることすら出来ない。
    そして、石にけつまずきついに倒れてしまう。

    (一体何が・・・・・どうなってるの・・・こんな・・・訳のわからないところで・・・・?)

    倒れてから頭に思い浮かぶのは「理解不能」というただそれだけ。
    事態の把握なんて出来ようはずもない。

    (・・・私、どうなるのかな・・・・このまま・・・・死んじゃうの・・・?)

    このままだと、自分にはいずれ「死」が訪れる、ということに今さらながら思い当たる。

    (イヤ・・・・死にたくない・・・・こんな・・・ところで・・・死にたくない・・・・)

    恐怖がまとわりつく。
    それは死の恐怖。

    「セリス・・・何か・・・言ってよ・・・・」

    少しでも恐怖を和らげようと背中のセリスに声をかけるも、反応はない。

    「誰か・・・助けて・・・・・・誰か・・・」

    まぶたも重く、目を閉じてしまいそうになる。
    体は重く鉛のよう。
    セリスは、動かない。
    自分も、動けない。
    エルリスは、ついに目を閉じ――ようとしたとき。

    人が目の前に立っていた。

    頭をなんとか動かし、その人影を見る。
    青い髪の男の人。

    「あなたは・・・誰?」

    「――――、―――――――――」

    聞こえない。
    聞くことが出来ないのか、理解できない言葉を話しているのか。

    「何・・・、聞こえないよ・・・・?」

    助かるのかどうか、彼が何者なのかもわからぬまま、しかし人がいたという安心感からまぶたが落ちる。

    ――ザッ

    耳元で何か音がした。

    「クライス、クライス・クラインだ」

    それが彼の名前だ、とわかると同時に意識はどこかへ落ちていった。

引用返信/返信 削除キー/
■274 / inTopicNo.3)  ツクラレシセカイ(シーン1-1)
□投稿者/ パース -(2006/05/19(Fri) 19:49:21)
    シーン1-1「日常」


    まぶたを開く。
    見えたのは見知らぬ場所。
    ぼんやりと広がる視界に映るのは慌ただしく動く人々。
    彼らの誰もが何かを叫び忙しく走り回る。
    彼らは口々に何かを言い合い、操作盤を殴るように操作する


    (何だろ・・・・これ・・・)


    どこかの研究所のようだ。
    走り回る人々は皆白衣を着ている。
    自分は何かの入れ物に入っているらしい。
    意識は遠くなりがちで、何より・・・・眠い。


    (そっか・・・これは夢か・・・・)


    夢の中だということに気付けば今見えている物も何の意味もない物だと理解する。


    (夢の中なら何がどうなっても変じゃないよね、うん、きっとこれは夢、何より眠いし)


    夢の中で眠ると目が覚めると聞いたことがある、もう一度眠りにつこうと目を閉じる。
    別に聞きたくもないが走り回る人々の声が聞こえた。

    「どう――――――、誰か――――のか!」

    「ダメで――――、―――が――――起動――――ません」

    「―――反応が―――――ません!、――A-10からA-7――――ロスト、――――危険です!!」

    「まさか――――――反乱―――」

    「誰か!――署長を――――早く!」

    ほとんど言葉の意味を考えるまもなく『夢』の中で眠りにつく。

    ――――――――――――――――――――――

    ――――――――――――――――

    ―――――――――


    ◆  ◇  ◆


    ――朝――

    エルリスは目を覚まし、体を起こすと同時に一言

    「変な夢」


    顔を洗ってすっきりしよう、エルリスはそう考えベッドから抜け出す。
    階段を下り、洗面台へ向かう。
    鏡を見ると眠そうな目をしている自分が鏡に映っている。
    蛇口をひねり、水を出す。

    ――バシャッ

    水は冷たかった。
    しかし顔を洗うと気分はすっきりする。
    鏡を見ると、いつもの顔に戻っている自分が映っていた。
    鏡を見ながらふと思う。

    (そういえば、何の夢を見てたんだっけ?)

    ついさっきまで見ていた『夢』のことは既に頭の中からきれいに消えていた。

    (ま、いっか)

    忘れてしまった夢のことなんてどうでもいい。

    (それで、今からどうしよっか)

    時計を見るといつもよりかなり早い時間だった。
    もう一度眠ろうか、朝ご飯にしようか迷っていると


    「珍しいな、エルリスがこんな早くに起きるなんて」


    すぐ後ろにクライスが立っていた。


    ◆  ◇  ◆


    「珍しいな、エルリスがこんな早くに起きるなんて」

    朝、いつものように起きて、顔を洗おうと洗面台に向かうとエルリスがいた。
    エルリスにしては早い起床だったので、声をかけると

    「お、おはよう、クライス」

    返ってきたのは朝の挨拶。エルリスは少し慌てているように思えた。
    俺もエルリスの目を見て挨拶を返す。


    「おはよう、エルリス」


    「・・・・・・・・・」

    「・・・・・・・・・」

    見つめ合ったまま、数秒の沈黙。

    「・・・・・・・・・」

    「・・・・・・・・・」

    うっすらとだが、エルリスの顔が赤くなったような気がする。

    「・・・・・・・・・・・・・・」

    「・・・・・・・・・・・・・・」

    さらにエルリスの顔が赤くなる

    「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

    「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    「あのー・・・・・・・クライス?」


    沈黙に耐えられなかったのか、エルリスが口を開く。


    「何?」

    「何か用があって話しかけてきたんじゃないの?」

    「まぁ、用というか」

    用事と言うほどでもない簡単な事である。

    「俺も早く顔を洗いたいから、待ってるんだけど?」


    途端にエルリスの顔が赤くなり、慌てて洗面台から離れる。

    「あ、ああ!!そう、そうよね!あはは、ごめんなさい!私はもう終わったから、クライスが使って」

    エルリスはそう言うと、スタスタと食堂の方へ向かっていった。
    俺も顔を洗おうと洗面台の前に立つとエルリスが何かを思い出したようにクルリとその場で半回転して声をかけてきた。

    「そういえば、朝食は何にする?」

    「いつものように、トーストとミルクとベーコン」

    「わかったわ」

    そう言ってエルリスは食堂に向かって歩いていった。
    さっさと顔を洗って食堂に行こう。


    ◆  ◇  ◆


    食堂に向かって歩いていたエルリスはふと立ち止まりうしろを振り返る。
    そしてクライスがいないことを確認し、一言


    「なんで、気配もなくいきなり後ろに立つかな・・・・・・・・びっくりするじゃない」


    時々、クライスは全く気配がないことがある。
    そのせいで、驚かされてしまうこともよくある。
    なんでクライスの気配が全くしないのか、それはよくわからない。



    「うにゅ・・・・・・・お姉ちゃん・・・・?」

    セリスが階段を下りてきた。

    「おはよう、セリス」

    「うん・・・おふぁ・・・・・ぁよう」

    半分くらい眠ったままのセリスが挨拶を返す・・・・が

    「ムササビーどこー?」

    「・・・・はぁ・・・?」

    「ムササビーがこうグワーって飛んできてバァーってなったの・・・・」

    「なに寝ぼけてんのよ・・・」

    セリスはそのまま「ムササビー」とか意味不明なことを呟きながらフラフラと洗面所の方へと歩いていった。
    フラフラ歩くセリスの背中を見ながら、エルリスは

    (ご飯の準備しよ・・・・・)

    少し疲れた気分でそう思った。


    ◆  ◇  ◆



    ―――朝食

    あの後、朝食の準備をしたエルリスと、それを手伝いに来たクライス、そして顔を洗ってやっと目が覚めたらしいセリスの3人で朝食を食べていた。
    テーブルのひとつを3人で囲う、朝食の内容はいつも通りトーストとベーコン、ミルクである。
    トーストにはジャムかバター、好きな方を付けたり付けなかったりする。
    3人とも、それほど食べるわけではないので、朝はこれで十分である。

    そして、食べ終わると、3人で朝の会議をするのが毎日の日課である。



    ◆  ◇  ◆


    「今日の予定は何だっけ?」

    と、クライス

    「私とセリスは学校、クライスはギルドにお仕事、よね?」

    これは私のセリフ

    「毎日同じ事の繰り返しだー」

    セリスが少しつまらなそうにぼやく。

    「だってそうなんだから仕方ないだろ」

    実際その通りである。

    「でもさ〜たまには刺激が欲しいよー」

    「刺激って言ってもねぇ」

    「ねぇ、クライス、この前言ったこと考えてくれた?」

    「この前?」

    「ほら、この家を旅館代わりにしたらどうかって話」

    「ああ、あれね・・・却下」

    「なんでー?」

    「何回も言っただろ」

    「知り合いから預かってる物って話?」

    「そうだ」

    「「ちぇーもったいないのー」」

    私とセリスの二重奏を最後に一旦会話がとぎれる。


    それにしても、本当にもったいない話である、このやたらとでかい家を使えば旅館くらい簡単にできそうな物である。
    無論、旅館をやることが目的ではない、セリスの言う「ちょっとした刺激」である。

    今まで何度言っても却下されたので今回も期待はしていなかったが、やっぱり却下された。
    予想通りに却下してくれたクライスの顔をなんとなく見ながらこの屋敷のような家のことを考える。

    この家には現在3人しか住んでいる人はいない。
    ――そう、3人だ

    今、私達が住んでいるこの「家」、大きさはその辺の宿泊施設を軽く超え、ヘタをすれば貴族の屋敷と間違えんばかりのサイズを誇る。
    すると当然のように部屋の数もかなり多く数十人が同時に泊まることが出来る。
    それゆえ、食堂も無駄に大きく宴会が出来そうなほどあり、そのための長テーブルやイスがかなりの数使われないまま、食堂の隅に放置されている。

    ――一度、何でこんなに大きな家をクライスが持っているのかと聞いたら、

    「知り合いが旅に出てる間、俺が預かることになってるんだ」

    と、言っていた。
    (クライスの知り合いって一体何者・・・?)

    そして、この広大な屋敷に、住んでいるのはたった3人である。

    (もったいないなぁ・・・)

    当然のようにそう思う、エルリスであった。
    そうしていると、クライスがこっちの方を向き、目があった。


    ◆  ◇  ◆


    こちらの方を少し恨めしそうに見ているエルリスと目があった。

    何度言われてもこれは譲る気はなかった。

    本来の持ち主に何の断りもなく、別の使い方をするのは気が引けるし、何より問題なのは

    (奴の持ち物だからなー・・・勝手に旅館やってどこか壊したりした日には・・・・・血の雨が降るな・・・・)

    自分の考えに自分で冷や汗をかきながら、いまだに恨めしそうにこっちを睨んでいるいるエルリスを見る。

    (何度言われても、この家を本来と違う目的で使うのはダメだ)

    そういう意志を込めてエルリスをにらみ返す。

    しばらくにらみ合うこと数秒。

    「朝っぱらからお二人はアツアツですねー」

    セリスの一言に二人ともずっこけた。




引用返信/返信 削除キー/
■275 / inTopicNo.4)  ツクラレシセカイ(シーン1-2)
□投稿者/ パース -(2006/05/21(Sun) 10:19:07)
    辺境の村フォルセナ
    通称「ゲート」
    それがエルリス達が住んでいる村の名前である。
    大陸一の大都市「ホーリィライト」の南西、大陸第三の都市「アウスレオルス」からずっと南に位置する人口わずか400人程度の小さな村である。
    村では30人ほどの若者が自警団(ガーディアン)をやっており外敵から村を守っている。
    村は周囲を深い森に囲まれておりその上一番近い町でも歩いて数日かかる位置にあるため『長距離転移陣』が配備されている。
    この『長距離転移陣』はかなり大きな「扉」の形をしており、それがこの町が「ゲート」と呼ばれるゆえんである。
    この『長距離転移陣』はゲートとアウスレオルス間を結ぶ特殊型魔法陣で便利な移動手段としてゲートの村人からは重宝されている、しかしゲートは人口400人とかなり小さな村であるため、それだけのために常時使用するわけにはいかず1日に使用出来る回数は数回から十数回と制限されている。


    ◆  ◇  ◆


    会議を終えて、それぞれ準備をする時間になると、エルリスは自分の部屋に戻り、ベッドの側に立て掛けてある棒状の物を手に取った、長さは自分の身長の半分より少し長いくらい、それからその横に置いてある上半身から腰までを覆うボディーアーマーを着込む、そして、外用のブーツを履き財布を懐にしまって準備は完了。

    最後に部屋を見回し忘れ物がないか確認、準備はバッチシである。

    「んじゃ、行きますか」

    エルリスはそう言い部屋を出た。


    ◆  ◇  ◆


    玄関を抜け外に出るとクライスがいた、どうやらクライスの方が準備は早く終わったらしい。

    普通に歩きながらクライスの姿を確認する。

    灰色の服の上からエルリスと同じ型の一般的なボディーアーマーを着込み、旅人用の一般的なブーツ、腰にはいつものロングソードではなく1本のショートソードを吊していた。

    「あれ、いつもの長剣はどうしたの?」

    「この前壊れちまってな、修理に出してる」

    「ふーん・・・・大丈夫なの?」

    「村から町に行ってちょっとした仕事をするだけなんだから、大丈夫だろ」

    「ならいいんだけど」

    「それにしても、相変わらずセリスの奴遅いな」

    いつも最後に準備が終わるのはセリスである。

    「そろそろ来るんじゃない・・・・あっ、ほら、来た」

    ばたばたとこちらに駆けてくるセリスの姿が見えた。

    「待ってーおねーちゃーん、クライスー!こらー!置いてくなー!!」

    相変わらず、元気なセリスだった。


    ◆  ◇  ◆


    ――「ゲート」に向かうための小道――

    「ねぇ・・・あのさ、ふと思ったんだけど」

    セリスが呟く

    「何?」

    クライスが受け答える

    「もしかして・・・・・・・・・あたし達って今めちゃくちゃピンチ?」

    クライスが周りを見回して、一言

    「そうだな」

    「「何でもない風に言うな〜!!」」

    エルリス達は、ゴブリンの集団に4方を囲まれていた。


    ◆  ◇  ◆


    ――ほんの少し、解説を入れてみよう

    わたし達が家を出たそのすぐ後。

    セリスが忘れ物をしたと言いだしたのだ。

    クライスは時間がないから諦めろ、と言い

    セリスは戻ると言って止めなかった。

    で、結局クライスが先に折れ、一旦引き返したら時間がなかったので、普通の道ではなく、家の裏の丘を通って、森の中を突っ切る「ゲート」への近道を使うことにしたのだ。

    その結果、普段なら滅多に出ることのないモンスターの群れ(ゴブリン達)に遭遇してしまったのである。


    (――以上、説明終わりっ!)


    跳びかかってきたゴブリンの1体に手に持った棒で応戦するエルリス、ゴブリンから離れるためにとりあえず蹴り飛ばす。

    「どうすんの!?こんな数相手にしてたらその間にゲートが閉まっちゃうよ?」

    エルリスの半叫び声にクライスが怒鳴り返す。

    「どうするって、倒すしかねぇだろが!!」

    「まったく・・・・しょうがないわね・・・・」

    ちなみに、事の原因のセリスは楽しそうにしている(――こいつめ・・・・あとで懲らしめてやる)

    エルリスはあらためてゴブリンの方に向き直り棒を構え直す。

    (敵はざっと7体、後ろはセリスとクライスに任せるとして)

    エルリスの構えている「棒」はもちろんただの棒ではない。

    (よしっ、いける!)

    エルリスが持っている棒の先端部分の突起を押す、すると棒の長さが倍ほどになり先端から刃物が飛び出す。
    エルリスの武器は、変形機構付きの槍である、威力は刺突に関する限り普通の槍と同じである。
    あとは、携帯に便利で、不意打ちにも使えるということくらいか。

    ――ダッ!!

    一気にダッシュし手近な一体にリーチを活かして突き刺す。
    エルリスの武器が変形したことに一瞬気を取られたゴブリン達が慌てて攻勢に出る。
    その時エルリスは既に2体目を間合いに入れていた。

    (ハアッ!!)
    ――ザシュッ

    2体目も同じように葬り去る。

    (あと5匹!)


    ◆  ◇  ◆


    (さて、どうするか)

    前に立つ、10匹ほどのゴブリンに剣を向けながらクライスは考える。

    (エルリスが後方、セリスが側面を相手にしてるから、後ろは考えなくてもいいとして)

    チラッと後ろを確認する、エルリスが槍で応戦している姿と、セリスが腕輪を飛ばしてゴブリン達を威嚇しているのが見えた。

    (それにしても少し数が多い・・・ショートソード1本で勝てるか?)

    愛用の剣を修理に出すんじゃなかった、と今さらに後悔する。

    (ま、今さら後悔しても始まらんか)

    そうして一人で納得していると、しびれを切らしたゴブリンが2体飛び出してきた。

    (こういうのは、焦ったら負けなんだよな)

    腹を空かせているのか、単調な動きの2体の攻撃を難なく避け、すれ違いざまに斬る。

    (さらに、このタイミングで攻めるのもありだな)

    仲間を2体あっという間に倒された動揺がゴブリン達に広がる、クライスから見ればそれは単なる「隙」でしかない。
    一息に間合いを詰め先頭のゴブリンを切り裂く。

    (数が多い敵は、リーダーを倒すに限るな)

    さらに動揺が広がるゴブリン達の中で、1体一回り大きなゴブリンが他のゴブリン達をまとめようとしているのがわかった。

    (あれがリーダーか)

    ゴブリン達の間を隙間をぬうように走り抜け、邪魔をする物のみ斬りながら進み、ゴブリンリーダーの前に立つと一気に跳躍。

    ――頭上から剣を一閃。

    頭をふたつに割られたゴブリンリーダーがゆっくりと崩れ落ちた。

    (なんだ、こんなもんか)

    リーダーを失ったゴブリン達は我先にと森の中に帰って行った。



引用返信/返信 削除キー/
■276 / inTopicNo.5)  ツクラレシセカイ(シーン1-3)
□投稿者/ パース -(2006/05/23(Tue) 20:27:31)
    リーダーを失ったことであっけなく森の中へ逃げ帰っていくゴブリン達を見ながらエルリスは思う。

    (クライスってホント何者なんだろ・・・)

    さっきのゴブリンを斬った動き、どう見ても只者ではない、それに、たまに気配がないこともある、しかしそのことはいつ聞いても曖昧にはぐらかされるのだった。
    武器である槍を元の形に戻しながら考える、が
    そう言えばそんなことを考えてる暇はなかったな、と思い直し、とりあえずセリスの無事を確認する。

    「セリス、怪我はない?」

    そしてセリスの方を振り返ったエルリスは――

    「げ・・・・」

    「―――――――世界に満ちるマナよ、我と我が枝を伝いて――」

    セリスが『精神集中』して逃げるゴブリン達に呪文をぶち込もうとしていた。

    「ちょ・・・待った!ストップ!セリス!!」

    しかし一旦『精神集中』したセリスを正気に戻すには、遅すぎた。

    「我が体内に宿る魔力と共に・・・ふっふっふ・・・わたし達の邪魔をしておいて簡単に逃げられると思ったら大間違いなんだから・・・・・・我が敵を焼け!『フレイムバースト』!!」

    途中どう考えてもただの呪詛にしか聞こえない言葉が入りまくったが、どういうわけか魔術は普通に発動した。(なんでだ!

    『FlameBurst』は対象の側に小型の炎の塊を生み出しそこで破裂させるという炎熱系の魔術である。

    ――ッバァン!!ドン!ドドン!!

    それが複数同時に爆発し、何体ものゴブリンや無関係の植物が吹き飛んだ。

    「ふふふ・・・・ふっふっふ・・・・あーっはっはっはっは・・・邪魔する奴はみんなこうだ〜」

    「あんたはいつまでラリってんのよ!」

    「あいたぁ!」

    エルリスの突っ込みが発動した。


    ◆  ◇  ◆


    セリスのやり過ぎな魔術のせいで多少燃えてしまった森に再度セリスの魔術で火の消化をして貰ってようやく一息ついた頃。


    「――で、クライス、時間はどれくらい残ってるの?」

    「セリスがよけいなことをしたせいで残り3分切った、」

    「私のせいじゃないよぅ・・・ゴブリンのせいだってばー」

    「セリスは黙ってなさい」

    「あぅ・・・」

    「とにかく急いがないと」

    「そうだな、さっさといこ――」



    クライスが行こう、と続けようとした時、森の中で大きな影が動いた。



    「―――っ!!なっ!なんだ!?」

    クライスも気付いたらしく声を出す。

    その大きな影がノソノソとこちらに近づいてくる。
    おそらく先の炎と血の臭いに誘われてきたであろうそいつは――


    巨人族の亜種、トロール



    その体は大きく家のよう、知能は低いが棍棒等を持っている事が多く、凶暴でそのパワーは計り知れず、そして何より厄介なのは。

    ――不死に限りなく近い生命力。

    ちょっとの傷ではすぐに回復し、一撃で致命傷を与えなければ倒すことは難しい。
    それが姿を現した。

    「これは、流石にまずくない・・・・?」

    「ああ、かなりまずい」

    「逃げた方が・・・・って、セリスは?」

    先ほどから一言も喋らないセリスを不審に思い振り返ると、


    セリスがまた『精神集中』し呪文を詠唱していた。


    一般的に、魔術師は呪文の効力を上げるために、世界を構成するマナで作られた物質(主に植物や鉱物)を装飾品や武具として体に装着し、魔術を使う際の媒介として使用する。
    さらに普通の魔術師は魔術詠唱に『精神集中』する必要がありそのために敵と距離を取る必要がある、その結果魔術師は遠距離用の飛び道具か、魔力増大やマナ変換に特化した道具、杖(ロッド)を使うのが主流である。(セリスは前者である)。

    セリスは両の腕にはめた腕輪を魔力の媒介として使用している。

    そして、セリスの魔力を受けた腕輪はマナを変換させるために回転し始め、周辺のマナを取り込み、魔力へ変換する、そして魔力があたりに十分に溢れると、腕輪はセリスから離れセリスの周囲を回り極小規模の魔法陣を展開する。

    そして、魔法陣の展開と呪文の詠唱が終わると同時、

    「――極寒の冷気よ、我が敵を凍て付かせよ――アイスヴァニッシュ!!」

    『IceVanish』は一定空間内の温度を極寒レベルまで引き下げ、敵を凍り付かせる一般レベルの氷結系魔術である。

    アイスヴァニッシュによりトロールの体が一瞬にして凍り付く。


    ―――シーン・・・・・・・・・


    「倒した・・・・かな?」

    ホッとしたのもつかの間。


    ――ビキッビキビキッ


    「うそっ!!効いてない!?」

    体を半分以上凍り付かせたトロールはそのままの状態でこちらに向かってきたのだ。

    そしてその腕には人の体ほどもある巨大な棍棒がひとつ。

    「まずい!!」

    クライスが叫び、エルリスとセリスも慌てて飛び退く。

    ――ドゴンッ!!!

    その巨体から出されるパワーにより地面がへこみ、木をなぎ倒す。
    その上トロールは明らかに怒っていた。

    「クライス、どうする!?さっきより状況が悪化してるよ!!」

    「どうするって・・・・・・どうしようもないかも」

    「「ええッ!!?」」

    クライスが現在装備しているショートソードではあのデカブツを相手にまともなダメージを与えられないだろう、エルリスの槍も同じである。
    頼みの綱のセリスの魔術が破れた今残る手段は

    (逃げるしかない!?)


    どうしようか迷ってる間にトロールは第二撃を放とうと腕を振り上げた。

    そして――



    「何こんな雑魚相手に手間どってんのよ」

    トロールの両腕が吹き飛んだ。

    「誰!?」

    声がした方を見ると、そこにいたのは

    黒髪に長刀(日本刀と呼ばれる種類なんだそうだ)を腰に差した少女。
    ミヤセ・ミコトだった。


    ◆  ◇  ◆


    ――「どうしようもない」と言ったのは、もはや勝ち目がない、という意味ではない。

    もはや何もする必要がない、という意味だ。

    その後はあっという間だった。
    突然現れたミコトは両腕を失ったトロールに近づくと、腰に差したままの刀を構え

    『居合い斬り』

    目にも止まらぬ早さで刀を振り抜き、再度鞘に戻し2度、払う。
    瞬く間にトロールは3つに分断された。

    (――両腕を含めれば5つか。)



    「さて、クライス、あなたがいながらなんでこんな雑魚に手間取っていたのか聞かせて貰おうかしら、時間が無くて私がここを通らなかったら危なかったじゃない」

    刀の血を払い、鞘に戻しながらミコトが俺に訪ねてきた。

    「いつものロングソードが壊れたから今日はこれしかなかったんだ」

    俺は答える代わりにショートソードをミコトに見せる。

    「何であなたはそんな間の悪いことを・・・・・って今はそんなことどうでもいい!時間がないんだから・・・エルリス、セリスも!早くして、走るわよ!!」

    ミコトは返事も聞かずに走り出す。

    「あ、うん、そうだったね!急ごう」

    エルリスが反応して、

    「あ、待って、私も行く〜」

    セリスがそれを追う。

    一人残されたクライスは――


    (本当に、本当にミコトが来てくれて助かった、おかげで『力』を使わないですんだ・・・)

    誰にも気付かれぬように、ホッとしていた。


    ◆  ◇  ◆


    こうして、ミコトを加えたエルリス達はゲートの開放時間にギリギリ間に合い、ようやく、大陸第三の町、「アウスレオルスシティー」にたどり着いたのであった。
引用返信/返信 削除キー/
■279 / inTopicNo.6)  ツクラレシセカイ(閑章)
□投稿者/ パース -(2006/05/31(Wed) 20:09:53)
    (柱:今回は解説主体の話ですので、すっ飛ばしてくれてもかまいません)


    真っ暗闇の中にスポットライトの光がひとつ。

    スタスタスタ・・・

    (ローブを着た男が一人画面の真ん中に歩いてくる)

    「あー・・・・ごほん」

    (何か言いかけるが、何も思いつかない、いきなり闇の中から現れたカンペを見る)

    「えーと皆さん初めまして、私、今回司会を務めさせていただく――――(なんだよこれ、名前名乗れないじゃん、え・・・・・名前言っちゃだめだと?ったく・・・・)えーと、『解説者』です、短い間ですがよろしくお願いします。(何?そのまんますぎるだと、だったら普通に名乗らせろ、あ!?じゃあそれでいい?どっちだコラ!!だったらてめえが―――)」

    (しばらく解説者、何もない闇に向かって口論を続ける)
    (―――――数分経過)


    「えーと、大変失礼いたしました、全ては制作者が、今回の話は解説主体で行こう、何てバカなことを考えたのが原因です、私は悪くありません」

    (解説者の頭上からいきなり金だらいが降ってくる、解説者に直撃)

    「(イテッ!!金だらいだと、なんて古い手使いやがる、だいたいお前がちゃんと構成を考えてないからこういうことになるんだろうが、あんだと!?文句あんの―――)」

    (再度解説者、闇と口論を広げる)
    (―――――――――さらに数分経過)


    「またしても、申し訳ありませんでした、それでは、これ以上は時間がもったいないので、本題に入らせていただきます」
    「今回私が解説いたしますのは、この話の舞台となる、世界そのものの話です」

    「まず、ツクラレシセカイの世界では、大きな大陸がふたつしかありません、まず世界地図の右半分を占める、巨大な大地『ファ・ディール大陸』、そして世界地図の左半分には強力な魔族や、魔王の一族が住むと言われる『ディア・ディール大陸』が広がっています、そして、人がほとんど住まない南方大陸と漁業の盛んな北方諸島がこの世界の全てです、この辺大陸の配置なんかは本家リリースゼロからほとんどそのまんまパクってますね・・・・・・(パクリって言うなだって!?事実なんだからしょうがねえじゃねえか!)」

    「えー、こほん、まずは『ファ・ディール大陸』ですが、この名前はこの世界の住人たちはほとんど使わず、単純に『大陸』と呼んでいます、そして『ディア・ディール大陸』もほとんどの住人がその名称は使わず、『暗黒大陸』と呼びます」

    「それでは、続いて『大陸』の解説です、『大陸』の形は「四つ葉のクローバー」を思い浮かべてください、それの真ん中にぽっかり穴が開いたような形をしています」

    「真ん中の穴はこの大陸一番の大きさを誇る湖、「キルマ湖」です、そしてキルマ湖を中心として、東に大陸一の都市「ホーリィライト」があり、西に大陸第二位の港町「サハグラス」、南に三番目の学園都市「アウスレオルス」、北に四番目の町にして大農場「オルトナ」といった風に大陸は四つの地方に分類され、それぞれの地方ごとに、いくつかの村々が存在し、物語が開始された村「フォルセナ」はこの大陸の南側の一番奥、辺境に位置します、ちなみにこの大陸には合計で400万人ほどの人間が住んでいます」

    「さらに、キルマ湖を中心として北西に「フィーグ平原」南西に「ペルエム砂漠」南東に「レッドオーク樹林」北東に「ノルン山脈」と、地域ごとに全く異なる環境が広がっています、なお、この辺は完全に作者の趣味で作った物なので覚えていなくてもいいです」

    (頭上から再度金だらいが降ってくる、解説者に直撃)

    「(イデッ!だから金だらいは止めろって!古いから!どう考えたってこれはお前の趣味だろうが、違うって言うな!絶対に――――)」

    (解説者、またしても闇に向かって口論)
    (――――――――――――――――数分経過)


    「ハァ・・・・ハァ・・・・・・・続きまして、各町の特色と、いくつかの組織の紹介に移らせていただきます」

    「まず、「ホーリィライト」、ここは大陸一番の都市と言うだけあって大陸でも一番魔導技術が発達していて、全体的に白を基調とした高層建築物が建ち並んでいます」

    「次に、「サハグラス」、ここには大陸の中でも公式に認められている生命を崇める宗教「聖マナ教」の本拠地があり、その中にあるサハグラス大聖堂は毎年たくさんの巡礼者が訪れます」

    「さらに、「アウスレオルス」、通称「アウルス」ここは学園都市と呼ばれるほど巨大な学校があり、ここでは様々な人員の養成をしており、ここで修行した後ホーリィライトに行き色々な仕事に就く人が多いです」

    「最後に、「オルトナ」、ここには、大陸中の都市の食料の九割を生産すると言われるほどの巨大な農場があります、ちなみにこの世界での主食は小麦です」

    「これで各都市、地方の簡単な説明は終わりです、続いてこの世界に存在するふたつの重要な組織について説明します」

    「ひとつは、「サンドリーズギルド」、この組織は全ての町や村に最低でもひとつは窓口が存在し、種々様々な依頼、任務、厄介事を受け持つ「何でも屋」です、この組織に入るためにはいくつかの試験をパスする必要があって、個人もしくはチーム単位でA〜Eのランクに分類されます」

    「次に、「ダークマター」、これは、「聖マナ教」に反対する邪宗教です、魔こそが世界の全てであり、それを使役する魔族こそが本来世界の王であるとし、魔王を崇拝する狂信者集団です、この組織は大陸中で暗躍し、暗殺や誘拐等の様々な犯罪を引き起こしているとされます」

    「他にも、「鍛冶師組合」(BG)「商業振興会」(CAST)なんてのがありますが、この辺はもう以下略です、作者もまったく・・・・・・・作品ができあがってない内からよくこんな事やりますね、ただのバカです、狂ってます、もはや救いようg――――」

    (解説者の頭上に金だらい、しかし解説者回避)
    (直後回避した先に一升瓶(中身入り)が降ってくる、解説者に直撃)

    「(ぎゃああああああああああああああああああああああああああ――――!!!!!!)」

    (解説者悶絶する)

    「(テ、テメェ殺す気かコラァ!!冗談もたいがいにしろって、いや、ごめんなさい一升瓶は止めて、もう止めて、死ぬ!マヂで死ぬから!!いや、そもそも物を降らせるのを――――――)」

    (解説者、延々と闇に向かって会話)
    (―――――――――――――――――――――――――数分経過・・・・・)


    「うう・・・・頭痛い・・・・・・・・・・・と、とにかく、これ以上やったら私が死にそうなので、このぐらいの解説で十分だと思いますから、そろそろ解説を終了させていただきます」

    「もしここまで、ちゃんと呼んでくれた方がいらっしゃいましたら本当にありがとうございます、お疲れ様でした」

    「ちなみに、私は本編中でもどこかで出てくるキャラですので、暇があったら当ててみてください、賞品は出ません」


    (ローブの男が立ち去りかけて、急に足を止める)


    「そういえば、忘れていましたが、この世界には題名でも大陸の名前でも国の名前でもない、「世界」そのものの名前がありましてね―――



    『終末の砦 アースガルド』



    ―――それがこの世界の名前です」

    「それでは、『終末を』始めましょう」

    (男が立ち去る、画面ブラックアウト。)



引用返信/返信 削除キー/
■280 / inTopicNo.7)  ツクラレシセカイ(シーン2-1)
□投稿者/ パース -(2006/06/04(Sun) 12:21:19)
    シーン2「依頼」


    大陸第三の都市「アウスレオルス」。
    通称「アウルスシティー」または単純に「シティー」
    その昔、「冒険王アウルス」が暗黒大陸より持ち帰った財宝で町を作り、そこに人が住み始めたのが始まりとされる。
    人口は20万人ほどで、休日平日問わず繁華街は人々が賑わいを見せている。
    冒険王にあやかってかこの町では「探求」することこそ最高の美徳とされる、そのため、この町には他の都市には見られない特徴がある、それが

    「アウスレオルス総合技術学校」

    この学校では普通の教育機関だけでなく、戦闘技術や魔法技術、演劇や芸術までありとあらゆる種類の物事を学び研究することができ、様々な人員の養成に活躍している。


    ◆  ◇  ◆


    様々な物を学ぶことが出来るとは言っても、全員が全員それら全てを学ぼうとするわけがないのでここでは一般的な授業風景を軽く紹介しよう。


    一時限目、歴史社会
    ここではその人の選択教科にもよるが、大陸の歴史や現在の各都市の政治、経済なんかを勉強する。

    二時限目、言語
    ここではこの大陸で用いられる言語を考察したり、本を読んだりする(授業をまともに受ける人は少ない)。

    三時限目、魔法理論
    この授業では、如何にして魔法が使われるのか、世界を構成するマナとは何なのかなど、とても複雑な内容をやったり、魔法を使うための基本要項を学んだりする。

    四時限目、魔法実践
    言葉通り、魔法を実際に使う授業である、解説不要。

    昼休みを挟んで五時限目、基礎体力訓練
    次の戦闘訓練のために必要な体力を付けるための訓練である。

    六時限目、基本戦闘訓練
    ここでは、各生徒ごとに様々な戦闘訓練を行う(エルリスの場合は槍使いの講師から教えられる)


    これらは、この学校に通う大抵の生徒が受けるひどく一般的な授業内容であり、たまにいる特殊な生徒はこれにあてはまらない(例えば丸一日全てを戦闘訓練に費やす者もいれば、一日中研究練に引き籠もり、マナ変換や物質制作の研究に全てを注ぐ変人もいる)

    そして放課後―――


    ◆  ◇  ◆


    「―――ふぅ、今日はきつかったぁ・・・」


    エルリスは午後の戦闘訓練でその日の分の講習を全て終え、帰路につこうとしていた。

    (んーあの後ろ姿は・・・ミコトだ)

    そしてその帰り道、ミコトを見かけたのだった。

    「ミコト〜」
    「ん?ああ、エルリス」

    ミコトに追いつき、隣を歩きながら話しかける。

    「ミコト、今日はどうしたの、やけに帰るのが早いね」
    「んークライスから頼み事されてて、ちょっと仕事の手伝いに」
    「え?なにそれ、聞いてないよ」
    「クライスから聞いてないの?」
    「うん」

    ミコトが少し考えるような動作のあと続ける。

    「隠すほどの事じゃないと思うから話すけど、クライスのところに盗賊退治の依頼が来たから、それを手伝いに行くわけ」
    「うん、それで?」
    「それだけ」
    「・・・・・・・」
    「・・・・・・・」
    「もうちょっと・・・なんか無いの?」
    「なんで?」
    「なんでって・・・・」


    その後ミコトのやたらと要約された話を聞いていると、どうやらこういう事らしい。

    昨日、クライスが所属するギルド「サンドリーズギルド」(ギルドってのは、早い話が何でも屋のことだ)に依頼が届いたらしい、内容は「最近アウルスシティーの西にあるコルクス砦に盗賊が住み着き、近隣の村々を荒らして回っているので、これを退治して欲しい」とのこと。

    この依頼は、ギルド内の複数のチームに依頼された物らしく、クライスの他にも、いくつかのチームが参加するらしい。

    ミコトは最近刀術の試験を軽くパスして、暇だから何かないか、と言ったらちょうどこの依頼が届いたからついて行くことにした、とのこと。

    「ミコト、そんないい加減な理由でいいの?」
    「いいんじゃない?」

    (いいのかなぁ・・・・・)

    「それで、エルリスはどうする?」
    「え、どうするって何を?」
    「だから、一緒に行くのか、行かないのかって話」
    「えーと・・・どうしよう」

    (クライスが教えてくれなかったってのが気になるし、うーん・・・・・)

    「とりあえず、行くだけいってみようかな」
    「よし、ならこっちだ」

    結局ミコトについて行くことにした。



    ◆  ◇  ◆


    繁華街へ歩いていくエルリスとミコトの姿をジッと見つめる者がいた。

    (―――見つけた)

    そいつは、ローブをまとい、その上からフードを被って顔を半分ほど隠しているが、隠しきれないほどの長く赤い髪がローブから溢れていた。
    そいつはエルリス達から付かず離れずの一定距離を保ちながら二人の様子を見続けていた。

    (エルリス・ハーネット、ミヤセ・ミコト、間違いない・・・)
    (この町についてまだ間もないのに、こんなに早く見つけることが出来るなんて)
    (接触するべきかしら・・・・いや、まだ早いわね)
    (一旦、報告のために戻るべきかしら・・・・でも・・・・)
    (二人の状態を確認しないことには何とも言えないわね)

    そいつはエルリス達を監視しながら思考する。
    しばらくの間、歩き続けていると。


    いきなりミコトが後ろを振り返った。


    (気付かれた!?くっ!)

    そいつは、すぐさまその場から身を翻して路地裏へと消えていった。


    ◆  ◇  ◆


    「どうしたの?」

    いきなり後ろを振り返ったミコトに驚いたエルリスが尋ねる。

    「いや、何でもない」

    ミコトは何でもない風に返す。

    「ホントに?いきなり後ろを見るから、びっくりするじゃない」
    「ああ、すまなかった、少し気になったことがあってな」
    「何?」
    「いや、ホントに何でもなかった」
    「そう、ならいいんだけど」

    そして二人はまた歩き出す。


    (今の・・・・赤い髪の・・・・男?・・・いや、あの背格好は女か・・・・誰だ?記憶にはないが・・・危害を加えるつもりは無いみたいだから、放っておいてもいいが、しかしどこかで見たような・・・・?)


    ミコトは一人考える。


    ◆  ◇  ◆


    路地裏に飛び込んだそいつは、二人が追ってこないことを悟るとその場に座り込んだ。

    (ハァ・・・・・全く、ミコト・・・・あなたはホントに・・・・・昔から、勘がいいというか・・・気が利くというか・・・)
    (でも、これで確認する手間が省けたわね、私の姿を見ても何も思わないんだったら・・・)
    (まずは、一旦報告のために帰りましょう、接触はその後でもいいわね)

    そう結論づけると、そいつはフードとローブを脱ぎ、その場に広げた、そのローブの裏面には、緻密な文字で魔法陣が書き留められていたのだ。
    そいつはそのローブの文字を軽くなぞり、魔法陣を発動するために呪文詠唱を開始する。
    大抵の人間なら魔法を発動する際には呪文詠唱のため『精神集中』しなければならないのだが、それ抜きで魔法を発動させた、これは並大抵の集中力では出来ないことである。


    「――――各種要項は省略、座標軸は指定されたモノを使用、『転移魔法陣』発動


    ―――発動者、ユナ・アレイヤ」


    次の瞬間あたりはまばゆい光が立ちこめ、一瞬の後、そいつの姿は消えていた。
    路地裏には、文字の消えた汚いローブだけが風に飛ばされて音を立てていた。
引用返信/返信 削除キー/
■281 / inTopicNo.8)  ツクラレシセカイ(シーン2-2)
□投稿者/ パース -(2006/06/10(Sat) 12:01:14)
    ――サンドリーズギルドアウルスエリア本部――


    サンドリーズギルドは大陸中の都市に存在するが、その中でも各地域の首都にはエリアごとに本部が設置されている。
    その中のアウルスエリア本部にエルリスとミコトは到着したのだった。

    アウルスエリアの本部は、全部で5階建ての砦のような作りをしている、1階では受付があり、ここで仕事の依頼や、任務完了の報告などをすることが出来る。
    2階以降はアウルスエリアを本拠地としているチームの事務所などが置いてある。

    エルリスとミコトの二人は、サンドリーズギルドにたどり着くと真っ直ぐ受付に向かい、そこで用件を伝える、しばらく待つと本部内へ入ってもいいという意味の許可証が発行される、ギルドに所属しているメンバー以外はこれがないと内部に入ることは出来ない。


    ◆  ◇  ◆



    エルリスは許可証を発行して貰うと、クライスの事務所に向かうために階段へと向かい、階段の前で見知った顔と出会った。

    「あれ、グランツさんじゃないですか」

    エルリスが声をかけた大男が返事を返す。

    「ん、おう!エルリスじゃないか、久しぶりだな!ガハハハハ!元気か」
    「あ、はい、元気です、それに昨日会ったばっかりです」
    「ん?そうじゃったか、グハハ!」

    彼、グランツ――グランツ・ライアガストは、70歳近くとは思えないほどの健康的な肉体をしていて、いつ見ても変わらない黒い鎧をまとい、仕事にも戦闘にも使える巨大な金槌を背中に付けていて、笑うたびに揺れる口元の髭のせいかなんというか山男のような見た目をしている。
    彼はクライスのチーム所属の鍛冶師である、武器の作成や修理等を一手に引き受けている。(戦闘員兼補助要員といったところだ)

    「エルリス、お主だけか?ミコトが来ると聞いていたんじゃがな!」

    彼は口元の髭を揺らしながら意味もなく豪快に笑う(この笑い方はむしろ山賊か)。

    「相変わらず元気そうじゃないか、グランツのじーさん」
    「おおっ!ミコトもいるではないか!グハハ、若い娘が二人!ガッハッハ、こりゃ縁起がいい!!」

    グランツがミコトに近づいていき、ミコトの笑顔が一瞬で引きつる。
    見るとグランツがミコトのおしりを触っていた。

    「グハハハ!いい尻をしとるのう」
    「何しやがるこのスケベじじい!!!」

    ミコトがグランツの腕を瞬く間に捻り上げる。

    「うぐあ!!冗談じゃ、ミコト、冗談じゃから離し・・・イデデデデ!年寄りはもっと優しく扱うもんじゃぞ!!」
    「まったく・・・・このエロオヤジめ・・・・・ほんっとに変わらないね・・・・」
    「ミコト〜やりすぎないでね〜」

    この二人は割と仲が悪い、というよりミコトが一方的にグランツを警戒している、なぜならグランツは時々若い女の子のおしりを触ったりするからだ(エルリスやセリスもたまに触られてそのたびにクライスかミコトが鉄拳制裁を喰らわせている)ちなみにエルリスはそれほどグランツのことが苦手ではない。

    (おしりを触る癖さえなければいいお爺さんなんだけどね・・・・)

    エルリスは苦笑いをしながらいまだに腕を捻り上げられているグランツを眺める、そしてふと思ったことを口にする。

    「そういえばグランツさんはここに何しに?」
    「おう、そうじゃったクライスからミコトがそろそろくる頃だと聞いていてな、迎えに来たんじゃった、ガハハハハ・・・・・・・・・ミコトや、そろそろ離してくれんかのう、腕が痺れてきたんじゃが」
    「このエロボケじじいめ・・・・まったく・・・・・今度やったら許さないよ」

    今まで何度も言ったセリフを言ってミコトがグランツの腕を放す。

    「グハハハハ、ミコトも相変わらずのようじゃな!若い娘は活きがいいわい!ガッハッハ!クライスのところに案内するぞ、付いてこい!グハハ」

    まんま山賊のようなことをいいながらグランツが歩き出す。

    「相変わらず元気なお爺さんだね」
    「あのじいさんだけは何度やっても苦手だ・・・・・」

    エルリスはミコトの疲れた声を聞きながら歩き出し、ミコトものろのろと付いてきた、そうしてエルリス達はグランツに案内されてクライスの事務所へと向かったのだった。


    ◆  ◇  ◆


    ちょっとここでサンドリーズギルドでのいくつかのシステムについて説明してみよう。

    ギルドに参加するためにはある程度の戦闘能力が必要で、いくつかの試験をパスした者がギルドに参加できる(ギルドに参加した者達は総じて「傭兵」と呼ばれ、特に個人および少人数で活動する者のことを「ハンター」と呼ぶ)

    ギルドでは各傭兵ごとに任務達成率や、高難易度任務達成などによってA〜Eランクに分類される、チームを開いた場合は、その集団に所属する傭兵のランクの平均によってそのチームのランクが決定される、ちなみにチーム(パーティーでもグループでも団でも呼び名は様々だが)を開くためには5人以上がその集団に所属していること、設置にかなりのお金がかかることなどいくつか条件がある。

    とはいっても、当然のことながら、人数が多い方が任務遂行には楽であることや上位ランクチームにはギルド内に事務所が設置できることなどチームでいる方が得であることは言うまでもない。

    ギルドではランク分けで上位に入るチーム(A〜Bまで)にはそれぞれに事務所を設置しても良いことになっている。
    クライスが開くチーム「ノーザンライト」はメンバー数が最低限度の5人というかなり小さなチームだが、文句なしのAランクに分類されている。


    ◆  ◇  ◆


    グランツに案内されたエルリス達は、そのまま階段を上がり、4階へと向かった。

    そして、クライスのというより「ノーザンライト」の事務所に到着した。

    「ガハハ、さぁ、入れ入れ」
    「お邪魔しまーす」
    「邪魔するよー」

    事務所の中は割とこざっぱりした雰囲気で、ソファーがひとつありテーブルを挟んで向かい合う形にもうひとつ置いてあり、その向こう側にデスクがひとつ(書類や雑誌などの様々なモノがごちゃごちゃになっている)、その他は左側の壁に本棚がひとつ置いてあるだけだ、それから奥の方に扉がひとつあった。

    「あれ・・・・クライスは?」
    「む、奴なら奥じゃろうて」

    そう言うとグランツはズカズカと奥の扉を開けて入っていってしまった。
    エルリスは慌ててそれを追う。

    「―――うわっ・・・・」

    扉をくぐると、今度はやたらと生活臭溢れる空間だった。
    先ほどの部屋より広い部屋で、左側にキッチンが付いていて、食器棚などがあった、部屋の真ん中には先ほどのより大きなテーブルがひとつとソファーがふたつ(そのうちひとつにクライスが座っている)、先ほどのよりは遥かに整理整頓されたデスクがふたつ、奥の壁際には本棚が三つに窓がひとつ、部屋の隅に目をやると、グランツの私物と思われる小型のハンマーや石の塊が置いてあった。

    「なんか・・・・雰囲気違いすぎない・・・?」
    「うむ、そのような細かいことはあまり気にするでない」
    「はぁ・・・・・・・・・・」

    細かいことなのかなぁ・・・とエルリスが考えてるうちに、グランツはクライスのところまで歩いていった。

    「おう!クライス!エルリスとミコトを迎えてきたぞい!」
    「ん、ああ、どうも・・・・・って何でエルリスが?」

    そこでようやくクライスがこっちを振り返る。

    「や、やっほ〜」

    エルリスがちょっと抜けた挨拶をする。

    「・・・・・・・・・・・・・・・・」

    それを見たクライスはちょっと頭を抱えてから、右手を挙げて固まっているエルリスを無視して、ミコトに言う。

    「ミコト、何でエルリスを連れてきたんだ?」
    「ん〜?別に隠すほどの事じゃないだろう」
    「まぁ確かにそうだが・・・・・連れてきてしまったモノは仕方ないか・・・・」
    「むー何よ、私が来ちゃまずいことでもあるわけ?」

    エルリスがむくれる

    「そう言う訳じゃないんだが、今度の依頼エルリスとセリスには危険すぎる任務だったからな」
    「危険すぎるって、ただの盗賊退治じゃないの?」
    「そういえばそうだね、エルリスに黙ってるほどのことだったのかい?」

    少なくとも、エルリスは学校で普通以上の戦闘訓練は受けている、普通の盗賊程度なら今のエルリスでも十分相手に出来るはずだ。

    「あのな、普通の盗賊退治がAランクまで上がってくると思うか?」

    「え・・・・・?」

    そういえば、確かにそうだ、Aランクといえばギルドの顔、いわば看板役者だ、そんなかなりの腕を持つ者達を、「ただの」盗賊退治にわざわざ駆り出す必要は無い。

    「えーと・・・・それじゃあ・・・・どういうわけ?」

    「わかったわかった、今からちゃんと説明してやるから、エルリスもミコトもまず座れ」

    クライスに促されて、二人はクライスに向かい合うようにして、座ると、クライスの少し長い話が始まった。


    ◆  ◇  ◆


    クライスの話をまとめると、次のような話らしい(ミコトよりはわかりやすかった)。

    まず、アウルスのずっと西の方にあるコルクス砦に盗賊が住み着いて近隣の村々を荒らし回っていて、村の人から依頼が届いたという、ここまでは、ミコトから聞いた話だ。

    だが、どうやら話はそれだけではなかったらしい、近隣の村々から依頼を受けたギルドは初めDランクやEランクの傭兵でも十分任務を達成できるだろうと判断し、EランクとDランク、それからCランクの傭兵チームを複数投入した。

    しかし結果は惨敗だった、50名以上のE~Cランクの傭兵を投入した作戦だったがほとんどが全滅、わずかに数名帰還した者達の話によると、盗賊は全部で500人ほど、盗賊達の頭、「チカブム」と呼ばれる男が異常な強さを誇ることなどが知らされた。

    この大失態に、サンドリーズギルドは自らの威信をかけてA~Cランクの上位ランクの傭兵達をコルクス砦の盗賊討伐戦に参加させることになった、と言うことらしい。


    ◆  ◇  ◆


    「はー・・・・・・・」

    クライスの話を聞き終えたエルリスはなかなか複雑な話に、軽くため息をつく。

    「サンドリーズギルドもメンツってモンがあるからな、次は確実に盗賊を叩き潰すつもりだ、噂じゃ100人以上の傭兵達を使うとか言われてる、報酬もかなり高額だそうだ」

    「へー・・・・・・大変だねぇ」

    ミコトが意味のない感想を漏らす。

    「それで、エルリス、お前はどうしたい?参加したいか、したくないか」


    クライスの問いにエルリスは


    「行くよ」


    そうはっきりと答えた。
引用返信/返信 削除キー/
■282 / inTopicNo.9)  ツクラレシセカイ(シーン2-3)
□投稿者/ パース -(2006/06/10(Sat) 17:31:45)
    ――クルコス砦からいくぶん離れた森の中――

    森の中には50名近くの人間が息を潜めていた。

    戦士風の格好をした者が30名ほど、割と軽装の者が10名ほど、それ以外は思い思いの服装をした者達が残り10名ほど、彼らはクルコス砦の盗賊討伐戦に参加を志願した者達である。

    そして、その中にクライスの他、グランツ、ミコト、そしてエルリスはいた。


    ◆  ◇  ◆


    ――「行くよ」――

    エルリスは自分の意志でそう言った。

    別に怖くないわけじゃない、それに盗賊相手に簡単に勝てると思うほど、強いわけでも、自惚れているわけでもない。
    これはクライスが仕事としてやっていることであって、自分がついて行かなきゃならないなんて事はないし、グランツがここにいるのは仕事仲間だからで、ミコトがここにいるのは、クライスが認めるほどの腕があるからだ。

    ようするに、自分がここにいる必要はない。

    でも、クライスが自分に黙っていたこと、それが強く心に引っ掛かった。

    (なんていうか、私のことを心配してくれるのは嬉しいけど、でもやっぱりそれは、クライスが私のことを守らなきゃならないほど弱いと思ってるって事だから)

    だから、「行くよ」と、そうはっきり言った。


    (どうせなら、認めて欲しいし、ね)



    ◆  ◇  ◆


    「そろそろ、時間だ、みんな準備してくれ」

    その声を聞き、エルリスはふと我に返る。

    声の主は、集団の一番前にいる男、今回の討伐戦に参加した上級チームのひとつ、「グレアム騎士団」のマスター、グレアム・バーストンである。

    グレアム騎士団は、メンバー全員が同じ鎧と剣を装備した統一感溢れるグループで、チーム自体のランクはBランクだが、参加メンバー数は30人と今回参加したチームの中で最も多く、また団長のグレアム本人を初めとして個人ランクが高めの上級戦士が多数参加しているため、暫定的にではあるが50人ほどいる集団のチームリーダーをグレアムがやっている。

    「よし、Bチームが砦に攻撃を開始した、俺たちも行動開始するぞ」

    グレアムがそう言い、そこにいた50人ほどが動き出す。

    今回の盗賊討伐戦の方法はこうだ。

    まず事前に調査した結果によると、砦の盗賊達はある周期ごとにどこかの村を略奪するために200人ほどが砦の外に出る、この200人にはCチーム(20人ほど)が大規模な罠を仕掛けて、一網打尽にする予定。

    そして、砦に残った300人に対しては、魔法使いでのみで構成されたBチーム(30人ほど)が最初に砦を攻撃し、半数の盗賊を砦の外におびき出し、防御が甘くなったところを残るAチーム(50人ほど)で一気に攻め落とす、というものだった。


    そして、今エルリスがいるのが、そのAチームである。


    ◆  ◇  ◆


    Aチームは森の中をゆっくりと、砦の裏側に回り込むようにして、進んでいく。

    エルリスは、Aチームの人たちの様子を見ていた。

    構成人数は全部で47人、まずグレアム騎士団所属の騎士が30人、それからAランクチームの「グレイブラバーズ」所属の戦士が10人、クライス率いる「ノーザンライト」からグランツ、ミコト、エルリスの4人、(といっても正規メンバーはグランツとクライスのみだが)最後に、どこにも所属していないと思われるハンターが3人ほど。

    「ねぇ、クライス」
    「なんだ?」
    「あの3人について、何か知ってる?」
    「いや、特に見覚えはないが、どうかしたか」
    「別に、少し興味があったから聞いてみただけ」

    それとなくその3人を観察する。

    一人は集団からかなり離れた位置で一人たたずむ紫色のローブを着て顔を隠している人物、剣などの武器を持っているようでもないし、杖を持っているわけでもないので魔法使いでもなさそだ、とりあえず彼(彼女?)が何者でどのような戦い方をするのかは不明である。

    残りの二人は、集団の真ん中ほど、騎士団の後ろでエルリス達よりは前にいる、ずいぶん目を引く格好をした男女である。

    女の方は上半身から腰までを覆う鎧を着ているものの、やたらと露出が多く、肩や足が見えていて、胸とか腰をかなり強調している。

    (何て言うか、グラマラス美女って感じ?男ってああいうのに興奮するのかしら・・・・・でもあれって鎧を着てる意味が無いような気がするんですけど・・・・・)

    それから、その女の隣を歩く男の方、こちらの方は普通の鎧を着ているのだが、金色の髪の毛をしているので、やはり目立つ。

    そのままその男の方を眺めていると、偶然その金髪男と目が合った、そして金髪男は


    フッと微笑んだ(――うわ、なんか腹立つくらいカッコイイんですけど)。


    金髪男はその後しばらく隣のグラマー美女と会話したあと、エルリス達の方へ近づいてきた。

    「なぁ、あんた達ってノーザンライトっていうチームだよな?」

    けっこう雑な喋り方ででエルリス達に話しかけてきた。

    「ああ、そうだが、あんたらは?」

    クライスが普通に返す。

    「ああ、すまん、俺はアレス・リードロード、アレスって呼ばれてる、んでこっちがリリア・ティルミット」

    隣のグラマー美女が軽く会釈をする。

    「それで、そのアレスさんとリリアさんが私達に何のようで?」

    ミコトが尋ねる。

    「ああ、そんなに時間もないんで単刀直入に言うが、早い話俺達と一緒に行動しないか?」

    「なんのために?」

    アレスが少し考える動作をしたあと、答える。

    「俺達は今回の仕事、報酬目当てで参加したんだが、見ての通り、二人だけのチームだからな、このまま砦に向かっても殺してくださいと言ってるようなもんだ、だからどこか他のところについて行こうと思っていたんだが・・・・」

    ここでアレスが周りを見回してから、肩をすくめた

    「思いの外大人数のチームが多くてな、30人のグループと10人のグループだ、そこに入れて貰ったところで俺達は邪魔にしかならない、もう一人、紫ローブの奴にも少し話をしてみたが、たらと無口な奴でな、結局ここしか入れそうなところがなかったんだ、それでさ、一緒に、というか共同作業といきませんかね、一人より二人っていうだろ?それなりに剣の腕はあるつもりだぜ」

    ここまで一気にアレスがまくし立てた。

    クライスは少し考えたあと仲間に聞く。

    「まぁ、人数が少ないのはこっちも同じだし、俺は別に気にしないが、みんなはどうだ?」

    「私も別に、気にしないけど」
    「あたしもかまわないよ」
    「仲間が増えることは良い事じゃ」

    「だ、そうだ、そっれじゃしばらくの間よろしくな」

    そんな感じで、二人ほど一緒に戦う仲間が増えたのだった。


    ◆  ◇  ◆


    ――クルコス砦の裏側――


    そこに、移動を終えたエルリス達はいた。

    「みんな、準備は良いか?今Bチームが敵をおびき出すためにわざと撤退を開始した、もうすぐ俺達の出番だ」

    グレアムが全員に声をかける。

    「エルリス、あんまり無茶はするなよ」

    クライスが緊張しているエルリスに声をかけた。

    「うん、やれるだけやってみるよ」

    「よし」


    そうして、エルリスにとって初めての大規模戦闘は幕を開けた。
引用返信/返信 削除キー/
■286 / inTopicNo.10)  ツクラレシセカイ(シーン2-4)
□投稿者/ パース -(2006/06/12(Mon) 23:41:14)
    2006/06/16(Fri) 07:01:32 編集(投稿者)

    ――コルクス砦裏門――


    裏門のすぐ側にエルリス他Bチーム47人はいた。

    突入開始までほんの数分、といった時にクライスが言った

    「砦に突入する前に、絶対にしておかなければならない事がある」
    「なに?」

    「砦の内部では戦闘が続くだろう、そういうときはしっかりと陣形を組んでいた方が良い、四人の時はそれほど気にする必要はないと思っていたが、六人になるとさすがに、考えないわけにはいかなくなった、それで訊くんだが、アレス、リリア、お前達は何が出来る?」

    「俺は、それなりに剣を使えるぜ、とは言っても・・・・アンタと、アンタにはたぶん勝てないだろうが、な」

    そういってアレスが指さしたのは、クライスとミコトだった。

    「なぜ、俺とミコトには勝てないと思うんだ?」
    「それは、リリアに聞いてくれ、俺からは何とも言えねー」
    「じゃあ、リリア、あんたは何が出来るんだ?」

    「・・・・・・・・・」

    しかしリリアは口を閉ざしたままだった。

    「すまねぇ、こいつけっこう無口だからよ、やっぱり代わりに俺が言うわ、こいつはな―――」

    アレスがリリアのことを話そうとした直前。

    「アレス!勝手に人の説明を開始するんじゃないよ!!」

    リリアの雰囲気が一変して、いきなりアレスを蹴飛ばした、そして目の色が変わっていた、いや、これは形容詞的な意味ではなくて、本当に『碧色』の目が『黒色』になっていた。

    唖然としているエルリス達に向かってリリアは、

    「すまないね、この馬鹿が手間をかけちまって、アタイはリリア・ティルミット、これは知ってるっけ?アタイが持ってるのは碧色の目、『覧眼』って言うんだ、剣の腕前はアタイの方が上だよ」

    呆然としているエルリス達を無視して、リリアは次々と聞いてもいないことを喋っている。

    「表の人格はね、『覧眼』使えるんだけどそれ以外はからっきしだからね、アタイがこういう服とか着て前に出てやんないと何も出来ないって言う根暗でさー!良い体してるんだからもったいないったらありゃしない―――」
    「この服って言えばさー、この前酒場にいたあのエロオヤジ、そんな服着て誘ってるんだろ?とか言いやがって、ふざけんなっての、もちろんその日の内にボコボコにして転がしてやったけどね、その時の顔ったらさ―――」

    「いや、イヤイヤイヤ、ちょっと待て、ちょっと待て!」

    ここでようやくクライスが止めに入る。

    「なんだい?別に殺したわけじゃないんだからいいじゃないか!」
    「そういうことを聞いてるんじゃない!アレス!説明してくれ!!」

    さっきリリアに蹴飛ばされたアレスを見ると、やっぱりか・・・・・といった感じの顔をして寝転がっていた。

    「時間がないから、手短に言っちゃっていいか?」
    「頼む」

    「リリアはな、二重人格の特殊能力者で、表の人格の時は『覧眼』の使い手でそれ以外は何も出来ない極度の人見知り、裏の人格の時はそれなりの剣の使い手でもあるが、それ以外はただのお喋りだ」

    「『覧眼』ってのは何だ?」
    「『相手がどの程度強いかわかる眼』ってところだ」
    「それでさっきは俺とミコトには勝てないだろうって言ったのか」
    「そー言うこと」

    クライスがわかったようなわからないような曖昧な顔をしているといきなり

    「私が・・・・・先ほど見た感じでは・・・・・・」

    「うわっ!」

    さっきまでのハイテンションからいきなり氷点下の声に変わったリリアが声を出した、眼が『碧色』だ、いつの間にかまた性格が『入れ替わって』いたらしい。

    「この中で・・・・今の状態で・・・・・・一番強いのがクライスさん・・・・・あなたでした・・・・・それから・・・・ミコトさん・・・・・・その次にアレス・・・・・・そして私・・・・・・次に・・・・・そこの髭の人・・・・・・・最後が・・・・・・あなたでした・・・・」

    そういってリリアはエルリスを指さした。

    「わ・・・・私!?」

    (見も知らない相手からいきなり一番弱いって言われるなんて・・・・・)

    内心かなりのショックを受けていたエルリスだったが、それを無視してリリアは続ける。

    「この中・・・・・ここにいる47人の中で・・・・・今の状態でもクライスさんが・・・・一番強い・・・・・・・・・でも・・・・・・・・・クライスさん・・・・・あなたが・・・・・・本気を出したら・・・・・・・・・・・・」

    リリアがその先を言おうとしたとき

    「おい!!作戦開始の時間だぞ!あんたら早くしてくれ!!」

    グレアムが大声で文句を言ってきた。

    「あ、ああ!すまない!話はおしまいだ、出発するぞ、隊列は走りながら言う!」

    クライスがそう言ったので、話はお終いだった。

    ――結局、リリアがその先なんと言おうとしたのかは、わからなかった。


    ◆  ◇  ◆


    全員が息を潜めながら、裏門の前に走り出す。

    ――ドン、ズドォン・・・・

    ――ズバーン・・・・・

    遠方からBチームが陽動として放っているであろう魔法による破壊音が響いてくる、裏門の前には既に誰もいない、おそらく先ほどから続いている魔法攻撃のためにどこかへ駆り出されているのだろう。


    集団の先頭にいるグレアムが全員に向かって、突入の開始を告げる。

    「よし、いくぞ!!」

    グレアムの号令に彼の部下である30人の騎士達が一斉に砦への突入を開始する。

    エルリス達もそれに遅れないよう走り出す。

    まず、グレアムの部下の騎士達が数人裏門から突入する、それに続いてグレアムと残りの騎士達が十数人、さらにその後に続いて、エルリス達が扉をくぐり抜ける。

    ちなみに、隊列は戦闘が開始される直前に決めた順番で、クライスを先頭にして、グランツ、真ん中にリリアを挟んで右側にエルリス、左側にアレス、そして最後にミコトの順番である。


    裏門をくぐり抜けると、既にグレアム以下多数の騎士達が、慌てふためく十人前後の盗賊と戦っていた、彼らはおそらくBチームの魔法攻撃に恐れをなして逃げようとしていた者達だろう、まともな装備さえしていなかった。

    そしてここは圧倒的な人数差、瞬く間に十人ほどいた盗賊達は地に伏していた。

    ここでグレアムが振り返り、他の仲間達に呼びかける。

    「よし、被害はないな・・・・・・ここから先は乱戦も予想される、何人かに別れてしまった場合は各自の判断で動け!無理はするなよ!」

    それだけ言うと、彼は砦の内部へ一気に突撃していった、そしてそれを追って数人の騎士達が駆けだしていく。


    それを見ながら、ミコトがぼやく。

    「各自の判断で動けって、ずいぶんいい加減な命令ね・・・・」

    「グレアム騎士団は、なんというか猪突猛進する奴が多い・・・・・というよりリーダーが他の誰よりも先頭を突っ切っていくタイプだからな、それゆえに人望はあるが、あまり統率力に期待は出来ない」

    「そんなこと言ってる間に、みんなに置いてかれちゃったけど、いいの?」

    周りを見ると、いつの間にか「グレイブラバーズ」の10人もいなくなっていた(紫ローブはエルリス達の後方にたたずんでいたが)。

    「ああ、問題はない、今回は盗賊の頭目を倒せばボーナスが出るそうだからな、みんなあせってるんだろう、だがあせっても周りが見えなくなるだけだ、それよりも―――。」

    いきなりクライスが腰のショートソードを抜きざまに投げ放つ。

    「うぎゃあ!」

    見ると、先ほど騎士達に叩きのめされた盗賊達の中で割と無傷な奴が一人、そこから這い出して逃げようとしていた、そしてそのちょうどその鼻先にショートソードが突き刺さったのだ。

    「こういう方法を取った方が楽だろうな」

    そう言ってクライスは腰から先ほどのショートソードとは別の、大剣と言っても良いほど巨大なロングソードを抜き放つ。

    「こういう盗賊砦には、かなりの数の抜け穴や抜け道、隠し通路があるもんだろう」

    その長剣を盗賊の鼻先に突き付けてにっこり営業スマイルで一言、



    「さっさと道を教えろ」



    なんというか、クライスの顔は、笑顔とは思えないほど、めちゃくちゃ怖かった。


    ◆  ◇  ◆


    砦の内部を走り抜ける一団があった、Aランクチーム「グレイブラバーズ」の面々である。

    彼らは『墓泥棒(Grave robbers)』の名の通り、決して正面から攻めることはせず、他の者達を殺し合わせ、その死体からなにもかもを奪う、そういうやり方で勝ち残ってきた連中だった。

    彼らは、他の者が苦労して手に入れた者を横から奪い取り、楽をして利益を得る、そうやって生き延びてきた、いつもどおりに戦いは他の者に任せ、自分たちは美味しいところを奪うべく、砦にある宝物庫を探索していた、それが、今回ばかりは全ての間違いだったと気付きもせずに。



    「グレイブラバーズ」のマスター、ウィリアム・リビトーはこれまでの勘と経験から、いくつかの小通路を通り、地下へとたどり着いていた。

    彼は確信していた。

    (―――間違いなく、宝物庫はここにあるな)

    何となくだが、そんな宝の「臭い」がするのだ、リビトーは的確に宝の臭いを感じ取ることが出来た、彼とその部下の十人は慎重に進み、罠を回避しながら、進む。

    やがてひとつの扉の前にたどり着いた、巨大な鉄の扉、古めかしいいかにもといった感じの、風格漂う扉である。

    ―――ニヤリ

    自然、笑みがこぼれる。

    罠がないことを確認し、持ち前の鍵開け技術を使って扉を開け、宝物庫の中に入る、期待に胸をふくらませながら、そして―――


    「最初に宝物庫を狙うたぁ、ずいぶんな趣味をお持ちのようだな、今回のお客さん方は」


    確かにそこにはたくさんの金銀財宝があった、しかしそれらお宝の上に、一人の男が悠然と立っていた。

    「貴様何者だ!?」

    「おいおい、人んちの庭を散々荒らしておいて、しまいにゃ俺の財宝を奪おうとした奴らが、この俺様に向かって『何者だ』だとぉ?」

    つまり、この目の前に悠然と構える男こそが、この盗賊団の頭目、

    「貴様がチカブムか!」

    「おうよぉ!この砦は俺様のモンだ、俺の目的は誰にも邪魔させねぇ・・・・邪魔する奴は、フハハハハハハハハ、皆殺しだ!」

    そう言ってチカブムは宝の山から飛び降りる、しかし特に武器を持っている様子はない。

    「ハッ、所詮はただの盗賊、素手で何をするつもりだ!」

    リビトーと彼の部下数名は懐から投げナイフを取り出し、間をおかずに投げ放つ、それに対しチカブムが行った動作は、わずかに片腕を振るうのみ。

    しかしそれだけで数本のナイフは全てはたき落とされた。

    「くっ、こいつは我らだけで仕留めるぞ!Aランクの意地、見せてやれ!」

    そう言ってリビトーは腰から長剣を抜き放つ、しかしチカブムは

    「フハハハハハハ!なんだ、お前達はこの程度か、つまらん!」

    そして、背後にあった金塊のひとつを投げ放つ、凄まじい速度で、だ。

    「なっ!!!」

    リビトーは危うく回避するが、すぐ後ろにいた部下の一人が金塊にぶち当たり―――



    壁を突き破り通路を吹き飛んで、向こうの壁にぶち当たって止まった。



    チカブムが放ったのは戦車砲でも爆弾でもない、ただの金塊だ。

    「このバケモンが!仲間の仇だ!!」

    そう言って手斧で斬りかかった部下の一人は、しかし

    「フハハハ、そうだ、その調子でやって来い!」

    そう叫んだチカブムに――



    頭を掴み上げられて投げ上げられた、「大の大人」が、「数十メートル」、だ。

    投げられた部下は、そのまま地面に叩きつけられ、ぴくりとも動かない。



    「くそっ!!全員で一斉に掛かれ!必ず殺すんだ!!!」


    既に腰が引けて逃げだそうとしている部下に向かってそう言い放ち、自身も決死の覚悟で剣を構えて突進する。

    「フハハハハハハ!!そろそろ時間だ、他の者達も相手をしなければならんのでな!我が愛槍『大殺陣』、貴様らの冥土の土産だ、取っておけ!!!」

    そう言い放ち、両の手を組み合わせ、何かを呟いた瞬間――――



    何もない空間から、巨大な槍『大殺陣』が現れた。



    それを両手で構えたチカブムは、

    「フハハハ、さらばだ愚か者どもよ!」

    ただ一度、回転するように全力で振るった。

    そうすると、チカブムは何もなかったかのように、槍を手放し、宝物庫から出て行った。



    あとには、九つの死体、否、全て合わせれば九人分になるであろう分の粉々になった人間の死体だけが財宝とともに残された。



引用返信/返信 削除キー/
■290 / inTopicNo.11)  ツクラレシセカイ(シーン2-5)
□投稿者/ パース(前回よりさらに増量中)(ぇ -(2006/06/17(Sat) 13:41:09)
    エルリス達は先ほど捕らえた盗賊から聞き出した、親玉がいると思われる砦の最奥部への近道を歩いていた。
    近道と言っても人1人通るのがやっとというとても狭い道で、そこをエルリス達はノロノロと進んでいた。


    「それにしても、かなり狭い道ね・・・・・」
    「ホント、時々ネズミも出てくるし・・・・・嫌な道ね」
    「全くだな、砦に入ってからまだ一度も戦ってないのにこんなに汚れちまった」
    「あのな、おぬし等はまだなんマシじゃぞ・・・・・・ワシなんか体がでかいからこうして・・・・・・・イデデデデ・・・・・無理矢理すすんどるんじゃからな」


    本人の言うとおり、ただでさえ体の大きい上に大鎧を着込んでいるグランツはガリゴリ、ゴリゴリ、と隊列の後ろでエルリス達が通った後の道を無理矢理進んでいた、そんなグランツにアレスがちょっかいをかける。


    「グランツのじーさん、痩せた方が良いんじゃねえか?」
    「うるさいわい・・・・・(ゴリゴリ)ワシの体はな(ズリズリ)太ってるんじゃなくて、筋肉質なだけじゃい・・・・・・」
    「だったらせめてその鎧だけでも脱いだらどうなんだよ」
    「この黒鎧はな、ワシが自分で作った特注品なんじゃぞ!(ゾリゾリ)これには様々な能力が付加して(ボクボク)あってな、なんどこの鎧に命を救われたことか、思い出すだけで(ガゴッ)・・・・・む?・・・・・・・・・・・むむ・・・・・ぬおっ!はまった!動けん!!」
    「やっぱり痩せたほうがいいね」
    「そうだな」
    「・・・・・」
    「まて、お前達!置いていくな、ミコト、後ろから押して(ゲシゲシ・・・・・)イデデデデ・・・・・ミコトや、蹴るんじゃない!」
    「日頃の行いが悪いからね(ゲシゲシゲシ)、その報いを受けてるんじゃないかい?(ゲシゲシゲシゲシ・・・・・)」


    なんというか、とても敵中にいるとは思えないような平和な会話だった。
    (ちなみに、紫ローブの彼はいまだにエルリス達の後ろを一言も喋ることなく付いてきていた。)




    ◆  ◇  ◆




    エルリス達はクライスを先頭にして、いくつかの隠し通路を通り、階段を登ったり降りたりしてしばらくの間進み続けた。
    そして、いくつの小通路を抜けたのか分からなくなってきた頃、クライスがようやく出口に付いたことを告げる。

    「おい、みんな、そろそろ外に出るぞ、いきなり敵とはち合わせるかもしれん、準備しろ」

    「やっとついたぁ・・・・」

    エルリス達は今のところ一度も戦闘をしていないが、着ている服は隠し通路やら地下通路やらを通っているうちに泥だらけになっていた。
    しかし、たくさんの盗賊と何度も戦うことになるよりは遥かにマシである。

    「よし、行くぞ」

    耳を澄まして、外の様子を探っていたクライスが最初に小通路から外に飛び出る。
    それに続くようにアレスが飛び出し、さらにリリアが続く。
    そして、エルリスも飛び出そうとした直後、



    「なんだぁ・・・・誰かいるのか?」



    クライス達が飛び出したのとは反対側の壁から(そっちも隠し扉になっていたらしい)盗賊が一人顔を出したのである。

    「え・・・・・?」
    「ん・・・・・お前は・・・・・・・・?」

    盗賊と見つめ合うこと数秒。

    「うわぁ!盗賊!!」
    「・・・・・ッ!!・・・・・・・敵だぁ、ここに敵がいるぞ!!!」

    エルリスはびっくりして大声を出し、そして盗賊は仲間を呼ぶために大声を出した。

    「てめぇ!ここで何してやがる!!」

    そう言って盗賊が掴み掛かってくる。

    「うわ!エイッ!」

    それに対し、エルリスはとっさに半歩下がって槍を突き出す。
    エルリスの突き出した槍は盗賊の肩に突き刺さり、盗賊を壁に縫い止める。

    「ぐあっ!!!」

    そして、エルリスは槍を左手に持ち替えて、空いた右手を盗賊の鳩尾みぞおちに叩き込む。

    「ハアッ!」

    ごふっと声を漏らして盗賊は沈黙する。
    ふぅとエルリスが気を緩めた瞬間、

    「どこだ!どこに敵がいる?」
    「おい、そこでなにしてんだ・・・・ってテメェよくも仲間を!!」

    そう言って盗賊が二人通路に飛び込んできたのだ。

    「うわっ、マズ!」

    エルリスはたった今倒した盗賊の肩から槍を引き抜き構えようとするが、如何せんこの狭い通路、途中で引っ掛かってうまく構えることが出来ない。

    「ヒヒッ、こんなところでそんな長得物が使えるわけねえだろうが!!」

    そう言って盗賊の片方がナイフを構え、一気に突撃してくる。

    「「エルリスッ!」」

    ミコトとグランツが叫ぶが間に合わない。
    これまでか、と諦めかけたとき、



    ―――ヒュッヒュッ



    風切り音が聞こえ、

    「ぐあっ!!」
    「がっ!!」

    盗賊二人の胸に二本のナイフが突き刺さった。

    「え・・・・・・?」

    盗賊はすぐにその場で崩れ落ちる。
    ナイフの飛んできた方を見るが、ミコトとグランツが呆けた顔をしているだけ―――イヤ、違った、もう一人、紫ローブの奴がいた。

    「えっと・・・・あなたが助けてくれたの?」

    そう紫ローブに声をかけてみるが、そいつの反応は軽く頭が動いただけだった(もしかしたら頷いたのかも知れない)。

    「ありがとね」

    そう言ってみたが、紫ローブは、特に反応を返してこなかった。

    (なるほど、ホントに無口な人だね)

    そう思いながらエルリスは、通路の外に飛び降りようとして、ふと気付く、

    (ちょっと待って、さっき盗賊と紫ローブの人との間には私だけじゃなく、グランツとミコトもいたよね・・・・・・それなのに正確に盗賊二人に投げナイフを命中させるって・・・・・・・)

    どうやら、もただ者では無いらしい、そう理解して通路の外に飛び降りた。




    ◆  ◇  ◆




    小通路の外では、クライスとアレス、そしてリリアが心配そうな顔で待っていてくれた。

    「なにか、声が聞こえたが、大丈夫だったか?エルリス」

    そう声をかけてきたクライスに、エルリスは笑顔を返す、

    「うん、ちょっと危なかったけど、紫ローブの人が助けてくれたよ」
    「アイツが・・・・・?なんでまた」
    「わかんないけど・・・・・」
    「まぁ、エルリスが無事で良かった」
    「うん!」

    そうしてると、グランツとミコト、そして紫ローブが通路から飛び降りてきた。

    「よし、みんな無事だな、この部屋を抜けるとすぐに盗賊の頭チカブムがいると思われる場所だ、気を引き締めていくぞ」
    「「「おー!」」」




    ◆  ◇  ◆




    エルリス達が小通路から飛び降りた部屋から出ると、そこは先ほどの小通路とはまるで違う広さを持つ長い廊下にだった。

    「チカブムって奴はどこにいるのかな」
    「・・・・・・たぶんこっちだ」

    しばらく周りを見回した後クライスが答える。

    「何でそっちだと思うわけ?」
    「勘だ」
    「勘って・・・・・・・」

    クライスが走り出してしまったのでエルリス達も仕方なくそれに追従する。

    しばらく走っていると、正面に大きな扉が見えてきた。

    「たぶん、あれだな」

    そう言ってクライスは一気に加速し、扉を蹴り開けた。


    「なんだぁ・・・?」
    「誰だ!?」
    「おいおい、もう敵が来たぞ」


    しかしそこには10人ほどの盗賊がたむろしてるだけだった。
    それを見回したクライスは、

    「チッ、ハズレか、雑魚しかいない」

    そう言うが、しかしそのセリフはしっかりと盗賊達にも聞こえたようで、

    「おいおいおいおいおいおい、俺らがただの雑魚だってぇ?」
    「てめぇ、自分が置かれてる状況わかってんのかコラ」
    「ヒャハハ、ぶっ殺しちまえ!!」

    ものの見事に盗賊達はブチキレて各々の武器を手に襲いかかってきた。

    しかし、クライスはそれほど気にした風もなく、ただ言う、

    「グランツ、任せた」
    「任せい!」

    そう一声吠えると、グランツは自分が背負う大金鎚を手に取り、盗賊達に向かって大股で前進した。

    「ガハハハハ!さっきのような狭いところならまだしも、ここならワシも全力で戦えるわい!!」

    そして、大金槌を大きく振りかぶって、思いっきりフルスイング。

    「があっ!?」
    「ゲハッ!!」
    「うごぉぁあ!!」

    愚かにも受け止めようとした盗賊が3人まとめて吹き飛ばされる。

    「ば、馬鹿野郎!!そんな奴を正面から相手してどうすんだ!!囲め!!囲んで殺せぇ!!」

    そう言ってグランツの背後に回り込もうとした、盗賊は、しかし

    「バカはお前だ」

    グランツの後ろにいたクライスによって一撃で斬られる。
    さらに、

    「グアッハッハッハ、ほら!もう一丁いくぞい!!」

    グランツが再度突進しながら放った大金槌によって、二人の盗賊が打ち倒される。
    そして、

    ―――ヒュン

    紫ローブが放ったであろう、投げナイフが盗賊の喉元を切り裂き、また一人崩れ落ちる。
    またたく間に半数を倒された盗賊は、

    「おい、こいつらヤベェ!」
    「逃げるぞ!!」
    「お、オカシラに報告だぁ」

    そう言って逃げ出そうとするが、

    「おいおい、今さら逃げだそうってのは虫が良すぎるよ!」
    「雑魚は雑魚らしくさっさと寝てろ!」

    アレスとリリア(裏)によってすぐさま切り倒され、10人いた盗賊達は全滅していた。
    そして、


    「しまった・・・・」
    「何?」
    「・・・・・・・・・・・活躍し損ねた」
    「そうだね・・・・・・・」

    ミコトとエルリスの呟きは、誰にも相手にされなかった。




    ◆  ◇  ◆




    「それで、チカブムって奴はどこにいるんだい?」

    ミコトが聞いて、クライスが答える、

    「さてな、俺の勘もアテにならん、まぁここに10人ほどいたってことはこの近くにいる可能性が高いと思うんだが・・・・・・・・・」

    これに対して、アレスとリリア(裏)が言う、

    「んなめんどくせぇ事ウダウダ考えるより、このあたりの部屋を全部調べたほうが早くねぇか?」
    「アタイもそっちの方が手っ取り早いと思うがね、どうするんだい?」
    「そうだな、分からないことをいちいち考えるより、手っ取り早く全ての部屋を調べた方が・・・・・・・・・待て」

    考え事をしていたクライスが急に鋭い声を出す。

    「なんだい?」
    「なにか、音がする・・・・・・誰かがここに近づいて来ている」

    クライスの言葉にエルリス達は臨戦態勢になる。

    皆が静かになり、あたりに気を配っていると、確かに、複数の足音がこちらに近づいているのが分かった。

    いつ敵が現れてもいいように、全員が武器を構えて息を潜めていると。

    「うおおおおおおおおおおお!!!!盗賊めぇえ!!!どこだ、どこにいるうううううう」

    エルリス達とは別の扉から入ってきたのは、エルリス達より先に砦に侵入したグレアムだった。



    グレアムは初めエルリス達を敵かと思い、剣を向けるが、こちらが何者か分かると、すぐに声をかけてきた。
    それからしばらくの間、グレアムとクライスが情報交換をしていたが、その間にぞくぞくとグレアムの部下達がエルリス達のいた広間に集まってきた。
    さらにもう少し待っていると、クライスが戻ってきて、「グレイブラバーズ」が全滅していたこと、グレアムの部下達も何度かの戦闘によって人数を減らし、今では20人ほどしかいないことが伝えられた。



    「それで、肝心のチカブムの居場所はわかったのかい?」

    「いや、まだだ、これからグレアム達と手分けして探すことになるが・・・・・・・!!」

    急にクライスが上を見上げた、そして――

    「グレアム、下がれ!!!!」
    「あ・・・・・?」

    声をかけられた、グレアムはしかし、間に合うことはなく、




    頭上から降ってきたチカブムによって踏みつぶされた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



    「ウハハハハハ、お前等があまりにも遅いんでこっちから出向いてやったぞ!感謝しながら死にやがれ!!!」

    チカブムは悠然と言い放った。


引用返信/返信 削除キー/
■294 / inTopicNo.12)  ツクラレシセカイ(シーン2-6)
□投稿者/ パース(いつになったら戦闘開始するんだorz) -(2006/06/24(Sat) 21:52:50)
    「ウハハハハハ、お前等があまりにも遅いんでこっちから出向いてやったぞ!感謝しながら死にやがれ!!!」


    チカブムは頭上から現れ、グレアムを踏みつぶし、そう言った。

    「うぐあああああああああ!!!」

    チカブムの足下で踏みつぶされたグレアムが絶叫を上げる。

    「貴様!!よくも団長を!!」

    激昂した二人の騎士が剣を構え、チカブムに斬りかかる。

    「フハハハハハハハ!すまねぇすまねぇ、ちょうど真ん中にいたんだからよ、踏みつぶしちまった、ウハハハハハ!」

    そう言ってチカブムは、二本の槍・・・・を両手に構え、
    片方の槍で一人の騎士をはじき飛ばし、もう一方の槍でもう一人を切り倒す。


    そして、チカブムは自分の回りを取り囲む数十人の騎士達とエルリス達を見回し、

    「ふーむ、どうやら今回はちとばかし数が多いみたいだなぁ」

    ニヤリと笑った。

    「おい!!!野郎共!!俺様ばっかり楽しむのももったいねえ!!テメェラももっと楽しみやがれ!!!」

    そう叫んで両手の槍を激しく打ち鳴らした。
    すると、

    ――――ダダダダッ

    ――――ドガドガドガッ

    ――――バンッガタンッ

    ――――ガチャン

    ――――ダダダダッ

    ――――ドガンッドドドドッ

    出てくるわ出てくるわ、この大部屋に通じる4つの扉全てはもとより、チカブムが降ってきた天井裏からも、床下からも次々と盗賊達が現れる、

    その数ざっと100人。

    「さぁ、俺をもっと楽しませろ!!!」


    チカブムの声を合図に、壮絶な殺し合いが始まった。




    ◆  ◇  ◆




    グレアムがほぼ戦闘不能になってしまったため、騎士団は統制を欠き、見事なまでにばらばらに戦おうとしていた。
    それを押しとどめたのは、やはりというかクライスだった。


    「一人で戦うな!!回りにいる者達で小さく固まってとにかく身を守るんだ!!」

    クライスはそう大声を出しながら走り、敵の集団を見つけると、

    「グランツ!ミコト!!」

    二人に呼びかける、

    「オッケー、ハァッ!テヤァッ!!」
    「おおー!!ガハハハハハハ!!!」

    ミコト、グランツが攻撃力と突進力を活かして敵集団をまとめて吹き飛ばす。

    それにクライスが続き、

    ―――ザシュ!
    ―――ズパッ
    ―――ドス!

    あっという間に二人が打ちもらした盗賊を切り倒す。



    現在、グレアム騎士団はまとまりを失っているといったが、それと対照的にエルリス達は組織的に動くことが出来た。
    グレアムが踏みつぶされたとき、クライスはチカブムがおそらく何か仕掛けてくるだろうと予測して、全員に周囲を警戒するように言ったのだ。

    「くっ、どうするよこの状況、マズすぎるぜ」

    周囲が敵だらけになった状況でそう言ったアレスに対して、クライスは、

    「敵が多ければ、敵のリーダーをまず倒す、それが出来なければ敵を一ヶ所に集めてまとめて倒す、それだけだ」

    クライスはそう言ってのけたのだ。
    そしてクライスが取った作戦は「集団で固まって一直線にボスを目指す」という、簡潔きわまりない物だった。


    「わかりやすいほどの動きでボスを狙われたら、敵は嫌でもボスを守るために集まらなければいけない、そうすることで他の味方が集まる時間を稼げるし、この乱戦状態からも脱出できる、ハァッ!」

    ―――ザシュッ

    また一人の盗賊を切り倒しながら、クライスが言うのだった。



    さて、盗賊の奇襲により敵味方入り乱れる乱戦状態になってからクライス、ミコト、グランツの活躍は凄まじかった、ミコトとグランツが敵集団に突っ込み、残りをクライスが殲滅する、このコンビネーションによりまたたく間に数十人の盗賊が打ち倒されたのだが、しかし、この乱戦で一番活躍したのは、紫ローブだった。



    紫ローブは、ただそこに佇んでいただけだ。

    「へへへ・・・・・・・・ボーッとしてっとすぐに死んじまうぜぇ!!」

    しかし、一人で突っ立っている紫ローブを獲物と定め、襲いかかった盗賊は無論何人かいた、しかし彼らは、ことごとく紫ローブに指一本触れることなく死んでいった。


    一瞬、ユラリと紫ローブが動いたかと思うと、が、 が、が、胴体・・が、紫ローブがナイフを振るうたびに体の一部が千切れ飛ぶ。

    また、5人の盗賊が人数の多さを頼りに紫ローブに襲いかかる、が

    紫ローブがナイフを投げ放ち、動きを止めた盗賊を切り刻み、懐からまたナイフを取り出し、別の盗賊を切り刻む、首筋にナイフを突き立て、頸動脈を掻き切り、首を切り落とす、また別の盗賊に襲いかかり、心臓を突き刺し、足を落とし、腕を切り飛ばし、指を吹き飛ばし、胴を、腹を、内蔵を、また切り刻む。

    またたく間に5人分の惨殺死体ができあがった。



    「マヂですか・・・・・」

    何もそこまで、というような(別に盗賊に慈悲をかけるつもりはないが)見事なまでの虐殺っぷりだった。

    「・・・・・・・・・・・・・・・・・あれって、人間技・・・・・・?」
    「こらっ、気を抜くな、エルリス!!」
    「うわっ、ごめん!」

    紫ローブの方に気を取られていたエルリスに、アレスから注意が飛ぶ。

    クライス達の突進があまりにも激しすぎるため、取り残されてしまったリリア、アレス、エルリス達は3人で固まって戦っていた。

    「あっ、クライス達がチカブムのいるところに辿り着いたみたいだよ!」
    「あいつら、負けんなよ・・・・・・」


    クライス達はミコトを先頭にしてチカブムへと突っ込んでいった。




    ◆  ◇  ◆
    視点:ミコト




    「ハアッ!!」


    ―――ザシュッ!!


    盗賊の一人を気合いとともに一閃、両断する。
    さらにクライスが残る盗賊を斬り、周囲の敵は全滅した。

    「よし、二人とも、がいるところまでもうすぐだ、一気にそこまで行くぞ!」
    「よっしゃ!」
    「おう!!」

    クライスの言葉が終わると同時にチカブムがいる敵の中心に向かってグランツよりも先に突っ込む。

    ―――ザムッ!!
    ―――グゴアッ!!

    ミコトの居合い切りと、グランツの大金槌により敵の大部分が吹き飛ぶ。
    ミコトはチカブムと自分たちとの距離を見る。

    (もう、チカブムに手が届くわね)

    立ち位置的に言って、自分が一番奴に近い。
    チカブムもどうやらここにいる自分たちの事を見ているようだ。

    「クライス、雑魚の相手はこれくらいで十分じゃないか?」
    「そうだな、よし、チカブムのところに行くぞ」
    「あたしが先頭でいいかい?」
    「ああ」
    「ふむ、ミコトが攻撃アタックか、ならワシが防御ディフェンス、クライスが援護サポートということになるが」
    「かまわん、アイツさえ倒せば問題ない」
    「おっけい、じゃ、行くよ!」

    ミコトはチカブムに向かって駆け出した。

引用返信/返信 削除キー/
■296 / inTopicNo.13)  ツクラレシセカイ(シーン2-7)
□投稿者/ パース -(2006/06/25(Sun) 20:19:30)

    ミコトは刀を構えてチカブムへ突進する。
    後ろにいるグランツとクライスを置いていくぐらいのつもりで。


    「こいやぁ、侵入者ども、俺様がじかに遊んでやるぜぇ!!」


    そう言いチカブムが両手の槍を構える。
    それに対するミコトはさらに加速。

    (一撃で倒す!!)

    速度は最高速まで達した。
    チカブムは右手の槍を大きく後ろにそらし、左手の槍を少し前に出す形で構えている。
    ミコトが槍の射程に入った瞬間、

    ―――ドオッ!!

    圧倒的な速度でチカブムが右足を踏み出し、それに伴う形で右手の槍を突き出す。
    これをミコトはフットワークの要領で避ける。
    凄まじい風が体の左側を突き抜けていくがこの程度では止まらない、さらに前進。
    続いてやってくる左手の槍。
    ミコトはこれも地面すれすれまで身をかがめて回避。


    「もらったあ!!」


    そう叫んで刀を振り抜く、狙うはがら空きの胴体。
    しかし、

    ―――ガキィンッ!!

    胴を両断するつもりで振り抜いた刀は、チカブムが着ている青銅色の鎧に防がれる。
    一瞬、動きを止めたミコトに、チカブムは容赦のない蹴りを放つ。


    「そんなんで俺様を倒せると思うなぁ!!」
    「くっ」


    とっさに左手一本でバク転し、なんとか回避する。
    さらに追い打ちをかけようとチカブムが槍を構えるが、


    「「下がれ、ミコト!!」」


    クライスとグランツが飛び込んでミコトを助ける。
    グランツはその大金鎚を叩き込もうとするが、これは右手の槍に受け止められる。
    さらにクライスは鎧で覆うことの出来ない頭部に長剣による一撃を加えようとするが、これもまた左手の槍に受け止められる。
    しばらくの膠着状態の後、クライスとグランツは自ら後ろに跳んで一旦距離を離す。


    「とんでもない硬さだね、あの鎧は」
    「グランツ、あれが何か知ってるか?」
    「確証は持てんが、あの硬さはおそらく魔導被膜(マジックコーティング)を施されてるんじゃろうな、あれを破るのは一苦労じゃぞ」
    「となると、やはり頭部を狙うのが一番か」
    「じゃが、頭部が弱点なのは本人もわかってるじゃろうし、やすやすとは通してくれまい」
    「打つ手無しか?」
    「あたしに任せてくれないかい」
    「何か考えでもあるのか」
    「ま、考えってほどじゃないけどね」

    「おい、テメェラ、いつまで俺様を待たせるつもりだぁ?そっちからこねぇなら、こっちからいっちまうぜぇ!!」


    どうやら作戦会議はこれまでのようだ、そう思い、構える。
    3人が構え終わるのを待たず、チカブムが突っ込んできた。
    今度は左からの一撃、これをグランツが金鎚で受け止める。
    そこにクライスが跳躍し、頭部への攻撃を喰らわせようとするが、またしても受け止められる。
    ミコトは再度、胴体へ刀の一撃を与えるが、チカブムは鎧への絶対的信頼でもあるのか、ミコトの一撃をまるで気にしていない、そして、


    ―――ガキィッ!!


    やはり受け止められた。




    ◆  ◇  ◆




    既にクライス達とチカブムの攻防は6度目を超えた。

    クライスが頭部を狙い、グランツが防御し、ミコトが胴体に攻撃を与える、という一連の動作を何度も繰り返し、そのたびにそれほどのダメージを与えられず、一旦下がる。

    そして、7度目の攻防を終えたとき、ミコトが呟いた。


    「次か、その次で決めるよ」
    「わかった」


    クライスは何も聞かず、ただ頷いた。


    「おいおい、俺様いい加減に飽きてきたぜぇ?テメェラいつまで同じ事を繰り返すつもりだぁ?無駄なことはさっさと止めちまぇよ!!」


    チカブムは延々と繰り返される攻撃に苛立っていた。
    しかし、チカブムは気付いていない、ミコトが執拗なまでに攻撃を続けた場所、
    胴体の右側、脇の下の部分に小さいながらもヒビが出来ていることに、
    ミコトが一寸も違わず同じ場所を攻撃し続けたために、魔導被膜が破れているのだ。


    「行くよ!」
    「ああ」「おう!」


    そして、8度目の攻防が始まった。

    今度はグランツが先頭を走る、大金鎚による一撃、しかしこれは予想通り左手の槍に受け止められる。
    さらにクライスがグランツを飛び越えて頭部へ大振りの一撃、やはりこれも右手の槍に受け止められる。
    そして、両手を封じられて、がら空きの胴体へ、ミコトが一撃を叩き込む。
    やはり、大きな音を立てて、受け止められるが、

    ―――ビキビキィッ!!

    小さなヒビは、確実に大きな亀裂になっていた。


    「な、まさかテメェラ、初めからこれが狙いで!!」


    チカブムがようやく、自分の状態に気付く。
    クライスとグランツがチカブムの腕を封じ込ているため、さらにミコトは鎧に攻撃を仕掛ける。


    「ウハハハハハ!俺様自慢の鎧にこんな傷を付けやがるとは、どうやら俺様も本気を出さなきゃいけないらしいなぁ!!」
    「はっ、そんな大口がいつまでたたけるのかね!!」


    さらに攻撃を仕掛けようとしたミコトに対して、不意にチカブムが蹴りを放つ、しかしそれはミコトを狙ったものではなく、グランツを狙ったものだった、その蹴りを受けたグランツが、わずかに揺らぐ。
    グランツが封じ込めていた、左手の槍が解放され、その槍が今度はミコトを狙う。
    チカブムに近づきすぎていたミコトは肩を薄く切られながらも回避し、一旦後退する。
    チカブムが槍を振り回したため、さらにクライスが後退して、8度目の攻防を終えた。


    「ウハハハハハハハハハハ、それじゃあ本気で行くとしようか、そのためにもお前等には少し静かにして貰わないとなぁ」
    「あたし達があんたの命令に従う理由はないわね」
    「そりゃそうだろうな、だがな、お前等を封じ込める事なんてけっこう簡単なんだぜぇ・・・・・・・・・こうすればな!!」


    そう言ってチカブムが飛び出した、剣を構えるクライス達に、ではなく、

    たった今他の盗賊を一人、倒し終えたばかりの、エルリスに向かってだ。


    「なっ、エルリス!!」
    「えっ!??」


    瞬間、叫んだクライスが飛び出す。


    「ウハハハハハ!!そらよぅ!!!」


    チカブムは、両手の槍をゆっくりと大きく後ろにそらし、直前で間に合ったクライスに叩きつける。
    クライスはエルリスを抱きかかえた状態で、左手の長剣一本でチカブムの攻撃を受け止めるが、当然、力の差がありすぎたため、クライスはエルリスごと吹き飛ばされた。


    「「クライス!!エルリス!!」」
    「お前等も少し休んでな!!」

    そして、チカブムは右手の槍を大きく後ろにそらし槍投げの要領で、投げてきた。
    すると、チカブムが投げ放った槍は、空中で光を放ったかと思うと、これまでとは比べ物にならない突風が起こった。

    「ぬ?うおおおお!!???」「え?・・・・・うわぁぁぁあああ!!!!」

    グランツとミコトはあまりの風に吹き飛ばされた。


    「ウハハハハハ!そっちの槍はなぁ、「精霊槍」って言って風の魔力を封じ込めた槍でな!投げると物凄い風が起こるんだよ!ウハハハハハハハ」


    9度目の攻防で、ミコト達は全員が吹き飛ばされた。
    チカブムは左手に持つもう一本の槍も投げ捨て、言い放つ。


    「それじゃあいっちょ『大殺陣』でお前等を皆殺しにしてやるとしますか!」




    ◆  ◇  ◆




    (呼出―――
    『Z』から『白』へ
    実験体T-1646の『災牙さいか』起動確認
    防衛機構要請――承認
    引き続き任務を継続する
    ―――終了)




    ◆  ◇  ◆




    「ウハハハハハ!『大殺陣』よ、来い!!」


    チカブムが大声を上げると、チカブムの前方の空間から巨大な、本当に巨大な槍が現れた。
    2メートルを軽く超え、巨漢のチカブムやグランツ以上の巨槍だ。
    それをチカブムは両手で掴み、構える。


    「さぁ、最初にこいつのエサになりたい奴はどいつだぁ!?」


    そして周囲を見回し、ある一点で目を止める。
    そこにいたのは、たった今、別の集団を解体バラし終えたばかりの紫ローブだった。
    紫ローブもチカブムに気づき、チカブムに相対する。


    「テメェはどうやら俺様の部下達をかなり殺ってくれたみたいだからな、最初にぶっ殺してやるぜぇ!!」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    チカブムが言い終わると同時、紫ローブが駆け出し、両手のナイフを投げ放つ。
    これに対し、チカブムは両手で、大殺陣を構え、大きく振り払う。
    一瞬、その巨槍が黒く波打ったかと思うと、


    ―――ゴウッ!!


    チカブムが槍を大きく降った瞬間、槍から黒い波のようなものが放たれ、それはチカブムに向かって飛んでいた、二本のナイフにぶつかり、

    ナイフは、空中で粉々に砕け散った。


    「まだまだあ!!!」


    さらに、チカブムは突進し、ナイフを補充した紫ローブに迫る。
    紫ローブがナイフを構え、チカブムに斬りかかろうとするが、


    「うおおおおおおお!!!」


    チカブムは気迫とともに、巨槍を振り下ろす。
    紫ローブは回避しようと後ろに下がるが、しかし、

    ―――ブンッ

    またしても放たれた、黒い波が回避しようとした紫ローブや、紫ローブの周囲に倒れていた盗賊や、騎士達の亡骸に降りかかり、


    ―――ドッゴオオオオ!!!!


    とてつもない破壊がまき散らされた。
    黒い波の直撃を受けた紫ローブの体は、まるで彼が盗賊を殺したときのように、バラバラに引き裂かれ、そこら中にまき散らされた。
    さらに、周囲にあった盗賊や騎士の亡骸までもが黒い波を受け粉々に吹き飛ぶ。
    しまいには紫ローブのいた周辺の床が崩壊した。




    ◆  ◇  ◆




    「つっ!!!!なんっつー破壊力だい・・・・・・・・・」


    ミコトは精霊槍の一撃で吹き飛ばされていたために、先ほどの崩壊から逃れていた。

    (あの紫ローブが一撃でやられちまうとは・・・・・・・・・マズイね・・・・・)

    周りを見回すと、グランツが割と近くに倒れていた、


    「じいさん、生きてるかい?」
    「ああ、この程度で死にはしないぞい」


    グランツは体を起こし、紫ローブとチカブムが戦った場所を見る。
    そして、その崩壊を見たグランツが呟く、


    「さっきの一撃・・・・・・・・・・・・まさか・・・・・」
    「何か、知っているのかい?」
    「ああ、ワシはあれによく似たものを知っておる、暗黒大陸にのみ生息する「罪花さいか」っちゅう花じゃ」
    「あれが・・・・・・・・花?」
    「よく似た、と言ったじゃろう、その「罪花」っちゅう花はな、触れようとしたり、取ろうとしたモノを切り裂いてしまう力を持つんじゃ、しかしな、その花の持つ力を打ち消す鉱石があってな、それを使うとその花を収集することが出来るんじゃ」
    「それが、あの巨大な槍とどう関係するんだい?」
    「最後まで話を聞け、その「罪花」と、その力を抑える鉱石はな、ちょっとした加工を加えると合成することが出来る」
    「すると?」
    「「罪花」の力を自由に操れる鉱石が出来る、さらにこれを錬成すれば「罪花」の力を持つ武具や防具が作り出すことが出来るのじゃ」
    「まさか、あれがそうだって言うのかい?」
    「おそらくは・・・・・な、じゃがしかし「罪花」には直接触れたモノを傷つける能力しかないはずじゃ、そしてそれ以前に「罪花」の力はせいぜいが斬り付けた相手のダメージを大きくする程度であって、あれほどの破壊力を持つなど聞いたこともないわい」
    「つまり、その罪花製の武器に何かをしたってことだね」
    「じゃろうな」


    よっこらしょ、とグランツが立ち上がった。


    「さてと、ワシはこれでも鍛冶屋のはしくれ、あんな危険な物を放っておくことは出来ん」
    「そうだね、あいつを放っておいたら絶対に大変なことになっちまう、クライス達もどこに行ったかんだかわかんないし、ここで倒すしかないね」


    よいしょ、とミコトが立ち上がる。


    「とは言っても、手はあるのかい?」
    「先ほど言った罪花の力を止める鉱石はな、なにも攻撃のみに使える訳じゃあないぞい、その鉱石の力を使えば、罪花の力を受け止めることが出来る武器や防具を作ることも可能じゃ」
    「なるほど、つまりは」
    「ワシの大金鎚とこの黒鎧は罪花を抑えることが出来る」
    「頼もしいねぇ」
    「ガハハハハ!鍛冶屋を長くやっていれば、誰でもこれぐらいはできるわい、ガハハハハ」


    ミコトは、刀を構え直す。
    グランツも大金鎚を構えた。


    「それじゃ、いっちょ行きますか!!」
    「おうよ!!」




    ◆  ◇  ◆




    ミコトとグランツはチカブム目指し一直線に駆け抜ける。
    騎士も盗賊も、もはやそれほど数が残っていないのか、誰も邪魔はしてこない。
    グランツが走りながら言う、


    「先ほどああは言ったが、あれほどの威力じゃ、おそらくそんなに長くは保たんじゃろう、勝負は速攻で決めてくれ」
    「わかった」


    チカブムがこちらに気付き、大きく槍を振りかぶる。
    グランツが前に出て、大金鎚を振るう。

    ―――ガキィ!!

    グランツの大金鎚がチカブムの巨槍を受け止める。


    「なに!?」


    黒い波はグランツを覆うが、やがて打ち消されていく。
    そして、グランツをすり抜けるようにして、ミコトが前に出る。


    「ハアッ!!」


    かけ声とともに全力で鎧を切る。

    ―――ズバン!!

    これまでとは比べ物にならない大きな音を立てて、鎧に大きな割れ目が出来る。


    「これ以上、やらせるかよぉ!!!」


    チカブムが叫びさらに力を加える、黒い波も力を増し、グランツを覆い尽くしていく。


    「うぐぐ・・・・・・なんじゃ、この力は・・・・・・・・・先ほどとは比べ物にならん・・・・・・!!」
    「言ったろ!!さっきは本気を出してなかったって!テメェじゃ俺様は止められねぇよ!!!」


    グランツの巨体がわずかずつ後ろに押されていく、それに呼応するように黒い波も力を増してゆく。
    そして、グランツの大金鎚にヒビが出来はじめる。


    「ッ!!させるかぁ!!!」


    ミコトが再度、チカブムの懐に入り込み、全身全霊を賭けた一撃を振るう、


    ――――ビキバキバキッ!!!


    今度こそ、チカブムを守る鎧と魔導被膜を打ち破り、鎧中に大きな亀裂が入る、ミコトが攻撃し続けた場所には大きな穴が空いている、がしかし。


    「まだだぁ!!!俺はまだやられてねぇ!!!!」
    「ぬぉおおおおおおおおおおおお!!!!」


    チカブムが咆吼を上げさらに力を上げる、黒い波が完全にグランツを飲み込んだかと思うと、次の瞬間、

    ―――ボキィ!!!

    「ぬぐあああああああああああああああ!!!!!」


    グランツの大金鎚がへし折れ、グランツの体中から血が噴き出す。


    「はぁぁああああああああああ!!!!!」
    「やらせるかぁあああああああああ!!!!!」


    ミコトが叫び、チカブムの懐に入る。
    チカブムも絶叫し、ミコトを叩き潰すために巨槍を真下に振り下ろす。
    大殺陣の刃に黒い光が集まる、

    (クッ、間に合わない!!)

    そう判断したミコトは、直前で刀の目標をチカブムの胴体から、全体重をかけている膝へと移す。

    ―――ガキィッ!!

    刀は脚部の装甲に受け止められるが、チカブムはバランスを崩し、大殺陣は大きく目標をはずし、

    ミコトよりも下にある物――――つまり床に突き立った。


    ―――――ドッゴォォォオオオン!!!!


    当然のように放たれた黒い波が床を打ち砕き、

    床が抜けた。


    「え・・・・・・・・?ッ!!うわぁぁぁぁあぁああああああああ!??」
    「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!??」


    チカブムとミコトは黒い波が作り出した穴の中へ飲み込まれていった。

引用返信/返信 削除キー/
■301 / inTopicNo.14)  ツクラレシセカイ(シーン2-8)
□投稿者/ パース -(2006/07/02(Sun) 13:27:26)
    2006/07/02(Sun) 20:11:52 編集(投稿者)

    ――――ゴゥン!!!

    「クッ!!」


    クライスはチカブムが放つ巨槍の一撃を何とか回避する。


    「うごぉぉぁぁああああああああああ!!!!!」


    チカブムが正気を失った瞳で絶叫しながら巨槍を振り回す。
    槍が振るわれるたびに黒い波が放たれ、壁や床が破損していく。
    その槍はまるで目標を狙ってはいないのだが、これまで以上のパワーと速度でむやみやたらと振り回されるために、うかつに近づくことが出来ない。


    「なんで、何でこんな事になっちゃったの!!?」
    「知るか!!ミコト、お前一体何をやらかした!!!」
    「あたしだって知らないっての!!いきなりこんな風になっちゃったんだからしょうがないじゃない!!」

    「うごおおおおおあああぎゃあああああああああああ!!!!!」


    チカブムがまた意味のない絶叫を上げながら巨槍の一撃を放つ。
    これまでは両手を使いようやく振り回していたその巨槍を、片手でやすやすと振り回しながら。

    ――――ズゴォオン!!
    ――――ガギャァン!!

    その度にまた、黒い波の影響で壁や床、天井の一部が崩壊する。
    唯一の救いは、チカブムの狙いがまるで見当はずれで、辺り構わず振り回しているだけということ。


    「ハァッ!!」

    ―――ザシュキィンッ!!!

    ミコトが神速の居合い切りを放つ、しかし、本来なら大木ですら一撃で両断するその一撃が生んだ傷はごくわずか、軽く血が出るだけ。
    そしてその血もすぐに止まってしまう。


    「何なのよ!!この硬さは!もはやこれは人間じゃないって!!!」
    「知ってる!!こいつはもう人間じゃない!!」


    ミコトが悲鳴混じりの声を上げる。
    そりゃそうだ、誰だって刀で全力で切られたら人間は簡単に死ぬ。
    どれだけ斬っても小さな傷が出来るだけで、なおかつその傷がすぐに治るなんてのは普通じゃありえない。
    そして、チカブムは現在、まさしく普通ではなかった。

    目は焦点を失い、どこを見るともなく虚ろだ。
    口からはこの世の全ての絶望を集めたかのような絶叫を上げ続けている。
    先ほどまで以上のパワーで巨槍を振り回し。
    そしてその肉体は黒ずみ、とても人間とは思えぬ硬度と回復力を持っている。


    本気で、何でこんな状況になってしまったのか、


    時間を少しさかのぼることにしよう。




    ◆  ◇  ◆






    「痛ッ・・・・・・・・・・・イタタタタ・・・・・・・・・・」
    「大丈夫か?エルリス」
    「何とかね〜、ちょっと頭打ったけど」
    「まぁ、何ともないならいいんだが」
    「うん、それにしてもクライスがあんなドジ踏むなんて珍しいね〜」
    「いや、あの武器がまさかあんな力を持っているとは思いもしなくて・・・・・・・な」


    クライスはばつが悪そうに言う。
    あの時、クライスがエルリスをかばった時。
    クライスは、二人まとめて吹き飛ばされたあと、すぐにミコト達の援護に向かおうとした。
    しかし直後に発生した床の崩壊(紫ローブを倒したあれだ)に巻き込まれ、二人は運悪く一つ下の階に落ちてしまったのだ。


    「どうしよっか?」
    「とりあえず、上の階に戻る方法を考えなきゃならないな」


    相変わらず聞こえてくる剣戟と悲鳴を背に、二人が何か上の階に上る方法は無いかと探し出した時、


    「ぬぐあああああああああああああああ!!!!!」


    グランツの絶叫が聞こえた。
    グランツが敵にやられたのだと、確信せざるおえないような絶叫だった。

    さらにすぐさま、グランツの心配をする暇なく2度目の崩壊が発生した、今度は前回の比ではなく黒い波がいくつも下の階へ抜けていき、各階層が次々と崩壊していき、それの中にチカブムとミコトがいるのを見つけた。


    「「ミコト!!」」


    クライスはすぐさま下の階へ飛び降りた、
    そしてエルリスもすぐにそれを追って一つ下の階へ飛び降りる。



    ―――そして、それ・・が見えた



    エルリスが穴から飛び降りたとき見えたモノ。
    エルリスが今降り立った階よりもさらに二つ下の階層。
    最初にチカブムと戦闘した階層から五つ下の階層(地下何階?)。
    初めは、黒い波が破壊した空間が、光の届かないほどに下の階まで続いているのかと思った。
    しかし、それは違った。



    ――――巨大な闇の塊



    全ての光を飲み込み、全てを無に返すような、邪悪な存在。
    全ての存在を否定するような、その存在。
    人が決して踏み入れてはいけないような、禁忌。

    (何よ・・・・・・・・・・・・・・あれ・・・・・・・)

    そして、エルリスの真後ろから声がかかる。


    「エルリス!」
    「えっ!?」


    エルリスの後ろにいたのはクライスだった。


    「あ、クライス・・・・・・・・そだ!ミコトは!?」
    「ここにいるよ」


    クライスのすぐ後ろからミコトが現れる。


    「あたしらがこんなすぐ近くに来るまで気付かなかったなんて、エルリスも相当あれが気になるみたいだね」
    「も、って事はミコトも?」
    「ああ、あたしだけじゃなくてクライスもだけどね、あれはヤバイ、なんか知らないけどめちゃくちゃヤバイ」
    「あれがなんなのかはわからないが・・・・・・・・・・間違いなく危険なモノだ」
    「うん、あの黒い塊、あれはなんか凄く嫌な感じがする・・・・・・・って、そういえば、チカブムは一体どこに行ったの?」
    「ああ・・・・・・アイツは・・・・・ね」


    ミコトが一瞬嫌そうな顔をした後、言う



    あれ・・ん中」




    ◆  ◇  ◆




    ミコトの話によると、こういう事が起こったらしい。

    先ほど、ミコトとチカブムが床の崩壊で落下した時、ミコトは偶然刀の鞘が引っ掛かり、二つの階層を落ちたところで止まっていた。
    しかし、チカブムは本人が持っている巨槍が原因であるだけに、止まることなくさらに三階層破壊して落ちていったのだが、そこで、いきなり変化が訪れた。
    それまで、下に下に向かっていた黒い波が急に方向を変え、チカブム本人に向かい始めたのだ。
    しかし黒い波はチカブムの体を破壊することなく、収束し始め最終的にチカブムを飲み込んだのだ。
    そして気がつけば、黒い波は塊となり、あの状態なのだという。


    それから三人は、細心の注意を払いながら、その黒い塊に触れないようにして、黒い塊の側に降り立った。

    側に近づいたことで、さらにはっきりとわかるようになった。
    それは直径が人間二人分ぐらいの完全な球形をしていて、そして



    ――――時々、ドクン・・・と脈打っていた



    「なによ・・・・・コレ・・・・・・気味が悪い・・・・・・・」


    生理的に嫌悪感がする。
    とてもではないがコレの側に長くいたくない。
    というか、見てるだけで吐き気がしてくる。
    だが、チカブムがどうなったかわからない以上、調べない訳にはいかない。


    「で、どうやって調べるか?」
    「触ってみるとか・・・・・?」
    「い、いや、それはちょっと・・・・・・・」
    「何か投げてみるか」
    「そうね」


    とりあえず、三人で石を投げ入れてみることにした。


    「それじゃ、せーのっ、で行くぞ?」
    「「うん」」
    「「「せー・・・・・・・・っっ!!???」」」



    ドクン・・・



    三人が石を投げ入れようとした直前、その黒い塊は一際大きく脈打った。

    三人が全力で警戒したとき(それまでも十分警戒していたが)、それはドクンドクンとそれまで以上の速度で脈打ち始める。


    「みんな、何がどうなってるのかわからないが・・・・・・来るぞ・・・


    クライスが長剣を構え、言う。
    エルリスとミコトもそれぞれの武器を構える。


    ―――ドクン、ドクン、ドクン・・・・・・・・・


    ―――ドク、ドク、ドク、ドク・・・・・・・・・

    ―――ドクドクドクドクドク・・・・・・・・・・・

    それの脈動が最高潮まで達したとき、黒い塊は縮小を始め、


    「うごおぉぉぉおぉおおおおおおおおお!!!!!」


    黒い波を突き破り、チカブムが現れた。


    「なんだ、結局相手はあんたかい!さっきまで十分暴れたでしょ!いい加減くたばりな!!」

    ミコトが一気に接近し、鎧も破壊され、がら空きの胴に居合い切りを放ち、そして、

    ―――ガキィンッ!!

    その、ただの肉体にほとんど受け止められる。




    ◆  ◇  ◆




    ここで、一番最初の部分に辿り着く。

    この後、何度かミコトとクライスが接近戦を挑むが、やたらと硬い肉体と、傷つけてもすぐ回復する肉体、そしてやたらめったらとふりまわされる巨槍の黒い波に近づくのがやっとという状況だった。

    そして、エルリスは、何も出来ず、ただ状況に流されるだけだった。



    (私って、何をやってるんだろう・・・・・・・全然役に立って無いじゃない)

    エルリスは自分が何も出来ないことを悔やんでいた。

    (せめて二人のサポートくらい出来ればいいんだけど、あれ相手じゃ絶対に無理だし・・・・・)

    チカブムがまた黒い波を無茶苦茶に解き放つ。
    エルリスは姿勢を低くして黒い波を回避する。
    エルリスが回避した黒い波は周囲に吹き荒れ、壁や床を破壊する。

    (って、こんなところでウジウジ悩んでる場合じゃないっての!!)

    ミコトが再度居合い切りを放ち、クライスもチカブムの胴体に波状攻撃を喰らわせる。
    しかし、硬質化した肉体と、修復能力の前にそれほどのダメージを与えられない。

    (このままじゃ、三人揃ってやられちゃう、だったら、その前に何かできることを見つけなくちゃ!)

    エルリスは自分にも何か出来ることはないかと模索し始めたとき、チカブムがまた黒い波を解き放つ。
    エルリスはそれを回避して、

    ―――ガッ!

    何かに足を引っかけてコケた。

    (痛たた・・・・・・・何よ!?もう・・・・・・)

    そこにあったそれ・・

    (これなら・・・・・・もしかしたら・・・・よし!)


    エルリスはそれを構え、走り出した。




    ◆  ◇  ◆




    「ミコト!クライス!一瞬だけこいつを止めるから、その間に決めて!!」

    エルリスが拾ったモノ、おそらく床の崩壊に巻き込まれて落ちてきたと思われるモノ、それは最初にチカブムが現れたとき持っていた二本の槍、「精霊槍」とは別のもう一本だった。
    チカブムの装備していた物の内、「精霊槍」と「大殺陣」、そして鎧にはかなり特殊な能力が付加されていた、ならば、

    (使い方はわかんないけど、これにもきっと何かあるはず!!)

    全力でチカブムに向かって疾走する。


    「ハァッ!!」


    チカブムが巨槍を持っているほうの腕にエルリスは全力で斬り掛かる。

    ―――ザシュッ!

    かなり切れ味のよい槍なのか、手首の半分ほどまで斬ることに成功する。
    しかし、修復能力のために斬れた先から次々と回復していく。


    「早く!今の内に!!」
    「ああ!」「まかせな!」


    ミコトがチカブムの懐に入り込み、神速の居合い切りを放つ。
    さらにクライスが連撃を放つ。

    ―――ズバッ!ザシュザシュ!


    「うごぅあああああああ!ぎゃああああああああ!!!」


    狂ったように暴れまくるチカブムにも痛覚は残っているのかさらに絶叫する。
    片手一本を受け止めているだけなのにエルリスは押されつつあったエルリスはそれ以上の力で押される。


    「早く!もう保ちそうにないから!!」
    「わかってる!今度こそこれで終わりだ!!」

    そのままの位置から、ミコトが刀を構え直し、


    「ハァァァアアアアアアア!!!」


    居合い切りを放つ、それも、二連、三連撃。


    「うごぉぉぁぁああ・・・・・・・!!」


    ついに、チカブムがその動きを止め、ゆっくりと崩れ落ちる。


    「やった・・・・!」
    「ようやく終わったな」


    ミコトが刀を鞘に戻し、クライスも剣をしまう。
    そんな中、エルリスは、自身が持つ槍に目をやった。




    ◆  ◇  ◆




    槍は、かすかに光を放っていた、その光は何かを示唆するように鳴動する。
    その光はエルリスにこう教えていた、


    (まだ、戦いは終わってない・・ ・・・・・・・・・・・・・・!!?)


    エルリスは、槍をゆっくりと構える。


    「「エルリス?」」


    そして、それに合わせるかのようなタイミングで死んだと思っていたチカブムが起きあがり、巨槍を大きく構える。


    「やらせない!!」


    エルリスの持つ槍がひときわ大きな光を放ち、投げ放つ


    ――ズッバァアアアアン!!!

    雷光の一撃ライトニングストライク

    エルリスが投げ放った槍は、まさに雷光となってチカブムに迫り、貫いた。


    胸に大穴を空けたチカブムは、今度こそ、完全に、動きを止め、崩れ落ちた。


    ようやく、本当に戦いが終わった。




    ◆  ◇  ◆




    クルコス砦における戦闘結果報告:

    依頼任務、「クルコス砦の盗賊討伐」達成報告。
    頭領のチカブム(本名不明)の死亡を確認したため、任務の完了を報告します。

    本任務では、頭領のチカブムを失うと同時に残っていた盗賊達が降伏したため、最終的に56人の盗賊を捕縛、残りは死亡したか逃走したものと見られます。

    戦闘終了後、砦内に残っていた財宝は、近隣の村々に戻しました。

    なお、盗賊の頭領チカブムが所持していた物品の内、謎の能力を保有していた巨大な槍は戦闘参加者、グランツ・ライアガストが破壊(無理をしたためその後怪我の病状が悪化)、魔導皮膜を施された鎧は戦闘中に破壊、風の魔力が込められた槍と、雷の魔力が込められた槍は回収。

    こちら側の被害:Aランクチーム「グレイブラバーズ」参加者数10人中10人が死亡し壊滅。
    Bランクチーム「グレアム騎士団」参加人数30人中死亡者数8人、重軽傷者20人とかなりの被害を受けた模様(うち団長のグレアム・バーストンは重傷者に含まれる)。
    Aランクチーム「ノーザンライト」参加人数4人中1名重傷残りの3名は軽傷(うち2人はサンドリーズギルド未所属)被害は軽微。
    どこのチームにも所属していないフリーのハンター「アレス・リードロード」「リリア・ティルミット」、2名とも軽傷のみ。
    なお、参加者のほとんどが「紫ローブの男」を見ましたが、この人物はサンドリーズギルドの加入者ではなかったため、この人物に関する詳細は不明。


    以上を持って報告を終了します。

    報告者:クライス・クライン




    ◆  ◇  ◆
引用返信/返信 削除キー/
■302 / inTopicNo.15)  ツクラレシセカイ(間章)
□投稿者/ パース -(2006/07/02(Sun) 13:31:13)
    2006/09/17(Sun) 13:05:29 編集(投稿者)

    ――クルコス砦――


    全ての戦いが終わり、静寂と屍のみが残された場所。
    動く者は屍を喰らうネズミやトカゲなどの小動物だけ。

    いや、一つだけ動くモノがあった。

    砦の最奥部の一室、最も大きな戦いが繰り広げられ、あちこちが破壊された場所。
    黒い波が破壊した、その場所。

    紫ローブの男だった。

    いや、正確にはこの表現はもう正しくない。
    なぜなら、その男が着ていた紫ローブは黒い波によりボロボロになっていて、ローブとしての機能を果たしていないからだ。

    紫色のローブを纏っていた男は長身に、浅黒い肌と引き締まった肉体、それから普通の人よりいくらか長い腕をしていた。
    そして整った顔立ちに、細くナイフのようにとがった印象を与える眼をしている。

    男はゆっくりと歩いていき、2度目の黒い波による破壊が起こった場所へ辿り着く。

    そして、男は崩壊した穴の縁に足をかけると、一切の躊躇いなく飛び降りる。

    信じられないことに、男は5階層分の穴を飛び降りたというのに、何事もなくあっさりと着地する。

    そして男はそこにあったモノの側へ歩み寄っていった。

    それは、チカブムの死体。

    男はチカブムだった物に近づくと、チカブムが完全に死んでいることを確認する。
    そしておもむろに左手を左の耳に添える、そこにはピアスのような小型の装飾品があった。



    「―――『Z』から『白』へ、実験体T-1646の死亡を確認、任務完了、これより帰還する」


    男がそう言うとそのピアスから返答が帰ってくる。


    『ヒヒヒヒヒッ、りょーかい〜ご苦労様〜ちゃっちゃと残り物を回収して帰ってらっさい、『ZERO』が君の帰りを楽しみに待ってるよ〜』
    「了解しました」
    『ヒヒヒッ・・・・・・そ、そんなにかしこまんなくていいよ〜?僕と君は立場上は同格なんだからね〜、むしろ君の方が実戦部隊なぶん上位?』
    「そうはいきません、あなたがいなければ俺はこんなところにいなかったはずですから、立場上どうあれあなたは俺にとっていつまでも上官です」
    『さいですか〜、ま、どうでもいいから〜さっさと帰ってきてね〜、通信切るよ〜』


    ぶつり、と音を立てて通信は終了する。

    男が耳にしていた物は一種の魔導具で、それに付いている宝石が媒介となり、全く同様の形をしたもう一個のピアスと通信することが出来た。


    男はしばらくそうしたまま突っ立っていた。
    しかし、ふと思い立ったようにチカブムの頭部の側へ移動する。
    もう二度と決して動くことのないその体に向かって男は声を掛けた。



    「少しの間、ほんのわずかな時間であったとしても、たとえそれがかりそめの自由であっても・・・・・・・お前は自分の望むことが出来て、好き勝手に暴れて、それで、お前は楽しかったか?」



    死体は決して答えはしない。

    男はかがみ込むと、チカブムのまぶたを閉じてやる。

    男はゆっくりと歩き出し、砦を後にする。



    ―――後には、ただ屍と静寂だけが取り残された。




    ◆  ◇  ◆




    ――世界のどこか――

    「ヒヒヒヒヒッ「俺はこんなところにいなかった」ね、ヒーヒヒヒッ!それは遠回しにこんなところにはいたくないっていってるんだろうねぇ〜、どうせここ以外じゃ生きられないのにザジ君も言うようになったモンだねぇ〜ヒヒヒッ!」


    世界のどこかにある、とある一室にて、男は笑う。
    その男は、まさしく『白』と呼ぶのがふさわしい格好をしていた。
    髪の毛は全て真っ白、白髪頭になるほどの年には見えないので、染めているのかもしれない。
    肌はかなり白く、ともすれば病人に間違われるだろう。
    白い、瓶底メガネに白いブーツ、そしてトドメはその白衣。
    まさしく、完全なまでに『白』だった。
    男は独り言を呟く、


    「ヒヒヒッ実験体T-1646、自分ではチカブムとか名乗ってたみたいだね〜『砕牙』を奪取してここを脱走、その後だいたい予定通り、アイツには暴れるしか脳がないからねぇ・・・・・・ヒヒヒヒヒヒヒ」

    予定通り・・・・に脱走して、予定通り・・・・に暴れて、予定通り・・・・に暴走して、予定通り・・・・に死んじゃったね」


    チカブムと呼ばれた存在に「自由」というモノは無かった。
    全てがこの凶人に与えられ、全てがこの凶人に奪われた存在。
    それが「実験体T-1646」の運命だった。


    「ヒヒヒッ、それにしてもザジ君この間までは口答えすることすら珍しかったのにねぇ、少しは成長したのかにゃ〜、クヒヒヒヒヒヒヒヒ!」


    何が面白かったのか、その男は一人で爆笑し始める。

    正確には、ザジというのは、紫色が好きなあの暗殺者の名前ではない。

    「彼」は初め、暗殺者の一族に生を受けた。
    そこでは名前という物は無く、全員が番号で呼ばれた。
    「彼」はそこで鬼童と呼ばれるほどの「殺し」の天才だった。
    若干、十数歳の子供に対して、大人が十人がかりでも勝つことが出来なかったのだ。

    そして、そこに、白衣の男が現れた。

    男の目的はその「彼」の確保のみ、そしてその目的は達成された。
    「彼」を守ろうとした数百人の暗殺者達は皆殺しにされ、一族は滅んだ。

    わずかばかり生き残った一族と「彼」はそのまま白い男の組織に組み込まれた。

    男は、「彼」に、番号じゃ呼びにくいから、ということでザジという名前を与えた。


    「ヒヒヒッ、ザジ君は僕のことを恐れているんだろうねぇ・・・・・・ザジ君の仲間、邪魔だったからみんな殺しちゃったし、ヒヒヒ・・・・・」

    「・・・・・・・・・・でもね、ザジ君、それは正しいんだよ、僕を恐れる、それは間違いなく『ZERO』と同調することが出来る証拠だ、だから君はここで驚くほど長く生き延びている」

    「さてと、いつまでもザジ君のことをかまってる場合じゃなかったね、他にもやることはいっぱいあるんだ、精々みんなには死ぬ気で頑張って貰うとしますか、ヒッヒッヒ!!」




    凶人は、高らかに笑う。




    観賞<了>


引用返信/返信 削除キー/
■345 / inTopicNo.16)  ツクラレシセカイ(シーン3-1)
□投稿者/ パース -(2006/09/11(Mon) 20:15:03)
    前書き
    お久しぶりですこんにちわ、もしくわこんばんわ、最近ご無沙汰しっぱなしのパースです。
    2〜3ヶ月以上もさぼってましたが、久々に続編を書いてみました。
    なんか久々すぎて自分で書いた物の設定とかほとんど忘れてしまいました(汗
    惰性だ・・・・・怠惰だ・・・・・マズいなぁ・・・・・
    シルフェで書いてる方も全然進んでないし・・・・・・
    ナンダカナァ・・・・・・・・・・・orz
    本編を始める前にシーン3の登場人物だけ、書いておきます。

    登場人物:
    (説明不要)
    クライス
    エルリス
    セリス
    (オリジナル)
    アドレミシア(ギルドのNo.3)
    ルイスル(↑の片腕)
    バルデルロッド(魔法使い)
    エルテイ(弓矢使い)

    シーン3ではクライスが活躍します(予定だけどー)(ぉぃ





    ◆  ◇  ◆


    ――サンドリーズギルドアウルスエリア本部 最上階の一室――



    サンドリーズギルドの最上階には、サンドリーズギルドの関係者、特に組織の運営などを担当する者達が使っている部屋が並んでいる。
    今、その中のある一室に、4人の人間がいた。
    正面の机で、数枚の報告書を読んでいる人物、
    大陸中で4ヶ所あるサンドリーズギルド本部の中で3番目のアウルスエリア本部長、要するにサンドリーズギルドのナンバースリー、
    アドレミシア・サンドリーズ。
    穏和な顔にメガネを掛け、アッシュブロンドの髪を後ろで一つにまとめている、どちらかと言えば秘書のような見た目である。

    そして、アドレミシアの横に立つ、一見すると学者のようにしか見えない人物、
    マッドロウ・ルイスル。
    白衣に眼鏡、禿頭と来ればもはや学者にしか見えないのだが、彼はそのずば抜けた知能、特に策謀能力から、アドレミシアの片腕として重宝されている。

    それから、部屋の壁に背を預けて、中空を見つめている男、
    アウルスエリアでは・・一番の魔法使い、
    バルデルロッド。
    彼はやたらと装飾の激しい、派手で華美な杖を傍らに置いている。

    最後に、部屋の中央でアドレミシアの正面に立つ男、青髪に青い瞳の剣士、
    クライス・クライン。
    それがこの部屋に集う4人である。



    「ふむ、それじゃあこの間の盗賊攻略戦についてはとりあえずこれでお終いって事ね?」
    書類を読み終えたアドレミシアが口を開く。
    「ああ、事後処理も含めて全ての作業は終えてきた」
    クライスは特に感情を込めずに事実だけを報告する。
    「予想外に大きな被害を受けたものの盗賊達はちゃんと壊滅したみたいだから、ひとまずは良しとしましょうか、ルイ、ロッド問題はないわね?」
    「ああ」
    「はい」
    ルイスルとバルデルロッドが同意する。

    「さてと、それじゃあここに書かれていない事・・・・・・・・・・・を話してもらおうかしら」
    クライスは少し顔をしかめる。
    「今回の仕事に参加したグレアムの配下達何人かから話は聞いてるわ、この盗賊団の頭領チカブムという男一人にかなりの被害を受けた、とね、彼についての話を聞かせてちょうだい」
    一瞬、クライスは考えるような仕草をしたあと言った、
    「盗賊の頭、チカブムという男はもともとからかなりの強者だったようだが、こいつが持っていた謎の武器、というよりあれはもはや兵器か、それによってかなりの被害を受けた」
    「謎の、兵器?」
    「ああ、兵器としか言いようのないとんでもない威力を誇る武器だった、残念ながらそいつは戦闘中に壊れていたらしく回収は出来なかったが」
    「ふむ、まぁいいわ、続けて」
    「それから、その兵器によって奴をしばらく見失った直後、謎の、謎のとしか言いようがない黒い物体にチカブムは包まれ、普通では考えられない筋肉の硬質化、異常再生能力、理性の喪失、といったわけのわからない状態になり、こいつにかなり苦戦させられたな、そして、それらから考えられることは」
    クライスは一拍おいてから言った。
    「おそらく、これらの件にはダークマターが関係している」
    クライスは断言した。
    クライスの言葉にバルデルロッドはあからさまに嫌そうな顔をし、ルイスルとアドレミシアはまたか、という顔をした。
    「チカブム本人の異常な肉体強化に関しては謎だが、奴の持っていた数々の強力な武装は明らかに正規のルートを通したものじゃない、確実に奴ら・・が関与している」

    「そう・・・・・・・」
    アドレミシアはクライスの言葉に納得したようなしてないような呟きを漏らした。
    「ダークマター、ここ最近急速に勢力を拡大している異常者集団ですな」
    ルイスルが補足説明を始める。
    「彼らの活動は誘拐、暗殺、諜報に略奪行為、破壊工作等々と、何でも有りの外道集団、犯罪組織が動けば裏にダークマターがいると言われるほどに最近の彼らの動向は目に余るものがあります」
    「俺が聞いた噂じゃ、村一つが奴らによって一人残さず消されたって話を聞いたことがあるぜ、はっ、あながち嘘じゃあ無いのかもな」
    バルデルロッドが感想を述べる
    二人の話を聞いた後、アドレミシアは真剣な表情で話し始めた。
    「ここ最近、奴ら、ダークマターは以前にも増してかなり頻繁に活動しているわ、いままでは我々に依頼があれば傭兵を派遣してその先で何度か戦闘になったことがある程度だったからいいものを・・・・・・・・・・」
    アドレミシアは少し言いづらそうな顔をしたあと、言った。
    「実は彼らについてよくない話がもう一つあるの」
    アドレミシアの言葉に他の三人は困惑の表情を浮かべる。
    「よくない話・・・・・ですか」
    「ええ、この間、といってもつい先月、西の町サハグラスにあるサンドリーズギルドの本部長が彼らによって暗殺されたわ」
    この言葉にアドレミシア以外の三人は驚愕の表情になる。
    「ついに彼らは私達に対して本気で攻撃を仕掛けてきたってわけ」
    「それは、間違いない話なのですか?」
    「ええ、私なりに調べてみたけど、間違いないみたい。」
    少し間を開けてアドレミシアは続ける。
    「サハグラスの本部長は町の商工会と何かの会談中に侵入した何者かによって殺されていたわ、護衛のギルド員が、それもかなりの上級メンバーが10人以上いたようだけれど、全員仲良く体をバラバラにされて殺されていたわ、もちろん商工会のメンバーは言うまでもなく、ね」
    アドレミシアの言葉に、クライスは引っかかりを覚えた。
    (全員仲良く、バラバラに・・・・・・?)
    「その、バラバラにってのは、どのくらいバラバラだったんだ?」
    興味本位からか、バルデルロッドが聞く。
    「完膚無きまで、完全に・・・・・一人分の肉体が3〜40個の肉片に別れていたわ」
    まさかそこまでとは思っていなかったらしいバルデルロッドはウッと顔を引きつらせる。
    (まさか・・・・・・あの時の砦の紫ローブ・・・・・・・・奴が・・・・・・?)
    クライスはコルクス砦で共に戦った紫ローブの事を考える。
    (だが奴はチカブムの一撃で死んだはず・・・・・・・・・・・だがアイツの殺し方は簡単に真似できるものでは・・・・・・・)
    いくら考えてみたところで、結論は出ない。

    「さてと、今日ここに集まってもらったのは他でもないわ、このダークマターに関する件よ」
    アドレミシアは、ようやく本題に入った、クライスはバルデルロッドがいる時点でただの事後報告が目的ではないだろうと思っていたので、それほど驚きはない。
    「このままダークマターの好きにさせていたら、大陸中が大変なことになるのは目に見えているわ、だからそうなる前に手を打っておく必要があるわ」
    その場の全員が頷く。
    「それであなた達3人にはそれぞれに別の任務を与えるわ、これは普通の一般任務とは重要度が違うから、失敗は許されない、だからあなた達にお願いするの」
    「おーけーおーけー」
    「わかりました」
    「ああ」
    三者三様の受け答えで意志を表明する。
    「まずはルイスル、あなたには一番楽な仕事、東の大都市ホーリィライトのギルドに行って、この手紙を渡してきてちょうだい」
    アドレミシアは一枚の封筒をルイスルに手渡した。
    「中身は現在こちらでわかっている限りのダークマターの実態、対抗策を練る必要があること、とか色々よ、確実にお願いね」
    「了解しました」
    ルイスルが丁寧に礼をし、部屋を退室していった。

    「次、バルデルロッド」
    「へーい」
    「あなたには一番難度の高い任務にあたってもらうわ」
    「ほっほー一番難度の高い任務ですとな、それは俺に対する信頼の証と受け取ってもよろしいでしょうか?」
    「残念ながら違うわ」
    バルデルロッドは軽く落ち込んだようだ。
    「あなたをこの任務にあてるわけは、あなたが一番この任務を楽に完遂できるから、向き不向きの問題よ」
    「わかりましたよ、それで内容は?」
    「西の港町、サハグラスに行ってちょうだい、現在この町とは音信不通な状態になっているわ」
    「あれ?さっき先月起こった暗殺のことを調べに行ったようなことを言ってませんでしたか?」
    「ええ、その後の話よ、状況がどう動くか調べるために何度か使いの者をやっているのだけれど、先週から使いと連絡が取れなくなってるの」
    「なるほど、それで俺様の出番、というわけですね」
    「ええ、お願い、サハグラスが今どうなっているか、調べてきて」
    「わっかりましたー、それでは不肖このバルデルロッド、敬愛するアドレミシア様のために行って参りますー」
    そして、バルデルロッドも姿を消し、残るはクライスとアドレミシアのみになった。

    「それで、俺には一体どんな任務を与える気なんだ?」
    「あなたには一番危険度の高い任務を与えるわ」
    「危険度の高い、ね」
    「ええ、あなたには北部、オルトナエリアにある小さな村、カトレアに向かってもらうわ」
    「なぜそれが一番危険度の高い任務だと?」
    「今、そこではダークマターと関係がある集団が暗躍しているらしいわ」
    「・・・・・・なるほど」
    「でもひとつ安心材料があるわ」
    「?」
    「今、その任務には他にも一人参加者がいるわ」
    「誰だ?」
    「エルテイ・ステンバック、チーム「ノーザンライト」所属、あなたの仲間ね」







    あとがき

    どうも、ここまで読んでくれた人、ありがとう
    久々だったせいか、かなりいい加減になってるところがあったりするような気がします(汗
    今回はシーン3序章ということで、短いのは許して下さいorz
    ま、まぁとにかく、シーン3、舞台は一路北方の村カトレアへと移ります。
    たぶん次回から出てくる新キャラとか、敵キャラとか、暗躍する敵組織とか、色々含めて
    時々さぼったりすると思いますが、この不甲斐ない作者共々、よろしくお願いします。


引用返信/返信 削除キー/
■348 / inTopicNo.17)  ツクラレシセカイ(シーン3-2)
□投稿者/ パース -(2006/09/16(Sat) 11:17:41)
    2006/09/16(Sat) 20:37:33 編集(投稿者)

    ――乗り合い馬車の中――


    ガタンゴトン、と馬車は揺れ、中に乗っている十人前後の乗客達の体を揺さぶる。
    その中に、精悍な顔立ちをしての腰に長剣を差したが青髪の青年が、クライスがいた。
    「俺は、だな」
    クライスは唐突にひとりごとを始める。
    「この任務が非常に危険な可能性を秘めているとアドレミシアから聞いていたんだ、ああ聞いていたとも、だからな、だからだぞ、俺一人で行ってさっさと任務を終えてくるつもりだったのにお前達を連れて来たくなかったのに何でいるんだよエルリス!セリス!!」
    「うわっ!!」
    「きゃあっ!」
    ひとりごとの最中にいきなりうしろを振り返って怒鳴ったクライスに、不意を付かれたエルリスとセリスは仰天して同じく大声を出してしまう。
    二人はローブを目深にかぶって顔や髪が見えないようにしてクライスの背後の席に座っていたのだが、クライスに簡単に見破られてしまった。
    「あ、あははは・・・・・ぐ、偶然だね?」
    「セリス、嘘がバレバレだぞ?」
    「うっ・・・・・うう・・・・・だってクライスがどこに行くのか興味があったんだもん」
    「だもん、じゃない!ったく・・・・・エルリスも、危険だから付いて来るなっていったろう」
    「いやー・・・・・あはははは・・・・・セリス一人を行かせるのは危険かなーと思いまして」
    セリスと同じで、クライスの昔の仲間、とやらが気になって付いてきましたー、なんて絶対に言えない。
    「ったく・・・・・なんで二人とも付いて来るんだよ・・・・・・・・・・」
    クライスは頭を抱えてしまった。

    さて、クライスが少し落ち込んでいる間に、エルリス達がここに来るまでの出来事を説明しておこうか、それでは回想、スタート。




    ◆  ◇  ◆



    ――辺境の村『ゲート』――


    その日の晩、クライスは帰ってくるなりグランツのところに用があるといって出かけてしまった。
    グランツは現在、前の盗賊討伐戦でのダメージがひどく、自宅療養中だ、エルリスもしばらく会っていない。
    「んーそういえばしばらく会ってないし、お見舞いも兼ねて私達も行っちゃおうか」
    「そうだねーあのおっちゃんも私達のことを見れば元気になるかな?」
    そんなことを言って、エルリスとセリスの二人はクライスからかなり遅れてグランツの元に向かったのだった。



    ――グランツの家――


    グランツは体中のあちこちに包帯を巻きながら陽の当たる窓の側のベッドの上で体を起こしていた、そしてクライスは椅子に座ってその正面にいて、二人とも深刻な表情を浮かべていた。
    「そうか、あの盗賊の頭、チカブムという男・・・・・・ダークマターと何か繋がりがあったんじゃな・・・・・・・・・それならあの異常な威力の武器、たしか『大殺陣』じゃったか、あんな物があったのも頷ける」
    「ああ、他にもいくつかわかったことはあるが、それより、体の方は大丈夫か?」
    「ガハハハハ、まだまだ、若いもんに心配されるほど鈍ってはおらん!」
    「戦闘は?」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・すまん、まだ無理じゃ」
    「そうか・・・・・」
    「なんじゃ、また厄介事か?」
    「ああ、悪いことは続く物、とは言ったモノだな、さっそくそのダークマター関係の仕事だ、オルトナの方、カトレアまで出向かなければならないらしい」
    「オルトナ、か・・・・・・そういえば、今はエルテイの奴がおらんかったか?」
    「ああ、よりにもよってその厄介事にかなり関わっているらしい」
    「なんじゃと!・・・・・・・よりによって全員がばらけているこの時期に厄介事が起こるか・・・・・せめて彼女・・がいればのぉ・・・・・・・・」
    「それは言っても仕方のないことだ」
    「ラグナは今西におる、リーンの奴は東から動こうとしないじゃろうし、エルテイの奴は逆にあちこち移動しまくる、彼女に至っては今どこにいるのかわからん、そしてお主がここにいる限り、ワシはここから動けん」
    「それも仕方のないことだろう、あいつらはあいつらなりの考えがあって、行動しているはずだ」
    「しかしのう、あいつらにもし万が一のことでもあったらと思うと、な」
    「その点は大丈夫だろ、俺達の中・・・・で一番弱いのはお前だろ、グランツ」
    「当たり前じゃ、ワシは本来ただの鍛冶屋、後方支援が専門じゃわい」
    「そうだったな、とにもかくにも、お前はしばらくしっかりと療養してろ、俺が帰ってきたらまた働いてもらうからな」
    「ああ、まかせろい」
    「とりあえずは、エルテイと合流して、さっさと仕事を片してくるよ」
    クライスは立ち上がり、それじゃあな、と言ってグランツの家を出て行った。



    ――グランツの家、の外(窓の下)――


    エルリスとセリスの二人はずっと窓の下にうずくまって二人の話を聞いていた。
    本当はグランツを驚かせるためにコッソリと移動しただけなのだが、ずいぶんと大変な話を聞いてしまった。
    (お姉ちゃんどうしよう!大変な話を聞いちゃったよ!!)
    (とりあえず移動しましょうセリス、このままだといつ見つかるかわかったもんじゃないわ)
    (そうだね)
    二人はゴソゴソと芋虫のようにしてグランツに見つからないように移動した。



    「いやークライスには「チーム」の仲間がいるのは知ってたけど、いままでグランツ以外に会ったこと無かったから、完璧に忘れてたわ・・・・・」
    「エルテイって人と合流するとか何とか言ってたけど、何するのかな?」
    「さぁ・・・・でもクライス、何にも言ってなかったわよ・・・・・?」
    「きっと私達に秘密で出て行くつもりなんじゃない?」
    「うーん、クライスのことだからそれはあり得る・・・・・」
    「どうしよっかー?このままじゃ私達置いてかれちゃうよ」
    「でも、クライスがそうした方がいいって決めたことなんだったら・・・・・」
    その時、セリスはある意味エルリスに一番効果的なセリフを口にした。
    「っていうか「彼女」って誰なんだろうねー?」
    「ッ!!!」
    「ねぇお姉ちゃん、気にならない?」
    「う・・・・・・・うう・・・・・・・・」
    (気にならないって言ったらそれは嘘になるけど、でもだからってわざわざ付いて行く必要は・・・・・)
    「どこにいるのかわからないとか言ってたけど、もしかしたら会いに行くのかも知れないよね?」
    「うううううう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「ねぇねぇ、お姉ちゃん、ついて行ってみようよー」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・セリス」
    「うに?」
    「クライスに気付かれないようにコッソリと付いていきましょう」
    「やった!」

    ちなみに、この会話中、セリスには一切悪意はない・・・・・・・・・・・・と思う。




    ◆  ◇  ◆



    ――回想終了。


    「全く・・・・・つーかここに来るまで尾行に気付かなかった俺も俺なんだが」
    「そうだよ、ここまで来ちゃったら引き返すのも大変だよ、ね?ね?」
    「えーと、迷惑は掛けないようにするし、セリスが面倒を起こさないようにしっかりと見張ってるから!」
    「お姉ちゃん、私のせいにばっかりしないでよ〜」
    「あのなぁ・・・・・・」
    「それにほら、危険があってもクライスが守ってくれるでしょ?」
    「そうだよ、男なんだから女の子二人を守るくらい簡単だよよね?ね?」
    数秒、間があったあと、
    「・・・・・・・ハァー・・・・・・・・わかったよ・・・・・・・」
    クライスは深い溜め息と共に許可の声を出した。
    「やったぁー!」
    「その、クライス、ホントにごめんね?」
    「いや、もういいよ」

    ようやく許可されて、エルリスとセリスは今度こそ普通にクライスの前に座った。

    「それで、クライスが行こうとしてる場所ってどんなところなの?」
    「カトレアの町、オルトナエリアにある山間の小村だ『ゲート』よりはいくらか大きいと言う程度の小さな町だよ、産業も興業も特に有名なところはない」
    「そんな町に、一体何をしに行くの?」
    「今その町の片隅になんだか訳のわからない集団が居着いているらしい、俺の目的はそいつらの調査と場合によってはそいつらを排除すること、だ」
    「ふーん・・・・・」
    「ま、もっとも、調査の方は先にこの任務に取りかかっている奴がほとんど終えていると思うけどな」
    「先に取りかかっている人・・・・・・クライスのチームメンバーだね」
    「ああ、エルテイ・ステンバック、弓矢使いアーチャーだ」
    「ねぇ、クライス」
    「ん?」
    「私は、いや、セリスもだけど、クライスのチームメンバーの事をほとんど知らないんだけど」
    「そうだよー、勝手に話を進めないでー」
    「ああ、そうだったな・・・・・じゃあこの際だから俺のチーム『ノーザンライト』のことを説明しておこうか」
    「その前に、クライス、そもそもなんで『ノーザンライト』なの?ノーザンライトってオーロラって意味だよね・・・・・」
    クライスはかなり嫌そうな顔をした。
    「いや、それはだな・・・・・・名前を付けたのは俺じゃないからだ、俺だったらそんな小っ恥ずかしい名前は絶対に付けない」
    「えーと、じゃあこのチームの名前を付けた人は?」
    「それは・・・・・・・・・・・・・と、とにかく、チームの解説をするぞ」
    なぜかクライスは非常に言いにくそうにしていた。
    不審だ。



    ラグナロックス・ファーレット 魔術師マジシャン 大陸でも最高峰の魔術師で魔術師としては最高位の証であるグランドマジシャンの称号を持つ。

    エルテイ・ステンバック 弓矢使いアーチャー 弓の名手にしてエルフ族の青年、あだ名は銀光の射手。

    リーンウィル・フォレスト 罠師トリッカー 彼の領域の中に入ってしまった者は例え1個師団クラスの戦力でも全滅するといわれる天才罠師。

    グランツ・ライアガスト 鍛冶屋ブラックスミス あれでも実はその道では有名な知る人ぞ知る天才鍛冶屋、暗黒大陸の技術をも身につけているとか。



    クライスの話を聞き終えたとき、エルリスは絶句していた。
    「そして、今の四人に俺を加えて、チーム『ノーザンライト』の全メンバーは紹介終了だ」
    「え、いやちょっと待って、クライスに関する説明がないんですけど?」
    「クライス・クライン 俺 剣士 以上、その他のことはだいたい知ってるだろう?」
    「そんな身も蓋もない・・・・・・・」
    クライスは自分のことになるとずいぶんつっけんどんだった。

    乗り合い馬車はゆっくりと進む。




    ◆  ◇  ◆



    ――カトレアにほど近い山道――


    夕闇に沈む山道をいま、3つ、いや4つの影がうごめいていた。

    その影達は、動きを見ていると二つの勢力があることに気付く、
    一つは先頭の影、まだ若い青年が木々の合間を駆け抜け、一目散に逃げようとしている姿
    そしてもう一つは残る三つの影、二つが今にも青年に追いつきそうな距離に迫り、もう一つは常に付かず離れずの距離を保っている。

    そして、ついに二つの影が青年に追いつき、懐から取り出した刃でこれにトドメを刺そうとした瞬間、

    ―――ビュン!!

    どこからともなく飛んできた矢が影の持つナイフを撃ち抜いた。

    「「!!」」

    ナイフを揃って撃ち抜かれた二つの影は矢が飛んできた方角を見ようとして。

    ―――ビュン、ビュン!!

    二人とも矢に足を撃ち抜かれ地面に倒れ伏した。

    他の影から逃げるように先頭を走っていた青年は、その矢が飛んできた方角に一人の弓を構える人物がいることに気付き、
    「ひいっ!助けてくれ!!」
    と、言った。
    「ええ、今助けますから―――ッ!走れ!!!」
    「え・・・・・・・・・!?」
    しかし突如として怒鳴られたことに一瞬驚いて動きを止めた青年はその直後、

    ―――グボアッ!!

    背後の地面を盛り上げて出現した土人形ゴーレムによって叩き潰された。

    「チッ・・・・・・・・・人形遣いドールマスターですか・・・・・・!」

    弓矢を構え直そうとする青年の周囲に、新たに2体のゴーレムが現れる。

    ―――バスッ!バスッ!

    弓矢遣いの青年は2本の矢をそれぞれのゴーレムに放つが、2体のゴーレムはまるでダメージなど無いかのように動き、青年に接近する。

    (術者を倒さなければいけませんね・・・・・・・それから、先に倒した二人の方は・・・・・・)

    そちらの方を見ると、そっちにも一体のゴーレムが出現していた。

    (仲間の回収、もしくは口封じは既に終わったと見て違いないですね・・・・・)
    (術者は・・・・・・・ここから見える位置にいるわけありませんね・・・・・ならば!)

    青年は背中の矢筒とは別に、懐から二本の銀色の矢を取り出した。

    青年はそれを弓につがえ、集中する。

    (emeth・・・・・・こいうった土人形は弱点がわかりやすくて楽ですね・・・・・・見えた!)

    ―――バシュッ!バシュッ!

    普通ならゴーレムの中でも特にガードが堅く、またそれの制作者以外には見つけられないように何種類もの魔術防壁を施しているはずのEMETHのEの文字を、青年の銀矢は正確に撃ち抜いた。
    そして、それを撃ち抜かれた2体のゴーレムは、ただのつちくれと化し、崩れ落ちた。



    2体のゴーレムを倒した時点で、既に戦闘は終了していた。
    「まんまと逃がしましたか・・・・・」
    人形遣いらしき術者とその他のゴーレム達は既に影も形も無くなっており、他の二人の追っ手は既に事切れていた。
    そして、追っ手から逃れようとして、ゴーレムに叩き潰された青年は、
    「あ・・・・・・・う・・・・・・・・・妹・・・・・・を・・・・・・助け・・・・・・・・」
    それだけ言って、ピクリともしなくなった。
    「ッ・・・・・・・・・・」
    助けるのが間に合わなかった。

    弓矢を背中に背負い直した青年―――エルテイ・ステンバックは彼を助けられなかった事にひどい憤りを感じる。

    「クソッ・・・・・・・『ダークマター』・・・・・何が目的だ・・・・・・・!」

    エルテイの怒りの声は空しく消えていった。

引用返信/返信 削除キー/
■439 / inTopicNo.18)  ツクラレシセカイ(シーン3-3)
□投稿者/ パース -(2006/10/15(Sun) 20:00:31)
    ――カトレアの町――



    アウルスエリアから馬車に揺られること七日、一旦オルトナの町に寄ってからカトレアの町に向かったので、本来よりもさらに時間がかかってしまった。

    「ふぅ・・・・・・・・カトレアってずいぶんとのどかなところだね〜」
    「ああ、良くいえば平和なところだが、悪くいえば田舎町ってところだな」

    乗り合い馬車から降り立ったセリスとクライスは、カトレアの町の感想を述べる。
    乗り合い馬車はこの町で終点なので、そのまま引き返していく、馬車駅から回りを見渡すと、そこには一面の小麦畑が広がっていた。

    「さすがに大陸一の食料生産地、オルトナエリアなだけはあるな」
    「そうねー」
    「それじゃ、とりあえず町の方に行ってみるか」
    「ええ」

    クライス、エルリス、セリスの三人はゆったりとした足取りで馬車駅を離れ、カトレアの町の中心街へと歩いていった。



    「なんていうか・・・・・・ずいぶんと人が少ないね・・・・・・」

    時刻はまだ昼前、エルリス達は町の大通りにいるのだが、そこはずいぶんと閑散としていた。
    店はほとんどが閉まっていて、人通りも本当にまばら、普通の町なら聞こえてくるはずの人々の歓声や子供達の笑い声なども聞こえてこない。
    まぁなんというか、これ以上ないくらいに廃れてしまっている町だった。

    「これはのどかっていうレベルじゃないな・・・・・・・」
    「うん・・・・・・」
    「とりあえず、聞き込みから始めてみるかエルリス、セリスと一緒にあっちの方の店屋を頼む」
    「了解〜」

    ざっと見える範囲では、商店が2軒と、酒場が1軒、それに宿屋が1軒だけ開いていたが、そのどれもが、全く繁盛してるようには見えない。
    大通りですらこれなのだ、ここ以外の場所は一体どうなっているのだろうか。
    クライスはすぐ側にあった一軒の商店の主人に話を聞いてみた。

    「ご主人、ちょっと話を聞いてもいいか?」
    「ん?、ああ、お客さんかい、これは珍しいのぅ、わしで答えられることなら、どんぞ」

    その店の主人は禿頭の50代くらいの男だった。

    「この町は、いつもこんな感じなのか?」
    「いんや、こんなに人が少なくなったのはここ最近のことだよ、2ヶ月くらい前まではまーだ人がたくさんいたんだけっどもね」
    「なにか心当たりのようなものはありますか・・・・?」
    「そだなー、やっぱりあれだなー、この町の北の方にある大昔のでっかい遺跡に何か変な奴らが集まってきてからだろうなー、若い女の子とかみいーんないなくなっちまった」
    「北の遺跡、ですか・・・・・・」
    「ああ、あそこにはなんでも大昔の怪物が封印されてるっちゅー噂があってのぅ、町のモンは誰も近寄らんかったんじゃが・・・・・・」
    「そうですか・・・・・・ありがとうございました」

    クライスは店の店主にお礼を言って、立ち去ろうとして、もう一つ聞いてみた。

    「ところで、ご主人」
    「なんじゃ?」
    「あなた、スポーツかなにかやってらっしゃいますか?」
    「ん?・・・・・・・・・・・お、おお、わしはこれでも昔剣術の使い手としてそれなりに名を馳せたことがあっての、今もすこしやっておる」
    「そうですか」

    クライスはその店から立ち去り、エルリス達と合流した。

    「収穫はどうだった?」
    「とりあえず、この町がおかしな事になってることだけはよくわかった」
    「こっちの方でも、前はここまでひどくはなかったとか、北の遺跡に変な奴らがいるとか、そんな話を聞いたよ」
    「ああ、それは俺も聞いた・・・・・この任務けっこう大変なことになりそうだな・・・・・」

    クライス達は、ひとまず宿泊する場所を確保するために、大通りで唯一開いていた宿屋に足を運んだ。
    そこも、他と同じで、客がいる様子は全くなく、宿屋の中にある小さな食堂も、奥にコックが一人いるだけだった。

    「あらぁ〜いらっしゃい、お客さんなんてずいぶん久しぶりだわ〜」

    体格のよい、というか恰幅のよい女主人らしき人物がクライス達に近づいてきた。

    「旅人さん?それとも旅の商人かしら?あら、こっちは可愛いお嬢さん達ね」

    クライスに声をかけ、さらに入ってきたエルリス達にも笑顔で声をかける女主人。

    「ええと、はい、あちこちの街を回って色々な場所を旅しています」

    この町でおかしな事が起こってるから調査をしに来ました、なんて言ったら警戒されてまともな会話すら出来ないだろうから、そういうことにすると決めていた。
    すると女主人は破顔してエルリスの方をバシバシ叩きながら言ってきた。

    「そうかいそうかい、若いのに頑張るねぇ!ところでこの色男はなんだい?お嬢ちゃんの恋人さんかい?」
    「い、いえっ!あの、そういうんじゃありません!!」
    「あはははは!そうかい、ま、頑張りなよ!」

    そう言うと女主人は会談の方へと歩いていった。

    「ここに泊まるつもりだろう?どうせここいらで宿屋を開いてるのはここだけだからね、安くしとくよ!」
    「ああ、はい、それじゃ二人部屋一つと一人部屋一つ空いてますか?」
    「空いてるよ、案内するから付いてきな」
    「その前に一つ聞きたいことがあるんだが」

    階段を上ろうとする女主人に向かってクライスが問いかけた。

    「なんだい?」
    「この宿屋に、耳の長い、弓矢をいつも背負ってる男が泊まってないか?」
    「いや、知らないねぇ」

    女主人は考える素振りすらせず即答して階段を上っていった。

    「・・・・・・・・・・」
    「どうしたの?早くいこ」
    「ああ」

    クライスは何か不審げにしていたが、結局は階段を上っていった。





    ◆  ◇  ◆





    そして、夜、クライスは何かの気配を感じて目を覚ました。

    (・・・・・・・・・・・やはり、この町は何かあるな)

    音を立てずにベッドから抜け出し、ベッドに立て掛けてある剣を取る。
    そして音を立てずに窓際へと移動していった。

    (数は・・・・・・・外だけでも9か10、その上屋内にもいくらかいるな・・・・・・・)

    クライスは口に出さず心の中で数を数えていく。

    (1,2,3,4・・・・・・・13,14,15・・・・・・・・・45,46,47・・・・・・・)

    そしてクライスがそろそろか、と思った瞬間。

    (121,122,123・・・・・来た!)


    ―――ガシャーン!!
    ―――ボグッ!!!


    クライスの部屋の窓を突き破って現れた何者かは、その直後にクライスの剣にぶち当たって地面へと跳ね返って落下していった。

    さらに二人目が窓から侵入すると同時、入り口の扉を突き破って二人、何者かが侵入してきた。
    窓から入ってきた侵入者は、窓枠に足をかけたところを払って一人目と同じように落下していった。

    (まだいる、エルリス達は無事か?)

    クライスは長剣を抜き放ち、一人を袈裟斬りに、続く一人に斬った一人を蹴飛ばして足止め、その隙に廊下へと飛び出した。

    (一人、部屋の中に二人ずつとすると、屋内に合わせて五人か?)

    廊下には一人だけ剣を持った何者かがいたが、剣を構える間を与えずに斬り倒す。

    「んな!?え?キャー!!?」
    「うわー!だれー!?」

    直後に、エルリス達の部屋から悲鳴が上がった、ようやく目を覚ましたらしい。

    (だが、悲鳴を上げてるって事は、まだ部屋にいるって事だな)

    全速力で部屋へと踏み入る。
    そこには、六人、侵入者が四人とエルリス、セリスが体を縛られて今にも連れ去られようとしていた。
    そのうち、手前の二人がこちらに気付く、さらに先ほど足止めだけで放っておいたもう一人の侵入者がクライスの後ろから現れる。

    「うむー!ふはひふー、はふへへー(クライスー、助けてー!)」

    口に何かを詰め込まれたエルリスが叫んだ。

    「先に行け、あたしらはこっちを片付けてから行く」

    侵入者の一人がそう言うと窓際の二人がエルリスとセリスを背負って窓から飛び出した。
    これで部屋の中にはクライスの他侵入者が三人残ったことになる。

    「チッ・・・・・・さっさと片付けさせて貰うぞ」

    こいつらが何者なのか、クライスには既に見当が付いていた、先ほど仲間に指示した声、間違いない。

    部屋に残る侵入者三人の内、真後ろの一人にクライスは振り返りざまに斬りかかる。
    これは予想通り受け止められた、そこでもう一回斬りかかる振りをして足払いをかける。

    「がっ!?」

    その侵入者は驚きの声を上げてひっくり返るがそのまま放置、そこで振り返ると、ちょうど残る二人が飛び込んできたところだった。

    「!?」

    振り返るときの勢いのままに剣をなぎ払う、左側の侵入者は切り払うが、もう一人に受け止められる、これで残り二人。

    「それで、これはなんのつもりだ?女将さん」

    クライスがかけた声に一瞬剣を交差している相手が驚いていた。

    「・・・・・いつ気がついたんだい?」

    いま、クライスと剣を交えてる相手、それはこの宿屋の女主人であった、さらにクライスに足払いをかけられた相手、そっちは宿屋のコックだった。

    「怪しいとは思っていたが、ついさっき仲間に声をかけたときに確信したよ」
    「そうかい、だけど、わかったところでどうにもならないよ!」

    女主人がさらに力を込め、それと同時に後ろのコックもこちらに近づいてくる。
    しかしクライスは、

    「ふっ!!」

    かけ声と同時に前と後ろ、同時に足払いをかけた。

    「なっ!」
    「おわっ!!」

    ―――ゴツッ!

    二人は、ものの見事に空中で頭からぶつかり合った。

    「すまんな、時間がないんだ」

    そしてクライスは二人を無視して、窓から飛び降りた。





    ◆  ◇  ◆





    夜のカトレアの街、その大通りをエルリスとセリスを担いだ二人に加え、さらに六人もの人影が走っていた。

    ―――バリン!

    その物音を聞き、その隊列のうちの一人が後ろを振り返る。

    「奴ら、足止めに失敗したのか!三人はあの青髪の男を抑えろ!残りは俺と来い!」
    「ハイ」
    「はっ」

    そこにいた、合計で七人もの人影のうち、返事を返したのは、わずかに二人だけだった。
    そして三人が後ろに戻っていき、残る四人はそのまま町の郊外に向けて走って行った。





    ◆  ◇  ◆





    クライスは侵入してきた敵がなんであるか、ある程度だがわかってきた。
    最初に宿屋で襲撃してきた敵の五人のうち、人間だったのは二人だけだった。
    それ以外の三人は全て人形、もしくはそれに類する何か、魔力で動く意志のない存在であった。

    そして、今クライスの前に立つ3つの影も、そのうち2つの動きが単調すぎることからそれは人形であることがわかる。

    「邪魔だって、言ってるだろ!」

    一瞬にして、人形の二体が斬り倒される。
    続いてやって来たもう一人、そちらの方は動き方から見て人間のようだ。

    「ハァッ!!」

    ―――ガキィーン!!

    クライスの長剣とそいつの剣とが交差し、大きな音を立てる。

    「・・・・・・・・お客さん、少ーしばかり、ここで足止めさせてもらうだよ・・・・・・・・・!!」
    「ッ!あんたは・・・・・・・・!」

    クライスと切り結んでいる相手、それは昼頃、クライスが街のことについて尋ねた露天商の老人であった。

    (ちっ、こうなると、街そのものが丸ごとどうにかなっているとしか、思えないな)

    この老人、予想通りいくらか剣の覚えがあるようで、人形のように簡単に斬られてはくれなかった。

    ―――ガキィン!
    ―――キン!
    ―――ガン!

    「ほほほ、お客さん、やるでねぇが!」
    「こっちとしては、それほどあんたに時間をかけてられないんだがな!」
    「いっぱいかけてもらうだよ!」

    リーチは短いものの、背が低い老人はクライスの懐に入り込みやすく、ヘタをすればクライスがやられかねない状況だった。

    (くっ、これ以上は、時間をかけられないな・・・・・・・・しかたない!)

    クライスはその場から大きく後ろに跳んだ。

    「ほ、どうしただ?あの娘さん達を諦めっか?」
    「いや、そこをさっさ通させてもらうことにした」
    「ほ?」

    クライスは長剣を右手に、腰に差した短剣を左手に、二刀流と言うにはお粗末だが、擬似的な二刀流になりきる。

    「・・・・・・・・・・・・・・ハァッ!!」
    「早い!?」

    瞬く間に両者の距離を零にしたクライス、それに驚いた老人は思わず剣を突き出す、クライスはそれを左の剣で受け止め、一気に右手剣でなぎ払った。

    「ぐおっ!!」

    老人は直前で後ろに跳び下がったせいか傷は浅い、だがここを突破するには十分だ。

    「じゃあな!」
    「っ待て!」

    クライスは傷を抑えてうずくまる老人を無視し、大通りを駆け出した。





    ◆  ◇  ◆





    「・・・・・・・・・・!あちらに向かった三人が突破されたようです!」
    「役立たずどもが・・・・・・!」
    「ここは私が受け持ちます、あなたはその二人の娘を遺跡に運んでください」
    「ああ、任せた」

    そして、エルリス達を運んでいた四人の内、一人だけがそこに残り、残る三人はそのまま走って行った。



    一人残されたそいつは、大通りに佇む。
    そして遠くに、こちらに向かう人影を見つけると、懐から杖を取り出し、構えた。

    「予想より早い・・・・・・・・!」

    そして杖を振り下ろした

    「『召喚』!」

    すると、四体の土人形ゴーレム、これまでの人型ではない大型の、それを見た人間がすぐに恐怖を覚えるような凶暴な奴が出現した。

    「すー・・・・・・・・はー・・・・・・・・・すー・・・・・・・・・・・・行きますっ!」

    杖を前方に突き出す、すると三体のゴーレムがその人影目掛けて突進していった。





    ◆  ◇  ◆





    「・・・・・・・・・人形遣いドールマスターか、厄介な・・・・・・!」

    クライスが大通りを走っていると、たった一人で待ちかまえる敵がいた、それはつまり相当自分の力に自信があるということだと判断してはいたが。
    ゴーレムが四体、普通の相手じゃない。

    (どうする?全部相手にするほどの余裕はない、人形遣いは術者にそれほどの能力がないが、それは本人もわかっているだろう)

    前方にいるゴーレム四体のうち、三体がこちらに突き進んできた。

    ―――ブオンッ!
    ―――ズドゴッ!

    ゴーレムの巨大な拳が飛んできて、地面を陥没させる。
    クライスはそれを跳んで回避し、その腕の上を駆け上り、

    ―――ガキッ!

    ゴーレムの頭を斬ってみたが、予想通り全くダメージがない。

    「ちっ!」

    肩を蹴って別のゴーレムの頭へ、そこからさらに跳躍しもう一体のゴーレムを飛び越える、その場からすぐさま駆け出し術者を目指して駆け抜ける。

    「行け!」

    術者のそばのゴーレムが動き出す。
    さらに後ろの三体もクライス目掛けて動き出した。

    (四体を同時に操るのか・・・・・・かなりの術者だな)

    並の人形遣いなら1〜2体を同時に操るのが普通だ、それが四体となるとかなりの技術を要する。

    (だが、どれだけゴーレムの扱いがうまくとも、術者本人さえ抑えてしまえば!)

    目の前に迫った最後の一体のゴーレムが拳を振り下ろすが、その隙間を縫うように走り抜け、ようやく術者までの道が開けた。

    (しばらく、眠ってろ!!)

    クライスはあっという間に術者との距離を縮め、剣を振りかぶる。

    ―――ガキン!
    ―――ガッ!
    ―――キン!

    クライスの剣を杖で受け止め、さらに突き出してくる、それをクライスが避け、長剣で斬りかかるが回避される。

    ―――これは、予想外だ。

    (術者が、並の戦士より強いのかよ!!)

    「ふっ!!」

    杖を棒術の要領で突き出し、薙ぐ、クライスは突きを回避し、薙ぎ払いを剣で受け止める、さらに右足の蹴りと杖の突きが同時にクライスを襲う。

    「くっ!」

    思わず、後ろに数歩下がってしまう、すると、

    ―――ズドゴ!
    ―――ズドゴ!
    ―――ボゴン!

    4体ものゴーレムが一斉に殴りかかってくる、それを回避し、前に出るとすかさず術者の杖がクライスを狙う。

    (・・・・・・・・こ、これは、まずい!)

    この状況を招いたのは自分とはいえ、挟み撃ちを喰らう格好になってしまった。

    (どちらか一方でも、さっさと片付けなきゃならんが、このままだと・・・・・・・・!?)

    しかしその直後、思わぬ援護がクライスを救うことになる。

    ―――キラン
    ―――ズドッ!ガスッ!!

    どこからともなく、銀色の矢が二本飛んできて、ゴーレム二体に突き立ち、すると、そのゴーレムはただの土の塊と化して崩れ落ちていく。

    「ちっ、また奴か!撤退します!」

    人形遣いの術者が、そう叫び、残る二体のゴーレムが、術者を守るように移動する。
    さらにもう一体ゴーレムに銀矢が突き立ち、土塊へ。

    「な、待て!」

    慌ててクライスがその術者を止めようとするが、しかし最後のゴーレムに銀の矢が突き立ち、土塊と化したとき、そこに術者の姿はなかった。

    「・・・・・・・ちっ!」

    クライスが舌打ちし、その場にそのまま佇んでいると、一人の男がクライスの元に歩み寄ってきた。

    「久しぶりだね、クライス」
    「とりあえず、状況から説明してくれるか?」

    その男は、先ほど銀の矢を放ってクライスを助けた人物、エルテイだった。


引用返信/返信 削除キー/



トピック内ページ移動 / << 0 >>

このトピックに書きこむ

Pass/

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

- Child Tree -