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■34 / inTopicNo.1)  〜天日星の暖房器具〜
  
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/09(Tue) 00:39:38)
    2005/02/03(Thu) 02:07:32 編集(投稿者)

    〜第一節〜
    <宿命の日>


    「果たし状は送ったわ・・・。」
     もうすぐ日が暮れようとしている頃、学校の屋上には、一人の少女姿があった。
    赤い髪に赤い目をした、特徴的な容姿で、少し幼さも見られる。
    その赤み帯びた髪は、乱雑とも思えるほどめいいっぱいに伸ばされていたが、
    周りに不快感を与えるようなものではなく、むしろ自然体で、景色に溶け込んでいる。
    彼女の名はユナ・アレイヤという。
    15歳の頃にすでに一般的な炎系統の魔法を全て習得し、学校でも1、2を争う実力の持ち主と云われている。


     ユナは、今朝方、彼女の友人であり宿命のライバルである、エルリスに果たし状を出している。
    差出方法は、古風にもエルリスの下駄箱に手紙を入れておくというものだった。

    『月が満ちる今宵、古より定められし運命のもと、
    どちらが、最強であるか決着をつけましょう。
    放課後、学校の屋上にて貴女をお待ちしています
                      ユナ    』

     エルリスは、ユナの家と因縁の深いハーネット家の娘で、学校でも少々問題視されるほど目立つ存在である。
    彼女はユナと対峙するように、水色の髪に青い瞳をしていて、意思のしっかりしてそうな聡明な顔立ちをしている。
    彼女もユナと同様に後ろに髪を伸ばしているが、ユナほどめいいっぱい伸ばす事はせず、きちんとまとめられている。
     

     アレイヤとハーネットの長子にあたる者は、500年に一度訪れる、満月の夜に命をかけた決闘を行うことが義務づけられている。
    8000年もの間、破られたことに無い取り決めではあるが、このことは公にはなっておらず、隠密のうちに行われている。

     
     屋上に一筋の風が吹く。
    風はユナの髪をたなびかせ、何事も無かったように過ぎ去って行った。
     ユナはもう一度つぶやく・・・
    「果たし状は送ったわ・・・。なのに・・・なのに(じわっ)、なんでエルリスは来てくれないの〜!(ぐすん)」
     季節は変わり、まもなく冬が到来しようとしている。
    再び屋上に一筋の風が吹く。彼女がここへ来てから一体どれだけの風が通過して行っただろうか。
    風はユナの髪をたなびかせ、何事も無かったように過ぎ去って行った。


     一方そのころ、エルリス邸にて・・・
    「う〜〜〜〜〜〜〜(ゴホゴホ)」
    「お姉ちゃん大丈夫?」
     エルリスは、風邪を引いて寝込んでいた。
    「うん・・・明日には直ると思うよ・・・私の独断と偏見がそう言ってるわ。」
    「独断と偏見・・・。」
    「そうよ。そして、明日にはきっと元気に登校してやる!(えっへん)」
    「もう・・・無理しないでよ・・・。」
    「分かってるわよ。」
     部屋は、セリスの愛情でいっぱいの暖かい空気で包まれていた。

引用返信/返信 削除キー/
■35 / inTopicNo.2)  〜第2節〜<いつも通りの朝>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/09(Tue) 00:42:08)
    2005/02/03(Thu) 02:11:19 編集(投稿者)


    〜第2節〜
    <いつも通りの朝>

     エルリスは、今日もすがすがしい朝を迎えることに成功した。
    彼女は、日ごろの行いが良ければ、神からこの清々しい朝を褒美として貰えると信じている。
    朝が清々しいと、一日が晴れ晴れとしてくる。
    だから、エルリスは清々しい朝が大好きだ。
    そのために彼女は毎日良い行いをし続けようと努力している。
    独断と偏見という、彼女にとっての絶対無比の基準の上では。


     セリスは、今日も姉と自分の分の朝食を用意していた。
    今日の朝食は彼女自慢の料理の一つである、サニーサイドアップ〜セリスすぺしゃる〜。
    病み上がりの姉を気遣い、出来る限りの御馳走を・・・と一身に願って作られた食事である。
     ところが・・・準備が完了し、あとは食べるだけだというのに、
    当の本人である姉を中々見つけることが出来ない。
    大抵の部屋は探してみた。でも、見つからない。
    でも、大丈夫だ。そういう時、エルリスは決まっている場所があるから。




     狭いながらも温かみのある家の屋根の上で、エルリスはのびのびと日光浴をしていた。
    セリスは、そっと姉の横顔を見つめる。姉のそれは天使のように思えた。
    気味地よさそうな姉をそっと眺めながら、セリスはふと思う。
    『いつまでも、こうしてのんびりしていられたら・・・』
    しかし・・・こんな平和な時間が、いつまでも続くわけではないのはよく理解している。
    ・・・本当にこれだけは手放したくない・・・・・・
    かなわない夢、いや・・・叶えるわけには行かない夢・・・



    だって、朝食が済みしだい、2人は学校へと発たねばならないのだ。
引用返信/返信 削除キー/
■37 / inTopicNo.3)  〜第3節〜<ユナさんご立腹>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/09(Tue) 17:18:21)
    2005/02/03(Thu) 02:15:26 編集(投稿者)

    〜第3節〜
    <ユナさんご立腹>


     エアーシューターという名の携帯式の移動手段がある。
    見た目は、スノーボードと同じであるが、これは雪の上を滑るのではなく、空気の上を滑る。
    そのスピードはおおよそ20〜30キロメートル/時間なのだが、
    動力に使用者個人の魔力を用いているので、使用者の魔力とエアーシューターのスピードはある程度比例関係にあった。
    開発者としては、平均的な魔力を計算して作り、安全性には万全を規したつもりだったのだが、
    一部、尋常になく高い魔力を行使できる者(例えば、エルリスとか・・・)が、
    時速200キロメートルオーバーで使うものだから、エアーシューターは学校内で問題視され、
    校則で平等に全校生徒みな使用禁止という処置がとられた。
    生徒側は、これに対し相当の不満があった。そもそも一部生徒(てか、エルリス)が、暴走しているだけで、
    大抵の生徒は、けして危険な行動をとりたくてもとれないし、完全なとばっちりだったからである。


     
     朝をのんびり過ごし、結局遅刻決定の時間帯に出発したエルリスとセリスは、
    問題のエアーシューターに乗って、時速360`で学校へと向かっていた。
    エルリスが操縦し、セリスはエルリスにつかまっている形である。
    こうすれば、高速の電車で1時間半かかる距離が、僅か23分に短縮される。
    遅刻どころか、余裕で学校にたどり着く計算であった。
    つまるところ、エルリス一人のために作られた校則は、エルリス一人が違反するため、事実上無意味な縛りだといえた。
    よい行いをする事を目指しているはずなのに、堂々と校則違反をする彼女にもそれなりの正義があった。
    罪の重さが
    遅刻>>校則違反
    なのである。
    『>>』は極めて差が大きいとき使われる不等号で、少なくとも1000倍以上の違いがると思って差支えがない。
    『遅刻なんて、毎日、毎日、熱心に授業に挑まれている先生に対して失礼じゃない。』
    その罪に比べれば、校則違反などとるに足らない罪だというのである。
    もっとも、遅刻はしないが別に授業を熱心に聴くわけじゃない。むしろ居眠りしていることが多い。
    だって、つまんないし・・・。
    なお、この校則は操縦者のみを対象にしているので、セリスは校則違反にならないし、
    そもそもエルリスには、家を早めに出るという気が毛頭無い。



     エルリスはセリスの前ではやさしいお姉さんなのだが、どうも他人には容赦が無い。
    「エルリスぅ〜!!!なんで、来なかったの!どんな大罪をしでかしたか判ってるの?」
     昼休み早々、ユナがエルリスを半泣きで問い詰めてきた。
    ユナが問い詰めるのは、昨日の決闘をすっぽかしたことに対してである。
    もっとも、エルリスにしてみれば、主語が抜けているので何のことかわからない。
    でも、一応受け答えはしておこうと感じたらしい。
    「・・・。だって、めんどくさかったから・・・」
     ユナが凍る・・・。
    ・・・。
    ・・・。
    ・・・。
    ・・・っ(じわ)
    「そんな・・・8000年も前から続く宿命だから、人生最後のつもりで待ってたのに・・・手紙もきちんと丁寧に書いたし・・・」
     どうやらショックが大きかったようだ。この手紙にかける意気込みは相当大きいようだ。
    「あ、手紙?そういえば今朝下駄箱に入っていたわね。」
     とりあえず、場の湿った空気を受け流す形で、
    エルリスは未開封の手紙をポケットから取り出した。
    「って、めんどくさいって、そこから!?(怒)」
     それは、むしろ逆効果だったのではないだろうか・・・
    ユナは、たしかに立ち直った。しかし、今の彼女を支配しているのは、鬼神のごとき怒りである。
    ところが、エルリスはあまり気にした様子を見せていない。
    「まぁ、待てユナ。今から読んであげるから。(どれどれ)」 
    「・・・。」
    「・・・。」
    「・・・。」
    「・・・ふむふむ。」
    「ユナ。これ、今からじゃ間に合わないんじゃない?」
     エルリスにとっては当然で、ユナにとっては信じられない感想をもらした。


引用返信/返信 削除キー/
■40 / inTopicNo.4)  〜第4節〜<歴史の影>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/10(Wed) 16:11:29)
    2005/02/03(Thu) 02:18:35 編集(投稿者)

    〜第4節〜
    <歴史の影>


     この世界では満月の夜は500年に1度しかやってこない。


    「たしかに・・・当日に誘った私も悪かったよ・・・もっと早くに出しておけばよかったんでしょ?」
     ユナは、ため息をついて言った。何かと高いテンションを維持していた彼女にとって、
    今のテンションは、3年に1度あるかないかの落ち込みようで、普通の人の換算したら3日間は寝込んでいる。
    ユナのアレイヤ家と、エルリスのハーネット家では、8000年も前から一つの決まりごとがあった。
    『500年に一度、満月の夜に、両家の長子同士で決死の戦いをし、必ず勝利者を決めること。』
    いわゆる生死を賭ける決闘である。つまり、本来であれば、翌日の朝を迎えることが出来るのは両者のうち一人だけであった筈で、
    引き分けの場合でもその場合は二人ともこの世にいないだけの話で、二人とも生存していることは理屈上ありえない事である。
    ユナには義理の兄がいるわけなのだが、その義兄はアレイヤの血統ではないため対象にならない。
    これは、8000年間一度も欠かされたことがない行事であり、歴代の当事者は幼いころから覚悟していたことである。
    もちろんユナも覚悟を決めていた。決闘場所は、親の代から何度も開かれている会合で決められていたし、ユナもそこで待っていた。
    しかも、念のため手紙だって出したのである。
    それなのに・・・結果は、この行事を欠かしてしまったのだ。
    8000年間の続いた歴史を自分の代で欠けさせてしまったのである。これでは先祖にも祖先にも合わせる顔がない。
    「ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(ず〜ん)」
     ユナは相変わらず落ち込んでいある。
    そんなユナの様子に心を痛めたのか、エルリスはそっとユナの肩に手をのせ、
    「気にしないで。私が許してあげるから。」
     と、落ち込むユナを慰めた。
    「エルリス・・・うん、ありがとう。その言葉だけでも私は救われ・・・?????
    あれ?もしかしてエルリス。今回の件、私が全面的に悪いみたいなこと言ってない?」
    「ええ。あなたが全面的に悪いわ。」
    「ちっ、違うって!これは、私の問題じゃなくて両家の問題なの!!本来であればエルリスは、私の誘いがなくたって来るべきだったの!
    てか、絶対全面的に悪いのは、エルリスなんだから!」
    「そんなの私は知ったこっちゃ無いわよ。無駄に命を削るような行事、今の社会風潮にあわないわ。
    第一、そんな事をしたら負けるの決まって私だもの。
    美人薄命っていうでしょ?私があなたより長き生きられるわけないの。
    それに、あれって500年の周期でしょ?そんなに間があったら忘れるに決まってるじゃない!」
     エルリスはやれやれとため息をついている。完全に開き直っていた。 
    「美人薄命・・・それはどういう意味ですか(ぷるぷる)
    ???って、・・・決闘のこと忘れてたって?どういうつも・・・(もぐもぐ)」
     ユナが叫びだそうとしたところ、突然エルリスに口を塞がれた。
    文句をいっぱい言いたいところなのに・・・
    『しっ・・・静かに』
     エルリスが小声でユナを静止させる。突然の変わりようにユナは驚きを隠せないでいた。
    『やはり監視されているわね・・・。』
    『監視???』
    『そうよ。どうやら決闘の行事には監視団がいるようね。現在、両者が無傷で生き残っている。
    普通この場合、監視団の連中は昨日戦っていないのではないかと、あらぬ疑いをかけるでしょうね。』
    『・・・。あらぬじゃなくて本当に戦っていないんだけど・・・。』
     ユナは盛大にため息をついた。
引用返信/返信 削除キー/
■43 / inTopicNo.5)  〜第5節〜<レイヴァン様登場>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/12(Fri) 17:56:33)
    2005/02/03(Thu) 02:37:35 編集(投稿者)

    〜第5節〜
    <レイヴァン様登場>


    「ユナ、今すぐここから逃げるわよ!」
     監視しているものたちの視線はエルリスによると、
    『これは私に対する羨望のまなざしや、憧れの視線、美人な私に対する同姓の嫉妬のこもった視線と、いう類ではないわ。』
     とのこと。
    言い回しはともかく、状況判断や分析する能力がエルリスは、優れていることをユナも認めている。
    その彼女が顔をしかめる程の事態は普通ではない。
    「わかった。エルリスの言うとおり逃げた方がいいと思う。午後の授業どころじゃないし。」
    「理解したようね。さっそく2人で逃げるわよ。」
     エルリスの言うことはおそらく正しいのだろうとユナは思った。
    監視団は、間違いなく当事者である自分たちを見張っている。
    だから、自分たちがここから逃げる必要があるのだろう。
    でも・・・
    「逃げる前に、兄様に事の次第を伝えておかないと。」
     そう言ってユナは、上の階へ上ろうとしていた。この学校は、学年が上がるごとに上にクラスルームがある。
    エルリスとセリスは姉妹であれど双子であるから同じ階層にいる。
    しかし、7歳年上のユナの義兄は、7階上の階にいることになる。
     この学校は、いわゆる小学校から大学までがくっついているタイプの学校で、
    田舎などに見られるベーシックタイプの学校である。
    学園都市や、都会に行けば、魔術を学ぶための学校、剣術を身につけるための学校、歴史について研究する学校など、
    多種多様な学校があり、3年ごとに色々な属性の学校に転向できる制度になっているが、
    こうした田舎では、人数が少ない事から、そのようなレパートリーは無く、一種類しかない。
    「待ちなさい。その兄様は、研究のため下宿中のはずでしょ!」
     エルリスはえらく慌ててユナを制止する。このことは学校中の誰もが知っている。
    だって、ユナが『さびしぃ〜よぉ〜〜〜さびしぃ〜よぉ〜〜〜さびしぃ〜よぉ〜〜〜さびしぃ〜よぉ〜〜〜』
    と、義兄がいなくなった3日前から、学校のあらゆるところで唸っていたからである。
    「そうか・・・じゃあ隣町までちょっと行ってくるね。」
     ユナは、あらぬ方向に考えを改めた。
    「ダメよ。今、一人で行動するのは危険だわ。」
    「でも・・・最愛の妹が、突然居なくなったら兄さん心配するだろうし・・・」
    「私もセリスと逃げたいけど我慢するんだから。あんたも我慢なさい。」
     わけがあって慌てていたエルリスは、捲くし立てるような勢いと慌てぶりを乗せて、ビシッとユナに向けて指を刺した。
    しかも、もはやユナの天然ボケに突っ込む余裕もなかった。
    「ハハハハ!!!」
     その時、突如背後から謎の男の笑い声飛んできた。
    しかも、その声はエルリスのもっとも恐れていた声であったりする。
    今は昼休み、この学校の生徒は例外なく食い意地が張っているので、
    よほどのことがない限り全員が食堂に出向いている時間帯だ。
    笑いの主が普通であるならば、自分たちのようにここに居るわけがない。
    エルリスだって、ユナが無理やり止めなければ食堂で至福の時を過ごしていたはずである。
    「フフフフ・・・事情は理解した。だが安心しろユナ。最愛の兄はここに居るぞ!」
     もはや説明不要の謎の男は高々と宣言した。エルリスは、
    『レイヴァン・・・こいつは・・・・・・』
     と、ただただ頭を抱えているだけだった。正直エルリスは、ユナの義兄レイヴァン・アレイヤの事が苦手であった。
    「なんで、あんたがいるのよ。」
     エルリスは、妹のピンチを白馬のように駆けつけてくれたんだと
    自己陶酔して涙を流しているユナを無視して少しイライラ声で言った。
    「ああ、俺のシックスセンスがここに来いと言って聞かなくてな、案の定危険な状況のようだな。」
    「フン。まがいものの第六感があれこれ言うわけないじゃない。」
     エルリスは、レイヴァンの軽い発言に対し、氷柱で貫いてやるくらいのつもりで返した。
    エルリスとレイヴァンは、互いに互いの秘密を握っている。
    今回、レイヴァンがここへやってきたのはシックスセンスに導かれたという偶然の産物ではなく、
    計算されつくした出来事であった。なぜならば、レイヴァンは研究のために隣町になど本当は行っていないからである。
     エルリスの言葉に意味を感じ取ったレイヴァンは苦笑して言った。
    「ハハハ・・・お見通しか。どうりで昨夜来なかったわけだ。」
    「あれと、これとは別よ。あんたが何しようと勝敗は変わらなかったはずよ。」
     エルリスは、レイヴァンを睨んでいる。もともと彼女と彼は仲がよくない。
    「おっと・・・睨まれても困るな。君と私は手段が違えど目的は同じなのだからな。」
     レイヴァンは、全てお見通しなのはエルリスだけではないと含みを持たせ、言い返した。
    その口調や見た目は『What?』という感じでとぼけているが、目は据わっていた。
    それは、自分の義妹を道連れにすることで、セリスに害がないようにもっていこうと考えたエルリスに対する憎しみの気持ちがこもっていた。
    エルリスと彼は、2年も前から互いを監視する状況にある。
    エルリスにとっての本当の敵は、決闘する宿命にあるライバルのユナではなく、
    レイヴァンであるといって過言ではない。
    そんな彼には、エルリスの考えていることなど用意に読み取れる。
    そう、エルリスがユナをつれて遠くへ逃げようとしたのは、助かるためではなく、
    ユナを道づけにしてこの場をあとにすることによって、セリスから脅威を遠ざけるという目的のためであった。

引用返信/返信 削除キー/
■49 / inTopicNo.6)  〜第6節〜<二人の守護者>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/16(Tue) 01:58:46)
    2005/02/03(Thu) 02:51:53 編集(投稿者)

    〜第6節〜
    <二人の守護者>

     エルリスとレイヴァンの長い沈黙が続く・・・。
    互いにじっと睨み合ったまま動くことは無い。
    ユナは、ただならぬ二人の雰囲気に、息を呑んでいた。
    二人の間には、少し前のうんざり感は無く、すでに殺意しかなかった。
    ユナは、不安で縮こまっていた。
    『お願いだから、仲直りして・・・』
     


    「エルリス・ハーネットだな。君の妹は預かっている。助けたければ、すぐに自宅まで戻るんだな。無論一人でな。」
     沈黙は意外な方向から打ち消された。
     声は、先ほどから隠密に監視している筈の男から発せられたものだった。
    「なっ!?」
     エルリスは驚愕した。
    まさか、この状況でセリスを人質に取られるなんて、考えもしなかった。
    それに、ユナと同時に呼びつけるならともかく、自分だけが呼び出されたことに違和感を感じた。
    監視員は間違いなく、自分とユナの決闘を監視するものと見て間違いない。
    それならば自分ひとりだけが呼び出されるのは不自然に思える。
    ただ、セリスが人質に取られているだけであることは、エルリスにとっては安心する材料であった。
    セリスの秘密は、まだバレていないようだ。
     

     用件を伝え終わると、監視の男は去っていった。
    もはやエルリスは逃げないと踏んでいるのだろう。
    「エルリス・・・大丈夫だよ。セリスちゃんはきっと無事だから。
    私たちもこっそり、後でついていって、助けに入るから。私たち2人が揃えば敵はなしだよ。」
     ユナは、エルリスを励ますように少し笑顔を作って言った。
    ユナは、仲直りする機会が生まれたんだと思っていた・・・が、またもや意外なところから、意外な言葉が発せられたのだ。
    「いや・・・。ここは妹の安全を最優先にするなら、君が一人で行くべきだ。」
     レイヴァンは、さらっと言った。それは、別れの意味を含めた冷淡な言葉だった。
    「えっ・・・兄さん・・・?」
    「安心しろ、ユナ。エルリスは『長子』だ。相手に遅れをとることは無いだろ。」
    「でも・・・」
     ユナには2つの引っかかることがあった。一つはレイヴァンの冷たい態度。
    そして、もう一つはエルリスの魔力について。
     エルリスは、長子であるだけでなく、これでもかってほど大きな魔力を行使しているし、学校の成績も良い。
    何よりも、常にハーネット家の宝剣、エレメンタルブレードを所持している。
    だから、間違いなく、自分と同じような高い魔力を有していると思っていた。
    魔力の高さは、握手した時など、互いに触れた時に感じられることが多い。
    彼女の手が自分の唇に触れたとき、ユナはエルリスの魔力を感じた。

    エルリスの魔力は、常人に換算しても、気のせいかもしれないが、


          それほど高いものではなった。


     そんなユナの困惑を他所に、エルリスは淡々としていた。
    「いいわ。ユナ。彼の言う通りよ。私の目的はセリスを守ることだから。
    だけど、そこの義兄さん。もう・・・これは貴方の思っているような簡単な話ではないわよ。」
     エルリスは、その場にはき捨てるように言ってから、学校を飛び出した。
    敗者の負け惜しみとも取れる言葉でったし、精一杯のいやみにもとれた。
    しかし、それは真実を物語っている。エルリスに、勝ち目は無い。
     エルリスが飛び出した方向をしばらく見つめたあと、
    「まだ・・・分からんさ。可能性は・・・」
     レイヴァンはぽつりとつぶやき、エルリスの去った方向と逆の方向を向いた。


     エルリスの予感は当たり、エルリスが去ってまもなくユナとレイヴァンに対し監視員の総攻撃が加えられた。
    相手がそれほど強くなかったため、傷一つ負うことなく逃げることが出来たが、
    彼女らの身の安全はもう保障されないことを否応なしに突きつけられる形となった。
引用返信/返信 削除キー/
■50 / inTopicNo.7)  〜第7節〜<旅の始まり>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/17(Wed) 04:45:20)
    2005/02/04(Fri) 12:55:05 編集(投稿者)

    〜第7節〜
    <旅の始まり>

    『あいつはよく知っている。私たちのことも調べつくしてある。
    私たちの親ですら気がつかなかった真実・・・そして未だに、未知の監視役ですら知らないことを。』
     エルリスは、セリスがつかまった事を知り、急いで帰路についていた。
    もしも真実がばれれば、命が無いのは自分ではなく、セリスの方である。
    『私も彼も願いは同じ・・・妹を守ること・・・。
    だから、私は今この立場に身を置き、あいつは常に影からユナを守っている。』
     レイヴァンもエルリスも、同じだった。ただ、お互いの立場は違った。
    エルリスのレイヴァンもこの8000年も続く両家の戦い慣習は、
    どのような戦い方であれ、どちらかが一方の家の長子が死ねば型がつくと思っていた。
    だから、レイヴァンは、あの満月の夜・・・屋上の影で私を影打ちしようと待ち構えていた。




    「研究に出かけたの。どういう風の吹き回しかしら。」
    「そうなんだよ〜。いままで私をおいてどこかへ行っちゃうなんて無かったのにぃ〜。」
     宿命の決闘日から数えること3日前。ユナがエルリスにレイヴァンが出かけたことを告げてきた。
    あの重度のシスコンであるレイヴァンが、ユナを置いて出かけるなんてめずらしいと正直に思った。
    でも、どちらかというと決闘日を3日後に控えているというのに、平然と話しかけてくるユナの神経におどろいた。
    「さびし〜よぉ〜〜〜〜。ひどいよぉ〜〜〜。(え〜〜ん)」
     この超重度のブラコンのユナは、こうなると誰にも手がつけられない。
    同情なんかしたら、このあと永遠とユナに付き合わされることは明白だった。
    それならば、いっその事、より大きなショックを与えて突き放した方がいい。
    「ユナ。あまりレイヴァンさんを困らせてはダメだよ。」
     あいつに向かって、さん付けなのは鳥肌が立つくらいいやだったけれど、もう一息の辛抱。
    「あの人は、きっと恋人ができたから、ユナから離れたかったのよ。
    そうやって一々付きまとっているユナがいたら、きっと大切な恋路を邪魔されると思ったのね。」
     ユナの顔が面白いくらいハッキリと固まった。かなりショックだったようだ。
    「あ・・・う・・・・・・。」
     


     今回の会話はそれで終わった。そして、決闘日翌日までエルリスとユナは一言も互いに会話していない。
    ユナとの会話はエルリスにとってどうでもいいものが多い。しかし、正直、あのレイヴァンの行動は謎だ。
    どこか不吉なものを、エルリスの第六感は感じ取っていた。
    「調べる必要はあるわね。」



     エルリスは、その日早退して、ユナの言う隣町までエアシューターを飛ばして行ってみた。



    レイヴァンが研究していることといえば、古代の戦争についてだったと思う。
    8000年前に起こっていたという、血で血を洗う悪夢のような戦争と聞いている。
    あの、お調子者がなんであんな暗い話しを研究しているのか、正直そのギャップに驚いてはいるのだけれど、
    以前、研究室を覗いた時の彼の表情は、別人のように真剣だった。



    「ふう・・・。ここね。」
     エルリスはユナから聞かされたレイヴァンのいる町に着いた。
    詳細な場所を教えてくれなかったらしく、町のどこにいるかは分からないが、それほど広くないのですぐに見つけられると思う。
    「すみません。この男を知りませんか?」
     エルリスは、この町で一番大きな資料館に訪ねてみた。現場検証しようにも古代大戦時の名残など探し出せるわけではない。
    レイヴァンがいる可能性があるとすれば資料館くらいだろう。
    この町で古代大戦に関する記述がある可能性があるのはここくらいだと思う。
    「いいえ。見ていないです。よろしければアナウンスを流しましょうか?」
     静かにしておくことが大切な資料館にも関わらず、呼び出しのアナウンスするサービスがあるのはどうかとおもうが、
    あえてここは流すことにした。
    「いえ。では、質問を変えます。ここに8000年前の古代大戦の資料はありますか?」
    「ないですよ。私も以前に探したことがあるのですが、この町にはどこを探してもその資料は無いんですよ。
    あるとすれば、隣町くらいですね。」
     チェックメイトだ。間違いなくレイヴァンはここへは来ていない。



     それから、エルリスがレイヴァンの行く先を探し出すのにそれほど時間がかからなかった。



    『アルス・ユークリッド』おそらくこの名を知っているのは、レイヴァンを除けばユナとエルリスだけだろう。
    レイヴァンが、アレイヤ家の養子として現われる前に名づけられていた本当の名前。
    ユークリッド家の勇者として、昔から受け継がれた名前である。
    レイヴァンはお調子者でへらへらしているが、その実力は勇者の名にふさわしいものである。
    全ての系統の現代魔法を全て習得し、剣術も超一流。その他、槍や弓にも精通している。
    エルリスには古代魔法といわれる、現代魔法より強力な失われた魔法を操る術があるが、
    もし仮に古代魔法が使えなかったとしたら、レイヴァンとエルリスではかなりの実力差が出ることであろう。



     エルリスは、自分の町の隠れ家的宿舎で、『アルス・ユークリッド』の名前をみつけた。
    この宿舎を拠点にしてなにやら動いているのは明白だ。
    エルリスは、宿命の相手であるアレイヤ家の情報をほぼ全て握っている。
    戦いをスムーズに終わらせるためには、情報が必要不可欠だったからだ。
    調査方法は、もっぱらユナを酔わせて聞き出すとか、家にお邪魔した時に家捜しするといった方法ではあったが、
    エルリスの明晰な頭脳にかかれば、それだけでも十分な情報を得ることができた。
    むしろ露骨に探せばレイヴァンやユナが警戒しただろう。
    情報から推測するに、レイヴァンが『アルス・ユークリッド』の名を冠するということは、
    ユナの守護者という本来の役目を果たす心構えでいるということだ。




     私があの場に行けば、間違いなく破れ、死ぬことになっただろう。
    それでも、自分は屋上へ行くべきだったと思う。
    『もともと私がユナに勝てる見込みなんて無かったし、私が死んでもセリスは守れる。』
    『だから・・・彼は、私に潔く『死ね』と無言で言っている。』 



     その日、エルリスはセリスに最後の別れを告げ、戦地に赴く予定であった。
    セリスと別れるのは、本当についらいことだった。
    だから別れの挨拶をしようとしたとき、精神的に衰弱し、自分の体の抵抗力は著しく下がった。
    それが、悲劇を招いた。
    自分の体に巣食う氷の精霊『フリード』は、この期を逃さず一気に体を侵食し始めたのだ。
    それにすぐに気がついたエルリスは、咄嗟に体の体温を上げることで、精霊の動きを鈍化させた。



    「う〜〜〜〜〜〜〜(ゴホゴホ)」
    「お姉ちゃん大丈夫?」
     エルリスは、風邪を引いて寝込んでいた。
    「うん・・・明日には直ると思うよ・・・私の独断と偏見がそう言ってるわ。」
     エルリスは、すでに精霊の侵食を食い止めることに成功していた。脅威は去ったといってよい。
    しかし、精霊の侵食は防げたが、ウイルスの進入を許してしまい、結局風邪を引いてしまったのだ。
    「独断と偏見・・・。」
     セリスが、笑顔で汗をたらしている。そんな表情がエルリスにはおかしく思えた。
    「そうよ。そして、明日にはきっと元気に登校してやる!(えっへん)」
     エルリスはVサインをして見せた。
    「もう・・・無理しないでよ・・・。」
    「分かってるわよ。」
     部屋は、セリスの愛情でいっぱいの暖かい空気で包まれていた。
    エルリスは、この空気にあまえていたかった。



    「姉さん!!」
     セリスは姉が来たことをうれしくも悲しい複雑な表情で迎えた。
    セリスは結界に閉じ込められているだけで、特に外傷は無いようだ。
    それは、エルリスにとってはうれしい材料だった。
     一方、セリスの方は気が気でなかった。
    相手は、かなりの戦闘のエキスパートが5人。
    いくら最強と信じている姉であっても、勝てるような人数ではない。
    「セリス。待っててもう少しで開放されると思うから。」
     セリスに少し微笑みを返すと、すぐにこわばった顔に変わり、
    にらみつけるようにエキスパートたちを睨んだ。
    「一応聞くわ。貴方たちの用件は何?」
     エルリスは落ち着いていた。それが、セリスには不可解だった。
    「おまえの死だ。」
     相手は冷たく言い放った。『命を貰い受ける』とかそういう次元の話ではないようだ。
    「私が死ねば、セリスは無傷で開放してくれるのかしら?」
     エルリスは相手の言葉を予測していたように、冷静に受け答えをしている。
    「もちろんだ。そういう命令なのでな。」
     相手は信用できそうだった。この組織を運営している人物も、きっと一途なのだろう。
    『・・・・・・・・・。』
    『・・・・・・・・・。』
    『・・・・・・・・・。』
    「いいわ。一思いにやりなさい。」




    『あの日は、セリスと別れられなくて躊躇してしまった。
    もう逢えないという悲しみで、私は精神的に追い詰められ、
    あろう事か、自らが契約した氷の精霊に隙を衝かれた。
     でも・・・私の願いは、癪だけどレイヴァンと同じ・・・。
    そのためには、命なんて惜しくない筈。
    だから、あの日、自分は潔く殺されるべきだった。
    風邪なんてこれから死ぬものには関係ないし、
    レイヴァンの不意打ちだって、正当な『長子』であるユナには必要ない。
    セリスを巻き込んでしまったのは、おそらく掟を破った自分への罰。
    だけど、願わくは・・・
     

    きっと幸せになってね、私の大切な妹・・・いや・・・


    ・・・・・・・・・姉さん。』



    「いやぁああああ!!!」
     スペシャリストの反応は一瞬だった。
    本来であれば間違いなくエルリスの首は飛ばされていただろう。
    だけど、セリスの動きはスペシャリストを凌駕していた。
    悲鳴と共にセリスからあふれ出した膨大な魔力は、
    結界を貫き、部屋中を濃い魔力の渦で満たし、全ての魔法を打ち消した。
    スペシャリストの放った光球は、生まれた次の一瞬で消されたのだ。
    しかし、濃い魔力の渦は、人畜無害なものなどではない。
    これを浴びた人間は、水の中で溺れ続けるような錯覚に陥る。
    スペシャリスト5人も、セリスですらも例外なく地に伏せもがき苦しんでいる。
    その中、一瞬の好機と見たエルリスは、セリスを抱え、ベランダから飛び降りた。
    本当は、この中で一番苦しかったはずなのに。


     

     その後、エルリスはエルフの住むという森の中に逃げ込む。
    セリスを肩に背負ったまま・・・ついには、気を失ってしまった。
引用返信/返信 削除キー/
■59 / inTopicNo.8)  〜外伝1〜<宝剣『エレメンタルブレード』>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/19(Fri) 12:49:44)
    2005/02/04(Fri) 13:30:12 編集(投稿者)

    〜外伝1〜
    <宝剣『エレメンタルブレード』>


     どちらが姉で、どちらが妹かハッキリさせないまま、自分たちは幼少期を過ごした。
    今思えば、すでに突っ込みどころ満載だったのだけど、自分たち以外に周りに双子はいなかったし、
    そもそも双子って同時に産まれたようなものだから、姉妹の区別がないことにもなんの疑問も感じていなかった。
     ところが、私が13になった頃、突然両親が姉と妹を区別するとか言ってきた。
    セリスは「どっちがお姉さんになってもうらみっこ無しだからね。」とか言ってたけど、
    私には、どうもその時の両親の悲しそうな笑みが引っかかっていた。


     理由は知りたかったけど、どうも両親に聞くのは気が引けていた。
    だから、近所に住んでいる『おバカ』に相談してみることにした。
    その『おバカ』は、加えて陰気くさく、変なやつで、「いつか立派な剣士になるぞ!」とか張り切りながら、
    学者への道を志しているという、わけのわからないやつだった。
    あまり期待はしていなかったんだけど、あいつから帰ってきた言葉は、私にとって意外なものだった。
    「そんなことも知らないのか?」
     ・・・。てか・・・納得できない。
    まるで、私の方が『おバカ』だと言わんばかりである。
     その時のあいつは、このことを話すことをためらっていたけれど、私が強くお願いしたら、
    体を小刻みに震わせながら、喜んで答えてくれた。


     私は固まった。
    ユナとの戦いは、私やセリスでは無謀な戦いだと感じていた。
    ユナ・アレイヤといえば、12歳にして魔術学院を卒業した、超天才である。
    最近は、私たちと同じ学校に通って、なんか無駄に思える時間を過ごしている、こいつに負けない『おバカ』な奴だが、
    戦うとなると、これはそのまま自分たちの死を意味するものに思えた。
    しかも相手には、アレイヤ家の宝、魔化学兵器『デット・アライヴ』があるのだという。
    『デット・アライヴ』と言えば、今でも最強の拳銃型の兵器で、時価にして国が5〜6個変える価値がある。
    なんで、そんなお金関係に詳しいのかは、あえて追求すべきことじゃないですよね。
    でも、一応・・・家にも宝剣らしきものを地下室で見かけたことがある。
    両親が言うには、誰も台座から抜くことができないものらしく、扱うには意味不明な欠陥品だというから救いようがない。


     で、その『おバカ』は、私が14の時に生き分かれる。生き別れると言う表現はちょっと大げさにも思えるけれど。
    最後に「幸せを続けていたかった両親の気持ちはわかってやれよ。」なんて、知ったようなことを言ってたけど、
    セリスが泣きながら引き止めたのに、結局町を出て行ったあいつは、やはり最後まで陰気くさい『おバカ』だったと思う。
     その頃、すでに私はなんとなく『長子』がセリスだと気がついていた。
    だけど、自分はセリスを失いたくない気持ちのほうが強かった。
    だって、セリスは自分にとってなんとなく守ってやらなきゃならない『妹』のような存在だったから。


     15歳のとき、私は、あの欠陥品の宝剣改め、ハーネット家の正統な後継者を選定する宝剣『エレメンタルブレード』を手にする。
    エレメンタルブレードは、正統な後継者以外が触れれば、
    おぞましいまでのハーネット家特有の魔力の渦に飲まれ、すぐさま衰弱死するという危険なものだった。
    両親もなんとなくセリスが『長子』だと思っていたらしく、しきりに私が先に触れようとするのを止めたが、
    事情を『長子』以外に知らせたくないという両親の思惑を巧みに、有効利用し、交渉した結果、
    私から触れることを許可された。もちろん、私が知っていることは隠したけど。
     抜ける採算なんて無かったけど、自分が抜くしかないと思ってたから、1%の確率に賭けてみることにしたのだ。
    抜こうとしたとき、案の定、剣から膨大な魔力が自分に流れ込んできた。
    予想外なことがあったとすれば、それは量が半端では無かったこと。
    私は、あっという間に瀕死の状態まで追い込まれたと思う。

    でも・・・奇跡が起きた。

    氷の精霊『フリード』が、私にしか見えない姿で、交渉してきたのだ。

    『その体をよこせば、剣を抜かせてやる。』

    と。
    私は、何も考えることなく『OK』の返事をした。だって、考えている間に死んでしまうから。



     結果、私は『長子』に成りすますことができた。
    自身の魔力は低いくせに、あたかも大魔法使いがごとく魔法を操れるのだから、何も条件が無かったら面白かったかもしれない。
    あの後、私は両親から『知っていること』を散々聞かされた。
    引き受ける条件に、私はセリスを連れ、遠くへ行ってもらうことを進言した。
    家族の前で死ぬのが耐えられなかったからだ。
    快くかどうかは分からないが、両親は条件をのんでくれた。
    悪い気はしていないものの、残念ながらセリスはすぐに帰ってきてしまったのだけれど。

     

     それから、私は人前で高い魔力を見せて回った。
    理由は2つ。
    一刻も早く、宝剣を使いこなすこと。
    私を『長子』だと周りに認めさせること。
     だけど、天才を演じ続けた凡才には、当然と言えば当然だけど代償もある。
    こうしている間にも、刻々と、体の中のフリードが自分の体をのっとろうとしているのだ。

引用返信/返信 削除キー/
■81 / inTopicNo.9)  〜第9節〜<老いたヴァンパイア>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/27(Sat) 15:50:30)
    2005/02/04(Fri) 21:07:21 編集(投稿者)

    〜第9節〜
    <老いたヴァンパイア>



     ヴァンパイア達は戦い後、さほど時間を空けずに休戦交渉を提案してきた。
    エルリスたちにとって、突発的な戦闘でしかなかったこの戦いは、
    何故かヴァンパイア達にはとっては領土をめぐる戦争と捉えていた。
    なぜそのような誤解が生じているのかはよく分らないが、戦いは本意ではないので、
    休戦交渉の件を受け入れると、すぐさま森の奥に構えていた神殿に導かれた。
    つくりは洞穴のようであるが、素材は大理石で固められており、暗い中にも所々淡い光が燈っていた。
    本来であれば、敵の本拠地と思われる場所にのこのこついてゆくのは、
    敵の策略や、だまし討ちのことを考えるとあまり賢い選択ではないのだが、
    ユナがのこのくっついて行ってしまったので、仕方無しに他の三人も付いてゆくことにした。
    幸い、この判断は良い方向へすすみ、
    ヴァンパイア達もユナたちに対する警戒心をやや緩和させることに役立った。
     

     神殿の奥には、ロード・オブ・ヴァンパイアと称される年老いたヴァンパイアが待っていた。
    エルリスたちが交渉の席に座ると、そのヴァンパイアは挨拶抜きで単刀直入に聞いてきた。
    「そなたらの目的は何なのじゃ?それだけの戦力を携えて、まさか観光ということもあるまい。」
     年老いたヴァンパイアは、自力では満足に歩けそうもないくらい衰弱しているというのに、
    声はハッキリとしていて、威圧感さえあった。
     エルリスがそれに答えた。
    「ええ。私たちをこの森に匿ってほしいの。よく分からないやつらに狙われて困って逃げてきたのよ。」
    「よく分からないやつらとは?」
    「だから分からないのよ。特徴としては、かなり熟練の魔法使いがたくさんいる組織のような感じで、統率は取れていたわ。
    私の見立てでは、そこらのチンピラじゃない、かなり本格的な組織よ。」
     エルリスは、淡々と答えた。
    それを聞いて年老いたヴァンパイアは何か思い出したようなしぐさをすると、
    ゆったりと聞いてきた。
    「その魔力の雰囲気から察するに、そなたらはアレイヤとハーネットの者じゃな。」
     エルリスは答えない。相手の様子を伺うことにしたからだ。しかし・・・
    「なんで分かったんですか?」
     などと、ユナが馬鹿正直に聞き返したので、目論見は外れた。
    「なるほど・・・。状況は理解した。」
    「「「「へ?」」」」
     自分たちが理解できていないのに、理解されてもどうしようもないので、エルリス一斉に聞き返してしまった。
    「2日ほど前、満月の夜を迎えておる。そして組織が動き出した。
    わしが生きてきたここ1万4千年の間で、過去に一度、同じような出来事が起きていてな。」
     年老いたヴァンパイアは、懐かしいような、悲しいような表情を浮かべていた。
    「それは一体?」
     レイヴァンが老いたヴァンパイアに尋ねた。
    「・・・・・・。その前に、一言・・・言わせてもらおう。」
     しかし、年老いたヴァンパイアはレイヴァンの質問には答えず、少し考えてから別のことを話し出した。
    「そもそもこの森は、
    大昔に人間とヴァンパイアとの間で不可侵の条約が締結された際に、
    ヴァンパイアの領土とされた場所じゃ。知っておったのか?」
     4人は首を横にふるふると振った。
    「なるほど・・・ここ1500年ほどで2度も同じような事件が起こったところを見ると、
    人間界ではその事は忘れられておるということじゃな。」
    「1500年前?」
     エルリスが首をかしげる。一体このヴァンパイアは何歳なんだろうか。
    「そうじゃ。それがそこの青年への回答の話でもある。
    1500年前に、アレイヤ家とハーネット家の長子にあたる人物が2人で逃げてきたのじゃ。
    ただ・・・そなたらと違うところは、彼らは自分達に逃げるようにやって来た。
    両家の宿命というものから逃げるためじゃった。今回の訪問もこれに関することじゃろ?」
    「そうです。」
     と、レイヴァンは答えた。
    「ご先祖様は、何から逃げてこられたのですか?」
     今まで黙ったままだったセリスが口を挟んできた。セリスはハーネットとアレイヤの宿命のことを知らない。
    何から逃げてきたのかが、全く理解できなかった。
    「それは・・・」
    「止めて下さい!!」
     年老いたヴァンパイアが口を出そうとしたとき、
    ユナは悲鳴のような声で制止した。むしろエルリスが静止したかった内容だったが、何故かユナが先に制止した。
    「「「・・・。」」」
     年老いたヴァンパイアを除き、三人は目を見開いて驚いた。
    「ああ、そうじゃな。
    そなた・・・ユナ・アレイヤは、彼らを理解できるようじゃな・・・。」
    「理解って?」
     エルリスがたまらず口を挟んだ。なにか話が一気に分からなくなった感じだ。
    「わしの見立てでは、
    エルリス・ハーネットはさほど魔力を持っておらんようじゃな。
    そなたでは、おそらく一生分るまい。」
    「そんなの分らないじゃない?」
     エルリスはムッとして突っかかった。
    もちろん魔力が少ないことを見抜かれたのも癪だが、
    試しもしないで、しかも何についてか説明されないまま、ただ『分らない』などと言われたもんだから、機嫌を悪くした。
    「ふぉふぉふぉ・・・威勢はよいが、種としての限界じゃよ。
    あきらめるがよい。
    まぁ、ユナ・アレイヤよ。これだけは言っておこう。
    老婆心と思って聞き流してもかまわぬ。
    『力とは魔力の絶対量だけではなく、むしろその使い方、使い道こそが本当のつよさ』
    じゃよ。」
    「本当の強さ・・・。」
     ユナは、何かこの言葉に魅力を感じるのか、ただ祈るように聞いていた。
    その隣で、エルリスはブスッとしている。レイヴァンも首をかしげ、セリスにいたっては居眠りをはじめていた。
    「さて・・・交渉の件じゃが・・・そなたらを客人として招くのでよいな?」
     突然話を戻されて、エルリス達は戸惑いつつも首を縦に振った。
    「ならば、交渉成立じゃ。」
    「え?しかし、私達がいると迷惑をかけるかもしれないですよ?」
     セリスが控えめに尋ねる。
    「大丈夫じゃよ。相手は『命』の組織じゃ。礼儀はわきまえておる。
    わしらが何をしても問題はない。
    それより、頼みを聞いてもらえぬか?」
    「え?頼みとは??」
     完全にペースを握られたエルリスは、『命』について聞きたかったが、今はただ聞き返すことしかできなかった。
    「実は、ヴァンパイアの主力がそなたらにやられてしまって、
    守りが手薄になってしまったのじゃ。
    ここにいる間、警備などを手伝ってもらいたい。」
     これには思い当たる節しかないので、エルリス達は了解することとなった。
    「それと、次から言う場所は近づかないでもらいたい。」
     この件についても、理由は分らなかったが、悪い気はしないので了承することにした。

     
引用返信/返信 削除キー/
■84 / inTopicNo.10)  〜第10節〜<ユナの悩み>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/29(Mon) 00:07:26)
    2005/02/06(Sun) 18:59:28 編集(投稿者)

    〜第10節〜
    <ユナの悩み>


     エルリスが森の中で立っていると、後ろからカサッという音がした。
    「話って何?」
     ロード・オブ・ヴァンパイアとの会談後、エルリスはユナに呼び出されていた。
    日は既に傾いており、仮に振り返ったところであまりお互いの顔がハッキリ見えるような状態ではなかったが、
    エルリスはそこにユナがいることをとらえることが出来た。
    ユナから出ている独特の雰囲気が背中から撫でられるように感じられたからだ。
    正直、恐怖心がないわけではない。
    打ち解けたつもりではあっても、自分たちは宿命を背負った者同士、今でも隙があれば・・・。
    「私の悩みの相談にのって欲しいんだ。打ち明けられる人が少なくて・・・。」
     ユナにしては珍しく遠慮がちのようだ。エルリスには何故かそれが気に入らなかった。
    だからぶっきらぼうに言ってやった。それに、呼び出しておいて後から来るということ自体も気に入らなかった。
    「悩み?・・・で、なんで私に打ち明けるの??」
    「うん。だってエルリスはハーネット家の『長子』じゃない。
    ・・・・・・・きっと私と同じ境遇だっただろうから、分かってくれると思って。
    私が知りたいのはエルリスのこと。きっとエルリスのことが理解できれば、私の悩みは消える。
    そんな気がするの。」
     この様子では、ユナはエルリスが長子ではないことを知らないようだ。
    エルリスには、ユナのレイヴァンが私の正体をユナに伝えていなかったことに驚いた。
    ユナを信じ切れていないエルリスにとっては、
    セリスを守る上でユナに真実を知られていないことは、護衛の面で色々と都合が良いが、
    レイヴァンにとってそれを伝えない理由は無いように思える。
    そもそも伝え無いことが、レイヴァンには認められているのだろうか。
    てっきりユナの下僕のようなものだと思っていたのに。
    やはりアレイヤの行動は警戒すべきだとエルリスは感じた。
     とりあえず、面倒だが情報が得られそうなので、エルリスはユナに付き合うことにした。
    「ふ〜ん。で、具体的には?」
     すでにエルリス手抜きモードが最大級で発動中である。
    そうとは知らず、暗くてもハッキリと分かるくらいまじめな面持ちで、ユナは勇気を振り絞って打ち明けてきた。
    「兄さんも言ってたんだけど、エルリスは私と違って魔力がそこまで高くないんでしょ。」
     ユナが遠慮深く聞いてくる。
    「ええ、そうよ。残念ながらね。」
     エルリスはもはやこれは隠しても意味が無いので、ハッキリ答えた。
    「そっか・・・じゃあ、きっと私と違う世界をもってるんだ。
    私のような毒黒い血のように赤い世界じゃなくて、きっと虹のような清々しい世界を・・・。」
    「違う世界?」
     エルリスにはユナの意図することが理解できなかった。そもそも世界ってなんだ。
    「え?世界って言って分からないの?他に表現しようが無いんだけど・・・」
     その後、少し考えるような仕草をしてユナは続けた。
    「・・・・・・。そっか・・・そうだよね。エルリスには関係の無い話だったんだ・・・。
    『長子』はみんな見ているものだと思ってたけど・・・やっぱ、私だけなんだ・・・。」
    「・・・。」
    「・・・。」
    「・・・!?・・・・・・・(怒!!)
    悪かったわね!魔力が低くて!
    はっ、どうせ私はあんたみたいな芸当は出来ないわよ!!『世界』だって?何よそれ??
    さっきから何よ。強い自分を自慢してんの?」
     エルリスはイジイジしたユナの態度もさることながら、
    散々『魔力が弱い』と、彼女が気にしている数少ない一つを連呼され、かなりご立腹であった。
    「いや・・・その・・・・・・そういうわけじゃないんだけど・・・。」
    「じゃあ、どういう訳よ。あのじじぃ(ロード・オブ・ヴァンパイア)にあのアホ(←レイヴァン)、
    加えて、天然ボケ(←ユナ)まで、弱いものを笑いものにして、ほんといい趣味しているわ。」
    「え?え???」
    「第一、どうみても天然系のユナに
    『悩み』などという崇高な思想があることが不思議だわ。身の程を知りなさい!」
    「え・・・酷いよ〜(え〜ん)」
     これで済めばよかったが、以後ユナはエルリスに永遠と色々言われ続ける事になる・・・(合掌)
    ユナは、相談相手を間違えたとしか言いようが無い後悔の念におそわれた。。
    だけど、何故かそれが心地よかった。






    「やはり仲がいいな。心を開けるような友達が宿命の相手は皮肉なものだ。」 
     その様子を草葉から二人の影を暖かく見守る、騎士の姿がそこにあった。
引用返信/返信 削除キー/
■85 / inTopicNo.11)  〜第11節〜<憑依>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/29(Mon) 00:14:17)
    2005/02/06(Sun) 22:02:50 編集(投稿者)

    〜第11節〜
    <憑依>


     翌朝、ヴァンパイアの森に異変が起きる。
    ヴァンパイアの聖地、セーラエルが人間の奇襲を受けたのだ。
    セーラエルは、エルリスたちの立ち入り禁止区域に指定されている場所で、なにやら大切なものがあるらしい。
    盗賊など並大抵の集団であれば、ユナに戦力の大半を持っていかれたヴァンパイア達であっても、聖地に侵入させるような事はない。
    しかし、今回は相手が違った。
    通達によれば、エルリスたちの住むエインフェリア王国の上層部の軍隊による奇襲のだという。
     王国はフェルト家、メルフィート家、フィーネル家の3つの家が、代わる代わる国を治めていて、
    現在は、フェルト家のディシール・ネレム・フェルト女王が国を治めていることになっている。
    そして、ここへ攻め込んできたのは、メルフィート家とフィーネル家の頭首の連合である。
    エインフェリア王国のほとんど全ての戦力といってよい。


     洗濯物を干していた、エルリスとセリスはヴァンパイア達の援護の要請に従い、すぐさま現場に向かった。
    「セリス!あなたは戻りなさい!!」
    「いやあ!だって、私もお世話になってるんだもん。ヴァンパイアさんにお返しもいるよ。」
    「あんたの分は、私がやるから戻りなさい!!」
    「ダメ。私だって役に立つよ。お姉ちゃんにまかせっきりに出来ないよ。」
    「う〜〜〜。」
     セリスもエルリスの静止を振り切り、現場へ急ぐ。
    エルリストセリスがたどり着いた頃には、現場にはすでにユナとその義兄が戦っていた。
    ヴァンパイア劣勢の状況はひっくり返り、戦いはすでにヴァンパイア側の優位に進んでいた。
    しかし、ヴァンパイアはもう殆んどが2人を後方支援する程度の力しかなく、遠距離魔法で応戦していた。
    二人の戦いは見事なものだった。
    ユナは、敵の猛攻をものともせず中央から敵陣を崩していた。
    レイヴァンも、あのへらへらした態度(←エルリス曰く)からは信じられないほど、武術に長けており、
    使う魔法も、全系統をその場で最も効率よいだろう方法で使っていた。
    その威力も、剣士でありながら魔法使いの最高レベルに達している。
    しばし呆然としていたが、エルリスも宝剣『エレメンタルブレード』を構え、敵陣へとすぐさま突っ込んだ。
    宝剣から繰り出される氷の魔法は、どれも古代魔法と呼ばれる現在の魔法使いでも殆ど使いこなせない大魔法級で、
    その威力は、たとえ王国の騎士といえども振り切れるものではなかった。
    一方、セリスは水の魔法で辺りの消火作業を始めた。
    戦いこそしなかったが、水魔法は希少でもあり、たしかに非常に役に立つ支援だった。
    戦いは、一気にケリがつきそうだった。



    「皆、下がっておれ!!」
    「くくく・・・やはりこの程度では落ちませんか・・・。」
     突然の号令の元、王国兵が下がると後ろから全身を鎧で包んだ40過ぎの男と、
    見たところは、へらへらしていて軟そうな20代の男が現れた。
    それは、王国のものならば誰もが知っている人物たちであった。
     ここに登場したのは、メルフィート家とフィーネル家の頭首である。
    「ふむ・・・。よもや人間がヴァンパイアに力を貸しているとは思わなかった。」
     40過ぎの男はヒゲをさすりながら、興味深そうにエルリスたちを見た。
    その男の手には、至高の宝槍(ほうそう)『ティルナログ』が握られていた。
    ティルナログは、王国の各家が持つ最高の宝の一つで、フィーネル家に伝わるものである。
    これは、ユナの持つデッドアライブと、
    エルリスが持つエレメンタルブレードと同じタイプの宝具(ほうぐ)で、
    その家の主を選定する能力だけでなく、ずば抜けた魔力を装備者に与える魔術兵器の類である。
    「よもや、ワシが出ることとなるとはな・・・。」
    「くくく・・・ルード様がお相手になるような者はいますまい。」
    「ヘンリーよ。相手を侮るな。おまえはただ目的を果たせばよいのだ。」
    「手柄を私に下さるというのですか?」
    「ふん。この際手柄などどうでも良い。面白い戦いが出来そうだからな。
    ・・・・・・。ゆくぞ!」
     ルードは一気にエルリスへと突っ込み、その槍から雷系の魔法を繰り出した。
    「!?」
     エルリスは咄嗟によけ、すぐさま体制を整えた。
    ルードは、直ちに追撃を放ち、エルリスも宝剣から氷柱をだして防御した。
    「天界の雷『バリガン』か・・・。随分強力な魔法だな・・・」
     レイヴァンは、2人の戦いを見て、一瞬、驚いたような仕草を見せた。
    敵は、エルリスよりも強いと判断したからだ。
    大魔法は、神位、皇位、帝位、爵位、閣位、と5段階に分かれている。
    天界の雷『バリガン』は、大魔法の中でも帝位に属する魔法であり、
    エルリスがよく使う、巨大な氷柱を出現させるという、爵位大魔法である、
    冷堺(れいかい)の大魔法『エリアルキャリバー』とは、格が違う。
    『エリアルキャリバー』は、そのありあまる巨大な氷柱で敵を粉砕、または自己防衛するという
    万能で高性能な大魔法であるが、『バリガン』の雷の一閃を耐えられるような強度を誇ってはいない。
    魔法の質で負けている以上、エルリスには確実に援護が必要であった。
    しかし・・・、
    ルードの特攻につられるように、全軍が一気に攻めてきたので、レイヴァンもユナもエルリスの援護に回れなかった。
    レイヴァンは、一人で十人もの兵士と対峙しており、気を抜くと自分がやられる様な状態であったし、
    ユナに関してはセリスを守りながら戦い、魔法の照準を合わせる間が無く、援護すればだれを飛ばしてしまうかわから無い状態だった。
    「見たことの無い剣を使うようだな・・・。それもワシと同じ宝具の類か。」
    「私も驚いてるわ。王家って本当に強いのね。」
    「あたりまえじゃ。強さ無くして、国は守れぬわ!」
     ルードの猛攻は続く。必殺の帝位大魔法『バリガン』を主軸に、エルリスの防御を打ち崩す。
    エルリスは防戦一方であった。彼女は出現させた氷柱で、一瞬雷撃の動きを止め、
    氷柱が壊れる前に、その場から退くというので手がいっぱいで、反撃の暇は無かった。
     そんな時、バリガンの一撃がエルリスを素通りし、セリスに向った。
    「セリス!!!危ない!!!!!」
    「!?」
     ユナもその言葉にすぐさま反応したが、その時にはすでに間に合わなかった。
    しかし、不幸中の幸いにしてセリスはしゃがんでいたので命中しなかった。
    「セリスちゃん!」
     ユナが急いで駆け寄る。セリスは動かなかったが、どうやら気を失っているだけのようだ。
    「・・・。」
    「むう・・・。手元がずれてしまったか・・・。」
     ルードは、自らの槍を咎めるように見つめると、構えなおし、エルリスと再び対峙した。
    対峙した瞬間、ルードは今までとは違う戦慄を覚えた。
    今のエルリスは、今まで自分の戦ってきた相手とは様子が違った。
     その冷酷な瞳は、殺気で満ちていた。
    「何が起こったのだ・・・。」
     ルードは、得体の知れないエルリスに警戒心を強め、距離をとった。
    しかし・・・それは大きな、命を失う選択ミスだった。
    「なっ!?」
     ルードは一瞬にして動けなくなった。そこには大きな結界が作られていた。
    「結界だと・・・。いつのまに・・・。」
     ルードが見逃すのは仕方が無い。何故ならば、ルードが着地した後に張られたものだからだ。
    『あなたは・・・もう逃げられない・・・。』
     その声はエルリスのものではなかった。
    それを見てレイヴァンは舌打ちをした。
    「ちっ・・・。まさか精霊に取り付かれやがったのか・・・?」
    『あなたの前に、一つの水がある。
    それはあなたの心を凍らせ、身を支配され、知を飲み込まれても、あなたでは手に入れられない水。
    あなたは、夢を失い、希望を捨て、そして痛みを忘れた。だけどあなたには手に入らない水。』
     呪文のように言葉が囁かれると、ルードを縛る結界が青白く光り始める。
    『だけど・・・それでも・・・あなたには、手に入れなければならない水。
    それが、あなたの生きる理由だから・・・。』
     囁きと共に、ルードの頭上に、エリアルキャリバーのそれを超える大きさの
    先がとがった氷柱が現れる・・・。
    『だから・・・、あなたは・・・もう逃げられない・・・。』
     最後の囁きが終わると、
     氷柱はルードが肉片になるまで押しつぶした。




     あたりは静まり返った。
    最強と信じたルードのあまりに残酷な死に方は、兵士の士気を打ち砕いた。
    今は、全く動かず、エルリスは立ち尽くす。
    冷徹な氷の女王。
    それが今のエルリスに相応しい称号であったといえる。
    「助けてください!!」
     一人のヴァンパイアの声で、エルリスを除く全員がそっちを見た。
    ヘンリーの片腕に、まだ年齢にして一桁と思われる眠った幼い少女が抱えられていた。
    「くくく・・・。おっと、動かないで下さいよ。動くと、大切な真祖さまが死んでしまいますよ。」
    「クッ・・・。」
     ヴァンパイアたちは、人質をとられ悔しそうにしていた。
    ヘンリーは人質を取ってはいたが、その顔に余裕は無かった。
    「あれは?」
     レイヴァンは、近くにいたヴァンパイアに尋ねた。
    「真祖様だ。我々ヴァンパイアの生みの親だ・・・。」
    「あれが?」
     レイヴァンには信じられなかった。だが・・・ヴァンパイア達の様子を見ると、どうやら嘘ではないようだ。
    「では、みなさん。引き上げますよ。」
     目的を達成したヘンリーとその兵士達は、ルードの屍を置いて、その場を逃げるように立ち去った。


引用返信/返信 削除キー/
■91 / inTopicNo.12)  12月5日の大幅な編集作業について
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/12/05(Sun) 12:14:10)
    小説が全然短くないので、タイトルを変更しました。
    『とっても短い小説』の部分を削除しました。
    他に変更ありませんが、
    そのうち、ややこしいので各節にサブタイトルをつけることを企画しています。
引用返信/返信 削除キー/
■93 / inTopicNo.13)  〜第13節〜<黒幕>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/12/09(Thu) 01:14:15)
    2005/02/09(Wed) 00:53:53 編集(投稿者)

    〜第13節〜
    <黒幕>


     真祖救出へ向けてヴァンパイアの森を早朝に出発したエルリスとレイヴァンは、
    翌日の昼前に王都『デルトファーネル』にたどり着いた。
    通常ならこの距離を移動するのに3日はかかるが、野宿による6時間の睡眠時間を入れても延べ30時間しかかからなかった。
    急ぎすぎても体調を壊すだけで、メリットは無いのだが、セリスのことが心配だというエルリスの主張で、
    急いで王都へ向かうこととなった。
     2人は、正体を隠すため全身をローブで包み込んでいるが、この辺りの修行僧に多く見られる格好なので
    特別に周囲から怪しまれることは無かった。
    「相手は誰なのかハッキリしている。
    まずは、王都にあるヘンリーの住む『メルフィート』家の別荘にあたる城を調べるのが確実だろう。
    王都の城は全て昼間は一般開放している。だからその間に中に忍び込み、夜になるまで城内で待とう。
    行動を移すのはそれからだ。」
     王都の喫茶店で食事をしながら、エルリスとレイヴァンは作戦を立てることにした。
    レイヴァンは、ヘンリーが真祖を連れて行ったことから、ヘンリーの居住地区を中心に調べることを提案した。
    「そうね。だけど、もしヘンリーの城に居なかったら問題よ。どうするの?」
     エルリスはレイヴァンの作戦の意図に賛同しつつも、ヘンリーの城へ行くことには反対した。
    「すでに身柄を移されているとか、別の隠れ家を用意している場合か・・・。」
     レイヴァンは、アゴに手を当てて頷いた。
     エルリスは、特にその仕草を気に留めることなく、優雅に紅茶を飲んでいた。
    「ええ・・・それも考えられるわね。」
    「それも?」
     あまりにゆっくりしているエルリスに、レイヴァンは流石に違和感を感じた。
    どこかいつものエルリスとは様子が違った。
    出発前、いや少なくとも野宿するまでは、エルリスはじたばたしていた。
    ところが、今のエルリスは何故か非常に落ち着いている。
    「だけど、ハズレ。
    だけど、今回の黒幕はエインフェリア王国女王『ディシール・ネレム・フェルト女王』よ。
    そして、フェルト家の城の中を調べるのが最も得策だわ。」
     エルリスは、最初からレイヴァンの話しを聞いていなかったようにさらっと言ってのけた。
    レイヴァンは目を丸くして驚いた。
    「まさか、女王陛下が・・・。」
    「間違いないわ。」
    「信じられん・・・あんな温厚な女王陛下が、あのような暴挙に出るなんて・・・。」
     レイヴァンは、本当に『ありえない』という表情をして頭を抱えた。
    「あら?詳しいようね。知り合いなの?」
     その様子をエルリスは不思議そうに見つめた。
    「えっ・・・いや・・・噂で聞いただけだ。」
     レイヴァンは、一瞬取り乱したが、すぐにいつもの調子に戻った。
    「ふ〜ん・・・。なら、あてには出来ないわね。黒幕は女王よ。」
    「待て、エルリス。なにを根拠に・・・。」
     エルリスは、再度断言に対し、レイヴァンは反論した。
    「私の独断と偏見よ。」
    「こんな大事な時にそれは無いだろ!」
    「しっ!静かに。何処で聞かれてるか分からないのよ。」
     エルリスは、ついつい声を荒げてしまったレイヴァンの口を抑えて抗議した。
    「・・・すまない・・・。」
     レイヴァンは素直に謝った。だが、納得したわけではない。
    「それに、私はふざけてないわ。既に確証があるから。」
    「はぁ?」
     エルリスは観念したように打ち明けた。
    「方法はいえないわ。だけど、真祖は王都の中心にそびえ立つ城、
    女王の住む、フェルト家の城の中に幽閉されているわ。」 
    「・・・信じていいのだな・・・。」
    「ええ。」
     レイヴァンは、真剣なエルリスの表情を見て、そこに嘘が無いことを感じた。 
    「だが、女王に敵対するということがどういうことなのか分かっているのか?
    そこまでして、ヴァンパイアの真祖を救う義理は無い筈だ。
    セリスを守るのであれば、むしろヴァンパイアに反逆してあちらを倒した方が確実だ。
    それにセイブ・ザ・クイーンのシルヴィス・エアハートは、かなりの強敵だ。
    彼女一人でも苦戦は免れないし、そのうえ何人の兵士がいるか分からない。」
     レイヴァンは、王国との戦いは躊躇していた。
    「反逆の心配は無用よ。母国とはすでに敵対しているわ。
    それに、私は相手が誰であろうと、悪いことをする人に容赦はしない。」
    「無鉄砲だな・・・。」
     レイヴァンは、ため息のような声で言った。


     説得を諦めたレイヴァンは、観念したように躊躇するもう一つの理由を打ち明けた。
    「知っていると思うが、王国は現在ビフロスト連邦との戦争の真っ最中なのだ。
    王国政府の努力で、民には戦争の犠牲を強いていないから、実感が無いかもしれないが、
    実際は、本当に危険な状態にある。いつ敗北してもおかしくない。
    もし、仮に俺達が女王を殺し、王国を壊滅させてしまったら、
    国のみんな連邦に殺されてしまうかもしれない・・・。」
    「ホントに、詳しいわね。どこで知ったの?」
    「俺は、もともと王都で騎士になるはずだった男だからさ。」
     レイヴァンは、さらりと打ち明けた。ユナに対する気持ちも強いが、騎士としての魂を失ったわけではない。
    エルリスは、レイヴァンの事情を理解し、説得を諦めた。
    「・・・いいわ。貴方が行かないなら私だけでも行く。あなたはじっとしていればいいわ。」
     エルリスは、一人で戦う道を選んだ。
    「待て、エルリス!」
     レイヴァンは、手を広げて進路を遮断した。
    「冗談を言うな。君だけではこの作戦は無理だ。
    ここで君に死なれると後味が悪いから、俺も行こう。」
     レイヴァンは、手を下ろし笑顔で言った。
    「全く、君は強いな・・・。俺には・・・出来ない。」
    「私が強い?冗談はよして欲しいわ。妹一人満足に守れない私が?」
    「ああ・・・強いさ。何があっても自分を通せるのだから。
    だが、これで俺はユナの気持ちを裏切ることになるかもしれない・・・。」
     レイヴァンは、空を見上げて言った。


     昼食を済ますと、エルリスとレイヴァンは剣の稽古をすることにした。
    互いの力量を確かめた方が良いという判断からだ。
    練習用の木刀を武器や購入し、場所は人の少ない広場を選んだ。
     エルリスの攻撃は、素早く無駄な動きが無かった。
    エルリス自体の力量はたいしたことが無いと思っていたレイヴァンにとって、驚かされることでいっぱいだった。
    彼女は、一級の剣士だった。
    しかし、レイヴァンにはまだゆとりがあった。彼は、知る人ぞ知る天才である。
    いかにエルリスが無駄な動きが無くても、それを見切れ、またかわすことも容易にできた。 
    「驚いたな・・・。まさかエルリスにこんなかくし芸があったとは。」
    「それはこっちの台詞よ。私の剣筋が見切られるなんて思いもしなかったわ。」
     




     昨夜、ユナやレイヴァンと別れたあと、エルリスは自身の体内に住む氷の精霊を呼び出した。
    エルリスから、精霊を呼ぶことは恐らく今回が初めてのケースであっただろう。
    「分かっているわね。あなたに偵察をしてもらうわ。イヤとは言わせないわよ。」
    「はぁ〜面倒だな。要するに、真祖の場所を特定すればいいのだろう?
    あいつの魔力は桁外れに高いからな。態々王都まで行かなくても場所はハッキリとわかるさ。」
    「だったら、さらわれる前に対処して欲しいものだわ。」
    「そこまでサービスする気は無い。」
    「で、どこよ。」
    「そうだな・・・・・・。」
     フリードは、王都の中心を指差しながら、フェルト家の王城だと言った。

     

引用返信/返信 削除キー/
■99 / inTopicNo.14)  〜第14節〜<夢憂鬱>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/12/19(Sun) 02:32:41)
    2005/03/06(Sun) 13:16:51 編集(投稿者)

    〜第14節〜<夢憂鬱>


     死ぬ予定の人間に愛情は注がれなかった。
    ハーネットの家の長子は、500年ごとにアレイヤの長子と共にこの世から消えなければならないという、
    定めがある。子孫を残すことも認められなければ、文章を残すことも認められない。
    この4500年の間、この掟は破られたことが無い。
    「なんで・・・お母さん・・・。」
     ハーネット家の長女であり長子のシルクの声はむなしく響く。
    シルクには、充分な食事も与えられず、寝る所でさえ充分に備わっていなかった。
    「なんで・・・妹ばかり・・・。」
     母親への愛情を求める言葉は、時が経つにつれ、
    親の愛情をいっぱいに受けている妹リーンへの嫉みの言葉へと変わった。
    「私のほうが強いのに・・・私のほうが、優秀なのに・・・。」
     シルクは、宝剣『エレメンタルブレード』を手にし、妹へ呪いをかけた。
    ハーネット家とアレイヤ家にかけられた呪いと同じ方法を用いた、同種の呪いをリーンにかけた。
    リーンは姉に抵抗しなかった。リーンは、何より虐げられている姉を前に何も出来なかった自分を悔やんでいた。
    それが、シルクのかけた呪いを、妬みから渇望に変えた。
     エルリスは、この様子をあたかも傍観者のように見つけることしか出来なかった。


     夜になり作戦に移される時間帯になった。
    城内に進入したエルリスとレイヴァンは、二手に分かれると危険なので、
    一緒に探すという方法を取ることとにした。
    通常、夜間の城内への進入は困難なのであるが、レイヴァンが抜け道を知っていた。
     ところが、いざ行動開始という状況になって、突然エルリスが眠ってしまったのである。
    昼間の稽古の疲れが出てしまったのだろうか。レイヴァンはため息をついた。
    疲れている体を行使してもしかたがないので、中庭に身を潜めて休憩することにした。
     それから、2時間が経った。
    「す〜す〜〜〜。」
    「・・・。」
    「スースー・・・」
    「・・・。」
    「すぴ〜すぅ・・・。」
    「おい・・・いい加減に起きろ。」
    「す〜・・・ん?何?」
     ちっとも起きないエルリスを呆れつつ、レイヴァンはエルリスを起こした。
    エルリスは、『なんでこんな時間に起こすのよ。』と非難の眼差しでレイヴァンをにらんだ。
    しかし、エルリスが見ていた夢はあまり心地よいものではなかったので、
    いつもよりは落ち着いている。
    レイヴァンから諦めたような声が飛んできた。
    「『何?』じゃないだろ!今から城内を探すんだろ!」
    「はぁ?ここは何処?」
    「・・・。」
     エルリスは寝ぼけているとレイヴァンは思った。
    「おいおい・・・城内に真祖がいるから助けに行くって言ったのお前だろ?」
     レイヴァンはやれやれって仕草でエルリスを糾弾する。
    「え?・・・たしかに、真祖は城内にいるって情報は、精霊に調べさせたから間違いないけど・・・
    なんであんたが知ってるの?」
     エルリスは相変わらず訳が分からないという表情で答える。
    「はぁ?おまえがそう言ったじゃないか。って・・・精霊を使えるのか?初耳だぞ。」
    「やばっ・・・。」
     エルリスはあからさまに『しまった〜!』って表情でたじたじになった。
    しかし、話が食い違っている。
    エルリスには、レイヴァンに真祖の居場所のことを言った覚えも無ければ、
    今、自分が城内らしき場所にいる理由も分からない。



    「まさか・・・城内にこんな形で侵入されるとは・・・盲点でした。警備は万全でしたのに・・・」
     女性の声にエルリスとレイヴァンはおもわず振り向いた。
    そこには、女王ディシール・ネレム・フェルトとヘンリーが立っていた。
    「ククク・・・ん?・・・!?じょ、女王様!あいつらは・・・。」
     初めは余裕を見せていたヘンリーの顔がエルリスを見て豹変する。
    「どうしたのです?」
    「あ、あいつらです。ルードさまを殺したのは・・・。」
     レイヴァンは女王に敬礼して、単刀直入に言った。時間をかけたくないという気持ちが働いたからだ。
    「女王様。真祖はバンパイア達にとって大切な存在です。なぜ、このような行動をされたのです。」
     女王はレイヴァンの目を見た。敵意は感じられなかったが、剣はしっかりと握られていた。
    「剣を納めなさい、騎士よ。戦わずして解決するに越したことはありません、理由を話しましょう。」
     女王がそう言うと、レイヴァンは剣を納めた。
    「およそ1年前、連邦は突如、わが国戦争を仕掛けてきました。
    戦いはすでに泥沼化し、国の軍では持ちこたえられない状況になました。
    私は、民に苦しい思いをさせたくはありません。ですから、民を戦争に巻き込むことなく、
    勝利する方法を模索しました。」
    「それで真祖を?」
     エルリスが口を挟んだ。
    「ええ・・・。覚醒した真祖の血を飲めば、その人物には究極の力が入ると言われています。」
    「たしかに・・・もし国が滅べば、何万もの人が苦しむことになります。
    女王様のお話は良く分かります。正直な話、それを聞いても貴方と戦うことは出来ません。
    いえ・・・それは、してはならないことだと思います。でも・・・他に方法は無かったんですか?」
     レイヴァンは、エルリスの言葉に驚いた。是が非でも戦う姿勢を見せていた昼間とは別人のように感じられる。
    たしかに、無駄に戦闘を仕掛けるのは得策ではない。だから、落ち着いて話すことも重要だ。
    しかし、昼間も今の、エルリスは本音で話しているような雰囲気だった。
    「本来であれば、ありました・・・。でも、今回はそれは無理です。」
    「その方法とは?」
     エルリスがしつこく迫るので、女王は諦めたように語りだした。
    「すでに無理な話なのですが・・・。8000年ほど昔に、この地を支配権を争っていた、
    真の王家にして最強の家系、アレイヤ家かハーネット家の長子の力を使うことです。
    両家が持つ家宝を行使すれば、一撃で敵の軍の全てである1万5千人を葬り去ることが出来るといいます・・・」
    「!?」
     エルリスは固まった。
    「女王様。」
     レイヴァンは様子を伺うように尋ねた。
    「なんです・・・騎士よ。」
    「もし・・・アレイヤの長子が生きていて、彼女が王家を再興するといえば、真祖様を開放してくれますか。」
     レイヴァンは言った。彼にどういう意図があったかは分からない。
    しかし、これは昔ユナと約束した事に対する裏切りの言葉でもある。
引用返信/返信 削除キー/
■103 / inTopicNo.15)  〜第15節〜<真祖>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/12/23(Thu) 23:31:20)
    2005/03/06(Sun) 13:25:48 編集(投稿者)

    〜第15節〜<真祖>


    「それは無理ですよ。騎士殿。アレイヤとハーネットの長子は500年を周期に
    共に自決することが盟約で定められています。もう既にこの世に居る筈がありません。」
     女王は、淡々と語った。
    「自決?」
     エルリスは眉をしかめた。
    「そうです。詳しくは分かりませんが、お互いが確実に相手の死を確認できるように
    心中するという形をとるそうです。」
     女王の言葉は、エルリスの知っている言い伝えと異なっていた。
    「ですから、その話は無理です。もし、邪魔を続けるのであれば、命に代え貴方方を打ち滅ぼします。」
     そう言うと、女王は聖者の宝弓『レインプニル』を構えた。
    ヘンリーもそれに呼応するように破邪の宝剣『ローラン』を鞘から抜いた。
    「お待ちください、女王陛下。アレイ・・・」
    「状況は大体分かりましたよ。」
     レイヴァンが言い終わらないうちに、後ろの方から声が聞こえた。どこか幼さの残る声だった。
    「意外と早かったのね。」
     予期していたかのようにエルリスは、
    後ろで刀らしき剣を右手に握っているエルリスに取り付いている氷の精霊に向って言った。
    「全く・・・。あたりまえだろ、俺を誰だと思っている。」
     精霊は『ハァー』とため息をつき、『フンッ』とはなを鳴らした。色々忙しいやつである。
    「「「いつの間に・・・。」」」
     ヘンリー、女王、レイヴァンの声が重なった。
    「女王様とそこの男が現れたから、咄嗟に精霊に救出してくるように伝えといたのよ。
    あの2人がここ居るのだったら、見張りが手薄になったと見てじゃない?チャンスだったから。
    まさか、こんなに早く見つかるとは思わなかったけど・・・。」
     抜け目の無いエルリスは、冷静に好機を見逃さなかった。
    「この度はお世話になりました。エルリスさんと・・・。」
     そういって真祖はレイヴァンに目をやった。
    「俺は何もしてない・・・。」
     そう言ってレイヴァンはため息をついた。エルリスの手際のよさには驚かされた。
    エルリスはたしかに頭がいい。策士としての才能は認めていたが、これは規格外だ。
    「真祖がなぜもう目覚めているの?それに結界は・・・」
     女王は驚愕した表情を見せた。
    「色々事情があるのですよ。本当なら、あと1000年前に目覚める筈でしたが寝坊しました。」
    「そして、俺の愛刀『海燕』に切れないものは無い。」
     真祖はニコッと笑い、精霊はガハハと大笑いした。場の雰囲気は完全に壊れてしまった。
    「1000年前だと、真祖の眠りの周期と違うじゃないか!」
     ヘンリーは叫んだ。精霊の愛刀のことは無視である。
    国の資料によると、真祖は1000年活動し、500年眠りにつく。
    その法則によると、真祖が眠りについたのが500年前で、今年目覚める筈だった。
    女王も怪訝そうな顔をしたが、すぐに気を取り直し、
    「事情は分かりませんが、私達はなんとしても真祖の血が必要なのです。」
     そう言うと弓に矢を充てた。
    「そういわれても・・・。」
     エルリスは困ったような顔をし、
    「助けてもらって、またすぐ捕まるのは御免です。」
     などと、あたりまえだが真祖も拒否した。
    「女王様・・・。私が前にでます。女王様は、後方からお願いします。もしもの時は・・・」
     ヘンリーが真剣な表情で言う。普段は軟弱そうな様子を見せているが、彼も立派な戦士である。
    「困りました・・・。」
     真祖は、本当に困ったような表情をし、
    「仕方がありません。私の血が欲しいのですか・・・少しなら分けてあげますよ?
    でも、なんでそんなものを欲しがるのですか?」
     と、妥協案と疑問を投げかけた。
    「へ?知らないの?」
     エルリスが不意をつかれたような表情をした。言葉使いも天下の真祖様にかけるものではなった。
    「ええ・・・。」
     真祖は頷いた。
    「真祖の血を飲めば、その人はすごい力を得られるのでしょう?」
     エルリスは、ますますわから無いという表情で言った。
    「???そんなことありませんよ。」
    「「「「は?」」」」
     この場の全員が固まった。一体何だったのだ?




     人の寿命よりも遥かに長い時間を遡ること1500年。
    ヴァンパイアの住む森に一組の男女のカップルが迷い込んできた。
    ヴァンパイア達はすぐに臨戦態勢に出たが、真祖によって止められた。
    「貴方方は、何をしに来たのですか?」
     二十歳頃のうら若き姿をした真祖は、そのカップルに尋ねた。
    カップルはすがる様に真祖に頼み込んだ。助けて欲しい。自分達を救って欲しいと。
    二人は結婚を約束していた。しかし、それは禁じられた縁であった。
    二人はこの年の満月の夜、お互いに殺しあわなければならない運命にある。
    その家の仕来りから逃げるため、駆け落ちをしたのだ。
     真祖は二人を引き受けた。
    そのことに対する『命』からの苦情も届いたが、ヴァンパイアは相手にしなかった。
    命は、盟約によりヴァンパイに危害を加えることが出来ないため、それ以上は言ってこなかった。
    二人は森で平和に暮らし、女性は子供をおなかの中に宿していた。
    そんな矢先、悲劇が起きる。
    満月の夜、二人は盟約通り殺しあってしまったのだ。
    それを真祖は悲しそうに見つめ・・・
    「そうですか・・・。仕来りではなく、呪いの類でしたか・・・。」
    「真祖様・・・ただいま参りました。」
     まだ、若き頃のロード・オブ・ヴァンパイアは真祖の召集に従いやってきた。
    真祖は倒れている女性のおなかを見て言った。
    「少し早いですが、私は次の自分を、あのおなかの中の子供に託すことにします。」
    「真祖様!」
     初代の真祖は、人の血を吸い、その血を使いヴァンパイアを誕生させた。
    その力はすでに失われているが、それ以外にも、真祖にはもう一つ吸血には重大な役目がある。
    自分の血と、相手の血を『入れ替える』ことで、自分の英知と力を譲るのだ。
    そして、血を受け取った者をヴァンパイアを守る主として君臨させる。
    これは転生に近い。
    真祖の血と入れ替えられた者は、その者本来の性質に加え、真祖としての機能や本能が混じった、新しい個体となる。
    そして血を入れ替えた真祖の元の体は、跡形も無く闇へと消える。

     おなかの中の子供はこうして一命をとりとめた。
    しかし、まだ十分に育っておらず、命が助からない子供に力を与えたため、
    真祖の目覚めは予定より遥かに時間のかかってしまった。
    そして今、目覚めた真祖は、エルリスに救われ行動を共にしている。


引用返信/返信 削除キー/
■113 / inTopicNo.16)  〜第16節〜<海燕>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/01/06(Thu) 03:43:09)
    2005/03/06(Sun) 13:47:42 編集(投稿者)

    〜第16節〜<海燕>


     結局、女王にユナの事や、エルリス達の事を告げないまま急いで王都をあとにした。
    レイヴァンは「出来れば、なんとかする。」という意味の言葉を女王に残し、
    真祖と共に、ヴァンパイアの森へと戻っていった。
     エルリスも途中まで急いで森へと向かっていたが、王都を出た直後辺りから、
    レイヴァン達とは行動を別にした。
    なんでも、やり残した事があるというのだ。
    セリスの身を第一に考えていたはずのエルリスにとっては珍しい行動だが、
    レイヴァンにはそれを疑う余裕は無かった。
     レイヴァンらが急いでいるのには理由がある。
    真祖がエルリスの雰囲気から家柄を見破り、エルリスとレイヴァンにこう告げたのだ。
    「ハーネット家とアレイヤ家の自決は、ただの儀式ではありません。
    500年周期の両家の長子には、お互いを確実に仕留めようとする本能が植えつけられています。
    これは、人が物を食べる行動と同じくらい不可回避な現象です。」
     直後、エルリスたちは走り出した。
    長子であるユナ、そして本当のハーネット家の長子のセリスが、ヴァンパイアの森に一緒にいる状況だからだ。
    下手をすれば、すでに戦いを始めてしまっているかもしれない。
    レイヴァンから走り出した理由を聞いた真祖も急いだ。
    ヴァンパイアを巻き添えにしている可能性、そして自らの生い立ちを考えるとほっておけなかった。



    「そこまでですよ。ここか先は通しません。」
     突如、真祖とレイヴァンの行く手を阻むように、一人の女性が現れた。
    「命・・・。」
     真祖がつぶやいた。
    「何故、邪魔をするのですか・・・いえ、邪魔が出来るのですか?」
     真祖が命をにらむ。
    「たしかに、私は人間以外の種族に危害を加えることを許されていません。
    しかし、今のあなたは真祖として目覚めきれていません。ただの人間です。」
     命は淡々と答える。
    「・・・。では、あなたは私と戦えるというのですね・・・・・・」
    「当然です。」
     真祖が構え、命も宝刀『天狼』を鞘から抜く。
    「言っておきますが、私にはアレイヤとハーネットの長子の力があります。
    例え真祖の力を使えなくても、負けはしません。」
    「知ってます。でも、『法具』無しのあなたでは、『天狼』を持つ私に勝てません。」
    「・・・。」 
     真祖は無言で、右手に炎を左手に水を出現させる。
    右手の炎は、ヴァンパイアや王国軍との戦い際にユナが見せた炎と同程度強力であり、
    右手の水はそれに勝る勢いがあった。
    炎の名前は『ディバインド』。大魔法の中で第二位の地位にある皇位に位置する魔法である。
    水の名前は『ミトス』。大魔法の中で第一位の地位にあたり神位に位置する魔法である。
    それを見て命は、予想以上の芸当に驚いた。
    「二つの血が混ざったことによる相乗効果かしら・・・思ったより時間がかかるわね。」
     命は牽制の意味で、刀を構え真祖めがけて突進した。
    真祖はそれを紙一重で交わし、振り向き際に、命にめがけて炎を投げつけた。
    一瞬であったが、すでに命は真祖からかなり離れた位置にいた。初めから一撃離脱を考えていたのである。
    炎は大地を焦がしながら命へと迫り、大量の酸素を取り込んで爆発をした。
    しかし、爆発音のすさまじさとは裏腹に、命は水のシールドを張り衝撃を和らげていたため、効果は薄かった。
    レイヴァンは、とりあえずは流れ弾から自らの身を守る事に徹した。
    この様子では、真祖に加勢しても意味が無い。
    真祖は、炎に続き命に向かって水流を投げつけた。今度は先ほどより強力である。
    しかし、命は予期していたのか、冷静にそれを裁いた。
    水流向かって、眼では追えないほどのすばやさで、雷帯びた刀を振るい、水流を四散させてしまったのだ。
    「やりますね・・・」
     真祖はすなおに驚いた。
    「当たり前です。アレくらい、処理できなかれば、この役目を果たせません。
    ところで、今のあなたは、多く見積もって3回これを繰り返せば力尽きますね。
    その数では、私を倒すにはいたりません。チェックメイトですよ。」
     命は、少し嘲笑した。
    「これは情けですよ。エルリスとユナを差し出せば、貴方の命は約束します。
    何万年も転生を繰り返してきた大切な命をここで失うのはもったいないと思いますけれど。」
    「お断りします。」
     真祖は落ち着いてはいるが、内心かなり焦っていた。
    なぜならば、本当はあと一回繰り返せば力尽きるからである。
    レイヴァンに期待をしたいが、古代レベルの戦いに今の戦士が適うはずは無い。
    せめて法具があれば・・・
    エルリスと別れたことが悔やまれる。
    真祖にはどういうトリックかが分からなかったが、
    エルリスは、長子が持つはずの宝剣『エレメンタルブレード』を所持していた事は把握していた。
    「無念です・・・」
     真祖はうずくまった。自分は、もう殺される。
    もう誰もヴァンパイアを守れない・・・と思うと、悲しみでいっぱいになった。



     しかし、真祖がうずくまったあと、命は突然顔を強張らせ、闇の中へ逃げてしまった。
    「もう、彼女は去りました。」
    「?」
     レイヴァンの言葉で、顔をあげた真祖は、ポカーンと口をあけた。
    「彼女が突然、慌てるように逃げていったのです。」
    「え?レイヴァンさん、あなた何かやったのですか?」
     真祖は、まだ???マークを頭上に回転させていた。
    「真祖様が、力を取り戻されたので、手が出せなくなったのでは無いのでか?
    丁度うずくまれたようでしたし・・・。」
     レイヴァンも、首をかしげた。 




     命は、真祖の後ろで、奪われてしまった宮瀬のもう一つの宝刀『海燕』を構えた、青髪の少女を見た。
    その刀には、刀本来の力を何倍にも増加させる属性である、『水』がすでに十二分に付加されており、
    ひとたび刀を振れば、ここら一体を全て飲み込める状態であった。
     命は状況を不利と判断し、退却することにした。





引用返信/返信 削除キー/
■114 / inTopicNo.17)  1月6日の編集について
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/01/06(Thu) 03:46:37)
    前回の15節で、分かりにくい文章があったので、分かりやすくなればと修正しました。

引用返信/返信 削除キー/
■115 / inTopicNo.18)  天日星の暖房器具〜17節
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/01/07(Fri) 01:12:02)
    2005/01/07(Fri) 01:57:58 編集(投稿者)

    〜第17節〜


     真祖と義兄は、走ってヴァンパイアの森へ向かっていた。
    行きは早朝に出発し、翌日の昼についたのだが、帰りは深夜に出発し、明け方についた。
    結局、延べ2日間の留守でかたがついたことになる。
    「ユナ!大丈夫か!!」
     義兄は、勢いよくユナとセリスが泊まっている宿舎の扉を開けた。
    「ユナさん、セリスさん、早まらないでください。」
     真祖も慌てて宿舎に入る。
    「・・・。」
    「・・・あれ?」
     義兄と真祖は想像もしなかった光景を目にした。
    ユナとセリスが二人で仲良く、添い寝している・・・。


    「う〜〜〜〜だって・・・セリスちゃんが・・・。」
    「違うって、ユナちゃんが悪いんだよ。」
     ユナとセリスは目の前に倒れている2人を見ながら、なにやら揉めている。
    「ああ・・・兄さんに誤解をされたかも・・・。う〜〜〜。」
     ユナはあたふたしている。
    昨晩、ホームシックならぬ兄さんシックにかかったユナを落ち着かそうと、セリスは添い寝を提案した。
    そして今、その兄さんと見知らぬ少女が、明らかに異様なものを見て『ずっこけた』格好をして倒れている。
    寝息がしていることから生きているようなので、特別心配することも無い筈なのだが、
    「あ〜〜〜私にレズ疑惑が〜〜〜!!!(泣)」
     と、ユナは嘆いている。
    「きっと、兄さんは私がセリスと添い寝している姿を見て、誤解してしまったに違いない・・・う〜〜〜。」
    「大丈夫だと思うよ・・・。はぁ〜」
     と、セリスはため息をついた。
    そんなこんなしているうちに今度はエルリスが帰ってきた。
    「セリス〜〜〜無事!?ごめん・・・なんか気がついたら・・・」
    「お姉ちゃん!」
     セリスはエルリスに硬く抱擁した。
    その姿を見て・・・
    「・・・。」
     ユナはセリスに対し、とある疑惑の視線を投げかけた。
    もっとも、文化の違い以上のものではないのだけれども。






     リーンに呪いをかけてから、シルクの人生は少し変わった。
    初めはリーンに『自分と同じ不幸な人生を味あわせてやる』つもりで呪いをかけようとした。
    だけど、リーンの心を知ったシルクは土壇場で呪いの趣旨を無意識に変えてしまった。
    『私を守って・・・』
     あれから、リーンはシルクをよく守ってくれた。
    リーンの主張で、シルクも家族と同じ食卓で食事をすることが認められたし、徐々に家族と同じ生活が送れるようになっていった。
    シルクもリーンのことが好きになっていった。
     そして、シルクが26になったとき、運命の時が来た。
    リーンとリーンの生まれたばかりの子供の未来を見ることはできないのが残念ではあるが、
    この世に思い残すことが無かったシルクは、抵抗せず運命に従うはずだった。
    しかし、アレイヤとの戦いの場に、リーンが現われ、シルクを庇い死んでしまった。
    シルクは自分を呪った・・・幸せ欲しさにリーンに呪いをかけてしまった自分を・・・。


    「・・・。」
     エルリスは不機嫌だった。たしか・・・昨晩、真祖からセリスとユナが戦いをしている危険がある事を聞かされ、
    義兄と真祖と共に、大急ぎで森へ戻っていたはずなのに、気がつけばよく分からないところで立ったまま寝ていた。
    それも、あの目覚めの悪い夢を見て。
    「・・・。」
     辺りには焦げた跡がある。戦闘でもあったのだろうか・・・。
    「精霊、出てきなさい。」
     エルリスは精霊を呼び出した。ついこの間まではエルリスを苦しめる厄介者だったはずが、今では完全に下僕扱いである。


    「・・・。何故俺様が・・・。」
    「つべこべ言わない。」
     セリスが心配だったエルリスは、人より5倍近く早く移動できる精霊に自分を担がせ、森へ急いだ。
     その後、2人の無事を確認したエルリスは大いに喜ぶことになる。





     その晩の飯時、エルリスは義兄に置いてきぼりに食らったとして猛抗議していた。
    義兄は、わけが分からない・・・といった感じで困惑しっぱなしだった。
    そんなやり取りを見てどう勘違いしたのか、ユナはぶすぅ〜としていた。

     
     同時刻、真祖は、老いたヴァンパイアととある墓の前に立っていた。
    「これも私の親達の墓なんですね。」
    「はい。」
    「私には真祖としてだけではなく、アレイヤとハーネットの血を引くものとしてやることがありますね。」
    「仕方がありません・・・。本来であれば、真祖様には森にとどまっていただきたかったのですが、有事のようですから。」
    「ご理解感謝します。あとは、ユナ・アレイヤが王国の女王となることを承諾してくれるかですね。さすがにエルリスを女王にするわけにはいきません。」
     真祖は、う〜んと考え込む。義兄の話によるとそれに対するユナの抵抗は目に見えていた。
    「真祖様がお悩みにあんることはありません。あの者が直接言うでしょう。」
     ヴァンパイアの言葉に真祖は相槌をうち、
    「ふう・・・。ユナ・アレイヤにも騎士殿にも辛い思いをさせますね・・・。」
    「仕方がありません。人間同士の揉め事は、人間で解決する事が重要です。」
     老いたヴァンパイアは、真祖を宥めるように言った。

引用返信/返信 削除キー/
■120 / inTopicNo.19)  天日星の暖房器具〜外A
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/01/09(Sun) 05:01:05)
    〜外伝2〜

     『赤い世界』
    ユナが、常に見続けている不思議で、残酷な世界。
    これを見続けるのは、血塗られた家の長子としての罪の象徴であった。
    ユナには、普通の人と見えているものが違う。
    ユナの見る視界は、普通の人より赤みがかかっており、
    行く先々の場所で、そこで死んでいった人の姿も見える。
    調子がよいとき、つまり魔力が高いときほどこれは鮮明に映り、逆に調子が悪いときは鮮明には見えない。
    ユナは幼少の頃から、少しずつこの赤い世界を見てきた。
    初めは怖かったし、不安でもあった。
    しかし、こんなことは相談できなかったので、ユナはじっと耐えた。


     ユナが7歳頃、義兄がアレイヤ家の家族の一員に加わった。
    当時のユナは、あまり活気が無く、感情を表に出すことは少なかった。
    だけど、家族が増えることはユナにとってもうれしいことだった。
    特に両親の体調があまりすぐれず、一緒にいられる時間も短くて、寂しい思いをしていたのだからなおさらだった。
    この際、何故、血も全くつながっていない人間が、家族になったかなんてどうでもよかった。
    遊んでくれる、自分を見てくれる人がいればそれでよかった。
    でも、本当は知っていた。義兄は、私の兄じゃなくて、ただの護衛だということを。
    自分は両親が思っているほど無知じゃない。アレイヤの家の宿命については熟知していた。

     義兄がやってきてから1年後、ユナの両親は死去する。
    ユナは護衛を従えて、毎日のように祈っていたが、効果が無かったみたいだ。



     その後すぐに、ユナの提案でユナは学園都市にある魔術学園に入った。
    当時14歳の義兄は、何故自分の半分くらいしか生きていないような年頃の娘が、そんなことを言い出すのか疑問を感じていたが、アレイヤ家の特別な家柄だからかと、納得し、ユナに言われたように願書等を取り寄せた。義兄は、その手の事務には詳しく、段取りがよかった。
     魔術学園は、魔法を学べる最高の学校として有名で、入学するには厳しい試験を突破しなければならなかった。
    しかし、ユナは持ち前の高い魔力をもってすれば、試験はお遊戯そのものだった。
     
     
     ユナが学園に行っている間、義兄は厳しい鍛錬をしていた。
    すでに常人よりすぐれた実力者ではあったが、将来、義兄が相手にするはずの者は自分より遥かに強いはずなので、休む事は許されなかった。


     アレイヤ家は、両親が早死にした関係と、子宝に恵まれなかったため、ユナしか血を引くものがいない。
    家を存続させたいと考えていた両親は、一つの考えにたどり着く。
    『長男』を偽装しよう・・・と。
    もっとも、この発想は、アレイヤとハーネットの呪いを考えると意味を成さない。
    しかし、すでに伝承は廃れており、両親は死期を悟っていて急いでいたので、これはとても魅力的なアイデアだった。
    アレイヤが数千年前は王家だったこともあり、その廃れないわずかな人脈で、義兄を探し当てた。
    その一家は、他ならぬアレイヤの望みであったので、躊躇せず義兄を差し出した。
    義兄もアレイヤに尽くすことは最上の喜びと教えられ、自らが死ぬこともいとわない、騎士の精神に従い、要望を快諾した。
    義兄は、文武において、ものすごく優秀だった。12歳にして大学を卒業し、その傍らで魔術学園も卒業していた。アレイヤの身代わりとしては、なんとかカモフラージュできそうな気もしていた。
     

     義兄は、ユナはそんなことを知らないと思っていた。
    しかし、ある日、ユナが義兄にこう言ったのだ。
    「努力したって無駄ですよ。騎士殿。あなたでは身代わりはできない。だって、この『デッド・アライブ』を使えなければ、アレイヤの長子とは認められないのですから。」
     ユナの顔は、怖いくらい無表情だった。
    「・・・・・・。」
     義兄は言葉を失った。
    「戦地には、私が赴きます。隠しても無駄ですよ。親とハーネットとの協議の内容は、すでに聞いていますから。父は隠すのが下手でしかたら、すぐにその内容が書かれている書類を見つけました。」
    「さすがだな・・・。」
    「ええ。ですから、あなたはそんな事しなくていいです。それに、家の顔に泥を塗るような行為は認められません。」
     ユナは、まだ10歳である。しかし、その言葉は義兄より長いときを生きてきた者のような雰囲気を醸し出していた。
    「しかし・・・それでは、私の面目がありません。」
    「あなたの面目なんて興味ないです。今の主人は私ですよ。だったら、私の意見に従ったらどうですか?」
    「・・・。」
     なんとか主を説得しようとした義兄は、すぐに手がつまり押し黙った。自分より年下のユナが、とても敵わない存在に見えた。
    「だから・・・その・・・義兄殿は・・・」
     と、思ったら、突如ユナが顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。
    アレイヤに仕えて、はや2年。ユナのこんな表情を見たのは初めてだった。
    常に顔色を伺って暮らしてきた、騎士には主人の言わんとしていることがすぐに分かった。
    「そうだな・・・俺は、おまえの兄貴だもんな。」
     内心は、心臓がはちきれんばかりにバクバクしていた。よりによって、いきなり主人を『おまえ』と言ったのである。しかし、それを聞いて、ユナは目を散歩を心待ちにする子犬のように輝やかせた。
    「今度からは、ユナのいる時間には鍛錬や家事をしないで、遊ぶか。」
     義兄は笑顔で提案した。
    「うん。だけどね・・・私もこれからは家事の手伝いをするって決めたの。だって、同じ兄妹なのに不公平でしょ。」
     ユナも笑顔だった。義兄が見た、ユナの初めての笑顔だった。
     この時のユナは、あまえたいと思っていた。そんな自分に、騎士が愛想がつかさないか不安だったが、義兄はそれを自ら受け止めてくれた。喜びのあまりアレイヤの長子としての現実を忘れたこの一瞬、魔力がとても弱った。だけど、見えた世界は虹のような輝かしい世界だった。
    ユナの表情が豊かになるまでそんなに時間はかからなかった。幼児化したのではないかと思う節もあるが、それは今まで押し殺してきた感情を爆発させているからだと、義兄はそれを笑顔でそれを受け止めている。


引用返信/返信 削除キー/
■121 / inTopicNo.20)  天日星の暖房器具〜18節
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/01/10(Mon) 18:46:59)
    2005/01/11(Tue) 04:21:57 編集(投稿者)

    〜第18節〜



     昨夜は真祖救出の報に喜び、バンパイア達は盛大に盛り上がっていた。
    夕時宴の席にはユナ、そして英雄に祭り上げられたエルリスと義兄も一応参加していた。
    セリスは、真祖から呼び出されていたので、参加していなかった。
    主役の居ない宴というのもなんなのだが、エルリスと義兄が居たので良しとされた。
    義兄はこういう場に慣れているようで、社交辞令が出来ていた。
    エルリスは、そんな義兄を見て、なんとなくからかってみたくなった。
    からかいのネタはある。
    「で〜なんで、私を置いてきぼりにして、真祖様と先に帰ったの?」
    「な!?なにを・・・」
     エルリスの良くわから無い話題に義兄は困惑し、ついつい地が出てしまった。
    この件は、エルリスも合点がいかない。どうも、いつおいていかれたのかがわから無いのだ。
    記憶が曖昧というか、完全に抜け落ちた感覚である。
    カヨワイ(?)少女を置いていくような状況だ。きっと義兄の性格なら、多少の自責の念はあるだろう。
    疑問の解決と、からかうことを両立できるのだから、こんなに面白いネタは無い。
    「あれは、お前が用があるって言って、どっかに行ったんだろ?」
    「へ?」
     エルリスにとってこれは、考えもしない話だった。
    義兄はエルリスの疑問に、口を尖らせて、めんどくさそうに頭を掻いて答え、
    エルリスは、義兄の思いもしない言葉に、困惑している表情だった。
    しかし、この仕草が思いもよらない展開に発展する。
    「あ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
    「「ビクッ!?」」
     義兄とエルリスはハッと叫んだ本人、つまりユナを見た。
    「そんな・・・兄さん・・・(涙)」
    「???どうした、ユナ?」
     ユナは、やや離れたところから、もうダッシュで走ってきて、義兄とセリスを引き離した。
    「おっと。何よ、ユナ。危ないじゃない。」
    「う〜〜〜〜。」
     エルリスの忠告に対しても、半泣きで睨むつけるだけで、特に気にとめた様子は無い。
    それどころか、さらに暴走し始めた。
    「うん・・・そうだよね。妹として、兄の恋路を邪魔するなんてダメだよね・・・。
    エルリスに兄さんを『盗られる』のは、辛いけど。兄さんがそれでいいなら、認めないと。
    だけど、兄さんが欲しければ、私を倒してからにしなさい。私を倒すには3つのアイテムを手に入れて、
    銀の竪琴で紡ぎだした薬草を石版に捧げ、世界の根源たる・・・」
     と、壊れた人形のように、意味不明で、そして心にも無いことを言い始めた。
    「「はぁ?」」
     どうやら、ユナには
    『エルリスに愛を告白する義兄。照れ隠しで、頭を掻いている。』
    『突然の告白に戸惑いつつも心を浮かせるエルリス。喜びと戸惑いで困惑している。』
    と、いうシーンに映ったようだ。
     その後、ぶすっとしたユナの誤解を解くのは、ある意味真祖救出より大変な作業だった。



    「すみません。お墓参りに時間をかけてしまいました。遅れてしまってごめんなさい。
    あなた『も』セリスさんですね。私はヴァンパイアの主にして親です。」
     真祖は、今朝方セリスを確認しているにも関わらず、初めてあったかのように自己紹介をした。
    「はい、私はセリスですけれど・・・。
    だけど、今朝、あなたには会いました。なんで初対面みたいな挨拶をするんですか?
    ヴァンパイアの仕来りなんですか?」
     セリスは、遠慮がちに聞いてみた。真祖が『が』ではなく、『も』と言ったことは些細なこととして聞き流した。
    「いえ・・・ちょっと、試したいことが・・・いえ、なんでもありません。」
    「???」
     真祖は、今朝と同様『あれ?』と首をひねった。
    今、自分の前にいるのは紛れも無くセリス本人。秘めたる魔力が異常に高いので間違いない。
    真祖は一つ確信をしてたことがあったのだけれど、ものの見事に外れたわけだ。
    ただ、セリスと面と向って話してみて、確信したことがあった。
    目の前のセリスに『長子』の因果が無い。




     翌朝、義兄はユナに頭を深々と下げた。
    「なんの冗談ですか?兄さん。」
    「冗談ではございません。」
     義兄は、一糸乱れぬ姿でユナに最敬礼している。
    突然の行動に、ユナだけでなく、一緒に居たエルリスとセリスも驚いた。
    「やめてください。兄さんが、エルリスと一緒になることを私に許可を求める必要はありません。
    好きにしてください。だけど、こんな姿をもう見たくは無い。」
     ユナの口調が徐々に大人びはじめていることをエルリスは感じ取った。
    「ご冗談を。私が忠義を尽くすのは、ユナ・アレイヤ様お一人です。」
     義兄の口調から、悪ふざけは聞こえなかった。
    「では、何故・・・。」
     義兄は、ことの次第をユナに、エルリスとセリスの事以外、掻い摘んで全て語った。
    エルリスの話をしても良かったが、セリスが近くに居たので、それは控えた。
    「私に、女王になれと。国を救うために、再びアレイヤを復興させよというのですか?」
     ユナは、義兄を睨んだ。
    数年前、二人で約束したこと。
    『私は妹で、あなたは兄さん。』
    一生、この関係を守っていこうと・・・。
    ユナにとって自らの家の宿命を受け入れることは、すでに拒む対象ではない。
    だけど、二人の約束は絶対だった。
    国の王となれば、今までのよう関係は望めない。主と護衛の関係に戻ることになる。
    「本気ですか?」
     ユナは、最後の抵抗を言葉に乗せた。
    「冗談です。」
     フッと敬礼をやめ、義兄は肩を回しながら、笑顔で答えた。
    「「え?」」
     エルリスとユナの声が重なった。
    「やっぱ、俺には無理だ。すまなかったな・・・ユナ。」
     そういうと、とっとと立ち去ってしまった。
    「兄さん・・・。」
     その後姿をユナは、涙目で送った。やっぱり兄さんだった・・・それは、嬉し涙だった。
    エルリスは、そそくさと去っていく義兄を見て、ついつい苦笑してしまった。
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■122 / inTopicNo.21)  天日星の暖房器具〜19節
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/01/12(Wed) 05:50:41)
    〜第19節〜


    「意外ですね・・・。あなたならキッパリと言えると思っていたのですけど。
    あなたでも彼女には弱いみたいですね。」
     義兄の後ろから真祖が声をかけてきた。その口調に義兄を非難する気持ちは込められおらず、
    正直に驚いているようだった。
    「いえ。たしかに、私はユナに有無を言わさない形で打診しました。
    でも、彼女はそれを拒否した。それだけのことです。」
     義兄は、真祖のほうへ振り向かずに言った。真祖はちょっとため息をついて
    「ふふふ・・・。仲がいいんですね。少し妬けるくらいです。」
     と、笑顔で言葉を残し、去っていった。
    今朝方、たしかに義兄はユナにとっては現実を突きつける、
    最も辛い形で女王になることを打診した。そして、ユナは拒んだ。
    ユナが受け入れるのであれば、義兄はそれに従ったし、拒んだならまたそれに従う。
    今朝の件は、ユナの意思に全ての選択権のあり、
    義兄はそれに従うだけという自由なものだった。
    しかし、今朝の話を知るものは、もうユナに女王になることを打診しようとする者はいない。
    結果として義兄は、ほぼ完全な形でユナの自由を守護したのだ。



     真祖救出の際、戦況に追い詰められていた女王を目の当たりにして、
    義兄の心はゆれにゆれていた。エルリスに女王が真祖誘拐の主犯だと聞いたときから、
    状況は大体読めていた。城内に進入し、エルリスが暇だからという理由で寝ているときも
    義兄はずっとこのことを考えていた。実は、それはユナに拒まれたときまで続いていた。
     

    「しかし・・・まいったな・・・。国が滅ぶのをただ見て過ごすわけには行かないし・・・。」
     義兄は、あのときユナを押し切れなかったことをちょっと後悔してたりする。
    ユナの悲しむ顔を見ることに比べれば、些細な後悔でしかないけれど。
    しかし、考えはまとまらなかった。
    よくよく考えれば、仮に滅んでも自分所為じゃないし関係ないから、
    自分が気にすることも無いじゃないかと、開き直ってしまおうかと考えてしまったほどだ。
    「はぁ〜」
     と、義兄がため息をついてると。
    「大丈夫だよ。私がなんとかするから。」
     ふと、後ろから声がした。今日はよく後ろから声をかけられる日だ。
    「セリス?」
     声をかけた本人はセリス。義兄はやな予感がした。
    「まさか・・・」
     義兄の心配を他所に、セリスは一つのたすきを見せた。
    「じゃぁ〜〜〜ん」
     一日女王様と、でかく書かれた肩にかけるタイプのたすきを見せてセリスは笑顔で言った。
    字は、ユナの書いたものと思われる。
    呆気に取られている義兄を面白おかしくみつめてセリスは言った。
    「ユナちゃん。一日なら我慢してくれるって。それで、その日のうちに何とかするってよ。」
     義兄は、まだ状況が確認できていないようで、???マークを空中に浮かせていた。
     結局なんとかするのはセリスじゃなくて、ユナのようだ。
     
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■123 / inTopicNo.22)  天日星の暖房器具〜20節
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/01/13(Thu) 06:35:46)
    〜第20節〜



     あれから3日後、義兄とユナ、そして命対策に真祖を加えて、一向は王都へ向かった。
    真祖の目覚めは遅れてしまってはいたが、なんとか王と出発までには間に合わせた。
    ヴァンパイアとして目覚めきった真祖に命が対峙してくるとは思えないが、仮にそうなっても、目覚めきった今なら、真祖は、精神に働きかける闇の魔法も駆使し、命を返り討ちにすることができる。だから、他のヴァンパイアではなく真祖が行くことになった。


     ユナたちを見送ったエルリスとセリスは、ヴァンパイアの森を離れ、連邦の領土へと出発した。
    命に狙われる可能性もあるが、義兄とエルリス、真祖で話し合った結果、ユナとセリスは一応隔離した方がよいという結論になった。
    何故、戦いが起きないのか理由が分からない。今の状況だと、お互いが長子だと思っていないから戦いが起きないのだという理由でしか説明がつけられなかったので、何れ二人が気がつく前に、隔離しようという事になった。ユナは一日女王となり、連邦に存在感をアピールすると共に、戦場でデッド・アライブのデモンストレーションをするという方法で、王国への進行をとめる役を担う。同時に、念のためヴァンパイアの森からいつでも出撃できるように待機するという役目がある以上、森を離れなれない。
    当然、外に出ればエルリス達にも危険が付きまとうのだが、エルリスの独断と偏見が、今の状況のほうが危険だと判断し、出て行くと進言したため、このような経緯になった。


    「ねえ?セリス。それって玩具だったの?」
     連邦への旅路の途中、エルリスが、セリスが遊んでいる丸い物を見つめて、言った。セリスには、連邦へのスパイをするために進入すると理由している。
    「このエターナルメビウスの事?うん・・・一応ヨーヨーって言う玩具だよ。」
    「ヨーヨー?」
    「うん。こうやって遊ぶの。」
     と、言ってセリスはヨーヨーをやって見せた。
    「へえ〜。面白そうだね。ねぇかしてよ。」
    「ダメだよ。姉さん、これは真祖様から貰った、魔力を通すと触れるだけで怪我をさせてしまう武器なんだよ。初めてヨーヨーを見た姉さんには危なくてかせないよ。」
    「え〜〜〜〜(涙)」
     セリスは知っている。随分前にけんだまを貸したが、エルリスは不器用にも、あさっての方向に剣玉ごと投げてしまったことを。今回、それをされると怪我ではすまない。
     


    「真相を話してくれますね。騎士殿。」
     そのころ王城では、一通りの役目を終えたユナと、義兄が二人だけでいた。
    ユナは完璧な女王を演じきった。対外アピールも完璧であったし、前線にて、空へ向けて行使したデッド・アライブの威力は、周りの人の予想を大きく上回るもので、連邦軍をたちまち退却させてしまった。
     一通り、仕事を済ませたユナは、前々から気になっていたことを聞いた。
    「真相・・・ですか?」
    「そうです。あなたとエルリスは私に隠し事をしています。
    たしかに、女王たる者が家臣の恋路に干渉をするのは良い行いではないと思いますけど、別の理由だったときの事を考えると聞かざるを得ません。」
     要するに、ユナは立場を利用して、義兄とエルリスの恋人疑惑の真相を聞きだそうとしている。いつもなら、うまくハブらかされてしまうが、今ならうまく行くような気がしていた。
    「お気づきでしたか・・・。」
    「え?ええ・・・。」
     正直、エルリスと恋人ですなんていわれた日には3日は立ち直れないだろう。
    「実は、ハーネットの本当の長子はセリスの方です。」
    「やっぱり・・・兄さんは・・・・・・へ?」
     すでに、義兄の答えを予測していたつもりだったユナは、想像もしていなかった返答に驚いた。それも、かなり重大な内容。
    「セリスが・・・だって、エルリスはエレメンタルブレードを・・・。それにセリスから強力な魔力を感じません。」
     中途半端に女王口調、中途半端に地に戻ってユナは言った。
    「はい。しかし、真祖様はセリスから強力な魔力を感じたと言われていました。エルリスがエレメンタルブレードを扱える理由は分かりませんが、たしかにセリスが長子だと考えられます。」
    「本当ですか?」
    「間違いありません。少なくともエルリスが長子でないのはハッキリしています。」
    「・・・。それは、エルリスから聞いたのですか?」
    「たしかに、本人もそういっていました。聞く前から分かっていました。私とエルリスは形は違えど、同じ目的、同じ立場にありました。ですから、お互いすぐに相手を看破できました。ユナさまにお伝えしなかったのは、セリスとはお互いを知らないから仲良くできるのだと思っていたらです。」
     ユナはそれを聞いて、少し考えてから言った。
    「だからエルリスとセリスを私から隔離しようと、旅立たせたのですね。
    でも、私たちの宿命は生理現象のようなものです。
    私たちがお互いを知らなくても、相手を見れば必ず運命に左右されます。
    だから、たたかわなかった理由にはなりません。」
    「え?」
    「もしかしたら、私たちの前にいたセリスは、偽者なのかもしれません。」
     ユナの言葉に、義兄は困惑した。




    「コホン・・・。ところで、私たちは今、兄妹ではないですよね・・・。」
    「はぁ?」
     コホンと咳払いしてから、いきなりユナは別のことを言い始めた。
    「で・・・騎士殿とエルリスの関係もなかったみたいですし・・・。」
     顔を真っ赤にしてユナが言う。
    「はっ、失礼しました。すぐに退散します。」
     義兄は、慌てて部屋をあとにした。身分違いが長く同じ部屋にいると、あらぬ疑いがかかると、ユナが忠告してきたと判断したからだ。
    「え・・・、あ・・・・・・」
     ユナが声をかけようとする前に義兄は退散してしまった。
    一人残されたナは・・・
    「逆なのに・・・」
     と、独り言をもらした。


     翌日、どういう風の吹き回しか、ユナはしばらく女王を続けると言ってきた。
    国のことを思うと、辞められないと、ユナは周りに感動を与えるスピーチをしたのだが、実際のところ別の目的の方が強かったりする。


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■127 / inTopicNo.23)  天日星の暖房器具〜外B
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/01/15(Sat) 02:46:06)
    〜外伝3〜


     8000年前のこと。
    現在のエインフェリア王国のある地の支配権を巡る抗争があり、
    血で血を洗う惨事を引き起こしていた。
    ラドル・ハーネットを筆頭とする王家と、クラーク・アレイヤを筆頭とする王家の2大王家の戦いであった。
     古代に位置する当時の魔法レベルは非常に高く、
    一般市民一人が持っていた魔力は、現在の国を代表する騎士の実力に等しいくらいであった。
    しかも、最も危険だったのは、血の突然変異で魔力が増大していた、2大王家と呼ばれる家系の長子にあたる者である。
    その魔力は、無尽蔵とまで言われており、人でありながらヴァンパイアの真祖やエルフの長老と対等に戦える力を持っていた。
    そして、エルフやヴァンパイアが持ち得なかった物、
    宝具といわれている強力な武器を所持していた両王家の長子は、
    世界を組織しているはずの精霊すら、自分の力と宝具で、作り出せてしまうなど、
    世界の構造全体にまで干渉できる存在であった。
     そのような者らが互いに戦争をしているのだから、その規模はすさまじく、
    人類が絶滅しないのが不思議なほどであった。
    この事態を重く見たのが、ラドル・ハーネットの娘で、次世代の長子にあたるルテイシア・ハーネットと、
    クラーク・アレイヤの息子で、次世代の長子にあたるアラン・アレイヤであった。
    二人は、戦いを終わらせることを約束し、二度と同じ過ちが起きないように対策を立てることにした。
    人工精霊を使った総力戦が控えていた事から、
    一刻を争うと考えていた二人は、宝具を用い、互いの父を暗殺し、
    王家を自己壊滅に置きこむ形で、速やかに戦争を終結させた。
    さらに、両家がけして戦争をしないように、自らの家系に向かって呪いをかけた。
    『500年に一度の周期現われる、両家の長子は、血が活性化し、膨大な成長を遂げる。
    したがって、成長しきる前に心中する本能を受け付ける。』
    心中という策に出たのは、片方の王家の長子が生き残ることを阻止するためである。
     そしてさらに、互いの全ての魔力を出し切って、一つの人工精霊を作り出した。
    二人はそれにミコトと名づけ、心中が成功するか監視する役目を与えた。
    ただし、争いごとを嫌った二人は、ミコトが人外との戦争の引き金にならないように役目と同時に制約をつけた。
    『人外の者に手を出してはならない』と。



     ミコトの頑張りもあり、両王家の血も薄れていき、
    今では直系以外で長子にあたる人物が現われることは無い。
    そして、その直系でさえ血が断絶しそうな状況である。
     


    『私は、私を創ってくれた人への恩に報いるため、あの人たちの願いをかなえ続ける。』




引用返信/返信 削除キー/
■142 / inTopicNo.24)  2月3日〜の大幅な編集について
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/02/03(Thu) 02:56:38)
    内容が分かりにくいので、分かりやすくなるように文章やシナリオを補完しています。
    前々から検討していた、サブタイトルをつける作業も同時に行っているので、
    サブタイトルが付いているものは、編集作業が終了したと思ってください。
    シナリオの本筋に変更点はありませんが、『ユナの義兄』と言い続けるのは、やはり困難であったため、『レイヴァン・アレイヤ』と仮称をつけています。
引用返信/返信 削除キー/
■143 / inTopicNo.25)  2月3日〜の大幅な編集について2
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/02/04(Fri) 12:58:07)
    2005/02/04(Fri) 14:00:12 編集(投稿者)

    第7節で氷の精霊に名前がないのが不便でしたので、『フリード』と名づけてあります。

引用返信/返信 削除キー/
■144 / inTopicNo.26)  〜第8節〜<長子の実力>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/02/04(Fri) 13:52:45)
    2005/02/04(Fri) 20:43:48 編集(投稿者)

    〜第8節〜
    <長子の実力>


     闇が深くなり、満月がくっきり映る屋上で、エルリスとユナは対峙していた。
    ユナは魔法銃を構え、エルリスは宝剣を携えていた。
    8000年間続く仕来りに従い、死闘が行われようとしている・・・。

     両者は互いに一歩も動かない。
    先に動いた方がかなり不利な状況に追い込まれるからだ。
    そのまま、半刻が過ぎようとしていた。
    そんな時、いつまでも動かない2人にイライラした、今までは善良な観客のように見つめたいた月が、
    闇に包まれる屋上を照らし、あたりを一瞬だけ明かりに包んだ。
    静寂は一瞬にして消えた・・・。
    先に動いたのはユナだった。
    ユナは銃に弾を詰め、一気に火球を放った。
    エルリスは横に跳躍し、宝剣をかざし、凍てつく氷柱をユナに向けて放った。
    ユナはそれを小さな火球でなんなく相殺し、加えて追撃に魔法銃からの攻撃を加えた。
    エルリスは、これを宝剣で堪えたが、そのあまりの威力に宝剣はもたず崩れ散った。
    宝剣を失ったエルリスの周りから、急速に魔力が無くなっていく。
    勝敗は一瞬でついた。
    ユナは、自分の立っていた位置から一歩も動かず、汗も流していない。
    一方エルリスは、体中を火傷し、一歩も動けない状態に追い込まれた。
    でも、彼女にはまだ切り札があった。
    「氷の精霊よ。私に乗り移りなさい!」
     その言葉に反応するように、エルリスに氷の精霊が乗り移る。
    いや・・・乗り移らなかった。もはや朽ちるだけのエルリスなど見捨てて、精霊はどこぞへと消えていた。
    万策尽きた・・・。ユナは、静かにエルリスに余裕の表情で近づき、
    嫌味ったらしく、『フッ』と笑った。
    この少女がここまでいやなやつであっただろうか?
    すると、ユナの顔がグニャグニャに歪み、あの男の顔が出てきた。
    「ははははっっっ!!!エルリス。君では妹どころか、私にも勝てんのだよ。」
     もはや説明不要のこの男は、馬鹿笑いしていた。
    エルリスは悔しかった。この男の前だけでは絶対、地に手をつきたくなかったのに・・・



     
     エルリスは目を覚ました。
    「ここは・・・。」
     いや・・・場所よりも深刻なのは、目をあけた瞬間にさっきまで馬鹿笑いしていた男の顔が、
    目の前に飛び込んできたことだ。
    「おお〜気がついたか。」
     レイヴァンは笑って言った。
    「・・・・・・。なんで、あんたがここに居るのよ?」
     エルリスは怪訝そうに言う。
    「そう、トゲトゲするなよ。仲直りしよぜ。こうしてうなされる君に膝枕して看病してやってるわけだしね。」
     義兄は、屈託の無い笑顔で言った。本気のようだ。だが・・・
    「そのおかげで、もっと酷い夢を見たわよ!!!あんなのありえないわ。」
     やりかたには大きな問題があった。
    「私のさわやかな朝を返してよ!」
     エルリスは、数『多い』楽しみの一つを奪われたので、ご立腹である。
    「これでも夜の見張りだってしてやったんだぜ?どんな夢を見たかは知らないが、感謝されても怒られる筋合いは無いぜ。」
    「見張りはともかく・・・普通に怒るに決まってるでしょ!」
     エルリスの意見はもっともである。
    「私の神々しい寝姿をただで見れるわけ無いでしょ!!」
     言い回しはともかく。



     セリスとユナは仲良く朝食を調達していた。
    『全く・・・人の気を知らないんだから・・・。』
     仲の良い2人を見て、エルリスはうれしいような悲しいような表情をしていた。
    まぁ、二人はいいとして・・・エルリスにとって、レイヴァンと2人で見張りに徹している今の立場は悲しいものでしかなかった。
    『よもや・・・ご飯を作れないと言う欠点がこんな形で仇となろうとは。』
     自らの怠慢を深く反省していた。
     ユナとレイヴァンは、追っ手を振り払いエルフの住むという森へやってきた。
    普段はもっとも危険なところだが、義兄のシックスセンスによると一番安全な所だったらしい。
    そして、そのまま森を徘徊してたところ、衰弱したエルリスと気を失っているセリスに出会ったのだ。
    どうやらエルリスは、無意識にここへたどり着いたようだ。おそらく独断と偏見がここへ呼び寄せたのだろう。



    「「できたよぉ〜!!!」」
     ユナとセリスの合作の昼に食す朝食が出来上がった。
    ユナから大凡事情を聞いたセリスは、ユナのレイヴァンとエルリスの仲直り記念と言うことで、
    サニーサイドアップ〜セリスすぺしゃる〜を作っていた。もっとも、レイヴァンはともかくエルリスにその気は無い。
    サニーサイドアップ〜セリスすぺしゃる〜は、表面がどこもカラッとした目玉焼きである。
    両面焼きのターンオーバーでは無いのに、この芸当をやってのけているのは、まさに神技であった。
     セリスすぺしゃるが大絶賛されていることをエルリスは、まるで自分のことであるように喜んだ。



     朝食の後、ユナと義兄は2人で話していた。
    「なぁ、ユナ。本当にあいつらと行動を共にするのか?2人だけの方が動きやすいと思うぞ。」
     レイヴァンは、まじめな顔で言っている。
    「ん?だって、その方が心強いじゃない。エルリスがいた方が戦力的には助かる筈だよ。」
     ユナは屈託無い笑顔で言っている。
    そもそもレイヴァンには彼女と仲直りする気は無かった。
    仲直りはユナの提案で、レイヴァンもしぶしぶ形だけ仲直りしただけである。
    超出血大サービスとはいえ、あろうことかエルリスに膝枕をしてやるなんて、鳥肌が立つほどいやだった。
    しかし、そのくらいしないとダメだろうと義兄のシックスセンスがそう言いはったのだ。
     ユナは、エルリスの魔力の低さにはうすうす感づいている節があるが、
    相変わらずハーネット家の『長子』だと思っている。
    エルリスが戦力にならないことをユナに告げても良かったが、
    戦力と言う言葉は彼女にとって建前でしかない事は容易に理解できたし、
    ユナの望む、エルリスらと仲良く共に行動する事を実現させるには、不要な情報は伝えるべきではないとレイヴァンは判断した。
     それに自分といてもあまり見せることのない、朝食のときの明るい表情のユナを見てふと思う。
    『本当に戦いをしたくなかったのは、エルリスではなくユナだったのかもしれない・・・。』
     レイヴァンは、あの日戦いが起きなかったことは本当はすばらしいことだったのではないかと思いはじめていた。
    もし決闘をしていたら、元気で明るいユナは、幼い頃の悲しい瞳をしたユナに戻っていたかもしれない。
     



    「ところで、兄さん。」
    「ああ・・・分かっている。」
     周りは、明らかに何者かに囲まれていた。
    すぐにエルリスとセリスもここへやって来た。敵は強い・・・そう彼らには伝わった。
    おそらくエルリスやレイヴァンが8人に増えてもこれでは勝ち目が無かった。
    「セリス・・・私の後ろから離れないでね。」
     エルリスはセリスを庇うように、エレメンタルブレードを構える。エレメントクリスタルには冷気の魔力がすでにチャージされている。
    「まずいな・・・ユナ。場合によってはお前だけでも・・・」
     そこまで言って、レイヴァンは目を見開いた。
    的に、標的になるような位置へ移動し、ユナはこう言ったのだ。
    「すみません。私達はあなた達に敵対するつもりは無いです。でも・・・今すぐここを出て行くことは出来ません。
    自分達も追われている身です。迷惑かもしれませんが、もうしばらく置いてください。」
     レイヴァンは悪寒がした。口調、表情、共に幼い頃のユナのものであった。
    ユナの言葉に対し、すぐさま謎の相手から返事が返ってきた。
    「無駄だ。我々の地を踏んだ時点で貴様らは、消えてもらわなければならない。」
     そこに感情は無かった。それがあたりまえであるかのだった。 
    「分かりました。では、私も出来る限りの抵抗をさせて頂きます。もし、命を落としても運命だと思って諦めてください。
    慈悲を与えるほど・・・ゆとりがありませんから・・・」
     そう言うと、姿の見えなかった敵、数名のバンパイアとユナの戦いがはじまった。
    ユナはデッド・アライヴを使うことなく、自らの力だけで敵をなぎ倒していく。
    ユナは、宝具を使用しなくても古代魔法を放つことができていた。人間でこのような芸当ができる者はそうはいない。
    いや、ユナただ一人かもしれない。
    バンパイアはどれをとってもレイヴァンはもちろん、宝剣エレメンタルブレードを手にしたエルリスより強かった。
    だけど、それらはユナには手も足も出なかった。
    どんどん一箇所に積まれてゆく動けないバンパイア達。
    中には、もはや命は助からないだろうものも含まれていた。


     戦いは数分で終わった。ユナもけしてゆとりがあったわけでは無い。
    だが、結果は無傷での生還となった。
    エルリスは目の前の惨状を見て驚愕した。これは夢で想像していたユナよりも遥かに強い。
    彼女の全ての攻撃は、夢の中に出てきたユナのデッド・アライヴの威力を凌駕していた。
    レイヴァンも目を丸くしている。まさか、自分の義妹がここまで強いとは想像もしていなかったのだろう。
    それ以上に、過去の恐怖がよみがえっていた。
    あの夜、エルリスを影打ちするつもりでいたが、彼女の言うとおり、全く意味が無かったようだ。
     戦い終わったユナをこの中の誰もが向いいれることが出来なかった。足が震えていたのだ。
    戦う運命にある少女が、自分の空想を遥かに超える強大な存在であったこと、
    守るべき少女にとって、自分の力など赤子の手をひねるようなものだったこと、
    そして・・・目の前の惨劇。
    ユナはそんな彼らを見て少し寂しそうに見つめていた。
    『エルリスなら・・・』
    それは、同じ気持ちを共有できるであろうエルリスへの彼女の淡い叫びでもあった。
    レイヴァンにはそれが出来ない事はよく知っていた。むしろだから兄さんは信頼できるのだ。
    レイヴァンはけしてユナを特別な人として認めることはしない。
    昔、ユナとレイヴァンが二人だけの約束事をした時以来、
    ユナを自分と同じ普通の人間として見てくれていたのである。
    だから、今の今まで特別な力の存在を認めはしなかったし、ユナだって見せてこなかった。
     場の空気は、勝利の歓喜に沸くことも無く、時間が止まったように寒かった。


    「え?」
     セリスは彼女に近づいていて、ガシッと抱きついた。
    呆然としていたユナはセリスの動きを全く見ておらず、完全な不意打ちだった。
    思わず体が強張った。
    「ありがとうユナちゃん。助かったよ。」
     セリスの発した何気ない一言が、凍った氷柱のように冷たく堅かった場を春のように溶かした。
     いつの間にかレイヴァンとエルリスが
    「どうだ、俺様の最愛の妹の実力は。」
    「うるさい・・・。」
     などとやり取りを始めていた。ユナにはどこか微笑ましい情景に見えた。
     

引用返信/返信 削除キー/
■147 / inTopicNo.27)  〜第12節〜<氷の精霊と憑依>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2005/02/06(Sun) 22:33:08)
    〜第12節〜
    <氷の精霊と憑依>



     その日の夕方、ロード・オブ・ヴァンパイアの神殿で、真祖の救出計画が練られた。
    出席者は、あの老いたヴァンパイアと数名の頭のよさそうなヴァンパイア、
    ユナ、レイヴァンだった。セリスは気分を悪くして今は眠っている。
    エルリスは、幸いギリギリの所で自我を回復させたのだったが、会議に出るほどの余力が無かった。



     戦争の多いこの世界では、死闘が行われるのは珍しくないないのであろう。
    エインフェリア王国とビフロスト連邦は数年前から戦争状態に陥っている。
    ただ・・・、エルリス達は戦いの無い世界で生きてきた。王国に住んでいる限りは戦わずに住む人が多い。
    それは、女王が極力王国民に被害が及ばないように気を使っているからだ。
    しかし、そうであっても人の死を知らないわけじゃない。
    ユナの両親は、ユナがまだ魔術学園に入学する前の、エルリスの近所に住んでいた時期に病気で死んでいる。
    病気が進行してくると、ユナの両親は魔術病院に入院し、最後まで生きようと努力していた。
    ユナは、毎日のようにレイヴァンに付き従って見舞いに来ていた。
    告別式のとき、死んだ両親は、きちんと正装され、
    丁寧に棺おけに入れられていたのをエルリスは覚えている。
    しかし、今回のルードの件は、エルリスにとってもショックな出来事であった。

    『結界魔法』

     老いたヴァンパイアによると、魔法が確立される前のおよそ9000年程前は、
    結界魔法が主流であって、特に一対多数の戦いにおいては主力だったらしい。
    今でこそ結界は、自分を守ったり、弱い相手を捕らえたり、保存することに使われるが、
    本来の結界魔法とは、結界を張った後、呪文を唱えることで魔法が放たれるというものだった。
    その詠唱の複雑さから、現代では滅んでしまった魔法体系だという。
    あの老ヴァンパイアでさえ、既に使えなくなっているほどだ。
    ただ、エルリスには、あの時の呪文は複雑ではなく・・・まるで自分の生き様を描いているように、
    さらに・・・自分に対する『ごめんなさい』という意思が込められているように感じられた。


    「お前が、気に病むことは無い。」
     考え事をしているエルリスの背後から、声が聞こえた。エルリスはこの声の主をよく知っている。
    「あら?あなたが表に出てくるなんて珍しいじゃない。」
     フンと、はなを鳴らすような態度でエルリスは背後の声に答えた。
    そこには、エルリスに取り付いている精霊フリードが立っていた。
    「まあな。あまり落ち込まれても、こちらとしてはいい気分はしないんでな。」
    「へぇ〜?心配してくれるなんてもっと珍しいわね。明日は大雪かしら?もしかして雷雨?」
     エルリスは皮肉をこめて言う。それを無視してフリードは続ける。
    「あの結界魔法の名は『氷縛結界』という。」
    「ふ〜ん。そう。それで?」
     エルリスは、あの結界の事に興味はあったが、あえて興味なさそうに返した。
    誰とも話したくない気分だったからだ。
    精霊に憑依されている事実がこんなにも不快にもったことは無い。
    セリスがルードの雷に打たれたと思った時、エルリスは本心状態になり隙だらけになっていた。
    あの時、フリードが出てこなければ、殺されていたのは自分だろうし、
    精霊に憑依され体を完全に奪われてしまっても文句は言えなかっただろう。
    「・・・。」
     精霊はエルリスの態度に圧されてしまうように言葉を詰まらせた。
    「それにしても、余計なことをしてくれたわね。あんなの私だけで勝てたわよ。
    それも、あんな後味の悪い戦いじゃなくて、もっとスマートな戦い方でね。」
     エルリスは、また皮肉をこめて言う。今度は精霊も反応した。
    「なるほど・・・。君が落ち込んでいる原因というのはルードの死か。」
    「!?」
    「理解できないな。殺そうとしてきたものを殺すことになんのためらいがあるだ?」
     精霊は、あたまを左右に振ってやれやれという仕草をしている。
    「別にあの人の死を私は悲しまない。だけど・・・やり方には限度ってものがあるわ。」
    「限度ね・・・。さてさて、どのような殺し方が限度内だったというのだ?
    結果的には、どれれも同じだったと思うが。」
    「・・・。」
    「俺も理解は出来ないが予想ならつく。ハッキリと相手の死を見せるなということだろう。
    葬式にしてもそうだ。人間は、死んだ人間を見ようとしない。直に棺おけに入れたがる。
    しかも、他人の死の間際を本当に見た人間なんて、そう多くは居ないだろう。
    道端に死体が置いてあったぐらいで取り乱すような輩だからな。
    普通は自分の見えないところでひっそりと死ぬものだと・・・。
    要するに、お前らにとって死というものはタブーであったのだろう?」
    「何が言いたいのかしら?」
     エルリスは精霊の言葉を無視した。
    それを精霊は肯定との意思と判断した。
    「なるほど・・・。まぁそういうことなら考えてやらんことも無い。以後は『スマート』に行うとしよう。
    だが、勘違いされては困るな。関与していないといわれれば嘘だが、あれは俺の技じゃない。」
    「何ですって?」
    「つまり、あれは別の者がお前の体を利用して発動したものだということだ。」
     エルリスは鳥肌が立った。
    この精霊以外にも自分の自由を奪う手段をもっているものがいるという事実は信じがたいが、
    どうも嘘を言っているようにも感じられなかった。
    「だれよ、それは?」
     エルリスは精霊の胸倉を掴んで問いただした。
    「やれやれ・・・、そこまで答える理由は無いな。」
     精霊は答える気が無いようだ。エルリスはさらに突っかかる。
    「どうしてよ。将来はあんたが乗っ取る筈の体でしょ?
    将来の自分の体をいいように使われて、ムカつかないの?」
     エルリスは口調を強くして叫んだ。それを静かな目で精霊は見て、
    「あまりいい気はしない。だが、俺にとってはあのまま死なれた方が困る。」
    「今回は、どちらにせよ殺すか殺されるかの戦いだったのだ。過ぎたことは忘れることだな。」
     エルリスはまだまだ言いたいことがあったが、精霊はそう言い残すと闇の中へと消えた。
      


     しばらくして、神妙な場を荒らすようにユナが泣きながら走ってきた。
    本当に間が悪いというか空気の読めない少女である。そこが魅力でもあるのだけれど。
    「エルリスぅ〜〜〜〜(涙)」
    「はぁ・・・。」
     どうせろくな事じゃないだろうと思い、エルリスはため息をついた。
    『また、何かにつき合わされるのか・・・。』
    「兄さんが、私じゃなくてエルリスと王都へ真祖を奪還しにいくとか言うんだよ!!」
    「はぁ?」
     いきなりそんなことを言われてもエルリスには意味が分からなかった。
    「つまりだ。戦力を割けないヴァンパイアの代わりに俺達が真祖様を奪還しに行く。」
    「それでだよ。私が私と兄さんで行く!って言ったのに・・・
    兄さんがエルリスと行くって勝手に約束しちゃったんだよ!!」
    「はぁ・・・」
     エルリスは考えた。そして・・・
    「ええ。その方がいいでしょ?」
     などと言った。
    「え〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
     ユナの絶叫が響く。
    「だって、だって、強い人が行った方が確実だよ。」
     ユナは抵抗をする。
    「ええ、だから私とそこのやつで行くんじゃない。」
    「私のほうが・・・。」
    「じゃあ、私とユナで行くの?それじゃ疲弊しきったヴァンパイアの守りが乏しいわね。」
    「だから・・・エルリスが残って・・・。」
    「それはダメだな。エルリスとセリスでは疲弊しきったヴァンパイアの守りが乏しいな。」
    「う〜〜〜〜〜〜。」
    「「それに、私/俺の、独断と偏見/シックスセンスが、これが最善だと言い切っているわ/ぞ。」」
     連携の追い討ちについにユナはイヤイヤモードに突入した。
    「いやいや〜。やっぱ、兄さんはエルリスのことが好きなんだ。私なんかどうでもいいんだ(え〜ん)」
    「ちょっと待ってよ。そんな迷惑な解釈しないでよ。」
    「だってだって・・・兄さんエルリスに膝枕してたし!
    私だってしてもらったこと無いのに〜〜〜!!(プンぷん)」
     そう言えば、そんな迷惑な話もあった。
     ユナはイヤイヤモード第弐形態、だだっこモードに突入した。
    戦況を冷静に見極めたレイヴァンは、ここで最終決戦兵器を投入した。
    「ユナ・・・。外へユナを出してしまえば、命とか言うものが仕切る組織に狙われることになる。
    だが、俺ならまだ狙われる可能性は低い。だから、俺達が行くのだ。
    俺は、ユナの命のことを第一に想っている。」
     などと、ドラマ顔負けの笑顔で言ってきた。
    「ハイ・・・兄さん・・・・・・(じ〜〜ん)」
     よくよく考えれば、エルリスが外へ出ることも危険なのだが、
    ユナはレイヴァンの言葉に思考力がぶっとんで空想の世界へ突入したので、気がつけなかった。



     ユナが夢見状態で引き上げた後、エルリスはレイヴァンに尋ねた。
    「恩でも売りたいの?」
    「そのつもりは無い。」
     レイヴァンは何でもない口調で答えた。
    「ユナ、私とセリスのこと知らないみたいじゃない。」
    「ああ。教えてないからな。」
     レイヴァンは何でもない口調で答えた。
    「なぜ?」
    「ユナには知らせない方がいいと思うからだ。その方が、きっとあいつには幸せだ。」
    「妹思いなのね。」
     エルリスが、呆れていった。
    「そういうおまえも、その方が良かったのだろう?」
    「ええ・・・。これでセリスは安全だわ。外へ出すのは論外として、中にいても危険だわ。
    あのヴァンパイアだってどこまで信用していいか分からないし・・・。でも、ユナがいれば守れるわ。」
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