Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■384 / inTopicNo.1)  [蒼天の始まり] 第一話
  
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:46:48)
    2006/10/11(Wed) 14:23:17 編集(管理者)


    〜手紙〜                                    



    背中が熱い
     
    「・・・・・・・・・・・・・・・!!」

    誰?

    「・・・・・・・・・・・・・・・!!」

    「・・・・・・・ん!!」

    知っている。あなたは、

    「・・・・・ちゃん!!」

    うるさいわね。


    「お姉ちゃん!!!」
    「うるさーい!!!!!!」

     キィィーーーーン

    「って、あれ?」
    「あう〜」
    「セリス、どうしたの?」

    目の前には、私の大切な妹、セリスが耳を抑えてうずくまっていた。
    え〜と、つまりそうゆうことなのね。

    「セリス、ごめん!!!」

    「大声ださないで〜〜」




    「うう〜」
    家へと帰る途中、セリスはまだ恨みがましく声を上げている。
    だめだ、完全にへそを曲げている。
    夕飯はセリスの好きなものにして機嫌とらなきゃだめね。
    それにしてもさっきの夢はなんだったのかしら?
    なんか懐かしい感じだったけど。




    「おいし〜」
    セリスは温かいシチューを飲みながら、とても幸せそうな顔をしていた。
    よかった。どうやら機嫌を直してくれたようだ。
    もっとも、私は極度の猫舌のため、皿の中身は殆ど減って無い。
    スノウライトの冬は早い、暦の上ではまだ秋だが、時々雪も降る。
    冬になれば、さらに冷え込むため堪らないらしい。
    さすがに雪はまだ降らないが、それでも十分に寒い。

    「そういえば、セリス。先生なんだって?」
    一緒に帰ろうと思ったらセリスが先生に呼ばれたから教室で待ってたら寝ちゃったのだ。
    「あっ!!」
    セリスも思い出したらしく、慌ててポケットから封筒を取り出し私に手渡した。
    「手紙?」
    いったいだれが?そう言って裏を向けて書かれた名前を見て固まった。


    ラウル・ハーネット


    「お父さん・・・」
    手紙の裏に書かれた名前は10年も前に死んでしまった父の名前、
    「お父さんが、もし自分が死んだら私が17歳になったら渡してって先生に
    頼んだんだって」

    「そう・・・。でもセリスの誕生日って2ヶ月も前よね?」
    確か2ヶ月前に親友のミコトと誕生日パーティをしてその時ミコトがお酒を持ってきた
    せいで、大騒ぎになったのだ。
    その翌日、わたしとセリスは二日酔いで全く動けなかった。あれはキツイ。

    「10年も前だもん先生も忘れたんだって」
    確かに10年も前に頼まれても覚えているかどうかなんて危うい。

    「封はまだ開けてないの?」
    「うん、ボクだけで見ちゃだめかな〜。って思って」
    「そっか、じゃあ明けよっか」
    そういって封をあけ慎重に中の手紙をとりだす。
    「どれどれ」
    セリスも手紙を覗き込む。





    エルリス、セリス。
    元気にしてるか。お前たちがこれを見ているということは
    俺はもう、そこにはいないのだろう。

    唐突な話だが、2人とも旅に出なさい。
    今すぐでなくて構わない。が、出来るだけ早くだ。
    これからお前たちには様々な危険が襲い掛かるだろう、
    まずは北の都市、レムリアの入り口付近にあるベアという店に行ってみるといい。
    ベアの店主に地下の倉庫にある手紙を渡してくれ、きっとよくしてくれる筈だ。
    あと、道中いろいろと危険だろうから家の地下倉庫に有るものは好きに持っていって
    構わない。そして、もう1つ。おそらくセリスの発作はまだ治まっていないだろう。
    既に分かっていると思うがその発作は魔力の暴走だ。
    魔法文明は魔法が全盛期だった時期で、似た症例もあるやもしれん。
    並大抵の道ではないが魔法文明の遺産や当時の書物を探せばもしかしたらなんらかの
    手がかりになるやも知れん。
    幸い、ベアは冒険者の店だ、話だけでも聞いておくといい。

    最後に、情けない父ですまない・・・。




    「お父さん・・・」
    「・・・セリス、どうする?」

    セリスの答えなんて分かってる。

    「・・・・・・いくよ。でも、お姉ちゃんは」
    「まった、当然、私もいくからね。お父さんも2人でって書いてあるし
    私にも無関係の話ではないもの」
    危険とはセリスの魔力のことだろう。セリスの魔力は制御できないのを無視すれば、
    おそらく、魔族や竜のような超越種にも及ぶだろう。
    それを知られれば教会の者や魔術師たちが放って置くとは思えない。
    この街自体は田舎だがこの街の先にある山には、教会の者や魔科学者たちがある物を
    調べに来るため、この街を通っていく際に見つかるかもしれない。

    お父さんは、理由がセリスの魔力の所為だというのを隠したかったのだろう、
    けど、セリスは自分が狙われるかもしれないのはうすうす勘付いていたらしいし、
    私自身も同じように異質だと理解している。狙われるかもしれないのは同じだ。
    それに、そんなことが無くても、セリスを1人になんて出来るはずがない。

    「お姉ちゃん・・・」
    「とりあえず、手紙に書いてあった地下倉庫を探すわよ」
    「うん!!」

引用返信/返信 削除キー/
■385 / inTopicNo.2)  蒼天の始まり 第二話
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:49:22)


    謎解き 前編                                     



    私とセリスは1つの扉の前に立っている。
    おそらくこれが地下倉庫の入り口だろう。
    ‘‘ハーネット家の開かずの扉’’
    私とセリスは昔からこの扉をそう呼んでいた。
    理由は簡単、鍵がないのだ。
    家中を探したが見つからず、開けるのを諦め、
    そのまま放置されていた。
    けど、今なら分かる。この鍵は飾りなのだ。
    魔術によって閉じられており、特定の言葉を言わない限り開かない仕掛けになっている。
    鍵穴があり、扉が開かないならば理由は鍵がかかっているからだと考える、
    先入観というやつだ。だから、私が気付けなかったのも仕方がないだろう。うん。
    ただ、10年以上も見ていながら魔力を感知できなかったの結構ショックだったが・・・。
    ちなみにセリスは魔力は感知できたが、部屋の中に何かあるのだろうと思ってたらしい。



    「「うわ〜〜〜」」
    私とセリスの第一声はこれだった。
    かなりの広さの地下室にいくつもの棚が奇妙な形に並んでいる。
    奥から棚が6列並び、それぞれ3、3、12、12、3、3の計36の棚が並んでいた。
    手前3列の棚は剣や鎧、盾などおそらくお父さんが使っていたと思われる品が並び、
    奥の3列の棚には様々な魔法道具や書物が並んでいた。
    こちらは元宮廷魔道士だった、お母さんのものだろう。
    私もこれほどとは思わず、少し驚いたが、気を落ち着けさせる。
    とりあえず、手紙がどこにあるかも知らないし、調べたほうがいいだろう。
    「私は右側を見るからセリスは左側を見て回って」
    この組み合わせにはちゃんと理由が有る。
    はっきり言って私はセリスと違って魔術師ではない。
    ただ、少し魔法が使えるだけの人間だ、魔力の感知もまともにできないし、知識も無い。
    逆にセリスが剣や鎧のことなど分かるはずも無い。
    ゆえにこの組み合わせは当然なのだ。
    セリスもそれは分かっているため、返事をするとそのまま棚のほうへ向かっていった。




    棚を調べながらも、気に入った剣を見つけては手に取り、振ってみる。
    別に私は剣士でもない。
    昔、お父さんに剣を教わって、
    お父さんが死んでからは、たまに思い出しては練習する程度だった、
    今でも、親友のミコトにたまに、教わっている程度である。
    一方的に虐められてる気もするが、その分は鍛えられえてる。


    ―ミヤセ・ミコト

    自分で言うのもなんだが私とセリスの数少ない友人である。
    はっきり言って彼女は謎だ。
    2年前にふらりとこの街に現れ、そのまま住み着いた。
    一人暮らしのはずなのにわざわざ、学校になんて通う変わり者である。
    学校はほとんど、裕福な家の者か、純粋に知識を欲する者だけが来る場所である。
    無論、そういう条件があるわけでなく、ただ単にお金がかかるのだ。
    そして、純粋に学びたい者なら、王都の学校にでも行った方が有意義だから、
    この街の生徒のほとんどは裕福なものとなる。
    かといって、ミコトが裕福かといったらノーだろう。
    ミコトは半年に一回か、二回、この街から軽く1ヶ月は姿を消す。
    本人は仕事だといっているが、それならばなぜ学校になんて来てるのかが矛盾している。
    また、剣の腕も立ち、
    以前、街に現れた吸血鬼をいとも容易く打ち倒したほどである。
    まあ、そんなに気にしているわけでもでもないが、
    「お姉〜ちゃ〜ん?」
    っていけない、向こうはもう終わったみたいだし早く行かなきゃ!



    部屋の中央の少し開けたスペースでセリスは待っていた。のはいいんだけど。
    「セリス、これは何?」
    セリスの足元にはどうやって運んだのか分からないほどの魔法道具がおいてあった。
    「えっ、魔法道具だけど?」
    「そういうことを聞いてるんじゃなくてこんなに持ってきてどうするつもり!!」
    「だって、お父さんは好きに持って行っていいって・・・」
    「こんなにもっていけるはず無いでしょ!!戻してきなさい!!!」
    「うぅ、けど」
    「けど、じゃ無いわよ、ちゃんと元の場所に戻してきて」
    「はぁ〜い」
    セリスはしぶしぶといった感じで道具を戻しに行った。
    手当たり次第に持ってきたのだろう。それなら早いはずである。


    「で、セリス、手紙はあったの?」
    戻し終えてきたセリスに尋ねる。
    見た限り、こちらには無かったから、あるのは向こうのはずだ。
    「あっ」
    「セ〜リ〜ス。あっ、って何?」
    「あっ、あはははは。たっ、たぶん無かったと思うんだけど」
    おそらく、魔法道具に眼を奪われて忘れてたのだろう。
    「ふう、じゃあ、もう一回見て回りましょ。ただし今度はしっかりね。」
    「うん!!」






    「無い、わね」
    「無い、ね」
    2,3度も見て回ったが、手紙なんてどこにも無かった。
    他にも、気になることはあったけど・・・。
    「う〜ん」
    「お父さん忘れたのかな?」
    「いくらなんでもそれはないと思うけど・・・ってあら?」
    良く見ると床の中央に何か文字が書かれている。
    え〜っと、なになに、


    汝が求めしものは、
    四方を天使に囲まれし、かつての長たる堕天使の背中にて眠る。
    これ、解けぬ者に旅立つ資格なしと思え。


    「なにこれ?」
    「暗号・・・かな?」
    「とりあえず調べるしかないわね」
    でも、天使と堕天使って何のことだろう?
    「天使の像とかなら向こうにあったと思うけど?」
    う〜ん、そんな簡単なものではないと思うけど。
    まあ、行って見るしかないか。


引用返信/返信 削除キー/
■387 / inTopicNo.3)  蒼天の始まり 第二話後編
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:54:19)

    謎解き (後編)





    「あう〜〜」
    セリスがうなっているのも無理はない。
    3時間以上探しても全く手がかりが掴めなかった。
    天使の像は有ったけど2つしかなく、『囲まれた』というのに
    当てはまらない。まあ、一応調べたが、何も無かった。
    後は本棚だが、天使の本はあらかた調べたが手紙なんて無かった。
    天使って一体何のことなのよ!!
    そう心の中で愚痴りながら先ほど調べていた1冊の本を開いた。
    堕天使について。っと。



    堕天使 ルシファー

    熾天使の上に創られた天使として最高位にあり、熾天使を統括する
    指導者でも有った。
    六枚の羽を持つ熾天使の倍の十二枚の翼を備えていたとされる。


    開いたページに書かれた内容の一部を見て私は閃いた。
    天使って、もしかしてこういう意味?
    思いついた考えを確かめるべく、私は再び棚を回った。

    「お姉ちゃん、何か分かったの?」
    「ええ、すべて分かったわセリス」
    「ホント!?どこなの!?」
    「すこし、落ち着きなさい」
    「うん」

    「まず、これを見て」
    そういって私はさっき見たページを見せる。
    別に、謎解きを教える必要は無いけど、セリスは全く分からなくて
    悔しかったらしく
    素直に私の言うことに従い、本を見た。
    「これが何?」
    「おそらく、天使と堕天使ってのは熾天使とルシファーのことを
    言ってるの」
    「なるほど、それで?」
    「天使の象徴は羽、さらにこの2つは羽が複数あるわ。
    おそらく天使は羽の枚数を意味してるんだわ。
    熾天使は6枚で四方を囲うとなれば6×4で24、
    さらに中央の堕天使その倍の12で36ね。
    調べてみたら棚の数は36。さらに、棚の形も一致しているわ。
    つまり羽はこの棚。囲まれた堕天使の背中とはこの部屋の真ん中であるここのことよ」
    「すごい!!」
    「ふふふ、私にかかればこんなもんよ」
    「でも、何も無いよね」
    「えっ、えーと。多分何かしかけが有るとは思うけど」
    そういって、床を触ると何か細い物に触れた。
    ビンゴッ!!
    心の中でそう叫ぶ。
    見えるか見えないか程度の細さのかなり丈夫な糸だ、
    念のため隣の棚にあった特殊な繊維の手袋をはめ、
    細い糸を引っ張ると床の木が外れた。
    外れた床の木を退かして中を見るとひとつの大きなカバンがあった。
    カバンを取り出し、開けてみる、
    「あった!!!」
    私はおもわず、声を上げた。
    そこには私の探し物が2つとも入っていたのだ。
    入っていたものは手紙と丸い何かの魔法道具と思われるもの、
    そして、美しい剣だった。

    『エレメンタルブレード』

    お父さんの使っていた剣の中で、私がもっとも気に入っていた剣である。
    まだ幼かったころ父に一度だけ見せて貰い、欲しいとせがって父を困らせてしまった。
    先ほども、好きに持っていって構わないと聞き真っ先に探したのだが。

    セリスの方を見ると丸い何かが気になったらしく、手にとって調べていた。
    「セリス、どう?」
    「う〜ん、これ武器みたいなんだけど」
    「武器?」
    セリスの手の中にあるものはとてもじゃないが武器には見えない。
    「ちょっと見てて」
    セリスはそういって溝の間にあった細い糸の先についていたリングを
    指にはめて、それを飛ばした、するとそれは、地下倉庫の壁にめり込んだ。
    「すごい!!」
    確かにこれならば、ちゃんと当てられれば十分、武器になるだろう。けど、
    「これどうする気?」
    壊れた壁を指差しながら、セリスを睨む。
    「え〜と、凹ますだけのつもりだったんだけど・・・。ごめんなさい」
    流石に、倉庫に穴あけたままにするわけにいかないだろう。
    だが、倉庫を人に見せるわけにも行かないから、
    当然、応急処置だけにするにしても自分たちでやらなければならないことになる。
    まあ、荷物とかも揃えないといけないし、
    旅立ちはもう少し先になりそうである。



引用返信/返信 削除キー/
■388 / inTopicNo.4)  蒼天の始まり 第3話
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:57:50)
    初戦


    スノウライトと私たちが向かう街、レムリアはそれほで離れてはおらず、
    人通りも少ないから盗族なんかも出ない。ただ、その道で唯一の難所がある。
    夜になると魔物が出るといわれる森だ。森自体はそんなに広いわけでもなく、
    朝早くに入れば道さえ分かれば、日が落ちる前には十分、出られるほどだ。
    私たちは今、そこにいた。空には、きれいな月が見える。
    つまり夜である。無論、この森に魔物が出るということは知っている。
    言いたくは無いが迷ったのだ。
    森の道を知らなかったのだが、スノウへ来る人はみな、ここを通ってるわけだから
    人の通れそうな道を通れば大丈夫だろうと、安易な考えに至り、途中で道をそれ、
    迷ってしまった。元の道には戻れたのだが、日が落ちたので道の脇で休んでいる。
    倉庫に有った、魔除けのお香を持ってきて正解だった。
    まあ、お香と言ってもそれほど強力なやつではないから寝るときはセリスと交代で
    見張る予定だ。
    あと数日で、満月になる。それまでにはレムリアには着かなくてはならない。
    魔力がもっとも高まる満月の日は魔術を使う者にとって歓迎すべきものだが、
    セリスの場合、満月の日は限界まで膨れ上がった魔力が暴走しかける日である。
    逆に新月の日は私のほうに問題があるのだけど。

    「ねえ、お姉ちゃん」
    「なに?」
    「向こうに行ったらどうするの?」
    セリスも長く育った街から離れて不安なのだろう。
    これから自分がどうなるか分からないのだ、不安でないはずが無い。
    「実はね、ちょっと人を探すつもりなの」
    「人?もしかして・・・」
    「・・・たぶん、セリスの考えている人じゃないわ。
    私が探すのは・・・とりあえず、エルフかな」
    「エルフって、もしかして精霊について?」
    「そうよ」
    世界樹のあるという森に住み他種族と関わらず過ごし、
    精霊魔法と呼ばれる魔術を駆使する世界樹の守護者。それが彼らだ。
    「けど、あんまり当てにしないほうがいいよ」
    「えっ、なんで!?」
    「だって、精霊を使役するなんて、普通は無理だもん。
    いくらエルフが特別でも、その種族の人すべてが使えるなんておかしいよ」
    うっ、確かに精霊を使役するなんて普通は無理だ。
    それは他ならぬ私がよく知っていることだ。
    つまり、エルフが全員使えるということなら、精霊魔法とは精霊の使役では無く
    何か似て非なるものということになるだろうし、
    一部の人のみが使えるとしたら、普通に考えて、使えるのは彼らの中でもおそらく
    上位の者、ハイ・エルフといわれる者たちだろう。
    大きな街なら森から出て来たエルフやハーフエルフぐらいならいるだろうと考えていたが
    これは予想外である。
    かといって、エルフの森を探すなんてそれこそ雲をつかむような話だし。

    「どうするの?」
    「う〜ん、一応、1つ当ては、無いことも無いんだけど・・・」
    「なにか、問題あるの?」
    「信憑性に欠けるのよ、ただの噂話だから。」
    「ふーん、でも他にはないんでしょ。で誰なの?」
    「バルムンクよ」
    「バルムンクって、あの?」
    「そう、魔王殺しの勇者シンクレアのリーダー、バルムンクよ」
    シンクレアというのは王国では知らぬ者はないという、3年前に一度だけ現れた謎の冒険者たちの名である。
    その当時、魔王と呼ばれる存在が突如現れ、その配下の魔族に王城を占拠され、
    王国内が大混乱に陥った。
    そんな中、颯爽と現れ王城の魔族を倒し、王女ディシール・ネレム・フェルトを
    救った英雄たちである。
    その後、北の山の魔王を倒し再び、消えていったといわれている。
    彼らを見た人はほとんどおらず、シンクレアのメンバーの素性は全て謎に包まれている。
    バルムンクはそのリーダーで、蒼き空ともいわれる双剣士だ。
    「噂じゃあ、バルムンクって精霊を使っていたらしいの。
    もしかしたらハイ・エルフなのかもよ」
    「噂って誰から聞いたの?」
    「・・・・・・ミコトよ」
    ミコトが嘘つくようには見えないけど、その話を聞いたのセリスの誕生日だったから、
    酔ってたし、ミコトがデマを聞いたかも知れないから、自信はない。
    でも、そんな噂を知ってるなんてミコトって冒険者なのかな?
    「ミコトが嘘をつく様には見えないし、エルフの森よりはまだ、マシだよね。
    ・・・うん、探してみよ」
    「えっ!?」
    「どうしたの?」
    「あっ、ゴメン、ただの噂だし、そんな関単に賛成するなんて思わなかったから」
    「うん。でも、他に当ては無いんでしょ?エルフの森を探すって言うのなら
    反対したかもしれないけど、シンクレアなら王国内だけで済むでしょ。
    何よりシンクレアの正体について知りたいもん」
    「そっか、まあ確かに興味あるわね」
    この前言ってたスノウライトの北の山って魔王との戦いの場所だそうなのよね。
    街にはほとんど被害は無かったんだけどその後、街は魔王の堕ちた山なんていってるし、国のほうも調査が来ている。
    あれ??でも、魔王とシンクレアの出来事はお父さんが死んでから起きたことだから
    お父さんが知ってるはずは無いんだけど、ならどうして・・・

    ―ザワザワザワ
    風に揺られた葉が音を立てる。
    だが、その音に紛れたナニカを私の中のモノは感じ取っていた。
    「どうしたの?」
    「なにかいる。気を付けて」
    剣を構え、周りの気配を探る。
    セリスも倉庫で見つけた丸いあの武器「エターナル・メビウス(セリス命名)」を付け、私の方に背を向けて周りに注意を向ける。
    風に揺られた葉の音が止む。
    ―来る!!

    ―ダンッ!!バサバサバサッ!!

    周りの木々から、一斉に普通より大きな赤黒い猿が飛び降りてきた。
    数は4匹。私とセリスで2匹づつだ。

    セリスが降りてきた一体の猿にすぐさまにメビウスを飛ばす。
    不意打ちを悟られ、空中で姿勢を変えられるはずも無く猿の頭に当たり、
    骨の砕ける鈍い音と共に地に落ちて動かなくなった。
    もう一匹は仲間が死んでも気にした様子もなく、丸腰のセリスに飛び掛った。
    だが、セリスは手を払い、指についているメビウスの糸を伸ばして、
    向かってきた猿に糸を絡める。そして、魔力を通し切り裂いた。

    私は一度、後ろへ下がり、飛び掛って来た猿の爪を避ける。
    敵が多ければ、出来る限り複数を同時に相手せず、一体一体、
    別々に倒していく。
    ミコトにも言われれてたことだ。

    不意打ちが避けられ、着地の際に動きが止まったその一瞬を狙って、
    先ほどから詠唱していた冷気の魔術で、2匹を狙った。
    一匹は足を完全に凍らされ動きを止めたが、自由な腕を動かしてもがくが、
    すぐには動けそうには無かった。
    もう一匹は当たりが浅かったらしく、全身に冷気を浴びながらも向かってきた。
    両手で剣を握り、向かってきた猿に対して振るう。
    肉を切り裂く感触と共に猿の猿の身体が
    その動きを止め、地に落ちた。
    ちょうど、冷気で動きが鈍っていたため、私には傷ひとつ無かった。
    そして、動けない猿は氷が融けるや否や、すぐさま逃げていった。

    「はぁあ〜〜〜」
    お互いに戦いが終わり、セリスは気が抜けたらしく地面に座り込んだ。
    初めての実戦で、お互い傷ひとつ無いのは上出来だろう。
    けど、いつまでもここにいる訳には行かなくなった。
    「セリス、ここから離れよ。他の獣が血の臭いで向かってくるかもしれないから」
    「え!?わ、分かった」
    セリスが立ち上がり自分の荷物を片付けているときに私は違和感に気付いた。
    まだ、もう一人の私が警鐘を鳴らしていたのだ!!
    慌ててセリスの方を見るとセリスの側の木の上には先ほどと同じ猿が一匹いた。
    「セリス、上!!!」
    だが、セリスが慌てて上を向くと同時に猿が飛び降りた。
    間に合わない!!


    そいつは別に速いわけでも、力が強いわけでもなかった。ただ、賢かった。
    人の持つ武器の弱点も知っていた。人がどんな時に油断するかも分かっていた。
    そうやって猿は人を狩り続けていた。
    今回も同じだった、仲間が襲い、疲れ、油断したところを狙う。

    飛び道具の女を狙う。
    もう一人は、片方が死ねば取り乱す。そして、また隠れて襲えばいい。
    剣の女がこちらに気付いた。けど、襲うにはもう十分だ。
    下の女が見上げると同時に飛び降りた。


    ―ブシャッ

    一つの命を刈り取る音を聞きながら、私はソレに
    注意を払い、セリスの元へ駆け寄った。
    「セリス、大丈夫?」
    「うん、あの子が助けてくれたから。」
    そう、セリスは無事だった。猿がセリスに飛び掛ってきたとき茂みからソレが現れ、
    猿を噛み殺したのだ。
    闇に溶け込むような漆黒の毛と燃えるような真紅の瞳をした犬のような獣。
    普通の犬にしては大きすぎるから、おそらく魔獣の類だろう。
    魔犬はこちらを一瞥するとそのまま、咥えていた猿の死体を茂みに投げ捨てた。
    私は剣を構えながら、呪文の詠唱をする。
    はっきりいって魔犬が猿を殺したときのの動きを見た限り、私もセリスも対応できない
    だろう。なら・・・
    「待って、お姉ちゃん。闘う気は無いみたいだよ。」
    「えっ!?」
    魔犬を見ると先ほどの威厳も威圧も全く感じられず、ただ、眠そうに欠伸をして座り込んでいた。私の中のモノも、もう警鐘を鳴らしていない。
    確かに戦意は無いようだ。
    構えを解き、剣を鞘へ戻す。
    セリスは魔犬に近づき、その頭を撫で、魔犬はされるがままになっていた。
    なんか、ソレをみてたら、魔犬がただの大きな犬に見えてきた。

    ともかく、こうして私とセリスの初めての実戦は終了した。
引用返信/返信 削除キー/
■389 / inTopicNo.5)  蒼天の始まり 第4話
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:59:18)
    熊の店




    「結局ついてきちゃったわね。」
    「だね。」
    森から出た私とセリスは後ろにいる一匹に眼を向ける。
    むろん、昨晩出会った魔犬のことである。
    あの後、あの場所から離れた私たちの後ろに魔犬がついて来たのだ。
    理由はおそらく昨晩、助けてくれたお礼といってセリスが餌を与えたためだろう。
    つまり、餌付けだ。さすがにそれだけではないと思うが。
    まあ、敵意があるわけでもないから。あんまり気にしてなかったけど。
    ただ、セリスが朝ご飯のときにまた勝手に食料を与えてたが、
    その量がちょっと問題だった。
    ちなみに頭もいいらしく人の言葉を理解している節がある。
    もしかしたらどこかの貴族が飼われてて、逃げだしたか、
    捨てられたのかもしれない。
    それにしても、森の外までは着いてこないだろうと思ったけど
    どうやら戻る様子はない。このままついて来る気だ。
    どうしよう。

    「ねえ、お姉ちゃん」
    セリスがなにか欲しい物があったり、頼みたいことがあるときの声だ。
    セリスの言いたいことはすぐ分かった。
    まあ、食費は掛かるだろうがソレに見合った働きはしてた。
    でも、これからのことを考えるとこの魔犬にまでは面倒が掛かるかもしれない。
    偶然かもしれないけどお父さんがわざわざ、武器を持たせて
    冒険者の店に向かわせた。ということは少なくとも
    平穏な日々というものは望めないだろう。
    それでも・・・
    「分かったわよ。つれてきたいんでしょ」
    「いいの?」
    「セリスもこの子も駄目って言っても聞かないだろうしね。
    ただし、この子に何があっても無理強いはさせないこと
    私は反対はしないだけだから」
    「うん、分かった!ありがとうお姉ちゃん!!」
    それでも、きっと、この選択でよかったのだ。
    「どんな名前がいいかな〜」
    だって、こんなセリスの喜びようを見れたのだから。


    魔犬の名前はケルスに決定した。
    セリスは他の名前が良かったらしいけど、
    セリスの名前のセンスは少々変わっているため、
    魔犬はセリスがいった名前をことごとく嫌がった。
    私もこの犬をそんな名前で呼びたくはなかったから
    助け舟を出したら速攻で魔犬が頷いた。そんなに嫌だったんだ。



    日が暮れる間際、私たちはやっとレムリアの街に辿り着いた。
    レムリアは王都を囲むように位置する4つの街のなかでも
    小さめな街らしいが、それでもスノウとは雲泥の差である。
    日が落ちる前にベアという店を探さなきゃいけない。
    冒険者の店ならとりあえず、冒険者らしき人に聞いてみればいいだろう。
    「あの。」
    「なにか?」
    「ベアという冒険者の店を知りませんか?」
    「ベア?ああ、眠り亭のことか。」
    「眠り亭?」
    どういう意味だろ?
    ベアの店の場所は入り口からかなり近いところだった。
    これなら日が完全に暮れる前にはつけるだろう。


    「ここだね。」
    教えられた店は思ってたより大きくは無いが比較的、綺麗な店だった。
    看板にもベアと書かれている。間違いないだろう。
    もう外は暗くなりだしているが、まだ営業中の札があるだ。

    「おじゃましま〜す。」
    扉を開けて中を見ると客の姿は見えなかった。
    いたのは棚の整理をしているらしい一人の少女。
    少女はこちらを見ると一冊のノートを持って、駆け寄ってきた。
    そして、こちらに来るとノートを開き、こちらに向ける。
    ‘‘いらっしゃいませ。何の御用ですか?’’
    ノートにはそう書かれていた。
    「お姉ちゃん、この子・・・」
    「たぶん、そうね。」
    おそらく、声が出ないのだろう。
    ノートに文字がすでに書いてあったということは
    店番なのかな?
    「えっと、この店の主人に会いたいんだけど。」
    ‘‘少々お待ちください’’
    そうして少女は店の奥へと消えていった。
    少し経つと少女は40代ぐらいの1人の大柄な男を伴って戻ってきた。

    「いったい、なんの・・・」
    途中、私とセリスの顔を見たところで、主人と思わしき男の言葉が止まった。
    そして、
    「エリス・・・」
    私たちに聞こえないほど小さな声でなにか呟いた。
    「すまんな、知り合いに似ていたもので少々驚いた。で何の用だ。」
    男はさっきとは打って変わり親しみのある声で聞いてきた。
    私はカバンに入っている手紙を取り出し、目の前の男に渡す。
    「私はエルリス・ハーネット、こちらは妹のセリスです。
    お父さんの、ラウル・ハーネットの紹介で訪れました」
    「なるほどな。あの二人の子か。」
    手紙を渡し、自己紹介すると、
    目の前の男は楽しそうに破顔していた。
    そして、手紙を開け、眼を通し終えると再び手紙を戻し、
    こちらに向き合った。
    「ラウルから何か聞いてるか?」
    「ベアの店に行けとしか聞いてませんけど?」
    「そうか。ふむ」
    男は少し悩むような素振りをし、
    「手紙にはお前たちに冒険者をやらせると書いてある」
    「ええええ〜〜〜!?」
    これは今まで黙っていたセリスの悲鳴だ。
    私はなんとなく予想していたため悲鳴は上げずにすんだ。
    だが、しかし、予想していても現実になってみると結構ショックだ。

    「自己紹介がまだだったな。
    俺はバート・ベアルス、ベアでいい。
    この子がチェチリア、チェチリア・ミラ・ウィンディスだ」
    ‘‘よろしく’’

    そう言った男、ベアの顔が先ほどお父さんの名前を聞いたときよりも
    さらに楽しそうに見えたのが印象に残った。


引用返信/返信 削除キー/
■390 / inTopicNo.6)  蒼天の始まり 第5話、@
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:00:29)
    『これから』                                    

    コンコン。

    眠い、全く起きる気になれない。
    どうも数日ぶりのベッドがいけないらしい。

    コンコン!!コンコン!!!

    先ほどまでのドアのノックとは打って変わりノックの音が激しくなった。
    けど、これでもまだ起きる気にはならない

    音が止んだ。またゆっくり寝れる。
    そう思っていたら、ドアが開き、誰かが入ってきた。

    「コケコッコ〜!!!!」

    余りの音にベッドから飛び起きると目の前に鶏を抱きかかえた見慣れぬ少女が
    立っていた。
    とりあえず、状況を整理しよう。起きたばかりの頭を活性化させようと努力する。

    ・・・ああ、そうだ、ここはレムリアの街のベアという店の宿の一室で
    目の前の少女はそこで働くチェチリアだ。
    「おはよう、チェチリア。ごめん、寝過ごした」
    チェチリアは手が塞がってるので、それに笑顔で答えた。
    背筋を伸ばし、もう1つのベッドを向く。
    セリスはあの音をくらった筈なのに何事も無かったかのように眠っている。
    別にセリスは寝起きが悪いわけではないのだが、
    普段から眠りが深く、外界に対する反応が希薄になる。
    まあ、つまり死んだように眠るわけだ。
    たとえ大地震が起きようとおそらく目覚めない。
    チェチリアはそんなセリスを見て困っているようだ。
    ・・・残念だがセリスを起こすのはかなりの労力を必要とする。
    だから、今までの経験上、自分で起きるのを待った方が利口だ。
    部屋の時計を見れば11時過ぎ。
    うん、これならいくら疲れてるといっても、そろそろ起きるだろう。
    そう思っていたら、セリスが何の前触れも無く、起き上がった。
    「・・・おはよう、おねえちゃん」
    ほらね。


    「ふあ〜。おはようございま〜す」
    「ああ、おはよう。て、もう昼前だがな。
    どうやら、ちゃんと眠れたようだな」
    「うん!!」
    未だ欠伸を噛み殺している私と違ってセリスは朝から元気だ。
    さっきまで爆睡してたっていうのに。
    挨拶を済ますと大柄な男、ベアは手に持った書物に再び眼を向けた。
    かなり厚さで、同じような本がテーブルにあと6冊積まれている。
    「何コレ?」
    カウンターに積んであった本を一冊取り、開く。
    ・・・読めない。分かる単語もあるが全体的に、分からない言葉のほうが断然多く、
    内容はさっぱりだ。
    少なくとも現代の標準語では書かれてないことだけはわかる。
    「ふんふん」
    見るとセリスも同じように本を開いていたが
    私とは違い、すらすらとページを捲っていた。
    もしかして、読めるの?
    「ほう、セリスは読めるのか?」
    「うん、一応。コレって魔道書だよね」
    「ああ、魔道書の写本だ」
    写本。というのは分かる。
    昔の魔術師の魔道書はそんなに数が無く、危険なことも書いてあったりする。
    だから、オリジナルの魔道書を一般に出回っても大丈夫な程度の中身だけを写して
    学園都市の者たちが出版したのが写本だ。
    「でも、さっきのは標準語で書かれてなかったけど?」
    「間違って訳されることもあるからな。
    ちゃんとしたやつは原文のまま写されるんだ」
    なるほど。でも、私としては不親切だわ。
    どうせ読まないだろうけど。


    店には客は来ておらず、ベアたちと共に遅い朝食、いや、ベアたちにとっては
    早い昼食をとる。
    食べ終えると、セリスは再び魔道書に向かっていった。
    読めない私は少々手持ち無沙汰だ。
    魔道書ね〜。
    「ねえ、なんでこんなの読んでるの?」
    ベアに聞いたらあから様にバカにしたような呆れたような顔をされた。なぜ?
    「ったく、ラウルに魔法文明時の資料を調べてくれって頼まれたんだ」
    あっ、そういえば、ベアに着いたら聞いとけって言われてたんだっけ。
    忘れてた。
    にしてもセリス、魔道書に集中してて、全然こっちの話聞いてないわね。
    「で何か分かった?」
    「いんや、サッパリだ。
    写本じゃ載ってる内容より写されない内容のほうが多いからな」
    ガクッ、まあ、そんなもんか。写本じゃ無理ってことはオリジナル・・・
    学園都市の中央図書館の物か。・・・遠いな。
    まあ、望みは薄いだろうけど、ほかの事についても駄目もとで聞いておくか。
    「じゃあ、話変わるけど、バルムンクについて知ってる?」
    「そりゃ、多少わな。それがどうした?」
    「実はバルムンクに会いたいんだけど」
    言うとベアの顔が険しくなった。なんかまずいこと言った?
    「なぜだ?・・・会ってどうする気だ?」
    ・・・言うべきだろうか?少なくとも、セリスのことについては知ってるわけだし、
    これからお世話になるんだから、コレについても話して置くべきだろう。
    「実は・・・・」






    「・・・なるほどな」
    とりあえず、私のこと、そして、バルムンクの噂について話したが、
    ベアの顔は険しいままだ。
    「生憎だが、バルムンクについては知らん」
    まあ、そうだろう。
    「が、他のやつなら1人知っている」
    「っ!?ほ、他ってまさかシンクレアの!?」
    「ああ、そうだ」
    共に旅した仲間ならバルムンクについての
    有力な手がかりが掴めるかもしれない。
    駄目もとでもやってみるもんだ。
    「だが、簡単には会わせられん」
    「っ!?・・・どうして?」
    「1つ、お前さんたちでは邪魔になる。アイツはいつも、足手まといになるって
    いって他の奴とパーティーを組みたがらないからな。
    2つ目、本人に口止めされている。
    3つ目はあいつは此処の常連なんだがな、生憎、何時来るか分からん」

    1つ目はそりゃ、確かに私たちでは足手まといになるだろう。
    せめて自分の身は自分で守れるようでなきゃ。
    2つ目、これは仕方がない。何でシンクレアが、素性を隠してるか分からないけど、冒険者の店は情報を取り扱う以上、
    信頼が第一のはずだ、裏切りはご法度だろう。
    3は、意味が違うが確かに簡単には会わせられないだろう。
    不満はあるがこれも仕方ない。
    それに、此処でお世話になってればいずれ会えるということだし。

    「分かったわ。で、どうすればいいの?」
    簡単には、ということは、何か条件つきで会わせるとか
    そういうことのはずだ。
    「とりあえず、腕を磨け。
    そうだな、あいつの欲しがりそうな物でも見つけれれば正式に紹介してやれる。
    仲介ならあいつも文句はいわんだろうしな」
    「曖昧ね・・・まあ、いいや。それで‘‘アイツ’’って誰のこと?」
    シンクレアのメンバーは蒼き空と銀の月、赤き竜、そして、
    「シリウスだ」
    白き牙か、確かシンクレアの中でも後のほうで入った、瞬速の剣士だ。
    「質問は終わりか?」
    「ああ、あと1つ。どっちでもいいことなんだけど、
    この店が眠り亭って呼ばれてたのは何で?」
    「むっ、それか。初めは北の街の店で冬、ベアが熊、冬の熊で冬眠ということ
    だったんだが、最近では暗にこの店の客の出入りが多くないことだな」
    「なるほど。それで眠り亭か。
    でも、やっぱり、繁盛してなかったんだ」
    「むっ、別に客がいないわけでも困ってるわけでもないのが。まあ、いい。
    話は終わりだ。そろそろメシにするからセリスをどうにかしろ」
    「は〜い」
    ちなみにさっきからいないチェチリアがご飯を作っている。
    「セリス、そろそろご飯だって」
    「えっ!?もうそんな時間?」
    もう6時過ぎである。ちょっと早いが客もいないしこんなもんだろう。
    にしても、客がいないわけでないって言ったけどぜんぜん来てないじゃない。
    本当に大丈夫なの?
    「それにしても、わざわざセリスの発作について調べてたのに、
    話し聞いてないんだもの」
    あからさまに起こってるという顔をする。
    調べたのは私じゃなくてベアだけど。
    「あう〜、ごめんなさい」
    「冗談よ。それじゃご飯に・・・」
    ご飯?アレ?何か忘れてるような??
    「ねえ、セリス・・・ケルスは?」
    「あっ、そっ、そういえば・・・」
    確か店に入れるのは不味いかな、と思って、
    昨日の夜から店の外で待たせたままのはずだ。
    そうすると、丸1日ご飯を食べてない計算だ。
    「どうする?」
    「はっ、早く、何か食べるものを持ってって上げないと」
    「じゃあ、ベアにケルスをどうすればいいか聞いてみるわ」
    「うん、ありがと」



    「犬?別に構わんぞ」
    「いいんですか!?」
    「ああ、よくチェチリアが子犬やら子猫やら子馬やら、とにかく
    いろいろと拾って来てな。いまさら一匹や二匹増えても気にせん」
    頼んどいてなんだけど、店に動物置いていいの?
    ってゆーか、馬!?しかも、一匹や二匹っていったいどれぐらい飼ってるんだろ?
    あっ、まさか朝の鶏も!?


    ちなみはケルスは腹が空いてグッタリしていた。
    どうも、私がここで待ってろといったのを
    律儀に守ってたらしい。ゴメン


    「それで、私たちは具体的に何をすればいいの?」
    ベアに聞き忘れていた。というより、セリスが話を聞いてなかったから
    聞かなかったことだ。
    「冒険者のことか?」
    「ええ」
    これから冒険者をやれなんていわれても
    いったい、どうすれば良いかなんて分からないと思う。
    「まっ、とりあえず、力試しだな。
    まずはそっからだ。そうだな、ルスランたちと遺跡にでも潜らせるか」
    「遺跡?」
    「ああ、もっとも、殆んどは昔の魔術師の工房だがな」
    「ふ〜ん、じゃあ、ルスランってのは誰なの?」
    「此処の常連の冒険者だ。腕は立つし、害は・・・ない。
    ・・・・はずだ。・・・・・多分」
    「何でそんなに不安げなのよ」
    「まっ、まあ、とりあえず3日も経てば会えるだろう。
    それより、今日は満月だがセリスは大丈夫か?」
    「うん、大丈夫そうだよ」
    「そうか。それと、魔道書に興味を持ってたな。借りてって良いぞ」
    「ありがと!!」
    ははは、私には関係ない話ね。
    「安心しろ。ちゃんと、標準語のやつもあるからな。お前もちょっとは勉強しとけ」
    「・・・・・・アリガト」

引用返信/返信 削除キー/
■391 / inTopicNo.7)  蒼天の始まり 第5話、A
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:01:40)
    2005/01/29(Sat) 23:01:16 編集(投稿者)

    『遺跡』



    「はあ〜」
    「疲れた〜」
    「まあ、初めはそんなものよ。そろそろ休みましょ」
    「そうだな、ちょっと早いがそろそろいい時間だ。
    敵もいないみたいだから今日はここで休もう。
    いいよな、サクヤ」
    「別段、異論はない」
    ここは、レムリアから離れたところに位置する最近見つかったという
    魔法文明時の魔術師の館だ。
    もっとも、広さ的には館というよりもむしろ城だ。
    遺跡というから洞窟にでも潜るのかと思ったら違った。
    もっとも、洞窟などのほうが今になって見つかることは多いらしいから
    今回が特別らしい。
    そして、一緒にいるのはベアに紹介された人たち、
    最初に喋った女性はアウラ・ヴァレンティン。
    次に喋った金髪の男がベアの言ってたルスラン・ヴィグム・ゴールドマン。
    ベアが不安げだった理由がよ〜く分かる。
    そして、最後のサクヤと呼ばれた黒髪の人物はサクヤ・コノハナ。
    変わった名前だがどことなく、ミコトの名前と似た感じだと思ったら、
    世界は狭い。なんとミコトの親族だそうだ。
    ミコトが時々レムリアに来ていたのもサクヤさんに会いに来てたらしい。
    そして、私とセリスとケルスの5人と一匹で館を散策していた。
    途中、館の中を徘徊していた魔法生物とは何度か遭遇したが、
    そのたびに、この三人の実力は素人目に見ても凄いと思う。
    しかも、経験も多く、動きが手馴れている。


    今回は館だから敵はほぼ、魔法生物だけだ。魔法生物はあくまで
    徘徊中に遭遇した侵入者を倒す命令を製作者から受けているだけで、
    わざわざ部屋までは入ってこない。
    だから、部屋に入れば、襲われる心配はまず無いらしい。
    けれど、洞窟みたいな所だと、魔法生物だけでなく、野生の魔獣なんかも
    巣食っているうえ、このようなちゃんとした部屋なんかもあるはずも無く、
    ほとんど場合はゆっくり休むことも出来ないのだと。
    簡単だと思っていたわけではないが、
    今更ながら、結構大変な仕事だと実感している。
    とりあえず、今のところは館を回りながら、一つ一つ部屋や廊下を調べている。
    こういう、魔術師の館は、いたる所に隠し扉などの仕掛けが施されていて、
    遺産はほとんど、その奥に隠されているらしい。
    つまり、うちの地下倉庫と同じだ。
    今のところ、めぼしい物はゼロ。
    隠し扉は3つほど見つけたが全部、荒らされた後だった。
    でも、ベアはここからはまだ、大物は見つかってないと言ってたから、
    まだ何か残っているはずだそうだ。
    まあ、結局根気良く調べていくしかないわけだ。厄介な物である。



    「ふう」
    部屋の床に腰を落とし、カバンから一冊の本を取り出す。
    三人も似たような物を荷物から取り出していた。
    実はコレ、本ではなく、れっきとした魔科学の産物である。
    名はアーカイバいうものでちょっと前から実用化されたものだ。
    おそらく最も実用的な魔科学品の一つだろう。
    機能は収納。手で持った物をアーカイバのページの中に入れて
    出し入れすることができる。
    簡単に言えば、持ち運べる倉庫のようなものだ。
    コレのおかげで近年では荷物の持ち運びがとても楽になった。
    しかも、時間の流れが違うらしくナマモノを入れても大丈夫だ。
    基本的には中身を出すのに少々時間が掛かるため、普段なら良いが
    戦闘中なら致命的な隙になるから使わない物だけを入れる。
    問題は一般で持ってるようなのは40ページぐらいしかページが無く、
    ひとつのページに入れられるのは1つだという事。
    複数を一緒に入れることも出来る。が、物や場合によって、
    どちらか一方が一生取り出せなくなることもあるから、
    あまリやらないほうがいい。
    あと、もう1つ重要なのは、持てるのは2冊までということ。
    これは使う際に刻印が必要でその刻印が1つの腕に1つしかつけられないから
    らしい。
    だから、腕一本につき一冊が限度で、普通は2冊までしか持てない。
    もっともコレの原理については良く分からないのが現状なんだけど。
    そして、生き物は収容できないし、ページに区別がつかなかったりするのも
    難点だ。
    さらに言えば値段もけっこうする。これも、地下倉庫の品だ。

    アーカイバの後ろの方のページを開き、中身を取り出す。
    取り出したのは袋に包んだサンドイッチと水筒だ。
    あいにく、アーカイバは1つしかなく、これは私とセリスの2人分だ。
    他の人を見るとアウラさんは同じようにサンドイッチ、
    ルスランはただのパン、
    サクヤさんはお米を固めたオニギリというやつだ。
    ルスランのだけなんか寂しいけど気にしないで置こう。

    全員食べ終わり、情報交換も終えて一息ついている。
    窓の外はずいぶん前から真っ暗だ。
    遺跡内では夜は余り動けないので朝早くから行動しなきゃならないから
    まだ早いけど、そろそろ眠るらしい。
    「さてと、ベッドをどうするかだけど」
    アウラさんが優雅にベッドに腰掛けて口を開いた。
    部屋には大きなベッドが一つしか置いてないが、
    2人か3人なら寝れるかな?
    「オレは床で構わん、そちらで使え」
    「じゃあ、俺と」
    「それじゃ、私とエルリスとセリスで決まりね。見張りよろしく♪」
    「ちょっと待て、勝手に決めるな!!」
    「なによ。かわいい後輩に譲ろうという気は無いの?」
    「いや、だからお前が退け」
    「あんたなんかと、この二人を一緒に寝させられるわけないでしょ!!
    むしろ、同じ部屋にいることさえ許しがたいのに!!」
    「グハッ!!そこまで言うか!?俺がいったい何をした?」
    「自分の心に聞いてみたら?身に覚えが無いなら重傷よ」
    「グッ!!なら二人はどうだ?」
    「絶対イヤ!!」「ゴメン、ヤダ」
    言うや否や、二人して速攻で答える。
    普通はそうだろ。
    というか飢えた狼の傍で寝たいやつなんていないと思う。
    まあ、ルスランのいってることは場を和ませる?冗談だと思うけど。
    最初に紹介されたときからこんな感じだし、ルスランもコレがなければ
    少しは尊敬できたのに。
    「まあ、当然の結果ね」
    「コンチクショーッ!!」
    「やかましい」
    「グベッ!?」
    サクヤさんがルスランを実力行使で黙らせる。
    気絶しているルスラン以外はいたって平然としている。
    ああ、これがこの3人の日常なんだ。大変だなあ。
    なんとなく2人の苦労を悟ってしまった。


    ちなみに、何故かケルスが布団にもぐりこもうとしたのをアウラさんに
    問答無用でルスランのところへ放り投げられた。
    アウラさん曰く、ルスランと同じ匂いがしたらしい。
    ケルスとルスランが同類か・・・うっわ〜〜〜



引用返信/返信 削除キー/
■392 / inTopicNo.8)  蒼天の始まり 第5話、B
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:03:07)
    『ゴーレム』

     
    結局、1度目は10日ほどで食料が無くなり引き返した。
    再び訪れてから3日目、やっと私たちは当たりを引けた。
    が、どうやら大物過ぎるようだ。
    目の前にいる無骨な鉄の銅像、それに対峙する私たちは
    はっきり言ってピンチだった。
    「オラッ!!」
    「ハアッ!!」
    ルスランとサクヤさんが猛然と切りかかるが、
    銅像は全く効いた様子は無く、その拳を振り上げた。
    「どいて、‘‘wind’’」
    アウラさんの魔術によって生み出された真空波が銅像へと向かう。

    ガンッ!ガンッ!!ガンッ!!!

    「駄目だわ、全然効いてない!」
    真空波は先ほどの剣戟と同様に軽く弾かれた。なら、
    「セイッ!!」
    剣に振るい、氷の塊を作り出し銅像へと撃ちだす。が!!
    「消えた!?」
    氷は当たる直前になにかに掻き消された。
    「まさか、氷に対する魔術耐性まで付いてるなんて無茶苦茶ね。
    この分だと他にも耐性有りそうだし・・・いったん引きましょ」
    みんなもこのまま勝てるとは思わないらしく、アウラさんの提案に黙って頷く。
    銅像は門番だったためか、私たちを追っては来ず、元いた場所に戻った。


    近くの部屋に入り、前衛にいた2人の手当てをする。
    それにしても参った。あの身体じゃセリスのメビウスもケルスの牙も
    効かないだろう。
    とすれば効くのは魔術だが、耐性があるらしくてどんな魔術が効くかも
    分からない。
    3人も同じ考えらしく、その表情は重かった。

    「さて、こうしてても仕方が無いし、あいつに対する対策を立てましょ」
    治療を終え、アウラさんが提案してきた。
    どうもこのパーティー、まるでアウラさんがリーダーのようだ。
    実際はルスランらしいが。
    「2人とも、何の魔術が使える?」
    ・・・必要なことだというは分かる。がこの質問、私とセリスにとってかなり
    痛い話だ。
    「私は氷以外は全くで、セリスは小さな魔術以外はほとんど使えないわ」
    「・・・・・・そう、参ったわね」
    「そういうアウラさんたちは?」
    「私は4大元素は全部使えるけど得意なのは風ね。
    でも、消されはしなかったけど、余り効いてはいなかったら駄目。
    サクヤのは攻撃には向いてないし、ルスランは問題外」
    どうやらまともに攻撃できるのはアウラさんのみらしい。
    そのうえ、得意の魔法がほとんど効かない。かなりシビアだ。
    「ちょっといい?」
    すると、今まで黙ってたセリスが口を挟んだ。
    「さっき見た時、お姉ちゃんの魔術
    全部消されてたわけじゃなかったみたい」
    「「どういうこと?」」
    「えっ、えっと、氷の中に一個だけ他とは違うところに向かったのがあって、
    それは消えずに当たったんだけど」
    私とアウラさんに同時に尋ねられてオドオドしながらセリスが答える。
    それにしても一つだけ消えなかったなんてどうしてだろう。
    「場所によって効かないことがある?・・・ということは部分的に耐性が?
    いえ、むしろそれなら耐性じゃなくて・・・なるほど、オリハルコンね」
    「オリ・・・?なんですか、ソレ?」
    「対魔力に優れた金属の一種よ。かなり強力で下級の魔族なら触れただけで
    消し去れるわ」
    「じゃあ、さっきのはそのオリハルコンによって消されたということなの?」
    「ええ、おそらくね。
    多分、全体に使ったら動かないから身体の一部にだけ使ってるんだわ」
    なるほど、セリスが言った時のはそのオリハルコンというのが無いところに
    当たったから消されなかったのか。
    なら、私の氷も場所によっては通じるわけだ。
    「じゃあ、他の部分は別の金属なんだよね」
    「そうね、オリハルコン以外の部分は硬度的にもミスリルだと思う」
    「ミスリルか。じゃあ、こんなのはどうかな」
    セリスは悪戯を思いついた子供のような楽しそうな顔で提案した。




    セリスが考えたアイディアを元に作戦を練り、隊形を決める。

    サクヤさん、ルスランが前衛。
    私とセリスが真ん中でケルスは後ろにいるアウラさんの守りだ。


    再びあの銅像の元へ来ると、銅像はこちらが近づくのを察知すると
    重そうな身体を軋ませ、動き出した。
    「二人とも、しくじるなよ!!」
    「「あんたもね!!」」
    あたしとアウラさんの声が重なり、それを聞くとルスランたちは
    銅像へと突っ込んでいった。

    ルスランたちが銅像を押さえる中、私とセリスは簡単な魔術で
    銅像を狙う。
    あくまでこれは何処がオリハルコンで何処がミスリルかを調べるためだ。
    出来る限り数を稼いで試せばいい。


    何度か放つ内に魔術の効く所を絞り込めた。
    アウラさんの詠唱も終わり、準備完了だ。
    「行くわよ!!``Flamme・Der Freischutz’’(焔・魔弾の射手)」
    E・Cを使って生み出した7本の炎の矢が全て銅像の胸の一点へと吸い込まれる。
    黒かった表面が熱により赤く染まり、表面が熔けかけている。
    銅像はそれでも動き続け、今は無き主の命令を守るため、前にいる二人に
    襲い掛かる。
    けど、コレで終わりだ。
    私はアウラさんの魔術が放たれると同時に駆け出していた。
    そして、装着した2つの氷のE・Cを開放しながら冷気を放出しているエレメンタルブレードを銅像の赤く染まった胸に目掛けて突き出す。
    「ハアッ!!」

    ガギンッ!!

    甲高い金属音と共に剣は銅像の胸へと深く突き刺さる。
    そして、そこから無数のヒビが広がった。

    ピシッ!ピシッピシッ!バキンッ!!!

    ヒビがある程度広がると銅像の体は一気に砕け、残った部分が音を立てて床に倒れこんだ。

    金属を高温で熱し、一気に冷やすことによって破壊する。
    コレがセリスのアイディアだった。
    ミスリルに通用するか不安だったのだがうまくいった。

    さてと、こんなのが守ってるなんていかにも何かありそうね。
    ん、なにコレ?銅像の破片の中に鉄の鈍い光とは違う何か輝く物が見えた。
    拾ってみるとソレは青い宝石のついた指輪だった。
    宝石の中には一本の黒い線が入っている。
    何でこんなのがあるか分からないけど貰っとこ。
    そうだ。後でセリスにプレゼントしよう。
    そう考え、指輪をポケットの中へと放り込んだ。


引用返信/返信 削除キー/
■393 / inTopicNo.9)  蒼天の始まり 第5話、C
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:04:43)
    『小部屋』



    「何やってんの」
    ルスランは砕けた銅像の破片の中で大きな物を拾い上げアーカイバの中に
    入れていた。
    「ミスリルやオリハルコンといったらこれ以上ない希少金属だ。
    売るに決まってるだろ」
    オリハルコンについては知らないが確かにミスリルは希少金属の代名詞だ。
    いくらギルド、魔術協団が精製に成功しても、未だその希少性は
    損なわれていない。
    「でも、そんな破片で大丈夫なの?」
    「ミスリルはさすがに値打ちが下がるけど、オリハルコンなら大丈夫よ。
    まだ、精製に成功してないからたとえ欠片でも十分売れるの」
    アウラさんが言うのなら確かだろう。
    じゃあ、私も貰っといたほうが良いかな?
    「おい、こっちに来い」
    「ん、サクヤだ。どうしたんだ?」
    「何か見つけたんじゃない?」
    そういって、2人は先へ進んでしまった。
    しかもセリスやケルスまで。
    えっと、どうしよう、コレ。



    結局、後で何か見つかるかもしれないし、大きな破片をいくつかしまって
    追いかけた。
    セリスなんて私を追いてったのに全く気付いてないし。
    「えっと、ゴメンね。お姉ちゃん」
    「良いわよ、気にしてないから。
    ただ、せっかく渡そうと思ったけどやめようかしら」
    「渡すって何を?」
    「コレ」
    ポケットから指輪を取り出しセリスに見せる。
    「キレ〜。どうしたのこれ」
    「さっき拾ったの。欲しい?」
    「うん!!あっ、でも・・・」
    「私のことは気にしなくていいから。ハイ」
    「・・・ありがとっ!!」
    渡された指輪をはめ、私に抱きつくセリス。
    うん。やっぱり渡してよかったわ。
    「何してる。置いてくぞ」
    サクヤさんの声に慌てて離れ、後を追う。
    余り喋らないだけにサクヤさんの言葉に有無を言わせぬ強制感がある気がする。


    サクヤさんが見つけたのは行き止まりの壁にあった隠し扉だった。
    銅像が残ってたということはこの先はまだ、誰も来てない可能性が高い。

    扉の先は下へと続く階段になっていて、長い階段を終えると、狭い通路に出た。
    通路を進んでいくと奥には頑丈そうな扉が見えてきた。

    扉を開き、部屋を覗くと中にはたくさんの道具があふれていた。
    「宝物庫だ。荒らされてもないし、こりゃ、ついてるな」
    「そうね、でも、流石に全部は持ってけそうにないから少し知らべましょ」
    調べるといっても私にはチンプンカンプンだ。
    セリスなら分かるかなって・・・
    「どうしたの?セリス」
    「うん、なんか変なの」
    「変、って、もしかして魔力が?」
    「ううん、そういうのじゃなくて・・・むしろ安心するの。なんでだろ?」
    う〜ん。ここにある道具の所為だろうか?
    それならば、それだけでも貰っておきたいが
    「そういえば、セリス。ケルスがまたいないんだけど」
    「え?」
    ここの階段を降りたときにはいたから部屋の外だろう。
    やれやれ、私ってセリスに本当に甘いなあ。
    「ちょっと、ペット探してくるから待ってて」
    三人にそう言うと二人で部屋を出る。
    ルスランが聞いてるのか聞いてないのか分からない、
    気の無い返事をしたがまあ大丈夫だろう。
    案の定、ケルスは部屋の外の通路にいた。
    部屋を出て少し先の通路で壁の一部をじっと見つめている。
    「何かあるの?」
    ケルスの見ている辺りの壁を触るが何も変なところは無い。
    壁を壊せば何か出てくるのだろうか?
    でも、押してもびくともしないし、かなり頑丈そうだ。
    壊すとなると大変な作業になりそうだ。
    いや、そもそも、壊したらこの通路が崩れかねない。
    「何だろうね?」
    セリスが同じように左手で触れる。
    すると、壁から固さというものが消えた、
    「「キャッ!!」」
    壁はまるで水のようになり、触れていた私とセリスの腕が中へと引っ張られ、
    中に引きずり込まれた。




    「ん、何か悲鳴のようなのが聞こえたぞ」
    「えっ、もしかして、エルリスたち?」
    「かもな、ちょっと探しに・・・」
    「残念だが、そうはいかないみたいだぞ」
    サクヤの静かな声に扉から顔を戻すと部屋にあった3つのフルアーマーが
    まるで、操り人形のように動きだした。
    「リビングアーマーか」
    「銅像といい、コレといい厄介な物を置いとく物ね」
    「さっさと片付けるぞ」
    「おう!!」





    ズダンッ!!

    「イタタタッ、ここは?」
    「あう〜」                         
    壁に引き込まれた先は小さな部屋だった。
    本棚とクローゼットが1つずつと机、ベッドしか物が無く装飾も全く無い
    質素な部屋。
    扉さえも無いが、出たきた壁は先ほどと同じくまるで形を持った水のようだ。
    もしかしたら、ここから入ってきたわけだし、これが扉なのかもしれない。
    「なんだろう、ここ?」
    「・・・わかんない。でも」
    そういってセリスは机の上においてあった本を手にとって開く。
    「すごい!!これ、魔道書のオリジナルだよ」
    「じゃあ、ここの本って当時のものなのかしら」
    「うん、そうだと思う。
    ここの魔道士はこの部屋で魔道書を書いてたんじゃないかな?」
    じゃあ、ここにあるのって結構凄い物なんだ。
    「中身は?」                          『・・・・・!!』
    「ごめんなさい。
    難しくて簡単にしか訳せそうに無いや」              『・・・・!?』
    「まあ、仕方が無いか。
    とりあえず全部貰っちゃいましょ」               『・・・!!・・・!?』
    本棚の本は20冊。
    そして、机の1冊で21冊だ。                   『・・・・!!』
    半分以上ページを取られたが仕方ない。
    出口は予想通り来た所から出られた。
    仕掛けについてはセリスが触れたら入れたみたいだし、
    多分セリスに渡した指輪が関係してるのだろう。


    「遅れてごめ・・・」
    部屋の惨状を見た私たちは固まった。
    きれいに整理されてたはずの道具が散乱し、
    何故か壊れた鎧の欠片がいたるところに落ちている。
    その部屋の真ん中では3人がグッタリしていた。
    「ああ、お帰り。大丈夫だったか」
    「ええ。それよりこの惨状は・・・何?」
    よくみれば3人の姿もボロボロだ。
    「まあ、ちょっといろいろあってね。
    とりあえず、欲しいやつは大体持ってったから後は好きにしていいわ
    もう、ここで切り上げるし」
    「えっ、あっ、うん。分かった」
    こんなに疲労してるなんていったい何があったんだろ。
    セリスに選んでもらい、
    ページに入れれるだけ入れて私たちは魔術師の館を後にした。

引用返信/返信 削除キー/
■394 / inTopicNo.10)  蒼天の始まり 第6話、@
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:06:04)
    『先生』



    「「ただいま〜」」
    来て一ヶ月も経たない新しい家。
    しかも居たのなんてほんの数日なのにこの言葉がすんなりと出てきた。
    「ああ、お帰り」
    ‘‘お帰りなさい”
    セリスと二人っきりで暮らしてたし、出かけるのもだいたい二人一緒だったから
    帰ってきて『お帰り』なんていわれるのはかなり久しぶりだ。
    「意外と早かったな、ルスランたちは?」
    「今日は疲れたから明日来るって」
    「そうか。で、何か見つけたか?」
    「うん!!魔法道具と魔法文明時の魔道書だよ」
    「当時の魔道書なんて良く残ってたな。
    鑑定してやるから、その間に飯でも食ってろ」
    「分かったわ。はい」
    アーカイバを取り出し、前の方のぺージの荷物を『解凍』していく。
    全部出し終え、既にカウンターにいるセリスの隣の席に座り、
    チェチリアの料理を待つ。
    遺跡の中ではちゃんとした料理を食べれなかったから、
    こういう料理は久しぶりだ。

    おいしい。
    チェチリアの料理は本当においしい。
    この店がつぶれないのはチェチリアの料理のおかげではないかと
    本気で思ったほどだ。
    あとでレシピを教えてもらおうかな。


    「失礼」
    食事を終え、セリスがデザートに挑んでる途中、店に入ってきた。
    何気なくその人物に眼を向けると、
    そこにいたのは20台半ばか後半ほどの美女といっても
    差し支えない人物。
    私にはその女性に見覚えがあった。だって、この人は・・・
    「「先生!?」」
    「あら、エルリスにセリス。やっぱり、ここにいたのね。
    久しぶりだな、ベア。ところで誰だ、その娘は?
    以前から疑ってはいたがまさか、本当に・・・『ロ』だったのか」

    ピキッ!!
    一瞬、世界が凍った。もっとも、セリスとチェチリアは『?』を浮かべているが。
    「・・・・ふざけんなーーーーーーー!!!!!!!」
    ベアが吼える。どうも、この二人は顔見知りのようだ。
    二人ともお父さんたちの知り合いだからありえないわけでもないのだが。
    「ねえ、お姉ちゃん。『ロ』って何?」
    ‘‘なんですか?’’
    ・・・ごめん。私からそんなことはいえない。
    『?』を浮かべている二人をぎゅっと抱きしめる。
    「・・・・・・いいの。二人はそんなこと知らなくていいの。
    二人は純粋なままでいて。
    でも、ベアに気を許しちゃ駄目よ。食べられちゃうから」
    「食べられる?」
    「エルリスーー!!!」



    その後、状況は先生とベアによる乱闘にまで発展し、
    危険と判断した私たちはすぐさま外に避難した。
    近所の人は事情を知っているらしく、なぜか集まってきた。
    話を聞くと、この騒動は以前から良く起きてたものらしく、
    ここ数年はなかったらしい。が、そのせいでかなりの人だかりが出来ている。
    曰く、「美女と野獣の大喧嘩」らしい。
    しかも、一部の人は賭け事までやっていて、
    見た感じ6:4位で先生が優勢だったりした。


    中の騒ぎが収まり、店の中に入って眼に入ったのは
    息切れをしたベアと先生、そしてかなり悲惨な状態の店内だった。
    見た感じベアの息のほうが荒いから勝ったのは先生だろう。
    外の人に報告しなきゃ。
    にしても、この店内は誰がかたづけるんだろ?
    「ゼイッ、ゼイッ、で何のようだ?」
    「ずいぶん鈍ってるようだな。
    別に用など無い。ただ通りかかったから顔出しただけさ」
    「・・・・・帰れ」
    「あ〜、分かった分かった。一晩泊まっていく、
    それならよかろう」
    「ふん。でなんだ?また召集か?」
    「ああ。最近、顔出してなかったからな。流石にそろそろ出ないと不味い」
    「それなら、2人も連れてってくれ、当時の魔道書を見つけてきたから
    どうせ行かなきゃならん」
    「当時の?へえ、やるじゃないか」
    「で、どうだ」
    「分かった、その代わり宿代はタダだ」
    「むっ、・・・しかたがない。いいだろう」
    「ちょっと待って。なんの話?」
    近所の人に勝敗を教えると、かなり大騒ぎになった。
    ちなみに私もちゃっかり先生に賭けてたりした。
    思わぬ臨時収入だ。
    「ああ、魔法文明時の魔道書は原則的に学園都市の中央図書館に
    納めることになってるんだ。むろん報酬はでるぞ」
    「・・・分かったわ。でも、何で先生が学園都市に関係あるの?」
    「先生?コイツが?似合わんな」
    「あんたよりはマシ」
    「ふん、コイツはこう見えても学園都市出身の魔術師、しかも最高位のウロボロスの1人だぞ」
    ウッ、ウロボロスっていえば、先生から聞いた学園都市の魔術師のなかでも、
    エリート中のエリートに与えられる称号だ。
    ここ数年でこれに当てはまったのは、若干14,5歳の若さで炎の魔術をすべて習得したという少女、
    ただ1人だという。
    「えっと、本当ですか?」
    「ええ。証拠見る?」
    先生は服のポケットから銀色の懐中時計を取り出した。
    時計の表には自らの尾を咥えた竜のレリーフが彫られている。
    「ウロボロスの証の銀時計よ」
    それが本物かどうかは私には分からない。が、ここまで言うのなら、本物だろう。
    「でも、なんでスノウライトみたいな田舎で先生を?」
    「まあ、いろいろとね。
    そういうことは余り詮索するモンじゃないわよ」
    「・・・はい」
    まあ、私だって人には言えない事なんていくらでもあるし。
    たしかに人にはいろいろ事情があるもんね。
    「二人とも、それでいいな」
    「いいわよ。どうせ行かなきゃならないみたいだし、中央図書館にも興味はあるから」
    「じゃあ、二人とも、戻ってきたばかりなんでしょ。
    明日は早いからさっさと休んだら?」
    「「は〜い」」





    「それにしても、驚いちゃったね」
    「うん、まさか先生がそんな凄い人だったなんて」
    妙にいろいろと詳しいと思ったら、学園出身だったんだ。
    「・・・学園都市か」
    「どんなんだろうね」
    「さあね。でも、中央図書館の本は調べておかなきゃ。
    セリスのことが分かるかもしれない」
    「お姉ちゃんのこともね」
    ふぁ〜。まだ、夕方だけど部屋の戻ったら緊張が解けて疲れが出てきたらしい。
    お腹もいっぱいだし、起きてるのが少々きつい。
    どうやら、セリスも同じようで、欠伸をしている。
    明日は早いらしいし、もう寝ちゃうか。
    「ふあ〜。お休み、セリス」
    「うん、お姉ちゃん。お休み〜」







    「・・・なんで、十年も経ってラウルがあいつらを寄越したか不思議だったが
    お前が隠してたのか」
    「まあね、あの二人に頼まれたら嫌とはいえないでしょ?」
    「だろうな。だが、いかに稀代の結界士といえど、十年間、結界を維持するのがやっとか。
    いや、むしろ、良く十年も持たせた物だ」
    「私が創った最高の結界よ。当然だわ」
    「そうか、相変わらずだな。・・・・・・最近の王国の情勢がおかしい。
    学園都市のギルドと教会は犬猿の仲だ。だというのに、王国所属の
    協団の魔道士が王国内と学園都市の一部で一緒いるのが見かけられるそうだ。
    どうも、きなくさい。気をつけろよ」
    「・・・情報ありがと。気が向いたら調べておくわ。じゃあ、お休み」
    「ああ」



引用返信/返信 削除キー/
■395 / inTopicNo.11)  蒼天の始まり 第6話、A
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:07:16)
    『飛空艇』



    目の前にあるのは巨大な鉄の乗り物。
    空を飛び、世界を巡る魔科学の産物、飛空艇だ。
    街を出て様々な物を見たがこれもまた、『凄い』としか言いようが無い。
    スノウから出た私たちはこの言葉ばかり言ってる気がする。
    それぐらい、世界は広く、知らないことに満ち溢れている。
    私たちがほんとうに小さな世界の中で生きていたのがあらためて分かった。


    「搭乗券はお持ちですか?」
    「搭乗券は無いけど、これなら」
    そういって先生が銀時計を見せる。
    「・・・かしこまりました。そちらの2人は?」
    「連れよ、構わないかしら?」
    「ええ、客室へご案内します」
    先生の話によると、魔科学によって生み出されたこれらの乗り物は
    魔術協団の管轄にあるため、
    銀時計の保持者は無料で利用できる特典があるらしい。
    しかも、弟子などを取ってる人もいるから、一緒にいる人も無料で
    利用できるのだそうだ。
    ここ、南の街リディスタに来るのにも列車を利用したが、それもタダだった。


    案内された部屋に入り、イスに腰を落とす。
    セリスも同じく、イスに座り、先生はべッドに腰を下ろした。
    「エルリス、魔道書持ってきてるわよね。見せてくれないかしら」
    「はい、どうぞ」
    アーカイバから何冊か取り出し机の置く。
    「・・・これだけ?」
    「いえ、まだ、だいぶありますけど?」
    「じゃあ、悪いけど全部出して」
    言われたとおり本をすべて取り出し、机の上に重ねる
    先生はそれらの本の題名を調べ、一冊だけ手に取った。
    「他のは、しまっていいわ」
    「それだけでいいですか?」
    わざわざ全部出したのに・・・
    「いくらなんでも2冊同時には読めないわ」
    ・・・とりあえず、私は読めないからセリスのために2冊だけ残して、
    あとはしまった。
    暇だな。何もすることがないや。
    「暇なら景色でも見てきたら?
    なかなか凄い物よ」
    ふ〜ん、行ってみるか。


    「うわ〜」
    飛空艇から見た地上の景色は想像以上だった。
    地上の物がとても小さく。それでいて、果てが見えない。
    こんな景色、見る機会は滅多に無いだろう。
    ふと、店に置いてきたペットとその世話をしているだろう1人の少女を
    思い出した。
    ケルスは列車や飛空艇に乗せる訳には行かなかったから置いてきて、
    チェチリアの方ベアは連れてかせるつもりだったらしいが
    本人が頑なに行こうとしなかった為、店で待っている。
    たぶん、動物たちを置いていけなかったのだろう。


    この先にある学園都市は魔術協団の本部がある場所だ。
    中央図書館があるとはいえ、実はあまり行きたくない場所でもある。
    理由はセリスの魔力が狙われるかもしれないから。
    でも、最近分かったことだが、実は魔力が高すぎる所為で、
    逆にはっきりと知覚できないらしい。
    魔法を使えば流石にバレてしまうが、常人の魔力量では高すぎる魔力に
    感覚が麻痺してしまい、ただ『大きい』ということだけしか知覚できないそうだ。
    その証拠にアウラさんも最初は気付かず、セリスが魔術を使ってやっと
    その魔力の異常さに気付いたほどだ。無論、アウラさんは秘密にして貰っている。
    それに、街を歩いてたときや列車に乗ったときもそれらしい人は見つけたが
    誰も気付いてはいない。
    ただ、発作の日って収まりきらない魔力が溢れ出す日だから、常に魔術を
    放ってるような物だし、気付かれる可能性は高い。
    幸い、先生の予定では1週間くらいで帰るらしいから発作は大丈夫のはずだ。
    あと、魔力殺しの道具が有ったから付けているが、これはハッキリ言って
    気休め程度。
    まあ、一発でばれない限りは大丈夫だと思う。
    それでも、絶対ではないからあまり出歩かないようにしよう。



    「お姉ちゃん」
    「あれ、セリス。どうしたの?」
    「私も見に来たの。
    うわ〜。全然、果てが見えないや。凄いね〜」
    「そうね、私たちの知らないことがいっぱいで驚いてばかりだわ」
    「うん、レムリアに来たときは凄いおっきいと思ったけど、
    世界ってまだまだ、こんなにも広かったんだね」
    「全くね」
    チェチリアにも見せてあげたいな。
    「でも、ちょっと残念かな」
    「なにが?」
    「前にミコトから聞いた海の話。やっぱり、見えないんだよね〜」
    そうか、王国エインフィリアは四国の中で唯一海に面していない国なんだ。
    見ようと思ったら、他の国行かなくては見ることは出来ない。
    ・・・・海か。
    「・・・いつか、見にいこうか。一緒に旅行にいって、泳いだりして」
    「うん、そうだね。いつか・・・絶対行こうね」
    「ええ!!」
    そのために、頑張らなくちゃ。


    「お〜い、そろそろ昼食にするわよ」
    「あっ、先生だ」
    「どう、飛空艇は?」
    「もう、凄いとしか言いようがありません」
    「そりゃよかった。じゃあ、食堂にでも・・・・・」
    「どうしました?」
    「・・・・・・何か来る」
    先生の睨みつけている方角を見ると黒い点がチラホラと空に見えた。
    「鳥?」
    にしては、妙だ。
    大体、この季節にあんな大勢が飛んでるのはおかしい。
    近づくにつれ、点だった物の輪郭が見えてくる。
    ちがう、鳥じゃない!!

    「「「ウォォォーーーーーー!!!」」」

    「獣人!?」
    「静かにしなさい」
    先生は腰につけていたナイフを両手に取り、私たちの囲むように
    一定間隔で床に射した。
    「第七結界、‘‘幻影結界’’」
    「なっ、なにを?」
    「シッ!黙ってなさい!!」
    船へと突っ込んできた何十匹もの獣人の中の一匹がこちらを向く。
    が、まるで見えていないかのように私たちを素通りしていった。
    見えていないかのよう。ではなく、見えていないのだ。
    それが先生が張った結界の効果だろう。まさか、一瞬でこんなこと出来るなんて。
    だが、通り過ぎた獣人の一匹は辺りを散策し、直ぐ近くの客室に入っていった。
    「先生」
    「・・・・・・駄目よ。これを解いたら、直ぐにでも襲ってくるわ。
    二人を危険にさらすわけにも行かない。それに、いくらなんでも無謀だわ」
    「そんな!?」
    「せめてもう1人いれば・・・・」

    ドッォォーーーン

    「ギァァーーーー」
    とてつもない轟音と悲鳴と共に先ほど入っていった獣人が部屋から
    扉を壊しながら吹っ飛んできた。
    続いて、壊れた扉から赤い髪の少女が出て来る。
    少女は見えないはずの私たちの方を見ると手に持った銃を向け、引き金を絞った。
    「っ!?第二結界、‘‘甲盾結界’’」
    先生の作った2つ目の結界により見えない銃弾は弾かれた。
    が、さっき張った結界は消えたらしく、少女は鋭い目で私たちを、
    先生を見ている。
    「貴方たちは敵?」
    「・・・いや、生憎とテロの助けをする気は無い」
    「・・・でしょうね。いいわ、こいつらは私が片付けるから、また隠れてたら?」
    そういって、少女は両手に銃を構え、未だ獣人のいる甲板を駆けていった。
    「・・・今のは」
    「知ってるんですか?」
    「本人には会ったことは無いけど赤い髪と瞳、そしてあの2丁拳銃、
    おそらく、焔の申し子、ユナ・アレイヤ」
    アレがあのユナ・アレイヤ・・・。
    確か14,5歳でウロボロスに入った天才魔道士で、その若さで焔の魔術を
    全て極め、赤き女神、爆炎の魔女、焔の申し子とも言われる。
    「とすると、まいったわ」
    「どうかしたんですか」
    「いるのがバレてしまったわ。
    ちゃんと仕事をしないと協団でまた何か言われることになるのよ」
    「って、そんなことですか!?」
    「いや、結構深刻なことなのよ。
    まあ、いいわ。これなら何とかなるし。
    運が悪いわね。ウロボロスを二人も相手にすることになるなんて」
    先生はその長い髪を紐でまとめ、左手の指の間にナイフを3本、
    右手に短剣を構える。
    「先生?」
    「あそこまで言われたら黙ってられないでしょ!!」
    そういって、先生は先ほどの少女『ユナ・アレイヤ』の向かった先へと同じように
    駆けていった。
    私たちはどうしよう・・・?

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■396 / inTopicNo.12)  蒼天の始まり 第6話、B
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:08:31)
    『赤き焔』





    ザワザワザワ
    外が騒がしい。一体なんだろう?

    ガチャッ。キィー、バタンッ!!

    扉の開く音がした。持っている魔道書から眼を外し、入ってきた人物を見る。
    眼を引くのは背にある、大きな羽。そして、太い腕に、鋭利な鉤爪。
    鳥の獣人。何故そんなのがここにいるかは直ぐ見当がついた。
    王国で噂になっているレジスタンスグループ、獣人の『ベヒーモス』、
    魚人の『リヴィアタン』と共に知られている鳥人のレジスタンス、
    『フェニックス』だろう。
    国王はこのような者がいるから獣人は危険だといってるが、順番が逆だ。
    王国が獣人を排他しているから、このようなものが生まれたのだ。
    私は国王の肩を持つ気はない。
    私自身も、王国の方針には否定的だ。
    ディシール王女が亡くなって以来、王の行いは余りにも度が過ぎている。
    だが、この飛空艇は協団の物だ。
    協団の魔術師として見てみぬフリをするわけにはいかない。
    そうこう考えている内に獣人はこちらに歩み寄って来る。
    ・・・仕方が無い。これも、仕事だ。そう割り切ろう。
    腰に差した2丁の愛用の魔操銃を両手に取り、獣人に数発、発砲。
    撃ったのは魔力弾だ。獣人の生命力なら致命傷にはならないだろうが、
    これだけ撃てば、当分戦うのは無理だろう。
    撃たれて怯んだ獣人を魔力で強化した足で蹴り飛ばす。
    獣人は衝撃により扉を破壊しながら外へと吹き飛ばされた。
    壊れた扉を抜けて外を見回すと、獣人は完全に伸びていた。
    が、それよりも気になったのは一部の景色が歪んで見えることだ。
    常人なら分からないだろうが、確かに魔力による揺らぎだ。
    揺らぎのある方向へ魔力弾を撃ちだす。
    すると、突如、3人の女性が姿を出現した。
    いや、二人は私より少し年上といった位で、
    まだ少女と言っても差し支えない年だ。
    ・・・結界か。
    結界魔法は現在、廃れつつある魔法の1つだ。
    習得が困難だったり、必要な魔力が多いこと、行使するのに時間が掛かることが
    理由。
    しかも、最近では魔科学の力によって、術者がいなくても同じ効果を
    生み出すことが出来る。
    いや、むしろ、魔力を通すだけで何度でも行使できる魔科学のほうが便利だ。
    「貴方たちは敵?」
    結界魔法は準備が必要な魔法だ。
    あれだけの結界があった。ということは事前に張っておいたとしか
    考えられなかった。
    それなら、この襲撃を知っていたということになる。が、
    「・・・いや、生憎とテロの助けをする気は無い」
    「・・・でしょうね。いいわ、こいつらは私が片付けるから、また隠れてたら?」
    どうも、この人たちが獣人の協力者とは思えなかった。
    まあ、敵だとしても倒せばいいだけの話だ。
    結界についても、私の銃弾を防いだ際に簡単なものだが一瞬で張っているし、
    少し準備をしていれば出来ないこともない。
    勘のいい人なら、事前に何か起きるというのがわかるものだ。
    かく言う私も面倒なことが起きるだろうとは予想していたが、無視した。
    そんなことで、予定を狂わされるほうが気に入らない。
    っと、物音を聞きつけ、他の獣人たちが集まってきたみたい。
    幸い、ここは行き止まりだから挟み撃ちということは無い。
    後ろの三人が襲ってくるとも考えられないことはないが大丈夫だろう。
    私は愛用の銃を構え直し、甲板の先にいる獣人へと駆けて行った。


    ある程度獣人に近づき、魔力弾を連射する。
    殺傷能力は低いから、何発か当てないと倒すには至らない。
    銃弾をばら撒きながら、魔術の詠唱をする。
    大きな魔術を使えば船にも被害が出る。
    船が落ちようと私は助かる自信があるが、それは不味い。
    仕方なく、攻撃ではなく足止めとして簡易、しかも得意な炎以外の魔術を放ち、
    獣人たちの動きを封じる。
    あまりいい状況じゃないけど、いいハンデだ。

    数匹の獣人を相手にしていると後ろから、ナイフが飛んできて獣人へと刺さった。
    ナイフの一本や二本、獣人には効果は無い。
    が、ナイフが刺さった部位が一瞬にして凍りついた。
    後ろを見ると先ほどの3人の内1人がナイフを構え、直ぐ隣まで歩いて来る。

    「手伝わせてもらおう。焔の申し子よ」
    私の二つ名はそれなりに有名だ。知られていても不思議は無い。
    それにしても、さっきのナイフはおそらく、結界魔法と同じく
    廃れつつあるルーンの魔術だろう。
    「ルーンの魔術に、結界魔法。そういう貴方は『結界王』ね」
    「昔の名だ」
    なるほど。これで、さっきの結界の謎が解けた。
    この人物なら、一瞬であのレベルの結界を張るのは造作も無いだろう。
    その力を持ってしてウロボロスにいるのだから。



    『結界王』と共に十匹以上の獣人を戦闘不能に追い込んだところで数人の部下を
    引き連れ、
    1人の男が現れた。
    「ほう、協団の者が乗っているとは思ったがこれ程とわな」
    「団長!?」
    現れた男に残っていた獣人が声を上げる。
    どうやら、あれがレジスタンスのリーダーのようだ。

    「貴様が、『フェニックス』のリーダーか?」
    「いかにも、俺が『フェニックス』の団長、鳥獣の長ストラスだ。
    貴様らが立ち塞がるというのならば我らが理想のため、容赦はせん!!」
    その言葉と共にお互いに動き出す。

    こちらを走ってくる獣人の長に銃弾を撃ちだす。が、それらはすべてかわされた。
    獣人の身体能力は人より高いが、それだけではかわせない。
    かわせた理由は鳥人の持つ高い動体視力のおかげでもあるだろう。
    「その程度で!!」
    「ちっ!!燃えろ!!」
    『結界王』が投嚇したナイフを弾く。
    けど、あまり意味が無い。
    ナイフが弾かれた際に、当たった部分から火が昇り、燃え移る。
    「なっ!!」
    だが、炎はどこかから取り出した剣により掻き消された。
    「退いて!!」
    嫌な感じがし、両方の銃に溜めてあった魔力を一気に出し切る。逃げ場は無い。
    しかし、それらは剣に弾かれ、あるいは、見えない壁に逸らされ
    獣人には届かなかった。
    神秘は更なる神秘には勝てない。
    そういうことだろう。

    「Sクラス、神話級の武具か。
    おそらく、スィームルグの羽。この場合は剣と言うべきだがな」
    これで生半可な魔術は効かないという事だ。ならば、
    「結界を張って」
    私の最高の魔術を持って打ち勝つしかない。
    「構わんが勝つ気か?」
    「当然よ。何であろうと負けはしないわ」
    自己に潜り、意識を高める。
    「ふっ、おもしろい。
    第8結界、封印結界」
    世界が揺らぎ、閉ざされる。

    詠唱は自分自身に捧げる言葉。
    『ユナ・アレイヤ』という存在、その起源を示すもの。
    「我は赤き焔の化身なり
     我は赤き王の化身なり
     我は赤き竜の化身なり」

    求めしものは
    「世界を焼くつくせし業火の刃よ。その力、我に手に!!」
    炎が集まり、剣を形作る。
    「焼き尽くせ!!レーヴァティンッ!!」

    これが私の最強の魔術の1つ。
    炎の魔力を剣の形に圧縮、固定して撃ちだし、触れたもの全てをその魔力を持って焼き尽くす。
    かの女神スルトが持つ世界を焼き払った炎の剣の名を冠したとっておき。


    撃ち出された炎の剣が獣人へと迫る。獣人はそれを手に持った神剣で受け止め、
    「ヌォォォーーーーー!!!」
    ゴォォォォォーーーー

    ガキンッ!!


    勝負あった。私の勝ちだ。
    獣人の剣がはじかれ、私の前に落ちる。
    「ガハッ」
    獣人はこの魔術を喰らったにしては傷が少なかった。
    おそらく神剣の所為でかなりの力が削られたからだろう。
    それでも、まだ戦える傷でもない。

    「・・・逃げたら?今なら見過ごしてあげるわ」
    「我らに恩を売ってどうする気だ」
    「別にあなた達のためなんかじゃないわ。
    このままじゃ、あなた達の所為で王国内での獣人の立場が更に危険になる。
    それが気に食わないだけよ。
    今ならこの件は学園都市だけで処理できるから」
    「・・・・我々の負けだ。娘、汝の名は?」
    「ユナ・アレイヤよ」
    「覚えておこう」
    「待ちなさい。コレ、大事な物でしょ」
    足元に転がる神剣を獣人へ放り投げる。
    「・・・・・律儀な者だ。礼を言う」
    投げられた神剣を掴み、獣人たちは全員、空へと去っていった。



引用返信/返信 削除キー/
■397 / inTopicNo.13)  蒼天の始まり 第6話、C
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:09:45)
    『MAO』

    「結局なんだったんですか、あれ?」
    まるで嵐のような出来事だった。
    私もセリスも何もできずにただ突っ立てただけで、
    解決したのは先生とユナ・アレイヤのおかげだろう
    しかも、私とセリスだけなら暴走でもしない限り負けていた。
    確かに、あの時の先生の判断は正しかったと思える。
    だが、彼らは何だろう?
    『フェニックス』といえば、本来は神話に出てくる不死鳥だが、
    それはさすがに無い。
    「彼らは王国に対するレジスタンスね。
    王国、特に王都の周辺は異種族に排他的で、
    最近ではエルフや獣人さえも迫害を受けているという話だわ。
    彼らはそれに不満をもつ者達の集まりなの」
    「獣人やエルフもですか?」
    「そう。王国自体が最近、妙におかしいわ。
    それと今回の招集に関わり合いが無いと良いのだけど」
    吸血鬼や魔族なら分かるが獣人まで、迫害を受けてるなんて
    国王は何を考えているのだろう。
    「というか先生。さっきと話し方ぜんぜん違うね」
    うん、私も思った。なんか違和感がある。
    「まあね。一応先生だから、生徒の前であんな口調は不味いでしょ」
    「でも、私たちはもう生徒じゃないだから、好きな話し方で
    良いんじゃないんですか?」
    「う〜ん、それはそうなんだけどね。でも、それは二人にも言えることじゃない」
    「うん、そうだね。でも、私もお姉ちゃんもこっちのほうが慣れてるから。
    先生も今のままのほうが楽なら別にいいや」
    「確かに、こっちは肩が凝るからいつものほうが楽は楽ね。
    では、これからはこっちの口調でいかせて貰おう」
    なんか、前よりこっちのほうが違和感がないや。


    「そうだ、この本に面白いことが書いてあってな。
    セリス、その指輪を見せてみろ」
    「えっ!?うっ、うん。」
    私がセリスにあげた指輪を様々な方向から眺め、触れる。
    「記述通りだな」
    「その指輪がどうしました?」
    「この指輪はアーティファクトだ。効果は使い魔の作成で、
    しかも、通常とはかなり異なる存在、同じ物は2つと無いだろう」
    「そんなに凄い物なんですか」
    「ああ、現在の技術じゃ間違いなく、同等のものは作れない」
    「どうすれば、使い魔を作れるの?」
    「まあ、待て。この本によると指輪をはめた時点で使い魔は作られている。
    あとは、名前を登録すれば出てくるらしい」
    「名前か。それなら・・・」
    「先生!!名前、決めてくれませんか?」
    「ん、別に構わんが」
    「お姉ちゃん!?」
    ゴメン、セリス。でも、セリスの命名は危険すぎる。
    「そうだな。では、この指輪の名称のイニシャルを取って
    M、A、O、マオでどうだ」
    「マオか。うん、それで良いんじゃない。ねえ、セリス」
    「うう〜。分かった。
    我が魂を引継ぎし、従者マオよ。我が前に姿を現せ!!」
    周囲のエーテルを集め、その存在をエーテルで形作る。
    エーテルの奔流が止まり、目の前にそれは現れた。
    「ふぁ〜〜あ、なんだ〜」
    「へっ!?」
    「コレが使い魔!?」
    現れたのはセリスと同じ色の水色の毛の猫だった。
    どうみても、ただの猫にしか見えない。
    もっとも、人の言葉を話してる時点で普通の猫ではないんだけど
    「エルリスにセリスに先生か〜。
    一体何だ〜」
    「なっ!?」
    何で私たちのことを!?
    「それほど驚くことではないぞ。その使い魔は魂の生成の魔術の過程で
    生み出された試作品だ。
    所有者、つまりセリスの魂と記憶を模倣しているから、私たちのことを
    知っているのは当然のことだ。
    もっとも、セリスの精神は模倣されてないから性格は全然似てないようだがな」
    「ふ〜ん、でもこれって何の役に立つんですか?」
    「さあ、本にもそこまでは書いてない」
    「ねえ、マオは何が出来るの?」
    「ちょっと待て〜。よいしょっと〜」
    妙な掛け声と共にマオの体が消えた。
    「えっ、何処に?」
    〈ここだぜ〜〉
    声のした方を見るとセリスのメビウスが自分で動いていた。
    「なっ!?」
    〈驚いたか〜〉
    「まさか、動かしてるのはマオなの?」
    〈おう、どうだ〜。凄いだろ〜〉
    凄いかどうかはともかく、コレって結構、便利かも。
    セリスもメビウスの扱いには時々困っていたみたいだから、
    これなら、操作が簡単になるし、途中で狙いも変えられる。
    「ふむ、物質に憑依し操作するか。おもしろい!!
    セリス、お前に私のとっておきを教えてやる」
    「とっておき?」
    「そうだ。ほとんどの魔術が使えないといっていたが、
    これならば、うまくいくはずだ」
    「ほんとですか!?」
    「ああ・・・あと、エルリス」
    「何でしょう?」
    「コレを読んどけ」
    「・・・なんですかこれ?」
    かなり、分厚くて、重い一冊の本。
    これをどうしろと?
    「古代語の基礎が書かれている。少しは読めるようにしとけ。
    恨むなら授業を聞いてなかった自分を恨むんだな」
    自業自得ってやつ?


引用返信/返信 削除キー/
■398 / inTopicNo.14)  蒼天の始まり 第6話、D
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:11:05)
    『図書館』






    「あう〜」
    駄目だ。脳が許容量オーバーでパンクしそう。
    普段やらないことだからかなりキツイ。
    いいじゃない!!勉強なんて出来なくたって!!!
    「エルリス、道端でぼやくな。みっともない」
    「ハイ」
    「セリス、いくら練習したいからといって
    こんなところで振り回すな」
    「は〜い」
    セリスはさっきから、メビウスの糸であや取りの様な事をしている。
    どうも、コレが先生に教えられたこと見たいだけど、
    遊んでいるようにしか見えない。
    セリスは先生に言われて渋々、メビウスをしまう。
    先生はやっぱり先生なんだな。と当たり前のことを思った。
    「さてと、二人ともこの宿に泊まれ。私も出来る限り夜には戻ってくる。
    あと、魔道書を渡す時にコレを図書館の者に渡すといい」
    「これ、手紙ですよね?中は?」
    「中身は私の紹介状だ。コレを渡せば図書館の魔道書を閲覧できる。
    ああ、忘れてた。私が飛空艇で見ていた本があったな。
    あれはお前たちが持っとけ」
    「えっ!!?そんなことしていいですか?」
    「本来は不味いのだが・・・内容が少々特殊でな。
    ここには置かず、二人が持ってた方がいい。
    いちおう、協団も強制だとは言ってないし、
    バレても今から持っていくところだと言い訳しとけばいいだろう」
    「・・・分かりました。あとの本は良いですよね」
    「ああ。まあ、バレはしないと思うが気をつけろよ」
    「ハイ」
    「うん!!」



    「すみません、魔道書の売却をしたいんですが」
    「こちらへ置き下さい」
    遺跡で見つけた20冊もの本を台に並べる。
    「あと、コレ」
    「・・・少々お待ちください」
    手紙を開け、受付の人は奥へ行き、数分たって戻ってきた。
    「どうぞ、こちらへ。案内致します」


    案内された部屋に並ぶ、本、本、本。
    これがすべて魔道書だというのだからとんでもない。
    「あいにくですが、ここの本は部屋の外には持ち出せませんが
    ご了承ください」
    「分かりました」
    「では、ごゆっくり」

    さて、突っ立ってても仕方ないし、手を動かそう。
    だが、調べるにしても私は基礎を少し学んだだけでまともには読めない。
    だから、それらしい題名や記述を探して、セリスのところに持っていくしかない。
    先生に少しは勉強しろといわれたがこのためだったんだ。
    探すのは、魔力、精霊に関する記述。
    その程度の単語はいくらか分かるので、それらの単語の書かれた題名の本を
    手当たり次第に探すしかない。
    私に出来ることがあまりにも簡単で、セリスに申し訳が立たない。
    もっとも、セリスは苦になるどころか、嬉々として魔道書を読んでいるが。


    コンコン!
    「あれ、なんだろ?」
    すべてセリスに任せるのも少々、情けないから、辞書を借りてきて
    少しづつ解読していたが、途中でドアのノックが聞こえてきた。
    「申し訳ありませんが、そろそろ閉館の時間です」
    この部屋には本の劣化を防ぐために、採光窓は小さく昼夜の区別がつき難かった。
    本に集中してて気付かなかったが、けっこう時間も経ったようだ。
    「セリス、もう時間だから本をかたづけよ」
    「えっ、もうそんな時間なんだ。早いな〜」
    「また明日も来れば良いでしょ」
    「そうだね」
    あ〜、なんか、セリスが生き生きしてる。
    もともと、セリスは勉強が得意だったし、
    暇があれば、お母さんの残した本を読んでいた。
    ほんと、私とは大違いだ。     



    図書館を出るともう日が暮れる間際だった。
    ちなみに売った魔道書は結構いい値段になったが、途中で寄った店で
    セリスの分のアーカイバ一冊とE・Cを買ったらほとんど飛んでしまった。
    収入はいいが、リスクは多いし、支出も大きい。
    あまり、お金になる仕事ではないみたい。
    食事も終えて先生に言われた宿の一室に戻ってくる。
    先生はまだ帰ってきていない。
    することも無く、発掘した魔法道具を整理する。
    ベアに鑑定して貰ったのは良いが、出るときに慌ててた為、
    適当にしまって詳細も聞いてなかったのだ。
    セリスは黙々と売らなかった魔道書を読んでいる。
    ほんとうにこの子ってなんというかマイペースね。
    「二人とも戻っているか?」
    「あっ、先生。お帰りなさい」
    「ん、ただいま。にしても、それが長所なのだが、
    セリスは1つのことに没頭すると周りが見えなくなるな」
    「そうですね」

    「どうだ、図書館は」
    「探してはいるんですけど、1人じゃ大変みたいです」
    「1人?2人の間違いじゃないのか?」
    「・・・私は読めないのを知ってると思うんですが?」
    嫌がらせだろうか?
    「ああ、違う、違う。マオがいるだろう」
    「えっ!?」
    「ん、だからマオならセリスの記憶があるのだから読めるはずだろう。
    駄目だったのか?」
    「いえ、気付いてませんでした」
    いや、確かに言われて見ればそうだ。けど、
    使い魔とはいえ、猫に負けてるようで泣きたくなってきた。
    「まあ、悔しいなら少しでも勉強しとけ」
    「・・・はい」
                       






    む〜、どうするかな。
    セリスとマオのおかげで魔道書のほうはかなり進んでいる。
    けど、私が解読したのなんて、ハッキリ言って雀の涙にもならない。
    塵も積もれば何とやらと言うけど、嘘だ。
    積もる前に風に吹き飛ばされてしまうんだから。
    まあ、何が言いたいかというと、私が解読したものの一部を間違って
    訳してて、やり直しになった。
    そんなわけで、私なんていてもいなくても変わりない。
    下手すれば邪魔になりかねない。
    だから、館内の本を見ることにした。
    とはいったものの、館内はかなり広い。
    しかも、様々なジャンルの本が並べられてて、料理のレシピの本だってある。
    えーと、エルフ・・・エルフっと。
    あった。

    森の妖精。世界樹の守護者。

    基本的に他種族に干渉を持たず、不干渉を決め込んだ状態で森の奥深くに
    作られた村で生活している。
    森の妖精と言われるだけあって、妖精の様に美しい容姿を皆がしており、
    その外見は最も美しい時を境として老いる事を止めるのだとか。
    また、精霊の扱いにも長けており、精霊魔法と呼ばれる精霊を使役する魔法の
    エキスパートでもある。
    森を汚される事を嫌い、一説によれば世界樹と呼ばれる始原の大樹を守護する
    役目を持たされていると言われる。
    ハイエルフ・エルフと、魔族に近いダークエルフ(その目的が魔族に近いだけで
    あり、霊的存在と言うわけではない)の
    三種族に大別すると分けられ、ハイエルフに寿命は存在しないと言われ、
    驚くほどの長寿。
    エルフもまた長寿で、4〜500年ほどは軽く生きるといわれる。
    ハーフエルフと呼ばれる人間との混血も稀にいるのだが、その場合、人間にも
    エルフ族にも虐げられると言う過酷な人生が待っている。
    外見的特長は人とほぼ同じだが、唯一、耳の形が人と異なる。
    また、ハーフエルフの容姿はその例に当てはまらず、精霊魔法の行使も不可能。



    ・・・・予想はしていたが、ハッキリとしたことは分かってないのが現状みたい。
    世界樹というのは聞いた事があるが、正確な場所どころかその真偽すら
    知られていない存在だ。
    やっぱり、エルフよりは王国の勇者を探したほうが楽そうだ。









    それから数日間、図書館に篭もったが大した成果は挙げられなかった。
    いろいろ調べた結果、セリスと同じように魔力の高い人物は存在したらしい。
    が、その魔力を完全に制御し何らかの偉業を遂げた者がほとんどだった。
    セリスはその制御が出来ないのだから手詰まりである。
    でも、逆に言えば制御さえ出来れば発作は何とかなるのだろう。
    それが分かっただけでも、一歩前進である。
    私のことはサッパリで唯一、エルフの記述にそれらしいことが
    書いてあったが、場所などについてはサッパリだった。
    結局、当初の予定通り、バルムンクを探すほか無い。
    「本当にもう良いのか?」
    「これ以上いても成果はないだろうし、
    必要なら今度は自分たちで来ますから」
    「そうか。ああ、先に言っておくが帰りは飛空艇ではなく列車だ」
    「「えええ〜」」
    「仕方が無かろう。飛空艇は今ごろ、『ヴァルフダリス』を飛んでいる頃だ。半月ほど待つのなら別だがな」
    そんなぁ、楽しみにしてたのに〜


引用返信/返信 削除キー/
■399 / inTopicNo.15)  蒼天の始まり 第7話、@
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:14:29)
    『再び』






    「「ただいま〜」」
    「ああ、お帰り」
    『お帰りなさい』
    「ただいま。お土産も買ってきたからね」
    「久しぶり〜、チェチリア、ケルス。ってアウラさん?」

    「いいところに帰って来たわ!!
    二人とも、もう一回あの館に付いて来て!!」
    「えっ、なんで?」
    「銅像に代わりがいたの。おかげで残りの魔法道具を
    取りにいけなかったんだけど。お願い!!」
    それは、少し不味い。もう少ししたら満月なのだ。
    「えっと、3日後なら良いですけど」
    「3日?早いほうがいいんだけど。
    まあ、準備とかも必要だし、帰ってきたばっかで休みたいもんね。
    分かったわ、3日後に、また来るから用意しといてね」
    キィィー。バタンッ!!
    アウラさんはその名の通り、まるで風のように去っていった。それにしても、
    「・・・またやるの?」
    はっきり言って命がいくつあっても足りない。




    「用意できたみたいね」
    「久しぶりだな」
    「おう、二人とも、元気にしてたか」
    「アウラさん、サクヤさん。こんにちわ」
    「おい、俺は無視か?」
    「あはははは、ルスランも久しぶり」
    「ああ、セリス久しぶりだな」
    「セリスに近づかないでくれない」
    「なんだ、嫉妬か?」
    ・・・・ボソッ
    「・・・万年発情期」
    「ガハッ!!」
    ルスランが私の呟いた言葉にダメージを受けて、跪く。
    ・・・なぜケルスがこの言葉でルスランと同じ反応をしてるのかは
    考えないようにしよう。
    「このバカは放って置いて頂戴」
    「そうする」
    「・・・」
    「サクヤさん、どうしました?」
    「その『さん』はやめてくれ。どうも、合わん。
    あと、その口調もだ。楽な喋り方でいい」
    「そうね、私も他人行儀で気が乗らないわ。
    もう、仲間なんだし。これからは呼び捨てで良いから」
    「分かった。じゃあ、これからよろしくね、アウラ、サクヤ」
    「ええ、よろしく」
    「よろしく」
    「おう、よろしくな〜」
    「へっ!?」
    「あっ!!」
    「何だコイツ?使い魔か?」
    「えっ、ええ。セリスの使い魔のマオよ」
    「へっ、へ〜、か、変わった使い魔ね」
    「なんだと〜」



    「は〜。また、やるのよね〜」
    館に着てみると確かに前に銅像のあったところに全く同一の銅像が立っていた。
    周りには前回の銅像の欠片が落ちているから別物ではあるらしい。
    「ゴーレムがどうかしたのか〜」
    「どうって、通るのを邪魔するんじゃない。
    それぐらいセリスの記憶にあったでしょ」
    「そうじゃなくてだな〜。
    もしかして、コイツを止めたいのか〜」
    「当然でしょ。なんでこんな面倒なことを2回も・・・」
    そういうと、マオは1人でゴーレムまで歩んでいった。
    ゴーレムが近づいたマオに反応を示すが、マオが呟いた聞きなれぬ
    言語によって、再び大人しくなった。

    「止めてやったぜ〜〜」
    「って、どうやったの?」
    ルスランたちも唖然としている。以前のあたしの苦労はどうなるの?
    「もっ、もしかして、あなた、この館の制御を司ってるの?」
    「そうだぜ〜」
    「えっとゴメン。どういうこと?」
    アウラだけはなにか分かってるみたい。
    「つまり、ある意味、マオがこの館の主であり、鍵でもあるのよ。
    この子がいればこの館の散策はかなり楽になるわ」
    「それって、魔法生物と戦わなくて良いってこと?」
    「残念だけど〜そこらにいる下級の奴は無理だぞ〜」
    使えるんだが使えないんだかハッキリしないわね。
    「まあ、これで、悩みの種は消えたわけだし、さっさと道具を回収しましょ」


    以前訪れた地下の宝物庫の途中にあった小部屋。
    私とセリスは再びここに訪れた。
    この部屋のことをルスランたちに話したらもう少し探すよういわれた。
    確かに前回は本棚の本を回収しただけで、この部屋のことはほとんど調べて
    いなかった。
    いくら殺風景といっても、机の引き出しやクローゼットなどには何か入っている
    だろう。
    手始めにクローゼットを探すといかにも『魔術師』といった服が入っていた。
    不思議と虫食いなんかも無くまるで新品同様、それでいて何年も使ったような年季を感じさせた。魔術師の服だし、おそらく何らかの魔術が施されているのだろう。
    コレは一応貰っておこう。あとは机の引き出しだが、鍵が掛かっていて空かなかった。しかも厄介なことに魔術の施錠のようだ。
    あっ、この部屋にはあの指輪で入れたんだから、もしかしたらコレも何か関係あるかも。
    「セリス、指輪を」
    「えっ、あっ、うん」
    セリスの指輪が引き出しに触れるが何も起きない。失敗か。
    「指輪じゃ駄目か」
    「なにやってんだ〜」
    「じゃあ、あんたがやってみなさいよ!!」
    「しょうがねいな〜。『祖は起源の探求者、師は生命の探究者、されど我は真理の探求者』
    開いたぜ〜」
    こっ、こいつ知ってたんじゃない!!
    そりゃついさっき、アウラからこいつが館の鍵だと聞いていたの忘れていた私も私だが、それを黙ってたマオもかなり性格が悪い。
    何でセリスの記憶と魂があるのにこんなに捻くれてるんだろ。
    そんなことを考えながら、解呪された引き出しを開ける。
    「これ・・・アーカイバだ」
    なかに入っていた本は私たちが持っているのとは多少違うが、紛れも無くアーカイバだった。魔科学品のほとんどが魔法文明の遺産を現代の技術で複製した物だ。
    だから、複製できない物もあれば、能力をかなり下げることでやっと作れる物や、全く同一の物を作れる物でABCという感じでアーティファクトは分けられる。
    あとは、完全に現代のオリジナルのものがDで、神話に名を残すような封印指定の存在がSにあげられる。だから、魔法文明時のアーカイバは十分普通なことだ。
    あえていうなら、セリスの分を買った直ぐ後に見つかったということが腹立しい。
    まあ、有って困るわけではないが、よく考えれば既に契約済みだろう。
    それでも、当時のなら売れるかも知れ無いし貰っておく。


    結局、小部屋からは他のものは見つからず宝物庫の残りを持ち帰るだけだったが、
    さすがに1日で帰るのも癪だったらしくもう少し散策することに決まった。
    そして今に至る。
    いるのは途中で見つけたある広い一室。
    その奥にあったのは広い広い大浴場だった。
    「お風呂場?」
    「なんで?」
    「まあ、昔の魔術師が暮らしてたわけだし、有り得ない訳ではないが」
    「・・・・入ろっか」
    「アウラ!?」
    「だって、こんなところでこんなの見つけたら入らなきゃ損よ。
    ここなら徘徊も来ないだろうし、見張りを置いとけば良いでしょ」
    「ええ〜。でも」
    確かに魅力的では有るが、違う意味で危険を感じる。とくに後ろの2匹から。
    「あっ、そっか。サクヤ、見張りお願いできる?
    そこの2匹、入ってきたら殺すからね」
    極上の笑みだが、声は間違いなく本気だ。
    「・・・ハイ」「クゥ〜ン・・・」
    ・・・コレなら大丈夫そうかな。


    「ふぅ、いい気持ち」
    「本当だね〜」
    サクヤの話だと、コレはサクヤたちの国、蓬莱に多くある、温泉という物らしい。
    詳しいことは分からなかったが、普通のものよりもかなり気持ち良い気がする。
    セリスとアウラ、マオも似た感じだ。
    はああ〜、いい気持ち。ん?
    「何?あの黒いモヤ」
    「何が?って!!ゴーストじゃない」
    「・・・ゴースト?」
    「えーと、亡霊のことよ。そんなに強くないけど、魔力でしか倒せないの。
    まあ、魔法が使えれば楽勝よ」
    「ふ〜ん。じゃあ・・・」
    「駄目だよ!!こんなとこで氷を使ったら風引いちゃう」
    「そっ、そっか、それならって、来た!!」
    剣が無いから、詠唱しても間に合うかどうか
    「クッ、なら!!」
    むんず!
    「んあ!?」
    「逝け、マオ!!!」
    ブォン!!
    マオの頭を掴み、力の限り投げつける。
    「うわぁぁ〜〜〜〜〜〜〜」
    ドゴン!!
    「グギャッ!!」
    オオォォォーーーン
    「マオ!?」
    「やったあ!!って、ヤバ!!!」
    エーテルの塊であるマオなら、ダメージを与えられると思ってやったが、
    それほど効いてはおらず、むしろ怒りや憎悪でさらに大きくなったみたい。
    真っ直ぐ私に向かってゴーストが迫ってくる。が、
    「消えろ!!」
    割って入ったサクヤの太刀によって霧散して消えた。
    そして、サクヤは勢いあまって浴槽に突っ込んだ。
    ああ、ビックリした。
    「ありがと、サクヤ」
    でも、助けてもらったとはいえ入浴中に入るなんてちょっと・・・・
    風呂場に飛び込んできたサクヤはその水浸しになった上着を脱ぐ。
    おかげで、サラシとサラシを巻いても分かる豊かな胸のふくらみが見えた。
    ん!?
    「って、ふくらみ?・・・・まさか・・・・・女の人〜〜〜〜〜〜〜!?」


    「どうした!!大丈夫か!?」
    「来んなって言ったでしょうが!!!!」
    むんず!!ブォン!!
    「うわぁぁ〜〜〜〜〜」
    「フギャッ!!!」
    ドタンッ!!
    どさくさ紛れて2匹が入って来ようとしたが、アウラが返り討ちにした。
    あとで、殺す・・・


    「やっぱり、気付いてなかったのね」
    確かに、サクヤは美形だけど、一人称が『俺』だし、話し方や仕草も男っぽかったから、てっきりそう思っていた。でも濡れた髪をおろしている今の姿なら女性に見える。まあ、おかげで裸を見られても気にならないけど。
    でも、これは普通、気付けないと思う。というか詐欺だ。
    そして、何より悲しいのはセリスは気付いてたということ。
    なんで、私だけ気付けなかったんだろう・・・・。
    ついでにいうと、ケルスとルスランは床でうなされている。
    一応忠告はしといたんだから、それでも入ってきた2匹が悪い。
    でも、純粋に心配して入ってきたとしたらちょっと可哀相だったかもしれないが
    普段が普段だし、仕方が無いだろう。



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■400 / inTopicNo.16)  蒼天の始まり 第7話、A
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:15:34)
    『買い物』






    「ねえ、コレどうすればいいの?」
    遺跡から戻ってきた私たちは、ルスランたちと共に、ベアに見つけた道具を
    鑑定をして貰っていた。
    もっとも、三人はすでに終えて帰ってしまったが、
    問題は私が見つけた1冊の本。アーカイバだ。
    「ほう、アーカイバか。刻印が失われてるなら何とかなるぞ」
    「?売るんじゃないの?」
    「売る!?何バカなこと言ってんだ。昔のアーカイバなんて、
    宝箱みたいなもんじゃねえか。売ってどうする」
    あ、それもそうか。
    「でも、アーかイバって契約者以外は使えないんでしょ?」
    「普通はそうだ。だが、契約者が死んでるならやれんこともない。
    だが、ちゃんとした魔術師に頼まなきゃ駄目だがな」
    「ふーん。じゃあ、協団にでも持っていくの?」
    「それでもいいが、そうすると高くつく。かといってモグリのやつ等に任せりゃ
    中身を取られるかも知れんし・・・まあ、気に入らんが、お前さんたちの先生にでも
    渡せば上手くやってくれるだろう」
    「じゃあ、またスノウに行けばいいのね」
    「いや、そういうのは他のやつ等に頼め。
    お前たちをまたあの森に行かせるのは危なっかしい」
    うっ、確かに森で迷った挙句、油断してやられかけたことを話したら
    呆れられたことがあったが、今度はそんなことにはならない自信はある。
    「まあ、わざわざ自分で行かなくても、他のやつに依頼するのも1つの手と
    いうことだ。せっかくの休みにそんな面倒なことをするのは非効率的だろう?
    どうせ大した額じゃないんだ」
    言われてみればその通りかも知れないが、
    「でも、人づてというのは先生に失礼な気がするんだけど」
    「確かにそうも取れるかもしれん。だが、これは商売だ。
    知り合いだからといって贔屓するのは余りいいことではないぞ」
    「・・・わかった。言うとおりにするわ」
    「よし。なら、明日はチェチリアと一緒に街を回ったらどうだ?
    こっちに着てから忙しくてそんな機会が無かっただろ」
    ‘‘でも、そんな、お店を休むのは’’
    話を聞いていたチェチリアがノートを使って会話に参加してきた。
    もっとも、外出について、嫌がっているとか、そういう感じではなさそうだ。
    「俺や店を心配してるなら気にしんで良いぞ。
    最初の頃は1人でやってたんだ。お前もたまには羽を伸ばして来い」
    少しの間、思案し、
    ‘‘ありがとうございます’’
    と笑顔で文字の書かれたノートを見せた。
    「じゃあ、明日は買い物だね。楽しみだな〜」
    「セリス、ほどほどにね」
    って、どうせ、聞いてないわね。
    まあ、別にそれほどお金には困ってはいないんだけど。









    「じゃあ、いってきま〜す」
    「おう、楽しんで来い!!」
    ・・・・・・・・・・



    「ふう、1人だとやはり暇だな」
    ガチャッ!!キィー、ガチャン!!

    「ん、誰だ?っと、お前か」
    「久しぶり、デュナミス遺跡の守護者の退治。完了したわ」
    「ご苦労さん」
    「労いは良いからとっとと報酬を出しなさい」
    「ったく、せっかちだな。今回は長引いたが、またスノウに戻るのか?」
    「まあね、というか長引いた理由はこんな面倒な仕事押し付けた
    あんたの所為でしょ」
    「そうだったか?」
    「はあ、もういい。今回も収穫が無かったし、嫌になるわ。
    何か変化はあった?」
    「いや、最近の事件では協団の飛空艇が襲われたらしいが、公にはなってない。
    あとは無いな。
    お前さんの探し物も変化なしだ」
    「そっか、ならいいわ。それじゃ」
    「ちょっと待て、スノウに戻るならあそこの学校で先生をやってる、
    二十代半ばぐらいの魔術師がいるはずだ。
    そいつにコレを渡してくれ」
    「いいけど。
    その人って、細身で金髪のロングヘアーの女性?」
    「ああ、そうだ。よく知ってるな」
    「まあね。渡すだけでいいの?」
    「いや、出来れば往復で頼む」
    「はあ、わかった。でもコレって誰が見つけたの?
    あいつら?」
    「いや、一緒に向かわせた新入りだ。
    なかなか見所があるぞ。今度紹介してやる」
    「弱かったら組まないわよ」
    「ああ、分かってる。強ければいいんだろ」
    「えらく強気ね。まあ、いいや。
    チェチリアの料理もないし、
    もう用は無いわね。それじゃ」
    キィー、ガチャン!!

    「全く慌ただしいやつだ」






    「どれがいいかな〜」
    「どうせ、着る機会なんて滅多に無いんだから
    そんなに気にしなくてもいいじゃない」
    「駄目だよ、お姉ちゃん、そんなんじゃ!!
    ほら、これなんてお姉ちゃんによく似合いそう」
    ここはレムリアの大通りにある大きな洋服店だ。
    セリスが見つけて、一目散に入って行ったの追いかけたら、こうなった。
    確かにセリスの選ぶ服は可愛いと思うが、私はちょっと着たいとは思えない。
    はっきり言って、これを着て、街中を歩くとなると私にとっては拷問のようだ。
    無論、セリスは純粋に私に似合うと思って選んでいるのだろうが、
    ある程度なら良いが、私の性格的にここまでフリフリの服を着るのはちとツライ。
    チェチリアはお店の空気に当てられ、なんかオロオロしている。
    ・・・チェチリアなら、これ似合いそうだな。
    ―ニヤリッ

    「ねえ、チェチリア。これ着てみない?」
    口調は優しげだが、チェチリアを掴む腕の力は結構強く、
    必死に逃げようとしてるようだが、この程度ではビクともしない。
    「セリスも手伝って」
    「うん。分かった」
    セリスも極上の笑みでチェチリアを捕まえる。
    なんかもう、開き直って楽しんでしまおう。
    うん、そうしよう。



    「うん。チェチリア、良く似合ってるよ」
    お世辞でなく、本当に似合っている。
    同性の私から見ても、チェチリアは小さくて‘‘女の子’’という感じだ。
    言われたチェチリアは頬を赤く染めながら、はにかむ様な笑みを浮かべている。
    「さて、今度はお姉ちゃんだよ」
    「ヘッ!?」
    着替え終わったチェチリアとセリスに突如、腕を掴まれ、動きを封じられた。
    えっ!?ちょっと待って!?
    どうやら、チェチリアはさっきの復讐という意味が強いようだ。
    あ〜〜。
    まるで売られ行く子牛のような心境だ。
    こういうのも因果応報というのかな。
    もはや、私は半ばあきらめの境地だった。


    こうして、セリスと私とチェチリアはまるで着せ替え人形のように服を
    着せられあい、結局何着か買ってしまった。
    どうせ、結局着ないんだろうな・・・はあ。


引用返信/返信 削除キー/
■401 / inTopicNo.17)  蒼天の始まり 第7話、B
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:16:45)
    『白き牙』






    ―キィー、ガチャン!!
    「おお、早かったな。ってなんか機嫌が悪いな」
    「別に、ちょっと薄情な友達がいてね」
    「??よく分からんがちゃんと渡してくれたんだろうな」
    「当たり前でしょ。ハイッ、これ」
    「ああ、ありがとう。報酬は」
    「良いわよそんなの。ただのついでだし。
    それよりなんかいい仕事無い?
    ちょっとムシャクシャしてるのよ」
    「あいかわらず、物騒なやつだな。
    とりあえずお勧めはこの街に範囲を広げつつあるはぐれの吸血鬼。
    最近、犠牲者が増えてついに賞金首になった」
    「ああ、前から言われてたやつね。
    ちょうど良いわ3日もあれば片付くから。
    その後は当分、こっちにいるから」
    「気をつけろよ」



    「あれ、こんな時間にどうしたの?」
    「ああ、常連が来てな。ちょっと仕事を紹介してやったんだ」
    「常連ってルスランたち?」
    「いや、別のやつだ」
    他の人・・・
    「そしかして、シリウス?」
    「さあ、どうだろうな。
    それより、アーカイバが届いたからとっとと契約して開けてくれ」
    「あっ、ありがと。そっか、刻印つけなきゃ開かないんだよね」
    「そうだ」
    契約を終え、入っている中身を全て取り出してベアに渡す。
    ページはほとんど埋まっていて、全て出すだけで一苦労だ。
    そういえば、私が契約しちゃったけど良いよね。
    ・・・セリスが怒るかな。
    「こいつは・・・・バースト80、セイクリッド40発と
    いったところか。通常弾もかなりあるな。
    なんというか、運はいいが、間は悪いな」
    「それって銃弾だよね?そんなに珍しいの?」
    「ああ、特別な種類の銃弾で、アーティファクトといってもいい。
    しかし、こんなに早く見つけるとわな。
    まあ、運も実力のうちと言うしいいだろう、約束は約束だ。
    シリウスに会わせてやる」
    「えっ、本当!?」
    「嘘は言わん」
    嘘!?こんなに早く合えるなんて。
    つまり、これってそれほど、珍しいものなんだ。
    「とはいえ、アイツが来るのは数日後だな。
    それまでおとなしくしてろ」
    「分かったわ」
    楽しみだわ。どんな人だろう?





    ベアにシリウスを紹介して貰えると決まってから数日が経ち、
    私とセリスは本職(といってもまだ新米だが)であるはずの冒険者仕事をせず、
    チェチリアと共にベアの手伝いをしている。
    理由は私たちがいない間に来て、行き違いになるのは御免だし、
    なによりも、そんなことになったらシリウスに失礼だ。


    ―シリウス
    白き牙といわれる俊足の剣士、
    他の三人、蒼き空バルムンク、銀の月アルテ、赤き竜サラたちと
    同様に名前以外知られていない謎の英雄。
    白き牙というのも、そのあまりの速さに白い影としか映らず、
    抜かれた剣の煌きから、白き狼の牙と言われたらしい。
    というのも、まともに見たのは王城の一部の騎士と女王ディシール様と
    その娘の第一王女リリカルテ様のみだからそれほど詳しくは伝わっていないのだ。
    もはや、シンクレアは生きた伝説といってもいいだろう。
    そんな人物に会えるなんてほんと、夢のようだわ。


    「お姉ちゃん、早く帰らないと日が暮れちゃうんだけど」
    「えっ!?あっ、ゴメン」
    いけない、ベアに頼まれた買出しの帰りなんだった。
    しかも、もう日が暮れる間際だし、早く帰らなきゃ。
    「・・・なにあれ?」
    「えっ!?」
    沈みかけつつある太陽と反対側の空から、近づいてくる黒い影。
    「獣人かな?」
    「どうだろ・・・でも、いやな予感がするわね」
    黒い影が大きくなり、真っ直ぐ私たちの方へ進んでくる。
    念のため、アーカイバから剣を取り出す。こういうときアーカイバは凄く便利だ。
    影の形が判別出来るほど近づいてくるとそれは人の姿をした何かだと確認できた。
    だが、何か違う気もする。
    そうこう考えている内に影が勢い良く降りてきた。
    降りてきた影はわたし達の周りにいた1人の女性に襲い掛る。
    私は慌てて影に切りかかるが、黒い翼を広げて、再び空へと飛び上がって
    避けられた。
    襲われた女性を見ると血の気は無かったが、どうやら気を失っているだけだった。
    だが、眼を引くのは首筋から流れる血と噛まれた痕。
    つまりコイツは獣人なんかではなく、
    「吸血鬼!?」
    セリスが驚き、身構える。
    吸血鬼は、魔族の亜種だ。
    獣人以上の生命力と、人を超える魔力、魔族同様永遠に近い寿命を持ち、
    人を狩り血を欲する。それが吸血鬼という存在だ。
    しかし、この吸血鬼はボロボロだった。
    勝てるかどうかは分からないが、放っては置けないし、
    傷ついている今なら私でも、何とかなるかもしれない。
    剣を構え、いつ降りてきても対応できるようにする。
    だが、吸血鬼は降りてこず、あまつさえ魔術の詠唱を始めた。
    慌てて詠唱の邪魔をするべく氷を打ち出すが、届かずに地に落ちてしまう。
    いまから、大きな魔術を詠唱しようと相手のほうが先に完成する。
    しかも、私もセリスも飛んでいる敵に対する有効な手立ては無い。万事休すだ。
    目に見えて、吸血鬼の魔力が高まり、詠唱が完成しようとしたところで
    突如、吸血鬼の翼が消えた。いや、斬られたのだ。
    飛ぶ術を失った吸血鬼は、自然の法則に従い、地に落ちる。
    地面に叩きつけられた吸血鬼が顔を上げ、
    「鬼ごっこもここまでね」
    ―ザシュッ!!
    翼を斬ったと思われる人物に躊躇無く剣を突き刺され、灰となり消滅した。
    「ふぅ、取り逃がすなんて腕が鈍ってきたかしらね「ミコトだ〜〜!!」って、ええっ!?」
    セリスがその人物に勢い良く抱きつく。
    「セリス!?、にエルリス」
    そう、吸血鬼を倒したのは紛れも無く。
    私とセリスの親友である、ミヤセ・ミコト、その人だった。
    ・・・・わたしはついで?
    「ミコト・・・・どうしてこんなところに?」
    「それはこっちのセリフよ。一体なにしてんのよ、あんたたちは」
    「えっ!?一応、冒険者だけど」
    「そうじゃなくて、何であたしに何も言わずに出てったのかってことよ!!」
    「むう、だってミコトいなかったんだもん!!」
    「うっ、でも、挨拶も無いのは問題でしょ」
    「いや、だって早めに出なきゃいけなかったし」
    ・・・実際はスノウを出て少しして思い出したんだけど。
    わたしって結構薄情なのかな?
    「それでも、せめて置き手紙くらい・・・まあ、いいわ。
    どうせ会えたんだし、今回のことは許してあげる」
    「ありがと。そうだ、さっきの女性」
    「もしかして噛まれたの?」
    「・・・うん」
    私たちがもっと早く動ければこんなことには・・・
    「どれどれ・・・なんだ。ほとんど血も吸われてないし、大丈夫よ」
    「でも、噛まれたら、吸血鬼になるんじゃ」
    「それも大丈夫みたい。吸血って力を注いで自らの手下を作るためか、
    力を得るための手段だから、絶対になるわけじゃないの。
    私に追われてたから、ただの『食事』だったみたい」
    「そっか、じゃあ、大丈夫なんだね。良かった」
    「ところで二人とも宿は?」
    「ベアっていう冒険者の店でお世話になってるの」
    「ベアって、あのイカツイ熊みたいな店長の?」
    「うん、そうだけど」
    ボソッ
    「なんだ、ベアが言ってた新入りって、エルたちのことなんだ」
    「何か言った?」
    「ううん、なんでもないわ。私もベアには用があるし、一緒に行く?」
    「そうね」



    「にしても、二人とも妙にうれしそうね?」
    ベアは遅過ぎる私たちに痺れを切らし、探しにいったらしい。
    が、すれ違いになるのもゴメンなので、チェチリアの料理を食べながら久しぶりに
    三人で雑談に没頭している。
    にしても、やっぱり顔に出ちゃうかな?
    無論ミコトに会えたのもうれしいんだけど、
    「実はね、ベアにシリウスに会わしてもらえることになってるんだよ。
    ミコトも紹介して上げよっか?」
    「ブッ!!ゴホッ!!ゴホッ!?」
    ミコトはセリスの答えた言葉に驚き、口に含んでいた水を吹き出しかけた。
    「ちょっ!!ミコト!?」
    「ゴホッ!!ゴッ、ゴメン、ちょっと用を思い出した。じゃあ」
    「あっ、ミコト、お金!?」
    ドンッ!!
    「キャッ!!」
    「おいおい、王国の英雄ともあろうものが食い逃げか?」
    「ィッタ!!ってベア、あんた私を売ったわね!!」
    「売ったとは人聞きが悪いな。ただの仲介だぞ」
    「王国の英雄・・・って、えっ?ええっ!?」
    まっ、まさか!??
    「同じことじゃない!!第一、なんでこっちの方の名前出すのよ!!」
    「まあ、いいじゃねえか。どうやら知り合いだったみたいだし。
    こいつら、頼まれてた品を見つけてきたんだぞ。
    エルリス、もう分かったかもしれないがこいつが」
    「はははは、まっ、まさか」
    だってそんな!?行く何でも有り得な・・・
    「はあ、もういい。そうよ、私がシンクレアの白き牙、シリウスよ」
    うそ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!??
    硬直。私もセリスも凍りついた様に固まった。
    なんとか、意識を戻し、
    「私の憧れを返せ〜〜〜!!」
    「何の話よ!?」
    結局その後の記憶は無い。
    ベアの話によるとセリスと共に酒に逃避して潰れたらしい。
    なんかとんでもない一日だった。
    私の夢を、理想を、憧れを返せ〜!!!





引用返信/返信 削除キー/
■402 / inTopicNo.18)  蒼天の始まり 第7話、C
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:18:02)



    『番犬』





    頭痛い。えーと確か昨日はああ、そうだ。
    シリウスを紹介してもらったんだ。
    もう、悪い冗談か悪夢にしか思えない。
    ・・・夢。ああ、そうか。
    何も言わなかったミコトに対する罪悪感から見てしまった悪夢なんだわこれは。
    うん、良く考えればミコトが王国の英雄なんてそんなことあるはずがないもの。
    「全部口に出てるわよ。それで、あたしが何ですって?」
    ・・・どうやら現実逃避も許されないみたい。



    「おはよう・・・」
    「おはよう、シリウスに会わせてやったというのに昨日までとはえらい違いだな」
    間違いない、ベアは分かっててやっている。
    そりゃ、私もミコトが強いのは分かってはいるが、
    こんな身近なところにいたら憧れも理想もあったもんじゃないと思う。
    せめて、知り合いじゃなかったら・・・
    「エルリス。あなた、さっきからかなり失礼」
    「えっ!?ああ。ゴメン」
    「まいいけど、セリスは?」
    「ショックで寝込んでる」
    「・・・そう。姉妹そろって本当に失礼よね。で私に何のよう?」
    とりあえず、嘘ではないと思うがカマ掛けてみよう。
    いや、別に信じてないわけではないというか、信じたくないというか・・・
    「ねえ、バルムンクが精霊使いって本当?」
    「!?何でそのことを!?」
    本当、みたい。噂しか聞いてないならこんな反応は出来ないと思う。
    つまり、本当にバルムンクと一緒にいたのだ。
    にしても、ミコト・・・・・・
    「前に酔払って話してたよ」
    「・・・・・・・・やっちゃった」
    「ははは。で、その話本当なんだよね?」
    「ええ。まあ、そうだけど?」
    やった!!これで何とかなるかもしれない。
    「じゃあ、バルムンクに会わせてくれない?」
    「無理」
    ミコトが間髪いれず即答する。
    「なんでよ!?」
    「だって行方知らないもの」
    「・・・はあ!?」
    「いや、実はね。
    私が行方知ってるのはサラだけで、他の奴は行方を知らないの」
    「なんで?」
    やっぱり、偽者なんじゃ?
    「仕方ないでしょ。私たちお互いの名前さえ知らないんだから。
    私、全部終わったら疲労で倒れちゃってね。
    起きたら同じように倒れたサラ以外、もういなかったの」
    「名前を知らない?でも、バルムンクって」
    「それが本名だと思う?それに私の名前は?」
    「ミコト・・・つまり偽名?」
    ここまで謎だと確かにそうも考えられる。
    「まあ、間違ってないわね。
    名前が知られたくなかったから付けた名前で、
    偽名とは少し違うかな」
    「でも、なんで?ミコトもそうなの?」
    「うん、私もそうだけどあまり名前を知られなくなかったみたい。
    まあ、実際サラの正体なんかは有名だし知られたらいろいろ問題あるかも」
    「・・・わかった。なら、せめてサラの正体と居場所を教えてくれない?」
    それ以外に手がかりは無いんだ。仕方が無い。
    「そうね、私以外の三人には何か通じる物があったみたいだし、
    私はバルムンクのことはあまり分からないけど、良く考えてみれば
    サラなら手掛かりがあるかもしれないわね。
    分かったわ。でも、理由を話してくれなきゃ嫌よ。
    仲間外れっていうのは気に食わないから」
    「・・・・・・それもそうだね。うん実は・・・」









    「・・・・・確かにバルムンクは精霊を使えてたけど、う〜ん」
    「やっぱり、駄目かな?」
    「えっ!?ああ、いいわ。サラの正体よね!?」
    「そう」
    「サラは有名よ。なんたってあの『ユナ・アレイヤ』だから」
    ピキッ!!
    あははは、運命の女神とやらはずいぶん意地悪らしい。
    「どうかしたの?」
    「ちょっと前に会った」
    「あら、そりゃ間が悪いわね」
    ほんと、なんでこんなにも・・・


    「まあ、元気出しなさい。
    正確な居場所は私も知らないけど、多分何とかなるから」
    「・・・すっごい不安だけど、ありがとう。でも、何でミコトはスノウにいたの?
    やっぱり、あの山が関係?」
    「まあ、一応ね」
    なんか歯切れが悪いけど、それ以外に私には思いつかない。
    「ユナの居場所だけど、魔術都市に工房があるから、そこが一番可能性は高いわ。
    もし、いなくても置いてある使い魔に居場所を教えてもらえることになってるし。
    目的地は魔術都市。ついでだから、付き合ってあげる」
    「ついで?」
    「そっ、あんた達が見つけてきたものはユナの頼まれ物なの」
    「ああ、そっかだからあの時・・・。分かった。とりあえず行き先は魔術都市だね」
    「ええ。と言いたいところだけど、生憎直ぐには出ないわよ」
    「なんか他に用事があるの?」
    「そうじゃなくて、あんた達このままだと足手まといにしかならないから
    私がみっちり鍛えてあげるわ」
    「ええっ!?いっ、いいよ。そんなことしなくても!!」
    実はミコトってかなりスパルタなのよね。
    いつも、ミコトに鍛えてもらった後は筋肉痛でうまく動けなかったもの。
    もっとも、そのおかげで生きてこれたようなものだけど。
    「いっとくけど、拒否権は無いわよ。
    あんた達は気に入ってるけど、それとこれとは別。
    弱い人とは組むつもりはないから。
    セリスもどうにかしないといけないけど
    ・・・まあ、こっちは後で考えるわ。そんなわけで覚悟しなさい」
    鬼だ。悪魔だ。人でなしだ。
    「納得して無いみたいね。
    でも、考えて見なさい。
    教団や教会の者に何時狙われるか分からないんだから、
    あんた達は強くならなきゃならないでしょ?
    なら、むしろ喜ぶべきよ」
    ・・・・言われて見れば確かに言うとおりだ。
    私たちは強くならなきゃならない。
    だからこそお父さんがここで冒険者なんてやらせようとしたのだろうから。
    ならば、王国の英雄が直々に訓練してくれるなど願っても無いことだ。
    「・・・・・よろしくお願いします」
    「よろしい」





    「さて、そろそろセリスを起こしてこなくていいの?」
    「う〜ん、セリスが自分で起きるのを待ったほうが楽なんだけど」
    「そういえば、前にそんなこと言ってたわね」
    ・・・でも、そろそろ起こさないと不味いし、どうせ
    「ケルスに餌を上げなくちゃならないわね」
    いつもはセリスの仕事なんだけど、起きるのを待っていたらケルスが可哀想だ。
    何かやらかしてご飯抜きのときならともかく・・・・
    「ケルスって?」
    「えっ、ああ、最近飼いだした犬の名前。
    かなり強くて、頭もいいの。性格にちょっと難ありだけど」
    「犬?まさかね。・・・・毛の色と目の色、あと大きさは?」
    「えっ!?っと、真っ黒な毛で覆われてて、目は赤。
    大きさは普通より大きいから多分魔獣の一種だと思うけど」
    「・・・ちょっと見せてくれない?」
    「いっ、いいけど、どうかしたの?」
    なんか、ミコトの後ろの空気が揺らめいて見える。
    犬嫌い?ってそれなら、見せてなんていわないか。
    じゃあ、なんで?


    「ケルスご飯よ」
    そういって、店で出したものの残りが入った皿を置く。
    待ってましたと言わんばかりにこちらを向くが
    その次の瞬間、凍りついたように固まった。
    「へ〜〜。やっぱりあんただったんだ。こんなところで何やってるの?」
    ミコトの纏う空気は先ほどとは比べ物にならないほど恐ろしい。
    これが殺気というものなんだと漠然と感じた。
    殺気を向けられている張本人(犬)であるケルスは怯えながらも、
    必死に意思疎通しようと頑張っている。
    「あんた馬鹿にして・・・・ってもしかして、また捕まったの?呆れたわ」
    とりあえず、ミコトの殺気が和らいだが完全には消えていない。
    でも、怒っていると言うよりは呆れてると言う感じだ。
    流れるような動きで、腰に下げた刀を抜き、
    「ミコト!?」
    突き出された刀は漆黒の毛をほんの少し刈り取って、
    私も気付いてなかった首に巻かれてた細い首輪を断ち斬った。
    「これで、喋れるでしょ?」
    床に落ちた細い首輪を拾いながら話しかけてくる。
    「喋れるって・・・・」
    「ふう〜、ミコト。ありがとな!!いや〜久しぶりに喋れるぜ」
    って・・・・ケルスが・・・・喋ってる!?
    「えぇ〜〜〜〜!!??」



    「分かった?」
    「何とか」
    ミコトの話によるとケルスは魔族の血を引く獣人で本名はクロアというらしい。
    2年前に魔族の所為で王都が荒れてたときに仲間と共に旅してて王都周辺で
    騒ぎを起こして、捕まってたところをシンクレアに助けられたそうだ。
    そして、ディシール王女を救う際に手伝ったらしい。
    けど、魔王との戦いには参加してない。
    その所為で王都の方ではシンクレアが6人だと言われてるが、
    スノウ・・・・つまり王城の戦いよりも魔王との戦いのほうが知られているところでは
    4人として伝わっている。ある意味シンクレアの一員なのだろうが、
    魔王殺しの勇者ではないというなんとも曖昧な人物だ。
    そして、先ほどまで喋れなかったのは詳しくは私には分からないけど、
    クロアは魔獣・・・というよりも、魔族の血を引いているためか私たちのように
    少々異常な存在、それゆえに余りいい言いかたではないが、非公式の魔科学研究所で研究材料として捕らえられたそうだ。
    もっとも、何かされる前に逃げてきたが、捕まった際に魔力封じの道具かなにかで
    人の姿にはなれなくなったらしい。
    それが自分たちにも起こりうることだと、思うと背筋が凍った。
    クロアの容姿は人の姿だと漆黒の髪、褐色の肌、赤い瞳で、かなりの長身。
    顔の作りも整っていて、黙っていれば2枚目といえる。
    ただ、性格はアウラの予想通り、ルスランと同じ類の存在で合っていた・・・。
    「む、失敬だな。見境なしというわけではないぞ」
    「嘘つきなさい!!会った瞬間、私とサラとアルテに口説いてきたじゃない!!
    しかも牢屋の中にいながら。いったい、どういう神経してんのかと思ったわ!!」
    「いや〜、やっぱり美しい女性に出会えのたら、その出会いに感謝し、
    称えなくては駄目だろ?」
    「・・・それでナンパ?」
    「おう!!」
    ―ピキッ!!
    ミコトの顔が引きつっている。怖っ!!
    「フィーアにしっかり伝えておいて上げるから」
    満面の笑みだが、これ以上ないほど恐ろしい。
    「いや、待て!!それはやめてくれ!!
    また、あること無いこと吹き込む気だろ!!
    そのたびに俺の命が消えかかるんだぞ!?」
    「何のこと?自業自得ってやつでしょ」
    多分ケルス・・・クロアが怯えているのは旅の仲間だった人のことだろう。
    ここまで怯えるとなるといったいどんな人なんだろう?
    やっぱり、ルスランとアウラたちみたいなのかな?
    ―コンコン
    「あれ、チェチリアにベア?どうしたの?」
    「そろそろ、手伝って欲しいから呼びにきたんだ。
    で、誰だそいつは?」
    ベアの視線の先にいるのはケルス・・・もといクロアだ。
    「う〜ん、話せば長くなるけどケルスみたい」
    「ケルスってあの犬か?」
    「うん」
    「・・・・獣人だったのか」
    「ああ、よろしくな」
    あらら、ずいぶんあっさりと納得したわね。
    ん、チェチリアの様子がなんか変。
    「チェチリア、どうしたの?」
    その言葉に我に返ったらしく、顔を真っ赤にしてそのまま回れ右して
    出てってしまった。
    「どうしたのかしら?クロア、あんた何かやらかした?」
    「いや、ああでもちょいと着替えを覗いたことがあったような・・・」
    「―ほう・・・・」
    まるで地獄のそこから響くよな重い声をベアが発する。
    ああ、先生を相手にしてたときよりも凄いプレッシャーだ。
    クロアもそれにいち早く気付いたらしく、一目散に窓を開け2階から逃げ出した。
    「さらば!!」
    「―フッ。逃がすかーーーーーーーーーーー!!!!!!」
    そう叫びながら階段を駆け下り、開いた窓から店に置いてあった武器を持って
    追い駆けていくのが見えた。
    「・・・・・親バカ?」
    まあ、『ロ』というよりはそんな感じかな。
    ・・・にしても王国の勇者か。もう、理想も憧れも、何もかも無くなったわ。
    「まあ、人の夢と書いて儚いと言うけど、本当なのよね」
    人事みたいに・・・その夢を壊した張本人のくせに〜〜!!








引用返信/返信 削除キー/
■403 / inTopicNo.19)  蒼天の始まり 第8話
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:19:19)
    『修行』






    「さてと、始めるわよ」
    そういって、ミコトが木の棒を構える。
    ミコトに修行をつけて貰うことになり、街の外まで来ている。
    セリスも同じように少し離れたところでクロアと訓練をしているはずだ。
    「口で言うより体で覚えさせる方が私は得意だから
    今まで通り私から一本・・・私に一撃加えられたらとりあえず合格ね」
    今までもそうだったとはいえ舐められてるのかと思ってしまう。
    まあ、実際それくらい力の差があるのだろう。
    「で、やっぱりその棒でやるの?」
    「ええ、こっちは木刀。そっちは真剣で、魔法を使っても良いから」
    すっごい自信。くっ、見てなさい。
    私だって進歩してるんだから!!
    さて、ミコトは接近戦メインだろうから、距離を置いて魔法を中心に行けば
    有利だろうが、それでは、何か卑怯だ。
    それに多少は進歩していることを見せたい。
    ならば、
    「接近戦ね」
    剣を強く握り、ミコトに向かって駆ける。
    ミコトに向かい勢い良く剣を振り下ろす。
    だが、ミコトは静かに私の剣を捌き、剣戟の隙に剣を走らせる。
    慌ててこれを防ぎ、また同じようにこれが繰り返される。
    分かりきっていたことだが、やはり単純な斬り合いでは勝ち目は薄い。
    にしても、ただの木の棒で何故真剣を捌けるんだろう。
    しかも、前に使っていた普通の剣ならともかく、この剣まで受けきるなんて
    ガンッ!!
    「イッツ〜」
    一瞬、別のこと考えてる間にミコトの一撃が頭に入った。
    「まったく、実戦だったらあんたは死んでるわよ。
    戦いの最中に他所事を考えるなんて自殺行為」
    「はい」
    まだ、少し痛むが剣を構える。
    くっ、今度こそ。
    先ほどと同じ様にミコトに斬りかかる。
    一応、修行と言うことだからかミコトから斬りかかる事は少ない。
    もっとも、私が間違った対応をすれば、容赦なくかかって来るし、
    隙を見つければ鋭い剣戟(といっても全然本気ではないらしいが)を振るってくる。
    何度か打ち合い、ミコトが私の剣を捌きながら間隔が空いたところで一気に後ろに下がる。
    追おうと一歩踏み込んだところで、ミコトが身を屈めて刀を腰に構えてたことに気付く。
    ―居合い。
    私が知りうるミコトの剣術の中で、最速、かつ必殺の一撃。
    このまま斬りかかるか下がって魔術で狙うか一瞬、躊躇する。
    すると、躊躇した一瞬のうちにミコトが膝のバネを利用して勢いよく
    地面をけり、懐に飛び込む。そして、剣が抜かれる。
    抜かれた剣は私の手に握られていた剣を弾き飛ばし、王手と言わんばかりに
    目の前に突きつけられた。
    「今、一瞬躊躇したでしょ。そのせいで対応が遅れて隙が出来たわ。
    迷いは捨てる。いいわね」








    何度か試したがやはり、喰らいつくのがやっとで一撃などとてもじゃないが無理だった。
    初めに比べ、ミコトから動くことも多くなったが私自身、これは私が攻撃に
    専念してる所為で隙が多くなったからと私が少しは上達してるからの半々だと思う。
    にしても、やっぱり、接近戦だけじゃ勝ち目はないか。
    分かってはいたことだ。
    少し悔しいが、仕方が無い。
    一歩後ろに下がり、剣を振るって氷の塊を撃ちだす。
    だが、それも木刀によってことごとく砕かれる。
    あの程度では効果なし。ならもっと大きいのなら。
    詠唱を始め、意識を集中させようとしたところで、
    今度はミコトのほうから突っ込んできた。
    慌てて、詠唱を止めてミコトの剣を防ぐが、何撃か打ち合いミコトの剣が私の
    のど元で止まる。
    「魔法を使おうとすれば、どうしても相手は詠唱の邪魔をするべく接近してくる。
    そして、詠唱なんかをするときは術者の集中が疎かになるわ。
    魔術を使う際は相手を足止め、もしくは距離を空けてから使うこと」
    「分かった」
    「じゃあ、続けるわよ」
    でも、ミコトのスピードじゃ距離を空けるといってもかなり下がらないと無理だ。
    つまり、やるとしたら足止めとなる。

    ミコトの剣の間合いより少し外側から魔術で牽制する。
    そして、ミコトが距離を詰めれば剣を受け止めて私も後ろに下がる。
    ミコトのスピードを考えれば距離を詰められば数回剣を打ち合うだけで負けてしまう。
    だから、私が最も力を発揮できる、剣と魔術両方が行使できるこの間合いで対応する。
    けど
    「甘い」
    氷はことごとく砕かれるし、剣でも勝ち目は無い。
    ああ!!もう、どうすればいいのよ!!
    結論から言えばとりあえず、負けはしないが勝てもしないといった感じだ。
    体力的には間違いなくミコトが上だし、やはり賭けに出るしか無いみたい。
    だが、どうすれば?
    足止め・・・氷を盾にして距離を詰める。
    これなら、足止めにもなるだろうし目くらましにもなる。
    それに、さすがのミコトでも斬った後なら隙が出来るだろう。
    よし!!
    今までいくつも出していた氷を一つに絞り、大きな塊にして撃ちだす。
    そして、その直ぐ後を追うようにして距離を詰める。
    それに対し、透明な氷の向こう側でミコトが居合いの構えを取った。
    一瞬、怯みかけたがたとえミコトの居合いでも、この距離なら私自身には届かない。
    むしろ、居合いの後は隙が大きくなるらしいからチャンスだ。
    「奥義『光牙』ッ!!」
    ミコトの剣が目にも止まらぬ速さで抜かれ、氷が砕け散る。
    ―今だ!!
    そう思って駆け出そうとしたとき、嫌な感じがした。
    とっさに、体を左に逸らし剣を盾にする。
    目に見えない何かが剣にぶつかり、弾かれぬよう耐えたが、
    その間に距離を詰めたミコトがその剣を再び喉元に突きつけた。
    「今のは悪くは無かったわ。けど、私が剣しか使えないからこの間合いなら大丈夫と考えたわね。
    それが敗因。私にだって多少は離れた敵に対する術はある。
    戦いとは斬り合いではなく、敵を知ること。
    敵の手を探り、自らの手を隠す。それこそが本当の戦いよ」
    「敵を知る・・・分かった。次は気を付けてみる」
    何度目かのミコトからのアドバイスを聞き、実践すべく構える。
    「よし。じゃあ、次行くわよ」




    「さてと、それじゃあ、始めるぞ」
    「何をやるの?」
    「鬼ごっこだ」
    「鬼ごっこ?」
    「おう、ただの鬼ごっこじゃないぞ。
    この森の中を俺が全力で逃げ回るから捕まえれば終わりだ。
    セリスは武器と魔法の使用もオッケー、俺は攻撃しない。
    では行くぞ!!」
    そういってクロアが地を蹴り、木に上って枝をつたい移動する。
    セリスがそれを眼で追うが、視界も悪く補足できるものではなかった。
    範囲が森の中だけと指定されてるとはいえかなり広い。
    第一、獣人相手に身体能力で勝てるものではない。
    つまり頭を使って勝つしかない。
    セリスはそう考え、仕掛けをほどこしてからクロアを追った。







    枝をつたい、森の中を縦横無尽に駆け回る黒い影は後ろを振り返り、気配を探る。
    と、今までほとんど動いていなかった気配が動き出し、こちらへと向かっていた。
    この特訓はまず、相手の隙、不意を如何にしてつくかが重要となる。
    チャンスの見極める力、いざと言うときに狙いを外さない正確さ、
    その隙を作り出す作戦がものをいう。
    ―さて、どんな手で来るか。
    少し経ってから動いたと言うことは初めの位置の辺りに何らかの仕掛けを
    施したのだろう。自分の特性、状況をしっかりと理解してるし、冷静だ。
    ただ、減点なのは仕掛けは場所が分かってしまえば効果が半減すること。
    そして、仕掛けといって想像できるのはあの先生に教わったらしい結界魔法だ。
    だが、ゆえに自ら進んで罠にとびこむ。
    セリスの結界魔法の実力を確かめるため、そして、何事にも例外が存在することを
    早いうちに教えておくべきであり、例外つまり結界魔法がつかえない、
    もしくは効果がないときに対応する術を持つ必要がある。
    なにより、今までもその高い身体能力を武器に闘ってきたクロアにとって
    隠れる、逃げ回るということは性に合わなかった。




    セリスへと方へと向かい、ある程度まで近づくと向こうもこちらを感知し、
    メビウスを投げてきた。
    ―気配感知は優秀、メビウスの操作は特訓の必要あり。
    メビウスの狙いはマオとの息がまだあってないからか、思ったほどではなく、
    十分避けられた。
    だが、セリスはすぐさま避けられたメビウスを操作し、直ぐ横の木を支点にして
    まるで振るわれたハンマーの如くメビウスが周りの木を倒しながらクロアに向かう。
    クロアもその機転には驚いたが、迫り来るメビウスを絶妙のタイミングで叩き落とし、
    セリスが落とされたメビウスを回収するよりも早く、後ろに回り
    「おりゃ」
    「うひゃっ!?」
    わき腹をつついた。
    セリスは予想外のことに驚き、つついた張本人を睨む。
    「攻撃しないって言ったのに〜」
    「ん、攻撃はしてないぞ?」
    「〜〜〜〜〜!!」
    確かに攻撃はしてはいない。
    それに完全に信じきって守りのことを考えずに隙だらけだった。
    そんなのが実戦で許される筈がないのだ。
    「まあ、さすがに隙だらけ過ぎだったからな。
    そうなんじゃ、悪い狼や人食い熊に食べらちまうぞ?
    嫌だったらもっと頑張れ。
    あと、メビウスの糸は出来るだけ使わないでくれ。
    いくら俺でもアレは危険だし、このままじゃ森が丸裸になっちまう」
    そういったクロアの視線は先ほどまで立っていた木の辺り、
    メビウスの糸によってある程度の高さから上を切り倒された何本もの木に注がれていた。
    斬られた木には葉がほとんどなく、真上から見ればこの辺りだけ緑が見えないことだろう。
    「わかった」
    「よし。んじゃ、再開」
    そういって初めと同じように木をつたって森を進んでいく。
    向かう先は初めの位置。仕掛けを施した辺りだ。
    セリスは薄く笑い、先ほどの仕返しをするべくクロアを追って行った。


    ―見えた。
    木をつたって逃げ周るクロアを視認した。
    クロアに全力で逃げられたら捕まえることはおろか追いつくことすら出来ない。
    それでは修行にはならないからか、離れすぎないよう時折スピードを緩めたり
    立ち止まったりしていた。
    だが姉のエルリスと違い、セリスはミコトの訓練なんかも受けてなく、
    遺跡でも後方支援や頭脳労働が専門だったため体力が低い。
    おかげで、もう息が切れかけていた。
    (む、体力づくりも必要か。妙にムラがあるな)
    と逃げながらセリスの力を分析し今後の方針を決める。
    エルリスとは正反対にムラが激しい。
    が、頭の回りも早く、後方支援としては優秀だ。
    あとは武器戦闘で持ち堪えられる程度には鍛えておけばいいだろう。
    セリスは再びこちらを捕らえるべく、メビウスを飛ばす。
    息が切れて集中が乱れたのか狙いが妙にあまい。
    が、クロアは途中で狙いが自分ではないことに気付いた。
    クロア自身を狙っても叩き落される。
    だから、それを支える枝に向けてメビウスが投げられたのだ。
    枝が折られる寸前に木から飛び降りるがさらに、着地の瞬間を狙って
    セリスがいつの間にか持っていた魔術式が彫られたナイフを投げる。
    ―ッ!?
    体を捻り、かろうじて避ける。
    避けられたナイフはそのまま木に突き刺さり
    「マオ!!」
    「了解!!アインス、ツヴァイ、フェンフ、ドライ、ゼクス、アハト、ノイン、基点接続」
    「第8結界、封印結界、『籠の鳥』!!」
    セリスとマオの流れるような詠唱と共に魔術式を彫りこんでおいた周りの木々が
    基点となり魔力の檻が作られる。
    予想以上のスピード、そして精度だった。
    生半可な攻撃では壊すことは出来ないだろう。
    「やるな〜」
    「えへへへ、こっちの勝ちだね」
    「さあ、どうかな?」
    と、もはや勝ったも同然のセリスがこの言葉に首をかしげる。
    「ここからどうする気なの?いくらクロアでも中からは壊せないよ」
    「まあ、待て。マーキングって知ってるか」
    「?」
    「知らんか。犬とかがよくやる匂いつけの事なんだが」
    「それってつまり」
    どうやら理解したらしいが、余分なことまで考えているらしく顔をしかめている。
    まあ、普段が普段なだけに仕方がない。
    「まあ、俺も犬みたいなもんだから似たことをやるんだが
    俺の場合は魔族の血の所為か魔力を使う。
    で、おかげで面白いことが出来るんだ。
    ―こんな風にな!!」
    ―バンッ!!
    と、何かが破裂したような小さな爆発音がし、結界が消える。
    セリスとクロアの間にあった壁が消失し、消した張本人は慌てているセリスの
    眼に前まで走り
    ―バシッ!!
    「いっ〜!!」
    デコピンを食らわした。
    「な、まだ終わりじゃなかっただろ?」
    「うう〜、どうやったの」
    「どうやったんだ〜」
    「じゃあ、種明かしといくか。
    さっきマーキングって言ったよな。
    これをすると俺の魔力をつけたところを任意で燃やしたり
    爆発させたり出来るんだ。
    んで、始まった時にセリスがこっちに来るのが遅かったから何か罠を張ってるだろうと
    分かったから探してみたら結界の基点があったからマーキングしといたんだ」
    「じゃあ、知ってて罠に飛び込んだの!?」
    「そういうことだ」
    「あ〜、完敗だな〜」
    「まあ、いい線いってたし、思った以上だったぞ」
    「よし、今度こそは!!」







    「いらっしゃいませ〜」
    「何で私まで・・・」
    「つべこべ言ってないで手を動かせ」
    「分かってるわよ。料理をお持ちしました〜」
    ああ、忙しい。
    まさか、ベアの店にこんなに客が来るなんて思いもしなかったわ。
    冒険者の店とはいえ、来る人全てが冒険者というわけでもなく、
    料理を食べに来たり、夜なんかはお酒を飲みに来る人だって多くいる。
    おかげで、最近ではベアの店はお昼時と夕方以降が妙に忙しい。
    確かにチェチリアの料理は美味しいし、もう少し流行っててもおかしくは無かった。
    けど、私たち3人が入ってから、いきなり客が増えたと思う。
    手伝いについてはセリスは気に入ってるけど、ミコトはかなり不満みたい。
    私たちの修行の所為で街を出られない上に、お金がそろそろヤバイらしいから渋々やっている。でも、その割にはなんか手馴れてると言うか動きに無駄が無い。
    ちなみに担当は私はチェチリアの手伝い。
    ミコトとセリスがウエイトレス。ついでにクロアも。
    忙しいと、ミコトもキッチンで手伝うが食文化の違いからかどうしても
    味が変わってしまうため、味付けなんかはチェチリアに任せてる。
    まあ、アレはアレで美味しいんだけど。
    普段の手伝いは正午と夕方で比較的余裕のある昼間は修行だ。
    今日みたいに昼にいっぱい客が来るときは修行の方もあるから結構ハード。
    「ハンバーグ3つにナポリタン1つ、あと、サンドイッチが1つ」
    「おね〜ちゃ〜ん、こっちも〜」
    「は〜い、っと」
    働かざるもの食うべからずとか言ってたけど、割に合わないと思う。


    ふう、お昼の時間が過ぎて、何とか落ち着いた。
    もっとも、夕方にでもなればまた忙しくなるだろう。
    「さてと、エルリスいくわよ」
    「ああ〜」
    今度は修行・・・このままじゃ絶対倒れると思う。
    「安心しなさい。そんなへまはしないから。
    こっちの国では弟子を鍛える際は生かさず殺さずって言われてるのよ」
    すっごい危険な言葉が聞こえた気がする。
    今はっきりと分かった。ミコトは人の皮をかぶったアクマだ・・・








    「ただいま〜ってあれ?」
    修行と言う名の拷問を終え、店に帰ってくると珍しい顔があった。
    ちょっと前にお世話になったルスランたちだ。
    「おお、エルリスにセリス、ミコトまでいるじゃなねーか。
    待ってた甲斐があったぜ」
    ルスランは相変わらずだ。これは無視するに限る。
    「久しぶり。もうどれくらい経つ?」
    「ざっと、半年弱だ」
    ああ、そうかミコトはルスランたちと組んでたことがあったんだっけ。
    「ねえ、ミコト。私とルスランたちとミコトじゃどれくらい実力に差があるの?」
    「ん〜、そうね。人としての最高を10としたら私は8、
    ルスランたちは5か6、エルたちはやっと3といったところね」
    「つまり、まだまだってこと?」
    「そういうこと、でも筋はいいしそれほどかからないと思うわ。
    無理すれば三ヶ月くらいで形にはなるわ」
    私とセリスの修行はルスランたちと同じぐらいになるまでが目標だった。
    が、無理をすればというのがとてつもなく不吉な予感がする。


    ―キュピーン!!
    「お前とはうまくやっていける気がする」
    「ああ、俺もだ。あんたとならきっと親友、いや心友になれるぜ」
    とミコトと話してたらクロアとルスランが妙に意気投合してる。
    ああ、なんか嫌な予感
    「あの女性は70点といったところか?」
    「なるほどな。3サイズは上から86-58-84てとこか」
    「うお〜、凄ーな。あんた」
    「ふっ、任せろ。この俺の眼にかかればこれぐらいわけないぜ!!」
    「ははっは!!ん、ああ畜生、彼氏持ちだ!!」
    「なっ、なんだと!?バカな!?」
    「だが事実だ。男の匂いがするうえ、悲しいかなもう手が付けられた後だ」
    「なっなんということだ」
    「だが悲しんでいても始まらない。あっちはどうだ?
    67点ってところだろ。しかも、手が付けられる前だ」
    「クックック、なるほど。
    だが、まだまだ甘いな。上から72-57-79だ」
    「なんと、ナイチチか?
    だが、あんた凄すぎるぜ。
    どうしてあのローブの上から分かるんだ」
    「まあ、慣れってやつだな。
    だが、それはお前もだろ。
    獣人ってそこまで分かるものなのか?」
    「ふっ、まさか。あんたと同じさ。この磨き上げられた嗅覚を持ってすれば
    女性に彼氏がいるかはもちろんすでに手を付けられた後かどうかも一発だぜ!!」
    「なんと!?」
    「ちなみに、こっちの6人は全員しょ「喋るな!!!」グバッ!!?」
    とミコトがクロアに踵落しを食らわせ、嫌な音と共にクロアの頭が
    テーブルにめり込んだ。おかげでテーブルはどす黒い液体で染まっている。
    ああ、もう買い替えきゃ。
    「友よ!?っく、何をす」
    「覚悟は出来た?」
    アウラの笑顔は仁王の憤怒する様を思わせた。
    「すいません。俺は無実です。どうかご慈悲を」
    「却下」
    グシャッ!!
    「ああ、こりゃ掃除が大変だな」
    そういって、成り行きを見守っていたベアが店の扉に張り紙を張って戻ってくる。
    ―本日諸事情により冒険者の店ベアは休業させていただきます。









    「ほんと、客がふえたわね〜」
    「でもなんでだろ?」
    「・・・分かってないの、セリス」
    「えっ、ミコトは分かるの?」
    多分分かってないのはセリスだけ・・・いや、チェチリアもか。
    「ねえ、以前からこんなにいた?」
    『いえ、今まではこんなに来てませんでした』
    やっぱりそうか。つまり、私たち3人がいい客寄せになったのだろう。
    まあ、別に店の雰囲気は悪くはないし、料理も美味しいから
    1度来れば何人かは再び訪れるだろう。
    ああ。でも、ベアが問題か。
    「おい、ミコト」
    「なによ」
    うわ〜、ミコトがかなり不機嫌。
    そのとばっちりが修行に来るからたまったもんじゃない。
    「なにか、芸はないか?」
    「・・・・・・・・いや。絶対にいや!!」
    すっごい拒絶してる。何か嫌な事でもあるのだろうか。
    「とゆうか、なんでそんなこと聞いてるの?」
    「何か演奏でもやれば客寄せになるかと思ったんだが」
    「絶っ対に嫌よ!!」
    「なんで、そんなに嫌がるの?」
    「・・・いろいろあったのよ。とにかく私は嫌よ!!」
    「はあ。じゃあ、私が何かやるわ」
    「おお、本当か?助かる」
    「お姉ちゃんが?」
    セリス、その不安げというか信じられないという感じの顔はなに?
    セリスって悪気はなくても結構、人を傷つけるのよね。
    「私だって芸といえるかどうかは分からないけど、1つぐらいあるわよ」
    「そうなんだ。何するの?」
    「まあ、見てなさい」
    さて、とは言ったものの芸といえるようなものなんてほとんどないし、
    客寄せになりそうなのなんてアレしかないわよね。
    テーブルを叩いて、リズムを取る。
    「〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
    「あっ!!これって」
    お母さんから教えてもらった歌。
    まだ、幼かった私に教えてくれた大切な思い出、
    そして、私とセリスの絆。そんな歌だ。

    ―パチッパチッパチッ!!
    歌を終え、お辞儀をする。
    結構、好評のようだ。
    「凄いな」
    「まるで、教会の歌姫のようだ」
    「そういえば、歌姫って何処に行ったんだ?」
    「さあな、案外本物か?」
    「はっはっは、だったら凄いな」
    「まあ、そんなことはどうでもいいさ、嬢ちゃん一杯やらないか?」
    そんな、大袈裟な。
    というかお酒はちょっと勘弁して。

    ―ガタンッ!!
    物音のした方を向くと、チェチリアが立ち尽くしていた。
    「いったい、どうしたの?」
    慌てて駆け寄るが、私を振り切り2階へと行ってしまう。
    私が何かしたのだろうか?
    「気にするな。お前の所為じゃない」
    「でも」
    あんな辛そうなチェチリア、初めて見た。
    「これはあいつの問題だ」

    「・・・分かった」
    「はあ、教会の歌姫か。何時までも逃げて入られないな」
    一体何なのだろう?おそらく、その歌姫ってのがチェチリアに関係有るのだろう。
    私に何か力になれることはないだろうか。


    「ねえ、クロア」
    「なんだ、ミコト?」
    「ちょっと聞いてきてくれない」
    「チェチリアのことか?でも、一体誰に聞くんだ」
    「チェチリアの『お友達』にでも聞けば何かわかるかも知れないでしょ」
    こういうときぐらい、役に立ってもらわなきゃ。
    「ああ、なるほどな。じゃあ、そっちで適当に言い訳しといてくれよ」
    「オッケー」
    そうして、クロアが2階へと上がっていく。
    「あれ、クロアは?」
    「ナンパ」
    「また!?」
    「・・・ええ」
    「最悪・・・」
    「うわ〜」
    「最低だな」
    「・・・」
    ちょっと可哀想だったか。
    まあ、いっか。
    いつものことだ。



    「おい、こらミコト。どんな言い訳したんだ?」
    「言われたとおり、『適当』に答えただけよ」
    「・・・お前に頼んだ俺がバカだった」
    「で、どうだった?」
    「無視か?まあ、いいさ。聞いた話によると
    チェチリアは昔、教会に預かられてた孤児で当時、教会の聖歌隊に所属してたらしい。
    しかも、その中ではソロを任されるほどの実力だったそうだ。
    が、ある事件で声が出せなくなったらしく、歌えなくなった歌姫は周りの人からの視線に耐えられず、
    心をも閉ざした。その後、歌姫はとある冒険者に引き取られてその店の手伝いをしてるといったところだ」
    「歌えなくなった・・・・そっか。でも、そのある事件って何?」
    「それは分からんかった」
    「使えないわね」
    「お前が言うか?
    まあ、さっきのは多分客に歌姫だとばれて、奇異の目で見られるのが嫌だったんだろ」
    「・・・それだけかしら」
    そんな簡単なことではない。
    きっと、もっと複雑な・・・・ああ、そっか。
    それに怯えてるのか。
    そんなに複雑と言うわけではないが、本人にとっては切実なのかもしれない。
    さて、どうしたものか。












    ―コンッコンッ!!
    「チェチリア、いる?」
    ・・・・・コンッコンッ
    ノックが帰ってきた。中にはいるらしい。
    「・・・・入っていい?」
    ・・・・・・・・・・
    返事が無いのは構わないという事かそれとも・・・・
    いいや、どうせ入らなくちゃどうしようもないんだ。
    扉を開け、部屋に入る。
    「チェチリアちょっといい?」
    ―コクン
    チェチリアは無言でうなずき、こちらを向く。
    先程まで泣いてたのか、目の周りにはうっすらと涙の跡があった。
    「チェチリアの『お友達』から聞いたわ。歌姫について」
    チェチリアが怯えるような顔でこちらを見る。
    「怖い?歌姫と知られるのが、あの目で見られるのが」
    これがチェチリアのトラウマ。
    周りからの冷たく、無機質な視線。
    私も昔、あの目で見られたことがあるが、あれほどは辛く悲しいものはない。
    そんな目で見られてきたら、心を閉ざしても仕方が無いだろう。
    そして、チェチリアが最も恐れるのはおそらく、
    「・・・・私たちにそんな目で見られるのが怖い?」
    ―ピクンッ!
    チェチリアがかすかに反応した。
    全部思ったとおりだ。チェチリアはあの視線を、親しき者からの
    視線が変わってしまうのを恐れているのだ。
    今の私からすればそんなこと、とても些細な、そして無駄なこと。
    でも、本人にとってはあまりにも大きなことなのだ。
    「ねえ、チェチリア。私もあなたのことはそれほど詳しく知ってるわけじゃない。
    でも、私が知っているチェチリアは料理が上手で、可愛い服が良く似合って、
    動物が大好きなそんな女の子。
    エルリスもセリスも、クロアだって、きっとそう思っているわ。
    チェチリアが誰だろうと、何であろうと関係ない。
    私たちは変わったりはしないわ。違うかしら?」
    チェチリアが涙をこらえながら首を横に振る。
    「そうね、チェチリアの昔なんて関係ない。
    今ここにいるチェチリア・ミラ・ウィンディスこそが私たちの知るあなたなの。
    歌えなくても、声が出せなくてもそんなこと関係ない、
    今ここにいる貴方こそが私たちの知る貴方よ」
    ―ガバッ!!
    言い終わると同時にチェチリアが抱きつき、こらえてた涙が溢れ出す。
    よっぽど辛かったのだろう。黙って胸を貸してあげることにする。
    時間が経ち、チェチリアが泣き止むと、ジェスチャーを含め何かを聞いてくる。
    喋っていたときの名残か声は出てないが口は動いており、
    読唇術に覚えがあるおかげで、いいたいことは直ぐ分かった。
    ――ミコトさん、その『お友達』って誰ですか?
    ああ、それか。
    「『お友達』はチェチリアの飼っている動物たちよ」
    一瞬、驚いたように口を大きく開け、心配そうに見ていた後ろの動物たちに
    目を向ける。そして、何匹かの動物が気まずそうに目をそむけた。
    もっとも、チェチリアも自分のためを思ってやったことだと分かっているから、
    怒ってなどいないだ。でも、チェチリアが元気になって良かったわ。





















    「それじゃあ、行って来ます」
    「また、帰ってくるからね〜」
    「もう、帰ってこんでもいいぞ」
    やっと修行も終わって、ミコトからお墨付きをもらえた。
    最初の一ヶ月・・・・これはかわいい物だった。
    その後はセリスとの連携、そして4人で遺跡に潜って実戦訓練。
    最後なんて丸一ヶ月にわたるサバイバル訓練なんかをやらされた。
    眠いわ、お腹減ったわでかなり辛かった。
    挙句の果てに満月の日に団体さんが来たときにはセリスもあまり動けず、
    向こうにいたっては絶好調でマジでやばかった。
    まあ、おかげでかなり強くなれたと思う。
    でもあまり思い出したくない。
    屋敷に下に地下王国?
    今思えば良く生きて出られたものだ。
    「じゃあね。チェチリア、どうせまた直ぐに帰ってくるから」
    あれ?そういえば、ミコトとチェチリアって何時の間にあそこまで
    仲良くなったんだろう?
    まあ、いっか。
    いつの間にやらチェチリアも元気になってたし。
    気にするほどのことではないだろう。



引用返信/返信 削除キー/
■404 / inTopicNo.20)  蒼天の始まり (第9話)終
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:22:05)
    『出会い』



    ダルイ・・・
    3ヶ月にわたる修行を終え、レムリアを離れた私たちは南の街リディスタにいる。
    運悪く、魔術都市行きの列車は出た後で今日中にはもう出なかったため、
    この街の宿で休むことになった。
    しかし、最近運が悪い気がする。というか間が悪過ぎ。
    修行が終わった開放感からか、大切なこのことを忘れていた。
    しかも、いつもならもっとマシなのに、今回に限ってかなり症状が悪い。
    まあ、たぶん疲労の所為だろう。
    あっ、もう・・駄目・・・・
    「お姉ちゃん!?」
    「エルリス!?」
    ・・・・・・・・・・・・




    「エルはどうしたの?」
    「・・・いつものやつだと思うけど、今月は酷いみたい」
    「いつも?今月?」
    「もしかしてアレか?」
    「下ネタやめい!!」
    ズガッ!!
    「ハイ・・」
    「で、いったいなんなの?」
    「お姉ちゃんの事は聞いてるよね?」
    「ええ、精霊でしょ」
    「うん、今日は満月の日とは逆に魔力が最も減退する新月の日・・・
    精霊はお姉ちゃんの魔力で存在するからか、新月の日は魔力不足になっちゃうの」
    「なら、魔力を渡さなけりゃいいんじゃないのか?」
    「そうもいかないみたい。
    強制的に吸い取られてるからお姉ちゃんの意志じゃどうにもならないの」
    「う〜ん。まあ、つまりただの魔力不足ということ?」
    「うん、そう。でも魔力が極度に不足すると貧血みたいになっちゃうから
    お姉ちゃんいつも辛そうだったの。
    流石にここまでひどかったのは今まで無かったけど」
    「そっか。とりあえず、このままってわけのも行かないし宿まで運びましょ」
    ―そして、私たちはこの光景を見ていた何者かがいたことにそのときは
    気付けなかった。



    「さてと、セリスついてきて」
    「えっ、何処に?」
    「道具屋。魔力不足ならその類の薬があればどうにかなるんじゃない?」
    「あっ!!」
    「・・・気付いてなかったの?」
    「あう〜、ごめんなさい」
    「私に謝ってもしょうがないんだけど。
    で、私は魔法には詳しくないからついて来てくれない」
    「う〜ん、いいけど・・・」
    「安心しろ。エルリスは俺に任せて・・・」
    「あんたは薬草でも探してきなさい!!」
    「信用ね〜な」
    「当然でしょ。むしろ、そのまま朝まで帰って来ないほうがうれしいわ」
    「つまり朝帰りと。まあ、俺はそっちでも構わないが」
    「・・・・付き合いきれない。やっぱり、フィーアがいないと手の負えないわね」
    「えっと、良く分かんないけどお願いできる?」
    「おう、俺に任せとけ!!」
    「・・・単純」
    「あははは、じゃあ行ってくるから。
    ちょっと待っててね。お姉ちゃん」





    ―ムクリッ
    「あれ、ここは?」
    見覚えがない部屋だ。
    とりあえず、自分がどうなったのかは理解できた。
    たぶん、ここはミコトたちが運んでくれた宿だろう。
    きっと心配かけただろうな。
    ・・・私はかなり特殊な存在だ。
    氷の精霊をこの身体に宿し、共存している。
    精霊が宿ったのは2年前。セリスが暴走し、私が大怪我を負った時の事だ。
    セリスはその前後の記憶は無いみたいだが、私はそれでいいと思う。
    だって、思い出せばセリスが傷ついちゃうから。
    ただセリスの暴走、そして精霊が宿った時期が問題。実は魔王の戦いの時だったりする。しかも、街の郊外にお父さんたちのお墓参りに行ったときで結構山の近くまでいたのだ。だからこそ、ミコトから精霊使いの話を聞いたとき、この精霊を宿したのはバルムンクかもしれないと思ったし、セリスの暴走についても何か関係があるかもしれないとも思った。
    故に私はシンクレアに会えばセリスのこともどうにかなるかもしれないと思った。

    ただ、私が精霊を宿してから、今のような魔力不足を除けばあまり不自由は無い。
    私には魔術の才能はほとんどなかったが、おかげで氷の魔術だけなら使えるようになったし、魔術を使うのに私の魔力をほとんど使わずに済んでいる。
    実は、魔術を使う際に使う魔力は精霊が汲み上げる周囲のマナなのだ。
    精霊が私の魔力を必要とするのはわたしの中にいるために必要だからだと思う。
    そう、不自由は無い。
    けれど、この存在は私にとって恐怖なのだ。
    精霊が宿り数日が経ったある日、私は森で野生の魔獣に襲われた。
    そのとき、コイツは目覚めた。
    私が目を覚まして時に残ってたのは私以外、一つの命も存在しない氷の世界。
    それは私から見ても異様な状況だった。
    そして、セリスにはこの時に精霊が宿ったと嘘をついている。
    私はこの存在が恐ろしい。
    なによりも、いつまた自分が自分でなくなるのか、それが一番恐れることだ。
    ―キィィーー
    「誰!?」
    扉を開けて入ってきたのは2人のローブを纏った人物。
    慌てて動こうとしたが、思うように体は動かず、
    さしたる抵抗も出来ずにローブの人物によって私の意識は刈り取られた・・・





    「ただいま・・・」
    「どうしたのセリス」
    先に部屋へと入りベッドを見たままセリスが動かない。
    覗き込むとベッドはもぬけの空で本来、そこにいるはずの人物がいない。
    しかし、あの状態じゃ自力で動いたとは思えない。なら、何故?
    そして、思い至った。あまりにも迂闊過ぎた。
    あんな話をするからには周りの気配を探っておくべきだったのだ!!
    おそらく、先ほどの会話を偶然だろうが盗み聞きされたのだ。
    ならば、攫ったのは・・・
    「あっ、ミコト!?」

    一番可能性の高い目撃者は当然、店の主人だ。
    見ていても、気付かなかったかもしれないが聞くしかない。
    「ねえ!!誰か妙な人物が来なかった?」
    「妙?・・・そういえば、ローブを纏った二人組みが来たような」
    当たりだ。やはり攫ったのは魔術協団の人物。
    協団のローブには見た者に怪しくないと思わせる暗示が掛かっている筈だから
    店主がその時気付かなかったのも仕方ないだろう。
    だが、協団自体がこんな荒っぽい方法を取るはずはない。
    つまり、独自で動いた非公式の集団。なら、
    「この辺りで買い取られた遺跡ってある?」
    魔術師の工房は本来、自らで造る。
    だが、元からある遺跡の方が気付かれにくい物だ。
    だから、非合法の魔科学者の工房はほとんど、遺跡を改造したやつである。
    「ああ、ここから南に3時間も歩けば着く所に崖が見える。
    その内部にある遺跡はたしか、数年前に買い取られたはずだ」
    「ほかは?」
    「ない」
    「ありがと!!」

    「ミコト、どうした!?」
    「エルリスが攫われたわ!!」
    「!?―セリスは?」
    「セリスは無事。攫ったのは協団の者よ。
    工房に目星はついてる」
    「わかった。セリスはどうすんだ」
    「置いていくのは不味いでしょ、あんたが背負って行って」
    「了解!!」
    そういって、クロアが獣の姿に変わる。
    「乗れ、セリス」
    「うん!!ミコトは?」
    「大丈夫よ。シリウスの名を忘れたの?
    ・・・開放、俊」
    あまり使いたくはないが、そうもいってられる状況ではない。
    私の持つ宝刀の力を解放し、身体を『強化』する。
    「行くわよ!!」
    そして、私は風になる。
    宝刀『天狼』に蓄えてきた魔力を開放し、足へと回す。
    この状態なら、私の身体能力は獣人や魔獣を超える。
    「・・・凄い!!」
    「呆けてると振り落とされるぞ。
    しっかり掴まっていろ!!」
    「うっ、うん」
    ケルスがセリスを乗せながら私の横に並ぶ。
    さーて、待ってなさいよ!!











    暗い部屋、石の床、手首の手錠に鉄格子。
    どうみても、監獄という感じだ。
    どうして、こう運が悪いんだろう。
    どうもここ最近、不幸が続いている。
    まあ、せめてもの救いはセリスが一緒に連れて行かれてはいないことと、
    何かされたわけではないことだろう。
    「起きたか」
    声がした方を見ると、いたのは大柄の男だった。
    これが、さっきのローブの人物だということは流石に無いだろう。
    「気の毒だが、こっちも仕事だ。悪く思うなよ」
    「あっそ!!」
    仕事・・・ということは雇われた冒険者か傭兵かな。
    ただ、こっちだって自分の命が掛かってるんだ。
    やられたって文句は無いだろう。
    牢から去ろうとする男に向かって狙いを定める。
    私に魔力は残っていないが、精霊の力で魔術は使える。
    目が覚めたときから構成していた魔術を男に目掛けて放つ。
    が、何も起きない。
    「いい忘れたが、その鎖は魔力封じの品だそうだ。
    魔法は使えんぞ」
    そう言い残して男は牢屋から出て行った。
    良く考えれば、当たり前のことだった。
    もはや、打つ手なし。
    あとは、ミコトたちが助けにきてくれるかどうかだ。
    せめて、助けが来た時に動けるよう体力を温存しよう。
    ほんと、運命の女神さんとやらはよっぽど私が嫌いらしい。



    ―カツッ!カツッ!!
    誰だろう?さっきの男か、ローブの男か・・・
    ―キイィイ
    「ここは・・・牢屋か。何か罪でも犯したのか?」
    「へっ!?」
    部屋に来た男の言葉につい間抜けな返事をしてしまった。
    ・・・暗がりでしっかりとは見えないけど、かなり美形だ。
    紺に近い蒼い髪と対照的な赤い瞳。
    赤と言ってもクロアとは少し色が違うみたい。
    何故だろう何か懐かしい感じがする。
    けど、同時になんだかイライラする。
    「いったい誰?
    あなたこそ、ここで何をしてるの?
    というかここの関係者?」
    「質問は1つにして貰いたいのだが・・・
    とりあえずここの関係者かといったらノーだ。
    そして、俺が誰かといったら、そうだな観察者だ」
    「観察?どういう・・・まあいいや。部外者なら助けてくれない?」
    最早、藁にもすがる気持ちだ。
    何で部外者がいるのかなんて気にしてる余裕は無い。
    重要なのは目の前に助かる可能性があるということだ。
    せめて、この鎖さえなければ何とかなる。
    この男に頼ることになるのはなんか癇に障るがそれも我慢だ。
    「別に構わないが、俺の質問に答えてないぞ」
    「えっと、なんだっけ?」
    ここで機嫌を損ねられたら不味い。
    我慢しなきゃ。
    「罪を犯してここにいるのかと聞いたのだ」
    「ああ、そっか、そうだったわね。
    そんな理由で捕まったわけじゃないわ。
    でも、罪を犯したかといえば犯したと思う」
    少なくともセリスのためとはいえ、騙してきたのは間違いなく罪だろう。
    他にも、いっぱいある。なにより、
    「あいつにあんなこと言っちゃったんだもん」
    それ以来アイツとは会ってない。
    私の責任ではないと思うが私があんなこと言ったのは事実なのだから・・・
    「ククッ」
    「むっ、何笑ってんのよ!!」
    なんかこいつに笑われたのが凄く腹が立つ。
    今まで我慢してきたがこの男に頭を下げて頼み込むのは絶対に嫌だ。
    機嫌を損ねることなんて気にしてられないくらいに。
    「いや、失礼。どうやら、先程の質問は失言だったようだ」
    「そんなことは良いから助けてくれるならこの鎖と鉄格子をどうにかしてよ」
    「やれやれ」
    今だ笑いながら、男が手を振るう。
    ―ガランッガランッガランッ!!
    鉄格子が斬られ石の床に落ちる。
    何時の間に手にしたのかわからないがその手には剣が握られていた。
    全く見えなかった。
    もっとも、ミコトの剣も見えないからどっちが速いかは分からない。
    そして、手に掛かっていた手錠と鎖も斬って貰う。
    身体はまだダルイが、宿の時よりは十分動ける。
    「さて、こんなところさっさと出てしまったほうがいいぞ」
    「そうするわ」
    「なら・・」

    ―ズブシュッ!!

    突如、男の体から剣が生え、口から血を流した。
    そして、その後ろには先ほどの傭兵の男。
    傭兵が剣を引き抜き、大量の血が傷口から流れ出す。
    男は膝をつき、おびただしい量の血を吐く。
    「残念だが、そう簡単には逃がしてやれん」
    私は傭兵を睨みつけることしか出来ない。
    悔しいけど詠唱をしようにも、コイツの剣の方が絶対に早い。
    かといって、素手で戦うなんてあまりにも無謀だ。
    それに、戦う気力なんてあるはずが無い。
    自分の所為で人が死んだ。それはあまりにも重かった。
    「逃げるならもっと早くすれば良かったのに、詰めが甘かったな」
    「お前もな」
    「!?」
    傭兵の肩から腹の辺りまで、一直線に鋭い剣戟が走る。
    「安心しろ。動かなければとりあえず死にはしないだろう」
    「グッ!!きさま、その傷で何故動ける!?」
    信じられないけど、斬ったのは貫かれたはずの男だった。
    しかも、あんな重傷を負ったのにこんなに速く動けるなんて。
    とりあえず、目の前の男が死んでいないことに安堵しつつ、感心する。
    「こんな簡単に死ねるような体のつくりではないからな」
    「っち、クソがっ・・・」
    そして、傭兵は床に倒れこんだ。
    男は平然とし、傷のことなど気にせず・・・いや、良く見れば傷なんて無かった。
    服は血で真っ赤に染まってて分かりづらいがどう考えてもあんな重傷を負ったようには見えない。
    どうなってるんだろ。

    ――ザワザワザワ
    「不味いな。下にバレたらしい」
    「えっ!?」
    それは不味い。早く逃げなきゃ、また牢屋に逆戻りだ。
    「ふう、仕方が無い」
    そういって、溜息をつき、私でも分かるほど強大な魔力が男の手のひらに集まる。
    壁に手をかざし、集めた魔力を壁に叩きつける。
    ―ーズゴンッ!!
    たったの一撃で外壁は崩れ、外から光が差し込む。
    だが、どうもここは遺跡か何かの内部らしく、外は崖になっていた。
    ―さすがに、ここからじゃ出られないわよね。
    「行くぞ」
    「へっ!?」
    突然、抱きかかえられ素っ頓狂な声を上げる。
    「っちょっ、ちょっと待っ」
    「黙ってろ!舌を噛むぞ」
    ―まっ、まさか!?
    嫌な想像というのは当たるらしく、男は崖から勢い良く飛び降りた。
    ―うそでしょ〜〜〜〜〜!!???
    目をつぶって来るであろう衝撃に備える。がそんな私を嘲笑うかのように
    ほとんどなんの衝撃も無く、男は地面に降り立った。
    目を瞑ってたから分かんないが高位魔術である重力制御でも使ったのか、
    言い方が悪いが人外の存在。
    どちらでも、先ほどの傷の治りの速さは説明がつくがそんなこと、今はどうでも良かった。ただ、心臓に悪い・・・というか、いろんな意味でありえない。
    「ここからは1人でも大丈夫か」
    「多分・・・あなたはどうするの?」
    「まだ、後始末があるからそれを済ます」
    「そっか、それじゃ」
    「ああ」


    そして、男が見えなくなった辺りで足を止める。
    さて、ああは言ったもののここはどこだろう?
    とりあえず落ち着いたら、疲れが出てきたし実は結構不味い。
    そういえば、結局お礼言ってなかった気がする。
    いくら、余裕がなかったと言ってもこれは失礼だったかな。
    「・・・リス〜」
    ん?
    「エル〜」
    「お姉ちゃ〜ん」
    あっ、セリスたちだ。探しに来てくれたんだ。
    助かった〜。
    「お姉ちゃん!!」
    「エル!!大丈夫!?」
    「うん、何とか。探しに来てくれたんだよね。ありがと」
    「・・・はあ。なんだ、全然大丈夫じゃない。心配して損したわ」
    「でも、お姉ちゃんが無事でよかった」
    「だな。どうやって脱出したんだ?」
    「助けてもらったの」
    「誰に?」
    「…とりあえず変な人。観察・・・なんだっけ。
    とりあえず、そんな風に名乗ってたけど」
    「もしかして、観察員のことかしら」
    「違うような、そうだったような・・・」
    「もしそうだとすると地獄に仏と言うより、地獄で悪魔に助けられたような物ね」
    「どっ、どういう意味」
    「観察員と言うので1つ心当たりがあるわ。
    これは協団のある組織のことなの」
    「協団の!?」
    「そう。魔道士の非合法、非公式研究所の視察と警戒、取り締まりを行ってる調査組織のことで、独自の判断で殲滅まで許されてるらしいわ」
    「じゃあ、後始末って・・・」
    捕まってた山を見る。別段変わりは無いが中はどうなっているやら。
    なら、魔術師だったのかな。
    「まあ、早いとこ、ここから離れたほうがよさそうね」
    同感。


    「う〜、やっとついた〜」
    「まったく、あんなことがあったのに能天気ね。
    流石に学園都市の外周部なら安全だろうけど、気を付けなさいよ」
    「分かるってるって、もうコレで何度目?」
    「列車の中のを含めたら今日だけで、8回目だよ」
    「でも、実際に起きたことだし、エルリスも身を持って実感してるだろ?」
    「甘いわよ!!大体、こんな風に無事なことの方が奇跡なのよ!!
    もう少し緊張感を持ちなさい!!」
    「はいはい」
    あの事件からミコトはずっとこの調子だ。
    きっとそれだけ心配させてしまったのだから素直に聞いておく。
    でも、8回は流石に――
    「・・・今の」
    チラッとしか見えなかったが、あの顔はこの前の・・・
    「ちょっとゴメン!!」
    「あっ、こら、エルリス!!」


    「あっ、あの!!」
    「ん?」
    「えっと、この前はありがとう」
    「何の話だ?君とは初対面のはずだが」
    「えっ!?覚えてないの、5日前にリディスタで・・・」
    「リディスタ?ああ、王国の南の都市か。
    あいにく、俺は2ヶ月も前から学園都市の外に出ていない。
    何かの間違いではないか?」
    「だって、こんなに・・・」
    そこで、やっと気付いた。
    髪の色があの人より薄い。
    まあ、これは暗かったから見間違えたとも考えられるが瞳の色が明らかに違った。
    だって、あの人は目は赤かったが、目の前の人物の髪と同じ青色。
    つまり――
    「人・・・違い」
    「らしいな。そいつはそんなに俺に似ていたのか」
    「はい・・・髪の色が薄いか濃いかと、瞳の色以外全く同じだったんですけど
    兄弟ですか?」
    「さあ、どうだろうな。俺は記憶喪失と言うやつで家族のことは分からない」
    「!?ごめんなさい・・・」
    「別に謝る必要などないが」
    「記憶・・・戻ると良いですね」
    「ああ、ありがとう。
    そろそろ、連れが痺れを切らしそうだ。
    縁があったらまた合おう」
    「はい!!」



    「エルリス!!勝手にいなくならないでよ。心配したじゃない。
    しかも、あれって教会の人じゃない・・・」
    「えっ!?あれって、教会の人なの!?」
    「ええ。しかも、あの制服。もっとも厄介なクロイツのじゃない。
    まったく、前といい今回といい」
    「クロイツ?」
    「そう。教会の非公式対魔法及び対魔族部隊
    別名『業たる十字架』。教会の中でも最強の実戦部隊よ」
    確かに、それはまた関わり合いたくない相手だ。
    失礼かもしれないけどこれから先、縁は無いほうがいいかも。
    「で、知り合いだったの?」
    「ううん、人違いだった」
    「そう。じゃあ、とっととユナの工房に行くわよ」
    「わかった」









    「クライス。さっきの少女は誰だ?
    もしや、お前にも春が来たか」
    「勘違いするな、ただの人違いだ。
    大体俺にもって、リューフもそんなのいないだろ」
    「それはまた手厳しいな。
    てっきり、そうだと思ったのだがハズレか」
    「・・・・なあ、俺に兄弟はいるのか?」
    「いや、そんな話は聞いたことないぞ?」
    「そうか、ならいい。で、リューフは本当にこちらでよかったのか」
    「・・・ああ、今回の作戦ははっきり言ってただの虐殺だ。俺は納得していない。
    だから、防衛に回る。お前こそ、何でこっちに?」
    「相棒に付き合うのは当然だろ」
    「そうか。まあ、お前がそれで良いって言うなら構わない」



    「ねえ、教会と協団て仲悪いんだよね。どうしてなの?」
    私も両者の仲が悪いという話は聞いた事があるけど、理由は全然知らない。
    ってそういえば、さっきの人がこの前の人と兄弟だとすると記憶喪失の前は
    協団にいたのかな?
    「えーと。確か教会は異端は全て滅ぼすべしとか考えてて、
    魔術師には魔族の力を利用しようとしたりするやつがいるでしょ?
    そういう考えの違いから生まれた画してなんかが原因だし、
    いわゆる魔術師の造るホムンクルスやキメラなんかも原因の1つね」
    ホムンクルスとキメラ。
    どっちも魔術によって生み出される新しい存在のことだ。
    ややこしいことにキメラと混血種、つまりクロアみたいに自然に生まれてきた
    複数の種族の血が流れるものは別物で混血種はキマイラともいう。
    「まあ、ここまで仲が悪くなった理由は宝の取り合いなんだけどね。
    っと、着いたわ。ここよ」
    「これはまた・・・」
    目の前の家は以前の屋敷ほどではないがかなり大きい。
    工房ってこの大きさが普通なのかな。
    「・・・やっぱり、いないわね」
    「つまり、無駄足?」
    列車だけでも結構な額を払ったのに・・・
    「仕方ないでしょ。それに行き先は分かるんだから
    丸っきり、無駄足と言うわけではないわ」
    「でも・・・」
    「お姉ちゃん、抑えて」
    「・・・ゴメンね、セリス。で、どこなの?」
    「ちょっと待ってて。えーと、ああ、アイツだ」
    そういって、屋敷の上に止まっている一匹のカラスを指差す。
    「えーと、『白き牙より赤き竜へ、汝が主の居場所を示さん』」
    すると、カラスが翼を広げて屋根から離れ、庭にある池の淵に止まる。
    そして、その目が不気味に光り、池に地図が浮かび上がる。
    「フォルスね」
    地図の一点、王国の東の果ての街フォルスに当たる位置に赤い点が浮かんでいる。
    ここがユナ・アレイヤの現在地。
    にしても、やっぱり無駄足のようなもんじゃない。
    ああ、どんどんお金が飛んでいく・・・。



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