Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■427 / inTopicNo.1)  戦いに呼ばれし者達
  
□投稿者/ パース -(2006/10/11(Wed) 21:59:28)
    2006/11/07(Tue) 06:23:26 編集(投稿者)
    2006/10/12(Thu) 13:53:55 編集(投稿者)
    11月7日タイトル変更
    (何で今さら・・・・)

    まえがき。

    ハイ、というわけで「前向きな死者と後ろ向きな生者」、昭和さんに頼まれて(←この辺責任のなすりつけ)続編を書くことにしましたが、ようやく世界観設定が完成しましたので本編というか続き、というかさらに前の話を書きました。

    モチーフは完全に北欧神話です。
    ゲルマン民族やヴァイキング達に伝わるあれです、散文エッダやニーゲルンゲンの指環やらで有名なあれです。
    が、武器ばかり登場していて有名どころの神サン(オーディンとかトールとかロキとか)は、名前だけしか出ません、そんでもって登場人物は最初に一気に書いちゃう以外はたぶん出しませんので(出ても精々ちょい役)覚悟してください(何の覚悟だよ)。

    ってか、本来がただの短編であったため、本編もさっさと終わらせましょうか、ってのが作者の考えなので、結構バタバタ人が死んじゃったりしますんでごめんなさい。

    ちなみにこの作品、戦乙女ことヴァルキリーがまんま悪役ですので、ヴァルキリープロファイルとか好きな人にはお奨めできないかも知れません、そのへんはご自分で判断下さいませませ。


    ロキパートでの主な登場人物

    千里塚 陽(せんりづか よう)18歳♂ 所持武器:レーヴァテイン(神剣)
    四ノ原 影美(しのはら えいみ)18歳♀ 所持武器:ロキの剣(魔剣)
    桐野 狼亜(きりの ろあ)15歳♀ 能力:フェンリル
    ゲイレルル 槍を持って進む者 能力:ヴァルキリー




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■428 / inTopicNo.2)  フェイス1ロキ1
□投稿者/ パース -(2006/10/11(Wed) 22:01:29)
    2006/10/12(Thu) 20:01:22 編集(投稿者)

    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだ、これ?)


    それが、千里塚 陽(せんりづか よう)が最初にそれを見たときの感想である。

    端的に言うと、地面に一本の剣が置いてあった、いや、むしろ突き刺さっていた、よくあるRPGゲームの勇者の剣のように。


    (・・・・・・・・・・・剣?・・・・・・・・・・・何でこんな物がこんなところに・・・・・・・・)


    そこは、閑静な住宅街で、どこをどうしたところで、そんなRPGの産物が迷い込んでくるような場所ではなかった。


    (とりあえず、なんかやばそうだし、放っておこう)


    陽はとりあえず、保身を最初に考えた、もし万が一、これが何かの事件に関わるものであったなら、事件に巻き込まれる可能性がある、そんなのはまっぴらごめんだ。


    (ま、警察かなんかが勝手に見つけて片付けるだろ・・・・・・・・)


    そして陽はその剣を避けて、自宅への帰路を急いだ。










    ―――数日後。

    その剣は閑静な住宅街のど真ん中にいまだ存在した。


    (どうなってんだ?こんな目立つ物、絶対に誰かが見つけるはずだろ・・・・・・・・・・・・・・)


    「ん?どうしたんだ?」


    その時は偶然会った中学時代の友人と一緒に歩いていたので、その友人はいきなり立ち止まった陽に対して疑念の声をかけた。


    「いや、この剣が、な・・・・・・・・・・」
    「剣?お前何言ってるんだ?」
    「は?」


    そして陽はやっとその剣が自分以外には見えていない事に気がついた。










    (つまり、これは、こいつを俺に抜けって意味なのか?)

    ある日、またしても陽はその剣を前にしていた。


    (これは、いったい何だ?剣・・・・・・・・・・しかし、俺以外の人間の目に見えない・・・・・わけがわからない・・・・・)


    その後、しばらく陽は考えていたが、結局その剣を手に取ることにした。


    (これが何かはわからないが・・・・・とりあえず取ってみるか・・・・・何となくそうしろと言われてる気がするし・・・・・)


    そして、陽はついにその剣を手に取った。


    ―――ズルリ。


    意外にも、剣は呆気なく地面から抜けた、そして。


    「ふん、貴様がその剣の適合者か」
    「あ?」


    次の瞬間、陽は、どこかから聞こえてきた声と共に異世界・・・へと引き込まれた。










    「なんだ・・・・・・ここは?」


    陽はいつの間にか、見たことがない、いや、感じたことがない空間へと足を踏み入れていた。
    なんというか、空気・・が違う。


    「ふん、騒ぐな、人間よ」


    陽に向けて声をかけた人物、というべきか、存在、というべきか、それが陽の前に立っていた。
    そいつは、まるで神話の中に出てくるような鎧兜を着て、背中から真っ白な羽を生やし、さらに巨大な槍を持っていた。


    (天使・・・・・・・・?いや、こいつは・・・・・・・・・・・)


    「我が名はゲイレルル、ヴァルキリーが一人だ」
    「ヴァルキリー、だと?」
    「そうだ、大いなる神に仕えし魂の運び手よ」


    馬鹿げている、とりあえずそう思った。


    「貴様には神具に選ばれるほどの『力』があるようだ」
    「『力』・・・・・・?」
    「ふん、その剣は神剣レヴァンテイン、なかなかの高等神具じゃないか」
    「神剣レヴァンテイン・・・・・・・・いやまて、そんなことよりも、お前の目的は何だ、こんなわけのわからない空間に俺を飛ばしたのはなぜだ」


    ゲイレルルはにやり、と笑って。


    「貴様らの魂を手に入れるためさ、ここに呼び入れたのもその前準備のためだ」
    「な・・・・・・・!!」


    魂を手に入れるため、とか言われて平常でいられる者はいないだろう。


    (・・・・・・・・・・・待て、魂、だと・・・・・・・それは何をどうするんだ?だが、何をされるにせよ、この剣があるんだ、ただでやられるつもりはない)


    「ふん、人間如きが色々と考えているな?だが安心しろ、どうせ何もかも無駄なのだから」
    「な!?」


    一瞬の後、陽の胸にはゲイレルルの槍が深々と突き刺さっていた。


    「貴様はこれより我等が『ユグドラシルワールド』でエインヘリヤルとなるための戦へと参加するのだ」


    ゆっくりと崩れ落ちる陽にゲイレルルが語りかける。


    「そこでは貴様と同じように神具に選ばれし者達がエインヘリヤルとなるため戦い続けておる、貴様もそこで殺し合え」


    陽のまぶたが閉じられていく。


    「現世に戻ることが出来るのは最後に生き残るただ一人のみ、死にたくなければ戦い続けろ」


    ゲイレルルが立ち去り、陽は異空間の中に、ただ一人取り残されていた。



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■430 / inTopicNo.3)  フェイス2ロキ1
□投稿者/ パース -(2006/10/12(Thu) 19:59:37)
    (は?なにコレ!?)


    それが、四ノ原 影美(しのはら えいみ)―――影が最初にその物体を見つけたときの感想である。
    端的に言って、剣が地面に突き刺さっていた、マンションの自宅の前に。
    真っ黒い、刃も柄も全てが黒い刀剣だった。


    (これを・・・・・・・・・私に・・・・・・・・・一体どうしろと?)


    それが何なのかとしばらく影が考えていると


    「影美、何やってるの?早くしなさいよ」
    「や、母さん、そうは言ってもね・・・・・・・・」


    剣が自宅の真ん前に突き刺さっているのを見て固まっている影美を、そうとは知らず一緒に帰宅した母親が声をかける。


    「家の前何か置いてあるわけじゃないんだから、さっさと入りなさいよ」


    ―――スタスタスタ

    ―――ガチャリ

    ―――ガタン、バタン


    「は!?」


    影美の母親は、思いっきりその剣があるところを完全に、通過した・・・・、なにかにぶつかることもなく、そこには何も存在しないかのように。
    その場にぽつんと取り残された影は唖然として。


    (これは・・・・・・・・・・一体・・・・・・・・どゆこと?)


    しばらく考えた後、


    「とりあえず、抜いてみれば、わかるよね」


    そういう風に決断した。
    そして、


    ―――サクリ


    「うわっ、軽!」


    予想外にあっさりと抜けた剣に驚きの声が出てしまう。
    しかし、その直後それ以上に驚くべき事が起こった。


    『む?お主がワシの新たな使い手か』
    「は!?」


    剣が喋った。


    『む?ワシはただお主がワシの新たな使い手か?と聞いただけじゃが?』
    「いや、ちょっと待て、普通剣は喋らんだろ!!」


    わけがわからない、何だコレは。


    『む、お主はなかなか物わかりが悪いようじゃな』
    「物わかりが悪いとか言うな!」
    「ちょっと影美!さっきから家の前で何をごちゃごちゃと言ってるのよ!!」
    「!!」


    これは、まずい、何も知らない人から見たら今年18になる娘が真っ黒な剣を持って自宅の前で独り言を言っているように見えるだろう、わりと過保護な影の両親なら一体何をするかわかったものではない。


    「ちょっと、影美、さっさと家に入りなさいって・・・・・・・・手を後ろに回して何やってるの?」
    「え!?いや、ちょっと、背中がかゆいなぁ、なんて・・・・・・・」
    『心配せんでもワシの姿と声は普通の人間には見えんし聞こえんぞ』
    「それを先に言え!!」
    「なにやってるの?」
    「なんでもありません!」


    影は、さっさと自分の家に入っていった。










    「それで、あなたはなんなの?なんで私の家の前に落ちてたの?」


    夜、影は自分の部屋でその黒い剣と向かい合っていた。


    『ワシがなんなのか、なぜ、お主の家の前に落ちていたのか、とな』
    「うん、教えて」
    『むーん・・・・・・・ワシに名前はない、無銘刀と呼ばれておる』
    「無銘刀?」
    『ワシを作った刀鍛冶がワシに名前を与えなかったのじゃよ』
    「ふーん、なんで?」
    『そうじゃのう、なんでじゃったかなぁ・・・・・実はワシもよくは思いだせんのじゃよう、なにせ相当昔のことじゃからな』
    「ふーん・・・・・・・・・じゃあなんで家の前に落ちてたの?」
    『それは、おそらく、ヴァルキリー達にばらまかれたのじゃろうな』
    「なんのために?ってかヴァルキリーってなに?」
    『お主のような神具を扱える人間を集めるためじゃよ、ヴァルキリーが何者かというのはワシに聞くより、そこにいる奴に聞いた方が早いのではないか?』
    「え?」


    ―――瞬間、空気が変わった。










    「ふぅ、まさか配置した直後に適合者が発生するとは思わず、召喚が遅れてしまいました」
    「え・・・・・・え・・・・??」


    そこは、それまで影がいた部屋とは違い、何も無いのに、何かあるような、どこまでも見通せるのに閉鎖感があるような、肌に何かがちりちりと焼き付いてくるような、そんな違和感だらけの空間だった。
    そしてそこにいるのは影と、剣と、背中から羽を生やした天使みたいな人だった。
    その天使のような奴は腰に短剣を差した、図書館の司書や、どこかの委員長でもしていそうな、落ち着いた雰囲気のある人だった。


    「初めまして、私はヘルフィヨトル、軍勢の戒めを司るヴァルキリーです」
    『ヴァルキリーとは戦士の魂を運ぶ者、戦場の死に神、戦士に休息を与えぬ者』


    ヘルフィヨトルと無銘刀の声が重なる。


    「あなたは・・・・・・・その無銘刀、名も無き剣ですが一応の神具に認められました、それ故にこれから我々の『ユグドラシルワールド』に来て貰います」
    『む、こやつワシのことを知らぬと見える、これはこれで好都合やも知れぬな』


    二つの声が重なって聞こえるせいで半分混乱状態にあった影であるが、しばらくして聞いてみた。


    「えと、その、『ユグドラシルワールド』ってなによ?」
    「戦士のみに立ち入ることが認められた戦場です」
    『こやつらの庭じゃよ、そこではこやつらは自由に戦士の魂を収集できる』
    「・・・・・・・・・・・でも、私はそんなところに行きたくないんだけどその場合はどうするのよ?」
    「残念ですがあなたに拒否権はありません、神具に認められた以上我々と一緒に来て貰います」
    『無駄じゃよ、こやつらはエインヘリヤルとなる魂を集めるためになら手段を選ばん、これはそのための戦じゃ、こやつらの目的は、早い話がお主の魂じゃ』


    影は長い間考えていたが、しばらくして呟いた。


    「ねぇ、私はどうすればいい?」
    「?」
    『どう、とは?』
    「私はそんなわけのわからない戦なんて嫌だし、魂を取られるのも嫌、どうすればいい?」
    「先ほども言ったとおり、あなたに拒否権はありません」


    噛み合っていない会話にヘルフィヨトルが影に疑惑のまなざしを向ける、しかしそれに構わず影は会話を続ける。


    『むーん・・・・・・・・・・ならば、『力』を使ってみるか?』
    「『力』?」
    『お主は少なくともワシに選ばれるほどの、神具に認められるほどの潜在能力を持っている、それを使い、ワシの『力』を使えばあるいはこやつをどうにか出来るやもしれん』
    「・・・・・・・・・・やってみよう」
    「あなた、先ほどから一体誰と会話をしているのですか?」


    いよいよおかしい感じ、剣を抜きはなったヘルフィヨトルに対し影は剣を構えた。


    『よいか、まずは『力』を、お主の中にある『力』を信じ、引き出すのじゃ、それをこの場に顕現させろ』


    言われたとおりにやってみる、『力』を引き出すイメージ、それを発現させる。


    すると影の足下から伸びる影が、大きく歪曲した。


    『む、今のお主ではまだこの程度か・・・・・・・・どうする?それでも抵抗するのか?』
    「ええ、なにもしないでやられるよりはずっとマシ!」
    『ふむ、よかろう、お主のこと気に入ったぞ、ワシもお主に『力』を貸してやろうでわないか!』
    「さぁ、行くわよ!!」


    影とヘルフィヨトルとが同時に地面を蹴った。


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■432 / inTopicNo.4)  フェイス1ロキ2
□投稿者/ パース -(2006/10/13(Fri) 20:13:42)
    「・・・・・・・・・はっ!?」


    陽は閑静な住宅街の真ん中で目を覚ました。


    「・・・・・・・・・?」


    自分の体に触れてみるがどこにも異常は見あたらない。
    ゲイレルルに突き刺された胸にはまったく傷跡がなかった。


    (あれは・・・・・・・・・夢だったのか?)
    (つーか、ここは・・・・・・・・いつもの通りか)


    周りを見渡すとあの剣を引き抜いた場所から、ほんの少し移動しただけの、ほとんど同じ場所に陽は座り込んでいた。


    (あれは・・・・・・・・白昼夢だったのか?それにしては嫌に生々しかったが・・・・・・・)


    そして気付く、


    (ってか、あの剣はどこに行った?・・・・・・・ってあれも白昼夢の一部だったのか?)


    わけがわからない、が、全部夢だったのだろう。
    そう思い切ることにして陽は歩き出そうとして、もう一つ気がついた。


    (なんだ?何でこんなに音がしないんだ?)


    そこは閑静な住宅街といえども、少なくとも人が住んでいる場所である、それならば普通何かしらの物音がしているはずなのだが、今回に限って言えば、なんの物音もしなかった。


    (・・・・・・・・・・・まぁ、そんなこともあるだろう)


    このとき、陽はそれほど深く考えたりせずに歩き出した、深く考えるべきだったのに。










    これは異常だ。


    陽がそう気付いたのは閑静な住宅街を抜け、にぎわいのあるはずの商店街まで来たときのことだった。
    たしかに、そこにはたくさんの人々が、サラリーマンや買い物帰りの主婦、八百屋のおっさんに走り回る子供達がにぎわっていたが、いるはずなのに、


    まったく、物音一つ聞こえてこなかった。


    「・・・・・・・・はは・・・・・・・・なんだこれ?」


    目の前を、一人の若者が通り過ぎていく、そしてその青年は、まるで陽の事が見えていないかのように通り過ぎ、陽の体の中を通過していった。


    「これじゃ・・・・・・・・・まるで、俺が幽霊にでもなっちまったみたいじゃんか・・・・・・」


    OL風の女性、くたびれた服装の老人、スカートの短い女子高生、誰も彼もが路上に座り込む陽のことなど気にもせずに通り過ぎていく。


    「ちくしょう、何が、一体何がどうなってやがる・・・・・・・・・!」


    そこで陽は、意識を失う直前、あの異空間の中で出会ったヴァルキリーに言われた言葉を思い出す。


    『貴様はこれより我等が『ユグドラシルワールド』でエインヘリヤルとなるための戦へと参加するのだ』


    たしか、そう言われた、それから、


    『そこでは貴様と同じように神具に選ばれし者達がエインヘリヤルとなるため戦い続けておる、貴様もそこで殺し合え』


    とも言われたはずだ。


    「エインヘリヤル・・・・・・・・・・・なんのことだ・・・・・・・・それに神具だと・・・・・・?」


    あのヴァルキリーは陽が手にした剣を指して、


    『その剣は神剣レヴァンテイン、なかなかの高等神具じゃないか』


    「神剣レヴァンテイン・・・・・・・・・それが神具だというのか・・・・・・・・?」


    しかしその剣はいま陽の手にはない、意識を失っている間、どこかに落としてしまったのだろうか。


    「くそっ・・・・・・・情報が足りない、だがこの空間の中にも他に誰かいるはずだ、とにかく誰かを捜そう・・・・・・・・」


    陽はどこへともなく歩き出した。










    「誰もいない・・・・・・・・・」


    商店街を抜け、もう一度閑静な住宅街に戻り、今度は銀行などのオフィスや大手企業のビルが建ち並ぶ高層ビル街に出て、さらに歩いてゆく。
    その間、陽はたったの一人もこちら側の人間に出会わなかった。


    「本当に、誰かいるのか・・・・・・・?もしかして誰もいないんじゃないのか?」
    「だめだ、そんな事を考えたら気が狂っちまう、今は前向きに考えよう・・・・・」


    必ず誰かがいる、そう考えることにしてさらに歩みを進める。
    そして、野球場のドーム前に来たとき陽の耳に何かが聞こえてきた。


    「・・・・・・・・・・・――――!・・・・・・・・・・・・―――ォ・・・・・・・・・・・―――――レ・・・・・・・・・」
    「!!」


    確実に何かが聞こえた、こちら側の人間がこの付近にいるらしい。
    そして、その音は確実に近くなっていった。


    「・・・・・・・・・・―――――やがれ、テメェ!・・・・・・・・・――――――待て!・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・――――イヤ!・・・・・・・・・・・・――――――誰が待つか!!」


    その声の主は複数であるようだった、そしてそれらが近づいてくるにつれて、音声も正確に、足音もよく聞こえるようになっていく。


    「待て!このガキ!」「ふざけやがって、ぶっ殺すぞ!!」
    「イヤですー!絶対に待ちませんー!」


    小さな女の子がトタトタと走っていて、さらにその後ろから二人の男が追いかけていた、ただしその手には大振りの刀が握られていたが。


    (これは、どうするべきなんだろう?)


    はっきり言って状況がよくわからない、小さな女の子が逃げていて、それを二人の男が追っているのはよくわかるのだが、どちらに声をかけるべきなんだろうか。
    陽が考え込んでいる間に、女の子が陽に気付き大声で叫んだ。


    「ちょっと、そこの、お兄ちゃん!見てないで助けて!!」
    「あ、もう一人いやがった!」「あいつもまとめて片付けるぞ!」


    なぜか、いきなり巻き込まれた、しかも後ろの男二人は完全に戦う気満々のようだ、なぜか。
    小さな女の子はトテトテと陽の横を抜けて走って行き(意外に足は速い)、そのままビル街の方へ走って行った。
    そしてその女の子の胸元には、小さな狼をかたどった人形が揺れていた。


    (あれ・・・・・・・・・・・・今のは?)


    しかし陽が女の子を見送っている間に、二人の男は陽の前に来ていた。


    「兄ちゃん、あのガキに逃げられちまったよ!どうする?」
    「海!お前がこいつの相手をしろ、俺があのガキをやってくる」
    「兄ちゃん!ロリコンだったのかい!?」
    「違うぞ!!弟よ!」


    とかなんとか、色々と騒いでいたその二人(兄弟らしい)であったが、兄の方が先ほどの小さな女の子を追ってビル街へ向かうと、ようやく静かになった。
    そして、陽と向き合っている男が陽に向かって声をかけてきた。


    「へへへ、実は初めての戦闘なんすよね、緊張します」
    「あー、ちょっと待った、その前に聞きたいことがある」
    「なんすか?」
    「戦闘とか、お前何言ってるんだ?何が目的なんだ?」


    大刀を手に持ったその男は、しばらく考えていたが、やがてニヤリと笑うと、


    「へへ、騙そうったって、そうはいかないっすよ!!」
    「いや、騙そうとかそう言うんじゃなくっ!」
    「だったらなおさら、好都合っす!!」


    そしてその男は、問答無用に斬り掛かってくるわけではなかった。


    「『結界』!!」


    男が剣を正眼に構え、大声でそう叫ぶと、陽の周囲が、あのヴァルキリーに連れて行かれたのと同じような空間に変化していく。


    「こいつは・・・・・・!?」
    「へへへ、本当に知らないんっすか?僕らにはあのヴァルキリーさんが使ってるこの変な空間を作り出す能力が、ヴァルキリーさんに斬られたとき使えるようになってるんっすよ」


    それは初耳だ、あのヴァルキリー、たしかゲイレルルという名前の奴、ほとんど何も言わないうちに問答無用で突き刺して来やがったから、何も知らない。


    「へへ、兄ちゃん、こいつマジで何も知らないみたいっす、これは楽勝っすよ!」
    「ッ!!マズい!」


    何か武器は、とそう思った瞬間。


    ―――ブンッ!


    陽の体の中から一振りの剣が現れた。


    「なんだ、やっぱり神具の使い手じゃないっすか、僕らの敵っすね、行くっすよ!!」
    「お、おい、ちょっと待て!」
    「問答無用っす!!」


    (チッ、まずいな、これで剣は手に入れたけど、どうする、やるしかないのか!?)


    陽に向かって、男が駆け出してきた。


    こうして、陽の最初の戦いが幕を開ける。
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■433 / inTopicNo.5)  フェイス2ロキ2
□投稿者/ パース -(2006/10/14(Sat) 00:11:31)
    駆け出した影美は、しかし心の中でしっかりと「無銘刀」の声を聞いていた。


    『よいか、まずは自分の『力』がどんなものであるか、それを知る必要がある』
    「わかったわ!」


    影とヘルフィヨトルとの距離がどんどん迫ってゆく、しかしその間中、無銘刀の声は続く。


    『とにかく、『力』を使っている姿をイメージするのだ、どんなものでも構わん、少しでも『力』を使うことに成功すればあとはワシが制御してやる』
    「おっけい!」


    自分が大きな剣で攻撃している姿を思い浮かべながら斬り掛かる。


    「いやぁぁぁあああ!!」


    すると、の一部が剣にまとわりつき、剣のサイズがいくぶん巨大になった。


    ―――ズドッ!!


    直前でヘルフィヨトルはそれを回避するが、しかし影が『力』の発動に成功したのを見て顔色を変える。


    「あなたは・・・・・・・こんな短期間で不完全とはいえ神具の能力を使いこなしているというのですか・・・・・・・・・・・!」
    『お主の『力』は影を自在に操る能力のようじゃ、これは扱いが難しいが、うまく使いこなせれば、たとえヴァルキリーであってもそうそう負けたりはせんようになるぞ!』


    「無銘刀」とヘルフィヨトルとの声が重なって聞きづらいことこの上ないがなんとか理解する。


    「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・・覚悟しなさい、ヘルフィヨトル、私は、あなたのいいなりにはならないわよ!」


    ヘルフィヨトルはしばらくジッと影美を見ていたが、やがて意を決したようにして言った。


    「・・・・・・・・・・わかりました、たとえまだ不完全とはいえ、神具の能力の発動に成功しているのです、私も全力で相手をさせて貰います」


    そして剣を鞘に戻し、右手を振って言った。


    「赤の軍勢!青の軍勢!出なさい!!」


    直後、何十、何百という数の人ではない兵士達がヘルフィヨトルの前に出現した、それらはちょうど半分ずつの割合で赤色と青色に別れている。


    「んなっ・・・・・・・・!!」
    『軍勢の戒め、ヘルフィヨトル、その名はダテではないようじゃな』


    驚きの色を隠せない影美と、対照的に冷静な無銘刀とヘルフィヨトル。


    「どうしました、私達ヴァルキリーに刃向かうのなら最低でもこのぐらいはどうにかしてもらわないといけませんね、私はこれでもヴァルキリー最弱なのですから」
    「これで、最弱・・・・・・・・!!」
    「どうです、降参するなら今の内ですよ、今ならまだ許して差し上げます」
    「・・・・・・・・!」


    影美の心に迷いが生まれる、こんな軍勢を相手に勝てるのか、自分の『力』など大したことはないのではないか、という自分への疑惑。


    「私は・・・・・・・・どうすればいいの・・・・・・・・・」
    「降伏なさい、そうすればあなたは自分と同じ程度かそれ以下の神具の持ち主達を相手にするだけで済むのですから、あなたほどの実力なら勝ち残ることも難しくはないでしょう」
    『自分自身の『力』を信じるのじゃ、お主自身が諦めぬ限りワシはお主の味方じゃし、自分自身を信じ続ける限りどんな敵であっても決して負けはせぬ!』


    影美は長い間考え続けていたが、ようやく、決心が付いたという風に頭を振り、言った。


    「降伏は、しない、どれほどの敵が相手でも・・・・・・・・・・・・私は、嫌なものは嫌、絶対に言うとおりになんかならない!!!」
    「そうですか、残念です、ではこの場で私があなたの魂を奪い、それで終いにしましょう」


    ヘルフィヨトルが腕を上げ下げると、軍勢は一斉に影美に向かって突進してきた。


    (思い浮かべるのよ、自分の『力』を!!)


    敵と同じもの、無数の軍勢を思い浮かべる。
    瞬間、影美の影が複数に分裂して何体もの影の兵隊を作り出す。


    「行きなさい!」
    『「影兵」、といったところかのぅ、なかなかやるではないか!』


    赤青、そして黒の兵団が戦闘を開始する、影美はその中を真っ直ぐ、ヘルフィヨトル目指して駆け出した。


    (黒い円、入り込んだ獲物を喰らう罠のように!)
    『「影陣」、かのぅ、これは複数戦闘に向いておるなぁ』


    いくつもの黒い円が影の周辺に現れる、それに入り込んだ赤と青の兵達は足を貫かれ身動きが取れなくなる。


    (次、いくつもの枝、黒い枝が突き出るように!)
    『「影刃」、よくもまぁこうポンポンと出てくるもんじゃな』


    すると、影の持つ黒い剣から木の枝のように、いくつもの切っ先が突き出し、次々と兵達を突き刺してゆく。
    影とヘルフィヨトルとの距離は、既にほとんど無かった、さらに影は続ける。


    (さらに、枝が揺れて、鞭のように!)
    『「影鞭」、これは強そうじゃな』


    影の剣先が柳のようにしなった、それを影は全力で振り回す。


    ―――バキッ!
    ―――ズカッ!
    ―――ゴシャッ!


    まとめて数体の兵団を打ち倒しさらに前進、もはや、ヘルフィヨトルは目の前であった。


    「・・・・・・・・驚きました、まさかこれほどとは・・・・・・・」


    (最後、影を、ありったけ大きく、叩きつける!!)
    『「影断」、必殺技、といったところかの』


    肥大化した影の剣が振り下ろされ、


    ―――ズシャッ!
    ―――バシュッ!!


    鮮血が舞って、倒れたのは影美の方であった・・・・・・・・・・・・・


    「は・・・・・ハッ・・・・・・・・・ハッ・・・・・ハッ・・・・・・・・・!」


    全身が、指先から頭のてっぺんにいたるまで、全身くまなく、これまで影が感じたことがないほどの激痛に襲われていた。


    「・・・・・・・・・「魂」の使いすぎによる過消耗ですか・・・・・・・」
    『当たり前じゃ、初めての戦いであれほど魂を消耗すれば誰だってぶっ倒れる、それにしても、惜しかったのぅ・・・・・・』


    影の巨大な剣は、ヘルフィヨトルの肩に突き刺さって、ギリギリで止まっていた、もう少し、わずかでも影が倒れるのが遅ければ、ヘルフィヨトルは死んでいた。
    ヘルフィヨトルは肩に突き刺さった剣を抜き取り、影に返してやる。


    「・・・・・・・・・・・・・・・これほどの戦士の魂を持つとは・・・・・・・・・・ほんの一歩、遅ければ倒されていたのは私の方ですか・・・・・・・・・・」
    『やはり、ワシが見込んだだけのことはあるわい』


    「無銘刀」はその声が聞こえていないのにヘルフィヨトルへ返答していた、たぶん意味はないのだろう。
    ヘルフィヨトルはしばらく考えていたが、影のそばに歩み寄り、その体に手をあてる。


    『おや、わしの使い手の傷を治してくれるのか、これはありがたいのう』
    「これほどの戦士の魂、むざむざ失うのは惜しい・・・・・・・・しかも成長途中ですか、これは、とてつもない・・・・・・・・」


    ヘルフィヨトルは自らが持つ剣を抜き放ち、影の肩を浅く斬った。


    「これで、『ユグドラシルワールド』への召喚はお終いです、ほんの少しの傷でよかったのですが、まぁいいでしょう」


    そしてヘルフィヨトルは影から離れていった。


    「あなたの戦士の魂が完成したとき、その時こそ私は本当の全力を持ってあなたの魂を奪いにやって来ます、それまで戦い続けて、魂を成長させ、そして生き残ってください」
    『ありがとうよ、この使い手に変わって礼を言っておくぞい、どうせ聞こえんがのう』


    ヘルフィヨトルの姿がゆっくりと消えていく。


    「それでは、わたしはこれで、あなたの戦士の魂に幸あらんことを」


    ヘルフィヨトルが完全に消えて、異空間の中には影と剣だけが残された。

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■434 / inTopicNo.6)  フェイス1ロキ3
□投稿者/ パース -(2006/10/14(Sat) 19:44:06)
    「行くっすよ!氷刀グラナステッグ!!」


    男が叫ぶと、男の持つ大刀が青く輝いた、表面にはうっすらとだが霜が降りているように見える。


    (なんだ、あれは?!)


    陽に考える間を与えず、男は続ける。


    「お前の力を見せてやるっす!出ろ『氷柱』!!」


    (な!氷が動いてこっちに飛んでくる!?)


    直後、男の周辺から数本の氷の柱が出現し、陽の方へと向かってきた。


    「うわっ!!」


    陽はこれを、横にとんで回避するが、男の攻撃は止まらない。


    「避けたっすか?でもこの程度じゃまだまだっすよ『氷塊』!!」


    今度は空中に5個の人の頭ほどの大きさの氷の塊が出現し、これもやはり陽に向けて突き進んできた。


    「なっ!このっ・・・・・うわっがあっ!!」


    5つのうち、4つの回避には成功するものの最後の一つに直撃をくらい、陽は大きく吹き飛ばされた。


    「まだ生きてるっすか、なかなかしぶといっすね、でもどんどん行くっすよ!!『氷柱』『氷塊』『氷弾』!!」


    さらに、男の周辺に氷柱と氷の塊、人間の頭ぐらいのから指先ほどのサイズまでのものが無数に、それこそ男の周りを埋め尽くすほどに出現した。


    (って嘘だろ!?こんなの避けきれるわけねぇ!!)


    「ふっふっふ、どうやら年貢の納め時っすね、さぁ、行け!!」


    男が剣をこちらに向けた直後、その無数の氷弾と氷柱が陽に向けて一斉に射出された。


    「う、うわぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
    (た、頼む、せめてもう少しゆっくり!!)


    ―――ぴたり。


    「・・・・・・・・・あ?」


    全てが静止していた、氷柱も、氷弾も、大刀の男も。


    「これは、なんだ?・・・・・・・・ともかく、逃げよう」


    陽が一歩、二歩、三歩、氷柱らの攻撃範囲から逃れた直後。


    ――――――ズドヅドドゴガシャグシャン!!!!


    「うおああっ!?」


    もはや声なのか音なのか破壊音なのか判別が出来ないほどの大音量が響き渡った。


    「はっはっは!どうっすかこの氷刀グラナステッグの力は、ペシャンコになっちまって・・・・・・・・・てあれぇ!?」


    大刀の男は、自分の剣を褒め称えようとしていたが、しかし氷の群れが直撃した場所のすぐ横で、無傷の陽が立っていることに驚いていた。


    「な、なんでっすか!?たしかに当たったはずなのに・・・・・・そうか、あんたも神具の『力』を使ったんっすね!」
    「いや、だから、さっきから言ってるように俺には『力』とか、神具とか、なんのことかさっぱりっ!!」
    「問答無用!!」
    「人の話ぐらい聞けよ!!!」


    本気でシャレにならない、「力」とか「神具」とかなんなのかわからないし、相手はわけのわからないことばかり言ってるし、そもそもあのヴァルキリーの奴何も教えてさえくれなかった。


    「・・・・・・・・・ふざけんなよ・・・・・・・・ふざけてんじゃねぇよ!!!」


    もういい、正直ぶち切れた、やってられっか、付き合いきれない。
    瞬間、陽の頭の中が逆に冷めていき、周りにある氷達よりもさらに冷え上がり、冷静に、全ての事柄を見据え、全ての状況を分析していく。


    (あの男の言動を思い出すんだ、そしてあのヴァルキリー、ゲイレルルが言ったことを思い出せ、

    『その剣は神剣レヴァンテイン、なかなかの高等神具じゃないか』

    『神具の使い手じゃないっすか』

    『どうっすかこの氷刀グラナステッグの力は』

    『そうか、あんたも神具の『力』を使ったんっすね』

    ・・・・・・・・・・これらから導き出される答え、それはつまり、)


    自分にもあの男と同じように何かしら超常的な『力』を使うことが出来る。
    そして先ほど、ほんの5秒ほどの間であったが、時間が止まった瞬間、あれは間違いなくこの剣の『力』である。
    それだけわかれば、もう十分だった。


    「・・・・・・・どうしたんっすか?急に黙り込んで、僕が怖くなったんっすか?」
    「うるせぇ黙れ、お前との遊びに付き合うのがめんどくさくなっただけだ」
    「なっ!んっすか!?」


    あの男が持つ大刀は「氷刀グラナステッグ」、自分でそう言っていた、その力は氷を自在に操ること、氷は生み出してから発射するまで数秒のタイムラグが存在する、一度召喚すると、全て発射しおえるまで新たに氷の召喚が出来ないこと、そしてなにより、氷は自分自身の体より後ろには召喚できないこと。
    あの男の言動と行動から、陽はそこまで分析していた。


    「もういい、さっさとこの変な空間を解除して降参しろ、お前の相手をするのもかったるい」
    「脅しのつもりっすか!?そんなの言うとおりにするわけ無いじゃないっすか!!」


    そして男は大刀を構えた、それに合わせ陽も剣、レヴァンテインを構える。


    「もういいっすよ、グラナステッグの全力で、全身全霊であんたをぶっつぶしてやるっすよ」
    「ごたくはいい」
    「むかつく奴っすね、行くっすよ!『氷柱』、『氷塊』、『氷弾』、『雪崩』に『吹雪』!・・・・・・・・・・『氷地獄』っす!!!」


    男が『力』を発動したとき、既に陽はそこにはいなく、男が召喚したいくつもの氷が何もない場所を凍り付けにしていく。


    「まだまだぁ!!逃がさないっす!!」


    いくつもの氷が陽の居場所目掛けて殺到していく、しかしその時、やはり既に陽の姿はそこにない。


    (・・・・・・・・・・・・くっ、きつい・・・・・・・・・・・・1回使うごとにとんでもなく疲れる・・・・・・・・・・・むやみに多発は出来ないか・・・・・・・・・・!)


    陽の『力』は、陽の体感で約5秒間の間だけ自分自身が超速で動ける、というものだった。


    「くそっちょこまかとちょこまかと!うっとおしいっすよ!!」


    男が現れては消える陽にかなり混乱し始めていることは陽にもわかった


    (あと1回、それで決める)


    陽は超速移動を止めた。


    「やっと見つけたっす!いい加減潰れてしまえっす!!」


    男が全力で氷を放った瞬間、陽は『力』を解放する。


    「『全力氷地獄』!!!骨も残らず凍らせてやるっす!!!」


    いくつもの、大量の、無限とも思える氷が陽のいる場所にぶつかってくる。


    ―――ズドドドドドドゴガガガガガガガ


    「はぁ、はぁ、これなら、さすがにやったっすかね・・・・・・・?」


    男がそう呟いたとき。


    「残念だったな、お前のやったことは全部無駄だったぞ」
    「え!?」


    すでに男の背後まで回り込んでいた陽がそう言って。


    ―――ザシュッ!


    「あ・・・・・・・・?あ・・・・・・・・がっ・・・・・・・・・!!」


    陽の剣が男の胸を深々と切り裂き、男は崩れ落ちた。


    「口数が多すぎるんだよ、お前は、もっと静かにしてろ」


    壊れ落ちる異空間を背にして、陽は呟いた。

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■435 / inTopicNo.7)  フェイス3ロキ1
□投稿者/ パース -(2006/10/14(Sat) 19:47:51)
    高層ビル群が並ぶオフィス街、その中でもひときわ背の高いビルの屋上に、一人の女の子が佇んでいた。
    その女の子は先ほど、陽に助けを求めてすぐにどこかへと走り去っていった、あの胸元に小さな狼の人形をぶら下げた女の子であった。
    女の子はビルの屋上から、あちらこちらを見回していたが、しばらくして言った。


    「・・・・・・・・・・・やっぱり、さっきのお兄ちゃんが勝ち残ったね・・・・・・・・・・うん、フェンちゃんのよそおどおりだね」


    時々、女の子は鼻をヒクヒクさせながら――まるで犬のように、そうしながらひとりごとを話していた。


    「うん、あのお兄ちゃんなら私のことをきっと助けてくれるよね、うん、いざとなったらフェンちゃんに任せるから、そうすればあのお兄ちゃんだって、どうにか出来るよね?」


    ひとりごとは日が沈みつつある屋上にこだましていく、しかし答える声など無いのに、女の子は会話を続けていく。


    「うん、私はフェンちゃんを信じるよ、きっと、私が生き残るために一番いいほうほうを選んでくれてるって、うん、そうだね、そろそろいこっか」


    女の子は、屋上に背を向け、ビルの中へと入っていこうとした、しかしちょうどその時、屋上の入り口の扉を開けて一人の男が入ってきた。


    「ぜぇ・・・・・・ぜぇ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・や、やっと見つけたぞ、このガキ、ちょこまかとガキのくせに早すぎんだよ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・」


    そいつは最初、女の子を追いかけていた男の片割れ、兄の方だった。


    「・・・・・・・・・結局追いついてきたんだ」
    「ぜぇ、はぁ、当たり前だ、お前みたいな弱そうな奴を最初に倒せば、はぁ、俺らの魂も簡単に強くなれるだろ、そんな良い獲物を、むざむざ逃がすかよ」


    そんな男を、女の子はひどくつまらないものを見るかのような目で見て、言った。


    「そう、ならあなたの考えは見当ハズレだから、さっさと他の相手を探してちょうだい、私はこれからフェンちゃんと一緒にすることがあるの」


    男は一瞬、何を言われたのかわからないような感じで、ぽかーんとしたあと、


    「はっ!馬鹿じゃねーのか!?お前みたいなちっさなガキが、おれらみたいな大人に勝てるわけがないだろうが!はっはっは!冗談ならもっとマシなのをつくんだな!」


    女の子の言葉を、冗談として笑い飛ばした男を、やはり女の子はつまらなそうに眺めたあと、


    「そう、それなら別にどうでもいいんだけどね、あなたの兄弟、弟の方、死んだわよ?」


    は?、といった風に男の笑い声が止まる。


    「おいおい、お嬢ちゃん、それは冗談としても笑えねぇぞ?俺の弟が死んだだと?いつだ、いったい誰にだ?」
    「ついさっき、あのお兄ちゃんにやられて」
    「どうせ口からの出任せだろう、こんなところからあの二人がいる場所を見えるわけがねぇ!!」


    ついには、口を荒げた男に、やはりつまらなそうな眼を送った女の子は、


    「私には、他の神具の所持者達とは違って、超知覚能力があるの、ある程度の範囲でなら、臭いで何でもわかるわ」
    「・・・・・・・・だ、だからなんだってんだ!?お前の不利には変わりがねぇだろおが!なんだ!?あのお兄ちゃんがここまで助けに来てくれるとでも思ってんのか!?」
    「思ってないよ、そんなことをしなくても、あなた程度じゃ私の敵には成り得ない」
    「うるせえ、さっさと死に腐れ!この糞ガキが!!起きろ!風刃スキンゲイル!!」


    男の持つ太刀が『力』の発動に合わせて輝きを帯びていく、が、しかし、


    「もういいよ、フェンちゃん、食べちゃえ・・・・・


    ―――いくつもの、が。


    「あ?口?・・・・・・・・・・・・がっ!!ぎゃあああああああああああああああ!!!!!


    男の絶叫を背に、女の子は屋上を後にしていく、そして屋上の入り口に辿り着いたとき、女の子は振り返って言った。


    「それから、さっきからガキガキうるさいけど、私はこれでも15歳よ、ガキなんて年じゃないわ」


    そして、誰もいなくなった屋上に、風が吹いた。

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■440 / inTopicNo.8)  フェイス2ロキ3
□投稿者/ パース -(2006/10/15(Sun) 23:03:57)
    「ぎぃゃやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ――――――――あ?」


    影は、自分の叫び声で目を覚ました。


    「えと・・・・・・・・・・・・・あれ?」


    自分の体をあちこち触って調べてみる、外傷はどこにもない、ついでにそれほど疲れてもいない。


    「あれ・・・・・・・・・・・・?」


    そこは自分の部屋、日が暮れかけていることから夕方であると理解する。


    (えーと、私は、何やってたんだっけ・・・・・・・・?)


    自分は確か、今日は休みだったから、買い物に行って、その帰り、家の前で、


    「・・・・・・・あ!」


    そこで変な剣を拾ったのだ、その剣は人の言葉を話せて、


    「あれ?「無銘刀」はどこにいった?」


    部屋のどこを見ても無銘刀が見あたらない、体の周りを見回してみる。


    「あれ?あれ?」


    体が全然痛くない、自分は確かヴァルキリーと戦って、ぎりぎりで負けて、その時体中が死ぬほど痛かったハズだ


    「あれぇ・・・・・・・・・?」


    影美があれあれ唸っていると、頭の中で声がした。


    『なんじゃ?やっと目を覚ましたのか』
    「無銘刀!?どこにいるの?」
    『お主の体の中じゃ』
    「はぇ!!??」


    思わずゴソゴソと服の中を調べ回す。


    「ど、どこよ!?変態!痴漢!」
    『いや、あのな、体の中ってそういう意味じゃなくてな』
    「いやーきゃー!どこよー!まさか下の方!!?」
    『あの、じゃからな・・・・・・』
    「いやー!きゃー!お嫁に行けなくなるー!」
    『・・・・・・・・・・』










    数分後。


    『落ち着いたか?この早とちり娘』
    「す、すいません・・・・・・・・・・」


    しばらくして、ようやく落ち着いた影美に無銘刀が剣をイメージしてみろと言うと、剣は影美の体の中から出てきた。


    『わしらみたいな神具っちゅーのは、使役者が望んだときいつでも取り出せるようにその使役者の体内に存在しているのじゃ』
    「体内に存在って、どうやって?」
    『むーん・・・・・・・そもそも神具というのは、古き神々が作り上げた道具で、今あるこの世界の物質とは、根源からして違う存在なのじゃ』
    「うーん・・・・・・・古き神々とか言われてもよく分かんないんですけど・・・・・?」
    『そうじゃのぅ、よし、今回の戦いに関することを古き神々のことも含めて、わしの知る範囲でなるだけ教えてやるとしよう』
    「うん、お願いしまーす」










    『遥か遠き昔、世界は九つに別れていて、その中心を大きな大樹が貫いておった』


    「九つも?ずいぶん多いね」
    『む、まぁ多いのは認めるが感想はとりあえず話を最後まで聞いてからにしてくれ』
    「はーい」


    『その九つの世界というのは神族の世界や精霊の世界、巨人族の世界や死霊の世界などがあって、互いに様々な影響を与えあっていた』
    「ふむふむ」
    『ま、この辺は概略じゃから、覚えて無くてもいいんじゃがな』
    「なーんだ」


    『ともかく、その世界はいくつにも別れていた、そしてそのなかのひとつ、アース神族が治めるアースガルズという世界には、オーディンという名の最高神がいてな、オーディンは知識の神、魔術の神というほど様々なことを知っておった』
    「ふーん、オーディンね」
    『そして、オーディンは予言の神でもあってな、その力によってオーディンは様々なことを見知り、そしてその世界に関するあることをも知っておった』
    「ある事って?」
    『世界の終末、全ての終焉、神々の黄昏、「ラグナロク」の到来をオーディンは知っておったのじゃ』
    「終末って・・・・・・・そんな」
    『オーディンはその未来を知っていたからこそ様々な手を打ちその未来を事前に回避しようとしたが、しかし、結局その願いはかなわなんだ』
    「・・・・・・・・・・その、終末ってのは何で起こってしまったの?」
    『その前に、オーディンには一人の義兄弟がおってな、そっちの方を先に説明するとしようか』
    「なんで!?」


    『オーディンの義理の弟、そいつはとても頭のキレて、口が達者で、悪戯好きな黒髪の青年神じゃった』
    「ふーん」
    『そいつの名はロキ、そしてこいつがラグナロクを呼び起こした張本人じゃ』
    「!?」
    『ロキが悪戯好きというのは今言ったが、悪戯が過ぎてしまっての、ロキはオーディンの最愛の息子、バルドルを殺してしまうのじゃ』
    「・・・・・・・・・」
    『それに怒った神々はロキを断罪するため、ロキを年中蛇の毒液が滴り落ちる岩に縛り付けたのじゃ』
    「うわー・・・・・・」
    『そして、それに怒ったロキの娘、息子達がロキを解放するために死霊を引き連れてアースガルズに攻め入ったのじゃ、そしてロキは解放され、その戦いに巨人族が介入し、神族や巨人族、死霊達が殺し合い、世界に終末が訪れたのじゃ』
    「・・・・・・・・・・みんな死んじゃったの?」
    『そうじゃ、巨人族の中に火の神スルトというがおって、そいつが死んだとき世界中が炎に包まれたのじゃ、そしてほとんどの神々、巨人が死んだ』
    「・・・・・・・・・」










    「それで、古き神々のことはわかったけど、この戦いはどうなるの?」
    『そうじゃな、その説明のためには今度はフレイヤという神のことを説明せねばならんな』
    「フレイヤ、ね」
    『そいつは、愛と美の女神でありながら、魂の、特に戦いで死んだ戦士達の魂を好む女神じゃった』
    「魂を?」
    『そうじゃ、戦いで死んだ戦士のうち、勇敢で、強く、賢い者の魂を、オーディンはラグナロクを防ぐ戦力とするために、フレイヤは自らの満足のために分け合い、自分の所有物としていた』
    「魂、ね」


    それは、ヴァルキリーが言っていたこととよく似ているのではないだろうか?


    『その通りじゃ、ヴァルキリー達というのはフレイヤの直属の部下で、ヴァルキリー達はフレイヤのために魂を運ぶ存在じゃ』
    「ちょっと待った!!私今思ったことを口に出してないんですけど!?」
    『物わかりの悪い奴じゃのぅ・・・・・・・・わしはお主の体の中にあるんじゃぞ?おぬしが思ったこと、考えたことはわしにもわかる』
    「うそぉ!?内緒話禁止ですか!??」
    『諦めんか、わしはそういう物じゃ』
    「いやぁー!」


    小休止。










    小休止終了。


    『落ち着いたかのぅ?』
    「なんとかー・・・・・・・」
    『ともかく、フレイヤはヴァルキリー達を使って今でも魂集めをしておるのじゃ』
    「ひとつ質問良いですかー・・・・・・・・?」
    『なんじゃ?』
    「神様達ってたしかみんな死んじゃったんじゃないんですかー・・・・・・・・・・」
    『ほとんどが、といったじゃろ、わずかに生き残った者達はいたのじゃ、オーディン、ロキを初めとするおもだった神々はみんな死んでしまったがのぅ』
    「じゃあ、フレイヤって人は・・・・・・・?」
    『むーん、おそらく生き残ったのじゃろうなー・・・・・・・・フレイヤの持つ神具『ブリーシンガメン』は炎に対する抵抗が凄まじい神具じゃしなー』


    「で?そのフレイヤと、この戦いがどう関係してくるわけー?」
    『問題なのは、そこじゃよ、あ奴はラグナロクが終わり、世界のほとんどが消滅した後も人間世界に降り、そこで戦士の魂集めを、神々の武器を人間に与え互いに殺し合わせるという方法で続けておるのじゃ』
    「そんな・・・・・・・・・・」


    それじゃ、つまり自分たちは・・・・・・・・・


    「そいつの、わけのわからない魂集めの犠牲にされてるっていうの?!」
    『そうなるのぅ』
    「そんな、ふざけないでよ・・・・・・・・私はそんなことに利用されるつもりはないわよ!!」
    『じゃろうな、じゃがあ奴らは、フレイヤ自身も相当強いが、ヴァルキリー達も様々な戦いで数をかなり減らしたはずじゃが、相当強い精鋭のみとなったはずじゃぞ?それでもやるか?』
    「もちろんよ!」
    『よし、では次の話じゃ、この戦いで最も重要なモノ、魂についてのことじゃ』
    「ええ」
    『魂については・・・・・・・・・・しまった』
    「え?」


    無銘刀が何かを言おうとした瞬間、


    『周囲への警戒を怠っていたか・・・・・・!!』
    「!?」


    瞬間、影美の周辺が、異空間へと変わっていった。

引用返信/返信 削除キー/
■441 / inTopicNo.9)  フェイス1ロキ4
□投稿者/ パース -(2006/10/16(Mon) 21:55:33)
    冷静に考えてみたら、陽は初めて人を殺していた。


    (なんていうか、よくドラマかなんかでやるような、人を殺したせいでそのことにとらわれたりするあれって、俺にはないんだな)


    陽は自分の右手を見てみる。
    先ほど自分が殺した相手、喋り方に特徴のある氷刀グラナステッグの所持者、そいつの血が、べったりと手に付いている。
    右手だけではない、体中ほとんど、返り血を正面から浴びてしまったので真っ赤に染まっている。
    だがしかし、陽はただシャワーでも浴びたいな、と思っただけだった。


    (なんてゆーか・・・・・・・・・とにかく臭いし、汚いし、気持ち悪い・・・・・・・・・どこでもいいからさっさとシャワーか、その前に着替えを探すか・・・・・・・・・)


    陽は血で真っ赤に染まったまま、フラフラと住宅街に向けて歩き出していった。










    蛇口をひねると、熱湯が雨になって噴き出してくる。
    陽はそれを正面から受け止め、血を洗い流してゆく。


    (少し、熱いな・・・・・・・・)


    陽はシャワーを浴びていた、ただし見知らぬ民家で、勝手にだが。


    どうやら自分が幽霊みたいになってしまったのは間違いないらしい、この民家に住む住人達は、陽が勝手にドアを開けて入ってきたときも、そのまま勝手にシャワーを浴び始めたときも、文句一つ言ってこなかった。


    (そこにいる人には話しかけたり、触ったりすることが出来ないのに、その場にある物体、物や道具には触ることが出来るんだな・・・・・・・・・なんなんだこれは?)


    陽はシャワーを浴びたまま、思索を続ける。


    (とにかく、あのヴァルキリーに会ってからずっと、わけがわからないことばかりだ)


    ゲイレルルという名前のヴァルキリー、彼女はほとんど何も説明をしないまま陽の胸をその槍で突き刺し、気がつくと陽はこのわけのわからない世界に存在していた。


    (とにかく、アイツに何かされて俺がここにいるって事は間違いない、それから)


    さっき、陽と戦った相手、あの大刀の男は言っていた、


    『本当に知らないんっすか?僕らにはあのヴァルキリーさんが使ってるこの変な空間を作り出す能力が、ヴァルキリーさんに斬られたとき使えるようになってるんっすよ』


    あの『力』、あの異空間を作り出す『力』、それがあのヴァルキリーに斬られたとき、使えるようになっているとあの男は言っていた。


    (それはつまり・・・・・・・・あいつはヴァルキリーから何か説明を受けていたって事か?そして俺もヴァルキリーに斬られたってか刺されたから、あの『力』を使えるのか?)


    こればかりは、確認しないことにはどう判断することも出来ない。


    (そもそも、確認しようにもやり方がわかんねぇし・・・・・・・・・・・・う・・・・・・・)


    いつまでも熱湯を浴びていたらのぼせてきた、そろそろ上がろう。


    陽はシャワーを止め、風呂場から上がって着替え(これも、そばにあった服屋から勝手に拝借した)を手に取り、血で汚れた服の方は、しばらく迷ってからゴミ箱に捨てることにした。


    (それにしても、この世界での規則はどうなってるんだ?)


    そのまま進み、食卓に勝手に入っていく、そこでは、一家団らんの食事風景が広がっていた。


    (・・・・・・・・・・・・・・・ッツ!!)


    ドクン、と心臓が高鳴る。
    なんてことのない風景、なんてことのない平和・・な風景、それなのに、心臓が、どうしようもなく、早鐘を打つ。


    「う・・・・・・・うう・・・・・・・ううううう・・・・・・・・!」


    その食卓で、満面の笑みを浮かべて父親と母親とに囲まれた5歳くらいの少年が、ふと、ジュースの注がれたコップを取り落とした。


    ―――ガシャーン。


    聞こえるはずのない音が聞こえた気がして、そして、脳の奥底に封印したはずの記憶が蘇っていく。










    「うるせぇぞ!糞ガキ!!」


    コップを落としただけで、陽は殴られた。


    「ああもう、あんたって子は!なんてことをしてくれるのよ、また服が汚れるじゃない!掃除はあんたが一人でやりなさいよ!!」


    母親は、ヒステリックに叫ぶだけで、陽を助けたりはしなかった。


    「おい!お前の不始末だろうが!片付けをさっさとやれよ!!」
    「何言ってんのよ!そもそもあんたがすぐに殴らなきゃこんなひねくれた子供には育たなかったわよ」
    「俺の責任だってのか!?ガキが欲しいと言ったのはお前だろうが!!育児は全部お前がするというから認知してやったってのに!!」
    「なによ!!!」
    「なんだ!!!」


    そして始まる大夫婦喧嘩、父親はすぐに手を出し、母親はすぐに道具を持ち出す、包丁を取り出したこともあった。


    最近では珍しくもない、離婚寸前の夫婦、そしてその弊害を受ける子供、そんなある意味わかりやすすぎる構図が陽の子供時代だった。
    陽にとって両親とは、ただ食料を与えてくれるだけの存在で、優しさや、愛情、そんなものを教えてくれる存在ではなかった。


    そしてそんな最悪の幼少時代があっさりと終わりを迎えたのは、陽が八つか九つの頃だった。


    ―――交通事故だった。


    たまたま、両親ともに機嫌が良かったのか、その日は一家で温泉にでも行こうと車で家族旅行に向かったその日、対向車線をはみ出した大型トレーラーに衝突して、あっけなく両親は死んでしまった、トレーラーの運転手もその際に運悪く即死。
    陽はたまたま後部座席でシートベルトをしていたため、軽い怪我だけで済んだのだった。


    たったそれだけのこと、新聞にはよくある交通事故、子供がたった一人生き残ったということでしばらくはマスコミが騒いでいたが、それもすぐに消えていった。


    そして陽はたった一人で社会に放り出された、陽を迎えてくれる親戚など存在せず、そんな少年をただで助けてくれるほど社会は優しくなかった。


    そして、色々なことがあったものの陽は今も生きている、陽と同じ年代の少年達よりはいくらか発育不良かも知れないが、まぁ最低ランクは守っているだろう。


    (・・・・・・・・・・くそっ、さっきの血と、この風景のせいで、嫌なことを思い出しちまった・・・・・・・・)


    両親は、陽の目の前で血だらけで死んだ、トレーラーに潰されたのだから原形を留めているはずもなく、そしてそれを幼少の陽はその目で全て見てしまった。
    さっき、シャワーを浴びたとき、姿見に映った自分の姿は、まるでその時の両親のようで、


    ―――ゆっさゆっさ


    (・・・・・・・・・!?)


    「お兄ちゃん、もしもーし!おにいちゃーん、聞こえてますかー!?」


    とても至近距離に、女の子がいた。


    「もしもーし!!魂抜けてるんですか!?幽体離脱なんですかー!!?ちょっとー本気で魂入ってますかー!?」
    「って、うわ!!」
    「きゃ!!」


    いきなりのことに、驚いた陽と、同じくいきなり反応した陽に驚いた女の子とが同時に悲鳴を上げる。


    「もー・・・・・・・・・・・いきなりなんなんですかー?さっきからずっと話しかけてるのに、全く反応しなかったくせに、いきなり驚くなんてずるいですー」
    「へ?さっきからって?」
    「さっきからはさっきからですよー、ずーっとお兄ちゃんの前で跳んだりはねたりしてるのに全力で無視するなんてひどいですーお兄ちゃんは外道です、鬼畜ですー」
    「ちょ、ちょ、ちょっと待った!」


    もしかして、さっきからずっと、陽が自分の古傷を自分でえぐっている間中、この女の子は陽の周りでうろちょろしていたのだろうか。


    「もしかして、君はずっと俺のことを見ていたのか?」
    「そうですよー、さっきお兄ちゃんがお風呂から上がってきたあとぐらいから、ずーっと話しかけてたんですよー?それなのに全く反応してくれないんだから、フェンちゃんを呼んじゃおうかと思っちゃいましたー」


    なんてことだ、自分は放心状態のあまりこんな女の子がすぐそばに接近してきても全く気付いていなかったらしい、これは致命的だ、色んな意味で。


    「それよりお兄ちゃん、お腹すいてませんかー?」
    「え?」
    「お腹ですよー、あーゆーはんぐりー?です」
    「あ、ああ、空いてるよ、かなり」


    よく考えたら、この世界に来てから何も口にしていない、時刻は既に八時、気がつけば外はもう暗くなっていた。


    「それじゃ、私がご飯を作ったげるので、お兄ちゃんはその辺で座って待っていて下さい」


    そう言うと女の子トットッとキッチンの方へ歩いていってしまった。


    「ちょっと待った!君は一体・・・・・・・?」
    「私ですかー?私は桐野 狼亜(きりの ろあ)15歳、今が食べ頃の女の子ですよー?」

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■447 / inTopicNo.10)  フェイス2ロキ4
□投稿者/ パース -(2006/10/21(Sat) 19:34:26)
    『むーん、何者かは知らんが相手はずいぶん広範囲に渡って領域を広げたようじゃな』


    影美と無銘刀は、どこまでも広がっている例のわけのわからない空間にいた。


    「ねぇ、これって、ヴァルキリーが使ってた技よね、まさかまたヴァルキリーが来たの?」
    『いいや、それはあるまい、あのヴァルキリー、ヘルフィヨトルはおぬしに剣で軽い傷を付けていったからの』
    「傷?」
    『もう忘れたのか?・・・・・・・そういえばお主は気を失っておったな、肩のところじゃ』
    「えーと・・・・・・痛ツッッ!」


    影美は右肩のところに小さな傷があることに気付いた。


    「なにこれぇ?」
    『最初はもっと大きな傷じゃったんじゃがな、あのヴァルキリーが必要以外の傷は治してくれたのじゃ』
    「へ?なんで!?」
    『さぁのぅ、お主に興味を持ったのかもしれんな』
    「で?あいつが私に興味を持つのとこの傷とはなんの意味があるわけ?」
    『その傷にはヴァルキリー達の特別な力が込められていてな、その傷を付けたヴァルキリーには、その傷を付けた相手が生存しているかもしくは死んでいるか、どこにいても知ることが出来るのじゃ』


    「ふーん、それでこの傷が、この空間とどう関係するわけ?」
    『その傷にはヴァルキリーの力の一部が組み込まれておる、そのためヴァルキリー達の力であるこの領域作成能力を、傷を付けられた者は使うことが出来るのじゃ』
    「うーん、傷と空間のことはよくわかったけど、じゃあこの空間を作り出した相手はどこにいるのよ?」
    『さぁのぅ、ずいぶん広い空間だと言ったじゃろう、相手もまだ使い慣れてはおらぬようじゃ、闇雲に魂の力を浪費していると見える』
    「まーた『魂』、か」
    『そうじゃ』


    『そもそも魂とは、全ての命ある者、生命全てに宿る純粋な力のことじゃ』
    「純粋な力・・・・・・・・・」
    『そうじゃ、例えば窮地に立たされ、それでも生きようとするとき人は本来の数倍の力を出すことが出来るような、ある意味では本能に近いモノを指す言葉なのじゃ』
    「ふーん、それで?」
    『わしらのような神具、というのは持っているだけでもその魂を消費してしまう、それゆえに普通の、並大抵の魂しか持たぬ者では、ただ所持しているだけでも瞬く間に魂を吸い取られ、終いには死んでしまうのじゃ』
    「え、うそっ!!」


    直後、影美は無銘刀を虚空に向かって放り投げた。


    『こりゃ!!わしをいきなり投げ捨てるんじゃない!!!』
    「だって魂吸い取られるっていったじゃん!!」
    『このド阿呆!普通の魂しか持たぬ者の場合と言ったじゃろうが!』
    「え?」
    『そもそも、普通の魂の所持者では、わしら神具を使ったり、能力を発動したり、それどころか見ることすら出来ぬよ』
    「そうなの?」


    影美はスタスタと剣の元へと歩いていって剣を拾った。


    『そうじゃ、そしてわしらのような神具を使える者、それはつまり並の魂ではない、強靱な魂、もしくは強大な魂、それか強烈な魂を持つ者に限られるのじゃ』
    「あの、ちょっと待った、強靱とか強烈って、魂にも違いがあるの?」
    『微妙な差異ではあるがの、「強靱」な魂は自らの意志、自我がとても強い者の持つ魂じゃ、それゆえその能力はきわめて直接的、自分自身、もしくは自分の持つ武器のみに影響を与える『力』を持っていることが多い』
    「あとのふたつは?」
    『「強大」な魂はの、その大きさゆえに様々な物へ影響を与えることが出来る、応用が利きやすい能力を持つ、そして一番特殊なのは「強烈」な魂じゃ』
    「どう、特殊なの?」
    『強烈な魂は、早い話が異常者や気が狂った者といった、ちょっと変わった人間が持ちやすい、それが他に与えるインパクトが大きな魂のことを指す、この魂の所持者には対しては、たいていの場合神具の方から魂の所持者に声、というかアピールというか、まぁ、様々な方法でコンタクトを取ろうとすることが多い』


    「ふーん・・・・・・・・・・・・・・・」
    『・・・・・・・・・』


    しばらく影美は、色々なことを考えていたようが、やがて聞いた


    「じゃあさ、私の魂は・・・・・・・・・どのタイプなわけ?あんたならわかるんでしょ」


    数秒の沈黙の後、


    『お主の魂は強大にして強烈、、場全域を支配できるほどの大きさと、わしを引き寄せるほどの変わり者の魂じゃよ』
    「ふーん・・・・・・・・・それってすごいの?」
    『ああ、少なくともわしが今まで出会ってきた魂の中では、最強じゃな』
    「ふーん・・・・・・・・・」


    強さを誉められても、それほど嬉しくはなかった。


    ―――ガシャーン!


    そんな擬音が似合いそうな感じに異空間の一部が壊れ、そこから男が一人現れた。


    「ヒャハハ!やっと見つけたぜ!!神具の所持者!女か、ぶっ殺してやるぁ!!!」


    そして、戦いが始まった。










    『あやつは間違いなく「強烈」なタイプの魂の所持者じゃな、このタイプはとにかくおかしな攻撃をするから気を付けろ』
    「気を付けろって、そもそも何で戦わなきゃならないわけ?」
    『こっちのユグドラシルワールドに召喚されてしまった以上、ヴァルキリー達はこの世界の人間に対して互いに潰し合うようにしか指示を出さないじゃろう、そもそもお主のような一度ヴァルキリーを破りかけた者の前にはそう簡単に姿を現さないじゃろうな』
    「じゃあ、もう一度ヴァルキリーが出てくるまではとにかく戦い続けるしかないってこと?」
    『そうなるのぅ』
    「うわー・・・・・・・・・戦いなんていやだなぁ・・・・・・・・・・」


    と、影美が独り言を言ったところで、男がぶち切れた。


    「て、てめぇ!!チョーシぶっこいてんじゃねぇぞ!!俺をシカトしてなにわけのわかんねぇことブツブツ言ってやがんだよ!!ふざけてんじゃねぇぞコラ!!?」
    「うわー、完全に目が逝っちゃってるよ・・・・・・・・・たしかにこれは強烈だねー・・・・・・」
    『まぁな、この時代では強烈な魂の持ち主はあんな感じのと相場が決まっておる』
    「ああー・・・・・・・あんなのの相手するのはいやだなぁ・・・・・・・・」
    「ああぁ!!?あんなのとかなにいってんじゃこら!?て、てめぇ勝手なこと抜かしてっとぶっ殺すぞ!?」
    「なんかもー会話が成り立たないし、何言ってるのか聞き取りにくいし、あーもーいやだなぁ・・・・・・・・」
    『諦める事じゃな、少なくともこの場を切り抜けるためにはあやつを倒さねばならんぞ?』
    「だらぁ!、もういいっつの!てめぇがなにいってようがもう関係ねぇ!ぶっ殺してやる!!来やがれ『ハーベリングス』!!!!」


    男が神具の名前を呼んだ瞬間、男の手には一本の剣が、ただしずいぶんとおかしな形状の剣が出現していた。


    (なにあれ・・・・・・・・紐がいっぱい?)
    『気を付けろ、ただの紐ではあるまい』


    その剣は、やたらと細いくせに長い、ひょろりとした剣で、持っている男もかなりの長身のため針金が2本あるように見えた、そしてその剣からは、何本もの細い、糸状の物が伸びていた。
    そして男はその長い、変な紐と糸だらけの剣を構えると、


    「だらぁあ!いくぜぇえい!!!」


    一気に影美に向かって突撃してきた。


    『避けろ!』
    「うん!」


    影美はそれに反応して左手側に跳んでこれを回避しようとして、


    「おるぅあ!!」
    「痛ッツ!!」


    直後、影美の肌に幾本もの細い傷が出来上がった。


    「な、何!?」
    『あの細い糸じゃ!だから気を付けろといったじゃろ!』


    男の持つ剣、それから伸びる幾本もの細い糸は、その剣の本体以上の切れ味を持つ武器なのだった。


    「だっらぁあぁ!!逃がすかよぉ!!」


    男の追撃が始まる。


    「っつ!『影刃』!」


    影美の持つ剣から枝のように数本の刃が飛び出す、男はとっさに剣を盾にして後ろに跳び退る。


    「んだぁ?てめぇも俺様と同じように変化できんのかよぉ?だったら俺も一段階レベルアップしっちまうぞ!!」
    「え?」
    『どうやら、剣の形状そのものを変えるタイプの能力らしいな』


    「育て!『ハーベリングス』!!」


    男が叫んだ瞬間、男の剣から上下左右、全ての方向に数本ずつ、影美の『影刃』と同じように枝のように細く長い刃が飛び出し、それら全てにはやはり細い糸のような凶器が生えていた。


    『これは・・・・・・・・・全てを避けきるのは不可能に近いな』
    (あっさり諦めないでよ!?)
    『じゃったら、そもそも近距離での戦闘をしないことじゃな』
    「あ、そっか!」
    「おっしゃぁ!いっくぜえぇい!」


    男の攻撃が再び始まるより先に、影美は大きく後退し、『力』を発動した。


    「行け!『影兵』!」


    影美自身の影が動き出し、影の兵団を作り出す、そしてそれらは次々と男目掛けて殺到していった。


    「これでいっかな?」
    『阿呆!あやつのような相手に数で攻めても無駄じゃ!!』
    「え!?」


    無銘刀の言ったとおりだった、何体もの影の兵団は、男に斬り掛かるより速く、その長細い剣と、それから伸びる何本もの糸によってかなりの数が一撃でバラバラにされてしまった。


    「なんのつもりっだコラ!なんでいっぱい出てきやがんだよぉ!?しかもよえぇーし!なんのつもりだって聞いてんだよぉ!!?」


    そしてもう一度男が剣を振り回すと、兵団は全て消え去っていた、そして男は再度剣を構え、


    「もう一段階レベルアップしろ!!次は全力でぶっ殺してやる!」


    男の声に剣が答え、さらに長大でとんでもない数の糸を生やした剣が出来上がった。


    『まずいぞ、奴は完全に次で決着を付けるつもりじゃ、どうする?』
    「わかった、じゃあ次でケリを付けよう」


    影美は剣を正眼に構え、そして呟く、


    (私の持つ『力』、影の力を最大限に活かして・・・・・・・・・)
    「『影纏』!」


    瞬間、影美の体から霞のように黒い影が噴きだし、影美の周りを影がまとわりつき、影美の姿を男から見えなくした。


    「なんだぁ!?」


    しかしさらに次の瞬間、その影の霞を吹き飛ばしてひとつの影が男に向かって突進していく。


    「はっ!なんだ!目眩ましのつもりかよぉ!?無駄だったなぁ!!おらぅぁあ!!!」


    男の長大な剣と幾本もの細い糸は、その影と、霞をまとめて消し飛ばした。


    「ひゃは!やったぜ―――」
    「あなたが私を見るときあなたは私の影を見ない、あなたが私の影を見るときあなたは私を見ない、残念だったわね」


    瞬間、地面から、いや、倒れた影美の形をした物から伸びるほうの影から、本物の影美が出現した、それはあっというまに油断していた男との距離を詰め、


    「ごめん!」


    影美の剣は、男の両足を深々と切り裂いた。

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■448 / inTopicNo.11)  フェイス1ロキ5
□投稿者/ パース -(2006/10/22(Sun) 12:04:14)
    2006/10/22(Sun) 12:04:37 編集(投稿者)

    「ご飯が出来ましたですよー?どうぞめしあがれー」


    ロアと名乗った女の子は、陽の前にカレーライスの載った皿を出す、それからスプーンと水の入ったコップを陽の前に持ってくると、ニコニコとして陽の前に座った。


    「どうぞですよー?」


    (・・・・・・・・・・・・・・・・ええと)


    どうすればいいんだろう、と、陽は思った。
    状況はいまだによくわからない、わけのわからない世界に飛ばされて、見も知りもしない相手からいきなり殺されそうになったり、同じくらいいきなりご飯を用意してもらったり、そしてそのご飯を用意してくれた相手である女の子は目の前でニコニコとしている。


    「一つ聞いていいか?」
    「なんですかー?」
    「君は、なんで俺のことを―――」
    「ロアです」
    「は?」
    「君は、じゃないです、ロアです、それ以外の呼び名はお兄ちゃんでも許しません」
    「は、はぁ・・・・・・・・・」


    それでいうと、こっちの方も「お兄ちゃん」という呼び名を許した記憶がないのだが、いったいどうしてこの子はやたらと陽に馴れ馴れしいのだろうか。


    「じゃあ、ロア、ロアはなんで俺を、その、助けてくれたんだ?」
    「?」


    ロアは小首をかしげたあと、


    「私はお兄ちゃんを助けてませんですよー?むしろ私がお兄ちゃんに助けられましたですー」
    「は?俺がいつロアを助けた?」
    「忘れちゃったんですかー?今日のお昼ぐらいです、二人のおっきなお兄ちゃん達に追いかけられてるところをお兄ちゃんは助けてくれたじゃないですか」
    「ああ、あの時の」


    陽は、街を彷徨っているとき、ドームのそばでロアと会っていたことを思い出した。


    「思い出しましたですかー?」
    「ああ、思い出したよ、だけど、あの時ロアの方は大丈夫だったのかい?」
    「大丈夫です、私逃げ足には自信があるんですよー」
    「そうか」
    「そうなんですー、ところでお兄ちゃん」
    「ん?」
    「お兄ちゃんは名前なんて言うんですか?いつまでもお兄ちゃんというのはつらいです」
    「ああ、俺の名前は陽、千里塚 陽、18だ」


    陽はロアの自己紹介の時のように名前の後に年を付けて言ってみた。


    「陽お兄ちゃんですかー、それでは陽お兄ちゃん」
    「なんだい?」
    「さっさとカレーを食べてください」
    「・・・・・・・・・・了解」


    陽はテーブルの前にある大盛りのカレーからスプーンでカレーライスの山を崩し、それを口に運ぶ。
    ロアは自分の分には手を付けず、ニコニコして陽をジーッと見ている。


    「おいしいですかー?」
    「ああ、うん、おいしいよ」


    少なくとも、レトルトのカレーなのだから不味いということはないだろう。
    それなのに、ロアの顔はパーッと明るくなり、


    「よかったです、陽お兄ちゃんに喜んで貰えましたですー」
    「とりあえず、ロアも食べたらどうだ?」
    「そうですねー、いただきますですー」


    そして、ロアがカレーを食べ始めて、陽もそれを口に運ぶ。
    陽にとっては、ほとんど味わったことのない、それどころか、生涯で始めてかも知れない平和な食事だった。










    そして、二人の食事が終わると、陽はおもむろに切り出した。


    「それで、ロア」
    「なんですかー?」
    「さっきはうやむやになってしまったけど、何でロアは俺を助けてくれるんだ?」
    「さっきも言いましたですけど、私は陽お兄ちゃんを助けてなんかいませんですよー?」
    「違う、そういう意味じゃなくて、なんであの時のあいつらみたいにいきなり攻撃を仕掛けてこなかったり、ましてや食事を用意してくれたりするんだ?」
    「ああ、そういうことですかー、じゃあちょっとフェンちゃんを呼びますですー」


    ロアは、やはりニコニコとして、胸元にある小さな狼をかたどった人形に触れる。


    「来てくださいです、『フェンリスヴォルグ』」


    瞬間、ロアの足下に一匹の、かなり大きな狼が現れた。


    (!・・・・・・・・・こいつやっぱり、神具の所持者!!)


    思わず陽は飛び退り、レヴァンテインを召喚する。
    さっきまで食事をしていたテーブルがガタンと大きく揺れる。


    「陽お兄ちゃん落ち着いてくださいー、この子はフェンちゃん、狼ですけど良い子ですよー?いきなり噛み付いたりしませんですー」


    陽はいまだに警戒を解かず、ロアと狼に対峙する。


    「じゃあなんでいままで、その狼のことをいわなかったんだ?」
    「その必要がなかったからですよー、私は陽お兄ちゃんと殺し合いたいなんて思ってませんですー」
    「だからって、そんな簡単に信用できるわけ―――」
    『ウォン!!』
    「なっ!!」


    ―――ドガシャン!!


    と、陽とロアが言い合っている最中に、いきなりその狼が暴れ出して、さっきまで食事をしていたテーブルを吹き飛ばした。


    「フェンちゃん!?何するですか!?」
    『グルルルルル・・・・・・・・・・そこのひどい臭いが気にくわなかっただけだ、狼にとって鼻は命の次に大事な物、あんなひどい臭いを出す物をそばに置かないで欲しい』


    狼が文句を言っている物、それはカレーの載っていた皿のことだった。


    「ごめんなさいですー、気がつきませんでした、でもいきなり暴れないでくださいですー陽お兄ちゃんがびっくりしてるですー」
    『それは、すまないことをした』


    それだけ言うと、狼は窓を破って、外へと勝手に出て行ってしまった。


    「ああ、もう!フェンちゃん!物を壊しちゃダメですよー!」


    ロアの声が響く中、陽は、陽の隣をすり抜け、窓を突き破っていった狼と、一瞬だけ目を合わせていた、そしてその目を見て何となく陽は、警戒すべき相手を間違っていたことに気がついた。


    (・・・・・・・・・・・・・あの狼、強い・・・・・・・・・!)


    真に警戒するべき相手は、ロアではなく、あの狼であると。










    「とにかく、あのフェンちゃんのおかげで私は『力』の使い方とか、神具の持ち主の居場所とかを知ることが出来たんですよー」


    狼が、勝手にどこかへと行ってしまった後、ロアと陽はいくらか破壊してしまった家を出て、夜の町中を歩いていた。


    「じゃあ、今もその超知覚能力は使えるのか?」
    「はいですーちょっと使ってみますですー」


    ロアはしばらく、空に向かって鼻をクンクンさせてしばらくあちこち見ていた。


    「えっと、ですね、私がわかる範囲はそれほど広くはないんです、でもわかる限りだと、この街の中には私と陽お兄ちゃんを含めて神具の所持者が6人、残っているですよー」
    「6人か・・・・・・・・・」


    その中にはあの時戦った兄弟のもう一方が含まれているのだろうか、そんなことを考えながら陽は歩いていた。


    「なぁ、ロア」
    「なんですかー?」
    「お前はあの「フェンちゃん」から話を聞いたんだよな」
    「はいですー」
    「じゃあロアもヴァルキリー、ゲイレルルって名前の奴からは何も聞いてないんだな?」
    「んーと、私があったのはヘルフィヨトルっていう人でしたですよー?でもでも、そんなにたくさんお話はしてないですー」


    どうやらヴァルキリーは複数存在するらしい、そして自分はどうやらその中でもかなり運の悪い相手に出会ってしまったらしい。
    陽はそれとは別に、もう一つ気になっていたことを聞いた。


    「ところでロア、さっきからどこに向かっているんだ?」
    「もう少しですよー」


    陽が、知らない人の家で勝手に寝泊まりするのはさすがに気が引ける、ということを言ったら、ロアがちょうどいいところを知っているとのことで、ロアに案内されてその場所を目指していた。
    しかし二人が歩いている方向は、どんどん街の中心から離れて、郊外へと向かっているような気がするのは気のせいだろうか?


    ロアはさらにどんどん進んでいき、いよいよ住宅街から離れた頃になって、ようやく立ち止まった。


    「やっと到着しましたですよー、ここなら誰もいませんし勝手に使っても誰も文句言いませんですー」


    (・・・・・・・・・・・・・・・おいおい)


    ロアが案内した場所、そこは俗に言うラブホテルだった。

引用返信/返信 削除キー/
■449 / inTopicNo.12)  フェイス2ロキ5
□投稿者/ パース -(2006/10/22(Sun) 12:08:11)
    「うぐっ・・・・・・・・・・・・」


    男は切り裂かれた足をかばって地面に倒れ伏す。


    「ヒッハハハ・・・・・・・・やられちまったゼェ・・・・・・・・・どうしたよ?さっさとトドメを刺したらどうだ?」


    男はそう言ったが、それに相対する影美は無造作に剣を下ろすと、男に背を向けた。


    「・・・・・・・・・・・・・・・なんのつもりなんだよ?」


    それを冷淡に見下ろした影美は、男に冷ややかな声をかける。


    「私は、人殺しとか、そんなの嫌だし、だからあなたを殺さない」
    「ふ、ふっざけてんじゃねーよぉ!?」


    影美の言葉に男は逆ギレする。


    「て、てめぇ!!ざけてんじゃねーぞ!?こいつは殺し合いなんだろぉが!!勝った奴は負けた奴を殺すに決まってんだろぉが!?」
    「そんな取り決めなんて私は知らないし!興味ない!!私はただ、自分が絶対に嫌なことをしたくないだけ!!」


    影美の剣幕に男が一瞬だけひるむ、しかし男は今度はひどく落ち着いた声で、何かを押し殺したように話し出す。


    「ヒッハハァ・・・・・・・・・クソがっ、強者の特権って奴かよぉ、生殺与奪の権利ってかぁ?ざけてんじゃねーよ!そいつはお前みたいな強い奴にしかねぇ自分勝手な権利だっつーの!!!」
    「っ!」
    「お前みたいな奴はいいよーな!?なにやっても簡単に一番だったりでよー、どうせガッコ行っても周りはみんな友達です、ってツラしてやがんだろ!?」
    「そんなことない!」
    「うっせぇ!!!どうせ俺みたいなあぶれモンにはこんなやられ役がお似合いだよ!!だがなぁ俺だって好きでこんな事やってるわけじゃねぇんだよ!!!」


    男はその血だらけの足を無理矢理動かして立ち上がった。


    「な・・・・・・・・・・無茶だよ!その傷で動いたら、ヘタしたら死ぬよ!?」
    「うるっせぇっつってんだよぉ!!!いいか、女!お前は必ず俺がぶっ殺してやる、その顔はぜってぇ忘れねぇからな!!覚えとけよ!!!」


    男は、普通の人間だったらとうに出血多量で死んでるのではないかというほどの血をまき散らしながらも、しかし驚くほど速い速度で、影美の前から姿を消していった。


    そしてしばらくすると、影美のいた異空間が消えだして、また元の影美の部屋に戻っていた。


    「・・・・・・・・・・あの人、大丈夫かな・・・・・・・・?」
    『放っておけ、あの傷で無理矢理動いたのはあやつの勝手じゃ、そしてその結果死んだとしてもそれもあやつの勝手じゃて』
    「そう・・・・・・・・・・・」


    影美の胸には、戦いに勝った喜びなど無く、ただむなしさだけが残された。










    「ねぇ、無銘刀」
    『なんじゃ?』


    夜、影美は自分の部屋で一人、ベッドの上で毛布にくるまりながら呟いた。


    「さっき、あの男はさ、『お前は何でもかんでも一番でいいよな』、みたいなことを言ったよね」
    『そうじゃな』
    「それでさ、少し考えてみたらさ、私って勉強はそこそこで大したことはないけどさ、運動の方はさ、別に運動部に入ってるわけでもないのに、陸上部より足が速かったりするんだよね」
    『そうか』
    「うーん・・・・・・・・・そう考えてみたら、私って他の人より恵まれてたんだなーってそう思っちゃってさー・・・・・・・・・・・いままで気にしたこともなかったんだけどね、他の人が努力とかして手に入れた物を、私はなんの努力もなく持ってたりして、私ってそれで他人を傷つけてたのかなー・・・・・・・・って、そう思っちゃてさ・・・・・・・・・」
    『そうか』


    しばらくの間沈黙が降りていたが、やがて無銘刀が語り出した。


    『昔々、あるところにとても口が達者で弁の立つ、黒髪の若者がおりました』


    影美は黙ってそれを聞いている。


    『その若者はあまりにも口が達者だったので、口論や口喧嘩では、負けたことが一度もありませんでした』
    「・・・・・・・・・」
    『ある時その若者はその能力を買われ、神々と同格の存在になりました、そしてその若者はその口が達者な力を使って、ある時は神々に様々な宝具をもたらし、またある時は様々な災厄を呼び起こしました』


    「・・・・・・・・・・それで?」
    『まぁ、それほど、というか全く意味はないんじゃがな、例え、お主がどれほど先天的に他の者より優れている部位があったとしても、それを誇ることはあれ、少なくともさげすむ必要はないじゃろうて、その才能をどう使うかは、全てお主次第なのじゃから』
    「うん・・・・・・・・・・・・・ありがと」


    よくわからなかったが、たぶん影美を励まそうとしたんだろう、そう思うことにして影美は眠りについた。










    「ちくしょう・・・・・・・・・あの女・・・・・ぶっ殺してやる・・・・・・・・!」


    先ほど影美を襲撃し、そして撃退された男、竿裏目 糸目(さおらめ いとめ)は夜のビル街を彷徨っていた。
    足の傷は付近の病院で応急処置のみしておいたので、すぐに失血死で死ぬことはないだろう。


    「ちくしょう・・・・・・・・ちくしょう・・・・・・・・・・・・・・・ちくしょう!」


    糸目の呟きは夜の街にこだまし、空しく消えていくはずだった、しかしそれに答える声があった。


    『グルルルル・・・・・・・・・・フン、敗者か・・・・・・・・戦いに敗れてむざむざと生き延びる者ほど見苦しい物はないな』


    そいつは、人の体ほどもある巨大な狼だった。


    「なんだ!?こ、こいつは!?」


    さすがに、町中でいきなり狼と出くわすとは思っていなかった糸目は、驚きの声を上げる。


    『ふん・・・・・・・・・・・不味そうな魂だ・・・・・・・・だが、戦いに敗れながらも戦意を失わぬ・・・・・・・・なかなか強い魂のようだな・・・・・・・・・・』
    「な・・・・・・・・・何を言ってやがるんだ!?」


    狼は、笑った。


    『ふっふっふ・・・・・・・・・・あの娘、あの男には食事を与えておきながら、俺に食事を与えぬとはなんのつもりなのやら、まぁどのみちあんな臭い物など喰いたくはないがな』
    「何言ってんだよって聞いてんだよ!無視かコラ!!」
    『ああ、今度の食事もぴーぴーとうるさくわめくウサギを喰らうことになるのか、それもまた一興ではあるがな』
    「食事って・・・・・・・・出ろ、『ハーベリン―――!!?」
    『遅い』


    次の瞬間、狼の牙が、男の喉笛に噛み付き、


    「グッ、ッギィアガヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!


    男の絶叫が響き渡った。

引用返信/返信 削除キー/
■450 / inTopicNo.13)  フェイス1ロキ6
□投稿者/ パース -(2006/10/22(Sun) 17:03:57)
    「あのな・・・・・・・・・ロア、これはどういうつもりだ?」
    「?」


    ロアは小首をかしげていた。
    場所はラブホの前、こんな異常な状況じゃなかったらただのそういう行為・・・・・・が目的のカップルにしか見えない。


    「どういうつもりって、ここは休憩する場所なんじゃないんですかー?私のお姉ちゃんが『ここは男の人と休憩するための場所だ』ってそんなことを言ってましたですよー?」


    それは絶対に意味が違う。
    少なくとも、こんな年端もいかない女の子がニコニコしながらやってくるような場所的意味は持ってない。


    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺にどうしろと?)


    陽は途方に暮れていた。


    「えーっと?どうしましたですか?私何か間違えましたですか??」


    たくさん、色々と間違ってる、だがしかし、それを正直に言うのはちょっとはばかられる状況だ。


    「えーっと・・・・・・・・・・はっ、そうです、陽お兄ちゃんはきっとお疲れなんですね、じゃあ早くお休みしましょうです」
    「いや、それは、ってこら!」


    陽は無理矢理腕を掴まれてホテルの中へと引きずられていった。










    「えーっと・・・・・・・・・・・・・えーっと・・・・・・・・・・・・?」


    ホテルの中に入り、無人の部屋に入ったところでようやくロアは自分の考えが一部間違っていたことに気がついたようだ。
    ピンク色がいっぱいの内装、やたらとでかいツインベッドがひとつ、あとシャワー室が透けて中身が見えている。
    陽自身もこういう部屋に入ったのは初めてだったので、ちょっと驚いているが、ロアの驚きはそれ以上だったようだ。


    「えーっと・・・・・・・えと・・・・・・・・(汗」


    ロアはオロオロしている。
    陽はしばらく考えていたが、ハァーっと溜め息をついてから言った。


    「ロア、お前はこの部屋で寝ろ、俺は向かい側の部屋で寝てるから、なんかあったら呼べ」
    「え、あの、それは!その、そう、ですね・・・・・・・・・」


    ロアはなぜか、一瞬だけ驚いていたが、やがて諦めたような顔をしていた。


    (・・・・・・・・・・?)


    ともかく、そんなロアの顔を眺めながら、陽は部屋の扉を閉めて、反対側の扉へと向かうことにした。










    「いやぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!」


    「!?」


    夜、突然の悲鳴に陽はたたき起こされた。


    「ロア!?」


    陽は自分が寝ていた部屋から飛び出て、反対側の扉に飛びつく。
    が、当然ながら鍵がかかっていた。


    「ロア!おい、どうした!?」


    ドンドンドン、と何度も扉を叩く、ややあって中からロアの声が聞こえてきた。


    「陽お兄ちゃん・・・・・・・・・・・?」
    「ああ、俺だ、一体何があった?」


    しばらくして、扉がガチャリと開けられ、中から目を真っ赤に、泣きじゃくるロアが出てきた。


    「ロア・・・・・・・?」
    「ふぇ・・・・・・・・・・・えっく・・・・・・・・・・・陽お兄ちゃん」


    いきなり、ロアは陽に抱きついてきた。


    「!?」
    「えっく・・・・・・・・・・私、真っ暗なところが怖くて、一人でいるのがダメなんです」


    そのままの体勢でロアは話し出した。


    「私には、両親と、姉が一人います、でもこれは本当の家族じゃありません・・・・・・・私は捨て子なんです、本当の両親は私が子供の頃に私を捨てていきました」
    「・・・・・・・・・・」
    「それで、そのせいで、私子供の頃に虐められたんです、親がいないんだって言われて・・・・・・・・・」


    ロアはいまだに半泣きのまま陽の体に抱きついている。


    「それで、段々いじめがエスカレートしていって、私は、ある時どこかの、倉庫みたいなところに閉じこめられて、真っ暗で、誰も助けに来てくれなくて、その時以来、暗いところがダメで・・・・・・・・・・」


    なんとなく陽は理解した、あのさっきまでの話し方、無邪気にニコニコと笑っている理由、それは他人から拒絶されないための彼女なりの防御壁なのではないだろうか、今、目の前で泣きじゃくっている女の子には、先ほどまでのような、何かを装った雰囲気はみじんもなく、ただの、か弱い女の子にしか見えなかった。


    「昼に、陽お兄ちゃんを初めて見たとき、なんとなくわかったんです、この人は私と同じだって、たぶん、私のことを理解してくれるって、フェンちゃんにも手伝ってもらって、陽お兄ちゃんに近づいたんです、私は、あなたのそばにいたかったから」


    ある意味では、正しい、二人には、どちらも親がいない、という共通点があった。
    陽が、ロアに警戒心を抱かなかった、否、抱けなかったのは、それが原因なのかも知れなかった。


    「ロア・・・・・・・・・・」


    陽はロアの背中に手を回してロアを抱きしめた。


    「お願いです、一晩だけでいいですから、私と一緒に寝てください、じゃないと、私・・・・・・・・・・・」


    陽は、そっとロアの髪を撫でてやった。


    「ああ、わかった、一緒にいてやる、だから、もう泣きやむんだ」
    「・・・・・・・・・・はい」


    しばらくして、ロアは自分の目をゴシゴシとこすって、涙を拭いた。
    そして、やっと顔を上げて陽の顔を見ると、


    「ありがとうです、陽お兄ちゃん」


    パーッと花が咲いたように、笑った。
    そして、その笑顔を見た陽は、


    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・困った)


    自分が、いつのまにか、この女の子のことを少なからず愛おしく想っていることに気付かされ、少しだけ、困っていた。


    (一緒に寝てやるって言っちゃったし・・・・・・・・・・・どうしよ・・・・・・・・・・)


    そして、夜は更けていく。










    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    なかがき。

    はい、こんにちわ、こんばんわ、最後の部分を書いてて、恥ずかしさのあまりのたうち回って部屋のタンスに頭を全力でぶつけてしまったパースです。

    これで、ひとまず1日目終了です、むしろ前編が終わりました、次からはいよいよ戦いも後半戦、残る神具の所持者達が全員登場して(残り5人だけど)、最後の戦いが始まります。

    陽と狼亜のカップルは、昭和さんイチオシの影美は、一体どうなってしまうのでしょうか、残り半分ほど、お付き合いいただければ、これさいわいです。

    それでわ、この辺で、またお会いしましょう。

    (一応言っておきますと、最後はバッドエンドでは無くなります、バッドではないだけでハッピーでもないような気がしますけど、短編の時のような終わり方はしません!昭和さん、どうかご安心を)(爆)。

引用返信/返信 削除キー/
■454 / inTopicNo.14)  フェイス1、2、3ロキ
□投稿者/ パース -(2006/10/23(Mon) 22:23:10)
    2006/10/24(Tue) 19:34:39 編集(投稿者)

    そして夜が明けて、朝。


    「じゃあ、残っているのは5人なんだな?」
    「はいです、私が捕らえることが出来るのはこの街の中だけで精一杯ですけど、それでもこの街の中にいるのは、私と陽お兄ちゃんを含めて、残り5人です」


    ここでロアは、スッと指を街の中心街、高層ビル群の方へと向けて、


    「あっちの方の、いっぱいビルがある辺りに一つ」


    ついで、そこからつつーっと右側へ指を向けて、


    「あの辺にある、住宅街ですか?マンションがいっぱいある辺りに一つ」


    さらに、陽の後ろの方、中心街からさらに離れた場所を指さして、


    「あっちの、山のそばに一つ」


    そして自分と陽を指さして、


    「それから、陽お兄ちゃんと私で、この街の中にある神具の所持者は全部ですー」
    「そうか・・・・・・・・・・」


    どうやらまた一つ、夜の間に倒れた者がいるらしい。


    「なぁロア、なんで俺達は戦わなくちゃいけないんだ?」


    陽はロアの頭を撫でながら呟く。


    「知らないですー、でもヴァルキリーさんが言ってました、この空間から生きて出られるのは、最後の一人だけだって、だから、他人を信用できない人達は揃って自分を生き残らせるために、他人を殺そうとするんじゃないですかー?」
    「そうかもな・・・・・・・・・」


    ロアは撫でられた陽の手を掴んで嬉しげに目を細めている。
    陽とロアの間には一つの作戦があった、まぁ作戦と言うほどでもない、幼稚な物であったが。


    「とにかく、この街に残っているあと3人の神具の所持者、そいつらを倒してお前のあの狼に食べさせればいいんだな?」
    「はいですー、フェンちゃんが言ってましたー、神具を所持できるほどの魂を喰らえば、俺は強くなれる、多く喰らえばヴァルキリーごときに遅れを取ったりはしない、って」


    二人の作戦、それは単純な物、一人でダメなら二人ががりでヴァルキリーを倒そう、そういった物であった。
    フェンリル狼は魂喰らいソウルイーター、強い魂を喰らえば喰らうほどその力は増加し、ある程度以上の魂を喰らえば、ヴァルキリーをも凌駕できるほどの力になる、それを使って、ヴァルキリー達を倒す、それが二人の作戦であった。


    しかし、この時点で二人はまだ知らなかった、この作戦には致命的な欠陥が存在することに。










    「それじゃ、私は急いでフェンちゃんを捜してきますから、陽お兄ちゃんはここで待っていて下さいですー」
    「あ、おい!」


    昨日の夜、どこかへと行ってしまったきり、戻ってこなかったフェンリルを待っていた二人であったが、いつまで立っても戻ってこないので、そろそろ探しに行こうかという段階で、ロアが一人で探しに行こうとしていた。


    「ちょっと待て、一人で行くつもりか!?俺も一緒に行くぞ」
    「大丈夫です〜ちゃっちゃと行ってすぐに戻ってきますですから、陽お兄ちゃんはここでしばらく待っていて下さいですー、フェンちゃんの居場所は私には一発でわかるんですー」
    「だけど、敵にあったりしたら!」
    「大丈夫ですって、私、こう見えてもフェンちゃんのおかげで結構強いんですよー?」
    「いや、だからって、あ、コラ!」


    陽がそれ以上何かを言う前に、ロアは駆け出していってしまった。


    (全く・・・・・・・・・・・・・・まぁ、本人が言うとおりあの狼は相当強そうだったから、大丈夫だとは思うけど・・・・・・・・・・・)


    陽がそこから離れたくない理由、それは単純に陽が今いる場所が、偶然、他の3つの神具の所持者からほとんど等距離にあったからだ。
    そこからなら、他の神具の所持者がどう動こうとも、ロアの能力ですぐにわかるし、他の所持者同士が戦えば、運良く漁夫の利を狙うことが出来るかも知れなかったからだ。
    そこまで考えたところで、陽はふと気がついた。


    (・・・・・・・・・って!ロアがここからいなくなったら意味がないだろうが!?)


    むしろもっと早くに気がつくべきだった。


    (やっぱりロアを追うか?でももしすれ違いになったりしたら・・・・・・・・・ん?)


    ―――ブルルロロォォォーーン。


    大気を震わせるような、独特の排気音が聞こえてきた。


    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・こいつは!?)


    そして陽の元へ、山がある方向から、一台の大型バイクが近づいてきた、それに乗っている、ライダースーツを纏った人物が、バイクの上で大きく腕を振りかぶり、


    「・・・・・っ!!!」


    そのライダースーツの人物が腕を振った瞬間、陽目掛けていくつもの白っぽい欠片が飛来してきた。


    (敵の攻撃か!!)


    陽はその直前で地面に体を伏せ、欠片が通り過ぎるのを待つ、


    ―――ズガガガガッ!!


    とてつもない音と供に、背後でその欠片が壁に次々と衝突していく音が聞こえた。


    そして、そのバイクは陽の前方でブレーキをかけ、バイクから降り立った。


    「ふふふ・・・・・・・・・うまく避けたみたいね、それにしても運がいいわ、二人組をまとめて相手にするのは嫌だからずっと見張るつもりだったのに、あっさり別れちゃうんだもの」


    そいつは、そのライダースーツを纏って陽を攻撃してきた人物は、女性だった。


    「私は骨羅 鳴忌瑠(こつら めきる)、『神骨スカノボルグ』の所持者よ、さぁ、戦いましょ?」


    直後、周辺は異空間へと飲み込まれていった。










    「フェーンちゃーん!どこですか〜?」


    ロアは、どこかへと行ってしまったフェンリルを探してビル街を彷徨っていた。


    「どこなんですか〜?むぅー出てきませんですー、しょうがないです、ちょっとだけ『力』を使っちゃいますですー」


    そしてロアは、胸元にある神具、『フェンリスヴォルグ』に意識を集中する。


    (フェンちゃん戻ってきてくださいです!)


    それによって、フェンリルはどこにいようとも使役者の元に召喚されるはずなのだが、


    「あれ・・・・・・・・・?来ませんです・・・・・・・・・もう一回です」


    ロアは再度集中する。


    (今度こそ・・・・・・・・・!)


    『グルル・・・・・・・・・・・!』
    「やったです、成功です!」


    ロアが喜びの声を上げる中、しかしフェンリルの顔には、苛立たしさが浮かんでいた。


    『グルルルル・・・・・・・・・・・・・3つでは、まだ足りないか・・・・・・・・・せめてあと2つ、いやせめてあと1つ強靱な魂が必要だ・・・・・・・・・・』
    「フェンちゃん何か言いましたですかー?」
    『いや、大したことではない、それより――――ッ!』


    フェンリルが何かを言おうとした直後、フェンリルはロアを口に咥えて、横に大きく飛び退った。


    「なっ!なんですかー!!?」
    『敵がそばにいる、気を付けろ』
    「!?」


    フェンリルがそうロアに言った瞬間、


    ―――すぐ側のビルが崩壊した・・・・・・・・・・・


    ビルは、真っ直ぐにさっきまでフェンリルとロアがいた場所に倒壊し、周辺に石片を撒き散らした。


    『敵は相当強力な『力』の持ち主のようだ、これほどの魂・・・・・・・・・・・うまそうだな』
    「フェンちゃん!?」
    『戦うぞ、小娘、あれほどの魂を俺が手に入れれば、きっと俺はとてつもなく強くなれる』
    「はいです!」


    そして、崩れ落ちたビルの粉塵を突き破って、新たな影が現れた。


    「ちっ、避けたか!だが、関係ねぇ!必ずお前達を倒して、俺が元の世界に戻るんだ!!砕け!砕剣『ダインスレイブ』!!!」


    男が突進して、戦いが始まった。










    「ねぇ、無銘刀」
    『なんじゃ?』


    マンションの屋上で、影美は無銘刀に呟いた、


    「そういえばさ、なんでヴァルキリー達は私達にあの異空間を作る能力を与えたのかな?別にこの世界ではそこにいる人達に対して何も出来ないんだから、関係なくない?」
    『なんじゃ、そんなことか、簡単な理由じゃよ』
    「なんなの?」
    『ここは、おぬし等が住んでいる人間の世界から半歩ずれた位置にある世界じゃ、そしてあの異空間はさらにもう半歩ずれて、新界にとても近い位置にある世界なのじゃ』
    「ふーん、で、それがどうしたの?」
    『物わかりの悪い奴じゃ・・・・・・・・・、この『ユグドラシルワールド』とあの異空間とではわしらが物質に与える影響が違う』
    「物わかりが悪いとか言うな!・・・・・・・・・・それで?さっさと結論を言いなさいよ」
    『単純な話この世界で物質を破壊すると、それは現実世界にも影響を与える、例えばあの辺にあるビルが一つ、ドドーンと倒壊したなら、その被害は実際の世界にも―――』


    ―――ドドーン!!!


    「・・・・・・・・・」
    『・・・・・・・・・』


    ビルが、モウモウと白煙を上げて倒壊していった。


    「実際に倒壊しちゃったわよ!!?」
    『むーん・・・・・・・・・あの辺りでどうやらどこかの愚か者どもが相当派手にたたかっておるようじゃのぅ・・・・・・・・・・・』
    「私達も行きましょう!!そんな、実際の世界にも被害が出るやり方なんて!止めさせなきゃ!!」


    そして影美達は走り出していった。

引用返信/返信 削除キー/
■480 / inTopicNo.15)  フェイス1ロキ7
□投稿者/ パース -(2006/11/05(Sun) 12:29:28)
    こんにちわ、こんばんわ、実に十日ぶりぐらいに登場のパースです。
    ようやく帰ってきました、というか、前口上だらだらやんのもめんどくさいし、なぜか頭痛もするのでさっさと本編に入らせてもらいます、時間軸は二日目早朝、場所は郊外の異空間。
    千里塚 陽VS骨羅 鳴忌瑠 戦―――開始します。
    (ちなみに、ブ○ーチの阿散井 ○次とか思い浮かべると今回の相手の攻撃がわかりやすいはずです、だからってパクリとか言わないように。)










    「かかって来ないのかい?ならこっちから行くよ!!」


    異空間の中、女性の攻撃はあっという間に始まった。


    「『神骨再生』!」


    女性の右手に、白い骨のような物が出現し、それはどんどんと大きさを増していく。
    そしてその大きさは剣道の木刀ぐらいのサイズになり、その木刀の各所から婉曲した枝が出てくる、そう、ちょうど人間の背骨のような物が女性の手に握られていた。


    「行くよ!『散骨飛骨』!!」


    女性がその骨を振りかぶり、かけ声と共に振り下ろす、その瞬間、女性が持つ背骨が爆散し、いくつもの欠片となって、陽目掛けて飛翔してきた。


    「なに!?」


    とっさに陽はレーヴァテインを召喚、『力』を解放する。
    陽目掛けて飛来する白い欠片、女性が持つ武器の破片らしき物が、速度を落とし、亀のように、ゆっくりとした動きになる。


    (1、2、3――――)


    陽は冷静に時間を数えながら白い欠片の軌道上から退避する。


    (4、5!)


    きっかり5秒、数え終わると同時に白い欠片は本来の速度に戻り、陽が元いた場所を駆け抜けていく。
    それと同時に、陽の体には多大な疲労感が、負荷がやってくる。


    (・・・・・・・・・・・・・・・・・きっついな)


    「・・・・・・・・・ッ!?」


    しかし驚きに目を見開いたのは相手の女性だった、当然だ、当たると思ったものが当たらなかったのだから。


    「避けた!?何かしたかい・・・・・・・・・?フン、まぁいい、まとめて吹き飛ばすだけさ!!『神骨再生』!!」


    女性が叫び、女性が持つ武器はどんどんと巨大化していく。
    最初は木の枝程度の大きさだった物が木刀程度の大きさへ、そしていまでは巨大な金棒ほどのサイズになっていた。
    それはやはり各所から婉曲した枝が2本ずつ出ており、早い話が巨大な背骨だった、だがもはやそれは人間のサイズではない、いったい何の生物の物なのか、などと考えている暇は残念ながらなかった。


    「いくよ!『散骨飛骨』、連打ぁ!!!」


    女性は、そう叫ぶと一度、二度、とその巨大な骨を振るった、そしてその巨大な骨からは多大な量の破片が、しかも2方向から陽目掛けて襲いかかってきた。


    (・・・・・・・・・・くっ!!だが、二方向なら、タイミングさえ掴めば!)


    陽の予想通り、大振りでしかも高速な二連打は狙いが甘く、来るタイミングさえ掴めば、かわすことは不可能ではなかった。


    (ここと、ここ!)


    陽は、二連打の隙間を確実に読み取り、二連打を回避する。
    陽のすぐ側を二本の白い濁流が流れてゆく、そしてそれが止んだ直後、陽は相手の女性に向けて走り出した。


    陽の能力、陽の体感で5秒間だけ、実際の時間ではほんのゼロコンマ数秒の間だけ周りが止まって見えるほど速く動ける、そういう物だが、しかしこの能力の弱点は、能力が切れた直後、陽の体には多大な負荷が掛かってしまい、どうしても動きが鈍ることにあった。


    そのため、どうしても陽は相手を倒すために、ある程度の至近距離まで移動し、その上で能力を使わなければならなかった。


    しかし相手の女性もそうやすやすとやられてはくれなかった。


    「まーた全部避けやがったか!なら、『散骨飛翔』!!」


    陽の接近を察知した女性は、二連打の直後に、自身が持つ骨を頭上高くへ振り上げた。
    直後、女性が持つ骨は粉々に砕け散り、遥か頭上へと飛んでいき、


    (マズい・・・・・・・・・・!)


    範囲攻撃だった、陽の周辺全てを埋め尽くすような大量の骨が一斉に降り注いだ。
    陽はとっさに『力』を解放、限界ギリギリまで移動する。


    (・・・・・・・・くっ、避けきれない!!)


    5秒間で移動できる距離なんて10メートルが精々だ、しかもその間もゆっくりとではあるが白い欠片は移動している。
    そして陽の能力が切れた瞬間、白い、骨の欠片が雨あられと降り注いだ。


    「ぐあっ!!」


    とっさに頭を腕でガードし、体を小さくするも、腕、腹、足、体のあちこちに次々と骨の欠片が突き刺さってゆく。


    「あっはっは!やっと当たったね!それだけ喰らえばいくら変な移動能力を持っていても関係ないさね!!」


    どうやら女性は、こちらの『力』が移動能力であると見当を付けたらしい、当たらずも遠からずだが、この際それどころではない。


    「さぁさぁ!さっさとあんたを倒して、まずは一人目を狩らせてもらうとするよ!!」


    どうやらこの女性、まだ一人も神具の所持者を倒していないらしい。


    (ちょっと待て・・・・・・・・・、こいつ、俺を倒して一人目って事は、この戦いが最初の戦いって事なのか・・・・・・・・・?)


    「『神骨再生』!」


    女性の持つ骨が、さらに巨大化、金棒を通り越して、いまでは電柱ほどの大きさと化していた。


    (ならなんで、こいつは、いや、前に戦ったアイツもそうだった、なんでこんなにポンポンと『力』を繰り出せるんだ?)


    陽には、まだたった一つ、とにかく速く動ける、というその能力だけしかないというのに、この差は一体何だというのか。


    「あっはは!覚悟を決めたのかい!?ならあんたを、あたしが持つ最強の一撃で吹き飛ばしてやるよ!!!」


    (考えろ・・・・・・・考えろ・・・・・・・・・・!)


    「『神骨再生』・『死骨鳥』!!」


    女性が持つ電柱サイズの背骨が、さらに巨大化していく、そして頂点から鳥の頭部によく似た骨格が出現、背骨で言えば肋骨に当たる部分が横に肥大化、まるで鳥の翼のようになってゆく。


    「あははは!いよいよ、年貢の納め時だね!さぁ、『神骨スカノボルグ』よ、その全力であいつをぶち殺せ!!!」


    (考えろ・・・・・・・・考え―――!!)


    あった、前回の敵にも、今回の敵にも共通する事柄がたった一つだけ。
    死骨鳥はゆっくりと大きく広げた翼をはためかせ、空へと舞い上がる。


    (前回の奴にも、この相手にも共通すること、それは、「絶対的な自分への自信」!)


    前回の敵も、今回の敵も、どちらもがまるで自分への迷いなど無いかのように振る舞い、『力』を発動するときも全く躊躇をしなかった、つまり、そういうことなのか。


    死骨鳥はその羽をゆっくりと広げ、頭を下の方へ、つまり陽を見ている、その姿は、まさしく獲物を狙う鷲のようで。


    (全力で、俺を叩き潰すつもりだ)


    陽は静かに剣を構える、自分への自信、自分が持つ剣への信頼、つまりそういうことなのか。


    (俺は、絶対に、あの死骨鳥を、斬り落とす!!!)


    瞬間、陽の持つ剣、レーヴァテインが光り輝いた。


    「な、なんだい!今さら何をしたところで全部無駄さ!!!」


    女性が叫び、死骨鳥が陽目掛けて急降下してきた、これに対し陽は静かに待つのみ。


    (俺は、確実に、こいつを、斬り裂く!!!)


    レーヴァテインの輝きがさらに増し、死骨鳥が目前に、そして、


    ―――一閃


    右下から、左上へ、陽のレーヴァテインが閃き、


    ―――ズヴァシュ!!


    死骨鳥が地面に崩れ落ちていった。


    「な!そんな!死骨鳥が・・・・・・・っ!!」


    陽は前方に突き進む、女性は、自分の『力』が打ち破られたことに一瞬呆然とし、それが勝負を決した。


    「しまっ、『神骨再生』!」
    「させるか!!」


    女性が、その右手に現れた神骨で防御するよりも早く、陽のレーヴァテインが、女性の体を深々と斬り裂いた。

引用返信/返信 削除キー/
■486 / inTopicNo.16)  フェイス3ロキ2
□投稿者/ パース -(2006/11/09(Thu) 00:11:11)
    (正直、眠気と戦いながら書いたため、最後の方はできが悪いです)(何)


    そこでは今、異質な空気が流れていた。
    崩壊し、砂埃を巻き上げるビル、その上に剣を持って立つ男が一人。
    そしてそれと対峙するのは、小さな女の子が一人と、狼が一匹。


    『娘、いつでも能力を解放できるように準備しておけ』
    「はいです・・・・・・・・!」


    そしてフェンリルと男が睨み合うこと数秒。


    『グルルルル・・・・・・・・・ルガァッ!!!』
    「はぁぁぁあああああ――――!!!!」


    動いたのはほとんど同時だった。
    フェンリルが動き、それとほぼ同時に相手の男、剣先が四つに別れたいびつな剣を持った男も動いた。


    「・・・・・・・・・・・・・『破砕』!!!」


    男は声を上げながら、フェンリルに向かい剣を振るった。


    『ガルルル・・・・・・・・・・・・・・・・・ルッ!!?』


    男に肉迫しようとしていたフェンリルは、突然に地面を蹴り、全く別の方向に逃げ飛んだ、その直後、


    ―――バシュッ!!


    何もない空間、ちょうど男が斬った場所の直線上にある空間が、突如として弾け飛んだ。


    「ちっ、避けたか・・・・・・・・・だが!!」


    さらに男は続けて、水平に、縦に、フェンリル向けて剣を振るう。
    フェンリルはその斜線上から飛び退き、その直後。


    ―――ズバシュッ!!
    ―――ボグアッ!!


    男が水平に薙いだその直線上にあるビルの壁に大きな破壊痕が刻み込まれ、続いて別なビルの柱の一本が音を立ててへし折れた。


    「ハハハ・・・・・・!俺の剣、ダインスレイブは周りに破壊を呼び起こす剣だ、避けてばかりじゃどうにもならないぞ!!」


    さらに続けて男は2度、3度と剣を振るい、その度に周辺の建築物が破壊されてゆく。


    『グルルルル・・・・・・・・・・・・・・小娘!『力』で俺を援護しろ!!』
    「ハイです!!」


    ロアが目を閉じ、集中したが、一瞬の後、目を開いた。


    「あれ!?魂が3つあるですよ?昨日は2つしか無かったんじゃ無いんですかー?」
    『昨日のうちに手に入れておいたんだ!!そんなことはどうでもいいだろう!!早くしろ!!!』


    フェンリルが珍しく焦ったように声を荒げる、男はようやくロアに気がついたようで、ロアに目を向けた後、歪んだ笑みを浮かべる。


    「ハハハハ!なんだ、神具の所持者はそんなところにいたのか!だったらそっちから先に殺してやる!みんな殺して、俺が生き残るんだ!!!」
    『小娘!早くしろ!!』
    「『選択』・『風刃スキンゲイル』、解放!『風刃』発動!!」


    男がロアに向けて攻撃を放つよりは早く、ロアがフェンリルの能力を解放した。


    フェンリルの能力、それはいままで喰らってきた『魂』が持つ力を自由に使役することが出来ることである、さらに大きな魂を喰らうごとにフェンリル自身の能力も格段に上昇していく。


    ロアが能力を発動した瞬間、空中にいくつもの風の刃が出現し、それらは一斉に男目掛けて殺到する。
    ロアを攻撃しようとした男は、突如として空中に現れたいくつもの風の刃に退避を余儀なくされ、後ろに跳び退った。
    さらにロアは『力』を発動した。


    「『選択』・『糸切刃ハーベリングス』、解放!『糸纏』発動!!」


    瞬間、フェンリルの体から細い糸状の毛ががいくつも生えだし、フェンリルの体毛が倍近くになっていく、それらの糸は、神具としてのハーベリングスであったときと同じように、細く、しかし切れ味の鋭い凶器であった。


    「増毛です・・・・・・・・・・・・・」


    ロアの呟きには誰も反応しなかった。


    『糸纏』が終わると同時、フェンリルはその体を震わせ、一気に男目掛けて突進した。


    「ちっ、だったら所持者の方を狙うまでだ!!」


    男は、その剣をロアに向け剣を振ろうとした、しかしその前にフェンリルが歩み出る。


    「はっ、その程度の鎧で受け止められると思うな!!!『破砕』、『破砕』!『破砕』!!」


    3連打、破壊の刃が吹き荒れる。
    フェンリルはそれがぶつかる直前に横に回避する、しかしそこには既にロアの姿はない。
    フェンリルがロアの前に出たのは、ただのフェイントであった。
    破壊の刃はそのままロアとフェンリルの間を通り過ぎ、ビルにぶち当たってビルを大きく破壊する。
    それを背に、ロアは男の右側へ、フェンリルは男の左側へと飛んだ。


    『小娘!もっと『力』を使え!!俺自身の力はまだ使っていないだろう!?それにまだあと一つ解放していない神具があったはずだ!』
    「無理言わないでください!神具を一つ使うだけでも大変なんです!3つも4つも同時になんて使えるわけ無いです!!」
    『クソッ・・・・・・・・』


    そうフェンリルに返しつつ、ロアは大量の風の刃を生み出し、それを男目掛けて発射していく。
    しかし男は、標的をロア一人に決めたらしく、それらの風刃を物ともせずに、ロアに攻撃を仕掛けてきた。


    「くそっ!ちょこまかとうっとおしい!!」


    男は、力を込めようとして、突然膝を付いた、しかしすぐさま立ち上がってロアに向けて刃を振り下ろす。


    「はああぁああああああ!!!!『破砕剣』!!!」


    その剣は、ロア本人ではなく、ロアの足下の地面目掛けて打ち出されていた、ロアはとっさに何かを感じて後ろに跳んだ、その直後男とロアの間の地面がまとめて爆散した。


    「そんなっ、あう・・・・・・・・!!」


    直撃はなんとか回避したものの、ロアの華奢な体ではその爆風に耐えきれず、大きく吹き飛ばされてしまう。


    「うぐっ・・・・・・・・・げはっ・・・・・・・!さぁ!残るは、狼!お前だけだ、早く来い!!!」


    男は、血を吐きながらもフェンリルに向けて大声を上げた。


    『グルルルルルルルル・・・・・・・・・・・・・そうか、その剣、魔剣か・・・・・・・・・・よくもそんなになってまで使ったものだな』
    「うるさい!俺は、必ず帰るんだ・・・・・・・・・!こんなわけのわからない場所で死んでたまるか!!帰るためだったら、いくらでも戦ってやるさ、いくらでも殺してやるさ!!」


    それは、男の本音、それは、男が何もかもを賭けて、命すらも魔剣に吸い取られながら・・・・・・・・・・・・・・・、それでも戦おうとしている姿。
    男の持つ武器、それは『魔砕剣ダインスレイブ』、れっきとした魔剣である。
    能力は単純、魂と、命を消費すればするほど、破壊能力が格段に上昇していくのだ。


    「俺は、元の世界に帰るために、何が何でも生き残って、他の神具の所持者達も倒して、それで元の世界に帰るんだ!!そのためにお前を斃す!!!」
    『はっ、いきがるなよ、小僧!』


    男は剣を振り上げ、それと同時にフェンリルが駆け出した。


    男の一撃をフェンリルは皮一枚で回避、糸毛が粉々に吹き飛ばされていく。
    さらに、男が剣を横に薙ぎ払い、破壊の刃が横に飛ぶが、これもギリギリまで姿勢を低くして回避、フェンリルは男のすぐ目の前まで到達した。


    『ウォン!!』
    「ぐあっ!!」


    フェンリルと男がすれ違った直後、男の両足から血が噴き出した、フェンリルがとっさに頭と体を剣で防御した男の隙を付いたのだ。


    「ぐうっ、ちくしょう!!こんなところで、負けてられるか!!!ダインスレイブよ、俺の魂をありったけくれてやる、だからなんとしてもこいつをぶち殺すだけの力を!俺によこせ!!!!」


    男がそう叫び、男の体から斬られてもいないのに血が噴き出してゆく、しかしそれに比例して、剣にも禍々しい「気」が、破壊の刃が溜まってゆく。
    しかしフェンリルは、男が現在動けない状況にあると、見た瞬間、叫んだ。


    『小娘!!3つめの神具を解放しろ!!』
    「ハイです!『選択』・『ノートルダムの小箱』、発動!!!」


    即座に、がれきの側に隠れていたロアが能力を使う、フェンリルはこれまで3人の神具の所持者を喰らっていた、その3つ目の神具が、今解き放たれたのだ。


    その直後、破壊の刃を放とうとしていた男を中に閉じこめて、巨大な宝箱が街のど真ん中に出現した。


    「な、なんだ!?」


    男は一瞬にして、周りが暗くなったことに驚き、そしてその間に勝負は決着していた。


    『小娘、トドメだ!!』
    「『選択』・『フェンリスヴォルグ』、解放!、『王狼』・『猛襲裂牙』発動!!」


    「グッ、グガガガァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


    男の絶叫が、箱の中で響き渡り、そしてようやく街の中に静けさが訪れた。










    『これか、これが魔剣・・・・・・・・・・・・くくくくく・・・・・・・・・』


    フェンリルは、戦いが終わったあと、ついさっき戦った相手、そいつが持つ武器を眺めていた。


    『魔剣ダインスレイブ』


    『魔剣、それは魂を喰らって使役者に力を与える武器、それはつまり・・・・・・・・』


    この武器には今までの使役者達、複数の魂が含まれていることになる。


    『くくくく・・・・・・・・かかかかかか・・・・・・・・・・魔剣ダインスレイブよ、貴様の力と、貴様がこれまで喰らってきたいくつもの魂達の力、俺がもらい受けるぞ!』


    そして、フェンリルは魔剣を丸ごと、一口で丸呑みにした。
    数瞬の後、


    『くかかかかかかか!素晴らしい!これが魔剣の力か!』


    フェンリルの体が、巨大化・・・した。
    初めのうち、子供くらい、大人の腰くらいの大きさだったものが、魔剣の力を取り込んだ刹那、家一軒はあろうかと言うほどの、巨大な姿へと変貌していった。
    その上筋肉は強靱なものへ、爪と牙はより鋭く、より切れ味の良い物に変わっていった。
    そして、


    『小娘、くかかかかか、これほど強大な力を手に入れた俺ならば、貴様の望み通りヴァルキリーどもを皆殺しにしてやっても良いぞ』


    フェンリルに呼ばれたロアは、しかし、


    「はい」
    『だがまぁ、今となってはもはや俺の操り人形にすぎぬのだがな!』


    フェンリルの前に、一歩踏み出したロアは、しかし、その瞳に意志を宿すことはなく、表情を見せることもない、ただの人形のようになっていた。
    それはフェンリルの、神具『フェンリスヴォルグ』があまりにも強力になりすぎたために、ロアではもはや制御しきれず、逆に精神を乗っ取られてしまった結果だった。
    しかしそれらとは、全く関係のない声が、別の方向から聞こえてきた。


    「何よ、これは、なによこの馬鹿でっかい狼は!!なんでこんなに街がめちゃくちゃになってるのよ!!?」


    ビル群の崩壊を目撃して、その場に駆けつけた影美だった。


    『グルルルルル・・・・・・・・・神具の所持者か、くかかかか、この程度、食後のデザートにちょうど良いな!!』


    そして、今、フェンリルが強大化したその場に、新たな闖入者が訪れたことにより、いよいよ、最後の戦いの序曲が始まる。

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■487 / inTopicNo.17)  フェイス2ロキ6
□投稿者/ パース -(2006/11/09(Thu) 21:46:43)
    また一つ、別なビルが音を立てて崩壊した。


    「なんつー無茶苦茶な戦いを・・・・・・・・」
    『周りへの配慮など初めから気にしていないのか、もしくは配慮する暇がないほどの激しい戦いを演じているのか、そのどちらかじゃろうな』


    それを見て、そちらの方向へ走りながら、影美と無銘刀はそれぞれの感想を述べる。
    影美がマンションから外へ出て、ビル街へと向かう間にも2つ、3つとビルが音を立てて崩壊していった、あそこでは今、どれほどの死闘が繰り広げられているのだろうか。


    「とにかく、これ以上の被害を出せないためにも・・・・・・・・急がなきゃ・・・・・・・・・!」
    『む・・・・・じゃが、なにゆえお主が急ぐ必要があるのじゃ?』
    「なんでって、そりゃ、無意味な被害を出したくないからよ」
    『じゃが、あそこでは今、何者かが戦いをしておるのじゃぞ、どちらが勝つにせよ、敵が減るのであればお主が喜ぶべき事ではないのか?』
    「いや、そりゃ、生き残る確率が上がるのは嬉しいけど・・・・・・・・・・・・ってそうじゃなくて!私は、ただこの戦いに無関係な人達が巻き込まれるのが嫌なだけで!」
    『むーん・・・・・・・・・・・・・そうか、まぁ所詮わしは道具じゃ、お主がそう望むのならそうすればよい』
    「なによ、妙に気になる物言いね」
    『なんでもぬよ』
    「そう・・・・・・・・・・」


    それきり無銘刀は何も言わなかった。
    その豹変ぶりが妙に気になったが、影美はそれに構わず、戦場に向けて駈けていった。


    その時、無銘刀は、影美にすら聞こえぬほどの心の奥底でこう思った。


    『今度の戦いは、ヘタをすると命を賭けることになるやもしれんな、はてさて、どうしたものかの・・・・・・・・・』


    戦場は、もはや目と鼻の先だった。










    影美と無銘刀がそこに辿り着いたとき、戦いは既に終わりを迎えていた。
    そして、その戦いの中心であっただろう場所、崩れたビルの残骸がより一層破壊し尽くされた場所に、そいつはいた。


    「何よ、これは、なによこの馬鹿でっかい狼は!!なんでこんなに街がめちゃくちゃになってるのよ!!?」


    思わず影美がそう叫んでしまうほどの、バケモノ。
    大きさは2階建てのビルにも匹敵し、その口は人間程度なら丸呑みにしてしまえるほどの大きさ、爪や牙なんかもとんでもなく大きくて、犬歯なんかは影美の腕より大きそうだった。


    まるで戦争でもあって、空爆にさらされた街中のように、あたりはクレーターやら亀裂やらが走り回りとてつもない惨状を示すそのただ中に、威風堂々と、王者のように、その狼は佇んでいた。


    『グルルルルル・・・・・・・・・神具の所持者か、くかかかか、この程度、食後のデザートにちょうど良いな!!』


    狼は、影美を見て、笑ったのだろう、犬歯をむき出しにして大声を上げた。
    始めっから、どうしようもないほどに、やる気満々だった。


    『気を付けろ、こやつは、相当危険じゃ・・・・・・・・・』
    「わかってるわよ、こいつがとんでもなくやばそうだってのは、見た目そのままでしょ」
    『いや、そうではない、それだけではないのじゃ・・・・・・・・・』
    「・・・・・・・・・・・なによ?」
    『いや・・・・・・・・・』


    どうしたのだろう、今日の無銘刀はやけに歯切れが悪い。


    『のぅ、逃げるという選択肢はないのか?何もこやつを相手に正面から戦う必要はあるまい』
    「ふざけないでよ、こんな奴を放っておいたら、街の被害がどんどん大きくなってくでしょうが!放っておけないわ」
    『むぅ・・・・・・・・・・・・』


    影美は、無銘刀との会話を中断して、狼に向き直る、狼はまだこちらに向かってくる様子はない、余裕のつもりだろうか。


    「はっ、どうしたのよ、そのでかい図体して、さっさと掛かってこないの?」
    『グルルルルルルル・・・・・・・・・・・・・・・フン、人間ごとき、今の俺様にかかればウサギほども苦労をかけずに済むのだが、それほど早死にしたいというのなら、いいだろう、こちらからゆくぞ』


    狼は、地面に足を付け、前足を大きく開き、前傾姿勢になる。


    『影美よ、どうしてもやるというのなら、最後に一つだけ、忠告じゃ、決して異空間を召喚してはならん・・・・・・・・・死ぬぞ』
    「え!?」


    今すぐにでも、異空間を開こうとしていた影美は、無銘刀のその言葉に、一瞬あっけにとられ気の抜けた声を出す、そして直後、狼が跳びかかってきた。










    「え!?・・・・・・・・・・うわっ!!」


    影美が気の抜けた声を出した瞬間、狼が跳びかかり、影美はとっさに地面を蹴って、右手に避ける。
    狼がまさに風の如く駆け抜けた直後、左肩の部分の服が、千切れ飛んだ。
    背中に冷たい汗が流れる、正直、ほとんど見えなかった。


    『あやつはフェンリル、全ての狼の王じゃ、3人いたロキの子供の一人、かつてラグナロクの折、ロキ達巨人軍の先鋒として真っ先に戦場に降り立ち、幾体もの神々を喰らい、その腹に納め、そして終いには神々の主、オーディンをも喰らった最強最悪の化け物じゃ』


    無銘刀の言葉が頭の中に響く、が、正直声を返すだけの余裕がない。
    フェンリルはゆっくりと体を回転させる、その足先、爪の一つに影美の服の切れ端が突き刺さっていた。


    『フン、避けたか、くかかかかかかか・・・・・・・・・・それなりに場数を踏んではいるようだな、それぐらいでなければ面白くない』


    フェンリルが笑った、影美は全然笑えなかった。


    (ちょっと!?神々ってほとんど滅んだんじゃなかったの!?何でそんなバケモンがいるのよ!!?)
    『確かに、フェンリル自身は滅んだ、オーディンを喰い殺した後、その息子のヴィーザルによって心臓を突き刺されてな、だがその息子、さらにそのまた息子、フェンリルの一族全てが滅んだわけではない、あやつは間違いなく、フェンリルの血筋じゃよ、それの内の一体が神具に封じ込められていたんじゃろうな』
    (そんなの聞いてないわよ!?)
    『じゃから、止めておけと、言ったんじゃよ・・・・・・・・・・』


    フェンリルは爪先に引っ掛かっている影美の服の切れ端を取り除こうとしていたが、それを取り終えると、再び影美に向き直った。


    『くかかかかかか・・・・・・・・・・どうやら少しばかり遊びがすぎたようだな、ならば今度は、少しばかり本気で行かせてもらうぞ!』


    どうやら、さっきのでまだ全力ではないらしい、さっきのですら、目で追うのがやっとだったというのに。
    死ぬほどマズい、このままではあっという間にあの狼のお腹の中に納められてしまう。


    『『力』を使え、被害がどうとか言ってられる状況ではないぞ・・・・・・・・・・むろん異空間など論外じゃ、障害物がない場所では、まるで勝負にならんぞ』


    影美は体内から剣を召喚、影の『力』を行使する、そしてそれを待っていたかのようにフェンリルが動き出した。
    影美は影を操作し、巨大な壁を作り出す、


    ―――ズドォン!!


    その壁にフェンリルは正面からぶつかる、さらに影美は地面から影を槍状に突き出した。
    ブスリ、ブスリと影の槍はフェンリルの体に食い込んでいく、しかし。


    『くかかかかか、なるほど、これが貴様の能力か、フン、この程度!!』


    フェンリルが体を揺するだけで槍はことごとく破壊された、さらにフェンリルが巨体による一撃を食らわせると、影の壁も一撃で破壊された。


    「なっ・・・・・・・・!!」
    『くかかかかか!!ゆくぞ!!』


    フェンリルが、再度跳びかかってきた。


    『避けろ!!』
    「うわっとっとりゃぁ!!」


    影美は、フェンリルの歯が影美に届く直前で剣先から影の枝を伸ばし、ビルの壁へ突き立て、引きずられるようにして移動、なんとか回避した。
    影美に回避されたフェンリルは、そのまま直進、一軒のコンビニにぶち当たり、それを叩き壊した。


    「・・・・・・・・・・ッ!!」
    『構うな!集中しろ!!』


    コンビニを破壊したフェンリルはすぐさま体を起こし、さらに影美に向かって跳びかかる。
    影美は再び影を伸ばし別の地面へ、それを巻き戻して移動、フェンリルがぶち当たったビルの壁面には大きな穴が空いた。


    「ッ!!これ以上被害を出させてなんていられないよ!!」
    『無茶じゃ!あれを正面から受けとめようとするな!!!』


    無銘刀の静止も聞かず、影美はフェンリルに向き直った。


    『くかかかかかか、なかなか良く避ける、ならばこちらもそろそろ本気で行くとしようか!小娘、やれ!!』
    「『選択』・『風刃スキンゲイル』、解放、『風神刃』、発動」
    「!?」


    いつからいたのか、影美よりは小さな女の子が崩れた瓦礫の上に立ち、言い放った。
    その直後、影美を取り巻くようにいくつものいくつもの風の刃が出現、その数、五百ほど。


    「なっ!!!」
    『あやつにこれほどの力が!?・・・・・・・まさか!』


    影美は、操れる限りの影を全て操り、全てを茨の森のように自分の周辺に展開、風の刃を片っ端から打ち落としていったが、隙間を通り抜けたいくつかの刃が影美の体を斬り裂く。


    「ぐうっ!!」


    肩や足、数カ所に負傷を負ったが、動けないほどではないし、弱音を言ってる暇はない。


    『くかかかかかか・・・・・・・・・・・・・・・!見たか、俺の力を!魔剣を喰らった俺の中にはおよそ八百の魂が眠っている、今の力もまだ俺の力のほんの一部だ!くかかかかかかか!!』


    フェンリルは自信が突き破ったビルの壁から頭を出し、大声で笑った。
    フェンリルが体を揺するたびにビルの一部が崩れ、メキメキときしんでゆく。


    (これ以上、あいつの好きにさせたら、大変なことになる・・・・・・・・・!これ以上好きにさせるわけにはいかない・・・・・・・・・!!)


    「吠え面かかせてあげるわ、この犬っころ!!」


    影美は、傷だらけの体を奮い立たせ、能力を全開に、影を操作する。


    『フン、人間が何をほざいている、その状態でいまさらなに――――ぐおっ!』


    影をフェンリルの足に巻き付け、全力で引っ張った、ビルの壁を突き破って顔を出していたフェンリルはたまらず、落下する。
    さらに影美はフェンリルが体制を整える前に追撃をかける、影を鞭の形に、フェンリルに叩きつける。


    ―――バシィン!


    空中では、さすがに回避することが出来ず、影鞭の直撃を受けるフェンリル、体制を整えようとしていた直後に攻撃を喰らったので、そのまま地面に落下、妙な体勢で地面に叩きつけられた。


    『グオオッ!!グッガッ!この!人間風情が!!!』


    吠えて、起きあがったフェンリルだが、影美の姿はそこにはなく、見失っていた。


    『人間!どこに行った!!』


    ―――ズババババッ!
    ―――バシュッバシュッ!!


    フェンリルが一歩踏み出そうとするよりも早く、地面から無数の影の刃が飛び出す、それらは全てフェンリルの4本の足を、地面に縫いつけるようにして生えていた。


    『グオオオオオオォォォォォ!!!』


    さらに、影美がフェンリルの体の下、そこに生じた影から現れ、真上、フェンリルの腹を全力で斬り裂いた。


    『グオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーン!!!!!』


    フェンリルの絶叫が響き渡った。

引用返信/返信 削除キー/
■489 / inTopicNo.18)  フェイス2ロキ7
□投稿者/ パース -(2006/11/10(Fri) 23:56:52)
    『グオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーン!!!!!』


    フェンリルの絶叫が響き渡った。


    (倒した・・・・・・・!?)


    フェンリルは、力なく四肢を倒すかに、見えたが、


    『小娘!!!』
    「『選択』・『糸切刃ハーベリングス』、解放、『糸纏』、発動」


    瞬間、フェンリルの体から無数の細い糸状の凶器が出現、それらがフェンリルの真下にいた影美を襲った。


    「うわっ!痛っ!!」


    すぐさま影を伝って移動、フェンリルの下から脱出する。


    (ちょっ!この攻撃って!)
    『ああ、昨日戦った相手と同じ物じゃな』
    (なんで!?)
    『文字通り、「喰らった」んじゃろうな、神具ごと体内に取り込んだか』


    フェンリルは怒りをあらわに大声で叫びを上げた。


    『グルルルルルルルオオオオオオォォォォォォォ!!!!人間如きが!!俺様に傷を付けるなど!!!!ふざけるな!!許さぬ、決して許さぬ!!!小娘、全力で『力』を使え!!!!』


    フェンリルの声に答えて、女の子が声を上げる。


    「『選択』・『風刃スキンゲイル』、解放、『風吼陣』発動、『選択』・『魔砕剣ダインスレイブ』、解放、『破壊咆』発動」


    明らかに、なんかやばそうな名前の能力があった。


    (どうすんの・・・・・・・・・!!)
    『魔剣の能力を使ったか・・・・・・・・・・』
    (なんか知ってるの!?)
    『魔剣とは、魂を吸い取って使役者に凄まじい力を与える武器の事じゃ、それの威力は凄まじい、今のお主では相手にならんな』
    (そんな・・・・・・・・・・!!)


    一瞬だけ、無銘刀は押し黙って、何かを考えた後、言った。


    『・・・・・・・・・・・・・・影美、異空間を召喚しろ』
    (へ!?障害物がないからどうとか言ってなかった!?)
    『よいから、やれ』
    (・・・・・・・・・・うん!)


    無銘刀の言葉に、何か力強い物を感じ取った影美は、即座に異空間を発動する。
    周辺が不気味な場所に引き込まれ、ビル群が消え失せる。


    『魔剣は魂だけでなく、命や体の一部、様々な物を対価にしても力を手に入れることが出来る、それらはやはり、対価が大きければ大きいほどに、力もまた大きくなってゆく』
    「やけに詳しいね」
    『まぁ、本当のことを言えば、わしも魔剣じゃしな』
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘ッ!!!?!?!??!???」
    『嘘じゃない、本当じゃ』
    「・・・・・・・・・・え、でも魔剣って何かを対価にとか何とかかんとか言ってなかった?」
    『わし、別に人間の魂とかいらんし、じゃからいままでいわんかったたけじゃ、安心せい、お主には別に何もしておらん』
    「そ、それは、よかったけど、それで、何でそれを今いうわけ?」
    『わしの力を使えばあやつを倒すことが出来る、じゃが、そのためには対価が必要じゃ』
    「・・・・・・・・・対価って何よ」
    『敵を殺せ、あの狼のそばにいた、人間の娘を、それで対価を支払ったことになる』
    「もし、殺すのに失敗したら?」


    数秒後、無銘刀は静かに言った。


    『お主の魂を半分もらう』


    「・・・・・・・・・・本気?」
    『冗談でこんな事は言わん』
    「・・・・・・・・・・おっけー、わかった、その話乗ったわ」
    『良いのか?』
    「何を今さら」
    『む・・・・・・・・・・来るぞ、構えよ』


    フェンリルが、そしてその側に女の子が、ようやく出現した、何をしていたのだろうか、そう問う必要はなかった。
    現れた直後のフェンリルが、影美目掛けて何かを口から発射した、それのために力を溜めていたのだろう。
    影美は右手に跳んで回避しようとしたが、その直前でフェンリルの口から放たれた何かが、地面に触れた。


    ―――ズドゴォン!!!


    地面に穴が空いて、影美はそのあまりの衝撃に吹き飛ばされた。


    「な・・・・・・・・!!!」
    『言ったじゃろう、魔剣の威力は凄まじいとな、これからわしも能力解放のための準備段階に入る、しばらくの間は反応できぬゆえ―――』
    「いいから!わかったから!!早く、早く早く!!死ぬ、死ぬからマジで速くして!!」


    フェンリルは、さらに影美に向けて口を開いた。
    新たにフェンリルの口から飛び出してきた物は、


    ―――竜巻だった。


    竜巻が、地面を抉り、削りながら、影美目掛けて直進してきた。


    「そんな無茶苦茶な!!!」


    叫んでる間にも竜巻は止まらない、影美は全力で左手に走り出す。
    竜巻は真っ直ぐ突き進み、難なくかわしたかに見えたが、いきなりその進路を変え、影美に突き進んでくる。


    「冗談じゃない!!」


    無銘刀を構え、影を操作、影で壁を作り出す。
    竜巻を壁で受け止めたのもつかの間、一瞬フェンリルへの配慮がおろそかになっていたその瞬間、フェンリルは再度破壊咆を撃ち込んでくる。


    ―――ゴウッ!!ボガァッ!!!ドゴォッ!!!!


    「うわっ!!いやぁ!!」


    影の壁など竜巻ごと一撃で塵屑のように吹き飛んだ。
    影美は紙一重で直撃を避けたものの、そのあまりの衝撃に10メートル以上、ヘタすると20メートル近く吹き飛ばされ、受け身を取る間もなく地面に叩きつけられる。


    「がはっ!げほっ!!」


    肺から空気が漏れ出す、しかしその間にも、フェンリルの猛攻は止まらない。
    戦車砲の如き一撃を持った「破壊咆」、触れればその身を切り刻まれる「風吼陣」、それらの攻撃が休む間もなく影美に襲いかかる。
    ボロボロの体を引きずり、逃げだし、その度にまた吹き飛ばされ、何度もそれを繰り返す。


    (・・・・・・・・・もしかして、私、このまんま・・・・・・・・・死んじゃう?)


    絶望の影が、影美の頭をよぎる。
    目を向ければ、フェンリルがこちらに向けて口を開き、破壊咆を放とうとしていた、影美には、もはや移動するだけの体力も気力も残っていない。
    フェンリルの口から、いよいよ破壊咆が解き放たれた、それはゆっくりと影美に直撃するコースを取っている、影美は全く、動くことが出来ないでいる。


    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・無銘刀・・・・・・・・・・・・私に、力を・・・・・・・・・・!!)


    破壊咆が、影美に直撃する、その寸前。


    ―――『影月』、全能力解放。


    全てが、闇に包まれた。










    『グルルルルル・・・・・・・・・・・・・・・・・・一体、何が起こった』


    フェンリルは、突然目の前が真っ暗になったことに驚いた。
    いや、目の前だけではない、全方位、どちらを見ても光の一片すら存在していない。


    『フン、そういえばあの人間は影を操っていたな・・・・・・・・・だがこんなもの・・・・・・』


    フェンリルには「臭い」のみで相手の位置を感知することが出来る、それを用いれば、闇の中であることなど、フェンリルにとってなんのハンディにもならない。


    それによると、人間は先ほどの位置から全く動いていなかった、破壊咆の直撃を受けたはずだが、どうにかして避けたのかもしれない。
    だがそんなことは関係ない、次の一撃で確実に仕留めるだけだ。
    フェンリルの体内に「風吼陣」が溜まってゆく、


    『グロォァッ!!!』


    フェンリルは声と共に風吼陣を目標目掛けて撃ちだした。
    竜巻がフェンリルの体内より生み出され、高速で前進してゆく。
    臭いで気配を感じ取る、竜巻は確実に目標を挽き潰すコースにあった、目標はしかし動かない、そして竜巻が目標に直撃する直前、


    ―――風の動きが、消失した。


    『・・・・・・・・・!!?』










    全てが、闇により生まれた影全てが、影美の手足のように動く。
    それを操作し風の流れを変えることにより、竜巻は簡単に消失した。


    『よいか、これはお主の魂の強大さを使い、魔剣により能力を限界ギリギリまで引き延ばして使っておる、そのため長くは保たん、勝負は一撃で決めよ』


    影美の体は現在特異な物になっていた、体中に影が、闇色の液体のようにまとわりつき、影美の体を覆っている。
    中でも特に、右手と左手、それから背中には大量の影がどろどろとまとわりつき、影美の体を見えなくしていた。


    「うん、わかった、大丈夫、ぶっつけ本番だけど、なんとか使えるよ」


    右手と左手、背中に集中、影の形を作り替えてゆく。
    右手と左手には武器を表す。
    左手には手甲を、そして右手には、これまでの影美の腕くらいの長さの黒い片手剣、ではなく、1メートル近くはあろうかという剣、それもハルペーやシャムシールといわれるような、曲刀を召喚、両手で持つ。
    背中には羽を、ただし蝶や鳥やあるいはコウモリのように本物の羽である必要はない、ただなんとなくあったほうがいい気がしただけだ。


    影の変化を終えると同時―――影美は地を蹴った。


    左手の手甲にはそれほど意味はない、ただ単に影の操作率を上げるためだ、フェンリルを逃がさないために、フェンリルの全方位、360度全てから、茨を作り出す。


    『グルルルォアッ!!!?』


    突然のことにフェンリルが驚きおののく、その隙に影美は剣を二度、大きく振る、そこから影が伸び出し、巨大な二条の波になる、それが同時にフェンリルを襲う。


    『グルルルオアアアアアア!!!!何だ!一体何が起こっている!!!?』


    フェンリルは恐慌状態に陥っている、姿の見えぬ相手からの攻撃、当然だ、影に気配など無いのだから。
    二条の波が押し寄せ、さらに幾多もの影の茨がフェンリルを縫い止めてゆく。
    そして影美は、跳躍した、高く、高く、背中の羽も使って、フェンリルの頭上高くへと、飛び上がる。


    「やぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」


    裂帛の気合いを込めて、全ての影を右手の剣へ、剣が闇色に輝き、巨大化していく。
    そして、全ての影を剣が飲み込んだとき、影美は全力で振り下ろした。




    「はぁああああ!!!『影月エイゲツ』・『傾観斬魔ケイカンザンマ』ァ!!!!!」




    『グギャオァァァァァァァアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!!!』


    影美が地面に降り立った直後、再びフェンリルの絶叫が響き渡った。

引用返信/返信 削除キー/
■492 / inTopicNo.19)  フェイス2ロキ8
□投稿者/ パース -(2006/11/11(Sat) 21:28:57)
    『グギャオオァァァァァァァアアアアアアアーーーーー!!!!!』


    フェンリルが再度絶叫を上げた。
    そしてフェンリルは、なぜか、影美の剣を見て、恐れおののいていた。


    『グルル・・・・・ゴフッゲフッ!ゾウカ!ソノ剣!アノ方ノ・・・・・・・・・!』


    ノドをやられでもしたのか、フェンリルの声はひどく聞きづらい。


    『急げ、トドメを刺すんじゃ!!』
    「うん!」


    影美は、右手の大曲刀を、構え、フェンリルに突き立てようとした。


    『グルル・・・・・・・・・小娘!!』
    「はい」


    しかし、その直前、フェンリルの体の前に、人間の女の子が入り込んだ。


    「―――っ!!!」
    『馬鹿者!!躊躇うな!!』


    一瞬、女の子を攻撃することを躊躇ってしまった影美、それを見たフェンリルは驚異的な跳躍で影美から距離を取った。


    『ソウカ、ソウイウ事ダッタノカ!ソレナラバ俺ガ人間如キニ追いツメラレタノモ納得ガユク、アノ方ノ剣、貴様、アノ方ノ剣ヲ持ッテイタノダナ!!』
    『影美!早くトドメを!』
    「っ!わかってるけど!!」


    影美は、しかし、フェンリルの前に立つ女の子を、斬ることが出来なかった。


    『グルルルゴプッ!ゲプッ!ガハッ・・・・・・・・クカカカカカカカカ!カカカカカ!!貴様、人間ヲ殺セナイノカ!カカ、カカカカカカ!!ソノ剣ガアノ方ノ剣デアルトワカッタ以上、ヤッテラレルカ!サラバダ、人間ヨ!』


    そういうとフェンリルは、一片の躊躇もなく影美に背を向けて逃げ出した。


    「あ、待て!!!」


    影美は、駆け出そうとしたが、


    『・・・・・・・・残念じゃが、時間切れじゃ』
    「ッ!!」


    無銘刀のその言葉と同時、影美の体にまとわりついていた影が、曲刀が、羽が、形を失い、崩れ去ってゆく。


    「・・・・・・・・・・・・あーあ、逃がしちゃった・・・・・・・・」
    『そう・・・・・・・じゃな・・・・・・・・』


    影美の呟きはひどく空しい。


    『・・・・・・・・・これも契約じゃ、お主の魂を半分だけ、いただくぞ』
    「待った、その前に、一つだけ聴かせて、あなたって何者?」
    『むぅ・・・・・・・・・!』


    それは、前々からうすうすと感じていたことだった。
    この剣は、無銘刀は、やけに何でもかんでも詳しすぎる、影美に協力的なのはわかるが、それにしてもおかしいほどに、影美が聞いたこと全てに答えていた。


    「前から気になってたんだけどさ、いつだったかヴァルキリーから話を聞いたとき、あなたは名も無き剣で大したことはないみたいな風に言われてたじゃない、なのになによ、この強さは、一体あなたは私に何を隠しているの?」
    『・・・・・・・・・・・・わしは、わしの真の名は・・・・・・』


    無銘刀が名を口にしようとした、その直前、


    「そいつの名は『魔剣ロキ』、かつて嘘吐きの神でもありまた刀鍛冶の神でもあったロキが作り上げ、いつも腰に下げていた最低最悪の神具さ」


    その声は、全く別のところから、降ってわいたように聞こえてきた。










    「え!誰!?」


    そいつは、先ほどまで誰もいなかったはずの場所に、悠然として存在していた。


    「我が名はヴァルキリーゲイレルル、『槍を持って進む者』だ」


    ヴァルキリーゲイレルル、ゲイレルルは確かに、自分で言ったとおりに長大な槍を片手に持っていた。


    「ヴァルキリーが、今さら何の用事よ?」
    「フン、用事というほどの事ではない、ただ、ヘルフィヨトルを倒しかけた者とは、どれほどの者なのか見てみたくてな・・・・・・・・・それがまさか、かの戦いの折消失したと思われていた神具の所持者だったとは・・・・・・・・・ふふふ、面白いこともあるものだ」
    「面白がってる暇が、あなたにあるわけ?」


    影美は、剣を構える。
    フェンリルとの戦いにおいてかなりのダメージを受けてしまったが、影月を発動した際に傷は幾分回復していた。


    「ふん、今回はやたらと血の気の多い輩が多いな、こちらとしては魂の回収が楽で助かることこの上ないが、しかし厄介なのはフェンリルか・・・・・・・・」
    「なにごちゃごちゃと言ってんのよ!!」


    影美はゲイレルルに向かって駆け出す。


    「あんたたちヴァルキリーさえ倒せば、このわけのわかんない戦いも終わるわ!」


    影美の剣が、ゲイレルルを斬り裂く寸前、


    「ふん、無駄なことを・・・・・・・・・」


    ―――ゲイレルルの姿がかき消えた。


    「えっ!?」
    「ここだ」


    声は、影美の真後ろから。
    影美が振り返った瞬間、その体を槍で強く打ち据えられ、吹き飛ばされる。


    「がっ!!」


    しかし次の瞬間、吹き飛んだその先に、ゲイレルルが出現し、またしても槍で強く打ち据えられる。


    「がはっ!げほっ!!」


    影美は、地面を転がりながら状況を把握しようとするが、それよりも早くゲイレルルによる一撃を喰らい吹き飛ばされる。


    (なっ、一体何が!?)
    『超高速移動、単純にそれだけじゃ、奴は目にも止まらぬほどのスピードで移動しておる』


    影美は、地面を転がりながら、起きあがろうとする、しかしその背中をゲイレルルによって踏みつけられた。


    「ぐっ・・・・・・・・・・うう・・・・・・・・・・・・・・・」
    「舐めるなよ、人間風情が、ヘルフィヨトルを追いつめたからといって、貴様如きが他のヴァルキリーに勝てるなどと思い上がりもはなはだしい」


    剣で反撃しようと試みるも、その腕をゲイレルルによって踏みつけられる。


    「ヘルフィヨトルは所詮我等ヴァルキリー最弱、その上奴は戦いが専門ではない、我のような戦闘専門の上位ヴァルキリーからすれば、貴様等の反抗など塵芥に等しいのだ」


    ゲイレルルは槍を影美の背中に当てる。


    「もし我に勝てる者がいるとすれば・・・・・・・・・・それは我によく似た力を持つ者だけだ、あるいはレーヴァテインの所持者のようにな」


    ゲイレルルの言葉はどこまでも冷ややかだ。


    「貴様をこの場で殺すことはたやすい、だがそんなことをすれば戦士の魂を回収することが出来なくなる、戦士の魂とは、戦場で戦いの中勇敢に死んだ物のことをこそ指すのだからな、それゆえに、貴様には「罰」を与えるとしよう」
    「な、なによ?なにするつもりよ!?」


    影美は、もぞもぞと動こうとしたが、無駄だった。


    「「魂」を、半分ほどもらうことにする」


    影美は、ただ思った。


    (またですかーーーーー!?)










    黒い剣、『魔剣ロキ』は静かに呟いた。


    『ハァ・・・・・・・・・・どうしたものか・・・・・・・・・・』


    ゲイレルルは今、影美の魂を半分奪いさろうとしている。
    そして自分は今、同じように影美の魂を半分、奪うことが出来る。


    このままで行けば、影美の魂はとても小さくなってしまう。
    戦いに生き残ることなど、到底不可能になるほどに。
    そして契約により、影美の魂を半分取らなければ、今度は自分自身が破壊される。


    ゲイレルルが、槍を構えた。


    『考えている、時間はない・・・・・・・・・・か』


    手段を選んでいる、暇はなかった。










    「貴様の魂の半分は、我が頂く、人質といったところだ、返して欲しければ、残る一人、我に近しい能力を持つ者、『神具レーヴァテイン』の所持者を倒せ、そうすれば返してやらんでもない」
    「残り、一人・・・・・・・・・・?」
    「ああ、どうやらフェンリルは滅んだらしい、貴様に罰を与えた後、そちらに向かうとしよう」


    ゲイレルルは、槍を振り上げ、影美に向けて、振り下ろそうと――――


    『契約施行、魂の半分を神具の中へ』
    (!!?)


    何かが、影美の中の大事な何かが失われていった。


    (え・・・・・・・・・・無銘刀、なに・・・・・・・・を・・・・・・・・・・・・・・・?)
    『強制還元、空いたスペースに我を遷せ』
    (う・・・・・・うぁ・・・・・・・・・・・・・・・・)


    直後、何かが、影美の体内に入り込んできた。
    それが、影美の体を包んだような気がして、


    「それでは、いくぞ」


    ゲイレルルが槍を突き下ろした。
    槍は影美の体に突き刺さり、何かを、またしても引きづりだそうとしていった。
    しかし、影美の体を包んだ何かが、それの身代わりとなって、影美の外に出て行った。


    (なに・・・・・・・・・が・・・・・・・・・・?)


    ゲイレルルが槍を引き抜いた。


    「・・・・・・・・?何だ・・・・・・・・・・・・?」


    ゲイレルルは首をかしげていた。


    「まぁよい、確かに半分、いただいたぞ、それではな」


    ゲイレルルが立ち去ろうとしていた。
    影美はそれに手を伸ばす。


    ―――自分は、自分自身からは何も取られていない。


    それがわかった、だから手を伸ばした。
    しかし、その手は、何も掴むことはなく、ただ地に落ち。


    「う・・・・・・・・・・・ぁ・・・・・・・・・・・・・・・・」


    影美は意識を失った。
引用返信/返信 削除キー/
■495 / inTopicNo.20)  フェイス1ロキ8
□投稿者/ パース -(2006/11/13(Mon) 21:30:39)
    結局、陽が戦った女性は、死んでしまった。


    深々と斬りすぎてしまったらしい、まぁ、戦闘中に手加減できるほど陽は熟練しているわけでもないので、仕方ないが。


    (っていうか、フェンリルに魂を喰わせるって、具体的にどうすりゃいいんだ・・・・・・・・?)


    よくわからないが、わざわざ死体を運ぶのも手間なので、死体はそのままに、陽はフェンリルとロアを探すことにした。










    そして、現在陽は、その情景を見て困惑、というか理解不能、といった状態になっていた。


    街の中心地、ビル街が、まるで戦場にでもなったかのように、壊滅していた。
    そこら中、街のいたるところで建物が崩壊し、瓦礫の山を形成していた。


    (・・・・・・・・・ここで一体何があったんだ!?)


    それは、現在のフェンリルをしらない陽からしてみれば当たり前の感想だった。
    そして陽は、その原因をすぐに知ることになる。


    ―――バキバキバチバチッ!!


    謎の異音と共に巨大な狼が、空間を割って出現した。


    「なっ!!フェンリル!!?」


    その狼は、しかし陽の知っていた頃の狼ではなかった。
    体は巨大化し、爪や牙も鋭利で、目は血走っており、そして何より体中から血を流して、まさに満身創痍という状態に陽からは思えた。


    『グルル・・・・・・・魂・・・・・・・・・傷・・・・・・・・・・・・・魂・・・・・・・・アノ方ノ・・・・・・・・・・・魂・・・・・・・・ゴフッグッ・・・・・・・・・!!魂ガ・・・足リヌ・・・・・・・・・・力、ガ必要・・・・・・・・・・俺ガ人間如キニ敗レルナド・・・・・・・・・・・・アッテハナラヌコト・・・・・・・・・・・・!』


    フェンリルは、血を口から吐き出しながら、こちらを、陽を見た。


    「一体、何があったんだ!」
    『人間・・・・・・・・貴様ノ魂、俺ノタメニ使ワセテモラウゾ』
    「!?」


    そして、フェンリルの後ろから、人形と化したロアが現れたと同時、フェンリルが動いた。


    「ロア!一体どうしたん―――――!!?」
    『グルルルァァァァァアアアアアアアア!!!!!』


    フェンリルの爪と牙が、陽を襲う直前、陽は力を解放。
    目の前の爪と牙とが停止する。
    陽は数歩前に動き、そこまでいったところでで時間が動き出す。


    ―――ズドン!!


    それは、ただフェンリルが地面に着地しただけの音、それなのに地面が陥没する。
    陽は、地面を転がりながらもロアの元へ移動する。


    「ロア!一体何が起こった!?早くフェンリルを止めろ!!」
    『クカカカカカカカ!!無駄ダ、ソレハモハヤ意志ヲ持タヌ、只ノ人形ダ!!』
    「なに!?」
    『ソシテ、ソノ小娘ガ現レタコトニヨッテ、貴様ノ死ハ確定シタ!!』
    「何を言ってる!?」
    『小娘!『力』を使え!!』
    「はい、『選択』、『風刃スキンゲイル』・『風吼陣』、『選択』『魔砕剣ダインスレイブ』・『破壊咆』」


    そして、フェンリルに向かって力が、集中し始めるが、
    フェンリルが突然として咳き込んだ。


    『ゲフッ、ゴフッ!ガハッ、ァァァアアアア!オノレ、力ガ使エヌトハ!!』
    「なにが何なんだよ!!?」


    とにもかくにも、フェンリルが襲いかかってくる以上それは敵だ、陽は剣を構えた。


    『オノレェ!!ナラバ俺ノ爪ト牙ノミデ貴様ヲブチ殺スマデダ!!小娘!!』
    「はい、『選択』、『神具フェンリスヴォルグ』・『獣爪牙』」


    フェンリルの爪と牙が更に巨大化、凶暴になる。
    そして、フェンリルが地を蹴った。


    『グァァルァァァアアアアア!!!!』
    「くっ!?」


    フェンリルの攻撃は、異常なまでに速かったが、しかし完全な直線攻撃だった。


    『グルルルァァァァァアアアアアアアアアアア!!!魂ヲ、魂ヲヨコセェェエェエエエエ!!!!』
    「なんだってんだよ!いい加減にしろ!!」


    陽は、跳びかかってきたフェンリルの目の前で能力を解放、空中で止まったフェンリルに対し、剣の刃をあてる。
    そして5秒経過。


    ―――ズバシュッ!!


    『グルルルルァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』


    フェンリルの、頬から肩口を越えて腹部まで、陽の剣が斬り裂く。


    「何のつもりだ!一体何があったんだ!?そんな単調な攻撃で俺を殺せると思うな!!!」
    『クカカカカ!単調、単調カ、ソウダッタナ・・・・・・・・・・・・人間、人間!ニンゲェェェエエエエエエエエン!!!!!』


    もはや、フェンリルは完全に暴走しているとしか思えなかった。
    陽は、比較的冷静にフェンリルの爪をかわし、反撃をしようと、


    「―――――ッツ!!!?」


    その、陽の体の前に、ロアが割り込んできた。


    「ロア!!なにを!!?」
    『クカカカカカカカカ!!!人間ハ人間ヲ殺セヌゥ、貴様ハコノ娘ヲ殺セマイ!!!!』
    「・・・・・・・・・・・・まだだ!!」


    陽は能力を解放、ロアを避けてフェンリルの前に、能力が切れた瞬間フェンリルに一撃をくれてやろうとした。
    しかし、能力が切れた瞬間、


    『小娘ェ!!!』
    「なっ!!」


    まるで、陽の動きを予想していたかのように、フェンリルが叫び、そしてロアが陽の背中に掴み掛かった。


    「止めろ!ロアッ!!」
    『俺ノ力ヲナメルナァッ!!!』
    「ぐあっ!!!」


    陽はとっさに、ロアの体ごと横に跳んだが、いくらロアの体が軽いとはいえ人一人分を抱えているのだ、ロアの体重により移動が遅れたワンテンポ、その差で陽の背中にフェンリルの爪痕が深々と刻まれた。


    『クカカカカカカカカ!マダ傷ハ浅イナ!!目ヲ閉ジ、臭イト気配ノミデ動ク俺ニハモハヤ敵ナドナイ!!!』


    見ると、フェンリルは目を完全に閉じ、全てを臭いのみに頼り動いていた。
    そして陽は、いまだロアの束縛によりうまく動けないでいた。


    「ロア!頼む!俺を見てくれ!!なんでお前と戦わなきゃなんないんだ!!!」
    「・・・・・・・・・」
    「ロアッ!」
    『無駄ダッ!!』


    ロアを、必死で説得していた陽に、フェンリルの容赦ない攻撃が始まる。
    必死に剣で受け流し、能力を使い、ギリギリで避けようともがくが、ロアは決して陽を離そうとはせず、嫌でも動きが鈍る、そしてその度に陽の体にフェンリルの爪と牙が掠め、斬り裂いていった。


    「ぐあっ!!」
    『人間ガ!!足掻クナ!サッサト俺ノタメノ食料トナレ!!!』


    そして、ついにフェンリルの爪が陽の足を捕らえた。


    「がぁっ!!!!」


    思わずばたり、と倒れ込んでしまう。
    フェンリルは獲物を追い込んだ狩人のように満足そうな笑みを浮かべながら、陽の前に足を止めた。


    『グルルルル・・・・・・・・・・・・・ヨウヤク食料ニアリツケル・・・・・・・・・・ダガソノ前ニ!』


    ―――ブンッ!!
    ―――バキッ!!


    「がはっ!ぐあっあああああああああ!!!!!」
    『確実ニ動ケナクシテオカナケレバ』


    全力で振られたフェンリルの前足が、陽の体を打ち付け、陽は数メートル吹き飛んで、コンクリの壁面に受け身を取る暇なく叩きつけられる。


    『逃ゲラレテハ、タマラナイカラナ!』


    フェンリルが、ゆっくりと陽に向かって歩いてきた。
    今度こそ間違いなく、陽にトドメを刺すために、喉を掻き切って息の根を止めるために。
    陽は、ロアを見た。
    ロアは、いまだに陽の体にくっついていた、フェンリルの命令を忠実に守り、陽がフェンリルの攻撃を受けたときすらも一度も離すことなく、そのためにロアの体もボロボロの泥まみれになっていた。


    (ロア・・・・・・・・・・・)


    なんとなく、微妙にしか動かない腕を無理矢理動かして、ロアの頭を撫でてみた。
    優しく、壊れ物を扱うときのように撫でてやる。
    ロアが、その人形のような瞳を上げて、陽のことを見た。


    『グルル・・・・・・・・ナンダ、マダ動クコトガ出来ルノカ、ナラバ今度コソ完全ニ息ノ根ヲ止メテヤル』


    フェンリルが、その巨大な爪を振り上げた。


    陽とロアは、まだ見つめ合っている。


    フェンリルの爪が、振り下ろされる直前、ロアの瞳に、光が戻った。


    「陽・・・・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・・・・・・!」


    陽は、動くことが出来なかった。










    ―――ドクン。


    陽の持つ、レーヴァテインの中で、何かが鳴動していた。
    そのことに陽はまだ気付いていない。


    (僕は、なぜ目覚めた・・・・・・?)


    ゛それ゛は自分に問いかけた。


    (なるほど、兄者の封印が解けている・・・・・・・・・・・そして、僕の使役者が、終わりを求め、望んでいる・・・・・・・・・)


    ゛それ゛は自己分析の結果出た回答に納得した。


    (使役者が、それを望むというのなら、僕はそのために力を与えよう、世界を本来あるべき姿、『無』へと返すための力を・・・・・・・・・)










    その瞬間、ほぼ同時に、四つの事柄が起こった。


    フェンリルの爪が、陽目掛けて振り下ろされたこと。


    その爪と、陽との間に、小さな体が割り込んだこと。


    その体から、信じられないほどたくさんの血が花のように舞ったこと。


    そして、


    『君は、「力」が、世界を無に帰すだけの「力」が欲しいかい?』


    声が、聞こえたこと。



    (力を、俺に・・・・・・・・ありったけの力を!俺によこせぇええええええええ!!!!!)



    陽は、それにそう答えた。
    そして、




    ―――『炎神』全能力解放。

引用返信/返信 削除キー/
■518 / inTopicNo.21)  フェイス1ロキ9
□投稿者/ パース -(2006/11/17(Fri) 22:07:58)
    ―――『炎神』全能力解放。


    そして、世界が燃え上がった。










    『グルルルルル・・・・・・・・邪魔ナコトヲ、コンナ小娘ナド喰ラッテモ面白クナイカラ生カシテオイタトイウノニ・・・・・・・・・・・・・・・・』


    フェンリルは、爪に体を深々と斬り裂かれたロアを、何の感慨もなく放り投げた。
    その体は、ポーンと跳ねて地面に落ち、そしてそれきり動かない。


    『人形ナラバ、死人デモ同ジカ・・・・・・・・・ソレヨリ先ニ、早クコイツヲ喰ラウトシヨウ』


    そして、フェンリルは陽の体に近づき、


    『―――――!!?グルルルルル・・・・・・・・ナンダ、一体何ガ起コッテイル!!?』


    フェンリルは、先ほど、影美に撃退されたときとほぼ同じことを言った。
    それもそのはず、陽の体からは、炎が溢れかえっていたのだから。


    『グルルルルルルル・・・・・・・・・・・・・・ナンダ!?』


    陽は、ゆっくりと、その体を起こす。
    爪に引き裂かれ、牙で蹂躙されたはずの体は、いくらかではあるが回復していた。


    『フン・・・・・・・・・イマサラ悪アガキヲ・・・・・・・・・イマイマシイ!』


    フェンリルは、その爪で、陽を斬り裂こうとした、一発でケリが付くだろうと、そう思っていた。
    そして、今度も影美の時のようなことが起こる。


    「よくも・・・・・・・・ロアを・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    フェンリルの攻撃が消滅した、ただし今度はフェンリルの前足一本という、大きな物であったが。


    ――――!!!?!????!?


    『グッグルルルルルラァァァァァッァアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!』


    一瞬、陽の手が動いたかと思った瞬間、フェンリルの左の前足は消失していた。


    『オッ俺ノ前足ガァァァァァアアアアアアアアアア!!!!』
    「五月蝿い!」


    ボトリと、黒こげになったフェンリルの前足が地面に落下した。


    「よくもロアを!!」


    陽の右手にあった物は、片手で持つには、あり得ないほどの巨大さの、大剣だった。
    それは、真っ赤な炎をあしらったような、波打つ刃の形をしておりフランベルジュと呼ばれる剣によく似ていた、そして、それは、本物の炎を表すかのように、うっすらと、剣からは湯気が出ていた。


    陽は、言った。


    「お前は、お前だけは許さない!!!」










    『人間如キガ、コノフェンリル様ニナニヲ!!!』


    フェンリルは、陽に向かって駆け出した。


    『人間如キ、人間如キ!ニンゲンゴトキィィィィイイイイイイイイイ!!!!』


    片方の前足が無くなっているというのに、その驚異的なスピードは変わらぬまま、フェンリルは移動する。


    「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


    陽は、声を上げてその大剣を振り回した、すると。


    ―――ズリュッ!
    ―――バシュッ!
    ―――ドロリ


    ただ、触れただけ、それだけでコンクリ塊が、鉄塔が、瓦礫の山が、次々と消し炭になり、溶岩のような液体になり、跡形もなく消滅していった。


    『グゥルルォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!』


    フェンリルは、それらを巧みに回避し、瞬く間に陽の背後へ移動、フェンリルのもう一方の足が陽の背中を掠める、その直前。


    「ハァッ!!!」


    一瞬のうちにフェンリルの視界から陽の姿が失せ、次の瞬間にはフェンリルの背後に陽は立っていた。


    『・・・・・・・・・・・・・・ナニッ!!』


    フェンリルは一撃必殺を狙い跳びかかった、その時フェンリルは、一瞬たりとも陽という目標の気配から意識をそらしていなかった、それなのに、先ほどまでなら確実について行けたはずの気配に、フェンリルは追いつくことが出来なかった。
    そして、


    ―――バシュ!
    ―――ズバッ!
    ―――ボトリ。


    フェンリルの残る3本の足が全て焼けながら地面に落下した。


    『グゥォォォォォァァァァァァアアアアアアアアアアア!!!!!』


    フェンリルの絶叫が響き渡る。


    「まだまだぁーーーーーーーーーーーー!!!!」


    陽は、息が続く限りに吠える、そして。


    「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」


    陽が剣を振るう。
    ただ、それだけで炎が舞い上がり、周辺が灼熱に包まれる。
    一瞬で、街が火炎に包み込まれ、赤炎の地獄がその中心にいるフェンリルに襲いかかる。


    『グルルォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


    絶叫を上げるフェンリル目掛けて陽が叫ぶ。


    「終わりだ!全部何もかも燃え尽きろ!!!」


    陽が剣を構えると、全ての炎が陽を中心に集っていく。


    「『炎神』よ!俺にありったけの力を!!」


    陽に向けて、炎の力が集中してゆく。


    『オノレェ!我ハフェンリル「天と地とを喰らう者」ゾ!!人間如キニ敗レハセン!!!』


    フェンリルは、最後の力を振り絞って、陽に向けて全ての力を解放した。



    『『王狼』・『蹂躙爪牙』ァ!!!!!』



    フェンリルが、大きく口を開いた。
    フェンリルの口が、みるみる巨大化、いや、アゴの可動範囲を完全に超えて、大きく、大きく開かれてゆく。


    『我ガ最強ノ技デ、全テ消エ去レェ!!!!』


    フェンリルの口は、すでにフェンリル自身を越え、そして陽とロアを含む、全てを飲み込むために、空を覆い尽くした。


    「負けるか!!!」


    陽は、剣を構え、



    「『炎神』・『炎滅焼獄』!!!!!!!」



    炎が、陽の体から、剣から噴き出し、溢れ出て、陽の剣へと集まってゆく。
    その剣を、陽は、ただ、全力を持って振り抜いた。


    「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」


    全ての牙と、炎が正面からぶつかり合い、そして、



    ―――牙が、折れた。



    天地を包む、巨大な口が燃え上がり、フェンリルは完全に消滅した。










    「・・・・・・・・・・ロアッ!!」


    陽は、ロアを抱き起こした。
    血まみれのロアは、力なく笑った。


    「すごい・・・・・・です、陽・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・・・・フェン・・・・・・・ちゃん・・・・・・・・やっつけちゃいました・・・・・・・・・・・・・」
    「喋るな!ロア!」


    ロアの体は、大量の血を失っており既に冷たくなっていた。


    「いいん・・・・・・・・・です・・・・・・よ・・・・・・・もう・・・・・・・・助かりそうに・・・・・・・・・ない・・・・・・です・・・・・・から・・・・・・・・・・・・・」
    「ダメだっ!ロアッ!」


    陽は叫んだ。
    このままでは、どうしようもなく、ロアは死ぬ。


    (何か、ロアを助ける方法はないのか!?)


    そう思った陽に、不意な声が掛かる。


    「フン、予想通りレヴァンテインの方が勝ったか」
    「!?」


    いつの間にか、陽の背後に立っていた人物、それは、ヴァルキリー・ゲイレルルだった。


    「お前は・・・・・・・・・ゲイレルル!?」
    「ほう、我のことを覚えていたか、レヴァンテインの力、見せてもらったぞ」


    ゲイレルルはそういって笑った。


    「まさか、最後の組み合わせが、かの神剣レンヴァテインと魔剣ロキとの組み合わせになるとはな、面白い」
    「何を言っている・・・・・・・・・」


    ゲイレルルは、陽の問いには答えず、黙ってロアを見下ろした。


    「ふん、この人間、死にかけているな」
    「何をするつもりだ!?」
    「我はヴァルキリー、魂の運び手だぞ?死した戦士の魂をヴァルハラへ運ぶのが仕事だ」
    「やめろっ!!」


    陽は、ゲイレルルの前に立ち塞がった。


    「・・・・・・・・・何のつもりだ?それは先ほどまで貴様の敵だった者だぞ?」
    「違う!ロアは、そんなんじゃない!」
    「フン、なるほど、貴様はその人間の娘を死なせたくないと、そういうわけか?」
    「・・・・・・・・そうだ!」


    ゲイレルルは、何度か頷いた後。


    「その娘を助ける方法があるといったら、貴様はどうする?」
    「あるのか!?」


    ゲイレルルは、嫌みったらしい笑みを浮かべた。


    「簡単だ、その娘の魂を一時的に肉体から剥離させ、その間に肉体を修復すればよい」
    「そんなことが、できるのか?」
    「当たり前だ、我はヴァルキリー、魂の操作など簡単に出来るわ」
    「・・・・・・・・・だが、なぜ俺にそんなことを言う?」
    「なーに、最後の戦いを前にして逃げられてはこちらとしても面白くないからな、こうすれば、貴様は逃げられまい?」


    そう言うと、ゲイレルルは手に持つ槍を、ロアの体に突き刺した。


    「何をする!?」
    「まぁ待て・・・・・・・・・・」


    少しして、ゲイレルルがロアの体から槍を抜きだした。


    「終わったのか・・・・・・・?」
    「ああ、この娘の魂はいま頃ヴァルハラに送られただろう」
    「今の内にロアの体を治せば・・・・・・・!」
    「いや、貴様にはその前にやってもらうことがある」


    ゲイレルルは、右手の槍で、虚空を一薙ぎした、そして開かれたのは異空間。


    「この娘の魂は人質代わりだ、お前がこの先にいる、この町最後の神具の所持者を倒して帰ってくれば、この娘の魂は返してやろう」


    陽は、しばらくゲイレルルを見つめた後、


    「わかった」


    頷き、そして、


    「これで、ロアが助かるってんなら、俺は何人だって斃してやる」
    「ふふふ、期待しているぞ、レヴァンテインの所持者よ」


    そして、陽は、決戦の地へと、足を進めた。
引用返信/返信 削除キー/
■519 / inTopicNo.22)  フェイス4ロキ1
□投稿者/ パース -(2006/11/17(Fri) 22:12:45)
    2006/11/17(Fri) 22:15:32 編集(投稿者)
    2006/11/17(Fri) 22:13:07 編集(投稿者)

    そこは、どことも知れぬ場所、まさしく異空間と呼ぶべき場所。
    そこには、現在、二つの存在が、あった。


    「おかえりなさい、ゲイレルル、首尾はどうでした?」
    「上々だな、神具を持つ者同士の戦いにより、多くの魂が我々の物となるだろう」


    その二人とは、この街に存在する二つのヴァルキリー、ゲイレルル、ヘルフィヨトルであった。
    ゲイレルルは、人間世界でやることをほぼ終え、そこ、「神々の世界に最も近い場所」へと戻ってきたところだった。
    そして、戻ってきたゲイレルルを見て、ヘルフィヨトルは口を開いた。


    「・・・・・・・・・・・・私は、あまりこの方法に賛成できませんが」
    「なぜだ?神具をばらまく事によって強力な魂を簡単に判別し、それらを戦わせることにより戦士の魂とする、これほど確実で簡単で労力のいらぬ方法はないのではないか?」


    それは、最後の決戦が始まるより、わずかに前のこと。
    もう間もなく、殺し合いを始める陽と影美が、まだ出会っていない時分。


    「しかし、その戦いにより多くの無関係の者達までが巻き込まれて死んでいます、これはあまりにも無駄が多すぎます」
    「なに?ああ、先ほどのフェンリルのことを言っているのか」


    ゲイレルルは、ヘルフィヨトルを小馬鹿そうに笑ったあと、言った。


    「そんな物、我等がヴァルハラへ持ち帰る魂が増えるだけのこと、喜ぶべき事であろう?」
    「そんな物って・・・・・・・・・・・・・・!?」
    「そんな物だろう、人間など、我等からすれば人間にとっての蟻のような物、その中でも神具すら持てぬ小さな魂のことなど気にする必要あるまい?」
    「しかし・・・・・・・・・・・・」


    もうよい、とゲイレルルが手で制した。
    ヘルフィヨトルはまだなにか言いたそうだったが、しぶしぶ口を閉じた。
    ゲイレルルとヘルフィヨトルとは、位階上では差があるが、役職上では同じ上位ヴァルキリーなので、ヘルフィヨトルがゲイレルルに丁寧語を使う理由はないのだが、これがヘルフィヨトルの地の喋り方なのだった。


    「それにしても、気になることが一つある」
    「何ですか?」
    「今回戦いに投入された神具のことだよ」
    「あなたが気にしているのは『レーヴァテイン』の事ですか?」
    「それもあるが、それだけではない」
    「どういう事ですか?」
    「お前が言っていた、お前を傷つけた神具、あれは『魔剣ロキ』だった」
    「魔剣ロキ!?そんな、あれはかのラグナロクの折に消失したはずでは?」
    「いや、どうやらそうではなかったらしい、形を変えていたため、我々も気がつかなかったのであろう」


    ヘルフィヨトルは、しばらく開いた口が塞がらなかったが、気を取り直して聞いた。


    「なるほど、それならばただの神具の使い手に私があそこまで追いつめられたのもわかります・・・・・・・・・・いえ、それはいいのです、それで、気になることとは?」
    「フン、それは所詮偶然だろうさ、まぁいい、我が気にしているのはだ、なぜ、この時期になって『レーヴァテイン』、『ロキ』、そして『フェンリル』までもが目覚めたのだ?」
    「それは・・・・・・・・たしかに、今まで何千年ものあいだ、それこそラグナロクの後眠りについていたはずの高等神具が、このエリアだけで3つも解放状態になるなんて、今まででは考えられませんね」


    ゲイレルルは、口元に手を当てて考えながら言った。


    「実は、それだけではない」
    「と、言いますと?」


    軽くあごに指を付けて、考える仕草をしながらゲイレルルは続けた。


    「今回は、我々も含めて、10人の上位から中位のヴァルキリーが合わせて5ヶ所の『ユグドラシルワールド』を作るために動員されているのは知っているな?」
    「はい、それが何か?」


    ちなみに、ゲイレルルは上位ヴァルキリーの第3階位、ヘルフィヨトルは同じく上位ヴァルキリーの中では最下の第8階位である。


    「実は、話によると、それらに投入された神具の中には、かの『グングニル』や『ミョルニル』、『スキーズブラズニル』といった神具が投入されているらしいのだ」
    「なんですって!?」


    今、ゲイレルルが言った3つの神具、それは全て最高位の神具である。
    ラグナロクの折、それを使った神々により幾体もの巨人を屠ったそれらの神具は、神々が死んだ時も、破壊されることなくそのまま残されていた。


    「たしかに・・・・・・・・あなたの言葉が正しいとするなら、『グングニル』、『ミョルニル』、『スキーズブラズニル』、そして『レーヴァテイン』、『ロキ』、『フェンリスヴォルグ』、これら最高位の神具がホイホイと投入されるなんて・・・・・・・・・・」
    「だろう?一つのエリアに高位の神具が投入されるだけなら今までもあった、だが今回はどうもおかしい、同じくこれも噂なのだが、『魔剣ティルフィング』も投入されたらしい」
    「また魔剣ですか・・・・・・・・」
    「ああ、それも魔剣の中の魔剣だ、あの『グラム』や『ミストルテイン』に比べれば名は劣るが、凶悪な魔剣には間違いない、それがどこか他の場所で戦いに投入されたらしい」
    「魔剣と言えばここにも『ダインスレイブ』が来てましたね」
    「ああ、中級魔剣だな、体から血を流し続ける変わりに力を手に入れるという、まぁそこそこの魔剣だな」


    かのダインスレイブをそこそこと言ってのけるあたりゲイレルルも流石なのだが、誰も突っ込まない。


    「まぁ、フェンリルに取り込まれてしまい、フェンリルの死と共に他の3つの神具もろとも消滅してしまったようですが、これは仕方ありませんね」
    「そうだな」


    話が脱線していたので、ゲイレルルは話を戻した。


    「それはともかく、今回の戦い、やたらと高位の神具が投入されているあたり、何かおかしいと思うのだ」
    「たしかにそうですね、フレイヤ様からは何か言われてないのですか?」
    「いいや、何も聞いていない」
    「そうですか・・・・・・・・・・・」


    ゲイレルルは、真剣そのものといった顔で言った。


    「『フェンリル』の目覚め、『ロキ』の解放、それによって引き起こされた『レーヴァテイン』の封印解放・・・・・・・・・これはまるでかのラグナロクが再び起ころうとしているようではないか・・・・・・・・・・」


    二人の間に沈黙が訪れた。
    そこで、ふと、ゲイレルルが思いだしたように言った。


    「そういえば、そろそろあの二人、この街にいる最後の神具の所持者達が戦いを始めている頃だろう、そっちはどうなった?」
    「はい、ただいま」


    ヘルフィヨトルが、空間を操作する。
    すると、二人の前に、陽と、影美の対峙している姿が、映像投射機の映像のようにして映し出された。


    「いよいよだな」
    「そうですね、この戦いが終わり次第勝者以外の全ての魂をヴァルハラへ送り、我々の仕事は全て完了です」
    「ああ、そのことだが・・・・・・・・」
    「なんですか?」
    「最後の勝者も、ヴァルハラに連れて行こいと、フレイヤ様からの命令だ」
    「!?」


    ヘルフィヨトルは一瞬凍り付いた。


    「な、何のためにですか!?」
    「それは・・・・・・・・・おそらく・・・・・・いや・・・・・・・・・」


    やがてヘルフィヨトルは、何かに気付いたように目を見開いた。


    「まさか・・・・・・・・・!」
    「ああ、考えたくはないのだが、またしてもフレイヤ様のお戯れ・・・・・・・・・お遊び、そう考えれば、今回の高位神具が大量に投入されたことも理解できる・・・・・・・・・」
    「っ!では、あの二人、今戦おうとしている二人にあなたがした約束は、生き残った方に魂を返す、という約束はどうなさるおつもりですか!?」
    「それは・・・・・・・・・・」
    「ゲイレルル!あなたは、なんて残酷なことを・・・・・・・・・・・!」
    「仕方あるまい!これも全てフレイヤ様のご命令だ!!」
    「あの二人に約束をしたのはあなたでしょう・・・・・・・・・?」
    「・・・・・・もうよいっ!我はあの二人の戦いを見に行く、ヘルフィヨトル、お前は残りの魂を運ぶ準備をしておけ」
    「・・・・・・・・・・・・・・はい」


    ゲイレルルが立ち去り、ヘルフィヨトルもどこかへ消えて、そしてそこには静寂が訪れた。

    これは、最後の戦いの、そのほんのちょっと前のお話。

引用返信/返信 削除キー/
■538 / inTopicNo.23)  ロキ編 決戦
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:33:31)
    「げほっ・・・・・・・・・げほげほっ・・・・・・・・!」


    目が覚めると同時、体中の痛みで思わず咳き込む。
    当たり前だ、影月の時にいくらか回復したものの、所詮「いくらか」だ、フェンリルにやられた傷全部が回復したわけじゃない。


    (・・・・・・・・・・・・・・・無銘刀・・・・・・・・・)


    頭の中で呼んでみるが、半ば予想通り返事はない。
    手元を見つめて武器を呼び出す、現れたのは最初の頃の黒い剣、『影月』ではない。


    (借りが出来ちゃったなぁ・・・・・・・・・・)


    あの時起こった出来事、それは、無銘刀が影美の魂の半分を吸い取り、そして無銘刀の中の誰かが影美の中に入り込み、ゲイレルルに連れて行かれる、ということだった。
    無銘刀に意識を集中する、その中に、影美の半身が入っている。
    そのせいかどうか知らないが、いつもよりも動きがよい気がする。


    「・・・・・・・・・よっ・・・・・・・っと・・・・・・・・・・・痛たた・・・・・・・・」


    体中が痛いが、何とか起きあがる。

    さっきから感じている、近づいてくる気配・・
    ゲイレルルが最後に言っていたことを思い出す。
    確か、「魂を返して欲しければ最後の神具の所持者を倒せ」だったか。


    「それって、持って行かれたのが私じゃなくても返してくれるのかな・・・・・・・・?」


    黒剣もとい無銘刀もとい魔剣ロキ、まぁ呼び名などどれでもいい、それを構える。
    そして、
    影美の対面に一人の少年が現れる。










    陽は、異空間の中を歩いている。
    足やら頭やら、フェンリルにやられたせいで体中が痛いが、歩けないほどではない。


    (これで、最後・・・・・・・・・次の相手さえ倒せば、ロアを助けることが出来る・・・・・・・・・)


    陽は、剣を握りしめた。
    それは、先ほど、フェンリルと戦っていたときの大剣ではない、戦いが終わって気がついたら元の普通の剣の形に戻っていた。


    どうやら、『炎神』になるためには何かしら条件があるらしい、その条件はわからない―――が、陽の気持ちは一つだった。


    (どんなことがあっても、必ず勝つ・・・・・・・・)


    それだけのために、陽は歩いている。
    最後の相手の気配・・も、段々と近くなっている。


    「待ってろ、ロア」


    見えた、最後の戦いの相手。
    自分と、同じくらいの背格好、年齢も同じくらいであろう少女。
    そして、決戦が始まった。










    二人とも、はっきり言って無茶苦茶にボロボロだった。
    服はあちこち破れ、体中傷だらけの血だらけ、そして泥まみれだった。


    「あたしは影美、四野原 影美、魔剣ロキの所持者・・・・・・・・あなたは?」


    影美が、まだ少し離れている相手に対して言った。


    「陽、千里塚 陽、神剣レヴァンテインの所持者だ」


    陽は、影美に声を返す。
    影美が剣を構えていることに気付き、陽も剣を構える。


    「へへ・・・・・・・・・最後が、君みたいなわりとまともそうな奴で良かったよ、あたしがこれまで相手にしてきたのってみんないきなり戦闘になったのばっかりだったから、変な狼にも襲われるし」
    「俺もまぁ、似たり寄ったりだな」


    二人の目に宿るモノ、それは決意。
    軽口を言いながらも、決して退かない、という意思の表れ。


    「あたしは、どうしてもヴァルキリーに取られた物を返してもらいたいから、だから戦う」
    「悪いけど、俺も命を賭けても手に入れなきゃなんない物だから、退くわけにはいかない」
    「同じだね・・・・・・・・なら、しかたないっか」
    「ああ」


    そして、会話がとぎれて、二人が同時に動いた。










    二人は同時に動いた。


    影美の姿が影の中に没し、陽の姿がかき消える。


    「!?」
    「!?」


    驚いたのは、二人一緒だった。
    陽は、先ほどまで影美がいた場所に出現する。
    一瞬で、影美との勝負を決めようとした陽だったが、そうはいかなかった。


    「そこっ!!」


    影美は、頭上に陽が現れた事に一瞬驚きを見せたものの、すぐさま攻撃を開始する。
    直後、陽の足下から、無数の影の茨が突き出し、陽にからみつこうとする。


    「くっ!!」


    陽は、思わず後ろに下がろうとしたが、その背後からも影の枝が突き出す。
    それを避けられないと踏んだ陽は、剣に力を込める。
    すると、剣が光を放ち、それによって枝はいともたやすく切り落とされる。
    さらに、数本の茨を切り飛ばしながら陽が地面、つまり影美が潜む影を貫こうとしたが、陽の剣が地面に突き立つのと、影から影美が脱出したのは、ほぼ同時だった。










    「っ!『影兵』、行きなさい!!」


    影美は、影から脱出するとすぐさまに、影兵を呼び出す、影美の周辺の影が動き出し、兵隊の姿を作り上げる、その数30ほど。
    そしてそれらは、一斉に陽目掛けて殺到した。


    (・・・・・・・・こいつ、強い)


    30ほどの影達はすぐさま陽に接近、攻撃を開始するが、一体が剣を振りかぶった瞬間に斬り裂かれ、別の一体がそれを横から切ろうとして真っ二つ、さらに別な一体が足払いで転ばされそこにさらに別の一体が、また別の一体がやられてゆく。
    どうやら影兵では勝負にならなそうだ。
    その上、先ほどの能力、飛んでもない移動能力、それから剣が光ったあとこちらの影をやすやすと切り飛ばしたあれ、どちらも強力ではっきり言ってこっちの方が分が悪い。
    影美の能力は小技中心だ、大技では向こうのが強い。


    (だったら・・・・・・・・)


    影美はある考えを持って影の中に自分を沈み込ませてゆく。










    (うっとおしい・・・・・・・・・!!)


    さらにまた一体、斬り裂きその黒い体が消滅してゆく。
    先ほどから、明らかな雑魚を相手にしていたが、それらを全て『力』を使うことなく倒していた。


    (だが・・・・・・・・次はどこから来る?)


    しかし、相手、影美の姿がどこにも見えないことには先ほどから気がついていた。
    兵隊の数は残り5体ほどだが、それらが動くたびに影が出来たり消えたりするため、影美の居場所が特定できない。


    (兵隊が全滅すると同時に出てくるか?別にいつでもいい、こっちはそれを突破するまでだ!)


    また一体を斬り倒す、残り4体、そいつらは陽を囲むように移動する。
    例えどれほど弱くとも、四方から一斉に攻撃されればどうしようもないことは確実なので、陽は右後ろに移動しようとしていた影に肉迫、これを斬る。
    残り3体、2体が同時に動き、それにわずかに遅れて1体が動いた。


    「邪魔だ!!」


    正面の2体を輪切りに、残る1体を斬ろうとして、


    (―――――!?)


    その姿を見失った。
    その姿を探す間もなく、


    (―――――後ろ!?)


    本能的に位置を察知、ほとんど何も考えずに切り払う。
    そして違和感。


    (本体はどこだ!?)


    さらに陽の背後、つまり先ほど敵の姿を見失った方角にまた一体の兵隊が現れる。


    (なんだ?いつでも背後に出せるなら初めからそれをやればいいのに・・・・・・・・・!?)


    それもまた一刀のもとに両断――――しようとして、それが罠だと気付いた。


    「残念!ハズレ!!」


    陽がその影を両断した直後、先ほど違和感を感じた影、それの中から影美が現れた。
    陽は影を斬るために腕を伸ばした状態、つまり隙だらけ、それに対し影美が剣を構えて突っ込もうとした。


    「レーヴァテイン!!」


    陽は『力』を解放、影美のさらに背後を取った。
    そして、










    (かかった!!)


    影美のすぐ後ろに陽が出現するのを、影美は影の中から・・・・・、見ていた。
    今、陽が背後を取った物、それは影美が影を操作できる限界まで似せて作り上げた偽物だったのだ。
    陽がどれだけ強くとも、『力』を使った直後ならば、確実な隙が出来る。
    陽が、影美そっくりの偽物を斬り裂いた、


    (―――――もらった!!!)


    瞬間、崩れ去った影美そっくりの影も含めた、影美が操作できる全ての影から、一斉に陽目掛けて刃が飛び出した。


    ―――ズドドッ!!


    「ぐうっ!!!」


    それらの刃は、確実に一瞬油断した陽の足を次々と貫いてゆく、これで陽は地面に縫いつけられた。
    影美が、確実に絶対のトドメを、さそうとしたその瞬間、陽が影の枝を掴んだ。


    「捕まえたぞ・・・・・・・・!」
    (・・・・・・ッ!しまっ!!)


    どれだけ、姿が見えなくとも、影美が操作している直後、その影の中には、影美自身がいる。
    陽が剣を地面に突き刺そうとし、影美が影から脱出しようとした、しかし今回は、陽の方がわずかに早かった。


    ―――ザシュッ!!


    初めて、影美の影から黒以外の色をした物が流れた、影美の血だった。


    「うぁっ!!!」


    影美は影から脱出しようとした直後を捕まり、右の肩に深々と剣を突きたてられた。
    影美は無理矢理陽と自分との間の影を操作し、壁を作り出し、それによって何とか距離を取った。
    十分な距離を取った直後、壁を解除すると、陽は動いていなかった。


    「・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・痛ったいわね・・・・・!」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・クソッ・・・・・・・・・お互い様だ・・・・・・・!」


    影美はそれに向かって文句を言うと、陽は返事を返してきた。
    陽は両足を穴だらけにされ、影美は右腕、つまり利き手が使い物にならない。
    威力なら陽が上、しかしスピードは影美が勝る、『力』を使えば陽の方が早いが、その分反動で大きな隙が出来る、技の手数なら影美の方が圧倒的に多い。
    体格的な差はほとんど無い、陽は同年代に比べて少し背が低く筋力が無い、逆に影美は同年代女性よりは背もいくらか高く、筋力もある。


    どちらも、かなりの傷を負ってはいるが、ほぼ互角の戦いだった。


    「ったく・・・・・・・・・女に手を挙げるのに、全く躊躇しないなんて見上げた根性ね!」
    「足をズタズタにして動けなくするなんて、せこい手を使う奴に言われたくはないな」


    ついでに、口の言い合いも互角。
    しかし、どちらもここで止める気は、毛ほども無かった。


    「行くぞ!」
    「返り討ちにしてやるわ!」


    二人の激突が再度始まった。










    二人の激突は、既に5回を越えた。


    陽が突撃し、影美がこれを迎え撃ち、数回の交差の後、離れる。
    互いにもう手は出し尽くしていた。
    陽は単純に威力とスピードを瞬間的に上げるのみ、しかし反動が大きいため連続して出すことが出来ず、『力』で追いつめても能力が切れた瞬間手数で圧倒される。
    影美は手数こそあるものの、一発一発の威力は低い、そのため陽を極限まで追いつめてもその直前に『力』によって突破されてしまう。
    ようするに、どちらももはや『力』は決定打になっていなかった。


    残るは、双方共に、肉体と精神と技術。
    どちらがより長く、肉体を動かし続けていられるか。
    どちらがより強く、不屈の精神を持ち続けていられるか。
    どちらがより巧みに、相手の動きを読み、考えを看破し、相手より早く、一太刀でも多く傷付ける、その技術を持っているかどうか。
    これはもはや、そういう戦いだった。


    二人はどちらももうズタズタのボロボロ、その状態で対峙しているのはある意味滑稽ですらあった。
    これ以上、長く戦いが続けば、どのみち出血多量で二人とも死んでしまう。
    だからこそ、二人がそのとき考えたことは、全く同じものだった。
    すなわち、


    (次で・・・・・・・・!)
    (・・・・・・決める!)


    それは、決着の意志。










    そして二人は同時に動いた。
    影美は、これまでと違い、自分から陽目指し突き進む。
    陽は、これまた先ほどまでとは違い、不動のまま佇む。


    「はぁぁぁああああっ!!!」


    影美は、陽と自分との間に影の壁を作成、視界を塞ぐと同時、4つに分裂した。
    むろん、本体はただ一つである。


    そして、陽はそれでも動かないままだった。
    陽の剣は光っている、だがまだ『力』は使っていない。
    無行の位のまま、すぐ前に壁が出現したときも、さらに3つの影美がその壁の左右、上部から現れたときも、動かなかった。
    三体の影美、それらが左右と頭上から同時に剣を振り下ろす。
    それが当たる直前、ようやく陽は動いた。
    剣を前に突き出し、頭上からの一撃を受け止めると同時に半歩後ろに下がり、左右の攻撃を回避、力をわざと緩めると正面の影がたたらを踏んで前によろける、それを見送ってその後ろに蹴り、残りの2体に蹴りの体勢から回転斬り、3体まとめて斬り飛ばす、そしてその全てが偽物。
    それはわかっていた。


    陽の剣はいまだに光っている、いや、その輝きは先ほどからどんどん増していった。
    先ほどの壁が消失、その先にいた影美は剣をただ横に垂らしているだけ、ではない、こちらも剣に黒い影、それがどんどんと集まっていった。
    陽の剣は光を放ち、陽はそれと同時に駆け出す。
    影美の剣もまた黒い光、光を飲み込む闇が溢れ出し、それと同時に駆け出した。
    光がはじけ、闇が溢れ出す。
    二人の距離が狭まってゆく。


    ―――10メートル、
    ―――5メートル、
    ―――3メートル、
    ―――2メートル、
    ―――1メートル、


    「はぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」
    「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!」


    二人の剣が正面からぶつかり合い、闇が爆ぜ、光が吹き荒れ、


    (――――――――――――――――――――――――――――!!!)
    (―――――――――――――――――――――――――――――ッ!)
    (―――――――――――――――――――――――――――――ァ!)




    ―――そして、何も見えなくなった。

引用返信/返信 削除キー/
■539 / inTopicNo.24)  ロキ編 幕間
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:34:43)
    光で画面が一杯になった。


    明滅、暗転。
    光がないと、真っ暗で見えないように、光がありすぎても、物体を見ることは出来ない。
    画面には、何も映っていなかった。


    「・・・・・・・・・これは、また」
    「・・・・・・・・・何も見えん」


    ゲイレルル、ヘルフィヨトルは呟いた。


    「どうなったかわかるか?」
    「わかりません」


    光は、今も画面中に溢れかえり、動く物体を捉えることは出来ていなかった。


    「・・・・・・・・・まだか?」
    「もうそろそろかと・・・・・・・・来ました」


    ようやっと、光が薄れ始め、画面に何かが見え始めてくる。
    しばらく二人は、それをジーッと見ていたが、やがて、


    「・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・・・!」
    「・・・・・・・・・・・・・・失敗か・・・・・・・・・」


    光が薄れ、画面がクリアになり、そして見えた物、それは、


    二人の、陽と影美の体が剣を交えたままの状態で倒れ伏し、ピクリとも動かぬ場面であった。


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    どちらも、全く動かず、一言も言葉を発しなかった。
    それは、まさに、ただの屍のようで。


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    いつまで待っていても、二つの体は完全に停止したままだった。


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


    そして、10分が経過しても、全く二人の体が動かず、ただ時間のみが過ぎ去ったとき、ゲイレルルは首を横に振り。


    「終わりだ、今回の戦いに勝利者は無し、残った神具と今回の戦いで死んだ者の魂を持ち帰り、ヴァルハラへ帰還するぞ」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」


    ヘルフィヨトルは、悲しげに瞳を伏せたが、やがて諦めたように頷いた。


    「わかりました、神具の回収に入ります」
    「うむ」
    「とは言いましても、先ほどのフェンリスヴォルグが暴れたことにより、大部分の神具は破壊され、それ以外はもう既に回収しているので、残っていることはあそこ」


    そういって、ヘルフィヨトルは画面を指さした。


    「レーヴァテインとロキだけです、私が行って今から取ってきます」
    「いや、お前はここにある物資をまとめて、先にヴァルハラへ行ってくれ」
    「なぜですか?」
    「なぁに、最後くらい、ヴァルキリーとして仕事をしたいのでな」
    「そうですか、わかりました」


    そして、ヘルフィヨトルは、スタスタとどこかへ歩み去っていった。
    残された、ゲイレルルは、


    「神剣レヴァンテイン、魔剣ロキ・・・・・・・・どちらもいずれは真の神々に匹敵する能力者になったであろうに、惜しいことをした」


    そう呟き、ゲイレルルの姿も、どこかへ消えていった。










    「フン、実に呆気ないものだったな」


    ゲイレルルのこの傲慢な物言いは、彼女が人間にその姿をさらすとき特有のものである。
    だがしかし、今はその姿を見る者もいない。
    ゲイレルル足下には、二つの屍が転がっている。


    ゲイレルルの仕事は、この二つの屍が持つ武器を回収し、魂をヴァルハラに運ぶのみ。
    ほんの数分で終わる、簡単な仕事だ。
    ゲイレルルは、二人の体を見下ろしながら、ふと、ある疑問を持った。


    (そういえば、この二人、何が決定打となって死んだのだ?)


    二つの体を見下ろす、あちこちがボロボロの血だらけで、最後に剣を交えた瞬間、失血死した可能性もある。
    あるいは、光で何も見なくなったあの時、両者が相打ちになった可能性もなくはない。


    「どちらにせよ、魂に聞けばいいだけの話か」


    そして、ゲイレルルは、その手に持つ槍を、片方の屍に向けて、振り下ろし、


    ―――ザクッ!


    (―――――――ッ!!!!!!???)


    槍は、そのまま屍を通り抜け、地面に突き立った。


    「行くよ!」
    「ああ!」


    瞬間、ゲイレルルの背後に現れた二つの存在、陽と影美が、同時にゲイレルルに襲い掛かった。

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■540 / inTopicNo.25)  ロキ編 The last battle
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:40:27)
    二人の剣が交わり、全てが暗転し、光に包まれ、何も見えなくなったそのとき、
    二人の意識は別なところに存在した。


    『止めろ』


    その言葉が、二人の頭の中に響いた。


    (なに!?)
    (え!?)


    それと同時に、自分たちの周囲が、これまでいた異空間ともさらに違う場所、それまでいた場所ではない「どこか」にいることに気付き、また自分の体が全く動かない、それどころか自分の体そのものが無くなっていることに連続して気付く。


    (え?ここ、どこ!?)
    (なんだ、一体、これは?)


    陽と影美が思った疑問、それぞれに答える声があった。


    『ここは、神剣レーヴァテインの中、意識のみが存在する場所にいる、君たちは今、意識体としてその中に入り込んだのさ』


    声に、姿はない。
    また、陽と影美も、それぞれの声は聞こえているのに、それぞれもう一方の姿を捉えることは出来なかった。


    (あなた、誰??)
    (お前は・・・・・・・・・まさか)


    『陽、君ならわかるだろう、僕は君が使っていた神剣レーヴァテイン、それの中に存在する人格さ、一度だけ、君とは意識を通い合わせたことがあるね』


    (あんたは、あの時、力を貸してくれた・・・・・・・・)
    (何を言っているの・・・・・・・・・?)


    『影美、君も知っているはずだ、君が持つ魔剣ロキにも、内在する人格があったのだから』


    (・・・・・・・・・・・何で・・・・・・知って!!)


    『君たちにはこれ以上戦ってもらうわけにはいかなかった、これから、その理由も含めて君たちには聞いてもらいたいことがある、少し、長い話になるけど、ここは外とは時間の流れる速さが大きく違うから、外のことは気にせずに聞いて欲しい』


    そして「神剣レーヴァテイン」、それに内在する人格による、長い話が始まった。










    初めは、全ての創世から。

    原初の神、氷の大巨人、「ユミル」。
    彼の体から始まりの神「オーディン」は生まれた。
    「オーディン」はやがて兄弟である「ロキ」らと共に「ユミル」を滅ぼす。
    「ユミル」の体はやがて大地となった、これが神々の世界「アースガルズ」となる。

    そして神々の世界の完成。

    「アースガルズ」は、「ユグドラシル」と繋がり、九つの世界を一つとした。
    「アースガルズ」には、様々な神々が集まった。
    やがて神々は夫婦となり、子をなして、神々の数は増えていった。
    「オーディン」、「ロキ」もまた、数々の神々の親となる。

    しかし、いずれくる未来があった。

    「オーディン」は、ある一つの未来、「ラグナロク」の到来を予見していた。
    「ラグナロク」は、決定された、回避出来ぬ未来、全ての終末。

    その時、「ラグナロク」の中心となる、ある一人の神がいた。

    「ロキ」はいつの時も変わらず、奔放であり続けた。
    しかしある時、彼はその賢さゆえに気がついてしまう。
    神が、絶対ではないことに。
    神が、全てではないことに。
    神が、完全ではないことに。
    自分たちが作る、神々の世界が、所詮は偽りであることに。

    「ロキ」は、その事実を神々に見せつけるために、もっとも美しき神、「祝福されし者」、全ての者の寵愛を受けた神「バルドル」をその知略をもって殺す。
    そしてロキは、神々の宴の席で、幾体もの神々を相手に、神々の欠如を、秩序の消滅を、全ての神の無能さを、嘲笑い、非難し、罵倒した。

    それによって「ロキ」は永遠の地獄に捕らえられる。
    「ロキ」は永劫の苦痛にさいなまれながら、泣き叫んだ。
    どうして、自分はただ誤りを指摘しただけなのに。
    どうして、自分はただ過ちを正しただけなのに。
    どうして、自分はただ真実を知らせたかっただけなのに。

    永劫にも近い苦痛の中で、「ロキ」はある結論に達する。

    自分の考えを受け入れて貰えぬのなら、今ある秩序など無意味だ。
    それならば全ての秩序を破壊し、新たなる秩序を作り出せばよい。

    そしてついに、「神々の黄昏」、「世界の終末」、「ラグナロク」が訪れる。
    巨人族と、冥府の亡者達は「ロキ」を先頭に「アースガルズ」へ攻め上る。
    「オーディン」は「フェンリル」に飲み込まれ、「フェンリル」は「オーディン」の息子、「ヴィーザル」により殺される。
    「トール」は「ヨルムンガント」を殺すものの、毒液を浴びて死んでしまう。
    「ロキ」もまた「ヘイムダル」と相打ちになり死ぬ。
    そして、最強の炎の巨人「スルト」は「ロキ」から渡された「レーヴァテイン」をもって「フレイ」を殺すが、「スルト」は戦いの傷により死を覚悟、自らの命を持って世界を消滅させる。

    そして、「ユグドラシル」は消滅し、わずかの神と人とを残して、世界は滅んだ。
    それは、遥か昔の話。










    長い話が、ようやく一区切り迎えた。


    (それで、全てが終わったその後も、フレイヤ達は魂の収集を続けている、と?)


    『その通りだ、まず、君たちに知っておいて欲しいこと、その一つ目は、「神は絶対ではない」ということだ、もし神が絶対であるなら、そもそもこんな事は起こらなかっただろうし、むやみな戦いも起こらなかっただろう』


    (それは・・・・・・・・・確かにその通りね)


    『次に二つ目、「世界は一つではない」ということ』


    (・・・・・・・・・一つ、じゃないのか?)


    『そもそも考えてみてくれ、スルトが放った炎によって「世界は滅んだ」んだよ?それなのにここには君たちが普通に生活する世界が存在している、これはおかしな事ではないかい?』


    (なるほど・・・・・・・・・・)


    『フレイヤ達は「ユグドラシル」が消滅した際に出来た、「世界と世界の隙間」に入り込み、そこを伝ってこの世界に降り立ったんだよ、多数の神具と共にね』


    (はた迷惑な・・・・・・・・・・・・)


    『そして、君たちに知っておいて欲しいこと、その最後、戦いを止めさせた理由でもあり実はこれが一番重要なことなんだが―――――』



    ―――――『「もし、君たち二人のうち、どちらか一人でも今の状態で死ねば、この世界は完全に消滅する」』



    (!?)
    (!?)


    一瞬、沈黙が落ちた。


    (な、何を言ってるんだ!?)
    (そうよ、なんで世界が消滅とか・・・・・・・!)


    『残念だが、これはれっきとした事実だ、まずは影美、君だが、君は今魂の半分を「魔剣ロキ」の中に取られているね』


    (え、ええ、そうよ・・・・・・・・それが、なに?)


    『もし、今影美が死ねば、その「魔剣ロキ」の中に入っている魂も大きく壊れ、しまいには「魔剣ロキ」自体が完全に消滅するだろう、もしそうなったら、僕は自分の力を抑えることが出来なくなり、その力はやがて使役者である陽をも破壊して世界に漏れ出す、そうなったら世界はもはや完全に燃え尽きるまで永遠の炎に包まれるだろう』


    (は・・・・・・・・?)
    (なん、で・・・・・・・・・?)


    『僕こと、「神剣レーヴァテイン」と僕の兄である「魔剣ロキ」とは、同じロキによって作り出された神具だ、そして、「魔剣ロキ」は、あまりにも力が強すぎる「神剣レーヴァテイン」の力を抑え、封印する役割も持っているんだよ』


    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!)
    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!)


    もはや、言葉にもならない。


    『そして、今の状態で陽が死ねば、の話だが、それは簡単だ、スルトの時と同じ、「魔剣ロキ」が「神剣レーヴァテイン」を抑える力を失っている今、「神剣レーヴァテイン」の力は止められない、同じく世界を焼き尽くして全てが消滅する』


    (なんで、私の剣が、レーヴァテインを抑えられないってのは?)


    『僕の兄でもあり、君の剣の中に内在した人格、あれそのものが封印だったんだよ』


    (!!!!!)


    『もう一度言う、「もし、君たち二人のうち、どちらか一人でも今の状態で死ねば、この世界は完全に消滅する」、と』










    全ての真実が語られたあと、レーヴァテインは、静かに語り出した。


    『君たちに、お願いが二つある』


    (・・・・・・・・・)
    (・・・・・・・・・)


    『これは、こんな事は君たちに頼める立場じゃないことはわかっているんだが、フレイヤ達を止めてくれ、彼女達にはこんな、終わってしまった物語を続けるような真似をこれ以上させたくないんだ』


    返事は、無い。


    『・・・・・・・・・・・・・・・すまない、君たちに、そんな余裕はないのだったな・・・・・・・・・、君たちには自分の身を守る以上の事を、している暇は――――』


    (ああいいよ、やってやるよ)
    (いいわ、やったげましょう)


    返事は、同時だった。


    『なぜ?君たちにメリットなど何もないのに・・・・・・』


    (メリットならある、あんたの言葉が正しいなら、「ヴァルハラの館」そこには魂が集められているんだろう?俺の目的はそこにいる女の子の魂を連れ帰る事だ、そのついでにそいつ、フレイヤって奴を倒してやるよ)
    (同じく、その「ヴァルハラの館」には、私の剣の中身も、一緒に行ったはずでしょ、それを見つけて剣の中に戻せば、少なくともどっちかが死んだだけで世界が滅ぶなんて言うことは起こらないでしょ)


    『・・・・・・・・・・ありがとう、それから、もう一つだけ、最後のお願いがある』


    (何だ?)
    (何よ?)


    『全ての戦いが終わったら、僕を、「神剣レーヴァテイン」を「魔剣ロキ」と共に、完全な眠りにつかせて欲しい、本当のことを言えば、僕はもう何かを壊す事なんて嫌なんだ』


    (ああ、その程度のことなら)
    (わかったわ)


    『ありがとう、これから君たちを元の場所に戻す、そこにはもうすぐヴァルキリーがやってくるはずだ、まずはそいつを倒して、「ヴァルハラの館」の鍵を手に入れて欲しい』


    その言葉が終わるか終わらないかのうちに、
    二人の意識は元いた場所へと戻された。










    (わかる?)
    (・・・・・・・・・ああ)


    どんな理屈なのか、陽と影美は剣を触れ合わせた状態で、お互いの考えが互いに聞こえる状態になっていた。


    『それは、僕を媒介にして二人の意識体が共鳴しているからだよ』


    よくわからないことを、レーヴァテインが言う。
    なにはともかく、声を出すことが出来ない状況下で、お互いの声が聞こえるのはいいことだ。
    今現在、陽と影美の二人は、影美の力により偽物を地面の上に作り出し、本体はレーヴァテインの力により光をねじ曲げて外からは見えないようにしていた。
    この状態になって、既に数分が経っていた。


    それにしても、と陽は思う。


    (本当に、ヴァルキリーに勝てるのか?)


    しばらくして、影美から返事があった。


    (んー・・・・・・なんとかなるっしょ)
    (そんなアバウトな・・・・・・・・・)
    (なーに言ってんのよ、私と、あんたのコンビなのよ?楽勝らくしょ・・・・・・・・・・っとと)


    影美が、フラッと、急によろける。
    陽は、腕を掴んで、体を支えてやった。


    (・・・・・・ありがと)
    (どういたしまして、そんな状態じゃ先が思いやられるな)
    (何よ!?あんたがぶっ刺してくれたおかげでしょうが!あんただって似たような状態のくせに!!)
    (お前よりはまだマシだ)
    (うー・・・・・・・・!)


    『二人とも、仲がよろしいのは良いことだが、どっちも限界が近いだろう?』


    (実は・・・・・・・・まぁ・・・・・・・・)
    (仲がよろしいとか言うなっての・・・・・・・・・でもきついものはきついかも)


    そもそも、二人共がついさっき死闘を演じていたのだ、その傷は全く治っていない。
    血もずいぶんと流してしまった、このまま時間だけが過ぎていけば、どうなるものか。


    『・・・・・・・・こういう手は、あんまり使いたくないけど、二人とも、神具の力を解放するんだ、そうすれば、いくらか傷は治る』


    (いや、そんなこと言っても私の場合、この剣の中に入ってる人格がどっかいっちゃってるから・・・・・・・・・)


    『その代わりに、中に入っているのは君自身だよ、やろうとすればいつでも解放できるはずさ』


    (そうなの?やってみる・・・・・・・・・)


    そしてしばらくすると、影美の黒剣は、巨大な湾曲刀へと変化した。


    (やった、できた・・・・・・・・!)
    (・・・・・・・・俺の場合は、どうすれば?)


    『うん、君の場合も大丈夫、今は「魔剣ロキ」がすぐ側にあるから、ある程度なら僕が制御できるよ』


    (よし・・・・・・・・!)


    そして、陽も神具の能力を全解放。
    真っ赤な刀身と波打つ刃の『炎神』が現れた。


    (ねぇねぇ、その剣、名前なんての?)
    (『炎神』だよ、そっちは?)
    (『影月』なんかこの曲がり方が月っぽいじゃん)
    (なるほど・・・・・・・・ッ!)


    『・・・・・・・・・二人とも、来たよ、僕はこれからレーヴァテインの力の制御に集中するから、返事しないと思うけど、頑張って』


    レーヴァテインの声が、頭に響くと同時、ついに、空間を割ってヴァルキリーが現れた。
    その特徴的な槍をみればわかる、『槍を持って進むもの』、ゲイレルルである。










    ゲイレルルは、しばらく周囲を見回したあと、二人の偽物に近づいた。


    (・・・・・・・・・・・・・準備は?)
    (・・・・・・・いつでもどうぞ)
    (おっけー)


    ゲイレルルが、そこにある偽物の内の片方に近づき、槍を振り上げた。


    (それじゃあ・・・・・・・・・・)


    ゲイレルルは槍を振り下ろし、その槍は、影美の作り上げた偽物を貫通し、地面に突き立つ。
    ゲイレルルの表情が驚きに染まった直後。


    「行くよ!!」
    「ああ!!」


    二人は駆け出した。










    「はぁっ!!」
    「らあっ!!」


    ―――キィン!


    さすがと言うべきか、不意を打ったにも関わらずゲイレルルは、二人の一撃を槍一本で同時に受け止めた。


    「なぜ・・・・・・・・・お前達が生きている?」
    「へへ・・・・・・・・・・・!私達に死なれると、困る人がいるらしいんで、ね!」
    「理由は色々だ!ともかく、俺達はこれ以上あんたらの遊びに付き合うつもりはない!!」


    一瞬、ゲイレルルが力をゆるめるが、それと同時に陽と影美は後ろに下がった。
    次の瞬間、とてつもない速度で振り回された槍が先ほどまで二人がいた位置を薙ぎ払った。


    「影美!下がれ!!」


    さらに、影美から見て、ゲイレルルと陽の姿が視界から消えるのはほとんど同時だった。
    陽とゲイレルルが同時に超高速移動をしたのだ。
    陽は、ゆっくりと流れる時間の中で普通に動く、それと同じように、ゲイレルルもまた緩やかな時間で普通に動いて見せた。
    ゲイレルルの狙いは、影美だったらしい、ゲイレルルは槍の穂先を影美に向け突進しようとしていたが、それの前に陽は体を滑り込ませる。


    (ってか!『炎神』の状態でこの能力がどのくらい続くのか、今まで一度もやってないからわかんねーぞ!!)


    残念ながら、返事はなし、そして悠長に待っていられるだけの時間もない。
    どうやら、解放していない状態よりは長く高速移動を続けることが出来るらしく、既に10秒以上動けている、あとは自分の力を信じるしかない。
    ゲイレルルの槍が、陽の頭目掛けて突き付けられる、陽はそれに刃先を合わせて槍を受け流す、陽はそのままゲイレルルに斬り掛かろうとしたが、槍の柄で受け止められる、陽はそれに力を込め、つばぜり合いに持って行こうとしたが、それより早く、ゲイレルルは槍をクルリと回転させた。
    そして、クルリと回転した槍の刃先は、陽の足下を狙っていた。


    (しまっ!足払い!!!)


    思わず、足を浮かせてしまい、続けてきた石突きによる一撃で、陽は為す術無く後ろに吹き飛ばされた。


    (やばい・・・・・・・やられる・・・・・・・・!!)


    陽が顔を上げると、ゲイレルルは、槍を振り上げ、今にも降り下ろそうとしていた。


    (死――――!?)


    ゲイレルルが槍を振り下ろすその直前、陽の体を黒いものが包み込み、影の中へ引きずり込んだ。


    (なんだ!?)


    ゲイレルルの一撃は、結局やってこなかった、陽は何が起こっているのか、事態を把握できずに、黒い影の中で、じーっと待つ。


    ゴポリ、と、ようやく陽は影の中から解放された。


    「ゲホッ!ゲホッ!」


    よくわからないが何か気持ちの悪い物が口の中に入った気がして思わず咳き込んだ陽の視界に入ってきたのは。


    (シッ、静かに!)


    人差し指を唇の前で立てる、まさに「静かに」の動作をした影美だった。
    影美は、剣を陽の剣に触れさせていた。


    (うん、君が強いのはよーくわかったよ?でもねぇ・・・・・・・・・・)


    影美が、顔をずずい、と近づけてきたため、陽は思わずのけぞる。
    ここで初めて、陽は高速移動の力が切れていることに気付いた。


    (あのねぇ?私達はいま、仲間でしょ?だったら勝手に先走るな!!!)
    (え?・・・・・・・・ゲフッ!!!)


    とんでもなく痛いボディーブローが陽にクリーンヒットした。
    影美が容赦の無い一撃を陽に送ったのだ。


    (確かにね、君は強いよ、1対1ではもう絶対にやりたくないって思うくらい速いし、今の君なら私より強いよ、でもね、言っておくけど今私が助けなかったら君は死んでたよ?)


    陽は、さっきまで自分がいた場所、ゲイレルルの方角を見て、そして驚愕した。
    そこでは、何百、いや、何千体という数の影の兵団が一斉にゲイレルルに襲いかかっていた。
    しかし、もっと凄いのはゲイレルルの方だった、たった一人に対して、襲いかかってくる数千の兵団を全て、一太刀貰う間も与えずに斬り倒しているのだ。


    ―――ズシャッ!!
    ―――バシュッ!!
    ―――ズドゴシャ!!!


    ほんの数秒の間に、10体以上の影がボロ屑となって吹き飛ぶ。
    ゲイレルルを囲む数千の影は、瞬く間に数を減らしてゆく。


    (相手がむちゃんこ強いなら、こっちは数で攻めろってね、ただし足止めが精一杯だけど)
    (なんで、そこまで・・・・・・・・・・・・)


    影美は、気楽そうにしているが、操っているその数は数千体だ、簡単なわけがない。
    そんなことまでして陽を助けるのは、どうしてなのか、そう問うた。


    (だから、仲間だからに決まってるでしょ)
    (仲間・・・・・・・・・・・・・・・・)
    (そう、同じ目的のために一緒に戦うからこそ仲間って言うのよ、勝手に一人で突っ込んで、勝手に死なれちゃたまんないわ、しかもその命には世界が懸かってると来てる)


    影美は、さらにずずい、と陽に顔を近づけた、唇をチョイっと出せばキスが出来てしまいそうなほど、ほとんどもうゼロ距離だ。


    (いい、よく聞いて!あいつが、あのゲイレルルが言ったのよ、「もし、我に勝てる奴がいるとすれば、それは我と同じ力を持つレーヴァテインの使役者のみ」ってね、つまり!君なら勝てるって事よ!!)


    そして、ドンっと、影美は陽を突き飛ばした。


    (いい?私は君を信じるよ、だから!君も私を信じて、あいつには私がこれからとびっきりの隙を作ってやるから、君はその隙にアイツを倒す!いい!?)
    (・・・・・・・・・・わかった)
    (よし!)


    影美は剣を構えて立ち上がった。
    陽もそれに習い、剣を構えて立ち上がった。










    ゲイレルルは、今、とても高揚していた。


    (これほどの戦いは、ずいぶんと長い間縁がなかったからな・・・・・・・・・・・!!)


    これまでも、魂収集のための戦いの中で、ヴァルキリーに反旗を翻した者はいたが、そのどれもが大した力も得ぬうちにヴァルキリーに戦いを挑み、まさに瞬殺で終わるようなもばかりだった。
    しかし、今回は話が違う。
    神具を解放状態まで持っていく者も珍しければ、持っている武器も揃って凶悪な物と来ている、これほどの戦い、楽しまずにいられようか。


    「さぁ!人間達よ、我を倒せばここから出ることは出来るぞ!!いつまで隠れているつもりだ!!さっさと姿を現せ!!!」


    向こうは、どちらも神具を解放状態にある、つまり2対1だ、それならばこちらもそろそろ全力で解放するべきだろうか。
    そう思い、解放することにした。
    ゲイレルルの周りには、もう既に残り千体ほどしか影の兵隊は残っていなかった。


    「神具・『ガゼルリヨートス』!!!『千烈ちれつ』全能力解放!!!」


    そして、ゲイレルルが、一振り、槍を振った、それだけで、
    千体近くいた影の全てが、一撃で消し飛んだ。


    「さあ、どうした!出てこんのか!?ならばこちらから・・・・・・・・・・・」


    それ以上言い終わるよりも先に、敵、人間の女が姿を現した。


    「レーヴァテインの所持者はどうした?怖じ気づいたか!!」


    そう言って、言い終わると同時に加速する。
    ゲイレルルの能力、それは、先も行ったとおり、加速。
    ただ、陽と違うのは、いくらでも加速状態を持続でき、また連続での発動も可能なこと。
    そして、『千裂』の能力は、これまた単純。


    ゲイレルルは、人間の女に向けて、高速で槍を振るった。
    その瞬間、幾重もの槍撃が、女だけではなく、その周辺の地面までをも粉々にして、吹き飛ばした。
    『千裂』、その名の通り、一度振るだけで、千の裂撃を刻み込む。


    「フン、この程度か!!」


    しかし、すぐにも、また別の女が現れる、それは瞬く間に、ゲイレルルを取り囲んだ。


    「また、同じ事を繰り返すつもりか!!!」


    そう言って、槍を一度、振るう。
    たったそれだけで女が作り出した偽物の影が、まとめて千体近く消し飛ぶ。
    そうして、全てを吹き飛ばそうとしたところで、


    「なっ!!」


    影が、そこかしこから溢れ出し、ゲイレルルを含んだ、この空間全てを、闇が埋め尽くそうとしていた。
    それは瞬く間に、視界の全てを埋め尽くし、なにも見えなくなる。


    「ちっ!!厄介な!!」


    ゲイレルルは、ただ闇雲に、全方向へ向けて『千裂』を放ち、影を消し去ろうとするが、『千裂』では影を払うことは出来なかった。
    結局ゲイレルルは影を払うことを諦め、何が起こっても対処できるように、全方位に警戒して、ただ時が過ぎるのを待つ。


    「ッ!!」


    敵の攻撃が来た、それも、足下から。
    多数の影が触手状にうねり、ゲイレルルの足に絡みつこうとする。
    ゲイレルルは影の茨を槍で全て切り払うが、すぐに新たな茨がゲイレルルの足に絡みつこうとする。


    「チッ!!」


    ゲイレルルは、影を払うことを諦め、大きく跳躍し、上空へ逃れる。
    その瞬間、ゲイレルルを覆い隠していた影は、全て下方へ移動し地面を覆い尽くす、そしてそれらの影は一斉に刃となってゲイレルルに襲いかかった。


    「初めからこれが狙いか!?」


    上空では、いくら速く動けようとも、そもそも身動きが取れない。
    無数の影で出来た枝や茨や刃が、全てゲイレルル目掛けて殺到する。
    しかし、ゲイレルルは、冷静に、槍を構え。


    「なめるなっ!!!」


    裂帛の気合いと共に数千の槍撃を地面を覆い尽くす影にに向けて解き放った。
    いくつもの枝が、刃が、ゲイレルルの槍に打ち砕かれ、消し飛ぶ。
    ゲイレルルの槍に撃ち抜かれた影は、次々と霧散してゆき、ついには地面が見えるまでに、吹き飛ばされた。


    「フン!この程度で我を追いつめられると思うな!!」


    そう言って、ゲイレルルは、地面に着地しようとして、地面が丸ごとグニャリと歪み、


    ―――完全にバランスを崩した。


    「なっ!!!!」


    次の瞬間、影を突き破って陽が現れる。


    「今ッ!!!」
    「ああ!!!」


    陽は、完全に体勢を崩したゲイレルルを、深く、完全に斬り裂いた。










    影美がとった戦法、それは相手の目を騙すことにあった、要するに、地面全てを影で覆い尽くし、その上に影で偽物の地面を作ったのだ、そしてゲイレルルが降りようとした場所のみを着地の直前に消滅させ、地面に着地する体勢だったゲイレルルは、完全にバランスを崩した、そういうことだった。


    ―――ザシュッ!!!


    陽の大剣が、完璧にゲイレルルを捉え、その胸を深々と斬り裂いた。


    「ガッ、ガフッ!!!」
    「やった!?」
    「まだだぁ!!!」
    「なっ!」


    ゲイレルルは確実な致命傷を負っていたが、その状態で動き、陽を吹き飛ばした。
    ゲイレルルは、槍を杖変わりにしながらも、なんとか立っていた。


    「ぐ、ゲホッ!まさか、まさかここまでやるとは!思いもしなかった!」
    「ここまでだ、ゲイレルル、諦めて「ヴァルハラの館」の鍵を寄越せ!そうすれば命までは取らない」
    「もう、これ以上、無意味な戦いは嫌でしょう?お願い、諦めて!」
    「ふ、ふふふふふ!我を倒すだけでなく、お前達はこれから「ヴァルハラの館」にまで攻め上ろうというのか?」


    ゲイレルルは、笑い、血を体中から噴き出しながらも、槍を構え直した。


    「ええ、その通りよ!だからこれ以上は止めて!!本当に死ぬわよ!?」


    しかし、ゲイレルルは、影美の静止など気にも止めず、言った。


    「ふふ、「ヴァルハラの館」には、我よりも強い者がまだまだいるぞ?それでもゆくか?」
    「ああ、返して貰わなきゃならない物があるからな」
    「ええ、ある人からの頼み事をかなえるためにも、絶対に」
    「そうか、よかろう、ならば我が全力を持って、貴様等がヴァルハラに行き着く資格があるのか、試してやろう」
    「!?」
    「!?」


    陽と影美は、ゲイレルルから放たれた、今まで感じたこともないほどの殺気に思わず、剣を構える。


    「ゆくぞ!我が最強奥義!!受けてみよ!!!」










    ゲイレルルは、体中から血を噴き出しながらも、槍を構え、大きく振りかぶった。
    陽と影美は、互いに、残る全ての力をそれぞれの剣に込め、待ち構えた。


    「『千裂』・『無閃槍技』!!!!!」


    ゲイレルルは、超加速化された状態で、一振りで千の槍撃を与える『千裂』を千回、全身全霊を賭けて解き放った。
    千かける千、百万の槍撃が、陽と影美目掛けて襲いかかる。
    陽と影美は、一瞬互いに見つめ合ったあと、


    「・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・」


    ―――コクン。


    頷きあった。
    陽と影美は、剣を交差して、


    「「負けるかぁああああああああああ!!!!!!!!」」


    二つの力、陽の『炎神』に集う白い炎が、影美の『影月』に集う黒い影が、一つに集まっていく。
    そして、


    「「『炎神』、『影月』、『影炎双剣』!!!!!」」


    二つの力が、同時に、一つの巨大な力として、解き放たれた。
    百万の槍撃と、白と黒の炎と影とが、正面からぶつかり合った。


    「ハァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
    「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
    「やぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!」


    炎と影が、無限にも近しい槍と、正面から、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    そして、




    ―――――槍が、折れた。










    炎と影とが、槍を飲み込み、へし折り、その後ろのゲイレルルを消し飛ばして、そして、完全な静寂が訪れた。




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・勝った?」


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん」




    ――――やったぁ!!!!!!



    影美が、歓声と共に陽に抱きつき、陽はそれを支えることに失敗して、地面に倒れ込んだ。

引用返信/返信 削除キー/
■541 / inTopicNo.26)  ロキ編 それから
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:41:32)
    そこは、某街の総合病院。
    とある集中治療室に一人の女の子がいた。


    ―――ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・


    特有の連続した機械音が、その女の子の心臓がまだ動いていることを証明する。
    それを、二人の同年代の少年少女、兄と姉と言えば通じそうな二人が、じっと見つめていたが、やがて少女の方が病室の外へ出て行った。
    しばらくして、少年は女の子の側に歩み寄り、


    「ロア、待っていてくれ、必ず帰ってくるから」


    それだけ言って、軽く髪を撫でてやると、少年は病室をあとにした。
    病室の外には、先ほどの少女が、待っていた。


    「いいの?」
    「ああ、いいんだ・・・・・・・行こう」
    「そう」


    少年と少女が完全に立ち去り、病室には一定の機械音だけが残された。










    都市、連続破壊事件。


    これが、現在日本中を震撼させている謎の事件である。
    それは、いくつかの街で発生している完全に原因不明の建造物、建築物が次々と破壊している事件である。
    日本政府は、テロ攻撃の可能性を考慮し、国家非常事態宣言を達し、警察、自衛隊を常時配備してこの謎の破壊事件にあたらせるも、物的証拠や、原因の究明に繋がる物は発見できず、現在も原因の究明に全力を挙げている。

    また、某県某市においては、多数のビル群倒壊が発生し、死亡、重傷、行方不明、意識不明の重体等、多数の重軽傷者が出たため、その事件が起こる前日に行方不明となっていた10名の人間の安否はそれらの事件の陰に隠れ、世間的に有名になることはなかった。










    ―――ガチャリ。


    病院の屋上にあるドアを開ける、本来は飛び降り防止のために、鍵がかけられているはずなのだが、鍵は掛かっていなかった。
    むろん、偶然ではない。


    陽と影美が、そのドアを抜け、屋上の奥に進み出ると、そこには先客が二人いた。


    「もう、いいのかい?」
    「ああ、俺には元々別れを告げるような家族はいないんでな」
    「私は、家にちょっと書き置き残してきたから、たぶん大丈夫」
    「そっか・・・・・・・・一応、もう一回だけ確認させて貰うけど、本当に、いいんだね?これから先、戦いはもっと激しくなると思うよ」


    この男は、聖柄 罪(ひじりづか さい)、陽と影美の戦いが終わって数日後、二人に接触してきたのだった。


    (一緒に、戦ってくれる仲間を捜している、仲間になってくれないか?)


    と。


    「もちろん、とっくの昔に決意なら済ませたわ」
    「同じく、もう今さら、後には退けねぇよ」
    「そう、か、じゃあ、一緒に行こう、宰、来い」
    「・・・・・・・・・」


    もう一人の、やたらと無口な奴、こいつは終野 宰(おわりの つかさ)。
    察しているとは思うが、罪も、宰も、神具の所持者である。
    4人の目的は同じ、「フレイヤ達をこの世界から排除すること」そのために集った。


    「フレイヤを倒し、この世界から追い出すまで、私達の戦いは続く、それでも、きっと、一緒に戦ってくれる仲間はいるはずだから・・・・・・・・」


    影美が言った。


    「だから、行こう!!」


    4人の姿が消えて、屋上には風が一つ吹いた。

引用返信/返信 削除キー/
■542 / inTopicNo.27)  ロキ編 あとがき+いろいろ
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:43:43)
    あとがき

    はい、どうもこんにちわ、こんばんわ、パースです。
    やっと終わったぜ!こんちくしょうめ!!(謎)
    最初に断っておきますが、この話の中で語られている「北欧神話をモチーフにした物語」、は所詮私、パース個人的な見解、様々な憶測や「こうだったらいいなぁ」的考えを加えた見方にすぎません。
    (例:「ロキがレーヴァテインを作り、それをスルトに渡した」という事柄に関しても、かなりの部分が人によって説、論が違うと思われます)
    これが「北欧神話」の全てだなんて語るつもりは全くありませんし、真実は全く違うかも知れませんので、その辺はご本人の判断に任せます。
    なお、「魔剣ロキ」に関しては、ロキが持っていた武器(剣)に特に名前が無いことから私が勝手に考えたものです。

    正直、「ロキ編 last battle」に関しては、ページ数無視ぶっちぎりで、今回の作品中は元より、今まで書いた全作品中でも一番長いんじゃねぇかと思います。
    でも書いてて楽しかったからまぁいいかな、と。

    うーん、そういえば、「『○○』全能力解放!」っていうセリフに関して、説明を入れたかったんだけど、いつの間にか忘れちゃってましたね、しょうがないのでこの場で説明しときます。
    『炎神』や、『影月』は、神具が、それの使役者の魂の形を具現化した物です、ナノで魂が強ければ強いほど、解放された剣も強くなると、そーいうことを言いたかったわけです。
    (元ネタがブリ○チなのは言うまでもなく・・・・・・・・orz)
    ってか、元ネタを上げだしたらキリがないかも知れない、フェンリルなんて「もの○け姫」の白い狼が元だし、『炎神』は、某都市シリーズの小説から、魂が強かったり弱かったりってのは漫画「ソ○ルイーター」から、etc,,,,
    でも、各キャラの性格や、名前に関してはオリジナルです。

    それにしても、ここ、リリースゼロで色々書き始めて半年以上経ちましたけど、初めてのシリーズ完結(いや、まだ続けるけど)もとい一区切り、いやはや、よくやったもんだ。
    私って性格上、戦闘シーンが大好きなんでしょうね、気がつけば作品の半分以上は誰かが殺し合ってます、しかも私の場合1対1が異常に長い、いつまで経っても決着が付かないというこの無茶苦茶な戦い・・・・・・・・・・・皆さんの反応はどうなんでしょ?
    さてと、とりあえず、私のひとりごとはこの辺で終わりとしますが、このページの下には色々と書きたかったりした物が放り込んでありますので、暇な方はついでに覗いていってください。



    小ネタ(ぇ


    「あなたが気にしているのは『レーヴァテイン』の事ですか?あなたが『こいつは凄い神具を持っているから説明も必要ないだろう』って適当なこと言っちゃった」
    「黙れ」
    「はい・・・・・・・・・」
    (ゲイレルルが陽に対して何の説明もしなかった理由。あまりにもシリアスな雰囲気だったため無かったことに)


    「そういえば、『ノートルダムの小箱』っていう神具が作中にあったよな?」
    「ありましたですね」
    「あれってどういう能力だったんだ?」
    「ただ敵の視界を奪って目を見え無くさせる力です」
    「・・・・・・・・・・・・しょぼ」
    (本当は、「相手に恐怖を与えて戦闘能力を奪う」という能力だったんですが、時間的都合上なかったことにしました)



    「無銘刀、あのさ、そもそもなんで北欧が話の元のハズなのにここ日本が舞台なの?」
    『むーん・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・本当のことを言うとわしが作者に消されてしまうゆえ言うわけにはいかんな・・・・・・・・』
    「・・・・・・・・・(汗)」
    (何にも考えてないとかそんなこと言えません)



    「骨羅さん、骨羅さん」
    「なんだい、一端君?」
    「僕たち、一応二日目まで生き残ったんだよね、それなのに扱いがひどいのはどうしてなのかな」
    「それは作者が、私達をもっと活躍させようとしたものの時間がないからって消しちゃったからだよ」
    「・・・・・・・・・・」
    (もっと活躍させたかったこの二人)



    ロキ編の全登場人物
    +その他設定

    メイン

    千里塚 陽(せんりづか よう)♂ 所持武器:レーヴァテイン(神剣)『炎神』
    属性・炎 身長161cm 体重 46kg
    冷静沈着、というより誰に対しても警戒感を持っている。
    陰気、根暗、普通に育っていればただの引き籠もりになっていただけかも知れない。
    両親は、陽がまだ10才の頃に事故で他界。
    その後孤児を扱う施設に引き取られるものの、数年後、脱走。
    その後はバイトなどで食いぶちを稼ぎながら生活していた。
    幼少期のトラウマにより、人の死に対してひどく鈍感である、また人を殺すこと、さらに殺されることに対しても、それほどの抵抗、恐怖を感じていない。
    ただし、親しい者、ある程度以上に心を許せる者に対しては、普通以上の執着を持ち、それのためならば自己を犠牲にすることもためらわない。
    この戦いによって「桐野ロア」という大事な物をヴァルキリーに奪われる、それを取り返すために戦い続ける事を選んだ。


    レーヴァテイン
    そのあまりの威力の高さに「神の如き剣」、つまり神剣と呼ばれる。
    かつてのロキに作り出された神具のうちの一つ、「魔剣ロキ」とは兄弟分。
    いつもは、封印状態にあるため、使役者に対して何もしないのだが、魔剣ロキが(その中に存在する人格が)消滅、もしくはレーヴァテインに対して一切影響できなくなった場合、レーヴァテインに眠る人格が目覚め、「神の如き力」を使役者に与える。
    ただし、その本当の力は、「世界に終焉をもたらす力」であるため、今回の戦いにおいてはまだ全ての力を解放していない。
    かつてのラグナロクの折、炎の巨人スルトは、神剣レーヴァテインの真の力を引き出し、その命と引き替えに世界に終焉をもたらした。
    現在は、再び眠りについている。


    四ノ原 影美(しのはら えいみ)♀ 所持武器:ロキの剣(魔剣)『影月』
    属性・闇 身長160cm 体重 45kg
    明朗闊達、元気娘。
    活動的な服、ショートヘア、スタイルには全く自信が無い。
    母親とマンションで二人暮らし。
    子供の頃から天才的な運動能力を持つ、頭脳の方は・・・・・。
    ごく一般的、「善良」な市民、人が殺したり殺されたり、そんなことを認可できない日本人的考えを持ち、しかもそれを異常空間でやってのけるほどの精神力を併せ持つ。
    よく言えば善良であるが、悪く言えば子供的。
    自分が守りきれる者の幅をまだ知らない、例えそれを越えても、守りたいと思う、そんな存在。
    先天的、天才的戦闘の才能により、生還を果たす。
    「魔剣ロキ」の人格を返してもらうために、次なる戦いの場へおもむく。


    ロキ(魔剣)
    魔剣とは「何かと引き替えに莫大な力を与える剣」のこと、この魔剣ロキの代償は「魂」を任意に魔剣の中へ入れること。
    剣の中へ入れた魂は、剣が傷つくたびに代替してそれを受けるため、時間の経過と共に傷が多くなり、やがて消滅する。
    本来、かつてのラグナロクで魔剣ロキはロキと共に消滅したはずだったが、姿形を変えて、後の世に存在している。
    この剣の中に宿る人格は、比較的善良であり、わりかし何でも教えてくれる。
    この人格が一体何なのか、なぜ消滅せずに後の世に存在するのか、謎が多い。
    現在は、内部の人格のみがヴァルハラ(=神界)へ送られた、また剣の中には影美の魂があるため、影美にとってはもっとも扱いやすい武器となったが、しかしその分影美を傷付ける武器でもある。


    桐野 狼亜(きりの ろあ)♀ 所持神具:フェンリスヴォルグ
    無属性 身長150cm 体重38kg
    小柄、長髪、イメージとしてはゴスロリ・・・・・・・・・・(ぇ
    姉と叔父、叔母夫婦と一緒に住んでいる。
    純真無垢でもあり、思慮遠望でもある。
    陽を望んだことは事実であり、陽が強者であることを知ってもいた。
    どっちもほぼ勘であり、本能と呼べるものを持っていたのかも知れない。
    自分が生き残るために他者を犠牲に出来る人間であり、また自分以外の人間のために自分を犠牲にも出来る人間である。
    しかしそのことを知っている人は少ない。
    現在は、魂が存在しない肉体だけの状態で人間界のとある総合病院の集中治療室にいる。
    傷はほとんど完治したが、魂がないため、植物人間に近い状態となっている。


    フェンリル 『王狼』・蹂躙爪牙
    青っぽい狼。
    『ノートルダムの小箱』『風神スキンゲイル』『糸切刃ハーベリングス』『魔砕剣ダインスレイブ』を使った。
    かつて主神オーディンを飲み込んだ狼、とは別物。
    最初のフェンリルの息子、ハティのさらに息子、つまり最初の狼の孫に当たる。
    最初のフェンリルは「天と地とを飲み込む者」息子のスコールとハティはそれぞれ「太陽」と「月」を「飲み込む者」、であったため、全力でやって人一人を飲み込めなかったこのフェンリルは、実は大したことがなかったりする。
    陽と、解放状態のレーヴァテインにより焼かれ、この世界から完全に消滅した。



    その他

    頬屋 海瀬(ほおや うみせ)♂ 所持武器:グラナステッグ(氷刀)属性・氷
    最初に登場した兄弟の弟の方、「海」なのに弟、兄より強い。
    学校では兄弟共に野球部に所属、エースピッチャーとキャッチャーだった。
    氷の神具を使い、手数で陽を圧倒したが、レーヴァテインの能力を解放した陽により、斃される。

    頬屋 山瀬(ほおや やませ)♂ 所持武器:スキンゲイル(風刃)属性・風
    ちなみに、兄弟で野球を観戦しようと球場に行き、そこでほぼ同時に二個の神具を発見する。
    同じく最初に登場した兄弟の兄の方、風を操る神具を持ち、本当なら結構強くなれたのだが、最初の相手がいかんせんフェンリル、秒殺されてしまった。

    竿裏目 糸目(さおらめ いとめ)♂ 所持武器:ハーベリングス(糸切刃)
    ヤンキーというか不良というか。
    街の裏側でヤクザ絡みの危ない仕事を手掛け、この街におけるクスリ売りの元締め的存在だったが、仕事の最中に本人もジャンキーとなってしまう。
    影美と戦闘になり敗北、その後フェンリルに殺される。

    骨羅 鳴忌瑠(こつら めきる)♀ 所持武器:スカノボルグ(神骨)『死骨鳥』
    かつて、ガールスカウトに在籍していたことがある。
    サバイバル知識や、超基本的な戦闘知識を持っていたが、残念ながらほとんど活用できなかったようだ。
    陽との戦闘により死亡。

    三尾堂 一端(みおどう いったん)♂ 所持武器:ダインスレイブ(魔剣)
    本人は、現在売れっ子のアイドル。
    たまたま休みの日に、神具を見つけてしまったのが運の尽き、全てを失う。
    一人だけ相手を殺しており、色々と吹っ切れていた。
    フェンリルに喰われる。

    名も無き人1
    神具『ノートルダムの小箱』の所持者、戦いが始まってすぐにフェンリルに喰われた。

    名も無き人2
    もはや神具すら決めてない人、初日に御御堂一端によって殺される。

    聖柄 罪(ひじりづか さい)♂
    不明。

    終野 宰(おわりの つかさ)♂
    不明。



    ヴァルキリー

    ゲイレルル [Geirolul(Geirolul)]
    槍を持って進む者の意を持つ。
    神具『ガゼルリヨートス』の使い手。
    ヴァルキリーにおける「第三階位」、つまり全ヴァルキリーの中で3番目に偉い人。
    偉いわりに頭はそれほど良くない、戦闘が専門だったから。
    強さはヴァルキリーの中でも群を抜く。
    人間に対しては冷徹だが、同じヴァルキリー、特に自分と同期のヘルフィヨトルに対しては結構甘い。
    最後は、ガゼルリヨートスの力を全解放するものの、陽と影美の前に敗北する。


    ヘルフィヨトル [Herfiotur(herfiotur)] 
    軍勢の戒めの意を持つ。
    神具『ディアグノーシス』の所持者。
    神具『ディアグノーシス』は、作中まだ出てきていない。
    頭が良く、切れ者。
    落ち着いた雰囲気があり、物腰は丁寧。
    今回の魂を回収するために用意された戦いに疑問を持つ。
    比較的人間に対しても友好的。
    今は戦士の魂が集められる場所、「ヴァルハラ」にいる。

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