Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■525 / inTopicNo.1)  傭兵の
  
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/19(Sun) 15:56:30)
    暗闇の中で閃く剣閃、幾多幾重にも打ち合う刃と刃、怒号の様に響く音。
    夜に支配された闇の中で一人の青年と手に剣を持った魔物が斬りあっていた。
    青年が魔物の振るう剣を受け止め、魔物は青年が突き出した刃を避ける。
    一進一退の攻防の中、魔物は盾を構えた左腕で殴りつける様に薙ぐ。
    されど青年の方もまた、魔物が突き出した盾に蹴りを当てて攻撃を無効化。
    ……戦いは振り出しに戻り、膠着状態が続いていたが、終わりを告げる。
    魔物が意を決して剣を振り上げ、青年に斬りかかると、青年もまた魔物に対し
    て手にした大剣を逆袈裟の形で刀身を跳ね上げ、魔物を斬り飛ばそうとする。

    「……てこずらせやがって。」

    結果は――青年の一撃の勝利。
    青年の大剣の一撃の方が速かったらしく、剣を手にしていた魔物は斜めに斬ら
    れており、両断された魔物はずるりと崩れ落ち、生命活動を停止した。
    魔物の撃破を確認した青年は剣を振るって血糊を飛ばし、清められた聖水を刀身
    に振りかけて浄化し、その後で大剣を背中に差して――ふぅ、と溜息を吐いた。
    剣の腕にはそれなりの自信があったが、まだまだ精進が足りないと確信。
    更なる精進と練磨が必要である、と今回の依頼で戦った魔物を見てそう思う。
    しかも今回は『運良く勝てた』と内心で感じており、次回同じ様な魔物と戦えば
    結果は解らないし、地面で転がっているのは自分かもしれない。
    そうなりたくないし、そうならない為には自己の研鑽と練磨が必要である。
    青年はそう感じていた。

    「まだまだ俺も修行が足らん。……精進しないとな。」

    一言告げた後、青年・クレイル=ウィンチェスターは歩き出した。



    ハンターのお仕事
    第零話「傭兵な兄、魔法戦士な妹」



    市街地から遠く離れたこの場所、人気の無い草原で木剣を構えたクレイル。
    そして長く真っ直ぐな木の棒を構えた少女が対峙し、互いに隙を見つけようと必
    死に目をこらし、意識を集中させ、互いに互いを見つめ――少女が動き出す。
    小柄な体格を生かし、深く、そして低く踏み込んだ後、強く棒を突き出した。
    突き刺さればただではすまない付を青年は軽く捌き、お返しにと切り返しを見舞
    い、少女に向けて木剣を振り下ろした。

    「――っ!」

    強烈な振り下ろしを受け止め、棒と言う特性を生かして剣を払った後、距離を取
    り、一息ついてもう一度攻撃を仕掛けようとして…防御に回るしかなかった。
    クレイルが少女に肉薄し、手にした剣で連撃を見舞い、少女は手にした棒を必死
    に動かして剣撃を弾き、受け止め、捌き、何とか距離を取って体勢を整えようと
    するのだが、クレイルは許さずに追撃を加え、剣撃を加え続け、最後に――蹴り
    で少女手にした棒を払うと、がら空きになった脳天に――ハリセンを振り下ろし
    た。

    「――あぅ……。」

    「以前より攻撃が鋭くなったが――まだまだだな。」

    「うぅ、兄さんが強すぎるの……痛っ。」

    「反論するヒマがあるなら俺を追い抜いてみろ。」

    「うー……。」

    不貞腐れたかのような表情を浮かべ、ハリセンで叩かれた頭を撫でつつ兄を睨む
    のだが、問題の兄はドコ吹く風、と言った表情で妹の視線をさらりと受け流し、
    ハリセンをどこかに仕舞い込んだ後、手を妹の頭の上に置き、優しく撫でてやる。

    「……でも、何で私を叩く時はハリセンなの?」

    「お前、真面目に木剣で頭を殴られたいか?」

    「殴られたくないけど……ハリセンも嫌。
     何か悲しくなるから……。」

    「悲しくなりたくなければ強くなれ。」

    そう言ってペシペシと妹の頭を再び取り出したハリセンで軽く叩いていると、不貞
    腐れた少女はそっぽを向き、ついでに頭を叩いていたハリセンを手で払った。
    その瞬間に兄に対して棒の先を突き出すのだが――不意打ちの突きはあっさりと回
    避されてしまい、返す刀で少女の頭には今一度ハリセンが振り下ろされる。
    草原にとても良い音が響き渡った……。



    *自宅

    朝の訓練(もといシゴきとも言う)が終わった後、二人は根城にしているボロッちい
    一軒家へと戻り、軽く朝食を取り(なお、食事は妹が担当している。)、それぞれの
    用意、クレイルは装備を整えて傭兵ギルドへと赴き、目ぼしい依頼が無いかどうかの
    確認を行い、妹は市内の魔法学校へと行く準備をしていた。
    妹――ファリルは白を基調とした制服を身に纏い、手にはカバンを、そして――杖。
    淡く輝く白銀の杖を持ち、玄関へと向かい……。

    「さて、忘れ物は無いか、ファリル?」

    「兄さんこそ……忘れ物、特に傭兵ギルドの認定証は?」

    「確認した。問題ない。」

    「うん……こっちも問題ない。」

    忘れ物がない事を確認した後、互いに互いの顔を見て―――

    『『行って来ます』』

    そして、二人の一日が始まる―――。











    <言い訳とも懺悔とも>
     初めまして、そうでない方はお久しぶりです。ロボットもファンタジーも愛する者です。
    HNが長すぎるので『ロボファン』と略して頂いて結構です。……それ以外も問題はありま
    せんが……。
    さて、SSと言う物は初めてであり、幾分見難かったり、おかしい所があると思います。
    キャラはキャラでまんま兄、クレイルはダンテ、妹は――某・魔法少女アニメに出てくる
    金髪ツインテールの素直クール系美少女がモデルとなっている等、どこから取って来た様な
    捻りの無いキャラ達ですが、これから頑張って動かし、SSを終わらせたいと思います。
    SSを打つ者として未熟ですが精進していきたいと思いますので、どうかよろしくお願い
    致します。
引用返信/返信 削除キー/
■526 / inTopicNo.2)  ハンターのお仕事 <追記>
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/19(Sun) 16:00:06)
    す、すみません。操作をミスしてタイトルが中途半端のままで投稿しました。
    こちらに記載しているタイトルがそのままSSのタイトルになります。
    申し訳ございません、削除キーも登録する前にエンターを押してしまったので
    削除する事も、修正することも出来ません。……誠に申し訳ございません。

    <PS>
     某魔法少女アニメの金髪ツインテール系美少女、が誰か解った方が居ましたら
    問答無用で同志とみなします、お友達になりましょう(帰れ
引用返信/返信 削除キー/
■532 / inTopicNo.3)  ハンターのお仕事第一話
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/21(Tue) 08:32:10)
    2006/11/21(Tue) 08:38:49 編集(投稿者)
    2006/11/21(Tue) 08:37:31 編集(投稿者)

    「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」


    仄かに白く輝く両腕の拳を握りこみ、腰を引き、そして捻り、右腕を引く。
    前方から迫ってくるのは訳の解らん――獣人間、その手には棍棒を持った『敵』の姿。
    ダークグレーの……スーツ、この世界では馴染みの無い服を着込んだ青年は咆哮を上げる
    と共に限界まで引いた拳を弾丸が如く突き出し、輝く拳は獣人間の鳩尾を貫いた。
    瞬間、拳の光が貫通したかのように敵の背中を突き抜け、それと同時に吹っ飛ぶ敵。
    数m程吹き飛ばされた獣人間は数秒ほど痙攣した後、動かなくなった……。


    「!?、や、やばッ!?ちょ、マジでぇ!?俺、手加減した筈なんだけどっ!!」


    動かなくなった獣人間――いきなり襲い掛かってきては『金を出せ』等と恐喝してきた
    不届き者をシバき倒したのは良いが、このまま天に還られてしまっては犯罪者になって
    しまう、と思った青年は青ざめながら急いで獣人間の下へと駆け寄り、呼吸を確認。
    ……白目を向いて口から泡を吹いているが、脈拍自体は正常で力強く脈打っている。
    死んでいない事に安堵し、そして自分に襲い掛かってきた罰として――胸ポケットにあ
    った油性マジックを取り出し、そのまま獣人間の額に『肉』と書いた後、何もする事無
    く(既にやっているが気にしない)、青年は……人気のある場所を探して旅立つ。


    ……さて、この青年、この世界に馴染みの無いスーツを着た青年の事について話そう。
    青年の名は『空原 勇』、こことは違う世界『地球』から呼び出された青年であり、何
    故呼び出されたのかは全く解らない、神のみぞ知る事実――いや、神すらも予測不能な
    事態によって呼び出されたのかもしれない。
    剣や魔法、ましては魔物などが一切無い世界から剣と魔法、魔物が現実として存在する
    世界に呼び出された青年は無力であり、何度も何度も魔物に襲われて命かながら逃げ出
    して来て、路銀も無い(地球で使っていた紙幣や硬貨はあったが)ので仕方なく、手ご
    ろな場所を見つけて野宿すると言う原始的な生活を送っていたのだが、ある日彼は魔物
    の集団、群れで行動する狼の様な魔物の集団に取り囲まれてしまい、絶体絶命の危機に
    陥ってしまう。

    彼は呪った。自分の運命を、自分自身をこの世界に呼び込んだ存在を、そして神を。
    俺が何をしたと心の中で思いっきり叫び、俺に一体何を求めているのだと慟哭する。
    そして魔物の一匹が彼に飛び掛かり、顎を開き、鋭く強靭な牙を彼の喉に突き立てよう
    とした時、彼は両手に焼け付くような痛みを感じ、何事かと両手を見る。
    ……するとどうだろう、彼の両手は仄かな白い光で包まれており、同時に拳から全身に
    何かの力が行き渡る様な感覚に見舞われ、更に全身が軽くなった様な感じまでしてくる。
    青年は無意識の内に飛び掛ってくる魔物に向かって拳を突き出した。
    突き出した拳が魔物の顔を打った瞬間、魔物は悲鳴だか何だか解らない叫びを上げて…

    吹っ飛んだ。そう、文字通り吹っ飛んだのだ。

    呆気に取られる青年、力の差を悟った魔物達は一目散に退散して―命を拾う事が出来た。
    それ以来、とにかく魔物とは極力遭遇しないように行動し、万一遭遇してしまったら光り
    輝く両腕で殴り、怯ませた隙に退散するなどして……今に至る。
    街を探して街道沿いを歩き続け、夜は洞穴等を寝床に野宿、それを繰り返していた。


    「はぁ……俺は何時になったら人の住む所に辿り着けるのやら。」


    青年、空原 勇の苦悩は続く。だが、彼は顔を上げて歩き出した。……彼方に存在してい
    るだろう、人々の活気で満ち溢れた都市に辿り着ける事を夢見て……道を歩き続ける。




    ハンターのお仕事
    第一話「必然の偶然・1 〜平行時空の旅人〜」




    ここ、学園都市に最も近い場所にある街『アルシオール』の少々外れた所に建つ一軒家。
    ボロっちぃながらも人が住むには十分な一軒家が建っており、その中では今日も平和に朝
    食の準備が進められており、テーブルの上にはベーコンエッグに、サラダが並び、この家
    の主であるクレイル=ウィンチェスターは新聞を読みつつトーストを一かじりしている。
    その様子を見た妹、ファリル=ウィンチェスターは柔らかい微笑を浮かべ、ハムとチーズ
    をはさんだトーストを皿に取り、それを兄の元へと運ぶ。


    「兄さん。はい、ハムサンド。」

    「ん、悪いな。ファリル。」

    「気にしないで。私が好きでやってるだけだから。」

    「そうか。」


    さくり、とハムサンドを口に運んで租借。……うん、焼き加減は問題なく、ハムの厚さも
    チーズの分量も問題無し、と頭の中でハムサンドに対する採点を行い、テーブルの上にあ
    ったピッチャーを掴み、自分の愛用している湯飲みに水を入れ、そして一気飲みする。
    一気飲みした後、クレイルは自分が食べた皿を台所まで持って行き、ファリルと食事の順
    番を交代し、クレイルが皿を洗い始め、そしてファリルがもくもくと朝食をとり始めた。


    「兄さん、この間お皿一枚割ったでしょ?」

    「……すまん。」

    「お小遣いから引いたから。……もう割らないで。」

    「ぐぅぅぅ……容赦ないな、お前。」


    妹の厳しい財政管理に訝しげな表情を浮かべながら洗った皿を水気を切る籠に入れていく。
    そんな兄の表情を見て再び微笑むファリル。そしてファリルを見て更に不貞腐れた様な表情
    を浮かべつつ、時計を見てみるが――本日が休日である事を思い出し、そして自分も依頼が
    無い事を理解しているので……ふと、頭に考えが浮かんだ。


    「……ファリル、今日は予定あるか?」

    「え……特に用事は無いけど……。」

    「そうか。じゃあ、買い物でも行くか?」

    「!、本当!!」


    ぱぁ、と凄く喜びながら、目をきらきらさせながら確認を取り、すでに爛々気分になっている
    ファリルを見たクレイルは苦笑しながら皿洗いを終えて机の上に座り、再び湯のみに水を注ぐ。
    そしてぐぐーっと飲み干した後、微妙に瞳を潤ませているファリルを見て思った。
    ここまで喜んでくれるのならもっと早く誘ってやれば良かった――と。



    ――アルシオール・市街地

    何時ものロングコートに背中には大剣を背負い、腰には大型拳銃が収まったガンホルダー。
    『お仕事』をやりに行く時の格好そのままの兄に対し、レース等のヒラヒラの装飾が施された可愛
    らしい服を着ているファリル、二人並ぶと何か異様な感じがしないまでも無いが――当人達には
    全く関係ないと言った感じであり、とりあえず仲の良い二人は街中を歩いていた。
    クレイルが行商人の出店で武器類等を眺め、ファリルは年頃の女の子らしく装飾具を見る。
    そしてファリルは並べられていた装飾具の中で一目見て気に入ったイヤリング、小さな十字架を
    象ったイヤリングを見つけて手に取り、買おうと思ったが値段を見て止めた。
    自分の小遣いで買える金額では無いと悟り、元の場所に戻そうとして――。


    「それ、幾らだ?」

    「……え?」

    「欲しいんだろ?幾らだ?」

    「いや、でも……悪いから良いよ。」

    「遠慮するな。……たまには我がまま位言え。
     それで無くても遠慮がちなんだから。」

    「……良いの?」

    「良い。もう一度言う、遠慮するな。」


    ファリルの遠慮しがちな視線を見たクレイルは商人に代金を渡し、綺麗に包装されたイヤリングを
    渡し、再び視線を並べられた武器類に移す。……一方、ファリルの方は嬉しいのか、瞳を潤ませ
    て兄が買ってくれたイヤリングが包まれた小さな紙袋を抱きしめ、なにやら曲刀を手にしてまじま
    じと見つめている兄に視線を向け、小さく呟いた『ありがとう、大事にするから――』と。
    雑踏によって聞える事の無い位の小さな声だが、恐らく気持ちは伝わっているだろうと思う。
    紙袋を抱きしめたファリルは小走りで兄の下へと向かい、目を輝かせながら武器を見ている兄を
    優しく見つめていた――。


    *・*・*


    「……むぅ、人が居る所に辿り着いたのは良いとしよう。
     しかし、働き口が見つからなければ干上がる。
     されどこの英語でも日本語でもない、訳の解らん文字をどう解読しろと?
     ついで言うなれば、解読しないと働き口も、宿に止まる事も出来ん。
     ……うむ、完全な詰みだな。さて、参った参った。」


    街道を歩き続ける事二日間、勇は人の集まる町――ここ、アルシオールに辿り着く事が出来た。
    喜び勇んで、両手を振って働き口を募集している所を見つけようとするのだが…最大の問題。
    そう、彼はこの世界の文字が『全く解らない』のだ。そりゃあ、もう、全くさっぱりと。
    日本語と英語(ディス・イズ・ア・ペン程度)は出来るが、ここの文字は自分が知りうる文字
    や語源とも該当しない、全く未知の文字であり、解析不能であった。


    「……はぁぁぁ……どうするかねぇ……。」


    途方に暮れる勇。さんさんと頭上に輝く太陽の光が今は悲壮感を一層掻き立てている。
    ため息をついた後、本当に自分のこれからの身の振り方を考えた……のだが、悪い方向にしか
    考えが行かないし、それを後押しするかの様に『宿無し、金無し、文字読めない』と言う事実
    が付きまとい、更に更に沈んだ表情になる勇。……勇の周辺には負のオーラが立ち昇っている
    だろう。


    「―――どうしたの、そんな所で黄昏て?」


    ずーん、と体育座りで負のオーラを撒き散らしていた所、他意の無い純粋に心配された声を頭
    上からかけられたので、これまた景気の悪い表情で見上げてみた所――優しい笑顔を向ける女
    性の姿があった。……どうやら、勇が座り込んでいる店、見た感じだと道具屋の店員か主らし
    い。


    「ああ、気にしないで下さい。人生の不条理について考えていました。」

    「気にしないでって言われても……私のお店の前で景気の悪い顔をされるのもね。
     ……ひょっとして、訳あり?」

    「訳有りというか、あまりの不条理と言うか何と言うか……。」

    「ふーん……まぁ、中入る?この時間帯、お客さん少ないからさ。」

    「いやいやいやいや!?いきなり素性不明の不審者を中に入れるのは拙いですよ!?
     ……嗚呼、自分で言って悲しいけど俺って不審者なのよねぇ、チクショー!!」

    「君って面白いね。好感持てそう♪」

    「いきなり好感度MAX!?」


    のほほんとした笑みを浮かべる女性、見たところ20代後半位の年齢だろうその女性からとりあ
    えず店(予想通り道具屋だった)の中に招かれ、カウンター近くにあった椅子に座り、出された
    お茶(ハーブティーか何かだろう)をずずず、と飲み干した後、手刀を切り、ごっつあんです。
    と礼を述べた後、一息つく。……そう言えば川の水以外にマトモな飲料を飲んだのは久しぶりだ
    なぁ、と思って再び黄昏る勇。


    「……私はファルミア=エルステン。この店の主ね、一応。」

    「私は空原 勇。就職活動中の専門学校生だったのですが――な、なんて言うべきなのか…。」

    「言いにくい事実でもあるの?」

    「言い難いと言うか、信じて貰えるかどうか解らない事実に巻き込まれ、紆余曲折の果てに
     ここに辿り着き、そして今――ファルミアさんと話をしている状況なんですわ。」

    「ふーん。……ま、良いから話してみなさい?」


    にっこりと微笑まれてしまい、今までの経緯を話さずをえなくなった勇は今までの事を話した。
    まず、自分がここの世界の人間ではない事を話し、ある日突然目の前に光が溢れて気絶したか
    と思えば――気がついた時にはこの世界に居た事、そして両手の拳に訳の解らない力が宿って
    いる事、金も無ければ宿も無い、更には文字の読み取り、書き取りが出来ない事を話した。


    「……随分と波乱万丈な人生を送ってるわね?」

    「波乱万丈過ぎて泣けますわ。……嗚呼、俺の平穏を返してくれぇ。」

    「あはは。……でも、何で文字の読み書きが出来ないのに喋れるの?」

    「さぁ?私にもサッパリですわ。ファルミアさんとか、この世界の方々の言葉は私の耳には
     日本語に――私が居た所の言葉に変換されて耳に入ってきますねぇ。
     んで、私の言葉はこの世界の言葉に変換されてるんじゃないでしょうか?理由は不明ですが。」

    「ふーん……それも神様の御力なのかしらね。」

    「こんな力要らんから俺を元の世界に戻してプリーズッ!!って感じですね。」


    大振りのジェスチャーで悲壮感をたっぷりと表現しながら叫び散す勇を見たファルミアは笑う。
    そして一頻り笑った後、勇のカップにハーブティーを注いだ時、店のドアが開いて客が入ってき
    た様であり、ファルミアは瞬時に営業モードへと切り替わり、勇もまた何故か営業モードへと切
    り替わる。……以前、やっていたアルバイトの時に染み付いた癖が再発したらしい。


    「ファルミアさん、こんにちわ。」

    「あら、エルリスじゃない。いらっしゃい、今日は何が用要りかしら?」

    「ええ、ちょっと家の常備薬が―――っと、ファルミアさん、こちらの方は?」


    店に入ってきた――淡く輝く蒼い髪、童顔気味だが整った綺麗な顔性質の少女、ファルミアから
    『エルリス』と呼ばれた少女はカウンター近くで直立不動で『休め』の体勢の勇について聞く。
    するとファルミアは苦笑しながらも勇に対して自己紹介する様に言った。
    ならば、と勇はエルリスに歩み寄り、再び直立不動の『休め』の体勢になった後、自己紹介を
    始める。


    「どうも、私は空原 勇と申します。先程、ファルミアさんに保護され、ここに居ます。」

    「ほ、保護って……一体、どうされたんですか?」

    「いえ、話して信じてもらえるかどうか解りませんが――」


    そうして勇はエルリスに今までの経緯を話した。ファルミアに説明した時の様に包み隠さずに。
    自分でもギャグとしか思えない電波話を話している、と思っているがエルリスは茶化したりする
    事無く、真剣に勇の目を見て話を聞いてくれている事に好感を持ち、勇も相手が聞き易い様に
    言葉を選び、繋ぎ合わせて話した。自分の体験した全てを。


    「……大変ですね。」

    「ええ、大変ですが――まぁ、どうにかするしか無いですな。」

    「でも、帰る所もお金も無いですし――文字も解らないんですよね?」

    「そうですね。……しかし、家に関しては適当な洞穴見つけて住み着き――」

    「そ、そんなの駄目ですよ!!」

    「だ、駄目だって言われても……宿を借りる金もなければ、仕事も無い。
     挙句、文字の読み書きも出来ない存在ですので……住むならそう言う所しか――」

    「それだったら――」


    エルリスは微笑み、他意の無い純粋な笑顔を向けて勇にこう言った。


    「私の家に来ませんか?」

    「……は?」

    「いえ、ですから……私の家に来ませんか?」

    「……ちょ、ちょっと待って下さい!?い、幾らなんでも無防備すぎやしませんかい!?
     素性不明な不審者もどきをホイホイと家に招くなんて、ご両親が何て言うか解りません!
     ましてやエルリスさんは女の子でしょうが!?少しは警戒しなさい!私は男ですよ!!
     ……嗚呼、自分で言ってて悲しくなったし、さっきと同じ展開だな、オイ!?」


    申し出はとてもありがたいし、出来る事ならば縋りたい気分に駆られるが―世間はどう見るか?
    と言う問題を考えて遠回しに断った。……自分一人なら別に何をしようが自己責任で済まされる
    のだが、彼女の家に転がり込んで何か問題を起してしまえば彼女の家に降りかかってしまう。
    ―――彼が別に何も感じなければそれも良いのだろうが、彼はそれを良しとしない人間だった。
    だから勇は当たり障りの無いように、遠回しに申し出を断った。


    「……大丈夫ですよ。私達の家、私と妹の二人しか居ませんし……」

    「……あ」

    「だから、気にしなくて良いですよ。それに、家族が増えるのは嬉しいです。」

    「…いや、でも――俺、男ですよ?」

    「信じてますし、そんな事をする人じゃないって解ります。」


    微笑まれながらこんな事を言われれば――誰でも断るわけには行かない。
    勇は説得を諦め、そしてエルリスの好意に感謝しながら申し出を受けいれる事にした。


    「……そこまで言って下さるなら、ご厄介になります。
     ただし、月々の家賃だけは支払わせて頂きたい。
     ただ飯喰らい、家の寄生虫と化すのだけはこちらが御免被りますので。」

    「え、えと……それだけで良いんですか?」

    「何を仰る。これでも足りない位ですが?」

    「あ、あははは……。」


    こうして、エルリスの家に一人、家族が――異世界からの旅人が住み着く事になりました。
    運命の神が何の因果か、はたまた手違いで呼び込んだ青年はこれから掛け替えの無い仲間達
    と出会い、そして仲間達と共に運命の神がホイホイと放り投げる試練に泣く泣く立ち向かいます。

    そんな彼にどうか祝福あらん事を……。








    <後書きとも言い訳ともとれない何か>
     まず、始めに――このSSの主人公は『クレイル』です。勇はあくまでサブキャラの一人です。
    それと今回、リリース・ゼロの本キャラである『エルリス=ハーネット嬢』にご出演願いました。
    彼女の家に転がり込ませる――と言う方向性で打ってみましたが、いかがだったでしょうか?
    さて、次回ですが……問題の異世界人とエルリス嬢、そしてクレイルとフェイト…いや、ファリルと
    の出会いを描きたいと思います。それでは、次回の後書きでお会いしましょう、失礼します。

    …ちなみに、勇の元ネタは『暴力反対!でも、悪人ならいいだろ?』が謳い文句の素敵ゲーム。
    『GODHAND』と言うゲームの主人公です。……馬鹿馬鹿しいまでに面白いゲームですので、お
    金とお時間があるなら、やってみるのも一興かと思われます。

    <PS>
     エルリス嬢の希望CV、どんな方が似合うと思われますか?
    ちなみに、私は『新谷良子』さん、『後藤沙緒理』さんの声に脳内変換しています。(何


引用返信/返信 削除キー/
■534 / inTopicNo.4)  ハンターのお仕事第二話
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/22(Wed) 12:12:12)
    ―――アルシオール市街地


    「兄さん、道具類とか常備薬、買わなくて良いの?」

    「常備薬はまだあるが――そうだな、仕事用の道具は在庫が厳しいな。
     ファルミアさんの店に買いに行くか。」

    「うん、そうした方が良いよ。」


    手に大きな荷物、食料から仕事用攻撃アイテム、様々な物が詰まった紙袋を手に兄妹は歩く。
    クレイルは何時もの標準顔、仏頂面で無愛想な表情で攻撃アイテムが詰まった紙袋を持つ。
    ファリルは兄の横顔を見ながら微笑み、笑顔で食料の詰め込まれた紙袋を持って歩く。
    右と左の温度が明らかに違うが、これが『何時もの』光景であり、変わる事は無い。
    そして、今度は仕事用のアイテム――攻撃用ではなく、回復用のアイテムを買い足しに行く
    ためにファルミアの店、普通の一般家庭で使う常備薬から傭兵御用達の回復アイテムまで幅
    広く扱う店に赴く。
    ――しばし歩いた後、目的の店には辿り着くのだが、中から話し声が聞こえて来たので、取
    り込み中かと思い、出直そうかと考えるのだが、速めに用を終わらせて帰れば良いか、と考
    えて中に入った。


    「こんにちわ。」

    「お邪魔する。」

    「あら、今日はお客さんが多いわね。いらっしゃい、二人とも。」


    にこり、と何時もと変わらない笑みを浮かべてクレイルとファリルを迎えるファルミア。
    そして二人はファルミアに挨拶した後、必要な物を探そうとして――顔なじみの人物。
    更に見慣れないし、見慣れない服装をした初見の人物。
    エルリスと見慣れない服装の男を発見し、ファリルはエルリスの友人だろうと思う。
    だがクレイルは少々警戒し、もしも、本当に『もしも』と言う時に備えて背中に背負った
    大剣、もしくは腰のガンホルダーに収まっている二挺の大型拳銃を何時でも引き抜ける体
    勢に移行した。


    「ファルミアさん、こちらは?」

    「ああ、その子は空腹 勇って言うの。エルリスの所で居候する事になったの。」

    「ファルミアさんや、紹介して貰えるのは有難いのですが、一文字思いっきり間違えてます。」

    「あら、ごめんなさい。でも、あながち間違いでは無いでしょう?」

    「ひ、否定出来ねぇぇぇぇぇ!!」


    ……とりあえず害意は無さそうだ、とクレイルは判断して半・戦闘態勢を解き、目的の物を探す。
    回復用のポーションを10個、メディテーション(毒消し)を同じく10個、そして武器浄化用の聖水
    を10個買い、後は携帯食料(スティックタイプ、リンゴ・桃・蜜柑の三つの味)を大量に買い物籠
    に放り込み、ふと――ファリルの方を見てみると、少し声は小さい物の、勇と話をしていた。
    どうやら悪い人間では無さそうだ、と認識を今一度改めつつ、買い物籠に放り込んだ品物をカウ
    ンターに持って行き、清算を済ませる。


    「……面白い子でしょう?」

    「まぁ、悪い人間では無さそうですが――」

    「大丈夫よ。あの子は悪い子じゃないわ、目と雰囲気で解るもの。」

    「何か強力な説得力がありますね、ファルミアさんが言うと。」

    「そりゃあね、長年お店の店主をやってるもの。人を見る目は鍛えられてるわ。」


    大振りの身振り手振りを交えた話をする勇、それを見て聞き、笑い、微笑むエルリスとファリル。
    そんな三人の様子を見てクレイルは完全に警戒態勢を解き、カウンター近くの椅子に座り、出さ
    れたお茶をズズズ、と飲みながら会話と三人の成り行きを見守っていた。


    「クレイル君、そのお茶――私が飲む筈だったんだけど?」

    「ぶっ!?す、済みません……。」

    「……まぁ、良いわ。今回は許してあげる。」

    「申し訳ない……気が緩んでしまって……。」


    ズズズ、とお茶を飲み干してティーカップを机の上に置いた後、クレイルは申し訳無さそうに眼を
    伏せ、対してファルミアはニコニコと終始笑顔を絶やさずに異世界の話に花を咲かせる三人。
    そして三人を見て仏頂面から少々軟化した表情になったクレイルを見続けていた――が、次の
    瞬間この場に居た全員の顔が驚愕の表情で固定される事になった。
    いきなり、地震にも匹敵しそうな地響きがしたかと思えば表から聞こえてくる悲鳴や怒号。
    ……何か『良くない事』が起こっているのだと全員は認識し、クレイルは表情を引き締めて装備を
    確認し、勇も話を中断し、そして両手の拳を握りこみ――仮にこの店に魔物が侵入してきた場合
    は自分がぶちのめすと心に誓い、身構えた。


    「……兄さん。」

    「解っている。十中八九、魔物の襲撃だな。規模からして中型から大型にかけてのサイズ。
     それに取り巻きが――かなり居る。……ファリル、解っていると思うが出てくるなよ?
     弱い魔物なら守ってやれん事は無いが、相手や能力が未知数でお前を連れて戦える程
     俺は強くない。」

    「うん、解ってる。……気をつけてね」


    背負った大剣の柄に手を掛けながらドアの開き、外に飛び出すと同時に店の周囲に群る魔物。
    狼の様な風貌の小型魔物、集団戦を得意とする者達との交戦に入り、クレイルは舌打ちすると
    共に背中に背負った得物、竜の頭を模した柄、竜の翼を模したガードを持った大剣を引き抜い
    て構えた。
    瞬間、一匹の魔物が咆哮ながら飛び掛ってくるがコレを一閃、返す刀で脚に噛み付こうとして
    きた二匹目を斬り飛ばし、体勢を崩したのを見計らって顎を開き、鋭い牙を見せながら襲い掛
    かってきた魔物を左腰のガンホルスターに収めた白銀の大型拳銃『クローム』を咄嗟に抜き放
    ち、発砲。頭を吹っ飛ばした。
    ……一分も経たない内に三匹の魔物を仕留めたクレイルは体勢と剣を構え、襲撃に備える。
    自分の後ろには妹や顔なじみが居る店があり、その人達をこの様な奴らの餌にする訳にはいか
    ない、そんな決意の元でクレイルは店のドアの前に立ちはだかり、剣を構えていた。
    ――だが


    (チィ……数が多いな……少しの集団ならば俺一人でもどうにか出来るが―――)


    そう、敵の数が圧倒的に多すぎるのだ。
    クレイル一人に対して敵は集団、10や20では無い位の数が集まってきている。
    ……門の警備兵は何を見ていたんだ、と悪態をつきながらもどう切り抜けるか、この防衛戦を勝
    つための算段を頭の中で立てようとした所、クレイルは咄嗟に剣を振るい、飛び掛って来た魔物
    を両断する。
    どうやら敵は思考する暇すら与えてくれない様であり、クレイルはとりあえず戦いに集中する事
    にする。余計な事を考えていたら――自分がやられる、と判断したからだ。
    思考を完全戦闘モードに切り替えた後、一匹一匹飛び掛ってはクレイルを倒せないと判断したの
    かは解らないが、三匹同時に多方向から魔物達は襲い掛かった。それぞれ違う方法で―。
    一匹は右から飛び掛り、一匹は左から脚に喰らい付こうと走りこみ、三匹目は真正面から喉を噛
    み千切ろうと喉元目掛けて飛び掛った。
    避け切れない、クレイルはそう思い――致命傷になるであろう真正面の魔物を斬ろうと大剣を振
    り上げた所、いきなり着ているコートの襟首を何者かに引っ張られ、後方に強制的に下げられた
    かと思えば……。そこに見慣れない服を着た男、先ほどファリルとエルリスと話していた男が三
    匹を前に背中を向け、脚を振りぬく――俗に言う、回し蹴りの体勢に入っていた。


    「ドラゴンキックで――星になれぃッ!!」


    何だそのネーミングは、と突っ込みを入れた所でクレイルは信じられない物を見た。
    彼が放った回し蹴りをモロに受けた三匹の魔物は文字通りに『吹っ飛んだ』のだ。見事に。
    情けない叫び声を上げながら彼方に吹っ飛んでいく魔物、蹴りを放った脚を元に戻し、構える男。


    「余計な世話だったかもしれませんが――助太刀させて頂いた。」

    「いや……助かった。済まない。」

    「なに、ファリル嬢からも頼まれたのでね。『兄を助けて』と。」

    「……おせっかいだな、アイツも。」

    「良いではありませんか、それだけ愛されてるって事だわな――!」


    男――勇が飛び掛って来た魔物に強烈な鉄拳、光り輝く右手の拳をぶち込んで殴り飛ばす。
    クレイルは同様に大剣を一閃させ、一匹斬り倒した後、素早く拳銃を抜いてもう一匹を撃ち抜く。


    「――俺はクレイル、クレイル=ウィンチェスター。
     クレイルと呼んで構わんし、そんな畏まった態度を取らないでくれ。」

    「了解。……俺は先ほどファルミアさんからも紹介されたが、空原 勇。
     勇、と呼んでくれて構わんよ。」


    二人は一瞬だけ互いの顔を見てニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた後、手を強く叩き合った。




    ハンターのお仕事
    第二話「必然の偶然・2 〜運命の邂逅〜」




    店の入り口を守りながらクレイルが剣を振るい、銃を撃ち、そして勇が鉄拳で敵を吹っ飛ばす。
    逢ったばかりの二人なのに、そのコンビネーションは何故か取れており、互いが互いの穴を埋め
    て隙と言う隙を補い、次々に敵を打ち倒して数を減らしていく。
    クレイルは剣を絶え間なく振るい、銀の閃光が閃く度に闇の獣が一匹、また一匹と数を減らす。
    勇は腕を振り回し、脚を振るい、拳で敵を殴り倒し、蹴りで敵を蹴り飛ばし、吹き飛ばす。
    しばしの間、二人が暴れた後――店の前の敵は一掃され、残った最後の一匹はと言うと―。


    「ううぅぅおぉぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」


    哀れにも素敵パワー全開発動中の勇に後ろ足を捕まれ、全力で振り回され、そのまま彼方に
    放り投げられ、その存在は空の星になってしまった。……何故だろう、一瞬だけ星の様な物
    が強く輝いた。
    そんな様子を見ていたクレイルは一瞬、汗を流すが…気にしない、気にしたら負けだと言う
    事を本能が語りかけてくるので意地でも気にしない事にした。


    「ふぃぃぃ……ここらの敵は一掃したな。」

    「そうだな。残るは地響きの元、親玉だが……」

    「探すと拙くないか?ここが手薄になるし、そこを襲われたら――」

    「その問題が付き纏う――が、どうやら相手から来てくれた様だ。」


    直後、店の前の広場に一匹の大きな魔物、どうやって巨体を支えているのか解らない細い両足。
    そして両足に不釣り合いなほど大きな両腕を持った魔物、俗称・大地喰いと称されるB級魔物。
    『アースイーター』が現れ、殺意の篭った目をギラつかせながらクレイルと勇を睨む。
    クレイルは無言で剣を構えて再び戦闘態勢に移行、勇も一瞬だけ口笛を吹いた後で構えを取る。


    「何、この激しく危険そうな御方は?」

    「アースイーターとか言うB級……結構な大物に当る魔物だ。
     何でこんな所に出て来るのかは不明だが、出てきた以上、始末するしかなかろう?」

    「ごもっともで」


    戦闘開始の合図はアースイーターの咆哮。
    クレイルは大剣を背中に収め、代わりに両手に白銀と漆黒の大型拳銃を構えて速射を行った。
    勇は援護射撃を受けつつ敵に突っ込み、アースイーターの懐に潜り光輝く拳の乱打を浴びせる。
    殴る、殴る、殴る、殴る、とにかくひたすらに敵を殴り続け、一頻りボコった後、右腕を引く。
    そして裂帛の気合と咆哮と共に一際強く輝く拳をアースイーターに叩きこんだ!


    「くたばれや!!」


    ドゴォンッ!!と言うありえない音が響いたかと思えば、アースイーターは―吹き飛ばなかった。
    しかし、轍を刻みながらも数m後ろに下がっている時点で勇の一撃がどれほどの物だったかを物
    語っているが、今回は――敵の方が強靭なタフネスを持っていたのだろう。
    勇は敵を倒せなかった事に舌打ちしつつ、敵の攻撃が来る事を悟り(※喧嘩の経験)、防御しな
    がら後ろに下がると、自分が居た場所をアースイーターの腕が通り過ぎ、横殴りの風を感じた。
    ……あれを喰らったらたまらん、と冷や汗を流しながら勇は素早く後方に下がり、クレイルと合
    流し、アースイーターを如何にして倒すかの算段を相談する。


    「ちぃ、素敵パワーを以ってしても倒せんか――難儀な奴だ。」

    「異様なまでの防御力を持っているが――魔法に対しての耐性が弱い。
     ……言っとくが俺は魔法等使えないぞ。」

    「無い物ねだりは見苦しい……か。地道に二人で撹乱しながら戦うか?」

    「それが今一番の最善策だな。」

    「オーライ、それじゃあ行きますか。化物退治に。」

    「こいつを倒せば街から御礼金が降りる。
     ――飯がグレードアップする事を楽しみに化物と踊り狂う……か。」


    振り下ろされたアースイーターの豪腕を飛び退く事で避け、クレイルは素早く銃を収め、代わりに
    大剣を引き抜きながら肉薄し、そのまま一閃、異常な防御力のためか、深手は与えれなかった物
    のダメージを負わせる事に成功し、更に剣を逆袈裟の形で振り抜いて再び切り裂く。
    勇は勇で振り下ろされたアースイーターの腕の上を走り抜け、そのまま頭上付近に到達すると脳
    天目掛けて光の纏った脚の『踵』、つまる所『踵落とし』を叩き込んで―この化物を怯ませた。
    化物が怯んだのを良い事に勇はニヤリ、と不敵かつ素敵な笑顔を浮かべ化物の頭を踏みまくる。
    ……コイツは怖い物が無いのか、とクレイルは心の中で突っ込みながら剣を振るい続けた。


    「うっるぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


    どぎゃっ!!と一際強くアースイーターの頭を踏みつけ、そして蹴飛ばした後で飛びのく勇。


    「おおおおおおぁあぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」


    大剣の柄を両手で握りこみ、渾身の力を込めて振り下ろし、胸部を切り裂くクレイル。

    普通の魔物であればこれだけの、しかも一人は生粋の戦士、一人は素敵パワーの加護を受け
    た者であり、その二者による猛攻を受ければ絶命しかねないのだが、このアースイーターは
    耐え切っていた。
    大地、と言う名前を冠しているだけあって防御力は凄まじく、多少の攻撃ではビクともしない。
    ……ダメージは与えている様だが、敵の命に関わる様な致命傷を与えれないのが現状である。


    「ちぃ……このままじゃジリ貧だな……」

    「どうしたモンかねぇ……剣も拳もダメ。魔法は使えないから無――」


    直後、アースイーターに向かって光の剣と氷の矢、明らかな魔法攻撃が降り注ぎ、ここで初めて
    アースイーターの『ダメージによる咆哮』が木霊し、魔法を放った人物が二人の下に駆けつける。


    「!!、ファリルッ!!エルリスも……何を考えているッ!!」

    「援護、必要なんでしょう?」

    「だからと言って――何で出てきたんだ!?」

    「だ、だって兄さん達が苦戦してたから――私達に出来る事は無いかって……」

    「ふむ――ならば、先ほどの通り、魔法援護を頼みたい。
     ……って、何で俺は既にこっちの世界に馴染んでるの!?訳解んねぇ!?」

    「訳解らんのはお前だ!!勝手に話を進めて勝手に混乱するな!!」


    最早、場の雰囲気は滅茶苦茶であり、戦場である事を忘れている節すら見受けられる。
    二人を説得しようにも強烈な横槍のお陰で流されてしまい、しかもクレイルが律儀にも突っ込む
    モンだから更に加速的に雰囲気は流されてしまい、今の何とも言えない状況に至っている。


    「まぁ、纏めるなら――二人の申し出は受けるべきだぞ?」

    「勝手に話を纏めるな!?話を進めるな!!完結させるな!!」

    「……す、凄い。クレイルさんがやり込められるの初めて見た……。」

    「兄さんが口喧嘩で負けてる……。」

    「お前らはお前らで早くファルミアさんの店に行け!!」

    「そう怒るな。カルシウムが足りてないぞ?」

    「誰の性でそうなってるか理解して――どぉあっ!?」


    ズドォォォンッ!!と今まで無視された怒りか、魔法攻撃によるダメージの怒りかは不明。
    しかし、アースイーターは完全に怒りを顕にして拳と腕を振り回して四人に襲い掛かって来た。
    咄嗟に勇はエルリスを抱えて飛びのき、同時にクレイルはファリルを抱えて飛びのく。
    ……どうやら、二人もアースイーターの標的に認定されてしまったらしく、追加二名にも殺意
    の篭った眼が向けられていた。


    「……だぁッ!!もう良いッ!!俺と勇が前衛で引き付けるから、二人は魔法援護!!
     これが譲歩だからな!!」

    「素直に魔法援護してくれと頼めば早いのに。」

    「お前、絶対後で殴る!!マジで殴るからな!!」

    「はっはっは。逃げも隠れもするし嘘もつく男だ。逃げ足は速いぞ?」

    「最悪だお前!!」


    ギャーギャー騒ぎながらアースイーターに向かって行く二人――。


    「……あんなに生き生きしてる兄さん、初めて見ました。」

    「そうだね。何だか、勇さんと一緒に居ると『水を得た魚』って言うのかな?
     そんな雰囲気を感じない?」


    エルリスに微笑まれながらそう聞かれ、ファリルは微笑みながら『はい』と答えた。
    ……そして、ファリルは確信する。如何に敵が強かろうとも、今の自分達に『敵は無い』と
    言う事を、そして絶対に勝てると言う事を――。


    「エルリス、ファリル!!援護を頼む!!」

    「ほら、何だかんだで結局は援護を頼んでるじゃないか。」

    「お前は黙ってろ!!」

    「あーあ、怒られちった。嗚呼、俺の硝子細工の様に繊細な心は深く傷ついたよ。」

    「良いから黙れ!?」


    二人は顔を見合わせて微笑んだ後、凸凹コンビを援護する為に魔法の詠唱に入った――。








     
    <後半のグダグダっぷりに泣きつつ後書き>
     ……はい、今回のお話ですが、サブタイトルをつけるなら『空原 勇、大暴走』です。
    前半はマダマダ真面目なキャラだったのですが、後半になればなるほどネタキャラとして
    の頭角を現しだし、仕舞いには主人公すら手玉に取る破天荒っぷりを発揮しています。
    ……ええ、彼はこれからクレイルと共に凸凹コンビとして共に戦って貰おうと思ってます。
    そして、クールなイメージがぶっ壊れたクレイル、主人公の癖に動かしにくいキャラです
    が勇が絡むと彼に負けず劣らずのネタキャラと化してしまいます。

    次回は――4人……いえ『5人』での初めてのボス戦を描きたいと思います。
    まぁ、恐らく五人目が誰であるか、予想が付いていると思われますが…それでは、失礼します。
引用返信/返信 削除キー/
■536 / inTopicNo.5)  作者自身が暴走した三話
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/24(Fri) 16:22:56)
    ハンターのお仕事
    第三話「必然の偶然・3 〜漆黒の翼〜」



    「サンダーソード!」

    「アイシクルボルト!」


    ファリルが掲げた白銀の杖『クラウストルム』の周囲に無数の光の剣が生み出される。
    同様にエルリスの手に浮かぶ魔方陣からは氷の矢が生成され、放たれるのを待っていた。
    ファリルが白銀の杖を振るい、エルリスが手を押し出した瞬間、力を持った言葉で作られ
    たそれ等は前方で暴れているアースイーターへと迫り、光の剣と氷の矢は突き刺さる。
    光の剣は突き刺さった瞬間に紫電を放ちながら爆裂、氷の矢は燐光を放って砕け散った。
    防御力が高いアースイーターはクレイルが述べたとおり、魔法攻撃に弱い。
    そしてそんな者が魔法で攻撃されると――たまったモンでは無い。
    アースイーターは咆哮をあげ、魔法を放った二人を抹殺せんと脚を踏み出した瞬間――。


    「まぁ、そう慌てなさんなって、お客さん。」

    「茶も菓子も無いが――打撃と斬撃をくれてやる。」


    瞬時に勇とクレイルが迫り、二人で容赦の無い斬撃と拳による一撃をぶち込んだ。
    魔法攻撃に加えて破壊力満天の拳に剣の打撃を喰らったアースイーターはよろめいた。
    勝機見出したり、と感じた二人――クレイルは一呼吸して剣を構え、勇は右腕を引く。
    アースイーターは体勢を立て直すと同時に二人に向かって右腕を凪いだ。


    「……トドメ決めて、ファリル嬢に格好良い所、見せてやれよ?」

    「!、お前!」


    勇はそのままアースイーターの振るわれた右腕に全力の拳を撃ち、吹き飛ばす。
    だが、アースイーターの強烈な腕力を迎撃した勇もまた、衝撃によって倒れてしまう。
    ――クレイルは勇に目線を送り、勇は上を向いた親指を突き出し『行け』と合図する。
    大剣の柄を両手で握りこみ、裂帛の気合全開の咆哮を上げ、クレイルは走った。
    対するアースイーターは自分を抹殺せんと向かってくる敵を倒すために左腕を薙ぐ。
    薙ぎ払う様、叩き付ける様に振るわれた左腕を体を捻る事で回避し、そして回転する
    様に両手で持っている大剣を振るい、アースイーターを――『両断した』
    胴体を横一文字に切り裂かれ、二分割された敵は断末魔の悲鳴を上げ、鮮血を――
    『一滴も出さず、その姿形も、影も消えた』のだった。


    「なっ!?」

    「……ジーザス。化け物が綺麗さっぱり消えちまったよ。」


    よっこらせ、と言った感じで立ち上がり、スーツについた埃をハタき落としながら勇
    は呟き、クレイルは大剣を手にしたまま『信じられない』と言う表情で硬直する。
    ――魔物・アースイーターを倒したのは良い、だがその死に方が余りにも『不自然』
    しかも街中にこんな中級レベルの魔物が突然現れる事自体が既に不自然であり、本来
    ならば門番達が食い止めたり、町中に避難勧告なりを出したりする筈なのに……。
    このアースイーター、そして先程の魔物の集団は突如として町に現れた。
    クレイルは頭を振るい、気分を落ち着かせた所でそれらの事を考えた結果、一つの答
    えに辿り着き、再び剣を構え、何時でも戦闘に移れるようにした。


    「どーしたよ?敵は―――」

    「召喚師(サモナー)だ。」

    「は?」

    「近くに召喚師が潜んでいる。……アースイーターを呼び寄せた敵だ。」

    「………」


    クレイルの一言を聞いた勇も拳を握り、背広のボタンを外し、ネクタイも緩める。
    こんな馬鹿な事を仕出かした奴が他に居るならば引きずり出してボコる。殴る。
    そう言う意思を込めた表情で敵を発見次第、素敵パワーで夜空に星に変えるべく
    構えを取っていた。


    「に、兄さん……さっきの敵は……兄さんが消し去ったの……?」

    「違う。残念だが魔物を綺麗さっぱり消し去れる力は持っていない。
     …アースイーターは倒したが、この付近にアースイーターを呼び出した敵。
     高等レベルの召喚師が潜んでいる筈だ。」

    「え……それじゃ!」

    「ああ、まだ戦いは終わってな―――エルリス!頭を下げろ!!」

    「へ―――きゃああッッ!?」


    エルリスに叫び、おっかなびっくり頭を押さえてしゃがみ込んだ瞬間にクレイルは
    素早く引き抜いたオブシダンを発砲し、視線の先にある建物の影に銃弾を撃ち込む。
    兄の様子を見て固まるファリル、涙目になりながら銃撃が終わるのを待つエルリス。
    オブシダンのマガジンカートリッジに収められた計12発の弾丸を撃ちつくす。
    そして、12発目の空薬莢が地面に落ちた時、『敵』の姿が現れた。

    白い外套に身を包み、両手の指全てに指輪をはめた貴族風の男。

    だが、放つ雰囲気は『人』では無く、限りなく魔に近い。

    その様な得体の知れない魔術師風の男が建物の影から現れ、クレイル達に拍手を。
    『良く気がついた』と言わんばかりに拍手を送り、それを見た全員は身構える。
    クレイルは剣を、勇は拳を、ファリルは杖を、エルリスは魔方陣を展開した。
    ……目の前の男が何かした瞬間に即座に攻撃に移れる様に、と。


    「いや、素晴らしい。気配を絶つ魔法を使用したのに気づくとは。」

    「……何者だ?何故、この街に魔物を放った?」

    「申し訳無いが仕事の守秘義務に引っかかるので答える事は出来ない。
     ……ただ、そうだな。気配を消した私に気づいた褒美に一つだけ。
     一つだけキーワードを喋ろう。メモするなり何なりすると良い。」


    そう言って男は一言呟いた。


    「『天使』―――かつて、魔科学の粋を集めて作られた人造兵器がここに居る。
     そんな事を言われたので調査の為、炙り出しの意味を込めて魔物を放った。
     ……おや、いかんいかん。どうも私は喋り出すと余計な事まで喋ってしまうな。」

    「天使――だと?」

    「そう、白き翼を携え、暴力的な魔力を以って如何なる物を排除する破壊の権化。
     古より伝えられる最強の人造兵器、コードネーム『セラフィム』」

    「馬鹿馬鹿しい……そんな夢物語が実在してたまるか。」

    「――――ところが、存在しているんだよ。君の『目の前に』」


    クレイルはその一言を聞いて目を見開くと―ニコニコした白装束の召喚師が居る。
    ……確かに、アースイーターや魔物達を突然、前触れも無く街中に召喚出来る程の
    魔力を持っているのも、目の前の男が言う『天使』であるならば理解できる。
    だが、目の前の男は伝承で伝えられる天使の様に白い翼は持っていない。
    なにより―――


    「アホかぁぁぁ!!!お前が天使等認めん!!天使って言うのは可愛い女の子
     じゃないと名乗る事を許されん!!野郎の天使等要らん!邪魔!不要!!
     天使を名乗って良いのはこう言う子の事を言うんだ!!覚えとけ!!」


    ……見事に話の腰、そして張り詰めた空気を勇が台無しに、そしてぶっ壊した。


    「……いきなり話の腰を折って、私の存在を否定しないで欲しいが?」

    「うっさいわ!お前は何も解ってない!天使ってのはここに居るエルリス嬢。
     そしてファリル嬢が名乗って初めて納得されるし、この二人こそ白い翼は
     良く似合う!!アンタは美形だが、野郎って時点で論外だ!」

    「……ファリル、エルリス、頼むからあの馬鹿を止めてくれ。」

    「ご、ごめんなさい。多分、無理……。」

    「うん……兄さん、私も止めれそうに無―――」


    論点がずれまくった低次元、低レベルの会話(?)を行っている最中、ファリルは
    自らを『天使』と名乗った男を見た瞬間、体は至って正常の筈――なのに、急に
    体が『ドクンッ』と脈打った様に全身が反応し、そして息苦しくなるのを感じた。
    全身から湧き出る冷や汗、急に力が抜けかけている脚、倒れかける体を杖で支えて
    必死にその場に立っているファリル、そんなファリルを見たエルリスは慌てて彼女
    の下へと向かい、体を支えた。


    「……おやおや、無駄足かと思ったら収穫があったか。
     中々どうして運が良い。」

    「――であるからしてお前は認めって、人の話を聞いて――うおぉぁおあッッ!?」


    冷や汗を流しているファリルを見た男は目の前で訳の解らん事をホザいている勇を
    魔法か何かでふっ飛ばした後、彼には眼もくれずにエルリスに体を支えてもらって
    いるファリルの所に向かおうと一歩、脚を踏み出した瞬間に――銀光が閃いた。
    男は咄嗟に身を引き、両手に防御用魔方陣を展開し、迫り来る斬撃―――。
    クレイルの攻撃を捌き、避け、受け止め、何とか無効化にしているが、その表情に
    余裕は無く、徐々に苛立っているかのような表情に変化していった。


    「……お前、ファリルに何をした?」


    クレイルは一言だけ男に聞こえる声で問い、そして大剣を高速で振るう。


    「別に。……私に反応したのは彼女の方で、私には非は無いが?」


    魔方陣で巧みに斬撃を受け止め、受け流しながら立ち回る男。

    クレイルの真っ向からの唐竹割り、一刀両断の一撃を耐え切った後、体勢を立て直す
    べく後方に下がり、今までのお返しに、と言わんばかりに両手に魔力を集中し始めた。
    魔法に疎い者でも『洒落にならない威力』の魔法が組み立てられているのだろう、彼の
    両手の中には膨大な、そして暴力的な魔力が収束され、紫電を撒き散らしている。


    「っ!……エルリス、ファリルを連れて離れられるか?」

    「え……で、でも!勇さんとクレイルさんを置いては―――」

    「良い!早く行け!!こいつは――ヤバイ!!勝てるかどうか解らん!!」


    大威力の魔法を撃たせまい、と男に向かって急速接近、そのまま大剣を振り下ろす。
    クレイルの強烈な一撃は並みのモンスターであれば一撃で両断する威力を秘める。
    しかし、その一撃は男の前に展開された――防御障壁によって阻まれ、攻撃は通ら
    ない。
    徐々に魔法が組み上げられ、濃密な魔力の塊となっていく中、クレイルは焦燥感を
    感じつつ、咆哮を上げながら男の身を守る防御障壁を破壊しようとしていた。
    そして――クレイルがもう一度、防御障壁に大剣を叩きつけようとした瞬間!


    「―――おんどりゃあああああああああああああ!!!!!」


    大爆音を撒き散らしながら吹っ飛んでいた勇が戦線復帰し、障壁に拳を叩き込んだ。
    すると――勇の鉄拳を受けた障壁にヒビが入り、入ったヒビは葉脈の如く広がる。
    ヒビの入った障壁を見たクレイルはすかさず大剣を叩きつけ、障壁をブチ壊した。


    「ッ!!ば、馬鹿な!!」


    驚愕する男の下に向かう二つの影、絶対的な殺意が込められた大剣を振るわんとする
    クレイルが、『ぶちのめす!』と言わんばかりに青筋をこめかみに貼り付けている勇
    が鉄拳を構え、そして二人同時にそれぞれの必殺の一撃を叩き込んだ。
    勇の一撃が収束された魔力ごと男を貫き、クレイルが放った斬撃は手痛いダメージを
    負わせ、空に男の血液が飛び散る。


    「ぐぅぅぅぅッッ!!!貴様等、調子に――」

    「乗ってんのは!」

    「お前の方だ!!」


    直後、勇とクレイルの二人による乱撃の暴風雨が降り注いだ。
    クレイルの大剣が上下左右斜めから襲い掛かり、真正面からは勇の拳が撃ちこまれる。
    二人の容赦ない攻撃が浴びせられている男は次々に手傷を負わされ、防御をする事すら
    許されない状況であり、その体からは徐々に鮮血が流れ出てきていた。


    「……駄目」

    「……ファリルちゃん!」

    「兄さん……勇さん……殺されてしまう……。」

    「え……ど、どう言う事?
     遠目でも解るけど……二人の方が有利じゃない?」


    遠くから二人を見守っていたエルリスはファリルの言っている事が理解できなかった。
    確かに敵も一流の力を持っているのだろう、しかし今攻め手に回っているのは二人。
    敵に傷を負わせているにも関わらず、ファリルは二人が『殺される』と言った。
    ……何故なのだろう、と思うよりも早くファリルがエルリスの手から離れ、よろめき
    ながら二人の下へと歩いて行こうとするのを見て、止めようと思ったが――


    (……えっ!?)


    一瞬、ファリルの背中に三対、計六枚の『漆黒の翼』が眼に見えた。
    もう一度眼をこすり、眼を凝らしてファリルの背中を見てみるが――翼は見えない。
    そして、エルリスは――ただ、呆然と杖に体を預けて歩くファリルを見ていた……。




    「……クレイル、あいつ……何で倒れねぇんだよ……ええい、畜生が……」

    「無駄口叩く暇があるなら……攻撃の手を緩めるな……魔法、使われるぞ…!」


    直後、二人を衝撃と熱風、爆風が襲い、吹き飛ばされた。
    クレイルは受身を取り、素早く立ち上がって大剣を構えなおす。
    勇は受身を取れずに地面へと叩きつけられたが、直ぐに起き上がった。
    ……だが、二人の状態は結構、というよりもかなり酷い状態である。
    ダメージ自体は大した事は無さそうだが、連戦、そして激しい動きを続けた事に
    よる疲労の蓄積が凄まじく、既に二人は肩で息をしている状況だった。
    対する男の方はと言うと――そんな彼らを嘲笑うかのように、傷ついた自分に
    回復魔法を瞬時に唱え、今まで負った傷を『全て』癒し、万全の状態へと戻る。


    「……ま、マジかよ……やっこさん、回復しやがったぞ……!」

    「ち……どうする?」

    「逃がしてくれそうにも無さそうだからな……命乞いしてみ―――」


    二人で相談していた所、勇が再び吹き飛ばされ、更に追撃として放ったのだろう。
    禍々しい黒く輝く魔力の刃が幾重にも倒れている勇に向けて放たれた。
    咄嗟にクレイルは銃撃で魔力の刃を撃ち落そうとするが、それよりも早く男がかざ
    した掌から魔力の塊が発射され、反応する事も出来ずに直撃してしまい、勇と同じ
    く吹っ飛び、地面に突っ伏してしまった。


    「遊びはここまでにしておこう。私も殴られ、斬られて怒っているのでね。
     ……しかし、生身の人間でここまで戦った事に敬意を評し、苦しまずに逝く
     事を許そう。」


    最早立ち上がる気力すらない二人に向けて魔法を放ち、その存在を抹消せんとする
    男は二人を一瞬で屠れるだけの威力を持った魔力を収束し、全身血まみれの二人に
    向かってその手に携えた完全な破壊、圧倒的な暴力を開放しようとしていた。
    ――そして男がクレイルと勇を始末しようとしている所をファリルは発見する。
    声にならない叫びを上げ、杖を放り、必死で走るファリル。
    そのファリルの叫びに耳を傾ける事も無く、眼をくれる事も無く、男は暴力を解放
    し、閃光が二人に迫った。



    ―――自分では二人を助ける事は出来ないのか?

    ―――自分は無力なのか?

    ―――助けたい

    ―――優しくて知り合って間もない人間の為に自分を省みずに助けに行った勇を

    ―――冷たい場所で一人ぼっちだった私を助けてくれた大好きな兄さんを



    『想い』が体中を支配した瞬間、光が周囲に溢れた―――



    「……?……なっ!!?」


    自分と勇を消し去れるだけの破壊の暴力が押し寄せてこない事にクレイルは疑問を
    感じ、眼を開くと――其処には三対の漆黒の翼を携えた……ファリルの姿があった。
    片手で圧倒的な魔力を易々と受け止めれるだけの防御魔法陣を展開し、もう片手に
    癒しの魔力を収束していた。
    ……何が起こっているんだ、と頭の中で思うが思考が付いていかない。
    それだけ、目の前で起こっている事が常識の範疇外であり、しかも何故妹が――。
    ファリルがあの様な翼を背に、そして強烈な攻撃魔法を受け止め切れているのか。


    「……く、くくく……『セラフィム』じゃなく、『ルシファー』だったとは!!
     ひゃははははッ!!!傑作だ!!!最強の人造兵器がこんな小娘だったなんて!!」

    「――――」

    「こうなれば、力ずくでもお前を連れて帰る!!そうすれば私も『あの方』に
     認められ、爵位を与えられるかもしれない!!」

    「――――」


    男は嬉々として、狂気に塗れた笑顔を浮かべながらファリル――『ルシファー』と
    呼んだ存在に次々と様々な攻撃魔法を放ち、投げかけ、死なない程度に痛めつけよ
    うとしていたのだが、その全てはルシファーが展開した魔方陣に阻まれる。


    「―――クラウストルム、モード・EXcaliburで起動。
     我が手元に帰還せよ……!」


    ファリルは左手に収束した癒しの魔力を広域に放射し、気絶している勇とクレイル
    を癒した後、その手に――ファリルが放った白銀の杖『クラウストルム』が飛来し
    て来て、左手に収まると……事もあろうに杖は変形を始めたのだ。
    淡く輝く蒼銀の輝きと共に槍の様な先端が展開し、展開した場所から短いブレード
    状の物が出てきたかと思えば、直後に蒼銀色の透明な刀身が生成された!


    「なっ!?何だよ……何だよソレはぁぁぁぁぁッッッ!!!」

    「―――我が唯一にして絶対の兵装……吾ら天使と同じく、魔科学の粋を集めて
     産み落とされたこの世ならざる武器『魔道兵器』の最終ナンバー。
     それが我が手にある『聖魔の十字架(クラウストルム)』だ。」


    優雅にふわり、と漆黒の翼をなびかせ、両手で蒼銀の刀身を展開しているクラウス
    トルムを構えたルシファーは先程とは一転して恐怖の形相を浮かべながら魔法を闇
    雲に乱射している男の元へと飛翔し、クレイルを軽く超える速度で大剣を振るう。
    蒼銀色の剣閃が閃き、漆黒の翼が舞い、黒き羽が散る中でルシファーは男を斬り続
    ける。……まるで、大切な人を傷つけられたのを激昂している様に。


    「―――大切な者達を傷つけた事、後悔しろ!」


    斬ッ!!と男を上空に向かって切り上げた後、ルシファーは叫ぶ!


    「魔道砲回路接続、ガイドレール展開、エネルギー収束バレルオープン。
     マナ充填率120%、各機関異常無し、周囲への影響――無し!」


    大剣の様な形状を取っていたクラウストルムは大砲へと姿を代え、その砲口に
    魔力が、男が放った圧倒的暴力を『軽く凌駕する程の』魔力が集中し始めた。
    周囲に風が巻き起こり、砲口から凄まじいスパークが荒れ狂い、周囲のブロック
    を破壊して行く。


    「―――バニシングレイ、発射!!!」


    直後、大爆音と共に大地が激しく振動した。
    クラウストルムから放たれた閃光は男を苦も無く消し飛ばし、強烈な破壊の閃光は
    そのまま大気へと霧散し、何事も無かったかのように――消えうせた。
    敵が消えた事を認識したルシファーはクラウストルムを通常の杖の形態に戻した。
    そしてそのまま地面に突っ伏しているクレイルの元へと向かうと……。


    「……ファリル……なのか?」

    「――ファリル、と言うのか。この体の持ち主の名前は。」

    「!」

    「警戒しなくても良い。……この子の大切な人達を傷つけよう何て思わない。」


    ルシファーは優しく微笑み、クレイルを抱き起こし、ついでに大剣も彼に手渡した。


    「……ファリルは?」

    「今は意識共々眠っている。だから――我が出てきた。
     ……純粋で心地よい想いだったな、この体――いや、ファリルの想いは。」

    「?」


    訝しげな表情を浮かべるクレイルに向かって子悪魔っぽい、可愛らしい笑顔を浮かべ
    るとそのまま思いっきり抱きつき、思いっきりうろたえるクレイルの顔を引っつかみ
    引き寄せると……。


    「んぐぅっ!?」


    そのまま――12歳(?)な女の子にキスされました。まる。


    「……ぷぁ……って、な、なななな………!!!?」

    「……これから先、この子に色々な災厄が訪れるだろう。
     だから――この子を守ってやって欲しい。」

    「そ、それはどう言う事だよ……。」

    「……我の口からは言えない。悟れ、にぶちん。」


    ぼかちん、とクレイルの頭を殴った後、再び抱きつくルシファー。
    そのまま頭を胸に押し付け、眼を閉じると――背中の黒い翼が透け始めてきた。
    クレイルは透け始めた翼を見て、ルシファーに何か起きたのではないか、と思って
    眼を向けると―――。


    「疲れたから眠るぞ。……では、またな。幸せ者。」

    「こ、こら!勝手に寝るな!!おい、ファリルはどうなるんだよ!?」

    「……すぅ……すぅ……。」

    「だぁッ!!くそ……今日は散々な日だな、畜生が。」


    兄の胸の中で心地よさそうに寝息を立てているファリルを見たクレイルは苦笑し
    ながら、彼女の金色の髪を梳くようにして撫でてやりながら――抱きしめた。













    <何だこのグダグダっぷりは!?等と思いつつ後書き>
     ファリル天使化は前々から使おうと思ってましたが、出す時を思いっきり
    間違えた様な気がしますし、何か文章に纏まりが無い様な気もします。
    さて、今回新たに増えた――と言うか、目覚めた『ルシファー』様について
    は後々に語って行こうと思っています。ここで言うとネタばれですので。
    尚、彼女の性格は――ファリルが控えめとするならば、ルシファー様はイケ
    イケな感じであり、押しが強く、でも甲斐甲斐しく尽くすタイプです。(マテ

    さて、次回ですが……事後処理と、出せなかった五人目に出て貰います。
    それでは、次回の後書きで―――




    <おまけ>

    「―――大切な者達を傷つけた事、後悔しろ!」


    斬ッ!!と男を上空に向かって切り上げた後、ルシファーは叫ぶ!


    「ディス・レヴ、オーバードライブ!!」


    大剣の様な形状を取っていたクラウストルムは大砲へと姿を代え、その砲口に
    魔力が、男が放った圧倒的暴力を『軽く凌駕する程の』魔力が集中し始めた。
    周囲に風が巻き起こり、砲口から凄まじいスパークが荒れ狂い、周囲のブロック
    を破壊して行く。


    「―――回れ、インフィニティ・シリンダー!!」


    砲口にチャージされたエネルギーの周囲に魔方陣が展開され、そして――。
    ルシファーに重なる様に青い長髪の男、不敵な笑みを浮かべた男の姿が重なる。


    「テトラクテュス・グラマトン―――!」


    魔方陣が一際強く輝き、砲口のエネルギーが解放の時を今か、今かと待っていた。
    男の魂と融合し、長い金髪は蒼に変わり、その瞳に虚空を宿したルシファーは
    トリガーを引いた!!


    「アイン・ソフ・オウル!デッド・エンド・シュート!!!!」



    ……すみません、こんな頭の悪いネタが浮かんだので(何
引用返信/返信 削除キー/
■543 / inTopicNo.6)  第四話です。
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/11/27(Mon) 17:34:27)
    両親は科学者だったが研究だけでなく、私の事も愛してくれた。
    家に帰らない事は少なくなかったが、帰って来た時は優しく、そして
    甘えさせてくれた――優しく、暖かかった私の大切な両親。
    平和で優しくて暖かい毎日が続くと、変わらないと思っていた。
    ……なのに、そんな私の日常は壊されてしまった。
    ある日、家に全身鎧と武器で武装した兵士達が押し寄せ、両親達に
    何かの研究――魔科学だとか、兵器が等と言った事で協力しろ。
    二階に居た私にも聞こえる位の声が聞こえ、そして静寂が支配する。
    だが、次の瞬間に怒号が轟き、男性と女性の悲鳴―――。

    父さんと、母さんの――悲鳴。

    聞きたくなかった、父さんと母さんの悲鳴が聞こえて来た。
    ……怖かった。助けに行きたかった、けど……動けなかった。
    魔法が少々出来る程度の私が出て行った所で何も出来ない。
    だから私はクローゼットの中に、両親が誕生日にくれた杖。
    『クラウストルム』と呼ばれた杖を抱えて、ひたすらジッと
    していた。……悪夢が早く去ってくれる事を祈りながら。

    だが、悪夢は終わらない。

    全身鎧の集団はこの家、様々な思い出が詰まったこの家に火を放つ。
    放たれた火は紅蓮の炎となり、瞬く間に燃え広がり、火の海になる。
    私は紅蓮の火から身を守るため、自分自身に防御魔法を掛けてジッと
    ただひたすらジッとこのクローゼット、母がもしもの時に備えて緊急
    の避難場所に使える様に、と結界魔法を張ってくれたこの中で耐える。

    それから数時間経った後、火の手が収まった頃を見計らって私は外に出る。
    ……そして、私の心は真っ黒い絶望で塗りつぶされ、何も考えられなくなる。
    私が住んでいた家、時に母や父に怒られながらも平和な時を刻んでいた場所。
    様々な思い出が詰まったこの場所は――焼け野原になっていた。
    私は真っ黒になった家に腰を下ろし、そのまま泣いた。
    月の光も無い淀んだ漆黒の空、まさに私の気分その物を表しているだろう。
    とにかく私は狂った様に泣きじゃくり、父さんと母さんを呼び続けた。
    ……父さんと母さんが帰ってくるなら何も要らない。お金も、綺麗な服も。
    だから、だから神様――父さんと母さんを返して、と泣き叫ぶ。

    でも、神様は私の願いを聞き入れてはくれませんでした。

    更に追い討ちを掛けるように夜空は雨を、冷たい雨を嘲笑う様に降らせます。
    すすで汚れた服に雨水が染み込み、私の体温を奪っていくが――構わない。
    このまま死んで、父さんと母さんが居る場所に連れて行かれるなら……。
    そんな思考に支配されかけた時、雨にぬれた私に何か、暖かいロングコートが
    被せられ、疑問に思った私はコートの中から顔を出し、誰が自分にコートを被
    せてくれたのだろうかと見てみると……。


    「心配しなくても良い。俺は敵じゃないし、危害を加えるつもりは無い。
     ……この街に偶然立ち寄っただけのハンターだよ、俺は。」


    口調自体はぶっきらぼうで、少し高圧的な感じはしないまでも無いけど……。
    純粋に私を気遣う暖かさを持ち、その表情も私を落ち着かせようと優しい表情
    で――自分が濡れる事も構わずに、私にコートを被せてくれた男の人が居まし
    た。


    「……何があったのかは察しが付く。
     今は泣いても良い、心が悲しみで押し潰されない様に――泣くと良い。」

    「あ……あああああああああああああああッッッッッッ!!!!!!!」


    神様は私の願いを聞き入れてくれませんでしたけど、代わりに一つだけ掛け替
    えの無い物、お金も、服も、何もかもを失った私を優しく受け入れてくれた人。
    ぶっきらぼうだけど優しくて、そして強くて、私に手を差し伸べてくれた男性。
    純粋に私の事を心配してくれて、一緒に来るかと言ってくれた……兄。
    『クレイル=ウィンチェスター』と名乗った男性と出会わせてくれました。





    ハンターのお仕事
    第四話「必然の偶然・4 〜青い空の下で〜」




    「……嫌な……夢……だったな……。」


    ファリルは気が付き、そして寝かされているベッドの横にあるサイドボード。
    いつも自分が寝る前に読んでいた本等を置く為に購入し、設置してあるソレの
    上に置かれた書置き、少しクセのある――クレイルの文字の書置きを発見して
    手に取り、見てみる。

    『街の修理に駆り出される。恐らく広場に居ると思われる。』

    等と偉い短絡的に事実だけ記載された書置きを見たファリルは苦笑し、起き上
    がると、兄が着替えさせてくれたのだろう寝巻きを……兄が着替えさせて?
    そう考えると体中が熱くなるのを感じるし、恐らく顔も真っ赤だろう事が自分
    でも理解できる。……止めよう、深く考えるのは。
    ファリルは頭を振り、考えるのを止めて――ふと、服の中の自分の胸を見る。


    「………はぁぁぁ………。」


    深くため息を付いた後、ベッド脇に立てかけられていたクラウストルムを手に
    ファリルは兄が居るだろう場所へと向かう。……天気は快晴、真っ青な青空が
    広がっていた。



    ――――広場

    先日の魔物襲撃事件にて街の被害の方は――大して被害は出てなかった物の
    やはり見過ごせない損傷などもあるので、町中の人間が木材・石材を持ち出
    しては加工し、誰の店、公共の物、何でも構わずに手当たり次第に修復作業
    を行って、元の姿に戻そうと頑張っていた。
    ……そして、その中に例の二人、凸凹コンビの姿も当然の如く見られる。
    勇はバカ力を駆使して材木や重たい石材をあちこちに運び、クレイルは大剣
    で木材を寸法通りに切り出し、大小様々な材木を切り出している。


    「……勇、こっちの材木を武器屋の前に持ってってくれ。」

    「あいさー。キリキリ働きますさね。」


    クレイルが切り出した材木を丈夫な麻袋に放り込み、長い材木は抱え上げる。
    結構な重さがあるはずなのだが、当の本人は別に気にする訳も無く、平気で
    抱え上げ、そのまま鼻歌交じりに歩き、目的地へと進んでいく。
    ……先日のダメージが全く残っていないのだろうか、等と思ってみるクレイ
    ルだが、恐らく彼にダメージは残っていないだろう事を悟り、ため息をつき
    ながら自分は大剣を振り下ろし、材木を両断し続ける。


    「おう、クレイル。こっちは運び終わったぞ。」

    「む、そうか。……少し待て、こっちももう直ぐ斬り終わる。」

    「早くしてくれ。……時間があると見なされたら、エルリス嬢に連れ戻される。」

    「……な、何かあったのか?」


    初めて見る勇の苦虫を潰したような、そして滝の様な幅広の涙を流している。
    そんな『異様な』表情を見たクレイルは汗を流しつつ、一応何があったのかを
    聞いてみる事にした。……どうせロクな事ではないだろう、とは口に出さない。
    クレイルがそう言った瞬間、勇は眼を『キュピーン』と光らせ、愚痴る相手が
    出来たと内心で喜び、クレイルが口を開こうとした瞬間に溜まった鬱憤を開放。
    全台出玉大解放!と言わんばかりにマシンガントークを開始した。


    「エルリス嬢ともう一人、双子の妹のセリス嬢とこの世界の言葉について勉強
     してるんだが、教育がメタクソなスパルタでね、ちと参ってるんだわ。
     有難い、確かに有難いが、出される課題を終わらせないと飯のグレードが落
     ちるとか言う激しすぎる程に厳しいオマケ付きでね。」

    「そ、そうか。頑張って―――」

    「こっちは十二分頑張っとるわ!でもなぁ、缶詰でビシバシ叩きこまれれば
     入るモンも入らん!!覚えとるモンも弾みで抜け落ちる!!それで課題が
     出来なければ飯のグレードはがた落ち!昨日はご飯一杯に漬物だったわ!
     ……解るか?解るか!解るくぁッ!!俺のこの気持ちがぁぁぁぁぁ!!」

    「だぁぁぁぁッッ!!解った!解ったから寄るな!暑苦しい!!」

    「解るか!解るんだったらどうにかしてくれ!!俺の食糧事情を解消してく
     れるよな、頼れる相棒、敬愛すべき心の友よ!!」

    「俺に出来る問題じゃねぇだろ!!お前でどうにかしろ、ってか
     何だよ、相棒だの、心の友だのと……俺が何時、そんな風になった!?」

    「何を言う、この間の戦いで互いに背中を預け、死線を越えた仲じゃないか。
     ……そうかそうか、言葉に出すのが照れるからそうやって照れ隠しを?
     ええい、このツンデレめ。」

    「誰がツンデレだ!?」


    ギャーギャーと何やら漫才の様な『何か』が始まり、街の人達は二人に注目。
    下手な漫才師やコメディアンよりも余程面白い二人の言い争いを見て笑う。
    最早、街の住人にとって彼ら二人の漫才的やり取りは名物と化してしまった。
    今では彼らのやりとりを見て『今日も一日が始まったな』等と言う人物まで
    出てくる始末であり、彼ら二人、凸凹コンビは人知れず愛されているのだ。
    二人がいい感じで漫才(?)を繰り広げていた頃、人ごみを掻き分ける人物
    が一人、エルリスと同じく――水色の淡い髪を持った少女が居た。
    人ごみを掻き分け、二人の所に辿り着き、勇が驚愕の表情と共に逃げ出そう
    とした瞬間、少女が振り上げた伝家の宝刀、ハリセンが振り下ろされた。


    「……んふふ〜、ボクと姉さんの愛の詰まった授業を抜け出すなんてね。
     ボランティア活動だから許してあげたけど、何を漫才してるのかな?」

    「くおぉぉぉ、こ、これはクレイルが――」

    「ちょ、ちょっと待て!?何で俺も入ってんだよ!!」


    ずばしっ!ハリセンが再び振り下ろされ、とても清清しい音が響き渡る。
    ……今、こうして勇をハリセンで叩いている少女は『セリス=ハーネット』
    勇の下宿先であるエルリスの家に住み、そして彼女の双子の妹でもある。


    「言い訳しないっ!……ほら、速く手を動かすか家に帰るか選ぶっ!
     はやくどっちか選ばないと、今日の晩御飯はカップ麺にするからね!!」

    「うおおおおッッッ!!?ま、マジすかぁぁぁぁッッ!?」

    「……つきあってられん。」

    「嗚呼、心の友よ!!俺を見捨てるなっ!?」

    「だから、誰が心の友だッ!?」


    結局、本日の勇の晩御飯のグレードは今まで以上にキリキリ働く事を条件で
    守られ、シャカシャカ動き回り、街中の修復作業に多大に貢献したとか…。
    そうやって勇が晩御飯のグレードを落とさない為に奔走している時、クレイ
    ルは変わらず材木を寸法通りに切り出し、黙々と木材を作り続ける。
    ……修理作業に貢献している事には変わりない、地味なだけで。
    そして手元にある材木を一通り切り終えた後、山積みになった材木に腰掛け
    て持参した水筒の蓋を開け、中の冷たい水を一気に喉に流し込む。


    「……もう、ビックリしたよ。学校から帰って来てみれば、街中大騒ぎ。
     へんな獣は居るわ、すっごい魔力が放たれたのを感じるわで……。」

    「こっちは大変だったぞ。街中の人間は避難してたのは良いが……。
     こう言う時に限ってハンターギルドに登録された傭兵が役立たずだ。
     お陰で俺と勇の二人でアースイーターと、それを呼んだ召喚師と戦う
     羽目になったんだ。」

    「へぇぇぇ……凄いね。」

    「そう言えばセリス、お前は?」

    「ボクは町の人の避難を手伝ってたよ?
     ……あ、ひょっとして何もしてないって思ってるでしょ!?」

    「だ、誰がそんな事言った!?」

    「顔に書いてある!!」


    ずびし、とむくれた――されど可愛らしい表情で指差しながら怒るセリス。
    それにムキになって反論するクレイルだが、反論はおろか意見すら聞いて貰
    えずに脳天にハリセンを振り下ろされ、スパーンと綺麗な音が響き渡る。
    理不尽を感じながらも抵抗はしない、抵抗したら余計にハリセンで殴られる
    事が容易に想像できるから。


    「……あ、兄さんに……セリスさん。」

    「お、ファリルちゃんじゃん。やっほー。」

    「……おはよう。」

    「ど、どうしたの?兄さん、凄く不機嫌そうだけど……。」

    「んふふー、あのね、ファリルちゃんがかまってくれないから―いたぁっ!?
     く、クレイル!?今、ボクに向かって材木投げつけたでしょ!?」

    「黙れアーパー娘が。……妹に変な事を吹き込むな。穢れる。」


    ギャーギャーと喚き散らすセリス。半ばキレ気味の対応を取るクレイル。
    二人を見ながらオロオロしつつ、どこか楽しそうなファリル……。


    「おーおー、何時もの如く楽しくやってんなぁ、兄弟。」

    「誰が兄弟だ!?お前の頭は腐敗してるのか!?」

    「甘いな。腐敗を通り越して発酵して――そして熟成されている。」


    そこに一仕事終えてきた勇が現れ、早速と言わんばかりに場をかき回す。


    「……成る程、だから物覚えも悪いんだね?」

    「違うな。エルリス嬢の教え方は丁寧で解りやすいが――セリス嬢!
     あんたの教え方はスパルタ過ぎてこっちの脳みそが追っつかんとです!」

    「えー。」

    「えー、じゃない!何ですか、課題出来なければ飯のグレードが落ちるって!
     酷すぎる!家庭内暴力、ドメスティックバイオレンス、パワーハラスメント!
     ……なぁ、ファリル嬢!ファリル嬢からも何か言ってやってくれ!!」

    「え……えと……頑張ってくださいね、勇さん。」

    「うおっしゃああああ!!ファリル嬢のはにかんだ可愛い笑顔でやる気倍増!!」

    「ちょ、ちょっと!!ボクの時と対応が全っっっっ然、違うんだけど!!!」


    勇がボケればクレイルが、セリスが突っ込み、そして更に勇がボケ倒す。


    「………はぁぁぁ……面倒な連中だな。全く……。」

    「でも、兄さん……顔は笑ってる。」

    「呆れてるんだよ。」

    「ふふっ……そういう事にしておく。」

    「ぐむ……。」


    ……私は大切な物を幾つも失ったけど――その代わり、掛け替えの無い物も得た。
    皆でドタバタと楽しく騒ぎ、たまに喧嘩もするかもしれないけど、仲直りして
    そして絆を深めて行く。……そんな掛け替えの無い、本当に掛け替えの無い人達。
    私の大切な宝物……。


    「みんなーーーーーー!ご飯出来たから食べよーーーーーーっ!」


    エプロン姿でお玉を片手に皆を呼ぶエルリスの姿を見て、その場に居た全員は腰を
    持ち上げ、食事会場となる……エルリスの家へと向かう。


    「……うん。私は……大丈夫。まだまだ歩ける。」


    そう自分に言い聞かせる様に呟き、前で飽きもせずにギャーギャー騒いでいる皆の
    所へと走っていった……。










    <ファリルがフェイトになって悩みつつ後書き>
     さて、戦闘後の事後処理とインターミッション、そしてファリルの過去。
    何やら詰め込みすぎな感じで、再びいい感じでグダグダっぷりを発揮しています。
    一応、これで私のSSのメインキャラが全員出揃いました。女性過多ですが。
    次回からは――本格的にハンターお仕事に入る勇、そしてクレイルのお話を書こう
    と思っています。それでは、失礼致します。

引用返信/返信 削除キー/
■545 / inTopicNo.7)  少々暴走している5話
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/12/02(Sat) 20:15:47)
    机の上には金属製の――機械仕掛けの魔法の杖が転がっている。
    しかも、杖の先端部分では無くて丸い、何の変哲も無い『柄』
    の部分だけであり、心臓部分となるコアクリスタルの部分はと
    言うと……何故か勇が持っており、広げた説明書を解読しなが
    ら散乱しているパーツを拾っては組み上げて行く。


    「……ねぇ、ボクの杖……まだ出来ないの?」

    「待ちたまへ。俺好みの魔法の杖に仕立ててやるから。」

    「それボクのなんだけどっ!?」


    魔科学の解析が進み、魔力の込められた魔法の杖を量産出来る
    様にと、魔科学を応用して生み出された『ユニットスタッフ』
    と言う――俗な言い方をすれば、プラモデル感覚でホイホイと
    ユニットを継ぎ足して、継ぎ足して行く事で強化改造を行える
    事が可能と言う荒唐無稽、無茶無謀を実現させた杖。
    そしてセリスもこの武器を使っていたのだが、杖の改造が面倒
    と言う理由で『素』のままで使っていたが、この間の一件もあ
    り、杖の改造を行う事に決めて――こう言う事が好きそうな勇
    に話を持ちかけたのは良かったのだが……。


    「何と、そんな素敵な物が――良し、この俺が誠心誠意を
     込めてセリス嬢専用の強力な杖を造ろうではないか!」


    と、この様にのたまい、爛々気分でパーツをどっちゃり買い込
    んで机の上に広げ、鼻歌を歌いながらウキウキ気分で改造して
    いる。
    ……普段、馬鹿ばっかりやってるけど、こうやってニコニコし
    ながら楽しそうに杖を作っている様子を見て、セリスは表情を
    綻ばせ、無意識の内に微笑んでいる。
    そして――偶然にもその様子を見たエルリスが眼を光らせた。
    無論だがセリスはその事に気づいていない。


    「……勇。何、その杖って言うかバズーカ砲みたいなの?」

    「セリス嬢専用杖。その名も『ジャイアントバズ』だ!」

    「既に杖じゃないよ!!」

    「む、ならばHTBキャノンにでもするか?」

    「だから杖じゃないってば!!杖にしてよ!!」

    「む、むぅぅぅ……」


    勇はシュンとなりながら杖をバラし、再びアレコレいじりながら
    パーツを組み立て始め、普通のパーツから珍妙なパーツまで様々
    な物を次から次へと組み込んで行き、今度は杖?っぽい物にはな
    っているが、杖と言うよりはハンマーと言った風貌だろうか。


    「…今度のは前に比べればマトモだけど……ハンマーじゃない。」

    「ご名答。魔法の増幅装置をコテコテくっつけたらそうなった。
     名付けて『魔法のゴルディオンクラッシャー』!」

    「だぁかぁらぁ!!杖にしてってば!!!」

    「うぐ……ま、またダメか……」

    「お願いだからさぁ、真面目に作ってよ……。」

    「ぐむ……す、済まぬ。改造が楽しいモンで……。」


    再びシュンとなりながら――どこか泣きそうなセリスを見て猛省。
    すぅ、と深呼吸した後で眼を見開き、くわ、とセリスを見つめる。
    何事かと身体を強張らせたセリスを見つめた後、勇が机の上に散
    らばるパーツを引っ掴み、高速でパーツを組み立てていく。


    「魔法が使えることは大前提だが詠唱中に敵に懐に潜られた事を
     考えて自衛用もしくは魔力切れや魔法が使えない状況での攻撃
     手段確保の意味を考えるとこの短剣型デバイスを組み込んで手
     段を確保すると共に軟体系モンスターとの戦闘も考慮してパル
     チザンユニットがあったからそれを組み込んで―――」

    「……ゆ、勇?」

    「しかし近接攻撃の手段ばかり考慮するとセリス嬢の魔力を生か
     した魔法攻撃が出来なくなるので本末転倒だが攻撃モジュール
     の数をこれだけに留めれば良いだろうから後は魔法攻撃用に魔
     力増強アンプや魔法を刻み込んだクリスタルの設置を行ってつ
     いでに瞬間的に魔力ブーストを可能にする為にサブクリスタル
     も組み込んで―――」


    眼の色が変わり、ブツブツと呪文の様に言葉を紡ぎながらパーツ
    を拾い上げては『真面目に』コアクリスタル部分に接続、次から
    次へとがちゃこがちゃことくっつけ、機能性と実用性を重視した
    物を造り上げて行く。
    そして勇が手を動かすのを止めた時、彼の手の中には十字架が。
    先端部には幅広で刀身の長い『パルチザン』と言う槍、斬る事に
    も突く事にも優れた能力を持ったソレの形状をしたユニット。
    左右には短剣と呼ぶには短いが、先端部のパルチザンユニットの
    補助として考えれば申し分ない長さの『ダガーユニット』を。
    本体部分にはコアクリスタルの周囲に魔法力増強アンプを意味す
    る緑色のクリスタルが四つはめ込まれ、更にコアクリスタルの下
    部にはめ込まれた紅いクリスタルは略式でも発動できる様にと予
    めに魔法式が刻み込まれた物がはめ込まれ、咄嗟に魔法を放つ事
    も可能となっている。


    「わぁ……綺麗で格好良いね。」

    「少々、遊びすぎた様なのでね。私の本気を出させて頂いた。」

    「……勇、口調が変わってるよ?」

    「おお、こりゃいかん。……どーも俺は真面目モードやシリアス
     になると口調がガラリと変わってしまう癖があってねぇ。
     ……言っとくが、二重人格でも精神分裂症でも無いぞ。」

    「そうなの?……まぁ、良いや。
     ね、ね、勇。この杖の名前、なんて言うの?」


    眼を輝かせているセリスに言い寄られた勇は一瞬考えて……。


    「ディス・アストラナガン。」

    「ヤだよ、そんな名前。」


    あっさり否定されてしまった。


    「―――エターナクロイツ。」

    「……えたーな……くろいつ?」

    「訳すと永遠の十字架。こんな感じでどーよ?」

    「……ん、合格!今日からボクの杖はエターナクロイツ!」


    子供の様に喜びながらユニットスタッフ・エターナクロイツを抱きし
    めているセリスを見た後、ふざけた物を作りすぎた侘びとして勇は余
    っているパーツをかき集め、がちゃこがちゃことくっつけ始める。


    「勇……なに作ってるの?」

    「魔法力増強装置と魔法威力増強アンプが残っているからこれをこうし
     てくっつけて更に其処に追加アタッチメントをくっつける事で本体と
     連結させる事を可能そこに魔法力貯蓄クリスタルを設けて――」

    「……トランスしてる……。」

    「――うむ、完成。」


    ぽい、とあちら側に意識をやっている勇はその手の中にある物。
    エターナクロイツ用の追加パーツ、勇曰く『砲撃補助パーツ』と言う
    物騒極まりないそれを受け取り、セリスは訝しげな表情と共に接続。
    ……十字架型のエターナクロイツにソレが付けられた瞬間、雰囲気は
    一転し、何か――十字架型のランチャーの様になってしまった。


    「……何コレ?」

    「セリス嬢の高すぎる魔法力を生かす為の追加改造パーツ。
     横に伸びてるグリップは左手で保持する為で、パーツ本体は殆どが
     魔力増強、威力増強クリスタルで固められた物で構成。
     大威力の魔法をブッ放せば……並のモンスター位、一撃で消し飛ばせる
     程の威力にまで跳ね上げる事が可能。……脳内カタログスペックだと。」

    「ふーん。……これをくっつければ威力の高い魔法が更に強まるの?」

    「だと思う。テストして無いから何とも言えんがね。」




    ―――草原


    勇の『テストしてないから解らない』発言に触発されたセリスは勇を連れて
    町外れにある草原、何時もファリルとクレイルが鍛錬を行っている場所に来
    て――セリスは勇お手製『魔法力増強素敵アンプ(勇命名)』を取り外して
    『素』の状態にしてヒュン、と軽く振ってみる。


    「使い慣れてるって感じだな。」

    「そりゃそうだよ。ボクだよ?ファリルちゃんに棒術を仕込んだの。」

    「……後でファリル嬢に棒術の参考書でも持っていくか。」

    「ちょっと!?それってどう言う意味だよ!!」


    ムキー、と怒りながら勇は苦笑してセリスが離れ、エターナクロイツを構えた。
    そしてその瞬間に勇はセリスの意図を読み取り、背広のボタンを開け、拳を構え
    て……セリスの攻撃に備える。


    「成る程。限りなく実戦に近い形でエターナクロイツの性能を見極めると?」

    「そうだよ。ただ魔法撃って、はい終わり――って訳には行かないでしょ?」

    「同感。その意見には好感が持てる。」


    ザッ、と勇が一歩踏み出して蹴りを突き出した瞬間にセリスは刃のついた先端で
    勇の蹴りを払おうとして――青ざめた表情の勇が咄嗟に脚を引っ込め、冷や汗を
    流しながらセリスに反論しようと口を開きかけた瞬間、セリスは笑顔で魔法を。
    光の矢を無数に撃ち出して攻撃を仕掛ける。


    「ぬおおおおッッ!?あんた鬼ですかぁぁぁッッ!?」

    「だって、実戦だよ?」

    「だからってねぇ!?普通、ギラギラ光る刃で俺の脚を切り裂こうとするか!?
     殺傷能力のある魔法を撃ってくるか!?あんた俺を殺す気ですくぁっ!?」

    「大丈夫だよ。勇ってコレぐらいじゃ死なないでしょ?」

    「いや、死ぬ死なない以前に僕の心配をしてっ!?」


    涙目で反論している中でも突き出され、なぎ払われるエターナクロイツを回避する。
    しかし、距離は取れない。取った瞬間に魔法攻撃が飛んでくるし、このお嬢様は
    無邪気な可愛らしい笑顔で『態々、速射性の高い魔法を選んで』撃って来る。
    その事を理解している勇は至近距離で攻撃を回避し、何とかエターナクロイツの柄
    を掴もうと必死になるが、セリスはソレを許さない。


    「――っ」

    「やりにくそうだね?……でも、これが実戦なの。特に、使い手って言うのかな?
     そう言う人達との戦いだね。」

    「……セリス嬢、何が言いたい?」

    「つまり、君は戦士として未熟って事。」


    がこんっ!とエターナクロイツが弾かれ、勇の眼が思いっきり鋭くなった。
    見れば勇の表情は冷ややかな、そして確実に腸が煮えくり返っている感じが見受けら
    れ、対するセリスもまた緊張した表情、まるで――戦いに行くかの様な表情で勇を見る。


    「……セリス嬢。」

    「構わないよ。ボクの顔面、思いっきり殴りたいって感じだもの。
     ……うん。その両手の不思議パワーに酔ってる君に負けるつもり無いから。」

    「――――」


    勇は背広を脱ぎ捨て、身軽になり、同時にネクタイも放り投げて完全戦闘思考で起動。
    目の前の少女、自分が作ったエターナクロイツを握り、冷ややかな表情を向ける少女に
    向かって行くと、迷わず彼女の顔面に、理性のある大人が取る行動ではない行動を起こ
    し、綺麗で整った顔に拳を――めりこませる前に目先2cm前をエターナクロイツに装
    着したパルチザンユニットの切っ先が通り過ぎた。


    「―――ちっ」

    「本能だけで行動する魔物なら今の君でも――大抵は倒せると思うよ?
     でもね、ハンター家業をやるんだったら当然、人と戦う事だってあるの。」

    「―――ふっ!」


    再び跳躍し、素敵パワー全開の勇に対して容赦ない魔法攻撃を浴びせかけるセリス。
    速射性重視の魔法だが威力が全く無い訳ではなく、それどころか威力は彼女の含有する
    魔力によって底上げされており、弱い魔物ならば一撃で屠れる威力を秘めている。
    ……勇はそんな弾幕をかいくぐり、強引に突破すると右腕を振り上げて――振り下ろす
    前にセリスの得物によって捌かれて、勇自身が取り付けた石突部分で突き上げられる。
    右腕に突き刺すような痛みを感じるが――我慢、咄嗟に杖の柄を掴んで引き寄せ――。


    「甘いね、魔法は何も杖から出すって物じゃないよ?」


    突き出された掌から魔法が、衝撃波が炸裂して勇は吹っ飛ばされた。


    「ごっは……!」

    「……うん。魔法の威力も増強されてるけど、簡単に人を殺せるって程じゃないし。
     杖の重さも悪くない。槍としても使える。……問題ないね。」

    「……ぐっ……!」


    ヒュンヒュンともう二度程軽くエターナクロイツを振った後、手で目元を多い、仰向け
    で倒れている勇を見て――セリスは近づき、しゃがみこむが勇は起き上がろうともせず
    に倒れたままで……良く見れば嗚咽の様な物が聞えてくる。


    「……くっ……そ……畜生……が!」

    「……ボクに負けたの、悔しいよね?」

    「………!」


    口を開けばセリスを罵倒してしまう、と勇は悟り、そして敗者は何も言う権利は無い。
    その事を理解していたから勇は何か言いたくなる感情に必死に耐えて、セリスの言葉に
    耳を傾け、どんな事を言われようとも受け入れるつもりでいた。


    「でもね、このままだと勇、遅かれ早かれ壁に当ると思うんだ。
     ……うん、勇はね弱くないよ。でもね、力に頼り切った戦いしてるの。」

    「…………」

    「クレイルとかから聞いた話から推測して、ドンピシャだったね。」


    何をする訳でもなく、悔しさで泣いている勇を馬鹿にする訳でもない。
    ただ、ただ勇に優しく話しかけ、頭を撫でながら言い聞かせていた。


    「……ただ力を使うんじゃなくて、技術とか覚えたら勇はもっと強くなるよ。
     うん、それは絶対だと思う。」

    「……セリス嬢に……負けた分際で……!」

    「誰だって負けた事位あるよ。喧嘩でも何でもね。
     ボクだって学校の武術授業で男子に負けた時、凄く馬鹿にされたよ。
     ……悔しかったからボクは棒術とか槍術とか自分で覚えて、物にしてね。
     それで、ボクを散々馬鹿にした男子全員ボコボコにしてやったよ。」

    「………」

    「負ける事なんて悪くないよ。問題はその後。
     ……そうだね、もしも勇が今まで以上に強くなりたいなら
     ボクで良ければ付き合うからさ、一緒に頑張ろう。ね?」


    目元を覆っている手を剥がし、涙で腫れている勇の眼を覗き込む翠と蒼の瞳。
    その瞳に覗き込まれた時、勇は自分を振り返って―自分が力に酔っている事を悟る。
    素敵パワーに身を任せて大暴れして、偶然にもそれが良い方向に傾いただけだった。
    ……セリスの様に、本物の技術を身につけた者と戦えば直ぐに地金を晒す様な剣。
    それがへし折られた事は……ある意味、幸運なのだろう。
    自己を見つめなおす事が出来たのだから。


    「……そうだな。今回、己が技量の程を確認できたのは幸運に思う。」

    「うん。自分の悪い所を素直に認める所は良い事だよ。」

    「でだ、セリス嬢。俺が素敵パワーを使いこなせる時が来たら、再戦願いたい。」

    「解った、楽しみに待ってるよ。……それと」


    くるり、とセリスは勇に向き直り、とびっきりの笑顔でこう言った。


    「エターナクロイツを造ってくれて有難う。
     この杖、大事にするからね!」


    ……まぁ、この笑顔を見れただけでも良しとしよう。
    勇はセリスの無垢な笑顔を見て顔を赤らめると同時に――強くなる、と心に決めた。





    <さて、妙なフラグが立ちそうだと冷や汗を流す後書き>
     何だか妙ちきりんな話になりそうですが、如何でしょうか皆様?(マテ
    今回は勇がぶち当たる始めての壁、力を手にした物がぶち当たるだろう敵。
    『それ以上の強さを持った者との邂逅』を描いて見ました―が、何かセリス嬢が
    真面目に強くなりすぎてる気がしないまでも無く、少々反省しております。
    次回は――クレイルとファリルの話でも、等と思っています。



    <オマケ>

    「やぁ、皆様。ご機嫌麗しくて恐悦至極、空腹 勇、もとい空原 勇でございます。
     さてさて、今回のお話で出てきたユニットスタッフについて説明しましょう。
     まず、この武器の特徴は――


    1.コアクリスタル部分と柄(長さが選べる。)があるだけでも良い
    2.別売りパーツをくっつける事で強化改造が可能。
    3.パーツのつけ方次第では訳の解らん姿になる事もある


     とまぁ、こんな感じですね。ざっと説明するなれば。
     なので魔法の杖、と言うよりもプラモを作って改造してる様なモンと思えば良い
     でしょう。……値段がメタクソ高い、超高級なプラモですがね、考えれば。
     そして、この杖にくっつけられるパーツについて説明しましょう。


    1.物理攻撃ユニット
     はい、そのまんま――剣だの槍だのとか言った武器をモジュール化した物です。
     これをユニットスタッフに接続取り付けを行う事により、近接攻撃や魔法が使え
     ない状況でも攻撃手段に困る事はありません。

    2.魔法力、魔法威力増強ユニット
     ルーンを刻んだり、上記効果のあるクリスタル等を埋め込んだ物をモジュール化。
     労せず魔法威力や魔法力を高める事が出来るため、人気商品となっています。

    3.魔法珠
     呪文を刻み込む事で魔法発動までの時間を極端に減らす事が出来るパーツですな。
     これも結構な人気があって品薄なので、入手に時間が掛かりますな。

    4.その他
     フォアグリップだとかスコープとか、つける必要があるのか解らない物ですねぇ。
     私のような好事家でも無い限り、付けることはまず皆無ですな。


     これらをコテコテくっつけて造る。組み合わせは無限大!!
     剣の形だろうが、槍だろうが、斧だろうが何でもござれ!!!
     それがこのユニットスタッフなのですよ!」

引用返信/返信 削除キー/
■548 / inTopicNo.8)  大暴走六話
□投稿者/ ロボットもファンタジーも愛する者 -(2006/12/05(Tue) 11:47:22)
    手に白銀の輝きを放つ細身の戦斧を握るのはファリル。
    その前には十字架を模した槍の如し杖を構えたセリス。
    二人は一切動かず、そして僅かな隙を探そうと精神を
    集中させて――先にファリルが行動を起し、跳躍。
    セリスに迫ると手にした白銀の戦斧、クラウストルム
    が変化したソレを袈裟斬りの形で振りぬいた。
    銀の閃光、切断の力を十二分秘めたその一撃をセリス
    はエターナ・クロイツで打ち払い、カウンターで石突
    を突き出すが――ファリルは身を捻って回避する。


    「……お宅の妹さん、本当に12歳?」

    「学校では一番強いと通知表にはあったな。」


    セリスの突きを避けたファリルは捻った身体を戻しな
    がら遠心力を利用し、殴りつける様な形で戦斧の刃を
    叩きつけ、怯ませるなり吹き飛ばそうとする。
    横一閃に振るわれたクラウストルムの刃に対し、エタ
    ーナ・クロイツの刃を突き出して止めると、下に払う。
    『きゃっ!』と言う悲鳴と共に体勢を崩したファリル
    に対し、発動時間の短い魔法を放とうとするが――
    出来ない、ファリルが無理な体勢だがクラウストルム
    を咄嗟に突き出して詠唱を妨害、互いに体勢を整える
    ために一旦距離を取る。


    「何で俺の周りには人外魔境が揃うかねぇ。」

    「そのトップを突っ走るお前が何を言う。」

    「馬鹿言え。俺は人外魔境じゃない。超越者だ。」

    「脳の醗酵具合がな。」


    ファリルは左手を振るい、自身の周囲に四本の魔力剣。
    サンダーソードと言う魔法を展開し、セリス目掛けて
    発射した。……一斉にではなく、時間を置いて。
    一本目――エターナ・クロイツで弾かれる。
    二本目――セリスが回避行動を行って無効化。
    三本目――何とか回避できたが、体勢を崩した。
    四本目――迫ってきた最後の一本に魔法を当てて相殺。


    「いやー、凄い動きだわな。」

    「魔導師に全然見えん。」


    体勢を立て直したセリスは――攻撃に出た。
    上下左右からエターナ・クロイツの刃を突き出す。
    だがファリルはそれに応戦して戦斧で迎え撃つ。
    白銀の閃光と金色の閃光がぶつあり合い、火花が散った。


    「ところで俺等は何してるんだ?」

    「気にするな。俺は気にしない。」


    目の前で得物をガンガンぶつけて戦う魔法戦士二人を見て
    勇とクレイルは湯飲みに注がれた温い緑茶を飲んだ。





    ハンターのお仕事
    第六話「散財は人間に備わる必要悪です」





    ―――数分後


    「ん〜……細身の戦斧になったのは良いけど、ファリルちゃん
     の今の腕力だと、その――変化したっぽいクラウストルムに
     振られちゃうんだよね。」

    「……理解――してます。」

    「うん。でも、太刀筋自体は鋭いし、ポールウェポンの戦い方
     の基本も出来てるから、後は得物に振られない筋力をつけれ
     ば振られずに、クラウストルムを振り切れるね。」


    模擬戦――と呼ぶには激しすぎる戦いが終わった後、セリスは
    今現在のファリルの問題点を指摘し、得物に振られない腕力を
    身に付けることを言い渡した。
    ファリルの方もセリスの助言、苦言を真摯に受け止めて心に刻
    み込み、今後の対応を頭の中で組み立て、自己鍛錬方法を作り
    上げる。


    「後はそうだね。ファリルちゃん、高速の近接攻撃型だから…。
     勇、街の防具屋に行ってファリルちゃんの装備、見繕って!」

    「あいきた。」

    「ただし、変な装備とか買ってきたらシバくからね。」

    「うわ、俺って信用無ぇなぁ。あーあ、俺のガラス細工の――」

    「勇はそんな繊細な心を持ってないから安心して。」


    セリスの問答無用の集中砲火を食らった勇は腹いせに近くに落ち
    ていた棒切れを拾ってセリスに投げつけ、そして棒切れが直撃し
    たセリスはブチ切れてエターナ・クロイツを振り回し、魔法をド
    カドカ撃ちながら勇を追い回す。
    逃げ回る勇、キレて追い回すセリス、オロオロするファリル。
    三者三様の対応を見たクレイルはお茶を飲みながら一言。


    「平和な連中だ。」


    ズズズ、とお茶を飲み干した瞬間に勇がセリスの魔法で吹っ飛んだ。


    *・*・*


    ドタバタの騒動が収まった後、一向は防具屋へと出向き――
    何と言うか、ファリルにとっかえひっかえ防具やら服を着せ替える。
    この作業には何故かエルリスも同行し、セリスと一緒にアレコレ言い
    ながら服を着せて――防具を選ぶ、と言う名目で遊んでいた。


    「姉さん、こっちの服もファリルちゃんに似合うと思わない?」

    「えー……私、こっちだと思うな。フリルとかレースがついてるし。」

    「あー……確かに。クレイル、こう言う服好きそうだもんね。
     ほら、メイド服とか――いたぁっ!?く、クレイル!?
     マネキン投げつけるなんてどう言う了見なんだよっ!!」

    「気にするな。俺は気にしない。」

    「ボクが気にするのッ!!」


    ……そんな喧騒の中、ファリルはセリスの言葉を反芻して…防具屋な
    のに何故か飾られ、しかもガラス張りのショーケースに封印されてい
    るメイド服をじ〜っと見つめ、脳内で極彩色の妄想を膨らませ、顔を
    真っ赤にする。
    きっと彼女の頭の中では大好きな兄に『あーんな事』『こーんな事』
    をされつつも、優しく扱ってくれる事を想像しているのだろう。


    「――高機動近接格闘型魔法戦士のコンセプトで行くなればやはり
     防御力を少々落とす事になるが機動性と運動性を重視して動き易
     くそれでいて最低限度の防御力を両立させた装備になるから基本
     的には金属性防具の多様を避けて皮革や布で作られた防具で纏め
     るしかないしファリル嬢の体力腕力等も考慮して―――」


    三者三様で騒いでいる中、勇はトランスしつつファリルに似合う。
    それでいて機能性と防御力を両立出来る様な防具を選んでいく。
    どうせ資金はクレイル持ちだと言う事もあり、遠慮なく高額だが
    性能や防御力の高い物を『徹底的に』買い物籠に放り込む。
    ……一通りの防具を籠に放り込んだ後、トランス状態の勇は妄想
    モード全開中のファリルに歩み寄り、肩に手を置く。


    「わひゃっ!?」

    「ぬぉっ!?」


    いきなり『ビクッ!』と体をこわばらせ、素っ頓狂な声を上げた
    ファリルに勇も驚き、トランスモードは強制解除、通常モードに
    移行すると――咳払いして、彼女に買い物籠を手渡した。


    「あ……あの、これは……?」

    「ファリル嬢に似合う様な、それでいて防御力と機動性を考えて
     防具を選んでみた。一度着てみて――何か問題、不具合がある
     なら言ってくれ。選び直すから。」

    「え――でも、折角選んでくれたのに――」

    「気にするでない。俺も十分楽しんでるし……
     あっちで騒ぐ水色姉妹、妹そっちのけで防具見ている兄が
     何もしないから俺位は真面目にお仕事をしよう思うてね。」

    「あ――ありがとうございます。」


    微笑みながら試着室に入っていくファリルを見た勇はマジマジと
    ロングコートを眺めているクレイルに蹴りを一発叩き込み、不機
    嫌モードまっしぐらで振り向いたクレイルの目先に指を突き出す。
    何か勇が放つ雰囲気に呑まれたクレイルは訝しげな表情を浮かべ
    て、困惑しながら言葉を発した。


    「な、なんだよ……」

    「このお馬鹿!こう言う時ぐらい、お前がファリル嬢の物を
     選ばなくてどーするよ!?ファリル嬢もお前に選んで欲しい
     ってオーラを出してたの解――る訳無いよなぁ。」

    「???」

    「スマン、俺が悪かった。様はお前がファリル嬢の防具を
     選んでやるべきだって訳?OK?どぅーゆーあんだーすたん?」


    『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』やら『ドドドドドドドド』と言う謎の効果音
    を背後に浮かべる勇の雰囲気に圧倒されたクレイルは頷き、ファリ
    ルに似合う防具を選び始め――そして『良し』と呟き、頑丈そうな
    鎧に手をかけた瞬間、後ろで監督していた勇のハリセンが閃く。


    「……お前……」

    「アホか己は!!ファリル嬢がプレートメイルなぞ着れるかぁ!」

    「いや、しかし防御力を補うという観点では――」

    「鎧の重さでファリル嬢が潰れるわ!」

    「――む。」


    言われてみればそうか、等とホザいたクレイルの脳天に素敵パワー
    を宿らせたハリセンを振り下ろし、素晴らしい音が店内に響いた。


    ―――数十分後


    セリスとエルリスの籠の中にはファリルの防具ではなく――服。
    それも極大量に放り込まれており、クレイルは二人に反論するも
    女性二人のマシンガントークの前に屈してしまい、渋々ながら極
    大量の服を買う羽目になってしまった。……しかも、値段が高い。
    勇に珍しく助けを求めようとしたが、彼は既にいない。
    代わりにクレイルの近くにメッセージカードが刺さっていた。

    『まだ見ぬ何処かへ旅立ってくる by夢追い人』

    等と描かれたそれを問答無用で握りつぶし、ゴミ箱に投げ捨てる。
    肝心なときに役に立たない奴だ、等と思っていた所で――
    開かずの間と化していた試着室のカーテンが開き、防具を身に付け
    たファリルが出てきた。

    ――両手にはミスリル銀のグローブ

    ――所々鎧の様なパーツがつけられたジャケットにスカートを身に付け

    ――最後に柔らかくたなびくマントをつけた少女。

    例えるならば戦乙女、とでも言おうか?
    顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしながらファリルは出てきた。


    「―――ふふふ、やはり俺の選定眼に狂いなし。
     『俺様のインサイトに見抜けない物は無い!』ってか?」


    何時の間に帰って来やがった、夢追い人。


    「……ど、どうかな……兄さん?」


    もじもじしながら上目遣いで兄に、クレイルに感想を聞くファリル。
    ……この手の感想が一番困る、と思い周囲に助けを求めるが……。

    『俺より強い奴に会いに行く by勇』

    『本当の自分を探しに行く  byセリス』

    『夕飯の支度の為に戻る   byエルリス』

    そんなカードが刺さっており、本人達は既にトンズラかましている。
    ……あいつら今度会ったら殴ってやる。しこたま殴ってやる。
    クレイルは心の中で決定し、不安げに見上げるファリルの頭に手を
    置くと――柄でもないが、と思いながら感想を口にした。


    「――似合っているし、可愛いぞ」

    「――!!、兄さんッッ!!」

    「うおぁあぁぁッッ!?」


    満面の笑顔を浮かべたファリルに抱きつかれ、思い切り後ろに倒れか
    けるが何とか踏み止まり、ファリルを抱きとめるクレイル。
    店内に居た客や店員が彼ら二人に笑顔を向けると共に『何故か』拍手
    を送られ、クレイルは困惑し、ファリルは構わずに甘えている。

    ――そんな状況を遠眼で見つめる三つの視線……。


    「うんうん、これで一歩前進かな?」

    「でも、セリス……おせっかいも焼きすぎると逆効果だよ?」

    「解ってる解ってる♪ボクはそんな愚を冒すと思う?」

    「間違いなくやりそ――嘘ですごめんなさい。」


    幸せそうに兄の胸で甘えているファリルを見て満足したのか、水色と黒
    は笑顔で帰宅した―――。






    <早くも給料を使い切りそうでヒヤヒヤしている後書き>
     今回のテーマはファリルとクレイルですが、仲が一向に進展しないので
    強制的に一歩進んだ関係にしてみました。……ネタが暴走しているのは
    スルーの方向でお願いします。
    さて、ファリルのクラウストルムが進化した理由は次回で語ろうと思います。
    ……そこ、バル○ィッシュ・ア○ルトとか言うな、フェイ○とか言うな(ぁ
    そんなこんなでもう六話、SSを投稿し始め、皆様からご感想を頂いて
    充実しています。
    作者が暴走したSSですが、これからもよろしくお願いします。



    <おまけ>
    友人『……バルディッシュ?』

    私『言うな。』

    友人『ハマったんだな?』

    私『………』

    友人『まぁね、フェ○トは『守ってあげたいオーラ』出してるし
       大人しいし、おっとりだし、少し気弱だし、でも高機動格闘系。
       得物は巨大な剣に変形するし、振り回す。
       ……完全にお前のツボを突きまくってるよな?』

    私『あ、あんたって人はぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!』


    ―――力が無いのが悔しかった……(謎
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