Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■533 / inTopicNo.1)  交錯
  
□投稿者/ ジョニー -(2006/11/21(Tue) 22:02:50)
     地獄、言葉にするのは簡単だが実際にどんなものかと問われれば答えるのは難しいもの。
     しかし、地獄絵図を実際に現せと言われたのならば、それは比較的楽に見せる事が出来るだろう。
     戦争、病、飢饉……この世に地獄絵図を現す事の出来るものは溢れかえっている。
     その中でも、もっとも地獄絵図をこの世に描ける存在がある。

     それは―――人間だ。

     地獄絵図を描く為の材料としても、地獄絵図を描く作者としても人間以上に優れた存在はそうそういないだろう。


     そこも嘗て、地獄絵図を描いていた。
     地獄絵図の中では穏やかな方であろうが、しかしながら一般的に見て地獄絵図には違いなかろう。


     身体を脳を切り刻む実験、実戦といっても過言ではない訓練……それらには常に死の危険が潜んでいた。
     実際に数多くの命が消えた。そして消えた命を補充する為に送られてくる不運な生贄達。


     彼女はその中でも生き延びた。
     己は古き記憶とその身に刻むべき時を代償に、仲間といえる生贄達を訓練で殺していきながら。
     得たものは押し付けられた力のみ。失ったものは余りに多く、得たものは少なく……それでも彼女は命を失う事はなかった。
     この世にヒトによって作られた地獄絵図を、彼女は生き延びた。















     肩に触れるぐらいの長さで切られた新雪の様に無垢に白い髪、天に広がる青空の様に澄んだ蒼い瞳。
     まるで人形のような容姿をした14歳程であろうその少女は、首輪にメイド服という少々保護者に様々な疑惑が掛けられそうな服装で街を歩いていた。
     ふと、その足が歩みを止めて不意に周囲を見回す。すると、注意深く見ていないとわからないぐらいに、ほんの僅かに表情が歪む。

    「迂闊……」

     近くに寄らなければ聞こえないぐらいの小さな声でポツリと呟く。その声には隠し切れぬ程の己への苛立ちが隠されていた。
     それは己の未熟、不甲斐無さ、不注意、油断…様々なものを嘆く声だった。
     暫し後、彼女は周囲に気付かれぬ程の小さく溜息を付くと、ポケットに手を入れた。

     そして、ゆっくりと抜き出された指先に二つに折られた紙が摘まれていた。
     彼女はその紙を油断なく開き、中を見て…呟く。

    「道に迷った…………」






       交錯
          プロローグ




     彼女、メア・シブリュートは結局その後迷い続けて、エルリスと名乗る女性に助けられた。
     この街に住んでおきながら迷うとは少々情けないが、ずっと住んでいた訳ではないし、あの辺りは立ち寄った事がないし、普段お屋敷から余り出ない所為だろうと自己弁護もとい自己完結していた。
     ともあれ、頼まれたお遣いは完了したので後は屋敷に帰るのみ。

     そのはずだったのだが………

    「一体、なに……?」

     小さく首を傾げて呟く。
     目の前の路地に人だかり、なにやら喚き声なども聞こえてくる。

    「おや、メアちゃんじゃないか」

     不意に掛けられた声に反応して振り向くと見知った恰幅のいい中年女性がいた。
     確かメアのような住み込みのメイドとは違う、通いの仕事人の一人だったはず。
     そう思い出すと同時にメアはペコリと頭を下げて挨拶する。

    「お遣いの帰りかい? 偉いねぇ」

     目を細めて微笑みながら言うおばちゃん。外見と違い二十代前半だと何度か指摘したことがあるが未だに信じてもらえていない。

    「……これ、は?」

     とりあえず複雑な気分になる言葉はスルーして、目の前の人だかりを見ていう。
     するとおばちゃんはしかめっ面になる。

    「喧嘩らしいわねぇ、まったく…天下往来で昼まっから……お陰で通れやしない。誰か止めてくれないかねぇ」

     喧嘩、つまりこの人だかりは野次馬ということだろう。
     今のところ誰も止める気配はない。いや、既に誰かが衛兵かなにかを呼びにいっているとは思うが道を通れないのは迷惑だ。
     この道を避けるとなると屋敷への道のりはかなりの遠回りになる。ただでさえ道に迷って余計に時間を喰ったのにこれ以上のロスは可能な限り避けたい。

    「止めれば、いいの」

     自分で導き出したその答えに納得してメアは一つ頷くと制止する中年女性を無視して人だかりの中に潜り込んで行く。


     人だかりを抜けると、そこには背中に剣を背負った旅人風の男と如何にもなガラの悪そうな男が4名いた。
     どうやら、この5人が喧嘩をしているらしい。
     旅人風の男がなにやら弁解しながら攻撃をよけ、ガラの悪い男達が頭の悪い言葉を吐きながら殴りかかっている。
     喧嘩というより一方的にイチャもんを付けているようだ。何もせずとも恐らく旅人風の男が勝つだろうがその男は一切手を出してない。オマケに人だかりが邪魔で逃げる事もできない状態らしい。

     一通りの現状認識を済ませた後、メアは己の意識を己が内に沈める。
     己が内で使えそうな魔法をリストアップしていく、即座に半数以上を却下する。
     あそこで覚えさせられた魔法は大半がこの場で使うには威力が大きすぎる。あそこの目的上、それは当然の事とも言えるが。

     僅か数秒でこの場を止めるのに使えそうな魔法が数個脳内で該当した。
     そのうち、一つを選択。他は万が一があり得るが、これならば恐らく大丈夫だろうと思うものだ。
     それでも念のために、威力を絞るに絞る。普通なら役に立たなくなるぐらいに。


     小さく呪文を詠唱する。しかし、それを人だかりの騒音に紛れて誰も気付かない。
     メアは己の脳に刻まれた呪文が展開してメイド服に隠された皮膚に刻まれた魔方陣が淡く輝くのを感じた。
     押し付けられた力、望まぬ力……そして、この場でも不要な力はメアの意思に反して発現する。

     旅人風の男が、ぎょっした表情で此方を見た。
     微かに驚く、身なりからして…というより背中の剣からして剣士かと思ったが魔法の発現に気づいたらしい。もっとも、もう遅い。

    「――――」

     メアの口から呪文の最後が紡がれる。
     同時に5人の頭上から大量の水が降り注ぎ、5人纏めて押しつぶす。


     一瞬の沈黙の後、辺りは蜂の巣を突いたような大騒ぎになる。

    「任務、完了?」

     その騒ぎに、少々やりすぎたかと思いながらもメアは呟き、誰に尋ねるでもなく首を傾げた。












      あとがき、というか言い訳?

    えー、どうも初めましてジョニーです。
    さて、とりあえず初カキコとなるわけですが…ごめんなさい。
    自分の文才の無さを改めて痛感しました。
    台詞少ないわ、文は短いわ………
    次回は何時書けるかわかりませんが、どうか宜しくお願いいたします。
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■535 / inTopicNo.2)  交錯 0.5話
□投稿者/ ジョニー -(2006/11/23(Thu) 22:20:35)
    2006/11/23(Thu) 23:48:31 編集(投稿者)

     そこでの生活は酷く貧しかった。
     名ばかりの孤児院。居るのは私腹を肥やす大人と奴隷の如く働かせられている子供。
     朝から晩まで働かされて、ご飯は不味く少なかった。
     虐待こそはなかったが厳しい仕事と環境故に死んでしまった子供もいた。
     それでも大人は子供を酷使し続けた。そこの大人にとって子供など金を得る為の道具でしかなかったのだから。

     だから、ボクは……あの時出会ったヒトに付いて行った。
     あの場所を飛び出して、ボクの知るなによりも強く、ボクの知る誰よりも凛としたそのヒトに憧れて付いて行った。

     ボクはあそこから逃げ出したんだ………いや、違う。
     だって、ボクはあの時…確かにあの子と約束した。
     既に町を離れたあのヒトに追いつけるかは小さな子供だったボクにとって賭けだった。
     丁度風邪を引いていたあの子を連れて行くのは無理だったから、だから―――


     必ず     って、約束したから――――――――
















    「……夢?」

     それは酷く懐かしい夢だった。
     果たせなかった約束、今でももしやと思い続ける約束。
     夢にまで見るとは未練だな。と、彼は苦笑しつつベッドから身体を起こす。

    (待て、ベッド……?)

     確かにベッドだ。しかも、柔らかく暖かい……正直自分には縁がないだろう高級品だということが手触りでもわかる。
     パッと目に入る部屋にも見覚えはない。オマケにやはり何処か高級感が漂っている。

    「………起きた?」

     不意に声がかけられ、勢いよくそちらを振り向き……固まった。
     そこに居たのは少女だった。ドアの前に佇むその少女は何処か人形めいた印象を受けが、この際それはいい…問題はその少女の外見だった。
     雪のように白く流れる髪に青空のように澄んだガラス球のような瞳。表面に紋様の刻まれた金属製の首輪、本格的で観賞用ではなくまさに実用の為のものとわかるメイド服。
     そう、首輪にメイド服だ……そんな格好をした可憐な14歳程の少女。正直、一瞬アッチ系の想像が頭に過ぎったがすぐさま打ち消す。

    「え、ぁ………」

     彼がなんと答えたらいいのか迷っている間に少女…メアは返事こそないが彼が起きたと確認して一つ頷きドアを開けて部屋を出て行く。
     バタンというドアが閉まる音に我に返るが、時既に遅し……何の説明もないままに置き去りにされたと気づく。

    「い、一体何なんだ……え、えぇ〜と」

     一人取り残された彼は状況把握の為に必死に記憶を探り出した。






       交錯
          プロローグU





     今日は、そう……ちょっとした野党退治の依頼を受けたのが始まりだ。
     規模は極めて小さく、依頼の報酬も結構よかったので喜び勇んで野党の襲撃場所に向かった……まではよかった。


     ところがその場所についた途端に奇襲を受けた。
     念の為に剣こそは抜いていたが、付いたばかりで張り込みでもするかと考えていたところに襲撃である。
     おそらく自分達を退治する依頼があることを知っていたのだろう。そして返り討ちにするべく待ち伏せしたと、そんなところだろう。
     そして完全に不意を付いた奇襲が成立する。本来ならば、それで彼の生死は既に決定されていたはずだが………

    ≪魔法感知。複数同時襲撃、消去キャンセル不能。抵抗レジスト開始≫

     頭に聞きなれた音声が響く、同時に僅かな頭痛と共にエーテルが相当量消費される。

    「いきなり、かぁ!」

     正面から無数の氷の矢が迫る。咄嗟に両手に握りこんだ…刀身に文字のようなものが刻み込まれたバスタードソードを振るい数本の矢を切り払う。
     が、すべての矢を切り払える訳がなく。幾つかの矢が男の身体を襲う。
     しかし、その内の2本は彼が纏うブレストアーマーに弾かれる。そして残りの矢も彼に幾つのかの掠り傷を負わせるに留まる。
     本来ならば突き刺さるはずの矢もあったが、僅かに喰い込むだけですぐに抜け落ちて力なく地面に落ちる。

     すぐさま、氷の矢が飛んできた方向を見る。
     そこにいるのは5人の男達。今魔法を放ったと思われる奴が3人にブロードソードを持った奴と木こりなどが使うような伐採用の斧を持つ奴が1人ずつ。
     人数は聞いた話と同じだが、明らかに実戦レベルの魔法を使う奴が3人もいるなど聞いていない。
     そんな奴が3人もいるなら、あの報酬では少々安すぎる。
     敵に向かって走りながら騙されたかと思い、小さく舌打ちする。

    「イクシード、接続アクセス!」

    接続アクセス確認。術式検索――≫

     魔法使い3人が下がり、前衛2人が迎え撃つ陣形になったのを認識した瞬間に叫ぶ。
     刀身に刻まれた文字が淡く輝くと同時に頭痛が走る。脳内に幾つもの情報が飛び交うがそれを一つ一つ認識する事は出来ない。ただ、漠然と自分の脳内を探られているという今でも慣れぬ違和感だけが感じられる。

    ≪――術式選択。構成開始≫

     脳が探られる違和感が消えると次は脳内に在る情報の一つが引き出されると共にエーテルが大量に持っていかれる。
     剣が謡うように詠うように唄うようにキィィーンと音を放つ。それは確かに謳っているのだ、剣が呪文を詠唱しているのだ。

     魔法使い達が呪文を詠唱しているが遅い。
     既に此方の術は完成して、剣がイカズチを纏い解き放たれるのを今か今かと待っている。

    (……イカズチ?)

     ふと疑問に思って剣を見る。強力だろう事が見てわかる程、剣がバチバチいっている。

    「げぇっ!?」

     不意に悲鳴染みた声を上げる。持って行かれたエーテル量からかなり強力な術が選択・構成されたのはなんとなくわかっていた。
     しかし、思っていたよりも極悪な術がそこにあることに驚いた。

     これを解き放つかどうか一瞬迷う。
     だが、迷う暇はなくなった。無数の炎の塊が自分目掛けて飛んできたのが見えたからだ。

    「えぇい! 死ぬなよ!」

     炎に向かって剣を大きく一閃する。
     瞬間、


    ドゴォォォォォォォン


     雷音が鳴り響く。
     剣から解き放たれたイカズチは無数の炎の塊をいとも容易く消し飛ばし、直線上にいた5人の男を襲った。

     土ぼこりが収まった後、目の前には感電して倒れている5人が居た。
     どうやら炎を目標にしたのが幸いしたらしく、直撃はしなかったようだ。
     それでも身体が麻痺する程には影響を受けたらしい。

    「んぁー………結果オーライ、か?」

     ロープ確か持ってきてたよな? とか片隅で考えつつピクピクと痙攣している男達を眺めて現実逃避気味に呟いた。




     その後、男達を引き渡して報酬を受け取って街をぶらついていた。
     正直、強力な魔法行使でエーテルを大量に消費したのでさっさと適当に宿を取って休みたい気分だったはず。
     それが何の因果かガラの悪い男達に絡まれた。
     多分、精神的な疲れから肩がぶつかったりしたのだろう。

     それで何故か大事になって、何とか説得しようと思っていたところに。

    ≪魔法感知。消去キャンセル――エーテル不足≫

    (んげぇ!?)

     その音声に、声にならない悲鳴を上げて咄嗟に魔法を感知した方向を振り向く。
     そして、そこにいた白い髪のメイド服の少女と目が合った。

    抵抗レジスト開始≫

    (開……じゃ…ね………よ)

     頭上に現れた大量の水に気づく暇もなく、更にエーテルを搾り取られて気が遠くなるのを感じたのが……記憶にある最後だった。












    「……あぁ」

     そこまで思い出してポンと手を叩く。
     さっきの奇怪な服装の少女はあの時の少女に間違いない。
     つまり、ぶっ倒れた自分をわざわざ運んで来て介抱してくれたということだろう。
     自分の剣―イクシードもすぐ傍に立て掛けてある事からまず間違いないだろう。

    「後で礼言わなきゃな、いや…アレはあの子の所為だから別にいいのか?」

     そんな事で悩んでいるうちに再びドアが開いた。












      ◆あとがき?

     思ったよりは早く投稿できました。
     せ、戦闘シーン難しい…ので、戦闘シーンになってない戦闘シーンになりました。
     話進んでないし……男の名前出しそびれたし。
     ま、まぁそこら辺は次回に回しましょう……
     という訳で、あとがきというか言い訳でした。
引用返信/返信 削除キー/
■537 / inTopicNo.3)  交錯 第1話
□投稿者/ ジョニー -(2006/11/25(Sat) 21:26:46)
    2006/11/25(Sat) 23:10:04 編集(投稿者)
    2006/11/25(Sat) 22:18:31 編集(投稿者)

     此処に出会いは成った。
     それが意味にするものは何か、それはまだ誰にも分からない。

     過去を悔いる者と過去を失った者。
     未来あすに希望を望む者と未来あすに何の希望も抱かぬ者。
     両者の差は大きく、されど両者にどれだけの差があろうか。
     かくして二人は出会う、それは運命か必然か…はたまた唯の偶然か。

     それは世界にとって小さな出来事、歴史にも語られる事はない、小さな出会い。 
     ただ、その出会いが彼と彼女にとって大きな意味を持つという事は確かだった………
















     「おや、起きましたか」

     扉が開き、報告受けたから来ただろうに少々白々しい言葉と共に入ってきたのは金髪に眼鏡が特徴的な男性だった。
     知的で如何にも貴族です、という服装をしている。恐らくはこの家の主だと思い至り、姿勢を正す。

    「あぁ、そのままでいいですよ」

     彼が姿勢を正すのを見て、男性は気にしないでいいですとばかりにそういった。
     とはいえ、そうもいかないので失礼でない程度に姿勢を正す。

    「この度はうちのメイドがとんだご無礼を……」

     あぁ、やはり彼女は此処の者かと思う。
     同時にこいつがあんな格好をさせているのか? と別種の警戒を強める。

    「あぁ、キミと共にいた者達は余罪が出てきたので憲兵隊に引渡したよ」

     その警戒を勘違いしたのか、男は安心しなさいとばかりにそういった。
     勘違いしているのは、まぁ都合がいいのでそのまま勘違いさせておく。

    (貴方の性癖を疑いましたとは口が裂けても言えんし)

    「正直、キミも憲兵隊に突き出してもよかったのですが」

     バレると危険な事を考えていると、正直ちょっと洒落にならないことを言われてた。
     別に法を犯したわけではないので問題がないといえばないのだが、それでもわざわざ捕まるのは勘弁したい。

    「キミが身に着けていた紋章に覚えがあったのでね、失礼ながら名前を聞いていいかな?」

     そういって男性はベッドの傍に置かれたブレストアーマーを見ながらいう。
     より正確にいうならば鎧に刻まれた狼とつるぎを象った紋章を見ながら。

     そこで彼は、あぁ…と一つ納得する。
     確かに貴族なら知っていても別におかしくはない。逆に知らなくてもおかしくはないが、たまたま前者だったということだろう。

    「私の名前はリオン、リオン・レイオス……おそらくはご想像の通り、レイオス家の者です」






       交錯
          第1話「ハジマリは」






    「あぁ、やはりあの没落騎士の………」

    「え、えぇ…そのレイオスです……」

     名乗った途端の第一声がそれか……
     というか没落とかハッキリ言うな、そのレイオス家の者の前で………

    (それに没落はしてないぞ…没落は、ただ単に王都から辺境に飛ばされただけで……ん? それって没落に入るのか?)


     レイオス家。
     数多くの優秀な騎士を輩出した名家であり、代々王都の護りを任されて時には近衛になった者さえいる代々の王の信頼も厚い由緒正しい家であった。
     そう、あった……過去形である。なんでも祖父の代に当時の王の不評を買ったらしく辺境に飛ばされて久しい。むしろ、一家纏めて辺境行きなので王都追放といえるかもしれない。
     それでも今でも位は剥奪されていないし騎士も出している。それに過去の王に直々に授けられたという家紋も返還を求められていない。
     その辺は不幸中の幸いのというべきかなんというか。
     ついでにいうと紋章の狼は番犬で剣は騎士で王国を王都を王を護る為の騎士という意味から来ているらしい。辺境に飛ばされた今となっては少々皮肉な意味合いである。


    「いや、あの名家も今となっては落ちたものですな。跡取りがこのようなところで」

     まことに遺憾です。と、ワザとなのか素なのか少々判別に困る仕草で首を振る男。

    「い、いえ…自分は跡取りではありませんゆえ」

    (そうだ、俺は跡取りじゃない……その権利もないしな)

     リオンの内心のその言葉に気付くはずもなく、男は一人で納得したように頷く。

    「まぁ、レイオス家なら問題ないでしょう……入りなさい」

    「……?」

     そこで何故レイオスの名が出るのかよく分からずに疑問に思っていると、あの子が入ってきた。

    「今日からこの子の事を頼みます」

    ハァ!?

     唐突に、脈絡もなくそんな事をいわれて驚きの声を上げる。
     失礼といえば失礼だが、この場合多分誰も責めはしないだろう。

    「実はこの子は皿を割るのを初めて色々と問題は起こすわ……正直頭を痛めていたのですよ。そして今日のあの騒ぎ、幾ら温厚な私でもいい加減…我慢の限界でして」

     眉間を指で抑えて青筋が浮かんでいる。
     それは我慢の限界だろうが、話が繋がっていない。

    「それでもあの子は色々問題がありまして………ただ追い出すというわけにいかないのですよ。それに引き取り手も見つかりませんでしたし」

    (あ、なんか嫌な予感が……)

    「しかし、没落したといえ…あの名家であったレイオス家の者なら問題ないでしょう。ですから、彼女の事を頼みます」

    「え、いや……俺は確かにレイオス家だけど引き取るって! そんな権限――」

     既に敬語を使う余裕もなくして素で喋るリオン。

    「それでは上には私の方から伝えておきますので」

     そんなリオンを無視して、にっこりと微笑み男が部屋から出て行く。

    「ちょっ!?」

     慌てて追おうとリオンがベッドから飛び出る。
     が、ドアの前にはあの子が立っている。

    「あ、ちょっと…退いてくれるかな?」

     引きつり気味でお願いをするが、それを聞いていないように少女はリオンを見上げて…言った。

    「クビになった……」

    「い、いや……それは俺の所為じゃないし」

     むしろ、自業自得だろう。という言葉はすんでで飲み込む。

    「クビになった……」

    「いや、だから………」

    「クビになった…クビになった…クビに――」

    「わ、わかった! わかったから!」

     エンドレスに続きそうな予感がしたので慌てて遮る。

    「よろしく、ご主人様……」

    「ご、ご主人様はやめて貰えるかな……リオンでいい」

     嵌められたと内心叫びながら、引きつり気味にいう。

    「わかった、リオン」

    (こ、今度は呼び捨てか……)

     なんとなく、この子の問題の一つがわかったような気がして冷や汗を流す。
     そこでふと少女の顔をじっくりと見て気付いた事があった。

    (似てる……けど、そんな訳ないか…髪の色も年齢も違うし)

    「………?」

     じっくりと観察されて小首を傾げる。

    「あ、いや……そういえば名前は?」

     誤魔化すように聞いて、実際名前を聞いてなかった事にも気付く。
     そして、それぐらい紹介していけよ、おっさん。と内心毒づく。

    「メア…メア・シブリュート」

    (やっぱり違うか……)

     その名を聞いて、分かっていたはずなのに落胆を覚えている自分に気付いて苦笑する。

    「メアか……俺はリオン・レイオスだ。まぁ、よろしく頼む」

    「……よろしく」

     握手の為にリオンが差し出した手をスルーして、メアが頭を下げる。
     リオンが引きつったが、此処に出会いは成ったのであった。



























    オマケ


    「ところで…その首輪は外してくれないか」

     さすがにさっきまで自分があの男に思ってた事を自分が思われるのは嫌なのでリオンがいう。
     が、しかし……

    「……外せない」

    「はっ?」

     メアの一言に間の抜けた声を出してしまう。

    「鍵がないから、外せない」

    「い、いや…鍵ぐらい作れば」

    「魔科学の品で、複製は困難」

     技術の無駄使いだろう! と、声高に叫びたくなったが必死に抑える。

    「じゃ、じゃあ…せめてメイド服を」

    「これと同じ服しか、持ってない」

    (な、なんなんだよ…それは)

     なら、買えば……と思ったがすぐに思い直す。
     金がない。いや、あるにはあるが一人旅が二人旅になるのだ。必要経費は単純計算で二倍だ。
     そうなったら無駄遣いはできない。これは無駄遣いではない気もするが出費は出来るだけ抑えたい。

     そんなこんなでリオンは男が今までのメアの給料(手切れ金?)を持ってくるまでずっと頭を抱えて悩んでいたとか。














     ◆あとがき?

     早めに上げようと頑張りました、実際頑張った。
     が、しかし……こ、今回は今までより更に短いような………
     内容も薄いし、反省……
     次回はもうちょっとマシになるよう頑張ります。
引用返信/返信 削除キー/
■547 / inTopicNo.4)  交錯 第2話
□投稿者/ ジョニー -(2006/12/03(Sun) 21:09:10)
    2006/12/04(Mon) 20:37:05 編集(投稿者)

     方や魔法を刻む剣を持つ者。
     方や魔法を身に刻まれた者。

     魔剣と呼ばれる剣を持つ者と兵器として作り変えられた者。
     力を自ら手に取った者と力を押し付けられた者。

     それらは似て非なるもの。
     しかし、それは惹かれあうようにして出会った。

     互いがそうと知らぬままに………

















    「さて……あの子、メアについての説明は以上です」

     メアの元雇い主である貴族の男の言葉をリオンは信じがたい思いで聞いていた。
     この男は部屋に戻ってくるなりリオンと二人で話がしたいとメアに退室を促した。
     リオンも言いたい事などがあったのでそれを受け入れたが、男の語りだした事はリオンの想像を超えていた。


     メアは、とある貴族が秘匿していた実験施設の生き残りであるという。
     その施設でどのような事がなされていたかは男も詳しくは知らないらしい、ただかなりの非人道的な実験や訓練が施されていて王国の部隊がその施設に踏み入った時には100名近い実験体のうち生き残りはメアを含めて僅か4名だったいう事からその非道さが窺える。
     その生き残りであるメアは増幅された強力な魔法を行使する強化魔法兵、人間兵器としての実験台にさせられていたらしくメアの身体にはその為の魔方陣が刻まれているという。
     そして保護された4名はそれぞれ信用できる者達に引き取られたらしい。そのような施設の存在そのものが問題であるし、なによりその施設を運営していた貴族が王宮とも繋がりが深い人物だった為にその事を世間に知られぬ為に施設の事を含めて隠蔽されたという事のようだ。
     もちろん、メアも当初はこの男ではなく違い人物…王宮の信頼も厚い人物に預けられたらしいが4人の中でも飛び抜けてメアが常識などに疎かった為にその人物の手に負えずに他の者に預けられた。
     それが何度か続いてこの男の下にメアが預けられて、やはり手に負えずにレオンに預ける事となったと……そういうことだそうだ。
     尚、メアのズレた言動の原因は多感な時期をそのような施設で過ごした為らしい。


    「それは、本当の……事なんですか?」

     知らず知らずのうちに乾いたリオンの口からそんな言葉が零れた。
     
    「はい、我が家名と我らの王に誓って」

     王への忠誠を後ろに持っていくな、と危うく突っ込みかけたのを踏みとどまる。
     別に王都に住んでいるわけでもなく王宮と繋がりが深いわけでもなく、主に忠誠を誓う騎士でもないんでもない貴族なら家名優先の方が多いだろうと思い直したからだ、この辺長旅の経験でもある。
     それにこの男は王国の貴族であるが何故かこの学園都市に屋敷を構えているし。

    「ともあれ、彼女の重要性についてはわかって頂けたと思います」

    「えぇ……」

     そこは素直に頷く。
     下手をすれば反乱の火種になりかねない問題の生き証人。それは確かに王宮にとっては手元に置いておくには不都合があるし、さりとて手放すわけにもいかない存在だろう。
     メア達が秘密裏に消されなかったのは運がいい。もちろん、隠蔽したといえ問題が問題だった故にそういうルートには知られていた為に下手に消すわけにもいかなかったのかもしれないが。

    「結構です……では、くれぐれもお願い致します」

     








       交錯
          第2話「モトメルは(前編)」








     所変わって、現在リオンとメアは現在学園都市の中心である学園…の待合室にいた。



     事の起こりはリオンがメアの事を調べようとした事だが、何せ王宮に隠蔽された問題であるから簡単に調べられるとも思えない。
     よって、単刀直入に聞いたのだが……その殆どが――

    「……知らない」

    「……分から、ない」

     との答えしか返ってこなかった。
     まぁ嘘ではなさそうだった為に諦めて、せめてと思い施設の場所を聞いたがそれも知らないという。

     よって、自力で調べるしかなくなった訳だが……当てが無い。
     王都デルトファーネルに行けば何らかの情報は得られるだろう。しかし、レイオスを名乗る者としてリオンは王都には入れない。
     今のレイオスにとって王都は鬼門であり入る事が出来ない。仮に入れても家に多大な迷惑をかけることが目に見えている為にその選択肢は除外せざる得ない。

     次点で魔法関係の実験施設だったのだから、この学園の上層部なら何かしら知っているのではと……思ったのだがコネがない。
     しかし、そこでリオンは学園にいるはずのある人物を思い出してその人物を頼る為に来たのだ。
     相変わらず首輪にメイド服のメアを引き連れて歩くリオンへの周りの人達の視線は酷く痛かったが………必死に気にしないようにした。

     ともあれ受付でその人物と会いたいという旨を伝えて、身分提示を求められたがレイオスの名と鎧の紋章で納得してもらい、本当に会えるという保障はないが一応その事は伝えるという事になった。
     ちなみにその間は待合室で待たされる事になったが、かれこれもう三十分以上待たされている。



    「なんだレイオスって、貴方の事だったの」

     もうどれ位経っただろうか、今日のところは出直すかとリオンが考えていたら不意にそのような声がかけられた。
     その何処となく落胆の色の混じった声のした方を向くと……そこには赤い髪と赤い瞳が印象的な少女が居た。

    「久しぶりに会って、なんだは無いだろう……ユナちゃん」

    「ちゃん付けで呼ばないで」

     苦笑気味に言うリオンにキッパリと告げる少女。
     ユナ・アレイヤ……15歳にして炎系統の魔法を全て習得した天才少女。

     リオンとユナの言葉から二人は面識があるようだが、普通この二人が知り合いだとは思わないだろう。
     なにせ単なる冒険者…ハンターと天才少女である。普通二人を結びつける事の方が難しい。
     だが、実はレイオス家とアレイヤ家は交流があった為に二人は互いを知っていた。

    「……まぁ、ともかく久しぶり…あの時以来……かな」

    「………そうね」

     僅かに言葉を濁らせるリオンにユナ。
     実の所、レイオスとアレイヤの交流は途絶えて久しい…そうユナの両親が事故でなくなって以来、両家の交流は殆ど行われなくなっていた。
     リオンとユナもその葬儀以降、今まで会うことは無かった。

    「それで、いきなりなんなの? それに会わない間に随分趣味も悪くなったようで」

     ユナの視線の先には……メアがいた。
     当然、此処でも首輪にメイド服だ。

    「アレは俺の趣味じゃない! いや、そうじゃなくて……今日会いに来たのは彼女についてだ」

     慌てて弁解して、変な方向に話が行く前に本題に入る。
     決してリオンは逃げたわけではない……多分。

    「彼女の……?」

     少々怪訝な顔でさっきから一言も喋っていないメアを見つめるユナ。
     その言葉にリオンは頷き、重々しく口を開く。

    「この子はメア・シブリュートというんだが………実は―――」

     そこからリオンはつい先ほど、あの貴族に聞いた話をユナに語りだした。




    「――なの?」


    「多分―――」


    「―――ということは――」


    「――でも――――」



     何時の間にやら途中から少々話が変わって二人して施設の事についてあれこれ意見交換などを始め出していた。
     それぞれ施設について思う点があったのだろう。それが本当かどうか、そして何故というところまでに話は及んだ。
     まぁ、情報不足過ぎるので推測に推測を重ねているが………


    「……くぁ」

     ちなみにそんな話している二人を尻目に興味無しとばかりにメアは小さく欠伸をしていた。
     局地的に平和な光景だった。



























    <オマケ>


    「推測ばかり語っていてもキリが無いわね」

    「いや、そんな今更……」

     ちなみにアレからかれこれ三十分以上話し合っていた。確かに今更である。

    「ともかく、手っ取り早く証明するには……貴女、脱ぎなさい」

    ブッ!?

    「……?」

     突然のユナの爆弾発言に噴出すリオン、意味が分からず小首をかしげるメア。

    「本当に身体に魔方陣が刻まれているかどうか、確認がてらに検査してあげる」

    「……わかった」

     とりあえず魔方陣を見せればいいと納得したメアが頷き、そのメイド服に手をかけて唐突に脱ぎだした。

    「ま、まてぇーー!?」

     リオンが驚愕と制止の叫びを上げ、二人がリオンの方を向いた…その時――


    バタン!! 


     ――ドアが閉まる音が部屋に響き渡る。
     相当な早業である。ユナがぽかんとしている事からその相当さが理解できる…かも?
     叫んでから椅子から立ち上がり扉を開け放ち部屋を飛び出して扉を閉める。以上の一連の動作は僅か数秒の間に行われた。

    「………とりあえず、脱いでくれる?」

    「……………」

     僅かな空白の後に何もなかったユナの言葉に、こくりとメアは頷いたのであった。














     ◆あとがき?

     こ、今回は難産でした。
     詰まるは詰まる……とりあえず遅くなって申し訳ありませんでした。
     オマケにやっぱり短い、今からこの調子でちょっと不安なジョニーです。
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