Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■54 / inTopicNo.1)  空の青『旅立ち』
  
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/18(Thu) 22:50:02)
    ガヤガヤとした周囲の喧騒の中で気付く…

    私は少し寝ていたらしい…

    日が傾きかけている…放課後の様だ…


    「ねえ! エルリス、この後テュロットに寄ってかない?」


    友人の声が私の耳朶を打つ…

    その声で少しボーっとしていた私は完全に目が覚め、言葉を返す。


    「ううん、今日は用事があるから…」

    「むぅ、最近何時もそれだね、そんなんじゃ彼氏の一人も出来ないよ?」

    「うっ…(汗)」


    友人は私の事を心配してくれている。

    でも、私は………

    その時、ふと幼い頃遊んだ少年の顔がよぎった気がした…

    私は思わず首を振り、友人に言葉を返す。


    「いいの! 私は一生独身で通すから!」

    「はぁ…なに勿体無い事言ってんのよ、学校の中でもより取り見取りの癖に!」

    「もう、その話はやめてよ…」


    この学校は時代遅れなことにミスコンをやっている、しかも強制参加の(汗)

    あの時、命怒ってたな…1票差だったし…

    そもそも、田舎の学校だから、人数が少ない、ミスコンとか言っても、強制なのに参加者20人を超えなかった…

    だって高校の女子が18人だから(汗)


    「いや、確かに参加者は少なかったけどさ、実際アンタと命は他の子達と全然レベルが違うよ、都会に行っても通用するんじゃない?」

    「まさか、あんまり夢みたいな事言ってたら駄目だよ」

    「う〜ん、まっいいけど…それじゃ」

    「うん、じゃね」


    鞄に筆記用具や本等を詰め、家路に着く、校門の前ですれ違った命の目が痛かった…

    まだ怒っているらしい…、命とは仲はいい方だと思う、でも何か勝負事になるとむきになる癖があった…

    実家の道場を継ぐという目標があるんだから、私と張り合う事ないのに…

    そんな事を考えながら歩く…


    町外れの一軒家…何代か前はこの町の領主を輩出した事がある館に私は住んでいる…

    もっとも、今や没落し、住んでいるのは私と妹の二人だけ…

    妹、セリスは外に出る事を極端に嫌うようになった…

    10年前の事件以来時折自分の魔力が高まるのを感じるらしく、人に近付けば傷付けてしまうのではないかと怯えるようになった…

    私は精一杯励ましているんだけど…まだ、外に出るのは怖いみたい…

    元々は私なんかよりずっと明るい子だっただけに何とかしたいと思う…だから、今日は話してみるつもりだった…

    館の扉を開け、中に入ると玄関先にセリスが来ていた…

    別に体が悪い訳ではないのだから当然だけど、異界の力を象徴するオッドアイが、悲しそうに揺れている…


    「ただいま、セリス」

    「うん、お帰り姉様」

    「どうかしたの?」


    何か、もじもじとして言い難そう…多分、今日の朝出て行くときにきちんと挨拶しなかったからね…

    そう察して私が謝りの言葉をかけようとした時…


    「ううん、姉様を待ってただけ」

    「え? ……あっ……ふふっ♪」


    セリスは子供みたいな所がある、私と同い年とは思えないくらい…

    その事が可笑しくて、つい声に出てしまった…

    見ると、セリスは頬を膨らましている…


    「ごめん、ごめん悪かったわ、お詫びに今日は晩御飯私が作るから」

    「駄目! もう作ってあるもん!」

    「え? もう?」

    「うん! 姉様に美味しい物食べさせてあげようと思って…」

    「???」


    不思議に思いつつも、私は促されるまま食堂に向かい、10人がけテーブルの一角に座る…

    そこには、私が見る中では初めての料理が並んでいた…


    「これ…どうやったの?」

    「うん、料理の本見て作った♪」


    セリスの料理の腕は一流といってもいいと思う、元々集中できる事が好きだから、覚えるのも早い…

    ヨーヨーなんかはその最たる物かも…

    でも、材料は?


    「食べてみて♪」

    「うっ、うん」


    そうして、セリスの料理を口に運ぶ…

    芳醇な味わい…テュロットのチェーン店の料理なんか目じゃないくらいに…


    「美味しい…」


    でも、だからこそ、不思議…どうやって材料を手に入れたのかしら?

    私の顔が疑問を表しているのが見て取れたのだろう、セリスはぽつりぽつりと話し始める…


    「今日ね…」

    「え?」

    「今日、私買い物に行ったの…」

    「!!」

    「大丈夫だった…別に何とも無かった…」


    セリスの顔が歪んでいる…怖かったのだろう…涙をためて…

    でも…


    「じゃあ…」

    「うん…ボク…行くよ、旅に…それで、本当に心配要らなくなったらここに帰って来るんだ♪」

    「セリス!」


    私はセリスに抱きつき、髪を撫でる…セリスは私のされるがままにしつつ、微笑んだ…


    翌日、私達は旅立ちの準備を整え、情報の集まる大都市リディスタに向け旅立った…
引用返信/返信 削除キー/
■55 / inTopicNo.2)  空の青『道行』
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/18(Thu) 22:51:08)
    声がする…


    私を呼ぶ声……


    あなたは誰…?





    え? 聞こえない…


    私は貴女……


    君が私??


    そう、貴女と私は同じ物……


    君は私なんだ…


    だから…


    だから…


    …………


    ……





    「ぇさま! 姉様! 朝だよ朝! ゴハン出来てるよ!」

    「うっ…うぅん…セリス…おはよう」

    「もう、姉様ったら、ねぼすけなんだから! 低血圧なのは分かるけど…」

    「そういう貴女は、テンション高いわね…高血圧になるわよ」

    「もう! 朝ゴハンボクが全部一人で食べちゃうんだから!」

    「ちょっと…セリス…まあ良いわ…」


    ああ言った所でセリスがゴハンを一人で食べ始める事は無い、やさしい子なのよね…

    でも、今のやり取りで目は覚めた…

    私はテントから出て、立ち上がる。

    まだ肌寒い…

    気が引き締まり、今日もがんばるぞと言う気になる。

    そして、朝日に視線をやりいつもの儀式を始める…


    「おはよ、私の君。今日もがんばろうね」


    別にこれで何か変わるわけでも、答えが来るわけでもない、でも何故か安心する…だから儀式、そう私は思っている。

    私は昔ある事件がきっかけで精霊を体に宿した……

    全てを凍らせる氷の精霊…普通に暮らすには特に問題は無い。体温が少し低くなったのと、冬に強くなったくらい…

    だけど、何らかのきっかけで精霊が開放された時、私自身も制御できない…

    と言うより、私ではなくなってしまう…人格が精霊に流されると言うか、私でありながら氷の精霊となる。

    そう、人の命すら頓着しない…

    だけど、生きていく限り引き離せない、そして彼女の心が流れ込んでくる事も…だから私は一緒に生きていくことを決めた。

    私はエルリス、彼女もエルリス…だから私の君なんだ。


    支度を済ませセリスの所に向かう…そこでは、見慣れない料理がならんで…

    いや、知ってはいる、いるけど…


    「姉様遅い! ゴハン冷めちゃうよ!」

    「ええ? 朝食に火を使ったの?」

    「ふふ〜ん、私こういう事もあるかな〜って思って、携帯用バーベキューセットを買っておいたの!」

    「ははははは…」


    それでか、リュックが異常に重かったのは…

    外に出たのが久しぶりだから金銭感覚が無いのは仕方ないけど…(汗)

    次の町に着いたら絶対売り払う! 


    朝食を済ませ(量は多かったけど、勿体無いので全部食べた)

    荷物を纏めて二人歩き出す…


    私達は南の方向に向かって旅を始めている…

    最初に向かう町はノーフル、町の規模はスノウより大きいけど田舎町には違いない、でも旅人が立ち寄る事は多い…

    中規模の町…そんな感じかしら…

    乗り物を使えば早く着くんだろうけど…


    私達にはお金が無い…(汗)

    屋敷の家財道具の一部を売り払いお金に変えたんだけど足元を見られたらしい、半年暮らすのが精々の金額にしかならなかった…

    乗り物を買えば直ぐに飢え死にできそう…

    家の財産はこの間切れたし…

    テュロットでバイトでもと考えていた所だったから…

    正直ぎりぎり、時々バイトしながら旅をする事になると思う…



    それでも私は悲観してはいなかった…



    だって、セリスがあんなに嬉しそうだから……
引用返信/返信 削除キー/
■56 / inTopicNo.3)   空の青『バイト編』その@
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/18(Thu) 22:52:13)
    2004/12/12(Sun) 09:00:17 編集(管理者)
    2004/11/18(Thu) 22:56:09 編集(管理者)

    「ふう、ついたみたいね…」

    「うん♪ とうちゃーく♪」


    私達は何事も無く、ノーフルの町へとやってきた…

    まあ考えてみれば、盗賊だのモンスターだのは寒さの所為かスノウトワイライトには近付かない…

    人口僅か1214人…ぎりぎり村じゃないというのがスノウの自慢だった(爆)

    だから、まあ街道で何かに会う確立は殆ど無いわけ。

    でも、ノーフルの町は違う、人口だけでも約三倍、

    南のリディスタ西のアブリビアンという、王国内でも五指に入る大都市と繋がる要所であるため、それなりに潤っている。

    商店街の規模もかなりの物ね…

    私達は近くの宿屋にチェックインした後、今後の予定を話し合う事にした。


    「姉様、どうしたの?」

    「セリス、これからの予定だけど、今日ここに泊まったら直ぐにリディスタに向かおうと思うの」

    「うん、そうだねボクもそれがいいと思う」

    「だけど、ここからは街道沿いに行っても盗賊の類は出ると言う話だから…」

    「大丈夫! ボク達取られるような物無いよ」

    「うっ、まあそうだけど…私達みたいな女ばかりだと別の危険もあるのよ」

    「別の危険…?」


    この子は…私と同い年の筈なのに(汗)

    知識が偏っているだろうとは思ってたけど…

    お願いだから私の口から言わせないで…(泣)

    セリスは興味津々と言った感じで私を覗き込む、ああ…純真な目が痛い…

    ん? おかしい…セリスの目があんまり純真じゃない…っていうかどこかにやけてる?


    「ねえ、何なの姉様?」

    「…ほんっきで聞いてるの? セリス」

    「ううん、姉様の反応が面白かったから聞いただけ♪」

    「セリスー!!(怒)」

    「うひぃ〜ごめんなさ〜い♪」

    「反省の色がな〜い!」


    そう言って私は枕をセリスに叩きつける、ボフッという音と共にベッドに沈むセリス…


    「うぅ、姉様ひどい!」

    「ひどくない!」


    セリスの抗議を無視して、私は明日の事を考える…上手く誰かに乗せてもらえればいいんだけど…そうでなければ歩きでは辛い…

    街道に出てそこまでと言うのはちょっと辛い…

    一応私は家から剣を一本持ってきている、でも正直命と剣の練習をやった事はあっても実戦経験の殆ど無い私や、

    魔力が高くても魔法使いとして訓練している訳でもないセリスではまともな戦闘が出来るとは思えない…


    …そう言えばここには列車が来ているのよね……何とか乗れないかな……

    魔道列車…通称列車、何と言うか魔法無しでも蒸気機関なら動かせる代物だけど、やはり速度が違う。

    連邦の作り出したシステムで王国内の物資の物流の三割がこれでまかなわれている。

    王国内でも新しい駅が増え続けているので、鉄道王なんて呼ばれる大金持ちもいるとか…

    私には縁の無い話ね(泣)


    「何するにしても先立つ物が必要かな〜」

    「姉様お金がいるの?」

    「そりゃね、喉から手が出るくらい」

    「姉様の喉から手が出る所は見てみたいけど、お金欲しいならこれやってみようよ」

    「え?」


    そう言ってセリスが私に見せたのはバイト募集のチラシ…

    何々、”急募! マルシャナの森に入ってカロン草を摘んできてくださる方募集”とある。

    マルシャナの森は確か町の東に広がっている森の事ね…

    確か獣人族の領土を掠めてた気もするわ…

    とってくる場所が入り口付近だから問題は無さそうだけど…

    本当にそうか怪しい気もするわね…

    で、バイト代は……むむむっ…これは!


    「セリス良い? 聞きたいんだけど、このバイトもしかしたら戦闘になるかもしれない…けど…」

    「報酬は良いよね♪」

    「うん、多分これだけあれば列車に乗って王国一周旅行してもおつりが来るわ」

    「じゃ、やろうよ、ボク列車に乗ってみたいな♪」

    「…あのね、簡単に言うけど、私達の戦闘能力なんて高が知れてるんだから、兎に角、何かあったら逃げる方針で行くからね」

    「え〜ボクそんなに弱くないと思うよ、姉様は無敵だし♪」

    「そんな訳ないでしょ! 私も実戦経験ないしこの剣だって実戦で使えるのかどうか分からないのよ!」

    「でも、いざとなったら…」

    「それを当てにしないの、あれはあれで大変なんだから」

    「もう、姉様の出し惜しみぃ…うっ!」

    「セリス!?」


    突然セリスが苦しみだす…これは、体内の魔力が高まっている証拠…

    急いで私はセリスを寝かしつける……

    肩で荒く息をしながら、それでもセリスは私に向けは話かける…


    「あぁ…うぅ…ごっ…ゴメンね…姉様…ボク…」

    「いいの、今は安静にしていなさい」

    「うん……姉様…」


    セリスは荒い呼吸を少し落ち着けると、私に声を返す…

    セリスは月に一度のペースで魔力が許容限界を超えるらしい、

    それでも、不思議と暴走する事はなかった、セリスが必死になって押さえ込んでいるからだと思う。


    「姉様、また歌って…あの歌を聴いたら寝るから…だから」

    「うん、歌ってあげる…だから眠りなさい…」

    「えへへ、ありがと姉様」


    私は歌を歌いだす、セリスがうなされる日はいつも…

    セリスの魔力が暴走した日、精霊の歌を授かった…ううん、違う、これは母さんの歌……

    母さんが歌っていた精霊の歌……

    だから、セリスも安心するのだと思う……

    歌が終わりセリスの寝息が聞こえ始める…

    私は気を抜きフッと笑みをこぼす、あどけない寝顔だ、寝ている時まで子供なんだから…


    「お休みなさい、セリス」


    私はセリスの頬にキスをすると、自分のベッドに潜り込んだ…


    翌日、セリスがバーベキューセットを売り払った私に涙ながらに抗議してきたが…

    それはまた別の話。
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■57 / inTopicNo.4)  空の青『バイト編』そのA
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/18(Thu) 22:55:32)
    突然だけど、私達はピンチに陥っている…

    カロン草を求めて森に入ったんだけど…

    鬱蒼とした木々の下、腰の辺りまで高く覆い茂った草や落ち葉に覆い隠されてしまった地面の上をぐるぐる回っているうちに…

    方位を見失った…

    コンパスは持っているんだけど…歩くと磁石も振れる…

    そう言えば聞いた事がある…磁気を帯びた地層と言うのがあって、その層が露出している所ではコンパスが北を指さないって(汗)

    ははは…やっぱり世の中甘くないか…列車で旅なんて夢のまた夢かな…


    「ねえ、姉様どうしたの?」

    「う〜ん、実は…道に迷っちゃったみたい(汗)」

    「え? どうして?」

    「どうも、コンパスが効かない見たいなの…よく見て」


    そう言って、セリスにゆらゆら揺れているコンパスを見せる…

    セリスは見たとたん「あっ」と言いかけ口元をてで隠した…

    セリスのこの驚きよう…まさか…(汗)


    「セリス…何かやったのね?」

    「…うっ…さあ…何の事かなぁ? ボクわかんないや」

    「セ〜リ〜ス!」

    「知らないって! 本当だよ!」

    「セ〜リ〜ス!!(怒)」

    「う〜! ごめんなさい! 昔遊んでて、ボクそのコンパスの針折っちゃったんだ! それで、たまたまよく似た針があったから半分赤に塗って誤魔化したの!」

    「……………はあ」


    …これはもしかして、自滅?

    私は…一体(泣)


    兎も角、それが分かったなら、何とかする方法もある筈。

    太陽の方向は…見えないか…

    年輪は…切った木が無い…

    えーっと、他に方角を見る方法ってあったっけ?

    駄目だ〜! やっぱり完全に迷ってる〜!!


    「あの〜姉様?」

    「ねえセリス、今どっちの方むいてるか分かる?」

    「わかんない」


    虚しいわ…

    この後、は森の中で野垂れ死になんて事にならなければ良いけど…この場を動かないでいても助けがくる事はないでしょうし…

    どっちにしろ、歩くしかない訳ね………


    「はあ、じゃあ歩こっか?」

    「うん」

    「これからは、先に言っておいてね」

    「うぅ〜ごめんなさ〜い」


    セリスをへこませて少し落ち着いた後、私達はひたすら歩いていた…

    話を聞いた限りでは、そろそろ採り終わって帰っていても可笑しくない時間……未だカロン草は見つかっていなかった…

    カロン草…多年草の一種で、種が喘息や気管系の疾患に効く、単体ではそれほど価値はないけど…

    調合次第では抗癌薬としても使えるという噂ね……それで乱獲が進み今は人間側の領土ではあまり見られないものみたい…

    だから獣人族の領土ぎりぎりのこの森で取って来てと言われたんだと思う。


    「姉様! あれ! 川だよ川!」

    「え? 本当…」


    川…セブリナ川だったっけ…獣人族との境界線…もうここまで来ていたんだ……

    視界が開けているので、対岸に獣人達が水を飲みに来ているのがよく見える…

    ネコミミ少女とか、牛人間とか犬耳のおばあさんなんかがいる…あっちの少年は…リスね…可愛い♪


    「ねえ、ねえ、姉様」

    「セリスどうしたの?」

    「カロン草ってあれだよね?」

    「え?」


    言われて私はセリスの指差す方向を見る…

    川の丁度真ん中辺りに小さな島が出来ていて、そこには…

    あった! 確かにカロン草ね…でも、あそこ国境のライン上ど真ん中と言う感じね……

    あそこまで行くと当然私達は追われる事になる……流石に戦争にはならないと思うけど……

    私達は自力で逃げなければならない。

    どうすべきかしら…


    「セリス…国境まで行くのは危険だし、今回は諦めましょう」

    「そんな事ないよ! だってほら!」


    言葉を言い終わるより早くセリスはヨーヨーを飛ばす…

    ヨーヨーは20m近くを飛び中央の島にあるカロン草を幾つか糸に絡め、引き千切って戻ってくる…

    帰ってきたヨーヨーには数本のカロン草が絡まっていた…


    「どお? 姉様、上手く行ったでしょ?」

    「そう…ね…」


    正直、セリスのヨーヨー捌きにびっくりしていた…

    20mもの長さの糸がついたヨーヨーを横に操るには筋力も必要な筈なのに…

    私が不審げな顔をしていたことに気付いたのだろう、セリスはちょっとすねたような顔をしながら…


    「このヨーヨーは特別なんだ…屋敷の蔵にあったんだけど、ボクの魔力が通るから物凄く軽いの」

    「そうなの…じゃあそれも魔科学の産物なのかしら…」

    「良くはわかんない、蔵に落ちてたのを拾っただけだし…」

    「そう、じゃあ昔から家にあった物なのかしら…」

    「多分…そうだと思うよ」


    私達はそのまま森に戻ろうと思ったけど、やっぱりそこまで世の中甘くないみたい…

    獣人達の内数人がこちらに気付いてやってくるのが見える…


    「不味いわ……獣人に気付かれたみたい…」

    「え〜それじゃ、私達食べられちゃうの〜?」

    「まあ、そういう獣人もいるらしいけどね…兎に角、逃げましょう!」

    「うん!」


    こうして、私達と獣人達の追いかけっこがはじまったの…

    森の外まで逃げ切れれば勝ちなんだけど…

    獣人達に食べられて死ぬなんていやーっ!!
引用返信/返信 削除キー/
■64 / inTopicNo.5)  空の青『バイト編』そのB
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/20(Sat) 23:26:01)
    2004/11/21(Sun) 09:34:21 編集(管理者)

    「ウルォォオオーーン」
    「オオォォーーン」

    大型の獣人達が私達を追いかけてくる……
    追いかけられる私達にはたまった物じゃないけど、今の所追っ手は4〜5人、もっとも獣化している連中は匹で数えた方が良いのかも…
    ただ彼らは私達を本気で追っているわけでは無いようだ… 森の中で足を取られながら進む私達を追いかけるのだから十分もしない間に追いついても良い筈… だとしたら…
    獣の習性を考えると…私達を弱らせているという事?
    どうしよう…このままじゃ食べられる事はなくても、捕まって捕虜なんて事になるかも…
    でもそれはセリスにとって致命的なことになりかねない……
    やはり、応戦する以外には無いみたいね…
    私達は足を止め、身構える…セリスも緊張が伝わったのだろう警戒してきょろきょろ見回している…

    「姉様、もう逃げないの?」
    「このままじゃどの道追いつかれるわ…それより体力が無くなってから対峙するほうが怖い」
    「うん、そうだね……」

    私の言葉にセリスも表情を引き締めたようだけど…
    でも、安全になったと言うわけじゃない…
    獣人の警備隊がどれくらいの連度なのか分からないし、たとえ弱くても数で不利だ…
    まあ、その辺も望み薄だけど……

    「セリス、出来るだけ自分で逃げて…私がフォロー出来るとは限らないし」
    「ううん、姉様、ボクも手伝う…原因はボクにもある訳だし……」
    「はあ、あのね…セリス、あなたは戦う方法を知らないでしょう?」
    「知ってるよ、このヨーヨーがあれば…」
    「ヨーヨーで戦える分けないでしょう!」
    「戦えるもん!」
    「あのね…」
    「るぅ! 姉様にも見せてあげるんだから!」
    「…」

    はあ、この意固地なとこ誰に似たのかしら…(汗)
    私はセリスの将来が心配になった…

    そうしている間にも獣人たちは私達の周囲に陣取り様子を伺っている……
    獣人には二種類のタイプがある……
    簡単に言うと人間と獣の中間みたいな容姿をした者と、人から獣の姿に変われるものだ……
    戦闘力は一部の例外を除いて後者の方が高い…
    そして、私達の目の前にいるのは後者の方だ…
    森の中を跳ね回りながら私達に近づいてくる…
    突然周囲が静かになる…
    私はまだそれほど気配が読めるほうではないけれど痛いほどの静けさに私達が囲まれている事を察する…
    私は緊張し冷や汗をたらしながらも身構える…
    剣を引き抜こうとしたその時…

    「人間よ、何故われらが領域を侵犯した?」

    そう声を発しながら体格のいい狼男が私達の正面から現れる…
    狼男は威風堂々としていて、落ち着いている…
    変身後の獣人は血を好むとかって聞いた気もするけど…
    これは認識を改めないといけないわね…

    「私達はバイトでカロン草を取りにきただけ、もしそれが気に入らないなら返すわ」

    私がカロン草を高く掲げそれを地面に置く、セリスは勿体無がっているけど背に腹は帰られない。
    隊長らしき狼男はそれをしげしげと眺めていたけど、どうも納得していないみたい…
    カロン草を取りに行くわけでもなく私達に向き直る…

    「ならば聞く、お前達が携えている武器は魔科学兵器ではないのか? それを携えて国境にやって来るという事がどういう事か分かっているのか?」
    「それは…」

    どうも私の剣だけじゃなくセリスのヨーヨーの事も言っているみたいね…
    魔科学兵器は神殿の忠告を無視する形で国家や武器商人によって作り出されている…
    それを所持できるのは兵士や傭兵、そして貴族という事になってくる…
    私達の所はいわゆる没落貴族、だから蔵にこういったものがあるんだけど…

    これを持っての国境侵犯は戦争の引き金になりかねない…
    狼男はそう言っているのね…

    「では、私達はどうすれば良いと言うの?」
    「おとなしく一緒に来てもらおう」
    「その場合は私達をどうするつもり?」
    「刑は魔科学兵器を没収の上三ヶ月間の拘束…そんな所だな」

    魔化学兵器の没収は痛いけど…それより問題なのは三ヶ月間なんて長い間拘束されればセリスの魔力が暴走しちゃう…
    条件は飲めそうに無い、でも現状は…かなり不味いわね、そう私が考え込んでいるうちにヒュンという音が聞こえた…
    とっさに視線を上げるとセリスがカロン草をヨーヨーを使って回収する所だった…

    「隊長さん、あなたのいう事も分かるけど、逃げ切れれば証拠は残らないよね、ボクは…ボクはこんな所で立ち止まってはいられないんだ!」
    「そうね、こんな所で終われない、終わらせないわ!」

    不思議と狼男に対するプレッシャーは感じなくなっている… 私はセリスとうなずき合うとエレメンタルブレードを抜き放つ!

    「ほう、良い目をしている…ならば相応の態度で挑まねばなるまいな…」

    狼男は周囲の兵たちに何か命令をしたみたい…もっとも、片手を軽く振っただけだから良く分からないけど…
    私は呼気を整え周囲の気配を読み始める…
    命に教わった事がこんな所で役に立つなんてね…
    周囲のざわめきが消えていく…気配が息を殺しているのが分かる…
    マナは万物の基礎を成す第一条件…
    そのマナの動きを捉える事が気配を読む極意となる…だったっけ…
    今でも良く分かっている訳じゃないけど…心を澄ませば見えてくる…

    右後方!

    私は体を捻りながらエレメンタルブレードを振りぬく…
    心の動きに合わせほぼ自動でエレメントクリスタルに送り込まれる氷の魔力が剣の軌道に氷の粒を形成する…
    私に攻撃しようとしていた猿の獣人は氷の粒を目潰しに喰らい体制を崩す…
    私はその獣人を蹴り飛ばしエレメンタルブレードを構えなおした…

    「シャァー!」
    「くっ、セリス!」

    私がセリスから離れた所を見計らってセリスに狐の獣人が迫る…
    私はあわてて戻ろうとしたけど、猿獣人が私の邪魔をする様に立ちふさがる…

    セリスは狐獣人が迫ってきているというのに驚いた顔を見せない…
    狐獣人はセリスに向かって飛びかかろうとしている…
    セリスがヨーヨーの糸で結界の様なものを作り出している事は見て取れるものの、あれでは獣人を抑えておくことは出来ないわね…

    私が出来るサポートは…
    猿獣人と戦いながら詠唱を開始する…

    全ての終わりを運ぶ者、凍れる世界の主よ…その息吹もて顕現せしその力を示せ

    私が呪文の詠唱を終了し狐獣人に放とうとした時…
    セリスの結界が輝きを放つ…
    そして、飛び掛って来た狐獣人を吹き飛ばした…
    猿獣人も一瞬その事に気を取られたらしい、私はその隙にあわせて呪文を発動させる…

    「フリージング!」

    瞬間、猿獣人は体表面の水分を凍りつかせた…
    この呪文ご大層な呪文の割に効果はそれほど大きくない、でも回復するまで半日くらいはかかる…全身に低温火傷を負わせることも出来るけど…
    獣人は毛が多いから難しいのよね…

    兎も角、猿獣人を行動不能に追い込んだ私はセリスに合流する。

    「セリス…いつの間にあんなことできる様になたの?」
    「えへへ…練習してるうちにね…魔力の通し方次第で色々できるみたいだって気付いたんだ♪」
    「凄いわね(汗)」

    セリスはこういう事が上手いとは思っていたけど…これは一種の天才なのかも…
    戦闘中だというのに私は思わず感心してしまった…

    「さあ、ここを通してください、無駄な怪我人が出ますよ…」

    私は狼男に向かって脅しの言葉を言う…
    でも考えてみればこれくらいの事で怯む兵士はあんまりいないわよね…
    予想通り狼男も私達に向かって身構えただけ…

    不味い…この狼男隊長だけあってさっきの奴等より強い…
    私達は身構えていたけど、徐々に押されているのがわかった…
    緊張がくずれた時が私達の最後…

    「フッ…」
    「なんですか! いきなり!」

    そう、突然狼男は筋肉を弛緩させると私達に背中を向けた…
    まるで争うつもりは無いと言っているみたいに…

    「いやなに、お前達があまりにバカ正直だからな…」
    「バカ正直って(汗)」
    「第一にお前達は助かるチャンスがあった、魔化学兵器を捨てて行けば我々はお前達を追う事はしなかっただろう、
     スパイ容疑はあっても来てからの動きはある程度見ているからな」
    「なっ!」
    「第二に実力的に勝る訳でもないのにお前達は俺の部下達を殺していない」
    「…」
    「な? バカ正直のアマちゃんだろ?」
    「ぐぐぐ(怒)」
    「そのバカ正直さに免じて今回だけは見逃してやる、二度と中途半端な覚悟で来るんじゃな無いぞ」

    私達はバカにされていると感じながらも見逃して貰えるのだからとぐっと我慢していた…
    でも、私もセリスも限界が近い…仲間の兵士を背負っていく狼男を私達は睨みつけていた…

    翌日どうにか町に戻る事ができた私達は大変驚かれていた、奥地まで行って戻ってきた人間はあまり多くないみたい…
    因みにカロン草はかなり痛んでいたらしくバイト料は半値しかえられなかったけど、とりあえず列車に乗るには十分だったので良しとしておく事にした。

    え?
    あの後どうやって町に戻ったのか?
    それは…恥ずかしい限りなんだけど…
    また迷ってたらあの狼男に無理やり町の所までつれてかれちゃったの(汗)
    あの時の屈辱は忘れられないわ(怒)
    セリスと二人でいつかギャフンといわせてやると誓った位に!

引用返信/返信 削除キー/
■92 / inTopicNo.6)  空の青『列車編』その@
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/12/07(Tue) 18:17:54)
    飛ぶように風景が過ぎていく…
    列車はリディスタに向け快速に飛ばしている…
    王国内の列車事情は割と良く一日20往復しているので、値段も目が飛び出るほど高いとか言う事はないんだけど…
    それでも、一応大人が二三日働かないと稼げないお金がかかる…
    特に王国内でもリディスタは南の方に位置するため実際歩くと一週間がかりになる距離だから値段も相応と言う訳。
    だから、その分列車は早い…街道を行く馬車なんかは一瞬で後方に流れていくし、町なんかも直ぐに見えなくなる…
    私とセリスは列車自体に殆ど乗ったことが無かったから窓の外を飽きることなく眺めていた…

    「姉様、これなら直ぐにリディスタまでつきそうだね♪」
    「うん、この分なら夜までには着くんじゃないかしら」

    今はお昼前、既に行程の3分の1近くまで来ていたので私はそう応えた…
    お昼前か…そう言えばここには食堂車があったわね…

    「ねえ、セリスもう直ぐお昼だし食堂車の方に行ってみない?」
    「うん、行ってみる!」

    私とセリスはそろって席を立ち食堂車の方に向かう…
    食堂車の中はちょっとしたレストランといった感じの壁紙が施され絨毯が敷き詰められている…
    私達は空いた席を探したけど殆ど埋まっている…考えてみれば昼前は一番込み合う時間帯よね、出直してこようかしら…
    でも、私達の目の前のテーブルで何やら見知った人間が食事をしているのが見えた…

    「あれ? 命だよね?」
    「多分…間違いないんじゃないかな…でもどうして…」
    「ボク、声かけてくる!」
    「ちょっと、ってあっ!?」

    私達が騒いでいるのが見えた所為で周りの人が私達に注目している…
    恥ずかしい…(汗)
    命にも当然気付かれた訳で…何やら不満げな顔で私たちを手招きしている…
    私達は命に呼ばれるまま命の座るテーブルに着く…
    私はちょっと居心地悪いけど、まあ席が取れてラッキーだと思うことにした。
    そして、私達二人が注文をとり終わったころ命が口を開いた…

    「どうしてあんた達がここにいるの?」
    「え? だって、列車に乗ったからだけど…」
    「そんな事を言っているんじゃない! 私より三日も前に出発した筈のあんたがまだここにいる訳を尋ねているの!」
    「それは…」
    「それは?」
    「バイトしてました〜♪」

    セリスの言葉に気が抜けて突っ伏す命…
    だって、私達あんまりお金ないんだから仕方ないじゃない(泣)

    「あのね! あんた達ハーネット家の遺産がどのくらいあるのか知ってて言ってる訳!?」
    「遺産?」
    「はー、あんたの家妙に蔵の中が豪勢だとか思わなかった?」
    「えっと、私達あんまり入らないことにしてたし…」
    「…ごめんなさい、そうだったわね…でもね、あそこにあるものは売ればそれなりの価値のあるものばかりなの、だからあんた達でないと入れない様になってるんだから」
    「そうだったの…」
    「はあ〜何をボケかましてるのよ、考えて見なさいハーネット家は一体何で立っていたの?」
    「魔科学の研究とその成果…そうか…そうよね、確かにあそこにあるものは売ればそれなりになるかも…でも…」
    「売らないよ、あれは…ボク達にとってもかけがえの無い物だから…」
    「…まあ、その辺はアンタ達の好きにすれば良いけど…奢らないわよ」
    「え〜!?」


    動揺するセリス…話の流れで奢ってもらえると思っていたみたいね…
    命は道場の方で結構稼いでいたみたいだし…お金持ってるもんね…(汗)

    「セリス恥ずかしいでしょ、やめなさい、この間のバイト料も結構残ってるし、まだ旅費の方には手をつけてないんだから問題ないわよ」
    「そうなの、じゃあジャンボパフェに胡桃のタルト…それから、ピーチシャルロットも!」
    「だからって贅沢しないの! 大体そんなに食べられないでしょ…」
    「るぅ、だってぇ…」
    「ははは…大変ねそれじゃ…分かった分かった、胡桃のタルト位ならおごったげる」
    「ありがと! 命大好き!」
    「ははは(汗)」

    命はセリスに抱きつかれてどうして良いのか分からず私に助けを求めている…
    私は、頬をかきつつ無駄無駄と手を振った…
    命は私の家まで訪ねて来てくれていた数少ない友達だ…
    私の友達は結構いたけど、セリスは家から出ようとしなかったから、命は唯一の友達と言っても良い。
    学校に行っていない所為で言動の幼いセリスのよき理解者でもある…
    ただ、私とは時折張り合おうとする事があるのは何故なのか良く分からない…昔はもっと仲良かったんだけど…
    私としては張り合いたくは無いんだけどね…


    その後私達は食事を済ませて、まったりとしていた…
    もっとも、セリスは胡桃のタルトと格闘中だけど…

    「そういえば、命はどうして出てきたの? 私達を追いかけて来てくれたって言う訳じゃ無いよね」
    「まあね、私には私の理由がある…あんた達にも話した事があったと思うけど…」
    「もしかして、刀の事?」
    「そう、まあ時期的には先を越されちゃったけどさ、何れ私も旅に出なければと思ってはいたの」
    「じゃあ暫くは一緒な訳ね? 一度リディスタによって事件記事とか見ていくんでしょ?」
    「そうするしかないでしょ、今の所手がかりと言っても刀そのものと南に行ったらしいという情報しかないんだし」
    「だよね、じゃあ暫くは一緒に行けるね」
    「え!? 命も一緒に来てくれるの? やった〜!」
    「ちょ、リディスタまでだからね! リディスタまで!」
    「うん! それでも、嬉しいよ!」

    またセリスに飛びつかれてる命…
    なんだか諦めかかってるわね(汗)

    「セリス…せめてタルトを食べ終わってからにしなさい」
    「あっごめん」

    言われてセリスはチロッっと舌を出しながら自分の席に戻る…
    セリスは本当はテーブルマナーも詳しいんだけど…気分が盛り上がってくると子供全開だから(汗)
    命も一息ついたみたいね、やっぱり旅は道連れって言うし一緒に来てくれると嬉しい…
    セリスじゃないけど私も飛びついてあげようかしら?
    命が目を白黒する所見てみたいわね(笑)

    そんな訳で列車の中で命と再会した私達は一路リディスタへと向かっていた…
    以外にも長い旅路となることも知らずに…
引用返信/返信 削除キー/
■97 / inTopicNo.7)  空の青『列車編』そのA
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/12/14(Tue) 19:08:04)
    2004/12/14(Tue) 21:10:47 編集(管理者)
    2004/12/14(Tue) 19:10:38 編集(管理者)

    「ハア〜あふっ」
    「眠いの? セリス?」
    「うん、だって〜ババ抜き30回はしてるよ?」
    「うっ…それはそうなんだけど…」

    そう、私達はババ抜きをしている…
    午前中は景色を見て楽しんでいたんだけど、流石に飽きてきたので、命もさそってババ抜きをやっている…
    別にポーカーやブラックジャックを知らない訳じゃない、三人とも良く知っているけど…
    旅と言えばババ抜きだというセリスの主張でババ抜き大会になったの…
    でも…セリスが異常に強い…何故?
    正直こんなに差が出るなんて思わなかった…私と命は思わず熱くなって、現在に至ると言う訳(汗)

    「ごめん、セリス! もう一回…もう一回やろ! ね!?」
    「るぅ〜 命それさっきも言ってた!」
    「ははは…(汗)」

    私達は二人して惨敗…
    正直勝ち目は無いみたい…
    セリスって意外な特技を持ってるわね…

    そんな感じで私もちょっと悲しくなって空を見る…
    空は青い…雲は出ているけど良く晴れてる…
    太陽の照り返しで窓も眩しい…
    正直少し熱くなってきたので、カーテンを閉めようと手を伸ばしたその時…
    太陽が一瞬翳った気がした…
    あれ? 雲がかかった訳じゃないのに?

    「エルリスどうしたの? 空に何かあった?」
    「ううん…多分気のせい…」

    私は気にはなったけど、多分気のせいだろうとカーテンを下ろす、そしてババ抜きを再会した…



    それから半時間後…
    やっぱり一勝も出来なかった…
    私達は寝てしまったセリスを前に唸っていたけど…
    まあ、こういう事もあるわね、そう言い聞かせ立ち上がる。

    「私ちょっと、飲み物買ってくるね」
    「あ、それなら私の分も買っといて」
    「了解! 何が良いの?」
    「う〜ん…」
    「クリームソーダ!」
    「「へ?」」

    セリスが突然目を覚まして言ってくる…
    目ざといのかタヌキ寝入りなのか…ハア…

    「…じゃ…じゃあ私はミルクティで」
    「わ、分かったわ…」

    結局三人分の飲み物を注文しに食堂車に向かう私…
    もっとも、時間的には数両後ろに向かうだけだから大した手間でもない、
    けどちょっと運動部とかの下っ端の気持ちが分かるわね…(泣)

    食堂車では注文をして届けてもらう事もできるけど、もって帰ればいいだけなので自分で持つ事にした。
    まあ、三人分の飲み物くらい重い訳でもないしね。

    「さてと、必要な物は買ったし、帰るとしますか」


    ドゴーン!!


    そう言って食堂車から戻ろうとした時、突然爆音と共に車両が揺れる…
    そして、急激なゆれとブレーキ音が…
    私は飲み物を取り落としそうになりながらも、窓の外を見る…
    そこでは、空を行く大きな鳥…ううん、あれは!

    「ガンシップ!」

    ガンシップ、最近作られ始めた飛空挺と呼ばれる空を行く乗り物
    その中で、重火器で武装した物をガンシップとよんでいる…
    飛空挺自体私達には縁の無い物で、王族や一部の大貴族が所有するのみ、
    もっとも、連邦の技術は既に量産の前段階まで来ているという噂だけど…

    教会は「空の領域も魔科学で汚すつもりか!」とか騒いでいるみたいだけど…
    軍事力の為なら多分後数年もすれば量産されると思う…
    でも、まだ今は私達には直接縁があるものじゃ無い筈なんだけど…

    「空賊だー!!」
    「空賊?」

    私は気を取り直し元の両へと急ぐ…
    空賊、聞いたことがある、確か連邦の飛空挺を奪って逃げた盗賊がいたって…
    確かクラウ・ノルズとその一味…
    だとすると、列車が危ない!

    「…!」

    多分命がいるからセリスは大丈夫だと思うけど…
    このままじゃ…

    私は、息を切らせて元の車両へと滑り込もうとするけど…

    「はっはっはっ! 大人しくしてりゃ、安全に返してやる! いいか! 両手をあげろ!」

    そこには既に入り込んだ空賊達が乗客達を拘束している姿があった…

引用返信/返信 削除キー/
■101 / inTopicNo.8)  空の青『列車編』そのB
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/12/21(Tue) 18:09:59)
    2005/01/03(Mon) 15:33:19 編集(管理者)
    2004/12/22(Wed) 06:29:49 編集(管理者)
    2004/12/21(Tue) 18:15:25 編集(管理者)

    エルリスがジュースを買いに出て行った後、セリスは命に話しかけるかどうかで迷っていた…
    流石に先程の胡桃のタルトの件もあって、たかったみたいでちょっと話しかけ辛い…
    きっかけを探して外を眺めていると遠くを飛んでいく影が見えた…

    「命…なんかが空を飛んでるみたい…」
    「え? ああ、ほんとだ…エルリスも何か見た風だったけど…あれは…」

    命が空を見て不思議がる…
    セリスには何故不思議がるのか分からなかったが、空に見える影は奇異なものらしい…
    だが、セリスには命に聞いておきたい事があった…
    会話が途切れる前にと、続けて話し始めるセリス…

    「ねえ、命…ボク聞きたい事があるんだけど…命が姉様とケンカするのってボクの所為?」
    「…どうしてそんな事聞く? 私は唯エルリスに勝ちたいだけ…別に他意なんて無いよ」
    「でも…やっぱり…10年前の事が…」
    「…それは…」

    セリスの言葉に命が言いよどむ…10年前の事件…
    セリスが始めて魔力を暴走させた時の事…
    あの時、現場には四人の子供がいた…
    男の子一人と女の子三人、元気よく遊ぶセリスと命…
    どこと無くお姉さん風を吹かせるエルリス…
    そして…もう一人…

    その男の子とは10年前以来会っていない…
    その事があって直ぐ、引っ越して行ったからだ…
    だから余計10年前の事は三人の胸に残っている。
    ふとした事で血を噴出す古傷の様に…

    それ以来、セリスは家を出なくなった…
    なぜなら彼女の暴走は、
    10年前の時点で既に半径1km圏内を消滅させるほどの魔力量であったからだ…

    命もその事は良く知っていた…
    そして、彼女達は皆少年の事が好きだった…
    それは恋愛感情では無かったのかもしれない、
    だが少年が町を出ていった原因を作った姉妹にわだかまりを持たずにいられたとは思えない、
    そう、セリスは言っているのだ…

    「10年前の事は…正直少し気にはなっているよ…でも私は純粋にエルリスより強くありたいと思っている…それはもしかしたら、この剣の因縁よりも強い欲求かもね」

    そう言って命は空を睨むようにそして何かを懐かしむ様に表情を変えた…
    セリスにとって時には姉のように時には友人のように接してくれる命はかけがえの無い存在だ…
    そしてセリスにとってエルリスは命と引き換えにしてでも守りたい宝物とさえいえる。

    「でも、命と姉様が争う所は見たくないよ…」
    「それは、別に普段からいがみ合おうとなんて思ってないよ、だから安心してくれて良い」
    「本当?」

    セリスは心から二人が仲良くいられれば良いと思っていた…
    その為に例え自分が死ぬ事になっても…いらない子供に過ぎなかった自分の命で何とかなるものならば…
    セリスが子供のような行動をするのは、実はそういった心の隙間を無意識に埋めようとしているのかもしれない…

    「あ〜分かった! 分かった! 少なくともリディスタに着くまではそんな事しないから、それで勘弁して!」
    「るぅ、どうせならずっとそうしてよ〜」
    「そうもいかないの!」
    「もう、命の意地っ張り!」
    「…ふう」

    命もまさかセリスにここまで言われるとは思わず、タジタジになって突っ伏した…
    セリスはそれでもまだ何か言いたそうだったが、次の瞬間表情が凍りついた…

    「何か来る!」

              ドゴーン!!

    セリスがその言葉を言い終わる前に列車が強い振動に見舞われる…
    命はとっさにセリスを押し倒しながら床に伏せた、

    列車の窓を割りながら四つの影が列車内に飛び込んでくる…
    (まずい、盗賊の類か…一体何が狙いなんだろう…だけど、ここの四人だけなら…)
    そう思って命が飛び出そうとしたが、セリスがそれを止める…

    「セリス…一体どうしたの?」
    「姉様武器を持って出てない」
    「それ位エルリスは自分で何とかするわよ」
    「でも、外からも狙ってるよ?」

    そう言って窓の外を指すセリス、命は嫌な予感が広がるのを抑えつつ外を見た…
    そこには、ガンシップが浮かんでいた…銃座の一つが命たちのほうを向いている…

    「そういう事は、早く言いなさいよ!」
    「だって、聞かれなかったもん! それに間に合わなかったでしょどの道」
    「それはそうだけど!」

    ドゴーン!! ドドーン!! ゴバーン!!

    そういいながら二人は全力で走り出す…
    数初の弾丸が命たちに向けて放たれたが彼女達は転ぶように逃れる…
    それた弾丸は列車の床部分をえぐり穴を穿つ…

    「派手にやってくれちゃって…私がやられっぱなしになるとは思うなよ!」

    命は気をねってからガンシップの銃座に向けて居合いで一閃した…
    すると、剣が届く訳も無い距離にいたはずのガンシップの銃座は小爆発を起こし砲塔が吹き飛ぶ…

    「一閃『裂空』」

    命が剣を鞘に納めると同時に技の名前を言う…
    昔セリスにせがまれて良く技の名前を教えていたのだが、完全にクセになっていた(爆)

    振り向きざま命は、再度突撃をかけようとするが、賊の一人が前に出てくると同時に動きを止めた…
    その男は独特の雰囲気を身に纏い周囲を圧していた…
    金髪碧眼、大柄な体格、典型的帝国人の特徴を持つが、日に焼けた顔色をしている…
    命はその男が何者なのか分かっていた…相手がガンシップを持っているなら軍か、他国の密偵か、もしくは一部の大貴族か、後残るのは…
    空賊、今は一つしか存在しない空賊団…どこかで連邦と繋がっているという噂もある…
    男は、命も前まで来ると轟然と言い放つ。

    「中々面白い芸を使うサルだな…だが、この俺のガンシップを傷つけてくれるとは…きちんと反省させなきゃならんな…」
    「いきなり出てきて人をサル呼ばわりとは、全く歴史の浅い所に住んでるモグラは脳みそも浅いみたいね…」

    二人の視線が絡み合う…
    二人は同時に一歩引きニヤリと笑みの形に口元を歪め構えを問える…
    命は納刀して抜刀術の構え…
    相手はボクシングスタイルをとる…

    「まさか、居合い相手にボクシングで何とかなると思っている訳じゃないでしょうね?」
    「サルの相手は素手で十分さ…」
    「…そんな軽い挑発に引っかかるほど精神が柔だと思われてるなんて不愉快だね…モグラは地面の中で過ごすから目が退化してるんだろ?」
    「ククッ」
    「フフ」

    二人は同時に飛び出し、互いに向けて疾走する…
    命は一瞬抜刀しようとするが、横に回転しながら飛びのく、命がいた場所を男の足が通り過ぎていった…
    靴の先には仕込みナイフがついている、男が足を繰り出す為に体勢を変えた瞬間に命が気付いたからよかったもののそうでなければ切り裂かれていたろう…

    「なかなか癖の悪い足ね…」
    「ふん、貴様も気付いてよけるとはな…」
    「あら、サルっていってる余裕が無くなった?」
    「言ってろ」
    「そうね、でももうお仕舞い」
    「何?」

    命がそう言うと同時に、男の服がバラバラに吹き飛ぶ…体の表面に数条の傷跡を残してはいたがほぼ完璧だ…

    「なっ…まさか!? さっき転がって避けた時か?」
    「実力差が分かった?」

    そう、命は抜刀していた、横に飛びのきながらながら男に切りつけていたのだ…
    そのスピードは男の視認出来ないほどと言う訳ではなかったが側面に回りながら切り付ける事で相手の死角からの攻撃となったのだ…

    「くそ! 覚えてやがれ!」
    「いつきても同じだし、一々憶えてらん無いよ」

    命は相手の捨て台詞に律儀に反応していたが、不思議に思う…
    彼女も知っていた…クラウ・ノルズがどんな存在であるのかを…
    あんな男の訳はない、何故なら強さもさることながら、連邦の重要施設を襲撃するほどの男なのだ…
    こんなずさんな作戦を練るとも思えなかった…
    それに…あのガンシップ本当に連邦製の物だろうか?
    だが一味の人数は多いらしい…この車両以外にも多数の人員が配置されているようだ…

    「命やったね♪」
    「ううん、不味い…このままじゃ応援がどれだけ来るか…」
    「うん、結構人数いるみたいだね…だったら」

    セリスは何か悪戯を思いついた様な表情をしていた…


引用返信/返信 削除キー/
■104 / inTopicNo.9)  空の青『列車編』そのC
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/12/27(Mon) 23:12:09)
    2004/12/28(Tue) 08:03:06 編集(管理者)
    2004/12/27(Mon) 23:17:20 編集(管理者)

    「はっはっはっ! 大人しくしてりゃ、安全に返してやる! いいか! 両手をあげろ!」

    すでに結構な数の空賊が入り込んでいるみたいね…
    でも、今は剣も無いし…
    どうしよう…(汗)

    「おっとそこの! 隠れてるんじゃねえ! 出てきな!」

    見つかった!? 私は空賊のいる両にもう一度視線を走らす…
    隠れているっていっても場所的には隣の両…ばれても不思議じゃなかったけど、
    見つかったのは、長椅子の下にもぐりこんでいた男の子…
    男の子は引きずり出されて端にいる縄をかけられた人達の所に連れて行かれた…
    私は安堵すると同時に怒りを覚えた、人質を取るやり口は吐き気がする。

    だけど、今の私に出来るのは…
    三つの事かしら…祈る事、暴走、そして魔法ね…
    でも私の使える魔法は初級魔法レベル…スノウの町に住んでいた魔法使いの先生に教わったもの…
    どれ位役に立つかは、神のみぞ知るって言う感じかしら…

    「ではひとつ行って見ますか」

    私は小さな声で詠唱を始める…効果は小さなものでいい…
    三人いる車両内の空賊を足止めできれば十分…

    「古の盟約に従い古霊に申し立てん…我が前にたゆたいし不穏なるやからに安息と平穏を」

    呪文が完成すると同時に目標に向かって放つ…

    「フェルトスリープス」

    声は潜めたつもりだったけど…
    やっぱり気付かれたみたい…
    三人の男は、私の方を向きそして…

    倒れた…

    「ふう…それほど魔法に詳しい人間がいなかったみたいね…」

    この魔法は相手の脳の働きを鈍くする…というか脳の温度を下げる事によって眠りに落とすと言う魔法…
    でも、こんな魔法は相手が動いていると非常にかけ辛くなるし、魔法の知識がある人は気を張って耐えてしまう…
    不意打ちでないと効かない…微妙な魔法なの…(汗)

    兎に角、私はすぐに捕まった人達の縄を解き、それを眠った空賊を縛り付けるのに使う…
    開放された人質の人達に感謝されるのはいいんだけど、ここでゆっくりしている暇も無いし…

    さて、次はセリスと命がいるはずの両ね…それに剣もあそこにあるはず…
    で、そこを覗いてみると…
    何かすごいことになってた(汗)
    ガラスは皆割れてるし…誰もいないし…
    床に穴が開いてるし…
    何事?
    唯一救いなのは血痕が無い事…
    少なくとも大した怪我をした人はいない様ね…

    「でも…荷物大丈夫かしら?」

    何だかとてつもない事態だけど…命やセリスの心配をするには、どう動いたかまで予想できそうな様子の前にやる気がうせる…
    まあ、多分命が撃退してセリスが何か変なことをしようとしていると言う所かしら…
    何故なら、命のカマイタチの技の後がそこら中に残っているし…
    私は仕方なく剣をゴミ袋みたいになったリュックから引き抜きため息をつく…

    「はあ、一体どんな事態になるんだか…」

    そういいつつも、私は次どうするべきかを考えていた…
    セリス達は恐らく、空賊に一泡吹かせる為に動くだろう…
    でも、問題なのは列車が止められる事…
    目的が何であれ列車を止めたほうがやりやすい筈だから…
    なら私が向かうのは、先頭車両ね…

    私は先頭車両に向かい走り出した…
    途中何回か、下っ端に出会ったけど、皆驚くほど弱かった…
    いや、確かに盗賊なんてそんなものだと思うけど…
    連邦に名を轟かせた空賊がこの程度と言うのは正直ふしぎ…

    「この先も皆この程度なら楽なんだけど…」

    思わず私はそうこぼし、とうとう先頭車両までたどり着いた…
    先頭車両には、なにやら威圧感のある金髪の半裸の男とその男より一回り小さいすらりとした金髪の男がいた…
    男は私を見るとニコリと微笑み、声をかけてくる…

    「ほほう、勇ましいお嬢さんだ…ドレールを倒したのも君なのかい?」
    「いえ、違うわ」

    ドレールといわれた巨漢の男は渋い顔をするけど、傷や服の状態を見れば命にやられた事は明白ね…

    「では、お嬢さん、お名前をお聞かせ願えるかな? おお、そうだった、人に尋ねる時は自分から名乗るんだったね、
     我が名はクラウ・ノルズ…君も名前くらいは聞いたことがあるだろう?」
    「ふ〜ん、そうなの…」
    「名乗らないつもりかい? それも良いだろう、では月の君よ、この場は大人しく引いてくれないかい?」

    この男、なんていうか…台詞が大仰というか、クサイわね…
    出来れば近付きたくない相手だけど…
    今列車を止められたら、復旧に時間がかかっちゃう…

    「引く訳には行かないわ…私は先を急いでいるもの…」
    「…どうしてもかい?」
    「ええ」

    その会話が終わる瞬間互いに向けて私とクラウ・ノルズは飛び出す…
    私は剣を片手にしつつ滑り込むように下に向けて走りこもうとしたんだけど…
    クラウ・ノルズは私の動きを予想したのか、飛び上がって避ける…
    私は追撃の為に剣を抜き放つ…氷の粒がキラキラと光りながらクラウ・ノルズに殺到する…
    クラウ・ノルズは、地面すれすれを走って氷の範囲から脱する…
    私は剣を構えて突撃するものの、クラウ・ノルズの取り出した物を見て硬直する…
    拳銃…火薬式のそれは、連邦では既に軍の一部が使っているとかって聞いてるけど…
    まさか目にする事になるなんて…私が拳銃を前にどうするべきか考えていると、
    クラウ・ノルズの方から声をかけてきた…

    「ひゅ〜やるね〜♪」
    「それはどうも」
    「だけどさ、既に目的は達成されたんだな」

    そう言ってクラウ・ノルズが背後を指差すと、そこではドレールがブレーキを勢い良く引いているところだったの…
    急激な横Gにさらされ、私は体勢を崩す…クラウ・ノルズとドレールはその隙を逃さず走り抜けていく…

    「ちょっと待ちなさい!」
    「そう言われて待つわけには行かないな〜、月の君何れまた会おう!」

    してやられた…私は体勢を立て直して追い始める…

    その時だったの…唐突に爆発音が響き始めたのは…
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■112 / inTopicNo.10)  空の青『列車編』そのD
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/01/03(Mon) 16:43:54)
    先程銃座を一つ破壊されたガンシップが旋回しながら、列車の方に戻ってこようとしている。
    今度は別の銃座を列車に向けようとしているのか少しだけ右寄りに近付いてくる。
    列車にいる二人へのリベンジのつもりだろうか?
    だがこのままでは、列車そのものにも被害が出る事は間違い無さそうだった。

    その列車の屋根の上…
    高速で走る列車の上に二人の人影があった…
    すっく立ったままバランスを取る人影達はバランス感覚もさることながら、風圧を感じていないかの様に見える…
    二人はどう見ても体重の軽い女性ばかり、普通に考えるなら立っていられるはずも無かった。
    暫くして人影の内一人が口を開く。

    「大丈夫? ヨーヨーの糸で魔方陣を組むなんて…魔力を流し続けるのは普通の魔法より大変だと思うけど」
    「ううん、問題ないよ。だってボク、魔力だけは売るほどあるから♪」
    「…(汗) そういえばそうね…でも、魔方陣の知識なんてどうやって?」
    「家の本結構色々あるから、そういったものもあったんだ♪ 外に出られないから暇だったし…」
    「ごめん…まずい事聞いちゃったね…」
    「ううん、気にしないで、ボク、今外に出て嬉しいよ! だっていろんなことが起こって全然飽きないもん」
    「あはははは…(汗)」

    二人はヨーヨーの糸で作られた魔方陣の上に立っていた。
    形の維持は魔力を持って行っている。
    ヨーヨーの糸そのものは魔力を通し易いようにミスリル合金を編みこんでいるとはいえ維持し続けるには中級の魔法使い並の魔力が必要だ。

    ここで少しミスリルについて語っておく。
    ミスリルそのものは妖精族から伝わったものであるが、現在妖精族とは通商関係にあり、ほぼ金の二倍のレートで取引されている。
    ミスリルは魔力透過金属として珍重され、いろいろな所に使われている。魔科学では無くてはならないものの一つだ。
    もっとも、妖精族の中にも人間のように取引に敏感なものもいるが、世俗に興味が無い者も多いため不足しがちであるが。

    現在の所、ビフロスト連邦が一番の買い手であり、その取引額は金の4倍〜5倍のレートにまで跳ね上がっているとか。

    セリスは列車の上で魔力を使って魔方陣を組み上げ、風の入り込まない領域を作り出していた。
    空気を通さない訳ではなく、魔方陣の中の空気がゆったりと流れる様にしているのだ。
    これにより、二人は風圧から守られ、列車の上で難なく立っていられると言う訳だ。
    もっとも、振動まではどうにも出来ないが…

    「じゃあ、命おねがい」
    「まあ良いけど…重火器が来たら逃げるわよ」
    「もちろん! ボクだって死にたくないもん」
    「OK、じゃあちょっと時間頂戴」

    セリスが無責任な笑顔で撤退の意思表明をしているのを見て、命は納得顔をした。
    そう言いつつもセリスは撤退しないだろう、彼女はそういう子だと命は知っていた。
    セリスは他人を傷付けたく無いが為に、十年もの間引きこもった。
    そのやさしさは、正直真似出来ないと命は感じていた。

    命はそんな考えをおくびにも出さず、先程見せた『裂空』の構えよりもさらに腰を落とし。
    刀も完全に後ろに回している。
    居合いというにも少しおかしな型だ。

    スウゥゥゥゥー、ハアァァァァー

    構えのまま数秒に渡り気を練る…
    旋回し戻ってくるガンシップと正対し、それでも命は構えを崩さずひたすら気を練っている…
    それを見て危機感が募ったのかガンシップの威嚇の砲撃が来る…
    しかし、それはセリスの持つもう一つのヨーヨーによって組まれた魔方陣によって軌道を逸らされ、列車の脇の田畑に直撃する…

    「あちゃ〜、やっぱり完全には無理みたい…農家の人ごめんなさい」

    セリスがそうこぼしている間にも距離は縮まり、ガンシップがその銃口を命に向けたその時。
    一瞬だけ命の前の空間が煌いた…

    その煌きの後命は力を失ったようにふらつく。
    それを見たガンシップの砲撃手が勝利を確信した瞬間…
    ガンシップの羽の一枚がずれ落ちた…

    『な!? 何だ一体!?』

    ガンシップのパイロットは一体何が起こったのか分からなかった…
    しかし、確実に高度は下がり…
    地面に片翼を突っ込ませた、
    そして田畑を掘り起こしながら疾走、ようやく地面に止まった…
    そして、乗員が逃げ出すとほぼ同時に爆発した…

          ズゴォォォーン!!

    「一閃『雲耀』」

    この技は今の命にできる究極の技。
    とはいっても、溜めに時間がかかりすぎて実戦では殆ど使えないが…

    因みに「雲耀」とは、東郷重位の創始した示現流において、
    「刻(二時間)を八十四に割りて、その一つを分とす。
     この分をたとうれば、脈一息にあたる。
     分を八つに割りて、その一つを秒とす。
     秒を十に割りて、その一つを糸(し)とす。
     糸を十に割りて、その一つを忽(こつ)とす。
     忽を十に割りて、その一つを毛(こう)とす。
     毛を十に割りて、その一つを厘(りん)とす。
     厘きわまりて、雲耀なり。」

    具体的には、鋭い刃先の錐(キリ)でもって、習字の半紙を突き通す速さのことをいう。
    錐は半紙に触れた瞬間に反対側へ貫いているはずなので、その速さは目にも留まらぬ速さとなる。
    参考文献”戸部新十郎氏著「兵法秘伝考」”

    示現流が居合いの流派ではない事やこの世界において示現流というものが存在しているのかは兎も角、
    神速を超える居合いの一つの形として命はその技を捉えていた…

    完成形には程遠い技だが威力の程は並ではない…増幅された気(エーテル)と魔力の相乗効果により、500m先までその威力を届かせることが出来る。
    しかも、鉄板などを紙の様に引き裂きながらである。
    もっとも、彼女としても使ってその後は暫く動けなくなってしまうが…

    「命やったぁ♪」
    「は…はは…でも、暫く動けそうに無いわ…ごめん、もう少し魔方陣維持しててくれる?」
    「うん、こっちは大丈夫!」

    それを聞いた命はその場に座り込んだ。
    セリスは心配そうに命を見ている…
    二人はその場で動くことなく、回復を図っていた…

    しかし、急ブレーキと共に列車は速度を落とす…
    列車がゆれ、命が振り落とされそうになる。
    命が落ちないように抱え込むセリスには走り来る物音を聞きとる術はなかった…
引用返信/返信 削除キー/
■129 / inTopicNo.11)  空の青『列車編』そのE
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/01/18(Tue) 15:03:44)
    2005/01/18(Tue) 15:04:43 編集(管理者)

    列車が急ブレーキで止まりそうになる中、私はクラウ・ノルズを追いかける為、立ち上がろうとしたけど…
    連続する爆発音の前で、動きを止める…

    「…!?」

    私は立ち上がりながら爆発音のする方に振り向く、すると、列車の窓から後方に流れていく黒い煙が見えた…
    もしかして…あれ、ガンシップ!?
    兵士なんかも乗り込んでいないこの列車で、あんな事ができるのは、命の奥義位だけど…
    まさか…!?

    私は、急いで車両の連結部に向かうと、よじ登り始めた…
    多分上では、動けなくなった命がいるはず…
    今、クラウ・ノルズと接触するのは不味い!










    ボクがヨーヨーの糸で出来た魔方陣を維持しながら、命を休ませていると、列車が急ブレーキをかけ停止する…
    もしかして、内部の空賊が何か手に入れたのかな?
    慣性でもっていかれないように命を押さえつけていると、足音が聞こえてきた…

    「あ〜あ、まさかやられちゃうとはね、これで暫くドレール君には飛空挺は無しだ」
    「そりゃないですぜ、クラウの旦那」
    「聞けば君、女性をサル呼ばわりしたとか…世のご婦人は皆守られるべき者であるというのに…情けない」
    「あっ、いやそれはですね…」

    そう言いながら、列車の前方から近づいてくる影が二つ…
    さっきの男と後は…細身の男…
    私達の存在に気付くと細身の男がボクに話しかける…

    「これはこれはお嬢さん方、ガンシップを落とすとは、流石ですね」
    「何者?」
    「クラウ・ノルズと申します、今度ご一緒にお茶でもいかがです?」
    「…お誘い嬉しいけど、それよりボク、こんな所で言えるあなたの神経を疑います」
    「恋は突然と言うじゃないですか、貴女を見て私の脳裏によぎったのです、貴女は特別な方であると!
     私と一緒に世界を旅しませんか? きっとご満足いただけると思いますよ」
    「ボク変な電波受信してる人は嫌い」
    「ああ! そんな…電波などと…これは恋の予感! 誰にでもある第六感です!」
    「そう、でもそれはきっとはずれだよ、だってボク好きな人いるもん」
    「なんと!? 残念無念! しかし、傷心の時は私にご連絡を。きっと何かの手助けになるはず」

    クラウ・ノルズがそれを言い終わる頃には、ボク達の頭上にそれが現れていた…
    さっきまでのガンシップとは明らかに違う…
    私達にはその構造すら分からない大型飛空挺…
    今までは景色の中に全く存在していなかったのに、まるでにじむ様に、頭上に現れたんだ…

    それを見てボクは、一つの事を思い出した…
    アーティファクト…もしくはオーパーツと呼ばれる現在の魔科学で再現する事ができない超技術の産物…
    古代魔法王朝時代に製造されたもの全てがアーティファクトという訳じゃないみたいだけど…
    ごく一部、存在が確認されているアーティファクトは皆凄まじい能力を持っているみたい。

    例えば空飛ぶ島…西方大陸にあるって聞いたけど島のうえに都市があるらしいから空飛ぶ都と言ってもいいみたい…
    例えば水中戦艦…光も届かないほどの深海までもぐれるとか…
    例えば異界の扉…使い方次第だけど、前の持ち主はその扉を使って異界から軍隊を呼び出して数万の軍勢を退けたとか…
    例えば黄金宮殿…昔、世界中の富を集めたって噂だけど、そこでは永遠の命が得られるって言うね…

    どれもこれもみんな凄まじいものばかり…
    だから、あの飛行艇が突然現れたのは不思議と言うほどじゃない…
    クラウ・ノルズの飛行艇がアーティファクトだったなんて聞いてないけど…

    「さあ、パーティの時間もそろそろお開きとなりそうですね…ドレール君先に行っていてくれたまえ」
    「はい! 旦那!」
    「ふう、もう少しその呼び方何とかならない物かね…そう思わないかい? 月の君?」

    そういうと、クラウ・ノルズはボクのほうから目を離し、後ろに振り向く…
    そこには、姉様が駆けて来る姿が見えた…
    姉様は、息を切らせながらもクラウ・ノルズの正面に立つと、疑問をぶつけた。

    「クラウ・ノルズ…貴方なぜ列車を襲ったの?」
    「ふふ…月の君ならお察しかとも思ったのですが…宜しい、答えましょう
     この列車には、アマルガムの一種であるアルゼノンが1tほど積まれていたのです」
    「な!?」

    姉様は一瞬硬直します、アマルガムと言うのは水銀の合金の事です。
    アルゼノンというのは水銀とミスリルを一定の比率で合成した物で、現在作り出せる者がいないとされる特殊な合金…
    この合金で作り出された物は魔法を保持しやすくなるので、魔法使いには珍重される一品て聞いてる。
    硬度も、鍛え方次第では9.7まで跳ね上がり、相場は金の20倍以上、そもそも売りに出されるような品じゃないの…

    「まさか、王国は開戦を決意したという事!?」
    「さあ、知りませんが、争いの元は頂いていくのが私の主義ですから」
    「信じられない…」
    「ああ、月の君にも信用されないなんて…」

    クラウ・ノルズは悲しむように後ろに下がるんだけど…
    姉様は、追いすがろうと一歩踏み出す…
    ちょうどそのとき、一両前の車両に向けて四つのアンカーが投下された…
    投下されたアンカーは、車両を貫いて引っ掛ける…
    クラウ・ノルズはその車両に飛び乗り指示を出す。

    「引き上げろ!」
    「ちょ! 待ちなさい!」
    「ハハハ、月の君と運命の人! また会おう!!}
    「もーくんな〜!!」

    姉様は結局追いつく事ができなかった、クラウ・ノルズの手際のよさは感心してしまうほど…
    でも、こんなのって悔しい!

    最初、うつむいていた姉様だけど、疲れた顔をしながらも私の方にやって来る…

    「ごめん、セリス…捕まえられなかった」
    「ううん、別にいいよ…ボク達の目的は別にあいつらを捕まえる事じゃないし、ボクは何にも出来なかったし」
    「それは…命を見てないといけなかったからでしょ」
    「うん、命の必殺技使ってもらっちゃってさ」
    「無理させるから…」
    「ゴメン」

    そういってボクはチロリと舌を出す。
    今回の事で、目的地に着くのはかなり遅れちゃった気もするけど、時間ガ決まっているわけじゃないしいいよね?
    ボクもいつか姉様や命に迷惑をかけない人間になれるといいな…そうは思うけど…
    今は今を楽しもうと思う、いつ終わっても悔いの無いように…
引用返信/返信 削除キー/
■218 / inTopicNo.12)  空の青『王都編』その@
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/06/08(Wed) 22:28:38)
    2005/06/09(Thu) 16:15:35 編集(管理者)

    クラウ・ノルズの一味により、列車が無理やり停止させられた事により次の列車を待つことになったんだけど。
    修理用の列車がきて、壊れた車両を引いていく、中も散々壊されちゃったし、その列車には乗れそうも無かった。
    そんな訳で、次の駅まで徒歩で行く事となった…

    幸いと言うか、もう王都までの距離はそれ程でもなかったので、私達は歩いて王都入りを果たす事になった。
    同じ街道と言っても、田舎の街道と違い王都の街道には街燈が配置され夜になろうかという時刻だというのに非常に明るい。
    この街燈も魔科学の産物なんだよね、それに、王都近辺は街道自体が大理石で出来ている。
    あまり一般的ではないけど、自動車と呼ばれる燃料で走る馬車のような物も時折通り過ぎる。
    流石に危ないと思うけど、向こうの方でも気にして避けてくれるみたい。
    私達のような旅人にとっては歩きやすい分良い所よね。

    最も王都入りと言っても王都を取り囲む城壁から見れば外なんだけど…
    城壁の内側は外側と比べると、整然とした作りで綺麗に作られているらしいんだけど、私達は高くて中の宿には手が出ない(汗)
    まあ、蓄えを放出すれば別なんだけど…出切ればバイト代の中で済ませたいしね。
    でも、今日は戦ったりして汗もかいたし、シャワー位は浴びたいな…
    そう思いつつ、宿を探しながら王都城壁外の東部地区を歩き回っていると、唐突にセリスの声があがった。

    「姉様! あの宿なんていいんじゃない?」
    「え? …あれは駄目」
    「何で?」
    「そういうこと聞くかな、この子は…」
    「え…っと、命! あそこって宿じゃないの?」
    「えぇ!? 私に振る? エルリス! あんたが教えてあげなさいよ!」
    「う〜分ったわよ。セリス、ちょっとこっちに来なさい」
    「るぅ、なんかボク変な事聞いたかな?」

    少ししょんぼりとしながらやってくるセリスに私は耳打ちする。
    まあ、あのけばけばしいライトアップというものじたい、あまり田舎では見かけないしね、私達も知識として知っている程度だけど…
    もともとセリスは頭がいい、でも学校とかで習った訳じゃなくて本だけの知識だから一般常識に欠けているきらいがある。
    だから、恥ずかしい事を説明させられると子は大変…出切れば言いたくないんだけどな…(汗)

    「…なの」
    「え!? ええー!!? あそこ、そういう事をする所なの〜!?」
    「別名”連れ込み宿”とも言うから泊まれない事はないけどね」
    「あう、でも相手いないし…」
    「まあそういう事、さっさと別の宿さがそ?」
    「うん、そうだねボクも今度から気をつけるよ」

    そうして、私達はまた宿を探し始めた…
    現在は街のメインストリートを少し外れている、安い宿が多いからなんだけど、当然ああいう宿も多い。
    そっち系の宿というのも随分昔からあるみたいだ、一般の宿にそういう人を呼ぶという話も聞くけど…
    って、そっち系の話ばっかりになってる…まあ、興味あるからなんだけど…(汗)
    ちょっと、耳年魔かな? っていっても本当は私達の年齢だと結婚している人も結構いるみたいなんだけど…
    まあ、その辺りは置いておこう、悲しくなっちゃうし(泣)
    そんな事を考えている内に命が宿を見つけたみたい。

    「あの宿でいいんじゃない?」
    「え〜大丈夫かな?」
    「確かに、ちょっと…(汗)」

    命が見つけた宿は確かにそれ程悪い物には見えなかった、確かに清潔そうだし、それなりに規模もありそう、
    むしろメインストリートにあってもおかしくない良い宿のようにも見える。
    だけど、一つだけ欠点があるように見える、それは…宿がほんの少しだけど…傾いている事…
    それはもう、見事に傾いていた、だって全体を見渡してもあの宿だけ違和感で浮かび上がっているんだから…(汗)
    それでも、命は気軽そうに言う。

    「そりゃ、安宿だもん何かしら欠点はあるって」
    「う〜ん、そうだけど寝るとき傾いてたりすると頭に血がのぼっちゃいそう…」
    「それに倒れそうで怖いよ」
    「なら別の宿にする? 今まで見たのってココより汚そうなのばっかりだったけど?」
    「それは…」

    命の言うことは最もだった、私達にとってやっぱり宿の綺麗さは欠かせない、だってせめて水浴び程度は毎日こなしたいから…
    やっぱり、汚いのは嫌だしね。

    そういう訳もあって、私達は傾いている宿<旅の小鳥亭>に入る事にした…
    中に入って思ったのは、やっぱり傾いているという事。
    だけど、内装もしっかりしているし一階部分の酒場兼食堂も大衆食堂というよりファミリーレストランというレベルではあるものの綺麗に片付いている。
    客もそれなりに入っているみたいだし、以外に宿代は高いかも?

    私達はとり合えずカウンターに行ってチェックインをしてみる事にした。
    カウンターに座っている人に話しかける。

    「あの、シングルとツインの部屋を一部屋づつお願いしたいんですけど?」
    「はい、畏まりました。302号室と207号室に空きがあります」
    「それじゃあその二つで」
    「あ、支払いは別々ね?」
    「はい、分りました」

    そうして、私達はとり合えず部屋のチェックインを済ませて部屋に荷物を持ち込み食堂の方に下りてくる。
    値段の方もまあ普通だったみたい、でも傾いているとは感じるんだけど、あまり不快に感じる事はない、不思議な宿ね…
    ファミレス風にクロスを敷き詰めたテーブルの前に腰をおろしながら私達はそれぞれ夕食をたのみ始める。

    「へー、命お酒飲むんだ」
    「まあね、とはいっても寝やすくする為に少し嗜む程度だけど」
    「ボクも飲んでみようかな? ワインとかウイスキーとか興味あるんだ♪」
    「やめときなさいセリス、前に飲んだ時もう二度と飲まないって言ってたんじゃなかったの?」
    「だから、ビールは駄目だったけど、ワインなら…」
    「もっと度が高いんだから次の日どうなっても知らないわよ?」
    「ああ、そういえば前にそんな事あったね。あの時はセリス一日行動不能状態だったね〜♪」
    「るぅ! 二人とも意地悪だよ〜!」
    「あははは!」
    「ふふふふ!」
    「ぶぅ!」

    完全に膨れてしまったセリスを見て少し申し訳なく思ったみたいに命があらぬ事を話し始める。

    「いやいやゴメン、セリス。お詫びにいい事教えたげるから! 実は私とエルリス合コンに行った事あるのよ」
    「ふんふん」
    「もしかして、命!」
    「その時、10人くらい飲んだんだけどね、エルリスったら一人だけ何杯飲んでも顔色すら変えないのよ」
    「ふ〜ん」
    「ちょ、命それは言わない約束って!」
    「そ〜んな約束した覚えないな〜、その時ついたあだ名が陥落不可能なうわばみ”氷の女王”全く顔色を変えないんだから」
    「ええ〜!! 姉様そんなにお酒強いの!?」
    「流石にこの分野では、私はエルリスに敵う気がしないね…」
    「う〜、別に好きって訳じゃないんだから! 単に酔いにくい体質なだけよ!」

    だって、何でだか知らないけどお酒を飲んでも水とそう変わらないように感じるし…
    アルコールは臭いし苦いけど、飲んでも他の人が言うように熱くならないから…
    もしかしたら、本当に氷の精霊が関係しているかも知れないけど。
    まあ、そんな事はどうでも良いよね。そもそもお酒を飲まなければいいだけの話。

    そんなこんなで、王都での最初の夜はふけて行ったの…
引用返信/返信 削除キー/
■222 / inTopicNo.13)  空の青『王都編』そのA
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/08/11(Thu) 12:02:03)
    2005/08/11(Thu) 12:02:44 編集(管理者)

    宿を取った翌日、乗車券の再発行をお願いしに駅へと向かった。
    本来昨日の内に済ませておいた方がいいと思うんだけど、疲れていたから…
    まあ、仕方ない事よね。

    朝のうちは再発行の手続きでつぶれてしまった。
    昨日のうちに済ましておかなかったので、乗車券は明後日の分しか残ってなかった(汗)
    一般乗車券とは別扱いで、食事なんかは無料の結構いい券だったのが救いね。
    まあ、お詫びの意味もあるんだろうけど…

    駅の近くの喫茶店で軽く昼食を済ませ、街中を見て回る…
    命は乗車券を貰った後別行動を取った、セリスがごねてたけど、まぁいつもの事ね。
    王都の南部は雑多な繁華街が続いている、駅がある所為だとおもうけど、結構いろんな物を商売しているみたい。
    考えてみれば私達はおのぼりさんなワケで…
    ちょっとした事で、思わぬ結果になる事もある…

    「あれ? セリス!? どこいたの!?」

    そう、私がちょっと目を放した隙にセリスはいなくなっていた…
    あれほど、私から離れないでって言っていたのに!!

    「どうしよう…」

    落ち着け、落ち着きなさい私…
    セリスも子供じゃないんだから自分で宿まで帰れるはずよ!
    うん、そうね、そうに決まった!

    「ほっとこう、うん」

    私は心理状態を元に戻して、ウィンドウショッピングを始めようとする…
    先ほど目をつけていたアクセサリショップに立ち寄ろうとしていると、

    「きょえー!?」

    セリスの悲鳴!?
    にしては、何だか変な言い回しだし緊張感に欠けるけど…
    私は声が聞こえた方に向かう事にした、

    大通りを抜け、悲鳴が聞こえた路地に向かう。
    誰もいない…実質的には建物と建物の間に存在している路地のようで、入り口となる扉などが無い…
    これは、誘拐かしら?
    セリスがお金を持ってそうには見えないと思うけど…

    いえ、最悪の事態も想定しなければ…
    最悪の事態と呼べるのは、三つ。
    快楽殺人者に連れ去られた場合。
    犯されて売られる場合。
    最後が魔法力の事がばれて神殿教会や魔道士教団に見つかった場合。
    前者なら火あぶり、後者なら実験材料にされる危険がある。

    「とはいっても、最悪の事態でもそうでなくても、私のとれる手段は多くないっか…」

    結局は、同じ事先ず探し出さなければ意味は無い。
    私は周囲を見回して、何か無いか探ってみた…
    聞き込みをして周囲を探るべきだという気もしたけど、まだ何か違和感があったから…
    そうしてみると、二つの家の間のこの道家の壁で行き止まりになっているけど、
    マンホールのふたが少しずれている事が見受けられた。

    「ここ…確立は高いとはいえないけど…聞き込みを始める前にちょっと回ってみるか」

    そう言って私はマンホールのふたを開け、下水道に入ってみた。
    でも、下にあったのは下水道と言う感じではなかった…
    何だか判らないけど、下水の水にしてはにおいを感じないし。
    それに何より、いきなり扉が私の前に鎮座していた。(汗)
    確かに下水は通っているみたいなんだけど…

    私はおそるおそるその扉を開ける。
    ノックしろとも書いてないし扉は元から開いていた。
    それに、誘拐犯かもしれないのにのこのこ出て行く愚は犯せない。

    中に入ってみると、どうやら何かの研究室らしかった、
    中央には大型の機材が据え付けられており、
    魔科学に使うだろう物品が所狭しと並んでいる。
    そして、何かをしていると思しき白衣の男。
    据え付けられた機材に何かが入っているらしく、しきりに数値を書き込んでいる。
    でも、ここ一体何の研究所!?
    いえ、そんな事より、セリスが…

    私は、音を立てないように近づき…
    白衣の男の腕を取って捻りあげた。

    「ぐわ! イタ! イタタタタ!!」

    簡単に白衣を捉えることができた。
    拍子抜けね…まあ、楽なら楽に越した事はないけど。

    「おじさん、ちょっといいかしら?」
    「イタ! 君は! 一体…なん…だね!?」
    「質問しているのは私、いい?」

    そういいながら、私は男の腕を捻りあげる力を少し上げた。

    「イタタ! 痛い! 何者でもいいから、これをやめてくれ!」
    「残念だけど、質問に答えてからよ、いい?」
    「イタ! 痛い!! 判った! 質問に答える! 何でも答えるから、さっさと言え!」

    私はさらに腕に力をこめながら言った。

    「さっさと言え?」
    「いえ、言ってください! 何でもお答えします!」
    「よろしい」

    今のやり取りは一見私の我侭のように見えるけど実は違う、
    下手をすると私が何をするかわからないと思わせるための心理戦だ。
    そうしておかないと、後で何をされるかわかったものではないし…

    「聞きたいことは一つよ。
     私と同じ水色の髪をした少女を見なかった?」
    「…」
    「見なかった?」
    「痛い! イタ! 痛いって!! 判った! その少女なら確かにここにいる!」
    「どこ?」
    「その機材の中だ!」

    白衣の男のやけくそ気味な告白に、
    私は一瞬目の前が真っ暗になるかと思った。
    私は一瞬だけ男を殺す気で睨みつけると、機材に取り付こうとした。

    「待て! それを壊すと彼女が危険にさらされる事になるぞ!」

    私は、男に向き直り、剣を抜き放った。

    「貴方死にたいんですか? もしセリスの身に何かあったら確実に殺しますよ」
    「ひぃひぃぃ!! だっ大丈夫だ…これは命に別状があるようなものじゃない!」
    「本当ですか?」
    「そうだ、彼女の中にある魔力が異常だったから、ちょっと調べてみようと思ってね…
     話しかけたら、悲鳴上げるほど喜んでくれて…」
    「はぁ…」

    何? あれは喜びの悲鳴?
    はぁ…何考えてるんだろ…我が妹ながら末恐ろしいわ…

    「それで? セリスは大丈夫なの?」
    「ああ、もう直ぐ出てくるとだろう。魔力のサンプルも取れたし」
    「サンプルって?」
    「彼女の魔力は強いだけじゃない、どうにも普通の人と違うみたいだからね」
    「そう…」

    まあ、この男のいう事を信用してもいいのかどうかはわからないけど、
    それは私も考えていた。
    彼女の魔力は無限に近いという診断を昔父の知り合いの研究者から貰った事があった。
    そのときは信じてなかった、なぜかって言うと、
    そんな巨大な魔力が体内に存在していれば人間として生きていく事はできない。
    息をしただけで山が吹き飛ぶ、歩けば空を飛びはるかかなたまで行ってしまう。
    もし拳を振り下ろせば国ごと吹き飛ぶ。
    そんな魔力を人間の体内に宿し続けられるわけが無い。
    そうは思っていたけど…特殊な魔力、もしセリスの体内に存在し続けられる形に魔力が変換されていたなら…
    また話は違ってくるだろう。
    だけど…

    そうしているうちに中央の機材のふたがゆっくりと開いて行き、そこからセリスが出てきた。

    「ねぇねぇ、それでどうだった? 魔力の事何かわかった? って…」
    「…セリス」
    「あう…姉様…(汗)」

    私は、腕を組んで精一杯しかめっ面を作った。
    セリスは冷や汗をダラダラながしている、
    男は知らん顔でセリスの魔力サンプルとやらを取り出しに行っているようだけど…
    まあ、今は関係ない。

    「私言ったわよね…私から離れないようにって」
    「うっ…うん…」
    「なんで、こんな所にいるのかな?」
    「さぁ…なんででしょう?(汗)」
    「一言、言ってくれても良かったんじゃないかな?」
    「あぁ…る…るぅ…姉様の意地悪…私だって、自分で魔力のこと知りたいと思ったんだよ…」
    「でもね。心配かけないように配慮するくらいの事はして欲しかったな…」
    「…るぅ…」

    セリスも流石に聞いたのか、肩を落として神妙にしている。
    そうね、もう少し注意をしたら、終わりにしてあよう。
    そう思って、私が口を開きかけた時、

    「まーまー、ここは俺っチの顔に免じて、このくらいにしてやってくんねーか?」
    「へ?」
    「え?」

    足元から、声が聞こえる…
    感じからすると子供? でも…
    よく見ればそこには、水色の毛並みと金色の目をした子猫がいる…
    まさか…

    「おお! 紹介してなかったなー、俺っチは…うん? 俺っチは…そうだ! まだ名前が無い!」
    「「どぉぉお!」」

    私とセリスは同時にこけた…こんなところが似ててもしょうがないけど…
    結構、こういうのって重なるよね、って…
    このしゃべる猫何?

    「えっと、そこの…」
    「マハシフさん、だよ」
    「じゃあマハシフさん! これ一体何!?」
    「私も知らん! お嬢さんの魔力が突然形を取って動き出したんだ!」
    「「ええぇぇ!!?」」

    また、私とセリスが驚きをハモらせる…
    別にわざとやっているわけじゃないんだけど(汗)

    「なんだい、みんな俺っチをみつめちゃってー、惚れても駄目だぜ?」
    「はぁ…」
    「姉様…」
    「じゃあ、仕方ないわね…」
    「え?」
    「名前。付けてあげなさい」
    「ええー!!?」

    私は降参した、どうせ、最後はセリスに強引に押し切られて飼う事になるのだ。
    だったら、先に白旗を掲げても問題ないよね(泣)

    「じゃあ…魔力で出来た弟っていう事でマリョクとオトウト…う〜ん、マオ!」
    「あー悪いんだが、俺っチ女だぞ」
    「へ?」
    「しゃべり方でそうおもったんだろうなーでも、まあ名前はマオでいい、確か東方のほうで猫をさす言葉だったよなー」
    「駄目駄目! 女の子だったらまた考えないと!」
    「本人が気に入っているんだからいいじゃない、それにマオっていうなら、どっちでも取れるしね」
    「でもでも!」
    「じゃあ俺っチはマオっていう事でーよろしくー♪」
    「…るぅ…」

    結局、押し切られるか足してマオの名前は決まった。
    この先どうなるか不安だけど、とりあえずこれから先の指針になるかな?
    マハシフさんって言ったっけ、彼の腕次第だけど…
    でも、今日は疲れたので宿に戻る事にした。
引用返信/返信 削除キー/
■227 / inTopicNo.14)  空の青『王都編』そのB
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/10/07(Fri) 11:58:01)
    私達のいる世界…
    そんな言い回しするとびっくりするかもしれないけど、
    今、私達が見ているのはまさにそれ…
    世界地図とも違う…球形をしたそれは、リリース・ゼロと呼ばれる私達の世界そのものらしい。
    正確には、この世界の外に他の星が存在し、星一つ一つの大きさは、この世界と同じかそれ以上の大きさの物もあるらしい。
    でも、空気があり魔力が流れ、人が住んでいけるそんな世界はこの世界以外に見つかっていないとか。
    もっとも、マハシフさんの言葉がどこまで信用できるのかわからないけど。

    それに、宗教における世界創造とは真っ向から対決する世界観なので私は直ぐに信用できるかと言われると難しい。
    マナで構成された世界に魔力が流入する事で出来たこの世界、だけど…魔力が流入してくる前はどんなだったのだろう…
    もしかしたら、他の星とマハシフさんが呼ぶ水も空気も生命もないそんな世界なのかな?

    結局今日は命も伴い、三人と一匹でここへとやってきた。
    マオは元々魔力のせいか、セリスの髪の毛に潜り込むと本当に見えなくなる。
    質量的にはゼロに等しいのだ、当然といえば当然である。
    まあ、エサ代がいらないだけマシかな?
    でも、不自然に耳だけ出ているから獣人のウェアキャットみたい(汗

    それは兎も角セリスについてと、魔道士協会への報告差し止めを求める為にマハシフさんを尋ねてみた。
    すると、元々個人研究者なので、魔道士協会には属していないとか…
    それに、ある意味では対立しているらしく、協会への報告など絶対にしないと言ってくれた。
    完全に信用していいものかどうかは気になるけど、まあ、一安心かな?

    それで、歓談しつつマハシフさんの世界に関する解釈を聞いていたんだけど…
    地動説っていうのは、確かに存在している考え方なので珍しい物じゃない。
    けど、ここまで詳しく話す人は初めてだったから、びっくりしちゃって。

    そして、この星に水や空気があふれていて他の星と違っているのは魔力が異世界から流入してきたからという学説も興味深い…
    だって、魔力の流れは生命の流れなんて考え方や、
    星そのものが魔力の流れを持っているという学説は高校までしか学んでいない私には斬新な考えだったから。
    セリスも興味深げに聞いている、当然だけどセリスは知能は高い…私なんかより。
    判断力や常識はあまりないけど(汗
    対して命はそれなりに聞き流している感じ、ちんぷんかんぷんというよりは、興味がないと言う感じ。
    もともと彼女には別の目的があるし、魔法を使わない彼女にはあまり関係ないのかも?

    「そういった所が私の研究している学説な訳だ」
    「興味深い話ね。でも、それとセリスと関係あるの?」
    「ああ…その事にはまだ触れて無かったね、実は彼女の魔力は強大なだけに、世界の魔力と共鳴しやすいんだ」
    「共鳴?」
    「そう、例えば彼女は月に一度魔力が高まる筈だね」
    「…」
    「うん、高まるよ」
    「セリス!」

    私が口をつぐんだ事をセリスは簡単に口にする…
    私は咎めだてるように声を上げるけど。セリスの表情は意外に真剣なものだった。

    「いいよ、もうある程度知られちゃってるみたいだし。ボクもこの先興味あるもん」
    「…そうね、分かったわ続けて」
    「うむ、それは月の満ち引きに海が影響されて高さを変える様に、地脈を流れる魔力が月の干渉を受けて流れを変える様に。
     君の体内の魔力も月が満ちれば高まり、月が欠ければ静まる。そういう部分があるようだ…」
    「何を根拠にそれを言うの?」
    「まだほんの少しセリス君の魔力が残留していたのでね、それを元に検証を行っている最中な訳だ。結果が出るには少しかかるが…」

    セリスの魔力は世界の魔力に共鳴している…それが、セリスに影響を与える…
    なるほど、筋は通っているけど…証明する手段もないわね。
    でも、もし本当にそうなら…セリスの魔力を世界の魔力の流れから遮断してしまえば、暴走の危険は格段に下がる事になる。
    王都でこんな情報が得られるとは思って無かっただけに、貴重な情報ね。

    「う〜ん、姉様。一度学園都市に行ってみない?」
    「…それは…確かに、リディスタに行くより資料は多いと思うけど…
     魔術師協会の影響力が強いから、貴女の事がばれた時は不味いわよ?」
    「でも、ボクの考えてる事が正しいなら、資料は封印図書館にしかないと思うんだ」
    「封印図書館!!?」
    「何!?」

    私と命が同時に目をむく。
    会話に参加していなかった命が驚くくらいなんだから分かるかもしれないけど、封印図書館は不味い。
    噂を聞いても、悪霊だとか、悪魔が図書館内にいるとか、物騒な話しだし。
    禁呪や禁書を収めておく場所だから、下手に読めばそれだけで精神が汚染される。
    禁書なんて、唯ひたすら呪いの文字を書き綴った物なんかがあるから、読めば発狂か自殺っていうのが相場。
    そうでなくても、そんな場所だから警備は一際厳しい。
    そんな場所に私達が立ち入るなんて殆ど不可能だといっていいと思う。

    「セリス…本気?」
    「うん、姉様聞いたことない?」
    「何の事?」
    「大魔道士ヴェネディクトの世界魔法」
    「あ…」

    そう、私も聞いたことがある。大魔道士ヴェネディクト。
    巨大な魔力を持ち、それを使って世界を思うままに操り、また行き来した。
    南方の島の幾つかは彼によって作られたとか…
    彼の使った魔法はあまりに強大な魔力を使う為、誰にも扱えないものだったけど…
    セリスなら…
    それに、ヴェネディクトは世界そのものと同化する魔法を持っていたって聞いたことがある。
    確かに、今行くなら一番目的にしやすい場所ではあるわね。

    「なーなー、もー話は終わったかー? 俺ッチとしてはー学園都市でー、学園パフェってのをー食いたいぞー!」
    「はいはい…ていうか、アンタ物食べられるの?」
    「あ〜、言ってなかったっなー、俺ッチが食べたものはーセリスの栄養になるぞー」
    「ぶっ、それ本当!?」
    「本当だぞー」
    「うぅー、だったらマオが食べたらボク太っちゃうじゃないかー!!」
    「大丈夫ー、俺ッチは太らないぞー」
    「全然安心じゃないー!!」

    セリスの絶叫と共に日は暮れていった…
    まあ、世界の事とか難しい話より、結局体重の事の方が気になってしまう辺り、セリスも女の子だけど…
    本当にセリスの一部なんだ…(汗
    後日、私達は学園都市へ向かうために列車に乗り込んだ…
    結局の所はリディスタに一度立ち寄って切符を買いなおしたほうが安くつくからだ。
    命はリディスタに用があるみたいだから、そこでお別れかな?
    出来れば一緒に旅を続けたかったけど…
    でも、封印図書館なんて…本当に入るチャンスがあるのかな?
    今までとは危険度が段違いなのは間違いないわね。
    私はこの先に待つ学園都市に不安ばかり募るのだった…
引用返信/返信 削除キー/
■235 / inTopicNo.15)  空の青『学園都市編』その@
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/11/21(Mon) 14:52:24)
    「命、本当にお別れなの?」
    「ふぅ、何言ってんだか、別に今生の別れって訳けじゃないでしょ?」
    「るぅ…でも、でもね…やっぱり寂しいよ…」
    「セリス…はぁ…分かった、どの道この街でする事は多いから。学園都市の事が終わったらまた寄ってみなよ」
    「え?」
    「そん時まだ私がこの街にいたら、旅についていってあげるからね?」
    「本当?」
    「本当だって。疑り深いなぁ…」
    「分かってるけど…」

    さっきから命とセリスは駅で問答を続けている。
    停車時間は半時程度だからまだ時間はあるけど…
    先にお別れを済ませた私はセリスの隣でちょっと手持ち無沙汰気味…
    冷たいと思うかもしれないけど、命にはまた会える。
    そもそも、彼女は目的のためにここにとどまる必要があるのだから。
    彼女の親の敵、宝剣を奪った男…顔と背格好だけしか覚えていないそうなんだけど、
    最近有力な情報があったらしい、似た人物がこの街をよく訪れるという。
    もちろん、同一人物とは限らないわけだけど、気になるのは東洋の刀を携えていた事。
    刀使いというもの自体が数少ないこの大陸においてそれはかなり有力な情報と言える。
    でも、せいぜい一年に数度しか訪れないと言う事まで分かっているそうだから、命は長期滞在を決め込むしかない。
    だから、かなりの確率で私たちが学園都市から戻ってきてもリディスタにいると思う。
    そのせいもあってか、命と私は軽くお別れの挨拶をしただけそれで、次にセリスがお別れを言うところなんだけど…

    「うぅ…」
    「いや…あのね?」
    「はぁ、セリス、いい加減にしなさい」
    「え? 姉様…だって…」
    「寂しいのは分かるけど、私たちは私たちで学園都市でやらなくちゃならない事があるでしょ?」
    「そっ、それはそうだけどぉ…」

    いつまでも、命から離れようとしないセリスを引っ張って私は再び列車に乗り込む。
    命が苦笑と共に私たちに手を振ったので、私はウィンクで答えておいた。
    命はちょっと面食らった顔をしたけど、ウィンクで返す。
    ただ、その後、

    「次会う時こそミスコンの借りを返すからな♪」

    しっかり挑戦状をたたきつけられたのでした(汗)






    それから、列車内でも食事の事とか、車内での就寝とかそういう事ではしゃぐセリスの相手をしたり。
    見知らぬ人たちと色々話をしたり、周囲の景色を楽しんだり、国境で足止めになって色々立て込んだりしたけど、
    そういう事は別の話として、なんとか私たちは学園都市に入国した。
    ここで勘違いしてはいけないのは、私たちは入国に成功しただけだと言う事。
    学園都市(リュミエール・ゼロ)には巨大な学園が存在しそこを中心として10万人以上の人間が生活している。
    でも、中央にある巨大すぎて学園としか呼ばれない巨大施設本来はっここそが<リュミエール・ゼロ>なんだけど街の名前になってしまっている。
    でも、それ以外にもあるそれぞれの学園にすら、一般人は入る事が出来ない。
    私たちは取り合えず街の郊外に向かっている…宿を探さないといけないしね。
    でも、こうも規制がきついと私たちじゃ封印図書館どころか、リュミエール・ゼロに入る事も難しいかも…

    「はぁ…やっぱり甘かったかしら…」
    「う〜ん、どうなんだろ…でも、ここって凄いよね。何ていうか…見た事も無いものばっかり」
    「うっ…それはそうね…」

    流石にセリスは好奇心旺盛ね、私としてもいいたいことは分かる。
    ここには最新の設備や、実験的に導入されている設備が多い。
    私たちみたいな田舎者では一生理解できない可能性のあるものもある。
    特にびっくりしたのは自動販売機とかいうもの、ジュースを缶につめたものを鉄の箱に入れて販売しているの。
    一体なんだろうって思って銅貨を投入してジュースの名前が書いてるところのボタンを押すと缶入りのジュース、
    それも冷えたものが出てくるからびっくりした。
    でも、最初は分からなくて駅員さんに色々教わったんだけどね(汗)

    「このジュースどうやって冷やしてるのかな?」
    「多分、魔科学で温度を一定に保つようにしてるんだろうけど…ボタンを押しても魔力の反応しなかったし…
     ボタン押して出てくるまでのカラクリは魔科学じゃなくて普通のカラクリだと思う」
    「そうなんだ〜、じゃあ姉様、あっちのアレって何だと思う?」
    「う〜ん、そうね…」

    セリスは空を向いて指差した。アレは…
    何か大きな風船のようなものが空中に浮いている…
    でも、風船にしては大きい…
    飛行船とかと違って地上から紐に結び付けてあるし…その紐についている帯には色々書かれている。

    「よく分からないけど、見ての通りじゃない?」
    「え?」
    「風船じゃなくて、その下の帯を見てみなさい」
    「う〜ん、歳末感謝大バーゲン?」
    「多分下にある大型店舗で安売りをする宣伝じゃない?」
    「そうなんだ…なんか凄いね、宣伝一つとっても派手なんだ」
    「そうね、何ていうか異次元にでも迷い込んだ感じ(汗)」

    正直ここまで違っていると国が違うだけというには隔たりすぎている。
    昔帝国にいったことがあるけど、ここまでの違いは無かった。
    習慣なんかはかなり違っていたけど…

    「何にしても、先ず宿の確保からね」
    「うん、分かった♪」

    ただ、不安に思うことがある。
    それはセリスの魔力の事、マハシフさんにはセリスの魔力を誤魔化すアイテムをもらったけど、どれくらい信用できるのか分からない。
    セリスの魔力はマオが外に出たことによってある程度安定しているらしいんだけど…

    「なーなーあそこのクレープ食べようぜー俺ッチ腹が減ってさぁー」
    「駄目! マオが食べたらボクふとっちゃう!」
    「俺ッチは太らないぞー」
    「それまえもやった! もう…ボクがもし太ったらどんな手段を使ってもマオも一緒に太らせるんだから!」
    「うっ…我慢するから早く宿をさがすぞー!」
    「はぁ…」
    「どうしたの? 姉様?」
    「きっと生活費の事でもきにしてるぞー仕方ないってわかるだけなのになー」
    「そんな、姉様はちょっとケチな気がしなくも無いけど、ボクの姉様なんだよ?」
    「あー、もういいから、いきましょ?」
    「「はーい」」

    能天気な二人を見ていると悩んでいる自分がバカらしくなってきた、うん、気にするぐらいならどうやって潜入するかを考えた方がいいよね…
    まあ、能天気すぎる一人と一匹にはその辺の事がわかってるんだか分かってないんだか…
    兎に角、そんな状態ながらも私たちは学園都市に入国したのだった…

引用返信/返信 削除キー/
■238 / inTopicNo.16)  空の青『学園都市編』そのA
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/11/25(Fri) 14:08:17)
    学園都市<リュミエール・ゼロ>この都市は北の大陸の南四つの大国の国境が重なる場所にある。
    正直この都市が成立した背景は微妙な部分が多く、非常に不安定といわざるを得ない。
    元々帝国の一都市だったここは、連邦と帝国による陣取り合戦と言うような形で戦場となる事が多かった。
    そこに、王国まで参戦してきたため一時は世界大戦の勃発もうわさされたほどだ。
    それらの国家に対し共和国側より永世中立国設立を働きかける文書が飛び交った。
    元々、地元であるこの都市は当初より賛成。
    当時の共和国外務大臣は辣腕だったらしく他の三国も最終的には合意、
    四国間で不可侵条約が結ばれたのが150年ほど前。

    もっとも、他国に侵略される事は無くなったものの、国家間で権益をめぐってその後も色々荒れたみたい。
    関税の措置とか、列車の通行規制とか。
    地理的に四つの大国と面しているため交通の要所であり、列車も真っ先に通った。
    しかし、国家間の謀略により何度か断線したため、トレインレイダーと呼ばれる列車警護隊を作って対応。
    もっとも、荒くれ者中心だったせいで働きは今一だったとも聞いてるけど。

    立場的に辛いこの都市は自己の防衛策として、自分の都市だけが持つ何かを用意するため動いた。
    元々、魔術学院と魔科学研究施設を持っていたこの都市は、教育施設の充実に力を注いだ。
    多数の施設を増改築し、各地から教師となりうる人材をスカウト。
    世界中に宣伝を打った。

    これは都市の発言力を増すという意味合いと同時に、国家間の緊張を緩和するためお互いを知ってもらうと言う事。
    そして、教育により学園都市たる<リュミエール・ゼロ>を攻撃させない事も目的としている。
    すなわち人質としての学生であり、同時に教育による洗脳効果での世論の操作。
    場合によってはこの都市を防衛する人員になってもらうと言う事も考えているだろう。

    でも、共和国側もただで済ませてくれたわけじゃなかったみたい。
    魔術士協会の総本山とも言えるエザロットの天空殿からのお達しで学園都市は魔術師協会に協力する事を約束されている。
    むしろ、魔術師協会としては天空殿よりもここに力を入れているといっても過言じゃないみたい。
    現に魔術師としての教育を施された人たちは魔術師協会に入る事を義務付けられている。
    もっとも、名簿上登録しただけっていう人も多いけど…

    こういった深いところはスノウにいた先生がちょっと変わった人だったから分かった部分だけどね。
    学校でこんな話を始めるものだからみんな引いてたけど…

    「でもまあ、これが、一般的に言われている学園都市の成り立ちね」
    「ふ〜ん、意外と殺伐とした理由なんだね」
    「まあ、ここが戦場になったのは知られているだけで8回、
     小競り合いとかも含めると何回戦場になったのか分からないくらいらしいし」
    「うん、大国に挟まれちゃってるもんね。大変なんだ…ここも」
    「そういう事、だから警備が厳しいのも当然と言えば当然ね」

    でも、封印図書館に入るには先ず学園都市の中心である『リュミエール・ゼロ』に入れないと話にならない。
    それは分かってるんだけど、強行突入をかければ先ず治安警察が動き出す。
    潜入するには詳しい地形や警備員の配置が分かってないと駄目だし…

    「やっぱり学生に化けるしかないんだろうけど…」
    「ふ〜ん、学生かぁ、ボク学校は小学校以来行ってないから行って見たいなぁ…」
    「俺ッチはー、学園パフェが食えればいいぞー」
    「あーまたボクを太らすつもりだ! マオは駄目だよ!
     ボクのパフェは分けてあげるけど、絶対勝手に食べちゃ駄目!」
    「食欲の秋なんだから別にちょっと太ったって大丈夫だぞー」
    「もう冬だし…」

    途中でマオとの漫才になったみたいだけど、セリスが学校に行って見たいっていうのは分からなくも無い。
    でも、どうやるべきかな…学生証にある種の認識魔法がかかってるらしいから…
    学生証を手に入れないと入れそうに無い…

    私たちは昨日宿を取ってすぐに休んだ、夜の行動が有利になるほどこの都市は甘いところではない。
    魔科学に関してもそうだけど、結界が十重二十重に張り巡らされているので、
    夜の方が進入困難なのだ、で結局朝になってからこうして
    <リュミエール・ゼロ>の周囲を屋台の店で買ったフランクフルトを食べながら歩いている次第である。

    「はぁ…広いけど…隙が無いわね…」
    「さっき通った、北側の森は?」
    「セリスは大丈夫だと思った?」
    「う〜ん、結界が強すぎて何にもわかんなかった(汗)」
    「多分結界内に侵入するのも一苦労だと思うけど、それが出来てもトラップの山よ…きっと」
    「じゃあやっぱり学生になるしかないんだよね?」
    「まあ、そうなるわね…」
    「う〜ん、じゃあさ、転校ってどうかな?」
    「私が? でも、私一人じゃ意味ないでしょ? それに、スノウの学校からだと推薦状が必要になるわ」
    「俺ッチがー学園にー入るんじゃダメかー?」
    「「え?」」

    マオの事は見落としていた、セリスとワンセットとしか考えてなかったせいだけど(汗)
    でも、進入できたとしてマオだけじゃ何も出来ないのよね…
    そう考えて<リュミエール・ゼロ>西部の繁華街を歩いていると、突然何かが疾風のように駆け抜けた。
    続けてドドドドっとちょっとケバ目の女性達が駆け抜ける。

    「待ちなさい! 今日こそはツケを払ってもらうわよ!!」
    「ルスランあたしと言うものがありながら! まーた女を引っ掛けて!」
    「ちょっと! そんな事より、この前かした金貨3枚返しなさいよ!!」
    「まさか、あの子に手を出しちゃいないよね? 純真なのよあの子は!!」
    「こりゃあ! うちで買っていった装備一式の支払いはいつになるんじゃあ!!」

    持てているのだろうか…っていうより借金返済の請求が多い気がする…
    女性だけでもないようだし(汗)

    「おぜうさんがた、このルスランを追いかけてきてくださるのは光栄の至り、ですが今日の僕は忙しいのです。
     新たな出会いの為に、今日はさらばです!」

    うわ〜変な台詞を残して走り抜けてった…
    あれはいわゆるダメ人間の典型みたいね。

    「セリス…ああいうのだけは関らないようにしましょうね」
    「うっ…うん」
    「それは少しつれないんじゃない? お嬢さん方」
    「え?」
    「ああ!」

    そう、私たちが振り向いた先にはむやみに格好つける遊び人風金髪男がたっていた…
    私たちはその姿を見てほほを引きつらせるのがやっとだった。
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■249 / inTopicNo.17)  空の青『学園都市編』そのB
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/12/27(Tue) 12:18:41)
    2005/12/27(Tue) 15:20:00 編集(管理者)

    「君たちどこから来たの? あっ言わないでも分かる、そのイントネーションは王国の人間だね?
     王国の人間は割りと古風な言い回しする事が多いからさぁ、割と分かりやすいんだよ、知ってた?
     色白いねー、やっぱ北のほうの出なんでしょ? 妖精領とか近いんじゃない?
     見た感じ身長は二人とも164cmくらい、エルリスちゃんがB86W54H87セリスちゃんはB85w52H86って言うところかな?」
    「大正解よ!」

    ボゴ!

    ルスランはボディにいいのが入って悶絶中。
    もう、人が気にしてる事をさらりと言ってくれちゃって…
    あぁ、cmは十数年前から広がってきた単位の事。
    何でも光の速さを逆算して3億分の一を1mその百分の一を1cmという。
    連邦が単位の統一化をした関係で、長さは一本化しようという考えがまとまってきたみたい。

    で、私たちがなぜこの金髪軽薄男に捕まって喫茶店で訳の分からない話まで聞いていたかと言うと。
    この男は、学園に入りたいんだったらいい方法があると言ってきたからだ。
    私たちは激しく胡散臭いので警戒していたが他に何か知っている事があるわけじゃない、
    仕方ないので喫茶店まで付き合う事にした。
    少しおなかが減っていたのも事実だけどね(汗)

    それで、中に入って注文を済ませた直後にあんな事を言われたので、思わず私は肘を叩き込んだ。
    こうまで決まるとは思ってなかったけどね…
    このルスランって男は見た目とは裏腹に実力を秘めてそうに見えたんだけど…
    私も勘が鈍ったかしら?

    それは兎も角、事実としてよく発作に襲われるセリスは私より線が細い。
    とは言っても私も細い部類に入ると思う。
    私たちくらいだとウエストは58〜61くらいが丁度いいらしい…
    もっとも、体重は私とセリスでは随分違いがある、剣なんかを振り回している所為か少し筋肉で重い私と
    ハーネット家の屋敷の中から出られなかったセリス、この違いは大きい…
    はぁ、やっぱりそれでも気にはなるのよね…
    だって、バストサイズ、トップとアンダーの差で負けてるもの…(汗)

    「姉様?」
    「え? ああごめん…」

    セリスがスプーンを口に運びながら聞いてくる。
    セリスは入った途端にプリン・アラモードを頼んで食べ始めた…
    昼食をお菓子にしてどうするのよ、と心の中で突っ込みつつも
    幸せそうにしているセリスを見ると何もいえなくなってしまう。
    セリスも別にプリンとかを食べてなかったわけじゃない、私が買い込んできたことも多かったし。
    でも、外で食べるという行為自体がこの旅に出て初めてなのだ。
    だから、喫茶店の料理というのも結構珍しいのかもしれない。

    「それで? どうやって学園内に入ればいいっていうの?」
    「ははは…せっかちだなぁ、そういう事はもう少しお近づきになってから、グオ!」

    いつの間にか復活していたルスランに質問を投げかけたら、背中に手を回そうとしてきたので捻りあげる。
    何となく、こいつの性格が分かってきた…だとすると学園内に入る方法を知っているというのも怪しい…(汗)

    「本当に知ってるんでしょうね?」
    「アダダ!! 知ってるって! 男前嘘つかない! いやマジ! 離して! でないと死ぬ!!」

    大げさに痛がって見せるこの男を見ていると本気なのかどうなのか疑わしく見える。
    しかし、先ほどから私がしている行為は騒がしい物だと自覚しているんだけど…
    周りはルスランを見ると【あぁ、またか…っ】ていう顔をして無視を決め込んでいる。
    相当の有名人みたいね(汗)

    「姉様そのくらいにしてあげなよ、喫茶店の支払い持ってくれるんだし♪」

    私がルスランを見るとものすごい勢いで首を縦に振っていた。
    しかし、さっきツケを払えなかったこの軽薄男にそれが出来るのかは激しく疑問な気がする(汗)

    「ああ、金があるのか疑問なんだろ? 大丈夫、丁度今日は金があってさ、だから追いかけられてたんだよ」
    「それもどうかとは思うけど…」
    「とっとにかく、ここの支払いは心配要らないって、だからいい加減腕捻り上げるのはヤメテー(泣)」

    う〜ん、まあ普通のナンパな人間なのかな〜
    いや、あのツケや、変なのを見ればそう出ないことは分かる、それに私達に声をかけた時も異常な速度だったし…
    ただ、見た目はどこぞの貴族の坊ちゃん風なのよね…(汗)
    だから、よけい読みにくいんだけど…

    「わかったわ、でも次に同じことやってはぐらかしたら、帰るからね?」
    「うっ、分かったよ…せっかちだなぁ…
     でも、そんなに急いでもいい事無いぜ?
     学園都市ってのは、基本的に全ての国に対して軍隊を向けられ続けているんだ、
     学園内は四大国の首都並かそれ以上の防御手段が施されている。
     偽の学生証なんて役に立たないし、忍び込むなら東方のニンジャでも辛いだろう。
     そんな所に入り込んで何をしようって言うんだい?」
    「ふ〜ん、ただのナンパって訳でもないんだ…でも私達がそれを教えると思う?」

    急に真面目になったルスランに私は戸惑ったが表情には出さない。
    やはりただのナンパというわけでもないみたいね。
    でも、なぜ私達に接触してきたのかが見えない。

    「なかなかクールな娘だね、でもさ、名前も聞いてないんだけど?」
    「教えてもいいものならね、貴方に教えたら家まで来そうだし…」
    「うっ…(汗)」

    やっぱり…
    隣でプリンからスパゲティーに移るという不思議な食べ方をしているセリスを横目で見つつ、ため息をつく。

    「そろそろ、帰ろうかしら…」
    「えーまだ食べてないよー姉様もうちょっといようよ」
    「太ってもいいの?」
    「うっ」

    セリスは太る事を気にしているのに良く食べる、まあ家にいた時の反動ね。
    最近は体重の増加に悩んでいるようね…
    宿毎に体重計は微妙に違ったりするから信用できないんだけど…

    「わかった、分かったよ、さすがだね…君には完敗さ」
    「?」

    私達が帰る準備をはじめていると、ルスランはあわてて声をかけてくる。
    私たちを引き止める手段が無い事に気づいたのだろう…
    はぁ、やっと本題に入れそうね…

    「それで、どんな事を教えてくれるの?」
    「なぁに、簡単な事さ」

    そう言って、ルスランが見せたのは二枚のチケットだった…
    瞬間私は腰を浮かせかけるが、よく見ればそれは…

    「そう、これはリュミエール・ゼロの学園祭チケットさ。
     丁度一週間後から三日間、その間だけはこのチケットで学園内出入り自由っていう事」

    なるほど、確かに学園祭ならチケットさえあれば出入り自由ね…
    でも、ただでくれるわけも無いわね…

    「条件は何?」
    「俺とのデート…って言うのは嘘! 嘘だから! そのワキワキとした腕の動きをやめて!」
    「もう一度だけ聞くわ、条件は何?」
    「はぁ、じゃあ、学園祭中の武闘大会俺と組んで出てくれないか?」

    私もできる事ならやるつもりでいた、しかし、あまりに唐突な要請はなんだろうと考える。
    <武闘大会>とは、学園都市の学園祭三大大会の一つで、魔術士の魔法大会、戦士の剣闘士大会を一緒にした一大イベントである。
    人死にが出ないように結界や武器の鈍化など制限は多い物の、それでも毎年病院送りになる者が後を絶たない。
    そんなイベントに唐突に私たちを誘う理由が見えなかった。

    「いや〜、何か一つは俺も出なくちゃならないんだけどさ、残ってるのはこれくらいだし、数合わせでいいからさ?」
    「そうね、戦闘に積極的に参加しなくていいのならいいわ」

    私たちの目的を考えるなら下手に目立った行動は避けたいし、私もセリスも体質のことがばれたらちょっと不味いことになるしね。
    出きれば、そういうのには出たくなかったんだけど…

    「うんうん、じゃあチケットは渡しておくから、当日迎えに行くよ、宿はどこ?」
    「結構よ、当日の朝にここで待ってて」
    「えー? それじゃ、来るかどうか分からないじゃないか!」
    「私たちは約束は守るわよ。貴方と違ってね!」
    「グギャー!!」

    最後にとばかり腰の下に手を伸ばしてきたルスランの腕を捻りあげておいた。
    懲りないわね本当に…

    「それじゃ行きましょ」
    「うん姉様!」

    私はヒクヒクしているルスランを尻目にセリスと一緒に喫茶店を出て行った。
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■278 / inTopicNo.18)  空の青『学園都市編』そのC
□投稿者/ 黒い鳩 -(2006/05/30(Tue) 15:33:21)
    学園祭当日の朝。
    私たちは装備に使えそうな買い物を一通り済ませた後、この前の喫茶店の前で待っていると。
    例の緊迫感の無い声が聞こえてくる。

    「やーエルリスちゃんにセリスちゃん、お待たせ〜♪」

    言っている事も軽いが、ついでに体をさわりに来たので、セリスと連携して両脇腹に肘を叩き込んだ。

    「何ていうか、凄いバイタリティだよね」
    「ええ、近づきたくは無いけどね」

    セリスと私はそろってため息をつく。
    しかし、喫茶店前は既に学園祭に詰め掛けた人々でごった返していた。
    私たちはあまり知らなったけど、リュミエール・ゼロの学園祭は学園都市全体のお祭りと化しているみたい、
    国外から沢山の人が詰め掛けて、学園内は元より、学園周辺でもさまざまなイベントが催されるため、
    この3日間、学園都市の人口が倍になるとルスランは言っている。

    それもこの喧騒を見れば頷ける。
    やっぱり、学園都市は凄いわね……
    だけど、そのお陰で警備が薄くなるのは事実だから色々な防護策もとられているみたい。
    チケットが無ければ私たちも危ういところだった。
    とはいえ、学園内に入り込めるだけで安心する事も出来ないけど。

    「さて、どこから回る? どんな店でも紹介しちゃうよ〜」
    「あのね……」

    ルスランはこりもせず私たちにちょっかいをかけてくる。
    一度本気でぶっ飛ばさないと駄目かしら?

    「ねぇねぇ、あれ面白そうだよ?」
    「おっ、流石セリスちゃんお目が高い! あれは、学園内でも屈指の実力を持つ光の魔術師ランバルトによる光アートだ」 
    「へぇ〜」

    セリスに調子よく説明を始めているルスランには呆れるが、確かに光アートというのは凄い。
    虹をいくつも組み合わせて城を表現しているみたい。
    幻想的な背景も光で表現しているから、そこだけまるで別世界のように見える。
    基本的に魔法だから時間がたつと消えてしまうのだろうけど、誰も触れる事の出来ない芸術というのは凄いと思う。

    「入り口には歓迎の意味もあるからね。ああいったアーチの飾りつけの仕方が最近では増えているのさ」
    「流石に学園生だけあってよく知っているわね……ってあれ?」
    「どうしたのエルリスちゃん?」
    「セリスがいない……(汗)」
    「あははは……(汗)」

    私とルスランは思わず固まってしまった、まだアーチを抜けたばかりなのに、もういなくなっているなんて。

    「セリスー!?」
    「セリスちゃーん!?」

    二人して駆け回りながら探す。
    しかし、全く影も形も無い……。
    私は少し嫌な予感が走る。
    セリス……まさか、魔力の事が……。

    「ちょっとルスラン、変な能力でセリスを見つけられないの?」
    「えっと……美人センサーは、今沢山美人がいるんでそこらじゅうに反応アリなのさ」
    「使えない!!」

    仕方ない、ここは少し格好悪いけど、校内アナウンスか何かに頼んでみようかな……
    そう私が思い始めたとき、視界の隅に水色の髪の毛が映った。

    「セリス!?」

    そう、セリスは校門から少し離れたところにある飴細工の店の前で飴が出来上がる所を熱心に見ていた。
    よく見れば、もう一人熱心に見ている人がいる、その女性と二人して飴の事を語り合っているようね。

    「でも、こんな事を魔法も使わずに出来るなんて凄いねー」
    「うんうん、魔法もいいけど手作りよね〜♪」

    その女性は20代半ばくらいに見えるけど、セリスとは馬が合うようだ……。
    ソバージュにした黒髪が人目を引く容姿を引き立てている。
    一見して白人だと分かる白い肌と青い瞳、少しおでこが広い感じがしないでもないけど、美人だと思う。
    でも、雰囲気のせいかあまり緊張すると言うわけでもなく、落ち着いて忍び寄る事が出来た。

    「こら! セリス……勝手に動き回っちゃ駄目って言ったでしょ!!」
    「あ!? 姉様! るぅ……ごめんなさい」

    セリスは一瞬何か言おうとしたようだけど、私の方を見て口をづぐんだ。
    そんなに怖かったろうか?(汗)

    「あらあら、あまりその娘を責めないであげて」
    「えっ……はっ……はぁ……」

    その女性はぽややんとした感じで私たちに話しかけてくる。
    気が抜けるというか何というか、そこまで笑顔を振りまかれると気力がなえる。

    「えっと、そういえばセリス、この方は?」
    「え? ボクは知らないよ、いつの間にか隣で飴細工の解説をしてくれてたの」
    「……(汗)」

    たぶん親切心なのだと思うけど、二人の天然ぷりには頭が下がる。
    正直私は背中を向けてさようならって言おうかと一瞬思った。

    「あの、妹がお世話になりました」
    「いえいえ、困った時はお互い様ですし♪」

    そういって女性と話し始めたその時、別の場所を探していたルスランがこちらに気付き、走ってやってきた。

    「おお、見目麗しき女性が三人っ……って、あり?」
    「あら、ルスラン君、おはようございます」
    「おはようございますって、メグミ先生!?」
    「ふふふ、私が私以外の誰かに見えたんですか? ルスラン君も面白い事を言いますね」
    「いえ、あの……その!?」
    「あの時はあんなに情熱的だったのに、私ちょっと残念♪」
    「いや、あの、そうではなくて!?」

    ルスランが振り回されてる、これは……メグミっていいう先生凄いかも?
    更に少し話して、学園祭入場チケットを使って中に入る。
    ようやく、ここまで来たわね……ていっても、これからのほうが問題なんだけどね。
    私たちは田舎者っぽさが出ていないかちょっと不安。
    言っているそばからセリスははぐれそうになるし。

    「もう、勝手に動き回っちゃ駄目よ?」
    「うん、ごめん姉様。ボクちょっとはしゃぎすぎてたみたい」

    素直に謝るセリスに少しだけ暖かい気持ちになりながら、私たちのリュミエール・ゼロ潜入は開始された。
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■315 / inTopicNo.19)  空の青『学園都市編』そのD
□投稿者/ 黒い鳩 -(2006/07/19(Wed) 16:40:08)
    2006/07/19(Wed) 23:34:15 編集(管理者)

    リュミエール・ゼロ内は凄い賑わいで、足の踏み場もないような有様だった。
    私達はあまりの人ごみに呆然としながらも、ざっと学園を見て回る事にした。
    メグミ先生がついてきてくれたので比較的楽に回る事が出来るのは行幸ね。
    でも、リュミエール・ゼロの敷地は広大で一日では回りきれそうに無い。
    さて、どうしようかしら?

    「で、次はどこにいたいの?」
    「そういえば図書館ってここいくつあるんですか?」
    「図書館ね、確か5つほどあったと思うけど」
    「5つですか?」
    「ええ、一般書籍と、歴史書、魔術書、科学及び魔科学書籍、後は……立ち入り禁止区画だから関係ないでしょうけど」
    「噂の禁書図書館ですか?」
    「噂って……まあ、デマの類が飛び交っているのは事実ね。あそこには、学園でもごく一部の人しか立ち入れないのよ」
    「そうなんですか」
    「まあ立ち入れないとは思うけど、入れても入らないほうが身のためだと思うわ。
     何せ、本自体に呪いがかかっている書籍も多いから、魅入られれば死ぬわよ?」
    「それは、怖いですね(汗)」
    「中にはくだらないゴシップで国から禁止されたとか、残酷な描写が過ぎた小説だとか、その……女性には言えない本もあるらしいわ」
    「おお! それは伝説の!!」

    ボスッ!!・・・ドテ

    何か鈍い音とともにルスランが沈没する。
    メグミ先生の額には血管が浮いている。
    それだけで本の内容が分かってしまった(汗)
    でも、つまり禁書図書館は公開できない本の集積所の意味もあるらしい。
    禁呪の図書館なのかと思っていたけど、確かにそれ以外にも禁書はあるわよね。

    「じゃあ、次は……」
    『学園主催武闘大会第一回戦を行います。試合会場は……』
    「あっ」
    「そろそろ時間か」
    「もっと見たかったよー」
    「また明日も見れるじゃない、それよりルスラン。試合会場はどこなの?」
    「え? エルリスさん達も出るんですか?」
    「はい、少し約束しちゃって」
    「ルスラン君、また学園祭に無理やり連れ込みましたね?(怒)」
    「えっ、いや、そんなわけ無いじゃないですか! お嬢さん方が来たいって言うから、ちょっとお願いしただけですって!」
    「本当でしょうね?」

    ルスランはまたメグミ先生にヤキを入れられそうになっていた。
    ルスランは私たちに必死でアイコンタクトを送ってきている。
    無視しても良かったんだけど、それも可哀相なので少しだけ助け舟を出すことにした。

    「メグミ先生、一応彼が試合をして私は数合わせという事になっているので、試合前にダメージを負わせるのはどうかと」
    「あら、そうなの? じゃあルスランには盾になってもらわないとね、じゃあ、今回は許してあげます」
    「ふぅ助かった。ってでも、俺盾っすか?(汗)」
    「うん、そうだよールスラン君盾ー」

    セリスも楽しそうにルスランをいじめている……もしかしてルスランってばいじめて君なのかしら?
    考えてみればそういう行動が節々に見られる気もするわね(汗)

    私達はメグミ先生と分かれて、試合会場の一つにやってきた。
    何でも第一試合は16試合あるそうなので、8つの試合会場で2回ずつ行うらしい。
    そして、今日はベストエイトまでを決めるので、計3試合をする事になる。
    学園祭的には二日目で準決勝まで、三日目で決勝という形式になっているようね。
    ただし、一人で参加する個人戦と2〜6人の団体戦をするので結局倍の試合数になるみたい。

    「ふう、どうにか間に合ったみたいね」
    「ああ、早速試合だけど大丈夫か?」
    「大丈夫っていうか、試合するのはルスランだけだし」
    「えー!? ちょっと、俺だけ?」
    「最初にそういったじゃない」
    「でも、さー、少しくらいは協力しようって気は……」
    「ないよ」
    「ないね」
    「うわーん、訴えてやるー」

    そんなこんなで、団体戦になったわけだけど、私達は基本的に自分を守っているだけだった。
    ルスランは思っていたよりも強いらしく、闘技会場の広さを一杯に逃げ回り、相手をかく乱しながらしとめていった。

    「意外に強いね、ルスラン」
    「うん、まともにやったらもっと強いかもね」
    「でも、相手もあんなんじゃどうって事ないだろうけど」

    そう、私達は5人のチームを相手にしていたわりには健闘していた。
    とはいっても、うち3人はルスランが相手にしていたわけだけど、私達も一人ずつしとめたわけだから結構な物ね。
    ただまあ、学生相手なんだから自慢が出来るのか微妙だけど。
    相手は魔法も使っていたけど、ルスランは上手い事避けていた、正直魔法って避けられる物なんだと感心した(汗)

    「ふぅ、ふぅ、どうにか……勝ったな……」
    「ご苦労様、3人相手によくやったわよね」
    「うんうん、凄い凄い」
    「少しくらい手伝って……」

    まるで事切れるように、倒れこむルスラン、だけどその軌道は明らかに、私の胸に向かっていた。
    私はカウンターでヒザを叩き込んであげる事にした。

    「ぐえ!? もう少し、労わってくれても……」
    「調子に乗らない、元々私達は無関係なんだから。出てあげているだけでも感謝なさい」
    「うおおーん、エルリスがいじめる−ぐほ!?」
    「だからって、ボクに抱きつかないでね」

    セリスの肘も見事に命中、っていうかこういうとき避けない辺り、本気なんだか何なんだか、分からない奴ね……。
    そんな風に闘技会場の近くでじゃれあっていると、一瞬で凍りつくような緊張感が覆った。
    それは、一人の少女、炎のように赤い髪を背中に無造作にたらし、赤いオーラをまとった炎の化身の様な姿。
    周りが息を呑む、少女は美しかったが、それ以上に近寄りがたいほどの鬼気をまとわせていた。

    「ねぇ、ルスラン。あの少女は誰?」
    「え? 彼女か、多分学園都市では一番有名なんじゃないか」
    「一番有名……まさか……」
    「ユナ・アレイヤ、彼女のスリーサイズを知った者はってグギャ!?」

    ルスランの頭が一瞬燃え上がった、すぐに消えたけど、あれは魔法?
    ユナは試合会場にいる、既に試合開始の合図を待つばかりのよう。
    でも、一瞬私達のほうに目を向けていた。無詠唱で魔法を発動した?
    聞いたことは有る、脳内に呪文を焼き付けておく事で、声に出さずに魔法を発動する技術。
    だけど、そんな事をすれば発狂する人間のほうが多いって聞いている。
    狂気じみた事を平気でやっているなんて……。

    そんな中、試合が始まった。
    団体戦のはずなのに、彼女は一人。それも魔術的な武装はしていない。
    それどころか、普通の服装、それも貴金属すらつけていない以上、増幅器すら付けていない事になる。
    しかし、試合が始まった瞬間、決着はついていた。

    「アサルト・ボム」

    その一言が終わると同時に会場が爆発。
    ユナ以外は吹き飛んで、会場には彼女が一人悠然と立つのみ。
    それも、死傷者が出ないよう、何重にも結界が張られているにも拘らず、会場の外にまで振動が響いてきている。
    それが、私達が最初に見たユナ・アレイヤという少女だった……。
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■337 / inTopicNo.20)  空の青『学園都市編』そのE
□投稿者/ 黒い鳩 -(2006/08/22(Tue) 20:26:05)
    2006/08/22(Tue) 21:00:12 編集(管理者)

    私達は追い詰められていた……って、いきなり言っても分からないわよね。
    何ていうか、二回戦に突入してしまったんだけど、その相手は……
    あのユナ・アレイヤとかいう少女だった。

    元々私達は無関係だし、
    一回戦で義理は果たしたんだから封印図書館を探すために、とりあえず禁書図書館を訪ねたかった所だけど。
    どうにも、面倒な事に2試合目から試合放棄は出来ないみたい。
    さっさと負けて立ち去りたい所なんだけど、あのユナという少女は手加減してくれそうにない。
    正直、病院送りにされたら封印図書館探しどころではないわね(汗)
    そんな訳で必死で逃げ回っているわけだけど、例のアサルトボムとかいう魔法、連発出切るみたいで……。
    一発で会場にダメージを与えるほどの威力をまともに食らうわけにも行かず、
    私とセリスで二重に結界を張って何とかしのいでいる現状なの。

    とはいえ、セリスはヨーヨーで結界の魔術を形成しているから魔力さえ流し続ければいいんだけど、
    私は氷縛結界を周囲に展開しているので、吹き飛ばされるたびに再構成しないといけない。
    正直息が上がってきているのが分かる。
    隣でのびているルスランにちらっと目をやってみたけど、あれはもう駄目ね。
    穏便に負ける方法って無いのかしら?

    「姉様! どうしよう、結界につかってるヨーヨーの糸が溶け始めてるよ!」
    「ええ!?」

    本格的にマズイみたいね……。
    せりスの持っているヨーヨーの糸は魔科学兵器なので、魔力伝達物質で出来ている。
    つまり、細いミスリルで出来たものをより合わせて作られたミスリルワイヤーのはず。
    ミスリルの融点は鉄なんかと同じで三千度にもなる。
    私の氷縛結界は分厚い氷に敵を包んで動きを取れなくするものだけど、その氷を壁代わりに作り出して熱を防いでいるにもかかわらず、
    瞬間的に三千度を超える熱を氷の壁のこちら側まで届けているらしい。
    正直、こんなのくらったら生き残れない。

    因みに、私達には出場前に結界発生装置を渡されている、致命的な攻撃にさらされた場合に発動し、
    攻撃を防いでくれる事になっている(発動時点で敗北確定)んだけど、ユナの攻撃はそれを貫通しかねない。
    ユナと一回戦を戦った人たちは病院送りになっているんだから正直役に立っているのか疑わしい。
    いえ、それでも死なないだけマシなのかも?

    「あなた達には何か感じたのだけど、使いこなせていないの? まあいいわ。
     茶番を長々と続ける気もないし、そろそろ終わらせてあげる」

    まずい……あの目は本気ね!?
    ユナの周りに赤い陽炎が立つ……
    魔力があふれ返っているの?
    私達は総毛立ちながらその姿を見守る。
    このままじゃ、殺される?

    「舞おう、さあ、足をあげ、さあ、舞おう、大地を巡るものよ。
     舞は全てを平らげ、全てを蹂躙する。
     さあ、激しく、強く、舞い踊れ! インティグレート!」

    呪文が終わると同時に舞台が割れて、地面からマグマが吹き上げる。
    正直度肝を抜かれて声も出ない。
    だって、活火山の上でもないのに、マグマを呼び寄せるなんて無茶苦茶もいい所よ(汗)
    彼女の魔法には限度がないの!?
    周辺温度が一気に上がる……。
    炎によって私の氷縛結界は跡形もなく消えうせ、再度呼び出そうにも私の魔力は限界……。

    「姉様……私」
    「駄目よ」
    「でも……」
    「これで死ぬことはないけど、あれを使ったらどうなるか分からないわよ」

    セリスは自分が魔法を使ったらどうか?
    と聞いているみたいだけど……セリスの魔力量は予測が出来ない。
    発火の呪文で山を全焼させる位の魔力量があるといっていい。
    その代わり、セリスが使う魔法は不安定で、調節も出来ない。
    暴発すれば全てを巻き込んでしまう。
    使用出来るようになるには、並大抵の努力では無理な事はほぼ間違いない。

    でも、だったらどうすれば……。
    そう考えているうちにも、セリスの結界がたわんで来ている。
    結界が破られる!?
    セリスの魔法が破られるなんて……。
    そう考えた次の瞬間、パンッという情けない破裂音とともに1000度内外の温度を持つ溶岩が結界を破って進入してきた。
    結界魔法が起動する……でも、その魔法すらすぐに焼き切れて、とうとう炎に直接さらされそうに……。

    「キャア!?」

    セリスが悲鳴を上げる、私より一瞬早く結界が燃え尽きたよう。
    私は必死に手を伸ばす。
    だけど、手は届かなくて……。

    「セリス!?」
    「おねぇちゃ……」

    炎に飲まれていくセリスを見ている事しか出来ないなんて……。
    そんな……そんな……。
    私はその時、自分の中で何かが切れる音を聞いた……。

    転瞬、視界が切り替わる。
    何が変わったのか自分でも分からない、でもその力は己の中に存在する事が分かる。
    同じはずで違う自分、私の中の私、それは自覚できているのか自分でも自信がない……。
    でも、セリスの周辺は既に凍りつき、炎は完全に鎮火されている。

    我(わらわ)は一息ついて、正面にいる小娘を見る。

    「今のはなかなか面白かったぞ、お主よもや炎をそこまで使うとはな」
    「ふん、本性というわけ? いえ、違うわね。のっとられたのか、憑き物のようね」
    「なかなか鋭いのう、だが、我はのっとっている訳ではない」
    「似たようなものじゃない。でも、これで少しは本気になれるかしら?」

    小娘は赤い髪を掻き揚げて挑発しつつ、新たな呪文を唱え始めている。
    しかし、完成までには数秒かかるのは間違いない。

    「それにしても、暑いな。少しすずしくしようか?」
    「え?」

    我はため息をつくように息を吐いた。
    炎が燃え盛り、溶岩が噴出していた舞台やその周辺に霜が降りる。
    霜は、それらを凍結し、綺麗に白く染め上げてくれた。

    「なっ……1000度を超える溶岩流が一瞬で凍りつくなんて……」
    「何を驚く?」
    「ふふっそうね、かなり本気じゃないと貴方を仕留められないことが分かってうれしいわ」
    「それは楽しみじゃ、中途半端な攻撃で失望させないようにな」
    「きっと気に入るわよ、それはもう、燃え上がるほどにね」

    その言葉とともに、火球を十発単位で投げつけてくる。
    時間稼ぎのようだの、その間に間合いを取った小娘は、特殊な呪文を唱え始める。

    「我、今くびきを開放し、呼び出さん。先に唱える者よ、後を唱える者よ、続けて唱える者よ、我が呼びかけに答えよ」

    小娘は自らの周りに小妖精を呼び出す。
    妖精は、己の自我があるのかないのか、召喚された途端に何かの呪文を口にし始める。
    なるほど、あれらは外部の口というわけじゃな。
    複雑な呪文を唱える場合、一つの口では足りないので、変わりに唱える者を使う場合がある。
    それは、あらかじめ決めておいた呪文を復唱する事しか出来ないが、それでも、複雑な形式の呪文を唱える場合は有効な手段じゃな。

    しばらくして、舞台を覆い隠すように巨大な積層型の魔方陣が作り出されていく。
    本来はこのような呪文を使うのは馬鹿のする事だ。
    時間がかかりすぎる、集中力を乱されただけで失敗するような精密作業を続けねばならない。
    しかし、4つの口で唱える呪文は早々に完成されていくように見えた。
    多分、通常の4倍というだけでなく、ディレイによって更に短縮効果をあげているのだろう。
    だが、それでもまだ余裕はあった。
    流石に1分かからず唱えられる呪文ではないようだからな。
    しかし、我は待つ事にした。
    興味があたからだ。

    その間に、会場にあるものは、全て外に出しておく程度のサービスをしておいてやったが、
    頭に血が上っているように見える小娘に分かったかどうか。

    「さあ、この呪文。とめられる物なら止めてみなさい!」
    「ふん、生意気じゃな。かかって来るがよい」
    「現れい出よ、天空の聖剣!」

    小娘は、我の言葉を聞く間もなく、呪文を開放した。
    それは、天空から飛来する焦点温度二百万度に達するレーザーの光。
    下手な核攻撃100発分にも等しい大熱量だった。
    学園全体が真っ白に光る。
    焦点が絞られているため、熱量は拡散していないようだが、それでも発動時の暴風で会場は吹き飛んでしまったようだ。
    我は積層魔方陣の結界にとらわれている為、逃げる事も、防御魔法の展開も出来ないようになっている。
    絶体絶命のようじゃな。
    光が魔方陣の中に満ちる。二百万度のレーザー光は、内部で衝突を繰り返し、更に温度を上げて魔方陣を満たす。
    そのエネルギーによって、更に焦点温度を上げつつ、魔方陣の内部のエネルギーごと異次元へと飛ばした。
    これによって、強大なエネルギーを余すところなく使い外部に漏らさないという形をとっているようだ。

    「どう? 消し炭も残らなかったでしょうから、答えようもないでしょうけど」
    「ふむ、なかなかの攻撃じゃ、だが小娘、まだまだ甘いな」
    「何!?」

    我は小娘の背後に立っていた。
    氷による光の幻術を複合してユナをだましたのだ。
    もちろん、魔力は大部分その場に残し、自らは魔力を遮蔽する呪文をまとってもいる。
    上位の術者のようだからかなり用心をしたが、今回は上手くいった様じゃ。
    二度使える自信はないがな。

    「あんな長い呪文を唱えさせておく馬鹿はおらぬよ。火球で作れる隙は数秒、唱えるものどもを呼び出したころには終わりじゃ」
    「……でも、魔方陣の内部にいる限り脱出は……」
    「そうじゃ、あれの強力なところはそこにある。火球で作った隙に第一の結界を作ってしまえばじゃがな」
    「ふん、そんなタイムラグをつけるのはあんたくらいよ。1〜2秒じゃない」
    「まあな」

    我はニヤリと笑う。
    小娘も少し口元をゆがめたようだ。
    しかし、どうやら時間じゃな。意識が暗くなってきた。
    そろそろ、体を返さねば……。
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