親記事 / 返信無し
□投稿者/ ジョニー -(2006/12/09(Sat) 22:42:57)
| 2006/12/10(Sun) 18:45:05 編集(投稿者)
学園都市……その入り口に立つアンバランスな二人組みが居た。
一人は二十代半ばの金髪蒼瞳の男性。大小様々な傷が存在するが一目で上級品とわかる胸鎧と背負われた見慣れぬ造りをした柄が特徴的な片手半剣から一目で戦士である事が窺える。 男の名をリオン=レイオスという。エインフェリア王国にて騎士の名家と謳われたレイオス家の者である。 レイオスは数多くの優秀な騎士を輩出した名家であり、代々王都の護りを任されて時には近衛騎士になった者さえいる代々の王の信頼も厚い由緒正しい家であった。しかし、現在はリオンの祖父の代に当時の王の不評を買い辺境に飛ばされた落ち目の名家である。
もう一人は十代前半の白髪蒼瞳の少女。観賞用ではなく実用の為のものとわかるメイド服と金属製の首輪に自然と目がいく、なんというか特徴的な少女である。 少女の名はメア=シブリュート。同行者であるリオンでさえ名前以外の事を殆ど知らない謎に包まれた少女である。尚、よくても14歳程にしか見えないが本人は二十代だと主張している。
「ハァ……漸く入れたな」
リオンが疲れたように溜息をつく、その理由は学園都市に入る為のゲートで相当審査に時間が掛かった為である。
「……………」
その原因たるメアはなんら気にした様子も無く、無感情に目の前に広がる人々の営みを眺めていた。 そうゲート通過に時間が掛かったのはメアに原因がある。リオンにはキチンとした身分が在る、レイオスでありハンターでもある。レイオス家の証明にはやや面倒があったが鎧に刻まれた紋章とその紋章と同じ形状のペンダントで証明された。 レイオス家には過去の王に直々に授けられた紋章が在る。狼と剣を象ったそれは王都の王家の番犬の騎士という意味が込められている。辺境に左遷させられた今となっては皮肉な紋章でもある。 もちろん、これが偽物という可能性はあるが通常確立は低い。王直々に授けられた紋章を偽るというという事は実質王国への重罪に当たる。そのような命知らずは殆どいないし、居たとしても銀製の紋章のペンダントなど作る者はいないだろう。単純に材料費にしても加工費にしても高く付くし、そのような事細かな細工を作ろうとすれば職人から王国に報告がいくのが普通だ。 よって本物と判断されて簡単に通る事ができた。が、メアには提示できる身分も身分証明もなく門前払いを喰らいかけた。 しかし、そこを何とかリオンが説得した。最終的にはリオンの御付の従者という身分でゲートを通過する事が出来たのである。無論、そこに落ち着くまでかなりの口論があったのは言うまでもない。
「此処にお前の事を知ってる奴がいるといいな?」
軽く頭を振って気を取り直して言う。 そうリオン達は…正確にはリオンはメアの事を調べる為に旅をしていた。
「………別に、どうでもいい」
だが、気を使ったリオンのその言葉はメアの心底興味無しという台詞によって撃沈した。 リオンはメアに気付かれぬように大きく溜息をついた。そして、何故こうなったんだとメアと出会った時の出来事に思いを馳せていた。
交錯 第一話
学園都市に程近い王国領内のとある森の中。 リオンは目の前に広がる光景に眉を顰めた、血の臭いが鼻に付く。
横転し破壊された馬車、馬の姿は逃げ出したのか見当たらない。 そして引き裂かれ原型を留めていない人間…だったもの。 明らかに人間業ではない惨状。十中八九魔物に襲われたのだろう。それにどうやら襲撃されてから余り時間は経っていないようだ。
軽く周囲に視線を走らせる。魔物が近くにいないかどうか、そして生存者がいるかどうかの確認である。
「―――ぅ…っ」
風に乗って、微かに聞こえる呻き声。
「!? 無事か!!」
まさか本当に生存者がいるとは思わず、声のする方に走り寄ると物陰になっていたところに男がうつ伏せに倒れていた。 如何にもただの旅人いう服装の男の傍に寄ると誰かが自分の傍に来たのが分かったのだろう。己の血に濡れた顔をゆるゆると上げる。
「………かの…を……ゴホォ…頼、む………」
言い終わらぬうちに男は事切れて、自分の血で出来た水溜りに再び顔をつけた。
「……クッ」
ギリッと強く奥歯を噛み締める。間に合わなかった、もしも自分がもっと早く此処に辿り着き彼を見つけていれば助けられたかも知れないという思いがリオンの胸に満ちていた。 そして勢い良く立ち上がると念入りに周囲を見回す。彼は「彼女を頼む」と言った、つまり他に生存者がいる可能性がある。
「居た!」
倒れた馬車の影に隠れた13〜4歳程の白髪の少女が力なく座り込んでいた。 ぼろぼろになった囚人服とも病院着とも取れる見慣れぬ服を着て金属製の首輪と手枷を嵌めた、焦点の合わぬ瞳を漂わせている少女がそこにいた。 少女の格好に些か疑問を抱いたが、恐らくこの少女が彼のいっていた『彼女』だろうと傍に駆け寄る。
「おい、大丈夫か?」
少女の肩を揺すりながら問いかけるがまったく反応が無い。 おそらく目の前で起きただろう惨状に茫然自失となっているのだろうとリオンは思った。 その時、
「グオォォォォォオォォォ!!」
明らかに人のそれとは異なる叫び声が響き渡る。
「ッ!」
近い、そう思い舌打ちしながらリオンは背中の剣―イクシード―を抜き放つ。 リオンが剣を構えるのにあわせたかの如く、二体の人型の魔物が木々の間から姿を現した。
「オーガっ!?」
叫びにも似た声をあげる。 食人鬼、魔物としては割りとポキュラーな方ではあるがそれは弱い故ではない、遭遇率はそこそこ在る癖に危険度は高い。その為にその名は広く知られている。 無論人に倒せぬ相手ではない、特に知性に乏しい為に罠にかけるのは楽である。が、このような遭遇戦では脅威としか言いようがない。 凶暴で残忍、食人鬼の名が示す通り…人肉を好む怪力を誇る怪物である。
この馬車を襲ったのはこいつらか、とリオンはあたりを付ける。 そして考えを巡らせる。
少女を護りながらオーガ二体を倒す事が出来るか? No―――あるいは一人だけなら何とかなったかも知れないが、彼女を護りながらオーガ二体を相手する技量は自分にはない。
少女を連れて逃げられるか? No―――とてもじゃないがこの状態の彼女を連れて逃げられはしないだろう。
そこまで思考を巡らせてリオンは苦笑する。ならば、方法は一つしかない。 まだオーガの攻撃範囲に入るまで少し余裕があると確認した上でリオンは少女に向き直る。
「いいか……俺が時間を稼ぐ、そのうちに逃げるんだ」
ゆっくりと言い聞かせるように少女に言うが、未だ少女の瞳は焦点が合わず彷徨っている。 その有様に悲しげに顔を歪ませるが、リオンは剣を逆手に持ち替えて少しでも逃げやすくなるようにと少女の両手を拘束している手枷に剣を突き立てた。 その瞬間である。
『魔法接触、解呪開始』
頭に聞き慣れたイクシードの音声が響く。そしてエーテルが大量に消費されて酷い頭痛に襲われる。
「なっ……一体…ッ」
何時もよりも酷い、余りの頭痛に盛大に顔を歪める。 気を抜いた一瞬のうちに、解放されて行き場を失った魔力が無秩序な力となって吹き荒れる。 それに押されて二歩、リオンが後ろに下がると魔力の渦は収まった。 オーガ達もその魔力に警戒したのか一定の距離を保ったまま近づいてくる気配は無い。
そして、土埃が収まった渦の中心地にはあの少女が立ち上がっていた。 その腕に嵌められた手枷はまるで煙のように消えていき、ゆっくりと開かれた蒼い瞳は先程までの焦点のあわない瞳と違い何処までも澄んでいたが意思の光はまるで感じられなかった。
「解呪確認、これより貴方をマスター代理として認めます」
少女の口から紡がれた抑制の無いまるで聞き慣れたイクシードの音声のような機械的な言葉。 その意味をリオンが問い質す前に少女がオーガ達に視線を向ける。
「魔物を確認、マスター代理への脅威と認識。これより排除します」
まるで少女の口を使って、他の誰かが喋っているかのような錯覚に陥る程にその言葉には意思というものが感じられなかった。
「―――!? ちょっと待っ」
『魔法感知、範囲外』
数秒の後、その言葉の意味を理解したリオンが逃げろと言おうとするがイクシードの音声により止められた。 そのイクシードの音声の意味に困惑気味の思考を一瞬巡らせる。
「――我が主に仇為す敵に大地の裁きを与えん―――――」
その間に少女のぼろぼろになった服から覗く肌に刻まれた刺繍らしきものが淡く輝くのがリオンには見えた。 そして―――
「――――アースランス」
突如としてオーガの足元の地面が隆起して巨大な土と石の槍と化して次々とオーガ二体を襲った。 人には発する事の出来ない耳障りな悲鳴をあげて、オーガ達が串刺しにされていく。
一体は胴体と頭部を貫かれて絶命し、もう一体は脇腹を抉られて悶えている。
「っ!? 今だぁ!」
そこで我に返ったリオンがイクシードを両手に構えなおして素早く、いまだ生きているオーガの懐に飛び込み剣を一閃する。 銀線が走り、一瞬送れて袈裟に切り裂かれたオーガが勢いよく血を噴出して仰向けに倒れた。 完全にオーガが死んだ事を確認して、少女の方に振り返ったリオンが見たものは………
ふらぁと受身も取らずに倒れていく少女の姿だった。
<あとがき?>
えー、改正版?です。 二人の出会いが大幅に変更されました……まぁ後の展開はそれ程大きくは変わらない予定です。 尚、改正前の方がいい!という意見が多ければこっちではなく改正前の方を…続けるかも、しれません(ぉ
では、えー……次回も頑張りますです。
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