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■184 / 親記事)  赤き竜と鉄の都第1話
  
□投稿者/ マーク -(2005/04/12(Tue) 22:00:30)
    『鉄甲都市』









    ビフロスト連邦の小さな一国の街外れの館。
    私はそこで育った。
    もっとも、私が6歳の時には既にこの大陸の中央に位置する大陸中、
    最大規模の魔術学校、リュミエールゼロのある都市に学園都市にいたので
    実際に暮らした年数は今まで生きた都市の半分にも見たず、
    すごした記憶はほとんど無かった。
    魔術学園へはどんな簡単な魔術でもいいから魔術式を構築できれば
    何歳でも入学できることになっている。
    だが普通、入学するのは十歳前後。
    はっきり言って学園としても私は異例だったのだろう。
    私がそんな小さな頃に学園としに入学したのはひとえに兄と離れるのが
    嫌だったからだ。
    その頃兄は十歳。
    既に魔術を構築することは可能だったため、入学に問題は無かったのだが、
    私が駄々をこね一緒についていくと言い出したのだ。
    無論、兄も両親も困り果てた。
    そして、兄がコレが出来たらついてきてもいいと言って、簡単な炎を出したのだ。
    必死だった私は兄が構築した魔術式を真似て無我夢中で式を構築した。
    今思えばあの時兄が炎以外の魔術を使ってたら、私はここにいなかった。
    結果で言えば、私はその魔術式を完全に、いや兄以上の精度で発動させた。
    両親も兄も信じられないといった顔で私を眺め、
    もう一度やってみるように言った。
    既にコツをつかんでいた私はさらなる精度で発動させ、
    全員に学園都市の入学を認めさせた。
    もしかしたら。
    もしかしたらと何度も考えた。
    あの時に何かが違っていたら私も兄も両親と共に笑ってあの家で
    過ごしていただろう。
    焼け落ち、廃墟となった家を思い出し、いつも思う。













    ―チュンチュン

    「ん」

    朝か。
    久しぶりに昔の夢を見た。
    でも、泣いてなんていられない。
    ミコトも言っていた。
    後悔先に立たず、過ぎ去ったものは戻らない。
    昔を振り返ることも大事だが囚われてはならない。
    今これからどうするかを考えるべきだ。

    「行くわよ」

    軽い朝食を取り、見張りとして実体化させていた使い魔に飛び乗る。
    向かう先はアイゼンブルグ。
    王国の内部に存在する独立都市であり、その優れた技術力により発展し、
    他国からも注目される技術都市である。
    アイゼンブルグは出入りこそはある程度自由だが、都市全体が外壁に囲まれ、
    閉鎖的な部分もある。
    だがその結果、魔法文明時の技術が他の国に流れることもなくその内部でのみ
    受け継がれ、その知識と技術で街は発展し現在でも世界最高レベルの技術力を誇る
    鉄の都となっている。
    また、都市自体も王国の内部にありながら他種族を好意的に受け入れており
    王国から逃げ出したものはほとんどここで暮らしている。
    位置的にも近いため学園都市、協団とも関わり合いは深いが、
    私はここに来たのは初めてである。
    市場やメインストリートは遠目にも活気に溢れ、人ごみで溢れかえっている。
    商品も食料から銃器までありとあらゆる物が揃えられ、その分混沌としている。
    兄、レイヴァン=アレイヤを探しにここまで来ていた訳だが、
    昔から、ここアイゼンブルグにはいづれ来たいと思っていた。
    鉄鋼業が盛んであり、様々な武器、銃器も揃えられたこの街ならではの物も多く、
    ここにある銃器には大変、興味をそそられている。
    兄を探すついでに見物することが出来るためここに来たのは正解だったと思った。
    無論、仲間に頼まれたことも忘れていない。
    アイゼンブルグが王国に協力体制をとっているか、
    それともただの技術流出かの調査。
    そして、もう一つはある物の返却である。
    だが、たまには少しくらい羽を伸ばしてもいいだろう。
    そう自分の中で結論を出し、街に入ったユナは一目散に立ち並ぶ店へと
    入っていった。



    「高い!!
     ベネリがこれってどういうことよ!!」
    「高いってそれが相場だぞ・・・」
    「確かに普通ならコレぐらいでしょうけど、
     こんな状態の銃が相場の値段と一緒な筈無いでしょ。
     ふざけてるの!?」
    手に持ったショットガンはすでにかなり使い込まれておりボロボロだが、
    十分修理して使える物だ。
    だが、このような中古を通常と同じ値段で売るなど容認出来る筈が無い。

    「ああ、もう分かった。
     コレでどうだ」

    そういって、提示してきた値段は中古の相場よりも少々低いくらいだ。
    無論、その値段なら文句は無い。

    「商談成立ね」
    「畜生もってけドロボー」

    金を支払い、アーカイバに仕舞う。
    流石は鉄甲都市と呼ばれるだけあって種類も豊富で
    店の数も多し、何よりその完成度が高い。
    さて、次は何を探すかな。

    「おい、嬢ちゃん」
    「何よ?」
    「そいつを修理する気ならこの先の路地を抜けたところにある店の
     偏屈ジジイに頼むといいぞ。
     選り好みが激しいから受けてくれるかどうかは分からんし、
     性格も最悪だが、腕は確かだ。
     嬢ちゃんなら気に入るかもしれん」
    「ふ〜ん」

    そういって、男が親指で指した先の細い通路を覗き込む。
    どうせ、当てもないしデッド・アライブのメンテも予定していたので
    腕のいいジャンク屋などを探していたから都合はいい。
    男が示した先の路地に入り、少し歩き細い道を抜けると
    一軒の店がぽつんとあった。
    はっきり言ってお世辞にも大きいとも繁盛しているともいえない。
    が、こんな場所にあるならそれも仕方ないだろう。
    とりあえず、ドアを開け覗き込むと店のカウンターには店主と思わしき老人が
    座って新聞を読んでいた。
    男の言ったとおり確かに初老の老人で、気難しそうな顔をしている。

    「ここって、ジャンク屋?」
    「ああ、そうだ。嬢ちゃんなんか直して欲しいのか?」
    「・・・これと、あとコレのメンテナンス」

    名前を知らないのだから仕方ないとはいえ、さっきの男といい
    さんざん嬢ちゃんと子供扱いされてるのは気に食わないが、我慢しよう。
    そう自分に言い聞かせ先ほど店で買ったショットガンと
    愛用のデッド・アライブを老人に見せる。
    それを見た瞬間、老人が驚き目を見開いた。

    「これは凄い。こいつのメンテか?」
    「ええ。完璧に整備して欲しいの。
     あと、こっちは修理より、折角だから改良して欲しいけど出来る?」
    「ワシを誰だと思っている。
    クククッ、久しぶりにやりがいのある仕事じゃ。
     二日じゃ。二日後に取りに来い。
     それまでには両方とも完璧にしといてやる」

    そういって、老人は3丁の拳銃を持って奥に潜り込む。
    店の中を見ればかなりの量の銃や機械が棚や壁に置かれている。
    そのほとんどが使い込まれた物を修理した物だと分かった。
    手にとって念入りに見てみると、型自体はそこらで売っている様な
    ごく普通の物だが、内部にかなりの改良が加えられている。
    驚いくべきことはその改良が素晴らしい。
    なるほど、これを見た限り、確かに腕はいいだろう。
    だが、なんせ預ける物が物だ。
    疑うわけではないが、念のため使い魔を一匹、霊体化させて
    ここに見張らせて置くとしよう。
    さてと折角来たんだし、どうせだからここのやつも買っていくか。
    見渡して幾つか気になるのを見つけては手に取り、確かめる。
    手の大きさなんかも気にしないと使いづらいだけだ。
    候補に入れては除外し、やっと2つにまで絞り込んだが、

    「どうしよう?」

    迷う。凄く迷う。
    ここにあるのは中古とはいえ、かなりのカスタマイズがされた物ばかりだ。
    幾つかの候補は簡単に除外できたが今度のはどちらも捨てがたい。
    かといって、両方買うというのも無駄なだけだ。
    どちらにする?
    右手に持っているのはベレッタ・M92F。
    改良点は銃身などが強化されていて、実弾の代わりにE・Cで魔力弾を撃つ点。
    銃身の強化は実弾を撃つことを考慮に入れてないため、
    魔力を阻害しない素材で強化されている。
    左手にはコルト M1911A1 。
    こっちも銃身の強化が施されてあるがこっちは純粋にベレッタよりも強固に
    改良されている。
    理由は実弾をE・Cで魔力を通して強化する点の対処のためだろう。
    威力が高ければその分銃身の磨耗度も高いからこの対処しかない。
    そうすると連射するならベレッタだが、威力ならコルトガバメントとなる。
    他にも強化点はあるかも知れないが目に映ったのはその辺だ。
    ・・・・・決めた。ベレッタで行こう。
    威力は他のことでも補えるし、実際に使うこともほとんど無いだろうから
    これでいいだろう。
    あとは他のところで弾を仕入れておくか。
    店主を呼びだし、金を払ってアーカイバにしまう。
    名残惜しくコルトガバメントを見ながら、店を出た。



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■185 / ResNo.1)  赤き竜と鉄の都第2話
□投稿者/ マーク -(2005/04/15(Fri) 18:59:48)
    『銀と鈴』






    「あいつだな」
    「反応はあの少女からありますがそうとは決まってませんよ?」
    「分かってるさ」
    「いつも思いますけど本当に分かってるですか。
     いえ、すみません。
     そんなはず無いですね。
     分かってたらもっと穏やかに終わるはずですもんね。
     だからお願いします。もう少し考えて動いてください」

    そういって、最初に呆れ、次にため息をつきながら切実な願いを込めて男に
    頼みこむ少女とそんな言葉を意に返さずに銃を構える男。

    「ってちょっと、ギン。言ってる傍から何をしてるんですか!?」
    「威嚇射撃だ、当てはしない」

    言うが否や、男が引き金を引き銃口より銃弾が放たれる。
    放たれた弾は店から出てきたユナの足元へと突き刺さる。
    足を止め、立ち止まったユナは飛んで来た足元の弾丸に視線を移し、
    次に銃弾が飛んで来た方向を見る。
    と、1組の男女が屋根から飛び降りて来た。
    少女は奇妙なイヤリングを耳につけ、まぶたを完全に閉じているが
    慣れた感じで危なっかしさは微塵も感じさせない。
    男は肩に黒い長身の銃を担いで少女となにやら口論している。

    「なにか用?」
    「お前の持っているブツを置いてけ。
     そうすれば、見逃してやる」

    自分が持っているものに何か狙われるようなものはあっただろうか?
    というより、むしろこれはただの物取りだ。

    「ちょっと、ギン!!これではまるで―」
    「そういうわけだからとっとと置いてけ。
     素直に渡せば痛い目にあわずに済むぞ」
    「嫌よ」

    ギンと呼ばれた男の言葉をきっぱりと拒絶する。
    誰に手を出したか思い知らせてやる。

    「そうか。それじゃあ―
     後悔すんなよ!!」

    そういって、男が銃を捨て殴りかかって来る。
    それに対応すべく普段、腰に掛けている銃を構えようと手を回すが
    手は空を切り何もない。

    「あっ・・・」

    慌てて、体を強化し振るわれる拳を避け、距離をとる。
    いけない。
    両方ともメンテに出してしまい、使える武器は
    サンダーボルトと先ほど買ったベレッタのみ。
    慣れてない物と明らかにに接近戦では使えないもので
    しかも、両方ともアーカイバの中だ。
    この状況では取り出してる暇も無い。
    武器が使えないならせめて魔術を使える場所に行かねば。
    そう判断を下し、反転し、男に背を向けて走り出す。
    幸い、ここは路地裏だから人も少なく、拓けた所なら十分に力を振るえる。
    路地裏を駆け、寂れた広い道に出る。
    ここなら、暴れても被害は少ない。
    今出てきた細道に振り返り、追ってくる男たちに向き直る。
    少し心とも無いが市場で仕入れておいた銃を一丁左手に構え、詠唱する。

    「煉獄より来たりし焔、牙となりて我が敵を貫け。
     フレイムファング」

    細い路地へ向け、炎が一本の槍となって放たれる。
    放たれた槍は一直線に飛び、男に迫る。
    細い路地では避けることも出来ないだろう。
    槍は盾にするようにして構えた男の腕が振るわれた瞬間、

    「なっ!?」

    その構成が崩れ、バラバラに散った。

    「キャンセルされた!?」

    驚いてる間にも崩壊した槍の抜け、目の前まで男が迫ってくる。
    突き出された男の腕を斜め後ろへ飛んで回避。
    そして続けて大降りに振るわれた男の右腕の袖口から飛び出す形で剣が現れる。
    その分のリーチを踏まえてさらに後ろに飛んで剣を避け、さらに距離をとる。
    距離が十分に開いたところで左手に構えた銃を男に向け、引き金を引く。
    まだ試してないし、魔力弾だから威力は低いと思うが対人戦闘なら十分だろう。
    しかし、男はそれらの銃弾を容易くかわす。
    スピード自体は決してそう高いわけではない。
    ただ、銃弾の軌道が見えているかのごとく最低限の動きで銃口から
    放たれた瞬間にはもう回避運動を取っている。
    そして、運悪くかわされた銃弾が幾つかその先にいた少女に向かう。

    「危ないですね」
    「あ!?」

    しかし、少女も男と同じように、いや目を閉じたままで少し体をずらすだけで
    銃弾を避ける。
    その光景に驚き、一瞬気を取られたところで男が接近してくる。
    ギリギリのところで気を取り戻して後ろに下がり剣を避ける。
    その時、懐から白い紙が落ち、男の剣が刺さりそのまま切り裂かれた。

    「あっ、ああっ〜!!?」
    「なんだコレ?」

    おっ、お兄ちゃんの手紙。
    よくも・・・よくもっ!!

    「覚悟しなさい!!
     あんたには地獄を見せてやる!!」

    ユナの背後に比喩でなく本当に炎が燃え上がり、炎が竜の姿を形作る。
    体全体を炎の魔力が覆い、周囲の温度が上昇している。

    「・・・なんていう魔力だ」
    「ギン!?」

    男と少女は焦りを含んだ声で呟き、ユナを覆う魔力と背後の炎の竜を見る。
    竜が鎌首を掲げ、咆哮を上げる。
    その間にも竜の体は膨れ上がり、どんどん巨大になっていく。

    「いいぜ。相手になってやる」

    男がアーカイバより銀色の機械を実体化させる。
    先端がランスのようになっており、尖った円錐の側面に掘られた溝は
    螺旋を描いている。
    取り出したものを地面へと突き刺し、右腕に触れる。
    奇妙な操作と共に、重い音を立て腕が落ち、袖を破り捨て
    剥き出しになった義手の付け根が露になる。
    取り出したものを腕へとはめ込み、水平に構え竜に向ける。
    先端のランスが物々しい駆動音と共に高速で回転しだし、風が吹き荒れる。

    炎の竜が最大まで膨れ上がり、弾かれえるように男へ向けて突撃した。
    迫り来る竜を迎え撃つべく、高速で回転するランスを装備した義手を後ろに引き、
    渾身の力で突き出す。
    荒れ狂う暴風と炎が拮抗し、轟音と共に竜が爆発し、両者とも吹き飛ばされた。

    先に立ち上がったのはユナだった。
    距離が離れていたため、爆発の衝撃が少なかったが
    反対に爆発の中心地にいた男は動くことはできないだろう。
    だが、煙で前が見えず男の姿は見つけられない。
    男がいるであろう方向に向き、進もうとしたら男と一緒にいた少女が
    男を引きずりながら目の前に現れた。

    「すみません。迷惑をかけて。
     ですが、話だけでも聞いてくれませんか?
     ギンにはあとで殺さない範囲なら好きにしてくれて構いませんから」
    「・・・・話だけなら」

    男と明らかに違う態度に面を喰らいながらも、敵意は無いようだから
    とりあえず提案を飲むことにした。

    「申し送れました。私はリン。
     このおバカはギンです」




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■189 / ResNo.2)  赤き竜と鉄の都第3話
□投稿者/ マーク -(2005/04/20(Wed) 20:04:27)
    『銀の腕』








    「銀の腕?」
    「はい。アイゼンブルグの所有する世界最高のあの義手です」
    「その銀の腕が盗まれた、ねえ・・・」
    「さらに言えばこのギンの造ったレプリカも共に盗まれました。
     そのレプリカについていた発信機の反応を追っていたのですが
     心当たりはありませんか?」
    「レプリカ・・・あっ」

    慌ててアーカイバを出し、それを取り出しリンに渡す。

    「0式ですね。やっぱり」
    「わっ、私は犯人じゃないわよ」
    「分かってます。それは別の者に奪われた代物ですから」

    そうリンが微笑み、ユナはほっとする。
    リンは先ほどからまぶたを開けず、目を開いていない。
    だが、まるでそれ以上のものまで見えている用に振舞っていて、
    うっすらと目を開けているのではないかと思ったが、流石にそれは無いだろう。
    つまり、このリンという少女が盲目なのはおそらく確かだろう
    だが、それならば先ほど避けたのは一体?

    「ですがこれで確定しました。
     どうやら、私たちの早とちりだったようですね。
     一応、私は止めたのですがこのおバカの代わりに謝ります。
     どうもすみません」
    「別にいいわよ。話を聞かなかったのはこっちも同じだし。
     喧嘩両成敗ってことでいいでしょ?」
    「はい。ありがとうございます」
    「うう〜ん」

    話が一区切りついたところで都合よくギンが目覚めて起き上がる。

    「っつ〜、どうなったんだ?
     というかなんで俺は縛られてるんだ?」
    「・・・おはよ」
    「っげ、テメー」
    「ギンのおバカ。だから止めたのに。
     ちょっとは反省してください」
    「リン。ということは・・・
     っち、外れか」

    ―ムカッ!!

    「それよりも言うことがあるでしょ?」
    「ああ〜。人違いだった。忘れてくれ」
    「それで済むかー!!
     よくもお兄ちゃんの手紙をー!!」
    「兄!?
     ブラコンってやつか」
    「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」

    もはや声にならぬ怒りの叫びを発しながらユナは憤怒の形相でギンに掴みかかり、
    首をガクンガクン揺さぶる。

    「リン・・・助け・・・て・・・く・・れ」
    「はあ、自業自得です。
     もっとやってくれていいですよ」

    ―ガク
    目覚めて早々、ギンは再び夢の世界へと戻っていった。




    「というか、手紙が破れたのは俺の所為だが
     燃やしたのはお前だろう?」
    「はあ、そもそもギンがあんな真似するからでしょう」

    なんとか意識を取り戻したギンとリンの会話を黙って聞きながら睨みつける。
    あの戦いの際、破かれた手紙を見た瞬間に完全に暴走してしまったため、
    あの爆発の炎で手紙の残骸まで綺麗サッパリ燃えてしまった。
    しかも、いても立ってもいられず急いでこの街まで来たため、
    宿についたら、ゆっくり見ようと思って開いてすらなかったのだ。
    せっかくの手がかりが・・・・

    「盗人に持ち合わせる情けなんてない。
     それみこっちの方が手っ取り早くて確実だからな。
     第一、だがこの女があの状況で普通に尋ねても
     素直に聞いてくれたとは思えんぞ」
    「煩い、黙れ」

    ユナはなんとか爆発しないように抑えているが、抑えきれぬ怒りが声に
    刺々しいと表現するのも生易しいほど恐ろしいくらいに現れている。
    こいつさえ、こいつさえいなければ・・・・・。
    だが、今ここで殺しても面倒なだけだし、
    簡単に終わってしまっては私の怒りも収まらない。
    ミコトもいたぶるなら生かさず殺さずが基本だと言っていた。

    「とにかく。私は被害者なんだから、誠意を見せなさい」
    「例えば?」
    「そうね、あんたこの都市の人間でしょ?
     アイゼンブルグを一通り案内しなさい。
     いっとくけど、これはお願いではなく命令よ」
    「なんで俺がそんなことを。第一俺は忙しいと言って―」
    「いいですよ?どうせ、一通り周る予定でしたし」
    「おい、リン!!」
    「そのかわり、貴方も私たちを少しだけ手伝ってくれませんか?
     こちらも人手は足りませんし」
    「つまり、私も腕探しを手伝えと?」
    「はい」

    どうする?
    お兄ちゃんを探すだけならそんなの手間がかかるだけだ。
    だが、本来の目的はアイゼンブルグの調査。
    ならば土地勘があり、なおかつそんな貴重品の捜索を任されている者たちなら
    それなりに情報はあるだろうからどちらかといえば都合はいい。
    いや、お兄ちゃんの事にしても単独で動けない分動きは鈍くなるが
    そのかわり情報は手に入りやすくなる。

    「分かった。契約成立ね。
     私はユナ・アレイヤよ」
    「はい、ではとりあえずこの街を回りましょう。
     ついて来て下さい」
    「その前に―」
    「はい?」
    「コイツを好きにしていいだよね?」
    「あっ、はい。好きなだけどうぞ」
    「リン!?」
    「じゃあ、地獄に行って貰いましょうか」







    「アイゼンブルグは都市というにはあまりにも大きすぎ、
     大きく東西南北の4つの地区に分かれています。
     ここはアイゼンブルグの東区で他国との交易も盛んな地区です。
     おかげで街の活気が良く、他国からの旅人も多いのですが、
     どちらかといえば流通は南区の方が多く、職人たちも他の地区のほうが多いので
     あまり特別なもののない地区になっています」
    「ふーん」

    東の地区を周りながらすれ違う人ごみに目を向ける。
    噂には聞いていたが本当に豊かなところだ。
    最近の王国内じゃ滅多に見られない動物の特徴を色濃く受け継いだ獣人。
    所謂半獣の者たちも数多く見られる。

    「なるほど。確かに活気もいいし、獣人みたいな異種族とも仲良くやってる。
     王国の領土内の光景とはとても思えないわ」
    「そうですね。
     王国から逃げてきてこの都市に保護を頼んだ者も数多くいますし、
     流石に王も独立した都市の中までは手を出してきません。
     ただ、残念ながら良い眼で見られてないのは確かです」

    そう、独立都市であるアイゼンブルグを王国は快く思っていない。
    独立したとはいえ、もともと王国の領土。
    さらに、この都市の技術は王国からすれば喉から手が出るほど
    手に入れたいものだろう。
    その結果、王国もこの都市を国内に取り込もうと考えている。
    逆にアイゼンブルグは同盟は結んでいるが技術提供などは基本的に一切せず、
    特に鉄鋼業の技術の独占し続けている。
    おかげで、王国の技術力はお世辞にも高いとは言えず、
    この街の産業に頼っているため関係が悪くするわけにはいかないから
    大きな動きもなく、今まで静かに過ごしてきた。
    テクノスなどはかなりの技術力がなければ実現は不可能な代物だ。
    やはり、王国だけで造れるとは思えない。
    可能性としては一部の者が行った意図的な技術の流出。
    探るのはそれを行った者が誰かだ。
    もしかしたら、お兄ちゃんもそれを探っているのかも。
    なら、やはり向かった先が分からない以上、他の仕事を片付けながら
    探したほうが効率的だ。
    手紙を燃やすことになった原因にあらためて殺意が沸いてきた。
    だが、ここで殺してはさらに調査が難航する。
    くっ、お兄ちゃんが無事見つかったら今までの無礼を
    さらに三倍にして返してやる。
    覚悟しなさい。

    そういえば―

    「ねえ、リンって目見えてないでしょ」
    「そうですね。私の目は生まれつきこの世界の光景を
     映していませんでしたので盲目といっていいと思います」
    「何か妙な言い方ね。
     でも、見えてないならどうやって弾を避けたの?」
    「ああ、そいつは―」
    「あんたのは聞いてない」
    「こいつっ」

    途中で口を出してきたギンを一刀両断で切り捨てる。
    そう簡単に許せるもんか。
    しかし、あの拷問を受けてこれほど元気なんて意外とタフな男だ。
    まあ、見た感じではげっそりして今にも倒れそうにフラフラしてるけど。

    「私は目が見えないですけど、コレのおかげで色々と別のものが
     分かるんです」

    そういって、左手を耳に持っていきイヤリングを触る。

    「ちょっとした魔法具の一種です。
     正確には付加魔術と魔科学を用いて作られた感覚の補助増幅器で、
     その恩恵で気配や音、魔力の動きなどで周囲を把握しています。
     少なくとも、視覚に頼らない分、周囲360度の把握能力と
     先読みについては随一と自負してます」
    「なるほど目が見えない分、他の感覚で補ってるわけね」
    「さらに言えば、これもギンの作品です」
    「ふーん、腕だけはいいんだ」

    と、後ろを歩くギンに冷ややかな視線を送る。

    「だけってのは何だ。他にも取り柄はある」
    「そうですよ。
     バカだし性格も最悪ですけど戦闘に関しては結構な腕ですよ。
     神様ももう一つくらい取り柄がないと可哀想過ぎると思って
     くださったのでしょうね」
    「・・・リン。お前はフォローしてるのか、追い討ちかけてるのかどっちなんだ?」
    「どっちもです」

    りんの微笑と共に掛けられた追い討ちでギンが力無く下を向く。
    どうやら悪いやつじゃないみたいだし少しくらいは許して―

    「まあ、口だけで考え無しなやつよりはマシだ」

    ―プツッ!!

    一瞬頭に浮かんだ気の迷いとも言える考えを速攻で打消し、
    振り返らずにギンの腹に躊躇なく肘鉄を食らわせる。

    「ゴフッ」
    「食え」

    そして使い魔が実体化し、頭に勢い良く噛み付く。

    「ーーーーーー!?」

    往来の中、妙な叫びを上げる男を無視し、
    アイゼンブルグの街を歩いていく。







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■190 / ResNo.3)  赤き竜と鉄の都第4話
□投稿者/ マーク -(2005/04/20(Wed) 20:07:05)
    『霧の銃』


    「ふああ〜あ、いらっしゃい。
     っと、お前さんか。頼まれたのは出来てるぞい」
    「さすがね」

    老人が取り出した三つの銃。
    メンテを終えたデッド・アライブとベネリだが・・・・

    「ふ〜ん、一体どんな風に改良されてるの?」
    「一応、E・Cも装備できるようにしたがショットガンのため
     あまり期待はできんな。
     あと、接近戦を考えて後部を少し長くしトンファーにしてあり、
     またイリュージョンミストという姿をくらませる特殊能力を装備させてある」
    「・・・・たった2日でそこまでするなんて凄いわね」
    「まあ、やるからには完璧にやる主義でな。
     フォッフォッフォッフォ」
    「でも、もしかして寝てないんじゃないの。
     大丈夫?」

    良く見ればこの老人どことなくフラフラしてるし目が真っ赤だ。

    「なに若い頃は一週間寝ずにやってたこともある。
     このぐらいどうってことは無い。
     まあ、確かに老いたとは自分でも感じ取るんじゃがな。
     して、名はどうする?」
    「そうね・・・ノーザンライトでどう?」
    「ふむ、そこら辺はお主に任せるとしよう」
    「あっそ。代金は?」
    「まあこんなもんじゃな」

    提示してきた金額はあまりにも安すぎる。
    それが顔に出たのだろう。
    無言で老人の顔を窺うと笑いながら答える。

    「久しぶり満足の行く仕事じゃった。
     それはそのお礼も含めた代金じゃ」
    「あとで請求されても困るからね」
    「安心せい」

    なるほど、確かに妙な老人だ。
    腕は良くてもこれでは繁盛しないのも仕方が無い。
    が、それでいいのだとも思う。

    「ちょっと、試させて」
    「ああ、いいぞ。
     こっちの来い」

    そういって、老人が手招きし奥へと消える。
    それを追う様にして扉を抜け、目立たない小さな階段の入り口で
    待っていた老人の後を追い階段を下りる。
    階段を降りると、なかなか広い空間に出た。
    どうも、射撃の練習所か何からしい。

    「撃って見ろ」
    「分かった」

    まずは、デッドアライブ01。
    いつも通り右手だけで持ち、向こう側にある的を狙う。
    結果は予想以上の精度で命中。
    なにより、握りやすいし反動も僅かだが小さくなった気がする。
    続いて、左手に02を持ち同じように発射。
    こちらも文句なしの使い心地だ。
    さて、では問題のノーザンライトだが―

    「ねえ」
    「なんじゃ?」
    「弾ってある?」
    「・・・・・・ない」

    ああ、失敗した。
    これなら先に買っておくべきだった。
    なら、せめてこいつの特殊能力だけでも確認するか。

    「これってどう使えばいいの?」
    「慣れれば魔力を通すだけでもいいが
     初めの内は何か詠唱でもした方が効果が安定するやもしれん。
     やってみい」
    「じゃあ、とりあえず」

    ひとまず、魔力を通すだけで―

    「へえ、なるほど」

    やって見ると自分の周りをある程度覆う範囲で白い霧が出てきた。
    範囲はあまり大きくないしこっちからも見辛いが、まあ当たり前かな?
    でも、これは使いようによってはかなりの効果を期待できる。
    試し撃ちの方はデッドアライブを見た限り、この老人の仕上げたものだから
    いきなり暴発ということもないだろう。

    「ありがと、近くまで来ることが会ったら、
     また修理をお願いするわ」
    「ああ、まっとるぞ」













    「ご免、遅れて」
    「いえ、私たちも今来たところですから」
    「ああ、ちょうど半刻前に着たばかりだ」
    「ギン!!」
    「・・・悪かったわね」
    結局、2日かけて街を一周し、元の場所へと戻ってきたところで
    周りが暗くなってきたから一先ず分かれた。
    そして、今日の朝十時に別れた場所で集合ということになったのだが
    修理に出していたものを取りに行ってて遅れてしまったのだ。
    にしてもどうしてもこいつとは合わない。
    向こうも同じらしく、街を周っている時も常にこんな感じだった。
    本当、腹が立つ。

    ―ぐ〜。

    (あっ!?)

    「なんだ今の音は?」

    さっ最悪!!
    急いでたから朝ご飯食べずにこっちに走ってきたけど
    そのせいでなんて間が悪い時に!!

    「音?何のことです」
    「いや、なんか今聞こえなかったか?」
    「いえ。私は聞こえませんでした」
    「・・・・リンが聞こえなかったってことは空耳か」

    え?
    もしかして・・・
    ギンが視線を戻し再び歩き出すと、今度はリンがこっちを向いて
    どこか悪戯っぽい笑みでこちらを見た。
    ああ、そっか。

    「・・・ありがと」
    「いえ」
    「おい!!早く行くぞ。
     唯でさえ遅れてるんだ」
    「分かってるわよ」






    「そういえば、そんな大切なものならかなりの人員が動いてる筈だと思うけど
     あんた達一体何者なの?
     私なんかと勝手に動いて上の人とかは構わないの?」
    「言っとくが俺たちはそんな大層な身分じゃないぞ。
     ただのごく普通の学生で、ちょいと頼まれただけだ。
     しかも非公式なことらしいから動いているのは俺たちのみ。
     仲間もいないし、頼んで来た人物からは自由に動いていいといわれているから
     誰と動いても問題ない」
    「はああ!?学生ってどういうことよ?」
    「そう言わないでください。
     うちの校長先生は変人で有名なんです。
     私たちも突然呼び出しを喰らったら腕が盗まれたから取り返して来いですよ。
     貴重な3期と4期を潰して・・・」
    「あ〜、大変なんだ」
    「はい。私もギンも技術は学園でも頭1つ飛びぬけて優秀でしたから
     まるまる3年期と4年期がつぶれてもそれほど困るわけではないんですが
     今年中に片付けて復学しないと丸二年留年なんです」
    「2年?」
    「ああ、はい。私たちの学校は5年期からは共同作業が中心になるため
     5年期、6年期の2年間はほとんど卒業制作のためグループで作業するんです。
     そのため来年までに終えなければグループにあぶれてしまい、
     再来年の卒業試験を行えないんです」
    「ああ、そっか。だから急いでるわけか」

    もう、季節は夏も中旬。半年強しか期限が無いということだ。
    話の口ぶりからすると入学早々、こんなことを頼まれたのだろう。
    そうすると、もう探して一年くらいは経っていることになる。
    つまりタイムリミットまでもう3分の2が過ぎたということだ。。
    焦るのも無理は無いだろう。

    「頼んだ校長って言うのは?」
    「アイゼンブルグの技師を目指すものが皆一度は訪れるという
     西区の領土の三分の二近くの占める都市最大の学園、
     まあ、学園都市の『リュミエールゼロ』のアイゼンブルグ版程度に
     考えてください。
     で、校長はその学園の総責任者でこの都市でも随一の技師です。
     いろいろな技術を生み出した天才なのですが、
     例に漏れずとんでもない変人なんです」
    「じゃあ、その銀の腕は校長が保管してたの?
     それとも学園が保管してたの?」
    「えーと、それは学園の所有物ですね。
     だからギンが腕を貸してもらえたのですから」
    「なるほど。じゃあ奪ったのって学園の関係者とは考えられないの?」
    「いえ。腕自体とレプリカには発信機がついていて大雑把にしか分からないですが
     ある程度近づけば反応する仕掛けにはなっていたのです。
     しかし、学園内をしらみ潰しに探したのですが反応は全くなし。
     どうやら、既に学園の外に運び出されたみたいです。
     でも、都市からは離れてないのでアイゼンブルグの外にも
     運ばれてないようですので、おそらく腕の解析が目的でしょう。
     ですからギルドを調べていけば何か手がかりが見つかると思います」

    ギルドか。
    その最高の技師でも完全に解析できないものを個人でどうにか出来るはずが
    ないから大きな組織がやったと見るのが妥当だろう。
    そういえば、意図的な技術流出だとしたらこっちもやっぱり組織的な行動。
    もしかしたら、奪われた腕との関係も意外と無関係な話ではないのかも。
    それにしても、そんな腕のレプリカをこの年で作れたってことは
    ギンの技術は恐ろしく高いということだ。
    全くギンといいあの老人といい噂の校長といいここの技術者って腕が
    いいのに限って性格が悪いの多いわね。
    でも、確かにあまり時間が無いっては大変そうだ。
    こいつのためって言うのは癪だからリンのためということで手を貸そう。
    正確には足を貸すが正しいけど。

    「わかった。じゃあ、急ぐわよ。
     ここにはないのね?」
    「はい。幾つかの地区に分けれて街が存在してるので次は南下して南の地区に
     向かいます。
     歩いて3日というところですね」
    「3日は掛かり過ぎるわ。1日でいく。
     乗って」

    実体化される黒と白の竜。
    大きさは自由に変更できるから出来る限り目立たぬよう小さめだ。
    無論、既に街の中心街からは抜けているから他に人もいない。

    「―竜の使い魔。お前、一体何者だ」
    「聞いてなかった?
     私はユナ・アレイヤよ」

    ギンは今更ながらユナと挨拶していないことに思い至り、
    バツが悪そうに頭をかきこちらを向く。

    「悪いな。俺はギンだ。
     まあ、この前の事は水に流してやる」
    「それは私の台詞よ!!」






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■192 / ResNo.4)  赤き竜と鉄の都第5話
□投稿者/ マーク -(2005/04/24(Sun) 00:30:03)
    『手がかり』






    「どう?」
    「はあ、駄目でしたそちらはどうですか?」
    「こっちも駄目」

    お兄ちゃんの手がかりも妙な動きをした組織の情報も無い。
    が、それが逆に怪しい。
    だって、かなりの数の技師が学園都市を訪れたというのに
    その情報すら無いのだ。
    これは大きな組織が大規模な情報規制でもしたからだろう。
    おかげで、組織が王国と極秘裏につながっている確証は持てた。
    あとはそれがどこなのかだ。
    にしてもあの男はどこ行ったのよ。



    「メルナ鉱の武器だと?
     あれはまだ精製不可能、いや解析すら不可能だと聞いてたが」
    「まあな。だが、アーティファクトという可能性もあるだろう?
     とにかく、そいつを持ってる男がいてな。
     その欠片を見つけたわけだ。
     どうだ、買ってかないか?」
    「メルナ鉱か。何とか手に入れたいものではあるが・・・」
    「何やってるんですかギン」
    「ああ、情報収集だ。あのメルナ鉱を持ってるやつがいたらしいぞ。
     なんとか精製できないものか。
     サンプルがあるかないかでかなり変わってくると思うがどう思う?」
    「真面目にやってください。あまり期間がないんですよ」
    「分かってる。だが」
    「メルナ鉱って何?」

    さっぱり分からない。
    話の様子からしてなにかの希少金属だろうが聞いた事がない。

    「メルナ鉱。
     魔法文明時ですらもほとんど存在しなかった超希少金属です。
     金属としての耐久度と軽さではミスリルには敵いませんし、
     オリハルコンのような対魔力性を持っているわけではないのですが、
     ある性質を持っているんです」
    「ある性質?」
    「ええ。魔術を蓄える金属といわれ、この金属を溶かした際に完全に
     固まる前に魔術を掛け続けるとその力を備えた金属になると言われてます」
    「それって、炎の魔術を掛ければ炎の魔力を備えた魔剣になるってこと?」
    「間違ってはいませんがそのようなのは序の口です。
     たとえば重力変化の力を加えれば、魔力を通すことで剣自身の重さを
     任意に変更できる重力の剣になり、
     空間転移の魔術ならば空間を断ち、繋げる力を持つと言う話もあります。
     もっとも、魔術を長時間かける必要がありますからこれらの魔術を利用した剣は
     現在の魔術師のレベル的に考えてもほぼ製造不可能でしょう」
    「なるほど。それでも十分とんでもない金属ね」
    「はい。しかも全くと言っていいほどにこの金属は存在せず、
     精製法も不明なため伝説の金属の一つとされてます」

    重力変化といえば、バルムンクの剣も重力変化の剣って言ってたけど、
    このメルナ鉱の剣なのかな?
    もう一方はあの時に失くした武器と同じ形状変化の剣だったし。
    ということはあの武器もこのメルナ鉱の武器だったということか。

    「それにしても、メルナ鉱の武具か。
     噂の男が持っているのは形状変化に特化した武器らしいが一度見てみたいな」
    「形状・・・変化?」

    バルムンク?
    いえ、違う。
    ・・・なら、まさか!?


    「それどこの話!?」
    「ん?」
    「その武器の使い手はどこにいるの!?」
    「おい、落ち着け。どうしたんだ?」
    「・・・・お兄ちゃん」

    きっと、間違いない。
    形状変化に特化した武器、おそらくはMOS。
    だが、それはあの時に失くした物。
    それを持っているとしたらお兄ちゃんだけだ。

    「やっと・・・見つけた」






    商人に話を聞いてみるとその武器の使い手は一週間ほど前に
    ここから西に行った所の鉱山地帯に現れたらしい。
    アイゼンブルグは鉄鉱業が盛んなため当然その材料となる金属の産地でもある。
    そのため、都市内の各地で実に多種多様の鉱物が産出される。
    西の鉱山もその一つで、たまに魔物が出没するらしいが他の山に比べれば
    比較的平和なところらしい。
    が、最近その山が荒れていいるらしく、ごく最近では先ほどの商人が鉄鋼を
    仕入れに来た際、大量の魔物の襲われ逃げようとした際、助けられたらしい。
    その後、その使い手は山の中に向かい、それ以降の行方は分からない。

    「まだここにいるといいんですけどね」
    「うん」

    鉱山内の洞窟を歩いているが人っ子1人どころか魔物一匹すらももおらず、
    静まり返っている。
    情報があったのは一週間前。
    他の場所に移った可能性のほうが高いくらいだ。
    でも、可能性はゼロじゃない。
    それに手がかりだってあるかもしれない。
    クロアがいたら、お兄ちゃんの匂いを追わせれば一発なのに。
    無理やり連れて来れば良かったかな?

    「・・・なんか用か?」

    私の視線に気付いたらしく訝しげに聞いてくる。
    こいつはどうみても、只の人。
    臭いを追うなんてことは出来るはずがないだろう。
    ということはクロアより使えない男だ。

    「役立たず」
    「テメッ!?」
    「二人とも押さえてください」
    「「フンッ!!」」

    どうしても駄目だ。
    今までで散々分かっていたことだがこいつとは生理的に合わない。
    理由はお兄ちゃんの手紙を燃やした原因だからだが、
    どうやらそれ以外の理由でも気に食わない。
    でも、多分これは私のものじゃない。
    そう私の中の・・・

    「なんだコレ?」

    ギンの声に我に返り、思考を中断する。
    あったの途中の分かれ道に立ててあった看板。
    書かれた内容は危険につき進入禁止とのことだ。

    「・・・おかしいですね」
    「なにが?」
    「こっちの道にはなんの痕跡もないのですが、こっちの
     進入禁止の方の道の先からなにか音が聞こえます」
    「確かにおかしいわね」

    現在工事中だから進入禁止と書いてあるとも考えられるが
    今だ魔物と会ってない状態ではあくまで噂に過ぎないが
    この周辺は荒れてて、魔物が異常発生してるらしいから
    そんな危険な状態で工事をしているとは考えにくい。
    現に、今まで通った道にはここ最近で大量の魔物が通ったあとが見つかった。
    少なくとも魔物の異常発生は事実だろう。
    なら、この先にいるのは?

    「・・・行ってみるか」
    「そうですね、少々危険ですが向こうには何もないでしょうし
     この道を行きましょう」
    「ありがと」








    「危険と書いてあってが地盤もそんなに緩くないし壁もしっかりしてる。
     全然大丈夫じゃないか」
    「言えてますね」

    確かにそうだ。
    危険なんて書いてあったから最初はかなり慎重に動いていたが
    全然、安全なものだ。
    洞窟内だから光は手に持ったランタンのみ。
    さすがに足元は暗いが一本道だし、危険は全くと言っていいほどない。
    はっきり言って拍子抜けである。
    それにしても。

    「魔物の異常発生はどうなったのかしら?」
    「そうですよね。今まで一匹も会ってないのは流石に私もおかしいと思います」
    「もし、この先に集中してたら厄介だな。リン、気配はどれ位の数だ?」
    「そうですね、ちょっと分かりづらいのですが少なくとも集団では
     ありません」
    「じゃあ、あまり心配する必要は無いな。
     魔物は噂の男が全て倒したのかもしれない」

    確かにお兄ちゃんならそれぐらいやれそう・・・いや、やるだろう。
    でも、お兄ちゃんはここで何を?

    ―ガラ、ガラ。

    「あっ!?」
    「崖ですね。ここで行き止まりなのでしょうか?」
    「大丈夫。どうやら大きな空洞になってるだけみたい」

    細い洞窟を抜けると、大きな丸い空洞になっている空間に出た。
    大きさ的にどうも山の中心だろう。
    周りは丸く沿っていて、崖が螺旋を描いて下へと続いていて、
    通れるくらいに道はあるから下まで降りられそうにはなっている。
    ただ、足元に気をつけたほうがいいだろう。

    「ここからは気をつけていきましょう」
    「ええ、そうね。リン気配はある?」
    「・・・・音は下から聞こえます」
    「じゃあ、やっぱり降りるしかないか」

    道の幅は人一人が何とか通れる程度。
    足元の明かりが乏しいので結構危険だ。
    もっとも、もとより目が見えないリンには
    どうってことの無いことだろうが。
    崖に右手を着きながらゆっくり崖を歩く。
    さきほど、落ちた石の音からしてなかなか深い。
    でも、落ちたらどうなるやら。
    と、崖の下を見ようと内に少し体を乗り出した途端。

    ―ピシッ、ガラッガラッ!!

    「えっ!?」
    「ユナ!?」

    ―嘘!?

    落ちる落ちる。
    深き深淵へと落ちていく。
    深い深い闇の中へと引き釣り込まれていく。








引用返信/返信 削除キー/
■193 / ResNo.5)  赤き竜と鉄の都第6話
□投稿者/ マーク -(2005/04/24(Sun) 02:42:45)
    2005/04/24(Sun) 03:11:34 編集(投稿者)

    『約束』


    あれは何時の事だっただろうか?
    私がまだ小さかったころ、初めて炎の上位魔術を試した際
    魔力を全て持ってかれて寝込んだときだ。

    「だから言っただろう。お前にはまだ早いと」

    お兄ちゃん?

    「だって・・・」
    「だっても何もない。いいか、無理はするな」

    ああ、そうかこれは夢だ。
    まだ、幸せだった過去の記憶だ。

    「分かってる。でも私はコレしか出来ないから」

    私に適正があったのは炎だけ。
    あとは特別といえるような才能は無かった。
    そう剣も他の属性の魔術にも。
    だから私は無理をしてでも炎を極めようとした。
    その結果がコレ。
    魔術の使いすぎによる魔力不足で倒れてしまった。
    ―お兄ちゃんと一緒にいたかった。
    ―お兄ちゃんの役に立てるようになりたかった。
    ―お兄ちゃんの隣に立ちたかった。
    ただ、そのために努力を重ねてたのに逆に迷惑を掛けてしまった。
    それがとてもとても悲しかった。

    「お兄ちゃんごめんね」
    「気にするな。
     妹を助けるのは兄の仕事だ。
     だからお前はそんなに急ぐな」

    ありがとう。でも違うよ。
    私はお兄ちゃんを助けられる人になりたい。
    だから、たとえ転んでも走り続けなくちゃいけない。
    お兄ちゃんの隣にいるために。

    「約束してやる、危なくなったら絶対に助けに来てやるからな」

    大嘘つき。










    「ん・・・」

    ここはいったい

    「ッツ!」

    クッ、やばい。
    右手が完全にイッテル。
    両足もやばいけど、落ちる直前に使い魔に掴まり
    ブレーキを掛けて受身を取ったおかげか、怪我はマシだ。
    落ちた瞬間パニックに陥って使い魔のことを激突寸前まで
    気付かなかったのはあまりにも間抜け過ぎるが、仕方が無い。
    足の方は折れてないが直ぐには動けそうに無い。
    一応、治癒呪文というか回復力を高める魔術を掛けてるが
    魔術は精神も使う。
    この状態ではいつものような効果は期待できず時間がかかる。

    ―ザッ

    「グルルル」
    「なっ!?」

    なんて間が悪い。
    こんな状況で最早いないと思っていた魔物に会うなんて。
    何とか動く左手を動かしデッドアライブを握り、銃口を向ける。

    (来るな!!)

    こんな状態ではまともに撃てるとは思えない。
    撃てば反動でかなりの激痛に襲われるだろう。
    その上、都合は悪いことに銃弾は0。
    撃てるのは魔力弾のみでこの魔獣を倒せるかどうか怪しい。
    だが、魔獣は銃を恐れることなくゆっくりと歩み寄ってくる。
    ―おかしい。
    本来、獲物を見つけたらそのまま飛び掛ってくるのが普通だ。
    だが魔獣はそんな様子もなく目の前で立ち止まり、
    服を咥えて首を大きく振るい、私を背中へと乗せる。

    「ッタ〜」

    もう少し丁寧にやりなさい!!
    と、魔獣を叱り付けたくなった。
    しかし、わざわざ動けない獲物を運ぶなんて何のつもりだろう?
    しかも先ほどから殺気は微塵も感じられない。

    「・・・・・何のつもり?」

    落ちないよう左手で体を掴みながら返答はあまり期待せず、獣に喋りかける。
    魔獣や獣人は知能が高く、人語を理解するだけなら出来る者も多い。
    が、獣は一瞬、立ち止まるだけでそのまま特に変わった行動も起こさず
    今までどおり道を行く。
    洞窟内のさらに奥へと進む魔獣に掴まりながら、少しでも体を休める。
    まあ、この状態では何もできないし、様子を見よう。










    「リン。どうだ?」
    「音は二つ。両方とも移動してます」
    「一つはユナとしてもう一つは?」
    「分かりません。逃げているのか助けられているのか」
    「少なくとも生きてはいるんだな」
    「はい」

    ユナの落ちた先、遥か下へと続く穴を見て一瞬嫌な想像をし、
    すぐさま頭を振ってその考えを打ち消す。
    飛べる使い魔がいるんだ。よっぽど大丈夫なはずだ。
    そう、自分に言い聞かし、螺旋の崖を下る。

    「ったく、本当に間抜けな奴だ」
    「ふふふ」
    「なっ、なんだ?」
    「いえ、あんなに仲が悪そうだったのにやっぱり心配なんですね」
    「うっ。たっ、ただ化けて出られたら厄介なだけだ」
    「はいはい」
    「・・・・お前も結構性格悪いよな」
    「そうですか?」
    「はあ。いくぞ」










    「ねえ。まだかかるの?」

    魔獣は全く意に返さず、黙々と歩く。
    別に答えなど当てにしていないが、こんな状況では喋って気を紛らわせたい。
    先ほど落ちた際にランタンが壊れたから場所も状況も分からない。
    せめて、周りが見えれば落ち着くのだが・・・・

    「あっ」

    光だ。
    本当に僅かだけど進む先に明かりが見える。
    もしかして出口だろうか?
    だが、どんなところであろうとこんな暗い場所よりはマシだ。
    暗い道を抜け、大きな空間に出る。
    出口ではなかったが、高い天井から光が降り注いで、
    周りを明るく照らしている。
    が、この場所は・・・

    「お墓?」

    壁に行くに連れて盛り上がっている広い空間の丘のような両端からそこらの壁から
    削り取ったような粗い墓石が規則正しく並び、その数は百を軽く超えている。
    しかし、この大量の墓は一体誰のものなのか?
    普通に考えればここの発掘に携わった犠牲者だろうが、
    こんなところに立てる必要はない。
    むしろ、運び出して山の上か周りにでも建ててやるべきだろう。
    じゃあ、一体誰の?

    「グルルルル」
    「どうしたの?」

    突然魔獣が唸り出し、首を振ってある方向を示す。
    示す方向を見るが別になにもない。
    魔獣も僅かに威圧するような唸り声を上げ、視線を戻す。
    だが、僅かに何者かの視線を感じた。
    視線の先は魔獣が向いていた方向とピッタリ一致する。
    ・・・確認しよう。
    もし、何かいたら危険だ。
    意識を集中させ、使い魔とのラインに魔力を集める。
    注がれた魔力で体を作り出し、白き竜が実体化する。
    普段よりも小さめな竜は翼を羽ばたかせ上昇し、注がれる視線の元、
    高い壁に向け炎を浴びせる。
    壁の周囲が煙に包まれ、竜の姿も隠す。

    「ギェェーーーーー」

    竜が悲鳴と共に煙から飛び出し、体に纏った炎を払い空中で姿勢を直す。
    煙が晴れ、それは姿を現した。
    まるで蜥蜴のような平らな胴と這うようにして壁にへばり付く長い手足。
    背中には翼が生え、不恰好な竜のようだ。
    尾からは巨大すぎる蛇が三本生え、各々が別の意志を持って動いている。
    そして全体が赤い鱗で覆われ、あの炎の中、焦げ目一つ付いていない。
    そして、普段よりも小さいとはいえ竜とほぼ同じ大きさ。
    本来ならば存在するはずが無い生き物。
    あれは自然に生まれてくる存在ではない。
    魔科学に魅入られたものが生み出した異端なるもの、キメラだ。

    「なんでキメラがここに!?」

    赤いキメラは張り付いていた壁を離れ、背中の不恰好な翼で降りてくる。
    慌てて、竜を向かわせ迎撃させる。
    今の状態では竜一匹を操るのがせいぜい。
    しかも、意識が乱れて魔力のラインも不安定で竜はその力を出し切れていない。
    さらに、体が言うことを聞かず援護も出来ない。

    (負けないでよね)

    竜が敗れれば次に狙われるのは自分たちだ。
    まさに最後の砦。
    負けるわけには行かない。
    竜とキメラの肉弾戦は一進一退の攻防を見せている。
    お互いに何度か爪が相手の体を襲っているが、致命傷にはなっていない。
    あまり余裕は無いがあの程度の傷なら今の魔力でも再生できる。
    ならば、このまま押し切る。
    キメラが大降りで腕を振るうが竜はそれを捌き、その背中へと爪を突き立てる。
    だが、それを尾の蛇が鞭のようにしなり、竜を弾く。
    姿勢を直して向き直るが、キメラの姿はいない。
    竜がバランスを崩した瞬間、キメラの体が周囲の景色と同化したのだ。
    最初も同じようにして隠れていたのだろう。
    使われている体から判断すればカメレオンか何かの保護色。
    だが、姿が見えないのは厄介だ。
    一体どこに?
    竜もまた羽ばたきながら、首を動かし周囲を見渡し警戒する。

    (羽ばたき?)

    そうだ。姿が見えなくても翼を動かせば音がする。
    だが、音は唯一つ、竜のものだけ、つまりやつは飛んではいない。
    ならば、来るのは!!

    「上!!」

    言うと同時にキメラが保護色を解除し、竜を目掛けて天井から落ちてくる。
    竜も上を向き、迎え撃つべく爪を構える。

    ―ドッ!!

    竜の爪はキメラの翼をもぎ取り、キメラの爪は竜の胸元を貫いていた。
    竜は貫かれた胸元から少しづつ崩壊し、光の粒子となって散った。
    そして、揚力を失ったキメラが大きな音を立て落ちてくる。
    痛む体を鞭打って、魔獣から降り、左手に銃を構える。

    (立つな!!)

    最早立つのもやっとの状態で戦うなど自殺行為のようなものだ。
    だが、舞い上がる土煙の仲からその巨体が現れる。

    「ウグアアァゥーーーーーー!!」

    その姿を見た瞬間、弾けれる様にして魔獣が飛び出し、キメラへと向かう。
    向かってくる魔獣へと口をむけ、口内に炎が溢れる。
    魔獣は一度、私から射線をずらすためか右に動くが、その動きに合わせて
    キメラも首を動かし炎弾を吐く。
    せまり来る炎弾に魔獣はまずは加速して突っ込み、
    十分引き付けたところで消えた。
    保護色などではなく、圧倒的な速さによって一瞬で視界から消えたのだ。
    炎弾が陰になっていたキメラからすれば完全に消えたように見えただろう。
    その一瞬の隙を突き、魔獣が背中に回り、
    残ったもう一方の翼の付け根へと噛み付く。
    背中からきた激痛にキメラは咆哮を上げる。
    暴れ周り、尾の蛇が魔獣を締め上げ喰らい付く。

    「グアアゥーーーーーーーーー!!!!」

    一際大きな咆哮と共に魔獣が翼の付け根を背中の肉ごと食い破り

    「オオオォォーーーーーーーーーーン」

    ついに力尽き粒子となって消滅した。
    魔たる存在である魔獣の最後の瞬間。
    魔獣が消えた瞬間、痛みも忘れ、デッドアライブの引き金を引く。
    だが、それらの銃弾はキメラの鱗に弾かれ届かない。
    飛んでくる銃弾を無視し、キメラの口から炎が放たれる。

    「―嘘つき」

    助けてくれるって言ったのに・・・。
    放たれた炎弾は真っ直ぐ、こちらに向かい。

    ―ッドォォオーーーーーン!!

    耳を突く轟音。
    人間など簡単に焼き尽くす炎が爆発し、周囲を焼き尽くす。
    だが、その炎の中に一つの影があった。

    「嘘つきとは心外だな。ちゃんと間に合っただろ」
    「あっ」

    まるで御伽噺の英雄のような登場。
    自身の身長よりもさらに巨大な盾を前に出し、
    ユナを庇う様にして飛び出してきた。

    「悪いな。心配掛けて」
    「お兄・・・ちゃん?」




引用返信/返信 削除キー/
■194 / ResNo.6)  赤き竜と鉄の都第7話
□投稿者/ マーク -(2005/04/24(Sun) 02:43:54)
    『兄』





    「人の妹に手を出しやがって、覚悟しろよ蜥蜴」

    そういって、炎を払うようにして盾を振るうと溶けるように盾が形を崩し、
    一本の剣に変わった。
    兄が持つ、特殊な金属で作られた形状変化の武器MOS、
    メモリーオブソウルだ。
    剣のみならず、武器ならばどのような形にも変化する。
    ただし、弓の矢や、銃の弾のような物に変化は出来るが撃つことは出来ない。
    また、双剣のように二本にする場合は何か鎖のようなもので繋いだ形で
    分離させることは出来ず一つに繋げなければならない。
    あとは、使用者のイメージが重要となるため、真に使いこなせる者でも
    実際に見たことのある剣の形を重視する必要がある。
    だが、慣れれば剣ではなくこのような盾にも出来る優秀な武器だ。
    キメラは炎の中から現れた男の殺気に怯み、逃げるようにして再び姿を隠した。

    「気をつけてね。
     保護色で姿を見ることはできないけど音は消せないはずだから」
    「ああ、分かった」

    兄はこちらを振り返ることもせず、周囲に気を配る。
    静かだ。
    何の音もせず、ただ静かに時間が過ぎる。
    やがて、

    ―ボシュッ

    「ヌン!!」

    遥か上の壁から小さな炎弾が放たれ、それを剣で払い落とす。
    そして、剣を長い鎖でつながれた双剣に変え、その内の一本を炎弾が
    放たれた辺りに渾身の力で投擲する。
    短剣は一直線に壁へと当たり、深々と突き刺さる。
    どうやらキメラは既にその場から離れていたらしい。
    そして短剣が外れたのを嘲笑うかのようにして再び小型の炎弾が放たれた。
    それを手に持った方の剣で炎を防ぎ、長い鎖を勢い良く引き、
    剣を回収、再び投擲。
    そのやり取りが繰り返され、炎弾をかわしながら鬼ごっこが続く。
    しかし、あの巨体では剣が刺さったとしても威力は
    全くと言っていいほど無いだろう。
    そんな圧倒的に不利な状況でありながら、男の顔に焦りも不安も無く、
    僅かに口を動かすだけで、平然としていた。
    向こうは焦れてきたのだろう。
    先程よりも炎弾のペースが速くなり、どんどん放たれる。
    だが、それらを全て防ぎ、放たれた大量の炎弾からキメラのおおよその位置を
    さらに絞り込んでいく。

    ―カチャン

    「コレで終わりだ!!」

    短剣が壁に当たる直前何かに突き刺さり、軋む様な音のする。
    鎖で繋がれた先の剣をへ向け、構築した魔術を放つ。

    「ディスチャージ!!」

    声と共に高圧電流が金属の鎖を駆け巡る。
    一本の鎖で繋がれた剣がキメラの皮膚を貫き、体内へと電流を流し込む。
    キメラは力なく壁から落ち、地面へと落下する。
    盾と短剣を一本の剣に戻し、落下したキメラ目掛けて走る。
    盾から戻した剣を今度は巨大な大剣へと変え、倒れたキメラへと
    振り下ろす。

    ―ズンッ!!

    大きく振るわれた大剣はキメラの首を両断し、首が地面に落ちる。
    振るわれた腕を屈んで避け、首を失ってなお動くキメラに再び剣を振るう。
    体勢を立て直し、突き出された爪が届くよりも速く腕を絶ち、
    そのままの勢いでもう一方の腕も断ち斬る。
    そして、両腕を失い最後の足掻きと言わんばかりにこの体を動かす
    もう一つの頭である尾にいる三匹の蛇を渾身の力を籠めて振るった剣で
    まとめて断ち切り、ついにキメラが動きを止め、崩れ落ちた。
    そして死んだキメラの屍を悲しそうな目で見ながら、
    こちらに歩いてくる。

    「大丈夫か?」
    「うん。なんとか大丈夫」
    「・・・それのどこが大丈夫だ?
     右腕を見せてみろ」

    兄にそう指摘され、素直に右腕を見せる。
    右腕に触れ、折れた腕に触れた手のひらへ力を集まる。
    少しずつ痛みが引き、ついに気にならないほどになった。
    治療の魔術ヒールだ。
    治療の魔術は地味だし、回復の魔術と似ているが実はかなりの技術を要求される。
    本来、治癒能力を高める回復と違い、傷ついた体を文字通り治すこの力は
    意外と高位の魔術に位置する。

    「動かしてみろ」

    右手でこぶしを握り、肘を曲げ伸ばしする。
    完治とはいえないが十分すぎるほどだ。

    「よし。大丈夫そうだな」
    「ありが・・・と」

    (あれ・・・・)

    「ユナ!?」
    「・・・・・・スー」
    「・・・寝ただけか。無理も無いな」

    そういって安らかな寝息を立てるユナを背中におぶり、どこか休ませるに
    良い場所はないかと辺りを見回したところで―

    「ユナ!!大丈・・・夫・・・か?」
    「えーと、誰ですか」

    ユナが入った入り口から一組の男女が走りこんできた。

    「いや、おまえ達こそ誰だ?
     妹の知り合いか?」
    「妹!?
     じゃあ、あんたが噂の男か」
    「噂が何か分からんが説明を頼めるか?
     ご覧の通りユナは眠ってしまってるし」
    「はあ・・・・・」

















    ―ウィーーーー!!

    ―ガガガガガッ!!

    ―カンッカンッカン!!


    五月蝿い。
    一体誰だ?
    久々の安眠を妨害を邪魔するやつは。
    瞼を開け、半分寝ぼけたまま周りを見ようとし―

    「おっ、起きたか」
    「えっ!?」

    現在の状況に気付いた。
    いつもより格段に高い目線に、体に感じる広い背中。
    何か懐かしいと思ったらまさかこの年でこれは!!

    「ちょっ、ちょっと。おっ降ろして!!」
    「うわ!!暴れるな」

    二人っきりならともかく誰かいる状況では行くらなんでも恥ずかしすぎる。
    何とか兄の背中から降りようと必死に抵抗するがビクともしない。
    その際に、兄の背中にやわらかい物が何度も当たっているがそんなことを
    気にしてる余裕も無い。

    「普段では考えられない対応だな」
    「そうですか?」

    と、暴れる私とそれを背負う兄を物珍しそうに眺めるギンとリン。
    悪かったわね、普段と違って!!

    「とにかく降ろして!!」
    「だが、足はまだ完治していないんだ。
     そんな状態では立つのも大変だろう?
     それで悪化させたら元も子もない。
     大人しくしていろ」
    「うっ、ならせめて他の方法にして」
    「他か。では」

    そういって、今度は器用に背負っていた私を前にもって行き、
    両手で抱きかかえるようにする。

    「へっ!? こっ、これは!?」
    「世間一般でお姫様抱っこといわれるものだが?」
    「そういうことじゃなくて!!
     ほっ、他は無いの!?」
    「無いな」
    「なっ!!」

    きっぱりと言い張り、もはや聞く耳持たずとユナの抗議を無視する。
    実はというとレイヴァンとしてもあのままおんぶというのは少し抵抗があった。
    なにせ、背中にやわらかい物が常に当たってどころか押し付けられていたのだ。
    他に人がいるということもあって何とか踏みとどまれたが、
    実は意外と危なかったのである。
    やがて、疲れたのか諦めたのかユナの抗議の声も小さくなり静かになった。
    そして、レイヴァンからとどめに一言が放たれる。

    「では譲歩してこれとおんぶ、どっちが良い?」
    「・・・こっちでいい」
    「良し。人間素直が一番だ」

    恥ずかしさで真っ赤になったユナは兄の顔を見上げながら、
    どことなく嬉しそうでもあった。

    「そういえば、なんかうるさくて起きちゃったんだけど、
     何の音?」
    「アレだ」

    そういって、首を動かし目でその方向を指す。
    指した方向は立ち並ぶ大量のお墓だった。

    「お墓?」
    「ああ。せめて弔ってやろうと思ってな」
    「何を?」
    「キメラたちだ。あれもまた犠牲になったものだからな」
    「じゃあ、ここのお墓は全部・・・」
    「ここにいた大量のキメラの墓だ。
     一週間掛けて全て掃討したと思ったのだが
     取り逃しがいたらしい」

    そっか、ここで噂になった魔物の異常発生は間違いだったんだ。
    どこかが、キメラを処分するためか、はたまた何かの意図があって
    ここに放置して言ったのだろう。
    じゃあ、あの子も・・・

    「ねえ、お願いがあるんだけど」
    「ん」
    「もう一つお墓を作ってくれない。
     助けてくれた子がいたの。
     遺体は無いけど形だけでも弔って上げたい」
    「ああ、いいさ。というわけで頼む」

    そういって、レイヴァンがギンへと振り向き、簡単に言い放つ。
    見れば、銀の右手には最初にの激突した時の奇妙な義手が付けられている。
    さっきの音はコレの回る音と岩を砕く音だったのか。

    「ああ、畜生!!
     お前ら兄妹そろって良い性格してやがるぜ!!」
    「まあ、怪我人の頼みですし仕方ありませんよ」

    そういいながらも、リンに動く気配は無い。
    どうやら、彼女もギン1人にやらせる気らしい。
    ギンは怒りの矛先をそこらの壁に向けるようにして、
    荒々しく壁から大きめの岩を削りだしていく。

    「最高の義手をこんな土木工事に使うなんて彼の技師も草葉の陰で
     泣いてるでしょうね」
    「だったら手伝えーーー!!」

    ああ、駄目だ。
    頬が緩む。
    お兄ちゃんがいるだけでこんなにも違ってくるなんて
    やっぱり私にはお兄ちゃんが必要なんだ。
    改めて沿う実感しお兄ちゃんお体に回した腕の力を強める。

    「ユナ?」
    「ゴメンなさい。ちょっとだけこのままでいさせて」
    「・・・ああ。こんなんで良ければ好きなだけ良いぞ」
    「ありがと」





    形だけ作ったお墓に向け静かに祈る。
    魔獣に対しては少々おかしなことかも知れないが仕方が無い。

    「ありがとう、助けてくれて。
     お兄ちゃんたちもありがとう」
    「どういたしましてってな」
    「俺にも言いやがれ」
    「仕方ないわね。アリガト」
    「心がこもってねえ!!」

    お兄ちゃんにやっと再会できて心が軽くなったのか、
    なんか今ならこいつも少しぐらいは許せる気がする。
    っと、アレ?
    一瞬、足に少し力が入りづらくなり、バランスを崩して倒れかける。

    「だから、言っただろう」

    そして、お兄ちゃんが倒れかけた私を支えそのまま抱きかかえ
    そのまま持ち上げる。

    「やっぱりコレ?」
    「コレだ」

    先ほどと同様にまたもお姫様抱っこというやつだ。
    結構恥ずかしいんだよねこれ。
    まあ、ちょっとだけ嬉しいけど。

    「それにしても」
    「ん?」
    「どうして助けてくれたのかなって思ったの」

    命を掛けて救ってもらっといてなんだけど、
    どうしてそこまでしてこの魔獣は私を助けようとしたんだろう?
    本当、あの魔獣は一体なんだったんだろう?

    「恩返しじゃないのかな?」
    「恩返し。でも身に覚えが・・・って誰!?」

    突如背中からかけられた聞きなれぬ声に対してお兄ちゃんが距離を置く。
    今まで、全く気配がしなかった。
    青で統一された服を着こなし、金の髪がどこか高貴な感じを与えている。
    小柄で年は自分と同じぐらいか下手すれば下かもしれないといった程度だ。

    「やあ、久しぶりだね。
     それにしても二人とも相変わらずだな」
    「「誰(だ)?」」

    多少違ったが私のとおにいちゃんの声がハモった。
    知り合いにこんな男はいただろうか?
    必死に記憶を探るが全然出てこない。
    兄も同様に、同じように頭を抱えて必死に思い出そうとしている。
    そんな私たちの様子に呆れようにして、男がため息をつく。

    「やれやれ、覚えてないのか。
     結構ショックだな。
     これで思い出してくれると嬉しいんだけど・・・
     とりあえずボクの名前はレイス・クロフォードさ」



引用返信/返信 削除キー/
■197 / ResNo.7)  赤き竜と鉄の都第8話
□投稿者/ マーク -(2005/04/26(Tue) 00:39:16)
    2005/06/08(Wed) 22:07:33 編集(投稿者)

    『氣孔士』






    「レイス・・・クロフォード?」

    ・・・・駄目だ。
    名前を聞いても全く思い出せない。
    お兄ちゃんがいればそれでよかったからあまり他人のことを
    気にしないで生きてきたから周りにどんな人がいたかも
    ほとんど覚えていない。
    ふと、兄は知っているのか気になり顔を上げると何時になく
    深刻そうな顔つきでレイスを見ていた。

    「あっ、レイヴァン君は思い出してくれたみたいだね」
    「まさか、お前は・・・」

    お兄ちゃんがこんなに動揺するなんて、この男は一体。

    「五艘飛び!!」
    「はっ?」
    「・・・・そっちが出てきたか」

    五艘飛び?
    いったいなんのことだ?

    「忘れはしない。あの卒業式の日を!!
     お前は俺の、いや俺たちの敵だ!!」
    「いや、でも君もなかなか人気あったと思ったんだけど?」
    「ふざけるな!!
     卒業式の時、お前が学園中の女子を全て独占しやがったせいで
     お前以外誰も告白を受けなかったんだぞ!?」
    「学園?
     もしかして学園都市の人なの?」
    「ははは、同期だった筈なんだけどね。
     覚えてないんだ・・・」
    「そうだったんだ」

    あいにく、お兄ちゃん以外に感心が無かったものだから、
    もはや学園都市の卒業生などほぼ全員、名前も顔も覚えていない。
    これもその1人だったのか。

    「で、その卒業式で何があったんだ?」
    「卒業のお約束、告白タイムだ。
     みんな期待してたというのに結局誰も来なかったんだ。
     学園中の男子の期待が殺意に変わるのは当然の事だろう?」
    「・・・否定はしない。確かにコイツは俺たち男の敵だな」
    「ああ、全くだ」


    お兄ちゃんとギンがなにか同調してる。
    けど、下手なことはいえない。
    なぜなら、お兄ちゃんに告白する人がいなかった一番の理由は
    私のお願いという名の脅迫があったからだ。
    もっとも、それでも告白しようとしたのもいたにはいたが、
    全て実力行使で止めた。
    これは絶対に知られるわけにはいかない。
    うう、お兄ちゃんのバカ。
    私だって毎年チョコ上げたり、さりげなく学園都市にあった告白すると
    絶対に成功するというジンクスのある木の下まで連れて行って
    告白したというのに全然本気にしてくれないんだから。
    失敗したときはお兄ちゃんがいたから流石にやらなかったが
    もし1人だったら、失敗した腹いせにその木を綺麗に燃やしていたことだろう。
    ・・・・やっぱり私ってお兄ちゃんの妹でしかないのかな。

    「で、五艘飛びというのは?」
    「数多の女性を落とし、その度に女をとっかえひっかえしていたので
     ついたあだ名が『五艘飛び』だ」
    「ちなみに君たちにも有ったよ。あだ名」
    「ほう、どんな?」
    「兄バカとブラコン姫」
    「ぶっ、あっはっはは。ピッタシだな!!」

    ―プツッ

    「ちょっと、傷が広がります!!」

    お兄ちゃんの腕から離れ、爆笑してるギンへと走ろうとしたところで
    リンに羽交い絞めにされて止められる。

    「離して!!コイツだけは、コイツだけはーーーー!!」







    「落ち着き・・・ました?」
    「なん・・・とか」

    でも、無茶したせいで足の傷が悪化したかも。
    今はそこらにあった岩に腰を下ろして休んでいる。
    お兄ちゃんでも良かったけどこの状況では少々気が引けたので
    しっかりと断った。
    ほぼ初対面(本当は違うが)の人の前でアレはやっぱり恥ずかしいものがある。

    「それにしても一体あなたはどうやってここまで来たんですか?
     音も気配も魔力もその・・・・匂いもありませんでしたし」
    「匂いってリン・・・」
    「かっ勘違いしないでください!!
     そういう意味ではなくて!!」
    「安心しろ。
     ここにいるやつらはみんなそんな事気にしないさ。
     ただ、ちょっと変わった性癖なだけなんだし・・・・」
    「なっ!?
     もっ、元はといえばギンがこんな体にしたんでしょう!!」

    顔を真っ赤にして抗議してくる。
    というか、会話が凄く危険な方向に向かっている気がする。

    「ちょっと、待て!
     なんだ、そのどう考えても勘違いしてくださいといった発言は!?」
    「先に言ってきたのはギンの方です。
     それに紛れも無い事実じゃないですか」
    「それにしたってほかに言い方が」
    「そんなこと知りません!!」
    「あ〜、なんか話が脱線してるけど?」
    「あっ、ゴメンなさい。
     それでどんなトリックなんですか?」
    「それはこれのおかげさ」

    そういって、大きな外套を取り出す。
    とくに変わった様子は無いがさて?

    「高位のアーティファクトの一つでね。
     着けるとどんな音や匂い、気配も外に漏らさず、
     姿も完全に見えなくする優れものさ。
     ただ、つけてる間は喋れないと言うか喋っても気付いてもらえないし、
     何かに触る事も出来ないけどね」

    そういって、外套を被るとレイスの姿と気配が完全に消えた。
    そして、外套を脱ぐとまた見えるようになる。

    「なるほど。では次に、貴方はいったい何しに来たんですか?」
    「いや、ちょっと用事があってね」
    「協団がか?
     とすると俺たちに・・・それともこっちの二人に用があるのか?」
    「まさかアレを盗んだのはお前たち協団か?」
    「もしかしてこのキメラもあんたの差し金?」

    矢継ぎ早に放たれる質問に呆れながらレイスは肩をすくめる。

    「とりあえず、質問は一つずつにしてくれないかな。
     まあ、まず大きな間違いが一つあるからそれ訂正しておくべきか」
    「大きな間違い?」
    「そう、先入観のせいで勘違いしてるね。
     物事には常に例外が、変わり者がいるって事さ」
    「もったいぶらずに教えたらどうだ?」
    「やれやれ、簡単に言えばボクは協団の者ではないということさ」
    「「はっ!?」」
    「ボクが所属するのは教会。
     ちょっとここでキメラが大量に巣食ってるって聞いて
     教会から討伐に行けと言われたんだけど来てみればもう片付いてるじゃないか。
     いや、本当に感謝だよ」

    どうも胡散臭い。
    大体、アイゼンブルグの領土のごく一部で起きた事件に
    協会が介入するとは考えにくい。
    多分、何か別の目的があって隠しているはずである。

    「と言いたいところだけど実はちょっぴり嘘なんだ。
     教会に報告したのは僕自身。
     ここに気になる物があって領内で法規的に動ける権限が欲しかったんだよ。
     まあ、信じにくいかもしれないね。
     だから、態度で示そう」
    「態度?」
    「そう。ボクは君たちが欲しがっている情報を幾つか持っている。
     なんなら、それを提供してもいい」
    「まさか・・・腕のことか」
    「うん、それもその1つだね。あとはユナ嬢たちが知りたがってる筈である
     裏切者の正体。
     ただ、こちらだけが提供するというのはいくらなんでも
     不公平だと思うだろ?
     だから一つ勝負をしよう。
     それに勝てたら僕の持つ情報は全て渡す」
    「それで、こっちは何を賭ければいいわけ?」
    「そうだね、賭けるのは君たちのもつオーパーツか、
     そこのギン君の持つ腕のレプリカが望ましい。
     どうする?」
    「いいわ。こいつの腕を賭けるわ」
    「それが一番だろう」
    「ちょっと待て勝手に話を進めるな!!」
    「何言ってるんですかせっかく見つかった手がかりですよ。
     どうせ、腕なんてまた作れるんですから提供してください。
     ここで逃したら本気で留年ですよ?」
    「ふざけるな。こいつを作るのにどれだけ苦労したと思ってやがる!!」
    「そうですか・・・ならあの事を言いふらしましょうか?」

    ―ッピクン!!

    突然ギンが怯えるようにして顔をゆがめ、リンを見る。
    一体何があったのだろう?
    凄く気になる。

    「まっ、まさか―」
    「ギンとは付き合いが長いですからね。
     色々と知ってますし、例えば11歳のときの―」
    「ああ〜!もう、分かった!!
     コイツを賭けてやる!!」
    「良し、交渉成立。
     ボクから仕掛けたことだからね。
     4対1でいいよ」
    「といっても、勝負って何をするの?」
    「ああ、忘れてた。
     簡単なトランプゲームさ」
    「「「「トランプ!!??」」」」





引用返信/返信 削除キー/
■198 / ResNo.8)  赤き竜と鉄の都第9話
□投稿者/ マーク -(2005/04/26(Tue) 00:40:07)
    『ゲーム』







    「まさか、トランプでこんな大事なことを決めるなんて」
    「バカにしちゃいけない。
     賭け事といったらポーカーと昔から決まっているんだ」
    「何の話よ、それ?」

    決まった種目はポーカー。
    1人20点、五人で計100点。
    それらを賭けて最後まで残った人が、
    もしくは日が暮れても残っていたらその中で
    最も多い人が勝ちと言う至ってシンプルなルールに決まった。
    が、始めようとしたところで、このままだとリンが参加できないことに気付き、
    眼の代わりを貸してあげることになった。
    そう、私の使い魔である。
    実はこれでリンの札だけでも良いから知れないかと少しだけ思ったりしたのだが
    使い魔、アルは卑怯な真似は嫌だと主人である私を裏切り、拒否してきた。
    自意識のある使い魔というのはなかなか厄介な者だ。
    おかげで以前は暴走して、散々な目にあった。
    そして、現在。

    「コール」

    レイスが満面の笑みで札をオープンする。

    「ストレートフラッシュ」

    ハートの45678の組み合わせ。
    この役を既に4度やっている。
    むろん、常に勝っている訳ではなく、
    現在の成績は

    レイス42。
    ユナ18。
    レイヴァン12。
    リン32。
    ギン6である。

    流石に仕掛けて来ただけあった無茶苦茶強い。
    ただ、反則的なのはリンも一緒。
    ちょっとした動揺なんかも丸分かりだから、相手にいい札が来たら
    危険を冒さず、直ぐに降りる。
    ただ、リンへの対策は既にしてあるのかレイスの札のときは
    リンも札を読み切れなくて降りずに多くのコインを失っている。
    流石に完全ではないらしく、半分くらいはかわされているが、
    それでも勝っているレイスの強運はさらに非常識だ。
    そして、既に瀕死の状態まで追いこまれているギンの顔はもはや真っ青。
    っと、次は・・・

    「ストレート」

    今度は23456のストレートで私の勝ち。
    いい札だったから何とか勝てたが、これでさらにギンが瀕死だ。
    当然、最初のリタイヤはギンだった。


    ―ギン リタイヤ



    「おい、負けたら承知しないからな」
    「負け犬は黙ってなさい!!」

    戦況は
    レイス34
    ユナ10
    レイヴァン26
    リン30である。
    さきほど、強気で出たレイスの札より偶然4枚替えした
    お兄ちゃんの札が結果的に4カードになるという奇跡の結果勝利し。
    今度は私が大ピンチだ。
    ここで負けてはギンと同類。
    負ける訳には行かない!!
    勝負!!

    「フルハウス」

    4が3枚と8が2枚のフルハウス。
    どうだ、これなら・・・

    「私もフルハウスです。
     13が3枚、9が2枚で」

    ―ピシッ!!

    「残念でした」



    ―ユナ リタイヤ








    「ちゃんと勝ってよね」
    「ははは、任せろマイシスター」

    なんかお兄ちゃんがかなりハイテンションになってる。
    まあ、こういうゲームは好きだったけどずいぶん負けず嫌いだったからな。
    やっぱり、勝ってるのが原因かな?

    ちなみに現状は
    レイス32
    レイヴァン36
    リン32とかなり接戦。
    一気に逆転した原因は2回ほど前に起きたリンのブラフ。
    かなり強気で出て来た所為でレイスは降りたのだが
    怪我の功名というべきか負けず嫌いな性格でお兄ちゃんが引かずに受けて立ち、
    リンのフラッシュに対してお兄ちゃんのストレートで勝利。
    一気に順位が変動した。
    このまま勝てればいいんだけど・・・


    「フラッシュです」
    「うっ!」

    「ストレートフラッシュ」
    「がっ!?」

    「フルハウス」
    「なにぃ!?」


    「はい、終了です」
    「バカなぁぁーーー!?」



    その後、一気に転落。
    最後は3のワンペアに対してレイスが2ペア、リンがスリーカード。
    と、屈辱的な負けだった。



    ―レイヴァン リタイヤ




    まさに頂上決戦。
    レイス52
    リン48と差は4枚。
    もう日も短くなりあたりも暗くなってきたから、
    ランタンを前にして両者とも札をにらんでいる。

    「これがラストだ」
    「ええ、これで私が上だった私の勝ち」
    「そして同じ、もしくはボクのほうが上ならボクの勝ちだ」

    ついにこの長き戦いが終わるのか。

    「いざ」
    「勝負!!」

    結果は―

    レイス、9・10・11・12・13のハートのストレートフラッシュ。
    たいしてリン、1のフォーカード。
    つまり結果は・・・

    「リンの勝ちだな」
    「ヨッシャー!!」

    ギンにしてみれば腕を守れたことが何より嬉しいのだろう。
    まあ、どちらにしろリンの勝利を祝福していることには変わりない。
    しかし、本当に接戦だった。
    さて、あいつが約束を破るかもしれないからとっとと確保しておこう。
    って、どこにもいない。
    まさか、もう―

    「ははは、流石に逃げないよ」
    「えっ!?」

    と、手にあの外套を持ったまま突っ立っているレイス。
    ・・・じゃあ、その手に持っているのは何?

    「さてと、皆集まってもらおうか。
     僕が知っていることを話そう」







引用返信/返信 削除キー/
■199 / ResNo.9)  赤き竜と鉄の都第10話
□投稿者/ マーク -(2005/04/26(Tue) 00:42:58)
    『金眼』







    「まず、想像はついてると思うけど、ギン君たちが追っているもの居場所と
     ユナ嬢の探しているものは実は同じだ」

    何か関係があるかもしれないと判断していたが、予想通りだったのか。
    あそこでリンたち手を組んでおいてつくづく正解だった。
    おかげでおにいちゃんとも早く再会出来たし。

    「それで、君たちはゴールドアイって知ってるかい?」
    「ゴールドアイ?」
    「そっちの二人は聞いたことはあるよね?」
    「そりゃ、この街の住人で知らないやつの方がおかしいさ」
    「なんのことなんだ?」
    「『銀の腕』と唯一、肩を並べられたという技師のことです。
     もっとも、『銀の腕』の方が技術が一枚上だったため、
     あまり街の外では知られていないのですが、世界で二番目の
     技術者だったと言えるでしょう。
     そして、その目の色が金色に見えたことからついた通り名が『金眼』。
     ゴールドアイと言われてます」
    「しかし、そうすると犯人はあそこだというのか?」
    「うん、そうさ。
     君は話が早くて嬉しいよ」

    なんか、私とお兄ちゃんを無視して話が進められている。
    どうやら、銀とリンは何か分かったらしいが私たちはチンプンカンプンだ。

    「どういうことか説明して」
    「はい。
     このゴールドアイの子孫が作ったというこの都市最大規模のギルドが
     ありまして、多分、腕はそこが奪ったと思われます」
    「・・・証拠と動機。目的は?」
    「証拠と言われても直ぐには用意できないが、教会の人間の言うことなら
     証拠にはならないかな」

    確かに、このギルドが王国と癒着しているのならば、それらとつるんでいた教会が
    技術を流した犯人を知っていてもおかしくはない。

    「分かった。じゃあ、動機と目的は?」
    「これは俺でもわかるぞ。
     あそこは大きいから人手はあって、大量生産の武器や鎧などを売っているんだ。
     良い意味でも悪い意味でも作る事よりも商売が目的だからな。
     商売が目的ならその中身に内包された新技術や超技術を解析し、転用できれば、
     とてつもない利益になるだろう」
    「なるほど。
     結局お金儲けのためってわけね。
     でもリン。大きなギルドを聞いたとき、このギルドの名前無かったわよ」
    「仕方が無いじゃないですか。ユナの条件を満たしてなかったんですから」
    「条件を満たしてない?」

    どういうこと?
    何か特別な条件など指定しただろうか?

    「ユナが言ったのは王国に技術を流したものでしょう?
     ここにはそんな高い技術は持ち合わせてないんです。
     せいぜい、王国よりちょっと秀でてる程度しかなく、ほとんど生産量だけで
     ここまで大きくなったところですのでテクノスの技術もないので
     流出なんて間違っても出来ない筈だったので除外してしまったんです」
    「えっ、でも大きなところなんでしょ?
     テクノスの技術ってそこまで高いの?」
    「リンも言ってたがここのギルドは生産力だけが売りと言えるところで
     技術力の低さは目に余るほどだ。
     もともと、『金眼』の子孫が代々責任者となり、大きな仕事は
     全てその責任者に任されて他のやつは大量生産品の製造を任されて
     ここまで大きく発展したんだ。
     つまり代々、ここの責任者の才能とカリスマでギルドは成り立ってきたのだが、
     その分、責任者以外の技師は最低限のレベルの技術しかないため、
     レベルは全体的に低い。
     そのうえ、今のここを取り仕切っている責任者は商売人としては才能が
     あったが、技師としての才能など全く無いやつで、結果『金眼』のギルドでは
     誰も大きな仕事をこなせなくなってしまったんだ。
     今ではそれが問題になって客が減り、他の企業に後れを取り始めている」
    「で、それをどうにか挽回しようと王国などの他国と極秘裏に友好関係を作り、
     あわよくばアイゼンブルグを支配しようとすら思ったらしい。
     その後、秘密裏に友好関係を築いた王国からテクノスの製作を依頼されてた。
     けど、これで造れませんなんていえば、自分たちの身が危ない。
     だから強攻策に出たんだ」
    「どういうこと?
     私たちが探してるのは『銀の腕』の強奪を行ったものたちでしょ?
     それが同じだってことはテクノスのために『腕』を奪ったってことになる。
     まさか、腕にその技術が内包されてたとでも言うの?」

    技術がないからテクノスの技術を欲した。
    だが、盗まれたのは『銀の腕』
    どうも、話が繋がってこない。
    とすると、レイスの言ったことは少なくとも一部分が嘘なのか?

    「ああ、それはだね。
     ギン君たちの学園の紛失物は腕とレプリカだけでなく、
     学園が保管していたテクノスの資料もコピーされていったらしい。
     ほら、あのギルドだけにしては手際が良すぎたと思わない?
     実は王国と学園都市なんかも資料の奪取に関係してたんだ。
     むしろ、本来の目的はその資料だけだったらしく、協団も
     あくまで腕の奪取は『金眼』の勝手な行動だと言っている」
    「学園都市まで!?」
    「そうさ、テクノスの技術は協団でも不完全なものだからね。
     そのデータは欲しかったんだ。
     その資料を基に彼らはテクノスを完成させた。
     まあ、その割に全滅って言う情けない結果に終わったけど。
     ほら、君たちが相手にしたキメラがある意味その証拠だよ。
     レイヴァン君なら気付いただろ?
     あのキメラに埋め込まれてたものがなんだったのか」
    「・・・弔った際に気付いたが全部のキメラに必ず一つは機械が埋め込まれていた。
     テクノスの実験の過程で造られた試作品だったということか」
    「そうさ。ついでに言えばそのキメラは協団が造ったはいいが
     始末に困ってたのでギルドに提供したらしい。
     これが今回の事件の全貌さ」
    「・・・・そんなことを教えていいのですか?」
    「構わないよ。
     どうせ、僕は好き勝手にやって構わないと上から言われてるからね。
     好きなようにやらせて貰うさ」
    「じゃあ、最初に言った恩返しって何?」
    「ああ、それか。
     二人とも小さな猫を助けた覚えはないかい?」
    「あっ」

    そうか、学園で怪我をして雨に濡れてた猫をほっとけなくて
    寮に持ち帰ってお兄ちゃんと世話してたことがあった。
    恩返しってそんなことで?

    「無茶な実験のせいでね。
     全員、どうせ一ヶ月くらいで死ぬ予定だったらしい」

    そんな・・・。
    寿命が残り少なかったのに、生きたかった筈なのに、
    私なんかを守って死んで・・・私のせいで―

    「違う」
    「え」
    「こいつはお前助けられて本望だったんだ。
     多分、死期を悟っていたから助けてくれた恩人を
     命に代えても助けられて嬉しかったんだと
     俺は思う」
    「お兄ちゃん・・・うううっ」
    「泣きたいときは泣いてもいいだぞ」

    お兄ちゃんに抱きつき顔を埋めながら泣く。
    そんな私を強く抱きしめ、優しく頭を撫でる。
    今だけは・・・今だけは泣いてもいいだよね。
    お兄ちゃん。








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