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■259 / ResNo.20)  『黒と金と水色と』第8話C
  
□投稿者/ 昭和 -(2006/03/05(Sun) 00:11:08)
    黒と金と水色と 第8話「ハンター試験」C





    「お姉ちゃん! どうだった?」

    出てきたエルリスを、セリスが心配げな顔で出迎える。
    もちろん、そんな心配は杞憂なのだが。

    「ちょっと苦戦したけど、大丈夫。合格したわ」
    「本当に? やったぁ、おめでとう〜!」
    「ありがと」

    それを聞くなり、セリスは姉の手を取って、ブンブン振り回す。
    さすがに恥ずかしいのか、苦笑しているエルリスだが、満更でもなさそう。

    「祝ってくれるのはいいけど、次はあなたの番なのよ」
    「そうだった」
    「お祝いは、またあとで、全員が受かってからにしましょ」
    「うん。それじゃ行ってくるね!」

    ちょうど招集がかかり、元気よくそう言い残して、室内へ入っていくセリス。
    当初の緊張していた様子などは微塵も見られず、また少し苦笑する。

    羨ましい性格だ。

    「まったくあの子は…」
    「まあ、それがセリスさんですからね」
    「いいじゃないか、個性的で」
    「あなたたちは良い風に捉えすぎ」

    環と勇磨も歩み寄って声をかけるが、エルリスはやれやれとため息。

    「小さい頃からずっと一緒にいる身にもなってよ…。
     あの子のおかげで、何回、痛い目に遭わされたことか」
    「その分、楽しいこともあったでしょう?」
    「まあ、ね…」

    だが、そこはやはり、血を分けた双子の姉妹。
    2人だからこそやってこれた部分も多々あるわけで、答えるエルリスも表情は柔らかい。

    「それはそうと、おめでとう」
    「ありがと。まあ、ちょっと危なかったんだけどね」

    そう言って舌を出して見せるエルリス。
    とりあえずは、彼女の合格は決まった。





    さて、セリスの実技試験である。

    『部屋の中央で待つように』

    「はーい」

    指示に従って、部屋の中央まで歩を進め、開始を待つ。

    「どんなモンスターが出てくるのかな? えっと、確か…」

    環に叩き込まれた、Cランク実技試験の内容を思い出す。
    戦うことになる魔物の種類は、なんだったか…

    「……あれ?」

    が、考えてみても、ぼんやりとするだけで何も思い出せなかった。
    どうやら、学科試験が終わった途端、詰め込んでおいた知識は飛んでしまったようである。

    「………」

    思わず冷や汗のセリスだが

    「お、お姉ちゃんだって受かったんだもん。わたしだって平気だよね。うん」

    持ち前の明るい性格で、強引に自分を落ち着かせる。
    楽観思考というか、ポジティブというか。

    『では、試験を始める!』

    「あ……は、はい! お願いします!」

    不意に声がかかって、ぺこっと頭を下げてしまうセリス。
    シミュレーション装置が稼動して、対戦すべき仮想のモンスターを作り出す。

    セリスは忘れてしまっているが、Cランク試験では、エルリスが戦ったように下級が数体。
    もしくは、中級に位置するモンスターが1体、出てくることになっている。

    セリスの場合は…

    『ぐおーん!』

    「……えっと」

    姿を現したのは、凶悪そうな目つきの、黒い毛皮に覆われた猛獣。

    「森のクマさん……なんて雰囲気じゃないよね?」

    そう、熊である。
    体長3メートルはありそうな、グリズリーだ。

    『ぐおー!』

    「わ、わ…」

    咆哮するグリズリーに対し、セリスは慌てている。
    グリズリーのことも習ったはずで、特徴などを必死に思い出そうとするのだが、無駄な行為だった。

    『ぐおーんっ!』

    「うわぁっ!」

    鋭い爪を剥き出しに、突っ込んでくるグリズリーを、どうにか回避。

    「お、思い出してる場合なんかじゃない〜!」

    考えている暇などありはしない。
    とにかく、倒すことだけを考えなれば。

    「とにかく、倒せばいいわけだよね?」

    幸いなのは、グリズリーは直接攻撃が主体で、特殊な攻撃法は持っていないということか。
    動きだけを注意していれば、致命傷を喰らうことはまず無い。

    「くらえー、デビルヨーヨー!」

    素早くヨーヨーを取り出して、展開。
    グリズリーめがけて放った。

    ところが…

    バシィンッ!

    「えっ」

    『ぐおーっ!』

    なんとグリズリーは、迫ってきたヨーヨーを薙ぎ払ってしまった。
    勝ち誇ったような咆哮が上がる。

    「な、なんで? 魔力が足りなかったのかな…?」

    必殺の攻撃を防がれてしまったことで、セリスは動揺した。
    通す魔力の量が少なすぎ、威力が足りなかったのだろうか。

    「よ、よくわからないけど……威力を上げて、もう1回だ!」

    今のセリスの思考を支配するのは、ただそれだけ。
    グリズリーの動きに注意を払うという、根本に欠けていた。

    「デビ――」

    『ぐおーん!』

    「――っ!!」

    だから、気付いたときにはもう、目の前で。

    ドンッ!!

    「あうっ…!」

    体当たりをもろに受けてしまい、体重の軽いセリスは吹き飛ばされた。

    鉤爪で引っかかれなかったことは不幸中の幸いだろう。
    爪でやられていたとしたら、ゲームオーバーだったかもしれない。

    「いたた…」

    顔をゆがめつつも、身体を起こすセリス。

    曲がりなりにも、勇磨や環、ユナからの修行を潜り抜けてきた彼女。
    体力も耐久力も、飛躍的に上昇していた。
    そのため、今のグリズリーの攻撃にも、耐えることが出来たのだ。

    「うぅ〜、もう怒ったぞ〜」

    立ち上がり、態勢を整える。

    「見てろ、魔法を使っちゃうんだから」

    怒った顔で、魔力を凝縮させていく。
    最初から使っていれば、なんていうツッコミは、今の彼女には届かない。

    『ぐおーんっ!』

    一方のグリズリーは、セリスを吹き飛ばしたことで自らの勝利を確信しているのか、
    その場から動かずに雄叫びを上げるだけだ。

    悲しいかな、獣タイプのモンスターには、知能が足りない。
    すかさずに追撃をかけていれば、それこそ、勝利は揺るがなかっただろうに。

    空を駆け抜けし風よ……この手に集い、仇討つ刃となりたまえ! 覚えたて、いくよっ!」

    その隙に、セリスは詠唱を終え、魔法を放つ。

    「ソニックッ!」

    『ぎゃおおおおお!!!』

    真空の渦がグリズリーを巻き込み、激しく切り刻んでいく。
    初級魔法とはいえ、魔力量が半端ではないセリスの魔法。
    本人は自覚していない可能性が大であるが、威力自体は中級を飛び越える。

    咆哮は悲鳴に変わった。

    「とどめ! 必殺!」

    そして、セリスはフィニッシュホールドへ。

    「ヨーヨーハンマー!!」

    ドガンッ!

    すごい音が、グリズリーの頭部で轟いた。
    要するに、複数のヨーヨーをひとつに纏めて、敵の頭へ振り落とすという単純な技である。

    『ぐ…ぉ…』

    倒れるグリズリー。
    同時に、装置の駆動音が止まった。

    「やった! これで終わりかな?」

    息をつくセリスに、試験官の判定が下る。

    『苦戦はしたようだが、合格だ』

    合格。
    喜びを爆発させようとするセリスへ、言葉には続きがあった。

    『だが、君はどうにも、戦いに対する真剣味が足りないように思える。
     命のかかる戦場なのだから、もう少し、考えて戦ってくれたまえ』

    「は、はい…」

    冒頭の場面のことを言っているのだろう。
    考え込んでいる隙に、襲われてしまったことを。

    だが最初から、グリズリーは耐久力が多少高いという特徴を覚えておけば、
    なんてことはない問題だったのだが。

    その後もふたつみっつ、粗い部分を厳しく指摘され、課題の多いセリスである。





    「セリス! 結果は?」

    先ほどとは逆に、今度はエルリスがセリスを出迎える。

    「あ……ええと…」

    勝ったのはいいのだが、試験官に言われたことが尾を引き、少し元気の無いセリス。
    すぐには答えられなかった。

    「え……まさか」
    「あ、違う違う! 合格はしたよ!」
    「なんだ、ビックリさせないで…」

    当然、勘違いするエルリスだが、直後に胸を撫で下ろした。

    「心臓が止まるかと思ったじゃないの」
    「ご、ごめんなさい」
    「受かったのよね? じゃあなんで、そんな浮かない顔してるのよ?」

    「苦戦しましたね?」
    「う…」

    答える前に環から言われてしまい、セリスは言葉に詰まった。
    図星だと言っているようなもの。

    「そんなの、私だって少し苦戦したんだから、気にすること無いのに」
    「うん、でも…」
    「さては、合格は合格でも、何か注意を受けましたね?」
    「………」

    まさしく図星だった。
    セリスは思わず、無言で環を睨む。

    「注意?」
    「基本的に、現れた仮想モンスターを倒すことが出来れば、合格になるわけなんだけど」

    首を傾げたエルリスに、勇磨が説明する。

    「モンスターを倒せても、途中の戦い方とか姿勢とか、何か悪い点があった場合は、
     終了後に試験官からダメ出しされる場合があるわけ。結構きついことを言われたりもするから、
     セリスはそれで落ち込んでるんじゃないかな?」
    「そう、なるほど」

    納得したエルリス。
    セリスは浮き沈みの激しい性格。落ち込んだままではこの後に支障が出る。
    ここはひとつ、励ましてやらねば。また、それは姉である自分の役目。

    まだ引きずっている様子の妹の肩に手を置いて、やさしく声をかける。

    「いいじゃない、合格できたんだから」
    「でも…」
    「課題は改善していけばいい。
     それに、私たちは実質、ハンターとしてはなんの実績も無いんだから。
     すべてはこれからなのよ。これからがんばっていけばいいの。ね?」
    「お姉ちゃん…」

    やさしく微笑んでくれる姉に、セリスの心も晴れていく。

    「うん、わかった。わたしもっとがんばる!」
    「その意気よ」

    「麗しい姉妹愛だ」
    「やる気だけは認めますけどね」

    美しい光景に、うんうん頷いている勇磨。
    その先の現実を見据えて嘆息している環。

    合格したとはいえ、水色姉妹の進むべき道は、果てしなく長く、険しい。



    ちなみに、水色姉妹の後に始まったAランク試験であるが、御門兄妹はもちろん合格。

    勇磨は、それまでの鬱憤を晴らすかのごとく、現れた上級クラスの魔物を、
    実にあっさり倒したばかりか、史上最短の開始7秒KOで。

    環も、試験官が可能ならば映像として記録し、教材として使いたいと発言するほどの
    お手本のような戦い方で、学科と合わせた合計点が史上最高を記録する、凄まじいものだった。





    第9話へ続く
引用返信/返信 削除キー/
■260 / ResNo.21)   『黒と金と水色と』第9話@
□投稿者/ 昭和 -(2006/03/19(Sun) 00:14:40)
    黒と金と水色と 第9話「街角でばったり」@





    試験後。

    「はい、こちらが新しいハンター認定証になります」
    「ありがとうございます」

    1階ロビー、受付にて、新しい免許の交付を受ける。

    「Cランク! やった〜」
    「ふぅ。とりあえず、ノルマは果たしたわね」

    記載されている『ランクC』の文字に、大喜びのセリス。
    エルリスはホッとする気持ちのほうが大きいようだ。

    「Aランクか……道のりは長く、険しかった…」
    「やれやれですね」

    勇磨も、受け取った免許に載っているAランクという文字を、神々しいものを見るかのように、
    しみじみと食い入るように見つめ。
    環は隣で呆れて息を吐きつつも、やはり安堵したのか、表情は柔らかい。

    交付も受けて、ハンター協会を後にする一行。
    待っている間に、日はすっかり、西へと傾いていた。

    「Cランクは取れたけど、次はどうすればいいのかしら?」

    ちょっと行ったところで立ち止まり、エルリスがそんなことを訊く。

    ユナから指示されていたことは、Cランクを得るということだけ。
    その先の行動までは聞かされていない。

    「学園都市に戻る?」
    「そうですね。1度は、報告しに戻らなければいけませんけど」

    環はこう答える。

    「ユナさんが調べ物をしている結果を聞くためにも、戻らなくては。
     しかし、まだ2週間ばかりしか経っていませんし、それに――」

    「王都を観光していきたいよっ! 約束だったでしょ!」

    「――と、セリスさんも仰っていますので」
    「あはは…」

    話に割り込むセリス。
    確かに、試験前にそういう約束をしたにはしたが、苦笑するしかない。

    「とりあえず、今日のところは宿を取って、明日は観光することにしましょう」
    「うわーい、やったぁ〜!」
    「セリス、人様の迷惑になるし、恥ずかしいから……踊らないでよ」

    思わず小躍りし始めるセリスに、頭を抱える。
    通りの通行人が何事かと振り返り、恥ずかしいったらありゃしない。

    「ははは。まあ、良かったなセリス」
    「うん!」
    「実は俺たちも、腰を据えて王都を見て回ったことってないからな。
     わりと楽しみだったりする」
    「え、そうなの?」

    勇磨の発言に、意外そうに聞き返すセリス。
    とても旅慣れていそうなので、そうとは思えなかった。

    「あんまり、1ヶ所に長く留まるってこともないしさ」
    「それに、滞在する目的も、お金を稼ぐことが第一ですから」
    「ふうん、そうなんだ」

    つまり、観光目的でその場所を訪れる、ということが無いわけだ。
    町に着くと真っ先にギルドに行って、仕事を得て、それなりに稼ぐと町を出る。

    御門兄妹の行動理念は、ある意味、とてもシンプル。

    「観光したい、なんて声を大にして言うあなたのほうがおかしいってことよ」
    「そうかなぁ? せっかく来たんだから、見ていきたいって思うのは当然じゃないかなぁ?」
    「あのねぇ」

    まったく、妹のあっさりしたというか、単純な思考にはついていけない。
    言外にそんなことを多分に滲ませつつ、エルリスが言う。

    「だいたい、私たちにも、明確な旅の理由があるっていうのに…。
     本当なら、油を売っているヒマなんて無いくらいなのよ?」
    「でも、今はあるよね?」
    「……はぁぁ」

    「ははは」
    「お察ししますよ、エルリスさん」

    深く、長いため息をつくしかないエルリス。
    同情できることは請負だ。

    「まあとにかく、明日は王都観光ってことで。メシにしよう、ハラ減ったよ」
    「ですね。もう夕食時です」

    夕暮れの空を見上げながら、勇磨と環が言う。
    まもなく日没である。

    「あ、じゃあさ、みんな合格したんだし、パァ〜っとお祝いしようよ!」
    「そうね。ちょっと奮発して、豪勢なディナーとしゃれ込みましょうか」
    「いやっほー!」
    「だからセリス……叫ばないでってば」

    まったく進歩の無い我が妹。
    エルリスの苦悩の日々は、まだしばらく続きそうだ。

    というか、改善する日はやってくるのだろうか?

    「早く行こうよ〜!」
    「待ちなさい! あなたたちは、何か希望はある?」

    急かすセリスをなだめて、エルリスは御門兄妹にリクエストを聞く。
    こちらに来てからは質素な食事ばかりだったから、何にしようかと心が躍る。

    しかし。

    「「………」」

    2人から返ってきたのは、無言の返事だった。

    「勇磨君? 環?」

    当然、怪訝そうにエルリスは聞き返す。
    考える時間が欲しいのはわかるが、一言くらい、返してくれても。

    だが、そのとき。
    事態は水色姉妹が思いも寄らなかった、急展開を見せていた。

    「…非常に楽しみになさっているところを、申し訳ないのですが」
    「はい?」

    ようやく返ってきたのは、環の低い声。
    彼女はエルリスのほうには振り向かず、兄ともども、厳しい目つきで向こうを見つめている。

    「楽しい祝宴、とはいかなくなったようです」
    「え? 何を言って………あ」

    そして、エルリスも気付く。
    御門兄妹が見つめている先に、ある人影があることに。

    その人物は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきて、声をかけてきた。

    「お取り込み中のところ、失礼いたします」

    「…誰?」

    エルリスも即座に警戒し、態勢を整える。
    というのも、この人物というのが、これ見よがしに怪しい格好をしていたからである。

    全身を覆い隠す、やや薄汚れてボロになりかけたコート。
    頭部もフードを被っていて、性別すら判別できない。

    が、声は女性のもののようだった。
    体格も、見る限りでは華奢であり、背もそれほどではない。
    自分よりは低いだろう。

    思わず魔力を練りかけるが…

    「お待ちください。あなたたちに危害を加えようというのではありません」

    正体不明の人物は、こう言って敵意の無いことを伝える。
    が、どうにも、信用していいものなのかどうか。

    信用した途端に、背後からグッサリ、ではたまらない。

    「わたしの話を聞いていただけませんか?」
    「………」

    判断がつかず、エルリスは勇磨と環を見る。
    2人は…

    「…まあ、話を聞くくらいなら」
    「本当に害をなすつもりは無いようですし」
    「ありがとうございます」

    「……2人がそう言うなら」

    許容した。

    エルリスは、勇磨と環がいいのなら、と了承する。
    2人の判断ならば間違いは無い、と信頼している。

    「お食事の話をされていたようですね。どうぞこちらへ。良い店を知っております」

    「……」

    かくして、一行は、この人物に案内されるまま、大通りから外れていった。

引用返信/返信 削除キー/
■261 / ResNo.22)  『黒と金と水色と』第9話A
□投稿者/ 昭和 -(2006/03/26(Sun) 00:45:28)
    黒と金と水色と 第9話「街角でばったり」A





    謎の人物――おそらく女性だと思われる――についていく一行。
    彼女は大通りを外れ、角を何回か曲がって、細い路地へと入っていく。

    「本当に大丈夫なのかしら…」

    徐々に人通りも無くなっていくので、さすがに不安になるエルリス。
    自分たちには軽々しく言えない秘密があるだけに、なおさらだった。

    「大丈夫じゃない? 悪い人には見えないよ」

    が、隣を行く妹殿は、その当事者だというのに、あまりに警戒心が無い。
    またため息をつかされて。

    「その超楽観思考は、どこから出てくるのよ…」
    「大丈夫だってば。勇磨さんと環さんがいいって言ったんだから」
    「…ふぅ。まあ、そうよね」

    水色姉妹の前を行く御門兄妹。

    例の人物が本当に自分たちの敵ならば、彼らがOKを出すはずなどが無い。
    とりあえず危険は無いはずなのである。
    理性はそう告げているのだが、しかし、どこか信用しきれないものがあった。

    5分ほど歩いて。

    「ここです」

    相変わらず表情は見えないが、こちらを振り返りながら、そう言った。
    どうやら、1軒の店屋の軒先らしい。

    ここがこの人物の言う『良い店』なのだろうか。
    そう告げるなり、扉を開けて中へと入っていく。

    「…どうだ?」
    「一応、悪い気配は感じません。行ってみましょう」
    「よし」

    「…あ、待って」

    御門兄妹に続き、水色姉妹も内部へ。
    すると

    「にゃ〜」
    「にゃ〜」
    「にゃ〜」

    「わー、かわいい〜!」
    「…ネコ?」

    彼らを出迎えたのは、扉のすぐ近くの床にいた、3匹のネコだった。
    セリスは抱きつかんばかりの勢いでかがんで声を上げ、エルリスも腰を落とす。

    猫たちは「いらっしゃいませ」と言わんばかりに、自分たちを見上げて鳴いている。

    「……」
    「あ」

    そして、誰かが近寄ってきた気配に顔を上げると、13、4歳くらいの、
    おかっぱ頭の少女が立っていた。

    彼女は彼らに向けて

    『いらっしゃいませ、なの』

    と書かれたスケッチブックのページを差し出す。
    思わず顔を見合わせる水色姉妹。

    わざわざ紙に書かずとも、声に出せばいいのに。

    「彼女は声が出せないの」
    「…あ」
    「そうなんだ。ごめんね」

    『構わないの』

    すると、空気を察したのか、フードの人物が説明する。
    そういう事情があったのかと、姉妹はすぐに謝った。

    彼女のほうも、こういう事態には慣れているようで、スケッチブックをめくってメッセージを出す。
    あらかじめ用意されているあたり、やはりこういう応答になることが多いのだろう。

    よくよく見てみると、彼女、頭の上にリスを乗っけている。
    セリスが気付いた。

    「それ、リスだよね? 飼ってるの?」

    『YES』

    「わー、いいなー、かわいいなー」

    『動物、好き』

    「うんうん、わたしも好きだよ〜♪」

    セリスと少女、なにやら盛り上がっている。
    『YES』『NO』など、用意されていたページだ。
    声を出せないと使う場面も多かろう。

    「そろそろいいかしら?」
    「あ、ごめんなさい」

    放っておくといつまでもやっていそうなので、フードの人物が声をかける。
    動物と戯れにやってきたわけではない。

    『こちらへどうぞ、なの』

    少女の案内で、8人掛けの大きなテーブルに着く。

    『ご注文をどうぞ、なの』

    「どうしますか?」

    少女とフードの人物に訊かれるが、ここが何の店かもわからない。
    一同は顔を見合わせて

    「よくわからないから、お任せするよ」

    と、無難な返答。

    「じゃあ、わたしに任せてもらいますね。チェチリアさん、お勧めメニューをコースで5人分」

    『承知しました、なの』

    注文を受け取ると、少女、チェチリアは一礼して奥へと下がっていく。
    フードの人物、ここは馴染みの店のようである。

    「美味しいですから、心配しなくても大丈夫ですよ」
    「そう」
    「楽しみ〜♪」

    空腹でセリスは期待感いっぱいの笑顔だが、他の3人は、もちろんそうではない。
    フードの人物の腹の内を探るような、そんな目つきだ。

    「…しかし」

    張り詰めた空気が嫌になったのか。
    勇磨が頭を掻きながら、おどけたように言う。

    「飲食店に動物っていいのか?」
    「良くはないでしょう」

    即座に環が乗った。

    「衛生面で問題になりますよ。まあ、幸か不幸か、客足はそれほどでもないようですが」

    店内を見回すと、明らかに閑古鳥が鳴いている。
    夕食時だというのに、客は自分たちだけだ。

    「聞こえてるよ。悪かったな」

    そう言いながら登場したのは、大柄で筋肉質な男性。
    彼は側まで来ると、トレーに載せてきた水入りのコップを各人に配る。

    店の人のようだ。

    「これは申し訳ありません。無礼なことを申しました」
    「まあいいさ。今に始まったことじゃねえからな」
    「でも、こんな様子で儲かってるの?」
    「こらセリス! す、すいません」
    「ははは。いいっていいって」

    怒って摘み出されても文句は言えないのだが、彼は豪快に笑い飛ばす。

    「確かに、儲かってはいねぇなあ」
    「ご冗談を」

    この様子を見れば容易に想像できそうだ。
    が、フードの人物が突っ込む。

    「”裏”でいろいろやっているでしょうに」
    「おっと、そいつは秘密…って、誰かと思えば嬢ちゃんじゃないか」
    「お邪魔してるわ、マスター」

    かなりの顔なじみな様子。
    親しげに言葉を交わしている。

    「…ウラ?」
    「実は彼もハンターで」

    訊くと、秘密というわりには、簡単に教えてくれた。

    「直接の活動はしていないのだけれど、情報の提供や、物資の商いなんかをしているの」
    「あんたらも、身なりからしてハンターだよな? 何か物入りだったら言ってくれ。
     出来る限りは力になるぜ。まあ、それなりの金はもらうがな」
    「まあ、そのときはよろしく」

    要するに”情報屋”というやつだろうか。
    この口ぶりからして、かなり有力な人物だと見える。

    「それはそうと、嬢ちゃんよ。店に入ったらフードは取ってくれ」
    「あら、失礼」

    マスターから言われ、フードを取る。
    謎だった素顔が明らかになったのだが…

    「…お」
    「まぁ…」
    「わぁ」
    「綺麗…」

    思わず、各人が声を漏らす。

    「…そんなに見つめないでください」

    視線を集中され、恥ずかしそうに言う彼女は。
    そう、”彼女”。女性であることには違いないのだが…

    美女だった。それも、『絶世の』という形容詞がつきそうである。

    整った目鼻立ち。雪のような、きめ細かい白い素肌。
    左右、ひと房ずつを三つ編みにした、背中まである水色の長い髪。

    「……美人だ――イッテぇ!」
    「兄さん…」
    「なんだよ、ちょっと素直な感想を漏らしただけ――イデデデッ!!」

    「何してるのよ…」
    「環さん、嫉妬かな?」

    兄妹のどうしようもないやり取りに、こちらの姉妹も呆れがちだったが。
    余計なことを言ったセリスには、凍るような視線が突き刺さったとだけ言っておこう。

    「…コホン。そんなに綺麗な顔をしているのなら、わざわざ隠すことないと思うけど」
    「そ、そうだよ。同じ女でも憧れちゃうくらいなんだから」

    「それは…」

    水色姉妹は、素直に感じたことを述べる。
    素顔を表した彼女のほうは、少し照れ気味に視線を逸らしたが、その顔はすぐに真剣味を帯び。

    「この…」

    そう言って、自分の側頭部の髪をかきあげた。
    艶やかな水色の髪が流れる中で、髪で隠れていた部分が露になる。

    そここそが、問題の箇所だった。

    「わたしの耳をご覧になれば、おわかりいただけると思います」

    「…耳? あ」

    表れた、彼女の耳。

    「先が…」
    「とんがってる?」

    「はい」

    頷く彼女。

    確かに、彼女の耳の先端は、鋭くとんがっていた。
    人間ではないという証である。

引用返信/返信 削除キー/
■262 / ResNo.23)  『黒と金と水色と』第9話B
□投稿者/ 昭和 -(2006/04/02(Sun) 00:08:45)
    黒と金と水色と 第9話「街角でばったり」B






    鋭い先端の耳。
    コレが意味すること。

    「じゃあ、あなたは…」
    「ええ」

    呆然と呟くエルリスに、彼女はひとつ、大きく頷いて。

    「わたしはエルフ。俗に妖精といわれる種族のものです。
     申し遅れました、名前はメディアといいます」

    「エルフ…」
    「妖精さんだったんだ。初めて見たよ〜」

    エルリスは再び、呆然と呟いて。
    姉とは対照的に、セリスは幼い少女のように目を輝かせる。

    「……」
    「……」

    そして、御門兄妹の反応。
    メディアの正体を聞いても、言葉は発せず。

    ただ、ぴくっと、眉毛が僅かな動きを見せただけである。

    「正体を明かしてしまって、いいのですか?」
    「異種族には冷たい世の中だ。大丈夫なのか? こんなところで」

    数秒後。
    ようやく口を開いて、こんなことを尋ねる。

    世界には人間のみではなく、様々な種族が存在している。
    メディアなどのエルフ族、獣人族、ドラゴンや魔族。ハーフなども居るだろう。
    お互いに、種族間では忌み嫌い合っているのが基本だ。

    エルリスやセリスのように、同族でも、少しでも定義に外れると危険な世の中。
    それを、このような衆人環境…といっても、他に客はいないのだが、
    こんな場所であっさりとばらしてしまっていいものなのかどうか。

    「なーに。オレはそんなこと気にしないぜ」

    店のマスターが、笑いながら言う。

    「種族の違いなんざ些細なものでしかねぇ。気にするほうがおかしいってことよ」
    「この通りの方ですので、わたしとしても、ここでは安心できます」

    メディアも少し微笑んで、マスターと視線を交わしながら、言った。

    「マスターは商いもしていると言いましたが、主な相手が、わたしたちのような異種族なのです。
     相手が誰であろうと、品物を卸してくれますので、わたしたちは大変助かっているのです」
    「ま、そういうこった。贔屓にしてもらってるぜ」

    ”裏”と言っていた意味は、こういうことだったのか。
    要するに、他種族相手の交易を行なっている。

    前述したとおり、種族が違うだけで雲泥の差があるので、普通に売り買いは出来ないのだ。

    それにしても、この店、というかこのマスター。
    エルフと取引があるとは、ものすごい大物なのではなかろうか。

    「なるほど…」
    「そういうことか」

    それはさて置き、御門兄妹も納得。
    本題に移る。

    「で、俺たちに話っていうのは?」

    勇磨がそう訊いたところで

    『おまちどうさま、なの』

    チェチリアが、トレイに注文の品を載せて運んできた。
    マスターが品物を受け取ってテーブルに置き、チェチリアはお決まりの文句をスケッチブックで示す。

    「お料理も来たことですし、まずは、いただくことにしませんか?」
    「了解」

    メディアの提案に従い、とりあえずは、腹を満たすことにする。





    30分後。
    運ばれてきた料理をたいらげる。

    「美味しかった〜♪」
    「ほんとに。ちょっと変わった料理だったけど、最高だったわ」

    『ありがとうございます、なの♪』

    水色姉妹も、もちろん全員が大満足。
    初めて目にする形の料理だったが、なかなかどうして、味は抜群だった。

    チェチリアは、ご丁寧に音符マーク入りの紙を提示して、皿を片付ける。

    「マスターが作ってるのかしら?」
    「いいえ。料理はすべて、彼女の担当なんですよ」
    「え、そうなんだ」

    メディアから説明を受け、エルリスはカウンターの中にいるチェチリアを見る。
    相変わらずリスを頭に乗せたまま、楽しそうに皿を洗っていた。

    「…そろそろいいでしょう?」
    「そうですね」

    食後のコーヒーを優雅にすすっていた環が、視線はカップの中の、水面に映った
    自分の顔に落としながらそう告げて。
    メディアも応じ、周囲の空気が良い意味で緊張する。

    「まず、あなたが私たちに声をかけてきた理由、目的から話していただきましょうか」
    「単純なことです。あなた方のお力をお貸し願えないものかと思いました」
    「お戯れを」

    望んでいた答えとは違っていた。
    だから環は、ふっと一笑に付しながらカップを置き、メディアを見据える。

    「それは理由ではありません。なぜ、”私たちを選んだ”のか。
     決定的な情報が欠如しています」

    そう。彼女がなぜ、自分たちに声をかけたのか、説明になっていなかった。
    ハンターならば、ほかにもごまんといる中で、どうして自分たちか?

    「ハンターへの依頼ならば、ギルドを介して行えばいいだけのこと。
     ”エルフ”であるあなたが、わざわざ危険を冒してまで、直接接触してきたのはなぜです?」

    本来ならば、人間の住む領域まで出向いてくること自体、非常に危険な行為のはずだ。
    まあ、この店とは付き合いが長いようだから、今回も取引の一環だったのかもしれないが、
    それでも、自分たちに接触してきた理由にはならない。

    「ギルドへ依頼するにしても、こちらの正体がバレる可能性はあります」
    「ならば、誰か代理人を……ここのマスターが適任ですね。
     彼に頼んで、代わりに話を持ちかけることは出来るでしょう?
     むしろ、そちらのほうが自然な流れではないですか?」
    「仰られるとおりです」

    メディアは、こう返されることがわかっていたようで。
    ふっと微笑を浮かべると、こう告げた。

    「あなた方を選んだ理由は、別に、はっきりとしたものがあります」
    「協力を願うのなら、正直に明かしてくれることを望みますよ」
    「わかりました、お話します」

    環はそう言って、カップを手に取り、再び口へと運ぶ。
    全面降伏だと言わんばかりに、メディアは頷いた。

    「勇磨さーん。よくわからないよ?」
    「シーッ。こういう交渉事は、環に任せておけば間違いないから」
    「確かにね…。環は上手そうだわ」

    高尚なやり取りに付いていけないのか、環以外の3人は、話を聞きつつも聞き流している。
    小声でコソコソ、こんなことを言い合いながら、進展を見守った。

    「で?」

    カップを口元に残したまま、目を向けて尋ねる環。

    「はい」

    応じるメディア。

    火花が散る、と言うほどではなかったが、2人の間では静かな戦いがあった。
    勝者は環。敗者メディアは、本当のことを言わなければならない。

    「あなた方4人からは、わたしたちに近いものを感じました」
    「……」

    環の目がすうっと細くなる。
    勇磨にも同様の変化が訪れ、水色姉妹は、なぜわかったのかと驚愕。

    (勇磨君や環、”も”…?)

    いや、自分たち姉妹はともかく、勇磨や環も”近い”とは、どういうことだろう?
    セリスはそこまで感じていないようだが、少なくともエルリスは、違和感を持った。

    「直接の理由はそれです。お話しても、わたしの正体を明かしても大丈夫だろうと。
     それに、貴女とそちらの彼は、Aランクに難なく合格するほどの腕前をお持ちなようですし」
    「参りましたね。ずっと見ていたんですか?」
    「ええ。失礼ながら、少し観察させていただきました」
    「……」

    環は表情こそ変えないものの、苦虫を噛み潰した思いで勇磨を見る。
    彼も思いは同じ。

    ――『気付かなかった』

    さすがに、高い能力を持つといわれる、エルフなだけのことはあった。
    魔力・気配遮断のスキルには優れている。

    「理由に関しては納得しました。それで、私たちに協力して欲しいこととは?」

    いよいよ核心に触れる。
    話を持ちかけられた理由にも驚かされたが、こちらでも驚かされることになるとは…

    「他でもありません。わたしたちの里を、守っていただけませんか?」
    「エルフの里を?」
    「はい」

    はっきりと肯定するメディア。

    もう、驚くという言葉では収まりきらない。
    本来は相互不可侵が掟の種族間だ。

    メディアがこうして、人間社会の中にいるということだけでも充分な驚きなのに。
    エルフのほうから、ましてや自分たちの里に、足を踏み入れさせるようなことを言うとは。

    「…どういう状況なんです?」

    まったく掴めない。
    環も少し混乱しながら、問い返した。

    「他言無用でお願いします」

    そう前置きし、話すメディア。

    依頼を受けないにしても、守秘義務はハンター法で定められているので、大丈夫である。
    当然だと頷く4人。

    「わたしたちエルフは、ラザローン近くの深い森の中で、安住を得てきました」
    「ラザローン? 先の戦争で滅んだという?」
    「ええ。8年前、エルフとの交易を望んだビフロスト連邦と、
     それを突っぱねた王国との間で行なわれた戦争。
     その際の、連邦側の禁呪攻撃により壊滅、滅亡した街ですね」
    「…それは初耳です」
    「あの戦争の原因は、そんなことだったんだ…」

    エインフェリア王国とビフロスト連邦。
    戦争があったことは周知の事実であるが、原因がそんなところにあったとは。

    「まあ、わたしたちにとっては、傍迷惑至極なことであったわけですけど。
     …こほん、話を戻しますね」

    脱線してしまった。
    わざとらしく咳払いをし、メディアは元の流れに戻す。

    「森の中にあるわたしたちの里なんですが、ここ数週間、
     近くに変な輩が居ついてしまって、ほとほと迷惑しているんです」
    「何者です?」
    「おそらくは野盗、山賊の類だと思います」

    嫌そうに言うメディア。
    確かに、里のすぐ近くをそんなヤツラに占領されては、良い気はしないだろう。

    「それだけならまだいいのですが、彼ら、どこで知ったのか、森の中を探索しているんです」
    「エルフの里を探していると?」
    「たぶん。他に思いつきません。まさか、適当に宝探しをしているわけではないでしょう」

    もっともである。
    他に何も無い森だそうだから、明確な目的があると見るのが妥当だ。

    「すでに、エルフのテリトリーに侵入されることが数回。
     幸い発見が早く、記憶を消して送り返しているのですが、このままでは…」
    「時間の問題ですね」
    「はい。我らエルフとしましては、あまり人間と接触を持つわけにもいかず。
     そこで、あくまで人間側の問題として、人間に解決してもらうことにしました」
    「つまり、その賊どもを退治してくれと」
    「その通りです」

    賊退治。
    依頼としては、そんなに珍しいものではない。

    「依頼を受けてくれる、誠実そうな方を捜していたところ、あなた方に出会ったというわけです。
     もちろん、それなりのお礼を用意しています。お願いできませんか?」
    「だそうですが、どうしますか?」
    「う〜ん」

    環から尋ねられて、勇磨は困ったように水色姉妹を見る。
    別に、自分たちはやぶさかではないのだが…

    「な、なに?」
    「ふへ?」

    こちらの水色姉妹には、大問題になるであろう、決定的な事柄。

    「エルリス、セリス。君たちはここに残れ」
    「え? な、なんで?」
    「そうだよ! 妖精さんが困ってるんだから、助けてあげなきゃ!」

    水色姉妹は憤る。
    当然だ。

    自惚れるわけではないが、半ばチームとしての一体感を持っている。
    置いてきぼりにされるのは御免である。

    だが…

    「今度の相手は魔物やシミュレーションじゃない。人間なんだぞ?」
    「……」

    勇磨から言われたことに、ハッとする。

    「人間を相手に、立ち回れるか? ヤツラが説得に応じてくれるのならいいが、
     ほぼ間違いなく戦闘になる。俺たちに殺意が無くても、ヤツラはそうじゃない。
     殺らなきゃ殺られる、本当の殺し合いだ」
    「……」
    「それが君たちに出来るか?」
    「……」

    姉妹はすっかり勢いを失い、俯いてしまった。
    魔物を相手にするのと、人間を相手にするのとでは、まるでワケが違う。

    「それも、ハンターが持つ一面です」

    環が後を受ける。

    「人間を相手にするときもある。時には殺すことだってある」
    「環…。あなたは、人を斬ったことが……殺したことは、あるの?」
    「あります。兄さんもです」
    「………」

    絶句。
    無いと言って欲しかった。

    「もちろん、そうせざるを得ない、やむにやまれぬ事情があったわけですけどね。
     人間だから戦わない、人間だから殺さない、なんて綺麗事は通じません。
     ひとたび実戦になれば、そこは本物の戦場。命のやり取りをする場所なんですから」
    「……」
    「そういう覚悟を持てないのなら、ハンターなどやるべきではない。
     自分勝手やエゴだと思われても結構。私はそう思います」
    「……」

    水色姉妹は、何も言えない。
    甘く見ていた面があることは事実だからだ。

    「ですが、あなたたちはまだまだ駆け出しのハンター。
     そういった判断をするには早すぎる。ですから残りなさい」
    「それが君たちのためだ。俺たちだけで行ってくるから、待ってて」

    「……」
    「……」

    引き続き、水色姉妹が言えることは無い。
    酷なようだが、今回ばかりは、留守番を…

    「じゃあ、そういうことで――」

    「わたしも行くよっ!」
    「…セリス?」

    声を上げたのはセリス。
    エルリスが驚くほどの真剣な顔で、こう宣言した。

    「要は、殺さずに倒せばいいってことだよね? がんばるからっ!」
    「そう簡単に行けば、苦労は無いのですよ?」
    「辛い思いをするのは自分だぞ? それでもいいのか?」
    「いい!」

    断言するセリス。
    これにも、エルリスは驚いていた。

    「置いていかれるほうが辛いよ!」
    「そう………そうよね…。殺さなければいい……その通りだわ!」

    「エルリスまで」
    「まったく…」

    エルリスも勢い良く立ち上がった。
    妹の一言に感化されたか。

    「「一緒に連れてって!!」」

    「…と、いうわけです」
    「ありがとうございます」

    引き受けてもらい、メディアは笑顔で礼を言い。

    そんなわけで、賊退治となった。





    第10話へ続く

引用返信/返信 削除キー/
■263 / ResNo.24)  『黒と金と水色と』第10話@
□投稿者/ 昭和 -(2006/04/09(Sun) 00:07:14)
    2006/04/09(Sun) 20:58:11 編集(投稿者)

    黒と金と水色と 第10話「不思議の森の賊退治」@






    滅びの街ラザローン。

    前述した戦争が起きる前までは、国境の町として、それなりの賑わいを見せていた。
    が、戦争で周囲の状況は一変。
    痺れを切らした連邦側の無差別禁呪攻撃により、町は丸ごと壊滅。

    以後、街が再建されることも訪れる人も無く、廃墟となって現在まで至っている。

    「ここが……ラザローン」
    「滅びの街…」

    今、一行はラザローンの入口に立っていた。
    水色姉妹が呆然と呟く。

    当時の悲惨な名残をそのまま残す、朽ち果てる寸前な建物の数々。
    形が残っているだけマシかもしれない。
    禁呪の爆発的な攻撃力で、一瞬にして消え去ってしまったものがほとんどだろうから。

    所々に見える、爆発で開いたような大穴が、禁呪のすさまじい威力を物語っているのだ。

    「禁呪攻撃による犠牲者は、王国兵とラザローン市民を合わせ、およそ2万5千人と云われています」
    「展開していた王国兵が1万ほど。当時の街の人口はおよそ1万5千ほどですから、
     ラザローンは文字通り、全滅という結果になったわけですね」
    「くわばらくわばら」

    環とメディアが揃って解説。
    大げさに肩をすくめて見せる勇磨だ。

    「戦争は嫌だね」
    「もちろんそうです。2度と起こって欲しくは無いものですが」

    「………」
    「………」

    話している傍らで、水色姉妹は廃墟の様子を眺めているだけ。

    ここは2万5千人もの犠牲者が出た現場。
    禁呪という禁忌だっただけに、少し刺激が強すぎたようだ。

    「さて、こんなところにいてもしょうがない」
    「メディアさん。エルフの森に案内してください」
    「はい。こちらです」

    メディアの案内で廃墟を離れ、前に見える森へと近づいていく。
    視界一面を覆う、広大な森林地帯だ。

    「いま見えている森が、わたしたちエルフが住んでいる森です」
    「ラザローンの大森林…。話には聞いたことがありますが、実際に目にしてみますと、
     またすごいものですね」
    「戦争前はもっと大きかったんですけどね。戦災の余波で、かなりの森が燃えてしまいました」

    今以上に広かったというのか。
    ちょっと想像のつかない範囲である。

    さらに歩いて、周囲の草原地帯と森とを分ける、境目までやってきた。

    「みなさん」

    ここで、先頭を行っていたメディアが立ち止まり、振り返りながら言う。

    「ここから先がエルフの森になるわけですが、くれぐれも、わたしから離れないでください」
    「え、どうして?」
    「森が深いということもありますが」

    尋ねるエルリスに、メディアが表情を険しくしながら説明した。

    「うっかりわたしたちのテリトリーに踏み込みますと、無限空間に迷い込み、2度と出てこられません」
    「え…」
    「わたしたちの防衛トラップだと思ってください。
     それに、いつ、賊が現れるかわかりません」
    「わかったわ」

    どうやら、考える以上に、この森は危険なようだ。
    賊たちはそのことを理解しているのだろうか?

    「では、行きますよ」

    再びメディアを先頭にして、森の中へと入る。

    道なき道を行く。
    高さ数十メートルはありそうな大木が林立し、昼間だというのに薄暗い森の中。
    日光が届かないのでひんやりとした空気。

    なんと表現したものか、妖しい雰囲気に包まれた森。

    「なるほど、『不思議の森』…か」
    「よく言ったものですね」

    ラザローンの大森林は、昔から、遭難者が後を絶たない樹海として知られている。
    一歩、道を外れてしまうと、たちまちのうちに濃い霧に包まれ、2度と外へは出られないというのだ。
    遭難しなくても、幻覚を見たり、幻聴を聞いたりと幻想的な体験をする者が多く現れたことから、
    いつしか付いた名が『不思議の森』だったりする。

    今にして思うに、その”濃い霧”というのは、エルフたちの自己防衛なのだろう。
    また、奇跡的に生還した者が話したという『誰かに導かれた云々』という話も、
    人間に里へと踏み込まれるのを恐れた、エルフの助け舟だったのかもしれない。

    「なんだか凄いところだね〜」
    「その一言で済ますあなたのほうが、よっぽど凄いと思う…」

    陽気なセリスの言葉に、はあっ、と息を吐くエルリス。
    ハイキング気分なのは勘弁して欲しいものである。

    どれぐらい歩いただろうか。

    「………」

    「…メディア?」

    唐突に、メディアが歩みを止めた。
    後ろの一行は首を傾げつつ、彼女を窺う。

    「…尾けられているようです」
    「え?」
    「そんなはずは…」

    ぽつっとメディアが漏らした言葉。
    御門兄妹は驚愕して、後ろを振り返った。

    例えどのような状況だろうと、周囲の警戒を怠ったりはしない。
    少なくとも、悪意を持った人物が近くにいるのなら、すぐにわかるのだが…

    「わからないのも当然かもしれません」

    少し慌てた様子の御門兄妹へ、メディアがこんなことを言う。

    「程度の差はあるにせよ、この森は全域が、わたしたちエルフのテリトリーに含まれます。
     いわば自然に、エルフの施した知覚遮断の呪法がかかっている状態なのです」

    「……つまり」
    「エルフ以外の、私たちの感覚はまるで通用しないと、そういうことですか」
    「はい」

    勇磨と環は顔を見合わせ、お互い、微妙な表情を見せる。
    使い慣れた感覚が当てに出来ないとなると、妙に心細くなるものだ。

    「とにかく、このまま付いてこられてはたまりません。お願いします」
    「ん、了解した」

    なんにせよ、賊は排除しなければならない。
    メディアを残し、他の4人はすぐに後方へと向き直って、態勢を整える。

    「バレちゃあしょうがねえっ!」
    「おおっ!」

    すると、感づかれたと見たのか。
    周囲の木々の合間から、複数の男たちが現れた。

    手に斧、頭には覆面。みすぼらしい格好。
    いかにもな”賊”の登場である。

    「貴様らも、この森にエルフが住んでるって聞きつけてきたんだな?
     お宝を横取りしようったってそうはいかねえぞ! 野郎ども!」
    「おうっ!」

    「なんか、勘違いされてるな」
    「どうでもいいしょう。私たちは私たちの役目をこなすだけです」
    「そうだな」

    エルフがいる=宝物がある、と賊たちは見ているようだ。
    実際はどうなのかわからないが、自分たちは、依頼を遂行するのみ。

    「エルリス、セリス。大丈夫か?」
    「ええ、なんとか」
    「殺さずに済む方法、わたしなりにちゃんと考えたから」
    「ほお?」

    どんな方法だろう?
    セリスが考えたということもあって、非常に興味を惹かれた。

    「じゃ、お手並み拝見といきますか」
    「任せて!」

    自信たっぷりに頷くセリス。

    「やっちめ〜!」

    ちょうど突撃してくる賊たち。
    さて、セリスはどんな手を取るのだろう。

    「ユナさんに教わったのは、何も攻撃魔法だけじゃないよ!」

    セリスは、バッと一歩を踏み出して。

    「精神と魂を司りしものよ……際限なき混沌の海よ……」

    「あ、これ…」

    詠唱を始めるセリス。
    何かに気付いたのか、エルリスが呟く。

    「ご存知なのですか?」
    「ええ、私も一緒に習ったから」

    環に訊かれ、答えるエルリスは、なぜだか苦笑している。

    「私は全然できなかったんだけどね。やっぱり私、氷以外の魔法は使えないみたい」
    「どんな魔法なんだい?」
    「見ていればわかるわ」

    勇磨にも尋ねられるが、これについてははぐらかした。
    今度は微妙な表情である。

    「失敗しなければ、の話だけどね。あの子も、風魔法以外の成功率、低いから…」
    「おいおい」
    「一応、いつでも助けに行ける準備はしておきます」

    御門兄妹も苦笑した。

    どんなに有効な魔法であれ、成功しなければ意味は無く、一転して窮地に陥ってしまう。
    セリスの修行中の模様を知っているだけに、一同は心配顔だ。

    「今こそ汝の力を解き放ち、彼の者、深遠なる暗闇へといざないたまえ!」

    詠唱完了。
    迫ってくる賊たちを睨みつけ、セリスは魔法を発動させた。

    「スリープ!!」

    「…? うわっ、なんだ、こ…りゃ……」
    「……急に……眠く……」
    「むにゃ……」

    すると、賊たちを白いガス状の物質が包み込んで。
    賊たちは、その場にバタバタと倒れこんでいった。

    「zzz…」
    「んが〜」

    寝ているようである。

    「やった成功した!」

    その模様を見て、喜びを爆発させるセリス。

    「どうどう? 眠らせちゃえば、制圧するのは簡単だよね!?」

    「なるほど」
    「お見事です」

    ぽんっ、と手を打つ勇磨。
    今度は素直に感心している環。

    確かに、どんな剛の者でも、眠っている間は無防備だ。

    「さあ、今のうちだよ!」
    「了解〜っと」

    眠っているうちに捕獲だ。
    用意しておいたロープで拘束しておく。

    (それにしても、上手くいってくれてよかったわ)

    作業をしつつ、エルリスはそんなことを思う。

    (セリスはこれを1人で考えたのか。私も負けてられないわね)

    対抗意識に燃える。
    自分は補助系の魔法は一切使えないから、何か別な方法を考えなければ。

    賊たちを縛る作業を終える。
    大きな木にくくりつけるようにして、それぞれの自由を奪った。

    「さてセリス。もういいわよ。起こして」

    このままにもしておけない。
    説得するか、脅すかして、この森から退去させねばならないのだ。

    「へ? 起こす?」

    だが、姉からそう言われたセリスは、なんのこと、とばかりに首を傾げる。

    「そのうち起きるんじゃない? 起こす方法なんて知らないよ?」
    「そういえば、ユナもそんなことは言ってなかったっけ…」

    睡眠魔法は、いったんかかると、覚醒までの時間はまちまちである。
    一瞬で目覚めることもあるし、何時間と寝ていることもあるのだ。

    「でも、そんなに待ってられないわ」
    「じゃあ、叩いたりすれば起きるんじゃないかな?」
    「叩くのね? よーし」

    バッシーンッ!!

    「…うわ」
    「お姉ちゃん、容赦ない…」

    思わず目を背ける勇磨。
    セリスでさえ苦笑するほどの、見事なビンタだった。

    「こんな連中相手に、情けなんてかけてられないわよ」
    「あなたも過激になってきましたね…」

    環でさえ、顔を少し引き攣らせるほどだ。
    誰の影響でしょうか、と小声で呟く。

    しかし。

    「…セリス。起きないんだけど」
    「おかしいな〜」

    殴られた男、一向に起きる気配が無い。

    「何か刺激が加われば起きると思ったんだけど。
     ユナさんも、何かの拍子に目覚めることもあるから気をつけろ、って言ってたし」
    「刺激が足りないのかしら? ふんっ!」
    「わ〜…」

    ビンタ、ビンタ、ビンタ。
    思わず賊に同情してしまうセリスである。

    だがしかし。

    「……起きないわね」

    この男は、両頬を真っ赤に腫らしながらも、平気で寝息を立て続けていた。
    エルリスの息のほうが上がっている。

    「セリス、どうなってるのよ?」
    「う〜ん……力の加減を間違えたかなぁ?」
    「それって…」
    「あ、あは、あはははは」

    魔力を制御する技術は、ユナ曰く『初等学生並み』というセリスである。
    力加減を間違えたということは、充分にありえた。

    …即ち。

    「いつ起きるの、この人たち…」
    「あはははは……いつだろうね?」

    魔力の込めすぎ。
    セリスの乾いた笑い声が痛かった。

    「おいおい」
    「先ほどの言葉、取り消します…」
    「やれやれ」

    苦笑の勇磨。
    ため息の環とメディア。

    有効だと思われた方法だが、効果がありすぎたようだ。

引用返信/返信 削除キー/
■264 / ResNo.25)   『黒と金と水色と』第10話A
□投稿者/ 昭和 -(2006/04/16(Sun) 00:21:11)
    黒と金と水色と 第10話「不思議の森の賊退治」A







    その後も、賊退治は順調に進んだ。

    「セリス! また起きないわよ!」
    「え、えーと…」

    順調……に進んだ。

    「きゃー心臓が止まってる!」
    「え…」

    順調…

    「し、心臓マッサージ!」
    「こっちは呼吸が!」
    「………」

    ………。(汗)
    とにかく、人数だけは確保していっているのである。

    捕らえたうちの数人には

    「即座にこの森から出て行き、2度と近づかないと誓え」
    「ふん、誰が」
    「あっそう。じゃあ、一生このままだなあ」
    「なっ」

    「誓いを立てるか、今すぐこの場で果てるか、選びなさい?」
    「ひいっ!?」

    勇磨と環が脅しを効かせる。
    特に環の場合、死と交換条件で、凄みがあるものだから、成功率は高かった。

    また、セリスが魔法を失敗して、戦闘になったとしても

    「よっ」
    「はい、どうぞ」

    前衛に立った勇磨と環が、突っ込んできた賊の勢いを殺し、
    ついでにバランスを崩して後ろへ逸らす。

    基本的に技量が違うので、この程度の芸当、朝飯前だ。

    「OK! せいっ!」

    「ぎゃっ!」
    「ほげっ!」

    そして、後ろで待ち構えていたエルリスがとどめを刺す。
    無論、命を奪うということではなく、気絶させる程度のダメージを負わせるのだ。

    「結構、力加減が難しいのよね…」

    あまり力を入れすぎると、重傷を負わせてしまうので、エルリスも楽な仕事ではない。
    が、それが勇磨や環の狙いでもある。

    自発的に戦闘の力加減を考えさせ、効率的な戦い方を覚えてもらうためだ。
    実戦経験に乏しいエルリスにとっては、得がたい体験になるだろう。

    「お、覚えてろよ〜!」

    今もまた、1人を脅して解放した。

    「ねえ勇磨君、環。逃がしちゃって本当にいいの?」
    「いいのいいの」

    ふぅ、と息を吐いたエルリス。
    疑問に思ったことを訊いてみるが、返事は肯定するものだった。

    「でも、逃がしたヤツが、親玉を連れて戻ってくるんじゃ?」
    「それが狙いだよ」
    「え?」

    自分が危惧していることが狙いだとは、どういうことか?
    エルリスは驚いた。

    「こういう組織はね、頭を潰さない限り、何度でも蘇るから。
     逆に、頭さえ抑えてしまえば、あとはどうにもなるってこと」
    「頭を抑えて更生させれば、その組織全体が生まれ変わることにもなりますからね」
    「へえ、そうなんだ」

    要は、親玉を呼び出すためにやっている、ということなのか。
    言われてみればその通り。エルリスは非常に感心した。

    「ちゃんと考えてやってるんだ」
    「エルリス…」
    「あなた、私たちをなんだと思ってます?」
    「あはは、冗談よ冗談」

    けらけら笑うエルリスに、御門兄妹はため息だ。
    原点では、姉妹での違いはほとんど無いらしい。

    「とか言っている間に、お出ましのようですよ」
    「む」

    脇に控えていたメディアがそう告げる。

    「お、親分! あいつらですぜ!」
    「そうか。やいやいやい!」

    逃がした連中が、親玉を連れて戻ってきた。
    数人の取り巻きを従えて、中年くらいの髭面の男が、高圧的に叫ぶ。

    「俺様の部下どもをかわいがってくれたようだな。その礼、たっぷりとさせてもらうぜ。覚悟しな!」

    親分はそう言うと、持ってきた大鉞を掲げた。

    「一応、言っておくけど。素直に森から出て行く気は?」
    「ふざけるな。俺様たちが先にツバをつけたんだぞ!」
    「あっそう。交渉は決裂か」

    予想通り、聞き入れてはもらえなかった。
    やれやれと肩をすくめ、仕方ないと刀に手をかけたところ

    「勇磨君」
    「え?」

    エルリスが声をかけてきた。

    「私にやらせて」
    「…わかった」

    その目が、あまりに真剣で。
    勇磨は頷いた。

    「お姉ちゃん!」
    「大丈夫。殺しはしないし、もちろん死ぬ気も無いわ」

    驚いたセリスは引き止めるものの、エルリスは聞かず。
    ずんずんと親玉に向かって歩を進める。

    「なんだあ女? おい、女は引っ込んでろ!」
    「女だからって舐めないで。これでもハンターなのよ」
    「後悔するなよ。てめえらは手を出すな!」

    親分は、周りにいる部下たちにそう命じ。
    エルリスをジ〜ッと見ると、にやりと笑みを浮かべる。

    「よくよく見るといい女じゃねえか。くっく、こいつは後が楽しみだな」
    「………」

    下衆な笑みで、何を考えているか、一発でわかってしまうが。
    エルリスは真剣な表情のまま親分を睨みつけ、集中を切らさない。

    かなりの決意があるようだ。

    「その目…」

    そんな様子が癪に障ったのか。

    「気に入らねえんだよおっ!」

    叫んで鉞を振りかぶり、エルリスへと突進。

    「だりゃあっ!」
    「…!」

    初撃を回避。
    大振りに振り回すだけの一撃だったので、容易だった。

    「くっ、このっ! 逃げ足だけは速いようだな…」
    「……」

    息を切らし始める親分。
    一方で、エルリスの集中は途絶えない。

    (一瞬が勝負……一瞬が……)

    集中力を最大限に保ったまま、そのときを待つ。

    「いい加減にくたばりやがれ!」
    「!! 今っ!」

    そして、チャンス到来。
    エルリスは、親分が鉞を掲げた隙を見逃さず、ずいっと懐へ飛び込んだ。

    「なにっ!?」
    「ふっ!」
    「ぐわっ! ごふっ…」

    当身を喰らわせ、みぞおちへ拳を見舞った。
    思わず、二歩三歩とあとずさる親分。

    女の細腕といえども、勇磨らとの修行で、筋力は飛躍的に上昇している。
    カウンターパンチには充分だった。

    「たあっ!」
    「っ! げはぁっ!」

    さらに追撃。
    踏み出す瞬間のタイミングを狙って足を払い、見事に背中をつかせることに成功した。

    「このやろ――」
    「勝負あり、ね?」
    「ぐ…」

    ここで抜刀。
    切っ先を親分の鼻先に突きつけ、決着を宣言する。

    「ほ〜」

    見ていた勇磨たち。
    感嘆の声を上げていた。

    「エルリスのヤツ、いつのまにあんな体術を」
    「私が軽く教えはしましたが、当時よりも洗練され、だいぶ形になっています。
     ユナさんにでもさらに習いましたかね。無論、本人の努力があったからこそでしょうが」
    「なるほど。ユナは格闘も一流だからな」
    「お姉ちゃん、すごい…」

    魔術師の弱点は、魔法”しか”扱えない点に尽きる。
    魔法を撃てない状況に追い込まれると、戦闘力は一気に落ちてしまう。

    この点を考慮して、ユナは格闘術でも抜きん出た実力を持っている。
    エルリスは剣を扱えるが、一念発起して、環からかじった程度だった体術を磨いたのだろう。
    一緒に修行していたセリスでさえ、気付かなかったことである。

    さて、視点をエルリスに戻そう。

    「さあ、どうするの? 負けを認めて、この森から去る?」
    「ぐぬぬ…」
    「認めないんだったら…」
    「わ、わかった! わかったから、剣をしまってくれ!」
    「よろしい」

    環並みにすごんで見せたエルリス。
    親分も、剣を突きつけられては何も出来ず、降参せざるを得なかった。

    (ふぅ……なんとか上手くいったわ)

    志願しての戦闘。
    どう転ぶかと思ったが、どうにか成功した。

    安堵のため息をつき、剣を収めるエルリス。

    「馬鹿め!」
    「えっ?」
    「勝負ってのは、最後の最後までわからねえんだよっ!」
    「あ…」

    だが、一瞬でも気を緩めたのは失敗だった。
    降参したはずの親分が起き上がり、隠し持っていたナイフを抜いて、突進してきたのだ。

    咄嗟のことで、エルリスは動けない。
    もうダメか、そう思われた瞬間

    ガキーンッ!

    鋭い金属音がして、親分の手からナイフが飛んでいった。

    「危ないところだったね、エルリス」
    「ゆ、勇磨君…」

    勇磨が駆けつけて、抜刀一閃。
    親分の持っていたナイフを正確に捉え、弾き飛ばしたのである。

    「油断大敵。よくわかったろ? 最後まで気を抜いちゃダメ」
    「ええ……ごめんなさい…」
    「次からは気をつけるように。それまでは良かったよ」
    「ありがとう。でも、まだまだね私」

    認めてもらい、強張っていたエルリスの顔も、少し緩んだ。

    「……さて」
    「うっ」

    エルリスには笑顔を向けた勇磨。
    しかし、その顔つきが一瞬にして変わり、殺気を剥き出しにして親分を睨みつけた。
    ビクッと反応する親分。

    「随分な真似をしてくれるじゃないか、え?」
    「う……うぅ……」

    ガタガタ震えだす親分。
    殺気は周りの部下たちにも向けられ、彼らも冷や汗を流していることだろう。

    「次にこんな真似をしてみろ」
    「……」

    最大限に膨れ上がる殺気。
    親分は、生きている心地がしなかったろう。

    「殺すぞ?」

    「……は……はいぃぃぃ……」

    情けなくも、親分はその場で腰を抜かし、失禁。
    先ほどの誓いを遵守させられた上で、盗賊稼業からも足を洗うことを約束させられた。

    部下に両脇を抱えられながら、親分は森を後にしていく。
    縛っていた部下も解放。
    これだけしてやれば、再起は叶うまい。

    「……ふー」

    去っていくのを見届けて、放出し続けていた殺気を抑える勇磨。

    「お疲れ様でした、兄さん」
    「ん? ああ」

    「……」
    「……」

    環はすぐに歩み寄って声をかけるものの、水色姉妹はそうもいかなかった。
    彼女たちも足がすくんでしまい、動けなかったのだ。

    直接、殺気を向けられたわけではないが、彼女たちにとっては、それほどの衝撃だった。

    「勇磨君………あんな顔もするのね…」
    「こ、怖かったよ…。震えちゃって……まだ震えてる……」

    初めて見た、勇磨の冷酷な一面。
    人を殺したこともあると言っていた、裏の一面。

    冷や汗を拭う水色姉妹。

    「あれが、彼らの内面」

    「「え…」」

    いつのまに隣に立っていたのか。
    気付くとメディアがいて、そんな声が聞こえたと思ったら、彼女は勇磨たちのもとへ歩いていった。

    「内面…?」
    「どういう、こと…?」

    言われた意味がわからず、戸惑う水色姉妹。

    何か?
    あんな冷酷な顔が、勇磨たちの本性だとでもいうのか?

    「……違うわ」
    「……違うよ」

    ……ありえない。
    同時に同じことを考えた姉妹は、同時に首を振っていた。

    「ありがとうございました。おかげで助かりました」
    「いや、なんのなんの」
    「お仕事ですしね。普通にこなしただけに過ぎませんよ」

    「…そうよね、セリス」
    「…うん。今の顔が、本当の顔だよ」

    メディアから労われ、微笑んでいる勇磨と環。
    そんな様子を見ながら、水色姉妹は、一瞬でも湧き上がってしまった変な考えを払拭するのだった。




    第11話へ続く

引用返信/返信 削除キー/
■266 / ResNo.26)  『黒と金と水色と』第11話
□投稿者/ 昭和 -(2006/04/23(Sun) 00:06:29)
    黒と金と水色と 第11話「再会、昔馴染み」






    エルフからの依頼を完了した一行は、再び王都へと戻ってきた。

    「さて、これからどうする?」
    「選択肢はいくつかありますね」

    まず、御門兄妹がこう発言。

    「学園都市に戻るか、このまま王都に滞在するか、私たち独自で行動するか」
    「はい、はいっ。王都滞在希望っ!」
    「セリス…」

    勢いよく手を上げ、大きな声で主張するセリス。
    どのような魂胆かは明らかなので、エルリスは大きな息を吐いていた。

    「今度こそ、王都を観光するんだよ!」
    「…だそうですが、いかがですか?」
    「私に振らないで…」

    ため息をつきつつ、やれやれとエルリスはお手上げだ。

    「兄さんは?」
    「ははは。いいんじゃないかな?」
    「ふぅ、まあいいでしょう。1度は決まっていたことですしね」

    「やった〜!」

    お許しが出た。
    セリスは飛び跳ねて喜びを表現する。

    「でも、何があるのかよくわからないんだよね〜。ガイドブックとか買ったほうがいいかなあ?
     あるのかな、ガイドブック? お姉ちゃんはどう思う?」
    「…あなたの好きにしなさいな」
    「う〜ん、迷っちゃうよね〜♪」

    そして、早くも観光気分を爆発させている。
    深い憂慮のため息をついているエルリス。苦笑する御門兄妹。

    「観光はいいですけど、その先の予定も立てておかなければ」
    「そうだな」

    とりあえず、暴走して1人で突っ走っているセリスはさて置き。
    今後のことを話し合っておく。

    「結局のところ、どうしますかね?」
    「一応、ユナのところに戻っておいたほうがいいんじゃない?
     私たちが出てきてから、そろそろ3週間になるわ」
    「う〜ん。でも、それでまだだったりすると、それこそ身動き取れなくなるからなあ。
     王都にいたほうが利便性はいい」

    1度、ユナのところへ戻らなくてはいけないのは確かだが。
    学園都市まで行って、まだ何も見つかっていないようだと、まったくの無駄足になるし。
    何か別の目的が出来た場合、王都にいたほうが、交通・情報事情が明るい。

    「それに、ユナはアレだけの魔術師だ。
     何か発見があれば、使い魔か何かで、すぐに知らせてくると思うぞ」
    「確かにそうですね。まだ何も言ってきていませんから…」
    「まだ、発見は出来ていない。探索中、解析中、ってことかしら?」
    「たぶんね」

    彼女の性格上、ほったらかしというのはありえない。
    何かがあれば、勇磨が言ったように、すぐに知らせてくるだろう。

    「ではしばらくは、ここ王都に留まるということで、構いませんね?」
    「私は、2人がいいならそれで」
    「じゃあ、そういうことにしよう」

    方針決定。
    王都に留まりつつ、ユナからの報せを待つことにする。

    「となると、空き時間が出来ることになりますね」

    ふむ、と何かを考え始める環。

    「エルリスさん」
    「なに?」

    顔を上げ、エルリスにこう言った。

    「お仕事しましょう」
    「はい?」

    咄嗟には、言われたことが理解できなくて。
    エルリスは思わず聞き返していた。

    「仕事って?」
    「私たちのお仕事といえば、ひとつしかないでしょう?」
    「えっと、ハンターの?」
    「ええ、もちろんです」

    オウム返しのエルリスに、環は微笑んで頷く。

    「あなたたちもCランクのハンターになったことですし、依頼を受けてみてもいいかと思うのですよ」
    「それって、私とセリスだけで…ってこと?」
    「無論です。経験を積まなければどうにもなりませんし、お金も貯まって一石二鳥でしょう」
    「でも、う〜ん……」

    エルリスは考え込んでしまった。
    自分たちだけで、仕事が務まるのかどうか。

    「大丈夫。もし何かあった場合は、俺たちがフォローに回るからさ」
    「勇磨君…」

    助け舟を出す勇磨。

    「二、三、小さい仕事を請けてみたら?」
    「そう、ね………わかったわ」

    随分と悩んでいたようだが、エルリスは決断した。

    確かに、ハンターは経験がモノを言う仕事。
    自分たちに絶対的に足らないものが『経験値』なので、補うにはちょうど良い機会だろう。

    「どんな仕事がいいかしら?」
    「まあまずは、ランクC以下の簡単なものからね。
     薬草採りとか、弱いグレードのモンスター退治とかかな?」
    「ギルドに行ってみなければ、わかりませんけどね」
    「そっか」

    曲がりなりにも、ここは王都。
    王国一の都であるわけで、ギルドの規模も当然、王国一である。

    人や仕事の出入りも激しく、そう苦労せずとも、仕事はみつかる。

    「じゃ、今日はこれから、観光に回るとして…」

    エルリスは駅前に建っている時計塔を見上げつつ、言う。

    現在時刻、11時を回ったところである。
    今日1日、まだまだ時間はありそうだ。

    「明日あたり、ギルドに行ってみましょう」
    「ええ」
    「そうだな」

    結論が出たところで。

    「セリス、セリス」
    「どうせだから美味しいものも食べたいし〜♪ …え? なにお姉ちゃん?」

    セリスを呼ぶ。
    トリップは続いていたようだ。

    「何かリクエスト?」
    「違うわよ」

    盛大に呆れつつ。
    たったいま決まったことを、妹に説明してやる。

    「と、いうことになったから」
    「お仕事か〜。うん、わたしがんばる!」
    「その意気よ」

    ポーズをつけて、セリスはやる気を示した。
    すると…

    「………あれ?」

    そのセリスが、何かを見つけたような反応をする。

    「あれは…」
    「セリス?」

    セリスは、エルリスから見て、右手のほうを向いて固まっている。
    エルリスもその方向を見やってみたが、普通の人通りがあるだけだった。

    「良さそうなお店でも見つけたの?」
    「違うよっ!」

    それまでの話の流れから、そんなことを尋ねてみたが。
    強く否定されるだけだった。
    セリスも、引き続き人ごみを見つめている。

    「あれは……絶対そうだよ……」
    「セリス? 何を見つけたのよ。セリス?」

    ブツブツ呟いて、こちらから声をかけても反応しなくなった。
    と思ったら

    「待ってーーーー!!」

    「セリス! ちょっ、ええっ!?」

    いきなり大声を上げ、見やっていた方向へ向けて駆け出していってしまった。
    止める間もなかった。仰天しているエルリス。

    「あの子はもう…」
    「えっと、何があったのかな?」
    「わからないわ、あの子のことだから…」
    「ははは」
    「とはいえ、放っておくわけにもいきません」

    苦笑している御門兄妹に尋ねられ。
    もういやとばかりに、エルリスは肩を落としている。

    「迷子にでもなったら大変です。追いかけましょう」
    「まったく…。セリス! 待ちなさい!」

    3人は、急いでセリスの後を追った。





    「えっと、確かこっちのほうに…」

    真っ先に人込みの中に入ったセリス。
    きょろきょろと周りを見回して、目的の人物の姿を捜す。

    「絶対そうだよ…」

    何が”絶対”なのだろうか?
    セリスが見たのは、はたして何者なのだろう?

    「………あっ!」

    チラリと後ろ姿が見えた。

    無造作に背中に垂らしている、腰まで届く長い尻尾。
    ”彼女”の、1番の外見上の特徴だ。

    今でも変わっていない。
    だからこそわかった。見つけられた。

    「やっぱり間違いない!」

    セリスは、より確信を深め。
    向こうの人込みの中に消えた彼女を、必死に追う。

    「はあ、はあ……待って、待ってよー!」

    人々の間を縫い、走って。

    「”命”さーん! 待ってー!」

    「…!」

    再び背中が見えたところで、セリスはそう叫んでいた。
    目的の人物が立ち止まり、振り返るのがわかる。

    その表情は、驚きに染まっていた。

    それはそうだろう。
    人込みの中で、いきなり”自分の名前”を呼ばれれば、驚きもする。

    「なんで私の名前を……誰? いま呼んだのは」
    「わたしだよー! はあ、はあ…」

    ようやく追いついたセリス。
    彼女の前で、肩を揺らして息を整える。

    「…? あなたは…」
    「わからない? ほら! ノーフルの町でお隣さんだった!」
    「ノーフルで…? あ、まさか…」

    セリスの言葉に、彼女も思い当たる節があったようだ。
    むぅ、と考え込んで、やがて、ぽんっと手を打った。

    「セリス! あなたセリスね?」
    「よかった覚えててくれたー!」

    覚えていてくれたことがうれしくて。
    セリスは彼女の手を取り、ブンブンと振り回した。

    ノーフル時代の、数少ない友人の1人。

    「すっごい久しぶりだね命さん!」
    「そうね。私が出て行って以来だから……3年ぶりくらい?」
    「うん!」

    長い黒髪を後ろで縛り、セリスのことを思い出して、柔らかな笑みを浮かべる彼女。
    彼女の言葉通り、実に3年ぶりとなる再会だった。


引用返信/返信 削除キー/
■267 / ResNo.27)   『黒と金と水色と』第12話@
□投稿者/ 昭和 -(2006/04/30(Sun) 00:56:26)
    黒と金と水色と 第12話「打倒、盗賊団!」@






    王都デルトファーネル、大通り。

    (さて、どうしようかな…)

    彼女、”宮瀬命”は、なにやら考え込みながら人込みの中を歩いていた。
    容易には判断がつかない、容易に判断してはいけない事項を抱えていたからだ。

    (本来なら、私1人で解決すべき問題ではあるんだけど…)

    ここまで、必死に追いかけてきた存在を、ようやく掴むことが出来た。
    場所もわかった。
    あとは乗り込んで、目的のものを取り戻すだけ。

    グッと、命は腰に下げた刀の柄を掴んで力を込めた。
    本当なら、もう一振りあるはずの、共打ち刀のことを思う。

    (聞いた話では、かなり大規模な組織だというのよね)

    やっと尻尾を捕まえたものが、構成員数百を数える、大集団ということも判明している。

    もちろん、目的のものを取り戻すには、その集団のアジトへと行かねばならない。
    話し合いで解決するわけも無く、当然、戦いになることを覚悟するべきだ。

    さあ、ここで問題。

    味方は自分1人のみ。
    ここまで自分だけで追いかけてきたのだから、当たり前である。

    単身で乗り込むべきか?
    それとも、誰か用心棒でも雇っていくべきか?

    (う〜ん…)

    命は悩んだ。

    何も、自分の実力に不安があるわけではない。
    これでも正規のライセンスを持つハンターである。
    下手なSランクハンターよりも強いという自負もある。

    誰かを雇うにしても、金銭的な面も、これまでハンターとして荒稼ぎしたそれなりの貯えがある。
    ひとりふたり程度なら、Bランクくらいの護衛は雇えるだろう。

    (どうしたものか…)

    ならば、何も悩むことは無いはずなのだが。
    どうにも決断できずにいた。

    そんなときである。

    「命さーん! 待ってよ〜!」

    「…!」

    背後から呼び止められたのは。





    「セリス! あなたセリスね?」
    「よかった覚えててくれたー!」

    自分を呼んだのは、水色の長い髪をした少女だった。
    不意に記憶が蘇り、名前を呼ぶと、セリスは手を掴んできて振り回された。

    「それにしても凄い偶然。なに、王都に出てきてたの?」
    「うん。お姉ちゃんも一緒だよ」
    「そう。エルリスは元気?」
    「もう元気いっぱいだよ!」

    しばし、懐かしい顔との再会に声を弾ませる。

    「そのエルリスはどこ?」
    「え?」

    そう尋ねられたセリス。
    ハッとして周りを見るものの、無論、そこに姉の姿は無い。

    「え、えっとー」
    「はぐれたのね? いえ、あなたの性格からして、私を見かけたから後先考えず、
     とりあえず私を追いかけてエルリスは置いてきた、というのが正解かしら?」
    「う…」
    「やっぱり図星か」

    急にオロオロし始めたセリスの様子に、命はひとつ息を吐いて。
    ズバリ言い当てた。

    「はぁ、変わってないわね。猪突猛進なのは相変わらずか」
    「う〜…」

    セリスが唸っていると

    「セリス!」
    「やっと見つけました」

    「あ、お姉ちゃんたち!」

    後を追いかけてきたエルリスたちが追いついてきた。

    「1人で勝手に歩き回らないでよ! 本当にはぐれたらどうする気?」
    「ごめんなさい…」

    当然の如く、怒られて。
    シュンとなってしまうセリスである。

    「でもでも、見つけた人には会えたんだよ!」
    「見つけたって…。そういえば、何を、誰を見つけたのよ?」

    「私よ」
    「…え?」

    姉妹の会話に割って入る命。
    エルリスは目をパチクリ。

    「……もしかして………命?」
    「そうよ、当たり」
    「わ〜!」

    正体を確かめると、妹と同様、目を輝かせる。
    そして、命の手を取った。

    「久しぶり! こんなところで会うとは思わなかったわ」
    「私も同じよ。まさか、ここで再会するとはね」
    「ホントそうよね〜。うわー、本当に久しぶり〜」

    取った手を振り回す。
    セリスと同じ反応に、命は苦笑していた。

    「う〜ん、どゆこと?」
    「どうやら、古いご友人に再会されたみたいですね」

    御門兄妹は、完全に置いてきぼり。
    状況から判断するしかない。

    「エルリスさん、セリスさん。紹介していただけると非常に助かるんですが」
    「あ、ごめんなさい」

    「…? そちらは?」

    環がそう声をかけ、命のほうも、初めて見る顔に首を傾げる。

    「お互いにはじめましてよね。えっと、こっちは、私たちの昔の友達、宮瀬命」
    「宮瀬命です」

    エルリスはそう紹介。
    命も軽く頭を下げた。

    一方で、御門兄妹は内心、顔をしかめていた。

    (”宮瀬”……か)
    (おそらくは……そうでしょうね)

    兄妹で目を合わせ、そんなことを確認し合う。
    名前から、同じく東方の出身だということがわかったからだ。

    本名を名乗ると、自分たちの名字から、素性がバレてしまうかもしれない。
    彼らの家は、地元のその道では高名なのだ。

    出来れば、隠しておきたいところなのだが。

    「で、こちらは、私たちの新しいお友達で、師匠でもある…」
    「師匠?」
    「あ、ハンターの師匠よ。私たち、ハンターの資格を取ったの」
    「えへへ、そういうこと〜♪ これが証拠だよ」
    「ふうん…」

    御門兄妹の懸念を知る由もなく、エルリスは紹介を続ける。

    途中で突っ込んだ命に対し、そう説明して。
    セリスは免許証を取り出して見せまでしたので、命は感心したように呟いた。

    「勇磨さんと環さん、すっごく強くて、Aランクにも余裕で合格しちゃったんだ〜」
    「Aランク…」

    さらにセリスから捕捉をされ、命は勇磨たちを見る。

    「御門勇磨です」
    「御門環と申します」

    兄妹は観念したのか、素直に本名を名乗った。
    水色姉妹には明かしているわけだし、今さら隠しても、隠し通せないとの判断だ。

    「ミカド…?」

    案の定、命は、思い当たる節があるという顔をする。
    やはり知っているのかもしれない。

    「あら命。勇磨君たちのこと知ってるの?」
    「いえ、会うのは初めてよ」
    「じゃあ、なんで反応したの?」
    「ええと、ほら。彼らも、私と同じような名前の構成だからさ」
    「ああ」

    エルリスは、名前を聞いて知っているような素振りを命が見せたことから、
    知り合いなのかと思ったようだが、そう言われると、納得したようだった。

    「そういえば、命も、東方の大陸出身なんだっけ」
    「そういうことよ」

    命も頷く。
    が…

    (やっぱり、知っているようだな)
    (ですね。まあ、これほどの腕前ならば、知らないほうがおかしいかもしれません)

    御門兄妹は、アイコンタクトにて、意志を疎通させていた。
    一目でわかるほどの剣の実力者。知らないほうがおかしいかもしれない。

    また、命も

    (ミカドって、あの”御門”よね。なんでこっちの大陸に?)

    2人について、語った以上の知識を持っているようである。

    「お姉ちゃん。せっかくまた会えたんだし、どこかでお話でもしようよ〜」
    「そうね。特に何かがあるわけでもないし」

    観光はどうした、と突っ込みたいところであるが。
    当のセリス自身の発案なので、気にしないことにする。

    「立ち話もなんだから、どこかお店にでも入る?」
    「うん、賛成! 命さんもいいよね?」
    「構わないけど、そちらの2人は?」
    「俺も構わないよ」
    「行きましょうか」

    命も、御門兄妹にも、異存は無いようだ。
    さて、どの店に入ろうか?

    「じゃあ、あのお店に行きましょう」
    「あの?」
    「あそこですよ」

    と、環の提案で、ある店へと向かった。





    中に入ると

    「にゃー」
    「にゃー」
    「にゃー」

    ネコが。

    『いらっしゃいませ、なの』

    喋れない少女が出迎えてくれる店。
    そう。少し前に、エルフのメディアに連れられて訪れた、あの店だ。

    「らっしゃい。お、なんだ。この前の一行じゃないか」
    「こんにちは。お邪魔させていただきますよ」
    「おう。お客様に文句はねえな。さ、座ってくれ」

    マスターにも迎えられて、適当に座る。
    今日もまた、店内はガラガラだった。

    「うちの味の虜になっちまったかい?」
    「そうかもしれませんね」
    「うれしいねぇ。常連客が増えるのは万々歳だぜ」

    人数分の水を差し出して、マスターは豪快に笑う。

    「ちょうどお昼前でもありますし、適当にランチを5人分、お願いします」
    「あいよ。チェチリアー! ランチ5人前!」

    『了解、なの』

    注文を済ませて。

    「命は、元気だった?」
    「まあね」

    水色姉妹と命の話が始まる。
    数年ぶりという再会のようだから、積もる話もあるのだろう。

    「あなたたちこそどうなのよ? ノーフルから出てきてるなんて、何かあったの?」
    「うん、まあね。色々あったわ」

    命からそう尋ねられると、エルリスは苦笑してみせる。
    それだけで命は理解したようだ。

    「…そう。まあ、元気そうで良かった」
    「うん、命も」

    微笑み合う。

    「エルリスさん」

    邪魔をするのもなんだが、このままでは時間がかかる。
    そう判断した環は、思い切って声をかけた。

    「宮瀬さんのこと、もう少し詳しく教えていただけませんか?」
    「俺たちも会話に参加したいぞ〜」
    「あ、ごめんなさい」

    勇磨も便乗し、エルリスはハッと我に返る。

    「”命”でいいわよ、お二人さん」

    命もこう発言。

    「じゃあ、俺たちのことも名前で」
    「ええ、そうさせてもらうわ」

    お互い、あの水色姉妹が気を許した相手だということで、
    初見ながらも、信用できる人間だと判断した。実にあっさりと決まる。

    「あ、命はね。昔、短い間だったけど、隣に住んでいたことがあって」

    笑顔で説明を始めるエルリス。

    「私たちが気を許していた、数少ない、ううん。当時は唯一のお友達で。
     命はそのときから強かったから、将来のこととか、少し相談に乗ってもらったの。
     剣の稽古をつけてもらったこともあるわ」
    「そういうことか」

    わりと深い交友関係だったようだ。

    「次は、勇磨君と環の紹介ね」

    続いて、エルリスは御門兄妹の紹介を行なう。

    「まだ私たちが旅立つ前、ひょんなことから出会ってね。
     無理やり頼み込んで、セリスともども弟子にしてもらったというわけ」
    「2人ともすごくて、いい人だよ〜」

    セリスも笑顔で言う。

    「2人がいなかったら、今のわたしたちはないよ」
    「ふうん。まあ確かに、勇磨君も環さんも、かなりの腕前みたいね。私でも敵うかどうか」

    命も凄腕の剣士。
    剣を交えずとも、相手の力量はそれなりにわかる。

    「いやいや、そこまで言われると照れるな」

    たはは、と頭を掻く勇磨。
    水色姉妹から笑みを向けられて、環も少し恥ずかしそうにしている。

    「ところでエルリス。あなたたちは、どうして王都に?」
    「ハンター試験を受けにね。そのあとは仕事に行ってきて、ちょうど帰ってきたところだったのよ」
    「へえ」
    「命さんは?」
    「私は…」

    セリスから尋ねられた命。
    思わず言葉に詰まった。

    これは自分1人の問題であり、気軽に話せるものではないことに加えて。
    恥部を晒すようなものだから、話したくないという気持ちもあった。

    「何か、あったの?」

    顔に出てしまったか。
    心配そうに尋ねるエルリス。

    「何か困りごと?」
    「困ってるなら相談してよ。昔、わたしたちの相談に乗ってもらったんだから、
     今度はわたしたちが命さんの相談に乗る番だよ」

    姉妹はそう申し出た。
    その人の良さに呆れつつ。

    「そう、ね…。困ってるといえば、困ってる」

    命は心中を打ち明ける。
    この人たちなら、話しても大丈夫だと、根拠も無しにそう思った。

    「ちょうどいいから、あなたたちに手伝ってもらおうかな」
    「ええ、是非」
    「わたしたちでよければ力になるよ。ねえ、勇磨さん環さん」

    急に振られた勇磨と環は、ここで振られるかと少し戸惑ったが

    「まあ、力になれるのなら」
    「微力ですが、お手伝いしましょう」

    乗りかかった船だ、と了承する。
    こんな展開が多いような気もするが、とりあえず無視である。

    「で、肝心の困ってることって、いったい?」
    「実は…」

    命の独白。

    彼女が持っている刀は『天狼』といい、宮瀬家の家宝なのだという。
    本当はもう1本、『海燕』という共打ち刀があって、それも所持していたそうなのだが。

    ふとした隙を衝かれて、盗まれてしまったんだそうである。

    もちろん、必死の必死に行方を探し回った。
    その結果。

    つい最近であるが、大掛かりな盗賊集団の仕業だということがわかり、
    その盗賊のアジトも突き止めて、取り返しに行こうとしていたところだそうだ。

    かなり大規模な盗賊団だということで、1人で行こうかどうか迷っていたところで、
    水色姉妹と再会。現在に至っているということである。

    「…情けない話なんだけどね」
    「許せないわ、その盗賊団」
    「そうだよ! ひとのものを盗むなんて、言語道断だよ!」

    話を聞いた水色姉妹は憤る。

    「わかった。ぜひお手伝いさせて」
    「いいの? 数が多いし、死ぬかもしれないわよ? それに、報酬だって」
    「ストップ。それ以上は言わないで」
    「うんうん。お友達を助けるのは当然で、お金の問題じゃないよ」
    「エルリス、セリス…」

    それなりの貯えはあるが、依頼の規模に見合っているかといえば、そうも言いがたい。
    あまり多くは用意できないと言おうとしたのだが、先に言われてしまった。

    ジ〜ンと来る。

    「勇磨さんと環さんも、いいよね?」
    「ここでそれを訊くか」
    「そうもいきません、と言いたいのが本心なんですけどね」

    苦笑の御門兄妹だ。
    ここで断っては、見返りを要求しては、完全な悪者。

    「ここのお勘定を持っていただければ、協力しましょう」
    「わかった。お願いするわ」

    随分と安い報酬になってしまったものだ。
    まあ、仕方ないか。

    「Aランクのあなたたちなら安心…って、そうだ。
     エルリスとセリスは、何ランクなの? 試験を受けたって言ってたけど」

    今さらながら、重要なことに気付く命。
    あまり低くては、助っ人どころか、早い話が足手まといだ。

    「勇磨君や環と比べられちゃうと、正直、手も足も出ないんだけど…」
    「それはわかるわよ。師匠なんでしょ?」

    聞きたいのはそういうことではない。
    実際のランクが聞きたかった。

    「あなたたちが持っているランクは?」
    「私もセリスも、その、Cランク」
    「ついこの前、合格したんだよ。ね、お姉ちゃん」

    「Cランク……。しかも上がりたて」

    命は、なんとも言えない表情になって。

    「……大丈夫?」

    と、心配そうに尋ねた。

    「相手は、曲がりなりにも有名な盗賊団よ? 生半可な技じゃ通用しないわ」
    「だ、大丈夫。済ませてきたお仕事も、森に入った野盗団の退治だったの。
     無事にこなしてきたから」

    「無事に……ね」
    「環! 話をややこしくしないで!」
    「はいはい」

    思わず苦虫を噛み潰す環に、エルリスは鋭い突っ込み。
    まあ、セリスの過度な魔法で、永遠の眠りに陥りかけてしまった者が続出したことが、
    『無事』だというのなら、無事は無事なのだが。

    「ははは。まあ、力はあるよ。師匠たる俺たちが保証してあげる」
    「本当に?」
    「まあね」

    笑いながら言われても、説得力は無い。
    命は疑いの眼差しだ。

    「”力”はね。圧倒的に実戦経験が不足していることも、間違いないんだけど」
    「確かに、そこいらの同ランクハンターよりは、遙かに強いでしょう。
     でも、まだどうにも、不安定なところがありましてねえ」

    「勇磨君! 環!」
    「わたしたちのこと認めてるのか、貶してるのか、どっちだよー!」

    「………」

    こんなやり取りを目にした命。

    「…早まったかな」

    と、半ば本気で思ったとか。


引用返信/返信 削除キー/
■268 / ResNo.28)  『黒と金と水色と』第12話A
□投稿者/ 昭和 -(2006/05/07(Sun) 00:06:18)
    黒と金と水色と 第12話「打倒、盗賊団!」A






    王都の南にある町リディスタ。
    一行はそこからさらに南下し、うっそうと茂る森林地帯の中へ。

    「う〜、なんかジメジメしてるところだね」
    「湿地帯みたいな感じなのかしら?」

    しかも、至る所に小川が流れ込んでいて、水色姉妹は億劫そうに言う。
    地面もなんだか水気を含んでいるような感じであり、
    『ジャングル』という表現がピッタリ来るのではなかろうか。

    「シーッ。静かに」

    そんな姉妹に対し、先頭を行く命が、口に手を当てながら、
    小声ながらも怒気を含んで言ってくる。

    「もうヤツラのアジトの程近くなんだから、注意して」
    「ご、ごめん」

    そうだ。
    ここはもう、盗賊団の領域なのだった。

    水色姉妹はハッとして我に返り、謝る。

    「まったく」

    道なき道を行く。
    行く手を阻む背の高い草を掻き分けると…

    「…! 隠れて!」

    命がそう指示。
    草の間からそ〜っと様子を覗き込むと…

    「見張りがいるわ。その向こうに、大きな建物がある」

    王城、とまではいかないが、かなり大きな建物が存在していた。

    こんなところにこのような大きな建物。
    人も寄り付かない森の奥だということで、これまで秘匿されてきたのだろう。
    命も、情報を掴むことが出来たのは僥倖であり、まったくの偶然だった。

    建物の周りを、高さ3メートルほどの塀が取り囲んでいる上に、背後は高い崖という天然の要害。
    唯一の出入り口であろう門にも、武装した見張りが2名、きちっと立っている。

    「ほ〜。これほどとは、なかなか」
    「感心してる場合じゃないでしょ勇磨君」

    独自に動いて、近くの木陰に身を隠しながら確かめた勇磨が、
    感心したようにこう漏らしたので、エルリスは苦言を呈する。

    「命さん。ひとついいですか?」
    「なに?」

    同じく様子を見ながら、環は命に質問。

    「まだ、その盗賊団のことを詳しく聞いていなかったと思いまして」

    ここまでは、すべてが命主導。
    盗まれた刀を取り返しに、ようやく情報を掴んだから乗り込むと、そう聞いただけ。
    アジトの場所も彼女が知っているのみだったので、黙って付いてきただけだった。

    組織の名前とか、概要とか、聞きそびれていたことを思い出す。
    攻め込む前に、大まかにでも知っておいたほうがいい。

    「見た感じ、ただの盗賊団ではないような気がしますが。なんという組織なんですか?」

    森の中に、これだけのものを造れるだけの組織力だ。
    そんじょそこらの盗賊団ではあるまい。

    「……」

    命は、少しだけ、言うか言うまいか迷ってから。

    「『カンダタ団』よ」

    吐き捨てるように、その単語を口にした。

    「カンダタ団…。なるほど」

    確かに”彼ら”ならば、これだけのものも造れるかもしれない。
    環は納得した。

    「知ってるのか?」
    「知っているも何も…」

    相変わらず無知な兄に呆れつつ。
    一応、説明してやる。

    「王国どころか、大陸全体にその名を轟かす、一大盗賊団ですよ。
     窃盗事件の8割以上に関与していると云われ、良くない噂がいっぱいです。
     どうやらここが、彼らの本拠地のようですね」
    「へえ、そうなのか」
    「って、そんな大物が相手だったの!?」
    「エルリス、声…!」
    「あ…」

    驚きのあまり、つい声を荒げてしまったエルリス。
    注意されて慌てて口を塞ぐものの

    「…ん?」
    「今、何か聞こえたか?」

    門を守っている見張りにも聞かれてしまった。

    「人の声だったような…」
    「気になるな。調べてみるか」

    気付かれたか?
    見張りの1人が、こちらに向かって歩いてくる。

    「どっ、どど、どうしようっ!?」
    「落ち着け!」

    水色姉妹はパニックだ。
    なだめるにも一苦労。

    「…やむなし」
    「命さん?」
    「まさか?」

    と、命がこんな発言。
    ひとつ大きく息を吐いて、決意に満ちた表情になった。

    環と勇磨が驚いたように、まさか、切り込むつもりか?

    「………」

    命が取った行動は…

    「にゃ〜ご」

    ネコの鳴き真似。
    けっこう上手だった。

    「…なんだ、ネコか」

    事実、見張りもネコだと思ったようで、早々に引き上げていく。

    「ふぅ。どうなることかと思ったわ」
    「…おつかれ」
    「…意外な特技をお持ちのようで、何よりです」

    冷や汗を拭う命。
    苦笑の御門兄妹。

    まさかこんな手を使うとは思わず。
    しかも、通用してしまうとは思わなかった。

    「ご、ごめんなさい…」

    そして、ひたすら平謝りのエルリス。
    いつもとは逆に、セリスからフォローを入れられる始末だった。

    とりあえず、その騒ぎが収まったところで、作戦会議だ。

    「どうします?」
    「どこかに、忍び込めそうな場所でもあればいいんだけど、あの分じゃ無理そうね」
    「となると、正面突破しかないか」

    自然に、御門兄妹と命の独壇場となる。
    水色姉妹は、さすがに先ほどの失敗で懲りたのか、口に堅くチャックを施しているようで、
    どんなことがあっても声を出さないぞとばかり、手で口を抑えて、目と耳だけで参加だ。

    「そうですね。良い機会ですから、徹底的に叩いてしまいましょうか。どうです兄さん?」
    「そうだな」
    「ちょ、ちょっと。あんまり事を荒立てられても困るわ」
    「大丈夫。兄さんと私とで当たりますから、命さんは刀を取り返すことだけをお考えください」
    「雑魚は俺たちで引き付けるよ。がんばってくれ」
    「わ、わかったわ」

    環の大胆な意見に、命は肝を冷やした。

    刀を取り返せればそれでいいのに、そこまでやる気など無いのに。
    環ばかりか、勇磨もその気らしい。

    命は大丈夫なのかと思いつつも、同意するしかなかった。

    「カンダタ団が潰れれば、世の中はもっと良くなります」
    「そこんところはよくわからんが、まあ、悪いことやってるヤツラを、みすみす逃すわけにはいかん」
    「……」

    つくづく、豪気な兄妹だと思う。
    まだ出会って間もなく、彼らの実力のほども正確にはわからない。
    が、命も剣士、ハンターの端くれ。

    他人の実力も、ある程度はわかるつもりだ。
    強気な言葉と、静かな表情の裏に秘められた、確かな自信を感じ取る。

    「確かに、カンダタ団が消えるに越したことは無いわね。お願いするわ」
    「ええ。コレはほとんどタダ働きですからね。その腹いせに暴れてやりますよ」
    「そ、そう」

    気を取り直し、改めて頼んでみるが。
    八つ当たりで潰されてしまうカンダタ団に、少し同情したくなった。

    「エルリスとセリスは、私と一緒に来て。援護を頼むわ」
    「「(コクコク)」」

    無言で頷く水色姉妹。
    そこまで徹底しなくても。

    「じゃ、行こうか」
    「まず私たちが正面に出て、彼らを引き付けます。命さんたちはその隙に、中へ入り込んでください」
    「わかった」

    「では、3、2、1…」
    「ゴー!」

    茂みから飛び出る御門兄妹。
    その間に、命ら3人は、左手のほうへと移動を始める。

    「うおっ!?」
    「なっ、何者――げはぁっ!」

    しかし、移動することも無かったようだ。

    「なんだ、てんで弱いでやんの」
    「準備運動にもなりませんでしたね」

    見張りの2人を、勇磨と環が一瞬でノしてしまったからだ。
    応援を呼ぶ時間すら与えなかった。

    「参ったわね、これほどとは」

    命はいい意味で驚きつつ、水色姉妹を引き連れて、彼らのもとへと向かう。

    不意を衝いたとはいえども、まったく無駄の無い、すばらしい飛び出し、動きだった。
    しかも、彼らの真価は、まだまだこんなものではあるまい。

    恐ろしさすら覚えつつ、歩み寄る。

    「ご苦労様」
    「いや。それよりも、気付かれる前にさっさと行こう」
    「そうね」

    慎重に様子を窺いつつ、門をくぐって敷地の中へ。
    広い庭が見渡せるが、見える範囲に盗賊の姿は無かった。

    「なんだか拍子抜けね」

    そんなことを口に出来る余裕すらある。
    苦労も何も無く、建物の入口へと辿り着いた。

    「ここで大声を出して、ヤツラを引き付けることも出来るが、どうする?」
    「やめておきましょう」

    建物内へ入る前に、勇磨がこんな提案をするが、首を振る環。

    「わざわざ誘き寄せずとも、そのうち寄ってきますよ。
     それに、最優先は、命さんが刀を取り戻すことですから」
    「そうか、そうだな」

    自分たちは、カンダタ団を潰すと宣言したが、闇雲にやってもしょうがない。
    命には大目標があるわけで、とりあえずは、余計なアクションは起こさないでおこう。

    「よし。じゃあ突入」
    「あ、兄さん。慎重に――」

    第一歩を踏み出した勇磨。
    環が忠告をするものの、勇磨は既に、一歩目を建物内に踏み入れていた。

    刹那。

    ガッコンッ!

    「――え?」

    大きな音を立てて、一歩目を着地させるはずの床が、ぱっくりと大穴を開けたのだ。
    当然、そんなことが起きるとは思っていないわけで。

    「おわあっ!?」

    目標物を失った足は、重力に従い、下へと落ちていく。
    脚部に連れて、身体も前のめりに倒れていき、穴へと飲み込まれていく。

    「くっ――!」

    急いで何かに掴まらなければ!
    咄嗟にそう思った勇磨。身体を捻り、後ろにいた誰かの手を掴む。

    「…え?」
    「あ」

    だがしかし。

    掴んだ手は、思いのほか、華奢な手で。
    彼女の表情は、驚きに染まっていて。

    環か、少なくとも命だったのなら、最悪の事態は回避できただろうか。

    とにかく、現実に勇磨が手を掴んだ相手には、無理なことで。

    「きゃぁぁああああ〜〜〜〜!!!」
    「いきなり落とし穴とはぁぁあ〜〜〜!!!」

    2人揃って、闇の中へと消えていった。


引用返信/返信 削除キー/
■270 / ResNo.29)   『黒と金と水色と』第12話B
□投稿者/ 昭和 -(2006/05/14(Sun) 00:18:11)
    黒と金と水色と 第12話「打倒、盗賊団!」B






    勇磨とエルリスが落ちていった穴は、そのまま開いている。
    残される結果になった3人、しばし、呆然として。

    「たっ、大変――もがっ!」
    「落ち着きなさい」

    真っ先に声を上げたのがセリス。
    だが、すぐに環によって口を塞がれた。

    「分断される結果になった以上、下手に騒ぎ立てて、賊に集まってこられるのは下策です」
    「確かに」

    命も頷く。
    こうなった以上は、極秘裏に行動したほうがよい。

    「な、なんで2人ともそんなに冷静なの?」

    とりあえず、一時の興奮状態は抜け出したセリス。
    口を離してもらうと、オロオロしながら言う。

    「お姉ちゃんと勇磨さん、落っこちちゃったんだよ?」
    「まあ、大丈夫でしょう」
    「へっ?」

    環からの返答に、セリスはマヌケ面を晒した。
    はぐれてしまったというのに、何が大丈夫だというのだろう?

    「これが、エルリスさん1人だった場合や、あなたがた姉妹2人だけ、とかだったら、
     私も慌てたでしょうけどね。兄さんが一緒ですし、問題は無いです」
    「え、えと…」
    「ああ、問題が無いわけじゃないですね。あれほど慎重にと言ったのに、兄さんは…。
     いきなりトラップに引っかかるとは、なんと情けない」
    「そ、そういう問題でもないと思うんだけど…」

    たらり、と冷や汗を流すセリス。
    論点がずれていると思うのは自分だけなんだろうか?

    「大丈夫よ」
    「命さん…」

    続けて、命からもこんなことを言われる。

    「エルリスの、ましてや勇磨君の実力は、私よりもあなたのほうがよくわかってるでしょ?
     私たちからはぐれたからって、たかが盗賊相手に、破滅的な状況になると思う?」
    「それは……勇磨さんと一緒なら、大丈夫だとは思うけど…」
    「なら、信頼しなさい。彼らは彼らで、出来ることをするでしょうし。
     私たちも、私たちに出来ることを全力で遂行するのみよ」
    「……わかったよ」

    ようやく、セリスも納得して頷いた。

    「さて、これからどうするか、ですが」
    「この穴を飛び越えるのは、ちょっと無理そうね」

    開いたままの穴を見る。

    向こう側までは、少なく見積もって5メートルくらいはありそうだ。
    不可能な距離でもないが、一か八かのギャンブルに出るには、少し危険すぎる。

    「仕方ないわ。ここから侵入するのは諦めて、別の入口を探しましょ」
    「そうだね、それしかないか」

    命とセリスは話し合ってそう決め、踵を返す。
    が、環はそのまま動こうとしない。

    「環?」
    「環さん?」

    声をかけられた環は…

    「お二人は、別の入口を探してください」
    「え?」

    そう言い残すと

    「はっ!」

    軽く助走をつけ、止める間もなくジャンプ。
    ものの見事に穴を飛び越え、着地も綺麗に決める。

    「……うそ」
    「す、すごい…」

    茫然自失の命とセリス。
    まさか、飛び越えてしまうとは。

    「ものすごい跳躍力…」
    「環さんって、実は走り幅跳びの選手だとか?」
    「そんなことはありませんが」

    驚いている2人を尻目に、当の環は、当たり前だとでも言わんばかりの冷静な表情で、
    乱れてしまった髪の毛を直している。

    「私はこのまま進み、可能ならば兄さんたちとの合流を目指します。
     あなたたちは、別の入口から侵入して、目的を達してください」
    「え、ちょ…」
    「ではそういうことで」

    再び止める間もなかった。
    環はそう言い残すと、小走りに奥のほうへ駆けていってしまう。

    「ふぅ、まったくもう」
    「環さん、1人で大丈夫かな…」
    「彼女の力は知ってるんでしょ? 心配するだけ無駄よ」

    命は、環を心配しているセリスに、呆れながら言葉をかけつつ。
    他人の心配をしている余裕など無いと思う。

    (絶対、取り戻すんだから…)

    危険を冒してまで、盗賊のアジトに乗り込んだ目的。
    それを達成しなければ、まったくの無意味なのだ。

    「行くわよセリス。別の場所を探さなきゃ」
    「あ、うん。お姉ちゃん、勇磨さんも環さんも、無事でいてね」

    2人もその場を後にし、内部へ侵入できる別の入口を探しに向かった。





    ぴちょっ

    「冷てっ」

    顔に落ちてきた冷たい感触に、勇磨は意識を取り戻す。

    「ここは…」

    目を開けてみても、閉じている状態と変わらなかった。
    つまり、まったくの暗闇。明かりひとつ見えない。

    (どうやら、かなりの地下みたいだな)

    上を見上げてみるが、落ちてきた穴が確認できない。
    相当の距離を落とされたか、穴がカーブ状だったのか、あるいは、すでに塞がってしまったのか。

    (そういえば、誰かを巻き込んじゃったような…)

    落ちる直前、誰かの手を掴んだ覚えがある。
    自分がここにいるとなると、不幸なことに、一緒に落ちてしまったと考えるのが妥当だろう。

    (確か、水色の髪だったから……エルリスかセリスになるな)

    ちらっと見えたのは、水色の髪の毛だった。
    姉妹のどちらだったかは、一瞬だったので判別できない。

    周りを見るが、もちろん真っ暗なので、姿は見えない。

    「エルリス! セリス! いたら返事をしてくれ!」

    「……こ、こっち」

    「その声はエルリスか!」

    大声で叫ぶと、反応があった。
    勇磨から見て右前方から。この声質はエルリスのもの。

    「無事か? 怪我は?」
    「今のところは平気みたい…」

    慎重に歩み寄りながら声をかける。

    「そうか良かった。すまん、巻き込んでしまった」
    「本当よ…」
    「申し訳ない」

    エルリスを巻き込んでしまったのは、完全に勇磨の責任である。
    平謝りだ。

    エルリスは拗ねたような、怒ったような声である。

    「えっと、このへんにいる?」

    とりあえず離れているのはまずいと思い、ゆっくり近づいてきたのだが。
    とにかく暗黒の世界なので、勘と声、気配から位置を探るしかない。

    「エルリス?」
    「あ、だいぶ近いわ。もう少しだと思う」
    「こっち?」

    手を伸ばす勇磨。
    すると…

    ふにっ

    「……ふに?」
    「きゃあっ!」

    柔らかい感触を感じるのと同時に、悲鳴が上がった。

    「ど、どこを触ってるの!」
    「うわわっ、ご、ごめん申し訳ない!」
    「エッチ!」
    「そんなつもりじゃないってば! 何も見えないから……と、とにかくごめん!」

    ちょっとした混乱。
    だが、お互いに相手の位置を知ることは出来た。

    「……ここはどこかしら?」
    「わからない」

    落ち着くと、エルリスが不安そうに漏らす。

    「アジトの地下だ、ということは間違いないけど」
    「なんにせよ、早く脱出しなきゃ。命たちのことも心配だわ」
    「ああ」

    取るべき行動はひとつ。
    ひとつ、なのだが…

    「でも、こう暗くちゃね」
    「ええ…」

    この真っ暗闇では、迂闊な行動は許されない。
    どこに何があるのかわからないし、再びトラップに引っかかると致命的だ。

    「そうだ。明かりを灯す魔法ってのがあるんだろ? 出来ない?」
    「…ごめんなさい」
    「そっか。いや、謝らなくてもいいからさ」

    名案を思いついた、思い出したと思ったのだが、実行不可能だった。
    エルリスが本当にすまなそうに謝るので、思わずフォローを入れてしまう。

    彼女が、「氷魔法以外はダメ」と言っていたことを思い出し、軽く後悔する。

    「う〜ん、どうしたものか」

    脱出するにも、構造を把握できなければどうしようもない。
    まず第一に、この暗闇を打破するための作戦を練らなければ。

    (手が無いわけじゃないんだけど…)

    チラリと、エルリスを窺う勇磨。
    いや、見えないのだが、エルリスがいるであろう方向に視線を送る。

    (”アレ”を見られるのは、ちょっとな…)

    その策を実行すると、エルリスに、自身の重大な秘密を知られてしまうことになる。
    まだ誰にも告げていない、家族以外は誰も知らない、自分たちの秘密。

    しかし…

    (どうしたものか…)

    自分1人だけならば、まだどうにでもなる範囲ではあるのだが。
    今はエルリスが一緒なのだ。脱出も、エルリスと一緒でなくてはならない。

    となると、考えられる手立ては、”それ”しかなかった。

    「…勇磨君?」
    「え?」
    「急に黙っちゃって、どうしたの?」
    「ああ、いや、なんでもないよ。どうしたら助かるか、考えてただけ」
    「そう」

    不意にエルリスから声。

    「ごめんなさい。私は、力になれそうもないわ」

    悲しそうに、悔しそうに。
    エルリスは謝るのだ。

    「ごめんなさい…」
    「エルリス…」

    これに、心を打たれた勇磨は。

    (背に腹は代えられない)

    決意を固めた。

    もともと、エルリスを巻き込んでしまったのは自分のせいなのに。
    彼女が謝る必要など、微塵も無いというのに。

    助けるのは自分の責務。
    何があっても助けなくてはならない。

    手段を選んでいる場合ではなかったのだ。

    「エルリス、立てる?」
    「え? え、ええ。立てると思うけど……どうして?」
    「少し、俺から離れていてくれ。ちょっと衝撃があるから」
    「ど、どういうこと? 何をするつもりなの?」
    「もちろん、脱出するための手段だよ」

    慌てるエルリスに、そう言い切って。
    見えないだろうが、笑顔を向けた。

    「…わかったわ」
    「信じてくれる?」
    「当然でしょ? あなたは私たちのお師匠様で、お友達なんだから」
    「ありがとう」

    頷くエルリス。

    問われるまでもない。
    むしろ、訊かれるほうが心外なのだ。

    立ち上がろうとしたのだが

    「…痛ッ!」
    「エルリス?」

    右足に体重をかけた途端、鋭い痛みに襲われる。
    思わずうずくまってしまうほどの激痛だった。

    「まさか怪我を? 足か?」
    「ええ、足首…。残念だけど、ちょっと立つのは無理みたい…」
    「重ね重ね、ごめん、俺のせいで」
    「もういいわ。それより、どうするの?」

    落ちた拍子に捻ったか、骨にまで達した怪我なのか。
    今の今まで気付かなかったが、かなりの重傷であることは間違いない。

    気付いた途端、ズキズキと痛みが襲ってきた。
    耐えられないというほどでもないが、辛いものは辛い。
    思わず顔をしかめる。

    いずれにせよ、立ち上がるのは無理。
    言われたとおりに、勇磨から離れるのも不可能だ。

    「…しょうがない。失礼するよ」
    「え? あっ…」

    と、急に身体を持ち上げられる感覚。

    「怪我をしていることもあるし、下手に距離を取るよりも、密着してたほうが安全だから。
     緊急事態ってことで許して。ね?」
    「え、ええ…」

    エルリスは返事こそ返したものの、脳内はパニック状態だ。

    (こ、これ……これって……)

    おそらくは勇磨の手の感触だろう。
    それが、背中と、膝の裏に感じられる。

    (抱っこされてるの、私…)

    いわゆる、”お姫様抱っこ”の格好だ。
    少なからず憧れはあるものの、実際にやられてみると、死ぬほど恥ずかしかった。

    「じゃあ、やるよ。最初は目を閉じてもらったほうがいいかもしれない」
    「…え? な、なんで?」
    「近いし、ちょっと刺激が強いかもしれないからさ」
    「………」

    疑問に思わないことも無かったが、エルリスは素直に目を閉じた。

    「では……。はぁぁ…っ!」
    「……」

    見えなくても、感じることは出来る。
    だからわかる。

    (勇磨君、力を入れ始めてる…)

    集中し、力を込めている。
    なんのために力を必要とするのか、まったくわからないが、不思議と恐怖心は無かった。

    (私は、勇磨君を信じるしかないもの…)

    むしろ、全幅の信頼感でいっぱいで。
    安心して目を閉じていられた。

    「……はあっ!!」

    「…!」

    瞬間、全身が、熱い何かに貫かれるような感じがして。
    それは、すぐに優しい温かさに変わって。

    (これは……なに? すごくやさしい、あたたかい……。
     これが勇磨君の力? 勇磨君の心?)

    なまじ密着しているだけに、よくわかった。
    今、自分を包み込んでいるものこそ、勇磨の力の根源なのだと。

    「もういいよ」
    「……」

    夢心地でいると、勇磨から声が降ってきた。
    エルリスはゆっくりと目を開いていく。

    キラッ

    「……え? まぶし…」

    真っ先に飛び込んできたのは、黄金色に輝く眩いばかりの光。
    暗闇に馴染んだ目には眩しすぎて、いったん目を閉じ、もう1度、ゆっくりと開く。

    「……金色だ」

    見間違いではなかった。
    周囲を、黄金の光が取り囲んでいる。

    段々と目が慣れていくに連れて、他のものも見えるようになってきた。

    「大丈夫?」
    「ええ。……え?」

    勇磨の顔も見える。
    だが、エルリスは、今度ばかりは自分の目を疑った。

    なぜなら…

    「勇磨……君?」
    「うん」
    「あなた……髪の色………目、も……」
    「うん」

    髪の毛も、瞳の色も、漆黒だったはずの勇磨が。

    「きん、いろ…」
    「うん」

    周囲の光と同じ、黄金に輝いていたのだから。


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