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■34 / 親記事)  〜天日星の暖房器具〜
  
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/09(Tue) 00:39:38)
    2005/02/03(Thu) 02:07:32 編集(投稿者)

    〜第一節〜
    <宿命の日>


    「果たし状は送ったわ・・・。」
     もうすぐ日が暮れようとしている頃、学校の屋上には、一人の少女姿があった。
    赤い髪に赤い目をした、特徴的な容姿で、少し幼さも見られる。
    その赤み帯びた髪は、乱雑とも思えるほどめいいっぱいに伸ばされていたが、
    周りに不快感を与えるようなものではなく、むしろ自然体で、景色に溶け込んでいる。
    彼女の名はユナ・アレイヤという。
    15歳の頃にすでに一般的な炎系統の魔法を全て習得し、学校でも1、2を争う実力の持ち主と云われている。


     ユナは、今朝方、彼女の友人であり宿命のライバルである、エルリスに果たし状を出している。
    差出方法は、古風にもエルリスの下駄箱に手紙を入れておくというものだった。

    『月が満ちる今宵、古より定められし運命のもと、
    どちらが、最強であるか決着をつけましょう。
    放課後、学校の屋上にて貴女をお待ちしています
                      ユナ    』

     エルリスは、ユナの家と因縁の深いハーネット家の娘で、学校でも少々問題視されるほど目立つ存在である。
    彼女はユナと対峙するように、水色の髪に青い瞳をしていて、意思のしっかりしてそうな聡明な顔立ちをしている。
    彼女もユナと同様に後ろに髪を伸ばしているが、ユナほどめいいっぱい伸ばす事はせず、きちんとまとめられている。
     

     アレイヤとハーネットの長子にあたる者は、500年に一度訪れる、満月の夜に命をかけた決闘を行うことが義務づけられている。
    8000年もの間、破られたことに無い取り決めではあるが、このことは公にはなっておらず、隠密のうちに行われている。

     
     屋上に一筋の風が吹く。
    風はユナの髪をたなびかせ、何事も無かったように過ぎ去って行った。
     ユナはもう一度つぶやく・・・
    「果たし状は送ったわ・・・。なのに・・・なのに(じわっ)、なんでエルリスは来てくれないの〜!(ぐすん)」
     季節は変わり、まもなく冬が到来しようとしている。
    再び屋上に一筋の風が吹く。彼女がここへ来てから一体どれだけの風が通過して行っただろうか。
    風はユナの髪をたなびかせ、何事も無かったように過ぎ去って行った。


     一方そのころ、エルリス邸にて・・・
    「う〜〜〜〜〜〜〜(ゴホゴホ)」
    「お姉ちゃん大丈夫?」
     エルリスは、風邪を引いて寝込んでいた。
    「うん・・・明日には直ると思うよ・・・私の独断と偏見がそう言ってるわ。」
    「独断と偏見・・・。」
    「そうよ。そして、明日にはきっと元気に登校してやる!(えっへん)」
    「もう・・・無理しないでよ・・・。」
    「分かってるわよ。」
     部屋は、セリスの愛情でいっぱいの暖かい空気で包まれていた。

引用返信/返信 削除キー/
■35 / ResNo.1)  〜第2節〜<いつも通りの朝>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/09(Tue) 00:42:08)
    2005/02/03(Thu) 02:11:19 編集(投稿者)


    〜第2節〜
    <いつも通りの朝>

     エルリスは、今日もすがすがしい朝を迎えることに成功した。
    彼女は、日ごろの行いが良ければ、神からこの清々しい朝を褒美として貰えると信じている。
    朝が清々しいと、一日が晴れ晴れとしてくる。
    だから、エルリスは清々しい朝が大好きだ。
    そのために彼女は毎日良い行いをし続けようと努力している。
    独断と偏見という、彼女にとっての絶対無比の基準の上では。


     セリスは、今日も姉と自分の分の朝食を用意していた。
    今日の朝食は彼女自慢の料理の一つである、サニーサイドアップ〜セリスすぺしゃる〜。
    病み上がりの姉を気遣い、出来る限りの御馳走を・・・と一身に願って作られた食事である。
     ところが・・・準備が完了し、あとは食べるだけだというのに、
    当の本人である姉を中々見つけることが出来ない。
    大抵の部屋は探してみた。でも、見つからない。
    でも、大丈夫だ。そういう時、エルリスは決まっている場所があるから。




     狭いながらも温かみのある家の屋根の上で、エルリスはのびのびと日光浴をしていた。
    セリスは、そっと姉の横顔を見つめる。姉のそれは天使のように思えた。
    気味地よさそうな姉をそっと眺めながら、セリスはふと思う。
    『いつまでも、こうしてのんびりしていられたら・・・』
    しかし・・・こんな平和な時間が、いつまでも続くわけではないのはよく理解している。
    ・・・本当にこれだけは手放したくない・・・・・・
    かなわない夢、いや・・・叶えるわけには行かない夢・・・



    だって、朝食が済みしだい、2人は学校へと発たねばならないのだ。
引用返信/返信 削除キー/
■37 / ResNo.2)  〜第3節〜<ユナさんご立腹>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/09(Tue) 17:18:21)
    2005/02/03(Thu) 02:15:26 編集(投稿者)

    〜第3節〜
    <ユナさんご立腹>


     エアーシューターという名の携帯式の移動手段がある。
    見た目は、スノーボードと同じであるが、これは雪の上を滑るのではなく、空気の上を滑る。
    そのスピードはおおよそ20〜30キロメートル/時間なのだが、
    動力に使用者個人の魔力を用いているので、使用者の魔力とエアーシューターのスピードはある程度比例関係にあった。
    開発者としては、平均的な魔力を計算して作り、安全性には万全を規したつもりだったのだが、
    一部、尋常になく高い魔力を行使できる者(例えば、エルリスとか・・・)が、
    時速200キロメートルオーバーで使うものだから、エアーシューターは学校内で問題視され、
    校則で平等に全校生徒みな使用禁止という処置がとられた。
    生徒側は、これに対し相当の不満があった。そもそも一部生徒(てか、エルリス)が、暴走しているだけで、
    大抵の生徒は、けして危険な行動をとりたくてもとれないし、完全なとばっちりだったからである。


     
     朝をのんびり過ごし、結局遅刻決定の時間帯に出発したエルリスとセリスは、
    問題のエアーシューターに乗って、時速360`で学校へと向かっていた。
    エルリスが操縦し、セリスはエルリスにつかまっている形である。
    こうすれば、高速の電車で1時間半かかる距離が、僅か23分に短縮される。
    遅刻どころか、余裕で学校にたどり着く計算であった。
    つまるところ、エルリス一人のために作られた校則は、エルリス一人が違反するため、事実上無意味な縛りだといえた。
    よい行いをする事を目指しているはずなのに、堂々と校則違反をする彼女にもそれなりの正義があった。
    罪の重さが
    遅刻>>校則違反
    なのである。
    『>>』は極めて差が大きいとき使われる不等号で、少なくとも1000倍以上の違いがると思って差支えがない。
    『遅刻なんて、毎日、毎日、熱心に授業に挑まれている先生に対して失礼じゃない。』
    その罪に比べれば、校則違反などとるに足らない罪だというのである。
    もっとも、遅刻はしないが別に授業を熱心に聴くわけじゃない。むしろ居眠りしていることが多い。
    だって、つまんないし・・・。
    なお、この校則は操縦者のみを対象にしているので、セリスは校則違反にならないし、
    そもそもエルリスには、家を早めに出るという気が毛頭無い。



     エルリスはセリスの前ではやさしいお姉さんなのだが、どうも他人には容赦が無い。
    「エルリスぅ〜!!!なんで、来なかったの!どんな大罪をしでかしたか判ってるの?」
     昼休み早々、ユナがエルリスを半泣きで問い詰めてきた。
    ユナが問い詰めるのは、昨日の決闘をすっぽかしたことに対してである。
    もっとも、エルリスにしてみれば、主語が抜けているので何のことかわからない。
    でも、一応受け答えはしておこうと感じたらしい。
    「・・・。だって、めんどくさかったから・・・」
     ユナが凍る・・・。
    ・・・。
    ・・・。
    ・・・。
    ・・・っ(じわ)
    「そんな・・・8000年も前から続く宿命だから、人生最後のつもりで待ってたのに・・・手紙もきちんと丁寧に書いたし・・・」
     どうやらショックが大きかったようだ。この手紙にかける意気込みは相当大きいようだ。
    「あ、手紙?そういえば今朝下駄箱に入っていたわね。」
     とりあえず、場の湿った空気を受け流す形で、
    エルリスは未開封の手紙をポケットから取り出した。
    「って、めんどくさいって、そこから!?(怒)」
     それは、むしろ逆効果だったのではないだろうか・・・
    ユナは、たしかに立ち直った。しかし、今の彼女を支配しているのは、鬼神のごとき怒りである。
    ところが、エルリスはあまり気にした様子を見せていない。
    「まぁ、待てユナ。今から読んであげるから。(どれどれ)」 
    「・・・。」
    「・・・。」
    「・・・。」
    「・・・ふむふむ。」
    「ユナ。これ、今からじゃ間に合わないんじゃない?」
     エルリスにとっては当然で、ユナにとっては信じられない感想をもらした。


引用返信/返信 削除キー/
■40 / ResNo.3)  〜第4節〜<歴史の影>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/10(Wed) 16:11:29)
    2005/02/03(Thu) 02:18:35 編集(投稿者)

    〜第4節〜
    <歴史の影>


     この世界では満月の夜は500年に1度しかやってこない。


    「たしかに・・・当日に誘った私も悪かったよ・・・もっと早くに出しておけばよかったんでしょ?」
     ユナは、ため息をついて言った。何かと高いテンションを維持していた彼女にとって、
    今のテンションは、3年に1度あるかないかの落ち込みようで、普通の人の換算したら3日間は寝込んでいる。
    ユナのアレイヤ家と、エルリスのハーネット家では、8000年も前から一つの決まりごとがあった。
    『500年に一度、満月の夜に、両家の長子同士で決死の戦いをし、必ず勝利者を決めること。』
    いわゆる生死を賭ける決闘である。つまり、本来であれば、翌日の朝を迎えることが出来るのは両者のうち一人だけであった筈で、
    引き分けの場合でもその場合は二人ともこの世にいないだけの話で、二人とも生存していることは理屈上ありえない事である。
    ユナには義理の兄がいるわけなのだが、その義兄はアレイヤの血統ではないため対象にならない。
    これは、8000年間一度も欠かされたことがない行事であり、歴代の当事者は幼いころから覚悟していたことである。
    もちろんユナも覚悟を決めていた。決闘場所は、親の代から何度も開かれている会合で決められていたし、ユナもそこで待っていた。
    しかも、念のため手紙だって出したのである。
    それなのに・・・結果は、この行事を欠かしてしまったのだ。
    8000年間の続いた歴史を自分の代で欠けさせてしまったのである。これでは先祖にも祖先にも合わせる顔がない。
    「ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(ず〜ん)」
     ユナは相変わらず落ち込んでいある。
    そんなユナの様子に心を痛めたのか、エルリスはそっとユナの肩に手をのせ、
    「気にしないで。私が許してあげるから。」
     と、落ち込むユナを慰めた。
    「エルリス・・・うん、ありがとう。その言葉だけでも私は救われ・・・?????
    あれ?もしかしてエルリス。今回の件、私が全面的に悪いみたいなこと言ってない?」
    「ええ。あなたが全面的に悪いわ。」
    「ちっ、違うって!これは、私の問題じゃなくて両家の問題なの!!本来であればエルリスは、私の誘いがなくたって来るべきだったの!
    てか、絶対全面的に悪いのは、エルリスなんだから!」
    「そんなの私は知ったこっちゃ無いわよ。無駄に命を削るような行事、今の社会風潮にあわないわ。
    第一、そんな事をしたら負けるの決まって私だもの。
    美人薄命っていうでしょ?私があなたより長き生きられるわけないの。
    それに、あれって500年の周期でしょ?そんなに間があったら忘れるに決まってるじゃない!」
     エルリスはやれやれとため息をついている。完全に開き直っていた。 
    「美人薄命・・・それはどういう意味ですか(ぷるぷる)
    ???って、・・・決闘のこと忘れてたって?どういうつも・・・(もぐもぐ)」
     ユナが叫びだそうとしたところ、突然エルリスに口を塞がれた。
    文句をいっぱい言いたいところなのに・・・
    『しっ・・・静かに』
     エルリスが小声でユナを静止させる。突然の変わりようにユナは驚きを隠せないでいた。
    『やはり監視されているわね・・・。』
    『監視???』
    『そうよ。どうやら決闘の行事には監視団がいるようね。現在、両者が無傷で生き残っている。
    普通この場合、監視団の連中は昨日戦っていないのではないかと、あらぬ疑いをかけるでしょうね。』
    『・・・。あらぬじゃなくて本当に戦っていないんだけど・・・。』
     ユナは盛大にため息をついた。
引用返信/返信 削除キー/
■43 / ResNo.4)  〜第5節〜<レイヴァン様登場>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/12(Fri) 17:56:33)
    2005/02/03(Thu) 02:37:35 編集(投稿者)

    〜第5節〜
    <レイヴァン様登場>


    「ユナ、今すぐここから逃げるわよ!」
     監視しているものたちの視線はエルリスによると、
    『これは私に対する羨望のまなざしや、憧れの視線、美人な私に対する同姓の嫉妬のこもった視線と、いう類ではないわ。』
     とのこと。
    言い回しはともかく、状況判断や分析する能力がエルリスは、優れていることをユナも認めている。
    その彼女が顔をしかめる程の事態は普通ではない。
    「わかった。エルリスの言うとおり逃げた方がいいと思う。午後の授業どころじゃないし。」
    「理解したようね。さっそく2人で逃げるわよ。」
     エルリスの言うことはおそらく正しいのだろうとユナは思った。
    監視団は、間違いなく当事者である自分たちを見張っている。
    だから、自分たちがここから逃げる必要があるのだろう。
    でも・・・
    「逃げる前に、兄様に事の次第を伝えておかないと。」
     そう言ってユナは、上の階へ上ろうとしていた。この学校は、学年が上がるごとに上にクラスルームがある。
    エルリスとセリスは姉妹であれど双子であるから同じ階層にいる。
    しかし、7歳年上のユナの義兄は、7階上の階にいることになる。
     この学校は、いわゆる小学校から大学までがくっついているタイプの学校で、
    田舎などに見られるベーシックタイプの学校である。
    学園都市や、都会に行けば、魔術を学ぶための学校、剣術を身につけるための学校、歴史について研究する学校など、
    多種多様な学校があり、3年ごとに色々な属性の学校に転向できる制度になっているが、
    こうした田舎では、人数が少ない事から、そのようなレパートリーは無く、一種類しかない。
    「待ちなさい。その兄様は、研究のため下宿中のはずでしょ!」
     エルリスはえらく慌ててユナを制止する。このことは学校中の誰もが知っている。
    だって、ユナが『さびしぃ〜よぉ〜〜〜さびしぃ〜よぉ〜〜〜さびしぃ〜よぉ〜〜〜さびしぃ〜よぉ〜〜〜』
    と、義兄がいなくなった3日前から、学校のあらゆるところで唸っていたからである。
    「そうか・・・じゃあ隣町までちょっと行ってくるね。」
     ユナは、あらぬ方向に考えを改めた。
    「ダメよ。今、一人で行動するのは危険だわ。」
    「でも・・・最愛の妹が、突然居なくなったら兄さん心配するだろうし・・・」
    「私もセリスと逃げたいけど我慢するんだから。あんたも我慢なさい。」
     わけがあって慌てていたエルリスは、捲くし立てるような勢いと慌てぶりを乗せて、ビシッとユナに向けて指を刺した。
    しかも、もはやユナの天然ボケに突っ込む余裕もなかった。
    「ハハハハ!!!」
     その時、突如背後から謎の男の笑い声飛んできた。
    しかも、その声はエルリスのもっとも恐れていた声であったりする。
    今は昼休み、この学校の生徒は例外なく食い意地が張っているので、
    よほどのことがない限り全員が食堂に出向いている時間帯だ。
    笑いの主が普通であるならば、自分たちのようにここに居るわけがない。
    エルリスだって、ユナが無理やり止めなければ食堂で至福の時を過ごしていたはずである。
    「フフフフ・・・事情は理解した。だが安心しろユナ。最愛の兄はここに居るぞ!」
     もはや説明不要の謎の男は高々と宣言した。エルリスは、
    『レイヴァン・・・こいつは・・・・・・』
     と、ただただ頭を抱えているだけだった。正直エルリスは、ユナの義兄レイヴァン・アレイヤの事が苦手であった。
    「なんで、あんたがいるのよ。」
     エルリスは、妹のピンチを白馬のように駆けつけてくれたんだと
    自己陶酔して涙を流しているユナを無視して少しイライラ声で言った。
    「ああ、俺のシックスセンスがここに来いと言って聞かなくてな、案の定危険な状況のようだな。」
    「フン。まがいものの第六感があれこれ言うわけないじゃない。」
     エルリスは、レイヴァンの軽い発言に対し、氷柱で貫いてやるくらいのつもりで返した。
    エルリスとレイヴァンは、互いに互いの秘密を握っている。
    今回、レイヴァンがここへやってきたのはシックスセンスに導かれたという偶然の産物ではなく、
    計算されつくした出来事であった。なぜならば、レイヴァンは研究のために隣町になど本当は行っていないからである。
     エルリスの言葉に意味を感じ取ったレイヴァンは苦笑して言った。
    「ハハハ・・・お見通しか。どうりで昨夜来なかったわけだ。」
    「あれと、これとは別よ。あんたが何しようと勝敗は変わらなかったはずよ。」
     エルリスは、レイヴァンを睨んでいる。もともと彼女と彼は仲がよくない。
    「おっと・・・睨まれても困るな。君と私は手段が違えど目的は同じなのだからな。」
     レイヴァンは、全てお見通しなのはエルリスだけではないと含みを持たせ、言い返した。
    その口調や見た目は『What?』という感じでとぼけているが、目は据わっていた。
    それは、自分の義妹を道連れにすることで、セリスに害がないようにもっていこうと考えたエルリスに対する憎しみの気持ちがこもっていた。
    エルリスと彼は、2年も前から互いを監視する状況にある。
    エルリスにとっての本当の敵は、決闘する宿命にあるライバルのユナではなく、
    レイヴァンであるといって過言ではない。
    そんな彼には、エルリスの考えていることなど用意に読み取れる。
    そう、エルリスがユナをつれて遠くへ逃げようとしたのは、助かるためではなく、
    ユナを道づけにしてこの場をあとにすることによって、セリスから脅威を遠ざけるという目的のためであった。

引用返信/返信 削除キー/
■49 / ResNo.5)  〜第6節〜<二人の守護者>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/16(Tue) 01:58:46)
    2005/02/03(Thu) 02:51:53 編集(投稿者)

    〜第6節〜
    <二人の守護者>

     エルリスとレイヴァンの長い沈黙が続く・・・。
    互いにじっと睨み合ったまま動くことは無い。
    ユナは、ただならぬ二人の雰囲気に、息を呑んでいた。
    二人の間には、少し前のうんざり感は無く、すでに殺意しかなかった。
    ユナは、不安で縮こまっていた。
    『お願いだから、仲直りして・・・』
     


    「エルリス・ハーネットだな。君の妹は預かっている。助けたければ、すぐに自宅まで戻るんだな。無論一人でな。」
     沈黙は意外な方向から打ち消された。
     声は、先ほどから隠密に監視している筈の男から発せられたものだった。
    「なっ!?」
     エルリスは驚愕した。
    まさか、この状況でセリスを人質に取られるなんて、考えもしなかった。
    それに、ユナと同時に呼びつけるならともかく、自分だけが呼び出されたことに違和感を感じた。
    監視員は間違いなく、自分とユナの決闘を監視するものと見て間違いない。
    それならば自分ひとりだけが呼び出されるのは不自然に思える。
    ただ、セリスが人質に取られているだけであることは、エルリスにとっては安心する材料であった。
    セリスの秘密は、まだバレていないようだ。
     

     用件を伝え終わると、監視の男は去っていった。
    もはやエルリスは逃げないと踏んでいるのだろう。
    「エルリス・・・大丈夫だよ。セリスちゃんはきっと無事だから。
    私たちもこっそり、後でついていって、助けに入るから。私たち2人が揃えば敵はなしだよ。」
     ユナは、エルリスを励ますように少し笑顔を作って言った。
    ユナは、仲直りする機会が生まれたんだと思っていた・・・が、またもや意外なところから、意外な言葉が発せられたのだ。
    「いや・・・。ここは妹の安全を最優先にするなら、君が一人で行くべきだ。」
     レイヴァンは、さらっと言った。それは、別れの意味を含めた冷淡な言葉だった。
    「えっ・・・兄さん・・・?」
    「安心しろ、ユナ。エルリスは『長子』だ。相手に遅れをとることは無いだろ。」
    「でも・・・」
     ユナには2つの引っかかることがあった。一つはレイヴァンの冷たい態度。
    そして、もう一つはエルリスの魔力について。
     エルリスは、長子であるだけでなく、これでもかってほど大きな魔力を行使しているし、学校の成績も良い。
    何よりも、常にハーネット家の宝剣、エレメンタルブレードを所持している。
    だから、間違いなく、自分と同じような高い魔力を有していると思っていた。
    魔力の高さは、握手した時など、互いに触れた時に感じられることが多い。
    彼女の手が自分の唇に触れたとき、ユナはエルリスの魔力を感じた。

    エルリスの魔力は、常人に換算しても、気のせいかもしれないが、


          それほど高いものではなった。


     そんなユナの困惑を他所に、エルリスは淡々としていた。
    「いいわ。ユナ。彼の言う通りよ。私の目的はセリスを守ることだから。
    だけど、そこの義兄さん。もう・・・これは貴方の思っているような簡単な話ではないわよ。」
     エルリスは、その場にはき捨てるように言ってから、学校を飛び出した。
    敗者の負け惜しみとも取れる言葉でったし、精一杯のいやみにもとれた。
    しかし、それは真実を物語っている。エルリスに、勝ち目は無い。
     エルリスが飛び出した方向をしばらく見つめたあと、
    「まだ・・・分からんさ。可能性は・・・」
     レイヴァンはぽつりとつぶやき、エルリスの去った方向と逆の方向を向いた。


     エルリスの予感は当たり、エルリスが去ってまもなくユナとレイヴァンに対し監視員の総攻撃が加えられた。
    相手がそれほど強くなかったため、傷一つ負うことなく逃げることが出来たが、
    彼女らの身の安全はもう保障されないことを否応なしに突きつけられる形となった。
引用返信/返信 削除キー/
■50 / ResNo.6)  〜第7節〜<旅の始まり>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/17(Wed) 04:45:20)
    2005/02/04(Fri) 12:55:05 編集(投稿者)

    〜第7節〜
    <旅の始まり>

    『あいつはよく知っている。私たちのことも調べつくしてある。
    私たちの親ですら気がつかなかった真実・・・そして未だに、未知の監視役ですら知らないことを。』
     エルリスは、セリスがつかまった事を知り、急いで帰路についていた。
    もしも真実がばれれば、命が無いのは自分ではなく、セリスの方である。
    『私も彼も願いは同じ・・・妹を守ること・・・。
    だから、私は今この立場に身を置き、あいつは常に影からユナを守っている。』
     レイヴァンもエルリスも、同じだった。ただ、お互いの立場は違った。
    エルリスのレイヴァンもこの8000年も続く両家の戦い慣習は、
    どのような戦い方であれ、どちらかが一方の家の長子が死ねば型がつくと思っていた。
    だから、レイヴァンは、あの満月の夜・・・屋上の影で私を影打ちしようと待ち構えていた。




    「研究に出かけたの。どういう風の吹き回しかしら。」
    「そうなんだよ〜。いままで私をおいてどこかへ行っちゃうなんて無かったのにぃ〜。」
     宿命の決闘日から数えること3日前。ユナがエルリスにレイヴァンが出かけたことを告げてきた。
    あの重度のシスコンであるレイヴァンが、ユナを置いて出かけるなんてめずらしいと正直に思った。
    でも、どちらかというと決闘日を3日後に控えているというのに、平然と話しかけてくるユナの神経におどろいた。
    「さびし〜よぉ〜〜〜〜。ひどいよぉ〜〜〜。(え〜〜ん)」
     この超重度のブラコンのユナは、こうなると誰にも手がつけられない。
    同情なんかしたら、このあと永遠とユナに付き合わされることは明白だった。
    それならば、いっその事、より大きなショックを与えて突き放した方がいい。
    「ユナ。あまりレイヴァンさんを困らせてはダメだよ。」
     あいつに向かって、さん付けなのは鳥肌が立つくらいいやだったけれど、もう一息の辛抱。
    「あの人は、きっと恋人ができたから、ユナから離れたかったのよ。
    そうやって一々付きまとっているユナがいたら、きっと大切な恋路を邪魔されると思ったのね。」
     ユナの顔が面白いくらいハッキリと固まった。かなりショックだったようだ。
    「あ・・・う・・・・・・。」
     


     今回の会話はそれで終わった。そして、決闘日翌日までエルリスとユナは一言も互いに会話していない。
    ユナとの会話はエルリスにとってどうでもいいものが多い。しかし、正直、あのレイヴァンの行動は謎だ。
    どこか不吉なものを、エルリスの第六感は感じ取っていた。
    「調べる必要はあるわね。」



     エルリスは、その日早退して、ユナの言う隣町までエアシューターを飛ばして行ってみた。



    レイヴァンが研究していることといえば、古代の戦争についてだったと思う。
    8000年前に起こっていたという、血で血を洗う悪夢のような戦争と聞いている。
    あの、お調子者がなんであんな暗い話しを研究しているのか、正直そのギャップに驚いてはいるのだけれど、
    以前、研究室を覗いた時の彼の表情は、別人のように真剣だった。



    「ふう・・・。ここね。」
     エルリスはユナから聞かされたレイヴァンのいる町に着いた。
    詳細な場所を教えてくれなかったらしく、町のどこにいるかは分からないが、それほど広くないのですぐに見つけられると思う。
    「すみません。この男を知りませんか?」
     エルリスは、この町で一番大きな資料館に訪ねてみた。現場検証しようにも古代大戦時の名残など探し出せるわけではない。
    レイヴァンがいる可能性があるとすれば資料館くらいだろう。
    この町で古代大戦に関する記述がある可能性があるのはここくらいだと思う。
    「いいえ。見ていないです。よろしければアナウンスを流しましょうか?」
     静かにしておくことが大切な資料館にも関わらず、呼び出しのアナウンスするサービスがあるのはどうかとおもうが、
    あえてここは流すことにした。
    「いえ。では、質問を変えます。ここに8000年前の古代大戦の資料はありますか?」
    「ないですよ。私も以前に探したことがあるのですが、この町にはどこを探してもその資料は無いんですよ。
    あるとすれば、隣町くらいですね。」
     チェックメイトだ。間違いなくレイヴァンはここへは来ていない。



     それから、エルリスがレイヴァンの行く先を探し出すのにそれほど時間がかからなかった。



    『アルス・ユークリッド』おそらくこの名を知っているのは、レイヴァンを除けばユナとエルリスだけだろう。
    レイヴァンが、アレイヤ家の養子として現われる前に名づけられていた本当の名前。
    ユークリッド家の勇者として、昔から受け継がれた名前である。
    レイヴァンはお調子者でへらへらしているが、その実力は勇者の名にふさわしいものである。
    全ての系統の現代魔法を全て習得し、剣術も超一流。その他、槍や弓にも精通している。
    エルリスには古代魔法といわれる、現代魔法より強力な失われた魔法を操る術があるが、
    もし仮に古代魔法が使えなかったとしたら、レイヴァンとエルリスではかなりの実力差が出ることであろう。



     エルリスは、自分の町の隠れ家的宿舎で、『アルス・ユークリッド』の名前をみつけた。
    この宿舎を拠点にしてなにやら動いているのは明白だ。
    エルリスは、宿命の相手であるアレイヤ家の情報をほぼ全て握っている。
    戦いをスムーズに終わらせるためには、情報が必要不可欠だったからだ。
    調査方法は、もっぱらユナを酔わせて聞き出すとか、家にお邪魔した時に家捜しするといった方法ではあったが、
    エルリスの明晰な頭脳にかかれば、それだけでも十分な情報を得ることができた。
    むしろ露骨に探せばレイヴァンやユナが警戒しただろう。
    情報から推測するに、レイヴァンが『アルス・ユークリッド』の名を冠するということは、
    ユナの守護者という本来の役目を果たす心構えでいるということだ。




     私があの場に行けば、間違いなく破れ、死ぬことになっただろう。
    それでも、自分は屋上へ行くべきだったと思う。
    『もともと私がユナに勝てる見込みなんて無かったし、私が死んでもセリスは守れる。』
    『だから・・・彼は、私に潔く『死ね』と無言で言っている。』 



     その日、エルリスはセリスに最後の別れを告げ、戦地に赴く予定であった。
    セリスと別れるのは、本当についらいことだった。
    だから別れの挨拶をしようとしたとき、精神的に衰弱し、自分の体の抵抗力は著しく下がった。
    それが、悲劇を招いた。
    自分の体に巣食う氷の精霊『フリード』は、この期を逃さず一気に体を侵食し始めたのだ。
    それにすぐに気がついたエルリスは、咄嗟に体の体温を上げることで、精霊の動きを鈍化させた。



    「う〜〜〜〜〜〜〜(ゴホゴホ)」
    「お姉ちゃん大丈夫?」
     エルリスは、風邪を引いて寝込んでいた。
    「うん・・・明日には直ると思うよ・・・私の独断と偏見がそう言ってるわ。」
     エルリスは、すでに精霊の侵食を食い止めることに成功していた。脅威は去ったといってよい。
    しかし、精霊の侵食は防げたが、ウイルスの進入を許してしまい、結局風邪を引いてしまったのだ。
    「独断と偏見・・・。」
     セリスが、笑顔で汗をたらしている。そんな表情がエルリスにはおかしく思えた。
    「そうよ。そして、明日にはきっと元気に登校してやる!(えっへん)」
     エルリスはVサインをして見せた。
    「もう・・・無理しないでよ・・・。」
    「分かってるわよ。」
     部屋は、セリスの愛情でいっぱいの暖かい空気で包まれていた。
    エルリスは、この空気にあまえていたかった。



    「姉さん!!」
     セリスは姉が来たことをうれしくも悲しい複雑な表情で迎えた。
    セリスは結界に閉じ込められているだけで、特に外傷は無いようだ。
    それは、エルリスにとってはうれしい材料だった。
     一方、セリスの方は気が気でなかった。
    相手は、かなりの戦闘のエキスパートが5人。
    いくら最強と信じている姉であっても、勝てるような人数ではない。
    「セリス。待っててもう少しで開放されると思うから。」
     セリスに少し微笑みを返すと、すぐにこわばった顔に変わり、
    にらみつけるようにエキスパートたちを睨んだ。
    「一応聞くわ。貴方たちの用件は何?」
     エルリスは落ち着いていた。それが、セリスには不可解だった。
    「おまえの死だ。」
     相手は冷たく言い放った。『命を貰い受ける』とかそういう次元の話ではないようだ。
    「私が死ねば、セリスは無傷で開放してくれるのかしら?」
     エルリスは相手の言葉を予測していたように、冷静に受け答えをしている。
    「もちろんだ。そういう命令なのでな。」
     相手は信用できそうだった。この組織を運営している人物も、きっと一途なのだろう。
    『・・・・・・・・・。』
    『・・・・・・・・・。』
    『・・・・・・・・・。』
    「いいわ。一思いにやりなさい。」




    『あの日は、セリスと別れられなくて躊躇してしまった。
    もう逢えないという悲しみで、私は精神的に追い詰められ、
    あろう事か、自らが契約した氷の精霊に隙を衝かれた。
     でも・・・私の願いは、癪だけどレイヴァンと同じ・・・。
    そのためには、命なんて惜しくない筈。
    だから、あの日、自分は潔く殺されるべきだった。
    風邪なんてこれから死ぬものには関係ないし、
    レイヴァンの不意打ちだって、正当な『長子』であるユナには必要ない。
    セリスを巻き込んでしまったのは、おそらく掟を破った自分への罰。
    だけど、願わくは・・・
     

    きっと幸せになってね、私の大切な妹・・・いや・・・


    ・・・・・・・・・姉さん。』



    「いやぁああああ!!!」
     スペシャリストの反応は一瞬だった。
    本来であれば間違いなくエルリスの首は飛ばされていただろう。
    だけど、セリスの動きはスペシャリストを凌駕していた。
    悲鳴と共にセリスからあふれ出した膨大な魔力は、
    結界を貫き、部屋中を濃い魔力の渦で満たし、全ての魔法を打ち消した。
    スペシャリストの放った光球は、生まれた次の一瞬で消されたのだ。
    しかし、濃い魔力の渦は、人畜無害なものなどではない。
    これを浴びた人間は、水の中で溺れ続けるような錯覚に陥る。
    スペシャリスト5人も、セリスですらも例外なく地に伏せもがき苦しんでいる。
    その中、一瞬の好機と見たエルリスは、セリスを抱え、ベランダから飛び降りた。
    本当は、この中で一番苦しかったはずなのに。


     

     その後、エルリスはエルフの住むという森の中に逃げ込む。
    セリスを肩に背負ったまま・・・ついには、気を失ってしまった。
引用返信/返信 削除キー/
■59 / ResNo.7)  〜外伝1〜<宝剣『エレメンタルブレード』>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/19(Fri) 12:49:44)
    2005/02/04(Fri) 13:30:12 編集(投稿者)

    〜外伝1〜
    <宝剣『エレメンタルブレード』>


     どちらが姉で、どちらが妹かハッキリさせないまま、自分たちは幼少期を過ごした。
    今思えば、すでに突っ込みどころ満載だったのだけど、自分たち以外に周りに双子はいなかったし、
    そもそも双子って同時に産まれたようなものだから、姉妹の区別がないことにもなんの疑問も感じていなかった。
     ところが、私が13になった頃、突然両親が姉と妹を区別するとか言ってきた。
    セリスは「どっちがお姉さんになってもうらみっこ無しだからね。」とか言ってたけど、
    私には、どうもその時の両親の悲しそうな笑みが引っかかっていた。


     理由は知りたかったけど、どうも両親に聞くのは気が引けていた。
    だから、近所に住んでいる『おバカ』に相談してみることにした。
    その『おバカ』は、加えて陰気くさく、変なやつで、「いつか立派な剣士になるぞ!」とか張り切りながら、
    学者への道を志しているという、わけのわからないやつだった。
    あまり期待はしていなかったんだけど、あいつから帰ってきた言葉は、私にとって意外なものだった。
    「そんなことも知らないのか?」
     ・・・。てか・・・納得できない。
    まるで、私の方が『おバカ』だと言わんばかりである。
     その時のあいつは、このことを話すことをためらっていたけれど、私が強くお願いしたら、
    体を小刻みに震わせながら、喜んで答えてくれた。


     私は固まった。
    ユナとの戦いは、私やセリスでは無謀な戦いだと感じていた。
    ユナ・アレイヤといえば、12歳にして魔術学院を卒業した、超天才である。
    最近は、私たちと同じ学校に通って、なんか無駄に思える時間を過ごしている、こいつに負けない『おバカ』な奴だが、
    戦うとなると、これはそのまま自分たちの死を意味するものに思えた。
    しかも相手には、アレイヤ家の宝、魔化学兵器『デット・アライヴ』があるのだという。
    『デット・アライヴ』と言えば、今でも最強の拳銃型の兵器で、時価にして国が5〜6個変える価値がある。
    なんで、そんなお金関係に詳しいのかは、あえて追求すべきことじゃないですよね。
    でも、一応・・・家にも宝剣らしきものを地下室で見かけたことがある。
    両親が言うには、誰も台座から抜くことができないものらしく、扱うには意味不明な欠陥品だというから救いようがない。


     で、その『おバカ』は、私が14の時に生き分かれる。生き別れると言う表現はちょっと大げさにも思えるけれど。
    最後に「幸せを続けていたかった両親の気持ちはわかってやれよ。」なんて、知ったようなことを言ってたけど、
    セリスが泣きながら引き止めたのに、結局町を出て行ったあいつは、やはり最後まで陰気くさい『おバカ』だったと思う。
     その頃、すでに私はなんとなく『長子』がセリスだと気がついていた。
    だけど、自分はセリスを失いたくない気持ちのほうが強かった。
    だって、セリスは自分にとってなんとなく守ってやらなきゃならない『妹』のような存在だったから。


     15歳のとき、私は、あの欠陥品の宝剣改め、ハーネット家の正統な後継者を選定する宝剣『エレメンタルブレード』を手にする。
    エレメンタルブレードは、正統な後継者以外が触れれば、
    おぞましいまでのハーネット家特有の魔力の渦に飲まれ、すぐさま衰弱死するという危険なものだった。
    両親もなんとなくセリスが『長子』だと思っていたらしく、しきりに私が先に触れようとするのを止めたが、
    事情を『長子』以外に知らせたくないという両親の思惑を巧みに、有効利用し、交渉した結果、
    私から触れることを許可された。もちろん、私が知っていることは隠したけど。
     抜ける採算なんて無かったけど、自分が抜くしかないと思ってたから、1%の確率に賭けてみることにしたのだ。
    抜こうとしたとき、案の定、剣から膨大な魔力が自分に流れ込んできた。
    予想外なことがあったとすれば、それは量が半端では無かったこと。
    私は、あっという間に瀕死の状態まで追い込まれたと思う。

    でも・・・奇跡が起きた。

    氷の精霊『フリード』が、私にしか見えない姿で、交渉してきたのだ。

    『その体をよこせば、剣を抜かせてやる。』

    と。
    私は、何も考えることなく『OK』の返事をした。だって、考えている間に死んでしまうから。



     結果、私は『長子』に成りすますことができた。
    自身の魔力は低いくせに、あたかも大魔法使いがごとく魔法を操れるのだから、何も条件が無かったら面白かったかもしれない。
    あの後、私は両親から『知っていること』を散々聞かされた。
    引き受ける条件に、私はセリスを連れ、遠くへ行ってもらうことを進言した。
    家族の前で死ぬのが耐えられなかったからだ。
    快くかどうかは分からないが、両親は条件をのんでくれた。
    悪い気はしていないものの、残念ながらセリスはすぐに帰ってきてしまったのだけれど。

     

     それから、私は人前で高い魔力を見せて回った。
    理由は2つ。
    一刻も早く、宝剣を使いこなすこと。
    私を『長子』だと周りに認めさせること。
     だけど、天才を演じ続けた凡才には、当然と言えば当然だけど代償もある。
    こうしている間にも、刻々と、体の中のフリードが自分の体をのっとろうとしているのだ。

引用返信/返信 削除キー/
■81 / ResNo.8)  〜第9節〜<老いたヴァンパイア>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/27(Sat) 15:50:30)
    2005/02/04(Fri) 21:07:21 編集(投稿者)

    〜第9節〜
    <老いたヴァンパイア>



     ヴァンパイア達は戦い後、さほど時間を空けずに休戦交渉を提案してきた。
    エルリスたちにとって、突発的な戦闘でしかなかったこの戦いは、
    何故かヴァンパイア達にはとっては領土をめぐる戦争と捉えていた。
    なぜそのような誤解が生じているのかはよく分らないが、戦いは本意ではないので、
    休戦交渉の件を受け入れると、すぐさま森の奥に構えていた神殿に導かれた。
    つくりは洞穴のようであるが、素材は大理石で固められており、暗い中にも所々淡い光が燈っていた。
    本来であれば、敵の本拠地と思われる場所にのこのこついてゆくのは、
    敵の策略や、だまし討ちのことを考えるとあまり賢い選択ではないのだが、
    ユナがのこのくっついて行ってしまったので、仕方無しに他の三人も付いてゆくことにした。
    幸い、この判断は良い方向へすすみ、
    ヴァンパイア達もユナたちに対する警戒心をやや緩和させることに役立った。
     

     神殿の奥には、ロード・オブ・ヴァンパイアと称される年老いたヴァンパイアが待っていた。
    エルリスたちが交渉の席に座ると、そのヴァンパイアは挨拶抜きで単刀直入に聞いてきた。
    「そなたらの目的は何なのじゃ?それだけの戦力を携えて、まさか観光ということもあるまい。」
     年老いたヴァンパイアは、自力では満足に歩けそうもないくらい衰弱しているというのに、
    声はハッキリとしていて、威圧感さえあった。
     エルリスがそれに答えた。
    「ええ。私たちをこの森に匿ってほしいの。よく分からないやつらに狙われて困って逃げてきたのよ。」
    「よく分からないやつらとは?」
    「だから分からないのよ。特徴としては、かなり熟練の魔法使いがたくさんいる組織のような感じで、統率は取れていたわ。
    私の見立てでは、そこらのチンピラじゃない、かなり本格的な組織よ。」
     エルリスは、淡々と答えた。
    それを聞いて年老いたヴァンパイアは何か思い出したようなしぐさをすると、
    ゆったりと聞いてきた。
    「その魔力の雰囲気から察するに、そなたらはアレイヤとハーネットの者じゃな。」
     エルリスは答えない。相手の様子を伺うことにしたからだ。しかし・・・
    「なんで分かったんですか?」
     などと、ユナが馬鹿正直に聞き返したので、目論見は外れた。
    「なるほど・・・。状況は理解した。」
    「「「「へ?」」」」
     自分たちが理解できていないのに、理解されてもどうしようもないので、エルリス一斉に聞き返してしまった。
    「2日ほど前、満月の夜を迎えておる。そして組織が動き出した。
    わしが生きてきたここ1万4千年の間で、過去に一度、同じような出来事が起きていてな。」
     年老いたヴァンパイアは、懐かしいような、悲しいような表情を浮かべていた。
    「それは一体?」
     レイヴァンが老いたヴァンパイアに尋ねた。
    「・・・・・・。その前に、一言・・・言わせてもらおう。」
     しかし、年老いたヴァンパイアはレイヴァンの質問には答えず、少し考えてから別のことを話し出した。
    「そもそもこの森は、
    大昔に人間とヴァンパイアとの間で不可侵の条約が締結された際に、
    ヴァンパイアの領土とされた場所じゃ。知っておったのか?」
     4人は首を横にふるふると振った。
    「なるほど・・・ここ1500年ほどで2度も同じような事件が起こったところを見ると、
    人間界ではその事は忘れられておるということじゃな。」
    「1500年前?」
     エルリスが首をかしげる。一体このヴァンパイアは何歳なんだろうか。
    「そうじゃ。それがそこの青年への回答の話でもある。
    1500年前に、アレイヤ家とハーネット家の長子にあたる人物が2人で逃げてきたのじゃ。
    ただ・・・そなたらと違うところは、彼らは自分達に逃げるようにやって来た。
    両家の宿命というものから逃げるためじゃった。今回の訪問もこれに関することじゃろ?」
    「そうです。」
     と、レイヴァンは答えた。
    「ご先祖様は、何から逃げてこられたのですか?」
     今まで黙ったままだったセリスが口を挟んできた。セリスはハーネットとアレイヤの宿命のことを知らない。
    何から逃げてきたのかが、全く理解できなかった。
    「それは・・・」
    「止めて下さい!!」
     年老いたヴァンパイアが口を出そうとしたとき、
    ユナは悲鳴のような声で制止した。むしろエルリスが静止したかった内容だったが、何故かユナが先に制止した。
    「「「・・・。」」」
     年老いたヴァンパイアを除き、三人は目を見開いて驚いた。
    「ああ、そうじゃな。
    そなた・・・ユナ・アレイヤは、彼らを理解できるようじゃな・・・。」
    「理解って?」
     エルリスがたまらず口を挟んだ。なにか話が一気に分からなくなった感じだ。
    「わしの見立てでは、
    エルリス・ハーネットはさほど魔力を持っておらんようじゃな。
    そなたでは、おそらく一生分るまい。」
    「そんなの分らないじゃない?」
     エルリスはムッとして突っかかった。
    もちろん魔力が少ないことを見抜かれたのも癪だが、
    試しもしないで、しかも何についてか説明されないまま、ただ『分らない』などと言われたもんだから、機嫌を悪くした。
    「ふぉふぉふぉ・・・威勢はよいが、種としての限界じゃよ。
    あきらめるがよい。
    まぁ、ユナ・アレイヤよ。これだけは言っておこう。
    老婆心と思って聞き流してもかまわぬ。
    『力とは魔力の絶対量だけではなく、むしろその使い方、使い道こそが本当のつよさ』
    じゃよ。」
    「本当の強さ・・・。」
     ユナは、何かこの言葉に魅力を感じるのか、ただ祈るように聞いていた。
    その隣で、エルリスはブスッとしている。レイヴァンも首をかしげ、セリスにいたっては居眠りをはじめていた。
    「さて・・・交渉の件じゃが・・・そなたらを客人として招くのでよいな?」
     突然話を戻されて、エルリス達は戸惑いつつも首を縦に振った。
    「ならば、交渉成立じゃ。」
    「え?しかし、私達がいると迷惑をかけるかもしれないですよ?」
     セリスが控えめに尋ねる。
    「大丈夫じゃよ。相手は『命』の組織じゃ。礼儀はわきまえておる。
    わしらが何をしても問題はない。
    それより、頼みを聞いてもらえぬか?」
    「え?頼みとは??」
     完全にペースを握られたエルリスは、『命』について聞きたかったが、今はただ聞き返すことしかできなかった。
    「実は、ヴァンパイアの主力がそなたらにやられてしまって、
    守りが手薄になってしまったのじゃ。
    ここにいる間、警備などを手伝ってもらいたい。」
     これには思い当たる節しかないので、エルリス達は了解することとなった。
    「それと、次から言う場所は近づかないでもらいたい。」
     この件についても、理由は分らなかったが、悪い気はしないので了承することにした。

     
引用返信/返信 削除キー/
■84 / ResNo.9)  〜第10節〜<ユナの悩み>
□投稿者/ べんぞ〜 -(2004/11/29(Mon) 00:07:26)
    2005/02/06(Sun) 18:59:28 編集(投稿者)

    〜第10節〜
    <ユナの悩み>


     エルリスが森の中で立っていると、後ろからカサッという音がした。
    「話って何?」
     ロード・オブ・ヴァンパイアとの会談後、エルリスはユナに呼び出されていた。
    日は既に傾いており、仮に振り返ったところであまりお互いの顔がハッキリ見えるような状態ではなかったが、
    エルリスはそこにユナがいることをとらえることが出来た。
    ユナから出ている独特の雰囲気が背中から撫でられるように感じられたからだ。
    正直、恐怖心がないわけではない。
    打ち解けたつもりではあっても、自分たちは宿命を背負った者同士、今でも隙があれば・・・。
    「私の悩みの相談にのって欲しいんだ。打ち明けられる人が少なくて・・・。」
     ユナにしては珍しく遠慮がちのようだ。エルリスには何故かそれが気に入らなかった。
    だからぶっきらぼうに言ってやった。それに、呼び出しておいて後から来るということ自体も気に入らなかった。
    「悩み?・・・で、なんで私に打ち明けるの??」
    「うん。だってエルリスはハーネット家の『長子』じゃない。
    ・・・・・・・きっと私と同じ境遇だっただろうから、分かってくれると思って。
    私が知りたいのはエルリスのこと。きっとエルリスのことが理解できれば、私の悩みは消える。
    そんな気がするの。」
     この様子では、ユナはエルリスが長子ではないことを知らないようだ。
    エルリスには、ユナのレイヴァンが私の正体をユナに伝えていなかったことに驚いた。
    ユナを信じ切れていないエルリスにとっては、
    セリスを守る上でユナに真実を知られていないことは、護衛の面で色々と都合が良いが、
    レイヴァンにとってそれを伝えない理由は無いように思える。
    そもそも伝え無いことが、レイヴァンには認められているのだろうか。
    てっきりユナの下僕のようなものだと思っていたのに。
    やはりアレイヤの行動は警戒すべきだとエルリスは感じた。
     とりあえず、面倒だが情報が得られそうなので、エルリスはユナに付き合うことにした。
    「ふ〜ん。で、具体的には?」
     すでにエルリス手抜きモードが最大級で発動中である。
    そうとは知らず、暗くてもハッキリと分かるくらいまじめな面持ちで、ユナは勇気を振り絞って打ち明けてきた。
    「兄さんも言ってたんだけど、エルリスは私と違って魔力がそこまで高くないんでしょ。」
     ユナが遠慮深く聞いてくる。
    「ええ、そうよ。残念ながらね。」
     エルリスはもはやこれは隠しても意味が無いので、ハッキリ答えた。
    「そっか・・・じゃあ、きっと私と違う世界をもってるんだ。
    私のような毒黒い血のように赤い世界じゃなくて、きっと虹のような清々しい世界を・・・。」
    「違う世界?」
     エルリスにはユナの意図することが理解できなかった。そもそも世界ってなんだ。
    「え?世界って言って分からないの?他に表現しようが無いんだけど・・・」
     その後、少し考えるような仕草をしてユナは続けた。
    「・・・・・・。そっか・・・そうだよね。エルリスには関係の無い話だったんだ・・・。
    『長子』はみんな見ているものだと思ってたけど・・・やっぱ、私だけなんだ・・・。」
    「・・・。」
    「・・・。」
    「・・・!?・・・・・・・(怒!!)
    悪かったわね!魔力が低くて!
    はっ、どうせ私はあんたみたいな芸当は出来ないわよ!!『世界』だって?何よそれ??
    さっきから何よ。強い自分を自慢してんの?」
     エルリスはイジイジしたユナの態度もさることながら、
    散々『魔力が弱い』と、彼女が気にしている数少ない一つを連呼され、かなりご立腹であった。
    「いや・・・その・・・・・・そういうわけじゃないんだけど・・・。」
    「じゃあ、どういう訳よ。あのじじぃ(ロード・オブ・ヴァンパイア)にあのアホ(←レイヴァン)、
    加えて、天然ボケ(←ユナ)まで、弱いものを笑いものにして、ほんといい趣味しているわ。」
    「え?え???」
    「第一、どうみても天然系のユナに
    『悩み』などという崇高な思想があることが不思議だわ。身の程を知りなさい!」
    「え・・・酷いよ〜(え〜ん)」
     これで済めばよかったが、以後ユナはエルリスに永遠と色々言われ続ける事になる・・・(合掌)
    ユナは、相談相手を間違えたとしか言いようが無い後悔の念におそわれた。。
    だけど、何故かそれが心地よかった。






    「やはり仲がいいな。心を開けるような友達が宿命の相手は皮肉なものだ。」 
     その様子を草葉から二人の影を暖かく見守る、騎士の姿がそこにあった。
引用返信/返信 削除キー/

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