Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■384 / 親記事)  [蒼天の始まり] 第一話
  
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:46:48)
    2006/10/11(Wed) 14:23:17 編集(管理者)


    〜手紙〜                                    



    背中が熱い
     
    「・・・・・・・・・・・・・・・!!」

    誰?

    「・・・・・・・・・・・・・・・!!」

    「・・・・・・・ん!!」

    知っている。あなたは、

    「・・・・・ちゃん!!」

    うるさいわね。


    「お姉ちゃん!!!」
    「うるさーい!!!!!!」

     キィィーーーーン

    「って、あれ?」
    「あう〜」
    「セリス、どうしたの?」

    目の前には、私の大切な妹、セリスが耳を抑えてうずくまっていた。
    え〜と、つまりそうゆうことなのね。

    「セリス、ごめん!!!」

    「大声ださないで〜〜」




    「うう〜」
    家へと帰る途中、セリスはまだ恨みがましく声を上げている。
    だめだ、完全にへそを曲げている。
    夕飯はセリスの好きなものにして機嫌とらなきゃだめね。
    それにしてもさっきの夢はなんだったのかしら?
    なんか懐かしい感じだったけど。




    「おいし〜」
    セリスは温かいシチューを飲みながら、とても幸せそうな顔をしていた。
    よかった。どうやら機嫌を直してくれたようだ。
    もっとも、私は極度の猫舌のため、皿の中身は殆ど減って無い。
    スノウライトの冬は早い、暦の上ではまだ秋だが、時々雪も降る。
    冬になれば、さらに冷え込むため堪らないらしい。
    さすがに雪はまだ降らないが、それでも十分に寒い。

    「そういえば、セリス。先生なんだって?」
    一緒に帰ろうと思ったらセリスが先生に呼ばれたから教室で待ってたら寝ちゃったのだ。
    「あっ!!」
    セリスも思い出したらしく、慌ててポケットから封筒を取り出し私に手渡した。
    「手紙?」
    いったいだれが?そう言って裏を向けて書かれた名前を見て固まった。


    ラウル・ハーネット


    「お父さん・・・」
    手紙の裏に書かれた名前は10年も前に死んでしまった父の名前、
    「お父さんが、もし自分が死んだら私が17歳になったら渡してって先生に
    頼んだんだって」

    「そう・・・。でもセリスの誕生日って2ヶ月も前よね?」
    確か2ヶ月前に親友のミコトと誕生日パーティをしてその時ミコトがお酒を持ってきた
    せいで、大騒ぎになったのだ。
    その翌日、わたしとセリスは二日酔いで全く動けなかった。あれはキツイ。

    「10年も前だもん先生も忘れたんだって」
    確かに10年も前に頼まれても覚えているかどうかなんて危うい。

    「封はまだ開けてないの?」
    「うん、ボクだけで見ちゃだめかな〜。って思って」
    「そっか、じゃあ明けよっか」
    そういって封をあけ慎重に中の手紙をとりだす。
    「どれどれ」
    セリスも手紙を覗き込む。





    エルリス、セリス。
    元気にしてるか。お前たちがこれを見ているということは
    俺はもう、そこにはいないのだろう。

    唐突な話だが、2人とも旅に出なさい。
    今すぐでなくて構わない。が、出来るだけ早くだ。
    これからお前たちには様々な危険が襲い掛かるだろう、
    まずは北の都市、レムリアの入り口付近にあるベアという店に行ってみるといい。
    ベアの店主に地下の倉庫にある手紙を渡してくれ、きっとよくしてくれる筈だ。
    あと、道中いろいろと危険だろうから家の地下倉庫に有るものは好きに持っていって
    構わない。そして、もう1つ。おそらくセリスの発作はまだ治まっていないだろう。
    既に分かっていると思うがその発作は魔力の暴走だ。
    魔法文明は魔法が全盛期だった時期で、似た症例もあるやもしれん。
    並大抵の道ではないが魔法文明の遺産や当時の書物を探せばもしかしたらなんらかの
    手がかりになるやも知れん。
    幸い、ベアは冒険者の店だ、話だけでも聞いておくといい。

    最後に、情けない父ですまない・・・。




    「お父さん・・・」
    「・・・セリス、どうする?」

    セリスの答えなんて分かってる。

    「・・・・・・いくよ。でも、お姉ちゃんは」
    「まった、当然、私もいくからね。お父さんも2人でって書いてあるし
    私にも無関係の話ではないもの」
    危険とはセリスの魔力のことだろう。セリスの魔力は制御できないのを無視すれば、
    おそらく、魔族や竜のような超越種にも及ぶだろう。
    それを知られれば教会の者や魔術師たちが放って置くとは思えない。
    この街自体は田舎だがこの街の先にある山には、教会の者や魔科学者たちがある物を
    調べに来るため、この街を通っていく際に見つかるかもしれない。

    お父さんは、理由がセリスの魔力の所為だというのを隠したかったのだろう、
    けど、セリスは自分が狙われるかもしれないのはうすうす勘付いていたらしいし、
    私自身も同じように異質だと理解している。狙われるかもしれないのは同じだ。
    それに、そんなことが無くても、セリスを1人になんて出来るはずがない。

    「お姉ちゃん・・・」
    「とりあえず、手紙に書いてあった地下倉庫を探すわよ」
    「うん!!」

引用返信/返信 削除キー/
■385 / ResNo.1)  蒼天の始まり 第二話
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:49:22)


    謎解き 前編                                     



    私とセリスは1つの扉の前に立っている。
    おそらくこれが地下倉庫の入り口だろう。
    ‘‘ハーネット家の開かずの扉’’
    私とセリスは昔からこの扉をそう呼んでいた。
    理由は簡単、鍵がないのだ。
    家中を探したが見つからず、開けるのを諦め、
    そのまま放置されていた。
    けど、今なら分かる。この鍵は飾りなのだ。
    魔術によって閉じられており、特定の言葉を言わない限り開かない仕掛けになっている。
    鍵穴があり、扉が開かないならば理由は鍵がかかっているからだと考える、
    先入観というやつだ。だから、私が気付けなかったのも仕方がないだろう。うん。
    ただ、10年以上も見ていながら魔力を感知できなかったの結構ショックだったが・・・。
    ちなみにセリスは魔力は感知できたが、部屋の中に何かあるのだろうと思ってたらしい。



    「「うわ〜〜〜」」
    私とセリスの第一声はこれだった。
    かなりの広さの地下室にいくつもの棚が奇妙な形に並んでいる。
    奥から棚が6列並び、それぞれ3、3、12、12、3、3の計36の棚が並んでいた。
    手前3列の棚は剣や鎧、盾などおそらくお父さんが使っていたと思われる品が並び、
    奥の3列の棚には様々な魔法道具や書物が並んでいた。
    こちらは元宮廷魔道士だった、お母さんのものだろう。
    私もこれほどとは思わず、少し驚いたが、気を落ち着けさせる。
    とりあえず、手紙がどこにあるかも知らないし、調べたほうがいいだろう。
    「私は右側を見るからセリスは左側を見て回って」
    この組み合わせにはちゃんと理由が有る。
    はっきり言って私はセリスと違って魔術師ではない。
    ただ、少し魔法が使えるだけの人間だ、魔力の感知もまともにできないし、知識も無い。
    逆にセリスが剣や鎧のことなど分かるはずも無い。
    ゆえにこの組み合わせは当然なのだ。
    セリスもそれは分かっているため、返事をするとそのまま棚のほうへ向かっていった。




    棚を調べながらも、気に入った剣を見つけては手に取り、振ってみる。
    別に私は剣士でもない。
    昔、お父さんに剣を教わって、
    お父さんが死んでからは、たまに思い出しては練習する程度だった、
    今でも、親友のミコトにたまに、教わっている程度である。
    一方的に虐められてる気もするが、その分は鍛えられえてる。


    ―ミヤセ・ミコト

    自分で言うのもなんだが私とセリスの数少ない友人である。
    はっきり言って彼女は謎だ。
    2年前にふらりとこの街に現れ、そのまま住み着いた。
    一人暮らしのはずなのにわざわざ、学校になんて通う変わり者である。
    学校はほとんど、裕福な家の者か、純粋に知識を欲する者だけが来る場所である。
    無論、そういう条件があるわけでなく、ただ単にお金がかかるのだ。
    そして、純粋に学びたい者なら、王都の学校にでも行った方が有意義だから、
    この街の生徒のほとんどは裕福なものとなる。
    かといって、ミコトが裕福かといったらノーだろう。
    ミコトは半年に一回か、二回、この街から軽く1ヶ月は姿を消す。
    本人は仕事だといっているが、それならばなぜ学校になんて来てるのかが矛盾している。
    また、剣の腕も立ち、
    以前、街に現れた吸血鬼をいとも容易く打ち倒したほどである。
    まあ、そんなに気にしているわけでもでもないが、
    「お姉〜ちゃ〜ん?」
    っていけない、向こうはもう終わったみたいだし早く行かなきゃ!



    部屋の中央の少し開けたスペースでセリスは待っていた。のはいいんだけど。
    「セリス、これは何?」
    セリスの足元にはどうやって運んだのか分からないほどの魔法道具がおいてあった。
    「えっ、魔法道具だけど?」
    「そういうことを聞いてるんじゃなくてこんなに持ってきてどうするつもり!!」
    「だって、お父さんは好きに持って行っていいって・・・」
    「こんなにもっていけるはず無いでしょ!!戻してきなさい!!!」
    「うぅ、けど」
    「けど、じゃ無いわよ、ちゃんと元の場所に戻してきて」
    「はぁ〜い」
    セリスはしぶしぶといった感じで道具を戻しに行った。
    手当たり次第に持ってきたのだろう。それなら早いはずである。


    「で、セリス、手紙はあったの?」
    戻し終えてきたセリスに尋ねる。
    見た限り、こちらには無かったから、あるのは向こうのはずだ。
    「あっ」
    「セ〜リ〜ス。あっ、って何?」
    「あっ、あはははは。たっ、たぶん無かったと思うんだけど」
    おそらく、魔法道具に眼を奪われて忘れてたのだろう。
    「ふう、じゃあ、もう一回見て回りましょ。ただし今度はしっかりね。」
    「うん!!」






    「無い、わね」
    「無い、ね」
    2,3度も見て回ったが、手紙なんてどこにも無かった。
    他にも、気になることはあったけど・・・。
    「う〜ん」
    「お父さん忘れたのかな?」
    「いくらなんでもそれはないと思うけど・・・ってあら?」
    良く見ると床の中央に何か文字が書かれている。
    え〜っと、なになに、


    汝が求めしものは、
    四方を天使に囲まれし、かつての長たる堕天使の背中にて眠る。
    これ、解けぬ者に旅立つ資格なしと思え。


    「なにこれ?」
    「暗号・・・かな?」
    「とりあえず調べるしかないわね」
    でも、天使と堕天使って何のことだろう?
    「天使の像とかなら向こうにあったと思うけど?」
    う〜ん、そんな簡単なものではないと思うけど。
    まあ、行って見るしかないか。


引用返信/返信 削除キー/
■387 / ResNo.2)  蒼天の始まり 第二話後編
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:54:19)

    謎解き (後編)





    「あう〜〜」
    セリスがうなっているのも無理はない。
    3時間以上探しても全く手がかりが掴めなかった。
    天使の像は有ったけど2つしかなく、『囲まれた』というのに
    当てはまらない。まあ、一応調べたが、何も無かった。
    後は本棚だが、天使の本はあらかた調べたが手紙なんて無かった。
    天使って一体何のことなのよ!!
    そう心の中で愚痴りながら先ほど調べていた1冊の本を開いた。
    堕天使について。っと。



    堕天使 ルシファー

    熾天使の上に創られた天使として最高位にあり、熾天使を統括する
    指導者でも有った。
    六枚の羽を持つ熾天使の倍の十二枚の翼を備えていたとされる。


    開いたページに書かれた内容の一部を見て私は閃いた。
    天使って、もしかしてこういう意味?
    思いついた考えを確かめるべく、私は再び棚を回った。

    「お姉ちゃん、何か分かったの?」
    「ええ、すべて分かったわセリス」
    「ホント!?どこなの!?」
    「すこし、落ち着きなさい」
    「うん」

    「まず、これを見て」
    そういって私はさっき見たページを見せる。
    別に、謎解きを教える必要は無いけど、セリスは全く分からなくて
    悔しかったらしく
    素直に私の言うことに従い、本を見た。
    「これが何?」
    「おそらく、天使と堕天使ってのは熾天使とルシファーのことを
    言ってるの」
    「なるほど、それで?」
    「天使の象徴は羽、さらにこの2つは羽が複数あるわ。
    おそらく天使は羽の枚数を意味してるんだわ。
    熾天使は6枚で四方を囲うとなれば6×4で24、
    さらに中央の堕天使その倍の12で36ね。
    調べてみたら棚の数は36。さらに、棚の形も一致しているわ。
    つまり羽はこの棚。囲まれた堕天使の背中とはこの部屋の真ん中であるここのことよ」
    「すごい!!」
    「ふふふ、私にかかればこんなもんよ」
    「でも、何も無いよね」
    「えっ、えーと。多分何かしかけが有るとは思うけど」
    そういって、床を触ると何か細い物に触れた。
    ビンゴッ!!
    心の中でそう叫ぶ。
    見えるか見えないか程度の細さのかなり丈夫な糸だ、
    念のため隣の棚にあった特殊な繊維の手袋をはめ、
    細い糸を引っ張ると床の木が外れた。
    外れた床の木を退かして中を見るとひとつの大きなカバンがあった。
    カバンを取り出し、開けてみる、
    「あった!!!」
    私はおもわず、声を上げた。
    そこには私の探し物が2つとも入っていたのだ。
    入っていたものは手紙と丸い何かの魔法道具と思われるもの、
    そして、美しい剣だった。

    『エレメンタルブレード』

    お父さんの使っていた剣の中で、私がもっとも気に入っていた剣である。
    まだ幼かったころ父に一度だけ見せて貰い、欲しいとせがって父を困らせてしまった。
    先ほども、好きに持っていって構わないと聞き真っ先に探したのだが。

    セリスの方を見ると丸い何かが気になったらしく、手にとって調べていた。
    「セリス、どう?」
    「う〜ん、これ武器みたいなんだけど」
    「武器?」
    セリスの手の中にあるものはとてもじゃないが武器には見えない。
    「ちょっと見てて」
    セリスはそういって溝の間にあった細い糸の先についていたリングを
    指にはめて、それを飛ばした、するとそれは、地下倉庫の壁にめり込んだ。
    「すごい!!」
    確かにこれならば、ちゃんと当てられれば十分、武器になるだろう。けど、
    「これどうする気?」
    壊れた壁を指差しながら、セリスを睨む。
    「え〜と、凹ますだけのつもりだったんだけど・・・。ごめんなさい」
    流石に、倉庫に穴あけたままにするわけにいかないだろう。
    だが、倉庫を人に見せるわけにも行かないから、
    当然、応急処置だけにするにしても自分たちでやらなければならないことになる。
    まあ、荷物とかも揃えないといけないし、
    旅立ちはもう少し先になりそうである。



引用返信/返信 削除キー/
■388 / ResNo.3)  蒼天の始まり 第3話
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:57:50)
    初戦


    スノウライトと私たちが向かう街、レムリアはそれほで離れてはおらず、
    人通りも少ないから盗族なんかも出ない。ただ、その道で唯一の難所がある。
    夜になると魔物が出るといわれる森だ。森自体はそんなに広いわけでもなく、
    朝早くに入れば道さえ分かれば、日が落ちる前には十分、出られるほどだ。
    私たちは今、そこにいた。空には、きれいな月が見える。
    つまり夜である。無論、この森に魔物が出るということは知っている。
    言いたくは無いが迷ったのだ。
    森の道を知らなかったのだが、スノウへ来る人はみな、ここを通ってるわけだから
    人の通れそうな道を通れば大丈夫だろうと、安易な考えに至り、途中で道をそれ、
    迷ってしまった。元の道には戻れたのだが、日が落ちたので道の脇で休んでいる。
    倉庫に有った、魔除けのお香を持ってきて正解だった。
    まあ、お香と言ってもそれほど強力なやつではないから寝るときはセリスと交代で
    見張る予定だ。
    あと数日で、満月になる。それまでにはレムリアには着かなくてはならない。
    魔力がもっとも高まる満月の日は魔術を使う者にとって歓迎すべきものだが、
    セリスの場合、満月の日は限界まで膨れ上がった魔力が暴走しかける日である。
    逆に新月の日は私のほうに問題があるのだけど。

    「ねえ、お姉ちゃん」
    「なに?」
    「向こうに行ったらどうするの?」
    セリスも長く育った街から離れて不安なのだろう。
    これから自分がどうなるか分からないのだ、不安でないはずが無い。
    「実はね、ちょっと人を探すつもりなの」
    「人?もしかして・・・」
    「・・・たぶん、セリスの考えている人じゃないわ。
    私が探すのは・・・とりあえず、エルフかな」
    「エルフって、もしかして精霊について?」
    「そうよ」
    世界樹のあるという森に住み他種族と関わらず過ごし、
    精霊魔法と呼ばれる魔術を駆使する世界樹の守護者。それが彼らだ。
    「けど、あんまり当てにしないほうがいいよ」
    「えっ、なんで!?」
    「だって、精霊を使役するなんて、普通は無理だもん。
    いくらエルフが特別でも、その種族の人すべてが使えるなんておかしいよ」
    うっ、確かに精霊を使役するなんて普通は無理だ。
    それは他ならぬ私がよく知っていることだ。
    つまり、エルフが全員使えるということなら、精霊魔法とは精霊の使役では無く
    何か似て非なるものということになるだろうし、
    一部の人のみが使えるとしたら、普通に考えて、使えるのは彼らの中でもおそらく
    上位の者、ハイ・エルフといわれる者たちだろう。
    大きな街なら森から出て来たエルフやハーフエルフぐらいならいるだろうと考えていたが
    これは予想外である。
    かといって、エルフの森を探すなんてそれこそ雲をつかむような話だし。

    「どうするの?」
    「う〜ん、一応、1つ当ては、無いことも無いんだけど・・・」
    「なにか、問題あるの?」
    「信憑性に欠けるのよ、ただの噂話だから。」
    「ふーん、でも他にはないんでしょ。で誰なの?」
    「バルムンクよ」
    「バルムンクって、あの?」
    「そう、魔王殺しの勇者シンクレアのリーダー、バルムンクよ」
    シンクレアというのは王国では知らぬ者はないという、3年前に一度だけ現れた謎の冒険者たちの名である。
    その当時、魔王と呼ばれる存在が突如現れ、その配下の魔族に王城を占拠され、
    王国内が大混乱に陥った。
    そんな中、颯爽と現れ王城の魔族を倒し、王女ディシール・ネレム・フェルトを
    救った英雄たちである。
    その後、北の山の魔王を倒し再び、消えていったといわれている。
    彼らを見た人はほとんどおらず、シンクレアのメンバーの素性は全て謎に包まれている。
    バルムンクはそのリーダーで、蒼き空ともいわれる双剣士だ。
    「噂じゃあ、バルムンクって精霊を使っていたらしいの。
    もしかしたらハイ・エルフなのかもよ」
    「噂って誰から聞いたの?」
    「・・・・・・ミコトよ」
    ミコトが嘘つくようには見えないけど、その話を聞いたのセリスの誕生日だったから、
    酔ってたし、ミコトがデマを聞いたかも知れないから、自信はない。
    でも、そんな噂を知ってるなんてミコトって冒険者なのかな?
    「ミコトが嘘をつく様には見えないし、エルフの森よりはまだ、マシだよね。
    ・・・うん、探してみよ」
    「えっ!?」
    「どうしたの?」
    「あっ、ゴメン、ただの噂だし、そんな関単に賛成するなんて思わなかったから」
    「うん。でも、他に当ては無いんでしょ?エルフの森を探すって言うのなら
    反対したかもしれないけど、シンクレアなら王国内だけで済むでしょ。
    何よりシンクレアの正体について知りたいもん」
    「そっか、まあ確かに興味あるわね」
    この前言ってたスノウライトの北の山って魔王との戦いの場所だそうなのよね。
    街にはほとんど被害は無かったんだけどその後、街は魔王の堕ちた山なんていってるし、国のほうも調査が来ている。
    あれ??でも、魔王とシンクレアの出来事はお父さんが死んでから起きたことだから
    お父さんが知ってるはずは無いんだけど、ならどうして・・・

    ―ザワザワザワ
    風に揺られた葉が音を立てる。
    だが、その音に紛れたナニカを私の中のモノは感じ取っていた。
    「どうしたの?」
    「なにかいる。気を付けて」
    剣を構え、周りの気配を探る。
    セリスも倉庫で見つけた丸いあの武器「エターナル・メビウス(セリス命名)」を付け、私の方に背を向けて周りに注意を向ける。
    風に揺られた葉の音が止む。
    ―来る!!

    ―ダンッ!!バサバサバサッ!!

    周りの木々から、一斉に普通より大きな赤黒い猿が飛び降りてきた。
    数は4匹。私とセリスで2匹づつだ。

    セリスが降りてきた一体の猿にすぐさまにメビウスを飛ばす。
    不意打ちを悟られ、空中で姿勢を変えられるはずも無く猿の頭に当たり、
    骨の砕ける鈍い音と共に地に落ちて動かなくなった。
    もう一匹は仲間が死んでも気にした様子もなく、丸腰のセリスに飛び掛った。
    だが、セリスは手を払い、指についているメビウスの糸を伸ばして、
    向かってきた猿に糸を絡める。そして、魔力を通し切り裂いた。

    私は一度、後ろへ下がり、飛び掛って来た猿の爪を避ける。
    敵が多ければ、出来る限り複数を同時に相手せず、一体一体、
    別々に倒していく。
    ミコトにも言われれてたことだ。

    不意打ちが避けられ、着地の際に動きが止まったその一瞬を狙って、
    先ほどから詠唱していた冷気の魔術で、2匹を狙った。
    一匹は足を完全に凍らされ動きを止めたが、自由な腕を動かしてもがくが、
    すぐには動けそうには無かった。
    もう一匹は当たりが浅かったらしく、全身に冷気を浴びながらも向かってきた。
    両手で剣を握り、向かってきた猿に対して振るう。
    肉を切り裂く感触と共に猿の猿の身体が
    その動きを止め、地に落ちた。
    ちょうど、冷気で動きが鈍っていたため、私には傷ひとつ無かった。
    そして、動けない猿は氷が融けるや否や、すぐさま逃げていった。

    「はぁあ〜〜〜」
    お互いに戦いが終わり、セリスは気が抜けたらしく地面に座り込んだ。
    初めての実戦で、お互い傷ひとつ無いのは上出来だろう。
    けど、いつまでもここにいる訳には行かなくなった。
    「セリス、ここから離れよ。他の獣が血の臭いで向かってくるかもしれないから」
    「え!?わ、分かった」
    セリスが立ち上がり自分の荷物を片付けているときに私は違和感に気付いた。
    まだ、もう一人の私が警鐘を鳴らしていたのだ!!
    慌ててセリスの方を見るとセリスの側の木の上には先ほどと同じ猿が一匹いた。
    「セリス、上!!!」
    だが、セリスが慌てて上を向くと同時に猿が飛び降りた。
    間に合わない!!


    そいつは別に速いわけでも、力が強いわけでもなかった。ただ、賢かった。
    人の持つ武器の弱点も知っていた。人がどんな時に油断するかも分かっていた。
    そうやって猿は人を狩り続けていた。
    今回も同じだった、仲間が襲い、疲れ、油断したところを狙う。

    飛び道具の女を狙う。
    もう一人は、片方が死ねば取り乱す。そして、また隠れて襲えばいい。
    剣の女がこちらに気付いた。けど、襲うにはもう十分だ。
    下の女が見上げると同時に飛び降りた。


    ―ブシャッ

    一つの命を刈り取る音を聞きながら、私はソレに
    注意を払い、セリスの元へ駆け寄った。
    「セリス、大丈夫?」
    「うん、あの子が助けてくれたから。」
    そう、セリスは無事だった。猿がセリスに飛び掛ってきたとき茂みからソレが現れ、
    猿を噛み殺したのだ。
    闇に溶け込むような漆黒の毛と燃えるような真紅の瞳をした犬のような獣。
    普通の犬にしては大きすぎるから、おそらく魔獣の類だろう。
    魔犬はこちらを一瞥するとそのまま、咥えていた猿の死体を茂みに投げ捨てた。
    私は剣を構えながら、呪文の詠唱をする。
    はっきりいって魔犬が猿を殺したときのの動きを見た限り、私もセリスも対応できない
    だろう。なら・・・
    「待って、お姉ちゃん。闘う気は無いみたいだよ。」
    「えっ!?」
    魔犬を見ると先ほどの威厳も威圧も全く感じられず、ただ、眠そうに欠伸をして座り込んでいた。私の中のモノも、もう警鐘を鳴らしていない。
    確かに戦意は無いようだ。
    構えを解き、剣を鞘へ戻す。
    セリスは魔犬に近づき、その頭を撫で、魔犬はされるがままになっていた。
    なんか、ソレをみてたら、魔犬がただの大きな犬に見えてきた。

    ともかく、こうして私とセリスの初めての実戦は終了した。
引用返信/返信 削除キー/
■389 / ResNo.4)  蒼天の始まり 第4話
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 13:59:18)
    熊の店




    「結局ついてきちゃったわね。」
    「だね。」
    森から出た私とセリスは後ろにいる一匹に眼を向ける。
    むろん、昨晩出会った魔犬のことである。
    あの後、あの場所から離れた私たちの後ろに魔犬がついて来たのだ。
    理由はおそらく昨晩、助けてくれたお礼といってセリスが餌を与えたためだろう。
    つまり、餌付けだ。さすがにそれだけではないと思うが。
    まあ、敵意があるわけでもないから。あんまり気にしてなかったけど。
    ただ、セリスが朝ご飯のときにまた勝手に食料を与えてたが、
    その量がちょっと問題だった。
    ちなみに頭もいいらしく人の言葉を理解している節がある。
    もしかしたらどこかの貴族が飼われてて、逃げだしたか、
    捨てられたのかもしれない。
    それにしても、森の外までは着いてこないだろうと思ったけど
    どうやら戻る様子はない。このままついて来る気だ。
    どうしよう。

    「ねえ、お姉ちゃん」
    セリスがなにか欲しい物があったり、頼みたいことがあるときの声だ。
    セリスの言いたいことはすぐ分かった。
    まあ、食費は掛かるだろうがソレに見合った働きはしてた。
    でも、これからのことを考えるとこの魔犬にまでは面倒が掛かるかもしれない。
    偶然かもしれないけどお父さんがわざわざ、武器を持たせて
    冒険者の店に向かわせた。ということは少なくとも
    平穏な日々というものは望めないだろう。
    それでも・・・
    「分かったわよ。つれてきたいんでしょ」
    「いいの?」
    「セリスもこの子も駄目って言っても聞かないだろうしね。
    ただし、この子に何があっても無理強いはさせないこと
    私は反対はしないだけだから」
    「うん、分かった!ありがとうお姉ちゃん!!」
    それでも、きっと、この選択でよかったのだ。
    「どんな名前がいいかな〜」
    だって、こんなセリスの喜びようを見れたのだから。


    魔犬の名前はケルスに決定した。
    セリスは他の名前が良かったらしいけど、
    セリスの名前のセンスは少々変わっているため、
    魔犬はセリスがいった名前をことごとく嫌がった。
    私もこの犬をそんな名前で呼びたくはなかったから
    助け舟を出したら速攻で魔犬が頷いた。そんなに嫌だったんだ。



    日が暮れる間際、私たちはやっとレムリアの街に辿り着いた。
    レムリアは王都を囲むように位置する4つの街のなかでも
    小さめな街らしいが、それでもスノウとは雲泥の差である。
    日が落ちる前にベアという店を探さなきゃいけない。
    冒険者の店ならとりあえず、冒険者らしき人に聞いてみればいいだろう。
    「あの。」
    「なにか?」
    「ベアという冒険者の店を知りませんか?」
    「ベア?ああ、眠り亭のことか。」
    「眠り亭?」
    どういう意味だろ?
    ベアの店の場所は入り口からかなり近いところだった。
    これなら日が完全に暮れる前にはつけるだろう。


    「ここだね。」
    教えられた店は思ってたより大きくは無いが比較的、綺麗な店だった。
    看板にもベアと書かれている。間違いないだろう。
    もう外は暗くなりだしているが、まだ営業中の札があるだ。

    「おじゃましま〜す。」
    扉を開けて中を見ると客の姿は見えなかった。
    いたのは棚の整理をしているらしい一人の少女。
    少女はこちらを見ると一冊のノートを持って、駆け寄ってきた。
    そして、こちらに来るとノートを開き、こちらに向ける。
    ‘‘いらっしゃいませ。何の御用ですか?’’
    ノートにはそう書かれていた。
    「お姉ちゃん、この子・・・」
    「たぶん、そうね。」
    おそらく、声が出ないのだろう。
    ノートに文字がすでに書いてあったということは
    店番なのかな?
    「えっと、この店の主人に会いたいんだけど。」
    ‘‘少々お待ちください’’
    そうして少女は店の奥へと消えていった。
    少し経つと少女は40代ぐらいの1人の大柄な男を伴って戻ってきた。

    「いったい、なんの・・・」
    途中、私とセリスの顔を見たところで、主人と思わしき男の言葉が止まった。
    そして、
    「エリス・・・」
    私たちに聞こえないほど小さな声でなにか呟いた。
    「すまんな、知り合いに似ていたもので少々驚いた。で何の用だ。」
    男はさっきとは打って変わり親しみのある声で聞いてきた。
    私はカバンに入っている手紙を取り出し、目の前の男に渡す。
    「私はエルリス・ハーネット、こちらは妹のセリスです。
    お父さんの、ラウル・ハーネットの紹介で訪れました」
    「なるほどな。あの二人の子か。」
    手紙を渡し、自己紹介すると、
    目の前の男は楽しそうに破顔していた。
    そして、手紙を開け、眼を通し終えると再び手紙を戻し、
    こちらに向き合った。
    「ラウルから何か聞いてるか?」
    「ベアの店に行けとしか聞いてませんけど?」
    「そうか。ふむ」
    男は少し悩むような素振りをし、
    「手紙にはお前たちに冒険者をやらせると書いてある」
    「ええええ〜〜〜!?」
    これは今まで黙っていたセリスの悲鳴だ。
    私はなんとなく予想していたため悲鳴は上げずにすんだ。
    だが、しかし、予想していても現実になってみると結構ショックだ。

    「自己紹介がまだだったな。
    俺はバート・ベアルス、ベアでいい。
    この子がチェチリア、チェチリア・ミラ・ウィンディスだ」
    ‘‘よろしく’’

    そう言った男、ベアの顔が先ほどお父さんの名前を聞いたときよりも
    さらに楽しそうに見えたのが印象に残った。


引用返信/返信 削除キー/
■390 / ResNo.5)  蒼天の始まり 第5話、@
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:00:29)
    『これから』                                    

    コンコン。

    眠い、全く起きる気になれない。
    どうも数日ぶりのベッドがいけないらしい。

    コンコン!!コンコン!!!

    先ほどまでのドアのノックとは打って変わりノックの音が激しくなった。
    けど、これでもまだ起きる気にはならない

    音が止んだ。またゆっくり寝れる。
    そう思っていたら、ドアが開き、誰かが入ってきた。

    「コケコッコ〜!!!!」

    余りの音にベッドから飛び起きると目の前に鶏を抱きかかえた見慣れぬ少女が
    立っていた。
    とりあえず、状況を整理しよう。起きたばかりの頭を活性化させようと努力する。

    ・・・ああ、そうだ、ここはレムリアの街のベアという店の宿の一室で
    目の前の少女はそこで働くチェチリアだ。
    「おはよう、チェチリア。ごめん、寝過ごした」
    チェチリアは手が塞がってるので、それに笑顔で答えた。
    背筋を伸ばし、もう1つのベッドを向く。
    セリスはあの音をくらった筈なのに何事も無かったかのように眠っている。
    別にセリスは寝起きが悪いわけではないのだが、
    普段から眠りが深く、外界に対する反応が希薄になる。
    まあ、つまり死んだように眠るわけだ。
    たとえ大地震が起きようとおそらく目覚めない。
    チェチリアはそんなセリスを見て困っているようだ。
    ・・・残念だがセリスを起こすのはかなりの労力を必要とする。
    だから、今までの経験上、自分で起きるのを待った方が利口だ。
    部屋の時計を見れば11時過ぎ。
    うん、これならいくら疲れてるといっても、そろそろ起きるだろう。
    そう思っていたら、セリスが何の前触れも無く、起き上がった。
    「・・・おはよう、おねえちゃん」
    ほらね。


    「ふあ〜。おはようございま〜す」
    「ああ、おはよう。て、もう昼前だがな。
    どうやら、ちゃんと眠れたようだな」
    「うん!!」
    未だ欠伸を噛み殺している私と違ってセリスは朝から元気だ。
    さっきまで爆睡してたっていうのに。
    挨拶を済ますと大柄な男、ベアは手に持った書物に再び眼を向けた。
    かなり厚さで、同じような本がテーブルにあと6冊積まれている。
    「何コレ?」
    カウンターに積んであった本を一冊取り、開く。
    ・・・読めない。分かる単語もあるが全体的に、分からない言葉のほうが断然多く、
    内容はさっぱりだ。
    少なくとも現代の標準語では書かれてないことだけはわかる。
    「ふんふん」
    見るとセリスも同じように本を開いていたが
    私とは違い、すらすらとページを捲っていた。
    もしかして、読めるの?
    「ほう、セリスは読めるのか?」
    「うん、一応。コレって魔道書だよね」
    「ああ、魔道書の写本だ」
    写本。というのは分かる。
    昔の魔術師の魔道書はそんなに数が無く、危険なことも書いてあったりする。
    だから、オリジナルの魔道書を一般に出回っても大丈夫な程度の中身だけを写して
    学園都市の者たちが出版したのが写本だ。
    「でも、さっきのは標準語で書かれてなかったけど?」
    「間違って訳されることもあるからな。
    ちゃんとしたやつは原文のまま写されるんだ」
    なるほど。でも、私としては不親切だわ。
    どうせ読まないだろうけど。


    店には客は来ておらず、ベアたちと共に遅い朝食、いや、ベアたちにとっては
    早い昼食をとる。
    食べ終えると、セリスは再び魔道書に向かっていった。
    読めない私は少々手持ち無沙汰だ。
    魔道書ね〜。
    「ねえ、なんでこんなの読んでるの?」
    ベアに聞いたらあから様にバカにしたような呆れたような顔をされた。なぜ?
    「ったく、ラウルに魔法文明時の資料を調べてくれって頼まれたんだ」
    あっ、そういえば、ベアに着いたら聞いとけって言われてたんだっけ。
    忘れてた。
    にしてもセリス、魔道書に集中してて、全然こっちの話聞いてないわね。
    「で何か分かった?」
    「いんや、サッパリだ。
    写本じゃ載ってる内容より写されない内容のほうが多いからな」
    ガクッ、まあ、そんなもんか。写本じゃ無理ってことはオリジナル・・・
    学園都市の中央図書館の物か。・・・遠いな。
    まあ、望みは薄いだろうけど、ほかの事についても駄目もとで聞いておくか。
    「じゃあ、話変わるけど、バルムンクについて知ってる?」
    「そりゃ、多少わな。それがどうした?」
    「実はバルムンクに会いたいんだけど」
    言うとベアの顔が険しくなった。なんかまずいこと言った?
    「なぜだ?・・・会ってどうする気だ?」
    ・・・言うべきだろうか?少なくとも、セリスのことについては知ってるわけだし、
    これからお世話になるんだから、コレについても話して置くべきだろう。
    「実は・・・・」






    「・・・なるほどな」
    とりあえず、私のこと、そして、バルムンクの噂について話したが、
    ベアの顔は険しいままだ。
    「生憎だが、バルムンクについては知らん」
    まあ、そうだろう。
    「が、他のやつなら1人知っている」
    「っ!?ほ、他ってまさかシンクレアの!?」
    「ああ、そうだ」
    共に旅した仲間ならバルムンクについての
    有力な手がかりが掴めるかもしれない。
    駄目もとでもやってみるもんだ。
    「だが、簡単には会わせられん」
    「っ!?・・・どうして?」
    「1つ、お前さんたちでは邪魔になる。アイツはいつも、足手まといになるって
    いって他の奴とパーティーを組みたがらないからな。
    2つ目、本人に口止めされている。
    3つ目はあいつは此処の常連なんだがな、生憎、何時来るか分からん」

    1つ目はそりゃ、確かに私たちでは足手まといになるだろう。
    せめて自分の身は自分で守れるようでなきゃ。
    2つ目、これは仕方がない。何でシンクレアが、素性を隠してるか分からないけど、冒険者の店は情報を取り扱う以上、
    信頼が第一のはずだ、裏切りはご法度だろう。
    3は、意味が違うが確かに簡単には会わせられないだろう。
    不満はあるがこれも仕方ない。
    それに、此処でお世話になってればいずれ会えるということだし。

    「分かったわ。で、どうすればいいの?」
    簡単には、ということは、何か条件つきで会わせるとか
    そういうことのはずだ。
    「とりあえず、腕を磨け。
    そうだな、あいつの欲しがりそうな物でも見つけれれば正式に紹介してやれる。
    仲介ならあいつも文句はいわんだろうしな」
    「曖昧ね・・・まあ、いいや。それで‘‘アイツ’’って誰のこと?」
    シンクレアのメンバーは蒼き空と銀の月、赤き竜、そして、
    「シリウスだ」
    白き牙か、確かシンクレアの中でも後のほうで入った、瞬速の剣士だ。
    「質問は終わりか?」
    「ああ、あと1つ。どっちでもいいことなんだけど、
    この店が眠り亭って呼ばれてたのは何で?」
    「むっ、それか。初めは北の街の店で冬、ベアが熊、冬の熊で冬眠ということ
    だったんだが、最近では暗にこの店の客の出入りが多くないことだな」
    「なるほど。それで眠り亭か。
    でも、やっぱり、繁盛してなかったんだ」
    「むっ、別に客がいないわけでも困ってるわけでもないのが。まあ、いい。
    話は終わりだ。そろそろメシにするからセリスをどうにかしろ」
    「は〜い」
    ちなみにさっきからいないチェチリアがご飯を作っている。
    「セリス、そろそろご飯だって」
    「えっ!?もうそんな時間?」
    もう6時過ぎである。ちょっと早いが客もいないしこんなもんだろう。
    にしても、客がいないわけでないって言ったけどぜんぜん来てないじゃない。
    本当に大丈夫なの?
    「それにしても、わざわざセリスの発作について調べてたのに、
    話し聞いてないんだもの」
    あからさまに起こってるという顔をする。
    調べたのは私じゃなくてベアだけど。
    「あう〜、ごめんなさい」
    「冗談よ。それじゃご飯に・・・」
    ご飯?アレ?何か忘れてるような??
    「ねえ、セリス・・・ケルスは?」
    「あっ、そっ、そういえば・・・」
    確か店に入れるのは不味いかな、と思って、
    昨日の夜から店の外で待たせたままのはずだ。
    そうすると、丸1日ご飯を食べてない計算だ。
    「どうする?」
    「はっ、早く、何か食べるものを持ってって上げないと」
    「じゃあ、ベアにケルスをどうすればいいか聞いてみるわ」
    「うん、ありがと」



    「犬?別に構わんぞ」
    「いいんですか!?」
    「ああ、よくチェチリアが子犬やら子猫やら子馬やら、とにかく
    いろいろと拾って来てな。いまさら一匹や二匹増えても気にせん」
    頼んどいてなんだけど、店に動物置いていいの?
    ってゆーか、馬!?しかも、一匹や二匹っていったいどれぐらい飼ってるんだろ?
    あっ、まさか朝の鶏も!?


    ちなみはケルスは腹が空いてグッタリしていた。
    どうも、私がここで待ってろといったのを
    律儀に守ってたらしい。ゴメン


    「それで、私たちは具体的に何をすればいいの?」
    ベアに聞き忘れていた。というより、セリスが話を聞いてなかったから
    聞かなかったことだ。
    「冒険者のことか?」
    「ええ」
    これから冒険者をやれなんていわれても
    いったい、どうすれば良いかなんて分からないと思う。
    「まっ、とりあえず、力試しだな。
    まずはそっからだ。そうだな、ルスランたちと遺跡にでも潜らせるか」
    「遺跡?」
    「ああ、もっとも、殆んどは昔の魔術師の工房だがな」
    「ふ〜ん、じゃあ、ルスランってのは誰なの?」
    「此処の常連の冒険者だ。腕は立つし、害は・・・ない。
    ・・・・はずだ。・・・・・多分」
    「何でそんなに不安げなのよ」
    「まっ、まあ、とりあえず3日も経てば会えるだろう。
    それより、今日は満月だがセリスは大丈夫か?」
    「うん、大丈夫そうだよ」
    「そうか。それと、魔道書に興味を持ってたな。借りてって良いぞ」
    「ありがと!!」
    ははは、私には関係ない話ね。
    「安心しろ。ちゃんと、標準語のやつもあるからな。お前もちょっとは勉強しとけ」
    「・・・・・・アリガト」

引用返信/返信 削除キー/
■391 / ResNo.6)  蒼天の始まり 第5話、A
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:01:40)
    2005/01/29(Sat) 23:01:16 編集(投稿者)

    『遺跡』



    「はあ〜」
    「疲れた〜」
    「まあ、初めはそんなものよ。そろそろ休みましょ」
    「そうだな、ちょっと早いがそろそろいい時間だ。
    敵もいないみたいだから今日はここで休もう。
    いいよな、サクヤ」
    「別段、異論はない」
    ここは、レムリアから離れたところに位置する最近見つかったという
    魔法文明時の魔術師の館だ。
    もっとも、広さ的には館というよりもむしろ城だ。
    遺跡というから洞窟にでも潜るのかと思ったら違った。
    もっとも、洞窟などのほうが今になって見つかることは多いらしいから
    今回が特別らしい。
    そして、一緒にいるのはベアに紹介された人たち、
    最初に喋った女性はアウラ・ヴァレンティン。
    次に喋った金髪の男がベアの言ってたルスラン・ヴィグム・ゴールドマン。
    ベアが不安げだった理由がよ〜く分かる。
    そして、最後のサクヤと呼ばれた黒髪の人物はサクヤ・コノハナ。
    変わった名前だがどことなく、ミコトの名前と似た感じだと思ったら、
    世界は狭い。なんとミコトの親族だそうだ。
    ミコトが時々レムリアに来ていたのもサクヤさんに会いに来てたらしい。
    そして、私とセリスとケルスの5人と一匹で館を散策していた。
    途中、館の中を徘徊していた魔法生物とは何度か遭遇したが、
    そのたびに、この三人の実力は素人目に見ても凄いと思う。
    しかも、経験も多く、動きが手馴れている。


    今回は館だから敵はほぼ、魔法生物だけだ。魔法生物はあくまで
    徘徊中に遭遇した侵入者を倒す命令を製作者から受けているだけで、
    わざわざ部屋までは入ってこない。
    だから、部屋に入れば、襲われる心配はまず無いらしい。
    けれど、洞窟みたいな所だと、魔法生物だけでなく、野生の魔獣なんかも
    巣食っているうえ、このようなちゃんとした部屋なんかもあるはずも無く、
    ほとんど場合はゆっくり休むことも出来ないのだと。
    簡単だと思っていたわけではないが、
    今更ながら、結構大変な仕事だと実感している。
    とりあえず、今のところは館を回りながら、一つ一つ部屋や廊下を調べている。
    こういう、魔術師の館は、いたる所に隠し扉などの仕掛けが施されていて、
    遺産はほとんど、その奥に隠されているらしい。
    つまり、うちの地下倉庫と同じだ。
    今のところ、めぼしい物はゼロ。
    隠し扉は3つほど見つけたが全部、荒らされた後だった。
    でも、ベアはここからはまだ、大物は見つかってないと言ってたから、
    まだ何か残っているはずだそうだ。
    まあ、結局根気良く調べていくしかないわけだ。厄介な物である。



    「ふう」
    部屋の床に腰を落とし、カバンから一冊の本を取り出す。
    三人も似たような物を荷物から取り出していた。
    実はコレ、本ではなく、れっきとした魔科学の産物である。
    名はアーカイバいうものでちょっと前から実用化されたものだ。
    おそらく最も実用的な魔科学品の一つだろう。
    機能は収納。手で持った物をアーカイバのページの中に入れて
    出し入れすることができる。
    簡単に言えば、持ち運べる倉庫のようなものだ。
    コレのおかげで近年では荷物の持ち運びがとても楽になった。
    しかも、時間の流れが違うらしくナマモノを入れても大丈夫だ。
    基本的には中身を出すのに少々時間が掛かるため、普段なら良いが
    戦闘中なら致命的な隙になるから使わない物だけを入れる。
    問題は一般で持ってるようなのは40ページぐらいしかページが無く、
    ひとつのページに入れられるのは1つだという事。
    複数を一緒に入れることも出来る。が、物や場合によって、
    どちらか一方が一生取り出せなくなることもあるから、
    あまリやらないほうがいい。
    あと、もう1つ重要なのは、持てるのは2冊までということ。
    これは使う際に刻印が必要でその刻印が1つの腕に1つしかつけられないから
    らしい。
    だから、腕一本につき一冊が限度で、普通は2冊までしか持てない。
    もっともコレの原理については良く分からないのが現状なんだけど。
    そして、生き物は収容できないし、ページに区別がつかなかったりするのも
    難点だ。
    さらに言えば値段もけっこうする。これも、地下倉庫の品だ。

    アーカイバの後ろの方のページを開き、中身を取り出す。
    取り出したのは袋に包んだサンドイッチと水筒だ。
    あいにく、アーカイバは1つしかなく、これは私とセリスの2人分だ。
    他の人を見るとアウラさんは同じようにサンドイッチ、
    ルスランはただのパン、
    サクヤさんはお米を固めたオニギリというやつだ。
    ルスランのだけなんか寂しいけど気にしないで置こう。

    全員食べ終わり、情報交換も終えて一息ついている。
    窓の外はずいぶん前から真っ暗だ。
    遺跡内では夜は余り動けないので朝早くから行動しなきゃならないから
    まだ早いけど、そろそろ眠るらしい。
    「さてと、ベッドをどうするかだけど」
    アウラさんが優雅にベッドに腰掛けて口を開いた。
    部屋には大きなベッドが一つしか置いてないが、
    2人か3人なら寝れるかな?
    「オレは床で構わん、そちらで使え」
    「じゃあ、俺と」
    「それじゃ、私とエルリスとセリスで決まりね。見張りよろしく♪」
    「ちょっと待て、勝手に決めるな!!」
    「なによ。かわいい後輩に譲ろうという気は無いの?」
    「いや、だからお前が退け」
    「あんたなんかと、この二人を一緒に寝させられるわけないでしょ!!
    むしろ、同じ部屋にいることさえ許しがたいのに!!」
    「グハッ!!そこまで言うか!?俺がいったい何をした?」
    「自分の心に聞いてみたら?身に覚えが無いなら重傷よ」
    「グッ!!なら二人はどうだ?」
    「絶対イヤ!!」「ゴメン、ヤダ」
    言うや否や、二人して速攻で答える。
    普通はそうだろ。
    というか飢えた狼の傍で寝たいやつなんていないと思う。
    まあ、ルスランのいってることは場を和ませる?冗談だと思うけど。
    最初に紹介されたときからこんな感じだし、ルスランもコレがなければ
    少しは尊敬できたのに。
    「まあ、当然の結果ね」
    「コンチクショーッ!!」
    「やかましい」
    「グベッ!?」
    サクヤさんがルスランを実力行使で黙らせる。
    気絶しているルスラン以外はいたって平然としている。
    ああ、これがこの3人の日常なんだ。大変だなあ。
    なんとなく2人の苦労を悟ってしまった。


    ちなみに、何故かケルスが布団にもぐりこもうとしたのをアウラさんに
    問答無用でルスランのところへ放り投げられた。
    アウラさん曰く、ルスランと同じ匂いがしたらしい。
    ケルスとルスランが同類か・・・うっわ〜〜〜



引用返信/返信 削除キー/
■392 / ResNo.7)  蒼天の始まり 第5話、B
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:03:07)
    『ゴーレム』

     
    結局、1度目は10日ほどで食料が無くなり引き返した。
    再び訪れてから3日目、やっと私たちは当たりを引けた。
    が、どうやら大物過ぎるようだ。
    目の前にいる無骨な鉄の銅像、それに対峙する私たちは
    はっきり言ってピンチだった。
    「オラッ!!」
    「ハアッ!!」
    ルスランとサクヤさんが猛然と切りかかるが、
    銅像は全く効いた様子は無く、その拳を振り上げた。
    「どいて、‘‘wind’’」
    アウラさんの魔術によって生み出された真空波が銅像へと向かう。

    ガンッ!ガンッ!!ガンッ!!!

    「駄目だわ、全然効いてない!」
    真空波は先ほどの剣戟と同様に軽く弾かれた。なら、
    「セイッ!!」
    剣に振るい、氷の塊を作り出し銅像へと撃ちだす。が!!
    「消えた!?」
    氷は当たる直前になにかに掻き消された。
    「まさか、氷に対する魔術耐性まで付いてるなんて無茶苦茶ね。
    この分だと他にも耐性有りそうだし・・・いったん引きましょ」
    みんなもこのまま勝てるとは思わないらしく、アウラさんの提案に黙って頷く。
    銅像は門番だったためか、私たちを追っては来ず、元いた場所に戻った。


    近くの部屋に入り、前衛にいた2人の手当てをする。
    それにしても参った。あの身体じゃセリスのメビウスもケルスの牙も
    効かないだろう。
    とすれば効くのは魔術だが、耐性があるらしくてどんな魔術が効くかも
    分からない。
    3人も同じ考えらしく、その表情は重かった。

    「さて、こうしてても仕方が無いし、あいつに対する対策を立てましょ」
    治療を終え、アウラさんが提案してきた。
    どうもこのパーティー、まるでアウラさんがリーダーのようだ。
    実際はルスランらしいが。
    「2人とも、何の魔術が使える?」
    ・・・必要なことだというは分かる。がこの質問、私とセリスにとってかなり
    痛い話だ。
    「私は氷以外は全くで、セリスは小さな魔術以外はほとんど使えないわ」
    「・・・・・・そう、参ったわね」
    「そういうアウラさんたちは?」
    「私は4大元素は全部使えるけど得意なのは風ね。
    でも、消されはしなかったけど、余り効いてはいなかったら駄目。
    サクヤのは攻撃には向いてないし、ルスランは問題外」
    どうやらまともに攻撃できるのはアウラさんのみらしい。
    そのうえ、得意の魔法がほとんど効かない。かなりシビアだ。
    「ちょっといい?」
    すると、今まで黙ってたセリスが口を挟んだ。
    「さっき見た時、お姉ちゃんの魔術
    全部消されてたわけじゃなかったみたい」
    「「どういうこと?」」
    「えっ、えっと、氷の中に一個だけ他とは違うところに向かったのがあって、
    それは消えずに当たったんだけど」
    私とアウラさんに同時に尋ねられてオドオドしながらセリスが答える。
    それにしても一つだけ消えなかったなんてどうしてだろう。
    「場所によって効かないことがある?・・・ということは部分的に耐性が?
    いえ、むしろそれなら耐性じゃなくて・・・なるほど、オリハルコンね」
    「オリ・・・?なんですか、ソレ?」
    「対魔力に優れた金属の一種よ。かなり強力で下級の魔族なら触れただけで
    消し去れるわ」
    「じゃあ、さっきのはそのオリハルコンによって消されたということなの?」
    「ええ、おそらくね。
    多分、全体に使ったら動かないから身体の一部にだけ使ってるんだわ」
    なるほど、セリスが言った時のはそのオリハルコンというのが無いところに
    当たったから消されなかったのか。
    なら、私の氷も場所によっては通じるわけだ。
    「じゃあ、他の部分は別の金属なんだよね」
    「そうね、オリハルコン以外の部分は硬度的にもミスリルだと思う」
    「ミスリルか。じゃあ、こんなのはどうかな」
    セリスは悪戯を思いついた子供のような楽しそうな顔で提案した。




    セリスが考えたアイディアを元に作戦を練り、隊形を決める。

    サクヤさん、ルスランが前衛。
    私とセリスが真ん中でケルスは後ろにいるアウラさんの守りだ。


    再びあの銅像の元へ来ると、銅像はこちらが近づくのを察知すると
    重そうな身体を軋ませ、動き出した。
    「二人とも、しくじるなよ!!」
    「「あんたもね!!」」
    あたしとアウラさんの声が重なり、それを聞くとルスランたちは
    銅像へと突っ込んでいった。

    ルスランたちが銅像を押さえる中、私とセリスは簡単な魔術で
    銅像を狙う。
    あくまでこれは何処がオリハルコンで何処がミスリルかを調べるためだ。
    出来る限り数を稼いで試せばいい。


    何度か放つ内に魔術の効く所を絞り込めた。
    アウラさんの詠唱も終わり、準備完了だ。
    「行くわよ!!``Flamme・Der Freischutz’’(焔・魔弾の射手)」
    E・Cを使って生み出した7本の炎の矢が全て銅像の胸の一点へと吸い込まれる。
    黒かった表面が熱により赤く染まり、表面が熔けかけている。
    銅像はそれでも動き続け、今は無き主の命令を守るため、前にいる二人に
    襲い掛かる。
    けど、コレで終わりだ。
    私はアウラさんの魔術が放たれると同時に駆け出していた。
    そして、装着した2つの氷のE・Cを開放しながら冷気を放出しているエレメンタルブレードを銅像の赤く染まった胸に目掛けて突き出す。
    「ハアッ!!」

    ガギンッ!!

    甲高い金属音と共に剣は銅像の胸へと深く突き刺さる。
    そして、そこから無数のヒビが広がった。

    ピシッ!ピシッピシッ!バキンッ!!!

    ヒビがある程度広がると銅像の体は一気に砕け、残った部分が音を立てて床に倒れこんだ。

    金属を高温で熱し、一気に冷やすことによって破壊する。
    コレがセリスのアイディアだった。
    ミスリルに通用するか不安だったのだがうまくいった。

    さてと、こんなのが守ってるなんていかにも何かありそうね。
    ん、なにコレ?銅像の破片の中に鉄の鈍い光とは違う何か輝く物が見えた。
    拾ってみるとソレは青い宝石のついた指輪だった。
    宝石の中には一本の黒い線が入っている。
    何でこんなのがあるか分からないけど貰っとこ。
    そうだ。後でセリスにプレゼントしよう。
    そう考え、指輪をポケットの中へと放り込んだ。


引用返信/返信 削除キー/
■393 / ResNo.8)  蒼天の始まり 第5話、C
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:04:43)
    『小部屋』



    「何やってんの」
    ルスランは砕けた銅像の破片の中で大きな物を拾い上げアーカイバの中に
    入れていた。
    「ミスリルやオリハルコンといったらこれ以上ない希少金属だ。
    売るに決まってるだろ」
    オリハルコンについては知らないが確かにミスリルは希少金属の代名詞だ。
    いくらギルド、魔術協団が精製に成功しても、未だその希少性は
    損なわれていない。
    「でも、そんな破片で大丈夫なの?」
    「ミスリルはさすがに値打ちが下がるけど、オリハルコンなら大丈夫よ。
    まだ、精製に成功してないからたとえ欠片でも十分売れるの」
    アウラさんが言うのなら確かだろう。
    じゃあ、私も貰っといたほうが良いかな?
    「おい、こっちに来い」
    「ん、サクヤだ。どうしたんだ?」
    「何か見つけたんじゃない?」
    そういって、2人は先へ進んでしまった。
    しかもセリスやケルスまで。
    えっと、どうしよう、コレ。



    結局、後で何か見つかるかもしれないし、大きな破片をいくつかしまって
    追いかけた。
    セリスなんて私を追いてったのに全く気付いてないし。
    「えっと、ゴメンね。お姉ちゃん」
    「良いわよ、気にしてないから。
    ただ、せっかく渡そうと思ったけどやめようかしら」
    「渡すって何を?」
    「コレ」
    ポケットから指輪を取り出しセリスに見せる。
    「キレ〜。どうしたのこれ」
    「さっき拾ったの。欲しい?」
    「うん!!あっ、でも・・・」
    「私のことは気にしなくていいから。ハイ」
    「・・・ありがとっ!!」
    渡された指輪をはめ、私に抱きつくセリス。
    うん。やっぱり渡してよかったわ。
    「何してる。置いてくぞ」
    サクヤさんの声に慌てて離れ、後を追う。
    余り喋らないだけにサクヤさんの言葉に有無を言わせぬ強制感がある気がする。


    サクヤさんが見つけたのは行き止まりの壁にあった隠し扉だった。
    銅像が残ってたということはこの先はまだ、誰も来てない可能性が高い。

    扉の先は下へと続く階段になっていて、長い階段を終えると、狭い通路に出た。
    通路を進んでいくと奥には頑丈そうな扉が見えてきた。

    扉を開き、部屋を覗くと中にはたくさんの道具があふれていた。
    「宝物庫だ。荒らされてもないし、こりゃ、ついてるな」
    「そうね、でも、流石に全部は持ってけそうにないから少し知らべましょ」
    調べるといっても私にはチンプンカンプンだ。
    セリスなら分かるかなって・・・
    「どうしたの?セリス」
    「うん、なんか変なの」
    「変、って、もしかして魔力が?」
    「ううん、そういうのじゃなくて・・・むしろ安心するの。なんでだろ?」
    う〜ん。ここにある道具の所為だろうか?
    それならば、それだけでも貰っておきたいが
    「そういえば、セリス。ケルスがまたいないんだけど」
    「え?」
    ここの階段を降りたときにはいたから部屋の外だろう。
    やれやれ、私ってセリスに本当に甘いなあ。
    「ちょっと、ペット探してくるから待ってて」
    三人にそう言うと二人で部屋を出る。
    ルスランが聞いてるのか聞いてないのか分からない、
    気の無い返事をしたがまあ大丈夫だろう。
    案の定、ケルスは部屋の外の通路にいた。
    部屋を出て少し先の通路で壁の一部をじっと見つめている。
    「何かあるの?」
    ケルスの見ている辺りの壁を触るが何も変なところは無い。
    壁を壊せば何か出てくるのだろうか?
    でも、押してもびくともしないし、かなり頑丈そうだ。
    壊すとなると大変な作業になりそうだ。
    いや、そもそも、壊したらこの通路が崩れかねない。
    「何だろうね?」
    セリスが同じように左手で触れる。
    すると、壁から固さというものが消えた、
    「「キャッ!!」」
    壁はまるで水のようになり、触れていた私とセリスの腕が中へと引っ張られ、
    中に引きずり込まれた。




    「ん、何か悲鳴のようなのが聞こえたぞ」
    「えっ、もしかして、エルリスたち?」
    「かもな、ちょっと探しに・・・」
    「残念だが、そうはいかないみたいだぞ」
    サクヤの静かな声に扉から顔を戻すと部屋にあった3つのフルアーマーが
    まるで、操り人形のように動きだした。
    「リビングアーマーか」
    「銅像といい、コレといい厄介な物を置いとく物ね」
    「さっさと片付けるぞ」
    「おう!!」





    ズダンッ!!

    「イタタタッ、ここは?」
    「あう〜」                         
    壁に引き込まれた先は小さな部屋だった。
    本棚とクローゼットが1つずつと机、ベッドしか物が無く装飾も全く無い
    質素な部屋。
    扉さえも無いが、出たきた壁は先ほどと同じくまるで形を持った水のようだ。
    もしかしたら、ここから入ってきたわけだし、これが扉なのかもしれない。
    「なんだろう、ここ?」
    「・・・わかんない。でも」
    そういってセリスは机の上においてあった本を手にとって開く。
    「すごい!!これ、魔道書のオリジナルだよ」
    「じゃあ、ここの本って当時のものなのかしら」
    「うん、そうだと思う。
    ここの魔道士はこの部屋で魔道書を書いてたんじゃないかな?」
    じゃあ、ここにあるのって結構凄い物なんだ。
    「中身は?」                          『・・・・・!!』
    「ごめんなさい。
    難しくて簡単にしか訳せそうに無いや」              『・・・・!?』
    「まあ、仕方が無いか。
    とりあえず全部貰っちゃいましょ」               『・・・!!・・・!?』
    本棚の本は20冊。
    そして、机の1冊で21冊だ。                   『・・・・!!』
    半分以上ページを取られたが仕方ない。
    出口は予想通り来た所から出られた。
    仕掛けについてはセリスが触れたら入れたみたいだし、
    多分セリスに渡した指輪が関係してるのだろう。


    「遅れてごめ・・・」
    部屋の惨状を見た私たちは固まった。
    きれいに整理されてたはずの道具が散乱し、
    何故か壊れた鎧の欠片がいたるところに落ちている。
    その部屋の真ん中では3人がグッタリしていた。
    「ああ、お帰り。大丈夫だったか」
    「ええ。それよりこの惨状は・・・何?」
    よくみれば3人の姿もボロボロだ。
    「まあ、ちょっといろいろあってね。
    とりあえず、欲しいやつは大体持ってったから後は好きにしていいわ
    もう、ここで切り上げるし」
    「えっ、あっ、うん。分かった」
    こんなに疲労してるなんていったい何があったんだろ。
    セリスに選んでもらい、
    ページに入れれるだけ入れて私たちは魔術師の館を後にした。

引用返信/返信 削除キー/
■394 / ResNo.9)  蒼天の始まり 第6話、@
□投稿者/ マーク -(2006/10/11(Wed) 14:06:04)
    『先生』



    「「ただいま〜」」
    来て一ヶ月も経たない新しい家。
    しかも居たのなんてほんの数日なのにこの言葉がすんなりと出てきた。
    「ああ、お帰り」
    ‘‘お帰りなさい”
    セリスと二人っきりで暮らしてたし、出かけるのもだいたい二人一緒だったから
    帰ってきて『お帰り』なんていわれるのはかなり久しぶりだ。
    「意外と早かったな、ルスランたちは?」
    「今日は疲れたから明日来るって」
    「そうか。で、何か見つけたか?」
    「うん!!魔法道具と魔法文明時の魔道書だよ」
    「当時の魔道書なんて良く残ってたな。
    鑑定してやるから、その間に飯でも食ってろ」
    「分かったわ。はい」
    アーカイバを取り出し、前の方のぺージの荷物を『解凍』していく。
    全部出し終え、既にカウンターにいるセリスの隣の席に座り、
    チェチリアの料理を待つ。
    遺跡の中ではちゃんとした料理を食べれなかったから、
    こういう料理は久しぶりだ。

    おいしい。
    チェチリアの料理は本当においしい。
    この店がつぶれないのはチェチリアの料理のおかげではないかと
    本気で思ったほどだ。
    あとでレシピを教えてもらおうかな。


    「失礼」
    食事を終え、セリスがデザートに挑んでる途中、店に入ってきた。
    何気なくその人物に眼を向けると、
    そこにいたのは20台半ばか後半ほどの美女といっても
    差し支えない人物。
    私にはその女性に見覚えがあった。だって、この人は・・・
    「「先生!?」」
    「あら、エルリスにセリス。やっぱり、ここにいたのね。
    久しぶりだな、ベア。ところで誰だ、その娘は?
    以前から疑ってはいたがまさか、本当に・・・『ロ』だったのか」

    ピキッ!!
    一瞬、世界が凍った。もっとも、セリスとチェチリアは『?』を浮かべているが。
    「・・・・ふざけんなーーーーーーー!!!!!!!」
    ベアが吼える。どうも、この二人は顔見知りのようだ。
    二人ともお父さんたちの知り合いだからありえないわけでもないのだが。
    「ねえ、お姉ちゃん。『ロ』って何?」
    ‘‘なんですか?’’
    ・・・ごめん。私からそんなことはいえない。
    『?』を浮かべている二人をぎゅっと抱きしめる。
    「・・・・・・いいの。二人はそんなこと知らなくていいの。
    二人は純粋なままでいて。
    でも、ベアに気を許しちゃ駄目よ。食べられちゃうから」
    「食べられる?」
    「エルリスーー!!!」



    その後、状況は先生とベアによる乱闘にまで発展し、
    危険と判断した私たちはすぐさま外に避難した。
    近所の人は事情を知っているらしく、なぜか集まってきた。
    話を聞くと、この騒動は以前から良く起きてたものらしく、
    ここ数年はなかったらしい。が、そのせいでかなりの人だかりが出来ている。
    曰く、「美女と野獣の大喧嘩」らしい。
    しかも、一部の人は賭け事までやっていて、
    見た感じ6:4位で先生が優勢だったりした。


    中の騒ぎが収まり、店の中に入って眼に入ったのは
    息切れをしたベアと先生、そしてかなり悲惨な状態の店内だった。
    見た感じベアの息のほうが荒いから勝ったのは先生だろう。
    外の人に報告しなきゃ。
    にしても、この店内は誰がかたづけるんだろ?
    「ゼイッ、ゼイッ、で何のようだ?」
    「ずいぶん鈍ってるようだな。
    別に用など無い。ただ通りかかったから顔出しただけさ」
    「・・・・・帰れ」
    「あ〜、分かった分かった。一晩泊まっていく、
    それならよかろう」
    「ふん。でなんだ?また召集か?」
    「ああ。最近、顔出してなかったからな。流石にそろそろ出ないと不味い」
    「それなら、2人も連れてってくれ、当時の魔道書を見つけてきたから
    どうせ行かなきゃならん」
    「当時の?へえ、やるじゃないか」
    「で、どうだ」
    「分かった、その代わり宿代はタダだ」
    「むっ、・・・しかたがない。いいだろう」
    「ちょっと待って。なんの話?」
    近所の人に勝敗を教えると、かなり大騒ぎになった。
    ちなみに私もちゃっかり先生に賭けてたりした。
    思わぬ臨時収入だ。
    「ああ、魔法文明時の魔道書は原則的に学園都市の中央図書館に
    納めることになってるんだ。むろん報酬はでるぞ」
    「・・・分かったわ。でも、何で先生が学園都市に関係あるの?」
    「先生?コイツが?似合わんな」
    「あんたよりはマシ」
    「ふん、コイツはこう見えても学園都市出身の魔術師、しかも最高位のウロボロスの1人だぞ」
    ウッ、ウロボロスっていえば、先生から聞いた学園都市の魔術師のなかでも、
    エリート中のエリートに与えられる称号だ。
    ここ数年でこれに当てはまったのは、若干14,5歳の若さで炎の魔術をすべて習得したという少女、
    ただ1人だという。
    「えっと、本当ですか?」
    「ええ。証拠見る?」
    先生は服のポケットから銀色の懐中時計を取り出した。
    時計の表には自らの尾を咥えた竜のレリーフが彫られている。
    「ウロボロスの証の銀時計よ」
    それが本物かどうかは私には分からない。が、ここまで言うのなら、本物だろう。
    「でも、なんでスノウライトみたいな田舎で先生を?」
    「まあ、いろいろとね。
    そういうことは余り詮索するモンじゃないわよ」
    「・・・はい」
    まあ、私だって人には言えない事なんていくらでもあるし。
    たしかに人にはいろいろ事情があるもんね。
    「二人とも、それでいいな」
    「いいわよ。どうせ行かなきゃならないみたいだし、中央図書館にも興味はあるから」
    「じゃあ、二人とも、戻ってきたばかりなんでしょ。
    明日は早いからさっさと休んだら?」
    「「は〜い」」





    「それにしても、驚いちゃったね」
    「うん、まさか先生がそんな凄い人だったなんて」
    妙にいろいろと詳しいと思ったら、学園出身だったんだ。
    「・・・学園都市か」
    「どんなんだろうね」
    「さあね。でも、中央図書館の本は調べておかなきゃ。
    セリスのことが分かるかもしれない」
    「お姉ちゃんのこともね」
    ふぁ〜。まだ、夕方だけど部屋の戻ったら緊張が解けて疲れが出てきたらしい。
    お腹もいっぱいだし、起きてるのが少々きつい。
    どうやら、セリスも同じようで、欠伸をしている。
    明日は早いらしいし、もう寝ちゃうか。
    「ふあ〜。お休み、セリス」
    「うん、お姉ちゃん。お休み〜」







    「・・・なんで、十年も経ってラウルがあいつらを寄越したか不思議だったが
    お前が隠してたのか」
    「まあね、あの二人に頼まれたら嫌とはいえないでしょ?」
    「だろうな。だが、いかに稀代の結界士といえど、十年間、結界を維持するのがやっとか。
    いや、むしろ、良く十年も持たせた物だ」
    「私が創った最高の結界よ。当然だわ」
    「そうか、相変わらずだな。・・・・・・最近の王国の情勢がおかしい。
    学園都市のギルドと教会は犬猿の仲だ。だというのに、王国所属の
    協団の魔道士が王国内と学園都市の一部で一緒いるのが見かけられるそうだ。
    どうも、きなくさい。気をつけろよ」
    「・・・情報ありがと。気が向いたら調べておくわ。じゃあ、お休み」
    「ああ」



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