Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■427 / 親記事)  戦いに呼ばれし者達
  
□投稿者/ パース -(2006/10/11(Wed) 21:59:28)
    2006/11/07(Tue) 06:23:26 編集(投稿者)
    2006/10/12(Thu) 13:53:55 編集(投稿者)
    11月7日タイトル変更
    (何で今さら・・・・)

    まえがき。

    ハイ、というわけで「前向きな死者と後ろ向きな生者」、昭和さんに頼まれて(←この辺責任のなすりつけ)続編を書くことにしましたが、ようやく世界観設定が完成しましたので本編というか続き、というかさらに前の話を書きました。

    モチーフは完全に北欧神話です。
    ゲルマン民族やヴァイキング達に伝わるあれです、散文エッダやニーゲルンゲンの指環やらで有名なあれです。
    が、武器ばかり登場していて有名どころの神サン(オーディンとかトールとかロキとか)は、名前だけしか出ません、そんでもって登場人物は最初に一気に書いちゃう以外はたぶん出しませんので(出ても精々ちょい役)覚悟してください(何の覚悟だよ)。

    ってか、本来がただの短編であったため、本編もさっさと終わらせましょうか、ってのが作者の考えなので、結構バタバタ人が死んじゃったりしますんでごめんなさい。

    ちなみにこの作品、戦乙女ことヴァルキリーがまんま悪役ですので、ヴァルキリープロファイルとか好きな人にはお奨めできないかも知れません、そのへんはご自分で判断下さいませませ。


    ロキパートでの主な登場人物

    千里塚 陽(せんりづか よう)18歳♂ 所持武器:レーヴァテイン(神剣)
    四ノ原 影美(しのはら えいみ)18歳♀ 所持武器:ロキの剣(魔剣)
    桐野 狼亜(きりの ろあ)15歳♀ 能力:フェンリル
    ゲイレルル 槍を持って進む者 能力:ヴァルキリー




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■428 / ResNo.1)  フェイス1ロキ1
□投稿者/ パース -(2006/10/11(Wed) 22:01:29)
    2006/10/12(Thu) 20:01:22 編集(投稿者)

    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだ、これ?)


    それが、千里塚 陽(せんりづか よう)が最初にそれを見たときの感想である。

    端的に言うと、地面に一本の剣が置いてあった、いや、むしろ突き刺さっていた、よくあるRPGゲームの勇者の剣のように。


    (・・・・・・・・・・・剣?・・・・・・・・・・・何でこんな物がこんなところに・・・・・・・・)


    そこは、閑静な住宅街で、どこをどうしたところで、そんなRPGの産物が迷い込んでくるような場所ではなかった。


    (とりあえず、なんかやばそうだし、放っておこう)


    陽はとりあえず、保身を最初に考えた、もし万が一、これが何かの事件に関わるものであったなら、事件に巻き込まれる可能性がある、そんなのはまっぴらごめんだ。


    (ま、警察かなんかが勝手に見つけて片付けるだろ・・・・・・・・)


    そして陽はその剣を避けて、自宅への帰路を急いだ。










    ―――数日後。

    その剣は閑静な住宅街のど真ん中にいまだ存在した。


    (どうなってんだ?こんな目立つ物、絶対に誰かが見つけるはずだろ・・・・・・・・・・・・・・)


    「ん?どうしたんだ?」


    その時は偶然会った中学時代の友人と一緒に歩いていたので、その友人はいきなり立ち止まった陽に対して疑念の声をかけた。


    「いや、この剣が、な・・・・・・・・・・」
    「剣?お前何言ってるんだ?」
    「は?」


    そして陽はやっとその剣が自分以外には見えていない事に気がついた。










    (つまり、これは、こいつを俺に抜けって意味なのか?)

    ある日、またしても陽はその剣を前にしていた。


    (これは、いったい何だ?剣・・・・・・・・・・しかし、俺以外の人間の目に見えない・・・・・わけがわからない・・・・・)


    その後、しばらく陽は考えていたが、結局その剣を手に取ることにした。


    (これが何かはわからないが・・・・・とりあえず取ってみるか・・・・・何となくそうしろと言われてる気がするし・・・・・)


    そして、陽はついにその剣を手に取った。


    ―――ズルリ。


    意外にも、剣は呆気なく地面から抜けた、そして。


    「ふん、貴様がその剣の適合者か」
    「あ?」


    次の瞬間、陽は、どこかから聞こえてきた声と共に異世界・・・へと引き込まれた。










    「なんだ・・・・・・ここは?」


    陽はいつの間にか、見たことがない、いや、感じたことがない空間へと足を踏み入れていた。
    なんというか、空気・・が違う。


    「ふん、騒ぐな、人間よ」


    陽に向けて声をかけた人物、というべきか、存在、というべきか、それが陽の前に立っていた。
    そいつは、まるで神話の中に出てくるような鎧兜を着て、背中から真っ白な羽を生やし、さらに巨大な槍を持っていた。


    (天使・・・・・・・・?いや、こいつは・・・・・・・・・・・)


    「我が名はゲイレルル、ヴァルキリーが一人だ」
    「ヴァルキリー、だと?」
    「そうだ、大いなる神に仕えし魂の運び手よ」


    馬鹿げている、とりあえずそう思った。


    「貴様には神具に選ばれるほどの『力』があるようだ」
    「『力』・・・・・・?」
    「ふん、その剣は神剣レヴァンテイン、なかなかの高等神具じゃないか」
    「神剣レヴァンテイン・・・・・・・・いやまて、そんなことよりも、お前の目的は何だ、こんなわけのわからない空間に俺を飛ばしたのはなぜだ」


    ゲイレルルはにやり、と笑って。


    「貴様らの魂を手に入れるためさ、ここに呼び入れたのもその前準備のためだ」
    「な・・・・・・・!!」


    魂を手に入れるため、とか言われて平常でいられる者はいないだろう。


    (・・・・・・・・・・・待て、魂、だと・・・・・・・それは何をどうするんだ?だが、何をされるにせよ、この剣があるんだ、ただでやられるつもりはない)


    「ふん、人間如きが色々と考えているな?だが安心しろ、どうせ何もかも無駄なのだから」
    「な!?」


    一瞬の後、陽の胸にはゲイレルルの槍が深々と突き刺さっていた。


    「貴様はこれより我等が『ユグドラシルワールド』でエインヘリヤルとなるための戦へと参加するのだ」


    ゆっくりと崩れ落ちる陽にゲイレルルが語りかける。


    「そこでは貴様と同じように神具に選ばれし者達がエインヘリヤルとなるため戦い続けておる、貴様もそこで殺し合え」


    陽のまぶたが閉じられていく。


    「現世に戻ることが出来るのは最後に生き残るただ一人のみ、死にたくなければ戦い続けろ」


    ゲイレルルが立ち去り、陽は異空間の中に、ただ一人取り残されていた。



引用返信/返信 削除キー/
■430 / ResNo.2)  フェイス2ロキ1
□投稿者/ パース -(2006/10/12(Thu) 19:59:37)
    (は?なにコレ!?)


    それが、四ノ原 影美(しのはら えいみ)―――影が最初にその物体を見つけたときの感想である。
    端的に言って、剣が地面に突き刺さっていた、マンションの自宅の前に。
    真っ黒い、刃も柄も全てが黒い刀剣だった。


    (これを・・・・・・・・・私に・・・・・・・・・一体どうしろと?)


    それが何なのかとしばらく影が考えていると


    「影美、何やってるの?早くしなさいよ」
    「や、母さん、そうは言ってもね・・・・・・・・」


    剣が自宅の真ん前に突き刺さっているのを見て固まっている影美を、そうとは知らず一緒に帰宅した母親が声をかける。


    「家の前何か置いてあるわけじゃないんだから、さっさと入りなさいよ」


    ―――スタスタスタ

    ―――ガチャリ

    ―――ガタン、バタン


    「は!?」


    影美の母親は、思いっきりその剣があるところを完全に、通過した・・・・、なにかにぶつかることもなく、そこには何も存在しないかのように。
    その場にぽつんと取り残された影は唖然として。


    (これは・・・・・・・・・・一体・・・・・・・・どゆこと?)


    しばらく考えた後、


    「とりあえず、抜いてみれば、わかるよね」


    そういう風に決断した。
    そして、


    ―――サクリ


    「うわっ、軽!」


    予想外にあっさりと抜けた剣に驚きの声が出てしまう。
    しかし、その直後それ以上に驚くべき事が起こった。


    『む?お主がワシの新たな使い手か』
    「は!?」


    剣が喋った。


    『む?ワシはただお主がワシの新たな使い手か?と聞いただけじゃが?』
    「いや、ちょっと待て、普通剣は喋らんだろ!!」


    わけがわからない、何だコレは。


    『む、お主はなかなか物わかりが悪いようじゃな』
    「物わかりが悪いとか言うな!」
    「ちょっと影美!さっきから家の前で何をごちゃごちゃと言ってるのよ!!」
    「!!」


    これは、まずい、何も知らない人から見たら今年18になる娘が真っ黒な剣を持って自宅の前で独り言を言っているように見えるだろう、わりと過保護な影の両親なら一体何をするかわかったものではない。


    「ちょっと、影美、さっさと家に入りなさいって・・・・・・・・手を後ろに回して何やってるの?」
    「え!?いや、ちょっと、背中がかゆいなぁ、なんて・・・・・・・」
    『心配せんでもワシの姿と声は普通の人間には見えんし聞こえんぞ』
    「それを先に言え!!」
    「なにやってるの?」
    「なんでもありません!」


    影は、さっさと自分の家に入っていった。










    「それで、あなたはなんなの?なんで私の家の前に落ちてたの?」


    夜、影は自分の部屋でその黒い剣と向かい合っていた。


    『ワシがなんなのか、なぜ、お主の家の前に落ちていたのか、とな』
    「うん、教えて」
    『むーん・・・・・・・ワシに名前はない、無銘刀と呼ばれておる』
    「無銘刀?」
    『ワシを作った刀鍛冶がワシに名前を与えなかったのじゃよ』
    「ふーん、なんで?」
    『そうじゃのう、なんでじゃったかなぁ・・・・・実はワシもよくは思いだせんのじゃよう、なにせ相当昔のことじゃからな』
    「ふーん・・・・・・・・・じゃあなんで家の前に落ちてたの?」
    『それは、おそらく、ヴァルキリー達にばらまかれたのじゃろうな』
    「なんのために?ってかヴァルキリーってなに?」
    『お主のような神具を扱える人間を集めるためじゃよ、ヴァルキリーが何者かというのはワシに聞くより、そこにいる奴に聞いた方が早いのではないか?』
    「え?」


    ―――瞬間、空気が変わった。










    「ふぅ、まさか配置した直後に適合者が発生するとは思わず、召喚が遅れてしまいました」
    「え・・・・・・え・・・・??」


    そこは、それまで影がいた部屋とは違い、何も無いのに、何かあるような、どこまでも見通せるのに閉鎖感があるような、肌に何かがちりちりと焼き付いてくるような、そんな違和感だらけの空間だった。
    そしてそこにいるのは影と、剣と、背中から羽を生やした天使みたいな人だった。
    その天使のような奴は腰に短剣を差した、図書館の司書や、どこかの委員長でもしていそうな、落ち着いた雰囲気のある人だった。


    「初めまして、私はヘルフィヨトル、軍勢の戒めを司るヴァルキリーです」
    『ヴァルキリーとは戦士の魂を運ぶ者、戦場の死に神、戦士に休息を与えぬ者』


    ヘルフィヨトルと無銘刀の声が重なる。


    「あなたは・・・・・・・その無銘刀、名も無き剣ですが一応の神具に認められました、それ故にこれから我々の『ユグドラシルワールド』に来て貰います」
    『む、こやつワシのことを知らぬと見える、これはこれで好都合やも知れぬな』


    二つの声が重なって聞こえるせいで半分混乱状態にあった影であるが、しばらくして聞いてみた。


    「えと、その、『ユグドラシルワールド』ってなによ?」
    「戦士のみに立ち入ることが認められた戦場です」
    『こやつらの庭じゃよ、そこではこやつらは自由に戦士の魂を収集できる』
    「・・・・・・・・・・・でも、私はそんなところに行きたくないんだけどその場合はどうするのよ?」
    「残念ですがあなたに拒否権はありません、神具に認められた以上我々と一緒に来て貰います」
    『無駄じゃよ、こやつらはエインヘリヤルとなる魂を集めるためになら手段を選ばん、これはそのための戦じゃ、こやつらの目的は、早い話がお主の魂じゃ』


    影は長い間考えていたが、しばらくして呟いた。


    「ねぇ、私はどうすればいい?」
    「?」
    『どう、とは?』
    「私はそんなわけのわからない戦なんて嫌だし、魂を取られるのも嫌、どうすればいい?」
    「先ほども言ったとおり、あなたに拒否権はありません」


    噛み合っていない会話にヘルフィヨトルが影に疑惑のまなざしを向ける、しかしそれに構わず影は会話を続ける。


    『むーん・・・・・・・・・・ならば、『力』を使ってみるか?』
    「『力』?」
    『お主は少なくともワシに選ばれるほどの、神具に認められるほどの潜在能力を持っている、それを使い、ワシの『力』を使えばあるいはこやつをどうにか出来るやもしれん』
    「・・・・・・・・・・やってみよう」
    「あなた、先ほどから一体誰と会話をしているのですか?」


    いよいよおかしい感じ、剣を抜きはなったヘルフィヨトルに対し影は剣を構えた。


    『よいか、まずは『力』を、お主の中にある『力』を信じ、引き出すのじゃ、それをこの場に顕現させろ』


    言われたとおりにやってみる、『力』を引き出すイメージ、それを発現させる。


    すると影の足下から伸びる影が、大きく歪曲した。


    『む、今のお主ではまだこの程度か・・・・・・・・どうする?それでも抵抗するのか?』
    「ええ、なにもしないでやられるよりはずっとマシ!」
    『ふむ、よかろう、お主のこと気に入ったぞ、ワシもお主に『力』を貸してやろうでわないか!』
    「さぁ、行くわよ!!」


    影とヘルフィヨトルとが同時に地面を蹴った。


引用返信/返信 削除キー/
■432 / ResNo.3)  フェイス1ロキ2
□投稿者/ パース -(2006/10/13(Fri) 20:13:42)
    「・・・・・・・・・はっ!?」


    陽は閑静な住宅街の真ん中で目を覚ました。


    「・・・・・・・・・?」


    自分の体に触れてみるがどこにも異常は見あたらない。
    ゲイレルルに突き刺された胸にはまったく傷跡がなかった。


    (あれは・・・・・・・・・夢だったのか?)
    (つーか、ここは・・・・・・・・いつもの通りか)


    周りを見渡すとあの剣を引き抜いた場所から、ほんの少し移動しただけの、ほとんど同じ場所に陽は座り込んでいた。


    (あれは・・・・・・・・白昼夢だったのか?それにしては嫌に生々しかったが・・・・・・・)


    そして気付く、


    (ってか、あの剣はどこに行った?・・・・・・・ってあれも白昼夢の一部だったのか?)


    わけがわからない、が、全部夢だったのだろう。
    そう思い切ることにして陽は歩き出そうとして、もう一つ気がついた。


    (なんだ?何でこんなに音がしないんだ?)


    そこは閑静な住宅街といえども、少なくとも人が住んでいる場所である、それならば普通何かしらの物音がしているはずなのだが、今回に限って言えば、なんの物音もしなかった。


    (・・・・・・・・・・・まぁ、そんなこともあるだろう)


    このとき、陽はそれほど深く考えたりせずに歩き出した、深く考えるべきだったのに。










    これは異常だ。


    陽がそう気付いたのは閑静な住宅街を抜け、にぎわいのあるはずの商店街まで来たときのことだった。
    たしかに、そこにはたくさんの人々が、サラリーマンや買い物帰りの主婦、八百屋のおっさんに走り回る子供達がにぎわっていたが、いるはずなのに、


    まったく、物音一つ聞こえてこなかった。


    「・・・・・・・・はは・・・・・・・・なんだこれ?」


    目の前を、一人の若者が通り過ぎていく、そしてその青年は、まるで陽の事が見えていないかのように通り過ぎ、陽の体の中を通過していった。


    「これじゃ・・・・・・・・・まるで、俺が幽霊にでもなっちまったみたいじゃんか・・・・・・」


    OL風の女性、くたびれた服装の老人、スカートの短い女子高生、誰も彼もが路上に座り込む陽のことなど気にもせずに通り過ぎていく。


    「ちくしょう、何が、一体何がどうなってやがる・・・・・・・・・!」


    そこで陽は、意識を失う直前、あの異空間の中で出会ったヴァルキリーに言われた言葉を思い出す。


    『貴様はこれより我等が『ユグドラシルワールド』でエインヘリヤルとなるための戦へと参加するのだ』


    たしか、そう言われた、それから、


    『そこでは貴様と同じように神具に選ばれし者達がエインヘリヤルとなるため戦い続けておる、貴様もそこで殺し合え』


    とも言われたはずだ。


    「エインヘリヤル・・・・・・・・・・・なんのことだ・・・・・・・・それに神具だと・・・・・・?」


    あのヴァルキリーは陽が手にした剣を指して、


    『その剣は神剣レヴァンテイン、なかなかの高等神具じゃないか』


    「神剣レヴァンテイン・・・・・・・・・それが神具だというのか・・・・・・・・?」


    しかしその剣はいま陽の手にはない、意識を失っている間、どこかに落としてしまったのだろうか。


    「くそっ・・・・・・・情報が足りない、だがこの空間の中にも他に誰かいるはずだ、とにかく誰かを捜そう・・・・・・・・」


    陽はどこへともなく歩き出した。










    「誰もいない・・・・・・・・・」


    商店街を抜け、もう一度閑静な住宅街に戻り、今度は銀行などのオフィスや大手企業のビルが建ち並ぶ高層ビル街に出て、さらに歩いてゆく。
    その間、陽はたったの一人もこちら側の人間に出会わなかった。


    「本当に、誰かいるのか・・・・・・・?もしかして誰もいないんじゃないのか?」
    「だめだ、そんな事を考えたら気が狂っちまう、今は前向きに考えよう・・・・・」


    必ず誰かがいる、そう考えることにしてさらに歩みを進める。
    そして、野球場のドーム前に来たとき陽の耳に何かが聞こえてきた。


    「・・・・・・・・・・・――――!・・・・・・・・・・・・―――ォ・・・・・・・・・・・―――――レ・・・・・・・・・」
    「!!」


    確実に何かが聞こえた、こちら側の人間がこの付近にいるらしい。
    そして、その音は確実に近くなっていった。


    「・・・・・・・・・・―――――やがれ、テメェ!・・・・・・・・・――――――待て!・・・・・・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・――――イヤ!・・・・・・・・・・・・――――――誰が待つか!!」


    その声の主は複数であるようだった、そしてそれらが近づいてくるにつれて、音声も正確に、足音もよく聞こえるようになっていく。


    「待て!このガキ!」「ふざけやがって、ぶっ殺すぞ!!」
    「イヤですー!絶対に待ちませんー!」


    小さな女の子がトタトタと走っていて、さらにその後ろから二人の男が追いかけていた、ただしその手には大振りの刀が握られていたが。


    (これは、どうするべきなんだろう?)


    はっきり言って状況がよくわからない、小さな女の子が逃げていて、それを二人の男が追っているのはよくわかるのだが、どちらに声をかけるべきなんだろうか。
    陽が考え込んでいる間に、女の子が陽に気付き大声で叫んだ。


    「ちょっと、そこの、お兄ちゃん!見てないで助けて!!」
    「あ、もう一人いやがった!」「あいつもまとめて片付けるぞ!」


    なぜか、いきなり巻き込まれた、しかも後ろの男二人は完全に戦う気満々のようだ、なぜか。
    小さな女の子はトテトテと陽の横を抜けて走って行き(意外に足は速い)、そのままビル街の方へ走って行った。
    そしてその女の子の胸元には、小さな狼をかたどった人形が揺れていた。


    (あれ・・・・・・・・・・・・今のは?)


    しかし陽が女の子を見送っている間に、二人の男は陽の前に来ていた。


    「兄ちゃん、あのガキに逃げられちまったよ!どうする?」
    「海!お前がこいつの相手をしろ、俺があのガキをやってくる」
    「兄ちゃん!ロリコンだったのかい!?」
    「違うぞ!!弟よ!」


    とかなんとか、色々と騒いでいたその二人(兄弟らしい)であったが、兄の方が先ほどの小さな女の子を追ってビル街へ向かうと、ようやく静かになった。
    そして、陽と向き合っている男が陽に向かって声をかけてきた。


    「へへへ、実は初めての戦闘なんすよね、緊張します」
    「あー、ちょっと待った、その前に聞きたいことがある」
    「なんすか?」
    「戦闘とか、お前何言ってるんだ?何が目的なんだ?」


    大刀を手に持ったその男は、しばらく考えていたが、やがてニヤリと笑うと、


    「へへ、騙そうったって、そうはいかないっすよ!!」
    「いや、騙そうとかそう言うんじゃなくっ!」
    「だったらなおさら、好都合っす!!」


    そしてその男は、問答無用に斬り掛かってくるわけではなかった。


    「『結界』!!」


    男が剣を正眼に構え、大声でそう叫ぶと、陽の周囲が、あのヴァルキリーに連れて行かれたのと同じような空間に変化していく。


    「こいつは・・・・・・!?」
    「へへへ、本当に知らないんっすか?僕らにはあのヴァルキリーさんが使ってるこの変な空間を作り出す能力が、ヴァルキリーさんに斬られたとき使えるようになってるんっすよ」


    それは初耳だ、あのヴァルキリー、たしかゲイレルルという名前の奴、ほとんど何も言わないうちに問答無用で突き刺して来やがったから、何も知らない。


    「へへ、兄ちゃん、こいつマジで何も知らないみたいっす、これは楽勝っすよ!」
    「ッ!!マズい!」


    何か武器は、とそう思った瞬間。


    ―――ブンッ!


    陽の体の中から一振りの剣が現れた。


    「なんだ、やっぱり神具の使い手じゃないっすか、僕らの敵っすね、行くっすよ!!」
    「お、おい、ちょっと待て!」
    「問答無用っす!!」


    (チッ、まずいな、これで剣は手に入れたけど、どうする、やるしかないのか!?)


    陽に向かって、男が駆け出してきた。


    こうして、陽の最初の戦いが幕を開ける。
引用返信/返信 削除キー/
■433 / ResNo.4)  フェイス2ロキ2
□投稿者/ パース -(2006/10/14(Sat) 00:11:31)
    駆け出した影美は、しかし心の中でしっかりと「無銘刀」の声を聞いていた。


    『よいか、まずは自分の『力』がどんなものであるか、それを知る必要がある』
    「わかったわ!」


    影とヘルフィヨトルとの距離がどんどん迫ってゆく、しかしその間中、無銘刀の声は続く。


    『とにかく、『力』を使っている姿をイメージするのだ、どんなものでも構わん、少しでも『力』を使うことに成功すればあとはワシが制御してやる』
    「おっけい!」


    自分が大きな剣で攻撃している姿を思い浮かべながら斬り掛かる。


    「いやぁぁぁあああ!!」


    すると、の一部が剣にまとわりつき、剣のサイズがいくぶん巨大になった。


    ―――ズドッ!!


    直前でヘルフィヨトルはそれを回避するが、しかし影が『力』の発動に成功したのを見て顔色を変える。


    「あなたは・・・・・・・こんな短期間で不完全とはいえ神具の能力を使いこなしているというのですか・・・・・・・・・・・!」
    『お主の『力』は影を自在に操る能力のようじゃ、これは扱いが難しいが、うまく使いこなせれば、たとえヴァルキリーであってもそうそう負けたりはせんようになるぞ!』


    「無銘刀」とヘルフィヨトルとの声が重なって聞きづらいことこの上ないがなんとか理解する。


    「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・・覚悟しなさい、ヘルフィヨトル、私は、あなたのいいなりにはならないわよ!」


    ヘルフィヨトルはしばらくジッと影美を見ていたが、やがて意を決したようにして言った。


    「・・・・・・・・・・わかりました、たとえまだ不完全とはいえ、神具の能力の発動に成功しているのです、私も全力で相手をさせて貰います」


    そして剣を鞘に戻し、右手を振って言った。


    「赤の軍勢!青の軍勢!出なさい!!」


    直後、何十、何百という数の人ではない兵士達がヘルフィヨトルの前に出現した、それらはちょうど半分ずつの割合で赤色と青色に別れている。


    「んなっ・・・・・・・・!!」
    『軍勢の戒め、ヘルフィヨトル、その名はダテではないようじゃな』


    驚きの色を隠せない影美と、対照的に冷静な無銘刀とヘルフィヨトル。


    「どうしました、私達ヴァルキリーに刃向かうのなら最低でもこのぐらいはどうにかしてもらわないといけませんね、私はこれでもヴァルキリー最弱なのですから」
    「これで、最弱・・・・・・・・!!」
    「どうです、降参するなら今の内ですよ、今ならまだ許して差し上げます」
    「・・・・・・・・!」


    影美の心に迷いが生まれる、こんな軍勢を相手に勝てるのか、自分の『力』など大したことはないのではないか、という自分への疑惑。


    「私は・・・・・・・・どうすればいいの・・・・・・・・・」
    「降伏なさい、そうすればあなたは自分と同じ程度かそれ以下の神具の持ち主達を相手にするだけで済むのですから、あなたほどの実力なら勝ち残ることも難しくはないでしょう」
    『自分自身の『力』を信じるのじゃ、お主自身が諦めぬ限りワシはお主の味方じゃし、自分自身を信じ続ける限りどんな敵であっても決して負けはせぬ!』


    影美は長い間考え続けていたが、ようやく、決心が付いたという風に頭を振り、言った。


    「降伏は、しない、どれほどの敵が相手でも・・・・・・・・・・・・私は、嫌なものは嫌、絶対に言うとおりになんかならない!!!」
    「そうですか、残念です、ではこの場で私があなたの魂を奪い、それで終いにしましょう」


    ヘルフィヨトルが腕を上げ下げると、軍勢は一斉に影美に向かって突進してきた。


    (思い浮かべるのよ、自分の『力』を!!)


    敵と同じもの、無数の軍勢を思い浮かべる。
    瞬間、影美の影が複数に分裂して何体もの影の兵隊を作り出す。


    「行きなさい!」
    『「影兵」、といったところかのぅ、なかなかやるではないか!』


    赤青、そして黒の兵団が戦闘を開始する、影美はその中を真っ直ぐ、ヘルフィヨトル目指して駆け出した。


    (黒い円、入り込んだ獲物を喰らう罠のように!)
    『「影陣」、かのぅ、これは複数戦闘に向いておるなぁ』


    いくつもの黒い円が影の周辺に現れる、それに入り込んだ赤と青の兵達は足を貫かれ身動きが取れなくなる。


    (次、いくつもの枝、黒い枝が突き出るように!)
    『「影刃」、よくもまぁこうポンポンと出てくるもんじゃな』


    すると、影の持つ黒い剣から木の枝のように、いくつもの切っ先が突き出し、次々と兵達を突き刺してゆく。
    影とヘルフィヨトルとの距離は、既にほとんど無かった、さらに影は続ける。


    (さらに、枝が揺れて、鞭のように!)
    『「影鞭」、これは強そうじゃな』


    影の剣先が柳のようにしなった、それを影は全力で振り回す。


    ―――バキッ!
    ―――ズカッ!
    ―――ゴシャッ!


    まとめて数体の兵団を打ち倒しさらに前進、もはや、ヘルフィヨトルは目の前であった。


    「・・・・・・・・驚きました、まさかこれほどとは・・・・・・・」


    (最後、影を、ありったけ大きく、叩きつける!!)
    『「影断」、必殺技、といったところかの』


    肥大化した影の剣が振り下ろされ、


    ―――ズシャッ!
    ―――バシュッ!!


    鮮血が舞って、倒れたのは影美の方であった・・・・・・・・・・・・・


    「は・・・・・ハッ・・・・・・・・・ハッ・・・・・ハッ・・・・・・・・・!」


    全身が、指先から頭のてっぺんにいたるまで、全身くまなく、これまで影が感じたことがないほどの激痛に襲われていた。


    「・・・・・・・・・「魂」の使いすぎによる過消耗ですか・・・・・・・」
    『当たり前じゃ、初めての戦いであれほど魂を消耗すれば誰だってぶっ倒れる、それにしても、惜しかったのぅ・・・・・・』


    影の巨大な剣は、ヘルフィヨトルの肩に突き刺さって、ギリギリで止まっていた、もう少し、わずかでも影が倒れるのが遅ければ、ヘルフィヨトルは死んでいた。
    ヘルフィヨトルは肩に突き刺さった剣を抜き取り、影に返してやる。


    「・・・・・・・・・・・・・・・これほどの戦士の魂を持つとは・・・・・・・・・・ほんの一歩、遅ければ倒されていたのは私の方ですか・・・・・・・・・・」
    『やはり、ワシが見込んだだけのことはあるわい』


    「無銘刀」はその声が聞こえていないのにヘルフィヨトルへ返答していた、たぶん意味はないのだろう。
    ヘルフィヨトルはしばらく考えていたが、影のそばに歩み寄り、その体に手をあてる。


    『おや、わしの使い手の傷を治してくれるのか、これはありがたいのう』
    「これほどの戦士の魂、むざむざ失うのは惜しい・・・・・・・・しかも成長途中ですか、これは、とてつもない・・・・・・・・」


    ヘルフィヨトルは自らが持つ剣を抜き放ち、影の肩を浅く斬った。


    「これで、『ユグドラシルワールド』への召喚はお終いです、ほんの少しの傷でよかったのですが、まぁいいでしょう」


    そしてヘルフィヨトルは影から離れていった。


    「あなたの戦士の魂が完成したとき、その時こそ私は本当の全力を持ってあなたの魂を奪いにやって来ます、それまで戦い続けて、魂を成長させ、そして生き残ってください」
    『ありがとうよ、この使い手に変わって礼を言っておくぞい、どうせ聞こえんがのう』


    ヘルフィヨトルの姿がゆっくりと消えていく。


    「それでは、わたしはこれで、あなたの戦士の魂に幸あらんことを」


    ヘルフィヨトルが完全に消えて、異空間の中には影と剣だけが残された。

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■434 / ResNo.5)  フェイス1ロキ3
□投稿者/ パース -(2006/10/14(Sat) 19:44:06)
    「行くっすよ!氷刀グラナステッグ!!」


    男が叫ぶと、男の持つ大刀が青く輝いた、表面にはうっすらとだが霜が降りているように見える。


    (なんだ、あれは?!)


    陽に考える間を与えず、男は続ける。


    「お前の力を見せてやるっす!出ろ『氷柱』!!」


    (な!氷が動いてこっちに飛んでくる!?)


    直後、男の周辺から数本の氷の柱が出現し、陽の方へと向かってきた。


    「うわっ!!」


    陽はこれを、横にとんで回避するが、男の攻撃は止まらない。


    「避けたっすか?でもこの程度じゃまだまだっすよ『氷塊』!!」


    今度は空中に5個の人の頭ほどの大きさの氷の塊が出現し、これもやはり陽に向けて突き進んできた。


    「なっ!このっ・・・・・うわっがあっ!!」


    5つのうち、4つの回避には成功するものの最後の一つに直撃をくらい、陽は大きく吹き飛ばされた。


    「まだ生きてるっすか、なかなかしぶといっすね、でもどんどん行くっすよ!!『氷柱』『氷塊』『氷弾』!!」


    さらに、男の周辺に氷柱と氷の塊、人間の頭ぐらいのから指先ほどのサイズまでのものが無数に、それこそ男の周りを埋め尽くすほどに出現した。


    (って嘘だろ!?こんなの避けきれるわけねぇ!!)


    「ふっふっふ、どうやら年貢の納め時っすね、さぁ、行け!!」


    男が剣をこちらに向けた直後、その無数の氷弾と氷柱が陽に向けて一斉に射出された。


    「う、うわぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
    (た、頼む、せめてもう少しゆっくり!!)


    ―――ぴたり。


    「・・・・・・・・・あ?」


    全てが静止していた、氷柱も、氷弾も、大刀の男も。


    「これは、なんだ?・・・・・・・・ともかく、逃げよう」


    陽が一歩、二歩、三歩、氷柱らの攻撃範囲から逃れた直後。


    ――――――ズドヅドドゴガシャグシャン!!!!


    「うおああっ!?」


    もはや声なのか音なのか破壊音なのか判別が出来ないほどの大音量が響き渡った。


    「はっはっは!どうっすかこの氷刀グラナステッグの力は、ペシャンコになっちまって・・・・・・・・・てあれぇ!?」


    大刀の男は、自分の剣を褒め称えようとしていたが、しかし氷の群れが直撃した場所のすぐ横で、無傷の陽が立っていることに驚いていた。


    「な、なんでっすか!?たしかに当たったはずなのに・・・・・・そうか、あんたも神具の『力』を使ったんっすね!」
    「いや、だから、さっきから言ってるように俺には『力』とか、神具とか、なんのことかさっぱりっ!!」
    「問答無用!!」
    「人の話ぐらい聞けよ!!!」


    本気でシャレにならない、「力」とか「神具」とかなんなのかわからないし、相手はわけのわからないことばかり言ってるし、そもそもあのヴァルキリーの奴何も教えてさえくれなかった。


    「・・・・・・・・・ふざけんなよ・・・・・・・・ふざけてんじゃねぇよ!!!」


    もういい、正直ぶち切れた、やってられっか、付き合いきれない。
    瞬間、陽の頭の中が逆に冷めていき、周りにある氷達よりもさらに冷え上がり、冷静に、全ての事柄を見据え、全ての状況を分析していく。


    (あの男の言動を思い出すんだ、そしてあのヴァルキリー、ゲイレルルが言ったことを思い出せ、

    『その剣は神剣レヴァンテイン、なかなかの高等神具じゃないか』

    『神具の使い手じゃないっすか』

    『どうっすかこの氷刀グラナステッグの力は』

    『そうか、あんたも神具の『力』を使ったんっすね』

    ・・・・・・・・・・これらから導き出される答え、それはつまり、)


    自分にもあの男と同じように何かしら超常的な『力』を使うことが出来る。
    そして先ほど、ほんの5秒ほどの間であったが、時間が止まった瞬間、あれは間違いなくこの剣の『力』である。
    それだけわかれば、もう十分だった。


    「・・・・・・・どうしたんっすか?急に黙り込んで、僕が怖くなったんっすか?」
    「うるせぇ黙れ、お前との遊びに付き合うのがめんどくさくなっただけだ」
    「なっ!んっすか!?」


    あの男が持つ大刀は「氷刀グラナステッグ」、自分でそう言っていた、その力は氷を自在に操ること、氷は生み出してから発射するまで数秒のタイムラグが存在する、一度召喚すると、全て発射しおえるまで新たに氷の召喚が出来ないこと、そしてなにより、氷は自分自身の体より後ろには召喚できないこと。
    あの男の言動と行動から、陽はそこまで分析していた。


    「もういい、さっさとこの変な空間を解除して降参しろ、お前の相手をするのもかったるい」
    「脅しのつもりっすか!?そんなの言うとおりにするわけ無いじゃないっすか!!」


    そして男は大刀を構えた、それに合わせ陽も剣、レヴァンテインを構える。


    「もういいっすよ、グラナステッグの全力で、全身全霊であんたをぶっつぶしてやるっすよ」
    「ごたくはいい」
    「むかつく奴っすね、行くっすよ!『氷柱』、『氷塊』、『氷弾』、『雪崩』に『吹雪』!・・・・・・・・・・『氷地獄』っす!!!」


    男が『力』を発動したとき、既に陽はそこにはいなく、男が召喚したいくつもの氷が何もない場所を凍り付けにしていく。


    「まだまだぁ!!逃がさないっす!!」


    いくつもの氷が陽の居場所目掛けて殺到していく、しかしその時、やはり既に陽の姿はそこにない。


    (・・・・・・・・・・・・くっ、きつい・・・・・・・・・・・・1回使うごとにとんでもなく疲れる・・・・・・・・・・・むやみに多発は出来ないか・・・・・・・・・・!)


    陽の『力』は、陽の体感で約5秒間の間だけ自分自身が超速で動ける、というものだった。


    「くそっちょこまかとちょこまかと!うっとおしいっすよ!!」


    男が現れては消える陽にかなり混乱し始めていることは陽にもわかった


    (あと1回、それで決める)


    陽は超速移動を止めた。


    「やっと見つけたっす!いい加減潰れてしまえっす!!」


    男が全力で氷を放った瞬間、陽は『力』を解放する。


    「『全力氷地獄』!!!骨も残らず凍らせてやるっす!!!」


    いくつもの、大量の、無限とも思える氷が陽のいる場所にぶつかってくる。


    ―――ズドドドドドドゴガガガガガガガ


    「はぁ、はぁ、これなら、さすがにやったっすかね・・・・・・・?」


    男がそう呟いたとき。


    「残念だったな、お前のやったことは全部無駄だったぞ」
    「え!?」


    すでに男の背後まで回り込んでいた陽がそう言って。


    ―――ザシュッ!


    「あ・・・・・・・・?あ・・・・・・・・がっ・・・・・・・・・!!」


    陽の剣が男の胸を深々と切り裂き、男は崩れ落ちた。


    「口数が多すぎるんだよ、お前は、もっと静かにしてろ」


    壊れ落ちる異空間を背にして、陽は呟いた。

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■435 / ResNo.6)  フェイス3ロキ1
□投稿者/ パース -(2006/10/14(Sat) 19:47:51)
    高層ビル群が並ぶオフィス街、その中でもひときわ背の高いビルの屋上に、一人の女の子が佇んでいた。
    その女の子は先ほど、陽に助けを求めてすぐにどこかへと走り去っていった、あの胸元に小さな狼の人形をぶら下げた女の子であった。
    女の子はビルの屋上から、あちらこちらを見回していたが、しばらくして言った。


    「・・・・・・・・・・・やっぱり、さっきのお兄ちゃんが勝ち残ったね・・・・・・・・・・うん、フェンちゃんのよそおどおりだね」


    時々、女の子は鼻をヒクヒクさせながら――まるで犬のように、そうしながらひとりごとを話していた。


    「うん、あのお兄ちゃんなら私のことをきっと助けてくれるよね、うん、いざとなったらフェンちゃんに任せるから、そうすればあのお兄ちゃんだって、どうにか出来るよね?」


    ひとりごとは日が沈みつつある屋上にこだましていく、しかし答える声など無いのに、女の子は会話を続けていく。


    「うん、私はフェンちゃんを信じるよ、きっと、私が生き残るために一番いいほうほうを選んでくれてるって、うん、そうだね、そろそろいこっか」


    女の子は、屋上に背を向け、ビルの中へと入っていこうとした、しかしちょうどその時、屋上の入り口の扉を開けて一人の男が入ってきた。


    「ぜぇ・・・・・・ぜぇ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・や、やっと見つけたぞ、このガキ、ちょこまかとガキのくせに早すぎんだよ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・」


    そいつは最初、女の子を追いかけていた男の片割れ、兄の方だった。


    「・・・・・・・・・結局追いついてきたんだ」
    「ぜぇ、はぁ、当たり前だ、お前みたいな弱そうな奴を最初に倒せば、はぁ、俺らの魂も簡単に強くなれるだろ、そんな良い獲物を、むざむざ逃がすかよ」


    そんな男を、女の子はひどくつまらないものを見るかのような目で見て、言った。


    「そう、ならあなたの考えは見当ハズレだから、さっさと他の相手を探してちょうだい、私はこれからフェンちゃんと一緒にすることがあるの」


    男は一瞬、何を言われたのかわからないような感じで、ぽかーんとしたあと、


    「はっ!馬鹿じゃねーのか!?お前みたいなちっさなガキが、おれらみたいな大人に勝てるわけがないだろうが!はっはっは!冗談ならもっとマシなのをつくんだな!」


    女の子の言葉を、冗談として笑い飛ばした男を、やはり女の子はつまらなそうに眺めたあと、


    「そう、それなら別にどうでもいいんだけどね、あなたの兄弟、弟の方、死んだわよ?」


    は?、といった風に男の笑い声が止まる。


    「おいおい、お嬢ちゃん、それは冗談としても笑えねぇぞ?俺の弟が死んだだと?いつだ、いったい誰にだ?」
    「ついさっき、あのお兄ちゃんにやられて」
    「どうせ口からの出任せだろう、こんなところからあの二人がいる場所を見えるわけがねぇ!!」


    ついには、口を荒げた男に、やはりつまらなそうな眼を送った女の子は、


    「私には、他の神具の所持者達とは違って、超知覚能力があるの、ある程度の範囲でなら、臭いで何でもわかるわ」
    「・・・・・・・・だ、だからなんだってんだ!?お前の不利には変わりがねぇだろおが!なんだ!?あのお兄ちゃんがここまで助けに来てくれるとでも思ってんのか!?」
    「思ってないよ、そんなことをしなくても、あなた程度じゃ私の敵には成り得ない」
    「うるせえ、さっさと死に腐れ!この糞ガキが!!起きろ!風刃スキンゲイル!!」


    男の持つ太刀が『力』の発動に合わせて輝きを帯びていく、が、しかし、


    「もういいよ、フェンちゃん、食べちゃえ・・・・・


    ―――いくつもの、が。


    「あ?口?・・・・・・・・・・・・がっ!!ぎゃあああああああああああああああ!!!!!


    男の絶叫を背に、女の子は屋上を後にしていく、そして屋上の入り口に辿り着いたとき、女の子は振り返って言った。


    「それから、さっきからガキガキうるさいけど、私はこれでも15歳よ、ガキなんて年じゃないわ」


    そして、誰もいなくなった屋上に、風が吹いた。

引用返信/返信 削除キー/
■440 / ResNo.7)  フェイス2ロキ3
□投稿者/ パース -(2006/10/15(Sun) 23:03:57)
    「ぎぃゃやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ――――――――あ?」


    影は、自分の叫び声で目を覚ました。


    「えと・・・・・・・・・・・・・あれ?」


    自分の体をあちこち触って調べてみる、外傷はどこにもない、ついでにそれほど疲れてもいない。


    「あれ・・・・・・・・・・・・?」


    そこは自分の部屋、日が暮れかけていることから夕方であると理解する。


    (えーと、私は、何やってたんだっけ・・・・・・・・?)


    自分は確か、今日は休みだったから、買い物に行って、その帰り、家の前で、


    「・・・・・・・あ!」


    そこで変な剣を拾ったのだ、その剣は人の言葉を話せて、


    「あれ?「無銘刀」はどこにいった?」


    部屋のどこを見ても無銘刀が見あたらない、体の周りを見回してみる。


    「あれ?あれ?」


    体が全然痛くない、自分は確かヴァルキリーと戦って、ぎりぎりで負けて、その時体中が死ぬほど痛かったハズだ


    「あれぇ・・・・・・・・・?」


    影美があれあれ唸っていると、頭の中で声がした。


    『なんじゃ?やっと目を覚ましたのか』
    「無銘刀!?どこにいるの?」
    『お主の体の中じゃ』
    「はぇ!!??」


    思わずゴソゴソと服の中を調べ回す。


    「ど、どこよ!?変態!痴漢!」
    『いや、あのな、体の中ってそういう意味じゃなくてな』
    「いやーきゃー!どこよー!まさか下の方!!?」
    『あの、じゃからな・・・・・・』
    「いやー!きゃー!お嫁に行けなくなるー!」
    『・・・・・・・・・・』










    数分後。


    『落ち着いたか?この早とちり娘』
    「す、すいません・・・・・・・・・・」


    しばらくして、ようやく落ち着いた影美に無銘刀が剣をイメージしてみろと言うと、剣は影美の体の中から出てきた。


    『わしらみたいな神具っちゅーのは、使役者が望んだときいつでも取り出せるようにその使役者の体内に存在しているのじゃ』
    「体内に存在って、どうやって?」
    『むーん・・・・・・・そもそも神具というのは、古き神々が作り上げた道具で、今あるこの世界の物質とは、根源からして違う存在なのじゃ』
    「うーん・・・・・・・古き神々とか言われてもよく分かんないんですけど・・・・・?」
    『そうじゃのぅ、よし、今回の戦いに関することを古き神々のことも含めて、わしの知る範囲でなるだけ教えてやるとしよう』
    「うん、お願いしまーす」










    『遥か遠き昔、世界は九つに別れていて、その中心を大きな大樹が貫いておった』


    「九つも?ずいぶん多いね」
    『む、まぁ多いのは認めるが感想はとりあえず話を最後まで聞いてからにしてくれ』
    「はーい」


    『その九つの世界というのは神族の世界や精霊の世界、巨人族の世界や死霊の世界などがあって、互いに様々な影響を与えあっていた』
    「ふむふむ」
    『ま、この辺は概略じゃから、覚えて無くてもいいんじゃがな』
    「なーんだ」


    『ともかく、その世界はいくつにも別れていた、そしてそのなかのひとつ、アース神族が治めるアースガルズという世界には、オーディンという名の最高神がいてな、オーディンは知識の神、魔術の神というほど様々なことを知っておった』
    「ふーん、オーディンね」
    『そして、オーディンは予言の神でもあってな、その力によってオーディンは様々なことを見知り、そしてその世界に関するあることをも知っておった』
    「ある事って?」
    『世界の終末、全ての終焉、神々の黄昏、「ラグナロク」の到来をオーディンは知っておったのじゃ』
    「終末って・・・・・・・そんな」
    『オーディンはその未来を知っていたからこそ様々な手を打ちその未来を事前に回避しようとしたが、しかし、結局その願いはかなわなんだ』
    「・・・・・・・・・・その、終末ってのは何で起こってしまったの?」
    『その前に、オーディンには一人の義兄弟がおってな、そっちの方を先に説明するとしようか』
    「なんで!?」


    『オーディンの義理の弟、そいつはとても頭のキレて、口が達者で、悪戯好きな黒髪の青年神じゃった』
    「ふーん」
    『そいつの名はロキ、そしてこいつがラグナロクを呼び起こした張本人じゃ』
    「!?」
    『ロキが悪戯好きというのは今言ったが、悪戯が過ぎてしまっての、ロキはオーディンの最愛の息子、バルドルを殺してしまうのじゃ』
    「・・・・・・・・・」
    『それに怒った神々はロキを断罪するため、ロキを年中蛇の毒液が滴り落ちる岩に縛り付けたのじゃ』
    「うわー・・・・・・」
    『そして、それに怒ったロキの娘、息子達がロキを解放するために死霊を引き連れてアースガルズに攻め入ったのじゃ、そしてロキは解放され、その戦いに巨人族が介入し、神族や巨人族、死霊達が殺し合い、世界に終末が訪れたのじゃ』
    「・・・・・・・・・・みんな死んじゃったの?」
    『そうじゃ、巨人族の中に火の神スルトというがおって、そいつが死んだとき世界中が炎に包まれたのじゃ、そしてほとんどの神々、巨人が死んだ』
    「・・・・・・・・・」










    「それで、古き神々のことはわかったけど、この戦いはどうなるの?」
    『そうじゃな、その説明のためには今度はフレイヤという神のことを説明せねばならんな』
    「フレイヤ、ね」
    『そいつは、愛と美の女神でありながら、魂の、特に戦いで死んだ戦士達の魂を好む女神じゃった』
    「魂を?」
    『そうじゃ、戦いで死んだ戦士のうち、勇敢で、強く、賢い者の魂を、オーディンはラグナロクを防ぐ戦力とするために、フレイヤは自らの満足のために分け合い、自分の所有物としていた』
    「魂、ね」


    それは、ヴァルキリーが言っていたこととよく似ているのではないだろうか?


    『その通りじゃ、ヴァルキリー達というのはフレイヤの直属の部下で、ヴァルキリー達はフレイヤのために魂を運ぶ存在じゃ』
    「ちょっと待った!!私今思ったことを口に出してないんですけど!?」
    『物わかりの悪い奴じゃのぅ・・・・・・・・わしはお主の体の中にあるんじゃぞ?おぬしが思ったこと、考えたことはわしにもわかる』
    「うそぉ!?内緒話禁止ですか!??」
    『諦めんか、わしはそういう物じゃ』
    「いやぁー!」


    小休止。










    小休止終了。


    『落ち着いたかのぅ?』
    「なんとかー・・・・・・・」
    『ともかく、フレイヤはヴァルキリー達を使って今でも魂集めをしておるのじゃ』
    「ひとつ質問良いですかー・・・・・・・・?」
    『なんじゃ?』
    「神様達ってたしかみんな死んじゃったんじゃないんですかー・・・・・・・・・・」
    『ほとんどが、といったじゃろ、わずかに生き残った者達はいたのじゃ、オーディン、ロキを初めとするおもだった神々はみんな死んでしまったがのぅ』
    「じゃあ、フレイヤって人は・・・・・・・?」
    『むーん、おそらく生き残ったのじゃろうなー・・・・・・・・フレイヤの持つ神具『ブリーシンガメン』は炎に対する抵抗が凄まじい神具じゃしなー』


    「で?そのフレイヤと、この戦いがどう関係してくるわけー?」
    『問題なのは、そこじゃよ、あ奴はラグナロクが終わり、世界のほとんどが消滅した後も人間世界に降り、そこで戦士の魂集めを、神々の武器を人間に与え互いに殺し合わせるという方法で続けておるのじゃ』
    「そんな・・・・・・・・・・」


    それじゃ、つまり自分たちは・・・・・・・・・


    「そいつの、わけのわからない魂集めの犠牲にされてるっていうの?!」
    『そうなるのぅ』
    「そんな、ふざけないでよ・・・・・・・・私はそんなことに利用されるつもりはないわよ!!」
    『じゃろうな、じゃがあ奴らは、フレイヤ自身も相当強いが、ヴァルキリー達も様々な戦いで数をかなり減らしたはずじゃが、相当強い精鋭のみとなったはずじゃぞ?それでもやるか?』
    「もちろんよ!」
    『よし、では次の話じゃ、この戦いで最も重要なモノ、魂についてのことじゃ』
    「ええ」
    『魂については・・・・・・・・・・しまった』
    「え?」


    無銘刀が何かを言おうとした瞬間、


    『周囲への警戒を怠っていたか・・・・・・!!』
    「!?」


    瞬間、影美の周辺が、異空間へと変わっていった。

引用返信/返信 削除キー/
■441 / ResNo.8)  フェイス1ロキ4
□投稿者/ パース -(2006/10/16(Mon) 21:55:33)
    冷静に考えてみたら、陽は初めて人を殺していた。


    (なんていうか、よくドラマかなんかでやるような、人を殺したせいでそのことにとらわれたりするあれって、俺にはないんだな)


    陽は自分の右手を見てみる。
    先ほど自分が殺した相手、喋り方に特徴のある氷刀グラナステッグの所持者、そいつの血が、べったりと手に付いている。
    右手だけではない、体中ほとんど、返り血を正面から浴びてしまったので真っ赤に染まっている。
    だがしかし、陽はただシャワーでも浴びたいな、と思っただけだった。


    (なんてゆーか・・・・・・・・・とにかく臭いし、汚いし、気持ち悪い・・・・・・・・・どこでもいいからさっさとシャワーか、その前に着替えを探すか・・・・・・・・・)


    陽は血で真っ赤に染まったまま、フラフラと住宅街に向けて歩き出していった。










    蛇口をひねると、熱湯が雨になって噴き出してくる。
    陽はそれを正面から受け止め、血を洗い流してゆく。


    (少し、熱いな・・・・・・・・)


    陽はシャワーを浴びていた、ただし見知らぬ民家で、勝手にだが。


    どうやら自分が幽霊みたいになってしまったのは間違いないらしい、この民家に住む住人達は、陽が勝手にドアを開けて入ってきたときも、そのまま勝手にシャワーを浴び始めたときも、文句一つ言ってこなかった。


    (そこにいる人には話しかけたり、触ったりすることが出来ないのに、その場にある物体、物や道具には触ることが出来るんだな・・・・・・・・・なんなんだこれは?)


    陽はシャワーを浴びたまま、思索を続ける。


    (とにかく、あのヴァルキリーに会ってからずっと、わけがわからないことばかりだ)


    ゲイレルルという名前のヴァルキリー、彼女はほとんど何も説明をしないまま陽の胸をその槍で突き刺し、気がつくと陽はこのわけのわからない世界に存在していた。


    (とにかく、アイツに何かされて俺がここにいるって事は間違いない、それから)


    さっき、陽と戦った相手、あの大刀の男は言っていた、


    『本当に知らないんっすか?僕らにはあのヴァルキリーさんが使ってるこの変な空間を作り出す能力が、ヴァルキリーさんに斬られたとき使えるようになってるんっすよ』


    あの『力』、あの異空間を作り出す『力』、それがあのヴァルキリーに斬られたとき、使えるようになっているとあの男は言っていた。


    (それはつまり・・・・・・・・あいつはヴァルキリーから何か説明を受けていたって事か?そして俺もヴァルキリーに斬られたってか刺されたから、あの『力』を使えるのか?)


    こればかりは、確認しないことにはどう判断することも出来ない。


    (そもそも、確認しようにもやり方がわかんねぇし・・・・・・・・・・・・う・・・・・・・)


    いつまでも熱湯を浴びていたらのぼせてきた、そろそろ上がろう。


    陽はシャワーを止め、風呂場から上がって着替え(これも、そばにあった服屋から勝手に拝借した)を手に取り、血で汚れた服の方は、しばらく迷ってからゴミ箱に捨てることにした。


    (それにしても、この世界での規則はどうなってるんだ?)


    そのまま進み、食卓に勝手に入っていく、そこでは、一家団らんの食事風景が広がっていた。


    (・・・・・・・・・・・・・・・ッツ!!)


    ドクン、と心臓が高鳴る。
    なんてことのない風景、なんてことのない平和・・な風景、それなのに、心臓が、どうしようもなく、早鐘を打つ。


    「う・・・・・・・うう・・・・・・・ううううう・・・・・・・・!」


    その食卓で、満面の笑みを浮かべて父親と母親とに囲まれた5歳くらいの少年が、ふと、ジュースの注がれたコップを取り落とした。


    ―――ガシャーン。


    聞こえるはずのない音が聞こえた気がして、そして、脳の奥底に封印したはずの記憶が蘇っていく。










    「うるせぇぞ!糞ガキ!!」


    コップを落としただけで、陽は殴られた。


    「ああもう、あんたって子は!なんてことをしてくれるのよ、また服が汚れるじゃない!掃除はあんたが一人でやりなさいよ!!」


    母親は、ヒステリックに叫ぶだけで、陽を助けたりはしなかった。


    「おい!お前の不始末だろうが!片付けをさっさとやれよ!!」
    「何言ってんのよ!そもそもあんたがすぐに殴らなきゃこんなひねくれた子供には育たなかったわよ」
    「俺の責任だってのか!?ガキが欲しいと言ったのはお前だろうが!!育児は全部お前がするというから認知してやったってのに!!」
    「なによ!!!」
    「なんだ!!!」


    そして始まる大夫婦喧嘩、父親はすぐに手を出し、母親はすぐに道具を持ち出す、包丁を取り出したこともあった。


    最近では珍しくもない、離婚寸前の夫婦、そしてその弊害を受ける子供、そんなある意味わかりやすすぎる構図が陽の子供時代だった。
    陽にとって両親とは、ただ食料を与えてくれるだけの存在で、優しさや、愛情、そんなものを教えてくれる存在ではなかった。


    そしてそんな最悪の幼少時代があっさりと終わりを迎えたのは、陽が八つか九つの頃だった。


    ―――交通事故だった。


    たまたま、両親ともに機嫌が良かったのか、その日は一家で温泉にでも行こうと車で家族旅行に向かったその日、対向車線をはみ出した大型トレーラーに衝突して、あっけなく両親は死んでしまった、トレーラーの運転手もその際に運悪く即死。
    陽はたまたま後部座席でシートベルトをしていたため、軽い怪我だけで済んだのだった。


    たったそれだけのこと、新聞にはよくある交通事故、子供がたった一人生き残ったということでしばらくはマスコミが騒いでいたが、それもすぐに消えていった。


    そして陽はたった一人で社会に放り出された、陽を迎えてくれる親戚など存在せず、そんな少年をただで助けてくれるほど社会は優しくなかった。


    そして、色々なことがあったものの陽は今も生きている、陽と同じ年代の少年達よりはいくらか発育不良かも知れないが、まぁ最低ランクは守っているだろう。


    (・・・・・・・・・・くそっ、さっきの血と、この風景のせいで、嫌なことを思い出しちまった・・・・・・・・)


    両親は、陽の目の前で血だらけで死んだ、トレーラーに潰されたのだから原形を留めているはずもなく、そしてそれを幼少の陽はその目で全て見てしまった。
    さっき、シャワーを浴びたとき、姿見に映った自分の姿は、まるでその時の両親のようで、


    ―――ゆっさゆっさ


    (・・・・・・・・・!?)


    「お兄ちゃん、もしもーし!おにいちゃーん、聞こえてますかー!?」


    とても至近距離に、女の子がいた。


    「もしもーし!!魂抜けてるんですか!?幽体離脱なんですかー!!?ちょっとー本気で魂入ってますかー!?」
    「って、うわ!!」
    「きゃ!!」


    いきなりのことに、驚いた陽と、同じくいきなり反応した陽に驚いた女の子とが同時に悲鳴を上げる。


    「もー・・・・・・・・・・・いきなりなんなんですかー?さっきからずっと話しかけてるのに、全く反応しなかったくせに、いきなり驚くなんてずるいですー」
    「へ?さっきからって?」
    「さっきからはさっきからですよー、ずーっとお兄ちゃんの前で跳んだりはねたりしてるのに全力で無視するなんてひどいですーお兄ちゃんは外道です、鬼畜ですー」
    「ちょ、ちょ、ちょっと待った!」


    もしかして、さっきからずっと、陽が自分の古傷を自分でえぐっている間中、この女の子は陽の周りでうろちょろしていたのだろうか。


    「もしかして、君はずっと俺のことを見ていたのか?」
    「そうですよー、さっきお兄ちゃんがお風呂から上がってきたあとぐらいから、ずーっと話しかけてたんですよー?それなのに全く反応してくれないんだから、フェンちゃんを呼んじゃおうかと思っちゃいましたー」


    なんてことだ、自分は放心状態のあまりこんな女の子がすぐそばに接近してきても全く気付いていなかったらしい、これは致命的だ、色んな意味で。


    「それよりお兄ちゃん、お腹すいてませんかー?」
    「え?」
    「お腹ですよー、あーゆーはんぐりー?です」
    「あ、ああ、空いてるよ、かなり」


    よく考えたら、この世界に来てから何も口にしていない、時刻は既に八時、気がつけば外はもう暗くなっていた。


    「それじゃ、私がご飯を作ったげるので、お兄ちゃんはその辺で座って待っていて下さい」


    そう言うと女の子トットッとキッチンの方へ歩いていってしまった。


    「ちょっと待った!君は一体・・・・・・・?」
    「私ですかー?私は桐野 狼亜(きりの ろあ)15歳、今が食べ頃の女の子ですよー?」

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■447 / ResNo.9)  フェイス2ロキ4
□投稿者/ パース -(2006/10/21(Sat) 19:34:26)
    『むーん、何者かは知らんが相手はずいぶん広範囲に渡って領域を広げたようじゃな』


    影美と無銘刀は、どこまでも広がっている例のわけのわからない空間にいた。


    「ねぇ、これって、ヴァルキリーが使ってた技よね、まさかまたヴァルキリーが来たの?」
    『いいや、それはあるまい、あのヴァルキリー、ヘルフィヨトルはおぬしに剣で軽い傷を付けていったからの』
    「傷?」
    『もう忘れたのか?・・・・・・・そういえばお主は気を失っておったな、肩のところじゃ』
    「えーと・・・・・・痛ツッッ!」


    影美は右肩のところに小さな傷があることに気付いた。


    「なにこれぇ?」
    『最初はもっと大きな傷じゃったんじゃがな、あのヴァルキリーが必要以外の傷は治してくれたのじゃ』
    「へ?なんで!?」
    『さぁのぅ、お主に興味を持ったのかもしれんな』
    「で?あいつが私に興味を持つのとこの傷とはなんの意味があるわけ?」
    『その傷にはヴァルキリー達の特別な力が込められていてな、その傷を付けたヴァルキリーには、その傷を付けた相手が生存しているかもしくは死んでいるか、どこにいても知ることが出来るのじゃ』


    「ふーん、それでこの傷が、この空間とどう関係するわけ?」
    『その傷にはヴァルキリーの力の一部が組み込まれておる、そのためヴァルキリー達の力であるこの領域作成能力を、傷を付けられた者は使うことが出来るのじゃ』
    「うーん、傷と空間のことはよくわかったけど、じゃあこの空間を作り出した相手はどこにいるのよ?」
    『さぁのぅ、ずいぶん広い空間だと言ったじゃろう、相手もまだ使い慣れてはおらぬようじゃ、闇雲に魂の力を浪費していると見える』
    「まーた『魂』、か」
    『そうじゃ』


    『そもそも魂とは、全ての命ある者、生命全てに宿る純粋な力のことじゃ』
    「純粋な力・・・・・・・・・」
    『そうじゃ、例えば窮地に立たされ、それでも生きようとするとき人は本来の数倍の力を出すことが出来るような、ある意味では本能に近いモノを指す言葉なのじゃ』
    「ふーん、それで?」
    『わしらのような神具、というのは持っているだけでもその魂を消費してしまう、それゆえに普通の、並大抵の魂しか持たぬ者では、ただ所持しているだけでも瞬く間に魂を吸い取られ、終いには死んでしまうのじゃ』
    「え、うそっ!!」


    直後、影美は無銘刀を虚空に向かって放り投げた。


    『こりゃ!!わしをいきなり投げ捨てるんじゃない!!!』
    「だって魂吸い取られるっていったじゃん!!」
    『このド阿呆!普通の魂しか持たぬ者の場合と言ったじゃろうが!』
    「え?」
    『そもそも、普通の魂の所持者では、わしら神具を使ったり、能力を発動したり、それどころか見ることすら出来ぬよ』
    「そうなの?」


    影美はスタスタと剣の元へと歩いていって剣を拾った。


    『そうじゃ、そしてわしらのような神具を使える者、それはつまり並の魂ではない、強靱な魂、もしくは強大な魂、それか強烈な魂を持つ者に限られるのじゃ』
    「あの、ちょっと待った、強靱とか強烈って、魂にも違いがあるの?」
    『微妙な差異ではあるがの、「強靱」な魂は自らの意志、自我がとても強い者の持つ魂じゃ、それゆえその能力はきわめて直接的、自分自身、もしくは自分の持つ武器のみに影響を与える『力』を持っていることが多い』
    「あとのふたつは?」
    『「強大」な魂はの、その大きさゆえに様々な物へ影響を与えることが出来る、応用が利きやすい能力を持つ、そして一番特殊なのは「強烈」な魂じゃ』
    「どう、特殊なの?」
    『強烈な魂は、早い話が異常者や気が狂った者といった、ちょっと変わった人間が持ちやすい、それが他に与えるインパクトが大きな魂のことを指す、この魂の所持者には対しては、たいていの場合神具の方から魂の所持者に声、というかアピールというか、まぁ、様々な方法でコンタクトを取ろうとすることが多い』


    「ふーん・・・・・・・・・・・・・・・」
    『・・・・・・・・・』


    しばらく影美は、色々なことを考えていたようが、やがて聞いた


    「じゃあさ、私の魂は・・・・・・・・・どのタイプなわけ?あんたならわかるんでしょ」


    数秒の沈黙の後、


    『お主の魂は強大にして強烈、、場全域を支配できるほどの大きさと、わしを引き寄せるほどの変わり者の魂じゃよ』
    「ふーん・・・・・・・・・それってすごいの?」
    『ああ、少なくともわしが今まで出会ってきた魂の中では、最強じゃな』
    「ふーん・・・・・・・・・」


    強さを誉められても、それほど嬉しくはなかった。


    ―――ガシャーン!


    そんな擬音が似合いそうな感じに異空間の一部が壊れ、そこから男が一人現れた。


    「ヒャハハ!やっと見つけたぜ!!神具の所持者!女か、ぶっ殺してやるぁ!!!」


    そして、戦いが始まった。










    『あやつは間違いなく「強烈」なタイプの魂の所持者じゃな、このタイプはとにかくおかしな攻撃をするから気を付けろ』
    「気を付けろって、そもそも何で戦わなきゃならないわけ?」
    『こっちのユグドラシルワールドに召喚されてしまった以上、ヴァルキリー達はこの世界の人間に対して互いに潰し合うようにしか指示を出さないじゃろう、そもそもお主のような一度ヴァルキリーを破りかけた者の前にはそう簡単に姿を現さないじゃろうな』
    「じゃあ、もう一度ヴァルキリーが出てくるまではとにかく戦い続けるしかないってこと?」
    『そうなるのぅ』
    「うわー・・・・・・・・・戦いなんていやだなぁ・・・・・・・・・・」


    と、影美が独り言を言ったところで、男がぶち切れた。


    「て、てめぇ!!チョーシぶっこいてんじゃねぇぞ!!俺をシカトしてなにわけのわかんねぇことブツブツ言ってやがんだよ!!ふざけてんじゃねぇぞコラ!!?」
    「うわー、完全に目が逝っちゃってるよ・・・・・・・・・たしかにこれは強烈だねー・・・・・・」
    『まぁな、この時代では強烈な魂の持ち主はあんな感じのと相場が決まっておる』
    「ああー・・・・・・・あんなのの相手するのはいやだなぁ・・・・・・・・」
    「ああぁ!!?あんなのとかなにいってんじゃこら!?て、てめぇ勝手なこと抜かしてっとぶっ殺すぞ!?」
    「なんかもー会話が成り立たないし、何言ってるのか聞き取りにくいし、あーもーいやだなぁ・・・・・・・・」
    『諦める事じゃな、少なくともこの場を切り抜けるためにはあやつを倒さねばならんぞ?』
    「だらぁ!、もういいっつの!てめぇがなにいってようがもう関係ねぇ!ぶっ殺してやる!!来やがれ『ハーベリングス』!!!!」


    男が神具の名前を呼んだ瞬間、男の手には一本の剣が、ただしずいぶんとおかしな形状の剣が出現していた。


    (なにあれ・・・・・・・・紐がいっぱい?)
    『気を付けろ、ただの紐ではあるまい』


    その剣は、やたらと細いくせに長い、ひょろりとした剣で、持っている男もかなりの長身のため針金が2本あるように見えた、そしてその剣からは、何本もの細い、糸状の物が伸びていた。
    そして男はその長い、変な紐と糸だらけの剣を構えると、


    「だらぁあ!いくぜぇえい!!!」


    一気に影美に向かって突撃してきた。


    『避けろ!』
    「うん!」


    影美はそれに反応して左手側に跳んでこれを回避しようとして、


    「おるぅあ!!」
    「痛ッツ!!」


    直後、影美の肌に幾本もの細い傷が出来上がった。


    「な、何!?」
    『あの細い糸じゃ!だから気を付けろといったじゃろ!』


    男の持つ剣、それから伸びる幾本もの細い糸は、その剣の本体以上の切れ味を持つ武器なのだった。


    「だっらぁあぁ!!逃がすかよぉ!!」


    男の追撃が始まる。


    「っつ!『影刃』!」


    影美の持つ剣から枝のように数本の刃が飛び出す、男はとっさに剣を盾にして後ろに跳び退る。


    「んだぁ?てめぇも俺様と同じように変化できんのかよぉ?だったら俺も一段階レベルアップしっちまうぞ!!」
    「え?」
    『どうやら、剣の形状そのものを変えるタイプの能力らしいな』


    「育て!『ハーベリングス』!!」


    男が叫んだ瞬間、男の剣から上下左右、全ての方向に数本ずつ、影美の『影刃』と同じように枝のように細く長い刃が飛び出し、それら全てにはやはり細い糸のような凶器が生えていた。


    『これは・・・・・・・・・全てを避けきるのは不可能に近いな』
    (あっさり諦めないでよ!?)
    『じゃったら、そもそも近距離での戦闘をしないことじゃな』
    「あ、そっか!」
    「おっしゃぁ!いっくぜえぇい!」


    男の攻撃が再び始まるより先に、影美は大きく後退し、『力』を発動した。


    「行け!『影兵』!」


    影美自身の影が動き出し、影の兵団を作り出す、そしてそれらは次々と男目掛けて殺到していった。


    「これでいっかな?」
    『阿呆!あやつのような相手に数で攻めても無駄じゃ!!』
    「え!?」


    無銘刀の言ったとおりだった、何体もの影の兵団は、男に斬り掛かるより速く、その長細い剣と、それから伸びる何本もの糸によってかなりの数が一撃でバラバラにされてしまった。


    「なんのつもりっだコラ!なんでいっぱい出てきやがんだよぉ!?しかもよえぇーし!なんのつもりだって聞いてんだよぉ!!?」


    そしてもう一度男が剣を振り回すと、兵団は全て消え去っていた、そして男は再度剣を構え、


    「もう一段階レベルアップしろ!!次は全力でぶっ殺してやる!」


    男の声に剣が答え、さらに長大でとんでもない数の糸を生やした剣が出来上がった。


    『まずいぞ、奴は完全に次で決着を付けるつもりじゃ、どうする?』
    「わかった、じゃあ次でケリを付けよう」


    影美は剣を正眼に構え、そして呟く、


    (私の持つ『力』、影の力を最大限に活かして・・・・・・・・・)
    「『影纏』!」


    瞬間、影美の体から霞のように黒い影が噴きだし、影美の周りを影がまとわりつき、影美の姿を男から見えなくした。


    「なんだぁ!?」


    しかしさらに次の瞬間、その影の霞を吹き飛ばしてひとつの影が男に向かって突進していく。


    「はっ!なんだ!目眩ましのつもりかよぉ!?無駄だったなぁ!!おらぅぁあ!!!」


    男の長大な剣と幾本もの細い糸は、その影と、霞をまとめて消し飛ばした。


    「ひゃは!やったぜ―――」
    「あなたが私を見るときあなたは私の影を見ない、あなたが私の影を見るときあなたは私を見ない、残念だったわね」


    瞬間、地面から、いや、倒れた影美の形をした物から伸びるほうの影から、本物の影美が出現した、それはあっというまに油断していた男との距離を詰め、


    「ごめん!」


    影美の剣は、男の両足を深々と切り裂いた。

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