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■54 / 親記事)  空の青『旅立ち』
  
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/18(Thu) 22:50:02)
    ガヤガヤとした周囲の喧騒の中で気付く…

    私は少し寝ていたらしい…

    日が傾きかけている…放課後の様だ…


    「ねえ! エルリス、この後テュロットに寄ってかない?」


    友人の声が私の耳朶を打つ…

    その声で少しボーっとしていた私は完全に目が覚め、言葉を返す。


    「ううん、今日は用事があるから…」

    「むぅ、最近何時もそれだね、そんなんじゃ彼氏の一人も出来ないよ?」

    「うっ…(汗)」


    友人は私の事を心配してくれている。

    でも、私は………

    その時、ふと幼い頃遊んだ少年の顔がよぎった気がした…

    私は思わず首を振り、友人に言葉を返す。


    「いいの! 私は一生独身で通すから!」

    「はぁ…なに勿体無い事言ってんのよ、学校の中でもより取り見取りの癖に!」

    「もう、その話はやめてよ…」


    この学校は時代遅れなことにミスコンをやっている、しかも強制参加の(汗)

    あの時、命怒ってたな…1票差だったし…

    そもそも、田舎の学校だから、人数が少ない、ミスコンとか言っても、強制なのに参加者20人を超えなかった…

    だって高校の女子が18人だから(汗)


    「いや、確かに参加者は少なかったけどさ、実際アンタと命は他の子達と全然レベルが違うよ、都会に行っても通用するんじゃない?」

    「まさか、あんまり夢みたいな事言ってたら駄目だよ」

    「う〜ん、まっいいけど…それじゃ」

    「うん、じゃね」


    鞄に筆記用具や本等を詰め、家路に着く、校門の前ですれ違った命の目が痛かった…

    まだ怒っているらしい…、命とは仲はいい方だと思う、でも何か勝負事になるとむきになる癖があった…

    実家の道場を継ぐという目標があるんだから、私と張り合う事ないのに…

    そんな事を考えながら歩く…


    町外れの一軒家…何代か前はこの町の領主を輩出した事がある館に私は住んでいる…

    もっとも、今や没落し、住んでいるのは私と妹の二人だけ…

    妹、セリスは外に出る事を極端に嫌うようになった…

    10年前の事件以来時折自分の魔力が高まるのを感じるらしく、人に近付けば傷付けてしまうのではないかと怯えるようになった…

    私は精一杯励ましているんだけど…まだ、外に出るのは怖いみたい…

    元々は私なんかよりずっと明るい子だっただけに何とかしたいと思う…だから、今日は話してみるつもりだった…

    館の扉を開け、中に入ると玄関先にセリスが来ていた…

    別に体が悪い訳ではないのだから当然だけど、異界の力を象徴するオッドアイが、悲しそうに揺れている…


    「ただいま、セリス」

    「うん、お帰り姉様」

    「どうかしたの?」


    何か、もじもじとして言い難そう…多分、今日の朝出て行くときにきちんと挨拶しなかったからね…

    そう察して私が謝りの言葉をかけようとした時…


    「ううん、姉様を待ってただけ」

    「え? ……あっ……ふふっ♪」


    セリスは子供みたいな所がある、私と同い年とは思えないくらい…

    その事が可笑しくて、つい声に出てしまった…

    見ると、セリスは頬を膨らましている…


    「ごめん、ごめん悪かったわ、お詫びに今日は晩御飯私が作るから」

    「駄目! もう作ってあるもん!」

    「え? もう?」

    「うん! 姉様に美味しい物食べさせてあげようと思って…」

    「???」


    不思議に思いつつも、私は促されるまま食堂に向かい、10人がけテーブルの一角に座る…

    そこには、私が見る中では初めての料理が並んでいた…


    「これ…どうやったの?」

    「うん、料理の本見て作った♪」


    セリスの料理の腕は一流といってもいいと思う、元々集中できる事が好きだから、覚えるのも早い…

    ヨーヨーなんかはその最たる物かも…

    でも、材料は?


    「食べてみて♪」

    「うっ、うん」


    そうして、セリスの料理を口に運ぶ…

    芳醇な味わい…テュロットのチェーン店の料理なんか目じゃないくらいに…


    「美味しい…」


    でも、だからこそ、不思議…どうやって材料を手に入れたのかしら?

    私の顔が疑問を表しているのが見て取れたのだろう、セリスはぽつりぽつりと話し始める…


    「今日ね…」

    「え?」

    「今日、私買い物に行ったの…」

    「!!」

    「大丈夫だった…別に何とも無かった…」


    セリスの顔が歪んでいる…怖かったのだろう…涙をためて…

    でも…


    「じゃあ…」

    「うん…ボク…行くよ、旅に…それで、本当に心配要らなくなったらここに帰って来るんだ♪」

    「セリス!」


    私はセリスに抱きつき、髪を撫でる…セリスは私のされるがままにしつつ、微笑んだ…


    翌日、私達は旅立ちの準備を整え、情報の集まる大都市リディスタに向け旅立った…
引用返信/返信 削除キー/
■55 / ResNo.1)  空の青『道行』
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/18(Thu) 22:51:08)
    声がする…


    私を呼ぶ声……


    あなたは誰…?





    え? 聞こえない…


    私は貴女……


    君が私??


    そう、貴女と私は同じ物……


    君は私なんだ…


    だから…


    だから…


    …………


    ……





    「ぇさま! 姉様! 朝だよ朝! ゴハン出来てるよ!」

    「うっ…うぅん…セリス…おはよう」

    「もう、姉様ったら、ねぼすけなんだから! 低血圧なのは分かるけど…」

    「そういう貴女は、テンション高いわね…高血圧になるわよ」

    「もう! 朝ゴハンボクが全部一人で食べちゃうんだから!」

    「ちょっと…セリス…まあ良いわ…」


    ああ言った所でセリスがゴハンを一人で食べ始める事は無い、やさしい子なのよね…

    でも、今のやり取りで目は覚めた…

    私はテントから出て、立ち上がる。

    まだ肌寒い…

    気が引き締まり、今日もがんばるぞと言う気になる。

    そして、朝日に視線をやりいつもの儀式を始める…


    「おはよ、私の君。今日もがんばろうね」


    別にこれで何か変わるわけでも、答えが来るわけでもない、でも何故か安心する…だから儀式、そう私は思っている。

    私は昔ある事件がきっかけで精霊を体に宿した……

    全てを凍らせる氷の精霊…普通に暮らすには特に問題は無い。体温が少し低くなったのと、冬に強くなったくらい…

    だけど、何らかのきっかけで精霊が開放された時、私自身も制御できない…

    と言うより、私ではなくなってしまう…人格が精霊に流されると言うか、私でありながら氷の精霊となる。

    そう、人の命すら頓着しない…

    だけど、生きていく限り引き離せない、そして彼女の心が流れ込んでくる事も…だから私は一緒に生きていくことを決めた。

    私はエルリス、彼女もエルリス…だから私の君なんだ。


    支度を済ませセリスの所に向かう…そこでは、見慣れない料理がならんで…

    いや、知ってはいる、いるけど…


    「姉様遅い! ゴハン冷めちゃうよ!」

    「ええ? 朝食に火を使ったの?」

    「ふふ〜ん、私こういう事もあるかな〜って思って、携帯用バーベキューセットを買っておいたの!」

    「ははははは…」


    それでか、リュックが異常に重かったのは…

    外に出たのが久しぶりだから金銭感覚が無いのは仕方ないけど…(汗)

    次の町に着いたら絶対売り払う! 


    朝食を済ませ(量は多かったけど、勿体無いので全部食べた)

    荷物を纏めて二人歩き出す…


    私達は南の方向に向かって旅を始めている…

    最初に向かう町はノーフル、町の規模はスノウより大きいけど田舎町には違いない、でも旅人が立ち寄る事は多い…

    中規模の町…そんな感じかしら…

    乗り物を使えば早く着くんだろうけど…


    私達にはお金が無い…(汗)

    屋敷の家財道具の一部を売り払いお金に変えたんだけど足元を見られたらしい、半年暮らすのが精々の金額にしかならなかった…

    乗り物を買えば直ぐに飢え死にできそう…

    家の財産はこの間切れたし…

    テュロットでバイトでもと考えていた所だったから…

    正直ぎりぎり、時々バイトしながら旅をする事になると思う…



    それでも私は悲観してはいなかった…



    だって、セリスがあんなに嬉しそうだから……
引用返信/返信 削除キー/
■56 / ResNo.2)   空の青『バイト編』その@
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/18(Thu) 22:52:13)
    2004/12/12(Sun) 09:00:17 編集(管理者)
    2004/11/18(Thu) 22:56:09 編集(管理者)

    「ふう、ついたみたいね…」

    「うん♪ とうちゃーく♪」


    私達は何事も無く、ノーフルの町へとやってきた…

    まあ考えてみれば、盗賊だのモンスターだのは寒さの所為かスノウトワイライトには近付かない…

    人口僅か1214人…ぎりぎり村じゃないというのがスノウの自慢だった(爆)

    だから、まあ街道で何かに会う確立は殆ど無いわけ。

    でも、ノーフルの町は違う、人口だけでも約三倍、

    南のリディスタ西のアブリビアンという、王国内でも五指に入る大都市と繋がる要所であるため、それなりに潤っている。

    商店街の規模もかなりの物ね…

    私達は近くの宿屋にチェックインした後、今後の予定を話し合う事にした。


    「姉様、どうしたの?」

    「セリス、これからの予定だけど、今日ここに泊まったら直ぐにリディスタに向かおうと思うの」

    「うん、そうだねボクもそれがいいと思う」

    「だけど、ここからは街道沿いに行っても盗賊の類は出ると言う話だから…」

    「大丈夫! ボク達取られるような物無いよ」

    「うっ、まあそうだけど…私達みたいな女ばかりだと別の危険もあるのよ」

    「別の危険…?」


    この子は…私と同い年の筈なのに(汗)

    知識が偏っているだろうとは思ってたけど…

    お願いだから私の口から言わせないで…(泣)

    セリスは興味津々と言った感じで私を覗き込む、ああ…純真な目が痛い…

    ん? おかしい…セリスの目があんまり純真じゃない…っていうかどこかにやけてる?


    「ねえ、何なの姉様?」

    「…ほんっきで聞いてるの? セリス」

    「ううん、姉様の反応が面白かったから聞いただけ♪」

    「セリスー!!(怒)」

    「うひぃ〜ごめんなさ〜い♪」

    「反省の色がな〜い!」


    そう言って私は枕をセリスに叩きつける、ボフッという音と共にベッドに沈むセリス…


    「うぅ、姉様ひどい!」

    「ひどくない!」


    セリスの抗議を無視して、私は明日の事を考える…上手く誰かに乗せてもらえればいいんだけど…そうでなければ歩きでは辛い…

    街道に出てそこまでと言うのはちょっと辛い…

    一応私は家から剣を一本持ってきている、でも正直命と剣の練習をやった事はあっても実戦経験の殆ど無い私や、

    魔力が高くても魔法使いとして訓練している訳でもないセリスではまともな戦闘が出来るとは思えない…


    …そう言えばここには列車が来ているのよね……何とか乗れないかな……

    魔道列車…通称列車、何と言うか魔法無しでも蒸気機関なら動かせる代物だけど、やはり速度が違う。

    連邦の作り出したシステムで王国内の物資の物流の三割がこれでまかなわれている。

    王国内でも新しい駅が増え続けているので、鉄道王なんて呼ばれる大金持ちもいるとか…

    私には縁の無い話ね(泣)


    「何するにしても先立つ物が必要かな〜」

    「姉様お金がいるの?」

    「そりゃね、喉から手が出るくらい」

    「姉様の喉から手が出る所は見てみたいけど、お金欲しいならこれやってみようよ」

    「え?」


    そう言ってセリスが私に見せたのはバイト募集のチラシ…

    何々、”急募! マルシャナの森に入ってカロン草を摘んできてくださる方募集”とある。

    マルシャナの森は確か町の東に広がっている森の事ね…

    確か獣人族の領土を掠めてた気もするわ…

    とってくる場所が入り口付近だから問題は無さそうだけど…

    本当にそうか怪しい気もするわね…

    で、バイト代は……むむむっ…これは!


    「セリス良い? 聞きたいんだけど、このバイトもしかしたら戦闘になるかもしれない…けど…」

    「報酬は良いよね♪」

    「うん、多分これだけあれば列車に乗って王国一周旅行してもおつりが来るわ」

    「じゃ、やろうよ、ボク列車に乗ってみたいな♪」

    「…あのね、簡単に言うけど、私達の戦闘能力なんて高が知れてるんだから、兎に角、何かあったら逃げる方針で行くからね」

    「え〜ボクそんなに弱くないと思うよ、姉様は無敵だし♪」

    「そんな訳ないでしょ! 私も実戦経験ないしこの剣だって実戦で使えるのかどうか分からないのよ!」

    「でも、いざとなったら…」

    「それを当てにしないの、あれはあれで大変なんだから」

    「もう、姉様の出し惜しみぃ…うっ!」

    「セリス!?」


    突然セリスが苦しみだす…これは、体内の魔力が高まっている証拠…

    急いで私はセリスを寝かしつける……

    肩で荒く息をしながら、それでもセリスは私に向けは話かける…


    「あぁ…うぅ…ごっ…ゴメンね…姉様…ボク…」

    「いいの、今は安静にしていなさい」

    「うん……姉様…」


    セリスは荒い呼吸を少し落ち着けると、私に声を返す…

    セリスは月に一度のペースで魔力が許容限界を超えるらしい、

    それでも、不思議と暴走する事はなかった、セリスが必死になって押さえ込んでいるからだと思う。


    「姉様、また歌って…あの歌を聴いたら寝るから…だから」

    「うん、歌ってあげる…だから眠りなさい…」

    「えへへ、ありがと姉様」


    私は歌を歌いだす、セリスがうなされる日はいつも…

    セリスの魔力が暴走した日、精霊の歌を授かった…ううん、違う、これは母さんの歌……

    母さんが歌っていた精霊の歌……

    だから、セリスも安心するのだと思う……

    歌が終わりセリスの寝息が聞こえ始める…

    私は気を抜きフッと笑みをこぼす、あどけない寝顔だ、寝ている時まで子供なんだから…


    「お休みなさい、セリス」


    私はセリスの頬にキスをすると、自分のベッドに潜り込んだ…


    翌日、セリスがバーベキューセットを売り払った私に涙ながらに抗議してきたが…

    それはまた別の話。
引用返信/返信 削除キー/
■57 / ResNo.3)  空の青『バイト編』そのA
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/18(Thu) 22:55:32)
    突然だけど、私達はピンチに陥っている…

    カロン草を求めて森に入ったんだけど…

    鬱蒼とした木々の下、腰の辺りまで高く覆い茂った草や落ち葉に覆い隠されてしまった地面の上をぐるぐる回っているうちに…

    方位を見失った…

    コンパスは持っているんだけど…歩くと磁石も振れる…

    そう言えば聞いた事がある…磁気を帯びた地層と言うのがあって、その層が露出している所ではコンパスが北を指さないって(汗)

    ははは…やっぱり世の中甘くないか…列車で旅なんて夢のまた夢かな…


    「ねえ、姉様どうしたの?」

    「う〜ん、実は…道に迷っちゃったみたい(汗)」

    「え? どうして?」

    「どうも、コンパスが効かない見たいなの…よく見て」


    そう言って、セリスにゆらゆら揺れているコンパスを見せる…

    セリスは見たとたん「あっ」と言いかけ口元をてで隠した…

    セリスのこの驚きよう…まさか…(汗)


    「セリス…何かやったのね?」

    「…うっ…さあ…何の事かなぁ? ボクわかんないや」

    「セ〜リ〜ス!」

    「知らないって! 本当だよ!」

    「セ〜リ〜ス!!(怒)」

    「う〜! ごめんなさい! 昔遊んでて、ボクそのコンパスの針折っちゃったんだ! それで、たまたまよく似た針があったから半分赤に塗って誤魔化したの!」

    「……………はあ」


    …これはもしかして、自滅?

    私は…一体(泣)


    兎も角、それが分かったなら、何とかする方法もある筈。

    太陽の方向は…見えないか…

    年輪は…切った木が無い…

    えーっと、他に方角を見る方法ってあったっけ?

    駄目だ〜! やっぱり完全に迷ってる〜!!


    「あの〜姉様?」

    「ねえセリス、今どっちの方むいてるか分かる?」

    「わかんない」


    虚しいわ…

    この後、は森の中で野垂れ死になんて事にならなければ良いけど…この場を動かないでいても助けがくる事はないでしょうし…

    どっちにしろ、歩くしかない訳ね………


    「はあ、じゃあ歩こっか?」

    「うん」

    「これからは、先に言っておいてね」

    「うぅ〜ごめんなさ〜い」


    セリスをへこませて少し落ち着いた後、私達はひたすら歩いていた…

    話を聞いた限りでは、そろそろ採り終わって帰っていても可笑しくない時間……未だカロン草は見つかっていなかった…

    カロン草…多年草の一種で、種が喘息や気管系の疾患に効く、単体ではそれほど価値はないけど…

    調合次第では抗癌薬としても使えるという噂ね……それで乱獲が進み今は人間側の領土ではあまり見られないものみたい…

    だから獣人族の領土ぎりぎりのこの森で取って来てと言われたんだと思う。


    「姉様! あれ! 川だよ川!」

    「え? 本当…」


    川…セブリナ川だったっけ…獣人族との境界線…もうここまで来ていたんだ……

    視界が開けているので、対岸に獣人達が水を飲みに来ているのがよく見える…

    ネコミミ少女とか、牛人間とか犬耳のおばあさんなんかがいる…あっちの少年は…リスね…可愛い♪


    「ねえ、ねえ、姉様」

    「セリスどうしたの?」

    「カロン草ってあれだよね?」

    「え?」


    言われて私はセリスの指差す方向を見る…

    川の丁度真ん中辺りに小さな島が出来ていて、そこには…

    あった! 確かにカロン草ね…でも、あそこ国境のライン上ど真ん中と言う感じね……

    あそこまで行くと当然私達は追われる事になる……流石に戦争にはならないと思うけど……

    私達は自力で逃げなければならない。

    どうすべきかしら…


    「セリス…国境まで行くのは危険だし、今回は諦めましょう」

    「そんな事ないよ! だってほら!」


    言葉を言い終わるより早くセリスはヨーヨーを飛ばす…

    ヨーヨーは20m近くを飛び中央の島にあるカロン草を幾つか糸に絡め、引き千切って戻ってくる…

    帰ってきたヨーヨーには数本のカロン草が絡まっていた…


    「どお? 姉様、上手く行ったでしょ?」

    「そう…ね…」


    正直、セリスのヨーヨー捌きにびっくりしていた…

    20mもの長さの糸がついたヨーヨーを横に操るには筋力も必要な筈なのに…

    私が不審げな顔をしていたことに気付いたのだろう、セリスはちょっとすねたような顔をしながら…


    「このヨーヨーは特別なんだ…屋敷の蔵にあったんだけど、ボクの魔力が通るから物凄く軽いの」

    「そうなの…じゃあそれも魔科学の産物なのかしら…」

    「良くはわかんない、蔵に落ちてたのを拾っただけだし…」

    「そう、じゃあ昔から家にあった物なのかしら…」

    「多分…そうだと思うよ」


    私達はそのまま森に戻ろうと思ったけど、やっぱりそこまで世の中甘くないみたい…

    獣人達の内数人がこちらに気付いてやってくるのが見える…


    「不味いわ……獣人に気付かれたみたい…」

    「え〜それじゃ、私達食べられちゃうの〜?」

    「まあ、そういう獣人もいるらしいけどね…兎に角、逃げましょう!」

    「うん!」


    こうして、私達と獣人達の追いかけっこがはじまったの…

    森の外まで逃げ切れれば勝ちなんだけど…

    獣人達に食べられて死ぬなんていやーっ!!
引用返信/返信 削除キー/
■64 / ResNo.4)  空の青『バイト編』そのB
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/11/20(Sat) 23:26:01)
    2004/11/21(Sun) 09:34:21 編集(管理者)

    「ウルォォオオーーン」
    「オオォォーーン」

    大型の獣人達が私達を追いかけてくる……
    追いかけられる私達にはたまった物じゃないけど、今の所追っ手は4〜5人、もっとも獣化している連中は匹で数えた方が良いのかも…
    ただ彼らは私達を本気で追っているわけでは無いようだ… 森の中で足を取られながら進む私達を追いかけるのだから十分もしない間に追いついても良い筈… だとしたら…
    獣の習性を考えると…私達を弱らせているという事?
    どうしよう…このままじゃ食べられる事はなくても、捕まって捕虜なんて事になるかも…
    でもそれはセリスにとって致命的なことになりかねない……
    やはり、応戦する以外には無いみたいね…
    私達は足を止め、身構える…セリスも緊張が伝わったのだろう警戒してきょろきょろ見回している…

    「姉様、もう逃げないの?」
    「このままじゃどの道追いつかれるわ…それより体力が無くなってから対峙するほうが怖い」
    「うん、そうだね……」

    私の言葉にセリスも表情を引き締めたようだけど…
    でも、安全になったと言うわけじゃない…
    獣人の警備隊がどれくらいの連度なのか分からないし、たとえ弱くても数で不利だ…
    まあ、その辺も望み薄だけど……

    「セリス、出来るだけ自分で逃げて…私がフォロー出来るとは限らないし」
    「ううん、姉様、ボクも手伝う…原因はボクにもある訳だし……」
    「はあ、あのね…セリス、あなたは戦う方法を知らないでしょう?」
    「知ってるよ、このヨーヨーがあれば…」
    「ヨーヨーで戦える分けないでしょう!」
    「戦えるもん!」
    「あのね…」
    「るぅ! 姉様にも見せてあげるんだから!」
    「…」

    はあ、この意固地なとこ誰に似たのかしら…(汗)
    私はセリスの将来が心配になった…

    そうしている間にも獣人たちは私達の周囲に陣取り様子を伺っている……
    獣人には二種類のタイプがある……
    簡単に言うと人間と獣の中間みたいな容姿をした者と、人から獣の姿に変われるものだ……
    戦闘力は一部の例外を除いて後者の方が高い…
    そして、私達の目の前にいるのは後者の方だ…
    森の中を跳ね回りながら私達に近づいてくる…
    突然周囲が静かになる…
    私はまだそれほど気配が読めるほうではないけれど痛いほどの静けさに私達が囲まれている事を察する…
    私は緊張し冷や汗をたらしながらも身構える…
    剣を引き抜こうとしたその時…

    「人間よ、何故われらが領域を侵犯した?」

    そう声を発しながら体格のいい狼男が私達の正面から現れる…
    狼男は威風堂々としていて、落ち着いている…
    変身後の獣人は血を好むとかって聞いた気もするけど…
    これは認識を改めないといけないわね…

    「私達はバイトでカロン草を取りにきただけ、もしそれが気に入らないなら返すわ」

    私がカロン草を高く掲げそれを地面に置く、セリスは勿体無がっているけど背に腹は帰られない。
    隊長らしき狼男はそれをしげしげと眺めていたけど、どうも納得していないみたい…
    カロン草を取りに行くわけでもなく私達に向き直る…

    「ならば聞く、お前達が携えている武器は魔科学兵器ではないのか? それを携えて国境にやって来るという事がどういう事か分かっているのか?」
    「それは…」

    どうも私の剣だけじゃなくセリスのヨーヨーの事も言っているみたいね…
    魔科学兵器は神殿の忠告を無視する形で国家や武器商人によって作り出されている…
    それを所持できるのは兵士や傭兵、そして貴族という事になってくる…
    私達の所はいわゆる没落貴族、だから蔵にこういったものがあるんだけど…

    これを持っての国境侵犯は戦争の引き金になりかねない…
    狼男はそう言っているのね…

    「では、私達はどうすれば良いと言うの?」
    「おとなしく一緒に来てもらおう」
    「その場合は私達をどうするつもり?」
    「刑は魔科学兵器を没収の上三ヶ月間の拘束…そんな所だな」

    魔化学兵器の没収は痛いけど…それより問題なのは三ヶ月間なんて長い間拘束されればセリスの魔力が暴走しちゃう…
    条件は飲めそうに無い、でも現状は…かなり不味いわね、そう私が考え込んでいるうちにヒュンという音が聞こえた…
    とっさに視線を上げるとセリスがカロン草をヨーヨーを使って回収する所だった…

    「隊長さん、あなたのいう事も分かるけど、逃げ切れれば証拠は残らないよね、ボクは…ボクはこんな所で立ち止まってはいられないんだ!」
    「そうね、こんな所で終われない、終わらせないわ!」

    不思議と狼男に対するプレッシャーは感じなくなっている… 私はセリスとうなずき合うとエレメンタルブレードを抜き放つ!

    「ほう、良い目をしている…ならば相応の態度で挑まねばなるまいな…」

    狼男は周囲の兵たちに何か命令をしたみたい…もっとも、片手を軽く振っただけだから良く分からないけど…
    私は呼気を整え周囲の気配を読み始める…
    命に教わった事がこんな所で役に立つなんてね…
    周囲のざわめきが消えていく…気配が息を殺しているのが分かる…
    マナは万物の基礎を成す第一条件…
    そのマナの動きを捉える事が気配を読む極意となる…だったっけ…
    今でも良く分かっている訳じゃないけど…心を澄ませば見えてくる…

    右後方!

    私は体を捻りながらエレメンタルブレードを振りぬく…
    心の動きに合わせほぼ自動でエレメントクリスタルに送り込まれる氷の魔力が剣の軌道に氷の粒を形成する…
    私に攻撃しようとしていた猿の獣人は氷の粒を目潰しに喰らい体制を崩す…
    私はその獣人を蹴り飛ばしエレメンタルブレードを構えなおした…

    「シャァー!」
    「くっ、セリス!」

    私がセリスから離れた所を見計らってセリスに狐の獣人が迫る…
    私はあわてて戻ろうとしたけど、猿獣人が私の邪魔をする様に立ちふさがる…

    セリスは狐獣人が迫ってきているというのに驚いた顔を見せない…
    狐獣人はセリスに向かって飛びかかろうとしている…
    セリスがヨーヨーの糸で結界の様なものを作り出している事は見て取れるものの、あれでは獣人を抑えておくことは出来ないわね…

    私が出来るサポートは…
    猿獣人と戦いながら詠唱を開始する…

    全ての終わりを運ぶ者、凍れる世界の主よ…その息吹もて顕現せしその力を示せ

    私が呪文の詠唱を終了し狐獣人に放とうとした時…
    セリスの結界が輝きを放つ…
    そして、飛び掛って来た狐獣人を吹き飛ばした…
    猿獣人も一瞬その事に気を取られたらしい、私はその隙にあわせて呪文を発動させる…

    「フリージング!」

    瞬間、猿獣人は体表面の水分を凍りつかせた…
    この呪文ご大層な呪文の割に効果はそれほど大きくない、でも回復するまで半日くらいはかかる…全身に低温火傷を負わせることも出来るけど…
    獣人は毛が多いから難しいのよね…

    兎も角、猿獣人を行動不能に追い込んだ私はセリスに合流する。

    「セリス…いつの間にあんなことできる様になたの?」
    「えへへ…練習してるうちにね…魔力の通し方次第で色々できるみたいだって気付いたんだ♪」
    「凄いわね(汗)」

    セリスはこういう事が上手いとは思っていたけど…これは一種の天才なのかも…
    戦闘中だというのに私は思わず感心してしまった…

    「さあ、ここを通してください、無駄な怪我人が出ますよ…」

    私は狼男に向かって脅しの言葉を言う…
    でも考えてみればこれくらいの事で怯む兵士はあんまりいないわよね…
    予想通り狼男も私達に向かって身構えただけ…

    不味い…この狼男隊長だけあってさっきの奴等より強い…
    私達は身構えていたけど、徐々に押されているのがわかった…
    緊張がくずれた時が私達の最後…

    「フッ…」
    「なんですか! いきなり!」

    そう、突然狼男は筋肉を弛緩させると私達に背中を向けた…
    まるで争うつもりは無いと言っているみたいに…

    「いやなに、お前達があまりにバカ正直だからな…」
    「バカ正直って(汗)」
    「第一にお前達は助かるチャンスがあった、魔化学兵器を捨てて行けば我々はお前達を追う事はしなかっただろう、
     スパイ容疑はあっても来てからの動きはある程度見ているからな」
    「なっ!」
    「第二に実力的に勝る訳でもないのにお前達は俺の部下達を殺していない」
    「…」
    「な? バカ正直のアマちゃんだろ?」
    「ぐぐぐ(怒)」
    「そのバカ正直さに免じて今回だけは見逃してやる、二度と中途半端な覚悟で来るんじゃな無いぞ」

    私達はバカにされていると感じながらも見逃して貰えるのだからとぐっと我慢していた…
    でも、私もセリスも限界が近い…仲間の兵士を背負っていく狼男を私達は睨みつけていた…

    翌日どうにか町に戻る事ができた私達は大変驚かれていた、奥地まで行って戻ってきた人間はあまり多くないみたい…
    因みにカロン草はかなり痛んでいたらしくバイト料は半値しかえられなかったけど、とりあえず列車に乗るには十分だったので良しとしておく事にした。

    え?
    あの後どうやって町に戻ったのか?
    それは…恥ずかしい限りなんだけど…
    また迷ってたらあの狼男に無理やり町の所までつれてかれちゃったの(汗)
    あの時の屈辱は忘れられないわ(怒)
    セリスと二人でいつかギャフンといわせてやると誓った位に!

引用返信/返信 削除キー/
■92 / ResNo.5)  空の青『列車編』その@
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/12/07(Tue) 18:17:54)
    飛ぶように風景が過ぎていく…
    列車はリディスタに向け快速に飛ばしている…
    王国内の列車事情は割と良く一日20往復しているので、値段も目が飛び出るほど高いとか言う事はないんだけど…
    それでも、一応大人が二三日働かないと稼げないお金がかかる…
    特に王国内でもリディスタは南の方に位置するため実際歩くと一週間がかりになる距離だから値段も相応と言う訳。
    だから、その分列車は早い…街道を行く馬車なんかは一瞬で後方に流れていくし、町なんかも直ぐに見えなくなる…
    私とセリスは列車自体に殆ど乗ったことが無かったから窓の外を飽きることなく眺めていた…

    「姉様、これなら直ぐにリディスタまでつきそうだね♪」
    「うん、この分なら夜までには着くんじゃないかしら」

    今はお昼前、既に行程の3分の1近くまで来ていたので私はそう応えた…
    お昼前か…そう言えばここには食堂車があったわね…

    「ねえ、セリスもう直ぐお昼だし食堂車の方に行ってみない?」
    「うん、行ってみる!」

    私とセリスはそろって席を立ち食堂車の方に向かう…
    食堂車の中はちょっとしたレストランといった感じの壁紙が施され絨毯が敷き詰められている…
    私達は空いた席を探したけど殆ど埋まっている…考えてみれば昼前は一番込み合う時間帯よね、出直してこようかしら…
    でも、私達の目の前のテーブルで何やら見知った人間が食事をしているのが見えた…

    「あれ? 命だよね?」
    「多分…間違いないんじゃないかな…でもどうして…」
    「ボク、声かけてくる!」
    「ちょっと、ってあっ!?」

    私達が騒いでいるのが見えた所為で周りの人が私達に注目している…
    恥ずかしい…(汗)
    命にも当然気付かれた訳で…何やら不満げな顔で私たちを手招きしている…
    私達は命に呼ばれるまま命の座るテーブルに着く…
    私はちょっと居心地悪いけど、まあ席が取れてラッキーだと思うことにした。
    そして、私達二人が注文をとり終わったころ命が口を開いた…

    「どうしてあんた達がここにいるの?」
    「え? だって、列車に乗ったからだけど…」
    「そんな事を言っているんじゃない! 私より三日も前に出発した筈のあんたがまだここにいる訳を尋ねているの!」
    「それは…」
    「それは?」
    「バイトしてました〜♪」

    セリスの言葉に気が抜けて突っ伏す命…
    だって、私達あんまりお金ないんだから仕方ないじゃない(泣)

    「あのね! あんた達ハーネット家の遺産がどのくらいあるのか知ってて言ってる訳!?」
    「遺産?」
    「はー、あんたの家妙に蔵の中が豪勢だとか思わなかった?」
    「えっと、私達あんまり入らないことにしてたし…」
    「…ごめんなさい、そうだったわね…でもね、あそこにあるものは売ればそれなりの価値のあるものばかりなの、だからあんた達でないと入れない様になってるんだから」
    「そうだったの…」
    「はあ〜何をボケかましてるのよ、考えて見なさいハーネット家は一体何で立っていたの?」
    「魔科学の研究とその成果…そうか…そうよね、確かにあそこにあるものは売ればそれなりになるかも…でも…」
    「売らないよ、あれは…ボク達にとってもかけがえの無い物だから…」
    「…まあ、その辺はアンタ達の好きにすれば良いけど…奢らないわよ」
    「え〜!?」


    動揺するセリス…話の流れで奢ってもらえると思っていたみたいね…
    命は道場の方で結構稼いでいたみたいだし…お金持ってるもんね…(汗)

    「セリス恥ずかしいでしょ、やめなさい、この間のバイト料も結構残ってるし、まだ旅費の方には手をつけてないんだから問題ないわよ」
    「そうなの、じゃあジャンボパフェに胡桃のタルト…それから、ピーチシャルロットも!」
    「だからって贅沢しないの! 大体そんなに食べられないでしょ…」
    「るぅ、だってぇ…」
    「ははは…大変ねそれじゃ…分かった分かった、胡桃のタルト位ならおごったげる」
    「ありがと! 命大好き!」
    「ははは(汗)」

    命はセリスに抱きつかれてどうして良いのか分からず私に助けを求めている…
    私は、頬をかきつつ無駄無駄と手を振った…
    命は私の家まで訪ねて来てくれていた数少ない友達だ…
    私の友達は結構いたけど、セリスは家から出ようとしなかったから、命は唯一の友達と言っても良い。
    学校に行っていない所為で言動の幼いセリスのよき理解者でもある…
    ただ、私とは時折張り合おうとする事があるのは何故なのか良く分からない…昔はもっと仲良かったんだけど…
    私としては張り合いたくは無いんだけどね…


    その後私達は食事を済ませて、まったりとしていた…
    もっとも、セリスは胡桃のタルトと格闘中だけど…

    「そういえば、命はどうして出てきたの? 私達を追いかけて来てくれたって言う訳じゃ無いよね」
    「まあね、私には私の理由がある…あんた達にも話した事があったと思うけど…」
    「もしかして、刀の事?」
    「そう、まあ時期的には先を越されちゃったけどさ、何れ私も旅に出なければと思ってはいたの」
    「じゃあ暫くは一緒な訳ね? 一度リディスタによって事件記事とか見ていくんでしょ?」
    「そうするしかないでしょ、今の所手がかりと言っても刀そのものと南に行ったらしいという情報しかないんだし」
    「だよね、じゃあ暫くは一緒に行けるね」
    「え!? 命も一緒に来てくれるの? やった〜!」
    「ちょ、リディスタまでだからね! リディスタまで!」
    「うん! それでも、嬉しいよ!」

    またセリスに飛びつかれてる命…
    なんだか諦めかかってるわね(汗)

    「セリス…せめてタルトを食べ終わってからにしなさい」
    「あっごめん」

    言われてセリスはチロッっと舌を出しながら自分の席に戻る…
    セリスは本当はテーブルマナーも詳しいんだけど…気分が盛り上がってくると子供全開だから(汗)
    命も一息ついたみたいね、やっぱり旅は道連れって言うし一緒に来てくれると嬉しい…
    セリスじゃないけど私も飛びついてあげようかしら?
    命が目を白黒する所見てみたいわね(笑)

    そんな訳で列車の中で命と再会した私達は一路リディスタへと向かっていた…
    以外にも長い旅路となることも知らずに…
引用返信/返信 削除キー/
■97 / ResNo.6)  空の青『列車編』そのA
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/12/14(Tue) 19:08:04)
    2004/12/14(Tue) 21:10:47 編集(管理者)
    2004/12/14(Tue) 19:10:38 編集(管理者)

    「ハア〜あふっ」
    「眠いの? セリス?」
    「うん、だって〜ババ抜き30回はしてるよ?」
    「うっ…それはそうなんだけど…」

    そう、私達はババ抜きをしている…
    午前中は景色を見て楽しんでいたんだけど、流石に飽きてきたので、命もさそってババ抜きをやっている…
    別にポーカーやブラックジャックを知らない訳じゃない、三人とも良く知っているけど…
    旅と言えばババ抜きだというセリスの主張でババ抜き大会になったの…
    でも…セリスが異常に強い…何故?
    正直こんなに差が出るなんて思わなかった…私と命は思わず熱くなって、現在に至ると言う訳(汗)

    「ごめん、セリス! もう一回…もう一回やろ! ね!?」
    「るぅ〜 命それさっきも言ってた!」
    「ははは…(汗)」

    私達は二人して惨敗…
    正直勝ち目は無いみたい…
    セリスって意外な特技を持ってるわね…

    そんな感じで私もちょっと悲しくなって空を見る…
    空は青い…雲は出ているけど良く晴れてる…
    太陽の照り返しで窓も眩しい…
    正直少し熱くなってきたので、カーテンを閉めようと手を伸ばしたその時…
    太陽が一瞬翳った気がした…
    あれ? 雲がかかった訳じゃないのに?

    「エルリスどうしたの? 空に何かあった?」
    「ううん…多分気のせい…」

    私は気にはなったけど、多分気のせいだろうとカーテンを下ろす、そしてババ抜きを再会した…



    それから半時間後…
    やっぱり一勝も出来なかった…
    私達は寝てしまったセリスを前に唸っていたけど…
    まあ、こういう事もあるわね、そう言い聞かせ立ち上がる。

    「私ちょっと、飲み物買ってくるね」
    「あ、それなら私の分も買っといて」
    「了解! 何が良いの?」
    「う〜ん…」
    「クリームソーダ!」
    「「へ?」」

    セリスが突然目を覚まして言ってくる…
    目ざといのかタヌキ寝入りなのか…ハア…

    「…じゃ…じゃあ私はミルクティで」
    「わ、分かったわ…」

    結局三人分の飲み物を注文しに食堂車に向かう私…
    もっとも、時間的には数両後ろに向かうだけだから大した手間でもない、
    けどちょっと運動部とかの下っ端の気持ちが分かるわね…(泣)

    食堂車では注文をして届けてもらう事もできるけど、もって帰ればいいだけなので自分で持つ事にした。
    まあ、三人分の飲み物くらい重い訳でもないしね。

    「さてと、必要な物は買ったし、帰るとしますか」


    ドゴーン!!


    そう言って食堂車から戻ろうとした時、突然爆音と共に車両が揺れる…
    そして、急激なゆれとブレーキ音が…
    私は飲み物を取り落としそうになりながらも、窓の外を見る…
    そこでは、空を行く大きな鳥…ううん、あれは!

    「ガンシップ!」

    ガンシップ、最近作られ始めた飛空挺と呼ばれる空を行く乗り物
    その中で、重火器で武装した物をガンシップとよんでいる…
    飛空挺自体私達には縁の無い物で、王族や一部の大貴族が所有するのみ、
    もっとも、連邦の技術は既に量産の前段階まで来ているという噂だけど…

    教会は「空の領域も魔科学で汚すつもりか!」とか騒いでいるみたいだけど…
    軍事力の為なら多分後数年もすれば量産されると思う…
    でも、まだ今は私達には直接縁があるものじゃ無い筈なんだけど…

    「空賊だー!!」
    「空賊?」

    私は気を取り直し元の両へと急ぐ…
    空賊、聞いたことがある、確か連邦の飛空挺を奪って逃げた盗賊がいたって…
    確かクラウ・ノルズとその一味…
    だとすると、列車が危ない!

    「…!」

    多分命がいるからセリスは大丈夫だと思うけど…
    このままじゃ…

    私は、息を切らせて元の車両へと滑り込もうとするけど…

    「はっはっはっ! 大人しくしてりゃ、安全に返してやる! いいか! 両手をあげろ!」

    そこには既に入り込んだ空賊達が乗客達を拘束している姿があった…

引用返信/返信 削除キー/
■101 / ResNo.7)  空の青『列車編』そのB
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/12/21(Tue) 18:09:59)
    2005/01/03(Mon) 15:33:19 編集(管理者)
    2004/12/22(Wed) 06:29:49 編集(管理者)
    2004/12/21(Tue) 18:15:25 編集(管理者)

    エルリスがジュースを買いに出て行った後、セリスは命に話しかけるかどうかで迷っていた…
    流石に先程の胡桃のタルトの件もあって、たかったみたいでちょっと話しかけ辛い…
    きっかけを探して外を眺めていると遠くを飛んでいく影が見えた…

    「命…なんかが空を飛んでるみたい…」
    「え? ああ、ほんとだ…エルリスも何か見た風だったけど…あれは…」

    命が空を見て不思議がる…
    セリスには何故不思議がるのか分からなかったが、空に見える影は奇異なものらしい…
    だが、セリスには命に聞いておきたい事があった…
    会話が途切れる前にと、続けて話し始めるセリス…

    「ねえ、命…ボク聞きたい事があるんだけど…命が姉様とケンカするのってボクの所為?」
    「…どうしてそんな事聞く? 私は唯エルリスに勝ちたいだけ…別に他意なんて無いよ」
    「でも…やっぱり…10年前の事が…」
    「…それは…」

    セリスの言葉に命が言いよどむ…10年前の事件…
    セリスが始めて魔力を暴走させた時の事…
    あの時、現場には四人の子供がいた…
    男の子一人と女の子三人、元気よく遊ぶセリスと命…
    どこと無くお姉さん風を吹かせるエルリス…
    そして…もう一人…

    その男の子とは10年前以来会っていない…
    その事があって直ぐ、引っ越して行ったからだ…
    だから余計10年前の事は三人の胸に残っている。
    ふとした事で血を噴出す古傷の様に…

    それ以来、セリスは家を出なくなった…
    なぜなら彼女の暴走は、
    10年前の時点で既に半径1km圏内を消滅させるほどの魔力量であったからだ…

    命もその事は良く知っていた…
    そして、彼女達は皆少年の事が好きだった…
    それは恋愛感情では無かったのかもしれない、
    だが少年が町を出ていった原因を作った姉妹にわだかまりを持たずにいられたとは思えない、
    そう、セリスは言っているのだ…

    「10年前の事は…正直少し気にはなっているよ…でも私は純粋にエルリスより強くありたいと思っている…それはもしかしたら、この剣の因縁よりも強い欲求かもね」

    そう言って命は空を睨むようにそして何かを懐かしむ様に表情を変えた…
    セリスにとって時には姉のように時には友人のように接してくれる命はかけがえの無い存在だ…
    そしてセリスにとってエルリスは命と引き換えにしてでも守りたい宝物とさえいえる。

    「でも、命と姉様が争う所は見たくないよ…」
    「それは、別に普段からいがみ合おうとなんて思ってないよ、だから安心してくれて良い」
    「本当?」

    セリスは心から二人が仲良くいられれば良いと思っていた…
    その為に例え自分が死ぬ事になっても…いらない子供に過ぎなかった自分の命で何とかなるものならば…
    セリスが子供のような行動をするのは、実はそういった心の隙間を無意識に埋めようとしているのかもしれない…

    「あ〜分かった! 分かった! 少なくともリディスタに着くまではそんな事しないから、それで勘弁して!」
    「るぅ、どうせならずっとそうしてよ〜」
    「そうもいかないの!」
    「もう、命の意地っ張り!」
    「…ふう」

    命もまさかセリスにここまで言われるとは思わず、タジタジになって突っ伏した…
    セリスはそれでもまだ何か言いたそうだったが、次の瞬間表情が凍りついた…

    「何か来る!」

              ドゴーン!!

    セリスがその言葉を言い終わる前に列車が強い振動に見舞われる…
    命はとっさにセリスを押し倒しながら床に伏せた、

    列車の窓を割りながら四つの影が列車内に飛び込んでくる…
    (まずい、盗賊の類か…一体何が狙いなんだろう…だけど、ここの四人だけなら…)
    そう思って命が飛び出そうとしたが、セリスがそれを止める…

    「セリス…一体どうしたの?」
    「姉様武器を持って出てない」
    「それ位エルリスは自分で何とかするわよ」
    「でも、外からも狙ってるよ?」

    そう言って窓の外を指すセリス、命は嫌な予感が広がるのを抑えつつ外を見た…
    そこには、ガンシップが浮かんでいた…銃座の一つが命たちのほうを向いている…

    「そういう事は、早く言いなさいよ!」
    「だって、聞かれなかったもん! それに間に合わなかったでしょどの道」
    「それはそうだけど!」

    ドゴーン!! ドドーン!! ゴバーン!!

    そういいながら二人は全力で走り出す…
    数初の弾丸が命たちに向けて放たれたが彼女達は転ぶように逃れる…
    それた弾丸は列車の床部分をえぐり穴を穿つ…

    「派手にやってくれちゃって…私がやられっぱなしになるとは思うなよ!」

    命は気をねってからガンシップの銃座に向けて居合いで一閃した…
    すると、剣が届く訳も無い距離にいたはずのガンシップの銃座は小爆発を起こし砲塔が吹き飛ぶ…

    「一閃『裂空』」

    命が剣を鞘に納めると同時に技の名前を言う…
    昔セリスにせがまれて良く技の名前を教えていたのだが、完全にクセになっていた(爆)

    振り向きざま命は、再度突撃をかけようとするが、賊の一人が前に出てくると同時に動きを止めた…
    その男は独特の雰囲気を身に纏い周囲を圧していた…
    金髪碧眼、大柄な体格、典型的帝国人の特徴を持つが、日に焼けた顔色をしている…
    命はその男が何者なのか分かっていた…相手がガンシップを持っているなら軍か、他国の密偵か、もしくは一部の大貴族か、後残るのは…
    空賊、今は一つしか存在しない空賊団…どこかで連邦と繋がっているという噂もある…
    男は、命も前まで来ると轟然と言い放つ。

    「中々面白い芸を使うサルだな…だが、この俺のガンシップを傷つけてくれるとは…きちんと反省させなきゃならんな…」
    「いきなり出てきて人をサル呼ばわりとは、全く歴史の浅い所に住んでるモグラは脳みそも浅いみたいね…」

    二人の視線が絡み合う…
    二人は同時に一歩引きニヤリと笑みの形に口元を歪め構えを問える…
    命は納刀して抜刀術の構え…
    相手はボクシングスタイルをとる…

    「まさか、居合い相手にボクシングで何とかなると思っている訳じゃないでしょうね?」
    「サルの相手は素手で十分さ…」
    「…そんな軽い挑発に引っかかるほど精神が柔だと思われてるなんて不愉快だね…モグラは地面の中で過ごすから目が退化してるんだろ?」
    「ククッ」
    「フフ」

    二人は同時に飛び出し、互いに向けて疾走する…
    命は一瞬抜刀しようとするが、横に回転しながら飛びのく、命がいた場所を男の足が通り過ぎていった…
    靴の先には仕込みナイフがついている、男が足を繰り出す為に体勢を変えた瞬間に命が気付いたからよかったもののそうでなければ切り裂かれていたろう…

    「なかなか癖の悪い足ね…」
    「ふん、貴様も気付いてよけるとはな…」
    「あら、サルっていってる余裕が無くなった?」
    「言ってろ」
    「そうね、でももうお仕舞い」
    「何?」

    命がそう言うと同時に、男の服がバラバラに吹き飛ぶ…体の表面に数条の傷跡を残してはいたがほぼ完璧だ…

    「なっ…まさか!? さっき転がって避けた時か?」
    「実力差が分かった?」

    そう、命は抜刀していた、横に飛びのきながらながら男に切りつけていたのだ…
    そのスピードは男の視認出来ないほどと言う訳ではなかったが側面に回りながら切り付ける事で相手の死角からの攻撃となったのだ…

    「くそ! 覚えてやがれ!」
    「いつきても同じだし、一々憶えてらん無いよ」

    命は相手の捨て台詞に律儀に反応していたが、不思議に思う…
    彼女も知っていた…クラウ・ノルズがどんな存在であるのかを…
    あんな男の訳はない、何故なら強さもさることながら、連邦の重要施設を襲撃するほどの男なのだ…
    こんなずさんな作戦を練るとも思えなかった…
    それに…あのガンシップ本当に連邦製の物だろうか?
    だが一味の人数は多いらしい…この車両以外にも多数の人員が配置されているようだ…

    「命やったね♪」
    「ううん、不味い…このままじゃ応援がどれだけ来るか…」
    「うん、結構人数いるみたいだね…だったら」

    セリスは何か悪戯を思いついた様な表情をしていた…


引用返信/返信 削除キー/
■104 / ResNo.8)  空の青『列車編』そのC
□投稿者/ 黒い鳩 -(2004/12/27(Mon) 23:12:09)
    2004/12/28(Tue) 08:03:06 編集(管理者)
    2004/12/27(Mon) 23:17:20 編集(管理者)

    「はっはっはっ! 大人しくしてりゃ、安全に返してやる! いいか! 両手をあげろ!」

    すでに結構な数の空賊が入り込んでいるみたいね…
    でも、今は剣も無いし…
    どうしよう…(汗)

    「おっとそこの! 隠れてるんじゃねえ! 出てきな!」

    見つかった!? 私は空賊のいる両にもう一度視線を走らす…
    隠れているっていっても場所的には隣の両…ばれても不思議じゃなかったけど、
    見つかったのは、長椅子の下にもぐりこんでいた男の子…
    男の子は引きずり出されて端にいる縄をかけられた人達の所に連れて行かれた…
    私は安堵すると同時に怒りを覚えた、人質を取るやり口は吐き気がする。

    だけど、今の私に出来るのは…
    三つの事かしら…祈る事、暴走、そして魔法ね…
    でも私の使える魔法は初級魔法レベル…スノウの町に住んでいた魔法使いの先生に教わったもの…
    どれ位役に立つかは、神のみぞ知るって言う感じかしら…

    「ではひとつ行って見ますか」

    私は小さな声で詠唱を始める…効果は小さなものでいい…
    三人いる車両内の空賊を足止めできれば十分…

    「古の盟約に従い古霊に申し立てん…我が前にたゆたいし不穏なるやからに安息と平穏を」

    呪文が完成すると同時に目標に向かって放つ…

    「フェルトスリープス」

    声は潜めたつもりだったけど…
    やっぱり気付かれたみたい…
    三人の男は、私の方を向きそして…

    倒れた…

    「ふう…それほど魔法に詳しい人間がいなかったみたいね…」

    この魔法は相手の脳の働きを鈍くする…というか脳の温度を下げる事によって眠りに落とすと言う魔法…
    でも、こんな魔法は相手が動いていると非常にかけ辛くなるし、魔法の知識がある人は気を張って耐えてしまう…
    不意打ちでないと効かない…微妙な魔法なの…(汗)

    兎に角、私はすぐに捕まった人達の縄を解き、それを眠った空賊を縛り付けるのに使う…
    開放された人質の人達に感謝されるのはいいんだけど、ここでゆっくりしている暇も無いし…

    さて、次はセリスと命がいるはずの両ね…それに剣もあそこにあるはず…
    で、そこを覗いてみると…
    何かすごいことになってた(汗)
    ガラスは皆割れてるし…誰もいないし…
    床に穴が開いてるし…
    何事?
    唯一救いなのは血痕が無い事…
    少なくとも大した怪我をした人はいない様ね…

    「でも…荷物大丈夫かしら?」

    何だかとてつもない事態だけど…命やセリスの心配をするには、どう動いたかまで予想できそうな様子の前にやる気がうせる…
    まあ、多分命が撃退してセリスが何か変なことをしようとしていると言う所かしら…
    何故なら、命のカマイタチの技の後がそこら中に残っているし…
    私は仕方なく剣をゴミ袋みたいになったリュックから引き抜きため息をつく…

    「はあ、一体どんな事態になるんだか…」

    そういいつつも、私は次どうするべきかを考えていた…
    セリス達は恐らく、空賊に一泡吹かせる為に動くだろう…
    でも、問題なのは列車が止められる事…
    目的が何であれ列車を止めたほうがやりやすい筈だから…
    なら私が向かうのは、先頭車両ね…

    私は先頭車両に向かい走り出した…
    途中何回か、下っ端に出会ったけど、皆驚くほど弱かった…
    いや、確かに盗賊なんてそんなものだと思うけど…
    連邦に名を轟かせた空賊がこの程度と言うのは正直ふしぎ…

    「この先も皆この程度なら楽なんだけど…」

    思わず私はそうこぼし、とうとう先頭車両までたどり着いた…
    先頭車両には、なにやら威圧感のある金髪の半裸の男とその男より一回り小さいすらりとした金髪の男がいた…
    男は私を見るとニコリと微笑み、声をかけてくる…

    「ほほう、勇ましいお嬢さんだ…ドレールを倒したのも君なのかい?」
    「いえ、違うわ」

    ドレールといわれた巨漢の男は渋い顔をするけど、傷や服の状態を見れば命にやられた事は明白ね…

    「では、お嬢さん、お名前をお聞かせ願えるかな? おお、そうだった、人に尋ねる時は自分から名乗るんだったね、
     我が名はクラウ・ノルズ…君も名前くらいは聞いたことがあるだろう?」
    「ふ〜ん、そうなの…」
    「名乗らないつもりかい? それも良いだろう、では月の君よ、この場は大人しく引いてくれないかい?」

    この男、なんていうか…台詞が大仰というか、クサイわね…
    出来れば近付きたくない相手だけど…
    今列車を止められたら、復旧に時間がかかっちゃう…

    「引く訳には行かないわ…私は先を急いでいるもの…」
    「…どうしてもかい?」
    「ええ」

    その会話が終わる瞬間互いに向けて私とクラウ・ノルズは飛び出す…
    私は剣を片手にしつつ滑り込むように下に向けて走りこもうとしたんだけど…
    クラウ・ノルズは私の動きを予想したのか、飛び上がって避ける…
    私は追撃の為に剣を抜き放つ…氷の粒がキラキラと光りながらクラウ・ノルズに殺到する…
    クラウ・ノルズは、地面すれすれを走って氷の範囲から脱する…
    私は剣を構えて突撃するものの、クラウ・ノルズの取り出した物を見て硬直する…
    拳銃…火薬式のそれは、連邦では既に軍の一部が使っているとかって聞いてるけど…
    まさか目にする事になるなんて…私が拳銃を前にどうするべきか考えていると、
    クラウ・ノルズの方から声をかけてきた…

    「ひゅ〜やるね〜♪」
    「それはどうも」
    「だけどさ、既に目的は達成されたんだな」

    そう言ってクラウ・ノルズが背後を指差すと、そこではドレールがブレーキを勢い良く引いているところだったの…
    急激な横Gにさらされ、私は体勢を崩す…クラウ・ノルズとドレールはその隙を逃さず走り抜けていく…

    「ちょっと待ちなさい!」
    「そう言われて待つわけには行かないな〜、月の君何れまた会おう!」

    してやられた…私は体勢を立て直して追い始める…

    その時だったの…唐突に爆発音が響き始めたのは…
引用返信/返信 削除キー/
■112 / ResNo.9)  空の青『列車編』そのD
□投稿者/ 黒い鳩 -(2005/01/03(Mon) 16:43:54)
    先程銃座を一つ破壊されたガンシップが旋回しながら、列車の方に戻ってこようとしている。
    今度は別の銃座を列車に向けようとしているのか少しだけ右寄りに近付いてくる。
    列車にいる二人へのリベンジのつもりだろうか?
    だがこのままでは、列車そのものにも被害が出る事は間違い無さそうだった。

    その列車の屋根の上…
    高速で走る列車の上に二人の人影があった…
    すっく立ったままバランスを取る人影達はバランス感覚もさることながら、風圧を感じていないかの様に見える…
    二人はどう見ても体重の軽い女性ばかり、普通に考えるなら立っていられるはずも無かった。
    暫くして人影の内一人が口を開く。

    「大丈夫? ヨーヨーの糸で魔方陣を組むなんて…魔力を流し続けるのは普通の魔法より大変だと思うけど」
    「ううん、問題ないよ。だってボク、魔力だけは売るほどあるから♪」
    「…(汗) そういえばそうね…でも、魔方陣の知識なんてどうやって?」
    「家の本結構色々あるから、そういったものもあったんだ♪ 外に出られないから暇だったし…」
    「ごめん…まずい事聞いちゃったね…」
    「ううん、気にしないで、ボク、今外に出て嬉しいよ! だっていろんなことが起こって全然飽きないもん」
    「あはははは…(汗)」

    二人はヨーヨーの糸で作られた魔方陣の上に立っていた。
    形の維持は魔力を持って行っている。
    ヨーヨーの糸そのものは魔力を通し易いようにミスリル合金を編みこんでいるとはいえ維持し続けるには中級の魔法使い並の魔力が必要だ。

    ここで少しミスリルについて語っておく。
    ミスリルそのものは妖精族から伝わったものであるが、現在妖精族とは通商関係にあり、ほぼ金の二倍のレートで取引されている。
    ミスリルは魔力透過金属として珍重され、いろいろな所に使われている。魔科学では無くてはならないものの一つだ。
    もっとも、妖精族の中にも人間のように取引に敏感なものもいるが、世俗に興味が無い者も多いため不足しがちであるが。

    現在の所、ビフロスト連邦が一番の買い手であり、その取引額は金の4倍〜5倍のレートにまで跳ね上がっているとか。

    セリスは列車の上で魔力を使って魔方陣を組み上げ、風の入り込まない領域を作り出していた。
    空気を通さない訳ではなく、魔方陣の中の空気がゆったりと流れる様にしているのだ。
    これにより、二人は風圧から守られ、列車の上で難なく立っていられると言う訳だ。
    もっとも、振動まではどうにも出来ないが…

    「じゃあ、命おねがい」
    「まあ良いけど…重火器が来たら逃げるわよ」
    「もちろん! ボクだって死にたくないもん」
    「OK、じゃあちょっと時間頂戴」

    セリスが無責任な笑顔で撤退の意思表明をしているのを見て、命は納得顔をした。
    そう言いつつもセリスは撤退しないだろう、彼女はそういう子だと命は知っていた。
    セリスは他人を傷付けたく無いが為に、十年もの間引きこもった。
    そのやさしさは、正直真似出来ないと命は感じていた。

    命はそんな考えをおくびにも出さず、先程見せた『裂空』の構えよりもさらに腰を落とし。
    刀も完全に後ろに回している。
    居合いというにも少しおかしな型だ。

    スウゥゥゥゥー、ハアァァァァー

    構えのまま数秒に渡り気を練る…
    旋回し戻ってくるガンシップと正対し、それでも命は構えを崩さずひたすら気を練っている…
    それを見て危機感が募ったのかガンシップの威嚇の砲撃が来る…
    しかし、それはセリスの持つもう一つのヨーヨーによって組まれた魔方陣によって軌道を逸らされ、列車の脇の田畑に直撃する…

    「あちゃ〜、やっぱり完全には無理みたい…農家の人ごめんなさい」

    セリスがそうこぼしている間にも距離は縮まり、ガンシップがその銃口を命に向けたその時。
    一瞬だけ命の前の空間が煌いた…

    その煌きの後命は力を失ったようにふらつく。
    それを見たガンシップの砲撃手が勝利を確信した瞬間…
    ガンシップの羽の一枚がずれ落ちた…

    『な!? 何だ一体!?』

    ガンシップのパイロットは一体何が起こったのか分からなかった…
    しかし、確実に高度は下がり…
    地面に片翼を突っ込ませた、
    そして田畑を掘り起こしながら疾走、ようやく地面に止まった…
    そして、乗員が逃げ出すとほぼ同時に爆発した…

          ズゴォォォーン!!

    「一閃『雲耀』」

    この技は今の命にできる究極の技。
    とはいっても、溜めに時間がかかりすぎて実戦では殆ど使えないが…

    因みに「雲耀」とは、東郷重位の創始した示現流において、
    「刻(二時間)を八十四に割りて、その一つを分とす。
     この分をたとうれば、脈一息にあたる。
     分を八つに割りて、その一つを秒とす。
     秒を十に割りて、その一つを糸(し)とす。
     糸を十に割りて、その一つを忽(こつ)とす。
     忽を十に割りて、その一つを毛(こう)とす。
     毛を十に割りて、その一つを厘(りん)とす。
     厘きわまりて、雲耀なり。」

    具体的には、鋭い刃先の錐(キリ)でもって、習字の半紙を突き通す速さのことをいう。
    錐は半紙に触れた瞬間に反対側へ貫いているはずなので、その速さは目にも留まらぬ速さとなる。
    参考文献”戸部新十郎氏著「兵法秘伝考」”

    示現流が居合いの流派ではない事やこの世界において示現流というものが存在しているのかは兎も角、
    神速を超える居合いの一つの形として命はその技を捉えていた…

    完成形には程遠い技だが威力の程は並ではない…増幅された気(エーテル)と魔力の相乗効果により、500m先までその威力を届かせることが出来る。
    しかも、鉄板などを紙の様に引き裂きながらである。
    もっとも、彼女としても使ってその後は暫く動けなくなってしまうが…

    「命やったぁ♪」
    「は…はは…でも、暫く動けそうに無いわ…ごめん、もう少し魔方陣維持しててくれる?」
    「うん、こっちは大丈夫!」

    それを聞いた命はその場に座り込んだ。
    セリスは心配そうに命を見ている…
    二人はその場で動くことなく、回復を図っていた…

    しかし、急ブレーキと共に列車は速度を落とす…
    列車がゆれ、命が振り落とされそうになる。
    命が落ちないように抱え込むセリスには走り来る物音を聞きとる術はなかった…
引用返信/返信 削除キー/

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