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紫の花は春風に舞う 序章
作者:桜姫   2009/01/02(金) 01:14公開   ID:y.C3ECh3cdE
 千年も昔。天は世界を創造した。まだ一つの国であった、この世界は時の王によって国を荒され、人々の心は荒みはじめた。人々は絶え間なく争い合い、尊い命を失っていった。その様子をみた天は、この世をリセットすべく世界を破壊しようと考えた。そんな中、一人の舞姫が人々の前に立ち、呼びかけた。誰もが望むのは平和を誰が手に入れようか。争いを起こすのは人ならば、平和を取り戻せるのも、また人であると。舞姫は人々をまとめあげ、私利私欲に奔った王を討ち取り、天に許しを乞うた。天は舞姫の願いを聞き届け、一つであった国を四つに分け、北の冬寛国には玄武を、南の夏瓊国かけいこくには朱雀を、東の春蘭国しゅんらんこくには青龍を、西の秋砂国には白虎を守護神とし、世界を守らせた。舞姫は祈りの舞を舞い続け、いつしか戦と舞の女神、翠蘭姫として人々から敬愛されるようになった。
それぞれの国には王が存在し、王族は翠蘭姫の子孫であると言われるようになった。

 南の国、夏瓊国かけいこく。現在、国王には藍結季ゆきが君臨している。七年前、藍結季ゆきの父、奏王は弟・晋貞しんてい公子、のちの朔王によって命を奪われた。朔王は奏王から玉座を奪うと、当時の王太子であった結季ゆきとその妹を王宮から追放し、その他の一族についても立てつくものは全て追放した。朔王は、戦を好み、隣国への浸出も謀ろうと、民に重税をかけ、法によって民を縛り上げた。一部の貴族たちに特権を与え、更に民を苦しめはじめた。そんな中、朔王の王位継承に疑問を持ち、王太子こそが王位につくべきであると考えた貴族たちは追放された王太子と公主をかばい、奪還の機会をうかがった。そして、ついにその二年後。歴史上に残る王位争いが起った。王太子派の軍は貴族だけでなく、民も多く混じっていた。軍をまとめ、指揮監督を行ったのは、王太子、結季ゆきの妹である。称号を梨雪りせつ公主、名を藍彩貴さいきである。当時十三の公主はその人望と才でみごとに勝利を勝ち取り、兄を王位につかせた。この歴史に残る王位争いで、彩貴さいき夏瓊国かけいこくの翠蘭姫として各国にその名を知れ渡すことになった。のち、公主でありながら、王の補佐としてのその敏腕を振るう日々を送っていた。

彩貴さいき、十八の春、南の国である夏瓊国かけいこくはどの国よりも先に桜が咲き誇っていた。
王宮に一室、彩貴さいきは山積みにされた書類と戦っていた。

「処理しても処理しても一行に減った気がしない!私へのいじめか、これは!」

「王位争いから、まだ四年。いくら国が落ち着いていても朔王派が消えたわけじゃなし、暴れまくるにきまっているだろう?麗しい我らが、紫の百合姫がそんなぷりぷり怒っていると、国民が泣くぞ。それに肌に悪いぞ、彩貴さいき

輝く金の髪、深い海のような瞳。絶世の美女と誰もが感嘆をつくような容姿をもった美人は書類を整理しながら彩貴さいきの怒りを静めにかかった。紫の瞳は先ほどより険しい目つきで、金髪碧眼の相手に目を向けた。

「お前に麗しいなんていわれると、ただの嫌味だ」

「こんな絶世の美女が麗しいって言っているのだから、嬉しい、この上ないだろう?」

胸まである金髪をわざとらしく流すと、彩貴さいきは、小さくあほか、と呟いた。

「じゃあ、私の妃にでもなってみるかい、瑠為るい?」

突然、違う声が聞こえ、埋もれた書類の間から覗くと、そこには夏瓊国かけいこくの禁色である朱色の衣をまとった男が立っていた。彩貴さいきと同じ紫の瞳をもち、柔らかな雰囲気をまとったこの人は藍結季ゆきである。
王の姿をみた金髪碧眼の美人、瑠為るいは一礼し、楽しそうに答えた。

彩貴さいき様のお許しがいただけるなら、喜んで。主上」

「だ、そうだけど、どうかな、彩貴さいき?」

「いやですよ、義姉が男なんて」

この絶世の美女、いや美男はれきっとした男である。名は李瑠為るい

「許しがもらえないようなので、遠慮しておきますね、主上」

「あほなこと言って・・・兄上。あまりお一人でふらふらと出歩かないでくださいと、何度も言っているでしょう。護衛官はどうしたのです」

 武官らしき気配は感じられないので、またもや一人で出歩いてきたらしい兄王に毎度のことのようにしかりつけた。

「この間も狙われたばかりでしょう。少しは妹の気持ちにもなってください!」

「わざわざ妹に会いに行くのに護衛官なんて連れて行くなんて大げさだよ、彩貴さいき。それに、あまり人に聞かれたくないことを話しに来たからね」

適当に座るところをみつけ腰を下ろすと、どこからか侍女たちがお茶を用意しはじめた。

「では、私も席をはずしたほうがよろしいでしょうか?」

「いや、瑠為るいはここにいてくれ。・・・お茶はそのままでよい。下がれ」

侍女たちを下がらせると、彩貴さいきが代わりにお茶をそそぎはじめた。仮にも高貴な身分である彩貴さいきがお茶を入れることは、普通はない光景なのかもしれないが、現在の夏瓊国かけいこくの国王及び公主は先の正妃、珀后、彼らの母親によって庶民的知識も頭にたたきこまれていた。

「お話とはなんです?」

「うん。彩貴さいきの縁談話・・・かな」

 縁談、という言葉を聞いて憂鬱な顔を見せた妹に兄も申し訳ない顔で答える。

「君は軍師としても、文官としてもこの上なく有能な妹だよ。手放したくもない。けれど、彩貴さいきが放棄するといっても、君の王位継承権が消えたわけじゃない。私に万が一のことがあったとき、次に王位に就くことになる。降嫁かどこかに嫁がない限り」

「このまま、放置しておけば、朔王派の誰かが私を無理やり妻として王位を狙う可能性は十分ある、と判断したわけですね」

 夏瓊国かけいこくだけでなく、どの国にも女であっても王位を継ぐことが出来る。男女の差別はさほどは見られないことが多い。女性官吏も存在する。女性武官はまだいない、ある意味で彩貴さいきを除いては。

「承知しています。避けられないことですし、重臣達がそう判断するのは正しいと思います。個人的にはすごく嫌ですけれど」

「相手は君が選ぶといいよ。我が妹は人気者だから、候補者は溢れるほどいるよ!こちらの都合で朔王派と思われる貴族たちからの縁談は全て断らせてもらっているけれど。後で、候補者名簿を届けさせるよ。目を通すといい。期限は初夏まで」

瑠為るい彩貴さいきに気づかれない程度に結季ゆきを一瞬、見ると、いつものような笑顔で話し変えた。

「それで、なぜ俺を下がらせなかったのですか?他に何かあるのでは?」

「あぁ。彩貴さいき瑠為るい。ちょっと春蘭国しゅんらんこくまでおつかいにいってきてほしい」

春蘭国しゅんらんこくですね、どこにでも・・・は?」

思わずお茶をこぼしてしまい、慌てて手ぬぐいでふきとった。

「兄上、いくらなんでも私が国外にでるのはかなり面倒なことになると思うのですが・・」

「もちろん、公式に行ってもらうわけじゃないよ。花嫁修業という名目で碧明へきめい叔父上のところに滞在していることにする」

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