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紫の花は春風に舞う 序章-2
作者:桜姫   2009/01/02(金) 01:59公開   ID:y.C3ECh3cdE
碧明様までグルなのか・・・瑠為は呆れながら彩貴の茶器にお茶をすすいでやる。
奏王には、二人の弟がいた。第二公子だった朔王、第三公子、紗碧親王・藍碧明。東に位置する蝶州候しゅうこうを務めている蝶家の娘と結婚し、そこで州候しゅうこうとして国を支えていた。朔王の反逆の際に結季派筆頭として結季と彩貴をかばい続け、追放されたときは二人を屋敷に迎え入れてくれた人物。

「あの、なぜいきなり春蘭国なのですか?」

「王位争いとかで、ばたばたしていたから母上の遺品の一つを珀家にまだ返していなかったから。彩貴に返してきてほしい。・・・彩貴。君は六年前からずっと私のために尽くしてくれた。もっと早く解放してあげたかったのだけど、私には君がどうしても必要だった」

結季は彩貴の頬を優しく触れた。

「でも、そろそろ妹離れしないとね。最初で最後の旅行だ、私からの今までの褒美と受け取ってほしい。瑠為には彩貴が嫁いでも側にいるだろうし、さすがに彩貴だけを春蘭国に行かせるわけにはいかないからね。護衛を頼む」

「護衛が必要なのかはかなり疑問ではありますが・・・・」
ちらりと彩貴を見る。自分でも互角なのではないかと思うほどの剣の腕前を持つこの公主様に果たして護衛の必要があるのか。

「命をかけてお守りいたしましょう」

瑠為の答えを聞いて満足した結季は、立ち上がった。

「彩貴もいいね?」

「・・・せっかくの褒美ですからね。慎んでお受けいたします。・・・・ありがとう、兄上」

優しい微笑みを受け、彩貴も微笑み返した。

「瑠為、兄上をお送りしてくれ」

二人が部屋を出る様子を見送り、書類の処理に再び始めた。

「春蘭国か・・・」

「主上、何を考えているのですか?」

瑠為はさきほどから聞きたかった疑問を投げかけた。

「いきなり春蘭国へいってらっしゃいとは、何か企んでいるとしか思えません」

「ひどいなぁ。・・・まだごく一部の人間しか知らない話なのだけど・・・やはり瑠為には話しておくかな。彩貴には言わないでくれ。・・・かけて」

 結季が普段、執務を行っている部屋は質素な造りだ。適当に腰をかけ、話の続きを待った。

「先日、春蘭国から勅使が来たのは知っているね?」

「えぇ。主上の即位から五年が経ったことについてお祝いの言葉を春蘭国王からいただいたと思いますが」

「それのついでにね、少しだけ話が出たんだ。梨雪公主を春蘭国王太子妃に迎えたい、とね」

普通に聞く分には驚くような話ではない。公主が他国に嫁ぐことなどよく聞く話ではある。しかし、ここ数十年、夏瓊国の公主はみな国内で降嫁していた。彩貴もその一人になると思われていた。

「それなら、必然的に候補者は春蘭国王太子になって、彩貴が選ぶ余地などないのでは?」

どう考えても、国内の貴族と他国の王族では、身分相応を考えると王族に決まっている。春蘭国が公式に申し込んでくれば、何か特別な理由がない限りは断る理由もないだろう。

「それがね、肝心の王太子が決まっていないというおかしな状態なんだよ。春蘭国には今、公子が二名、公主が一名いる。彩貴を后にというからには、二人の公子のどちらかが王太子になるみたいだが、何か理由があるのか、未だに現王は王太子を指名していないらしい。だから、春蘭国王太子妃になるかはかなり微妙なところだ」

王太子が決まっていないなど、聞いたことがない。子がいないならまだしも。

「確かに、いつ決まるかわからないところを正式な嫁ぎ先にするわけにはいきませんね。重臣達が決めた期限は初夏まで。だから先に候補者名簿を見せるわけですね、そこにおかれたのがそうですね?」

机に置かれていた名簿を指した。結季は静かにうなずき、持って行くように促した。

「春蘭国に行かせるのは、本当にただの褒美程度の考えだよ。ただ、春蘭国に嫁ぐことだって十分にありえる。こちらに話を少しでも持ち出したからには、指名も近いはずだ。自分が嫁ぐかもしれない国の様子を見るのも悪くないと思ってね」

 妹に甘いと有名な王。妹がしっかりしており、身分に奢らない性格であったからよかったのだと、噂するものもいる。けれど、瑠為はなぜここまで妹に目をかけるのかをよく知っている。
彼女は頑張りすぎた。兄のために、国のために。たった十三で彼女は国を背負う王族の一人として重荷を背負い始めた。きっと後悔などしていないだろう。

「承知いたしました。公主の身の安全は命をかえてもお守りいたします」

「瑠為も怪我をせぬように」

「それは、命令でしょうか?」

「命令だ。その絶世の美しさをそこなわれては、官吏たちから何を言われるかわからないからね」

ひときしり笑うと、瑠為は名簿を受け取り、一礼した。


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