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The gangar of darkness 5/5:そして繰り返す日々
作者:trs   2009/04/23(木) 19:43公開   ID:eIdUu0NhGms
 ナデシコC先行試作艦ユーチャリス。紡錘形で、ナデシコシリーズとは大きく形状が異なるワンマン・オペレーションシップである。
 そんな白亜の戦艦には二人の男と一人の少女がいた。
 男の名はもう魂の名と断らなくて済むようになったダイゴウジ・ガイと闇の皇子ことテンカワ・アキト、そして薄桃髪の妖精ラピス・ラズリである。

 感動の再会?から二週間後、アキトはユーチャリスに乗り、ガイとラピスと共に闇の記憶巡り名勝旧跡ぶらり3人旅をしていた。

 「えーっと、あちらに見えますのはターミナル・コロニーアマテラス跡、たこ親父と男女が喧嘩して、爆弾で壊されちゃったところです」

 ラピスがバスの搭乗員よろしく旗をふりふり振りつつ、レーザー砲でアマテラス跡を照らし出した。

 『兵共が夢の跡、か』

 ガイとアキトは分かったように腕を組んで、うんうん頷いた。レーザーでコロニー跡が破壊され、デブリが増えようが知ったことではない。

 「アキトはここにいたんだよ。ワタシがゲートをハッキングしたの」

 薄い胸を張って鼻高々のラピスを、アキトは優しく撫でた。桃色の髪の上にちょこんとのっているスチュワーデス用の帽子を、掛けなおしてやる。
 ラピスは今日も上機嫌である。小さな体でぴょこぴょこと、狭い艦橋と動き回る。今15歳のはずなのだが、栄養状態が悪かった上に回りにまともな大人が居なかったせいで同年代と比べて一回り小さく、精神年齢も幼い。

 「じゃ、次ね。イネス〜、火星極冠遺跡までジャンプして」

 コミュニケを繋いだ先は、格納庫である。ここにはダークネスガンガーが安置してあるのだが、ついでにイネス様の研究室もある。イネスはユーチャリスのボソン・ジャンプ用にたまに乗艦していた。
 しかし、戦艦一隻飛ばすのは歳のせい・・・じゃなくて、身体的に辛いので、帰り道など通常航行のときは研究室でMADなことをしていることが多かった。
 コタツにコーヒーを置き、みかんを剥いて食べていたイネスは、ラピスの通信にため息をついた。幸せはもう逃げるほど残っていない。

 「戦艦飛ばすの疲れるの。通常航行で行ってくれないかしら」
 「そうだぞ、ラピス。ドクターは歳なんだ。労わってやれ」

 ガイが不必要なフォローをする。瞬間青い光が煌めき、熱湯入りポットが飛んできた。
 熱湯は正確にガイに降り注ぎ、人誅はなった。

 「イネス、ここに飛ばすんじゃなくて、極冠遺跡・・・・」

 ラピスは結構的外れなことをいっている。だがとりあえず感情を出して拗ねる様が可愛らしかったので、アキトはよしよしとラピスを撫でた。ラピスはくすぐったそうに目を閉じている。

 「よし、じゃあ俺が飛ばそう。ダッシュ、用意はいいか?」
 『ジャンプ・フィールド形成』『ディストーションフィールド出力安定』『イメージ伝達率良好』『いつでもOK!』『れっつごー♪』

 アキトの言葉にユーチャリスAIオモイカネ・ダッシュが応える。アキトは幽かに微笑むと、精神を集中させた。

 「ジャンプ」



 火星極冠遺跡。トカゲ戦争がある意味終結し、火星の後継者事件もここで集結した、終わりの地である。雪と氷で閉ざされた荘厳な世界に、アキトは息を呑んだ。
 ここに遺跡はあった。自分は遺跡と同化されながら、ここで戦いの夢を見ていた。この旅は、夢と現実をすり合わせる作業だ。
 ガイが本当に見たものはなんだったのか、ラピスが本当に感じたことはなんだったのか。 
 復讐の夢をみた自分は、彼らの「ホントウ」を知るべきだと思う。彼らは復讐のために戦っていたのではない、救い出すために戦っていたのだから。

 「綺麗だね」

 今年16になるというのに、どこまでも子供のような少女は小さく呟いた。
 初めて出会ったとき、ラピスは恐怖しか感じていなかった。それが今、自分の隣で微笑んでいる。それがアキトには嬉しかった。

 いくつも戦いを経て、この娘はどれだけ傷ついたのだろうか。ラピスと再会して、アキトは先ずそう考えた。彼女にも謝罪をしなければならない、そう思った矢先、ラピスはアキトにしがみ付いて、泣いた。
 よかった、また会えてよかった、無事でよかった、と。
 アキトは申し訳ないような、こそばゆいような、複雑な気分でラピスの髪を撫でた。さらさらと艶やかな髪は、雪を思わせた。

「あそこで――」

 ガイは、遺跡に近い平原を指差した。ところどころ雪がなくなっている。

 「夜天光と一騎打ちをした」

 夜天光、北辰が乗った機体。アキトはそれに対してそうか、と呟いた。アキトの左目は北辰に抉られた。北辰としては戯れだったのだろうが、それがアキトに与えた影響は大きかった。
 直接体の一部を奪われるということは、恐怖のイメージと共に深層心理に強く刷り込まれ、復讐と憎悪の感情をアキトに刻みつけたのだろう。
 それがアキトを北辰への復讐に駆り立てた原因の一つだとは、想像に難くない。

 アキトたちは、雪の大地を見ていた。静かである。
雪は音を吸収する性質がある、だから雪の日は静かなんだよ、と誰かに聞いた言葉が思い出された。説明好きのおばさんかもしれない。だからといってコタツをつついてイネスを出すマネをする気はさらさらなかった。

 「ラピスの髪は、雪みたいだったな」
 「冷たいの?」

 アキトの言葉に、ラピスは不思議そうに聞き返した。ガイはアキトの隣で微笑んでいた。濃い男なのだが、小さな笑みはそれはそれで、この男には何故だか似合った。

 よく、分からない。ラピスは自分の髪を撫でてみた。腰まである薄桃色の髪は、冷たいなんてことはない。

 火星極冠遺跡周辺は、いつも寒くて冷たいのだろう。だが、地球はもうすぐ春になる。 
 さらさら流れるラピスの髪は、桜の花びらを思わせた。桜の花言葉の一つは「純潔」、ラピス・ラズリという少女にぴったりだと思う。

 「いや、暖かい。春のにおいがする」

 ラピスは首をかしげた。アキトは優しく春の少女を撫でた。




 ホシノ・ルリは焦っていた。危険なにおいがするのだ。

 (まずい、非常にまずいです)

 ルリは遺跡からアキトを切り離したときに、不幸な?事故によって卒倒してしまっていた。ショッキングな映像が流れたため、仕方ないのだ。もう一度じっくり見たいくらいにはショッキングだった。
 ちなみに彼女にショッキングな映像を流したものは、現在行方不明である。

 そして、まずいものはそれであった。

 気がついてみると、そこにアキトはいなかった。なんとユーチャリスに乗って行ってしまったというのだ。どこに行ったのかルリは聞いたが、それに応えられる者は誰もいなかった。
 とりあえず、落ち目の会長さんに聞くことにした。
 結果、落ち目は知らなかった。体にきいたので間違いない。ただ、リハビリをしつつぶらり旅をしているらしい。たまに通信が届くが、ボソン・ジャンプで適当に移動しているので場所を特定することはできないという。

 ルリが卒倒したあと、アキトとガイは友情を確かめ合い、呆然とするナデシコクルーの前でぐずっていた少女と抱擁、そのままユーチャリスに消えたのだという。全くもって意味がわからない。

 それで何がまずいのかというと。

 (このままでは漢同士の友情に突っ走る可能性がっ、もしくはロリコンに走る可能性がっ!)

 ルリの脳内劇場では、ガイとアキトが褌一丁で抱き合うガチムチパンツレスリング的放送禁止直前の映像が流れていたり、アキトが全裸の上に黒いロングコートのようなマントをご開帳しつつ涎を垂らしながら怯える少女に迫っていたりする。

 非常にまずい事態であった。

 特に前者はまずいと思う。いやいや、後者も十分まずい。自分も幼いといわれることがあるが、話に聞いた少女とは比ぶるべくもない。
趣味は固定されてしまったら、変更は至極困難である。
ルリはぎゅっと石のないペンダントを握り締めた。あの人の趣味を、矯正しなきゃいけない。そのためには、まず拉致☆監禁。

 (媚薬も必要でしょうか・・・・・)

 ルリは、今は亡きイネス・フレサンジュを思い黄昏ていた。
 卒倒したため存在を認識されなかったイネス・フレサンジュは未だ死んだことにされていた。










 ユリカは、影が薄かった。

 「ひどっ出番これだけ!?」










 「ガイ、なぜユリカだったんだろう」
 「・・・夢の中求めたものが、か?」
 「ああ」

 白亜の戦艦の中、アキトは隣に佇む親友に尋ねた。
 不思議でならない。アキトは確かにミスマル・ユリカを嫌ってはいない。どちらかというと好きである。だが、全てを投げ打ってでも救い出す対象とも思えなかった。

 「俺も不思議に思ってドクターに聞いたことがある。ドクターは暫く難しい顔をしていたが、推論を懇切丁寧に説明してくれたよ。ドクター曰く―――」

 ガイはそこで一旦言葉を切った。数瞬と惑うように視線を泳がせ―――続けた。

 「―――テンカワ・アキトはミスマル・ユリカに家族を見ていたんだそうだ」
 「・・・どういうことだ?」
 「幼少期における両親からの愛情は子供の精神上大きな意義を持つが、テンカワ・アキトは幼少期から十分な愛情を与えられてこなかった。だからテンカワ・アキトは愛されることに飢えていた。それゆえに他者を傷つけないように誰にも優しく、優柔不断になった可能性が高い。
 木連の無人兵器による殲滅戦の影響で深い孤独感と恐怖を与えられたアキトは庇護者を求めていた。絶対的な愛情を与えてくれる親・・・のようなものだ。
 そこへ現れたのが火星時代の幼馴染のミスマル・ユリカ・・・ミスマル・ユリカはテンカワ・アキトに盲目的な愛情を与えた。それが妄想や幻想であっても、愛情に飢えていたテンカワ・アキトはそれを心から享受した。テンカワ・アキトはミスマル・ユリカに母親を見た。それゆえの反発もあったのではないか?
 実際、ミスマル・ユリカのアキトに対する愛情は自己に対する愛情に近いらしい。母親は子を自己の分身として無条件に愛する。自己が自己を愛することは当然で、だから「アキトはあたしが好き」という言葉はよく口にしたが「あたしはアキトが好き」とは言わなかったのではないかとのことだ。
 邪険にされても構ってくるのが母親というものだ、ともドクターは言っていたな。
 テンカワ・アキトは拉致されたあの時、自己の庇護者を思い返した。その上で転移が起こった。つまり―――絶対的な保護者であるはずのユリカが自分を危険に合わせて何もしないでいるはずがない。自分がミスマル・ユリカの立ち位置ならば、必ず助ける。ならば、拉致されたのはミスマル・ユリカで、我が身を犠牲にして自分を助けたのだ、と。その直前にアキトは俺を助けている。それが連想を助けたのだろう。
 アキトのミスマル・ユリカに対する愛情はエディプス・コンプレックスの形態もあるが、アキトの家族に対する憧憬から来るものだということだ。
 ・・・・・・男親がいないことによる罪悪感の不発生により、自己をあるべき父親に転移することも可能だとかなんともかもいわれたが。
 その辺りを端折れば、ユリカと同じく自分もまた家族が拉致されて安穏としていることなどできない、助け出さなければならない。元に戻さねばならない。そういう心的作用があったのではないか、とドクターは語っている。
 それに加え、無人兵器の殲滅戦の影響でアキトはさらに失うことを極度に恐れていた。それには俺の死・・・も影響していたらしい。生きていることを伝えられればよかったのだが・・・それゆえにもう失いたくはない、守りたい、と願ったその心が夢として表れたのではないか・・・掻い摘んで言うとこういうことになるらしい。
 まぁ、あくまで推論にすぎないわけだが」

 ガイはちょっと俯いた。

 「すまない、他人の人生など見るものではないな。人の心に土足で上がりこむような真似をした」
 「いや、構わない。教えてくれて、ありがとう」

 ガイは、いくつか隠し事をしていた。アキトには本物の憎悪があったのではないか、ということを。誰かに愛されたいから、守りたいから表に出てこなかった感情があったのではないか、ということを。
 それが闇の皇子を生み出したのだろう、ということを。
 ユリカを救い出すだけならば、他にも方法があったはずだ。だがアキトは「復讐」をしていたのだから。

 だが、ガイはこうも思う。テンカワ・アキトはもう大丈夫だろう、と。もうThe prince of darknessは復讐を為すことはない、と。 

 「ところで、その説め・・・推論にはどれだけ時間がかかったんだ?」
 「ああ・・・4時間ほどは経っていたな・・・あれ、どうして涙が・・・」

 ガイの科白には哀愁が漂っていた。
 アキトは危うくもらい泣きしそうになった。

  
 別れが近かった。アキトは黒の騎士の軌跡を辿り、自分へと行き着いた。彼らの戦い、彼の思い、それを知った。だからもう大丈夫。
 The prince of darknessは、復讐鬼じゃない。アキトは痛みを知った。想いで人は救えないと知った。アキトは何時までも子供ままではいられなかった。
 でも、仲間がいる。支えてくれる人がいる。夢がある、希望がある。

 「ありがとう、ガイ、ラピス」

 その礼は、心から。彼らが救い出してくれなかったのなら、アキトの心は壊れていた。復讐の夢を彷徨い、本当の復讐鬼になってしまったかもしれない。
 勿論、今まで通りとはいえない。確かにアキトは変わった。だけどこれはモラトリアムの終わりだと思える。

 「お前に渡しておきたいものがある」

 ガイはそういうと、アキトの手に青い宝石を落とした。チューリップクリスタルだ。

 「今度こそ、お前の身を護れるように」

 アキトは薄く笑った。二年間の凍結を経た顔は、目が尖りいい言い方をすれば凛々しく、悪い言い方をすれば人相が悪くなっていた。

 「また、逢おう」
 「ああ、そのときまで、サヨナラだ」
 「またね、アキト」

 振り返らず、ガイとラピスはユーチャリスで行く。アキトは白亜の戦艦が見えなくなっても空を見ていた。

 そして振り向くと・・・

 「ルリちゃん・・・?その手錠は・・・?」



 ガイは恐らく、アキトがCCを使ってボソン・ジャンプをする原因を予期しなかったに違いない。保険というか、自分が使わせた分を返したに過ぎない。
 だが、ほんの30分後にはアキトはユーチャリスに戻っていた。ガイは不審に思い、ラピスは喜び艦橋を駆け回り、イネスはコタツで丸くなった。アキトはユーチャリスのブリッジの隅でがたがた震えながら丸くなった。

 そのころ地上では手錠を持ったルリが雄大なる蒼穹をこれでもかと見上げながら白亜の戦艦を探していた。

「帰ってこなかったら追っかけるまでです。だってあの人は・・・
 大切な人だからあぁッ!!!」





そしてランダムジャンプに続く(嘘

5/5 A happy end


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■作者からのメッセージ

名台詞をどう使おうか考えていたらいつの間にかルリが壊れてしまいました。
ッを入れるだけでもうだめですね、すいません。

これで5/5まで全部終わりです、続きません。続いたら恐怖で逃げるアキトに猟奇的に迫るストーカーの話になってしまいますので。


最後に、私の拙いssを読んでくれた方に万感の感謝を。

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