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蒼穹の月 歯車は回りだした
作者:つばさ   2009/06/21(日) 20:55公開   ID:y.C3ECh3cdE
 伝説の戦いから何百年とたち、その間に何人ものアティアの宝石が生まれ、それなりに平和な人生を歩んできた。

 しかし、歯車は狂い始めた。

 クラメラス一族のほとんどが何者かによって殺害される事件が起こった。誰もが驚き、そして不安を感じた。悪名高き神、ヒースはこの地に封印されている。アティアの宝石はいわば、彼が目覚めたときの守り刀とされてきた。その守り刀の一族が殺されたことで、現在はアティアの宝石が存在するのかさえわからなくなった。

 あの戦いからすでに五百年以上の歳月が流れ、クラメラスの悲劇から二十年が経過した、世界暦五七五。レンディル・シルバーはキャンベラ王国王子ユディスとサラ王妃に呼ばれ、普段は使われない部屋にいた。王妃は小声で話した。

「城下にあるムーンリットという店でこの手紙をフィンレイという人に渡してもらいたいの」

王妃は一通の手紙をレンに預けた。手紙には王妃の紋章が蝋印されている。

「必ずフィンレイに渡してほしいの。誰にも絶対に見せないでちょうだい。・・おそらく、あなたを襲うものが数名いるかもしれない。なんとしても生きて、手紙を死守して」

「これは極秘のものだから、レンに護衛を付けることも出来ない。目立たせたくないから・・絶対につかまらないで」

真剣な二人の前にレンはただ、うなずくしかなかった。レンは、ユディスの側近である。

主従関係にあるものの、幼いころから一緒に育ったために、兄弟のように親しくしており、また王妃を母のように慕った。

「あなたに危険を冒してほしくはない。けれど、あなたしか頼る人がいない。・・大丈夫?」

心配性の王妃を安心させるために、レンはいつもの屈託のない笑顔を見せた。

「体力には自信があるよ。逃げ足にもね。知っているでしょう?」

レンは手紙を大事に懐にいれ、失くさないようにした。

「大丈夫!・・・ちゃんと五体満足に戻ってくるから、そんなに心配しなくても!」

「絶対だよ?」

ユディスはこぶしを前に差し出し、レンもこぶしを前に出し、ぶつけた。

「絶対だ。ところで、フィンレイってどんな人?」

「私も手紙でしか名前は知らないの。けれど、「闇にとける漆黒の髪」と言って、

「輝く氷青色の瞳の娘に祝福を」と答えたら、それがフィンレイよ」

「闇にとける漆黒の髪、輝く氷青色の瞳の娘に祝福を、ね。アティアの宝石か。・・・重要なんだろ?」

ユディスはそうだと頷いた。

「じゃあ、行って来るよ。また、後で」

レンは手を振ると、静かに扉を開け、誰もいない廊下を走った。
後ろ姿を見送る王妃の顔には、不安が隠しきれていない。

「これは、妃殿下、殿下」

サラの顔から一切の不安が消え、毅然と相手へ向いた。義理の息子ということになるのだろうが、サラは嫌悪感を隠さなかった。

「ごきげんよう、セレストーン公爵ドレイク殿」

「セレストーン公と呼んでいただきたいですな。大公の身分を名乗っておりますので」

「わたくしが認めている公は三公家のみです。キエラ様は降嫁なさったことになっているのですから、あなたの爵位は変わらないはずです」

亡くなった前王妃と現王との間に生まれた王女はサラといくつも変わらない。キエラは数年前にセレストーン公爵を継いだドレイクのもとに降嫁している。しかし、キエラは自らのことを公爵夫人と呼ばせず、公妃と呼ばせているようだが、正式ではないことに変わりない。サラは、これ以上話すことはないとユディスをつれて部屋へと戻る道へ歩き出した。

「・・・いつも連れている側近はどうしたのです」

「あなたに関係ないことです。それでは」

ドレイクが見えなくなると、再び母の顔に不安の色が戻ってくる。

「大丈夫ですよ、母上。彼らが守ってくださいます」

「わかっているわ。・・・私たちは、私たちの務めを果たしましょう」


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