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存在の意味 プロローグ
作者:29音   2009/07/24(金) 01:42公開   ID:BvRgU7LGBRw



僕は漂っていた。
ただユラユラ、ユラユラ・・・と。
行く宛も無く、目的も無く。
ただユラユラ、ユラユラ・・・と。

そして辿り着いた。
何処とも分からない、ただ『光る場所』へと。
ただ、分かったんだ。
思ったんだ。

ああ、ここが目的地なんだって。





どのくらいこの場所にいたんだろう。
どのくらいの時間が経ったんだろう。
それすらもよく分からない。
ただ、ただ、僕はぼーっと光を眺めていた。
いや、光の中で佇んでいた。
そうしたら突然声が聞こえてきたんだ。

『汝は何を望むか?』

そんな事を急に言われても分からないさ。
だって、ここが何処だかも分からないんだもの。
僕が誰だかも分からないんだもの。
僕は誰なの?
ここは何処なの?
何故僕はここに居るの?
どうして?

再び声が聞こえる。

『汝は何を望むのか?』

だから分かんないよ!
なんでそんな事言うのさ!!

僕は叫んでいた。
何故叫んでいるのか、何を叫んでいるのか、それすらも分からない。

ねえ、教えてよ。
ここは何処なの?

『此処は全ての終わりであり始まりである所』

終わり? 始まり? 
意味が分からない。

『汝は何を望むか?』

訳が分からない。
何を言っているかも分からない。
いや、分からなくてもいいのかも知れない。
別に望む事なんて無いのだから。

『汝は何を望むのか?』

声は繰り返す。
ただ同じ言葉を繰り返す。
何故かそれが無性に悲しくて、切なくて。
でも、答えられない自分が悔しくて。

ねえ、僕はどうなってるの?
どうすればいいの?

『汝は今終わりと始まりの狭間に立っている』

終わりと始まり?
また同じ言葉の繰り返しだ。
狭間って何なのさ!

『汝は生きたいか?』

生きる?
じゃあ、僕は死んでいるの?

『汝は生きたいか?』

生きる?
生きるってなんだろう。
死ぬってなんだろう。

『汝は生きたいか?』

繰り返す。
よく分からない。
今僕が何を考えているかも分からなくなってきた。
でも・・・答えなくちゃいけない気がする。
何でかそうしなくちゃいけない気がした。

『汝は生きたいか?』

うん。
そうだね。
死ぬよりは生きるほうがいい。
その方が良いに決まってる。

うん。
生きたい。
・・・僕は生きていたい。

『ここに契約は果たされた』

光が溢れる。
僕の『存在』が消えていく。
意識が無くなっていく。
何処か遠くで声が聞こえた。

『汝が望むカタチに』
『汝が望むセカイに』

僕はその光に包まれ僕は意識を失った。



プロローグ



気が付いたら俺はベッドで寝ていた。
真っ白なシーツ。真っ白な壁。何だが嗅ぎ慣れてない臭い匂い。
何の匂いだ・・・薬か?
って事は、此処は病院って事だろう。

大きなガラスがはめ込まれている窓からは暖かな日差しが差し込んでいる。
俺はゆっくりと身体を起こした。
鈍痛のする頭を振りつつ、ゆっくりと室内を観察する。
8畳位ある個室。キングサイズのベッド。備え付けの液晶テレビに折りたたみのテーブル。壁には姿見の鏡がある。
他にも本当に此処は病室かという位の調度品が飾られていた。
まるで映画でしか見た事の無いような、どこぞのVIPが泊まるような病室のようだ。

「・・・何処だよ・・・ココ」

つい口から言葉が漏れる。
見知った病院ではない。
こんな綺麗でこんな豪華な個室がある病院なんぞ俺の記憶にはない。
到底俺みたいな一般人が泊まれるような部屋じゃない。
まず真っ先に頭に浮かんだのは━━

(お、俺が払うんだよな入院費・・・)

憂鬱だ。限りなく憂鬱だ。
いったい治療費含め幾らになるんだよ!
俺の財務省には貯蓄なんて言葉自体無いんだぞ。

(いったい何したんだよ俺? どういう状況なんだよコレ)

未だに頭がボーっとしているみたいだが、この現実の前ではそんなのは些細な事だった。

(と、とにかく落ち着け!)

ゆっくりと深呼吸をする。それを何度も何度も繰り返す。
よし、落ち着いた。落ち着いたところで、もう一度現状を思い出してみよう。
豪華な病室。そこに寝ていた俺。つまり入院してたって事だ。
当然「タダ」な訳ではないから費用が発生する。
高額医療費って補助金が出たはずだ。
確か一括で払えない場合、分割払いも可能だったと思う。
分割とはいえ料金が発生する事は確実・・・。
で俺の導き出した結論は━━考えたくも無いが借金をしなければいけないって事だった。

暖かな心地よい風を感じる。窓に見える緑の葉が優しくそよいでいる。
その少し開かれた窓からは、遠くでチチチチッと鳴く鳥の鳴き声が聞こえていた。

(暖かな日差し、蝉の声が聞こえないって事は・・・春かな?)

などと他愛の無いことを考えてしまう。
これを別名「現実逃避」という。

と━━

ガラッとスライド式の扉が開いた。

「あ、起きたかネ」

声に反応して俺は視線を向け━━驚愕した。
そしてこの現実が実は夢だったのだと理解した。
何故かと言うとそこにあったのは見知った顔だったのだから。
いや違う。見知ったというのは誤解だろう。なにせ彼女は二次元の存在だ。
団子状に纏めた髪の毛にチャイナ服を着た中国人であろう女性。
雑誌で見た事のある「ネギま」に出ていたキャラクターの一人━━超鈴音。
俺は愕然とし口をアボーンと開けてしまう。
俺を見て彼女━━超鈴音が不思議そうに頭を傾げる。
お団子から伸びていた三つ編みが揺れる。

「何を驚いてるネ? お化けを見たって顔してるヨ」

俺はただアウアウと口の開け閉めを繰り返すだけだった。
が、次いで何故か笑いが込上げてきた。

「あ・・・あはっ・・・あはははっ・・・あはははははははははっっ・・・・・・・・・」

いつの間にか俺はバカ笑いをしていた。
さっきまでの憂鬱さも驚きも全て忘れて笑っていた。

(夢だというならば、目が覚めるまで楽しめばいい)

何故か状況を状況を自然に受け入れた俺は、ただただ笑うだけだ。
最近は仕事が忙しくて夢なんて見ている暇は無かった。
分かるか? 一日働いて家に帰って時計を見ると午前様。コレが毎日続く。通勤に2時間強かかってたから、毎日の睡眠時間が3〜4時間の日々を!
久しぶりに見た夢がこんな楽しい夢なのだ。楽しまなくちゃ損だろう。

「ちょっと。ホントに大丈夫カ?」

バカ笑いする俺にちょっと引きながらも、彼女の手が額に添えられる。
中学生にしてはその掌はあまりに大きくて、武道をやっている為か少しだけ硬くて、そして暖かだった。
ん!? 何か引っかかるぞ。
彼女の手は大きくて、硬くて、暖かい。
・・・暖かい。
そう、暖かかったのだ・・・夢の中でも。
俺の笑いがピタリと止まる。
そして、額に添えられた彼女の手を上から握り、視線を近づいていた彼女の瞳に合わせ見つめる。

「!」

彼女が驚きと少し照れた様な表情を浮かべたが、今の俺はマジだ。

「・・・すみません・・・ちょっと俺の頬を抓って貰えませんか?」

俺がゆっくりと握っていた彼女の手を離すと、彼女は不思議そうに俺の両頬を指で摘む。
そしてニッコリと笑うと戯けた口調で問いかけた。

「ふふっ。ナニか夢でも見てるって顔してるネ。これで夢じゃナイって分かったカナ?」

ムニっとゆっくり頬が抓られる。
痛い。

キュッ。

ほんとに痛い。

ギュッ。

「いや、マジで痛いって!」

急いで彼女の両手を掴み、摘んでいた指を俺の頬から外す。
夢かどうか確認する為だって分かったなら少しは手加減しろっての。
そうな意味を込めて睨むが、彼女は目線を逸らしながらヒューヒューと上手くない口笛を吹いている。
こんなキャラだったっけ?
あんまりネギまを読んでなかった俺は彼女のキャラがいまいち分かってなかった。
それは兎も角としてだ、痛みがあるって事はコレは夢じゃないって事か?

(・・・ああっ、もう訳分からん!)

と、とりあえず状況の確認が先決か。
ゴクリと唾を飲み込むと、神妙な顔つきで彼女に問いかける。

「すみません。少し教えてくれませんか?」

「ん!? 別にいいネ」

彼女にもそれが伝わったのか真面目に聞く姿勢になってくれた。

「あの・・・ココは何処でしょうか」

「ココは麻帆良学園内にある病院ネ」

「じゃあ、何故俺はここに寝てるんですか?」

「店の近くに倒れてたヨ。それを見つけた私が病院まで運んだということネ」

・・・なるほど。間違いなくネギまの世界だわココ。
で、店の近くで倒れてて彼女に助けられたわけか。

「貴方一人でですか?」

「そうネ」

「すみません。大変だったでしょう」

「別に子供一人運ぶくらい大した事なかったネ」

は? 子供?
おいおい。俺は中学生に子供扱いされる年齢じゃないぞ・・・別にオヤジって歳でもないが。
そもそも俺の年齢は・・・って、俺って幾つだっけ
いや待て待て! 俺の名前は? 住所は? 職業は?

顔面が蒼白になる。

自分の事がよく分からない? 全く分からないって訳でもないようだが、主要な部分が分からなくなっている?
何ていうか記憶に穴が開いてるというか・・・やっぱり夢か?
いや・・・まさか・・・これって、記憶喪失ってヤツなのか?

「どうしたネ? 顔色が悪いヨ」

「い、いえ・・・別に・・・・・・」

一応笑いながらそう答えてみるが、実際のところ俺は一杯一杯だった。

「そんなに無理に笑おうとする事ないネ。心配事ならお姉ちゃんが聞いてやるヨ」

それを感じ取ったのか、彼女は心配げに両手で俺の左手を握る。
握られた手が違和感を与える・・・えっ・・・ちょ、ちょっと待て!!
感じられた感触に、思わず視線を彼女が握ったであろう自分の手に向ける。
そこにあったのは強く握り締められた子供の手。
これが・・・俺の・・・手?
再び呆然とする俺。
その後・・・暴走。

「うがーーー!!」

何なんだよ、次から次へ! 神様よぉ俺何かしたか? 一体全体どうなってんだよ?
気がついたらネギまの世界に居て、夢が夢じゃないかもしれなくて、今度は俺の身体が幼児化かよ。
どこのゲームだよコレ。訳わかんねーよもう!

はぁはぁ・・・落ち着け、落ち着け俺。
混乱する頭を振ってなんとか再起動する。
と、とにかく今だ、自分の身体がどーなってんのか確認しなくちゃいけない。
俺は視線を上げると、突然の俺の行動に驚いてフリーズしている彼女を余所に急いで周囲を見回した。
鏡ぃ・・・鏡と・・・姿見発見。
彼女の手を振り払い、急いでベッドから降りようと試みるも・・・足が届かない。
当然足も子供って訳か・・・マジで子供だよ・・・俺。
ベッドから飛び降り、見つけた姿見を覗き込むと━━姿見の鏡が映しだした自身の姿に目が点になる。

そこに写ったのはこれまた見知ったキャラクターの姿だった。
ツンツンと立った黒髪に黒い瞳、患者衣を着ていても分かる子供体型。
最大の特徴として、猿のような長い尾がフルフルと揺れていた。
その姿はどう見てもとある漫画の主人公の幼年期時代の姿。
地球で育った心優しき格闘少年。そして戦闘民族サイヤ人の生き残りの一人。本名カカロット。
あの有名な漫画「ドラゴンボール」の主人公━━孫悟空その人だった。

「な、なんじゃこりゃーーーー!!!」

俺の絶叫が病院に響き渡る。

そう、これが『ネギま』世界で自分が『孫悟空』として『存在』する事を認識した瞬間だった。


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