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存在の意味 第一話「孫くんは超くんになたヨ」
作者:29音   2009/07/27(月) 22:58公開   ID:BvRgU7LGBRw


すでに日は沈み、辺りはすっかり真っ暗になっていた。
窓から見える大きな樹━━恐らく世界樹が此処は麻帆良なんだよと主張している。

あぁ、夢であって欲しかった・・・。

俺は今、真っ暗な部屋の中で佇んでいる。
なんでそうしてるのかと言うと、彼女━━超鈴音に

「とりあえず周りにばれたら拙いネ。ワタシが帰るまで静かにしてるヨ」

と言われていたので、それに従って、ただ単にボーっとしているのだ。
彼女曰く、姿見の鏡で自分が孫悟空になっている事を確認した俺は、混乱のあまり数分に亘って意味の分からない事を叫んでいたらしい。
うん。どうやら一度にいろんな事が起こった所為で、頭のネジが数本飛んでしまったのだろう。
それからまた記憶が飛んで、気付くと俺は彼女に手を引かれながら病院を後にしていた。
そのまま彼女に連れられ、電車に乗って辿り着いたのが此処だ。
そして彼女は部屋を出て行き、今に至っている。
それから数時間は経っているだろう。
何せ、お天道様が真上にあった頃から俺はこの部屋に居る。
少し前くらいからキャッキャッと女性特有の姦しい騒ぎ声が聞こえてきた為、あぁ此処は麻帆良女子寮なんだって分かっただけだ。
何で此処に居るのかは自分でもよく分からない。

あぁ、俺はこれからどうなるんだろう・・・。

彼女は特に俺の事情を聞いてこなかった。
話した内容は身体は大丈夫かとか、痛いところはないかとか身体的な事についてが殆どだ
そうそう、名前だけは聞かれた。
なんて呼べばいいか分からないからって言ってたので、俺の名前は孫悟空だって答えた。
そして彼女が静かにしてろと部屋を出て行ったまま放置。

(いや、保護してくれているんだよなコレ)

よくよく考えたら、尻尾の生えた意味不明な生物を自室に匿うなんて普通しないだろ。
何処の誰かもわからないのに。
多分、俺が混乱しているのが分かったんで、何も聞かないでいてくれたんだろう。
うん。彼女には感謝しなくちゃな。
そんな事を考えていると、突然辺りが明るくなった。
ガチャっとドアが開き、微笑みながら彼女が姿を見せる。

「今帰たヨ。何で電気点けないネ?」

「うん? ・・・別に意味は無い」

「そうかネ。それより夕飯持って帰たヨ。ワタシもうお腹ペコペコネ。一緒にご飯食べるヨ」

「・・・あぁ」

そう言えば、今日は飯なんて食ってなかったな・・・。
そんな気分じゃなかったし。
そう思うとグゥグゥと腹が鳴き始めた。

(サイヤ人って飯を大量に食うんだよな・・・)

意思に反して涎が出てくる。原作同様にもうザバザバと。
結構コレって恥ずかしいぞ。
彼女はテーブルに料理を並べると、俺を対面のイスに座らせる。
テーブルは中華料理店でみるような回転するヤツだ。名前は知らん。
日本人みたく皿に分けず、中央にででんと大皿で置いてある。目の前には小皿と何かよく分からんお茶のみ。
量も通常では二人分には多いだろうという位、沢山並べられている。
が、恐らくは問題なく全て無くなるだろう。いや、足りないかもしれない。
サイヤ人の胃袋を舐めるなよ!

「フフフッ。そんな期待した顔されると照れるネ。自慢の『超包子』の中華料理、味は保障するヨ。さぁ、たんまりと食べるネ」

その言葉に俺の手は自分の意思を無視して、料理に手を伸ばしていた。



第一話「孫くんは超くんになたヨ」



ワタシは驚いていた。
あっという間にテーブル上から料理が消えていくのだ。
ワタシが食べる分が無いくらいによく食べる坊主だった。
食べ初めてから僅か三分強━━四人分位は持って帰ったつもりだったが、すでにその3/4は無くなっている。
ただ別に悪い気はしない。
それはもう、これだけ美味しそうに食べてくれるのだから。作ったほうとしてはこれ以上の幸福はない。
が、あの身体の何処にそれだけ入るのかが理解できない。

「つ、追加で料理作ろうかネ・・・まだ食べるカ?」

「・・・食ふ・・・」

一向に衰えないペースで料理が坊主の腹の中に消えていく。
そんな坊主の顔を見ていると、何故かクスっと笑いが込み上げてきた。
ワタシは追加料理を作る為にキッチンへと足を向けた。
正直、坊主からは名前しか聞いていなかった。
坊主に関しては調べても何の情報も出て来なかい。まるで存在自体無かったかのように、情報は何も無かった。
まあ、状況からある程度の予想は立ててはいるのだが・・・。
兎に角、そんなよく分からない坊主の為に、ワタシはすでにある行動を起こしている。
詳しい話も聞かず、もしかしたら徒労に終わったでは済まないレベルで・・・。
では、何故ワタシはここまで動いたのだろう?
たしかにワタシは坊主と別に深い関わりがある訳ではない。
何しろ坊主には今日初めて会ったのだから。
ワタシの計画の障害になる人物という訳でもない。
だがワタシが動く理由は、その答えは既に出ている。
あの時・・・路面電車屋台の裏の森で見た光景が、病室で感じた気持ちが今のワタシを動かしているのだ。
だからワタシは動いたのだ。自分の意思で自分の信念の元に。
ワタシはキッチンで調理しつつ、ゆっくりとあの時の事を思い出していた。



ワタシがその光景に出会ったのは本当に偶然だった。
それはランチタイムの料理を五月に任せ、ワタシがテーブル周りの準備をしていた時に起こった。
今日は土曜日で学校は休みだった。
ワタシはいつものように超包子の開店準備に取り掛かっていた。
偶然にも屋台裏の森が発光しているのに気付いたワタシは、興味を引かれて現場へと足を向けた。
森に駆け入り、光源の近くまで踏み入った。
それが放っているのは不思議な光だった。
熱反応も魔力も空間の歪みも何も無い、ただ光を放っているだけの球体。
触れようと手を伸ばした瞬間━━太陽を直接見たような光量が発生し、ワタシは思わず瞳を閉じた。
光に包まれる中でワタシは光の中から坊主の姿が浮かび上がってくるのを見た気がした。
そして、まるでそこには何も無かったかのように、突然その光は消えていた。
普通なら網膜が焼き切れていただろう閃光だったが、不思議とワタシの目に異常はなかった。
光が収まった時、急いで光があったと思われる場所に走った。
足元で倒れている坊主を発見したワタシは、何故か坊主を助けようと動き出していた。
気付くと即座に携帯でクラスメイトの古菲(クーフェ)に連絡を取って店の手伝いを頼み、五月に店を任せ、坊主を抱いて病院へと向かっていた。
病院に向かう途中、手に当たるフサフサした毛を感じたワタシは坊主を見て驚いた。
ズボンを捲ると何故かこの坊主には猿のような尻尾が生えている。
妖の類かと思った。
そのまま放り出せばそれで終わっていた筈なのが、何故かワタシは坊主を放っておけなかった。
見た目特に異常が見られなかった為、本来ならやるべきではないが坊主担いで裏の医者へと連れて行った。
尻尾はとりあえずカンフー着と思われるズボンにしまい、あらぬ疑いを懸けられない様に連れ添って診察室に入った。
肉体的異常が見られなかった時は、何故か心底ホッとした。
そして一般病院へ運び、工学部の実験で気絶したとして一人部屋の病室を借りた。

病室に戻った時の坊主の顔は忘れられない。
何故か思わぬ人物に出会ったような、珍しい人物に出会ったような不思議な表情を浮かべ、その後狂ったように笑い出した。
心配したワタシは坊主の額に手を当てる。と、驚くほどの力で手を握られた。
正直痛かったので文句を言おうと坊主に視線を向けたが、そこには急に真面目な光を放つ坊主の瞳があった。
その瞳にドキッとしたのも一瞬。坊主は頬を抓ってくれと言った。
その瞳の奥が不安気に揺れていたのに気付いたワタシは、わざと冗談めかして夢でもみているのかと言いながら素直に頬を抓っていた。
抓るたびに表情を変えていく坊主を見て、何故か楽しくなってつい何度も頬を抓り続けた。
痛いと睨みつけられるが、知らぬとばかりに惚けてみせると、坊主に呆れたような、不思議そうな視線を向けられた。
その後真面目な顔して質問された。
漸くワタシは気付いた。この坊主は自分の置かれた状況に混乱しているのだ。
質問に真面目に答えていくと、坊主の顔色が徐々に悪くなっていく。
心配げに声をかけたが、無理をしているのがすぐに分かるほどの痛々しい顔で笑う。
思わず安心させるように坊主の手を握るが、逆に坊主の表情が驚愕にはっきりと変わった。
急に叫びだした時は心底驚いた。
そして、坊主は自分の姿を鏡で見て━━
その後はただひたすら絶叫する坊主を抱きしめ続けた。
大丈夫だと、心配いらないと、落ち着かせるように精一杯ギュっと抱きしめる。
落ち着いた坊主には生気が感じられなかった━━まるで世界に一人取り残されたような感じで・・・。
そこでワタシは気がついたのだ。
何故これ程までに放って置けなかったのか・・・。

坊主は嘗てのワタシ・・・あの時のワタシだった。

考えるに坊主は此処の事を━━麻帆良学園の事を知っていたのだろう。恐らくワタシの事も。
だがそれは知識だけなのだろう。自分が此処に居るはずは無かったのだろう。
ここに居るのは坊主が望んでではないのだ。
知らない場所に突然一人にされるのはとても辛いものだ。
寂しくて、心細くて・・・怖い。
それは今のワタシにも言える事だ。
だから・・・ワタシは放って置けなかったのだ。
この後のワタシの行動は迅速だった。
ワタシの考えたのはただ1つ。

ただ坊主が一人にならないようする事。

その為には坊主の傍にワタシがいてあげればいい。
何の打算なく、単純にワタシはそう思った。思ってしまった。
確かにワタシの計画からすれば邪魔な存在になるのは理解している。
だけど、それでも、計画発動までの間は傍に居てあげられる。
後2年あるのだ。その間にはここでの生活にも慣れている事だろう。
ワタシが居なくても問題は無くなるだろう。
だから・・・せめてそれまでの間だけでも、ワタシは坊主の傍に居てやりたかった。
ワタシは坊主を女子寮の自室へと連れて帰った。
これから坊主が此処に住めるように手を打たねばならない。
学園長にワタシの計画を気付かれてはいけない。邪魔されるわけにはいかない。
だが、ワタシはあえて危ない橋を渡る。
学園長に借りを作るのは嫌いだったが、坊主の為なら仕方ない。
だからワタシは坊主を守る為に名前を聞いた。孫悟空━━それが坊主の名前だった。
坊主の了承を得ないで事を進めるのには申し訳なかったが、全ては坊主のためだ。

決して一人にはしない! 

それがワタシが坊主に立てた誓い。
その誓いを果たす為、ワタシは坊主に部屋で待つように言うと一人部屋を出る。
坊主は━━悟空はワタシを受け入れてくれるだろうか?
ほんの少しの・・・ごく僅かな不安を胸にワタシは行動を開始した。



「よ、よく食べたネ・・・」

食事を終えた後、頬に汗を垂らしながら彼女が最初に呟いた言葉だ。
たしかに、自分でもびっくりする位食べたと思う。

(うーん。これがサイヤ人の食欲か)

我が胃袋ながらどんな構造をしているのかと心配になる。
そこでふと気が付いた。
さっきまでの虚無感が無いのだ。
いや、全く無くなった訳ではないが、確かに感じられない。

(飯ひとつでこうも変わるもんかね・・・)

確かに原作の孫悟空は細かい事を気にしないタイプだった。
その影響か、はたまた自身の性格か。
本当なら深く考える必要がある内容なのだろうが、今の俺はどうでもいい事だと判断した。
彼女はイスを立つと、炊事場へ皿を持って移動する。
恐らく後片付けをするのだろう。
俺はそれを横目に身ながら、とりあえず現状を整理してみる。
それは俺にそれだけの余裕が戻ってきている証拠だった。
まず1つ。俺は今「ネギま」の世界に存在している。
2つ。俺は「DBの孫悟空」の身体で存在している。
3つ。これは決して夢の出来事ではなく、現実に俺として俺の思考を持って存在している。
つまり、知ってはいるが知らない土地で、今までの自分でない身体を持ち、今後はここで生活する必要があると言う事だ。
これが夢で無いなら、起こってしまった出来事なら、そこには何らかの原因があるはずだ。
俺は何故ここに居るのか、何故この身体なのか、何をどうすれば元に戻れるのか。
とりあえず、まずしなくてはいけない事は1つ。

(魔法使いの住む不思議ファンタジー世界で生きていく・・・か)

これは簡単なようで、簡単ではない。
まずは戸籍。
これが無いと俺は存在していると証明できない。
つまり仕事が出来ない。まぁ、この身体ではそうそう仕事なんぞ出来んだろうがね。
次に衣・食・住の問題。
つまりは金。生きていく上で必要不可欠なもの。
仕事は出来ないとしても、どうにかして稼がないと生きていけない。
最低でもこの二つだけはクリアしなければ、その時点でアウトだ。

(う〜ん。どうしたものか・・・)

俺が真剣に悩んでいると、洗い物を終えたのか炊事場から彼女が戻ってきた。
そのままテーブルを挟んだ俺の向いのイスに座る。

(・・・そうだったな)

そう。俺は彼女に説明する必要がある。
まずは助けてもらったお礼。
そして俺自身の事をばれない程度に説明。
入院費を含め、使った費用の清算。
後、出来れば今後の相談。
確か原作では彼女は麻帆良一の天才と呼ばれていた。
そしてネギのクラスの生徒で、未来から来たネギの子孫だったはず・・・最終的には敵になったが。
本来なら関わるべき存在ではないのだろう。
だが、はっきり言って今現在、俺が頼れる人は彼女しかいない。
となると、どこまで彼女に「打ち明けるか」だが・・・。

(問題は俺レベルで、天才相手にどこまで駆け引きできるか・・・だよな)

思考ではそう冷静に考えつつも、俺は彼女に普通に話しかけた。
自分が今子供である事を考慮して会話する必要があるだろう。

「あの・・・今日は助けて頂き、夕食までご馳走になって・・・ありがとうございます」

「別に気にする事無いネ。でも、多少の質問くらいはしてもいいかナ?」

「はい。といっても俺自身、自分の事をあまりよくは覚えていないんですが・・・」

とりあえず、記憶喪失である事実を利用して少しでも質問を躱せる状況を作り出す。
調べられても、本当に記憶喪失だ。嘘ではないのである程度ごまかしは効くだろう。
問題はどの程度誤魔化せるかだが。

「ほう。記憶喪失とでもいうのかネ?」

「多分・・・そうだと思います。分かってるのは自分の名前くらいで、歳も住所も何故ここにいるかも分かりませんから・・・」

「うむ。それは分かてるネ」

「はぁ?」

「そんなに不思議かナ? 病室での態度を見ていれば誰でも分かると思うネ」

「・・・」

「質問というのは、これからどうするつもりかってコトネ」

「これから・・・ですか?」

「そうネ。孫悟空・・・その名前からワタシは色々調べたヨ。もちろん偽名かもしれないガ、キミが嘘をついてない事を信じてネ」

「はい・・・嘘は・・・ついていません」

それは本当だ。
だが、俺の情報はヒットしていないだろう。
なにせ今の俺は本当に『孫悟空』であり、以前の俺については俺自身でも分からないのだから。

「まぁ調べた結果、キミの事は全く分からなかたヨ。孫悟空という人物についての情報はまったくない。逆に言うと、キミは『存在』していないという事になる」

「・・・」

「ふむ。やっぱりという顔をしてるネ。まあ、それも可能性として合たから問題ないがネ」

「それで・・・」

「まず、ワタシの知ている事・・・つまりキミと出会た時の事・・・キミは突然光の中から現れた」

「なっ!」

「そして、病室での行動・・・麻帆良を知てた事、自身の身体を見て驚いた事から判断して、キミは未来から時を巡った。それも恐らく若返てネ。だからキミは夢と思てワタシを使て確認したネ」

彼女の言葉に冷汗が頬を伝う。
超鈴音━━彼女は本物の天才だった。
自分という前例があったにせよ、たった少しの情報から俺の深いところまで掴んできている。
もっともこの世界が俺の中じゃ二次元の創作物の世界で、今の俺の身体も二次元のキャラクターであるとは流石に分からなかったようだが。
これは魔法か自白材でも使わなきゃ絶対に分からないから仕方のない事だろう。
逆にそこまで分かったらエスパーと思うね。

「で・・・どうかナ? 合ってるカ?」

「・・・」

くそう。もっとネギまの物語を読んでいればよかった。
当然今言っても後の祭りだが、もう少し彼女の事情を知っていれば、手の打ちようもあっただろう・・・。
今のままじゃはっきり言って、手詰まり。誤魔化しようが無い。
くっ、どうする!?

「無言は肯定を示すネ。無論ワタシも君の全てを理解している訳ではない。だが、話の内容によっては・・・」

ここで一旦口を噤み、こちらの様子を伺う。
俺は懸命に視線だけは逸らさないようにしていた。
逸らした時点で完全な敗北だ。
俺には今現在最後まで足掻くくらいしか手は残されていない。
それを感じ取ったのか、少し優しげに微笑んで言葉を紡ぐ。

「・・・キミをこのまま『保護』することも可能だヨ」

・・・ハイ。降参。
ギブアップ。
俺なんかが手におえる存在じゃなかった。
事実を元に仮定説を語り相手に肯定させる。こうする事で相手はそれ以後の内容に納得せざる得なくなる。たとえ内心では反論したくても出来ない。
その上で相手のメリットを示して提案する。相手の欲しいところをピンポイントで突いた交渉・説得術。
『溺れる者は藁にも縋る』という諺がある。ん? ちょっと意味違うか?
まあいい。相手が本当に困っている時には、私は『貴方が困ってる内容を理解していますよ』と訴え、その困っている事柄に対して『フォローしますよ』と詰める。
保護する・・・つまり、俺が話をすれば生活は保障しようと言っているのだ。
もっと効率の良い手順があったのかもしれないが、あえて彼女はそれを提示し、そしてそれは・・・今の俺には喉から手が出る位ありがたい申し出だ。
彼女の思惑はいまいち分からんが、この先の防衛戦に集中したほうがよさそうだ。

「・・・了解。で、何が聞きたいんですか?」

俺は素直に両手を上げる。降参マークだ。
俺の苦笑に彼女は歳相応の笑顔を返す。
ほんと、その笑顔だけ見てると中学生だなぁって思えるのに・・・。

「ん? 簡単な事ネ。話せる内容を話して欲しいだけヨ」

・・・は!?
今・・・彼女は何と言った?

「そんな不思議な顔しなくてもいいネ。別に無理に言いたくない事は言わなくてもいいヨ。交渉は信頼関係が第一ネ」

「・・・こんなガキに対して交渉ですか?」

「本当に子供ならそんな言葉は言わないネ」

ふぅ。参った参った。
こっちが白旗揚げても『対等に』と言ってくれるんですか。
あんた本当に中学生かよ。

「まず言っておきますが、貴方が言った仮定はほぼ正解です。というか、それ以上はありません。俺自身が知りません」

「ほう、やはり未来からやって来たのカ?」

ここからが正念場だな。
俺にとって絶対に言えない事がある。ここが二次元の創作物で俺も二次元の創作物だと言う事だけは言えない。
まぁ、言ったって信じないだろうが、それでも彼女なら何かを考え何らかの行動を起こす可能性がある。。
答えを慎重に選びつつ、漏らしていい情報のみに絞りこむ。

「いえ、それ自体分かりません。この姿にしても俺の子供時代のものではないとしか分かりませんし・・・ただ、俺が今よりもっと大人だったのは間違いありません」

「麻帆良について知ているのは?」

「・・・記憶の中に麻帆良という場所があるだけです。俺が此処には来たという記憶はありませんが・・・」

「・・・あまりに都合がよい記憶喪失ネ」

「・・・まぁ・・・そう言われれば・・・その通りですね」

「尻尾については?」

「よく分かりませんが、元々俺に尻尾なんて無かったですよ」

「フム・・・」

「ただ、逸話というか噂話にそんな話を聞いた事があったようななかったような・・・」

「・・・適当ネ」

「記憶が曖昧なもので・・・」

疑わしそうな目を向けられたが、取り敢えずは納得してくれたようだ。

「ま、いいネ。とりあえず、キミが倒れてた時に持っていた持ち物を返すネ」

そう言いつつ彼女ニヤリと笑うと席を立つ。押入れを開けると何やら棒のような物と皮で出来た袋を取り出す。
うん!? どう見てもあの棒は如意棒だよな。俺持ってたんだ。
で、そっちの袋はよく分からんな。

「これは?」

「ん? ワタシの方が知りたいネ。孫悟空・・・西遊記の主人公の名前ネ。そして孫悟空が持っている武器は如意棒という棒ネ」

「は、はははっ。すごい偶然ですね」

「・・・そうネ」

目を半開きにして疑いの眼差しを向ける彼女から荷物を受け取るとさっそく袋を開ける。
中に入っていたのは8粒ほどの豆だった。
DBで豆と言えば一つしかない。そう『仙豆』だ。

「な、何でしょうね・・・この豆」

「・・・・・・」

俺のその言葉に対しても、彼女は半開きの目でただジッと俺を見ているだけだ。

「・・・あの・・・・・・」

「まっいいネ。詮索はしないヨ。それよりキミの事だが・・・これからは悟空(ウーホン)って呼んでもいいかナ」

半開きをやめて悪戯っぽく片目を瞑った彼女だったが、会話の途中からは少し恥ずかしそうに呟くように喋り始めた。

「えっ? 俺言いませんでしたっけ!? 悟空(ごくう)ですよ?」

「わ、分かてるネ。そ、そのアルネ・・・実は・・・ウーホンというのは戸籍を作た時に付けた名前ヨ」

「戸籍・・・ですか?」

思わず驚きの声を上げる。
すでにそこまで手を回していたのだ。
どうやら、この交渉前に後の準備は終わらせていたらしい。
と言う事はだ。忌々しい事にこの女は最初から負ける気など無かったという事だ!
ガッデム!!

「そうネ。『孫 悟空(そん ごくう)』という存在で麻帆良に住まわせる事は難しいヨ。そこで『超 悟空(チャオ ウーホン)』・・・ワタシの弟として登録したヨ」

「はぁ!?」

「姉弟だたら麻帆良に住む事になてもおかしくないネ。それとも・・・ワタシの弟じゃ嫌かナ?」

俺の驚きの声を聞いて、不安そうに問いかける。
いや、確かにそうしてくれると俺的には堂々と生活が出来るから万々歳なのだが・・・俺が起こした問題は全て彼女が負う事になる。
何故そこまでして俺を保護してくれるのだろう?
普通の人ならば、こんな面倒で尻尾の生えた怪しいガキなどとうの昔に放り出しているだろうに・・・。

「い、嫌じゃないけど・・・どうして俺にそ「そ、そうネ! よかったヨ! ならワタシの事は鈴音(リンシェン)と呼ぶヨ! ワタシはウーホンと呼ぶネ! 言葉遣いも普通でいいネ」・・・」

まぁ別にいいけど・・・俺、喋ってる途中だったよねぇ。
スルーして彼女の質問に答える。

「流石に姉に対して呼び捨ては拙くないで・・・拙くないか?」

「そ、それもそうネ。じゃぁワタシの事は鈴音姉さん・・・いや、鈴姉さんとでも呼ぶヨ」

物凄く嬉しそうに喋る彼女に唖然としてしまう。
さっきまでと全然雰囲気が違うんだけど・・・。
はっきり言って隙だらけだ。今の彼女になら交渉でも勝てるぞ。
まぁ兎に角だ。彼女は中国人。ん〜火星人って言ってた気もするが・・・まぁ中国人だ。
どちらにせよ遠い日本に来て、家族と暮らしていない訳で・・・実は彼女寂しいのだろうか?
だから、弟が出来て嬉しいとか?

(まぁ、そんなに嬉しそうなら・・・彼女が迷惑じゃないのなら・・・まぁ、いいかぁ)

本当に嬉しそうに喋る彼女につい俺も微笑を浮かべてしまう。
そしてこの日この瞬間、俺の名前は『孫悟空』から『超悟空』に変わった。

「鈴姉ぇ。これからヨロシク」

「こちらこそヨ」


━━こうして悟空と鈴音の二人の物語の幕が上がったのだった。




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