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存在の意味 第二話「麻帆良の日々が始まるネ」
作者:29音   2009/08/16(日) 02:31公開   ID:BvRgU7LGBRw



えー。ここで報告があります。
俺は勘違いをしていました。
実は今、ネギ君は麻帆良にはいません。まだ原作は始まっていないのです。
どうやら俺は原作前に来ていたようです。
今現在、麻帆良女子寮にいる男子は俺一人です。
鈴姉ぇの手配で、俺はこのまま麻帆良女子寮に住む事になりそうです。
俺は「ネギ君とどんな風に付き合おうか」色々と考えていたのですが、現在は「2−Aの連中をどう捌いていくか」が重要になりそうです━━特に委員長相手に。
ネギ君の待遇には羨ましさ半分、同情半分でしたから。
そして、そのネギ君がいないという事は、間違いなく現状のターゲットは俺になるでしょうから・・・。

俺はここに至って改めて考えました。
「俺は何の為に此処に送られたのだろう」と。
送られた━━そう、これは俺なりに考えた末の結論です。
何らかの存在が意図して俺をこの世界に召喚し、今の状況を作り、与えたのだと考えている次第です。
俺はこの世界の歯車の一つに組み込まれたのでしょう。何者かが仕組んだ部品の一つです。
恐らくは「ネギま」本編開始までに何かをさせる気なのでしょう。
だけど、歯車にも意地はあります。誰が他人の思惑に沿って動いてやろうなんて思いますか。
決して俺が望んで此処にいる訳では無いのです。
だから、俺はこの世界で俺の好きに生きていきます。他人の思惑なんてぺぺぺのぺです。
俺のこの考えも、その何者かにとっては思惑の一つでしか無いのかもしれません。
でも━━あくまでも俺は俺の考えで動くのです。自分が思ったままに行動するのです。
原作なんて俺は知りません。
俺は俺らしく楽しく生きていきます。

今の暦は2002年の4月。ネギ君が来日するのは2003年の2月━━後、約1年の後の出来事。
でもその頃━━俺はどうしているのでしょうか・・・。



第二話「麻帆良の日々が始まるネ」



頭の上でガンガンと音がする。
二日酔いではない。金属同士を打ち合わせたような鈍い音だ。
頭はまだボンヤリしているが、別に俺は朝に弱いと言う事ではない。
ただ俺にしては珍しく熟睡したようで・・・単なる寝疲れだ。
普段ゆっくり寝る事がなかったので、身体がビックリしたのだろう。
まあそれはいいとして、ゆっくりと記憶を紐解いて、昨日の事を思い出してみよう。
ええ〜っと・・・俺は昨日からネギま世界にいて孫悟空になって超鈴音の弟になったと。
んで、今日からこの部屋で暮らす事になって、現在俺は部屋据付のソファーで寝ているっと。
麻帆良女子寮は二人部屋らしく、この部屋は昨日紹介された四葉五月と鈴姉ぇとで住んでるんだが、当然ベッドは二段ベッド1つしかない。
鈴姉ぇは姉弟なんだし一緒に寝てもいいと気楽に言っていたが、俺の記憶では間違いなく鈴姉ぇより俺の方が年上だった。
さすがに一緒に寝るなんて子供みたいな真似は出来ん。
第一、昨日まで他人だった者と軽々しく一緒に寝ようなんて、まったく鈴姉ぇの気が知れん。
冗談で言ったのだろうが、もし仮に俺が了承していても、笑顔で「いいヨ」とか言って平気で寝てたと思う。
いくら冗談でも、弄ばれる方としては文句の一つも言いたくなるのが人情だろう。
おっと、話が脱線したが、今回はしっかり記憶があるようだな。
まぁ、昨日の事が夢であっても、俺的には全然構わなかったんだが・・・。
そんな事を考えていた俺の頭上では、相変わらず素晴らしい音が鳴り響いている。

(まったく・・・さっさと諦めればいいのにものを)

俺の持論として「暇な時はずっと寝てる、忙しい時は我慢する」というのがある。
別に用事がないのだから、この際ゆっくりと眠らせて欲しいんだが・・・。
この鳴り止まない音に、俺は仕方なくゆっくりと片目だけ開く。

「さっさと起きるネ! 今日は出かけるから早く朝食を食べるネ」

目を開けたのに気付いたのか、ちょっと怒っている鈴姉ぇの顔が近づいてくる。
手には中華鍋とお玉を装備。音の原因はそれだったのだろう。
こんな漫画的な起こされ方をするとは予想だにして無かったよ。
あまり騒ぐと他の寮生達が苦情を言いに来るぞ。
出かけるなら勝手に一人で行けばいい。俺は寝る。
だいたい『保護』してくれてるのなら、少し位の惰眠も許容してほしい(意味不明)。

「あ〜俺、朝飯要らないから・・・もう少し寝かせて・・・・・・」

俺はそう言うと、二度寝すべく再び瞼を閉じた次の瞬間━━

「ぐぼぉ!」

俺の口からは苦悶の叫びが、両目から涙が溢れ、血管が浮き出る位目を大きく開く。
俺の腹の辺りからは鈍い痛みがジクジクと響いてくる。
俺の涙目に写ったのは、中華鍋の柄の部分が腹にめり込んでいる光景だった。

「ぐぇっ〜〜!! げほごほがっほ・・・・・・」

俺は咳き込みながら荒く息継ぎを繰り返す。
鈴姉ぇを恨みがましい目で睨みつけながら、苦情の言葉を紡ぐ。

「な、なんて起こし方すんだよ・・・」

「二度寝する方が悪いヨ。朝食は規則正しい生活の第一歩ネ。目も覚めた事だし、顔洗って一緒に食事にするヨ」

鈴姉ぇは半眼で俺の反論を封じると、表情を優しく改めニコっと笑いながらソファーから立ち去った。
その笑顔に毒気を抜かれた俺は、本当に渋々とソファーから身体を起こした。



                     ●



「朝食・・・要らないんじゃなかたカ?」

ワタシは額に冷たい汗を浮かばせながら悟空に問いかける。
悟空の前には皿が山と重なっていた。
今、食事は二人で取っていた。
ルームメイトの五月には、悪いけど超包子に先に行ってもらった。個人的都合でお客様は待ってくれないのだから。

「別に食えないと言ったわけじゃない。食欲より睡眠欲を優先した結果だよ」

悟空はどうやら思ったより口が悪いようだ。
昨日の喋り方は演技だったのだろう。だが、本性をさらけ出してくれる方がワタシは嬉しい。
無理に作られた仲は、切欠一つで簡単に壊れる物なのだから・・・。
この先も悟空を保護する為には余計な壁など無い方が良い。
それにしても、昨夜あれだけ食べておいて、今朝も同じ位の量を食べているとは、本当にどうなっているのだろう・・・悟空の胃袋は。
まだ余裕を見せる悟空に、ワタシは溜め息を返すのがやっとだった。

今日の予定としては、武術を習いたいという悟空の要望に答える為、古に紹介する事。
そして最重要問題として━━学園長に悟空を会わせる事。
バカ正直な古は問題ない。多少驚く程度で流してくれるだろう。
問題は━━学園長。
ワタシの計画の事を悟空は知らないだろうが、学園長は別だ。薄々ワタシの今回の計画に感づいているだろう。
なら、それを最大限に生かす方法を考える必要があるだろう。
となると問題は悟空の方だ。
尻尾に関してはズボンの中に入れておけばいいだろう。身体的には他におかしな所は無いのだから。
後は交渉だ。ある程度はには慣れているようだが、はっきり言って学園長相手では分が悪いだろう。
その際に余計なボロを出されては堪らない。
さらに、最悪は魔法を使って悟空の思考も読んでくる可能性もある。
今後を考えて、学園長から何かしらの干渉をされるのだけは断固避ける必要がある。

(今回の件で学園に余計な目を向けられる訳にはいかないネ)

悟空には悪いが、逆に今回の件を利用するのが一番だ。
そう考えると、これから悟空に魔法改竄の為のダミーチップを渡し、ボロを出さないよう説明する必要があるだろう。

(悟空もワタシの考えに共感してくれるとうれしいあるガ・・・)

ワタシはキッチンで洗い物の片付けを終えると、悟空をテーブルに呼び寄せ説明を始めた。

「今日は学園長に会て貰う。先に言ておくが、悟空は記憶障害を持ている事にしているネ」

「ああ」

「出身はもちろん中国、日本までは飛行機で来たネ。渡日目的は病気の静養の為、姉を訪ねてやて来たヨ・・・分かたカ?」

「わかった」

「よろしい。日本語話せるはワタシから習た事にしておいたネ。最後に、これを渡しておくネ」

懐からお守り袋を取り出すと悟空の手の平に乗せる。

「うん? 何、これ?」

「・・・お守りネ」

「いや、お守りって・・・」

中にダミーチップを仕込んだお守り袋に書かれている文字は「商売繁盛」━━言いたい意味は分かるが、何故か龍宮神社にはそれしかなかったのだ。

「と、兎に角持てればいいヨ」

「・・・分かったよ」

「基本的には覚えテないで通すといいネ。後はワタシがうまくフォローするヨ。困たら、ワタシに話を振るネ」

「りょーかい」

「何か質問は?」

締めにそう聞いておく。
その言葉に悟空は悪戯っぽい笑顔を浮かべつつ、

「俺も、「なんとかカ」とか「なんとかネ」って喋ったほうがいいあるカ?」

「・・・・・・別に喋らなくていいネ」

ワタシは悟空の顔を少しの間睨みつけたが、何処吹く風の悟空に脱力気味にそう答えた。

「クププ・・・了解あるネ。鈴姉ぇ」

さも楽しそうに笑う悟空に少しムカついたのは内緒だ。

「・・・もういいネ。くれぐれもボロだけは出さないことヨ。後、中武研の部長をやている友人の古菲に紹介するネ」

そう言いつつ、ワタシは悟空にばれない様にこっそりと笑った。



                     ●



そんなこんなで、全ての準備が終わったのは午前10時を回った頃だった。
さっきまで何やら鈴姉ぇがガサゴソとやっていたが、天才のやる事は俺には分からない。
その間に俺はさっき貰ったお守り袋を覗いてみた。中にはお札とボタン電池に繋がったICチップの様な物が入っていた。
今日は学園長に会わせるらしいので、恐らくはそれに対する何らかの処置だろう。
盗聴器でもなさそうだし、俺に被害が出ないなら持っておくのが吉だろう。

「じゃあ、まず古が所属する中武研に連れてくヨ。なるべく他の皆にバレないようにす・・・「「「「「きゃぁぁぁ!」」」」」・・・るまでもなくバレたネ」

そう言いつつ部屋の扉を開けた途端に、俺達の前に人がバタバタと倒れてくる。
後ろでポツンと変なジュースを飲みながら立っている少女と本を持ちながら呆然としている少女が印象的だった。
どうやら扉の外から内側の様子を伺っていたらしい。

(えっと〜双子にバカピンクにラブメガネ、本屋とバカブラック、それにパパラッチか・・・全部2−Aのヤツらじゃねーかよ)

さすがに問題児を集めたクラスだけの事はある。俺は静かに溜め息を一つ吐き出した。
足元からは「重い〜」だの「ラブ臭が〜」だの「超りんにも春が来たか?」などと言う声が聞こえてくるが、無視だ無視!
それより興味が有るのは鈴姉ぇの方だ。
さぁて、天才鈴姉ぇはこの状況でどういった反応を見せるかな?
俺は期待半分に視線を鈴姉ぇに向けるが、予想通りというか期待外れと言うか、ごくあっさりとしたいつも通りの表情のままだった。

(けっ。これ位じゃ顔色一つ変えねぇかよ)

彼女達の行動は既に読んでましたって所か。じゃあ、対応の方は任せようか。

漸く少女達が起き上がる。
途端に口々に質問を投げかけてくるが、俺は即座に鈴姉ぇの背後に隠れるように回り込んだ。

「静かにするネ。悟空が怖がてるネ。別に逃げも隠れもしないヨ」

いや、別に俺は怖がってるわけじゃないんだけど・・・。
取り敢えず、冷静に告げる鈴姉ぇに少女達は口を噤んだ。
やはりと言うか、まず動き出したのはパパラッチだった。

「なら超りん! 少し質問してもいいかな?」

「別にいいネ」

「まず、そこの少年は誰かな?」

「ワタシの弟ネ」

「名前は?」

「超 悟空(チャオ ウーホン)」

「えっ? 全然似てないじゃん!」

「よくある家庭の事情ってやつネ」

「ふーん。で、歳は幾つ?」

「12歳ネ」

「昨日は部屋に泊めたのかな」

「勿論ネ」

「じゃあ、やっぱり一緒のベッドで寝た?」

「ワタシは一緒に寝たかたが、悟空が恥ずかしがったヨ」

「なら今朝の騒ぎは? 何か騒がしかったけど」

「悟空の寝起きが悪かたから叩き起こしたヨ」

「・・・どうしてこの子は女子寮にいるのかな?」

「ワタシを頼て昨日日本に来たヨ。ワタシは此処から小学校通わせたい思てる。だからこれからそれを学園長に相談するネ」

「・・・じゃ、じゃあ、何でこっそり出て行こうとしてた訳?」

「こっそりしてたはこうなる事が予想出来たからで、別に端から隠す気などないヨ。隠す気だたら昨日から騒いだりしないネ。後で皆に紹介するつもりだたヨ」

「・・・えっと・・・・・・」

す、すげえ・・・全く隙のない返答だ。顔色一つ変えずに、淀みなく戸惑い無く答えきったぜ。
これだけ冷静に淡々と話されたら、囃し立てるのは難しいだろう。
ってか、小学校に通わせる為に学園長に会うなんて聞いてないぞ。

「他には無いカ?」

「・・・え、えっと・・・直接悟空君と話してもいいかな?」

麻帆良のパパラッチは自分の不利を悟ったのだろう、標的を俺に換えるべく恐る恐る聞いてきたが、鈴姉ぇは問答無用とばかりにサクっと斬って捨てた。

「見ての通りこの子は人見知りするヨ。今はそっとしててほしいネ」

俺の動きまで利用して、完全に相手の出方を封じ込めやがった。
う〜む。敵に回すと怖いが、見方にするとメチャクチャ心強いな。
他の少女達もポカンとしてるぜ。

「これから学園長の所へ行く事なてるヨ・・・もう行ってもいいかナ?」

「「「「「う、うん・・・」」」」」

少女達が慌てて首を振る。皆はっきり分かる位、顔が引き攣ってるな。
と、ここで鈴姉ぇが態と笑顔を見せてフォローを入れる。

「別に今日が最後て事はないネ。許可は貰てるから今日からココに住む事なるヨ。今度ゆっくり本人と話すがイイネ」

その言葉で少女達の顔に笑顔が戻った。
いや、確かに旨いフォローだとは思うが・・・最後に俺に振るなよな。
兎にも角にも、流石は天才の名を欲しいままにする女傑だって事だな。
こうして俺達は誰憚る事無く、堂々と女子寮を後にしたのだった。



                     ●



まず俺が連れてこられたのはだだっ広い広場だった。
陸上部の部員だろうか外周を走っている人あり、テニスをしている人あり、バットの素振りをしている人ありと色々な人が居る。
そのまま鈴姉ぇの後に付いて広場の中に入っていく。
少し歩くと見覚えのある顔を見つけた。
チャイナ服を着た中国人━━バカイエローこと古菲(クーフェイ)だ。

「ニーツァオ、古。頑張てるネ」

鈴姉ぇが笑顔を浮かべながら声をかける。

「お・・・超。ニーツァオ。ココまで来るとは珍しいアルね」

「ウム。今日は古にお願いがあて来たネ」

「友人の頼みを無下に断たりしないアル。私に出来る事なら何でもいうアルよ」

古菲はグッと拳を握り前に掲げると、笑いながら答える。
鈴姉ぇはそんな古菲に答えるように拳を握ると古菲の拳に合わせる様に掲げ拳の裏にコツっと軽くぶつけた。
よくは分からんが、所謂ハイタッチのような、中国武術式の挨拶の様なものか?

「ありがとネ。さっそくだガ、お願い言うのは私の弟に武術を教えて欲しいヨ」

「武術アルか? 別に教えるはイイが・・・どうして超が自分で教えないアルカ?」

「ワタシは武術の師には向いてないネ。中武研部長の古にお願いした方がイイと思たヨ」

「?? よく分からなカタが、超がそう言うなら引き受けるアル!」

目を漫画チックに黒丸にしながら頭上にハテナマークを浮かべ、全く考えずに了承する。
さすがはバカイエローといった所か。バカレンジャーの面目躍如である。
どうでもいい事だが、前々から鈴姉ぇや古菲みたいな漫画の中国人は、どうしてそんな風に喋るのか不思議だった。
面白いのだが生で会話を聞くと違和感ありまくり。
それが二人も揃うと、これがまぁ似非中国人感が満載な語りになるよな。
それは兎も角として、古菲が俺を観察するように見ていた。

「で、その後ろにいる坊主が弟さんアルか?」

「そうネ」

鈴姉ぇに背を押されるようにして、俺は古菲の前に立った。

「えっと・・・始めまして超 悟空(チャオ ウーホン)です」

「オオッ、礼儀正しい坊主ネ。私の名前は古菲アル。気楽に古と呼ぶアル」

「わかりました古部長。俺も悟空(ウーホン)と呼んでください」

差し出された手を握り返す。
最初の印象が大切だからな、ここは元気に返事を返しておく。
ふぅ。理論的に動いてしまう自分が恨めしい。
身体は子供、頭脳は大人ってコナン君でもあるまいし・・・。

「で、ウーホンはどうして武術を習いたいアルか?」

実はこの質問、昨日鈴姉ぇにも聞かれた。
別に俺は喧嘩が強くなりたいとか身体を鍛えてマッチョになりたいとか思っている訳ではない。
俺の目的は二つ。

一つは生き延びるため。
鈴姉ぇの弟になった以上、必ず厄介事に巻き込まれる(決定事項)。
最悪は麻帆良祭の時に魔法先生や魔法生徒に狙われるだろう。
その時に自分の身を守る必要がある。まぁ鈴姉ぇの弱点にならない為ってのも少しは含まれているが、だからと言って鈴姉ぇに協力する訳ではない。
原作で鈴姉ぇはネギの敵になって、魔法を世界にばらそうとしていた。
未来で何かが起こった為だろうと予測は出来るが、詳しくはよく分からない。
基本的に俺は小説ならまだしも雑誌は流し読みで済まし、気になった漫画のみ文庫本になってキチンと読むタイプだった。
ドラゴンボールはオタクとまでいかなくても、文庫本を読み漁ったのである程度は細い部分まで把握している。
だが、ネギまは文庫本で読んだことがない。ああ、別に気にならなかったって事ではなく、ただ単に時間が無かっただけだ。
学生ではなく社会人になって、ゆっくりと本を読む時間など取れなかったのだ。まぁ取れても睡眠を優先していただろうが・・・。
コホン。あ〜つまりだ、雑誌で見たおおよそのストーリー位しか分からないって事だ。
で、どうせ鈴姉ぇの詳しい目的が分からないなら、助けてもらった恩として足は引っ張らないが、協力もしない。故に中立でいようと考えた訳だ。
基本的に平和主義の俺は原作の派手なバトルとかに興味がない為、基本方針として関わらない方向で今後を過ごす予定だ。

二つ目が、現実にはありえない『気』という物を使えるようになる事。
ああ、外に放出する『気』の事ね。
ドラゴンボールの原作が雑誌に掲載されていた頃、誰にでもあるだろうが「かめはめ波」の真似をしたことがある。
よく言う「空想の産物」に憧れた時代が俺にもあったのだ。
勿論、かめはめ波が出ない事はわかってやっていたのだが・・・。
でだ。今俺はそのファンタジーという世界に孫悟空の身体で存在している。
って事は悟空の使っていた技の数々を使うことが出来るのではないかと考えた。
これは冷静に現状を考えられるようになって真っ先に考えた事だ。
がんばれば幼き頃の夢がかなえられるのではないか?
苦しくったって、悲しくったって、ファンタジーの中では平気なのってヤツだ。このネタわかる?
もちろんここは「ネギま」の世界なのだから「魔法」とかも使えたら使ってみたい。が、立場上考えて魔法を知るのは難しいだろう。
何せ、超鈴音は一応は魔法使いではなく一般人。なら弟も一般人でなければおかしい。
さらに魔法に関わるとなると、原作の戦いにも巻き込まれる可能性大だからだ。
だったら『気』だけでも使えるようになりたいじゃないか! いや、なってみせるぞ俺は!!
舞空術で空を飛びたいし、気円斬と元気玉を使ってみたい。「みんな・・・オラに元気をわけてくれ!」ってね。
実は俺はドラゴンボールの技の中で気円斬が一番好きなのだ。次いで界王拳、元気玉という順番になる。あと、瞬間移動もいいね。
故に俺は必ず『気』を使えるようになる!!

まぁ以上の理由から『気』の修行しようと思ったのだが、素直にそれを口に出すことは出来ない。
だから、俺は昨日もこう答えていた。

「俺は強く・・・強くなりたいんです!」

「ほう・・・イイネ。強くなりたいヤツは大歓迎アル。超の弟なら期待できるアルね〜」

「ヨロシク頼むヨ、古」

「任されたアル。で、今から始めるアルか?」

「イヤ、今日は学園長のところに行かねばならないネ」

「アイヤー残念アル」

「明日から頼むネ」

「よろしくお願いします」

俺達は明日早朝に伺う事を約束し、広場を後にした。
その後、俺は鈴姉ぇに連れられ超包子に行き、葉加瀬聡美と絡繰茶々丸を紹介された。四葉五月にも改めて挨拶する。
初めてリアルに茶々丸を見た俺はまず驚いた。
見た目、耳のアンテナを除いて確かに人間に見えるのだ。ある意味マネキンが動いているようなものだ。
勿論、手触りは金属みたいに固いし、間接部は明らかに人とは違うのだが、改めて二次元を三次元に置き換えるってすげーと感じた瞬間だった。
俺はそのまま超包子の手伝いをして、少し遅めの昼食を取った。
食事を始めた俺は、やはり周囲の注目の的になっていた。
何故か俺に対抗するように急遽大食い大会が開催され、結果は当然のように俺が優勝したのだが、その場の雰囲気で今度リベンジ大会が開かれる事が決まった時は驚いた。
こうして見るとこの学園は、住んでる人の感覚は少しおかしいが、人情みある人々が集う、本当に魅力の溢れる良い街なんだと改めて感じさせられた。
そうこうしている内に時間になったと鈴姉ぇに連れられ学園長室に向かう事になった。



                     ●



「ほう、君が超君の弟の悟空君かね」

学園長に舐るように見つめられた。
正直背筋がゾクゾクした。
表面的にはただ見られているだけなのだろうが、その眼差しの影に隠れてチラチラと「問題児予備軍」に対する目で見られるのは勘弁して欲しい。
別に俺は悪い事してないっつーの! ってか、する気もない。
まぁ、全部俺が勝手に思っただけなのだが・・・。
その気持ちが表情や態度に出たのか、学園長が笑いながら声を掛けてくる。

「そんなに警戒せんでくれるか?」

「・・・なら、そんな目で見ないで下さい」

「フォフォフォ。それは悪かったのぅ」

謝るって事は肯定って事だよな・・・全く。
こんな時のバルタン笑いってのは、結構不快に感じるものだ。
加えてあの頭・・・原作でも思ったが実際に見てあの頭はないだろうってのが感想だ。「仙人って皆こんな頭してんのか?」って突っ込みを入れたくなるよマジで。
本気で近衛 木乃香と血がつながってるとは思いたくない。木乃香は結構、気に入ってるキャラなんだぞ。
改めて、二次元作品は何でもありだなって感じた。
一応、お約束で突っ込んでみるか? とも思ったが、立場上ここは控えておいて心象をよくした方が得だと判断した。

「えっと、改めて・・・ゴホン・・・始めまして超悟空です。姉がお世話になってます」

「ふむ。よく出来た弟君じゃのう」

「まったくネ。後は可愛気があれば尚良いヨ」

「うっさいよ、鈴姉ぇ」

「フォフォフォ」

和やかに会話は進む。
雑談交じりに色々と学園長と会話を交わす。
途中途中で鈴姉ぇがフォローを入れながらもボロを出さずに会話を進める事が出来た。
で、頃合とばかりに鈴姉ぇが今回の目的を告げた。

「で、今回の顔合わせだガ、学園長にお願いがあて来たヨ。実は・・・悟空を小学校に通わせたいと思ってるネ」

「ほぅ」
「はぁ!?」

学園長は平然と、俺は驚愕の眼差しで鈴姉ぇに視線を向ける。
マジスか?
パパラッチに言ったのは話を流す為ではなく本気だったって事?

(冗談だろ・・・今更小学校に行くなんて、本当に江戸川コナンになるじゃねーかよ!)

だが、わざわざ時間を割いて鈴姉ぇが学園長に話を持ちかけるってのは━━何かしら理由があるはずだ。
考えろ、俺!
小学校にいかなきゃならない理由は・・・。
頭をフル回転させるが、所詮は凡人の頭だ。そう簡単に答えは出てこない。
ならここは、何とか切り抜けて時間を確保する必要があるな・・・。

そんな俺の思惑に気付いていたのか、鈴姉ぇは薄ら笑いを浮かべながら俺を見ていた。
そして、まだまだ私のターン、俺に拒否権は無いと言うが如く、おもむろに学園長に語りだす。

「実は・・・見ての通り悟空は学校に行くのが嫌いヨ。だからココまで学校行かせる話は隠してたネ」

「なっ!?」
「ほぅ」

「ちょ・・・ちょっと待ってよ鈴「でも悟空は学校には行きたくない言うヨ」・・・って話聞けって!!」

「フォフォフォ。昨日の話の話題から考えても、今の態度から見ても、どうにもそう言う事らしいのぅ」

「中国でも渋々だったガ、日本では行く気自体が無いネ」

「じゃが、超君はそうはさせたくない・・・と」

「そうネ」

「確かに・・・学校に行かないのはマズイのぉ。記憶障害でも身体的には何ら問題はないのだからの」

くっ、前門の虎後門の狼って所かい。
学園長にも手を回し俺の反応を見越して、すでに昨日から計画済みだったって訳だ。やられたな。
どこまで先読みすれば気がすむんだよ・・・まったく。
この状況━━どうするよ・・・俺。
何を考えてんだよ・・・鈴姉ぇ。

鈴姉ぇの考えが読めず焦る俺だったが、その答えは鈴姉ぇ自身が明かしてくれた。

「そうネ。ココで生活するなら・・・せっかく麻帆良に住むのなら、一人で過ごすより皆と楽しく生活して欲しい」

そう言いつつ真面目な顔で俺に訴えかける。

「ワタシがずっと傍に居てあげる訳にはいかないネ。いずれは一人立ちする必要があるヨ」

じっと俺の顔を見続けながら、憂いの表情で言葉を紡いでいく。

「超君・・・」

学園長も鈴姉ぇの言葉に打たれたのか、真摯な眼差しで俺に視線を送ってくる。

そうか、全ては俺の為って事か・・・。
学園長の手前言葉は誤魔化しているが、目的が成功しようがしまいが、鈴姉ぇは原作同様に未来に帰るんだよな。
その時の事を考えて・・・一人でも麻帆良で暮らせるように学園長にも顔合わせさせて、今の内から手を打っておこうとしている訳だ。
ふぅ。
なら・・・俺に反論することは出来ないじゃないか。
ったく、そうならそうと最初から言えっての。
ガキじゃないんだから、ちゃんとした理由があれば俺も従うって。

俺は静かに両手を上げ降参を示す。
その仕草に、鈴姉ぇの顔が憂いから笑顔に変わった。

「・・・了解。小学校に行かせて貰うよ」

俺は照れくさそうに笑いながら鈴姉ぇに視線で合図を送り学園長に向き合う。

「学園長先生。俺を小学校に行かせて欲しいです」

「うむ。超悟空君の小学校への転入を許可しよう」

学園長は満足そうな笑顔で頷いて答えてくれた。
こうして、俺の小学校転入が決まった。
名探偵コナン張りに今更な学校生活だが、もう一度学校に行きたくても行けない大人達からしてみれば羨ましい事この上無いだろう。
鈴姉ぇの思いに答える為にも、恐らく退屈だろうが、楽しくて平穏な学校生活を今一度謳歌してやろうじゃないか。

まったく・・・これじゃあ鈴姉ぇに足向けて寝れないな。

「・・・ありがとう。鈴姉ぇ」

俺は態と鈴姉ぇに聞こえないよう、呟くようにお礼の言葉を掛けるのだった。



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