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MY BOUND ──エンゼルランプ── 間章/真理は現在だ!
作者:MAO   2009/10/10(土) 00:05公開   ID:Nm8xuNrFDjE
 
 芽吹く緑に侵食されつつある黄色い荒野の只中、惨状が死を漂わせていた。
 消えかけているものの、黒い何かを栄養源とした赤い炎を所々に生やし、その周りには機械の部品が大量に散らばっている。
 オートバイのものであろうハンドル。
 黒い筒のようなもの。
 判別が不可能なほどの細かい破片。
 そして、黒い頭。
 マネキンのようにつるりとした、ただ目も鼻も無いそれは、本来首がある部分からなにかのチューブのようなものをはみ出させている。

 しかし、口は在った。
 硬質な、ガラスを思わせる光沢をした顔のカバーの下部分が割られ、白いものが覗いている。

 歯だ。

 一度も使われたことがないような、きれいな形の白い歯。
 ただ、なにか硬いものを無理やり突っ込まれたように、折れて砕けてしまっているため審美性はまったく感じられないが。

 ガッ

 その黒い頭を無骨なブーツで踏みつける者がいた。
 その行動に微塵も疑問を感じていないかのように、目線は別のところを向いている。
 いや、正確なところは判らない。
 なぜなら、その者は仮面をかぶっていたからだ。
 目だけが対照的に赤い、蒼い仮面。
 傷のような五本の溝を刻みつけた蒼い仮面。
 その内の三本に口を縫われている。
 頭頂部には耳のような、角のような突起があった。

 そしてそれ以下、全身も蒼かった。
 交差した二本のベルトを纏めるようなバックルには牙のような紋章が赤く光っていたが。
 
 そして、両手には象牙のような白の拳銃。
 無骨な、オートマチック形式の銃。

 黒い頭に片足をのせて、左手の銃を肩に当て、右手は力を抜いて伸ばしながら遥かな上空を見上げる。

 その視線の先には黒い染みがあった。
 健康的な青い空に浮かぶ白い雲にインクを一滴垂らしたかのような黒い染み。
 蒼い男がいる地上からでは、手を伸ばすことすら諦める絶望の距離だ。
 掌に収めることは容易に出来ても、空しか握れぬ天上との距離でもある。
 神の胸倉を掴み上げようとするようなものだ。
 ただ、あれは神ではなく、確実に自分に害を為す物だ。
 
「ははっ」

 いつか必ず殺す!

 真理にすべき誓いを込めて、左の銃を向ける。
 黒い染みは、銃口にすっぽりと呑み込まれてしまった。

 
 そして、爆弾が落ちてきた。


「わっ、わわわわわわわ」

 蒼が生み出した黒と赤の戦場より、西へ五百メートルほど離れた場所。
 そこには、戦闘が始まる前にいささか乱暴な手段によって避難させられた卵型と言えなくもない、白い球体の側車が刺さっていた。
 道中に小規模のクレーターを散らして、疲れ尽きたかのように頭から粒の粗い砂の中に埋もれてしまっている。
 その中、重力に逆らうことなく頭を天に向けて、せわしなく両手を動かしている少女がいた。

「あー! いー! うー! えー? おー!?」

 手だけでなく口も休ませずに、白い空間内で自分を中心に浮かんでいる薄青いウインドウを操る。
 薄いながらも軟らかそうなシートにもたれているのは、小さな少女だった。
 童顔で、視力が弱いのか黒縁メガネをかけている。
 十の後半を超えているのか疑問に感じさせるその容姿は、小ささを補うかのようにもこもことした服で飾られていた。
 白とピンクを基調としたフリル満載のドレス。
 というよりむしろ、フリルを着ているといったほうが正確にさえ思える。
 若干形が潰れてしまっている、ブリムの大きい、スロウチハットのような帽子も、見事にフリルとレースで彩られている。
 そのフリルに沈ませるように、胸元によく分からない生物のぬいぐるみを抱きながら、一つのウインドウを凝視する。

 そこには、地上からでは捉えられないスカイキラーの姿が映っていた。
 UFOのような円盤型のスカイハンターではなく、爆撃機のようなフォルムのスカイキラー。

 広範囲に渡って人を殺傷することに長けているはずのそれは、今回は武装を解いているようだった。
 それがどういうことを意味するのか、察しの悪い少女もわかっていた。

 すなわち、武装を解いても十分な何かを積んでいるということ。
 それが何であるかは、ポステル(?)の発言で判ってしまった。
 別のウインドウに映る、異形の蒼い男に視線を移す。
 ポステル。敵は彼と同じ“改造人間”。
 
 いかなる反撃も許さない兵器。

 ピーピーピーピ────

 複雑な気持ちを映した目で戦場に立つ蒼い男をメガネの奥から見つめていると、別のウインドウ──スカイキラーを映しているものが、警告音を発しながら赤く染まる。

「あー! 気付かれましたー!」

 ハッキングを遮断され、衛星を介した回線を強制的に切断される。

「みーん! こっちですかねー?」

 白黒のノイズ一色になったウインドウを手前に引き寄せ、コンソールに指を這わせる。
 今度は別の衛星を利用して映像を盗る。

「どーんなもんですか!」

 鼻息荒く満足げに、アングルこそ違うものの、スカイキラーを映したウインドウを前に胸を反り返す。

 そして、そのスカイキラーから爆弾が投下された。

「えぅぅえっ!?」

 いや、爆弾ではない。
 武装は搭載していないはずなのだから。
 そもそも小さすぎる。
 となると、この黒い小さな点は──

「改造人間です! ポステルさん!」
「遅えんだよ。どうせスグに俺にやられんのによ。さっさと出てきてやられろってんだ!」

 少女が警戒を促すも、ポステルは不敵に大胆に鼻で笑い捨てる。

 おまけに、また回線を切る。

「あー! いー! もー!」

 奇声を発しながらも、再び回線を繋ぎ直し、上空から隕石のごとく落ちてくる敵の分析を開始する。

「うー!? はやすぎて捉えきれないですぅー!」

 ものさしでは測り切れない距離と、引力によるスピードに、うーうー文句を言う。

 だがその時、

 落下中の敵が赤く燃え上がった。

 その様はまさしく、大気圏を突破しようとする隕石そのもであった。

「この炎をまとったキック・・・・・・。ポステルさん! 敵はエクィテス世代です。それもズメイタイプのやつです!」
「ははっ。第15世代か。若造が」
「そんなこと言ってないで避けてくださいよー!」
「安心しろ。地球が滅ぼうとかすりもしない。これは真理だ」
「地球ほろんじゃダメです!」

 軽口をたたきながらも、いつのまにかやはり緊張の糸が織り込まれる。

 こうなってしまってはもう自分にできることは少ない。

 彼が、ポステルが負ける確立は、本人はああ言っているものの決して低くはない。

 ならばせめて、勝てる確率を上げる。

 決意し、覚悟し、胸に抱えたぬいぐるみごと抱きしめる。

 少女はコンソールを十本の指で奏で始めた。


 地上に立つ自分めがけて落ちてくる炎。

 必殺の蹴りであるそれを頭上に、ポステルは両の銃を構えなおした。

 逃げることはしない。
 避けることもしない。

 しかし、

 かすりもさせない。

「セット」

 呟く。
 宣言する。
 力ある言葉で。
 己に備わった固有の能力を使うことを。

「本気を出さずに、どこまで耐えれるか、か」

 望むところだ。

 頭上の敵。

 愚直なまでに、一直線で落ちてくる。

「墜としてやる!」

 宣言する。
 宣告する。
 真理にすると。

 左右の銃を敵の燃え上がる足に当たるように向ける。

 銃口に、黒い光が点る。

 ポステルがその重さに耐えかねるように腰を深く落とす。

 足首が地面に埋まる。

 光はみるみる大きくなり、黒い球となる。

 そこに、炎の蹴りが炸裂した。

 音はない。

 炎は黒い球に吸い込まれ、ポステルにまでは及ばない。

 敵の蹴りは黒い球の表面に張り付いたままだ。
 
「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 
 そのまま。
 敵を張り付かせたまま銃を全身で回す。
 ハンマー投げのように。

 1回
 2回
 3回
 4回
 5回と回転し、そこで黒い球を閃光と共に消滅させる。

 衝撃と遠心力とで敵が投げ飛ばされる。

 反動でポステルも後ろに弾き飛ばされる。

「ちいっ!」

 舌打ちは果たしてどちらの口から洩れたものか。

 砂を大量に撒き散らしながら着地し、足が滑るのを止める。

 距離をおいて睨み合う。

 青い鬼のようなポステルと対峙する敵も、やはりまた全身を鎧のようなスーツで覆っている。

 しかし、どちらかと言えば鎧の比率のほうが多いかもしれない。

 いや、鎧というよりは甲冑か。

 銀と赤の色彩。

 エクィテスの名称のとおり、騎士を模したその姿。
 そしてズメイの名を冠するだけあって、龍の意匠があちこちに見られる。
 特に右手には、龍の顎のような手甲がはめられている。

 こちらを見つめるは甲冑の奥より覗く複眼めいた赤い目。

「ずいぶんと久しぶりだなあ。なあ、そうだろう?」

 無い口で気安くも話しかけてくる。

 ポステルは上から睨みつけるように、アゴを上げて相対する。

「ああ? なに勝手喋ってくれてんだよこのモブキャラが! てめえなんぞに台詞を恵んでやった覚えはねえんだよ。 台本どおりにさっさとヤラレてりゃイイんだよ!」
「あ?」

 表情は変わらないものの、敵の纏う雰囲気がとたん険悪になる。

「おめえこそなに言ってくれちゃてんだよ? ポンコツやろうが! 時代についてこれねーんだったら、おとなしく物置の隅でカビッとけ!」
「ハっ! 便所の場所も覚えランねえクソガキが! 新しいオモチャ買ってもらったからってハシャイでんじゃねえぞ!」
「ホコリかぶったクズ鉄が! だいたいなんなんだその姿はァ? 年とって禿げたのかよ。タイガーロイドさんよお!」
「てめえらザコに本気出すまでもネエからに決まってんだろうがッ! だいたい来ンのがオセエんだよ! カスみたいな戦闘員ばっか送り込みやがってよ!」
「はんっ! そのコマンドロイドどもに時間かけてたのはどぉこの誰なんだよ!」
「わざとに決まってんだろうが! てめえが小便すましてパンツはきかえて洟かんで祈りを捧げて震えを押し殺す時間を稼いでやったんだろうが! ああ!?」
「おめえがこの俺と戦う資格があるかどうかテストしてやったんだろうが! なんせ、一隊の隊長を任されていたとはいえ、そっから逃げ出した腰抜けヤロウだからなあ!」
「弱い者イジメに飽きたんだよ。ガキクセえからなあ!」
「それでクソみたいなニンゲンども守ってセイギノミカタ気取りかよ! はっ! 何の意味があるってんだ。家畜にすんのか?」
「なんとでも咆えてろイヌ! てめえの役割は文字通りカマセ犬なんだからよお!」
「だまれ負け犬ヤロウが! だれがカマセ犬だ!」
「てめえ以外に誰がいる! カマセ犬はカマセ犬らしくさっさとオレの技くらって、せいぜいハデに散ってオレの礎になりやがれ!」
「こんっのお! 今すぐそのヘラネえ口潰してやるっ!」
「できるわけねーだろカマセ犬! イイ加減テメエの役割サトれってんだっ!」

 ひとしきり罵詈雑言を吐き散らすと、言葉での相互理解は不可能と判断し、拳で潰しあうことに移行する。

 ズメイタイプはさらに後ろに飛び退くと、右手をポステルに向けて構える。

 潜むようについている龍の頭が稼動し、落ちるような上顎を持ち上げる。

 龍の目が赤く光った。

 開いた顎の中で熱波が渦巻いたかと思うと、燃える焼弾が発射された。

「アタルかマヌケええっ!」

 ポステルは前へと跳んでかわし、その勢いのまま、背後で上がる爆発の砂柱を気にもせずに走りこむ。

「せいぜい踊れやっ!」

 続けざまに焼弾を放つ。

 燃える球は空気を攪拌し、気流を生み出す

 不自然にうねる透明な壁を強引に引き裂いて、ポステルがさらに走る。

 跳び、旋回し、反転し、それでもかわしきれないものは銃で迎撃する。

「わざわざ近寄ってきやがって! そんなに殴られてえのかマゾヤロウ!」

 ズメイタイプが焼弾を放つのを止め、その炎を拳に蛇のように纏わせ、迎え打つ。

「おっらああああああ!」
「ふんっ!」

 ドンッッ

 パンッッ

 ズシッッ

 ポステルは銃の背で拳を逸らし、はじき、ずらし、受け流す。

 そのたびに砂をまきあげ、散らし、足を取られないように円を描くように回る。

「オラオラどうしたあっ!? 一発もあたらねえぞォっ! テメエ自身のスペックについていけてネエんじゃねえのかァっ!」
「だまれっ! そっちこそロクな反撃もできねえくせによおっ!」

 罵りあいながら、交代の無い攻防が続く。

 炎の拳を弾きながら足を斜めに出すことによって体を入れ替え、、

 勢いののった拳は、数歩仰け反るように後ろに下がることで大振りさせる。

「チいッ! クソっ!」

 避けるだけで、まともな勝負をしようとしないポステルに苛立ったのか、汚い言葉を吐くズメイタイプ。

 怒りでさらに大振りになった攻撃を、ポステルはバク転などして、余裕を見せながらかわしていく。

 ドンッ

 わざと外して、ズメイタイプの側頭部をかするように弾丸を撃つ。

「きははははっ!」
「うおおおおおおおおおおお!」

 怒りに任せて直進する、

 と見せかけて右にぶれる、

 というわけでもなく左に跳び、回りこむように接近して横薙ぎのチョップを放つズメイタイプ。

 しかし、

 それだけのフェイントをポステルは難なく見破り、体を向けながら最小限の動きでかわす。

 そしてさらにすれ違いざまに、

 ドウンッ

 本来耳がある箇所に銃の背を押し付け、暴発まがいの爆音で発砲する。

「ぐうっ」

 高性能すぎる耳のためにより苦しみ、耳を押さえながら、ズメイタイプが距離を取る。

 憎憎しげに睨むも、ポステルは意に介する風も無く、銃を指で器用にクルクル回す。

 そして不敵に言い放つ。

「フンっ! だいたいな、テメエは最初の蹴りで既に決めておくべきだったんだよ」
「きっさっまあああああああああ! だまれええええええええええ!」

 さらに格下と見下しているポステルの挑発に、完全に緒が切れたのか、ズメイタイプが雄叫びを上げる。

「そうまでゆうってんならくらいやがれってんだああああああああああ!」

 ズメイタイプは大振りのパンチを放つことによって、いったんポステルと距離を開けると、

「はああああっ!」

 その場で一足飛びに空高く舞い上がる。

 白い太陽を背に、反射で輝く銀を纏ったズメイタイプは右腕を大きく掲げる。

 右腕の龍の顎が蠢き、

 ズルリと、甲冑から芽吹くように、

 炎で構成された蛇体を引き摺り這い出てくる。

 赤い龍は遊ぶように、ジャレつくようにズメイタイプの周りを泳ぐと、その右足に巻きつく。

「おっっらああああああああああああああああ!」

 ズメイタイプが怒声を響きわたらせながら、右足を突き出し、落下してくる。

 最初と同じ、一直線の必殺のキック。

 そして最初のときと同じく、

「ハッ。後付けの外部デバイスに頼んなきゃなんもできネえ、スネかじりのクソガキが」

 ポステルは不敵に笑うと、出力機である二丁の拳銃をホルスターにしまう。

「なんでテメエの攻撃が俺にとどかねえか、教えてやるよ!」

 ポステルは言い放つと、砂面を蹴って、斜めに跳び上がる。

 炎のキックに立ち向かうように。

 ズメイタイプは炎のキックを。

 ポステルは腰に溜めたアッパーを。

 常人には耐えることなど不可能な威力が交差する。

 が、

 ポステルの、牙の紋章のベルトのバックルが赤く輝く。

「どっせええええええいっ!」
「があっ!?」

 届いたのはポステルの拳だけだった。

 ズメイタイプのキックはその纏った炎ごと、ポステルの体表を滑るように外れて、空に炸裂した。

 アゴを強打され、ズメイタイプが仰け反り、宙をわずかに浮かび戻る。

 ポステルはそのまま、明らかに重力や引力を無視した勢いでさらに、上へと昇る。

 ズメイタイプと接触したことによる減速も無い。

 先にズメイタイプが舞い上がった地点辺りで、身を捻って反転し、空に静止する。

「いくぞ」

 静かに宣誓する。

 真理を体現する為に。

 ダンッッッ

 ポステルは何もない空中を蹴って、勢いをつけて落下する。

 両腕を大きく縦に広げて全体重をのせ、

 右足を鋭く突き出す。

「ライッダアアアアアァァァッァアアアッキイイイイイイイイイイッッックゥゥッ!!」

 叫びは力となり、

 右足のつま先が黒い光に包まれる。

 そして、

「くっっっそおおおおおおおおおおおおおお!!」
 
 宙に固定されて、いまだ浮いたままのズメイタイプに向かって、

 正直なまでに、

 自明なまでに、

 吸い込まれるように蹴りが炸裂し、

 ッッドッンッ

 真っ二つに引き裂いた。

 ッザッシャアアアアアアア

 砂地を抉り割るように、勢いを殺しきれずに滑る。

「俺にあの7文字を名乗る資格はねえが、これぐらいならいいだろ」

 腰を深く落とし、片膝をついくことによってようやく足を止めたポステルが、自嘲するように零す。

「これが真理だ」

 ドッゴッオオオオオオオオオオオン

 少し遠くで、爆発が起こった。

 俯き、逆光で黒く塗り潰された仮面の中、赤い複眼が怪しく光っていた。
 



「ちっ。こんなカマセのザコに騎士エクィテスのボディが与えられるとはな。エクィテス世代はとっくに量産が済んで、また新しい第十六世代が完成しているってことか」

 砕け散ったズメイタイプの破片と手に取り、ポステルが独り言のように呟く。

 しかしもちろん、独り言ではない。

「そうですねー。たーぶんそーうでーすね〜」

 腹が立つぐらい能天気な声が聞こえてきた。

 ただし、存外に近くから。

 コロコロと。

 まさしくそんな擬音が似合う感じで、白い卵のような物体。

 切り離したはずの側車だ。

 切れ目の無い足跡をレールのように残して、こちらに近づいてくる。

「・・・・・・・・・・・・自走もできたのか、それ」
「はーい。できますよ〜。知りませんでしたかー?」
「知らねえよ」

 一気に脱力して、やる気なくそっけなく言い放つ。

「はあー。やっぱり、敵さんの進化には際限がありませんねえー」

 脇(?)の部分からマジックアームを伸ばして破片を回収しつつ、ため息混じりに卵が言う。

「いくらネットで繋がっているとはいえ、やっぱりこんな辺境じゃ手に入る情報にも限りがありますし」

 主要国ではどうなっているんでしょー? などと割と暗いことを陽気な声で呟く。

 ポステルは返事をせず、あごに手を当ててなにやら考えている。

「んん〜? ポステルさーん? どうしました〜?」
「いや、オメーの言うとおりだと思ってな」
「はへ? わたしなんか言いましたっけ〜?」
「・・・・・・・・・・・・テメエなあ」

 いちいち気を抜いてくる少女に頭を抱えながらも、どうにかポステルは続ける。

 ヤケクソ気味だったが。

「だーかーらー! いつまでもこんな辺境にいてもしょうがネエよなって言ってんだよ!」
「ああ〜。そうですかー。うんー。そうですねー」
「なんでテメエにはそんなにシリアスさがネエんだ!?」

 地団駄を踏みつつ、ポステルが卵に怒鳴る。

 カチ割ってやろーか。

 そう思ったのは秘密だ。

 真理として明るみに出してはいけない。

「じゃああー。どこいくんですかー?」
「そうだな・・・・・・」

 ポステルは頭の中にずらずらと世界の主要先進国を思い浮かべる。

 そして、今の自分の状態を付加条件として、項目を絞る。

(ふーん。しかしやっぱなー)

 結局、最後に残ったのは、

「日本にするか」
「ええー!? 敵の総本山ですかあー? てっきりこの大陸の中での話だと思ってたんですけどおー?」
「日本が総本山ってわけじゃねーだろ。別に。そう噂されてるだけで」
「でもでも、火のないところにはって言いますよね」

 少女はおそらく口を尖らせて反論するが、ポステルはそうは思えなかった。

 最も強く支配を受けた日本。
 為す術なく。
 必死の抵抗も虚しく。
 伝説の戦士も闇へと消えた。

 しかしそれでも、敵の首領は日本にはいないのだろう。
 月か。
 さらなる光年遠くか。
 この銀河系にいるかも怪しい。
 次元からして違うかもしれない。

 ともかく、常識では測れない相手なのだ。
 自分たちが想像できる場所にはいないように思えた。

「それにしても、なんで日本なんだ? 周り海しかないし。狭いし。列島だし」
「それでもなにかあるんでしょうねー。東洋の神秘とか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 このタイミングでボケられる少女にまたも黙り込んでしまうが、

 ポステルも日本に関する信じられない噂をいくつか思い浮かべてしまったため、責めることはできなかった。

「まあ、特に反論もねーならとりあえず日本行くか」
「とりあえずで行ける距離じゃあありませんよー。海も渡らなきゃなりませんしー。ポステルさん泳げるんですかあー?」
「泳げるわけネエだろ。浮かばねえんだから。でもよ、そんなに呼吸しなくても大丈夫なんだから、海底歩いていきゃいいだろ」
「ええ〜!? バイク、水面走れないんですか!?」
「カイソーグじゃねえんだよ、俺は」
「わたし、泳げませんよ?」
「知るかっ! 抱えて歩いていってやるから。どれぐらい息止めてられる?」
「何秒で日本に行けますかー?」
「単位が秒の時点でムリだなこりゃ」

 もとよりこの少女には期待していなかったが、昨今では安全に泳げる場所がないために仕方ないとも言える。

「ん?」

 ポステルが何かを思い出したようで、卵を蹴って質問する。

「そーいやー。オメー、日本人じゃなかったっけ?」
「ふきゃっ! 揺らさないでくださいよー。・・・・・・・・・・・・えっと、違いますけど、なんでそう思ったんですかー?」
「いやだって、オメー初めて会ったとき、たしか『立花』なんたらって名乗ってたじゃネーか」
「ああー。ちがいますよー。それはコードネームみたいなもんです」
「はあ? なんだそりゃ?」
「ポステルさんの名前みたいなもんですよー」
「テメエにゃ本名あるダローが」

 なんとなく、少女にではないものの気分が悪くなって、視線を外す。

 すると、遠くから音が近づいて来た。 

 ブロロロロロロロロロロ────

 送ったシグナルに応えて自走してきた、乗り捨てたオートバイだ。

 それを振り見ながら、ポステルは再び少女に言う。

「ま、とりあえずは、船の調達だな」


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■作者からのメッセージ
 はい。すみませんでした。遅くなりましたね。
 どうもお久しぶりです。MAOですよ。覚えてもらえているでしょうか。すんごく時間が開きましたね。しかも今回の間章だし。いえ、一応ポステル一味も主要キャラクターですけどね。本名分かっているのが誰一人としていませんけど。
 今回の敵は分かるとおり(?)龍騎をイメージしました。なんだか戦闘シーンが短いし、技もそんなに出てきていない気もしますが、今回はポステルに花を持たせるために楽勝モードで。
 エクィテスは『騎士』で、ズメイは『龍』です。
 必死に調べました。主にウィキで。
 もしかしたら間違っているかもしれません。
 とはいえ、そのせいでこんなに遅くなったわけではないのです。
 むしろポステル編は書きやすいです。
 最初に「この作品で『仮面ライダー』という単語は使いません」と豪語した割に、『ライダーキック』を使用していますが、ポステルが言うように、この程度なら許容範囲内と判断したからです。これぐらいしないと、ヒーローっぽくないんですよね。ポステル。口悪いし。
 言い訳ではありません。弁明です。
 日本語って便利ですね。
 投稿が遅くなった理由は────恥ずかしいので言えませんね。
 ともかく、結局間に合わなかったとだけ。
 90K書いてまだ半分ってなんなんでしょうね。
 三作品同時進行なんてやるもんじゃないです。素人のクセにね。
 でも諦めることなくいまも頑張っているので、いずれ何らかの形でここに投稿しようと思います。
 次回はできるだけ早く仕上げますのでご容赦を。もう一つのも、できれば今月中には。
 そうしましたらば、もう夜も遅いので今日はこのへんで。
 誤字・脱字や気になる点や感想ががありましたらぜひとも書き込んでくださいな。
 ではでは。
 長文・乱筆失礼しました〜。
テキストサイズ:17k

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