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次元を超えし魔人 第71話『コロナの魔法修行』(STS-Vivid編)
作者:193   2010/03/21(日) 01:54公開   ID:PBCsiN3nXnw



 クラナガン郊外にあるプレシアの屋敷に招待されたコロナは、ヴィヴィオに案内され、ちびっ子達の待つ屋敷の書庫に足を踏み入れた。
 無限書庫とまでは行かないまでも、外観とは比べ物にならないほどの広さを持つ巨大な書庫がコロナの目に飛び込んでくる。
 ここは『時の庭園』の大書庫と繋がっていて、それ自体も亜空間に固定された別世界となっていた。
 厳密に言えば、ここは屋敷の中でも時の庭園の中でもない。

「す、凄い……こんなのが家の中にあるなんて」
「これを造ったのもパパなんだよ。亜空間と扉を繋ぎその空間を固定する事で……事で……えっと……ごめん。とにかく封鎖結界とかの応用と思って」
「う、うん……やっぱり凄い人なんだね」

 ヴィヴィオも実際には、そこまで詳細に説明が出来るほど理解はしていなかった。
 D.S.とプレシアが研究しているのは、メタ=リカーナとミッドチルダ双方を合わせても、この次元世界で間違いなく一番先を行く最先端の魔法技術だ。その知識と技術は一般に知られている物の何世代も先を行く。
 幾らヴィヴィオが『天才』と呼ばれるほどの才能を有しているとはいえ、同じ天才であり何十何百年と知識を蓄え研鑽し続けてきた稀代の天才魔導師二人に敵うはずもなかった。

「コロナ・ティミルです! よ、よろしくお願いします!」

 部屋の中央で沢山の本に囲まれて勉強をしていたキャロとルーテシアの二人に、コロナは深くお辞儀をし丁寧に挨拶を交わす。
 今日からここで、この二人とヴィヴィオと一緒に魔法の勉強を教えて貰うことになっていたからだ。
 キャロとルーテシアは厳密にはD.S.の弟子と言う訳ではないが、その知識と技術、それに魔導師としての実力は今のヴィヴィオの遥か先を行く実力者だ。ヴィヴィオにとっても魔法の先生と言うべき存在だった。

 D.S.のあの性格だ。最初から丁寧に、基礎的な知識や理論を細かく教えてくれる訳ではない。
 精々、ここからここまでの本を読んでおけと勧めてくれるくらいだ。
 それだって気まぐれとも取れるほど珍しい事で、アリサに言われたからといってコロナに魔導書を勧めた行為自体がとても珍しい事だった。
 事実、その話をコロナから聞かされたヴィヴィオは目を丸くして驚いたくらいだ。
 だからこそ、理論立てて分からないところを教えてくれるキャロとルーテシアの二人には、ヴィヴィオも助けられていた。

「キャロ・ル・ルシエです。こちらこそよろしくお願いします」
「ルーテシア・アルピーノ。よろしく、コロナ」

 キャロとルーテシアが続いてコロナに挨拶を交わした。
 以前のルーテシアなら初対面の相手には、もっと無愛想な態度を取っていたかもしれないが、ヴィヴィオやキャロといった歳の近い女の子達と接するようになってから、以前と比べて随分と感情表現が豊かになってきた、と周りに認められるほどの成長を見せていた。
 こうしてキャロと一緒に魔法の勉強をして、学校に通っている事も良い影響に出ているのだろう。

「え? お二人も同じ学校なんですか?」

 コロナが驚いた様子で質問する。
 そう、キャロとルーテシアの二人も、ヴィヴィオ達が通っている『St.(ザンクト)ヒルデ魔法学院』の中等科に通っている。
 本来なら初等科五年に編入される予定だったのだが、諸事情もあって二年飛び級して中等科への編入となった。
 というのも学校ではかなり力を抑えてるとは言え、その能力は同年代の子供達とは比較にならない。いや大人達を入れたとしても二人の力は上から数えた方が早いくらいだった。
 特にキャロの力は、管理局の武装隊でエースとして第一線で活躍できるほどの力を有している。
 生徒は疎か、指導に当たっている教師の実力すら魔法・勉学・実践・戦技全てに置いて遥かに凌ぐ二人を、例にならって初等科から編入させるには無理があった。

 最初は二人の力に目を付けた大学の研究チームなどからも誘いがあったのだが、二人はそれを断っていた。
 重要なのは他者とのコミュニケーション。同じ年頃の少年少女との触れ合いにある。
 大人の中に混じって何かをするのであれば、プレシアの本拠地『時の庭園』で研究者として働けばいいだけの事で、それでは学校に通う意味がない。

「あ、もしかして中等科の天才少女って……」

 コロナは二人が同じ学校に通う先輩だという話をヴィヴィオから聞かされて、ようやく気がついたかのように声を上げた。
 二人と直に顔を合わせた事はなかったコロナだが、二人の噂は耳にしていた。
 それは当然だ。学年トップの成績(キャロとヴィヴィオ二人揃って一位)は勿論、実技に置いても二人は群を抜いており、学内の様々な記録を次々と塗り替えるという偉業を成し遂げていた。
 実のところそれでもデバイスは使っていないし、学院に通う前に施された魔力リミッターも機能している。
 それでも元々の基礎能力に違いがあり過ぎるのが目立つ原因となっていた。
 ネイとカルによって育てられたオーバーSランクの魔導師であるキャロと、レリックを失い以前と比べて弱体化しているとはいっても屈強ともいえる数々の召喚虫を従えるルーテシアに、魔力や魔法の知識で敵う学生などいるはずもない。実戦経験に置いても、局の魔導師を軽く上回っているくらいだ。

「て、天才だなんて大袈裟だよ。ねえ、ルーちゃん」
「うん。私達より凄い人なんて、ここには沢山いるし。ヴィヴィオも頑張ってるから、油断をしてると私達もいつ追い抜かれるか……」
「そんな! 私なんて、二人に比べたらまだまだだよ!」

 コロナは互いに謙遜し合う三人を見て、この三人は“似た者同士”だと考えていた。





次元を超えし魔人 第71話『コロナの魔法修行』(STS-Vivid編)
作者 193





「何だかんだ言って、コロナに魔法を教えてあげる気になったみたいね」
「仕向けた張本人がよく言いやがる。……まあ、約束は約束だしな」

 アリサにからかわれながら、D.S.が面倒臭そうに視線を落とした先には、コロナに渡した三冊の魔導書が積まれていた。
 その横にはコロナが必死に解読を試みたレポートがあった。

「努力の結晶ね。見た目以上に根性がある子みたいね」
「レポートの中身は全然だがな。まあ、やる気があるのは認めてやるよ」

 目の下には大きな隈を作り、意識も朦朧とした感じで疲れきった表情を浮かべながらも、約束の期限、丁度一ヶ月でこのレポートを仕上げてきたコロナ。レポートの中身は拙い物で、所々誤訳も混じった完璧と言える物からは程遠い出来の物だった。
 しかし、D.S.が提示したのはあくまでそれらの本を『読破』する事であって、何も完璧に『解読』してみせろと言った訳ではない。
 理解は及ばずともその三冊を読み上げるだけでも相当に大変なはず。
 少なくともD.S.は、最後は安心して気を失うほど体力と精神を消耗しながらも、ここまでレポートを仕上げて来たコロナの努力は認めていた。

「俺様が直接教えてやるレベルにはまだまだ程遠いがな。あのちびっ子どもと一緒に勉強してれば、少しはマシになるだろ。話はそれからだ」
「素直じゃないわね」

 才能はともかく、やる気のない人間に魔法を教えたところで、それが身になるとは思えない。
 そのため気概を試すためだけに、あんな無茶をコロナに要求した事くらいはアリサも察していた。
 そうして見事にコロナはその試験にパスした訳だが、屋敷だけでなく大書庫への立ち入りまで許している時点で、D.S.もコロナの事を気に入っている事は確かだ。
 研究者にとって自分の書庫に他人が入ることを許可すると言う事は、それだけでもその人物を認めている証拠だと言えた。
 だからこそ、アリサは『素直じゃない』とそんなD.S.を評価する。

「で? 今日はどんな面倒事を持って来やがった」
「あら? まだ何も言ってないのに随分と察しが良いじゃない」
「いつもいつも、厄介な仕事ばかり持って来やがるのは“テメエ”くらいのもんだろ!?」

 D.S.との仕事の交渉は窓口にアリサを使う事が、関係者の間では常識と成っていた。
 D.S.の弱点であり一番苦手とする人物は間違いなくアリサだ。
 それ故にどうしてもD.S.に頼み事をしたい場合は、アリサを窓口に通す方が確実で一番早いと誰もが共通の理解を示していたからだった。
 それにアリサにしても忙しい合間を縫って、こうしてD.S.に会いに来る理由を作れるので、それはそれで今の関係を楽しんでいる節があった。

「ふ〜ん、私にそんな態度を取るんだ」
「うっ……」
「知ってるのよ? 先週の日曜日、アンタがシーラ様と二人きりで――」
「ちょっと待て! なんで、その事を!?」
「ふふん。私の情報網を甘く見ない事ね」
「くっ……」

 プレシアや他の面々にそんな話を持って行かれたら、また面倒な事になると思ったD.S.は仕方が無くアリサの要求に屈し首を縦に振る。
 十年以上経っても変わらない明確な力関係がそこにはあった。






 ――管理局本局
 ミッドチルダ襲撃事件以降、以前ほどの権威は失ったとは言え、以前その勢力が次元世界の上位に位置する事は間違いなく、半独立化した組織である地上本部と聖王教会、それに屈強な精鋭を誇るバスタードと同じく、次元世界四大勢力の一つとして今も名前を連ねていた。
 在籍している魔導師の数。次元艦を始めとする保有している戦力。活動範囲や勢力圏だけでいえば、その四大組織の中でも一番大きな力を持っているのは、やはり本局である事に変わりはない。
 次いで地上本部、そしてバスタードに聖王教会と続くのが現在の情勢だ。
 尤もバスタードは『魔法使い』や『戦士』と呼ばれる魔導師とは異なる力を持つ強力な戦力を抱えているし、聖王教会も以前として宗教的な立場から人々の心の拠り所として人心を掴んでいる。
 地上本部も支持は高く、犯罪者の検挙から災害救助までその活動は幅広く人々に認められていた。

 民衆からの支持。その点だけでいえば、今の本局は非常に厳しい立場に立たされていると言える。
 ミッドチルダ襲撃事件の不手際や身内の、しかもトップが首謀者として処刑された事により、これまで最高評議会が不正に行っていた数々の悪事が明るみとなり、人心は本局から大きく離れてしまっていた。
 辛うじて組織としての体裁は保たれているが、それも今後の活動の結果次第。
 支持者の減少は組織としての存続を危ぶむ声が上がるほどに、本局内でも深刻な問題として取り上げられていた。

「――失礼します! アンガス一佐。報告書のまとめをお持ちしました」

 あの事件以降、何とか本局としてもイメージアップを図りたいと考えた幹部達は、その事件の功績を称えてアンガスを二階級特進の一佐へと昇進させ、航空武装隊から凶悪犯罪を取り締まる執務官長へと移動させた。
 ロストロギアの関連した事件や、特に凶悪な犯罪に対応するため組織された部署。そこに所属する管理世界に数多く散らばっている執務官達を束ねる立場にある重要な役職だ。
 ティアナはそんなアンガスの補佐官として傍に仕え、自らも執務官を目指すべく毎日忙しい任務をこなしながら厳しい勉強の日々を送っていた。

「…………」
(うっ……やっぱり慣れないわね)

 黙々と手渡された報告書に目を通すアンガス。寡黙というか滅多な事で口を開かない人物としてアンガスは局内でも有名だ。
 しかしその実力は誰もが認めるところで、総合SSランクという魔導師としての高い実力もさる事ながら情報処理能力や執務能力も群を抜いて高く、アンガスに代わる人材は本局内にも殆ど居ないとまで言われている非常に有能な人物だった。伊達に『海の守護者』と呼ばれるほどの力を有してはいない。
 しかし、それもそのはずだ。アンガスの正体はあのD.S.の四天王と呼ばれた内の一人。冥界の預言者『アビゲイル』その人だったのだから――
 その事を知る者は数少なく、今の本局でアンガスの正体を知るのは三提督や、カリムやはやてとも交友の深いクロノだけ。本局の幹部達も、その事は知らされていない。
 バスタードの上層部も勿論この事を知っているが、それを理由に本局をどうこうしようという考えは持っていなかった。

 アビゲイルがここにいるのも本局を潰さないためだ。
 後はここが次元世界で最も情報が集まりやすい場所だというのも関係しているが、半分は自分の欲求を満たすためでもあった。
 何だかんだでここは設備が充実しており、マッドな思考を持つアビゲイルにとって自身の研究欲を発散する場所としては、最適な場所だったからだ。
 それに実験する相手には事欠かない事も理由に挙げられた。
 新装備の試験運用と偽って怪しげなアイテムを魔導師達に持たせたり、何者かが犯罪者を使って人体実験をしている、と局内で囁かれている怖い噂も全てアビゲイルの仕業だったくらいだ。

 そしてティアナも、アンガスの正体がアビゲイルだと知っている一人で――
 初めてその証拠とばかりにアンガスの顔や胴体が左右に割れるところを見せられた時は、腰を抜かして驚いたくらいだった。
 とはいえ、その事はティアナが悪い訳ではなく、大抵その真実を告げられた者は……誰もが同じような反応を示す。

「それで……アンガス一佐。今度の執務官試験を受験したいと考えているのですが」

 執務官試験は筆記と実技に分かれ、その試験資格を取得するには最低でも百五十日以上の執務官補佐の実務経験が必要となる。
 そのためティアナはアンガスの元で補佐官をしているのだが、その執務官試験の第一難関と称させる筆記試験が十月に実施される事と成っていた。
 アンガスのところで補佐官として働き始め、もうそろそろ半年が経つ。既に受験資格となる規定日数は消化しており、二ヶ月後行われる筆記試験さえパスすれば、後は二月上旬に行われる実技試験を受けるだけとなる。それに見事合格する事が出来たら、ティアナが目標としていた執務官に最速の道筋で辿り着ける訳だ。
 ティアナも、それを目標としてここまで頑張ってきただけに、そのチャンスを逃すつもりはなかった。
 それに彼女の親友のスバルは既に特別救助隊――通称『特救』の隊員として救助活動の最前線で活躍している。
 その話を聞かされ知っているだけに、少しでも早く親友に追いつきたいという想いが彼女を突き動かしていた。

「……ふむ。では、お嬢さん。私と一つ賭けをしませんか?」
「賭け……ですか?」

 アンガスの中から聞こえてきたのは、正真正銘アビゲイルの声だった。『賭け』と言う言葉を聴いてティアナは訝しい表情を浮かべる。
 しかしティアナには、例えそれが嫌だとしても拒否権が無い。
 試験を受験するにはもう一つ条件があり、現役で活躍する執務官の推薦状が必要となる。
 それは大抵、補佐官として仕えている先の執務官が便宜を図ってくれるのが通例だ。
 その推薦状が無ければ受験する事が出来ないだけに、ティアナもアンガスに頼る他なかった。

「これを持って、地球の海鳴市へ行きなさい。丁度、武装隊の方で予定していたバスタードとの合同訓練の枠が余ってますし、それで出向許可を取り付けてあげますよ」
「えっと……話が全然見えないのですが?」
「まあ、行けば分かると思いますよ。今のお嬢さんに“足りない物”がなんなのか」
「私に足りない物……」
「一ヶ月ほど向こうで勉強してきて、私が言った意味とその答えを帰ってきてから聞かせてください。それが賭けの内容です。満足のいく答えをお嬢さんが提示する事が出来たら、受験する事を認めてあげましょう」

 自分に足りない物があると言われても、今のティアナはそれが何なのか分からなかった。
 力、それとも知識? 様々な考えが頭の中を交錯するが、それらしい答えは何一つ思い浮かんで来ない。
 結局何一つ分からないまま、アンガスの言うように地球に向かうティアナ。その表情には、困惑の色が浮かんでいた。






「皆、ご飯よ」
『はーい!』

 エプロン姿のなのはに呼ばれ、リビングで仲良く夏休みの宿題をしていたヴィヴィオ、コロナ、キャロにルーテシア、四人の子供達の元気な声が上がる。ちなみにこの中にエリオが居ないのは、夏休みを利用して地上本部のゼストの元に槍の稽古を見て貰いに泊まりがけで出掛けているためだった。
 エリオ曰く、女の子ばかりのところに男一人は肩身が狭く辛いのだそうだ。
 カルは旅に出たまま帰ってこないし、ガラもドゥーエとセインの二人を連れて行方を眩ませたままだ。
 そんな中、この屋敷の男といえばD.S.とエリオしか居ない。しかしD.S.はああいう性格だし、真面目で実直な性格のエリオはいつも色々と辛い立場に立たされていた。
 そんな屋敷の中で唯一の相談相手、心の友と言えるのがフリードやガリューと言った召喚獣だというのだから、何とも可哀想な話だ。

 とは言え、それも仕方のない事と言える。この屋敷に住む女性達は何れも癖の強い人物ばかり――
 子供達以外には、クラナガンの地上本部に新設された『特殊対策室』に出向となったバスタードの魔導師『高町なのは』と『フェイト・テスタロッサ』。
 それにD.S.の娘で四天王の一人『雷帝』の名を持つアーシェス・ネイ。
 時の庭園に籠もって滅多に屋敷には顔を出さないが、この家の持ち主で二児の母でもあるプレシア・テスタロッサ。
 こんな癖の強い女性達に囲まれていれば、エリオがゼストの元に逃げ出したくなる気持ちも分からなくはなかった。

「皆、夏休みの宿題はどう? 魔法の勉強もいいけど、学業を疎かにしてはダメだよ? 特にヴィヴィオは最近、またトレーニングの量を増やしてるってクイントさんからも聞かされてるから」
「もう、ママ! 皆が居る前でやめてよ! 夏休みが終わったらトレーニングの時間も減らすし、宿題もやってるから」

 恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、やめて欲しいと抗議するヴィヴィオ。
 なのはの話の中で出て来たクイントは、現在ヴィヴィオの格闘技の先生役を担っていた。
 クイントやナカジマ姉妹が得意とする『シューティングアーツ』も、元を辿れば『ストライクアーツ』と同じ近代格闘技である事に変わりはない。週に二回、ナカジマ家へと通いクイントに格闘技の基礎と手解きを受けるのがヴィヴィオの課題と成っていた。
 夏休みに入った事もあり、その訓練の密度が濃くなっている事に懸念を示すなのは。
 今ではすっかり板についてきた母親役として、『ママ』と慕ってくれるヴィヴィオの事を心配に思うのは当然の事だった。

「あの、ヴィヴィオは大丈夫だと思います。ちょっと頑張りすぎなところもありますけど、ちゃんと体調管理も出来ていますし。それに、もう直ぐ夏休みの課題も終わりますから」
「コロナ……」
「何だか……コロナがヴィヴィオのお母さんみたい」
「ちょっ、ルールーそれはないよ!?」

 コロナのフォローに感動しつつも、ルーテシアの何とも的を射た指摘に顔を真っ赤にしてツッコミを入れるヴィヴィオ。
 同世代の少女を捕まえて『お母さんみたい』なんて言われれば、恥ずかしく思うのも無理はなかった。

「クスッ、ところでコロナちゃん。魔法の方はどう? ルーシェくんに弟子入りしたって聞いた時には驚いたけど」
「あ、えっと……今はまだ直接教えて頂けるようなレベルじゃないですけど……ルーちゃんやキャロさんにも協力して貰って少しずつですが前に進めてると思います」

 なのはに魔法の事を尋ねられ、恐縮した様子で食べる手を止め、箸を置いてコロナは答える。
 コロナはこの夏休みを利用して、プレシアの屋敷に泊まり込みで魔法を教わりに来ていた。
 ルーテシアとキャロ、それにヴィヴィオと一緒に魔導書の解読や魔法理論を学んだり、ヴィヴィオと一緒にストライクアーツの訓練や身体の鍛錬を行ったり、キャロからは少し魔力制御や操作なども教わっていた。

 キャロだけ『さん』付けの理由は本人曰く、キャロが一番落ち着いていて先生らしかったから何となく、らしい。
 ルーテシアはマイペースというか、面倒見の良いキャロと違って先生らしい事は何一つしていないので、どちらかというとヴィヴィオと一緒で、コロナの中では友達といった感覚の方が近い存在になっていた。
 それでも尊敬していない訳ではない。コロナが一ヶ月掛かってようやく読破したような魔導書を、小説や漫画といった普通の本を読むかのようにスラスラと解読してしまうルーテシアの知識の深さにコロナは素直に感心していた。
 ルーテシアの名前を『ちゃん』付けで呼ぶのは、コロナなりの親愛の表現と言っても良い。

「よし、じゃあ頑張ってるご褒美に皆で遊びに行こうか」
『え?』
「ヴィヴィオは知ってると思うけど、海鳴市にあるバスタードの本部で本局との合同訓練があるのよ。その見学によかったら皆で行かない?」
「ママ、それ本当!?」

 ヴィヴィオがずっとバスタードの訓練を見学したいと言っていた事をなのはは覚えていた。
 しかし『危ないから、まだ早い』という理由でずっと拒み続けてきたのだ。
 だからこそ、なのはが自分から訓練の見学をしていい、と言ってくれた事にヴィヴィオは驚かずにはいられなかった。

「今度の合同訓練は一般人にも見学が許されてる特別な物だし。魔法がどういう物かを知るには丁度良い機会じゃないかな、って」

 食事をする手を止め、子供達は全員なのはの話に静かに耳を傾けた。
 今回の合同訓練は本局側の意向もあって一般公開される事が決まっていた。主な目的は、本局の低迷する支持率を少しでも快復するためのパフォーマンスといったところだ。
 バスタードや地上本部といった別組織との友好的な関係をアピールしつつ、合同訓練の内容を公開する事で民衆の不信感を払拭させようという狙いがあった。
 とはいえ、そうした大人の事情を子供達に話しても仕方がない。
 当日は街を挙げてお祭りムード一色になる。丁度良い息抜きになるし子供達にとっても軍の訓練を見学する事は、よい刺激になるだろうとなのはは考えていた。
 魔導師になるという事。魔法が使えるという事の意味と責任の重さを、ほんの僅かでも感じ取ってくれればいい。

「魔法は確かに便利な力だけど、簡単に人を傷つける事が出来る怖い力でもあるわ。どんな力でも、それは使う人の心次第で良い事にも悪い事にも容易に変わる――大切なのはここ」

 なのははそう言いながら自分の胸に手を当てた。
 子供達も同じように自分の胸に手を置き、なのはの次の言葉を待った。

「今は新しい事を覚えるのが、魔法を使う事が楽しくて仕方がないんだと思う。でも、その魔法で何をしたいのか、何が出来るのかをちゃんと考えて欲しい。私からはそれだけ――今は深く考えなくてもいいから、頭の片隅にでも私の言った事を覚えておいて」

 なのははそう言って子供達に微笑みかけた。
 魔法を覚えたての頃は本当に楽しくて一生懸命で、自分にもそういう時期があった事をなのはも思い出していた。
 でもだからこそ、皆にも魔法がどういう力かという事をきちんと理解した上で学んで欲しい。
 これは魔導師の先輩として、そして子供達の事を見守る一人の大人として、ヴィヴィオの母親としての願いだった。

 子供達を見て『まだ少し難しかったかな?』と優しく語りかけるなのは。直ぐにその事を理解できなくても徐々にでいい。
 元気に真っ直ぐに成長して欲しい。そうして心も体も、健やかに一歩ずつ成長してくれるなら、それ以上は何もいう事はなかった。

「ああ、そうだ。そのイベントで、フェイトちゃんがデモンストレーションをする事になってるの。きっと凄い物が見られると思うよ」

 子供達の表情が興味津々といった様子で明るく花開く。
 今も、その合同訓練の準備でバスタード本部に出張しているフェイト。子供達が行く事はフェイトには知らせていない。
 ほんの少し悪戯心を働かせ、『フェイトちゃんを驚かせてあげよう』となのはは考えていた。





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■作者からのメッセージ
 193です。お待たせしました。STS-Vividの二話目です。
 この章ではイクス編も絡めていくので、実際には完全なオリジナルストーリーではありません。
 舞台設定としてはSTS終了から四年後となるVividまでの道筋を辿るものです。ですから、当然ながらイクスも登場する事になります。
 まあ、Vividが原作終了していませんし、今は『異世界の伝道師』を優先してますからね。少し時間稼ぎをするつもりですw
 解決していない十賢者の問題も含めて、まだ謎は残されたままですし。少しずつでも進めていければと思います。
テキストサイズ:18k

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