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次元を超えし魔人 第70話『少女達の一歩』(STS-Vivid編)
作者:193   2010/02/01(月) 02:39公開   ID:PBCsiN3nXnw



 ――海鳴市
 世界で最も魔法に近い街、と称されるほどに、現在、地球で最も魔法文明との交流が深い街。
 その街にある喫茶翠屋。あの『白い悪魔』という呼び名で恐れられる『高町なのは』の両親、高町夫妻が経営する喫茶店だ。
 パティシエでもある高町桃子が作るケーキは味わい深く、美味しいケーキに紅茶、それに薫り高い珈琲。夕方ともなれば下校途中の女学生や買い物帰りの主婦で賑わいを見せる、近所でも評判の喫茶店だった。

「ご無沙汰しています。カイさん」
「……まさか、カリムまで一緒とは思わなかったがな」

 そんな店のテラスの一角。少し知っている者であれば、そこにいる顔ぶれだけで卒倒してしまうような、豪華なメンバーが集まっていた。
 カリムが何故ここにいるのか? と言った様子で顔をしかめるカイ。
 ここに皆が集まっている理由を考えれば、納得が行かないのも無理はない。
 本日は月に一度の『熟女同盟』会合の日だったからだ。

「あら? 私が一緒ではご不満ですか?」
「そんな事は言わないが……」

 管理世界に今も大きな影響を持ち続ける聖王教会。
 古代ベルカの王『聖王』を崇め、管理局と同じくロストロギアの調査と保守を使命とする宗教団体。
 その教会騎士団に所属するカリム・グラシアは、現在は地球との関係を重要視する教会の方針の下、その重要な役割を担う交渉役として教会理事の一人に納まり、名目共に今の聖王教会を背負って歩く、担い手の一人となっていた。

「何故、この会合に貴様がいる?」

 バスタード司令官カイ・ハーン。ミッドチルダ襲撃事件はバスタードの名を、次元世界にその名を知らぬ者はいないほどに有名にした。
 管理局が推奨する従来の魔導師の常識を覆す、『魔法使い』と『戦士』の戦術的価値の証明。
 圧倒的な戦闘力を持つ部隊を抱え、次元世界にはない発想と技術力を有する次元世界最強の組織。
 あの管理局と聖王教会が、対等な立場と姿勢で付き合っていく事を宣言した事により、辺境にある管理外世界の一組織という印象から、『管理局』『聖王教会』『バスタード』と三大組織に数えられるほどの大勢力へと人々の見方は変わっていた。
 それに、管理世界の人々がよく知るところである、あのバニングスや月村重工もまた、地球出身の企業という事で、管理世界の人々にとって地球はより身近なモノへと変わりつつあった。

「最初から喧嘩腰ではダメですよ、カイ。カリムさんの参加を許可したのは、私ですし」
「シーラ様!?」

 そして忘れてはならないのが、それらの『魔法使い』や『戦士』を数多く輩出する事になった地球に隣接する世界メタリオン。
 その世界唯一の国であり、最大の魔法国家ともいうべきメタ=リカーナ。その国の元首、女王シーラ・トェル・メタ=リカーナもまた、世界中の注目を集める人物の一人だ。
 年月を重ねても老いを知らない美しさと、遥か時代の先を見通す先見の力。
 類い希ない美貌と知略を武器に、一度は滅亡の危機にまで瀕した国を建て直し、今や地球だけでなく次元世界全体に多大な影響力を持つ大国にまで押し上げた傑物。それが彼女だった。

「幸恵さんが病院を抜けられなくて、今回は欠席でしょ? 折角、五人分を予約していたのに、一人キャンセルじゃ勿体ないじゃない?」
「シーン、貴様もか! しかしだな!?」

 そして、その女王の相談役として傍に付き従い、メタ=リカーナ復興の礎を築いた立役者、シーン・ハリ。
 外交関係者からはバスタードやメタ=リカーナとの交渉を進める上で、『最大最強の難関』として恐れられている女王の副官である。

「まあまあ、皆さん落ち着いてください。今日はプライベートなお茶会ですし。それに、こうしてこのメンバーが一同に会する事も余りないのですから、仕事の事や普段の立場を忘れて仲良くやりましょう」

 最後に、地上本部に新しく設立されたADAMの後継。現場に復帰し、その特殊対策室の室長として活躍しているリンディ・ハラオウン。
 別名『最後の切り札(ラストカード)』と称されるほど、その所属する隊員の能力は他の部隊と比べても群を抜いており、高位次元生命体(悪魔や天使)やS級ロストロギアを始めとする、並の魔導師には荷が重すぎる難事件ばかりを担当する部署として知られ、常に死の危険と隣り合わせの、管理世界で最も危険な部署としても知られていた。
 だが、そこに所属する隊員の士気は高く、一癖も二癖もある隊員達を統括しているリンディの執務・指揮能力の高さは疑うべくもない。

「なあ、ウェンディ……」
「何スか?」
「……あそこのテーブルだけありえない面子が揃ってるのだが、ここでサミットでもやる気か?」
「チンク姉、細かい事を気にしちゃダメッス」

 チンクの疑問はもっともだった。





次元を超えし魔人 第70話『少女達の一歩』(STS-Vivid編)
作者 193





 例えて言うなら、次元世界の最高会議でも開けてしまいそうな女性達の井戸端会議。
 チンクの疑問を他所に、本人達は至って真剣な様子で『お茶会』と言う名の会合に臨んでいた。
 今回の議題は勿論――

「ええと……何故、ここに私が呼ばれてるんでしょうか?」

 錚々たる面々を前にして、なのはは緊張した様子でそっと手を挙げて質問した。
 ある件で、彼女達の呼び出しを食らったなのは。
 公私混同も甚だしい出頭命令を突きつけられたので、断る事など出来るはずもなかった。

「プレシアさん、なのはちゃんがヴィヴィオに『ママ』と呼ばれていた件は確かなのですね?」
「ええ、シーラ様。フェイトが泣きながら、家でその事を話していましたから間違いありません」

 シーラの質問に、さも当然といった様子でその時の状況を語って聞かせるプレシア。
 それは、なのはにとって死刑宣告に等しい証言だった。
 嘘ではないだけに、『違う』と否定も出来ない。かといって、それを認めてしまえば、目の前の女性達の機嫌が悪くなる事は確実。
 どちらにせよ、彼女に逃げ場などない。

「あの……あれは、ヴィヴィオが自分から」
「なるほど、ヴィヴィオに『ママ』と認められた事を自慢したいと?」
「そ、そんな事、全然思ってませんし、言ってませんよ!?」

 シーンの鋭いツッコミを、なのはは必死に否定する。しかし、もはや何を言っても無駄な事は悟っていた。
 フェイトにも何度も何度も説明したが、なのはの弁明がフェイトの耳に届く事はなかった。
 D.S.の事を『パパ』と呼ぶヴィヴィオ。そして、今のところ『ママ』と呼ばれている人物は、なのは一人しかいない。
 彼に好意を抱いている女性達は、興味のない振りをしていながら、いつの間にかD.S.と既成事実を作っていたなのはを、最大の恋敵として認識していた。

 それに、なのはにとっては運の悪い事に、これまで積み重ねてきた客観的事実が、それを確たるモノとして裏付けていた。
 不可抗力とはいえ、ヴィヴィオに『ママ』と呼ばれているばかりか、本人は『何もなかった』と否定はしているモノの、彼女の事をよく知る『親友』という有力な目撃者もあり、D.S.とベッドを共にした事実もある。
 今更、何を否定し弁明したところで、そんな彼女の言葉など信用してもらえるはずもない。
 この『法廷』に出廷した時点で既に証拠固めは終わっていて、後は『判決』を待つばかりだった。

「あの……カリムさんは、何でここにいるんですか?」
「あら? なのはさんもカイさんのように、私を除け者にするのですか?」
「いえ、そういう訳ではなく……」

 ここにいるのは、何れもD.S.を慕って、いや彼に対して恋愛感情を抱いている人物ばかりだ。
 そんな中に、カリムがいる事がなのはには不思議でならなかった。
 少なくとも、なのはの知る限り、カリムとD.S.の間にそんな関係はなかったはずだからだ。

「『将を射んとせばまず馬を射よ』という諺がこの世界にはあるでしょう? ここはヴィヴィオの保護者である彼から籠絡するのが、一番だと思いまして」
「やはり、それが狙いか! カリム・グラシア!」

 カリムの身も蓋もない直球な爆弾発言に激昂したカイは、胸元のペンダントの封印を解き『魔剣ギブソンソード』を抜き、カリムの喉元へと突きつける。
 しかし、そんな状況にも拘わらず、至って涼しい顔で紅茶をすすり、カイの行動を嘲笑うかのように笑みを溢すカリム。

「それに、彼に興味があるのは本当ですもの。好意がない訳ではありませんわ」
「だからといって! 貴様の企みを私が見逃すと思うか!?」
「それは構いませんが……その武器、仕舞われた方がよいと思いますよ?」
「――はっ!?」

 カリムの忠告を聞いて、直ぐに後に迫った殺気に身を震わせるカイ。
 翠屋には『鉄の掟』がある。ここでの喧嘩や、武器、魔法を使った戦闘は固く禁じられていた。

「カイさん……お店で剣なんて抜かれると困るのですけど」
「いや、桃子。これは違うんだ……」

 以前に、なのはとフェイトが『給仕』という名の強制労働をさせられた事からも分かる通り、この店の絶対的権力者であり支配者は言うまでもなく『高町桃子』だ。
 その桃子の戦場(フィールド)とも言うべき場所で、武器を抜く事――それは禁忌と言ってもいい。
 ここがある関係者筋の間で、『海鳴の聖地』と呼ばれている理由の一つは、この暗黙の了解を善人悪人問わず、誰もが理解しているからでもあった。

「新しいメイド服を作ったところで丁度よかったわ。カイさんによく似合うと思うのよね」
「た、助けてくれ! シーン、シーラ様!?」

 襟首を掴まれ、店の奥に連れて行かれたカイを見て、なのはは犠牲者となったカイの冥福を心の中で祈っていた。
 チンク、ノーヴェ、ウェンディの三人が翠屋の看板娘として働き出すようになってから、桃子は彼女達に似合うメイド服を自作する事が趣味となっていた。
 だが、その趣味は翠屋の売り上げにも貢献しており、彼女達のメイド服姿を目的にやってくる男性客も少なくはない。
 所謂、一石二鳥、一挙両得という奴だ。

「まあ、そういう訳で、私もここにいるのよ。なのはさん」
「は、はあ……」

 一先ず、カリムの話に納得した素振りを見せるなのは。

「それで、なのはさん。実際のところはどうなのかしら?」

 話を蒸し返すリンディの質問に、何一つ自分の置かれている状況が変わっていない事を再確認し、なのはは心の中で涙を流すしかなかった。






「ヴィヴィオ、一緒に帰ろ」
「あ、コロナ。うん、いいよ」

 聖王教会の傘下、ミッドチルダにある魔法学院『St.(ザンクト)ヒルデ魔法学院』。
 ヴィヴィオはこの春から、この学院の初等科一年生として学院に通っていた。
 今、ヴィヴィオに声を掛けてきた、青い瞳にさらさらとしたアッシュブロンド、ツインテールの少女は、名をコロナ・ティミルといい、ヴィヴィオとはクラスメイトで、今では一番仲の良い友達となっていた。
 元気一杯のヴィヴィオに対して、上品で落ち着いた物腰のコロナ。一見、趣味も性格も全然違うように見える二人だが、相性は決して悪くはなかった。
 遊びに勉強、学院生活に置いて、お互いの長所や欠点といった部分を上手く補い合えている二人。
 ヴィヴィオにとってコロナは、コロナにとってヴィヴィオは良い学友だった。
 それに、色々と無茶しがちなヴィヴィオを、しっかり者のコロナが諫める、といった場面も珍しくない。
 そうは言っても、コロナも一見慎重派に見えて抜けているところが多々あるので、良い意味で二人は互いを補い合えていた。

「クリスも、こんにちは」

 コロナが挨拶すると、ウサギの人形『クリス』はぺこりと頭を下げて挨拶を返した。
 このクリス。以前にD.S.がヴィヴィオのために組み上げたデバイスで、現在はヴィヴィオの大切な相棒となっている。
 何故、ウサギのカタチをしているか、というとD.S.の作ったレイジングハートと同じクリスタルタイプのデバイスを見た女性技師達が、『ヴィヴィオには、もっと可愛い方が絶対に似合ってる!』といって悪ノリをした挙げ句、このウサギの人形を外装に仕立ててしまったのだ。
 女性技師代表、月村忍曰く――『魔法少女に助言者は必需品よね』だそうだが、ヴィヴィオ本人も気に入っている様子なので、敢えてその事に関しては誰も突っ込んではいない。何となく危険な香りがしたからだ。
 正式名称は『セイクリッド・ハート』。
 ヴィヴィオが『ママ』と慕っているなのはの相棒、『レイジングハート』から名前の一部を貰い、ヴィヴィオが自分で名付けた名前だった。

「ヴィヴィオは、これから真っ直ぐ家に?」
「今日は『無限書庫』に寄っていく予定かな。ユーノさんに検索魔法を教えて貰う約束してるんだ」
「あ、じゃあ、私も見学に行って良いかな? 無限書庫で少し調べ物がしたいし」
「うん、いいよ。あ、でも少し遅くなるかも知れないから……」
「じゃあ、家に連絡を入れておくね。ヴィヴィオと一緒、って言えば大丈夫だと思う」

 携帯端末で家に連絡を入れるコロナ。こうしてよく、ヴィヴィオと一緒に無限書庫で調べ物をしたり、最近はヴィヴィオが自主訓練に取り入れている『ストライクアーツ』などを一緒にする事が多かった。
 ここでいう『ストライクアーツ』とは、ミッドチルダを中心に管理世界で幅広く行われている格闘技で、広義的には『打撃による徒手格闘術』の総称でもある。ヴィヴィオ達の通っている学院でも実技に取り入れられており、運動系の選択科目の中では特に生徒達に人気のスポーツでもあった。

「ヴィヴィオ、今日はなのはさんが一緒なの?」
「ううん、ママは大切な用事があるとかで出掛けてるから、今日はパパが一緒だよ」
「ああ、前からずっと話してくれてた、凄い頼りになるっていうハンサムなパパね」
「とっても凄いんだよ。私のパパは『世界一の魔法使い』なんだからっ!」

 父親の事を自慢気にコロナに語るヴィヴィオの表情は、これ以上ないくらい満面の笑みに包まれていた。



「はじめまして、コロナ・ティミルです!」
「はじめまして、アリサ・バニングスよ。礼儀正しい良い子ね。ちょっとルーシェ? この娘がちゃんと挨拶してるんだから、アンタもちゃんと自己紹介してあげなさいよ」
「痛ぇっ! 耳を引っ張るな! くっ、何だった俺様がこんな事を……」
「なのはが来れなかったんだから仕方ないでしょ? 仮にもヴィヴィオの父親なら責任をきちんと果たしなさいよ。ほらっ」
「……D.S.(ダーク・シュナイダー)だ。まあ、将来性はありそうだな。女らしく立派に成長したら、俺様が相手してや――」
「子供に何を言うか! このド変態っ!」

 アリサに折檻を受けるD.S.を見て、コロナはそのインパクトの強さに呆気にとられていた。

「た、楽しそうな……お父さんだね」
「う、うん……いざという時は凄く頼りになるんだよ? 本当だよ?」

 必死にD.S.の弁護をするヴィヴィオ。
 妙に痛々しいモノがあったが、ヴィヴィオの必死さにコロナも苦笑いを浮かべながら、取り敢えず納得した様子で頷く。
 いざという時に頼りになるのは間違いないが、平和な日常に置いて、その力が必ずしも必要だとは言えない。色々な意味で、D.S.はやはりD.S.だった。
 ヴィヴィオにとっては素敵な父親なのかもしれないが、彼の周囲の人間にとっては……特に彼に好意を寄せる女性達にとって、こうした彼の悪癖は困りの種の一つだった。
 将来、ヴィヴィオが親友の事を『ママ』と呼ばなくて済む事を、今は密かに祈るばかりだ。

「ダーシュ、どこよ!? ダーシュ!」
「アリサ、抜け駆けなんて酷いよ! もう、何処に行ったの!?」

 アーシェス・ネイに、フェイト・テスタロッサ。
 D.S.の娘と称され、二代に渡る『雷帝』の異名と人類最強クラスの力を持つ、魔法剣士と魔導師。
 屋敷から追ってきた二人の雷帝の声が聞こえ、アリサはD.S.と二人の少女を連れ、サッと脇道に隠れた。

「あの……アリサさん」
「ヴィヴィオ、大人の世界には色々とあるの。深く追及してダメよ」
「は、はい」

 何だか分からないが、大人の世界を垣間見た初等科一年、弱冠六歳の少女二人だった。







 何とか雷帝二人を撒いたアリサ達は無限書庫で、各々目的の調べ物に没頭していた。

「で、ここは……」
「ふむふむ、なるほど」

 ユーノに検索魔法の手解きを受けているヴィヴィオ。『知識のロストロギア』とも言われている巨大な書庫(アーカイブ)。
 いつからあるのか? 誰が作ったのか? 古代ベルカ王朝時代を始めとし、様々な世界の歴史と知識が集約されている広大な場所で、目的のモノを探すだけでも一苦労という難物。それがここ、『無限書庫』の正体だった。
 効率よく調べ物をするには、ユーノが得意としている探査・検索魔法を用いる以外に方法はない。
 元々、本を読む事が好きなヴィヴィオは、現在はミッドチルダ郊外にあるプレシアの屋敷に住居を構えており、ルーテシア、キャロと一緒に彼女の研究資料やメタ=リカーナの魔導書を読み漁っていた。
 しかし、それでも足りなくなった好奇心旺盛なヴィヴィオが次に目を付けたのが、この『無限書庫』だった、と言う訳だ。

 さすがに異世界のメタ=リカーナに精通する魔導書や文献はないが、ここには管理局が出来るよりもずっと前からの、次元世界の記憶と知識が集約されている。次元世界の事について知りたいのであれば、ここ以上に調べ物に向いている場所は他にはなかった。
 それに彼女には知りたい事があった。自分の母体(オリジナル)となったという最後のゆりかごの聖王――オリヴィエ聖王女。
 ヴィヴィオの前身、いや本当の母親とも言うべきその女性の事を、そして自分の故郷とも言うべき古代ベルカ王朝の事を、彼女は誰よりも知りたいと考えていた。

 自分が『聖王』と呼ばれている事、そして聖王教会が自分の事を欲している理由にも、彼女は気付いていた。
 D.S.やなのは、他にも大勢の大人達に守られているからこそ、自分はこうして自由に好きな事が出来ているという事も。
 自身の重要性・特異性・希少性。それを考えながら、ヴィヴィオはこれからの事を悩み、考える。

 ――これから先、周囲の期待に応え『聖王ヴィヴィオ』として生きるのか?
 ――それとも『高町ヴィヴィオ』として生きるのか?

 その答えを出す時期はまだまだ先ではあったが、将来、自分の選んだ決断を後悔しないよう、自分の事をもっとよく知っておきたかった。
 それが、ヴィヴィオが今取れる行動。考え、導き出した結論でもあった。

「ヴィヴィオの事がそんなに気になる?」
「うっ、はい……正直に言えば」

 ユーノに検索魔法の手解きを受けているヴィヴィオを、じっと眺めているコロナを見て、アリサはそう話し掛けた。
 一方、アリサが何をしていたか、と言うと仕事に必要な資料を集めて回っていた。
 しかし当然、アリサは魔導師ではない。
 検索魔法などといった便利な魔法も使えないので、D.S.がユーノの代わりに資料探しを手伝わされていた。

「ヴィヴィオは凄いな、って……勉強でも運動でも何でも優秀で。それに、もうちゃんとした目標があって、そこに向かって一生懸命頑張ってるから」
「うーん、私としてはあなた達くらいの歳で、明確な目標を持って頑張ってる方が不思議だと思うんだけどね。普通、六歳でそこまで考えている子供なんていないわよ? クラスメイトと比べてみても、ヴィヴィオは随分と特殊な存在なんじゃない?」
「確かに……ちょっと浮いてますけど」
「あの子の場合は色々と事情が特殊だからね……。それでも、学校に通うようになれば少しは子供らしく育ってくれる――そう思っていたらこれでしょう? まあ、ルーシェの事を『パパ』とか呼んだり、なのはを『ママ』って慕うくらいだし……ある意味で、こうなる事は必然だったのかもしれないけど」

 コロナを言い含めながら、ヴィヴィオの将来を心配して、頭を抱えて真剣に悩むアリサ。
 ゆりかごを一撃で消滅させたなのはに、天使や悪魔をも越える力を持つD.S.と――
 二人とも管理世界、いや次元世界で一番の危険人物、と関係者から恐れられている魔導師だ。
 そんな二人を保護者に持つヴィヴィオは、確かに色々な意味で最強の六歳児と言えた。

「まあ、ヴィヴィオはヴィヴィオ、あなたはあなたよ。自分のペースで、ゆっくり頑張りなさい。でも、気持ちも分からなくはないかな。私も経験があるから」
「アリサさんもですか?」
「そう、私の場合は周囲がもう、皆とんでもない人達ばかりで、本当に色々と苦労したわ……」

 昔の事を思い出して、更にどんよりを暗い影を背中に落すアリサ。
 自分で選んだ選択だったとはいえ、今から思えばかなり無茶な子供時代だと思わずにはいられなかった。
 だからこそ、ヴィヴィオには出来れば普通の子供らしく青春を謳歌して欲しい、と願っていたのだが、それも今のヴィヴィオを見ていると大人の勝手な願い、余り意味のない気遣いだったのだと気付かされる。
 あの頃、自分達に忠告してくれた大人達も、同じような気持ちを抱いていたのだろうか?
 そう思うと、アリサはただ当時の事を思い出し、苦笑いしか浮かんで来なかった。

「そうだ、そんなに気になるなら良い先生を紹介してあげるわ」
「え?」
「ルーシェ、彼女に魔法を教えてあげなさいよ」
「はあ? 何で俺が?」
「ヴィヴィオに父親らしい事を何一つしてあげてないんでしょ? ヴィヴィオの大切な友達のためよ」
「いや、だから何で俺が……」
「ふーん、そういう事を言うんだ。プレシア達に、ヴィヴィオの友達を口説いてた事、うっかり口が滑って話しちゃうかも……」
「くっ! 汚ねぇぞ!」
「ふふん、私の前であんな事をするアンタが悪いのよ。さあ、どうするの?」

 D.S.に選択肢はなかった。
 プレシア他数名の女性達に先程の事が知られれば、D.S.がどうなるかなど想像に容易い。
 結局、アリサの脅迫に屈したD.S.は大きく溜め息を吐き、緊張した様子のコロナへと向き直った。

「あの……よろしくお願いします」
「はあ……取り敢えず、魔法の資質と実力を見てからだな。魔導書の解読くらいは出来るのか?」
「はい。そう複雑じゃない式なら……」
「なら、コイツとコイツとコイツ。全部、一ヶ月で読破して来い」
「……え?」

 あっという間に検索魔法を掛け、手元に目的の三冊の本を転送するD.S.の流れるような魔方式に、驚きを隠せないコロナ。
 そしてそれ以上に驚くべき点は、その本の内容だった。
 コロナはまだ初等一年生。魔導書を解読出来ると言うだけでも相当優秀な部類に入るというのに、D.S.の手渡してきた本は初等一年生で習うレベルの本ではない。いや、中等部の生徒でもこれだけの魔導書を読破している生徒は限られてくるだろう。
 だが、D.S.が冗談ではなく本気で言っているのだという事は、コロナにも雰囲気で察する事が出来た。

「このくらい出来なきゃ、この話はなしだ。見込みのない奴に一から丁寧に教えてやるほど、俺様は暇じゃねぇ」
「いつも屋敷でグータラしてるじゃない。というか、真面目に仕事してるところなんて殆ど見た事ないんだけど?」
「……とにかくだ。ヴィヴィオの奴は、それ以上に難しい魔導書を毎日、絵本代わりに読んでやがるんだ。キャロやルーテシアもそうだ。俺様に習うからには中途半端は許さねぇ。やるからには俺様の次くらい『最強』を目指せ」

 アリサの厳しい指摘に冷や汗を流しながらも、D.S.はそういって話を締め括った。
 アリサの脅迫に屈し、一応は引き受けた訳だが、これがD.S.に出来る最低限の譲歩だった。
 元々、他人に一から丁寧に教える事が得意な性格ではない。それに、やる気も才能も覚悟ない者に『魔法』の使い方を教えてやるほど、D.S.はお人好しでもなかった。
 ヴィヴィオが凄く見えるのは、それだけ毎日のように遅くまで学院で習った事を復習して、更に屋敷の魔導書を読み漁り、キャロやルーテシアと一緒になって魔法の練習を繰り返し、並々ならぬ努力を積み重ねているからだ。
 なのはとフェイトもそう、『天才』と呼ばれる人間でさえ、最初から何でも出来た訳ではない。
 何よりも必要なのは本人の意志の強さ。コロナに提示した三冊の本は、彼女のレベルを考えればとても一ヶ月で読破出来るものではない。それどころか半年掛かっても普通であれば解読出来るか分からないモノだ。
 そんな一見して不可能と思える無茶をD.S.は、敢えて彼女に要求していた。

「……やります。この本を読破してくれば、魔法を教えてくれるんですよね?」
「出来たらな」
「約束です。絶対に魔法を教えてもらいますから!」

 コロナの宣戦布告ともいえる発言に、D.S.は挑発するように不敵な笑みを浮かべて見せた。
 そんな二人を見て、アリサは何も言わない。コロナが条件を満たせなければ、D.S.は言葉通り魔法を教えようとはしないだろうが、それでも彼女にとっては良い経験になると考えたからだ。
 それに、もしかしたらもしかするかも知れない。そう、アリサは直感のようなモノをコロナに感じていた。

 そして、そのアリサの勘は当たっていた。
 後に、St.ヒルデ魔法学院の歴史にその名を残す事になる――『魔法使い』誕生の瞬間でもあった。






 ……TO BE CONTINUDE





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■作者からのメッセージ
 193です。Vividが単行本も登場し、少し話が進み始めている事もあって、当初予定していた『プラス1』を大幅に改訂。
 副題の横に(STS-Vivid)と書いている通り、イクス編を含めた話をやる事にします。
 ただ、以前のような連載速度は不可能なので、原作VividやForceの進行具合に合わせる感じで月に1,2本のペースで出していく予定です。
 今のところVividまで行く事もありません。イクス編の少し後、Vividに入る直前くらいまでで話は終わるつもりです。
 色々とあって遅れての投稿となりましたが、今後ともどうぞよろしくお願いします。


 >T.Cさん
 そうですね。まあ、この話はここで終わらせるつもりはないので、徐々にやっていくつもりです。
 四期がアニメ化するなりKCのが完結でもすれば、週一くらいの更新ペースに戻して始めるかもしれません。
 その辺りは今後次第ってことで。


 >ロキさん
 色々とあって、今は平和に過ごしている彼女達。
 まあ、ハッピーエンドが一番ですからね。問題は色々と残ったままですが、その辺りはどうとでもなっていくでしょうw
 プラス1で終わらせるつもりだったのですが、VividやForceを見ていて、KC1巻が出た事もあって少し頃合いかと思い、その手前までの話は進める事にしました。
 基本的には今回の話のように、イクスの部分以外はほのぼのです。
 アギトの話も挟んでいくつもりですので、ご期待ください。


 >シルフィードさん
 残り一つと言いながら、悩み抜いた結果こうなりました;
 中途半端で終わっている事もあり、ある意味では丁度いいと思いまして。
 紅蓮と黒い王子は今のところ再開は未定ですが、歌姫と黒の旋律は近々再開予定です。
 そちらも、よろしくお願いします。


 >Kさん
 ありがとうございます。
 たくさんの方々に応援して頂いたお陰で、ここまで書ききる事が出来ました。
 ただ、もうちょっと続きます。中途半端で謎が残ったままになっている、と言うのもありますしね。
 四期が完全に終われば、色々と出来るのでしょうが今のところは月に1,2本のペースでの再開となります。
 どうぞ、今後ともよろしくお願いします。
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