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コードギアス 共犯のアキト 第十二話「皇女と魔女」
作者:ハマシオン   2009/12/31(木) 00:08公開   ID:1S2lO859T/k
コードギアス 共犯のアキト
第十二話「皇女と魔女」





 広大な砂漠が領土の大半を占める中東のとある国。
 砂塵を巻き上げ、その国の中枢となる宮殿へ進撃するのはブリタニア軍の主力戦車だ。その数は数十両にも及び、長い砲塔からは敵を打ち破らんと次々と砲弾が吐かれ、敵軍の装甲車を撃破していく。
 しかしブリタニア戦車の進撃は、砂塵の奥から現れた更に巨大な砲塔から吐かれる砲弾によって遮られた。
 砂塵から現れたその機動兵器の名を『バミデス』という。
 従来の戦車とはかけ離れた四足の動物をイメージさせるバミデスは、全高は戦車の優に3倍はあり、分厚い正面装甲から伸びる太く長い主砲が力強さを強調している。事実その主砲は長距離の射程と威力を両立しており、アウトレンジからブリタニア軍の戦車を次々と破壊していく。
 負けじとブリタニア軍の戦車が撃ち返すも、バミデスの分厚い装甲を貫くことができず、逆にその主砲の餌食となり次々と沈黙していく。

 だが情勢は変わる。
 戦車部隊の後方からランドスピナーを唸らせ、バミデスへと向かういくつものナイトメアの機影。
 だがサザーランドではない。機体の色は濃い紫で染められ、その機動性はサザーランドよりも鋭い。

「グロースター!?」

「親衛隊かっ!」

 近寄らせまいと、数機のバミデスが主砲を放つが機動力の高いナイトメアにはかすりもせず、砲弾は砂塵を巻き上げるだけだ。
 そうこうする内に、グロースターの集団の中で他とは違う赤紫のカラーリングが施された2機がバミデスの懐へと疾駆する。

「でかいだけのナイトメアもどきが!」

「さっさと降伏すればよかったものを!」

 飛び出した2機のグロースターに搭乗するのは、誉れ高き親衛隊の隊長にして選任騎士のギルバート・G・P・ギルフォード と、将軍のアンドレアス・ダールトン。
 二人は巧みな操縦で巨大なバミデスの懐に潜り込むとギルフォードは大型のランスを、ダールトンは手に持った大型キャノン砲を用いて装甲の薄い腹部を貫いた。
 厚い装甲と高い火力を有するバミデスだが、その巨体が仇となり懐に潜り込まれてしまっては唯の木偶に成り下がるしかない。グロースターの攻撃により一瞬にして数機のバミデスは火柱を上げて熱砂の海へと沈んだ。

「おのれ、このままで済むと思うな!!」

 最後に残ったバミデスが主砲をギルフォードのグロースターへと向け、両脇の速射砲も含めて盛大に弾をばら撒いた。
 しかしギルフォードはそれを悠々とかわすと、何を思ったのかバミデスの真正面へと躍りだす。
 バミデスに乗るこの国の盟主は、わざわざ主砲の前に姿を曝け出したグロースターに愉悦の表情を浮かべ、主砲の発射を命じようとする。だがその声が発せられるその前に、グロースターは深く腰を沈め――

「悪あがきを……」

 一瞬にしてバミデスの真上へと跳躍、グロースターはランスを真下に向けて構えると。

「するなっ!」

 勢いよく振り下ろし、バミデスのコックピットブロックを貫いた。
 グロースターはランスを抜くと即座にその場から離脱、一瞬の後にバミデスの巨躯が砂漠へと沈む。
 貫かれたコックピットブロックの中でまだかすかに息の残った盟主は、最後に己の居城である宮殿に目を向ける。しかし宮殿は既に真紅の炎に包まれ、かつての美しい姿は微塵も残っていなかった。
 その炎を背に1機のナイトメアが姿を現す。
 顔の両翼に大きくせり出した角を持つグロースター。黄金に輝く槍を持ち純白のマントをはためかせるその姿はまさしく王の姿。見ればグロースターの前掛け部には皇室の紋章が大きく刻まれている。戦場において単機でナイトメアを駆る皇族など一人しかいない。

「コーネリア……おのれ、魔女めっ!!」

 己の目が霞みゆく中、崩れ去る宮殿とグロースターを視界に収めながら、盟主は呪詛を吐きつつ最後は炎に包まれた。





「これで落ちたな……エリア18の成立か」

 紫紺の髪に同じ色のルージュを引いた、目の覚めるような美女が事も無げに呟いた。
 第二皇女、コーネリア・リ・ブリタニア。
 皇族にしては珍しく自らナイトメアに搭乗し、配下と共にあるいは先駆けて戦場を駆けるブリタニアきっての武人である。

『姫様、次の行動計画ですが』

「すまぬな、愚弟のためにわざわざ貴公らの手を煩わせることになる」

『何をおっしゃいますか、皇族のために生きるのが我らの務め。それに我ら、姫様の居られるところが国でございます』

「フッ、そうか……エリア11は一筋縄ではいかんぞ?」

『承知しております』

 頼もしい配下の言葉に頷くコーネリア。
 しかし彼女自身は自らの実力や指揮に自信を持ってはいるものの、己の力と裁量だけで簡単にエリア11を平定できるとは思ってもいなかった。
 エリア11はブリタニアの数あるエリアの中でも、戦略上尤も重要な拠点と言っていい。先進国では必要不可欠な鉱物であり、戦略物資ともなるサクラダイトの埋蔵量は世界一を誇り、敵対関係ではないもののブリタニアに次いで広い国土と力を持つ中華民国に対する前線拠点としての役割もある。
 そしてつい先日起こったもう一つの問題――次期皇位継承者であるクロヴィス・ラ・ブリタニアがエリア11のテロリストの手中に落ちたことである。ブリタニアの歴史上、皇族が敵対国家に身柄を拘束されたことなど一度もない。ましてやそれが一テロリストによってなされたとあり、本国では大きな騒ぎになっている。
 クロヴィスは武に長けた人間ではないとはいえ、一国の皇子がテロリスト無勢に負けただけでなく身柄を拘束されるなどあってはならないこと。既に本国ではクロヴィスの皇位継承権剥奪の噂が駆け巡り、ラ家を支援する貴族の尽くが他の皇族に鞍替えしている有様だ。
 コーネリアは別段それにとやかく言うつもりはない。しかし腹違いとはいえ、可愛い弟をたかがテロリスト如きに弄ばれる謂れはない。だがそのテロリストが問題だ。

 ――突如現れ、クロヴィスを攫ったと思われる仮面の男、ゼロ
 ――数年前からブリタニア軍を散々苦しめるナイトメア、黒騎士

 この二人が手を組んでいるのかどうかはまだ分からないが、今までのように容易く攻略できる相手ではないのは間違いない。己の配下の力を信頼していないわけではないのだが、より完全に事を進めるのならばもう一つほど大きな戦力がほしい。

(念のためだ、エルアラメイン戦線にいる彼奴にも助力を求めてみるか)

 コーネリアに負けずとも劣らない武人肌の『彼女』の姿を脳裏に思い浮べ、苦笑するコーネリア。
 しかしそれも一瞬の事。コーネリアはすぐに笑みを消すと、いつもの冷徹な表情へと戻る。

(エリア11……ルルーシュとナナリーが死んだ地であり、そして恐らくあの男がいるであろう地)

 コーネリアはかつて敬愛していた閃光のマリアンヌの姿を思い出していた。しかしあの時……ほんの数ヶ月に満たない時間の中で、コーネリアの心に大きな影響を残した男がいた。
 マリアンヌが皇帝陛下以外で、唯一傍にいることを許した騎士であり、そして主であるマリアンヌを殺したとされる男――テンカワ・アキト。
 彼がかつて搭乗し、逃亡にも使われた試作ナイトメア『エステバリス』。そのエステバリスがあの黒騎士の乗る機体と非常に酷似しているらしい。エステバリスは本国の軍事関係者の中でも存在を知るのは極僅か。国外に持ち出されたため、彼を拾った何れかの国が開発した機体とも考えられるが、黒騎士は極東事変当時から度々出没していたこともあり、それは考えにくい。
 ならばやはり黒騎士はあのテンカワ・アキトなのか? だとしたら此度の遠征は好都合だ。

(待っていろゼロ、クロヴィスの身は必ず返してもらう。そして黒騎士、もしも貴様があのテンカワ・アキトだというならば、貴様だけは私が必ず殺してやるっ!!)





「お帰りなさいませ、ルルーシュ様」

 スザク強奪の事件から数時間後、スザクを仲間に引き入れることができず、些か傷心気味で帰ってきたルルーシュを待っていたのは執事服姿のテンカワ・アキトだった。
 倒壊したホールからは同じ時間に戻ったというのに、既に執事姿で主人の帰りを待っていた辺り、流石はランペルージ家の執事といえよう。しかしルルーシュはアキトの出迎えを受けたにもかかわらず、目の前の光景に暫し呆然としていた。

『ケーーンッ! 貴様というやつはーーーっ!!』

『止めてくれジョー! 俺はお前を撃ちたくないんだっ!!』

「面白い男だなこの天空ケンというやつは。自分は撃ちたくないとか言ってるくせに、自分はバカスカと撃っているじゃないか」

「私は映像が見えないのでよく分かりませんけど……ジョーさんが攻撃してくる以上、ケンさんが反撃するのは仕方ないのでは?」

「ナナリー、そういう小難しいことは考えないの。このアニメは突っ込みどころを指差して大笑いするのが正しい楽しみ方なの」

「そうか、では遠慮なく笑ってやろう。わっはっはっはっは」

「あっはっはっはっは」

「あはははは……あ、エンディング――」

『お前の姿は〜♪ 俺に〜似〜て〜い〜る〜♪』

 リビングにある大画面TVの前に三人の少女が陣取り、画面には暑苦しい絵柄の男達が時には汗を、涙を散らせながら度派手なカラーリングのロボットに乗って大立ち回りを演じており、白い拘束服を着た少女とラピスがそれを見て大笑いしている。
 あのアニメはアキト達がもっていたもので、確かタイトルは『ゲキガンガーSEED』だっただろうか? 登場人物はやたら暑苦しいくせに、登場するロボットは妙にリアルな合体変形を行うロボットアクションアニメ。アキトは「あんなのゲキガンガーじゃない……」とかいって、あまり好んで見ていなかったようだが、ラピスはえらく気に入っているのか、ナナリーや生徒会の面々と一緒に度々見ているようだ。その楽しみ方はえらく間違っている気もするが……。

(いや待て、突っ込むところはそこじゃない)

 ナナリーとラピスと一緒にいるブリタニアの拘束服を着た緑髪の女性。彼女は確か自分におかしな力を与えた後、親衛隊の銃弾を額に受けて死んだはずではなかったか? それがなぜ彼女達と一緒にゲキガンガーSEEDを見ているのだ?

「……アキト、状況の説明を頼む」

「C.C.様のことでしょうか? 彼女ならルルーシュ様と約束があるから待たせてもらうとのことで、ナナリー様とラピス様が先程からお相手されていました。あまり女性をお待たせするのはいかがなものかと思いますよ?」

(こいつ、少し楽しんでいるな……)

 にこやかな笑みを浮かべる真っ黒執事を放って、件の少女へと近づくルルーシュ。
 それでルルーシュの存在にようやく気付いたのか、三人の少女は首をこちらへと向けた。

「お帰りなさいませ、お兄様」

「ルルーシュ、おみやげは?」

「おかえりルルーシュ、その様子だと夕飯は外で済ませたようだな」

 三者三様の出迎えの言葉を聞いて、それに応えるルルーシュ。

「ただいまナナリー、遅くなってごめんよ。ラピス、おかえりすら言わない奴に土産などない。C.C.、待たせて済まなかったな。例の話については俺の部屋で話そう。アキト、悪いが紅茶を二人分頼む」

「かしこまりました」

 ルルーシュはそう言ってアキトにこの場を任せ、C.C.と呼ばれた少女の手を引いて自室へと戻る。
 部屋を出る際、ラピスが「楽しんできてね」等とふざけたことをのたまっていたが、それを丁重に無視した。そして少女を部屋に入れると扉を閉める。

「中々機転の利く男だな。尤も、女性の扱いについてはまだまだ改善の余地がありそうだが」

「余計なお世話だ……まさか額を撃ち抜かれて生きているとは思わなかったぞ」

 リビングでの会話した時とは異なり、相手を探り値踏みするような会話。ルルーシュからしてみればC.C.の存在は不可解そのものだ。便利な力を与えてくれたことには感謝するが、自分達に近づく理由は何なのだろうか。
 しかしそれらを尋ねる前にルルーシュには彼女に対してしなければならないことがある。

「聞きたいことは色々あるが、まずは一言言わせてもらうぞ――ありがとう」

「…………は?」

 突然何の脈絡も無く感謝の言葉を言われ、一瞬呆然とするC.C.。

「いきなり何を言ってるんだお前は?」

「まがりなりにも俺の命を救ってくれたんだ。礼を言うのは当然のことだろう」

 ほぅ、と軽く感心するC.C.。自分で言うのもなんだが、正体の分からない相手に対してもきちんと礼を尽くすとは中々見どころのある奴だ。

「とりあえず礼は言った、本題に入るぞ。お前は一体何者だ?」

 ――と思ったら、今度は目を一層鋭くして尋問を始めた。そこには先程の柔らかな感情など一切感じられない。

「どうも調子が狂うが……まぁいい。先程あの真っ黒執事から聞いただろう? 私はC.C.だ」

「イニシャルだけというのは気に食わんな……さて、次の質問だが」

「もういいだろう、ルルーシュ、私は疲れているんだ。続きは明日という事で――」

「残念ながらそういうわけにはいきません」

 仕舞いにしよう。と続けようとしたC.C.の言葉を遮り、扉からアキトが紅茶の入ったポットとカップを載せたトレイを携えて闖入したきた。それだけならまだ良かったのだが、なんと空いた手の片方には黒光りする拳銃が握られている。しかもご丁寧に消音器まで付いた念の入りようだ。

「なんの真似だ、黒執事」

「来たか、アキト」

 どうやら彼はルルーシュの指示で動いているようだ。
 となると、先程の謝罪もこちらを油断させて足止めするためのものか。

「ただの婦女子でしたら私もこのような真似は致しません。しかしあなたの名前には聞き覚えがありますので」

「なに?」

「V.V.……あなたと同じイニシャルだけの名前を持つ少年、もしくは青年に心当たりはありませんか?」

 その言葉を聞いて、ようやくC.C.は目の前の男の正体に合点がいった。
 特徴的なサングラスはともかく、服装や言葉遣い、そして身に纏う雰囲気があまりにもかつての男と異なるため、今まで思い出せないでいたのだ。

「そうか……お前はあの時マリアンヌが連れてきた男か」

「どうやらあなたは私を知っているようですが――俺はお前を知らない」

 取り繕うのは不要と判断したのか、アキトの口調が生来の元に戻る。

「役者も揃ったようだし、質問の続きといこうか――貴様達が母さんを殺したのか?」

 入り口の傍に立ったアキトと目の前にいるルルーシュから、途方も無い殺気が叩きつけられる。
 並みの女性ならそれだけで失神しかねないほどの重厚なプレッシャーだ。

(フム、これはとぼけるのはあまり得策ではないな)

 しかしC.C.はそれをどく吹く風といった具合に受け流していた。
 これまでの彼女の『生』の中でこの程度の修羅場は何度も経験している。だからと言ってわざわざ波風を起てる必要性もないし、せっかく手に入れた貴重な契約者と敵対するわけにもいかない。
 C.C.は自分が答えられる範囲で彼らの問いに答えた。

「私がマリアンヌを殺したわけではないが……私が属するグループの人間が手を下したのは間違いない」

「ではやはり……!」

「落ち着け馬鹿者。黒執事――アキトとか言ったか? 確かお前は、マリアンヌから私達の目的を聞いていたはずだが」

「……『嘘の無い世界を作る』。確かそのような事を言っていたが」

「そうだ、V.V.だけではない。私とマリアンヌ、そしてシャルルも同じ志の元で行動していた」

「過去形ということは、今は違うということか?」

 その辺りのことは7年前に既にアキトからおおまかな事は聞いていた。ルルーシュが問題視しているのは目の前の女と皇帝シャルルが繋がっているのかどうかという事だ。

「マリアンヌが求める未来とシャルル達の求める未来は同じだが、そこの男によってそれに到るまでの過程について食い違いが起こったのだ。私もどちらかといえばマリアンヌ寄りだしな。違うと言えば違うだろう」

(尤も、正確に言えば私もマリアンヌ寄りというわけではないのだがな)

 しかしわざわざそれを言う必要は無いのでC.C.は黙っていた。

「ではお前がクロヴィスに捕まり、あのカプセルに閉じ込められていたのは、シャルルかもしくはV.V.の差し金か?」

「いや、マリアンヌを殺されてシャルルの下を去った後暫くしてからクロヴィスの配下に捕まったのだ。尤も、それも奴等の指示かもしれんがな」

 真実を織り交ぜながら、C.C.は導かれる答えをルルーシュが望むような方向へと導くように質問に答えていく。
 そうしていくつかの質問を終えるとルルーシュはこれまでの内容を纏める。

「つまりはこういうことか?――母さんの求める未来がシャルルにとって目障りだったため、そのV.V.とかいう奴に命じて母さんを殺させ、同じ派閥の貴様をクロヴィスを使って拘束させた……という事か」

「まぁ、その認識で間違っていないな」

 そう言うと、そうかと一言呟いて押し黙るルルーシュ。
 傍目からは分からないが、沈黙したルルーシュの瞳には憎しみという感情が浮かんでいるように見えた。どうやらルルーシュの中で『父が母を邪魔になったので殺した』という図式が出来上がったらしい。

「待てルルーシュ、多分それは違う」

「何?」

「俺がマリアンヌと一緒にV.V.と会った時、奴は個人的な感情でマリアンヌを殺そうとしたように見えた。それに奴の口ぶりからすると、まるでマリアンヌをシャルルに近づけたくないような言い草だった」

「……つまりはシャルルの指示で母さんを殺したわけではない?」

 そうしてジロリと殺気立った視線をC.C.へと向けるルルーシュ。
 これにはC.C.も慌てた。V.V.とアキト達の会話の詳細を知らなかったため、いらぬ情報を与えすぎて逆に不信感を持たれたらしい。

「待て、私じゃないぞ。第一私はマリアンヌが殺されてV.V.が信用できなくなったからブリタニアから逃げ出したんだ。それに私がマリアンヌを殺して何の得がある」

「どうかな? お前が母さんを疎ましく思ってV.V.とやらを唆して殺したとも考えられるぞ。ブリタニアを去ったのはシャルルにそれが発覚するのを恐れたから――とも推察することができる」

 ルルーシュの答えに内心で頭を抱えるC.C.。どうやらルルーシュは完全に自分を疑っているらしい。
 そもそもC.C.の話は自身の主観によるものがほとんどなので、C.C.を疑っているルルーシュからしてみれば彼女の話の信憑性は皆無に等しい。彼等の間で信頼関係が成り立たないことには、いくらC.C.が本当の事を話しても意味が無い。
 しかしそんなC.C.にアキトから助け舟が出される。

「……まぁもし君がマリアンヌ殺害の黒幕だとしても、自分が不利になるような材料を揃えて俺達の前に現れる意味が無い。結局の所は、シャルルとそのV.V.とかいう奴に話を聞かない限りは分からないという事だ」

 アキト自身もまだC.C.を完全に信用したわけではないようだが、取りあえず銃を向ける必要が無い程度には信じてくれたらしい。
 しかしC.C.にとってはそれだけでも十分に有難かった。まさか当てにしていた居候先で、銃を突きつけられる程度は覚悟していたものの、突然抹殺されそうな事態に陥るとは思っても見なかったのだ。放り出されるならともかく、軍に突き出されて再びあの実験施設に戻るのだけは勘弁してほしかった。尤も、この男がそれをしないだろうことは折り込み済みなのだが。

「……これで満足か?」

「そうだな、とりあえず一番に聞きたいことは聞き終わった。明日はこの『力』について詳しく話してもらうぞ。何、心配するな。カツ丼くらいはだしてやる」

 どうやら尋問は明日も続くらしい。
 ルルーシュはともかく、この黒執事のプレッシャーは相当なものだ。それが明日も続くとなると思うとC.C.は憂鬱になった。

「…………カツ丼ではなく、せめてピザを出せ」

 なのでC.C.は魔女の意地として、それだけは要求するのだった。
 随分と安い意地である。





 日が傾き、間もなく夜の闇が訪れようとする宵の刻。
 シンジュクゲットーのとある跡地に、先日行われたゲットー虐殺の被害者を奉る広場があった。
 しかしそこにあるのは整然とした墓標などではなく、ただの瓦礫に亡くなった人達の写真や遺影を張り付けただけの粗末なものだ。だが、瓦礫のそばには故人のために贈った供え物や花が無数に置かれており、残された者達の無念や悲しみが痛いほどに伝わってくる。
 枢木スザクは手を合わせ、亡くなった人達の冥福を祈りつつチラリと視線を横にずらす。
 秀麗な目鼻立ちに光を浴びれば輝くような桃色の髪、可憐という言葉がそのまま嵌りそうな麗しい少女――彼女こそは、ブリタニア帝国の第三皇女であり、明日にはこのエリア11の副総督に就くことになる、ユーフェミア・リ・ブリタニアである。
 ユーフェミアはスザクと同じように暫し手を合わせて冥福を祈り、静かに目を開けるとスザクに向きなおった。

「さて、ではいきましょうか。枢木スザク」

「はっ……!」

 瓦礫の墓標に背を向け、歩きだすユーフェミア。スザクはその彼女から少し離れた位置を歩いてついていく。
 ユーフェミアが向かった先には、三人の軍人の姿があった。皇女ともなると、ごく短い時間の外出でも警護の人間がつくのは当然の事。ましてや行き先がゲットーならば、荒時に長けた軍人がそれに付くのは至極当然の事だと言える。
 だがスザクとしては、彼等とやりにくい事この上ない。勿論軍人であることが問題なのではない。
 キューエル・ソレイシィ、ヴィレッタ・ヌゥ、そしてジェレミア・ゴットバルト――そう、スザクの新しい同僚は、かつて自身を逮捕した『純血派』の三人だった。





 事の起こりはほんの二日前に遡る。
 謎の仮面のテロリスト、ゼロのデビューはエリア11に様々な方面で衝撃を与えた。護送状況を少なからずマスコミを通して放送していたこともあり、たった一人のテロリストが皇子を誘拐しただけでなく、完全に包囲された状況で軍を手玉にとった映像はそう時間もたたず一斉に世界を駆け巡った。
 それに刺激されて各エリアに散らばった潜伏組織の活動も活発化し、各エリアを統括する軍はそれを鎮静化させるために手一杯の状況が続いている。
 そんな中、一時は政庁における権限をほとんど握っていた純血派一派だが、先の事件でその権威は失墜し、大きく勢力を削がれる結果となった。
 代理執政官のジェレミアはその任を解かれ、今はゼロ捜索のために僅かな配下と共に、ナイトメア部隊を率いて租界・ゲットーを探し回っている。ほとんどの配下がジェレミアに見切りをつけて彼の元を去り、残ったのは副官として行動を共にしたヴィレッタ・ヌウと、キューエル・ソレイシィの二人だけであった。
 ジェレミアと共にあの事件に関わった二人だが、責任をジェレミア一人に押しつけることはせず、寧ろここから再び純血派を再興させてみせるといわんばかりに、ゼロ捜索に心血を注いでいる。
 数日後に新総督として訪れるコーネリアに覚えをよくしてもらうためには、それが一番だと彼等も理解しているため、三人は行動を共にしていた。

 そんな三人に、逸早くエリア11に到着していた第三皇女ユーフェミアがジェレミア達の前に現れた。
 突然の皇族の訪問、しかも直々の来訪とあってヴィレッタ・キューエルらは勿論、ジェレミアも緊張の色を隠せないでいる。

「ユ・ユーフェミア殿下、わざわざこのような所に! お呼び立てして下さればこちらから出向いたのですが……」

「いいえ、気にしないでくださいジェレミア卿」

 気にするなと言われても、皇族を至上とする純血派の三人からすれば、姫殿下の前でリラックスしろというのが無理な話である。
 だがユーフェミアはそんなジェレミア達の狼狽振りを気にする様子も無く、本題へと入った。

「今日あなた方にお話しする事は、クロヴィス兄様の事についてです」

 それを聞いて一層顔を青くするジェレミア達。
 おそらく姫殿下は直々に我ら純血派を叱責に来たのだと三人は思い、更に身を硬くする。

「勘違いしないでください、私はあなた方を罰するつもりはありません」

 だが、ユーフェミアの口から告げられたのは『断罪』ではなく『慰労』の言葉だった。

「あの状況下ではたとえ誰であろうと、罠を見破る事はおろかゼロを捕まえる事もできなかったでしょう……それほどゼロは周到でした」

 ゼロが直接姿を現した時、周辺にはジェレミアの指示で少ないながらもTVカメラが設置されていた。それだけでなく、周囲には何機ものサザーランドが待機しており、警戒に当たっていたのだ。その中には赤外線カメラを用いて警戒していた機体も存在しており、ゼロが出現した時には当然その様子をモニターしていたはずだ。そうなれば如何に精巧な立体映像とは言え、所詮は熱を持たない映像。クロヴィスを映し出していた立体映像の罠を見破ることができたはずだ。
 なのに、それがジェレミアの元へと伝わらなかったのは何故なのか? それは同時期に、現場を中心とした半径1kmの範囲で一斉に通信機が不調になったからだ。ゼロと直接肉声で会話していた数人はともかく、周囲を警戒していた幾人はクロヴィスの立体映像に気付いてはいたものの、通信機が使えないため現場の状況を把握することができずにいただけでなく、情報をジェレミア達に伝えることもできなかったのだ。
 詳細が分かったのは、ゼロに枢木スザクの身柄を強奪され、追跡部隊も黒騎士と思われる機動兵器によって悉く倒された後になってからだ。現場検証において立体映像の投射装置の傍に、中継装置のようなものが置いてあったことから、ゼロが立体映像のトリックがばれないよう周囲の電子機器を誤魔化していたのだと判明したのである。
 仮にジェレミア以外の人間が現場に居たとしても、ごく短い時間の中でゼロの策を見破るのはほぼ不可能だっただろう。

「各地で抵抗勢力が活発化している中、一刻も兄クロヴィスを助け出すために、あなた方純血派を罰して戦力を少なくする余裕もありません」

「しかしユーフェミア様!」

 通常ならば皇族直々にかけられた温情に感動を覚えるところだが、テロリストに皇族を攫われるという失態を犯したにも関わらず、罪に問われないといった裁定は誇りあるジェレミアにとって受け入れられないことだった。
 だが、ユーフェミアはそんな彼の言葉も想定していたようだ。

「……ですが、それでは他の兵士達に示しが尽きません。ですから、あなた方には今後彼と共に行動してもらいます」

 そう言って後ろを振り向き、お入りなさいと一言告げるユーフェミア。
 そして扉が開き、姿を現した人物を見てジェレミアは驚愕の声を上げた。

「枢木スザク!?」

 あの事件の傷がまだ癒えていないのか、頬には大きめの湿布が張ってあり何故か技術部の仕官服を着ているが、それは間違いなくジェレミアが以前クロヴィス皇子殺害の容疑者として連行した枢木スザクだった。

「あなた方は今後、彼と共に私の下に配属されます。ナンバーズの兵士と共に戦場を駆ける……純血派の貴方達にとっては十分な罰となるでしょう」

 ブリタニア軍は全てブリタニア人で構成されるべきである――そんな謳い文句を掲げる純血派にとって、確かにスザクと轡を並べる事は屈辱的といえる罰になるだろう。だが、ジェレミアはユーフェミアの言葉を聞いて、軍人然とした表情に戻ると「Yes, Your Highness.」と臣下の礼をとるのだった。
 ジェレミアにとって皇族の命は絶対。それに事件の罰といってももユーフェミア殿下の元に就けるというのなら、責を負う以上に勝る栄誉がある。そしてそれはジェレミアだけでなく、ヴィレッタやキューエルも同様で、三人は揃ってその命を受け入れた。
 そしてジェレミアは直立不動で立つスザクの方へと歩み寄る。

「よろしくお願いします、ジェレミア卿」

「まさかつい先日まで誘拐の容疑者だった貴様と肩を並べることになるとはな……」

 複雑な表情を見せながらもお互いに手を差し出し、握手をするジェレミアとスザク。
 しかし心なしか二人の手は力を込めているのか、心なしか僅かに震えている。

「ユーフェミア殿下の命故、イレブンの貴様と行動を共にするのは受け入れる……しかし一度でも忠義に反するような事をすれば、その時は我が剣の錆にしてくれよう。それを忘れるな!」

「承知しております」

 いまだにギリギリと握った手を離さない二人を見て、これならなんとかやっていけるだろうとほっとするユーフェミア。
 今回何故このような措置をとったのかと言うと、ゼロが真犯人を名乗り出たからと言ってスザクとの関与を否定できる要素がないためだ。あのような大げさな演出をしてまでスザクを奪還したにもかかわらず、あっさりと開放したことはあまりにも腑に落ちない。スザクが言うには「ナンバーズの皆のためにゼロの勧誘を蹴って出頭した」とのことだが、上層部はそれを鵜呑みにするほど間抜けではなかった。裁判では証拠不十分ということで釈放されたが、その後も徹底的にゼロとの関連を洗い出してみたものの、結果は芳しくない。
 しかし枢木スザクがゼロに捕らわれたクロヴィスを救い出す鍵の一つなのは間違いない。よって上層部はスザクをの身柄を特派に返したものの、その動向を逐一監視するために純血派の人間を監視につけたのだ。
 純血派をつけた理由としてはユーフェミアも言ったように、先の任務失敗における彼らへの罰も理由の一つだが、彼らの性格上イレブンの動向には目を光らせるだろうし、イレブンを監視すると言う任務に他の軍人が消極的であったことも理由の一つである。
 またユーフェミアの下に就けるという事に関しては、彼女自身の要望でもあった。警備上の観点からも専属の護衛と言うのは不可欠だったため、部隊を就けることに関しては異論は出なかったものの、ナンバーズを皇族の下に就けるとは言語道断と他の軍人達から反対意見も出たが、純血派と組ませることでそれを抑えることができた。
 だがそれでも問題視する人間は多い。過去にも皇族の下にナンバーズをつけた例はある。だがその結果は守るべき皇族を配下の人間が暗殺するという最悪の結果だった。


(ナンバーズを配下にして暗殺されたマリアンヌ皇妃――私は二の轍を踏むつもりはありません……ですがマリアンヌ様を暗殺したのは本当にあの人だったのでしょうか?)

 今でも思い出せる怪しいバイザーをつけた茶髪の男性の姿。格好こそ怪しいものの、貴族・皇族に対しても分け隔てなく接してきた彼が暗殺者だったとは今でも信じられない。姉コーネリアも忠義に反した彼を必ず殺してみせると息巻いているものの、心の底のどこかではあの人を信じたいという気持ちを抱き続けている。

(スザク……今あなたはイレブン、いえナンバーズ達の行く末を決める岐路に立たされています。もし今回の配属で何か問題があれば、ブリタニアでのナンバーズの立場は更に厳しいものとなるでしょう)
 
 ナンバーズに対する弾圧は今も尚厳しい。
 日本との開戦の要因にはマリアンヌ暗殺も起因しており、本国ではナンバーズ擁護の声は限りなく小さいものとなっている。そこへきて今回の配属は難色を示すものが大多数に昇っており、おそらく何らかの妨害があるであろうことはユーフェミアも想像がついている。
 だがこのままではナンバーズの地位向上はいつまでたっても成し得る事はできない。
 なによりも優しい世界を目指すユーフェミアにとって今の世界はあまりにも苦しかった。争いの無い世界、差別や偏見の無い世界。そんな都合の良い世界が簡単に作れるとは思えない。だが興味本位で面会したスザクはそんなユーフェミアの願いを笑って肯定した。

「ユーフェミア様が願う世界は私が望む世界でもあります。そのためには私も全力を尽くし、その夢を実現させてみせましょう」

 そう言って柔らかく微笑む彼の笑みと、かつて国を追われた騎士の自分に向けた笑みが何故か重なった。だからだろうか、彼を使ってみようという気になったのは。瞳の奥底に見え隠れする感情と、特派から提供されたデータを見て彼が一流の騎士に勝るとも劣らない能力を秘めていることが決め手となり、スザクを純血派と共に自分の下に付かせた。
 これが後々どんな影響を及ぼすかははユーフェミアも分からない。だが、彼には期待させるだけのなにかがあるのだとユーフェミアは思っていた。

(期待していますよ、スザク)

 彼らを待っているのは希望か、それとも変わらず繰り返される絶望か。
 それはまだ誰にも分からなかった。




※ゲキガンガーSEED
 アキトの世界において地球・木蓮との終戦5周年を記念して作られた新シリーズ。今までに無いリアルなロボット造詣と魅力的な登場人物により、若年層の間で爆発的なヒット作となった。
 しかし木蓮出身者や元祖ゲキガンガーのファンからの評判はすこぶる低い。


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■作者からのメッセージ
あれ、おかしいな?
C.C.との会話はもっとミステリアスに、C.C.主導で進めるはずだったのに。
まさか、これが電波というものか……!?

>>まさるさん
 アキト「俺の後ろに立つな……」
 こうですか! 分かりません!!

>>sssさん
 改変しすぎてスザクの学園編入も無くなっちゃいましたよ!
 でも本編でも元殺人容疑者を学園に編入させるとか、よく考えれば凄い事平気でやってますよねユフィって。

>>あ さん
 お話の方でその理由を書いてるじゃん……って改めて読み直してみると、確かに犯人をおびき出せる理由としてはかなり弱いですね(汗
 確かにこれならおびき出すと言うよりも、あくまで保険のために警戒する―とした方が自然ですね。

>>きちゅねさん
 ホント、毎度お待たせして申し訳ありません(平謝)

>>zetoさん
 ギャリソンさんが執事道LV99とするとサヨコがLV50、アキトが30といった所でしょうか。今適当に考えたんですけどね!(ぉ

>>偵察オリゼーさん
 ゴメンナサイ、私ではC.C.の魅力を引き出せませんでした……orz
 つ、次こそは必ず!!

>>見習い一号さん
 本編では景気よく使ってましたからねぇギアス。
 とりあえず自分の無い頭でルルーシュの計略をどこまで表現できるか分かりませんが精一杯がんばります!

 さて、このお話ではスザクが学園に編入されなかったので次回はネリ様VSルルのお話をお送りします。
 …………そう、つまりはバトル編ってわけさあっ!!
 銃撃! 硝煙! 剣戟! さあああぁぁぁっかくぞおおおっっっ!!!




 け、決してバトルが書きたいから学園編を削ったんじゃないんだからねっ!
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