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黒の異邦人は龍の保護者 #01 Receptivity is woman's power. ――感受性は女性の力である―― 『前編』
作者:ハナズオウ   2011/05/28(土) 01:51公開   ID:c.hMe2ywUIw





 NEXT……それは、45年前に突如として現れた特殊な能力を持つ者達、新人類の総称である。

 ゴールドステージ、シルバーステージ、ブロンズステージと3層からなる都市構造をしているシュテルンビルト。

 シュテルンビルトは人類と新人類……NEXTが共存している街であり、その街で起こる事件はスーパーヒーローとして認可を受けた8人のNEXTが守っている。

 そしてその様子を生中継や録画放送、ショーアップし、スーパーヒーローの活躍に応じてポイントを与え、年間総合ポイント数にて年間の『キング・オブ・ヒーロー』を決めるテレビ番組『HERO TV』は街の人気番組となっている。

 スーパーヒーロー達は同僚であり、ライバルな関係で日々活動している。



 ヨーロッパの規律ある外観の建物たちにより、落ち着いた雰囲気を醸し出すシュテルンビルトの街中にある公園の一角に、周囲の景観からはっきりと浮いている日本式の屋台。
 『ホームラン軒』と楷書体で書かれた暖簾が掛かっており、その内には2人の影が見える。

 一方はYシャツの上に翠のパーカーにジーパンというラフな格好の黒髪の東洋系の青年。
 名を李 舜生リ シェンシュン
 穏やかで気弱そうな青年は、優しげな笑みを零しながら、ラーメンをズズゥっと音を立てて美味しそうに食している。


 もう一方は、薄い黄色の生地に黒のラインが入ったカンフースーツに身を包んだ薄い金髪の中学生ぐらいの少女。
 名を黄 宝鈴ホァン パオリン
 ショートカットでボーイッシュなイメージを受け、その通り活発で明るい女の子である。
 格好の通りに中国拳法を習得しており、幼い頃からの英才教育によりその腕前は中々のモノである。
 そして『電撃を操る』NEXTとして、シュテルンビルトを守るスーパーヒーロー、『稲妻カンフーマスター“ドラゴンキッド”』として活動している。

 そんな2人は汗を流しながら麺をすすり、スープを味わう。
 そんな2人の食べている様子を眺める店主の顔は信じられないと顔を引き攣らせて大粒の汗が一粒頬を流れていく。

 ――美味しそうに食す2人の前には既に食したラーメンの空き丼がまるで柱のように積み重なっていた。

「「プハァァ……おいしかった」」

 2人は既に10杯は軽く食しているにも関わらず、今食している丼のスープを美味しそうに飲み干すと、幸せそうな笑みを浮かべ手を合わせる。

「「ごちそうさまでした」」

 李 舜生は2人分の料金をポケットから出すと、優しい笑顔のまま店主に手渡し、立ち上がる。
 黄 宝鈴も李 舜生を追うように立ち上がると、李 舜生の腕にダイブするように勢い良く飛びつく。

 そして、楽しそうに会話を弾ませながら、夜の灯りが灯り始めたシュテルンビルトの街へと軽やかな足取りで歩いていく。
 端から見れば、年の離れた兄妹か年の近い親娘に見える2人。

「ねぇねぇ師匠! もう3年になるけど、この世界にはもう慣れた?」
「はい。リンが色々な物を教えてくれましたから。ありがとうございます」
「うん!」

「そういえば、鈴。友達は出来ましたか?」
「うっ……」
「焦らず、頑張って作りましょう」
「う……っうん!」

 黄 宝鈴は李 舜生の言葉に心の底から喜んで、満面の笑みで更に強く舜生の腕に抱きつく。


 黄 宝鈴の言葉の通り、李 舜生はこの世界の住人ではないのだ。
 突如として、黄 宝鈴の家が持つ広大な土地から湧いて出たように現れたのだ。
 その腕には、薄らと笑みを浮かべた銀髪の少女を抱えていた。

 李 舜生が現れた時は、黄 宝鈴はNEXTの能力に目覚めたばかりで、扱いきれず暴走ばかりしていた。
 黄 宝鈴の中国拳法の英才教育の為に複数の優秀な拳法家の師匠達が暴走した黄 宝鈴を止めようとしたが、既に中々の実力をつけていた黄 宝鈴に電撃のNEXT能力が加わり、誰も止めることはできなかった。
 扱いきれない電撃のNEXT能力を気味悪がり、両親でさえ一時期は傷つけられまいと黄 宝鈴を遠ざけた。
 その扱いが幼い黄 宝鈴は傷つき、近づこうとした者、目についた者全てに襲いかかっていた。

 目の前に現れた李 舜生も例に漏れずに、黄 宝鈴は電撃を纏いながら襲いかかる。
 銀髪の少女を抱えた李 舜生は少女を地に優しく下ろすと、黄 宝鈴の電撃を伴った蹴りをいとも簡単に掴んで止める。
 電撃も李 舜生の手で完全に相殺されて、届くことはない。

 いくら全力で襲いかかろうとも軽くいなされ、こかされる。
 何度も何度もこかされ、遂に体力の限界がきた黄 宝鈴は気を失うように眠りにつく。

 数時間後に目覚めた黄 宝鈴は自分を負かした李 舜生を探し回り、銀髪の少女を火葬しようとしている李 舜生を見つける。
 襲いかかったが見向きもされずこかされた黄 宝鈴は、あまりに悲しそうな李 舜生の瞳を目の当たりにし、静かに火葬が終わるまで待つことにした。
 その間に、李 舜生が独り言を静かに語り続けた。

 目の前の李 舜生が別の世界の人間で、契約者と呼ばれる特殊能力者となった妹を受け入れるために暗殺術を習得し、それ以来『ヘイ』と呼ばれていた事。
 習得した暗殺術でたくさんの人を殺め、黒の死神と恐れられた事。
 世界から命を狙われる存在となった後に心の拠となったパートナー、今火葬されている銀髪の少女・銀を世界を破壊から守るために殺めた事。


 独り言のように話した李 舜生は、今度は静かに聞いていた黄 宝鈴の話を聞くっと呟き、黄 宝鈴の鬱憤にも似た激情が篭った言葉を静かに、ただ静かに優しく聞いていた。

 英才教育と称し、日常のほとんどを支配する稽古。それに不満はあまりないが、友達というモノを作ってみたい事。
 NEXTになったからにはシュテルンビルトにて活躍しているスーパーヒーローにならなければならないと言われた事。
 NEXTの能力が使いこなせず、皆を傷つけて、皆遠くに行ってしまった事。
 NEXTである自分が嫌いだという事。

 全てを話し終えた黄 宝鈴は涙で顔を濡らし、くしゃくしゃになった表情で李 舜生を見る。

 李 舜生は静かに、黄 宝鈴の頭に手を置く。

『ならNEXTの能力を使いこなせるようになれ……力に使われず使いこなせば、誰も傷つけない。それが出来るまで、一緒にいてやる』

 李 舜生は泣きながら感情を吐き出す黄 宝鈴に、この世界に来る直前に別れた赤毛の少女『蘇芳・パブリチェンコ』の面影を重ねてしまい、放って置くことが出来なかった。


 それ以来黄 宝鈴は李 舜生にしか懐かず、逃げ出した師匠達の稽古は受けないとダダをこねたのだ。
 黄 宝鈴の師匠達がその地域で名を馳せた者ばかりだった事もあり、その者達のメンツを保つ意味も込めて、黄 宝鈴はシュテルンビルトへと早々に送り込まれたのだ。
 そこに李 舜生は保護者として同伴している。

 それ以来、李 舜生は黄 宝鈴の事を『鈴』と呼び、黄 宝鈴は李 舜生は『師匠』っと呼び合っている。

「ねぇ師匠、今日もバイト……?」
「はい。しっかりとお風呂に入って、宿題をしておいてください。寝るまでには帰ります」
「……うん。えっと、その……」

 黄 宝鈴は李 舜生の返答に少し俯くと、少し言いずらそうに口篭る。
 首を傾げ黄 宝鈴を見る李 舜生。

 そんな2人に近づく影が、李 舜生の背を挨拶変わりに軽く叩く。

「やっほぉ、李さん。今日バイト休みだっけ?」

 2人が声の主へと視線を向けると、そこにはブロンドのセミロングの髪がよく似合うスレンダーな女子高生。カリーナ・ライル。
 服装は落ち着いた黒のワンピースに木目調のブレスレットと大人な雰囲気溢れる姿だ。
 そんな服装をしていても、可愛らしい笑顔がカリーナの活発で明るい少女である事がわかる。
 カリーナも黄 宝鈴と同じスーパーヒーローで、氷を操る『ヒーロー界のスーパーアイドルブルーローズ』としてスーパーヒーロー兼アイドルとして活躍している。

 カリーナはブルーローズの姿でアイドルとしてライブを行なっていたりするが、プライベートでも李 舜生がバイトするバーで週に何度か歌っていたりするのだ。

「いえ、鈴を家に送ってから行きますよ」
「そうなんだ。じゃ、一緒に行かない? 少し早く出過ぎちゃったんだ今日」
「はい」

 体全体でやったーっとガッツポーズにて嬉しさを表現するカリーナを、李 舜生は優しい笑みのまま見ている。
 その李 舜生の腕に抱きついている黄 宝鈴は、少し沈んだ瞳の先を地に落とすし、カリーナから直視されないように李 舜生の体に隠れる。
 そんな黄 宝鈴の様子にカリーナと李 舜生は気づかずに、楽しそうに話しながら歩いていく。

 数分とせずに黄 宝鈴と李 舜生が同居する家へと到着する。

「それじゃ、お仕事に行ってきます。鈴が寝る前には帰りますので、宿題をちゃんとしておいてくださいね。あとお風呂も」
「……わかってるよ」
「じゃ、李さん借りてくねぇ。また明日ね、ホァン
「……うん」

「鈴、今週末はちゃんと休みを……」


 ドアの鍵を開けながら李 舜生とカリーナの言葉を受けた黄 宝鈴は振り返りもせずにそっけなく答える。
 そっけない返答を返した黄 宝鈴は、李 舜生の言葉が終わる前にさっさと扉をくぐりバタンっと扉を閉める。

 さっさと家の中に入っていった黄 宝鈴に、李 舜生の言葉は届かなかった。
 ふぅうっと小さくため息をついた李 舜生は、帰ってから伝えようとバイト先へとカリーナと共に向かう。

 バタンっと閉じた扉の鍵を閉めると、黄 宝鈴は背を扉に預ける。
 電気が着いておらず真っ暗な闇の中、小さな黄 宝鈴から小さく、すぐにでも闇に吸い込まれてしまいそうなほど小さな声が漏れる。

「師匠の……黒の……ばか」





TIGER&BUNNY × Darker Than Black


黒の異邦人は龍の保護者


  # 01 “ Receptivity is woman's power. ――感受性は女性の力である―― ”


『前編』


作者;ハナズオウ






 黄 宝鈴を家に送り届けた李 舜生とカリーナ・ライルは、仕事帰りのサラリーマン達が家路に付いている街中を並んで歩いている。
 仲の良い異性の友達同士の着かず離れずの距離を開け、2人は歩調を合せている。

「週末バイト休みなんだ」
「はい。その日は鈴の授業参観がありますから」
「へぇ、中々いい保護者してるのね。黄の送り迎えも毎日来てるし……。

 ――あれ? 黄のご両親は?」

「……多分来られないかと。ご両親共にお忙しい方ですから、中国のどこかでまだお仕事をしているはずです。一応は授業参観の日程は報せてはいるんですが」

「ふぅん、そうなんだ……。ふぁ、ふぁあっくしょん!!」

 関心したように首を縦にゆっくりと振っていたカリーナは、急に襲ってきた寒気に思わず大きなくしゃみをしてしまう。
 考えてみれば、過ごしやすい気候の街とはいえ、日が落ちてきたこの時間にワンピースだけでは若いとはいえ少し寒い。

 年の近いバイト仲間の男性の前で大きなくしゃみをしてしまった恥ずかしさから、カッと頬を赤面させたカリーナ。李 舜生がどのようなリアクションをしているのかを見るのが少し怖く恥ずかしいので、顔を向けることができない。

 俯いてしまったカリーナの肩と背中にフワッとした暖かな温もりを持ったモノが覆ってくる。
 へっと声に出したカリーナは肩と背中に掛かったモノを確認すると、先程まで李 舜生が来ていた緑のパーカーが掛かっていた。

「今から歌われるんですから、どうぞ」
「え? でも、李さん寒くない?」
「大丈夫です! 鍛えてますから」

 っと李 舜生が優しげな笑顔で右腕の力こぶを主張しようと腕を少し上げる。
 誰も傷つけそうにない優しげな笑顔の李 舜生が力こぶを主張する。そのどこか噛み合っていない感じにカリーナはプッと吹き出して、大きな声で笑いながら腹を抱える。

「ヒヒッ、ハハハ! 李さん、ホントそういうの似合わないよね」
「あれ……? そうですか?」

 腹を抱えて笑うカリーナを李 舜生は思っていた反応と違う……っと、ポカンとした間抜けな表情で見ているしかできない。
 数秒を置き李 舜生も、まぁいいか。っとカリーナと一緒に笑う。

 笑いも収まり始めたカリーナはふと肩に掛かる李 舜生のパーカーを見、控え目に笑っている李 舜生にも視線を注ぐ。
 突然のカリーナの凝視に、笑っていた李 舜生の笑いは収まり、居心地の悪そうな苦笑が漏れる。

「そういえば、李さんっていつも一緒の服だよね? 仕事着?」
「ん……そうですね、そんなところです」
「真面目なんだねぇ」
「カリーナさんほどではないですよ。留学先の大学も偶にサボりますから」
「あーワルだねぇ。……黄のため?」
「はい」

 ふぅんっと李 舜生の別の私服も見てみたいな……っと、ふってわいたような思い。
 それに着いてくるようにいつも李 舜生と一緒にいる、カリーナの同僚である黄 宝鈴の服装についてである。

 稲妻カンフーマスターとしての企業が用意したコスチュームを除けば、トレーニングの時も、出勤帰宅の時も、ついさっきだって……。
 あの黄色の生地に黒のラインが入ったカンフースーツ以外に見たこともない事に気づく。


 高校生の自分とは2つ3つ下の少女、オシャレに目覚め始めるお年頃のはず。
 しかし見たことはない。

 仕事(スーパーヒーロー関係の出動やトレーニング出勤などの)では、黙々と与えられた役割や、自らに課したトレーニングを達成していく黄 宝鈴。
 仕事では真面目一辺倒な黄 宝鈴を考えると、私服では来ないか……。

 ならプライベートなら、学校になら私服なのかな……?


 そう思い至ったカリーナの口からポロンと考えていたことが漏れる。

「そういえば……黄ってどんな私服着てるの? あの子ほんと素材いいからなんでも似合いそうよね」
「え? いつもあれですけど……」

「……は?」
「今日着てたあの服ばかりですね」
「はぁあああ!!? あの服って、あの……黄色のカンフースーツ!? 

 ありえない! ヒーローやってるんだから給金は十分じゃない! まさか

 ――李さんが買わせないようにしてるんじゃないでしょうね!?」

 李 舜生はカリーナの問いに軽く返答した結果、先程まで楽しく笑いあっていたのに、突如激怒したカリーナに大声で責められ始める。
 李 舜生にしてみれば、黄 宝鈴は好んであのカンフースーツを着ている……。

 トレーニングして学校へ行き、その後またトレーニングというような生活を送る上で、着替えるのがめんどくさい。別にいい。

 っという理由でカンフースーツを着ている黄 宝鈴。
 そこに李 舜生に対する淡い想いからの気恥しさが含まれているが、李 舜生は気づいていない。

 そのことで、まさか自分が怒られるとは思ってもおらず、ただただ血相を変えて説教するカリーナを刺激しないように返答する。

「いえ、あの子がいいと……。誘ってはいるんですが、苦手だと」
「それ絶対遠慮してるから! 保護者なら強引に連れてくなり、プレゼントするなりしなさい!!」

「でも……どんなのがいいか……っあ! カリーナさん、鈴を連れて行ってもらいません?」

「却・下!!

 あー! もう!! 今日シフトいつもどおりでしょう!?

 終わったら私を家まで送りなさい! これは命令です!」

 黄 宝鈴に服を買ってあげなさい! っと血相を変えて説教していたはずのカリーナからの突然の明後日の方向の命令。
 意味が分からずに、口をポカンと開け、力のこもっていない瞳でカリーナを見つつ、李 舜生は必死に理解しようと頭をフル回転させる。

 これまでの経験全てを総動員しても、しっくりと来る答えは出てこなかった。

 どういう意味なのか、力強く指を李 舜生に向けて指しているカリーナに聞こうとすると同時にカリーナから答えが発表される。

「私が読み終えた雑誌上げるから、勉強してプレゼントしてあげること!」

 どうやら、李 舜生に拒否権や異議を唱える権利はないようだ。
 言い終えたカリーナは少し足早に歩き始め、ようやく理解し始めた李 舜生があとを追う。
 カリーナの言動の意味を理解した李舜生は、困惑が晴れ、ライバルであり同僚である黄 宝鈴のためにこうも言ってくれるカリーナに対する感謝の念がこみ上げてくる。

「ありがとうございます、カリーナさん。鈴のために」



  ―――――



 シュテルンビルトの街中にひっそりとあるバー。

 テーブル席を10席近く、カウンター席も10席近くあり、店内には大きなグランドピアノがどっしりと佇んでいるステージがある。
 そこで、毎日歌手による小さなライブが行われているのだ。

 カリーナ・ライルもそんな歌手の1人。
 場数はまだまだだが、これが歌手になるという夢の大切な一歩だと、緊張しながらも一生懸命に歌った。
 雇い主の店長にもお褒めの言葉を貰い、ようやく緊張から解かれほっと一息をつく。

 いつもならば店員に挨拶して帰るのだが、今日は大切な用が控えているため、バーテン見習いの李 舜生がいるカウンター席へと座ろうと店内を移動する。

 その席に近づくと、バーテンをしている李 舜生と楽しそうに会話するおっさん2人組が目に入る。
 視認した瞬間、カリーナはウエッと少し気まずそうに顔を軽くひきつらせる。

 李 舜生と楽しそうに会話しているおっさん2人組は鏑木・T・虎徹とアントニオ・ロペス。
 2人共、カリーナの同僚、スーパーヒーローである。

 翠のYシャツに黒のネクタイにベストを着た黒髪の東洋人の中年、鏑木・T・虎徹。
 虎徹はワイルドタイガーとして、キャリア10年のベテランヒーローである。
 考えるよりも先に行動してしまう性格と、人助けの為ならば器物破損も厭わない事から『正義の壊し屋』として活躍している。
 最近は、ヒーロー界初のコンビとして、有能な新人バーナビー・ブルックス・Jrとアベコベコンビを組んでいる。

 とにかくなんにでも口を挟み、いらないことを無自覚に口走ったり行動したりするちょっと迷惑なおじさんだ。


 茶色の革ジャンを着たガッシリとした体格のブロンドの髪をオールバックにした白人の中年、アントニオ・ロペス。
 アントニオは『西海岸の猛牛戦車“ロックバイソン”』として、活躍するスーパーヒーローだ。
 力持ちだがドジなミスをしばしば起こすおっさんだ。


 2人は学生の頃からの付き合いらしく、よくこのバーに飲みにくるのだ。
 アントニオは年相応な雰囲気で落ち着きがあるのだが、虎徹の方はどうもおちゃらけてみえて、どうも話にくい。

 カリーナがカウンター席に近づくのを躊躇っていると、それに気づいた李 舜生がご丁寧に笑顔で手を振ってくれている。
 いっそバックヤードで休んでいようかという考えをあっさりと砕いてくれる。
 李 舜生の行動に、虎徹とアントニオも気づき、カリーナを発見し、手招きして呼んでいる。


 ここで無視してバックヤードへ行ってしまったら、ただの付き合い悪い奴になるじゃない。

 っとバレないようにため息を着いて、手招きに応え、席に座る。

「李くん、こいつに焼酎ロックで」
「カリーナさんは未成年ですよ、虎徹さん」
「真面目だねぇ」
「さすがにお店ですから……」
「そうだぜ虎徹。飲めるようになってから誘えばいいじゃねぇかよ」

「あ、李さん。ミネラルウォーターを」
「はい」

 虎徹のいつものテンションのおちゃらけを笑ってやり過ごす李 舜生と、ガン無視で注文を済ますカリーナ。
 仲が良いアントニオはフォローだけは入れて、酒の入ったグラスに口をつける。

 そこからはなんてことはない、酒の場の話が始まる。

「そいやさ、李くんってドラゴンキッドの……黄のお兄さんなの?」
「いえ、鈴のご両親からお世話を頼まれているだけです。鈴がシュテルンビルトに行くことが決まったときに僕もここに留学がきまってましたから。鈴の稽古によく付き合っていましたら、その関係もあって」
「ふぅん……じゃぁさ、李くんもあの、カンフー! っての使えんの?」
「護身術程度ですが……」

 実際には、李 舜生の実力派、黄 宝鈴の実力を軽く凌駕している。

 この世界に来る前の世界、李 舜生が生まれ育った世界では、契約者と呼ばれる特殊能力を持ち合理的思考をする『契約者』と呼ばれる者達が闇の世界で暗躍していた。
 そんな世界で李 舜生は、関わる案件全てに謎の死が付き纏う謎の契約者『黒の死神』と呼ばれ、恐れられていた。

 この世界では、裏の世界に首を突っ込む必要もないので、李 舜生は『黒の死神』としての仮面を付けることはない。

 今はただの東洋系の留学生、李 舜生で十分なのだ。
 だから李 舜生は虎徹に笑顔で答えた。

 そこから、また再開された井戸端会議。
 くだらない話から、季節についてなど話、虎徹とアントニオは大いに花を咲かせている。
 そして、ふとした沈黙。一番に声を出したのはやはり虎徹。

「そいや、お前が残るって珍しいな、ブルーローズ」
「その名前はここではやめて! 仕事じゃない時は名乗りたくない」
「そうだぜ、ワイルドタイガー」
「気持ちわりぃな、やめろよ酒の席ぐらい」
「あんたから言い出したんじゃない! 私はこの後李さんと用事があるの」

 カリーナからの発言に、虎徹とアントニオの中年コンビは酒も手伝ってか、過敏に反応する。

 おーやるね! 李くん。草食系なフリしてやることやってるねー! ヒューヒュー!

 などと、茶化すように2人は盛り上がる。
 茶化された李 舜生は少し困ったように笑顔を作る。
 助けを求めるようにカリーナに視線を向けるが、それと同時に店長から上がっていいとの指示が出たので、苦笑しながらお辞儀をしてバックヤードへと消えていく。

 茶化す相手の李 舜生が消えた今、2人の矛はカリーナに向く。

 朝帰りは親が悲しむぞ! ちゃんと親の許しを貰いなさい。

 などと、楽しげに言っている2人をカリーナは冷めた冷たい視線をじっと注ぎ、少し抑え目に、2人にだけ届く声を発する。

「そういうんじゃないから……おっさん」

 女子高生カリーナのあまり凄い目力に、先程まで楽しげにしていたおっさん2人は黙り込み、冷や汗を流す。

 まさしく女王様の風格を出すカリーナに黙り込んだ2人はただただ、李 舜生の再登場を待った。
 それ以外にカリーナをどうこうする術が思いつかなかったからだ。

 ほどなくして、いつもトレーニングルームにドラゴンキッドこと黄 宝鈴を迎えに来る時と同じ格好をした李 舜生が現れる。
 お待たせしました、っと李 舜生はカリーナを連れて去っていく。

「ちょっとふざけすぎたな、虎徹」
「そだな……」

「どうかしたか?」
「いやぁさ、学生ちゃんたちは友達はちゃんといるのかね? ってさ」
「カリーナは性格的にいるだろ」
「だよな……黄は……」
「……」

 どうなんだろう……っと一向に答えは出ず、2人はまぁいいかと酒をおかわりする。
 そして、2人の夜はいつものように更けていく。



   ―――――



 李 舜生がその日、家にたどり着けたのは、いつもよりも一時間遅い時刻であった。
 その手には、女性服のブランドロゴが印刷された手提げ。

 どうもカリーナの御贔屓のブランドなのかな……っと突っ込まず、その中にどっさりと入っているファッション雑誌の重みに耐える。
 手さげの中に入っている雑誌の数は5・6冊、これで先月号のだから……っと言われたときはこんなに買うものなのか、っと息を飲んでしまった。

 折角の好意だからと、李 舜生はこれからお風呂に入ってから雑誌を読んで勉強するかっと決意を固め、家の中へと入っていく。

 中に入ると、電気はリビングの灯を除き真っ暗。
 いつもより一時間遅くの帰宅のため良い子の中学生は眠っている時間……李 舜生はリビングに向かい、黄 宝鈴を寝かさなければっと歩を進める。
 リビングにテレビが付いている様子はなく、小さな寝息が聞こえてくる。

 どうやら、待っているうちに眠ってしまったのだろう。
 李 舜生は黄 宝鈴の健気な優しさに思わず微笑んでしまう。

 リビングへと入ると、そこには2人で座るにも広い豪華なソファーに横たわり、スヤスヤと安らかな寝息を立てる少女、黄 宝鈴がいた。

 お風呂上がりだったのか、黒のタンクトップにパンツという極めて露出している格好で眠っている。

 李 舜生は慣れた手付きで眠る黄 宝鈴を抱きかかえると、寝ている黄 宝鈴は無意識に李 舜生に抱きつく。

 ゆっくりと揺らさないように歩き、黄 宝鈴の部屋に入ると、大きなお姫様ベッドがあり、李 舜生は黄 宝鈴を優しく下ろす。

 しかし黄 宝鈴は李 舜生を離さず、端から見れば李 舜生が押し倒している現場のように映る。
 寝心地の変化に少し起きた黄 宝鈴は寝ぼけたままに、李 舜生に顔を近づけて臭いをクンクンっと嗅ぐ。
 そして、嫌そうな表情で腕から力を抜いてベッドにゴロンっと寝転ぶ。

「ししょ……たばこくさい」
「ごめんなさい、お風呂に入ってきますね」

 愛おしそうに黄 宝鈴のおデコを優しく撫でる李 舜生は、ゆっくりと立ち上がり、部屋を出ていこうとドアの方を向く。

「……黒、どっかいっちゃ……いやだよ……ぼく」

「あぁ、お前を1人のまま置いてどこにもいかないよ」

 泣きそうな顔で言葉を紡ぐ黄 宝鈴を安心させるため、李 舜生は頭を撫でながら、黄 宝鈴が寝付くまで優しく語りかけていた。


 ゆっくりとシュテルンビルトの夜は静かにふけていく……。





......TO BE CONTINUED

......GO TO 『後編』







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■作者からのメッセージ

 小説掲示板に初めて投稿させてもらいます、ハナズオウと申します。
 SS勉強中の身ですので指摘など有りましたら、バンバン感想に頂けると助かります。
 では、後編もすぐに投稿しますのでそちらも閲覧していただけると嬉しいです。

 それでは後編のあとがきでお会いしましょう

 2011 06 10――副題とルビのほうを少し修正させていただきました。
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