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黒の異邦人は龍の保護者 #02 Receptivity is woman's power. ――感受性は女性の力である―― 『後編』
作者:ハナズオウ   2011/05/29(日) 18:44公開   ID:c.hMe2ywUIw





 週末、ワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹は有給を取り、愛娘の楓の授業参観の為に学校へといつもながらギリギリの時間に赴いた。

 緑のYシャツに黒のネクタイにベストを着た黒髪の東洋人のヒゲ中年の虎徹はグラウンドを見渡す。

 小中一貫のの学校のため、校舎の規模も生徒数も他の学校に比べ大きい。

 既にグラウンドには学生や親の姿はチラホラとしかおらず、既に大半の親は教室に入っているのだろう。

 まぁいつものことかっと虎徹は焦ることなく、校舎の入口を目指す。

 愛娘とはいえ、ヒーローという危険な仕事をしている事もあり、虎徹の母親に普段は預け、日頃会うことは少ない。
 なので、授業参観ようなイベントは虎徹にとって愛娘の成長を確認する大事で楽しみなイベントなのである。


 愛娘の授業参観も無事に終わり、虎徹は愛娘の楓と昼食を取るべく待っていた。
 学生は授業参観の後に短いホームルームがあるそうで、虎徹と同様の目的を持つ親は校舎の入口にて知人と話していたりする。

 特に知り合いがいるわけでもなく、虎徹は花壇の縁に座り退屈そうに座って暇を潰していた。

「あ……虎徹さんじゃないですか」
「ん? あぁ、李くんか」

 声を掛けてきたのは、行きつけのバーのバーテン見習いで、虎徹の同僚ドラゴンキッドこと黄 宝鈴ホァン パオリンの送り迎えを毎日欠かさない保護者、李 舜生リ シェンシュンである。
 ジーパンにYシャツの上に緑のパーカーと授業参観にしてはラフな格好で、いつものようにニコニコと笑顔でこちらを見ている。

 まぁ、親でなく知り合いのお子様の授業参観となればこんなものかとあまり気にはしなかった。

「虎徹さんのお子さんとリンが同じ学校だったんですね」

「そうだな。うちの子は9つだから……そういえばドラゴンキッドの年齢知らねーや」

「鈴は14だから小学と中学ですね。……でも、鈴の友達になってくれると嬉しいです。あの子中々友達を作れないので」

「ふぅん。李くんとのやりとり見てたら結構いるのかなって思ったんだけど、いないの」

「はい……。鈴はこの街に来るまで学校に行ったこともなく、家庭教師との勉強と中国拳法の修行ばかりだったそうなので、作り方がまだわからないんだと思います」

 友達の作り方ねぇ……っと虎徹はわかりやすくため息をつく。
 中学生くらいなら遊んでたらなるだろう、っと李 舜生に言うも、そうなんですけどね……っと苦笑される。
 どうやらもう言ったらしい。

 ふぅっと息を吐き、ふと思う。
 ほぼ毎日、トレーニングルームかバーで会っている李 舜生だが、よく考えてみれば素性をほぼ知らない。
 先日、黄 宝鈴とは血は繋がっていないが世話を頼まれて一緒に住んでいるということを知ったぐらいだ。

 いつもニコニコと笑顔でつっかかりやすいが、自分の事はほとんどしゃべらない。
 ドラゴンキッドがヒーローになってからだから数年の付き合いになるが、まだまだ近づいた気がしない。

 相棒のバニーと同僚のファイアーエンブレム曰く、かなり鍛えている。とは言われても、普段の行動を見てもそんなこと微塵も感じない。

 バーでのいざこざに仲介に入った時なんて、酔って暴れる客から無様にこけながら必死に逃げていた。
 それが他の客の笑いを誘い、いざこざは殺伐とせずに解決したが、笑いものになった李 舜生の評価は運動の出来ない男という烙印を押された。

 運がいいのか、止めに入ったのに一撃もくらっていなかったが、バニー達がいうような考えにはいたらない。
 護身術程度にカンフーをやっていると言っても、嘘にしか聞こえない。

 ほんと掴みどころがないっていうか……わからない奴だな。

「そいやさ世話頼まれてるっていってもさ、李くんがここまでしなくていいんじゃないの? 大学だってあるでしょ」

「そう……ですね。でも、鈴には出来るだけの事をしたいと思ってます」

「いいやつだな、李くんは」

「いえ……自分を満足させたいだけかもしれません。失ったものを鈴となら取り戻せる……いえ、また手に入れれるんじゃないかって。

 僕はいくつもの大切なモノを奪われたり壊したりしながら生きてきましたから」

 虎徹は李 舜生の印象から、大袈裟に言ってるな……程度に受け止める。
 人間誰しも、大小はあれど失ったりするものだ。落ち着いてる風に見えて李くんも歳相応に若いんだなっと虎徹は苦笑し、『そっか』っと応える。

 李 舜生も虎徹の返事に応えるように笑顔を返す。

 そうこうしている内にホームルームが終わり、学生が一挙に下校を始め、入口付近はどこぞのバーゲンかよっ!っと言いたいくらいな混雑を見せる。
 人ごみに飲み込まれないように、2人はじっと花壇の縁に座り身をそっと固める。

 そんな人ごみの中から、可愛らしい女の子の声で『お父さぁん!』っという声で何度も聞こえてくる。

 その声を聞いた瞬間、虎徹の表情はぱぁっと明るくなり、飛び上がって立ち上がる。

「かぁえぇでぇえ!!」

 喜び、歓喜の声で娘の名前を呼ぶ虎徹。その視線の先には、セミロングの髪の前髪にハートの髪留めをつけサイドポニーを可愛いリボンでくくり、カラフルな服に身を包んだ可愛らしいという言葉がよく似合う少女が大きく手を振っていた。、

 その少女『鏑木楓』は、人ごみを抜けると真っ直ぐに虎徹の前に行くかと思われたが、ギリギリのところで視線を反らし、あろうことか親よりも先にその近くに座っている李 舜生へとダイブをするのだった。

 嬉しそうな声で李 舜生の名前を連呼し、グリグリと顔を押し付ける

 驚愕に包まれ絶句しアングリする虎徹。
 そんなことお構いなしに抱きついている楓。
 ハハハ……っと苦笑混じりに受け入れる李 舜生。

「か……かえでぇ……」

 泣きそうな声で楓に話かける虎徹。

「お父さん、李さんもいっしょにご飯いこ!」

「まぁいいけど……楓、李くんのこと知ってんの?」

「うん。この前携帯落としたときに一緒に探してくれたんだ、それもずっと一生懸命に探してくれたんだよ! それからずっと仲良しなんだ! ね?」

「そうですね。いつも鈴を待ってるときに話し相手になってもらってます」

「うん! 黄さんとも友達になりたいんだけど、いつも忙しそうだから……」

「……そうだ。虎徹さん、明日お暇ですか? もしよかったら皆で買い物に行きませんか?」

「ん? いいけど、3人で?」

「いえ、鈴も入れて4人で」

「っえ! 黄さん来るの! 行く行く!! やったー!」

 李 舜生の提案に、楓はピョンピョンと飛び跳ねて喜ぶ。そして、ようやく父親の虎徹に抱きつき、虎徹を安堵させる。

 そしていつ現れたのか、黄 宝鈴が3人の輪の中に入れず少し離れた所で戸惑ったように立ち尽くしていた。

 李 舜生は気づいていたが、黄 宝鈴が入ってくるだろう。
 輪に入ってきてくれる事を願い、何もリアクションせずに眺めている。

 黄 宝鈴が勇気を振り絞って一歩足を踏み出そうとした瞬間、ピョンピョン跳ねている楓が黄 宝鈴を見つけ、飛び跳ねている勢いそのままに黄 宝鈴に近づき両手を握る。
 楓の行動に、キョトンっとした瞳で楓の目を見る事しかできず、口を開けるも言葉が出ない。

「黄さん! 皆で一緒にご飯食べましょう! 明日も一緒に買い物行きましょう! 皆で」

「え……。でも、ししょう……明日稽古が……」

「明日はサボりましょう。いつも真面目に稽古に励んでいる鈴へのご褒美です」

「でも……お父様とお母様が知ったら」

「言わなければわかりません」

 ニコニコと真面目な黄 宝鈴にサボろうと提案する李 舜生。
 戸惑う黄 宝鈴は、ご褒美と言っても稽古は日常の行為すぎて特別なものではないため何がなにやらわからない。

 しかしこのシュテルンビルトの休日に行われる稽古は、黄 宝鈴が師匠と呼ぶ李 舜生とのマンツーマンで行われている。
 その師匠がサボりますと言ってしまってはもうこちらがどんなに言っても覆らないだろう……。

 っと黄 宝鈴は少しの沈黙を置いて、渋々首を縦に降る。

 それではご飯に行きましょうか……っと李 舜生は立ち上がり、一同は学校を後にする。


 やってきたのはお寿司バー。

 お手軽な値段で豊富な種類のネタを提供する人気のシュテルンビルトの人気店である。

 週末という事もあり、そこそこに席が埋まっており、なんとかテーブル席につけた4人。

 注文はタッチパネルで行い、寿司は運ばれてくるというシステムで、4人は1つのタッチパネルで注文を済ましていく。

「ねぇねぇ黄さん、なに食べる?」
「っえ……卵とか。鏑木さん……は?」
「楓でいいですよ。私も卵!」
「うっ……うん」

 元気に話しかける楓に、黄 宝鈴は戸惑ったような声で応える。

 シュテルンビルトに来る前には学校に行ったことはなく、同年代と触れ合う機会がことごとくなかった黄 宝鈴。
 シュテルンビルトに来てからもスーパーヒーローとして活躍し、周りは年上ばかり。
 李 舜生の懇願により初めて学校に行く事になったのだが、放課後と休日は稽古と勤務に取られ、遊ぶに遊べず友達ができず作り方もわからない。
 そんな黄 宝鈴にとってほぼ初体験の『同世代からの親しげな言葉』。

 どう対応したらいいのかわからずにそっけないような返事をし、チラチラと寿司を食べながら楓の様子を伺っている。

 次々に運ばれてくる注文の品。
 虎徹はいつものようにバカに明るいテンションで他の3人に絡み、李 舜生がニコニコと対応する。

 そして、虎徹と楓がそろそろお腹も膨れてきたと一息付くが、李 舜生と黄 宝鈴の勢いは止まらない。
 既に虎徹の数倍の量を食べているにも関わらず、笑顔で次の皿の寿司に手を出していく。

 痩せの大食いにも程があるだろう……っと少し顔をひきつらせながら笑う虎徹と楓。親娘とあってシンクロしたように息が合っているひきつり笑い。
 李 舜生と黄 宝鈴のペアも負けておらず、李 舜生が1皿食べれば黄 宝鈴も1皿食べる。

 そして、同時に『そろそろお腹八分目くらい来たかな』っというような余裕な表情で手を合わせてご馳走様とつぶやく。

 4人が会計を済ませ店を出た時、虎徹と黄 宝鈴の腕に巻かれたバンドからコール音が鳴る。

 コールは緊急招集を表し、シュテルンビルトにて犯罪が発生した事を報せている。

 コール音に2人は一気に緊張した表情に代わり、すぐに急用が入ったと楓と李 舜生に告げて走り去っていった。

 残された楓はキョトンっと見送り、李 舜生はニコニコと見送った。

 すぐに父親に放置されたんだとプクッと可愛らしく頬を膨らまして拗ねた楓。
 それに気づいた李 舜生は優しく頭をなでる。

 突然の李 舜生の行動に楓は頬を赤く染め、えへへっと嬉しそうな声を小さく上げる。

「楓さん、これからお暇ですか?」
「っえ!? はい!」
「どこか遊びに行きますか?」
「えっホント!? なら……ゲームセンター行きたいです!」

 楓の元気一杯に嬉しそうな顔で真っ直ぐと李 舜生の目を見つめて要求してきた。
 李 舜生は変わらずニコニコと笑顔で首を縦に降る。

 この人が怒っている姿が想像出来ないな……っと楓は、李 舜生から渡されたとヘルメットを被り、バイクの後部座席へと乗り込む。
 少し肌寒いかもしれませんから、っと李 舜生が羽織っていた緑のパーカーを楓に着せる。
 パーカーを着た楓は李 舜生の温もりを確かめるように身を縮こませる。

 李 舜生が乗ったバイクは、黒の二人乗りが出来る中型のスクーター。
 穏やかな李 舜生のイメージに沿ったような落ち着いた流線形のデザインでどこにでもあるようなモノだ。

 バイクに乗った2人はゆっくりと走り出し、シュテルンビルトの特徴たる三層構造の都市構造の中段のシルバープレートにある、少し大きなゲームセンターに行くことになった。
 楓は嬉しそうに李 舜生の背中に抱きつく。



 その途中で、今回虎徹と黄 宝鈴が呼び出された原因とかち合う事になることを、2人はまだ知らない。





TIGER&BUNNY × Darker Than Black


黒の異邦人は龍の保護者


#02 Receptivity is woman's power. ――感受性は女性の力である――


『後編』


作者;ハナズオウ







 複数の車が玉突き事故を起こし、混乱に包まれているシュテルンビルトのシルバープレートの地面スレスレにある道路にて、李 舜生と楓は両手を上げている。

「手を上げろ! 動くなよ!」

 覆面を被った4人の男達が手に持った銃を、両手を挙げた李 舜生と楓に向けている。

 どう見ても銀行を襲ってきました! っと言わんばかりの格好。

 李 舜生は今までの裏の世界での経験をフルに活用し、わかる限りの武装を調べようと4人の覆面の男達に注目する。


 その内の2人の肩には何やら黒い皮のケースが掛かっており、大きさからしてショットガンでも入っていそうな雰囲気だ。

 他の2人の持つ小さな鞄の中にはさほど重たいものが入っているとは思えない。軽くかさばるような何かが入っていそうな……。

 今回の犯罪であまり現金を盗めなかったのか……もしくは貴金属か。

 武装は1人1つ持っている銃と、2人が肩にかけているケースの中身……後は服の中にナイフが、という所か。

 変に刺激しない限り発泡はしないだろうから、時を待てばいい。

 この街を守るスーパーヒーローが解決してくれるさ。

 そう、『黒の死神』の仮面をまた被る事もないさ。




―――――




 時を少し戻し、昼食後。

 残された李 舜生と楓はゲームセンターへ向けてバイクを走らせシルバープレートに入った時である。

 ゲームセンターへ向けて李 舜生は楓を後ろに乗せて疾走していた。

 後ろから爆走してくる強盗団の車を避けようとバイクが右へ避ければ車も右へ、左に避ければ左に……。

 まるで動きを読んでいるかのような李 舜生のバイクの挙動に、軽くパニックになった強盗団は右へ大きくハンドルをきり、その車線を走っていた車と衝突し、運悪く横倒しになり滑って止まる。

 まさか強盗団が乗っているとは夢にも思っていない李 舜生はバイクを止めて無事なのかを確認しに、車へと近づく。

 恐る恐る近づく李 舜生の前に、素早く車から出てきたのは覆面を被り武装した強盗団。

 危険を感じた李 舜生は焦った表情で、少し転びそうになりながら楓の元へと走って逃げる。

 っが、強盗団は既に李 舜生と楓をロックオンして近づいていた。



 っという経緯で2人は危機に瀕している。

 銃口を向けられ体の芯から震えている楓を庇うように、李 舜生は楓の前に立つ。

「大丈夫です、僕が守りますから」
「李……さん。うん」

「もし僕がダメでもスーパーヒーローがいますよ」

 格好いいセリフの後にそれは……っと、緊迫した状況の中、少し笑ってしまいそうになる。
 楓は李 舜生のYシャツをギュッと力一杯に握る。
 李 舜生はこれ以上楓を緊張させないように、震えを抑えしっかりと立つ。

「おい! 男の方はじっとしてろ! 餓鬼は人質に貰ってく」

「っえ!?」
「あ、あの……人質なら僕がなりますから」

「ダメだ! っというか、よくも邪魔してくれたな!! お前のせいで事故ったんだ!!」

 大柄の覆面の男は怒りに任せて叫びながら、李 舜生達に近づいていく。

 近づくにつれ大柄の覆面の男は青い光を放ち、右腕により強い青い光が集まっていく。
 NEXTの特徴として、能力を発動すると青く淡い光を体から放つ性質がある。
 近づいてくる男がまさしくそうだ。

「ね……NEXT!?」
「そうだよ、吹き飛びな!!」

 大柄の覆面の男は楓から李 舜生を引き剥がすと、李 舜生の腹にアッパー気味に力任せに殴る。

 どうやら力を何倍にも増幅させる能力なのか、李 舜生は吹き飛びシルバープレートの地面から大きく超えて、遥か下の地表へと一直線に落ちていく。

「うわぁああああ」

 っと叫びながら落下していく李 舜生。

 ホンの一瞬の出来事に楓が理解し始めたのは、李 舜生の姿が地面に消えてしまった後であった。

「李ぃさあああん!! いやぁあああ!!」

 奇声を上げて涙を流し震える楓を乱暴に襟を持って新しい車へと連れていこうと引きずっていく。



「まて!!」

 女の子の凛とした声が、強盗団の乗り込もうとした車の近くの屋根から聞こえてくる。

 強盗団はもう来たのかっと焦り、声の方に銃を向ける。

 声の主は車から飛び降りて強盗団と向かい合う。

 声の主は、短髪の緑髪に赤のハチマキで、頭の後ろに円盤を付けている。両手足に白の防具、黄色地に赤と緑で鮮やかに彩られた中国風の衣装。
 両端に龍をあしらった昆を持つ声の主は『稲妻カンフーマスター“ドラゴンキッド”』

 強盗団が止まれと要求したり、人質を使う暇を与えないために、ドラゴンキッド・黄 宝鈴は電撃のように問答無用で突撃しようと地を蹴り、強盗団へと突っ込む。
 特に肩に背負った皮のケースの中身が奥の手だと一瞬で判断したドラゴンキッド・黄 宝鈴は、それをケースから出す暇を与えてはいけないと、速攻で終わらせる決意を更に強く固める。


 昆を振りかぶり一人目、人質を取っている小柄な覆面の男の肩を打とうと狙いを定める。

 相手が言葉を発するよりも先に打ち込める絶妙のタイミングだ! っとドラゴンキッドは内心でガッツポーズを取った。

 しかし、それはすぐに打ち消される。覆面の男に捕まっている少女、先程まで一緒に昼食をとっていた鏑木楓が怯え泣きじゃくっていたのだ。
 思わず加速を続けていた足は動きを止め、減速し強盗団の目の前であろうことか動きを止めてしまった。

 銃を持った犯罪者の前で無防備に立ちすくむ。これが如何に危険で愚かな事か、普段の黄 宝鈴ならば十分に理解している。
 ただ『友達が作れない自分に楽しげに話しかけてくれる相手』が人質に取られているという一要因だけで、頭が真っ白になってしまった。
 グっと動揺を抑えれるほど心が発達していない少女は、ただただ呆然と立ち尽くすのみ。

「かえ……で?」

 泣きじゃくる楓にドラゴンキッド・黄 宝鈴の言葉は届きはしなかったが、強盗団には見事に届き、この人質が目の前のスーパーヒーローには有効だと確信させる。

 全員が覆面の上からもわかるように大きくほくそ笑み、覆面がゆがむ。

「おい、この餓鬼を殺されたくなかったら動くなよ」

 先ほど李 舜生を遥か下の地表へと吹き飛ばした大柄な覆面の男は、ゆっくりと右腕に青い光を発光させながら近づいてくる。

 大袈裟な程に振りかぶった右腕に思わず身を固めるドラゴンキッド・黄 宝鈴。
 降りおろされた右ストレートは腕の防具でなんと直撃を防いだが、勢いを受け止めきれず地面をボールのようにバウンドして、落下防止の柵にぶつかってめり込んでようやく止まる。
 10m近く吹飛ばされ何度もバウンドしたことにより、全身が悲鳴を上げて柵にめり込んだまま動くことができない。

「行くぞ!」

 っとドラゴンキッド・黄 宝鈴を吹き飛ばした大柄な覆面の男は全員に言い放ち、車に乗り込む。

 車が走り出すと同時くらいに、強盗団は一斉にドラゴンキッド・黄 宝鈴に向けて無慈悲に何発も銃弾を撃って去っていく。

 銃弾を防げる鎧のようなスーツを着たヒーローも、銃弾をどうにかできる能力を持つヒーローも、誰もまだ到着していない。ドラゴンキッドは到着ポイントと引き換えに死への切符を手にしてしまった。

 自身のNEXT能力も発動が間に合わない。

「し……しょう」


 ――ふわり……。

 まるでドラゴンキッド・黄 宝鈴の言葉に召喚されたかのような見事なタイミングで、黒のコートが目の前に表れ、銃弾を全て受け、弾いていく。
 全ての銃弾を弾き終えるとゆっくりと立ち、走り去っていくトラックを無視し、ドラゴンキッド・黄 宝鈴の方を向く。

 漆黒のコートに白地に紫の雷が入っている仮面。

 既にTV中継が始まっており、ドラゴンキッドの窮地を救った謎の仮面の者と実況の声が興奮気味に叫んでいる。



 黄 宝鈴はこのコートの男を知っている。そう、この世界で唯一人……黄 宝鈴のみが知っている。

 その強さに憧れ、淡い恋心にも似た思いを抱く相手、李 舜生だ。

 普段は黄 宝鈴の周りとの関係を円滑にするために、いつもニコニコしている草食系の李 舜生を演じている。

 そんな李 舜生も、いざ戦い、稽古となればその仮面を脱ぎ捨て、“黒の死神”と恐れられた素顔『ヘイ』に戻って、合理的にかつ少し感情的に目的を完遂するために動く。

 未だに稽古で一撃も当てることは出来ないが、不思議と悔しくはないし、ただただ情けない姿を晒すのは嫌だっと痛みに悲鳴をあげている体に鞭を打って立ち上がる。

「師匠……どうして」

 その問いの答えは、黄 宝鈴が一番知っている。
 幼い黄 宝鈴を護るためである。
 いつもドラゴンキッドとして出動する時には、隠れて見守ってくれている。
 本当に危険と判断したら問答無用で飛び込んできたりして助けてくれる。

 だからこそ、黄 宝鈴は必死に強くなろうとしている。
 他のヒーロー達のように誰かに助けてもらう立場ではなく助ける立場にいたい。
 目の前の李 舜生……いや、黒(へい)と同等、肩を並べて歩けるようになりたい。

 だから、毎日稽古を必死にやっている。

 なのに、ダメだった。
 今日の自分は最悪だ。

 目の前にとも……知り合いが人質になっていただけで頭が真っ白になってしまった。
 だからこんな窮地に陥ってしまった。


 黒に対して問いかけたのに、黄 宝鈴は自分の不甲斐なさから視線を合わせれず、俯いてしまう。

 そんな黄 宝鈴に黒は軽く頬を叩く。

 パンっと軽い音が響きわたり、そこへ他のヒーロー達が現れ始める。

 一番に現れたのは、ワイルドタイガーとその相棒バーナビー・ブルックス・Jr。

 ヒーロースーツに身を包んだ2人は、黒の背中を取る形で降り立ち黒に視線を注ぐ。

「お前強盗犯じゃないようだが何者だ?」

「なぜ止まった? それが如何に危険かは分かっていたはずだ」
「だって……あの子が……知り合いがいたから」
「ただの顔見知りなら動揺せずに事を済ませれたはずだ。いつも言っているはずだ、戦いの場では合理的に考えろと。

 どうすれば危険が少なく目的を完遂出来るのか、自分の実力を逸脱しない範囲で考えろと」


「おおい! 無視すんじゃねぇよ!!」


「あの子もお前と同じ気持ちを持っている……、素直になって受け入れろ。

 それに本当に大事なものなら必死になって守れ、失ったら涙も出ないぞ。

 ――お前にとってあの子がどんな存在なのかはっきりと自覚しろ。助けるのに必要な技術はお前に叩き込んでいる」

 後ろで怒鳴るように叫んでいたワイルドタイガーを無視していた黒はドラゴンキッド・黄 宝鈴の服を掴み、力いっぱいに反対車線側へと放り投げる。

 それをまるで打合せしていたかのようにファイアーエンブレムのヒーローカーがドラゴンキッド・黄 宝鈴を受け止めて高速で走り去る。


 見事黄 宝鈴が車に乗ったのを確認すると、黒は後ろで怒鳴っている2人のスーパーヒーローを見据える。

 一見脱力し隙があるように見えるが、どこから仕掛けようと反応されるであろう予感に似た確信を持ったバーナビーは完全に様子見。

 怒鳴り続けていたワイルドタイガーは構わずに突っ込む。

 得意のパンチをお見舞いすべく振りかぶり、真っ直ぐに撃ち抜くも、黒は掠っているのではないかと思うほどギリギリに頭を動かし避ける。
 パンチが避けられたワイルドタイガーは流れるようなパンチのコンビネーションを黒へと全力で繰り出していく。

 それをまるで初めからどこをどのタイミングでどの軌道を通ってくるかを分かっているかのように黒は最小限の動きで避け続ける。

 そして、大きくバックステップしてワイルドタイガーとの距離を開けると、ワイヤーを天井に向けて投擲し骨組みに絡ませて、ワイヤーを回収する勢いを利用して横たわる車の上に飛ぶ。

 ワイルドタイガーは着地を狙い、スーツの腕部分に内蔵されたワイヤーを射出し、見事に手で防がれたがワイヤーを取り付けることに成功する。
 このままワイヤーを引っ張り捉えようと試みるよりもはやく、黒が青く発光すると手に付いていたアンカーの部分がサラサラと分解され消滅し、ワイヤーは力なく地面に落ちる。

 その全ての行動の隙の無さと謎の能力にバーナビーは、能力を使って速攻で捕まえようかと腰を落とす。

「あなた達と戦うつもりはない……今日は助けにきただけだ」

「ぁあ!? 強盗団をか! んな奴を逃がすかよ!」

 ワイルドタイガーは、既に用意していたバーナビーよりも先にNEXTとしての能力を開放する。

 ワイルドタイガーとバーナビーの能力は『“5分間だけ身体能力を100倍にする”ハンドレッドパワー』。

 その全力での加速となればさすがの黒も避けたり反応するのは不可能。

 そんなことは黒が一番知っている。そして、ここで戦って万が一正体がバレたら色々と動きにくくなったりするのでまずい。

「そっちじゃない、ドラゴンキッドを……だ。あなた達ヒーローと戦うつもりはない」

 っへ!? っとワイルドタイガーが分かりやすいリアクションで反応する。

 その隙に黒は車の上からシルバープレートの地面ではなく、遥か下の地表へと飛び降りる。


 飛び降り自殺? それとも空を飛べる装備か能力があるのか?


 などと思慮を回しながら地面ギリギリまで走り、黒の姿を探す。しかし、既に姿はなく、ジェットで飛んでいく“キングオブヒーロー”スカイハイが見えた。

 そして、こちらに気づいたのか、指でこちらから少し下を指して去っていく。

 そのサインに意味が分からず首を傾げるワイルドタイガーのもとに情けない声で助ける声がどこかで情けなく響いてくる。

「だれかいませんか? たすけてください」

 ワイルドタイガーが声のする方向へと視線を移していき、最終的に地面ギリギリから真下を見ると、李 舜生がヘラヘラとした笑顔でポールにしがみついていた。






――




 ドラゴンキッド・黄 宝鈴は強烈な風に吹かれながら必死に黒が言っていた事を考えていた。

 人質に取られた少女、楓が自分にとってどのような存在なのかについて。


 いつも学校の送り迎えに来てくれる李 舜生やあまり反応できない自分によく話してかけてくる少女で、いつもあんな楽しげに誰にも話しかけれる楓が羨ましいと思っていた。
 学校でしゃべるなんて、授業で答える時と、楓に話しかけられた時だけだ……。

 転校してからしばらくは誰かが話しかけてくれたが、うまく馴染めない自分に次第に人は近づかなくなった。
 いつもカンフースーツに身を包む自分を好機の目で見てきた。

 友達がどういうものか本当にわからなかった。どう作ったらいいのかも。

 でも、誰にでも明るく話しかける楓は友達が多いんだろうということだけはわかる。

 ……こんな僕でもなってくれるかな、友達に。


 なってくれるかはわからないけど、楓が泣いてたのを見てすごい嫌だった。
 あの子には笑っていてほしい。

 だから……



「ちょっとちょっと、これ一人乗りなのよぉ」

 黙りこんでいるドラゴンキッド・黄 宝鈴にファイヤーエンブレムは何度も語りかけている。

 真っ赤なヒーロースーツに身を包んだ炎を操るNEXT。
 オネエキャラにして自身が所属する会社の社長。
 曲者ぞろいのヒーロー達の良き姉御的な? 存在。

「……お願い。ボクをあそこに連れてって!」
「だからこれ一人乗りなのよぉ。他の人に連れててもらってぇ」

「お願い! あそにはボクの……助けたい人が居るんだ!」

 カッと見開いた力強い意思が溢れんばかりに込められたドラゴンキッド・黄 宝鈴の瞳。
 それを目の当たりにしたファイヤーエンブレムは先程から繰り返していたフザケたようなオカマ口調を引っ込める。

 そして日頃、自分の力量と保護者の李 舜生にしか興味を示さなかった少女の瞳がしっかりとそれ以外の理由で燃えている。

 ヒーローTVが始まった時点でライバルとなるヒーローに懇願するほどなりふり構っていない。

 少女の成長はホント一瞬にして開花する花のようねっと薄らと笑みをこぼす。

「いいわぁ、お姉さんが連れてってあげる。ご注文はぁ?」
「……正面に回って……できるだけ早く」
「了解」

 ファイアーエンブレムはドラゴンキッド・黄 宝鈴の要求通りにアクセルを踏み、更に加速していく。
 ドラゴンキッド・黄 宝鈴は右足の白の防具を取るとファイアーエンブレムエンブレムの膝の上に乗せて、瞑想し集中する。

 どうやって楓を無事に救い出すか。
 答えは決まってる。電撃作戦……一瞬で4人を倒す。
 銃のトリガーに指をかける前に。


 ファイアーエンブレムとドラゴンキッドが乗った車が強盗団が乗った車を追い越す一瞬、ドラゴンキッドは窓から見えた楓や乗っている者達の配置を確認する。

 そして一瞬にして、どう攻撃し、どの順番で叩くかを検討、決定する。
 こう出来るのも全て師匠の教えのおかげ……針の穴を通すような繊細な作業にして、時間を掛けてはいけない電撃作戦。

 しかし、ドラゴンキッド・黄 宝鈴の中に不安はない。

 集中力を高め、息を整える。

 そして、時は来たと立ち上がり、真ん前に陣取った車から強盗団を見据える。

 そして、NEXT能力を開放し、昆と両足に電撃を溜める。

 強盗団は抵抗とばかりに窓から出した銃で2人を撃ってくる。

 それを事も無げにファイアーエンブレムは炎の壁を作り銃弾が壁を通り抜ける前に溶かしきってしまう。

「これはオ・マ・ケ。ほぉら、行っておいで」
「うん! ありがとう」

 っとドラゴンキッドは迷いなく車から跳び、強盗団が乗る車へと突っ込む。
 炎の壁はまるでドラゴンキッド・黄 宝鈴を避けるように霧散する。

 電撃を伴った昆で横へ一文字を放つと、フロントガラスのほとんどが横へと吹き飛び、ドラゴンキッドが侵入する隙間が出来る。
 体を縮めて侵入したドラゴンキッドは昆を横にし、フロントに座る2人の腹へと全力で打ち込む。
 昆の威力は気を失う程ではなkったが、強力な電撃が容赦なく2人に襲い掛かり敢無く意識を失う。

 昆と天井の間に出来たたった50cmの隙間を器用に体を丸め、突入したドラゴンキッド・黄 宝鈴から見て右側の覆面の男へと、防具をつけた左足を突くように打ち込む。
 腹に無防備に食らった覆面の男は悶絶すると同時に、電撃により意識を失う。

「楓! 動かないで!」

 ドラゴンキッドは力強い声で楓に叫ぶ。楓は既に固まっており動くことはなかったが、その頭の上を防具を外した右足が綺麗な弧を描きながら高速で通り過ぎる。
 右足は左側にいた覆面の男の顎を見事に打ち抜き、電撃で気絶させた。

 その間、たったの2秒弱。

 銃は持っていたが、反応することはできず、全員失神した。

 見事楓を無傷で助けたドラゴンキッド・黄 宝鈴は嬉しそうに楓を抱きしめる。
 助けると決めた少女を無傷で助けることが出来て歓喜に任せ、自然と出た黄 宝鈴の行動。
 楓はドラゴンキッドが黄 宝鈴とは知らないので、ただただキョトンとする他なかった。


 見事事件を解決したドラゴンキッドには賞賛の拍手と喝采が、そしてヒーローポイントが送られた。

 喝采に応えたドラゴンキッドは所属している企業が持つ専用のトレーラーへと楓を連れて入っていく。

 今だにテレビの向こうのヒーローに抱きしめられた事で困惑している楓は、勇気を出して問いかける。

「あの……私の事知ってるみたいなんですけど……どこかで会いました?」

「?……ボクだよ、楓」

「え?……」

 なんでわからないの? っとばかりに不思議そうな表情の黄 宝鈴。
 どうやら自分が変装している事をすっかり忘れてしまっているようだ。

 困惑する楓に不思議がる黄 宝鈴。平行線のやり取りに終わりをもたらしたのは優しげな声の主、地表の落ちたはずの李 舜生である。

「かつらを取るか、名前を言わないとわからないですよ、鈴」

「あ! 李さん無事だったんだ! 心配したんですよ……落ちちゃったから」

 先程まで困惑した表情をしていた2人は李 舜生を見た瞬間に笑顔になり、同時に駆け寄る。

 距離の関係で奥にいた黄 宝鈴よりも先に楓が先に李 舜生の下へとたどり着くと、力いっぱいに抱きつく。

「心配をおかけしてごめんなさい。危ないところをワイルドタイガーさんが助けてくれました」
「っえ? バーナビーじゃなくて?」
「はい、ワイルドタイガーさんに。残念ながらポイントにはならなかったそうですが。ここまで連れてきてくれました」

 ギュゥっと抱きついている楓の頭を優しく撫でる李 舜生は、その様子を眺めて固まっている黄 宝鈴を手で呼び寄せる。

「鈴もよくやりました。自分に出来る事をちゃんとやりきりましたね」

「ししょう……」

 優しく撫でられた黄 宝鈴は照れくさそうに頬を赤く染め少し俯く。
 李 舜生は黄 宝鈴を更に優しく引き寄せ、楓と同じように顔を腹に埋めさせる。

 初め顔を埋めていただけだった黄 宝鈴は、ゆっくりと楓と李 舜生を巻き込むように両腕を回す。

 一度は死んでしまったと思った李 舜生が生きていた喜びから嬉し涙を流しながら抱きつく楓。と、一度怒られた李 舜生に褒められ最高の褒められ方の抱きしめられての頭を撫でられて、嬉しそうに抱きつく黄 宝鈴。
 それを優しく受け止める李 舜生。

「ちょっと失礼するね、ドラゴンキッド。さっき人質だった人と救助された人……何してんの?」

 ドラゴンキッドの専用のトレーラーに入ってきたのはブルーローズ・カリーナ・ライル。

 氷の女王をイメージしたような薄い水色の髪にタイトなボディスーツを着たブルーローズはあまりに想定していない状況に固まってしまう。
 もしかしたら、着替えているかもと女性であるブルーローズが来たのだが、まさか救助された男性に人質だった少女とスーパーヒーローの1人が抱きついているとは思ってもいなかった。
 そんな状況ながらいやらしい感じを受けないのは抱きついている2人が幼いからだろう。

「っあ、事情聴取ですね。すぐに行きます」
「あ……はい」

 いつも通りのニコニコとした笑顔の李 舜生の返答にブルーローズは返事をして逃げるように出て行く。

 なんか釈然としない感情にモヤモヤしながらバスを出たブルーローズは、今回の事件の真相に呆れ返っていた事を思い出し、ため息と共に自身の専用トレーラーに戻っていく。


 ブルーローズが出て行ったのを確認してから李 舜生は2人を優しく身体から離す。

「楓さん、これから少し警察の方達にお話をしなければならないそうです。ですのですぐに行かないといけないのですが、その前に紹介したい可愛い子がいます」

 2人に目線を合わせる様に腰を下ろした李 舜生はドラゴンキッドの方に手を差し伸べるように出す。
 楓は頭に“?”マークを浮かべながら、促されるままにドラゴンキッドの方を見る。

 黙りこくった李 舜生は、ドラゴンキッドが言い出すのを期待しながらニコニコと待つ。

 少し恥ずかしそうにしながらドラゴンキッド・黄 宝鈴はゆっくりと緑髪のカツラを外す。

 緑の髪の下から現れたのは、薄く短い金髪。

 そこには確かに今日お昼を共にした黄 宝鈴がそこにはいた。

「ボク……ドラゴンキッドなんだ。鏑木さん、ううん

 ――楓」

「っえ! えええ!! すごぉぉおい! 黄さんがドラゴンキッドだったんだぁ! カッコいい!」

 カミングアウトを突如受けた楓は、花が咲いたような笑顔で黄 宝鈴は抱きつく。
 黄 宝鈴は楓のように思いっきり抱きしめることは出来ず、宙をフラフラと腕が舞っている。

「楓、ボクね……楓に泣いてるのを見て笑ってて欲しいって思ったんだ。すごい大切だって

 ――ボクと……友達になってほしいんだ」

「やったぁあ!! 私も黄さんと友達になりたかったんだ!」

 やったぁ! っとピョンピョンと抱きつきながら飛び跳ねる楓につられて戸惑いながら跳ぶ。

 ピョンピョンと飛び跳ねるのも一段落すると楓は身体をひきはがし、握手してブンブンと力いっぱい振る。

「……あ、あの楓さん、そろそろ行きましょうか」

「……そうだ! ねぇねぇ黄さんも一緒に来てよ」

「え、うん」

「李さん先に行ってて。私は黄さんと一緒に行くから!」
「はい」

 李 舜生はニコニコと答えるとスッとトレーラーを出て行く。
 黄 宝鈴は外に出るためにカツラをまた被ろうと鏡に向かい合っている。

「その服って……師匠のだよね……?」
「え? うん。寒いからって」

 いいな……っと、羨ましそうな眼差しを注ぎながら楓に届くか届かないかの小さい声で黄 宝鈴は呟く。


 自分は学校に送って貰うときにしかバイクの後ろに乗せてもらえないし、寒いからとパーカーを着せてもらえるのはウトウトと眠ってしまった時くらい。
 あのパーカーを着れる嬉しさに包まれれるのなんて数えるだけなのにな……。


 本当に無意識に、黄 宝鈴は呟いたのだ。

 それを敏感に聞き取った楓は、ニヤっとした表情をしてゆっくりと近づく。

 楓はその耳元でそっと囁く。

「ねぇ、もしかして黄さんって李さんの事……好きなの?」

 耳元で囁かれた楓からの言葉。
 ド直球の剛速球な言葉に黄 宝鈴は肩をビクッと反応させて頬を真っ赤に染める。

 黄 宝鈴の反応に楓は、虎徹そっくりのニヤッとした笑みを浮かべ笑みをこぼす。

「ふぅん……そうなんだぁ。へぇ」

 ウフフっと口元を隠す楓に、顔を真っ赤になった黄 宝鈴がアワワっと言葉にならない声をあげてフルフルと震えている。

「大丈夫! 秘密にしてるから。早く行こう」

 アタフタとしている黄 宝鈴の代わりに楓が綺麗にカツラを着けてあげると、震えている黄 宝鈴の様子などお構いなしに手を握ってトレーラーのドアをくぐる。

 外は警察や他のスーパーヒーロー達がおり、現場で全員が呆れたような顔をして世間話をしていた。

 そんな中に飛び込んだ楓とドラゴンキッド・黄 宝鈴はゆっくりと歩きながら、事情聴取を受けている李 舜生の元へと向かう。

「ねぇねぇ黄さん。これからいっぱい遊んでいっぱいお話しようね」
「……うん」
「私、黄さんの事もっと色々知りたいし、私の事も知ってもらいたいもん」
「ボクも……だよ、楓」

 笑顔で見つめあいながら2人は歩いていく。


 無事に事情聴取を終えた楓は、やってきた虎徹と共に明日の買い物が楽しみだと笑いながら去っていく。

 トレーラーに入った黄 宝鈴は、いつもの黄色地に黒のラインが入ったカンフースーツに着替える。
 そして明日に、強制的に買い物に連れて行かれる事を思い出す。

 恥ずかしいからこれでいいのにな……。

 っと憂鬱な気分で溜息が漏れる。

 トレーラーから出ると、そこには楓から返却された緑のパーカーを持った李 舜生がバイクに跨って待っていた。

 黄 宝鈴は憂鬱な気分も李 舜生を見ると、パァッと嬉しい気分になれる。

 元気にバイクの後部座席に飛び乗ると、嬉しそうに後ろから李 舜生に抱きつく。

「鈴、これを」

 嬉しそうに抱きついている黄 宝鈴の肩に李 舜生は手にもった緑のパーカーを掛ける。
 嬉しそうに笑顔の黄 宝鈴は、さらに弾けるような笑顔でパーカーを羽織る。

 ギューっと体を縮め、パーカーを着れた嬉しさを噛み締める。

「では帰りましょうか」

 そう言って李 舜生はバイクを走らせ、家路に着く。

 明日の買い物の為にまさか、李 舜生が黄 宝鈴の為に服のプレゼントを買っているだろうとは夢にも思わずに……。
 帰ってから気恥ずかしい悲鳴が木霊すことだろう……。



―――――



「ねぇ師匠! お腹すいた!」
「そうですね、ラーメン食べに行きましょうか。今日は頑張りましたし、いっぱい食べましょう」

 安全運転で進む2人が乗るバイクは進路を公園の屋台“ホームラン軒”に向けて進路を取る。

「そういえば鈴、今日の犯人は何を盗んだか聞きましたか?」
「ううん。ずっと楓の話に付き合ってたから……」

「そうですか。下着泥棒だそうです。肩に背負っていたのは釣竿で、釣って盗んでいたそうです」
「っえ?! あれ……あの肩にかかったケースに武器が入ってるって警戒してたのに……」
「僕もです」

 黄 宝鈴は少し呆れたようにため息をつき、一層強く李 舜生に抱きつく。

「しょうもないね」
「はい」

 2人は笑いながらバイクでシュテルンビルトの夜を進んでいく。





 事件を解決し、平和になったシュテルンビルトの夜はふけていく。



......TO BE CONTINUED







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■作者からのメッセージ
連日で投稿させていただきます、ハナズオウです。

この『黒の異邦人は龍の保護者』は元々一回で投稿しようと思い、書き始めた作品だったのですが、思っていた以上に容量が掛かり、分割させていただきました。

今現在アニメが放送されている TIGER & BUNNY で書きたいと思い、今回ヒロイン(?)のドラゴンキッド・黄 宝鈴の能力と被っている DARKER THAN BLACK の黒に白羽の矢を立てた次第です。
 言い訳になるのですが、黄 宝鈴など TIGER & BUNNY の情報が少なくて、鏑木楓というキャラクターの年齢を知ったのが本日の午前というので、急遽修正を入れたので、少し違和感があるかもしれません。

 あと、携帯からもこちらの小説掲示板の作品も見れるということなので、どのように表示されるのかを確認する意味で閲覧したのですが、李 舜生と黄 宝鈴のルビが多すぎて見づらかったので、そこは反省点でした。
 携帯で閲覧なされた方、大量にルビを振ってごめんなさい。
 そして、そこを修正をかけていません、ごめんなさい。

 ルビは一話一回でいいのでしょうか?

 そこでまた修正を掛けるかもしれません、手際が悪くて申し訳ないです。。

 まだ未定なのですが、この続きのSSをもしかしたら書くかもしれないです。



 ここから感想返しとさせていただきます。



 >管理人の黒い鳩さん

 感想ありがとうございます。
 お褒めいただきありがとうございます。急遽分割にしたりと構成を考えるのに苦労しましたが、楽しくできましたし、一応の完成を見れて嬉しいです。

○中国的には師父(シーフー)ってのも面白い気がしますね。

 たしかにそうですね。黄 宝鈴の黒の呼び名をどうするかは悩んだのですが、わかりやすく『師匠』にしてしまいました。


○会話もスムーズでちょっと恋愛チックな感じも受けて面白いです。

 恋愛モノを書くのが苦手だったので今回挑戦したのですが、ちゃんと形になっていたようで安心しました。


○会話内のギャグ要素が少なめなのは作品の雰囲気を壊さないためかな?

 そこはやはり自分の力不足なところです。もう少しギャグとかを入れて軽くしていきたいのですが、中々難しくて……精進していきます。

○黒があの性格なのはちょっと不思議です。

 この件に関しては今回の後編で少しフォローを入れさせていただきました。

 ここで書かずに本編で書いた方がいいのでしょうが……

 黒は『流星の双子』のアフターのヤツです。
 黒が李 舜生の性格を選んだのは、親元を離れてヒーローをする黄 宝鈴の保護者をする上で、周囲との関係を円滑にするためです。
 寡黙でクール(?)な感じの黒のままで行こうかとも悩んだのですが、他のヒーロー達との関係を持つ意味も込めて李 舜生の性格を選びました。(前回のバーでのエピソードなどが入れたくてw)

○黒の年齢について

 ご指摘があってから、気づいてしまいましたw
 黒自体年齢不詳のキャラクターなので、気にしてませんでした。

 黄 宝鈴の元に来たのが、流星の双子の終了直後で今回のSSがその3年後なので、ざっと計算した感じ25歳くらい……うーん、ギリギリですねw

 ちなみに戸籍は偽造ということで手をうってくださいw



 やはりまだまだ煮詰める所がありました。
 まだまだ精進していきますので、ご指摘やご意見、短くてもいいのでコメントをお待ちしています。

 長くなってしまいましたが、これで失礼します。

 2011 06 10――ルビ、一部誤字などを修正しました。
テキストサイズ:31k

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