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ロスト・メモリー 最終章 『笑う男』
作者:13   2011/07/21(木) 19:50公開   ID:JHZjjd6HxsM


 「……これで文句は無いなホームズ」
 
 ゴトッ、

 乱雑にテーブルの上にシロガネは蒼の腕を置いた。

 触るとまだ温かい。

 実際に蒼の腕を切り落としたわけじゃない。シロガネが持つ巨大な剣、天獄の力、時空操作によって一時的に離れているだけだ。どんなに時間を置いても腐ったりすることはないしちゃんとくっつく。

 「勿論だ、これで十分だ」 

 いかのも貴族ですよといわんばかりの部屋の真ん中にいるだれもが認める名探偵、

 ―――シャーロック・ホームズ

 スーツを羽織、年齢は二十歳そこそこで顔立ちも整っておりオ−ルバック、なにより強そうなオーラがある。

 このホームズがイ・ウーのトップである。

「じゃあ、オレはちょっくらブラドのとこに行って腕取ってくるわ」

「手紙を書いておく、君が何もなしで行くとブラドの命が危ない。彼はここのナンバー2だからね」

 そう言ってホームズは便箋に万年筆でなにか書き始めた。

 シロガネは出された紅茶をすすりながら待っていた。

 
 無限罪のブラド


 ここイ・ウーのナンバー2で吸血鬼である。見かけは大きな化け物程度の認識しかシロガネはしていない。

 蒼の腕をホームズに届ける途中、娘のヒルダとともにシロガネと蒼を奇襲、腕を持ち去った張本人でもある。ブラドの邪魔が無ければ蒼は両腕を失う必要がなかった。

 そう考えるとシロガネは自身に虫酸がはしる。

 もともと、蒼は自分の身体に様々なイロカネ(色金という場合もある)とよばれるこの世界では貴重で危険な金属を複数の種類を大量に取り込んでいた。
 
 その結果、蒼はいたるところの組織に狙われ。シロガネも見るに見かねてイロカネの武器を切り離そうと試みたが同調率が高く失敗、その時すでにホームズは蒼のイロカネを切り離す術を探っていた。
 
 シロガネはホームズと少し面識があった。

 しかし、ホームズでも手こずっており、一時的な処置として天獄の能力で安全に保管していた。

「蒼くんは緋緋神に近づいていたからね、殻金も入れずにヒヒイロカネ、ミスリル銀、ダマスカス鋼、アポイタカラの四種類も体に宿してまったく、最初見たときは驚いたよ」

 万年筆でスラスラとペンを進めながらホームズは言った。

 殻金というのはヒヒイロカネなどを体内に入れるとき、そのままだとヒヒイロカネと繋がりが二種類出来る、そのひとつが法結びと言って能力を使えるようになる。ふたつ目は心結びという。文字通り心とイロカネが融合してイロカネに憑りつかれる。そして憑りつかれた状態を緋緋神と呼ぶ。この緋緋神は恋と戦を好む祟り神になるという。

 実際、その予兆か分からないが蒼は先の戦闘で『チクショウ・モード』という新しい状態を得ている。

 あの能力は今までシロガネは見たことがなかった。

 あのまま戦闘を続けていたらおそらくシュラ・モードの上、アシュラ・モードになっていたように進化するに違いない。

 その姿を見たシロガネは不味いと思いイロカネの入っている左腕を切り離したのだった。

 でも、どうやら両腕を失うと蒼の精神が不安定になる。そこでホームズに頼みブラドから蒼の左腕を返してもらうことになった。

 もともと、ブラドは蒼の強靭な肉体の細胞を取り込もうとしたのだろう。イロカネが無くても蒼は人間から逸脱している。

「さて、出来たよ」

 丁寧に封筒をシロガネに渡すとシロガネは頷き立ち上がった。

「これでなんぼかマシになったな礼を言うぞ」

「礼はいい、それより少し話をしよう」

 ため息を吐きながらシロガネはイスに腰掛けた。

「この前のペーパーナイフはありがとう」

「ああ、あれのことか」

 以前、シロガネはホームズに自作のペーパーナイフを友好の証しにプレゼントしていた。

「けどあれ、使いにくいんだ」

「どうしてだ?」

「切れすぎる、まるで普通のナイフだ」

 ホームズが笑いながら紅茶をすする。

「すまない、切れにくいようにしたはずだったのだが」

「そこから、ひとつ分かったことがあるんだ。君の職業は武器師だね」

 シロガネはパチパチと拍手する。

「正解だ、たしかにオレは武器師をどこかの幻想の郷で紅の魔が住まう館に住み武器を作っていた」

 わけのわからない言葉をぞろぞろ並べたシロガネはニヤリと笑う。

「そして、君の能力は影を使う能力じゃないね」

 シロガネの表情が一転し目を細めた。

 流石、名探偵とシロガネはニッと笑った。

「君は影を操る能力ももっているが実際は違う能力おそらく武器に関係する能力だね。天獄を見てそう思った」

「そうだ、バレたら仕方ない。さすが名探偵。オレの能力は『武器に魂を込める程度の能力』だ。まぁ、魂というより能力に近いがな」

「これでなぞは解けたよ」

「そろそろ、行く」


 ―――――――――― キンジ ―――――――――――


 結局、ジャンヌは捕まり教務科の先生に拘束、その後、武偵校の生徒に早変わり。

 シロガネは逃げて跡形もなかった。

 アリアを人質にとられ身動きができないまま終わってしまった。

 ちなみに蒼は病院に搬送された。

「おい、理子なんで俺が執事服を着なきゃいけないんだ?」

 それからほどなく理子が姿を現し、来るなりいきなりアリアとキンジに泥棒しないかと誘われ、キンジは兄のことを教えるという交換条件、アリアはイ・ウー絡みのことだから勿論乗った。

 そこからいろいろあったて、ここ紅鳴館で理子の母親の形見を盗むことになった。

「えへへへへ、キーくんは執事になってブラドの代理である小夜鳴先生についてもらいまーす」

 自分のほっぺをつんつんさせながら理子は言った。

「理子、なんでアタシまでメイドやんなきゃいけないの!!」

「そういうお仕事だもん」

 アリアがなにか言っているを無視してキンジたちは紅鳴館で少しの間、執事とメイドをすることになった。

 執事と言っても大したことはしない、朝昼晩と小夜鳴ににんにくの入れない串焼きを持っていき軽い会話をする程度 

 小夜鳴は研究が忙しく地下にこもりきりだそうだ。


 ここに来て五日目になったその日。

 客が来たのか玄関からノックする音が聞こえた。
 
 キンジは周りを見て誰もいなかったのでドアを開けると。

「ブラドはいるか?」

 そこに居た人間を見てキンジは戦慄が走った。

 以前会った時は暗く顔もよくわからなかったが声は覚えていた。

 
『黒狼のシロガネ』


 イ・ウーでも五本の指に入る強さを誇るとアリアは言っていた。 

 改めてみると黒髪と白髪の交じり毛に左目は黒く、右目は紅色のオッドアイ、ワイシャツにズボンとフォーマルな格好なのだがボタンを開け着崩していた。
 

「お、たしかお前、武偵校の遠山 キンジだっけ?」

「ええ、まぁそうですが……」

「改めて自己紹介、オレはシロガネだ以後よろしく」

 そう言って手を差し出してきた。

 警戒しいるキンジを見たシロガネは、

「警戒しなくてもいいぞ、オレは不意打ちが嫌いだしお前殺す理由がない」

「どうかな、顔を見られたんだぞ、俺だったら見過ごさないな」

「それもそうだな、握手はやめておく、それよりブラドのクズはいるか?」

「今出かけていまして……」

 ムスッとした表情にシロガネがなるとため息をついて。

「それなら代理人はいるか?」

「まぁ、いますが」

「案内してくれ」


 地下室の小夜鳴のところまで案内することになったキンジは警戒の糸を張りつめながら歩いていた。

「ところで、遠山」

 欠伸をしながらシロガネが聞く。

「蒼は生きてるか?」

 蒼はシロガネの弟、そのためか多少は心配しているらしい。

「命に別状はない」

「そっか、それならいい。あとここ、紅鳴館だっけ、どうもオレの昔住んでいたとこを思い出す。あの時はまだ右目は紅くなかった」

 シロガネは懐かしそうに廊下をキョロキョロしていた。

「そんなことオレに言っていいんですか?」

「ん、いいんじゃね、減るもんじゃないし」

「そうですか……」

「そんなことより、ひとつ頼みがある」

 シロガネは真剣な表情になった。

 キンジも真剣な顔でシロガネを見る。

「これから、オレはあるものを受け取る。それを蒼に届けてくれないか? もちろん報酬も出す」

「いくらだ?」

 シロガネは指を五本出した。

「五万かなら――」

「いや三十一万だ」

「二進数かい!!」

 ついツッコミを入れてしまった。

 だが普通に考えて物を運ぶだけで三十一万も貰えるなら美味しい話だ。

「正確には前払いで三十一万で完了したらそうだなアリアにもあげたいつでも助っ人カードをやるよ」

 この前アリの胸ポケにいれた金属板のことだろう。ちなみにアリアは速攻捨た。

「分かった。引き受けようただし中身を確認してからもう一度考える、危険物の恐れがあるからな話はそれからだ」

「ありがてぇ、じゃあ頼むわ」


 そうこう言っている間に小夜鳴のところについてシロガネは封筒を渡し、奥に入っていった。  

 その間にキンジは理子とアリアに連絡を入れる。

「アリア、よく聞け黒狼のシロガネが来た」

『なんですって!?』

「そこで、今からあの部屋に集まれ」

『分かったわ』

 しばらくしてシロガネがプレゼントのような包装をされた長い箱を持ってきた。

 小夜鳴に一礼したシロガネはキンジを呼び別の部屋に向かった。


 そこには一見だれも居ないが理子とアリアが隠れている。

 シロガネはなんの躊躇もなく入りテーブルに包装された箱を置くと。

 ピタリとシロガネの動きが止まった。


「おい、遠山」

「どうかしたか?」

 キンジの体中の緊張の糸が張りつめる。

「理子の臭いする、あとこれはアリアか?」

 キンジの心臓ははち切れんばかりになる。

「まぁ、理子とアリアもここで働いているからな」

 シロガネはニヤリと口を釣り上げた。

 テーブルに置いてあったペンを二本手に持つと。

 ストンッ、ストンッ!!

 壁と天井にペンが刺さり理子とアリアがそれぞれ、キャッ!とかニャッ!とか悲鳴を上げた。

 キンジはバックしベレッタを構える。

「遠山、仕事の話に入ろう。どうせ理子とアリアがいても大差はない」

 シロガネが冷静に言う。

 包装を丁寧にはがし、箱を開けると中には、

 腕が入っていた。どうやら左腕らしい。手の甲と肩の辺りに刺青が施してあった。

 シロガネ以外の全員が驚いた。

「これを蒼のところに持って行ってくれ、これは蒼の左腕だ」

 蒼の腕を見せつけると手の甲にある銃のような刺青に触れる。

「あいつ、こっちは合成してないのかよ」

 シロガネは目を瞑り、指で刺青をつついた。

「これで、天龍と海龍はそろった」
 
 箱に腕を戻し包装しなおすと、

 
 ヒョイっと箱をキンジに投げつけた。

「じゃあ、あとはよろしく」

 シロガネは財布から本当に三十一万を取り出しテーブルに置いた。

「遠山 キンジ、アリアが助っ人カード捨てからお前がアリアの分を持っていろ」

 アリアと同じ金属の板をシロガネはキンジに渡した。

「これを持っていろ、な〜に危ない物じゃない。ただの金属板だ」

 そう言ってシロガネは部屋から出ようした。

「待ちなさい!!」

 アリアが拳銃を向ける。

「ん、どうした?」

「アンタには聞きたいことが山ほどあるの全部聞かせてもらわよ!!」

「答えられないこともあるがオレで良ければなんでも聞いてくれ」

「どうせ、前みたいに逃げる。ってええ!?」

 シロガネはドアから手を離しイスに腰かけた。

 アリアが向かい会うようにイスに座った。

「キンジ、アンタはこの部屋から出なさい前にも言ったと思うけどイ・ウーの事を聞けばアンタも狙われるわ、あとだれも仕事してないと怪しまれるでしょ?」

 キンジは口ごもってなにか言おうとしたがため息を吐いて蒼の腕と金を持って部屋からでた。 


 ―――――――――― シロガネ ―――――――――――


「なんで、ママの潔白を証明できないの?」

「オレがイ・ウーに正式に入ったのはお前の母親が捕まった後だ、しかも戸籍上にオレは存在しないことになっている。人権もなければ一切の権利は無い、つまりオレがいくら証言したって無駄だ。これでも疑っているならそれでもいいが目障りになったらいくらSランク武偵のお前でも手足の一本は無くすぞ。そこら辺は理子がよくわかってるはずだ」

 冷静で落ち着いた平坦な声でシロガネは言い続けた。

「そうだよ、アリアこの人は私とジャンヌに近接戦闘から銃撃、ありとあらゆる武器の使い方、体術を教えてくれたひと」

 理子が後ろの方で言う。

 それを聞いたアリアは冷や汗を掻いていた。

「そんなことはない、オレはあくまで使い方と体術の基本を教えただけだ、そこからよく成長したな」

「アリア、知らないと思うけどこの人はあなたの恩人よ」

「え、どういうこと?」

 戸惑いを隠せずアリアは首を捻った。

「理子がハイジャックしたとき、アリアはキーくんとギリギリで不時着したよね〜」

 えへへへと言わんばかりに理子が言う。

「あれって、偶然じゃないよね〜、本当なアリアとキーくんは死んでたよ」

「それってつまり」

「オレが飛行機を止めた。はっきり言ってあれはきつかったぞ理子」

「でも、ちゃんと止めてくれたよね〜」

 アリアはきょとんとした。

「ふん、たった一人でなにができるの、超偵でもない限り無理よ」

「オレは、『超能力者』の類だ」

 ため息を吹きながらシロガネはアリアを見た。

「じゃ、じゃあイ・ウーのボスの名前は?」

「それだけは言えない」

「なんでよ!!」

「それを言えばオレは自分の役割を違反し自身で喉を裂く」

 冷酷な眼でアリアを見る。

「話はもういいか?」

「最後にひとつだけ」

「なんだ?」 

「蒼はどんな人間なの?」

「ああそれ私も気になる〜」

 理子も便乗して聞く、

「そうだな、あいつは自分より弱い人間を決して殺さない、それだけで十分だろ?」

 シロガネは立ち上がりドアを開いた。

 廊下にはキンジが壁にもたれ掛っていた。蒼の腕はどっかに置いてきたのだろう

「玄関まで案内を頼む」

「わかった」

 そう言ってキンジとシロガネは歩き出した。

「ひとつだけ言っておく遠山」

「なんだ?」

「オレはお前を殺さない、なにがあってもだ」

「どうかな、ウソつきは沢山いる」

「あははは!!、それもそうだ、気に入ったぞ遠山キンジ」

 玄関に着くとシロガネはキンジに礼を言いその場を後にした。


「さて、次は仕事か……」

 シロガネは影に潜った。

 影を媒体にし高速移動をしていた。

 だが途中でイレギュラーが起きた。

「あ〜あ、一面焼け野原になってる」

 シロガネはこの光景を何度も見たことがある。

 このふざけた大火力、そこに君臨する黒髪に黒いコート、二丁拳銃を両手に持ち、そして炎のなかにいても保護色になるように進化したブルーの瞳

 死んだと思われた、シロガネが知る中で最も強い炎を操る者、


 ―――クロガネ


「よぉ、久しぶりじゃねぇか」

「相変わらずの無茶苦茶ぶりだな」


 ボフッ!!
 

 クロガネ特有の蒼炎が放たれる。

(不味いな手を抜いて勝てる相手じゃない……仕方ない本気を出すか)

 シロガネは天獄の能力を発動させ、後ろに次元の切れ目を展開させた。

『曲名 亡国のワルツ』


 ―――――――――― 蒼 ―――――――――――


「気がつきましたかよかった」

 目が覚めたとき目の前にキンジとアリア、あと理子がいた。

 蒼は病院に運ばれていた。

 キンジは長い箱を蒼に手渡した。

「これはなんだ?」

「シロガネからのプレゼントよ」

 アリアが上から目線で言う。

 両手がないからキンジに開けさせると中には、

「オレの腕だ。キンジさんこれをくつっけてもらいたい」

 キンジが蒼の上着を脱がせると。

 そこに居た全員が驚きの表情を見せた。

 なぜなら、切断面が綺麗に見えていたからだ。骨から筋肉まで。

 蒼としては先天的にこうだったのかもしれないと思っていた。

「速くくっつけて」

 キンジがおそるおそる左腕をくつっける。

 切れ目が消え、蒼の左腕はもとどおりくっついていた

「おかえり」

 そう言って左手を動かす。

 意識を集中させる。

 腕からハンドガンが出てくる。


『海龍』

 
 デザートイーグルのような外見なのだが、ディープブルーカラーに木目状の文様があった。弾はおそらくライフル弾を使用するのであろう。

「それが、蒼さんの銃ですか?」

 キンジが聞く。

「ええ、まぁ、そんなところだ」

「変な銃ね」

 蒼がベットから起き上がり、点滴を無理やり外し服を着替える。

 ナースがびっくりして慌てて医者を呼びに行った。

「なにやってるんですか!? 患者さんはたしか全治二か月、骨折が四か所に裂傷が三十二か所、打撲二十二か所あるんですよ本来なら立っていられませんよ!!」

 医者が慌ててそういった。

「治った」

 上着を脱ぐと打撲の痕も裂傷も跡形もなく消えていた。

 医者の顔が蒼白した。

 無論、キンジを筆頭にアリア、理子も度胆を抜いていた。

 蒼はシュラ・モード類を使用時に一時的に細胞が活性化した状態になる。その後、能力を解除した後もその細胞に負った傷は異常な速さで回復しようとする。

 詳しいメカニズムは分からないがそんなところだろう。

 教師用の防弾シャツにズボンを着た蒼はそのまま帰った。

「こんどは右腕か何がしたいんだが……」



 ―――――――――― シロガネ ―――――――――――
 

「……さて行くか」

 シロガネは影に潜り目的地に向かった。


 その戦場の一部は凍り、

 その戦場の一部はドロドロに融解し、

 その戦場の一部は地面がめくり上がり、

 その戦場の一部は食いちぎられたように抉り取られていた。

 そして、クロガネは満身創痍だった。

「無茶苦茶なのはどっちだよ、イ・ウーの『黒狼のシロガネ』か……楽しかったぜ。送れ」

 クロガネは次元の中に落ちて行った。


 ―――――――――― 蒼 ―――――――――――


「本当に大丈夫ですか!?」

「ああ、もう大丈夫、大丈夫」

 胸のあたりを叩いて蒼はキンジたちにアピールした。

「あとはもう片方の腕と記憶か……」

 無くなった右腕を見て蒼はそう思った。

「キンジ、蒼はもういいから早く館に戻りましょうブラドがいるかもしれないからね」

 アリアが冗談交じりで言う。ちなみに理子は別件でさっき別れた。

「お前な、ブラドがいたら逆に行きたくねーよ」

「ブラド? あれ、なんか思い出しそうな気が……」

 蒼は頭を抱え考える。

「なにか知ってるの?」

「ブラド……無限罪…鬼……擬態…小さい夜……鳴き声……」

 アリアは、はっとして蒼の襟首をつかむ。

「なにか知ってるのね教えなさい!!」

「すまない、これ以上は……」

「落ち着けアリア!!」

「落ち着いていられる場合じゃないわ!! ひょっとするとコイツもイ・ウーなのかもしれないわよ!!」

「わかったから周りを見ろ」

 溢れんばかりの人がごった返し、大声で叫んだせいか視線がアリアにあった。

 アリアもたまらず赤面した。

「なぁ、お前の母さんに会わせてくれないか?」



 そう言って、留置場までアリアは蒼を連れてきた。きっとイ・ウーのなにかを思い出すかもしれないと思ってのことだろう。

「言っておくけど、面会できるかも分からないわよ?」

「構いません、いざというときは職権乱用しますから」

 さらりと蒼は言った。

 受付に行くと、

「武偵校、教務科の黒髪 蒼だ。神崎 かなえに新たな事件の容疑が浮上した、真意を確かめるため面会を申し込みたい。なお今日中に面会できない場合、公務執行妨害で逮捕することも許可をいただいている。色の良い返事をを期待しております」

 蒼は最後ににっこりと笑い、キンジの武偵校生徒手帳をうまく見せ、多少うたがわれつつも、なんとか面会することが出来た。

 面会室に行き、かなえさんの到着を待った。

 
 ガチャッ、

 
 ドアが開く、目の前に居たのは手錠をつけられた綺麗な女性だった。

 彼女が神崎 かなえ、アリアの母親である。

「アリアっ!!」

 かなえは椅子に座ると蒼を見て硬直した、まるで化け物をみるかのように。

「その表情からしてなにか知っているのですねオレのことを」

「ママ、この人知ってるの?」

「ええ、この人は、『六道七罪の蒼』、イ・ウーの正式な人間ではないけど実力は計り知れない、近接戦闘においては勝てる人間がいないとうたわれる人よ」

「やはり、そうですか……」

 蒼はうすうす感じていた、自分の最悪の過去にため息をついた。

「でも、本当に姿は似ていますが本当にあの化け物と言われた人のようには見えないのですが」

 かなえは不思議そうに蒼を見ていた。

 それはアリアもキンジも思っていることだろう。

「それは、たぶん記憶がないからだと思います」

「記憶が……」

 
 ガチャっとドアが開き警察がかなえを強引に引っ張った。


「ちょっと!! ママに乱暴しないで!!」

「乱暴?」

 蒼が頭を抱え込む。

 頭に激痛が走る。

「くっ、こんな時にか……」

 脳内で映像が映し出される。



 血まみれの自分、内臓が引きずり出された女の子。

(これが、オレなのか?)

 さっきまでいた面会室から一気に変わって、血生臭い水の中にいた。

「ここはどこなんだ?」

 再び頭に激痛が走る。

 頭の中で映像が流れる。

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」

 止むことのない記憶。

 必死で抵抗するがまるで無意味だった。

 そのまま蒼は血生臭い水の中に堕ちて行った。


「蒼さん大丈夫ですか!?」

 気がつくとアリアが警官に何か言っているようだ。おそらくかなえさん扱いについてだろう。

 蒼は立ち上がり左目を押さえる。


『ジゴク・モード』


 素人でも分かる殺気をだった。まるでさっきまでの蒼と別人のようだった。

 蒼は完全に記憶を取り戻していた。

 自分が何者か、なにかも全て。

「ありがとうございました、かなえさん」

 ばたりばたりと警官が倒れる。

「行きましょう、キンジ、アリア」

 そういって蒼は能力を解除した。

(すげーなこのモード、これで六道のすべてを習得したんだな……)


 ―――――――――― キンジ ―――――――――――


 一瞬で蒼の雰囲気が一転した。なんというかまるで死神のようだ。

 キンジは今まであんな蒼を見たことなかった。

 アリアもキンジと同じ考えだろう。

 蒼の殺気に圧倒されたキンジたちは外に出ると蒼は用があると言ってどこかに行った。



 そんなことがあったりしてとうとう理子の母親の形見を盗む日になった。

『キンジ聞こえる?』

 無線でアリアが聞く、アリアは管理人の小夜鳴の囮になっていた。

 キンジは地上から地面を掘り、地下金庫で宙づりになり、ワイヤーとアームを使って慎重に進んでいく。床は感圧床になっていて歩くことはもちろん汗一滴でもたらしたら警報が鳴る。

 感圧床以外にも赤外線が張り巡らされている。

「ああ、それよりここまで地下金庫が厳重とは思わなかった」

『キーくん頑張って理子の宝物を盗ってきて』

 遊戯場でカメラを使って理子が指示を出す。

 トラップを何とか回避しキンジはようやく最後のロックを解除しようとした。

 が、最後のトラップは赤外線、厳重で通常モードのキンジとっては難問だった。

 赤外線ゴーグル使って赤外線の位置を把握する。

『キンジ、急いで小夜鳴が地下に行くわ』

 刻々とキンジにタイムリミットが迫っていた。

『キーくんこれが終わったら理子のことすきにしてもい・い・よ』

 心臓が高鳴る。

 キンジは理子の一言でヒステリア・モードになってしまった。

(今ならこのトラップも朝飯前だ)

 流れるように作業を終わらし十字架を手にし地上にキンジは戻っていった。

「これでいいのか理子?」

「ありがとーキーくん!!」

 理子が十字架を受け取るとワルサー構えた。

「どういうつもり理子!!」

 アリアが二丁拳銃を構えて質問する。

「お前たちはわたしの踏み台となれ!!」

 裏理子の口調で理子は言った瞬間――


 バチッッッッッッ!!


 小さな雷鳴のような音が上がった。

 愛らしい表情をした理子が半分だけ、ゆっくり、振り返った。

「……なんでお前が」

 がくん。

 理子が膝をつき前のめりになる。

 理子の後ろにいたのは、

「小夜鳴先生!?」

 手にしていたスタンガンを捨て、拳銃を取り出した。

「みなさん、動かないでくださいね、リュパンを殺したくはないですから」

「アンタがブラドだったの!?」

「彼は間もなくここに来ます。それまで、そうだ遠山君ここで補習をしましょう」

「補習?」

「遺伝子とは気まぐれなものです。両親の長所が遺伝すれば有能な子、逆は無能な子になります。このリュパン4世は、その後者にあたるサンプルになります」

 そういって、理子の頭を蹴った。

「10年前、ブラドに依頼されこれのDNAを診断したことがあります」

 理子は麻痺した身体でもがいた。

「これはリュパンの血を引きながら、優秀な能力がまったく遺伝していなかったのです」

 そう言われた理子はキンジたちから顔を背けるように額を地面にこすり付けた。


 ――本当に言われたくないことを言われた。


 ――ライバルに聞かれたくないことを聞かれた。


 嗚咽を交えながら理子は涙を流した。

「残念ですね無能というのは本当に――」

「おい」


 ダンッ!!


 銃声が小夜鳴の話を中断した。

 小夜鳴の腕には拳銃がなくなっていた。

「オレの教え子をバカにしたな?」

 どすの利いた低音、
 
 マーブルの髪にオッドアイ。


 黒狼のシロガネ 


 激昂を押さえきれていないのか目が吊り上っていた。


「無能を無能と言って何が悪いというのですか……ああそっか、あなたは優秀ですから情をかけているのですね。でも、もう遅いです絶望の唄は出来上がってしまいました」

「来いよ、今回は遠山、アリア、オレの味方をしてくれるか?」

 キンジとアリアは頷いた。

「これで五人か……あれをホームズから返してもらって正解だった殻金も埋め込んである」



「さあ かれが きた ぞ」



 ビリビリとスーツが破れその下から褐色の肌があらわになった。まるで変身しているようだった。

 まるで化け物だ。ジャンヌの言っていたことは間違いじゃなかった。

「日本語の方がいいか、初めましてブラドだ。吸血鬼のブラドだ」

 声帯が変わったのか、一度に何人も話しているような声だった。

 吸血鬼、つまり吸血によって他人の遺伝子を取り入れ自分の能力にしてきたということになる。

「リュパン久しぶりじゃねーかイ・ウー以来か?」

 理子の頭を掴み持ち上げた。

 今だ!!

 キンジは3点バーストの弾丸を放った。

「バカ、やめろ!!」

 シロガネがそれを止めたが遅かった、舌打ちをして茂みに隠れた。おそらく、応援を呼びに行ったのだろう。


 バババッ!!

 
 毛むくじゃらの前腕に命中した。

「うっ!!」

 唸ったのはキンジの方だった。

 赤い煙が立ち込めほんの一秒程度で傷口が消えた。

「り、理子!!」


「……助けて」


 キンジは深呼吸をし頷いた。

 たとえ、ヒステリア・モードじゃなくても頷くだろう男なら。

「今いくぜ、理子」

「話は済んだか、じゃあ串焼きにするのに串が必要だな?」


 バキンッ!!


 五メートルほどあるケータイのアンテナである鉄柱をブラドがむしりとるとニヤリ鋭い歯をちらつかせた。

「このくらいでちょうどいいか」

「私を串焼きにするなんて冗談はよしなさい?」

「お前たちはオレからすれば餌と捕食者の関係だ、ネズミを冗談で獲る猫がどこにいる?」

 片腕には理子、片腕には鉄柱のブラドが言った。

 アリアとキンジは拳銃を構えてブラドの腕を狙った。

 
 ダンダンッ!!


 だが、ブラドの再生能力が高く傷口があっという間に消えた。

 そして、ブラドは鉄柱を横に振った。


「危ない、アリア!!」


 アリアを片腕で押し倒した。


 ガツンッ!!

 
 だが、その鉄柱がキンジにあたることは無かった。

 鉄柱に黒い影のようなものが巻きつきキンジの顔面すれすれで止まっていた。

 影を追って見るとシロガネの能力であることが分かった。

「さてと、話が済んだところで。先生が到着したぞキンジ、アリア、理子」

 シロガネは、腕を取り出し宙に投げた。

「ふん、何人増えようが雑魚は雑魚だ!!」

「そいつは残念」


 ダンッ!!


 ブラドの腕が吹き飛んだ。

 キンジは音の方向を頼りに向くと。そこには対物ライフル弾の薬莢だけが残っていた。

 そして、シロガネの投げた腕も風切り音と共に消えていた。

「うっ!!」

 今度はブラドもうなり声を上げたが既に腕は再生されていた。

「遅れてすまなかったな蒼」

「まったくだ、でもまぁ、かっこよく登場できたからいいか」

 シロガネの隣には両腕のある、蒼がいた。

 その腕の上には、理子がいた。

 背中には対物ライフルのシモノフPTRS1941と思われる二メートルを超えた銃を背負っていた。

「生徒諸君、オレのは蒼、武偵校の非常勤講師だ」

 理子を降ろすと。

「さて、生徒はそこで見学してな」

 蒼はにっこりと笑った。


 ―――――――――― 蒼 ―――――――――――


「さて、久しぶりだねブラドくん」

「だれかと思えば劣悪種じゃねえか」

「戯言は後にしろ行くぜ蒼」

「おう、了解了解」

 シロガネが天獄を構え、横に薙ぎ払った。

 
 ガンッ!!


 ブラドはシロガネを一撃を片腕で止めた。

 一瞬の隙で蒼は、ブラドの懐に潜った。


(さて、使ってみるか……このモードを)


 蒼は不敵に笑った。


『ガキドウ・モード』


 蒼の手足が赤くなり、爪が鋭くなった。それはまるで鬼のようだった。 


 バキリッ!!


 蒼の軽いジャブが炸裂した。

「ふん、この程度か?」
 
 蒼は身の危険を察知しブラドから距離をとった。

 シロガネは天獄を引き抜き蒼に詰め寄った。

「蒼はやれそうか?」

「余裕だな、ただまだ力の出力がでないさすがこの罪は使いづらい」

 罪とは蒼の使う七つの武器の形状の事である。道とは六つの特殊能力である。


 テンカイは移動能力の変化、武装は棍棒


 ニンゲンは通常の状態、武装は刀とハンドガン


 シュラは身体能力の向上、武装は刀とライフル


 チクショウは本能の解放、武装は動物の爪や牙


 ガキとは人外の変化、武装は鬼の手足


 ジゴクとは精神への干渉、武装は鎌


 蒼はこれを四悪趣と呼んでいる。後は二つはまだ詳しく明かさないでおこう。

 ちまみにアシュラはシュラの強化状態である。他のモードでもこの強化状態はある。

「五秒で慣れろ」

「了解」

 のんきに話していると頭上に鉄柱が現れた。
 

 蒼はあくびをしながら鉄柱を片腕で受け止めた。


 焦りを隠せずにブラドが唸った。

「どうした、オレが怖いか?」

 蒼はただ平然とブラドに問う。

「………」

「死が怖いか?」

 声も出せずにただブラドは頷いた。

「オレはだれも殺さない」

 鉄柱を投げ返した蒼は無表情で言う。

 前に足を進めブラドの身体の中央を殴り、蒼はキンジの元に歩み寄った。

「お世話になりました。オレはもう帰ります。シロガネがキンジさん以外の記憶を書き換るのでオレたちという存在が消えます」

「どういう事ですかなんで俺だけ記憶が消えないんですか?」

「オレたちはこの世界を変えてしまった。万が一なにかったらそれを知らせる人が必要なんです」

 蒼はポケットからお守りを取り出しキンジに差し出した。

「これは、なんですか?」

「それは、明らかにこの世界のルールに反した者が出てきたときに使ってください」

 蒼はにこにこと笑い言った。

 キンジが強く頷くと蒼は安心した表情を見せた。


『テンカイ・モード』


 蒼とシロガネの身体がすっと消えた。


 ―――――――――― キンジ ―――――――――――


 世界とは不思議なものだ。

「ねぇ、キンジ聞いてるの?」

 あれだけインパクトの強かった蒼を誰も覚えていない。

「キンジ?」

 キンジがいくら言ったてみんな受け流すだけだった。

「バカキンジ返事しなさい!!」

 だけど、


 だれもが、一瞬だけその人の名前を言うと尊敬している表情した。


 彼は黒髪 蒼、


 六道七罪の男


 今日もどこかの世界で笑っているのだろう。



                  終わり



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■作者からのメッセージ

 今回でこのロストメモリーは終了となります。この先も考えていたのですがアニメで放送されなかったのでやめることにしました。


 今後もクロスなどを書く機会があったらぜひ書きたいです。


 コメント返し


 ハナズオウ 殿


 いつも自分の小説を読んでいただきありがとうございます。次回からはオリジナルをもう一度書こうとおもいます。

 今回で、魔剣事件とブラドの事件が終わりになります。強引なところはありましたが。

 これからもお互いがんばりましょう!!


 黒い鳩 殿

 相変わらず描写不足がいなめないですね、意識はしているもののなかなか結果にはなりませんね。

 蒼の能力は六道の教えをのとった考えでネーミングがちょっと変なところありますが、自分としては気に入ってるのでよしと思っています(畜生以外は……)

 皇帝は思わせぶりになってしまいしたがそのあたりは御想像または妄想におまかせします。

 以上簡単ですがこれで

 PS 次書く小説が拷問やグロテスクな描写が多いので皆さんのセーフティーラインを教えてください。

 以上13より


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