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コードギアス 共犯のアキト 第二十四話「神の島」
作者:ハマシオン   2011/08/16(火) 21:13公開   ID:uk4AsIEYhoo
コードギアス 共犯のアキト
第二十四話「神の島」





「なに? ルルーシュ達だけでなく、カレンもあの島に送ったのか?」

 僅かな光源が頼りの薄暗い潜水艦の通路の真ん中で、白い拘束服を着たままで緑髪の魔女C.C.はフラフラと独り歩き回っていた。
 虚空に向けて呟く言葉は、旧来の親交を思わせる口振りであるが、その手には電話も携帯端末すらなく、見る人にとっては気味の悪い独り言を呟いているように見えるだろう。
 しかし、今この場には人の目など皆無であり、C.C.の言葉を遮るものはどこにもない。

「……趣味が悪いぞ、観測者気取りか? ……あぁ、安心しろ。他の団員が今必死になって救助の策を練っている」

 C.C.は消息不明となったゼロとカレンの扱いについて救助の策を練る団員達の姿を思い返し、ク、と僅かに微笑んだ。
 特に副指令の扇はどうにかして二人を助け出そうと頭を捻っており、団員達の知恵を借りながら、救出する計画を練っている。

「……そうだな、これもあいつが築いた絆のおかげだろうな」

 過去にギアスを受けた人間の中でも、類希なカリスマを持つ人間はいたが、ここまで人を引き付ける人間はいなかった。
 日本解放のために尽力し、信を置いた者には素顔を見せてその覚悟を示し、明確な結果を出す。
 最初はゼロという英雄に心酔、狂信する者がほとんどだが、より深くゼロと触れ合えばゼロ自信も一人の人間に過ぎないと知ることになる。
 扇は只の学生がブリタニアに反抗する姿を見、一人の大人として彼を支えたいと思い、ゼロの素性を知る藤堂はその境遇に同情しつつ、それが日本解放に繋がるならと協力した。
 カレンはルルーシュの本当の素性をまだ知らないものの、何か秘密があると感じ取ってはいるが、自分が本当に信を得られるまでにはそれについては決して問わず、結果を示してその信を勝ち取ってみせると息巻いている。
 初めはたった二人しか信を置いていなかったというのに、随分と増えたものだと再度C.C.は笑みを浮かべ、同時に羨ましげな表情を浮かべた。

「……なに? おい、どういうことだ」

 C.C.にしか聞こえない虚空の声に彼女は眉を顰め、その声に再度問いかけた。しかし結局明確な答は得られず、C.C.の耳元にはそれきり声は届くことはなかった。

「全く、なんだというのだ?」

 彼女の呟きは潜水艦の通路に空しく響き、ここにいても仕方ないとC.C.は食堂に集まる騎士団の幹部の元へと足を進めるのだった。





「ここは……どこだ?」

 青々と澄み切った空の下で潮の香りを含んだ海風を浴びながら、ゼロは困惑の直中にいた。
 半壊した機体の中で気絶していたでもなく、海沿いに倒れてでもなく、気づけばどこともしれぬ島の岬を望む岩場に立っていた。
 周囲には、傍にいたはずのカレンの紅蓮弐式の姿もスザクの白騎士もいない、全くの孤立状態。
 何故このような状態で自分はここにいるのか、それを判断できる情報が全く不足している。

「確か俺は空中戦艦からの砲撃を受けて……ダメだ、そこからの記憶が曖昧だ」

 あの状態からでは、機体が破壊され自分は生き残る確率は限りなく低い。にも関わらずこうして生きているということは、脱出機構が作動して脱出できたというのが最も考えられる事態だが……。

(衣服に汚れ一つどころか、水気がほとんど無いのはどういうことだ? 島に流れ着いたというなら少なくとも海水に浸かっていたのは間違いないだろうが)

 無我夢中で島までたどり着いたにしても、あまりに綺麗すぎる自分の体に違和感を感じずにはいられない。

(……思考を切り替えよう。あの状態から命が助かっただけでも儲けものだ。まずは、騎士団に合流しなければな)

 今は助かった経緯を探るべきではなく、生きて騎士団に合流するために行動するべきだと考え直し、ルルーシュは辺りを見回した。
 式根島とほぼ同じ植物群生から、そう離れた島に流されたわけではないと分かるが、施設や島の影が全く見当たらないため、位置情報はまるで分からない。
 通信を送る事も考えたが、ブリタニア軍に電波を探知される可能性も考えるとそう簡単に通信機も使えない。
 そうなると現状自分ができることといえば……。

「水、食料の確保が最優先だな。全く、幼い頃アキトにサバイバル生活のイロハを教えて貰わなければどうなっていたことか……」

 数年前にもしもの時のためと、自分とナナリー、ラピスや咲世子も一緒に租界からそう遠くないエリアで四人揃ってサバイバル生活を行った経験がここで生きた。
 当時はそんなことがそうそうあってたまるかと、文句を言ったルルーシュだったが、兄と一緒に外で遊べる(ナナリーの認識ではハイキングと変わりなかった)とナナリーは大喜びだったし、ラピスからも大した文句はでなかった。
 サバイバル生活といっても、半ばキャンプみたいなものだったが、文明の利器はほとんど使わなかったため、火を一つ起こすだけでも随分苦労した覚えがある。
 あの時星空の下で、アキトと咲世子が捕ってきた熊で作った熊鍋は、二人の血塗れの顔から、大層美味しくかつ恐ろしく感じて……。

「――余計な事を思い出したな。とにかくまずは水場の確保……を?」

「あら?」

 ふ、と岩場の下を見てみれば、そこにいたのはコテン、と可愛らしく首を傾げる塗れたドレスを着たままの第三皇女様の姿があった。
 予想だにしなかった遭遇に一瞬惚けるゼロだが、直ぐに我に返ると懐の銃を抜いて銃口をユーフェミア皇女に合わせたが、何を言うべきか思い浮かばず、暫し波の打つ音だけが辺りに響いていた。

(えーーっと……どうしましょうコレ)

 ユーフェミアもまさかここでゼロと合うとは思ってもみなかったためどうするべきか迷ってはいたが、周りに人がいない今は逆にチャンスだと思い、重い口を開いた。

「ゼロ、あなたは……あなたはルルーシュではありませんか?」

(なっ……!!)

 思わず引き金に指がかけられるが寸前で思いとどまり、驚愕の表情を仮面の下に隠しつつユーフェミアを見つめるルルーシュ。

「大丈夫です、このことは誰にも言っていません……ですからどうか……どうか顔を見せてくれませんか?」

 もしやスザクから聞いたのかと思ったが、彼女の言い分からそうではないと分かる。
 ユーフェミアとゼロはこれまで全く接点が無かったというのに、こちらの正体を言い当てるとは彼女の勘の良さには全く恐れ入る。
 それにルルーシュとしても、ユーフェミアとは今後のことも考えて話しておきたかったし、なにより八年ぶりの腹違いの妹との会話にゼロの仮面は無粋だ。
 ルルーシュは改めて周囲に誰もいないのを確認すると、仮面に手を添えてゆっくりとその素顔を晒した。

「……久しぶりだな、ユフィ」

「ルルーシュ……ええ……ええっ! 本当にっ!」

 異国の地で死んだと思っていた兄との再会に、ユーフェミアは口元を手で覆いつつ、涙を流しながら喜びの表情を浮かべた。





「そう、ナナリーも無事なのね」

「相変わらず目は見えないけどね……それでも護身術を学ぶくらいに元気にしてるよ」

「まぁ! 流石マリアンヌ様の血筋といったところかしら? あなたはどうなの、ルルーシュ?」

「ハハハッ、俺についてはあまり期待しないでくれ」

 海水に浸かったドレスを岩場で乾かしつつ、ルルーシュとユーフェミアは岩越しに八年ぶりの兄妹らしい会話に華を咲かせていた。

「それにしてもどうして俺がゼロだと……分かったのはいつから?」

「ゼロが黒騎士と一緒に行動していると聞いて……黒騎士って、アキトさんの事でしょ? あの人がルルーシュ以外の人に協力するところが想像できなかったから」

 確かにあの一癖も二癖もある男を使う人間はそう多くないだろうな、とルルーシュは自分の事を棚に上げ、苦笑する。
 しかしそうなると、敵方に自分の正体に感付いている人間はもっといるかもしれない。

「そうなるとコーネリアも俺のことは知っている可能性も……」

「いいえ、お姉さまは確かにアキトさんに憎しみを抱いてはいるけどあなたの正体については気づいていないと思うわ」

「そうなのか?」

「ブリタニアではアキトさんの事を、マリアンヌ様を謀殺した下手人という扱いになっているの。ブリタニアの英雄を殺した人が、ブリタニアの皇子……ましてやその子供に仕えると考える人は少ないんじゃないかしら?」

「……なるほどな」

 つまりはゼロの正体も今しばらくばれる様な事はないということだが、ルルーシュはその答えに若干の苛立ちを覚えた。

「あ……ゴメンなさい。マリアンヌ様のことは――」

「……いや、ユフィが謝る事じゃないさ。俺が憎いのは親父とアキトをハメたV.V.という男のことだ」

「V.V.?」

 ユーフェミアは奇妙な名前に首を傾げる。

「そうだ、聞いたことはないか?」

「いいえ、そんな特徴的な名前なら忘れるはずはないと思うけど……そのV.V.というのが、マリアンヌ様を殺したというの?」

「あぁ、ソイツはアキトも一緒に殺そうとしたらしいが、失敗したためアキトに母殺しの罪を被せたらしい」

 本当は母のマリアンヌはコールドスリープで今も生きてはいる。
 しかし、一向に目を覚まさず七年間も眠りっぱなしなので、死んだ扱いにした方が面倒は少なくてすむので、そう説明した。

「そう……政庁に戻ったら私も調べてみるわ」

「助かる。そのためにもこの島からなんとか脱出しなくてはな」

 そろそろ服も乾いただろうと、ルルーシュはユーフェミアを促し、島の探索を提案した。
 もしもの事を考え、最低限水場と食料を確保した方がいいだろうという案にユーフェミアも賛成し、いそいそとドレスを着ると、ルルーシュと手を繋ぎ森の方へと歩いていく。
 八年ぶりに握ったルルーシュの手は見た目に反してずっと固かったが、同時にそれ以上の暖かさを感じた。
 ユーフェミアは前を行く兄の背中に小さな頃の面影を感じ、ルルーシュから見えないように柔らかく微笑むのだった。





 同時刻、式根島の戦闘があった砂浜では、ブリタニア軍の兵士が懸命な捜索活動を行っていた。

「探せ! ユーフェミア様の御姿がなければ、コーネリア総督に何を言われるか分からんぞ!!」

 式根島基地司令官は、脂汗まみれになりつつ必死の形相で兵士に怒鳴り散らす。
 空中戦艦の砲撃地点は至る所にクレーターが生まれており、辺りにはナイトメアの残骸がいくつも散らばっている。
 この惨劇の中に飛び込んだユーフェミア皇女が無事であるとは、司令官自身も思っていなかったが、もしそんなことを報告すれば自分の首が比喩ではなく本当に飛ぶような事になりかねない。
 コーネリア皇女のユーフェミア皇女への溺愛ぶりは万人が知るところであり、もし自分の失態でユーフェミア皇女の命が落とされたとなると――そう考えた途端、司令官の顔に恐怖の表情が浮かぶ。

「探せ! なんとしても、探すのだっ!!」

 そんな司令官を遠巻きに見つつ、ロイドは砂まみれになったランスロットとゴルディアスの回収作業を行っていた。
 ランスロットはボロボロであるものの、コックピットブロックは無事であったし、ゴルディアスの損傷に至っては頭部の損失のみですんでいる。パイロットのジャック・ユニオンも五体無事であり、流石に重量級ナイトメアといったところだろう。

「だというのに、ウチのデヴァイサーはどこに行っちゃったんだろうねぇ……?」

 戦闘の最中、突然と姿を消した枢木スザク。
 砲撃の間際に戦場を離脱し、機体を捨てたというなら記録は残るし、コックピットも開いた状態で捨て置かれるはずだ。
 だが、そのような記録は一切残っておらず、に残留物は一切見あたらなかった。
 まるで、忽然と姿を消したように……。

「んー、以前似たような記録を見た記憶はあるんだけど、どこだったかなぁ?」

 ぶつくさと頭の中のチェストをひっくり返しながら、ランスロットの周りをうろうろするロイド伯爵。
 そのため、すぐ傍に忍び寄った危機に気付くことができなかった。
 ゴッと鈍い音を立てて、水色の頭にプラスチックボードの角が突き刺さり、あまりの痛みに思わずロイドは悶絶する。

「何をするんだい、セシル君」

 抗議しようと恨みがましそうな目をそちらに向ければ、セシルは柔らかな笑みを浮かべつつも、額に青筋を浮かべていた。
 その静かな迫力に思わず後退さるロイド。

「ロイドさん……こちらにわざわざシュナイゼル殿下がいらっしゃってるんですから、挨拶一つくらいまともにして下さい!!」

 おや、と目線を横にずらせば禿げ上がった頭に湯気を出すように顔をしかめた軍人と、こちらの様子を苦笑しながら見つめる金髪の貴公子――シュナイゼル殿下の姿があった。

「あは〜♪ ようこそシュナイゼル殿下ぁ〜。浮遊航空鑑なんてものまで持ち出すなんて豪気ですね〜」

「き、貴様! 殿下を無視するだけではなく、そのような物言いをするとは万死に値するぞっ!!」

 ロイドの物言いに、我慢できなくなった軍人――バトレーが厳つい表情をさらに厳つくしつつ怒鳴り声を上げるが、シュナイゼルはそんな事は気にならないらしい。

「いいんだよ、バトレー。科学者という者は少しくらい捻くれてた方が優秀だからね。ロイドのアイデアはいつも興味深いものばかりだから、私もつい実践してみたくなるのだよ」

「あはは〜ありがとうございます。それにこのアヴァロンだけでなく、ハドロン砲――ガヴェインも持ってきたんですねぇ」

「まだ調整は完璧でないけれどね、君なら完璧なモノに仕上げることができると信じているよ」

 只人が言えば白々しいまでの世辞の言葉であるが、シュナイゼルが言うとなんとも人を奮い立たせるような賞賛の声に聞こえてしまう。
 しかしロイドはそれに対しても「ま〜任せて下さい」と軽く答えるだけで、それが尚更バトレーの怒りを買ってしまう。
 シュナイゼルは再びそれを諫め、暫しロイドと話をした後、セシルの手の甲に口づけをしてセシルの顔を赤くさせるとロイドを連れて格納庫から去っていった。

(まったく、嵐のような方ね……でも)

 セシルは心を落ち着かせた後、格納庫の外へと向かうシュナイゼル殿下の後ろ姿を、複雑な表情で見つめていた。
 周囲に味方がいるのも構わず、ハドロン砲を撃ち込むよう命令したのはあのシュナイゼル殿下だ。殿下は、大事なことは優先順位を守ることであり、あの場ではあの行動こそが最善だったと言っていた。
 確かにあそこでゼロを討てば、エリア11の抵抗勢力は瓦解しその後の統治はぐっと楽になるであろうことは容易に想像できる。
 だが、ゼロの近辺にはブリタニア兵士だけでなく、身内のユーフェミア皇女もいたというのに、未完成で攻撃範囲の定まらないハドロン砲を躊躇なく撃つなど、並の神経ではない。
 セシルは小さくなるシュナイゼル殿下の背を見つつ、畏敬の念と同時に畏怖の感情を覚えずにはいられなかった。





「ルルーシュ、どこまで行くんですか?」

「この先から微かに水の臭いがする。食料や寝床も大事だが、第一に優先すべきは水場の確保だからな。その後の行動についてはそれから考えよう」

「はぁ……昔に比べて随分と頼りになりましたね」

 思わずそうつぶやいたユーフェミアの言葉に、ルルーシュは八年前とは違うのだぞと反論しつつも無理もないかと、内心苦笑していた。
 アリエス離宮で幼い兄妹と遊んでいた頃は自分はいつも抑え役で、元気なナナリーやユーフェミアに振り回されてばかりだった。その頃しか知らないユーフェミアにしてみれば、率先して今の自分は昔からは考えられないだろう。

「よし着いた。後は食料の確保……を?」

「どうしたの、ルルーシュ……あら」

 動きを止めたルルーシュの視線を追うユーフェミア。
 その先にはパイロットスーツを着崩した己の騎士枢木スザクが、水飛沫に濡れた紅い髪が美しい年若い女性を、地面に押し倒している光景だった。
 一方スザクと押し倒されている女性……カレンも同じくルルーシュ達の存在に気付き、硬直していた。
 気付いたら何処とも知れぬ島に放り投げられ、まずは水場の確保と向かった先には水浴びに適した小さな滝があったため、砂まみれの身体を洗い流したいという欲求を優先したのだ。
 そして水浴びの最中に現れた枢木スザク。
 敵を目の前にして身体を隠すという真似はカレンの頭の中にはなく、側に置いてあった服と隠しナイフをひっ掴み襲いかかった。
 またスザクといえば、見も知らぬ女性の裸体を目に焼き付け、思わず顔を赤くしたものの、黒の騎士団の制服を目にすると一瞬にして顔つきを戻した。そして襲いかかってきたカレンを軽くあしらうと、地面に押し倒し拘束しようとし……そこに仮面を外したルルーシュとユーフェミアが現れたのだ。
 ユーフェミアを含め、スザクもカレンもゼロの素顔を知ってはいるが、皆がその事情を知らないためここで迂闊にそれを口にしていいのか分からず暫し沈黙が続くが、それを破ったのは他ならぬルルーシュだった。

「スザク……貴様、ユーフェミアの騎士でありながら、私の部下に欲情して襲いかかるとは見下げ果てたぞ」

「はあっ!? いや、ちょっと待って……これは正当防衛で――」

「スザク! この後に及んで言い訳をするなど、あなたはそれでも誇り高きブリタニアの騎士ですかっ!」

「えぇっ! ユーフェミア様までっ!?」

 突然始まった痴話喧嘩の如きやりとりに呆然とするカレンだったが、ルルーシュがこちらに視線を寄越しているのに気付くと、自分のあられもない格好を思い出し、慌てて制服で前を隠す。

「カレン、もう大丈夫だ。変なことはされなかったか?」

 そう口で言うルルーシュであるが、心配している様子は微塵も感じず寧ろ面白おかしい玩具を手に入れた子供のような笑顔を浮かべている。
 時折ユーフェミアと視線を交え、二人で意味ありげな視線を同時にスザクに送っているのを見て、カレンはピンと来た。
 そう、あれは確かラピスが時折玉城に送っていた視線と同じものだ。
 その意味するところは……

『全力でスザクをからかえ!』

 それを察したカレンは一瞬ニヤリと薄暗い笑みを浮かべると、すぐに泣き顔を作って涙を流しつつ、ルルーシュの傍へと駆け寄った。
 そしてさり気に自分の豊満な胸をルルーシュに押しつけるのも忘れない。

「あ、ありがとうございます、私がここで水浴びをしていたら、あの男が急に襲いかかってきて……うぅ、ゼロォ〜」

「あぁ……よしよし、怖かったな」

「私の騎士が失礼な真似をして申し訳ありません……しかしここでいくら謝罪しても、あなたの心に負った傷は癒すことはないでしょう。せめてものお詫びとしてこの場でスザクの逸物を切り落として――」

「ちょ、ちょっと待ってくれユフィ! 頼むからそんな物騒な事を言わないでくれっ!!」

 スザクの恐怖に怯えたような声とユーフェミアの嘘とも本気ともとれそうな言葉、そしてルルーシュとカレンがさらりと毒を吐く会話が繰り広げられる。
 そこには皇女や騎士、レジスタンスの首領とその側近等という肩書きなど無く、ただ年若い少年少女達の他愛ないじゃれあいが広がっているだけだった。






 一方、式根島からそう遠くない離れた沖合の底では、黒の騎士団の潜水艦がその巨大な体を休ませていた。
 海上ではひっきりなしに護衛艦やヘリが行き交っており、迂闊に動けばいかにステルス性に富んだこの艦でも、補足されかねない。
 艦内の食堂で食事をとりながら、今後の方針をどうするのか隊員達がさかんに話し合い、その顔は一様に不安に彩られている。

「なぁ、いつまでここにいるつもりなんだ?」

「そりゃあ、ゼロやカレンを見つけるまでだろ」

「ブリタニアの戦艦や捜索隊がウヨウヨいる中でどうやって見つけるって言うんだよ!」

 彼らを不安にさせているのは他ならぬゼロの不在だ。
 リーダーの元ならば優秀な戦士となる彼らも、旗印のゼロがいなければ、先導者を失った羊と変わりなかった。

「ここは一度引き返すべきだろう。いつまでも此処にいることはできないし、何時ブリタニアの探索に引っかかるとも限らん」

「何を言うのです、我々はこのままゼロを探すべきです! この黒の騎士団はゼロあってこそのもの! そんじょそこらのレジスタンスならいざ知らず、黒の騎士団は彼がいなくばなんの価値もありません!!」

 今後の方針について激論を交わす藤堂とディートハルトを多くの団員達が聞きながら考えていた。
 部隊の指揮官である藤堂の存在は黒の騎士団の中でも一際際だっているものの、ゼロのカリスマに惹かれて集まった者達が大半を占める中では、ディートハルトの言い分も正しく聞こえる。
 これからどうするべきか……団員達が不安に思いながら藤堂とディートハルトの声を聞いていたその時である。

「ディートハルトも藤堂さんもそこまでにしてください」

「ヌ……」

「扇副指令……」

 食堂に入ってきた扇の一声によって口論が抑えられ、その場にいた団員達の視線が一斉に集まった。
 扇の側にはC.C.の姿もあったが、彼女はさっさと扇の側を通り抜けると厨房の方へと姿を消してしまった。

「扇、オメエはこの後どうすんのか考えてあるのか?」

「基本的にはゼロの捜索を最優先だ。既に潜水艦に搭載していたバッタを飛ばしてゼロの捜索を開始している。ゲフィオンディスターバを搭載したバッタならブリタニアに見つかる心配もない」

「流石ですな、扇副指令」

「ヌゥ……」

 玉城の問いに淀み無く答え、ディートハルトがそれに機嫌をよくし、一方で藤堂が眉間の皺を深くする。

「だが藤堂さんの言うとおり、いつまでも此処にいるのは危険なのは間違いない。よって搭載している物資から考えて、捜索は二日後の明朝までをリミットとする」

 その答えを聞いて藤堂が納得したように頷き、ディートハルトも流石にそれでも捜索をとは言えず、いた仕方ないと納得した。
 様子を伺っていた周囲の団員達も副指令の決断に納得したのか、食事と会話を再開した。
 その様子にほっとして扇もカウンターに向かうとトレーを受け取り、ようやくといった感じで食事を取り始める。

「フム。まぁゼロの代理とは言えそこそこサマになってるじゃないか、副指令殿」

「ちゃかさないでくれ、C.C.」

「私は本当の事を言っているだけだぞ?」

 扇の真正面の席についたC.C.がそう扇をからかいながら、テーブルに積まれた解凍されたピザを次々と平らげていく。
 これはC.C.がルルーシュに言ってわざわざ用意させた、C.C.専用の糧食だ。周りは軍用食の定番とも言えるカレーを食べている中でも、C.C.は知ったことかと言わんばかりにピザしか手をつけない。
 次々と消えていくピザを目にして些か食欲を失いそうになるが、それを堪えて扇もスプーンを動かしていく。

「しかしゼロが行方知らずだというのに、随分とリラックスしているな」

「ん? それはそうだろう。アイツは生きているからな」

「……憶測ではなく?」

「確定情報だ」

 平然とした顔でそう宣うC.C.。あまりにもなんでもないように言うので、本当にそうなのかと一瞬思う扇。
 影は薄いものの、彼女とゼロは自分達ですら知らない絆のようなものを持っているのかと思い、さらに質問をする。

「じゃあ、ゼロやカレン達が今何をしているのかも分かるのか?」

 その問いに、C.C.は暫し考え込むように目を瞑り――次いで呆れるように宣った。

「ああ……まぁ、キャンプでもして楽しんでるんじゃないか」

「…………は?」





 そんな黒の騎士団達の心配と、C.C.の呆れを知ってか知らずか、ルルーシュ達はといえば――

「ただいまー」

「ただいま戻りました」

「あぁ、御苦労カレン、ユフィ。首尾はどうだった?」

「近くの森に果物がたくさんなっていたわ。この森ってほとんど手つかずなのね」

「見て下さいルルーシュ、ホラこんなに♪」

「ほぅ、想像以上の収穫だな。こちらはもう少しで魚が焼きあがる。手を洗って待っているといい」

「あら? スザクはどうしたのですか?」

「もう一品欲しいとか言って、ナイフを持って森に入ったが……」

「みんなー、猪捕ってきたよー」

「「「ウソぉっ!!??」」」

 思い切りサバイバル生活を満喫していた。





「「「ごちそうさまでした」」」

「お粗末様」

 すっかり陽は暮れ暗闇が空を支配する中、川の畔で焚き火を囲む四人の少年少女達は、身を清め腹を満たし、至福の一時の中にいた。
 ルルーシュは几帳面な性からか、皆が食べ散らかした果物の皮や魚の骨、猪の骨などをあらかじめ掘っていた穴の中に捨てるとその上に土を被せて処分する。

「さて、腹も膨れて落ち着いた事だし、そろそろ話し合いといこうか」

「話し合い……ですか?」

「そうだ、ユフィ。今ここでの俺達はかつての友であり、兄妹であり、仲間であるが、一度戦場に戻れば俺達は互いに銃を向けあう敵となる」

 ルルーシュのその言葉に、ユーフェミアは悲しそうに顔を伏せた。
 ユーフェミアとてそんなことは分かってはいたのだが、同年代の人と共に火を囲む、この貴重な時間にもう少しだけ浸っていたかった。
 しかし、ユーフェミアの隣に座るカレンがそれを見て何か察したのか、おずおずと手を挙げ疑問に思っていたことを口にした。

「あの……その前に一ついいかしら?」

「なんだ、カレン」

「気になってたんだけど、ルルーシュとユーフェミアって面識でもあるの? なんだか随分と仲良さげなんだけど……」

 方やエリア11最大のテロリスト、方や世界最大の国のお姫様。
 常識的に考えれば、繋がりがあるなど考えもしないが、ゼロの正体であるルルーシュはブリタニア人でもある。
 富士鉱山での一件を思い返し、カレンはルルーシュの本当の正体を朧気ながら気付き始めていた。
 そしてルルーシュも、ここまで知られてしまえば今更隠しようがないだろうと思い、重苦しい声で己の本当の名を口にする。

「俺の本当の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア――第十一位皇位継承者であり、ブリタニアの皇子だ」

「っっ!!」

「尤も、それの頭には『元』という単語が付くがな」

 半ば予想していたこととは言え、当の本人からそれを口にされると、やはり驚いてしまう。
 だが何故ブリタニアの皇子がこのエリア11でこんな事を始めたのだろうと疑問に思ったのと同時に、八年前、まだ日本とブリタニアが戦争を始める前に起こった出来事を思い出した。

「……思い出した。確かブリタニアとの戦争直前に留学の名目で日本に来た皇子がいたはず。その皇子は当時の首相、枢木ゲンブが預かっていたって……」

「スザクとルルーシュが仲良しなのは、その頃からの縁だったのですよね」

 あらかじめスザクからルルーシュは友人であると聞いてはいたユフィだが、カレンの口にした件から詳しい内容を聞こうと口を挟む。

「会ったばかりの頃は、それこそ喧嘩ばかりだったけどね」

「いや、あれは喧嘩なんて可愛いものじゃない。それこそ憎みあっていたようなものだろう」

 結局詳しい話はほとんどせず、表面的な話しかしないルルーシュとスザク。それでも二人が親友と呼べる間柄になるまでに、様々な事があったのだと想像できる。
 それくらいの信頼感をカレンは二人の間から感じ取っていた。
 そんな二人の間柄を羨ましく思いながら、カレンはルルーシュに本題の疑問をぶつける。

「ルルーシュ……何故あなたは祖国に銃を向けるの? いくら父親が憎いからって、それだけで世界一の大国に喧嘩を売るような真似はできないわ」

 ブリタニアの皇子という身分なら普通は衣食住に困ることはないし、他人から頭を下げられる生活を享受できるはずだ。
 だが、日本に留学したという表面的な事情しか知らないカレンには、何故ルルーシュがそんな事をしたのか判るはずがない。ルルーシュは暫し口を噤むが、やがてポツリポツリとその理由を話し始めた。

「端的に言えば、父親やブリタニアそのものを信じることができなくなったからだ。政治の世界は弱肉強食……子供心にもそれは分かっていたし、母は庶子の出自だから他の皇族に嫌われるのも仕方ないと思っていた。だが、殺された母に対して供養も悲しみの顔すら見せず、弱者だからと切って捨てたあの男だけは許すことはできない!」

 母親の葬儀にすら顔を出さず、ショックで眼の光を失ったナナリーを労ることすらなく、そして残された自分達兄妹を弱者だと言い捨て、仮想敵国の只中に留学の名目で放り込んだ。
 もし留学中の自分が死ねば、それは日本に侵攻する理由付けになる事は誰の目にも明らかで、事実それを口実の一つにしてブリタニアは日本に侵攻したのだ。
 戦争が終わった後、ルルーシュはアッシュフォードに保護されたものの占領後のブリタニアの凄惨な政策をいくつも目の当たりにし、その怒りはますます膨れ上がり、反逆の意志はより固まったと言える。
 ルルーシュの駆け足気味の説明を聞いたカレンは大きな溜息を一つ吐いた後、自嘲するような笑みを浮かべた。

「ハハハ……あのゼロが親子喧嘩が原因でブリタニアに反逆したなんて知ったらみんなどんな顔するかしら」

「親子喧嘩などというレベルを越していると思うがな……それでカレン、お前は俺の正体を知ったがどうするつもりだ?」

 日本の解放を目的とするカレンにとって、廃嫡したとはいえルルーシュは憎きブリタニアの皇子だ。
 それが自分のボスとしていることに、嫌悪感を持っても仕方ないだる――ルルーシュはそう思っていたが……。

「今までと変わりないわ。元皇子だろうとなんだろうと、ルルーシュが私達を助けて日本を解放しようとしてくれることに変わりはないし……寧ろ父親が憎くてブリタニアに反逆したなんて子供っぽい理由に親近感を覚えたくらいだわ」

「悪かったな、子供っぽくて」

 拗ねたようにムスッとさせて顔をそらすルルーシュの様子がおかしくて、カレンは微かに微笑んだ。
 ゼロが自分達に素顔を晒して以来、カレンは何かとルルーシュの様子を観察していた。
 学園での彼はいつも皮肉気な事を言っているが、なんだかんだで面倒見はよく、女子生徒からは勿論、男子の後輩からも人気がある。騎士団のアジトでは常に整然とした指揮官として振る舞い、顔が見知った幹部相手にも立派なリーダーとして振る舞っている。ルルーシュの話を聞く限り、彼のこのバイタリティはブリタニアへの怒りからきているのだろう。しかしそこには、父親への反抗というあまりにも青臭い私怨が混じっていた。
 しかしそれを聞いても、カレンは下らないとは思わず、寧ろ共感を覚えていた。自分もほんの少し前まで母親とすれ違っていたのだから。
 そう、彼は完全無欠の人間などではない。母の死を悲しみ、不義理な父に怒り、その父によってもたらされた理不尽な災禍に涙を流す彼ならば、きっとよりよい世界を作ってくれるだろう。

「零番隊隊長、紅月カレン! 改めてゼロ……いえ、あなたのために尽力します!」

 だから、彼と共に歩こう。
 彼の隣に並び立つのはあの黒い騎士がいるから無理だとしても、その背中を守ることはできる。
 全てをさらけ出してくれたルルーシュに、自分が返すことができるのはこの力だけなのだから。

「……あぁ、よろしく頼むぞ。カレン」

「せっかくだから騎士の洗礼でもやってみます?」

「はっ! ブリタニア流の洗礼なんてやるわけないでしょ」

 せっかくの宣誓なのだからとユーフェミアが提案するも、敵国での洗礼など冗談ではないと一蹴した。そして無碍に断られて、ずーんと落ち込むユーフェミアをスザクが慰めたりしている。

「ユフィ、そういうお前はこれからどうするつもりなんだ。お前のことだから日本人との融和政策を提案するくらいは考えてそうだが」

「私の方針は今も昔も変わりませんよ」

「と言うと?」

「ハイ、ブリタニア皇帝を目指そうかと」

 あまりにも平然と口にしたその内容に、カレンは「はあぁっ!?」と盛大に驚き、ルルーシュも目を丸くした。
 一方のスザクはと言えば、呆れつつも僅かに微笑んでいることから、元より彼女の意志を知っていたのだろう。確かにあの夜の喫茶店でユフィを皇帝にしてみせるとは言っていたが、彼女自身も皇帝を目指していたとは思わなかった。

「驚いたな……お前の口からそんな言葉が出てくるとは」

「ルルーシュが知る私では無理もありませんわ。こういう考えになったのはルルーシュ達がブリタニアを去って暫くしての事ですから」

「……どういうことだ?」

「アキトさんがマリアンヌ様殺害の容疑者にされたことにどうしても違和感が拭いきれなくて、私独自にお姉さまを通じたり色々な人を使って調べてみたんです」

 幼い頃にの僅かな時間でしか触れあうことはできなかったが、ユーフェミアにとって、アキトの存在は不気味ではあるものの、普通に話せばなんてことはない、いいお兄さんだった。
 マリアンヌと親しげに話していたこともよく覚えており、皇室の発表した内容はユーフェミアにとってはどうしても納得することができなかった。

「結局手がかりは何も見つかりませんでした。ですが調べていく内にブリタニアの闇をこの目でいくつも見てきました」

「ブリタニアの闇か……しかしそれだけではないだろう?」

「ええ……その闇の一方で、ブリタニアは躍進の時代を迎えています。確かにお父様の時代から、ブリタニアは他国の侵略を是としてきました。ですがその強硬政策のおかげで疲弊していたブリタニアの国力が回復したのは紛れもない事実。結果だけを見るならば、現皇帝はブリタニア臣民から名君と言われるにふさわしいでしょうね」

「アンタ! そんな身勝手な理屈でどれだけの人が「ですがっ!」

 その言葉に激昂し、思わず立ち上がって掴みかかろうとするカレンだが、ユーフェミアは力強く言葉を付け加えた。

「私達はあまりにも多くの血を流し、それを糧としました。もう、これ以上無益な血を流す必要はありません!」

「……」

 愛らしい姿に似つかわしくないほどに、そう宣言するユーフェミアにカレンは疑念と戸惑いの視線を向ける。
 その様子をルルーシュとスザクは静かに見守っている。

「ミス・カレン、確かに私達ブリタニアはいくつもの国を攻め滅ぼし、その屍の上に我が祖国を富ませました。ですが私は、いつかきっとこの戦乱が止み、ブリタニアと新しい日本とが手を取り合える日が来ると信じています」

「はっ! アンタみたいな温室育ちのお姫様が言いそうな事だね!」

「ハイ、私だけでは無理です。ですからスザクやルルーシュ、そしてあなたと一緒にそれを目指したいのです!」

「……あのね、私達はレジスタンスだよ? 国の中枢人物が敵のレジスタンスと通じてどうするのさ!」

「私達はこれから世界の人と手を取り合うのです。レジスタンスの人と融和できないようではそれこそ夢で終わってしまいますわ!」

 カレンはあまりにもぶっ飛んだ内容に口をぽかんと開けている。
 普通なら馬鹿で世間知らずのお姫様が能天気なことを言っていると吐き捨てるところだが、式根島での彼女の手腕と真っ直ぐこちらを見つめる大きな瞳のから覗く光に、もしかすると本気でやってしまうかもしれないという思考が生まれてしまう。
 コイツは本気なのか、とカレンはスザクに意味あり気に視線を送り、スザクがそれに気づくと、おどけるように肩をすくめた。

「殿下はこういう方だから」

「考え方は変わっても、頑固な所は変わってないな」

 ルルーシュもそれに同意し、静かに笑みを深めた。
 スザクはともかく、ルルーシュまで同意するとなると、やはり彼女の先程の言葉は全て本気で言ったことなのだろう。それが分かるとカレンは大きく溜息をつき、ちらとユーフェミアに視線を移した。
 小首を傾げながらこちらを見つめるユーフェミアに、カレンは彼女がコーネリアに溺愛される理由をなんとなく理解できた。
 あまりにも真っ直ぐで、あけすけで、だけど臣民の視線を集めるだけの行動力や立ち振る舞いを持つ皇女。しかし傍から見ているとどこか危なっかしい面も持っているため、人々はどうしても彼女に構いたくなってしまうのだ。
 女としてそれをずるいと思いつつも、彼女の期待に満ちた目から逃げることはできそうもなく、カレンはとうとう白旗を上げた。

「ハァ……わかったわよ、とりあえずあんたとだけは仲良くなりましょう」

「ハイ、ありがとうございます!」

 パアッと女性の自分でも頬を紅潮させるような笑みを浮かべ、ユーフェミアはカレンの腕に自分の腕を絡め、ニコニコとした顔でしなだれかかった。

「ちょ……なに抱きついてんのよ!」

「私、同年代の友人がほとんどいないものですから、こうやってじゃれあうのがちょっとした夢でしたの♪」

 無邪気なユーフェミアの言葉に、カレンは無理矢理ほどこうと伸ばした手を思わず止めてしまう。
 そういえばブリタニア皇族は、その競争の激しさから兄妹で殺しあうのも珍しくないと聞く。加えて海千山千の貴族もうじゃうじゃいるとなれば、心の許せる友人というものはほとんどいないのだろう。
 そう考えると、彼女のこういった行動くらいは許してもいいのではないかとふと頭の隅で思った。

「全く……好きにするといいわ」

「……はいっ!!」

 その様子をルルーシュとスザクは柔らかなな表情で見つめている。
 焚き火がら飛び出る火の粉が弾ける音をBGMに、四人の少年少女達は床につくまで語り合った。片やブリタニアの皇女と騎士。片や黒の騎士団の首領とその右腕。本来なら決して交わることのない間柄である彼らだが、今この静かな夜だけは互いの立場を忘れ、無邪気に一夜を過ごすのだった。





 明朝、ルルーシュ達の居る神根島の海岸付近に、ブリタニアの部隊がぽっかりと空いた洞窟を守るように展開していた。
 洞窟の奥には更に武装した兵士が周囲を警戒しており、何人たりとも通さないといわんばかりの警戒ぶりだ。それもそのはずで、洞窟の最奥にはブリタニアの最重要人物であるシュナイゼルの姿があるからだ。
 側にはかつてクロヴィスの側近だったバトレーも控えており、同行しているロイドにあれこれと強い口調で命じていた。

「僕は考古学は専門外なんですがねぇ……しかも『超』が付く類のものは」

「貴様! 無礼であろう! わざわざ殿下が貴様を指名したのだぞ!」

「でもこの手の類は僕の専門外だし、セシルくんを連れてくればよかった……」

「そう拗ねないでくれ、ロイド。これには陛下も相当気をかけているようだしね」

「まぁガヴェインのドロイド・システムのデータも十分に取れるでしょうし、いいんですけどねぇ」

 ロイドはそう言うと、警護のサザーランドに囲まれて立つ、エステバリスとほぼ同じ大きさのナイトメアを見上げた。
 漆黒のカラーリングに金色の縁取りが煌めき、地を見下ろす双眼は従来のナイトメアよりもずっと威厳溢れた姿だ。加えて、流線を多用したボディに背中の赤い六つの突起の存在感から、より機体が大きく見える。
 第六世代ナイトメアフレーム『ガヴェイン』
 円卓の騎士の物語において、ランスロットと双璧の人気を誇る騎士の名前を与えられたその機体は、続く第七、第八世代へのフィードバックを主眼に置かれた実験機だ。
 両肩には加粒子砲の一種である「ハドロン砲」を装備し、背中の赤い六つの突起は飛行能力を備えたフロートシステムを搭載。また、新機軸の電子解析システムの一つである「ドロイドシステム」を備えている。
 しかし上述のようにガヴェインは様々な性能を盛り込んだハイスペック機であるが、その扱い辛さから二人乗りが前提となっており、ドロイドシステムもその複雑さから戦術面で使用されることはなく、今回のように古代遺跡の解析に使われている有様だ。

「尤も、彼女がいるからこそ、こうしてドロイド・システムのデータが取れるんですけどね〜」

 ガヴェインから延びるコードは、ロイドの目の前にある即席の端末に繋がりドロイド・システムによって得た解析データが目まぐるしく映し出されている。

「ん〜、これだけデータが溜まれば十分かな? おーい、もういいですよぉ〜!」

「流石はラウンズといった所かな。あれほど複雑なシステムを十分に使いこなしている」

 ロイドの脳天気な声がかかると同時にデータの転送が終わり、ガヴェインのコックピットから一人の女性が姿を現した。そしてシュナイゼルの問に答えるように、鈴を鳴らしたような澄んだ声を口にする。

「いいえ、殿下。ドルイド・システムはまだ十分に性能を発揮しているとは思えませんわ」

「フム、そうなのかい? ロイド」

「ええ、まぁ。彼女の言う通りですよ」

 現れた女性は片手で髪をかきあげ、その仕草に兵士の何人かが見惚れるが、彼女はそれに見向きもせず軽やかにガヴェインから降り立った。
 女性は流れるような金髪とクリッとした大きな瞳が特徴の美女で、その瞳に見つめられればどんな堅物も破顔しそうなほどの魅力に溢れている。
 その美貌は、どこかの貴婦人と言われてもあっさり信じてしまうほどだが、彼女が身に纏うのは明らかに騎士服。しかも限られた騎士にしか纏う事を許されない純白の騎士服だ。
 『ナイト・オブ・トゥエルブ』モニカ・クルシェフスキー。
 それが彼女の役職と名だ。

「ドルイド・システムの真の能力はその圧倒的な並列処理能力。そのスペックをフルに使えば、百の敵を同時に捉えて攻撃することも可能でしょう……惜しむらくはそれを生かす武器が無いことですが」

「いや〜、手厳しいねですねぇ」

「では、そのような武器を用意すればいいのではないのかい?」

「いえ、例え武器を用意しても、肝心のパイロットが圧倒的な情報量を処理しきれないでしょう。このドルイド・システムは余りにも人の手に余るものです」

「ラウンズの中でも特に電子戦に長けた君でも無理なのか」

 モニカはその言葉に静かに頷くと、シュナイゼルは悲しそうに顔を横に振った。
 モニカは未だ専用機を持っていないが、自ら搭乗するグロースターは電子戦に秀でた改造を施している。彼女の手にかかれば戦場全域にジャミングをかけて相手の目を潰し、戦滅する事も可能だ。
 そんなモニカでさえ、ドルイド・システムは手に余るという。
 貴重な実験機であるガヴェインをわざわざこのエリア11に持ち込んだのは遺跡の解析に使うためでもあるが、ドルイド・システムやハドロン砲等の実地試験も兼ねるためだ。
 ハドロン砲はともかく、電子解析システムのドロイド・システムについては各種コンピューターにも応用を見込んでいたため、ラウンズ直々に使えないとの烙印を押されてしまっては落ち込むしかない。

「まぁ、せっかく陛下が君を寄越してくれたんだ。使えないといっても君の手にかかれば、十分以上に役立ってくれる。少し休んだらもう一度データ収集の方を頼むよ」

「Yes,your highness!」

「そんじゃ僕は溜まったデータを解析しときまぁす」

 戦闘ならともかく、長時間コックピットに籠もって延々とデータ解析を続けるのは流石に堪えていたので、モニカは有難くシュナイゼルの言葉を受けて一休みするために洞窟の外へと出た。
 既に陽は昇っており、一晩中コックピットに籠もっていたモニカとしてはこの朝日の光はやけに眩しく見えた。
 警護兵のねぎらいの言葉を受けつつ、即席のテントに足早に駆け寄ると、備え付けのテーブルに置いてあったドリンクを手に取り一口啜る。
 仄かな甘さと冷たさがモニカの疲れきった頭に浸透し、ようやくといった感じでモニカは一息つくと、改めて今回このエリア11に訪れた経緯を思い返していた。

(それにしても、何故陛下はシュナイゼル殿下の監視を命じられたのでしょう……?)

 普段モニカは、皇帝陛下の御身を守る最後の剣として、ペンドラゴン宮殿の警護に就いている事が多いのだが、その陛下からシュナイゼルの動向を監視するように命を受けたのだ。

(あの陛下が皇子皇女達の誰かを贔屓するわけはありませんし、かといってシュナイゼル殿下を失脚させる理由が思い当たりません)

 シュナイゼルは文官としても指揮官としても数ある皇子の中でも特に優秀で、陛下直々に宰相に任じられるほどだ。
 目下シュナイゼル殿下は次期皇帝にもっとも近い立場であることは誰の目にも明らかであり、その上穏やかな性格から他の貴族からの受けも良い。しかし、人の良い笑顔の裏で人に言えない後暗い事をやっている、ということは貴族・皇族によくあることなので、陛下もそれを気に掛けているのかもしれない。だが、宮殿の警備すら外して、ラウンズに監視を命じる理由は相変わらず分からないが……。
 そしてモニカは謁見の終わりに、付け加えるように告げられた言葉を思い出した。

(そういえば……ゼロについて何かあれば報告しろと仰っていたような――)

 ドドォーーーーーン

 突如起こった轟音がモニカの思考を中断させ、同時に彼女の瞳は先程までの柔らかなものから刃のように鋭く変貌した。





 遡る事10分……発掘現場となる洞窟とは反対側の尾根に、ルーシュ達4人の姿があった。昨夜遅くに夜空を照らすサーチライトをルルーシュとスザクが目に留めており、恐らくブリタニアの捜索隊がこの島に来ているだと予測し、疲れが取れた翌朝になると、事情を仲良く寝ていたユーフェミアとカレンに説明し、四人でその地点目指して歩いていた。

「本当なのですか、スザク? 捜索隊が来ているというのは」

「こんな辺境の島をわざわざ探すのですから、まず間違いなく殿下を捜索に来たブリタニア軍かと」

「黒の騎士団の可能性は――」

「いや、それは恐らくないだろう。騎士団も俺達を探してはいるだろうが、ブリタニアの部隊が展開している状況ではそれも厳しい」

 なにしろ戦力の規模がまるっきり違うのだ。航空戦力もない状態で、捜索に出て敵に見つかりでもしたら目も当てられない。

「ルルーシュ、僕と殿下はこのままブリタニアの部隊に保護してもらうつもりだけど……君達はどうする?」

「確認するまでもないだろう。俺はお前達がこの島から十分に撤退したのを見計らってから、この島を出る。何、通信手段はこちらで確保するから心配ないさ」

 確認するように言葉を口にするスザクの後で、懇願するような目をするユーフェミアだったが、にべもなく断られると主従揃ってため息をついた。スザクはこの機会にブリタニアに身を寄せることを奨めてはいたが、それをルルーシュが受け入れるはずもなかった。またユーフェミアはせっかく仲良くなった同年代の少女と離れてしまうことを非常に残念がり、昨晩は夜遅くまでカレンと語り合っていたのだ。

「……分かった、君がそうまで言うなら僕はもう何も言わないよ」

「心配するな。ブリタニアをぶっ壊した暁には、またこの四人で集まれるさ」

「そんな事が起こらないように僕達騎士がいるんだけどね」

 ルルーシュが皮肉を口にし、スザクがあきれるように答える一方。

「ねぇカレン。また一緒にお泊まりするようなことがあれば、またいっぱいお話しましょうね!」

「そんな日が来ればね〜。一テロリストと皇女殿下が一緒に会話する機会なんてもう来ないだろうけど」

「その日が来るように働くのが私の務めですっ!」

「……アンタが言うと本気でなりそうだから、なんか怖いのよね」

 ユーフェミアの無邪気な言葉にカレンは辟易しながら相手をする。
 身分と立場を越えた友人達は各が描く未来を脳裏に描きつつ、捜索隊ふがいるであろう地へと向かっていた。





 そして五分後、四人の姿は洞窟のある崖の上の茂みにあった。

「やはり捜索隊の正体はブリタニアの部隊でしたね」

「あれは確かアヴァロン……試験飛行中の航空空母を引っ張ってきたのですね」

「ブリタニアはそんなものを実用化していたのか……っ!」

「しかし捜索隊にしては様子が妙だな……洞窟まで延びるあのコードはなんだ?」

「ルルーシュ、そういう疑問は後にしよう。殿下、ともかくあの部隊と合流しましょう。流石にここまで近づくと周囲を偵察している兵もいるでしょうから、これ以上ルルーシュ達と行動を共にしている姿を見られるのは好ましくありません」

「名残惜しいですが……その通りですね」

 もっともっと話したいことはあったのだが、ここで他の兵士達に見つかってルルーシュ達が捕まってしまえば、その機会が一生来なくなるかもしれないのだ。ユーフェミアは沈んだ様子でルルーシュの方を伺った。
 ルルーシュはそんな義妹の様子を愛らしく感じつつも、それを振り切るように背を向けた。……決して隣で段々顔を険しくする零番隊隊長が怖かったからではない。

「確かこちらに下の砂浜に行けそうな坂道があった。そこまで行って別れよう」

 そう言って、一歩を踏み出すルルーシュ。そこは何の変哲もない土の上だった。そしてそれが突如――赤い鳥の文様と共に光り輝いた。

「なっ……何だ!?」

 そして同じ頃、洞窟の中でデータの解析を続けていたロイドは、突如計測した膨大なデータの奔流に大層慌てた。

「な、なにこれ……?」

 遺跡の扉や壁画にはなんの接触もしていないのに、とつぜん動き出したためロイドには何が原因か分からず、ただ検出するデータを眺めることしかできなかった。
 それと同時に上の天井が崩れ、巨大な岩盤が柱を押し潰しながら落下してくるので、バトレーが慌てて護衛の兵に命じてシュナイゼルを下がらせる。
 そして土煙が晴れ、現れたのは彼らが探していた姫殿下と騎士の姿、そして彼らにとっての敵だった。

「枢木少佐!? それに……ゼロッ!!」

(なっ……ここは真下の洞窟か!?)

 思わぬ敵の出現に動揺するも、慌てて銃を向けるブリタニア兵。しかしそれをバトレーが制止する。

「馬鹿者! ユーフェミア殿下に当たる! 確保だ、確保しろっ!!」

 ドタドタとブリタニア兵士が殺到し、瓦礫を登ってくる。このままでは捕まってしまうが、しかしどうやって脱出するか……。
 そこでカレンはすぐ傍に巨大なナイトメアが鎮座しているのを目に留めた。

「ゼロッ、あそこにナイトメアが!」

「よし、あれで脱出するぞ!!」

 ゼロが駆けると同時にカレンは手に隠し持ったフラッシュライトでブリタニア兵の目を眩ますと、右足を一閃して兵の一人を蹴り飛ばし、ライフルを奪取した。そして瓦礫の陰に隠れながらライフルを斉射して弾幕を張る。
 ゼロも途中二人ほどブリタニア兵を倒しつつ、巨大なナイトメア――ガヴェインのコックピットにたどり着いた。

「ありがたい! 無人の上、起動済みとは……!」

 初めて見るナイトメアの性能を知るために、目まぐるしい早さでキーボードを操作してスペックを確認すると、ゼロは仮面の下で驚愕と歓喜の表情を浮かべた。

「なんだこのナイトメアは……くくく、なんて俺好みの機体だ」

 思わぬ土産にほくそ笑むゼロ。だが、ふとモニターに映る人影に気付くと、その人影の正体に目を見開いた。

(あれはシュナイゼル!? ……ちぃっ、だが今は!!)

「カレン、こちらの準備は出来た! こちらに跳び移れっ!!」

 今はこの場を脱出することが先決と、カレンを呼び戻す。
 カレンはその言葉を聞くと、倒れたブリタニア兵からくすねた閃光弾を放り投げ再び相手の目を眩ますと、ガヴェインへと跳び移った。ゼロはそれを確認するとスピナーを唸らせ、全速で洞窟の外へと向かう。しかしそこには既にサザーランドがライフルを構えて待ち構えていた。

「ゼロッ! 前方にサザーランドがっ!!」

「構わん、このまま突っ切る!」

 カレンの「えっ」という疑問の声も無視し、ルルーシュは操縦幹のスイッチを押した。すると両肩の突起が二つに割れ、充填された粒子がヴヴヴヴという羽虫が飛び回るような音を立て始める。

「消えろ」

 ゼロがトリガーを引くと、放射された赤黒い閃光が目の前のサザーランドの集団を薙払った。しかし閃光のほとんどは洞窟の壁や天井を崩しただけで、倒したサザーランドはそう多くない。

「ちっ、武装は未完成か」

 思わず舌打ちを一つ付くが、それでも相手を怯ますことは出来た。そのまま敵の包囲網を突破し、ついにガヴェインは洞窟の外へと出ることが出来た。しかし再度サザーランドの部隊が現れ行く手を塞ぐ。

「ゼロッ、このままじゃあ……!」

「心配するな、もう一つの機能は完成している」

 そう言って操縦幹の横にあるレバーを下げると、ガヴェインの背中の六つの突起から四枚のエネルギー翼が発生し、その巨体を持ち上げた。
 ――が直後、ガヴェインの真正面に踊りかかる機影が一つ。

「!? 捕まっていろカレンッ!!」

「うわっきゃぁっ!?」

 とっさに機体を捻り、ガヴェインはなんとか突き出された槍を回避。
 敵の正体は改造されたグロースターのようで、先程の動きから考えるとかなりの手練。無闇に相手をするのは愚の骨頂だと、そのまま海上への逃亡を計るゼロ。
 だが相手の方はそれを許しはしなかった。
 ガヴェインは実験機とはいえ、間違ってもテロリスト無勢に渡していいものではない。グロースターのパイロット、モニカは内心でそう呟き、鷹のように鋭い目で小さくなっていく機影を睨みつける。

「逃がしはしません」

 手に持ったランスを放り捨て、背中にマウントされた長物を取り出し、片膝を付いて射撃体制を取った。
 その正体は正式採用された長距離狙撃用レールガン。
 モノケロスにも装備されたソレを徹底的に見直し、狙撃用として完成された新世代のスナイパーライフルだ。電子戦装備に優れ、長距離の目標も補足できるモニカのグロースターにとって、それはこの上ない相棒となった。

「落ちなさいっ!」

 威勢と共に放たれた弾丸は大気を切り裂く音のみを残して、ガヴェインへと疾駆する。
 手動での長距離狙撃のため、ロックオン警報が鳴らず後ろを振り返ることすらしないガヴェイン。狙い澄まされた弾丸は寸分無く胴体の中央に吸い込まれ――

 ガギイイィィン!!

 ――る直前、間に入った黒い機影がそれを阻んだ。

「迂闊だぞ、ゼロッ!」

「黒騎士かっ!」

「黒騎士さんっ!!」

 狙撃を防いだのは黒騎士の乗る新月だった。しかし新月の刀は高威力のレールガンを弾いたおかげでボロボロになっており、見るも無惨な状態になっている。

「まさかこの距離から狙撃とは……いや、こちらが持っている兵器をやつらが持っていても、おかしくはないか」

「そういうことだ。ともかく潜水艦はすぐそこだから、合流するといい」

「了解した、後方の警戒を頼む」

「あ、あの黒騎士さん……あたしの紅蓮は……?」

「既に回収済みだ。朝比奈と千葉に感謝しておくんだな」

「ハイッ!!」

 そのままゼロは、ガヴェインを浮上した潜水艦の中へと移動させた。 流石に相手も奇襲の狙撃に失敗し、相手が警戒している状態で再度の狙撃が成功するとは思ってもいなかったのかそれ以上の攻撃はなかった。
 見知らぬナイトメアの姿に整備員が驚き、そのナイトメアからゼロが出たことで二度驚きつつも、黒の騎士団総帥とエースの帰還により、艦内には安堵の空気が広がった。
 だが一息つく暇もなく、黒騎士はブリッジへと向かう道すがら、ゼロがいなかった間に起こった事件について説明する。

「あぁそうだゼロ。つい先程の事なんだが――」





「申し訳ありません殿下。みすみす敵を逃がし、あまつさえガヴェインを奪われて……」

「よい、所詮は実験機。それよりも妹とその騎士が無事だったことを素直に喜ぼう」

 一方ゼロの逃亡を許し、奪われた実験機の破壊すらできなかったモニカは、シュナイゼルに深く頭を下げていた。だがシュナイゼルは偶然モニカがいないときに事が起こったのだから、気にする必要はないと柔らかく微笑みながらモニカを労った。

「……もったいないお言葉です」

 だがその言葉とは裏腹に、モニカの表情はあまりにも険しかった。
 ラウンズの立つ戦場に敗北はない――それを誇りとするラウンズの騎士にとって、今回の事件は正に痛恨事なのだ。ほとんど戦場に立つことがなく、陛下の警護ばかりのラウンズとはいえ、モニカもその例に漏れず騎士としての誇りは人一倍高い。

(ゼロ……この借りは戦場で返させてもらいます)

 シュナイゼルの元から離れ、海の向こうへと消えたゼロの姿をモニカはいつも以上に鋭い瞳で見据えていた。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません、お兄さま」

「いいんだよユフィ、君が無事でなによりだ」

 そしてユーフェミアとスザクも、ようやくシュナイゼルと対面することができた。ユーフェミアにとっては数年ぶりの。スザクにとっては初めて相対する帝国宰相の姿だったが、その姿は予想していたよりずっと穏やかな人間だった。
 ユーフェミアにとっても優しい兄に逢うことは非常に嬉しいことだったが、そう遠くない未来で兄がルルーシュと戦うことになるかもしれないことに心を痛めていた。
 そんな未来にさせないためにも自分はブリタニア皇帝になることを決意してはいたが、この優秀な兄の前に立つと、本当にそんなことできるのだろうかという不安感が先立ってしまう。そんな時だった。

「で、殿下ーーーっ!!」

 通信で呼び出されて席を外していたバトレーが息咳ききって部屋に入ってきたのに、ユーフェミアは目を丸くして、反してシュナイゼルは変わらない表情でバトレーに尋ねた。

「何事だい、バトレー」

「はっ、エリア11の総督府より緊急連絡です!!」





「九州ブロックの福岡基地が襲撃を受けているらしい」

「しかもその船の国旗には中華ではなく、日本の国旗がっ……!!」




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■作者からのメッセージ
やはり自分はほのぼのとした話を書くのは苦手です。まさか二カ月以上もかかってしまうとは……遅れて本当に申し訳ありませんorz
ただ前半は情景描写をあまりにもみっちり書いていたので、後半からはなるべく描写を減らして書いてみました、その辺り見比べていただけると面白いかもしれません。
あと感想でC.C.影薄いのコメが多くてピザ噴いたww
だから今回はちょっと出番多くしたよ!!

それでは感想返しです。
>>見習い一号さん
 自分はSSとかでも改良モノが好きなので、出てくるキャラはどこかしら良くされているのですが、すんなり受け入れてもらえているようで安心しています。
 ナナリーに関してはどのタイミングで舞台に上がってもらうかはまだ思案中ですが楽しみにしてください!

>>ふぇんりるさん
 ちょwwwそれ次回のフラグwww

>>カガミさん
 C.C.空気指摘、お二人目ですね。いやー、なんでぼくのおはなしはしーつーがくうきなんだろうなぁ

>>まさるさん
 Qさまじゃないよ!J(ジャック)さまだよ! 多分彼は後で登場するであろうジェレさまと組めば、世界を獲れるお笑いコンビになるやもしれませぬw
 そしてC.C.空気認定三人目いただきました。

>>通りさん
 拝見ありがとうございます。キャラの把握については散々出てますが、どこかしら空気になってしまうのでホント難しいです…。

>>マルセルさん
 おぉ、作者も廃棄皇子の作品はよく読んでおります。ナナリーについては……まぁ今後をお楽しみにという事で(汗

>>青菜さん
 いえいえ、青菜さんのご指摘は作者としてもなるほどと思わせる部分もあるので、いつも楽しみにしておりますw

>>フリーザさん
 はじめまして、本作を読んでいただき誠にありがとうございますっ!
 更新速度は遅いですが、面白い話を提供するよう頑張りますので今後ともよろしくお願いします!!

>>マヤさん
 最初ユフィはここまで優秀にする予定は無かったのですが、いつのまにやらこんな子になってしまって……まぁ書いてて楽しいからいいんですけどね!(ぉ
 そしてC.C.空気認定四人目入りましたー。


 感想返し書いてて、いかにC.C.が空気だったのか自覚したので、今回彼女の出番は微増させましたが……まだまだ少ないか?
 ま、まぁ次回はお楽しみのガヴェイン無双回なのできっと出番はあるよ!!
 作者も大好きなロボバトル話ですので次は更新も早いと思いますのでお楽しみに〜ノシ





※当初この話のガヴェインは一人用だったのだが、あまりのC.C.の空気っぷりに二人用に戻したのはここだけの秘密である。
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